説明

粉末用表面改質剤ならびにそれを含む磁性塗料および非磁性塗料、磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】磁性塗料中の磁性粉末等の粉末の分散性を高めるために粉末表面を改質するための手段を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物を含む粉末用表面改質剤。上記粉末用表面改質剤を使用する磁気記録媒体の製造方法。上記製造方法により製造された磁気記録媒体。上記粉末用表面改質剤を含む磁性塗料および非磁性塗料。


[一般式(I)中、R10およびR13は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表し、Lは単結合または酸素原子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末用表面改質剤に関し、詳しくは、磁性塗料における磁性粉末の分散性を改善し得る粉末用表面改質剤に関する。
更に本発明は、前記粉末用表面改質剤を含む磁性塗料、前記粉末用表面改質剤を使用する磁気記録媒体の製造方法、および上記方法により得られる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。
【0003】
高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効であることが知られている。また、磁性体の分散性を高めることにより、高い光沢度を有する磁気記録媒体を得ることもできる。更に、磁性層表面の平滑性を高める手段としては、磁性層の下層に位置する非磁性層に含まれる非磁性粉末の分散性を高めることも有効である。
【0004】
磁性粉末等の磁気記録媒体に使用される粉末の分散性を高める手段としては、例えば特許文献1に記載されているように、SO3Na基のような極性基を結合剤に含有させる方法が広く用いられている。また、分散効果を付与するための添加剤として、ホスホン酸、リン酸類等が知られている。
【特許文献1】特開2003−132531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結合剤への極性基導入は、バインダー(高分子)を磁性粉末等の粉末表面に効率的に吸着させることにより分散性を改良のための有効な手段であるが、結合剤への極性基量が過剰になると、逆に分散性が低下するおそれがある。そこで、分散剤を使用することが考えられるが、前述のホスホン酸、リン酸類等による分散性向上効果は十分なものではない。また、分散剤を使用することにより磁性層の分散性を高めることは、必然的に磁性層中の磁性体密度は低下するため、高密度化の観点からは望ましくない。
【0006】
そこで本発明の目的は、磁性塗料中の磁性粉末等の粉末の分散性を高めるために粉末表面を改質するための手段、より詳しくは、磁性層中の磁性体密度を大きく低下させることなく、粉末表面を改質することにより粉末へのバインダー吸着量を高めるための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
粉末と結合剤を含む系において粉末の分散性を高めるためには、粉末と結合剤との吸着性を高めることが重要である。しかし、磁性層および非磁性層に使用される結合剤は一般に疎水性が高いのに対し、上記の層に含まれる粉末表面は親水性が高いため粉末表面に結合剤が吸着しにくい。そこで本発明者は、粉末表面を疎水化する手段を見出すために鋭意検討を重ねた結果、オルトエステル化合物およびアセタール化合物を表面改質剤として使用することにより、磁性粉末および非磁性粉末の分散性を向上できることを新たに見出した。この理由について本発明者は以下のように推察している。
磁性粉末表面には通常、酸点がある。更に、磁性粉末表面には吸着水が存在することが知られており、この吸着水が親水性に寄与していると考えられる。一方、オルトエステル化合物およびアセタール化合物は、いずれも酸触媒存在下で水と反応する。そのため、磁性粉末表面と上記化合物が接触すると、上記化合物と吸着水が酸点を酸触媒として反応する結果、吸着水が除去されると考えられる。そしてこのように吸着水が除去され磁性粉末表面の疎水性が高まることにより、磁性粉末と結合剤との吸着性向上、ひいては磁性粉末の分散性向上を達成できると考えられる。
更に、オルトエステル化合物と水との反応後に生成されるアルコールとエステル、アセタール化合物と水との反応後に生成されるアルコールとケトンは、磁性層塗布液に一般に使用される有機溶媒より低沸点であるため、磁気記録媒体製造時の乾燥工程で容易に除去することができる。従って、オルトエステル化合物およびアセタール化合物は表面改質効果を発揮した後、化合物自体も反応生成物も磁性層に残留しないか、残留したとしてもきわめて少量である。これにより、上記化合物によれば、磁性粉末の高密度化と分散性向上を両立することができると考えられる。
非磁性粉末表面も同様に、吸着水および酸点が存在するため、上記と同様の理由から非磁性粉末と結合剤との吸着性を高めることにより、非磁性粉末の分散性を向上することができると考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]下記一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする粉末用表面改質剤。
【化1】

[一般式(I)中、R10およびR13は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表し、Lは単結合または酸素原子を表す。]
[2]前記粉末は、磁性粉末である[1]に記載の粉末用表面改質剤。
[3]前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である[2]に記載の粉末用表面改質剤。
[4]磁性塗料用分散剤として使用される[2]または[3]に記載の粉末用表面改質剤。
[5]前記磁性塗料は、磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液である[4]に記載の粉末用表面改質剤。
[6]前記粉末は、非磁性粉末である[1]に記載の粉末用表面改質剤。
[7]非磁性塗料用分散剤として使用される[6]に記載の粉末用表面改質剤。
[8]前記非磁性塗料は、磁気記録媒体の非磁性層形成用塗布液である[7]に記載の粉末用表面改質剤。
[9]磁性粉末、結合剤および[1]に記載の粉末用表面改質剤を混合することにより磁性層形成用塗布液を調製すること、
調製した磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより磁性層を形成すること、
を含む磁気記録媒体の製造方法。
[10]前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である[9]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[11]非磁性粉末、結合剤および[1]に記載の粉末用表面改質剤を混合することにより非磁性層形成用塗布液を調製すること、
調製した非磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより非磁性層を形成すること、
を含む磁気記録媒体の製造方法。
[12]前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である[9]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[13]非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
[9]、[10]または[12]のいずれかに記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
[14]非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
[11]または[12]に記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
[15][1]に記載の粉末用表面改質剤と、磁性粉末と、結合剤とを含む磁性塗料。
[16]前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である[15]に記載の磁性塗料。
[17]前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である[15]または[16]に記載の磁性塗料。
[18]磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液として使用される[15]〜[17]のいずれかに記載の磁性塗料。
[19][1]に記載の粉末用表面改質剤と、非磁性粉末と、結合剤とを含む非磁性塗料。
[20]前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である[19]に記載の非磁性塗料。
[21]磁気記録媒体の非磁性層形成用塗布液として使用される[19]または[20]に記載の非磁性塗料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粉末の表面を改質し、粉末へのバインダー吸着量を高めることができ、これにより磁性塗料中の磁性粉末および非磁性塗料中の非磁性粉末の分散性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[粉末用表面改質剤]
本発明の粉末用表面改質剤は、下記一般式(I)で表される化合物を含有する。
【0011】
【化2】

【0012】
一般式(I)中、R10およびR13は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表し、Lは単結合または酸素原子を表す。一般式(I)中のLが酸素原子である下記一般式(I-1)で表される化合物はオルトエステル化合物であり、Lが単結合である下記一般式(I-2)で表される化合物はアセタール化合物である。オルトエステル化合物およびアセタール化合物により粉末の分散性を向上できる理由は前述の通りである。本発明の粉末用表面改質剤(以下、単に「表面改質剤」ともいう)は、一般式(I)で表される化合物を1種または2種以上含むことができ、前記化合物とともに他の表面改質効果を有する化合物を含むこともできるが、特に、磁性層の磁性粉末密度向上の観点からは、1種または2種以上の前記化合物からなることが好ましい。
【0013】
【化3】

【0014】
例えば、後述する実施例で示すように本発明の表面改質剤の有無により塗料中の粉末への結合剤吸着量が変化することによって、本発明の表面改質剤が粉末表面を改質していることが確認できる。
以下、前記化合物について更に詳細に説明する。
【0015】
一般式(I)中、R10およびR13は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表す。
【0016】
10、R13で表されるアルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、置換基を有していても無置換であってもよい。アルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、2−エチルヘキシル基を挙げることができる。更に、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。
【0017】
10、R13で表されるアリール基は、置換または無置換のアリール基であり、水との反応生成物を乾燥により容易に除去できるという点から、好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基である。
【0018】
10、R13は、水との反応生成物を乾燥により容易に除去できるという点から、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。
【0019】
11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表す。
【0020】
11、R12で表されるアルキル基およびアリール基の具体例、好ましい例等の詳細は、先にR10、R13で表されるアルキル基およびアリール基について述べて通りである。
【0021】
前記アルキル基およびアリール基が有し得る置換基について、その種類、数および置換位置は特に限定されるものではないが、置換基の具体例としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、好ましくは臭素原子)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20の置換または無置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基)を挙げることができる。また、ある基について炭素数とは、該基が置換基を有する場合は置換基を除く部分の炭素数をいうものとする。
【0022】
一般式(I)で表されるオルトエステル化合物およびアセタール化合物の具体例としては、オルト蟻酸トリエチル、オルト酢酸トリエチル、オルト蟻酸トリメチル、オルト酢酸トリメチル、アセトンジメチルアセタール、1,1−ジメトキシシクロペンタン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、3,3−ジメトキシヘキサン、および後述の実施例に記載の化合物を挙げることができる。
【0023】
一般式(I)で表される化合物は、公知の方法により容易に合成可能であり、市販品として入手可能なものもある。
【0024】
粉末に対する一般式(I)で表される化合物の使用量は適宜設定することができ、好ましくは磁性粉末等の粉末に含まれる水分に対して0.1当量〜10当量、より好ましくは0.5〜5.0質量部である。粉末100質量部に対しては、例えば0.1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部とすることができる。本発明の表面改質剤と粉末との混合方法については後述する。
【0025】
本発明の表面改質剤は、磁性粉末や非磁性粉末等の粉末表面を改質することにより塗料中の粉末の分散性を高めることができるため、磁性塗料または非磁性塗料用分散剤として使用することができる。更に本発明の表面改質剤は、粉末表面を改質した後の反応生成物は乾燥により容易に除去することができるため、塗料中の全固形分に占める粉末の割合を大きく低減することなく粉末表面を改質することが可能である。従って、本発明の表面改質剤は、高充填化(高密度化)が求められる磁気記録媒体形成用塗料における分散剤として使用することが好ましく、磁性層形成用塗布液または非磁性層形成用塗布液における分散剤として使用することがよりいっそう好ましい。本発明の表面改質剤の使用方法については後述する。
【0026】
[磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体]
更に本発明は、
磁性粉末、結合剤および本発明の粉末用表面改質剤を混合することにより磁性層形成用塗布液を調製すること、調製した磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法、
非磁性粉末、結合剤および本発明の粉末用表面改質剤を混合することにより非磁性層形成用塗布液を調製すること、調製した非磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより非磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法、
ならびに、上記方法により製造される磁気記録媒体に関する。
以下、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法について、更に詳細に説明する。
【0027】
磁性層形成用塗布液の調製
磁性層形成用塗布液は、本発明の表面改質剤、磁性粉末、結合剤、および任意に使用される添加剤を混合することにより得ることができ、具体的には、一般的な磁性層塗布液の調製方法によって得ることができる。製造工程は、例えば、混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層形成用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0028】
本発明の表面改質剤の添加効果を効果的に得るためには、磁性粉末と結合剤とが接触する段階または接触前に、前記表面改質剤が磁性粉末表面と接触することが好ましい。これは、本発明の表面改質剤は磁性粉末表面と接触、反応することによりその効果を発揮し得るため、本発明の表面改質剤が磁性粉末表面に接触する前に、結合剤が磁性粉末表面と接触することを回避するためである。従って、磁性層形成用塗布液は、磁性粉末、結合剤、および本発明の表面改質剤を同時に混合することにより、または磁性粉末と表面改質剤とを混合して得られた混合物に、結合剤を混合することによって調製することが好ましい。具体的には、以下の方法により前記成分を混合することが好ましい。
(1)予め磁性粉末と表面改質剤とを乾式で15〜30分間程度分散した後、有機溶媒へ添加する。結合剤は、前記分散物と同時に添加してもよく、前記分散物添加後に添加してもよい。
(2)磁性粉末と表面改質剤を有機溶剤中で15〜30分間程度分散した後、乾固する。乾固した混合物を適宜粉砕して有機溶媒中に添加する。結合剤は、前記混合物と同時に添加してもよく、前記混合物添加後に添加してもよい。
(3)磁性粉末と表面改質剤とを有機溶剤中で15〜30分間程度分散した後。結合剤を添加する。
(4)磁性粉末、表面改質剤および結合剤を有機溶媒中に同時に添加し、分散する。
【0029】
磁性粉末
磁性粉末としては、一般に磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液に含まれ得る強磁性粉末を用いることができる。そのような強磁性粉末としては、強磁性六方晶フェライト粉末および強磁性金属粉末が好ましい。特に、本発明の表面改質剤により優れた表面改質効果が得られるため強磁性六方晶フェライト粉末が更に好ましい。
【0030】
磁性粉末等の粉末の酸点の量は、例えば特開平5-62160号公報に記載してあるようにステアリルアミン吸着量により評価することができる。本発明の表面改質剤と吸着水との反応を、粉末表面で良好に進行させるためには、磁性粉末および後述する非磁性粉末のステアリルアミン吸着量は0.5〜20μmol/m2であることが好ましく、1〜15μmol/m2であることが更に好ましい。ステアリルアミン吸着量は、後述の実施例に示す方法または特開平5-62160号公報記載の方法によって求めることができる。
【0031】
(i)六方晶フェライト粉末
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0032】
六方晶フェライト粉末として、平均板径10〜50nmのものを使用することが好ましく、より好ましくは15〜40nm、更に好ましくは15〜30nmである。上記サイズの六方晶フェライト粉末は、高密度記録用磁気記録媒体に使用される磁性体として好適である。本発明によれば、上記平均板径を有する微粒子状の六方晶フェライト粉末の分散性を高めることができる。
【0033】
六方晶フェライトの平均板状比[(板径/板厚)の算術平均]は1〜15であることが好ましく、1〜7であることが更に好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0034】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚は、粒子TEM写真より、例えば500粒子を無作為に測定することで測定できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、一般に、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。また、六方晶フェライト粉末のpHは、通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、一般に、媒体適用時の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。六方晶フェライト粉末に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0035】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し、例えば0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。六方晶フェライト粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0036】
(ii)強磁性金属粉末
強磁性金属粉末としては、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量はFeに対して0原子%以上40原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15原子%以上35原子%以下、より好ましくは20原子%以上35原子%以下である。Yの含有量は1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、特に好ましくは4原子%以上9原子%以下である。Alは1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、より好ましくは4原子%以上9原子%以下である。
【0037】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeまたはFe−Co粒子などを得る方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法のいずれを施すこともできる。
【0038】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積は、45〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは50〜80m2/gである。45m2/g以上であれば低ノイズであり、100m2/g以下であれば良好な表面性を有する磁性層を形成することができる。強磁性金属粉末の結晶子サイズは40〜180Åであることが好ましく、より好ましくは40〜150Å、更に好ましくは40〜110Åである。強磁性金属粉末の平均長軸長(平均粒子サイズ)は、好ましくは10〜50nmであり、より好ましくは10〜40nmであり、さらに好ましくは15〜30nmである。本発明によれば、上記平均長軸長を有する微粒子状の強磁性金属粉末の分散性を高めることができる。強磁性金属粉末の針状比は3以上15以下であることが好ましく、さらには3以上12以下であることが好ましい
【0039】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とすることが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12とすることができ、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜10%とすることができ、表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着量が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末は可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわない。
【0040】
結合剤
結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。
【0041】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネ−トを組み合わせたものが挙げられる。結合剤として使用する樹脂は、公知の方法で合成することができ、また市販品として入手することもできる。
【0042】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は、例えば10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。上記極性基の中でもスルホン酸基(−SO3M)は高い分散性向上効果を発揮し得るため、スルホン酸基含有結合剤は磁気記録媒体用結合剤として広く用いられている。本発明においてもスルホン酸基含有結合剤を使用することが好適である。
【0043】
磁性層形成用塗布液には、磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。
【0044】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらは公知の方法で合成することができ、また市販品としても入手可能である。
【0045】
磁性層形成用塗布液には、前記表面改質剤、磁性粉末、結合剤に加えて必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、一般に磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液に使用される研磨剤、潤滑剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。
【0046】
有機溶剤としては、公知のものが使用できる。有機溶媒としては、具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。前述のように、本発明の表面改質剤が磁性粉末表面と接触、反応した後に生成される反応生成物は、通常、磁気記録媒体製造時の乾燥温度よりも沸点が低いため、磁気記録媒体製造時の乾燥工程において上記反応生成物も除去することができる。
【0047】
上記有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0048】
調製した磁性層形成用塗布液を、非磁性支持体上に直接または他の層を介して塗布および乾燥することにより磁性層を形成することができる。磁性層形成用塗布液の塗布前に、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層形成用塗布液を塗布することもできる。これにより、非磁性支持体上に非磁性層および磁性層をこの順に有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0049】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の表面改質剤を含む磁性層形成用塗布液および/または非磁性層形成用塗布液を使用するものである。本発明の表面改質剤を、非磁性層形成用塗布液に添加することにより、非磁性粉末表面を改質し非磁性層中の非磁性粉末と結合剤との吸着性を高め非磁性粉末の分散性を高めることができる。
以下、非磁性層形成用塗布液について、更に詳細に説明する。
【0050】
非磁性層形成用塗布液の調製
非磁性層形成用塗布液は、磁性粉末、結合剤、および任意に使用される添加剤を混合することにより得ることができ、本発明の表面改質剤を添加することにより、非磁性粉末表面を改質し、非磁性層中の非磁性粉末と結合剤との吸着性を高め非磁性粉末の分散性を高めることができる。
【0051】
上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。表面改質効果の点では、非磁性金属粉末への適用が有効である。
【0052】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0053】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましく、10〜200nmが更に好ましい。上記サイズを有する非磁性粉末は、高い表面平滑性が求められる高密度記録用磁気記録媒体の非磁性層塗布液に使用する非磁性粉末として好適である。本発明の表面改質剤によれば、上記サイズの非磁性粉末を非磁性塗料中で良好に分散させることができる。
【0054】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有する磁気記録媒体を形成することができ、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0055】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば磁気記録媒体の耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリルアミン吸着量は、本発明の表面改質剤と併用することにより非磁性粉末の分散性を高める観点から、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0056】
前記非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0057】
前記非磁性塗料に添加される結合剤の詳細は、本発明の磁性塗料に含まれる結合剤と同様である。前記非磁性塗料は、更に磁気記録媒体に使用される各種添加剤や溶剤を含むことができる。前記非磁性層形成用塗布液中の各成分、それらの混合方法、添加量等の詳細は、磁性層形成用塗布液に関する前述の記載と同様である。
【0058】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0059】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さ(Ra)が8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さ(Ra)が小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのものを各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0060】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)であることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0061】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法において、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。密着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。また後述するように、下塗り層として平滑化層を設けることもできる
【0062】
層構成
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造する磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0063】
また支持体と非磁性層または磁性層との間、支持体とバックコート層との間に平滑化を目的とした中間層を設けることができ、例えば非磁性支持体の表面に、ポリマーを含有した塗布液を塗布、乾燥して形成するか、分子中に放射線硬化官能基を有する化合物(放射線硬化型化合物)を含有した塗布液を塗布し、その後、放射線を照射し、塗布液を硬化させて形成することができる。
放射線硬化型化合物の数平均分子量は、200〜2000の範囲であることが好ましい。分子量がこの範囲であると、比較的低分子量であるので、カレンダー工程において塗膜が流動し易く成形性が高く、平滑な塗膜を形成することができる。
放射線硬化型化合物として好ましいものは、分子量200〜2000の2官能のアクリレート化合物であり、更に好ましいものはビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFやこれらのアルキレンオキサイド付加物にアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものである。
【0064】
上記放射線硬化型化合物は、ポリマー型の結合剤と併用されてもよい。併用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。放射線として紫外線を用いる場合は、重合開始剤を併用することが好ましい。重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤および光アミン発生剤等を用いることができる。
また、放射線硬化型化合物は、非磁性層に用いることもできる。
【0065】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、特に好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率(σ/δ)は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0066】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.2〜2.0μmであることが好ましく、0.3〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明において非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0067】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体の製造方法により、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を形成することもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層に本発明の表面改質剤を添加することも可能であり、添加することによりバックコート層中の粉末と結合剤の吸着性を高め該粉末の分散性を高めることができる。この場合の本発明の表面改質剤の添加量、添加方法等の詳細は、先に磁性層形成用塗布液に関する前述の記載と同様である。
【0068】
バックコート層の結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。特に前記非磁性層の処方を適用することが好適である。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0069】
本発明の製造方法により製造される磁気記録媒体の好ましい物性等の詳細は、本発明の磁気記録媒体について後述する通りである。
【0070】
磁性層形成用塗布液の調製方法は、先に説明した通りである。非磁性層、バックコート層等の他の層を形成するための塗布液も同様の方法で調製することができる。
【0071】
磁気記録媒体の製造工程では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0072】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0073】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。前述のように、本発明の表面改質剤が粉末表面と接触、反応した後に生成される反応生成物は、乾燥工程により除去することができる。
【0074】
このようにして得られた塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0075】
塗布原反の表面平滑性は、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制御することによって行うことができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御することが好ましい。カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0076】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層塗布液の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0077】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0078】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また、磁性層表面の平滑性を高めるため、非磁性層表面にカレンダー処理をすることもできる。非磁性層に対するカレンダー処理も、上記条件で行うことが好ましい。
【0079】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【0080】
更に本発明は、非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体、または、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、前述の本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体に含まれる各成分および各層の好ましい物性等の詳細は、先に説明した通りである。
以下、本発明の磁気記録媒体の物理特性について説明する。
【0081】
[物理特性]
磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さとして、1.0〜3.0nmの範囲であることが好ましい。磁性層の中心線平均粗さが3.0nm以下であることにより、より良好な電磁変換特性を得ることができ、1.0nm以上とすることにより、安定走行が増す。また、磁性層の中心線平均粗さは、1.5〜3.0nmであることが好ましく、1.5〜2.5nmであることがより好ましい。本発明の表面改質剤を使用することにより表面平滑性に優れた磁性層を形成することができ、更に、強磁性粉末の粒子サイズ、磁性層塗布液の分散条件、カレンダー条件、非磁性支持体中のフィラー量の調整、平滑化のための下塗り層の使用、等によって磁性層の表面平滑性を制御することもできる。
【0082】
磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0083】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において、例えば0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0084】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置(例えばレオバイブロン等)により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0085】
磁性層中に含まれる残留溶媒は、好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0086】
本発明の磁気記録媒体は、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くすることができる。
【0087】
更に本発明は、本発明の粉末用改質剤と、磁性粉末と、結合剤とを含む磁性塗料に関する。本発明の磁性塗料は、前記表面改質剤の作用により磁性粉末と結合剤の吸着性が良好になり、これにより磁性粉末を高度に分散させることができる。本発明の磁性塗料の詳細は、磁性層形成用塗布液について前述した通りであり、本発明の磁性塗料は、磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液として使用することが好ましい。
【0088】
更に本発明は、本発明の粉末用改質剤と、非磁性粉末と、結合剤とを含む非磁性塗料に関する。本発明の非磁性塗料は、前記表面改質剤の作用により非磁性粉末と結合剤の吸着性が良好になり、これにより非磁性粉末を高度に分散させることができる。本発明の非磁性塗料の詳細は、非磁性層形成用塗布液について前述した通りであり、本発明の非磁性塗料は、磁気記録媒体の非磁性層形成用塗布液として使用することが好ましい。
【実施例】
【0089】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。
【0090】
1.強磁性六方晶フェライト粉末使用の実施例・比較例
【0091】
[実施例1]
下記強磁性六方晶フェライト粉末7.2質量部、スルホン酸基含有ポリウレタン(スルホン酸基含有量:3.3×10-4モル/g)1質量部、オルト酢酸トリエチル0.38質量部をシクロヘキサノン3.3質量部、2−ブタノン4.9質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液にジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、6時間分散させた。
分散させた液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を以下の方法で測定したところ、3.2/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。磁気シートの光沢を測定したところ光沢値197であった。光沢値が高いほど強磁性粉末の分散性が良好であることを示す。なお、光沢値の測定は、スガ試験機器株式会社製GK−45Dを用い測定した。また、得られた液を100℃で蒸留し、留去物のNMRを測定したところ酢酸エチル、エタノールに該当するピークが観測された。得られた液を遠心分離し、カールフィッシャーによって上澄み液中に含まれる水分量を計測したところ検出限界以下であった。
強磁性六方晶バリウムフェライト粉末
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:25nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
pH:7
ステアリルアミン吸着量:4.5μmol/m2
【0092】
[測定方法]
(1)粉末表面/溶液中の結合剤の存在比
日立製分離用小型超遠心機CS150GXLにて100,000rpm, 80分の条件で磁性粉末と溶液を遠心分離した。上澄み液3mlをはかりとり質量を測定した。40℃、18時間の条件で乾燥させた後、140℃、3時間真空条件下で乾燥した。乾燥したものの質量を結合剤非吸着固形分とし、磁性粉末表面/溶液中の結合剤の存在比を計算した。
(2)ステアリルアミン吸着量
強磁性六方晶バリウムフェライト粉末1質量部をシクロヘキサノン10質量部に添加し、マグネチックスターラーを用いて250rpmで懸濁させた後、ステアリルアミンの1mmol/mlシクロヘキサノン溶液を添加した。
日立製分離用小型超遠心機CS150GXLにて100,000rpm, 30分の条件で磁性粉末と溶液を遠心分離した。上澄み液3mlをはかりとり滴定装置により0.1N塩酸で滴定し遊離のステアリルアミン量を測定した。吸着した単位面積あたりのステアリルアミンの量をステアリルアミン吸着量とした。
【0093】
[実施例2]
オルト酢酸トリエチル0.38質量部に代えてオルトギ酸トリメチル0.25質量部を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、3.2/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値197であった。
【0094】
[実施例3]
オルト酢酸トリエチル0.38質量部に代えてオルトギ酸トリメチル0.62質量部を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、3.5/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値196であった。
【0095】
[実施例4]
オルト酢酸トリエチル0.38質量部に代えてアセトンジメチルアセタール0.24質量部を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、4.5/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値191であった。
【0096】
[実施例5]
オルト酢酸トリエチル0.38質量部に代えてアセトンジメチルアセタール0.61質量部を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、3.6/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値191であった。
【0097】
[実施例6]
オルト酢酸トリエチル0.38質量部に代えて下記アセタール化合物0.11質量部を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、3.4/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値182であった。
【0098】
【化4】

【0099】
[比較例1]
オルト酢酸トリエチルを添加しなかった点以外は実施例1と同様の処理を行い得られた分散液のポリウレタンの磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、2.6/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることで磁気シートを作製した。上記方法で磁気シートの光沢を測定したところ光沢値174であった。得られた液を遠心分離し、カールフィッシャーによって上澄み液中に含まれる水分量を計測したところ0.66%であった。
【0100】
実施例1〜6におけるポリウレタンの磁性粉末表面の存在比率が、比較例1におけるポリウレタンの磁性粉末表面の存在比率より高かったことから、一般式(I)で表されるオルトエステル化合物およびアセタール化合物が磁性粉末の表面を改質しポリウレタン吸着量を高める作用を示したことがわかる。磁性塗料中での磁性体への結合剤吸着量を高めることは、磁性体の分散性改善につながるため、実施例で使用した化合物の添加によって磁性体への結合剤吸着量が増加したことから上記化合物が磁性塗料において分散剤として機能し得ることが確認できる。実施例1〜6で作製した磁気シートの光沢値が、比較例1で作製した磁気シートの光沢値より高かったことからも、上記化合物が磁性塗料中の磁性粉末の分散性を高める作用を示したことがわかる。
また、実施例1で得られた磁性塗料の留去物から、オルト酢酸トリエチルが加水分解することにより生成される酢酸エチルおよびエタノールが検出されたこと、実施例1で得られた磁性塗料の上澄み液中の水分量が、比較例1(オルト酢酸トリエチル未添加)で得られた磁性塗料中の上澄み液中の水分量より減少していたことから、オルト酢酸トリエチルが磁性粉末表面の吸着水と反応し加水分解した結果、磁性粉末表面の吸着水が除去されたことが確認できる。
【0101】
2.非磁性粉末使用の実施例・比較例(1)
【0102】
[実施例7]
下記非磁性粉末4.1質量部、スルホン酸基含有ポリウレタン(スルホン酸基含有量:0.6×10-4モル/g)1質量部、オルト酢酸トリエチル0.38質量部をシクロヘキサノン10.8質量部、2−ブタノン16.2質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液にジルコニアビーズ(ニッカトー製)90質量部を添加し、6時間分散させた。分散させた液のポリウレタンの非磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、1.5/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることでシートを作製した。上記方法でシートの光沢を測定したところ光沢値165であった。光沢値が高いほど非磁性粉末の分散性が良好であることを示す。
非磁性粉末
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長:0.15μm
平均針状比:7
BET法による比表面積:52m2/g
pH:8
ステアリルアミン吸着量(前記方法により測定):1.6μmol/m2
【0103】
[比較例2]
オルト酢酸トリエチルを使用しなかった点以外は実施例7と同様の処理を行い、分散させた液のポリウレタンの非磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、1.0/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることでシートを作製した。上記方法でシートの光沢を測定したところ光沢値155であった
【0104】
2.非磁性粉末使用の実施例・比較例(2)
【0105】
[実施例8]
使用するスルホン酸基含有ポリウレタンをスルホン酸基含有量:3.3×10-4モル/gのもの1質量部に変更した点以外は実施例7と同様の処理を行い、分散させた液のポリウレタンの非磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、0.4/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることでシートを作製した。上記方法でシートの光沢を測定したところ光沢値155であった。
【0106】
[比較例3]
オルト酢酸トリエチルを使用しなかった点以外は実施例8と同様の処理を行い、分散させた液のポリウレタンの非磁性粉末表面/溶液中の存在比率を上記方法で測定したところ、0.22/1であった。得られた液を塗布し、乾燥させることでシートを作製した。上記方法でシートの光沢を測定したところ光沢値135であった。
【0107】
実施例7におけるポリウレタンの非磁性粉末表面の存在比率が比較例2におけるポリウレタンの非磁性粉末表面の存在比率より高かったこと、および、実施例8におけるポリウレタンの非磁性粉末表面の存在比率が比較例3におけるポリウレタンの非磁性粉末表面の存在比率より高かったことから、一般式(I)で表される化合物が非磁性粉末の表面を改質しポリウレタン吸着量を高める作用を示したことがわかる。非磁性塗料中での非磁性粉末への結合剤吸着量を高めることは、非磁性粉末の分散性改善につながるため、実施例で使用した化合物の添加によって非磁性粉末への結合剤吸着量が増加したことから上記化合物が非磁性塗料において分散剤として機能し得ることが確認できる。実施例7で作製したシートの光沢値が比較例2で作製したシートの光沢値より高かったこと、および、実施例8で作製したシートの光沢値が比較例3で作製したシートの光沢値より高かったことからも、上記化合物が非磁性塗料中の非磁性粉末の分散性を高める作用を示したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の表面改質剤は、磁性塗料用分散剤および非磁性塗料用分散剤、特に磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液用分散剤および非磁性層形成用塗布液用分散剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする粉末用表面改質剤。
【化1】

[一般式(I)中、R10およびR13は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表し、Lは単結合または酸素原子を表す。]
【請求項2】
前記粉末は、磁性粉末である請求項1に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項3】
前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である請求項2に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項4】
磁性塗料用分散剤として使用される請求項2または3に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項5】
前記磁性塗料は、磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液である請求項4に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項6】
前記粉末は、非磁性粉末である請求項1に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項7】
非磁性塗料用分散剤として使用される請求項6に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項8】
前記非磁性塗料は、磁気記録媒体の非磁性層形成用塗布液である請求項7に記載の粉末用表面改質剤。
【請求項9】
磁性粉末、結合剤および請求項1に記載の粉末用表面改質剤を混合することにより磁性層形成用塗布液を調製すること、
調製した磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより磁性層を形成すること、
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である請求項9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
非磁性粉末、結合剤および請求項1に記載の粉末用表面改質剤を混合することにより非磁性層形成用塗布液を調製すること、
調製した非磁性層形成用塗布液を非磁性支持体上に塗布および乾燥することにより非磁性層を形成すること、
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である請求項9〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
請求項9、10または12のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
【請求項14】
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
請求項11または12に記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
【請求項15】
請求項1に記載の粉末用表面改質剤と、磁性粉末と、結合剤とを含む磁性塗料。
【請求項16】
前記磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である請求項15に記載の磁性塗料。
【請求項17】
前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である請求項15または16に記載の磁性塗料。
【請求項18】
磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液として使用される請求項15〜17のいずれか1項に記載の磁性塗料。
【請求項19】
請求項1に記載の粉末用表面改質剤と、非磁性粉末と、結合剤とを含む非磁性塗料。
【請求項20】
前記結合剤は、スルホン酸基含有結合剤である請求項19に記載の非磁性塗料。
【請求項21】
磁気記録媒体の非磁性層形成用塗布液として使用される請求項19または20に記載の非磁性塗料。

【公開番号】特開2010−55689(P2010−55689A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219687(P2008−219687)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】