説明

粉末積層法による人工骨成形方法

a)生体適合性を有しかつ水和反応で硬化する粉末骨材5を平面状の粉末層6に形成する粉末層形成ステップ32と、b)粉末層の一部に生体適合性を有する水溶液7を噴射し、噴射部分6aを水和反応で硬化させる部分硬化ステップ34と、c)a)とb)のステップを繰り返して積層し、硬化部分6aが連結した所望の3次元構造の人工骨9を成形する人工骨成形ステップ36とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
[発明の技術分野]
【0002】
本発明は、粉末積層法による人工骨成形方法に関する。
関連技術の説明
【0003】
ラピッドプロトタイピング(Rapid Prototyping)は、積層造形法とも呼ばれ、物体の断面形状を積層し、3次元物体を創成するものである。また、ラピッドプロトタイピングの一種であり、材料として粉末を用いる積層法(粉末固着法)は、非特許文献1、2及び特許文献1〜5に開示されている。
【0004】
さらに、粉末積層法を用いて生体を構成する眼球、歯牙、骨等を人工的に成形する手段として、特許文献6〜9が開示又は出願(未公開)されている。
【0005】
特許文献6の「立体カラーコピー方法及び装置」(未公開)は、試料を一定の方向に順次押し出して切断し、切断断面の2次元画像を撮像する試料断面撮像ステップ(A)と、2次元画像から試料の3次元内部構造を演算しこれをカラーラピッドプロトタイピング可能なデータに変換するデータ処理ステップ(B)と、カラーラピッドプロトタイピング装置を用いて立体カラー模型を製作する立体カラー模型製作ステップ(C)とを有するものである。
【0006】
特許文献7の″Mass production of dental restoration by solid free−form fabrication methods″は、(a)セラミック又は複合材料の層を形成し、(b)その層に結合剤を付加し、(c)(a)と(b)を多数回繰り替えし互いに結合された多数の層を形成して歯の補綴物の形状に成形し、(d)成形した材料を補強して歯の補綴物を製造するものである。
【0007】
特許文献8の″Mass production of shells and models for denntal restoration produced by solid free−form fabrication methods″は、(a)デジタルデータを用いて歯の補綴物のシェル形状を準備し、(b)ポリマー材の層を形成し、(c)(b)を多数回繰り替えし互いに結合された多数の層を形成してデジタルデータに基づくシェル形状を成形するものである。
【0008】
特許文献9の「人工骨成形方法」は、(a)生体用粉末材料および液体材料を、噴射装置のノズル先端近傍まで異なる流路によって運ぶ工程、(b)前記噴射装置のノズルから、前記生体用粉末材料および液体材料を固体表面に混合噴射し、前記固体表面に前記生体用粉末材料および液体材料の混合物を付着させることにより層を形成させる工程、および(c)前記層にさらに前記生体用粉末材料および液体材料を混合噴射して前記混合物の付着面の積層を繰り返すことにより前記層を複数層重層させて骨の三次元構造物を立体形成させる工程、を含むものである。
【0009】
【非特許文献1】山澤、安齋、他、“カラーRP機による多色モデルの製作”、第19回ラピッドプロトタイピングシンポジウム、2000、PP.63−65
【非特許文献2】山澤、安齋、他、“積層造形法による分子構造の実体化”
【特許文献1】米国特許第5204055号明細書、″Three−dimensional printing techniques″
【特許文献2】米国特許第5902441号明細書、″Method of three dimensional printing″
【特許文献3】米国特許第6375874号明細書、″Method and apparatus for prototyping a three dimensional object″
【特許文献4】特開平9−324203号公報、「粉末積層法による三次元形状創成方法」
【特許文献5】特願2002−205825号明細書、「機能性材料の積層造形方法」、未公開
【特許文献6】特願2002−226859号明細書、「立体カラーコピー方法及び装置」、未公開
【特許文献7】米国特許第6322728号明細書、″Mass production of dental restoration by solid free−form fabrication methods″
【特許文献8】米国特許出願第20020064745号明細書、″Mass production of shells and models for denntal restoration produced by solid free−form fabrication methods″
【特許文献9】特願2002−377836号明細書、「人工骨成形方法」、未公開
【0010】
従来、人工骨はステンレス、チタン合金等の金属材料、耐摩耗性のプラスチック等から作られ骨置換術に使われてきた。これらの人工骨は機能不全の関節機能を代行するものであるが、金属材料や耐摩耗性プラスチックは、磨耗や腐食、膨潤等の経時変化を起こすため、長期間使用することができない問題点があった。
【0011】
一方、近年、セラミックを型に入れて焼成し、あるいは焼成済みのブロックから削りだして対象とする骨と同形状の人工骨を作ることが可能になってきた。しかしこのような人工骨は、単に外観構造のみを同一にしたものであり、磨耗や腐食、膨潤等の経時変化は起こさないものの、生体適合性や吸収置換に関しては問題が残っていた。
【0012】
[発明の要約]
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、対象とする骨と同一形状を有し、かつ生体骨に類似の性質と成分を有し、骨置換術において移植可能な人工骨を成形することができる人工骨成形方法を提供することにある。
【0013】
本発明によれば、a)生体適合性を有しかつ反応で硬化する粉末骨材を平面状の粉末層に形成する粉末層形成ステップと、b)該粉末層の一部に生体適合性を有する水溶液を噴射し、噴射部分を硬化させる部分硬化ステップと、c)a)とb)のステップを繰り返して積層し、硬化部分が連結した所望の3次元構造の人工骨を成形する人工骨成形ステップと、を有することを特徴とする粉末積層法による人工骨成形方法が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記粉末骨材は、燐酸カルシウム等の無機成分とその他の骨成分からなり、前記水溶液は、水と水溶性の生体由来成分、生体高分子の混合液もしくは懸濁液である。
【0015】
前記粉末骨材は、燐酸カルシウム等のカルシウム塩、ハイドロオキシアパタイト、人骨、動物骨、アルミナ、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸共重合体、またはこれらの混合物である。
【0016】
また、前記水溶液は、可溶性コラーゲン、プルテオグルカン、リンクプロテイン、酒石酸ナトリウム、PH調整液、骨成長因子、フィブリン、PRP(血小板富加血清)、各種多糖類、アミノ酸ポリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸共重合体、またはこれらの混合物と水の混合液もしくは懸濁液である。
【0017】
さらに、液層で互いに反応して硬化反応を生じる2種以上の混合液を別々の容器に入れて複数のインクジェットノズルから噴射して噴射部分で混合し硬化させる。
【0018】
また、上記成分以外に人工骨の高分子成分の架橋反応や重合を高めるための成分は反応や重合を受ける生体材料と別容器に入れて異なるインクジェットノズルから噴射して目的箇所で混合する。
【0019】
例としては、エチルシリケート溶液と触媒の溶液を異なる2つのノズルから噴射してハイドロオキシアパタイト粉体層状でエチルシリケートを加水分解して珪酸の重合体を作り、硬化させる。
【0020】
また、前記c)のステップの後に、d)圧力の変化を利用して、前記人工骨の内部に含まれる気体を排出し、反応により硬化部分を更に強化する人工骨強化ステップ、を有する。コラーゲンゲルやポリ乳酸の懸濁液は粘度が高いため毛細管現象での浸透が困難であり、積極的に骨構造内部への浸透を促すために、陰圧あるいは加圧処理を行い内部の空気と硬化目的の液の置換を促すことが望ましい。
【0021】
さらに前記人工骨強化ステップの後、もしくはc)のステップの後に成形した人工骨を直接オートクレーブで高温高圧の水蒸気下、あるいは乾燥高温下で硬化反応の促進を行なう。
【0022】
また、生体高分子を混合して成形した人工骨の生体高分子同士の反応あるいは他の成分との反応あるいは融解を起こさせるために、真空状態もしくは酸素を取り除いた雰囲気下で高温加熱処理する、ことが好ましい。
【0023】
コラーゲンは乾燥後に、120−130度Cの雰囲気中で処理することにより重合して強度が高まる。また骨構造中のポリ乳酸は融点以上に加熱処理することにより無機骨成分を融解接着により粒子結合を補完するので強度と耐衝撃性が高まる。
【0024】
また本発明によれば、a)対象とする骨を一定の方向に順次移動して、切断断面の2次元データを作成する2次元データ作成ステップと、b)該2次元データから骨を構成する複数の組織別のラピッドプロトタイピング可能なデータを作成する組織別データ処理ステップと、c)ラピッドプロトタイピング装置を用いて複数の組織構造からなる人工骨を成形する人工骨成形ステップと、を有することを特徴とする粉末積層法による人工骨成形方法が提供される。
【0025】
前記組織別のデータは、海綿骨、骨梁、管腔部、皮質骨から選択された複数のデータからなる。
【0026】
上記本発明の方法によれば、生体適合性を有する骨材と水溶液のみを用いるので、生体骨に類似の性質と成分を有し、骨置換術において移植可能な人工骨を成形することができる。
【0027】
また、人工骨強化ステップ及び必要によりオートクレーブ、加熱チャンバー内で硬化反応を促進させるので、生体骨に匹敵する強度を持たせることができ、また生体内で長期間残存させることができる。
【0028】
さらに、対象とする骨に基づき、海綿骨、骨梁、管腔部、皮質骨から選択された複数のデータからなるラピッドプロトタイピング可能なデータに作成し、ラピッドプロトタイピング装置を用いて複数の組織構造からなる人工骨を成形するので、対象とする骨と同一形状を有し、かつ内部構造も類似した人工骨を製造することができる。
【0029】
本発明のその他の目的及び有利な特徴は、添付図面を参照した以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】骨の構造を示す模式図である。
【図2】A〜Dは、骨の断面構造を示す図である。
【図3】本発明の人工骨成形方法によるデータの流れを示す図である。
【図4】本発明の人工骨成形方法による粉末積層工程を示す図である。
【図5】骨の構造に適合するインクジェットヘッドの構成図である。
【0031】
[好ましい実施例の説明]
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0032】
図1は、骨の構造を示す模式図である。この図に示すように、骨は、動物の骨でも人骨でも、一般に関節を構成する近位骨端及び遠位骨端とその間の骨幹とに大別される。骨端は、表面から関節軟骨、緻密質、海綿質および骨端線からなる。骨幹は、表面から骨膜、緻密質、黄色骨髄、等からなる。
【0033】
図2A〜図2Dは、骨の断面構造を示す画像である。この図において、図2Aは大腿骨、海綿骨、皮質骨、管腔部を示す全体像であり、図2Bは皮質骨であり、図2Cは大腿骨海綿骨であり、図2Dは骨格線と骨梁厚みを示す図である。
【0034】
図1と図2A〜図2Dから、骨は全体が均質ではなく、複数の組織(海綿骨、骨梁、管腔部、皮質骨、等)からなることがわかる。
【0035】
図3は、本発明の人工骨成形方法によるデータの流れを示す図である。この図において、本発明の人工骨成形方法は、2次元データ作成ステップ10、組織別データ処理ステップ20および人工骨成形ステップ30からなる。
【0036】
2次元データ作成ステップ10では、対象とする骨(動物骨または人骨)を一定の方向に順次移動して、切断断面の2次元データ2を作成する。このステップは実際にカッターを用いて切断しても、CTスキャン等で非破壊的にデータを取得してもよい。得られた2次元データ2をこの例ではCTデータと呼ぶ。
【0037】
組織別データ処理ステップ20では、2次元データ2から骨を構成する複数の組織別のラピッドプロトタイピング可能なデータ4を作成する。この例では、CTデータ2から組織別のSTLファイル3を作成し、次いで各スライスデータ(CTデータ2)から海綿骨、骨梁、管腔部、および皮質骨に区分した組織別データ4(海綿骨データ、骨梁データ、管腔部データ、および皮質骨データ)を作成する。
【0038】
人工骨成形ステップ30では、ラピッドプロトタイピング装置を用いて複数の組織構造からなる人工骨9を成形する。
【0039】
図4は、本発明の人工骨成形方法による粉末積層工程を示す図である。この粉末積層工程は、上述した人工骨成形ステップ30に相当する。
【0040】
この粉末積層工程は、粉末層形成ステップ32、部分硬化ステップ34および人工骨成形ステップ36からなる。
【0041】
粉末層形成ステップ32では、生体適合性を有しかつ水和反応で硬化する粉末骨材5を平面状の粉末層6に形成する。
【0042】
部分硬化ステップ34では、粉末層6の一部に生体適合性を有する水溶液7(硬化液)を噴射し、噴射部分6aを水和反応で硬化させる。
【0043】
人工骨成形ステップ36では、粉末層形成ステップ32と部分硬化ステップ34を繰り返して積層し、硬化部分6aが連結した所望の3次元構造を有する人工骨9を成形する。
【0044】
さらに、本発明の方法では、図示しない人工骨強化ステップにおいて、人工骨成形ステップ36で成形した人工骨9を負圧下に保持し、内部に含まれる気体を排出し、水和反応により硬化部分を更に強化する。また、その人工骨強化ステップの後に、オートクレーブで高温高圧の水蒸気下で成形した人工骨の硬化反応の促進を行なうことが好ましい。
【0045】
図5は、骨の構造に適合するインクジェットヘッドの構成図である。このインクジェットヘッド8は、走査方向(X)に直交する方向に複数のノズルが直列に配置され、管腔部、骨梁、海綿骨、皮質骨にそれぞれ対応して硬化液(水溶液7)の噴射量を変化させ、固着部分とその硬度を制御するようになっている。
【0046】
また、図4において液層で互いに反応して硬化反応を生じる2種以上の混合液は、図示しない別々の容器に入れて複数のインクジェットノズル8から噴射して噴射部分で混合し硬化させるのがよい。更に、人工骨の高分子成分の架橋反応や重合を高めるための成分は反応や重合を受ける生体成分と別容器に入れて異なるインクジェットノズルから噴射して目的箇所で混合するのがよい。
【0047】
生体の骨組織はハイドロオキシアパタイト(水酸化リン灰石)の結晶体で構成される硬い無機性基質、および、コンドロイチン硫酸(硫酸結合型プロテオグリカン)がコラーゲンI型に埋まってマトリックスを構成している。細胞としては、骨芽細胞と骨細胞があり、前者は有機性骨基質を盛んに産生し、そこに石灰沈着が起こって層板状の無機性基質ができる。骨細胞は、骨芽細胞が自ら作った骨基質の中に埋まって骨基質形成能を失ったものを指し、骨小腔内にある。もう1種の細胞として、多核で巨大な破骨細胞があり、これは骨基質融解を起こす。骨組織は軟骨組織と同様、結合組織である骨膜に覆われているが、これに含まれるシャーピー線維(type−I collagen)により骨組織と強固に結合していている。
【0048】
本発明は水分と反応して硬化する特殊なバイオアクティブな人工骨材料(粉末骨材5)を用いて、焼結プロセスを用いずに人工骨9を3次元積層成形するものである。また、生体適合性、生体へ吸収置換と強度を高める目的で各反応成分を別々に噴射しながら成形することで通常の反応方法では得られない生体骨に類似の機能と成分及び形状をもった人工骨を作成することができる。
【0049】
また、本成形方法の特徴として骨内部構造(骨梁、海綿骨)の再現ができるため成分だけでなく構造的にも生体適合性が高く生体骨への置換も早い。
【0050】
さらには骨内部構造の空隙部分に骨細胞を埋入させることで骨の再生医療のための細胞支持体(スキャッホールド)としても応用できる。
【0051】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
【0052】
1)本発明により、X線あるいはMRI等のCT画像から得られた2次元データ2をCAD変換しCAMプロセスで3次元積層造形装置で移植用の人工骨を成形する。この成形方法にはいくつかの条件を満たす必要である。
【0053】
a)粉体層6の粉体(粉末骨材5)の粒子サイズは平均粒子径が10ミクロン以下であることが、成形強度、硬化反応時間から見て望ましい。粒子が細かいほど硬化時間は早くなり、硬化後の強度も上がる傾向であるが、100ナノメートル未満の粒子に粉砕するのは非常に困難になるため、100ナノメートル以上の平均粒子径を用いる。
【0054】
また、粒度分布の3倍以上に中間値の離れた2種の粒度をもつ粉体を混合して成形すると充填密度が高くなり空隙率が減ることにより、高い物理強度が得られる。
【0055】
b)噴射する液体相(水溶液7)は水に可溶な成分を主体とする。例としては可溶性のコラーゲン、各種プルテオグルカン、各種リンクプロテイン、酒石酸ナトリウム、各種PH調整用のバッファー成分、をインクジェットノズルが噴射できる粘度に調整する。
【0056】
c)粉体層の平面化にはローラーを用いるのが一般的であり、平滑な表面を作り出すには粉体の粒度、ローラーの回転数、移動速度の調整が必要である。
【0057】
d)成形操作後の人工骨の強度を増加させるためには、成形済み硬化成分が互いに反応することを助ける必要がある。成形操作時には気体も成形物中に含有しており、また噴射による粉体相と液体相の反応が十分でないことがあるため、成形後に追加で反応を完結させる必要がある。
【0058】
基本的には噴射液層と同じ成分あるいは人工体液の液中に浸漬させて、真空ポンプで印圧(負圧)を加えることにより内部の気体を脱気するとともに液層成分の内部への浸透を助ける。
【0059】
2)粉体層6には、生体適合性が高く水に不溶性の無機成分、特に水和反応により硬化する性質を持つ燐酸カルシウム等のカルシウム化合物が望ましい。また他の水に不溶性あるいは難溶性の成分も微粒子として混合して噴射成形時の粉体ベッドとして用いる。
【0060】
3)インクジェットノズル8からの噴射液7で人工骨9を作成する際にはその噴射溶液層は生体骨の水溶性の成分とその重合や架橋、結合等を助ける成分からなる。さらに無機成分においては硬化時のPHが重要であるためPH緩衝材も加える必要がある。
【0061】
生体骨成分としては代表的なものとしてコラーゲンがあげられる。コラーゲンは18種類の型(コラーゲンファミリー)があることが知られている。それぞれの型で臓器特異性があって、例えばI型コラーゲンは主に皮膚・骨・腱など、II型は主に軟骨・硝子体など、II型は主に血管・皮膚など、IV型は主に基底膜などに存在している。骨、軟骨の成形対象はおもにI型とII型のコラーゲンが対象になる。
【0062】
他の生体骨成分としてのプルテオグリカンは、タンパク質にグリコサミノグリカンが共有結合した分子の総称であり、細胞表面と細胞外マトリックスの主要成分となっている。グルコサミノグルカンはその骨格構造よりコンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケタラン硫酸およびヒアルロン酸に分類される。
【0063】
その他の構成成分としてリンクプロテインが骨、軟骨の強度を高めることが知られている。フィブリン、PRP(血小板富加血清)、各種多糖類、アミノ酸ポリマーなども生体適合性が高く骨の強度を上げることが出来る。
【0064】
成形した人工骨材料の骨細胞への置換を早める目的で骨細胞成長因子等を液相中に入れて成形することが出来る。特に骨形成因子(BMP)は強力な骨再生の誘導能をもっている。ほかに骨細胞成長、基質成長を促すサイトカインとして塩基性繊維芽細胞増殖因子(b−FGF),トランスフォーミング増殖因子(TGFβ)、インスリン様増殖因子(IGF−1)等がある。
【0065】
4)骨成成形の液相成分の中には互いに混和すると凝集や沈殿をおこして成形性の低下やノズルからの噴射に不都合が生じる。その際には異なる容器に互いに反応する成分を保存し成形時にことなる回路およびノズルから別々に噴射して目的の粉体層上で混合するようにする。生体骨成分は互いに凝固反応をしてマトリックスや複合体を形成している。このような複雑な成分環境を再現するのには複数の液相系を物理的に分離して機械的にその反応をコントロールして目的箇所で反応させる必要がある。
【0066】
5)成形人工骨の強度と靭性を上げるためには、生体分子の重合による高分子化と、架橋結合による網目構造を作ることが有用である。ノズルから噴射する液体相に重合剤や架橋剤を入れることにより成形後の人口骨の物性を上げて、生体骨に近い人工骨を作成することが出来る。
【0067】
6)成形済み人口骨の無機成分の水和硬化反応の促進は高い蒸気圧で、高温度に保つことでなされる。滅菌用オートクレーブ内で人工骨を滅菌サイクル中で処理することにより硬化時間の大幅な短縮が達成される。
【0068】
更にオートクレーブの乾燥プロセスで高温、乾燥状態の雰囲気で長い時間、反応処理行うことにより人工骨内の生体高分子は架橋、重合反応をしてさらに強度と靭性が向上する。通常の滅菌工程よりも高温かつ、長時間の工程プロセスなので同時に人口骨の無菌性が確立される。
【実施例1】
【0069】
粉体の平坦化ローラーのついた3次元積層造形装置の粉体層にα−TCP燐酸カルシウムの微粉末を用い、インクジェット液層に酒石酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液を用いてローラーで100ミクロンの厚みに平坦にした後の粉体上に液層を噴射して2次元画像を描いた。その作業を繰り返して粉体層を重積させ立体成形物を作成した。
【0070】
硬化していない不要な粉体を成形物から取り除き、成形物を追加的に内部まで硬化させるためにインクジェット液層と同じ水溶液に浸漬して閉鎖容器中で真空ポンプにて減圧した。
【0071】
減圧処理により成形物内部の気泡を取り除き液層に置換した後、3日間程度室温にて静置して硬化反応を終了させた。この結果、所望の3次元構造を有する人工骨9を成形することができた。
【実施例2】
【0072】
実施例1と同様の装置と粉体層を用いてインクジェット液相に可溶性の0.2%ブタコラーゲンを酒石酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムを含む溶液とは混合すると析出物を生ずることから、別の系の容器とノズルから噴射してコラーゲン入りの人工骨を成形した。この方法により、析出物の発生を防止することができた。
【実施例3】
【0073】
コラーゲンとヒアルロン酸を液相に入れて成形する際に別の系の容器とノズルから少量のグリオキサール溶液を噴霧して人工骨を成形後、水和硬化反応と架橋反応のキュアリングを行い、約3日後に未反応物を除去するために撹拌精製水中に24時間留置した。
【実施例4】
【0074】
実施例1と同様の装置に平均粒子経30ミクロンのハイドロオキシアパタイト粉末を用いハイドロオキシアパタイト粉体層へエチルシリケートと触媒溶液(硬化剤)を30対1の重量比割合で別々のノズルより噴霧し硬化させた。ハイドロオキシアパタイトとシリカの複合体となり、乾燥した硬化物を硬化剤B(後処理剤に約30min浸漬するとガラス状の艶のある成形体ができた。
【0075】
再び乾燥後、約800℃で3時間焼成するとシリカの重合度がまして強度の向上が見られた。
【実施例5】
【0076】
実施例1と同様に硬化型の燐酸カルシウム原料粉体とポリ乳酸の粉体を重量比で70:30で混同した混合粉体を用いて積層造形をする。造形物を乾燥させ水分を除いた後に、摂氏140度にて3時間加熱させることにより、溶融したポリ乳酸が燐酸カルシウム粒子間のバインダーとして働き圧縮強度のみならず曲げ強度の高い複合体人工骨となった。
【実施例6】
【0077】
実施例2と同様の製法にて成形した人工骨を滅菌バックに入れ、オートクレーブに入れて抜気工程で人工骨成形体中の空気を除いた後に、摂氏121度設定で高温、高湿処理を約1時間行う。(主に水和硬化反応促進)。内部の蒸気を除いた後に摂氏130度の乾燥工程にて約3時間処理した(コラーゲンの架橋反応促進)。
【0078】
軟骨のマトリックスはヒアルロナンに分子量の大きなアグリカン(aggrecan,軟骨プロテオグリカン)が結合し、〜40kdの糖蛋白質であるリンクプロテインが両者の結合を強化してゼラチンとHA(HydroxyApatiteハイドロオキシアパタイト)から作られた多孔性のマトリックスが、架橋剤に少量のカルボジイミド(EDCI)を用い、90%(w/v)アセトン/水混液にゼラチン−HAの水溶性スポンジを浸して調製された。このスポンジ型バイオマテリアルは創傷の被覆やティシューエンジニアリングの足場として作成された。
【0079】
HAとコラーゲンの複合物は、この2つの成分を酢酸水溶液で凝固させ、グリオキサールあるいは過沃素酸酸化デンプンジアルデヒドを介して架橋して調製した。
【0080】
HAとコラーゲンからなる他の組成物としては乾燥したHA/コラーゲン凝固物をポリエチレンオキサイドとヘキサメチレンジイソシアナートで架橋して調製された。
【0081】
ハイドロオキシアパタイトとコラーゲン−HAの複合素材が、HA溶液にハイドロオキシアパタイト粒子を添加し水に懸濁したコラーゲン線維と混和して調製された。ハイドロオキシアパタイト90%、コラーゲン9.2%、HA 0.8%(w/v)の組成からなる最終製品は生体適合性で機械的強度があり、骨欠損の充填物として使用された。
【0082】
多重で規則的に並んだカルボキシル基を持つものがある。これらには、全グリコサミノグリカン、ペクチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸があげられる。これらのポリマーとHAをブレンドし、以下に記載する架橋化学を施すと複雑で新次元の、化学修飾によりHAを組み込んだハイドロゲルが得られる。
【0083】
アルギン酸のゲル形成の特性(金属キレート形成による)はHAとブレンドしたときのハイドロゲルの形成を促進した。このようにして、アルギン酸HAゲルはアルギン酸−HA混合物にカルシウムイオンを拡散させて調製された。アルギン酸:HAの比が1:1のゲルは充分な機械的特性を示した。この組成物は生体適合性ポリマーのキャリヤーとして、また滑液中で安定なため関節外科手術に適用される。
【0084】
機械的強度を最適にし、薬剤のデリバリーや生体での安定性に最適な条件を得るために種々のHA含有共重合体が調製されてきた。例えば、ポリL−リジン(PLL)を主鎖としてDNAとの結合部を持ち、細胞特異的リガンドを持つHA鎖を側鎖とした櫛状の高分子両性電解質共重合体が、肝臓の洞様内皮細胞を標的に調製された。HAの還元端とPLLのε−アミノグループを、シアノボロハイドライドナトリウムを用いる還元アミノ化反応により共有結合し櫛状共重合体(PLL−graft HA)を得た。このポリカチオン性のPLL骨格はHA鎖が存在してもポリアニオン性のDNAに選択的に結合した。さらにPLL−graft−HA−DNA複合体は疎水性PLL−DNAがフリーの水和したHAにその外側を取り囲まれた多層構造を形成しているのかもしれない。フリーHA鎖との複合体の形成は、複合体を標的細胞に向わせるのに必須と思われた。
【0085】
上述したように、本発明は、整形、形成外科、脳外科あるいは口腔外科における骨の欠損部を対象として、その欠損部を人工骨として患者に合わせオーダーメード成形する方法に関するものである。
【0086】
工業用にモデル作成や金型作成に用いられている3次元積層造形法において、材料をヒトの骨、軟骨成分を基本成分として用いる。
【0087】
主に水に不溶性成分を粉体層として積層させ、水溶性成分をインクジェットとして積層粉体表面に印刷する。
【0088】
粉体層に水や生体成分と反応して固化する燐酸カルシウム等の無機成分と他の骨成分を用いる。インクジェットの水溶液相には骨由来の可溶性成分を溶解させて、粉体層上に噴射積層して3次元成形すると生体骨に類似の性質と成分を持つ、移植可能な人工骨を成形することができる。
【0089】
なお、本発明をいくつかの好ましい実施例により説明したが、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施例に限定されないことが理解されよう。反対に、本発明の権利範囲は、添付の請求の範囲に含まれるすべての改良、修正及び均等物を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)生体適合性を有しかつ反応で硬化する粉末骨材を平面状の粉末層に形成する粉末層形成ステップと、
b)該粉末層の一部に生体適合性を有する水溶液を噴射し、噴射部分を硬化させる部分硬化ステップと、
c)a)とb)のステップを繰り返して積層し、硬化部分が連結した所望の3次元構造の人工骨を成形する人工骨成形ステップと、
を有することを特徴とする粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項2】
前記粉末骨材は、燐酸カルシウム等の無機成分とその他の骨成分からなり、
前記水溶液は、水と水溶性の生体由来成分生体高分子の混合液もしくは懸濁液である、ことを特徴とする請求項1に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項3】
前記粉末骨材は、燐酸カルシウム等のカルシウム塩、ハイドロオキシアパタイト、人骨、動物骨、アルミナ、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸共重合体、またはこれらの混合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項4】
前記水溶液は、可溶性コラーゲン、プルテオグルカン、リンクプロテイン、酒石酸ナトリウム、PH調整液、骨成長因子、フィブリン、PRP(血小板富加血清)、各種多糖類、アミノ酸ポリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸共重合体、またはこれらの混合物と水の混合液もしくは懸濁液であることを特徴とする請求項1に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項5】
液層で互いに反応して硬化反応を生じる2種以上の混合液を別々の容器に入れて複数のインクジェットノズルから噴射して噴射部分で混合し硬化させる、ことを特徴とする請求項4に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項6】
更に人工骨の高分子成分の架橋反応や重合を高めるための成分は反応や重合を受ける生体材料と別容器に入れて異なるインクジェットノズルから噴射して目的箇所で混合する、ことを特徴とする請求項4に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項7】
前記c)のステップの後に、d)圧力の変化を利用して、前記人工骨の内部に含まれる気体を排出し、反応により硬化部分を更に強化する人工骨強化ステップ、を有することを特徴とする請求項1に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項8】
前記人工骨強化ステップの後、もしくはc)のステップの後に成形した人工骨を直接オートクレーブで高温高圧の水蒸気下、あるいは乾燥高温下で硬化反応の促進を行なう、ことを特徴とする請求項1または7に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項9】
生体高分子を混合して成形した人工骨の生体高分子同士の反応あるいは他の成分との反応あるいは融解を起こさせるために、真空状態もしくは酸素を取り除いた雰囲気下で高温加熱処理する、ことを特徴とする粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項10】
a)対象とする骨を一定の方向に順次移動して、切断断面の2次元データを作成する2次元データ作成ステップと、
b)該2次元データから骨を構成する複数の組織別のラピッドプロトタイピング可能なデータを作成する組織別データ処理ステップと、
c)ラピッドプロトタイピング装置を用いて複数の組織構造からなる人工骨を成形する人工骨成形ステップと、
を有することを特徴とする粉末積層法による人工骨成形方法。
【請求項11】
前記組織別のデータは、海綿骨、骨梁、管腔部、皮質骨から選択された複数のデータからなる、ことを特徴とする請求項10に記載の粉末積層法による人工骨成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/011536
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512498(P2005−512498)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010701
【国際出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(301032160)株式会社ネクスト (3)
【Fターム(参考)】