説明

粒子、粒子を用いたセンサ及び多孔質構造ユニットの製造方法

【課題】被固定化物質の単位体積当たりの固定化量の大きな粒子及びその製造方法並びにこの粒子を用いたセンサを提供する。
【解決手段】本発明による粒子は、生体物質を保持したメソ孔を有する粒子であって、当該粒子の平均粒径は、該メソ孔の平均孔径の10倍以内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ孔の中に生体物質を保持した粒子に関する。特に、この粒子を用いて、特定の生体物質を選択的に検出することにより、癌等の疾病診断のためのセンサなどに応用が可能である。
【背景技術】
【0002】
不溶性の担体に生体材料、特に生体分子を固定化する技術は、バイオプロダクションのための生体触媒、生体物質の検出デバイス等に応用が可能であることから、現在技術開発が盛んである。特に、高度な分子認識反応に基づく抗原−抗体反応を細胞外において行う技術は、疾病等の診断にとって非常に重要な技術である。しかし、タンパク質は、その立体構造が機能の発現に直接関連していることが多く、特に細胞内タンパク質は、細胞外では立体構造の変化が起こり易い。その結果、生体内で発現されていた機能が失われてしまうことが多い。このことは、タンパク質を用いたデバイスの開発には大きな課題であり、タンパク質の活性を保持したまま、ひいては立体構造を保持したままで、安定に担体上に固定化する技術は、非常に重要である。
【0003】
タンパク質を固定する技術の一つとして、多孔質の材料の微細な空間を利用する技術がある。この技術には、例えば、ゾル−ゲル法で作製される無機材料、メソポーラスシリカ、多孔質有機高分子、多孔質シリコン、多孔質ガラス等を使用するものが挙げられる。さらに、メソポーラスシリカに関して、特許文献1は、抗体を担持する技術を開示し、特許文献2は、酵素を固定化する技術を開示する。
【0004】
一方、非特許文献1は、非イオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤とを組み合わせることによって、粒径が比較的揃っていて、且つ非常に粒径が小さい、メソポーラスシリカ微粒子を合成する技術を開示する。
【0005】
しかしながら、これらの先行技術では、次のようないくつかの改善点があった。
【0006】
すなわち、多孔質有機高分子は機械的強度が十分ではないことがある。また、多孔質シリコンの場合には、不透明であり、生体分子の固定化を光学的に確認するのが困難である。
【0007】
この点で、メソポーラスシリカは優れたホスト材料となり得るが、この場合、細孔径とその配置に課題が残る。まず、細孔径に関しては、生体材料のサイズに比較してメソポーラスシリカの細孔径は小さすぎる場合が多い。細孔の配置に関しては、チューブ状の細孔の場合には、細孔の開口部が露出している断面が少なく、生体物質の固定化量をふやすことが難しい。また、キュービック構造等の三次元細孔の場合には、球状メソ孔間を連結するウィンドウのサイズが小さく、物質の径によっては、メソ孔の内部にまで拡散していくのに不利である。
【0008】
このため、強度、安定性、透明性を兼ね備え、例えば生体物質などの被固定化物質の単位体積当たりの固定化量の大きな多孔質材料が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−83501号公報
【特許文献2】特開2000−139459号公報
【非特許文献1】Suzukiら、”Synthesis of Silica Nanoparticles having a well−ordered mesostructure using a double surfactant system”、Journal of the American Chemical Society(米国)、2004年、第126巻、p.462〜463
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであって、被固定化物質の単位体積当たりの固定化量の大きな粒子及びその製造方法並びにこの粒子を用いたセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による粒子は、生体物質を保持したメソ孔を有する粒子であって、当該粒子の平均粒径は、該メソ孔の平均孔径の10倍以内であることを特徴とする。
【0011】
本発明によるセンサは、検出物質を検出するためのセンサであって、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の粒子と、該検出物質と、前記生体物質との間の結合を検出するための検出部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明による粒子の製造方法は、陽イオン性界面活性剤と、非イオン界面活性剤と、ミセルを膨張させる疎水性物質とを含む液を調製する工程と、該液中にシリカ源を添加して、該陽イオン性界面活性剤と、該非イオン界面活性剤と、該疎水性物質とを含むシリカメソ構造体を形成する工程と、該陽イオン性界面活性剤と、該非イオン界面活性剤と、該疎水性物質とを除去して、該シリカメソ構造体にメソ孔を形成させる工程と、該中空構造に、生体物質を付着させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、単位体積当たりの開口面積が大きくなり、これにより、被固定化物質の単位体積当たりの固定化量が大きな粒子の提供が可能となり、癌等の疾病診断に応用可能な感度が向上したセンサを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の材料を模式的に示した図である。
【0016】
先ず、本発明に用いられる多孔質材料に関して説明する。本発明において、この多孔質材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化スズなどが考えられる。以下、シリカを多孔質材料として用いた場合を例示する。本発明の一実施形態に用いられる多孔質シリカ粒子11は、界面活性剤の集合体を鋳型にして作製される、メソポーラスシリカの粒子であり、実質的に均一な径の細孔12を有する。図1は、チューブ状細孔がハニカムパックしたような構造の多孔体が描かれているが、細孔の構造は、この構造に限定されるわけではない。例えば、この多孔体は、球状細孔が三次元的に細密充填された構造のもの、ダブルジャイロイド構造の細孔構造を有するもの等種々の細孔構造を有する多孔体が適用可能である。
【0017】
使用するメソポーラスシリカの細孔径に関しては、特に限定はないが、細孔中に固定化する生体物質などの被固定化物質の大きさよりも小さい場合には、細孔中に導入することが難しい。このため、用いる生体物質に対して最適な値となるように細孔径を調整する必要がある。陽イオン(カチオン)性界面活性剤を用いて作製されるメソポーラスシリカの細孔径は、一般に約2〜3nm程度であり、この範囲は、被固定化物質とする生体物質の多くの寸法よりも小さい。このような場合、反応溶液に、ミセルを膨潤させる作用のある添加剤を加え、細孔径を増大させることが必要である。ミセルを膨潤させる作用のある物質としては、トリメチルベンゼン、デカン、直鎖アミン類が報告されている。言うまでもなく、ミセルを膨潤させる作用があるものであれば、どのようなものでも使用することができる。なお、本発明に用いるメソポーラスシリカ中の細孔径分布の評価には、一般に窒素等のガスの等温吸着線を測定する方法を用いることができる。得られた等温吸着線から、Berret−Joyner−Halenda(BJH)等の解析法等によって計算される。
【0018】
本発明の一次粒子の形状としては、図1では六角板状で描かれているが、本発明の材料に対しては、一次粒子の形状そのものは大きな意味を有しておらず、どのような形状のものでも使用可能である。例示すると、球状、キューブ状等の形状のものがある。
【0019】
本発明では、細孔の中に生体物質などの被固定化物質を固定化し、その物質と選択的な結合を形成する生体材料を検出する。この場合、検出対象の生体材料は、その量が微量であることが多いため、高感度検出するためには、多孔質シリカ上に高密度に生体物質を固定化する必要がある。このため、担体となる多孔質シリカの比表面積が問題になるわけであるが、本発明のように固定化する生体物質のサイズが大きい場合には、細孔中での拡散が問題になるため、細孔のアスペクト比や、粒子の体積に対する開口面積の割合が問題となる。本発明においては、細孔径に対して10倍以内の微細な粒径の多孔質粒子の場合に良好な結果が得られている。なお、本発明において、「生体物質」とは、抗体や抗原の他、種々の蛋白質及び遺伝子並びにこれらを組み合わせた人工の物質を包含するものをいう。具体的には、抗体、種々の抗体フラグメント、DNA、RNA、蛋白質、酵素などである。また、生体物質は、一重鎖若しくは二重鎖のDNA若しくはRNA、Fab抗体などの活性部位を含む断片なども包含する。DNA断片は、動植物や微生物から抽出し、所望の形状/長さに切断したものでもよく、また、これらを遺伝子工学的又は化学的に合成/改変したものであってもよい。
【0020】
ここで、メソポーラスシリカの粒径を制御する技術について説明する。この方法は、非特許文献1に記載の方法を用いることができる。この方法は、カチオン性界面活性剤と、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤とを混合して使用することを特徴とする。カチオン性界面活性剤は、シリカメソ構造体中においてミセルを形成しメソポーラスシリカの細孔の鋳型として機能する。一方、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤は、形成されたシリカメソ構造体粒子の成長を抑制する働きがあると考えられている。カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。非イオン性ブロックポリマー界面活性剤としては、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドトリブロックポリマー界面活性剤等が好ましく挙げられる。但し、上述のカチオン性及び/又は非イオン性の界面活性剤は、これらに限定されるわけではなく、本発明の目的を達成できる限りにおいて、どのようなものを用いてもかまわない。
【0021】
本発明において用いられるメソポーラスシリカ粒子は、基本的にこの手法を用いて作製される。しかし、先述したように、カチオン性界面活性剤が形成する細孔は、生体物質などの被固定化物質の固定化に小さすぎるため、トリメチルベンゼンのようなミセルを膨潤させる働きのある物質を添加する。これにより、細孔径の大きな微粒子メソポーラスシリカを作製することができる。細孔径はまた、形成された粒子を高温においてエージング処理することで大きくすることが可能である。
【0022】
本発明において、粒径の小さな一次粒子を使用する利点はもう一つある。図1のように微小粒子が凝集する場合、粒子と粒子の間に隙間13が生じる。本発明で用いられるサイズの一次粒子の場合には、その粒子間に形成される隙間13は、50nm未満の微細な空間となる。生体物質をメソ細孔内に固定化する場合、生体物質などの被固定化物質は、この空間を拡散し、メソ細孔に到達し、固定化される。また、このサイズの細孔は、後述するように被固定化物質として抗体又は抗原を用い検出対象の生体材料として抗原を含む材料を用いた抗原−抗体反応等において、検出対象の生体材料を安定化する役割をも果たす。その結果、検出対象を高感度に検出することに寄与することになる。
【0023】
次に、メソポーラスシリカに生体物質などの被固定化物質を固定化する工程について説明する。
【0024】
細孔に固定化するものは生体物質などの被固定化物質であって、検出対象の生体材料と選択的な結合を形成するものを用いる。固定化する生体物質などの被固定化物質に特に限定はないが、抗体又は抗体断片を固定化し、特定の抗原(生体材料)を検出するのに用いてもよい。また、逆に、抗原又は抗原断片を固定化し、特定の抗体(生体材料)を検出するのに用いてもよい。さらに、抗原/抗体に限らず、ビオチン−アビジン結合や、特定の遺伝子配列に相補的な遺伝子(プローブ)のように、特定の分子種間で特異的に結合を形成し得る物質を被固定化物質及び/又は検出対象としてもよい。
【0025】
細孔に生体物質14などの被固定化物質を固定化するには、いくつかの方法がある。メソポーラスシリカに対して特に何も処理をしなくても、目的とする生体物質を含む溶液に接触させるだけで細孔内に生体物質が取り込まれ、固定化される場合がある(図1(A))。また、多孔質シリカの表面をシランカップリング剤等で修飾し、特定の官能基Rを細孔内に形成することによって固定化率、安定性を向上させる場合もある(図1(B))。本発明において、細孔への生体物質の固定化の方法は、特に限定されない。
【0026】
但し、固定化するものが、生体物質(抗体又は抗体断片)15のように、検出対象の生体材料と選択的に結合する部位が限定される場合には、細孔中での生体物質の固定化される方向が問題となる。この場合には、細孔内に固定化するもの(生体物質)を固定するための足場に相当するような物質16を予め導入しておくことが好ましい。例えば、細孔中に金属の金を導入しておき、一端に金属の金との親和性部位を有する人工抗体と接触させることにより、方向性を制御して細孔内に担持することが可能である(図1(C))。
【0027】
次に、本発明の材料を用いた生体物質のセンシングについて図3を用いて説明する。
【0028】
はじめに、アビジン−ビオチンの認識反応を行う場合を例にとって説明する。上述の微粒子メソポーラスシリカの細孔表面を修飾した後、化学結合によって細孔表面にビオチンを固定したサイトを形成する。次に、この処理を施したメソポーラスシリカ微粒子を、細孔径0.02μmの微細な孔を有するポリエチレンフィルター22を出口に設けた容器21に移す。ここで、蛍光プローブとして機能する蛍光色素を結合させたストレプトアビジンの希薄溶液を容器21に導入する。しかるべき接触時間の後、緩衝溶液を用いて、過剰のストレプトアビジンを濾過除去し、メソポーラスシリカ微粒子とそれに結合した物質のみがフィルター上に残るようにする。このフィルターを蛍光顕微鏡にて観察して蛍光を確認すれば、ビオチンを固定したメソポーラスシリカ粒子を用いてストレプトアビジンの検出が達成されたことになる。
【0029】
次に抗原−抗体反応を行う場合について説明する。
【0030】
この場合の構成も、基本的には、上述のビオチン−アビジン反応と同じ構成で検出が可能である。最初に上述のメソポーラスシリカの細孔表面に、抗体又は抗体断片を固定化する。具体的には、この粒子を上記細孔径0.02μmの微細な孔を有するポリエチレンフィルター22を出口に設けた容器21に移し、抗体(生体物質)を微小量含んだ溶液を容器21に導入する。しかるべき接触時間の後、緩衝溶液を用いて、過剰の抗体を濾過除去する。次に、予め蛍光マーカーを結合させた抗原(生体材料)を、容器21に導入し、しかるべき時間接触させた後、緩衝溶液で再び洗浄し、過剰の抗原を濾過除去する。この操作によって、フィルター上には、メソポーラスシリカ粒子と、それに結合した物質のみが残存することになる。このフィルターを蛍光顕微鏡にて観察し、蛍光を確認すれば、特定の抗原−抗体反応がメソポーラスシリカ粒子上で確認できたことになる。
【0031】
抗体を固定化する場合には、細孔の開口部に対する抗体の固定化の方向が問題となる。従って、このような場合には、最初に多孔質体上に、抗体が結合するための足掛かりとして機能する材料を形成しておき、その材料に対して抗体を結合させると、なお好ましい結果が得られる。
【0032】
本発明は、以上述べたような機能を有する反応場を含む反応系と、最終的に被検出物質の存在を検出するための検出系とを有する、生体検出手段(バイオセンシングデバイス)を包含する。この場合、反応系は、上述の一連の操作が可能なシステムであればどのようなものでもよく、また、検出系は、目的とする生体材料を微量で検出し得るものであればどのような手段でもよく、蛍光の測定に限定されるものではない。
【0033】
以上説明した本発明の要旨は、細孔径に対して10倍以内の微細な粒径の多孔質粒子を用いて、比較的サイズの大きな生体物質を固定化が可能になる。これにより単位体積当たりの固定化量を大きくすることができ、結果として、生体物質の選択的反応を高感度に検出し得るバイオセンシング素子を作製したというものである。
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
本実施例は、カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムクロリドを、非イオン性界面活性剤としてPluronic F127 トリブロックコポリマー(BASF社)を、ミセルを膨潤させる物質としてトリメチルベンゼンを、それぞれ用いる。そして、作製したメソポーラスシリカ粒子に、ビオチンを結合し、ストレプトアビジンを、蛍光測定により高感度検出する例である。
【0036】
セチルトリメチルアンモニウムクロリド26.0gとF127 20.0gとを、予めpH=0.5に調整した塩酸300gに溶解し、さらにN,N,−ジメチルヘキサデシルアミン11.0gを添加し4時間攪拌した。これにシリカ源であるテトラエトキシシランを35.0g添加し、室温において24時間攪拌した。これに、15Mの濃アンモニア水を30.0g添加し、さらに24時間攪拌した。これを室温真空下において24時間乾燥させた後540℃で10時間焼成し、界面活性剤を除去した。このようにして、メソポーラスシリカ粒子を得た。
【0037】
焼成後の試料を、BETガス吸着装置を用いて評価した。その結果、上述のメソポーラスシリカ粒子は、平均細孔径分布5.5nmであり、比表面積1100m/gであった。この試料を透過型電子顕微鏡により観察することにより、この粉末の平均粒径は、50nmの均一粒径を有することが判明した。
【0038】
次に焼成後の粒子を、アミノプロピルトリエトキシシランで処理し、表面にアミノ基を結合させた。これに続き、粒子を、ビオチン−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステルの15mMのDMF溶液に分散させ、10分間超音波処理した。この粒子を分離後、DMF、超純水の順でよく洗浄し、室温真空下で乾燥させた。
【0039】
この粒子10mgを内径3mmの、図2に示したような、出口に0.02μmの細孔径のフィルター22が設けられた容器21に移し、そこに、Cy5で標識したストレプトアビジンの2.5μM溶液を導入した。このとき、溶媒として、0.01M Phosphate buffered salineを用いた。
【0040】
この溶液を導入して15分室温で放置した後、過剰なストレプトアビジンをフィルターで濾過除去し、さらに、0.01M Phosphate buffered salineで良く洗浄した。
【0041】
最後に、これらの処理を終えた粉末は、蛍光顕微鏡で観察し、明瞭な蛍光を確認した。これらのことより、本発明の粒子を用いて、ビオチン−アビジンの選択反応を用いて、溶液中のストレプトアビジンを高感度検出することができることが明らかである。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同じ試薬を使用し、同じ条件で、メソポーラスシリカ微粒子を作製した。
【0043】
このメソポーラスシリカ微粒子を、N−トリメトキシプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド溶液で処理し、エタノールで十分に洗浄した。
【0044】
これを乾燥させた後、テトラクロロ金(III)酸飽和水溶液に浸漬し、分離、洗浄し、水素ガス雰囲気下で、200℃で加熱した。これを、透過型電子顕微鏡で観察したところ、細孔中に、上述のテトラクロロ金(III)酸飽和水溶液に由来する金が形成されていることを確認した。
【0045】
続いて、金属の金を担持した、このメソポーラスシリカ粒子を、金親和性の部位を有する人工抗体のバッファー溶液に接触させ、人工抗体を金上に固定化した。この人工抗体は、図3に模式的に示したように、金を選択的に認識する部位32と、卵白リゾチーム(HEL)を認識する部位31とより構成され、それらが、Single−chain Fvで連結された構造になっていた。それぞれの認識部位は、HEL抗体の可変領域ドメインと、金を認識する抗体の可変領域ドメインであった。
【0046】
金と強い親和性を有する抗体は、ファージディスプレイ法を用いたスクリーニングによって選別した。本実施例で用いる人工抗体は、金に対して強い親和性を有するこの抗体と抗HEL抗体とから、遺伝子工学的に作製された。
【0047】
上記、金属の金を担持させたメソポーラスシリカ粒子10mgを、図2に示したような、内径3mmで、出口に0.02μmの細孔径のフィルター22を設けた容器21に移した。そこにこの人工抗体の0.01M Phosphate buffered saline溶液1mLを導入すると、人工抗体は金認識部位32で金微粒子に結合し、HEL認識部位31が細孔の開口部を向くことになった。この状態で、室温において1時間保持した後、0.01M Phosphate buffered saline溶液を流し、過剰な人工抗体を濾過除去した。
【0048】
この、金属の金と人工抗体とを担持した、上記メソポーラスシリカに対して、1μMのHEL溶液を導入し、さらにHELを結合させた。
【0049】
さらに、これに対して、1μMの抗HEL抗体の0.01M Phosphate buffered saline溶液を導入し、1時間保持した後、0.01M Phosphate buffered salineで良く洗浄した。
【0050】
この後、さらに10μMの、標識としてローダミンが結合した抗IgG抗体の0.01M Phosphate buffered saline溶液を導入した。そして再び1時間保持した後に、0.01M Phosphate buffered salineで良く洗浄した。
【0051】
この操作を終えた後にフィルター上に残った粉末を乾燥させた後に、蛍光顕微鏡で観察すると、ローダミンからの蛍光が確認された。これにより、本発明のメソポーラスシリカを反応担体に用いて、抗原−抗体反応を高感度にモニターすることができる。
【0052】
(実施例3)
本実施例は、蛍光検出手段と試料の前処理手段とを備えた生体検出手段(バイオセンシングデバイス)を用いて実施例1と同じビオチン−アビジン反応を検出したものである。
【0053】
本発明の生体検出手段は大きく分けて、反応部と検出部とを有する。
【0054】
まず、反応部は、図4に示した容器21を保持し、かつ排気口46を通して真空ポンプ47に接続された真空容器45を有する。フィルター22上に保持されたメソポーラスシリカ粉末には、緩衝溶液の容器41、生体物質を含む溶液の容器42、生体材料を含む溶液の容器43から、チューブを通して溶液が導入されるようになっている。チューブには、各種溶液の導入量を制御するためのバルブ44を設けた。真空容器45内を減圧にすることによって、フィルター22上に溜まった溶液をフィルター22によって濾過し、真空容器45内に溜めた後、排気口48から廃液容器49に排出した。
【0055】
実施例1で作製した、アミノプロピルトリエトキシシランで処理した後にビオチン−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステルで処理し、洗浄、乾燥した粉末をフィルター22上に載せた。
【0056】
容器43にCy5で標識したストレプトアビジンの2.5μM溶液を入れ、バルブを開けてフィルター上に導入した。フィルターは、非常に径の小さい細孔を有するので、容器内を減圧にしない限り、溶液はフィルター上に保持された。実施例1と同様に、15分間保持した後、真空ポンプを作動させ、容器内を減圧にし、過剰のストレプトアビジン溶液を濾過により除去した。この後、真空容器内を減圧にしたままで、容器41から緩衝液を導入し、十分な洗浄を行った。洗浄を行った後、真空ポンプを停止し、容器内を常圧に戻した後に、容器21を取り出し、メソポーラスシリカの付着したフィルター22を外した。
【0057】
下述の検出部において、入射光ユニットで選ばれた波長の励起光を、上述の反応部での処理を終えたフィルターに照射し、検出系において蛍光スペクトルを記録した。微弱な光を検出するために、検出系は、光をさえぎる構造になっており、また、場合によっては、検出器を冷却する等の手段を別途設けることもあった。
【0058】
なお、図5は、上述の検出部を模式的に示した図である。検出部は、通常の蛍光測定装置と基本的に構成は同様である。即ち、光源と分光器とを含んで構成される入射光用ユニット51、上記メソポーラスシリカ微粒子のついたフィルターを固定する冶具52、分光器と検出器とを含み構成される検出ユニット54を有する。さらに、フィルターに光を導き、さらに検出部に光を導くミラー等より構成される光学ユニット53とで構成される。
【0059】
この装置を用いて実施例1の反応を行った結果、明瞭な蛍光スペクトルが観測され、良好にビオチン−アビジンの選択的結合反応をモニターすることができた。
【0060】
(実施例4)
本実施例は、実施例3と基本的に同様の構成の生体検出手段(バイオセンシングデバイス)を用いて実施例2と同じビオチン−アビジン反応を検出したものである。
【0061】
実施例2で作製した、金属の金を担持したメソポーラスシリカ微粒子を図4の装置のフィルター22上に載せた。
【0062】
実施例2で説明した、金親和性部位とHEL親和性部位とを有する人工抗体のバッファー溶液を容器42に入れ、バルブを開けてフィルター上に導入した。フィルターは、非常に径の小さい細孔を有するので、容器内を減圧にしない限り、溶液はフィルター上に保持された。この状態で15分間保持した後、真空ポンプを作動させ、容器内を減圧にし、過剰の人工抗体を濾過により除去した。その後、真空容器内を減圧にしたままで、容器41から緩衝液を導入し、十分な洗浄を行った。
【0063】
洗浄を行った後、真空ポンプを停止し、容器内を常圧に戻した後に、容器42に入れた1μMの抗HEL溶液をフィルター上に導入し、1時間保持した。そして真空ポンプを再び作動させ、過剰なHELを容器41からの緩衝液で十分に洗浄した。
【0064】
真空ポンプを停止した後、容器42に1μM抗HEL抗体/0.01M Phosphate buffered saline溶液を入れ、バルブを開けてフィルター22上に導入し、1時間保持する。この後、再び真空ポンプを作動させ0.01M Phosphate buffered salineでよく洗浄した。
【0065】
最後に標識としてローダミンが結合した抗IgG抗体の0.01M Phosphate buffered saline溶液(10μM)を容器43に入れ、これをフィルター22上に導入し、再び1時間保持した。その後、0.01M Phosphate buffered salineでよく洗浄した。
【0066】
洗浄を行った後、真空ポンプを停止し、容器内を常圧に戻した後に、容器21を取り出し、メソポーラスシリカの付着したフィルター22を外した。
【0067】
このフィルターを、実施例3と同じ構成の検出部の試料固定ホルダーに固定し、蛍光スペクトルを測定し、ローダミン由来の蛍光スペクトルを確認した。
【0068】
以上述べたように、溶液を入れる容器の数が実施例3とは異なるものの、同じ装置を用いて実施例2の反応を行った結果、良好に目的の抗原−抗体反応をモニターすることができ、抗原を検出することができる。
【0069】
本発明は上記のとおりの効果を有するものであり、生体触媒や生体物質の検出デバイス等に広く応用できることが見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の生体物質選択的反応用の反応場を構成するメソポーラスシリカに関する模式図である。
【図2】本発明において、メソポーラスシリカを保持し、生体物質の反応をインビトロで行うための反応容器の模式図である。
【図3】本発明の実施例2で作製する、人工抗体を模式的に示した図である。
【図4】本発明の実施例3で用いられる、バイオセンシングデバイスの、反応部の模式図である。
【図5】本発明の実施例3で用いられる、バイオセンシングデバイスの、検出部の模式図である。
【符号の説明】
【0071】
11 多孔質シリカ粒子
12 細孔
13 隙間
14 生体物質
15 生体物質
16 物質
21 容器
22 ポリエチレンフィルター
31 部位
32 部位
41 容器
42 容器
43 容器
44 バルブ
45 真空容器
46 排気口
47 真空ポンプ
48 排気口
49 廃液容器
51 入射光用ユニット
52 冶具
53 光学ユニット
54 検出ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を保持したメソ孔を有する粒子であって、
当該粒子の平均粒径は、該メソ孔の平均孔径の10倍以内であることを特徴とする粒子。
【請求項2】
当該粒子は、シリカで構成されている、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記生体物質は、特定の生体材料と結合を形成する生体物質である、請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
前記結合は、抗原抗体反応により形成する結合である、請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
前記生体物質を前記メソ孔中に固定する材料をさらに有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
検出物質を検出するためのセンサであって、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の粒子と、
該検出物質と、前記生体物質との間の結合を検出するための検出部と、
を備えたことを特徴とするセンサ。
【請求項7】
陽イオン性界面活性剤と、非イオン界面活性剤と、ミセルを膨張させる疎水性物質とを含む液を調製する工程と、
該液中にシリカ源を添加して、該陽イオン性界面活性剤と、該非イオン界面活性剤と、該疎水性物質とを含むシリカメソ構造体を形成する工程と、
該陽イオン性界面活性剤と、該非イオン界面活性剤と、該疎水性物質とを除去して、該シリカメソ構造体にメソ孔を形成させる工程と、
該中空構造に、生体物質を付着させる工程とを含むことを特徴とする多孔質構造ユニットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−189426(P2006−189426A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354887(P2005−354887)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】