説明

粉末起泡剤及びその製造方法

【課題】モノグリセリドの結晶状態を起泡性能を有するα型結晶状態に長期間保持することが可能な粉末起泡剤、及びその粉末起泡剤の製造方法を提供する。
【解決手段】A)デキストリンを含む糖類、B)グリセリン脂肪酸モノエステル、及びC)界面活性剤を含有する粉末起泡剤であって、C)界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン及びモノグリセリド以外のグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一種以上であり、A)糖類及びB)グリセリン脂肪酸モノエステルを、C)界面活性剤により水中に分散させてなる水分散液を、乾燥出口温度が75℃以下となる条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して粉末化することにより得られる粉末起泡剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末起泡剤及びその製造方法に関し、より詳細にはグリセリン脂肪酸エステルを含有する粉末起泡剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉・砂糖・卵等の混合物を攪拌して泡立てたものを焼き上げたり油で揚げたりしてスポンジケーキ、ホットケーキ、ドーナツ等のケーキ類を製造する際に、あるいはコロッケ等のフライ食品の衣を調製するにあたってバッター(小麦粉を水でといた生地)を調製する際に、生地の泡立てを促進させるために食品用乳化剤を主成分とする起泡剤が使用されている。この起泡剤は一般的にはペースト状のものが知られているが、ペースト状起泡剤は操作性等の難点があるため、粉末タイプの起泡剤が要望され、種々の提案がなされている。また、小麦粉や砂糖等の粉体原料に直接混合できることや、予め原料が混合されたケーキミックス等のように水を加えて攪拌するだけで簡便にケーキ生地を調製できるプレミックス形態として配合できる利点からも、粉末状の起泡剤の形態が望まれている。
【0003】
一般的に食品用乳化剤を主成分とする起泡剤にはグリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)の起泡性が主として利用されているが、このグリセリン脂肪酸エステルとしては、通常、構成脂肪酸が炭素数16あるいは18であり、飽和脂肪酸が95%以上で構成されたものが適しているとされており、その起泡性能は結晶構造に起因すると考えられている。起泡性を発揮するのはα型結晶とよばれるものであるが、その結晶形態は不安定であり、経日的に起泡性を示さないβ型へと移行することが知られている(非特許文献1,2)。
【0004】
この問題を解決するために、グリセリン脂肪酸エステルに例えば親水性の界面活性剤等(ショ糖エステル)を配合すること(特許文献1)等が提案されているが、未だ充分な効果は得られていない。
【0005】
また、上記粉末起泡剤の製造方法としては、ショ糖脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤と無水結晶マルトース及び水を混合し、粉砕あるいは噴霧乾燥によって粉末を得る方法(特許文献2)や、グリセリン脂肪酸モノエステル、HLB10以上であるショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、デキストリン、及びソルビタン脂肪酸エステル若しくはプロピレングリコール脂肪酸エステルを水に分散・溶解した後、噴霧乾燥する方法(特許文献3)が提案されているが、これらの方法では上記のようなモノグリセリドの結晶状態を起泡性能を有するα型結晶状態に保持するには充分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−240134号公報
【特許文献2】特開平8−242753号公報
【特許文献3】特開2004−329154号公報
【非特許文献1】日高徹著「食品用乳化剤」、幸書房、昭和62年7月25日発行、P21〜24、P81〜82、P172〜186
【非特許文献2】戸田義郎、門田則昭、加藤友治 編著「食品用乳化剤―基礎と応用―」、(株)光琳、平成9年4月1日発行、P24、P109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、モノグリセリドの結晶状態を起泡性能を有するα型結晶状態に長期間保持することが可能な粉末起泡剤、その粉末起泡剤の製造方法、及びその粉末起泡剤を含有する、起泡性の長期持続性に優れた調製紛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の粉末起泡剤は、上記の課題を解決するために、A)デキストリンを含む糖類、B)グリセリン脂肪酸モノエステル、及びC)界面活性剤を含有する粉末起泡剤であって、C)界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン及びモノグリセリド以外のグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一種以上であり、上記A)糖類及びB)グリセリン脂肪酸モノエステルを、上記C)界面活性剤により水中に分散させてなる水分散液を、乾燥出口温度が75℃以下となる条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して粉末化することにより得られるものとする。
【0009】
本発明の調製紛は上記本発明の粉末起泡剤を含有するものとする。
【0010】
また、本発明の粉末起泡剤の製造方法は、A)デキストリンを含む糖類及びB)グリセリン脂肪酸モノエステルを、C)界面活性剤により水中に分散させてなる水分散液を、乾燥出口温度が75℃以下となる条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して粉末化するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉末起泡剤及びこれを用いた調製紛は、モノグリセリドの結晶状態をα型結晶状態に長期間保持することが可能であるため、起泡性能が長期にわたって持続するものとなる。
【0012】
また、本発明の粉末起泡剤の製造方法によれば、上記のように起泡性能が長期にわたって持続する粉末起泡剤が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.糖類
本発明の粉末起泡剤に用いる糖類はデキストリンを含有するものである。デキストリンは、でんぷん(澱粉)を酵素により湿式分解したままの通常のデキストリンに限らず、さらに水素添加を行った還元デキストリン、でんぷんを加熱焙焼して乾式分解した上で精製した難消化性デキストリン、またはシクロデキストリンであってもよく、分岐デキストリンであってもよい。また、本発明の目的に反しない範囲であれば、このデキストリンの一部を、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、マルトース、ソルビトールなどに置き換えることも可能である。
【0014】
これら糖類は本発明の粉末起泡剤100重量部中50重量部〜95重量部含有することが好ましく、60重量部〜90重量部含有することがより好ましい。また、デキストリン以外の糖類を併用する場合は、それらの糖類の含有量は50重量部未満とすることが好ましい。
【0015】
2.グリセリン脂肪酸モノエステル
グリセリン脂肪酸モノエステルを構成するグリセリンとしては、牛脂や綿実油などの天然油脂から得られ蒸留したもの、または未蒸留のもの、或いは合成品を用いることができる。また、構成する脂肪酸としては、炭素数12〜22の飽和または不飽和のものが好適に用いられる。例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸などを用いることができる。デンプンとの複合体形成の点では、炭素数14〜22の飽和脂肪酸が一般には好ましい。
【0016】
グリセリン脂肪酸モノエステルは、Sub−α、α、β’、βの結晶構造を有することが知られており、α結晶構造は他の結晶構造と比較して、配列がルーズなことから起泡性が優れていることが知られている。加熱溶融した後、冷却固化させるとα結晶となり、室温で放置すると、順次、β’からβへと変化し、融点が上昇する。本発明で使用するグリセリン脂肪酸モノエステルはα結晶構造を有するものとする。グリセリン脂肪酸モノエステルの結晶構造はX線結晶解析等の機器分析により直接的に確認することができるが、起泡性を比較することで、結晶構造がα型結晶構造あるいは非晶質であること、少なくともβ型結晶構造でないことを間接的に確認することもできる(非特許文献1,2)。
【0017】
本発明において、グリセリン脂肪酸モノエステルは粉末起泡剤100重量部中、1重量部〜20重量部含有することが好ましく、2重量部〜10重量部含有することがより好ましい。
【0018】
3.界面活性剤
本発明の粉末起泡剤に使用する界面活性剤は、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン及びモノグリセリド以外のグリセリン脂肪酸エステルから選択される1種又は2種以上の、食品用として使用可能な界面活性剤である。
【0019】
本発明に使用するショ糖脂肪酸エステルは特に限定されないが、HLBが10〜16であって構成する脂肪酸が炭素数12〜22であることが好ましく、具体例としてはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルの含有量も特に限定されないが、粉末起泡剤100重量部中5重量部〜30重量部含有することが好ましく、10重量部〜25重量部含有することがより好ましい。
【0020】
次に、本発明で用いるプロピレングリコール脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数12〜22の飽和または不飽和のものであるのが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルには、一般にモノエステル型からトリエステル型まであるが、モノエステル型のものが好適である。一方、プロピレングリコール脂肪酸エステルの場合、モノエステル型の方が好適であるが、ジエステル型であってもよい。
【0021】
本発明におけるソルビタン脂肪酸エステルの含有量は特に限定はされないが、粉末起泡剤100重量部中0.2重量部〜15重量部であることが好ましく、0.5重量部〜10重量部含有することがより好ましい。また、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量も特に限定はされないが、粉末起泡剤100重量部中0.2重量部〜15重量部含有することが好ましく、0.5重量部〜10重量部含有することがより好ましい。
【0022】
また、本発明で用いるレシチンは卵黄や大豆等から抽出されるリン脂質であり、市販品では高度に精製され純度の高い粉末レシチンからペーストタイプのクルード品まで種々のものがあるが、その形態は問わない。また、酵素で処理した酵素分解レシチン・酵素処理レシチンを使用してもよい。レシチンの含有量は特に限定はされないが、粉末起泡剤100重量部中0.2重量部〜15重量部含有することが好ましく、0.5重量部〜10重量部含有することがより好ましい。
【0023】
さらに、本発明で用いるグリセリン脂肪酸モノエステル以外のグリセリン脂肪酸エステルは特に限定されないが、好ましい例としては、短鎖カルボン酸等のエステルを含む「グリセリン脂肪酸・有機酸モノエステル」が挙げられ、例えば、クエン酸、コハク酸、酢酸、ジアセチル酒石酸、乳酸などの非長鎖カルボン酸を含むものであってもよい。また、ポリグリセリンの脂肪酸モノエステルであってもよい。
【0024】
4.粉末起泡剤の製造方法
(1)水分散液の調製
本発明の粉末起泡剤の製造方法の第1工程においては、上記A)糖類、B)グリセリン脂肪酸モノエステル(モノグリセリド)、C)界面活性剤及び水を混合して、これらの水分散液(乳化物)を調製する。
【0025】
具体的には、A)糖類、B)モノグリセリド、及びC)界面活性剤の総量(固形分)100重量部に対し水100重量部〜900重量部を添加し、安定な分散液(乳化物)が得られるまで撹拌・混合することにより得られる。撹拌はホモミキサー(ディスパー翼)等の通常の撹拌手段により行うことができる。
【0026】
(2)水分散液の粉末化
製造方法の第2工程として、上記により得られた水分散液を粉末化する。粉末化のための手段としては、スプレードライヤーにて噴霧乾燥し、噴霧乾燥条件として排気温度(乾燥出口温度)75℃以下、好ましくは50℃以上75℃以下、より好ましくは60℃以上70℃以下とする。このように排気温度を配合されている乳化剤の融点以下とすることで、乾燥と同時に瞬時に固化し、異なる種類の乳化剤がランダムに保持されるためにモノグリセリドのα状態が維持されると考えられる。一方で、75℃を超える排気温度で乾燥された場合は、水分が蒸発し乾燥はされるが、配合されている乳化剤が溶融状態にあるために同種の乳化剤同士が集まり偏在化し、その後冷却されて温度が低い状態に保たれたときに、配合されているモノグリセリドがβ型へと転移しやすくなるため、あるいは溶融状態にあるモノグリセリドが冷却されたときに安定なβ型が形成されるために起泡性が低下すると考えられる。
【0027】
4.粉末起泡剤の用途
本発明の粉末起泡剤は、スポンジケーキ、バターケーキ、カステラ、ホットケーキ、ドーナツ等のケーキ用生地、あるいはコロッケ、メンチカツ、フライ用の衣を調製する際の生地を調製する際の起泡剤、及びケーキ用プレミックス、バッター用プレミックスに予め配合される起泡剤として使用することができる。
【0028】
後者の場合は、小麦粉、調味料等からなる調製紛に、本発明の粉末起泡剤を適量添加、粉体混合して調製紛とすることができる。
【0029】
粉末起泡剤の使用量は、その使用目的にもよるが、通常は生地原料等の使用対象(添加水以外の原料)100重量部に対して、1〜15重量部の範囲である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において特記しない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表すものとする。
【0031】
《乳化物の調製》
表1に調製例1〜5として記載の配合割合で配合し、各調製例毎に固形分35%となるように所定量の水に添加し、75℃にて加温溶解したところ、調製例1〜4は均一な乳化物が得られので、圧力ホモジナイザーにより均質化した。調製例5は均一な乳化物を調製できなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
《粉末起泡剤の製造》
実施例1〜5及び比較例1,2として、上記表1に示した調製例1〜4の乳化物に対し、下記表2に示すスプレードライヤーの運転条件1〜4を表3に示す組み合わせでそれぞれ適用し、乳化物の噴霧乾燥を行うことにより、粉末起泡剤を得た。得られた各粉末起泡剤につき、以下の方法で起泡力の持続性を調べた。
【0034】
《ケーキ生地の調整と評価》
薄力粉(製品名:バイオレット、日清製粉社製)100g、実施例1〜5、比較例1,2の粉末起泡剤15gを粉体混合してケーキ用プレミックスを調整した。そして、ポリエチレン袋中に密封して、60日間室温にて放置した。
【0035】
次に、開封して取り出したケーキ用プレミックスに、全卵100g、砂糖95g、水40gを入れ、粉立ちがなくなるまで軽く攪拌混合した。その後、ホバートミキサー(高速)で所定時間混合した。
【0036】
上記により調製した生地180gを容器(丸型4号焼き型、φ12cm)に入れ、180℃のオーブンで40分焼成した。
【0037】
起泡力の評価として、以下の方法でバッター比重とケーキ比容積を求めた。
【0038】
《バッター比重測定法》
容積が既知のプリンカップに上記ケーキ生地をすり切り入れ、内容重量を測定した。内容重量を容積で除することで比重(g/ml)を求めた。
【0039】
《ケーキ比容積測定法》
次のナタネ法によりケーキ容積を求め、ケーキ重量で乗じることにより比容積(ml/g)を求めた。
【0040】
ナタネ法:(1)所定容器にポリスチレンビーズを充填し、その体積をメスシリンダーにて測定する。(2)次に焼成したケーキを前記容器に入れ、残った空間にポリスチレンビーズを充填し、充填したポリスチレンビーズの体積を同様にメスシリンダーにて測定する。先のポリスチレンビーズのみの体積(1)から(2)の充填したポリスチレンビーズの体積体積を差し引くことで、ケーキの体積を求める。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の起泡剤は、スポンジケーキ、バターケーキ、カステラ、ホットケーキ、ドーナツ等のケーキ用生地、あるいはコロッケ、メンチカツ、フライ用の衣を調製する際の生地を調製する際の起泡剤、及びケーキ用プレミックス、バッター用プレミックスに予め配合される起泡剤として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)デキストリンを含む糖類、B)グリセリン脂肪酸モノエステル、及びC)界面活性剤を含有する粉末起泡剤であって、
前記C)界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン及びモノグリセリド以外のグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される一種以上であり、
前記A)糖類及びB)グリセリン脂肪酸モノエステルを、前記C)界面活性剤により水中に分散させてなる水分散液を、乾燥出口温度が75℃以下となる条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して粉末化することにより得られる
ことを特徴とする粉末起泡剤。
【請求項2】
請求項1に記載の粉末起泡剤を含有することを特徴とする調整粉。
【請求項3】
A)デキストリンを含む糖類及びB)グリセリン脂肪酸モノエステルを、C)界面活性剤により水中に分散させてなる水分散液を、乾燥出口温度が75℃以下となる条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して粉末化することを特徴とする粉末起泡剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−142838(P2011−142838A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4816(P2010−4816)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】