説明

粒子の捕獲

マイクロチャネルを通って流れる流体中に浮遊した粒子を捕獲する方法およびシステムは、溝を通して流体を流すことにより流体に微小渦が形成されるように、捕獲すべき粒子を含む流体を、マイクロチャネルを通り、マイクロチャネルの壁の表面に規定された溝を通して流すステップと、流体中に微小渦を形成した後、マイクロチャネルの壁のうち1つ以上の上に配された接着物質に対して粒子のうちの少なくともいくつかを接触させるステップと、接着物質に接触する粒子のうち少なくともいくつかを捕獲するステップとを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2008年9月26日に出願され、「粒子を集め、誘導し、選別するための微小渦」と題された米国特許出願第61/100,420号の優先権を主張しており、その内容全体が引用によりこの明細書中に援用される。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体装置は、マイクロ総合分析システム(μTAS:micro total analysis systems)またはラボオンチップ(LOC:lab-on-a-chip)システムに応用される。というのも、このような装置は、少量のサンプルを分析する能力を提供し、低いコストで高度に並列なシステムに発展させることができるからである。特に、このようなシステムは、粒子操作を用いて、たとえば細胞およびコロイドなどの粒子サンプルを濃縮し、検出し、選別し、集束させる動作が実行される生物学的適用および臨床適用で用いることができる。流体力学的な集束、粒度濾過および沈降などの技術によってマイクロ流体装置を通って流れる粒子の受動的操作は、光学力、磁気、動電学、誘電泳動、音響特性などの外部エネルギーを用いた能動的操作に比べて、比較的単純である。受動的操作は外部のエネルギー源に依存しないが、装置におけるマイクロチャネルの幾何学的形状や、このようなチャネルを通って形成される流動状態を用いて実現することができる。対照的に、能動的操作では外部のエネルギー源を用いることができ、動力を使用する構成要素をマイクロ流体装置に組込むことを必要とできる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
この明細書は、溝を有するマイクロ流体装置における親和性に基づく粒子捕獲に関する技術を記載する。溝について言及する場合、たとえば、長くて狭いチャネル(たとえば、より大きなチャネルの中にまで延在するよう形成され、そのより大きなチャネルの壁に規定されたチャネル)が含まれる。
【0004】
一局面においては、マイクロチャネルを通って流れる流体中に浮遊した粒子を捕獲するための方法は、捕獲すべき粒子を含む流体を、マイクロチャネルを通り、マイクロチャネルの壁の表面に規定された溝を通して流すステップと、マイクロチャネルの壁のうち1つ以上の上に配される接着物質(adherent)に対して粒子のうち少なくともいくつかを接触させるステップと、接着物質に接触する粒子のうち少なくともいくつかを捕獲するステップとを含む。
【0005】
一局面においては、マイクロ流体装置はマイクロチャネルを含み、マイクロチャネルは、入口と、流体が入口から出口へと流れる、当該入口から離して配置された出口と、マイクロチャネルの壁の表面に規定された溝とを含む。前記溝は頂部および2つの端部を含み、各々の端部は頂部に接続され、前記溝は流体が端部を通って頂部に向かって流れるような向きにされる。該マイクロ流体装置はさらに、対象となる検体を選択的に付着する、少なくとも1つの壁に塗布される接着物質を含む。
【0006】
実施形態は、以下の特徴のうち1つ以上を単独で、またはさまざまに組合せて含むことができる。
【0007】
いくつかの実施形態においては、接着物質は、溝が規定されている壁の表面に配される。
【0008】
いくつかの実施形態においては、溝はマイクロチャネルの壁に規定される。場合によっては、溝が壁の中に延在する。
【0009】
いくつかの実施形態においては、溝および複数の付加的な溝は、複数の付加的な溝を通して流体を流すことによって流体にそれぞれの微小渦が形成されるように、壁の表面に規定される。
【0010】
いくつかの実施形態においては、溝を通して流体を流すステップは、頂部および2つの端部を含む溝を通して流体を流すステップを含み、各々の端部は頂部に接続され、前記溝は流体が端部を通り過ぎて頂部に向かって流れるような向きにされる。場合によっては、頂部および2つの端部は、表面にV字形に規定される。溝の寸法は3μm〜70μmの範囲であり得る。
【0011】
いくつかの実施形態においては、流体を流すステップは、2.4cm/分〜6.0cm/分の平均流速で流体を流すステップを含む。
【0012】
いくつかの実施形態においては、粒子は癌細胞であり、接着物質は、癌細胞を結合するよう構成された抗体である。場合によっては、方法はまた、捕獲された癌細胞を培養するステップを含む。
【0013】
いくつかの実施形態においては、溝を通して流体を流すステップにより、流体に微小渦が形成される。
【0014】
いくつかの実施形態においては、接着物質は抗体である。
いくつかの実施形態においては、接着物質はアプタマーである。
【0015】
いくつかの実施形態においては、入口は、検体を含む流体を受け入れるよう構成される。
【0016】
いくつかの実施形態においては、頂部および2つの端部がV字形を形成する。
いくつかの実施形態においては、溝の長さは、マイクロチャネルの幅よりも短い。
【0017】
いくつかの実施形態においては、2つの端部の各々は頂部から等距離にある。
いくつかの実施形態においては、溝は、頂部がマイクロチャネルの中心を通る軸上に配置され、2つの端部が頂部から等距離に配置されるように、壁の表面に対称的に形成される。
【0018】
いくつかの実施形態においては、2つの端部のうち第1の端部が、2つの端部のうち第2の端部よりも頂部の近くに配置される。
【0019】
いくつかの実施形態においては、頂部は、マイクロチャネルの中心に沿って延びる軸からずらされる。
【0020】
いくつかの実施形態においては、溝は、溝の第1の端部が第2の端部よりも前に流体を受け入れるように配置される。
【0021】
いくつかの実施形態においては、溝は、マイクロチャネルの壁に規定された複数の溝のうちの1つであり、複数の溝の各々は頂部および2つの端部を有する。
【0022】
いくつかの実施形態においては、複数の溝は、溝の列として配置される。
いくつかの実施形態においては、装置はさらに、溝の列に隣接して形成される付加的な溝の列を含む。
【0023】
いくつかの実施形態においては、溝の列における1つの溝の頂部および2つの端部は、付加的な溝の列における1つの溝の頂部および2つの端部と、マイクロチャネルを通る軸に対して垂直な対応する面上で整列している。
【0024】
いくつかの実施形態においては、付加的な溝の列は前記溝の列からずらされる。
いくつかの実施形態においては、マイクロチャネルから外側に突出る溝の寸法は、3μm〜70μmの範囲である。
【発明の効果】
【0025】
この明細書中に記載された主題の特定の実現例を実現することにより、以下の利点のうち1つ以上を達成することができる。ここに記載される技術は、受動的操作の可能性や、マイクロ流体環境において流体中に浮遊している粒子、たとえば緩衝液中に浮遊している細胞、の捕獲の可能性を高めることを可能にする。マイクロ流体装置のマイクロチャネルに形成される溝は、チャネルを通って流れる流体中に微小渦を発生させる螺旋流を引起こすことができる。微小渦を利用して、チャネルを通り軸方向に流れる粒子をチャンネルの壁に向かって横方向に動きやすくさせることにより、粒子をより頻繁に壁と相互作用させ、この壁に結合させることができる。緩衝液中に浮遊した細胞が溝を含むマイクロチャネルを通って流れると、マイクロチャネルを有するが溝のないマイクロ流体装置と比べて、細胞と基板との相互作用が高まり得る。これにより、装置の捕捉効率をさらに高めることができる。さらに、ここに記載される受動的なマイクロ流体操作技術では、外部のエネルギー源を不要にすることができ、結果として、特にマイクロ流体装置が高度に並列なμTASシステムもしくはLOCシステムまたはこれら両方のシステムにまでにスケールアップされた場合に、エネルギー消費および製造コストを低下させることができる。この装置は、製造用材料の選択に基づいて透明にすることができる。消費されるサンプルおよび試薬の量は、これらのサンプルおよび試薬の量が流れる寸法範囲がマイクロメートルであるため、減らすことができる。結果として、サンプルおよび試薬のコストも下げることができる。記載された技術は、生きた細胞を捕獲して培養するのに適用することができる。
【0026】
明細書における1つ以上の実現例の詳細を、添付の図面および以下の記載において示す。明細書の他の特徴、局面および利点が以下の記載、添付の図面および添付の特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】溝を有するマイクロ流体装置の実施形態を示す図である。
【図2A】平坦な壁を有するマイクロチャネルにおける粒子の流路を示す図である。
【図2B】壁に溝が形成されている別のマイクロチャネルにおける粒子の流路を示す図である。
【図2C】平坦な壁を有するマイクロチャネルにおける粒子の流路を示す図である。
【図2D】壁に溝が形成されている別のマイクロチャネルにおける粒子の流路を示す図である。
【図3A】例示的な溝を示す図である。
【図3B】例示的な溝を示す図である。
【図3C】例示的な溝を示す図である。
【図4A】図1のマイクロ流体装置を形成する例示的な方法を示す図である。
【図4B】図1のマイクロ流体装置を形成する例示的な方法を示す図である。
【図4C】図1のマイクロ流体装置を形成する例示的な方法を示す図である。
【図5】さまざまな流量における例示的なマイクロ流体装置の捕獲効率を示す図である。
【図6】全血中に加えられた(spiked)癌細胞の捕獲効率を示す図である。
【図7】ヘリングボーンパターンの列を有するハイスループットのマイクロ流体装置の実施形態を示す図である。
【図8】捕獲された細胞を培養するためのマイクロ流体装置の実施形態を示す図である。
【図9A】ガラス基板上の捕獲された細胞の増殖を示す顕微鏡写真である。
【図9B】ガラス基板上の捕獲された細胞の増殖を示す顕微鏡写真である。
【図9C】ガラス基板上の捕獲された細胞の増殖を示す顕微鏡写真である。
【図10】溝を有するマイクロ流体装置で捕獲された細胞上と対照細胞上におけるEpCAM発現の分析を示す図である。
【図11A】マイクロ流体装置を用いて前立腺癌患者から捕獲された循環腫瘍細胞を示す図である。
【図11B】マイクロ流体装置を用いて前立腺癌患者から捕獲された循環腫瘍細胞を示す図である。
【図11C】マイクロ流体装置を用いて前立腺癌患者から捕獲された循環腫瘍細胞を示す図である。
【図11D】マイクロ流体装置を用いて前立腺癌患者から捕獲された循環腫瘍細胞を示す図である。
【図11E】マイクロ流体装置を用いて前立腺癌患者から捕獲された循環腫瘍細胞を示す図である。
【図12】健康なドナー対照群を示す図である。
【図13】溝を有するマイクロ流体装置を用いた患者サンプルからのCTC捕獲を示す図である。
【図14A】溝を有するマイクロ流体装置におけるCTCのライト・ギムザ染色を示す図である。
【図14B】溝を有するマイクロ流体装置におけるCTCのライト・ギムザ染色を示す図である。
【図14C】溝を有するマイクロ流体装置におけるCTCのライト・ギムザ染色を示す図である。
【図14D】溝を有するマイクロ流体装置におけるCTCのライト・ギムザ染色を示す図である。
【図15】異なる溝寸法を有する2つのマイクロ流体装置の比較を示す図である。
【0028】
さまざまな図面における同様の参照番号および名称は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
溝を有するマイクロ流体装置での親和性に基づく粒子捕獲のための方法、装置およびシステムを記載する。マイクロ流体装置に形成されたマイクロチャネルを扱うことで、チャネルを通って流れる流体中に浮遊した粒子を捕獲することができる。マイクロ流体装置の粒子捕獲効率は、チャネル内で捕獲された粒子の数と、チャネルを通って流れた粒子の総数との比として規定することができる。以下に記載するように、マイクロチャネルの壁に延在する溝を形成して、流体に流動パターンを作り出すことにより、流体中に浮遊した粒子とチャネルの壁の内表面との間の相互作用を促進させる。相互作用が高められると、チャネル内で捕獲される粒子の数が増え、結果として、マイクロ流体装置の粒子捕獲効率を高めることができる。たとえば、装置基板材料、チャネルおよび溝寸法などを含むマイクロ流体装置の構造上の特徴を調整したり、粒子のタイプおよび粒子が浮遊している流体のタイプに基づいて流量などの流体の流動パラメータを調整することにより、捕獲効率をさらに高めることができる。ソフトリソグラフィ技術を用いて製造されたこのようなマイクロ流体装置の一例を図1を参照して説明する。後に記載するように、マイクロチャネルの壁に溝を形成し、マイクロチャネルの壁の内表面に接着物質を塗布し、流体中に浮遊した粒子をマイクロチャネルを通して流すことによって、マイクロ流体装置のマイクロチャネルに粒子が捕獲される。
【0030】
図1は、装置100のチャネル115を規定する壁のうちの1つに延在する溝135および140を有するマイクロ流体装置100を示す。いくつかの実施形態においては、マイクロ流体装置は、チャネル115の壁に延在する溝ではなく、壁から外側に延在する突起(たとえばV字形の突起)を含む。いくつかの実現例においては、マイクロ流体装置100は、下側基板110に結合された上側基板105を含み得る。それらの各々の基板は適切な材料を用いて作製することができる。たとえば、上側基板105は、たとえば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのエラストマーを用いて作製することができ、下側基板は、ガラス、PDMSまたは別のエラストマーを用いて作製することができる。代替的には、または加えて、基板は、たとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー(COC)などのプラスチックを用いて製造することができる。一般に、上側基板および下側基板を作製するのに選択される材料は、製造、たとえば、エッチングが容易であるようにすることができ、またテストがより実行し易い光学的性質を提供することができ、たとえば、光学的に透明にすることができ、また基板に取付けられた細胞に悪影響を及ぼさないように無毒にすることができる。加えて、材料は自己蛍光性を全く示さないか、または限定的な自己蛍光性を示すことが好ましい。さらに、材料は、基板に検体が付着できるように官能化が容易であるようにすることができる。さらに、材料は、マイクロ流体装置100に強度を与えるよう機械的に強固であり得る。以下に記載するように、上側基板105は下側基板110に、それら基板の間にマイクロチャネルを形成した状態でしっかりと固定することができる。
【0031】
いくつかの実現例においては、マイクロチャネル115は、上側基板105に形成された2つの側壁120および125と上壁130とを含む長方形の断面を有し得る。たとえば「上側」および「下側」などの相対位置を表す用語は、特徴についての必須の相対位置ではなく、記載を容易にし、図における位置を示すのに用いられる。たとえば、装置は、溝がチャネルの底面上に位置するような、またはチャネルの中心軸が垂直に延在するような向きにすることができる。代替的には、マイクロチャネル115の断面は、三角形、台形、半月形などを含むがこれらに限定されないいくつかの形状のうちの1つであり得る。下側基板110は、上側基板105に結合されるとマイクロチャネル115の下壁を形成し得る。いくつかの実現例においては、マイクロチャネル115は、マイクロチャネル115の上壁130に形成された複数の溝135を含む。代替的には、溝135は、壁のうちいずれかに形成することができ、および/または、マイクロチャネル115の2つ以上の壁に形成することができる。溝135は、壁の全長、または壁の一部分だけにわたり得る。
【0032】
図2A〜図2Dは、平坦な壁を有するマイクロチャネル、および壁に溝が形成されている別のマイクロチャネルを通って流れる粒子浮遊液を概略的に示す。図2Aは、長方形の断面を有するマイクロチャネル205を含むマイクロ流体装置200を示す。マイクロチャネル205の壁は、マイクロ流体装置100に関して記載したような溝を含まない。すなわち、壁の表面は平坦である。流体中に浮遊した粒子225を含む粒子浮遊液220は、マイクロチャネル205を通って流れている。対照的に、図2Bは、マイクロ流体装置100を通って流れる同様の浮遊液を示す。
【0033】
マイクロチャネル115において溝135を列に配置することによって形成されたヘリングボーンパターンを流体が通り過ぎると、流体の経路における溝135が流体の流動を乱す。いくつかの実施形態においては、流速および溝の寸法、具体的には、たとえば、溝のサイズおよび溝の2つのアーム間の角度に応じて、流体の流動が乱されると、流体中に微小渦が発生する。微小渦が発生するのは、溝によって、流体の流動が、その流体が流れる主方向、すなわち軸方向、に対して交差する方向に誘導されるからである。いくつかの実施形態においては、微小渦は生成されないが、溝135および140が流体部分の流路を変えるのに十分な乱れを引起こして、壁と粒子との相互作用を増大させる。
【0034】
溝がない場合、図2Cに図示のとおり、流体中に浮遊した粒子225は、平坦なマイクロチャネル205の中を実質的に直線的に移動する。このため、流動場の端縁付近の(たとえば、マイクロチャネル205の壁のすぐ近くの)粒子225だけが、マイクロチャネル205の壁と相互作用しやすくなる。対照的に、図2Dに図示のとおり、ヘリングボーンパターンを通りすぎた粒子225が経る流路が流体中の微小渦によって乱されると、粒子とマイクロチャネル壁とが相互作用する回数を増やすことができる。微小渦は、マイクロ流体装置100の上壁130に形成された各々の溝445の構造上の特徴によって影響を受ける。溝445の例示的な寸法を図3を参照しつつ説明する。
【0035】
図3Aおよび図3Bは、マイクロチャネル115の上壁130上に形成された溝135を示す。図3Aに図示のとおり、対称型の溝135は2つのアームを備える。各々のアームは、第1の端部150と頂部145との間の長さ(l)、および第2の端部155と頂部145との間の長さ(l)にわたる。図示される実施形態においては、2つのアーム間の角度αは90°である。いくつかの実施形態においては、アーム間の角度αは10°〜170°の範囲である。図3Bは、上面115に形成された溝135を含むマイクロチャネル115を示す図である。図3Bに図示のとおり、溝の幅はwであり、マイクロチャネル115の側壁120および125の高さはhであり、上壁115上に形成された溝135の高さはhである。いくつかの実施形態においては、lおよびlは各々、250μm〜400μmであり、hは3μm〜70μmであり、hは100μmである。たとえば、hは100μmであり、hは25μmである。
【0036】
図3Cは、2つのアームを含む非対称型の溝140を示す。各々のアームは、それぞれ、第1の端部170と頂部165との間の長さ(l)、および第2の端部175と頂部との長さ(l)にわたる。図示される実施形態においては、2つのアーム間の角度βは90°であり、10°〜170°の範囲であり得る。いくつかの実現例においては、溝140は、lとlとの比が0.5となるように製造することができる。たとえば、lは141μmであり、lは282μmである。溝140の厚さは35μmである。粒子捕獲に対する溝の高さhの及ぼす影響を図15を参照しつつ説明する。
【0037】
ヘリングボーンパターンは、各溝が別の溝に隣接して位置しているヘリンボーンの列を形成することによって作り出すことができる。さらに、列における溝はすべて同じ方向に面し得る。いくつかの実施形態においては、各々の溝間の距離は50μmである。代替的には、溝は、互いからいかなる距離をあけて配置することもできる。列は、溝をいくつ含んでいてもよく、たとえば10個の溝を含んでもよい。ヘリングボーンパターンはさらに、入口から出口へと直列に形成された複数の溝の列を含み得る。いくつかの実施形態においては、2つの隣接した溝の列同士を100μmだけ離すことができる。換言すれば、第2の列の第1の溝は、第1の列の最後の溝から100μm離して配置することができる。このパターンは、入口からマイクロチャネル115、さらには出口にいたるまで繰返すことができる。
【0038】
いくつかの実施形態においては、ある列における溝または溝の群は、互いから横方向にずらすことができる。たとえば、図2Bから分かるように、マイクロ流体装置100における溝の列は、頂部がチャネル中心線の右側に設けられた(下流に面する)溝の第1のセットと、頂部がチャネル中心線の左側に設けられた溝の第2のセットとを備える。このようなずれが壁と粒子との相互作用を高めると考えられる。
【0039】
図3A〜図3Cに示される寸法は例示的なものである。概して、溝高さは、チャネル寸法、粒度、密度などを含む粒子特性、および粒子浮遊液の流量を含む要因に応じて選択することができる。溝が深ければ深いほど、より多くの乱れがもたらされるが、他の要因により、溝高さに制限が課される可能性がある。たとえば、或る限度までは、チャネル高さに比例して溝高さを上げることができる。チャネル高さと、これにより溝高さとは、粒子がマイクロチャネル115の表面に接する面積に依存し得る。チャネル寸法が大きくなると、粒子とマイクロチャネル115との相互作用が低下する。というのも、粒子が相互作用するのに利用可能な表面接触面積が、断面流量面積に対して減少するからである。また、チャネル高さに下限を課して、これによって溝高さにも下限が課されて、詰まりを防ぐこともできる。いくつかの実現例においては、溝高さとチャネル高さとの比は、1未満、たとえば0.1〜0.6の範囲であり得る。いくつかの実現例においては、上述の比は、1と等しくてもよく(たとえば、溝高さがチャネル高さと等しくてもよく)、または、1より大きくてもよい(たとえば、溝高さ、たとえば60μmが、チャネル高さ、たとえば50μm、より高くてもよい)。さらに、溝の形状は「V」字形とは異なっていてもよく、たとえば「U」字形、「L」字形などであってもよい。
【0040】
マイクロチャネル115は、たとえばソフトリソグラフィ技術を用いて上側基板105に形成することができる。いくつかの実現例においては、ネガ型フォトレジスト(SU−8、MicroChem(ニュートン、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)をシリコンウェハ上にフォトリソグラフィによってパターニングして、2層特徴を有する原型を作成することができる。このように形成された原型は、マイクロチャネル115の特徴、たとえばチャネル断面、チャネルサイズなどの基礎を構成するSU−8特徴を含み得る。原型上におけるSU−8特徴の高さ(3μm〜100μmの範囲)は、ビーコ・インスツルメンツ社(Veeco Instruments Inc.)(プレーンビュー、ニューヨーク州)から市販されているDektak STシステム・プロフィルメータなどの表面プロフィルメータで測定することができる。次いで、原型は、PDMSプレポリマーを注ぎ込むことのできる型として用いることができ、24時間、65℃で従来のオーブンで硬化させることができる。注ぎ込まれたPDMSプレポリマーが硬化すると、マイクロチャネル115を含む上側基板105が形成される。硬化した上側基板110を型から取外し、たとえば酸素プラズマ操作を用いて下側基板105に結合させて、マイクロ流体装置100を形成することができる。代替的には、たとえば、可逆性のシーラント(sealant)の使用、物理的な締付および圧力をかけた保持など、他の種類の結接を利用することができる。いくつかの実現例においては、化学的結合によって基板同士をしっかりと接合することができ、その後、機械的な力を加えてこれらの基板の結合を破壊することによって基板同士を分離することができる。
【0041】
図4A〜図4Cは、PDMSを用いて製造された上側基板405と、ガラスを用いて製造された下側基板410とを含むマイクロ流体装置100の形成を示す。マイクロチャネル415の上壁および側壁を含む上側基板405は、上述の技術を用いて形成することができる。代替的には、または加えて、上壁は、各々が非対称な「V」字形に形成された複数の溝440を含んでいてもよい。いくつかの実現例においては、対称型の溝440および非対称型の溝445をヘリングボーンパターンに点在させることができる。各々の溝はさらに、頂部445ならびに2つの端部450および455を含む。加えて、マイクロチャネル415は2つの側壁420および425を含む。
【0042】
対象となる生物的検体を捕獲するようにマイクロ流体装置400を構成するために、接着物質460がマイクロチャネル115の内表面に配される。具体的には、表面修飾は内表面上で行なわれる。いくつかの実現例においては、図4Bに図示のとおり、接着物質460を溶液中に混入して、マイクロチャネル415を通じて流すことができる。溶液がマイクロチャネル415を通って流れると、接着物質460がチャネル415の内表面に結合し、これにより、チャネル415の内表面に配される。
【0043】
マイクロチャネル115を介して接着物質を流す以外の技術を用いても、接着物質を配することができる。たとえば、プラスチック基板が使用される実現例においては、接着物質は、たとえば、紫外線(UV)放射操作による表面特性の修飾によって基板に配することができ、これにより、上側基板と下側基板との結合の前に、修飾表面に検体が結合することとなる。下側基板がガラスである実現例においては、ガラスは、ガラス基板を上側基板に接合させる前に、たとえば、スパッタリング、気相堆積、ナノ粒子単層の層を積み重ねることなどによって、機能性を持たせることができる。
【0044】
図4Cに図示のとおり、接着物質460は、マイクロチャネル415の内表面全体にわたって配することができる。代替的には、接着物質460は、マイクロチャネル415の1つ以上の壁、たとえば溝445が形成された壁、に配することができる。いくつかの実施形態においては、接着物質460は、ガラスから製造された下側基板410にだけ配することができる。このような実施形態においては、接着物質が下側基板に配された後、下側基板410を上側基板405に結合させることができる。このような実現例においては、流体の流量は、溝440によって作り出された微小渦が流体中の細胞を下側基板410の方に押し流して、細胞と下側基板410との相互作用の数を増やすように選択される。その後、下側基板410を上側基板405から分離することができ、捕獲された細胞を培養することができる。
【0045】
いくつかの実現例においては、液相系化学技術を用いた親和性に基づく細胞捕獲のためにマイクロチャネル415を用いることができるように、接着物質460を選択することができる。このような実現例においては、接着物質460は、抗体、たとえばEpCAMに対する抗体、またはアプタマー、たとえば表面タンパク質に対するアプタマーであってもよく、これを用いてマイクロチャネル415の内表面を機能化する。接着物質460の付加的な例には、増幅した標的のビオチン発現細胞をビオチン−アビジン結合を介して捕獲するために、表面に塗布されたアビジンが含まれる。捕獲可能な細胞に対応する接着物質のさらなる例を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
内表面は、機能化されると、対象となる検体を結合することのできる捕獲装置として機能する。図5を参照しつつ例示的なマイクロ流体装置の捕獲効率を説明する。
【実施例】
【0048】
実施例1−捕獲効率
図5は、さまざまな流量における例示的なマイクロ流体装置の捕獲効率を示す。先に記載したように、接着物質460が配されている内表面は、表面と相互作用する細胞を結合する。マイクロ流体装置の捕獲効率を調べるために、癌細胞(肺癌細胞−H1650株)が加えられた緩衝液を、上壁にヘリングボーンパターンを有するマイクロ流体装置400と、平坦な壁面を有するマイクロ流体装置200とを通して流した。この実施例において用いられるマイクロ流体装置400は、設置面積が幅2mm、長さ2cmと小さく設計されている。流体は、0.12ml/時間、0.24ml/時間、0.36ml/時間および0.48ml/時間の流量で、装置400のマイクロチャネル415を通して流された。マイクロ流体装置200および400を通ったすべての流体は、特別に設計され曲がりくねった廃物チャンバに集められた。細胞捕獲効率は、装置(平坦200またはヘリンボーン400)で捕獲された細胞の数を数え、その数を、装置を通した細胞の総数(廃物チャンバ内の細胞を数え、その数を装置で捕獲された細胞の数に加える)で割ることによって決定された。
【0049】
これらの実験においては、3つの異なる流量が、各条件ごとに4つのデータポイントで調べられた。装置が高い流量でも高い捕獲効率をもたらすことが望ましい。これにより、対象となる細胞を所望の数だけ捕獲するのに必要となる時間およびサンプルサイズを低減させることができる。図5に図示のとおり、ヘリングボーンパターンを有するマイクロ流体装置400は、平坦な表面だけを有するマイクロ流体装置200よりも、すべての流量での細胞捕獲効率で優れていた。流量が上昇すると、ヘリングボーンパターンを備えた装置400の利点が高まった。非常に高い流量であっても、ヘリングボーンパターンを備えた装置400での捕獲効率は、〜50%であったのに対して、溝のない装置200での捕獲効率は、〜30%に低下した。
【0050】
実施例2−捕獲効率
図6は、溝がある場合および溝がない場合の例示的なマイクロ流体装置の捕獲効率を示す。先に説明した実験と同様に、平坦な面を有するマイクロ流体装置200と、ヘリングボーンパターンを有する装置400とを、全血中に加えられた癌細胞(5,000細胞/ml)の捕獲効率を決定することによって比較した。この実施例において用いられるマイクロ流体装置400は、図5を参照して説明したような小さな設置面積に設計された。実施例1を参照して説明した流量と同様の4つの異なる流量を調べた。加えて、一方がヘリングボーンパターンを有し、他方が平坦面を有する対照マイクロ流体装置をテストした。加えて、対照マイクロ流体装置はまた、その癌細胞を捕獲するようには構成されない無関係の捕獲抗体で機能化することによってテストされた。両方の対照マイクロ流体装置で、観察された細胞捕獲はゼロであった。緩衝液中の癌細胞に関連する先の結果と同様に、ヘリングボーンパターンを有するマイクロ流体装置400での捕獲効率は、テストされたすべての条件に関して、平坦面を有するマイクロ流体装置200よりも良好であった。
【0051】
さらに、低下したEpCAM発現のために、前立腺癌細胞の細胞株(PC3)をテストした。癌細胞が有するEpCAMは通常の上皮細胞よりも少ない。新しい細胞株およびそれらのEpCAM発現レベルは、1細胞当たり約40,000分子である。血液中に加えられた細胞の数は、加えた数が稀な細胞検出レベルにより関連するように、1,000細胞/mlにした。その新しい細胞株に関して、0.12ml/時間および0.24ml/時間の流量で実験を行なった。PC3の場合、EpCAMの表面発現が癌細胞に対して1桁だけ低下し、加えた細胞濃度が5分の1低下した。それにもかかわらず、マイクロ流体装置400を用いると、H1650と同等の捕獲効率が観察される。
【0052】
実施例3−細胞の生存率
流動パターンとそれに続くより高いせん断応力が捕獲細胞の生存率に及ぼす影響も、従来の生存/死亡分析を用いて調査した。全血中に加えられた癌細胞を、図7に図示のとおりのヘリングボーンパターンの列を有するハイスループットのマイクロ流体装置700のマイクロチャネル415で捕獲した。マイクロ流体装置400は、初期の検証研究に用いることができる小さな設置面積のタイプに相当する。マイクロ流体装置700は、マイクロ流体装置400のスケールアップ例の一つである。装置のスケールアップのために、マイクロ流体装置400の設計を繰返し、延長させた。いくつかの実施形態においては、マイクロ流体装置700は幅が2cmで長さが4cmであり、ヘッダー領域およびフッター領域を含む。この実施例においては、マイクロチャネル415よりも広い幅を有するマイクロチャネルの上壁に互いに隣接するヘリングボーンパターンの列を形成することにより、複数のヘリングボーンパターンを形成した。マイクロチャネル715を通る体積流量は2ml/時間であり、捕獲された細胞は、細胞が結合した基板上で、カルセインAMおよびエチジウム・ホモダイマーで染色した。その結果、捕獲細胞のほとんど(〜90%)が生存していることが判明し、これらの条件下で、ヘリングボーンパターンが捕獲細胞に対して及ぼす悪影響が限定的であることが実証された。
【0053】
いくつかの実施形態においては、細胞を基板から分離して、別々に培養することができる。接着物質から細胞を分離するために、たとえば細胞に影響を及ぼさない溶液に接着物質を溶解させることによって、接着物質と細胞と間の結合を弱めることができる。
【0054】
ヘリングボーンパターンの列の数はマイクロチャネルの幅によってのみ制限された。いくつかの実現例においては、マイクロ流体装置700は、8つの小型チャンバ、すなわち8列のヘリングボーンパターンを含む。このような実現例においては、ヘッダー設計をマイクロチャネルの入口に組込むことにより、ヘリングボーンパターンの各列に安定性および均一な液量を提供することができる。いくつかの実現例においては、ヘリングボーンパターンの各列は、列における「V」字形の溝の頂部が隣接する列における「V」字形の溝の頂部と整列するように、パターンのうち隣接する列の隣に配置される。換言すれば、両方の溝の頂部は、マイクロ流体装置700のマイクロチャネルを通る主軸に対して垂直な線上にある。列におけるすべての溝が装置700のマイクロチャネルにおいて等距離に間隔を空けて形成された場合、装置700のすべての溝が互いに整列することとなる。いくつかの実現例においては、ヘリングボーンパターンの列は、隣接した列からずらされてもよい。たとえば、列における「V」字形の溝の頂部は、隣接する列における「V」字形の溝の頂部から10μmだけずらすことができる。列をずらした設計により、混合をさらに促進することができる。いくつかの実現例においては、装置700における複数の列は、各列においてランダムに点在させた対称型の溝335および非対称型の溝340を含み得る。点在させた溝を設けることにより、流体と、その流体中に浮遊した粒子との横方向の動きが促進され、これにより、細胞とマイクロチャネル壁との相互作用の回数を増やし、結果として細胞捕獲を向上させる。
【0055】
実施例4−細胞培養
別の実施例においては、図8に示されるような捕獲された細胞を培養するためのマイクロ流体装置800を用いて、細胞を捕獲して培養した。マイクロ流体装置800は、図7を参照して説明したハイスループット設計と同様であり、ガラスを用いて製造された下側基板と、上述のようにヘリングボーンパターンの列を含むPDMSを用いて製造される上側基板810とを含んだ。捕獲すべき細胞を含む血液の流量は約2ml/時間であり、細胞を下側のガラス基板810に接着させるよう操作された。マイクロ流体装置800においては、下側基板および上側基板をともに接着物質で覆った。細胞の捕獲後、たとえば機械的な力を加えることにより、上側基板810を下側基板805から取外すことができる程度に、下側基板および上側基板を互いに可逆的に結合した。他の実施形態においては、防水密封して、または結合する細胞に損傷を及ぼさない好適な方法によって、下側基板および上側基板を機械的にクランプすることができる。いくつかの実施形態においては、接着物質460を下側基板または上側基板のいずれかに配することができる。細胞は、接着物質が配される基板上で捕獲することができる。
【0056】
図9A〜図9Cは、ガラス基板上における捕獲細胞の増殖を示す顕微鏡写真である。血液中に加えられた癌細胞を捕獲した後、マイクロ流体装置800の上側基板810を取外し、上側基板および下側基板をともにペトリ皿に置いて、37℃、5%COで、適切な細胞培地でインキュベートした(図9A)。図9Bに図示のとおり、細胞が基板に付着しており、24時間以内に広がって数が増え始めた。3週間以上細胞を培養した後、細胞が分割し続け、下側基板(ガラス)および上側基板(PDMS)の両方の上に単層を形成した。この時点で、細胞を(トリプシン処理によって)捕獲表面から除去して、従来の細胞培養フラスコ内で培養した。このようにすることで、長時間にわたる捕捉された癌細胞の培養が成功したことが実証された。このように、細胞は、生存しているだけでなく、機能性を有し、培養中に増殖させることができる。
【0057】
実施例5−表現型変化
図10は、溝を有するマイクロ流体装置で捕獲された細胞と対照細胞とについてのEpCAM発現の蛍光活性化細胞分類(FACS:fluorescence-activated cell sorting)分析を示す。マイクロ流体装置800に癌細胞を晒すことによって細胞表現型に影響が及ぼされるかどうか調べるために、1つのマーカー、すなわちEpCAM、について調べた。具体的には、装置800上で捕獲された細胞と(同じ態様で調製したが、装置内に流さなかった)対照細胞との発現レベルを比較した。両方の細胞集団を、実験後3週間培養した。フローサイトメトリーの結果、癌細胞の捕獲および培養ではEpCAMのそれぞれの発現レベルが変化しなかったことが分かった。これらの結果は、マイクロ流体装置800での捕獲では細胞の表現型が変化しないことを示している。
【0058】
実施例6−細胞捕獲
図11Aは、マイクロ流体装置100を用いて前立腺癌患者から捕獲した循環腫瘍細胞(CTC:circulating tumor cell)を示す。図11Aに図示のとおり、CTCはマイクロ流体装置100の溝上で捕獲された。図11Bは無傷の原子核および細胞質を実証しており、細胞が無傷であったことを示している。細胞がPSA(前立腺特異抗原(prostate-specific antigen)、緑)および核染色(DAPI、青)については陽性に染色され、CD45(赤)、白血球用の従来のマーカーについては陰性に染色された(グレースケールで表された図11Cおよび図11Dを参照)ので、この細胞はCTCとして特定された。また、細胞の汚染はない。図11Eは、反射光の下での無傷の細胞を示す。
【0059】
実施例7−バックグラウンドのCTCレベル
図12は健康なドナーの対照を示す。患者サンプルを用いて観察されるCTC数が、健康なドナーサンプル中に観察されるバックグラウンドよりも高いことを確認するために、マイクロ流体装置100を用いて、4人の異なるドナー(男性3人、女性1人)をテストし、PSA/CD45染色剤で染色した。4件すべてに関して、健康なドナー数は、≦5偽陽性/mLであり、平均して2偽陽性/mLであった。シリコンチップを用いた同様の実験では、結果として、おそらくは非特異的結合が増加したために、偽陽性の数が増えた。
【0060】
実施例8−捕獲レベル
図13は、溝を有するマイクロ流体装置100を用いた患者サンプルからのCTC捕獲を示す。初期の結果では、溝を有するマイクロ流体装置100を用いた場合の患者サンプルからのCTC捕獲が160細胞/mLほどに高くなり得ることが示される。
【0061】
図14A〜図14Dは、溝を有するマイクロ流体装置100におけるCTCのライト・ギムザ染色のグレースケール表示を示す。マイクロ流体装置100を製造するのに用いられる基板が透明であるので、マイクロ流体チャネル115内で捕獲された患者サンプルは、組織染色、たとえばライト・ギムザ染色で染色することができる。図14A〜図14Dは、マイクロ流体装置100を通って流れる肺癌患者サンプルから得られた顕微鏡写真を示す。選択された細胞はCTCである。
【0062】
図15は、異なる溝寸法を有する2つのマイクロ流体装置の比較を示す。捕獲効率に対する溝の高さの影響を確認するために2つのマイクロ流体装置を比較した。第1のマイクロ流体装置は、70μmのチャネル高さを有し、第2のマイクロ流体装置は、50μmのチャネル高さを有した。第1のマイクロ流体装置は、35μmの溝高さを有し、第2のマイクロ流体装置は、25μmのチャネル高さを有した。第1のマイクロ流体装置と比較すると、第2のマイクロ流体装置では、全血中に加えられた低発現の細胞、すなわちPC3の捕獲効率が3倍に高まった。
【0063】
この明細書は多くの詳細を含むが、これらの詳細は、明細書の範囲、または主張され得るものの範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、明細書の特定の実現例に特有の特徴の記載として解釈されるべきである。この明細書において別個の実現例の文脈に記載されるいくつかの特徴を組合せて単一の実現例で実現することもできる。逆に、単一の実現例の文脈において記載されるさまざまな特徴も、複数の実現例において別個に、または如何なる好適な一部組合せでも実現することができる。さらに、特徴を、いくつかの組合せで作用するものとして上述の通り記載し、さらにはそのようなものとして初めに特許請求することもできるが、特許請求された組合せの1つ以上の特徴を場合によってはその組合せから削除することができ、特許請求された組合せを一部組合せまたは一部組合せの変形例に向けてもよい。
【0064】
同様に、動作を図面において特定の順序で示しているが、これは、このような動作が、図示された特定の順序でもしくは逐次的に実行されること、または、望ましい結果を達成するために例示されたすべての動作が実行されることを必要とするものとして理解されるべきではない。いくつかの状況においては、マルチタスク操作および並行操作が有利であり得る。さらに、上述の実現例におけるさまざまなシステム構成要素の分離が、すべての実現例においてこのような分離を必要とするものとして理解されるべきではなく、記載されたプログラム構成要素およびシステム同士を概して単一のソフトウェアプロダクトに統合することができるか、または、複数のソフトウェアプロダクトにパッケージングすることができることが理解されるべきである。このように明細書の特定の実現例を記載した。他の実現例は添付の特許請求の範囲内に収まる。たとえば、添付の特許請求の範囲に記載される動作を、異なる順序で実行しても、望ましい結果を達成することができる。
【0065】
血液または緩衝液中に配された細胞は、チャネル中に配された接着物質に結合するような適応でマイクロチャネルを通って流れることができる。熱エンボス、射出成形などの技術を用いて、マイクロチャネルもしくは溝またはこれら両方を形成することができる。このような実施形態においては、基板の製造に用いられる原型はシリコンである必要はない。いくつかの実施形態においては、ペプチド、ヌクレオチドなどの小分子を接着物質として用いることができる。
【0066】
いくつかの実施形態においては、血液がマイクロチャネルを通って流れる前に、界面活性剤をブロッキング緩衝液に追加することによって非特異的結合を減らすことができる(典型的には、1x PBS中の1〜3%BSA)。ブロッキングバッファを追加した後(たとえば、1x PBSの3%BSA中の0.05% TWEEN20)、マイクロ流体装置を或る温度、たとえば室温で、或る期間、たとえば1時間、インキュベートして、基板を効率的にブロッキングすることができる。ブロッキング工程の後、血液を流し始めることができる。
【0067】
いくつかの実施形態においては、マイクロチャネルの表面に対する非特異的結合の低下は、サンプルを表面と接触させる前に、検体結合部分を含む表面を非イオン界面活性剤と接触させることによって達成することができる。非イオン界面活性剤は、ソルビタンモノラウレートのポリオキシエチレン誘導体などのポリソルベート界面活性剤であってもよい(たとえば、商品名TWEEN20で販売されているポリソルベート20)。非イオン界面活性剤は、哺乳動物細胞を溶解させるのに必要な濃度よりも低い濃度で表面と接触させることができる。たとえば、約0.05%までの濃度のポリソルベート20を含む水溶液は、生物サンプルと接触させる前に表面を前処理するのに用いることができる。
【0068】
水溶液はさらに、血液成分の非特異的表面結合を減らすための成分を含み得る。たとえば、表面は、0.05%ポリソルベート20、1%BSAおよび1xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まず)の混合物と接触させることができる。前処理溶液の容量は、チャネルの寸法に基づいて選択することができる。たとえば、上述の約3mLの0.05%ポリソルベート20溶液は、約30ml/時間の流量でマイクロ流体チャネルを通過させることができる。生物サンプルをチャネルに投入する前に約1時間、マイクロチャネルをポリソルベート20溶液中でインキュベートしてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態においては、ビオチン結合複合体を含有する表面を有するマイクロチャネルは、CTC、ビオチン化EpCAM抗体、ビオチンおよびストレプトアビジンを含有する生物サンプルと接触させる前に、1x PBS(Ca2+/Mg2+を含まず)の1%BSA中の0.05% Tween20を含む溶液と接触させる(たとえば、約30mL/時間の流量で3mLの界面活性剤溶液)。ポリソルベート20の代わりに、またはポリソルベート20と組合せて、プルロニック、ポロキサマー、PEGおよび他の同様の界面活性剤を同様に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチャネルを通って流れる流体中に浮遊した粒子を捕獲するための方法であって、
捕獲すべき粒子を含む流体を、マイクロチャネルを通り、マイクロチャネルの壁の表面に規定された溝を通して流すステップと、
マイクロチャネルの壁のうち1つ以上の上に配される接着物質に対して粒子のうち少なくともいくつかを接触させるステップと、
接着物質に接触する粒子のうち少なくともいくつかを捕獲するステップとを含む、方法。
【請求項2】
溝が規定されている壁の表面に接着物質が配される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溝がマイクロチャネルの壁に規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溝が壁の中に延在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溝および複数の付加的な溝は、複数の付加的な溝を通して流体を流すことにより流体にそれぞれの微小渦が形成されるように、壁の表面に規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
溝を通して流体を流すステップは、頂部および2つの端部を含む溝を通して流体を流すステップを含み、各々の端部は頂部に接続され、前記溝は流体が端部を通り過ぎて頂部に向かって流れるような向きにされる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
頂部および2つの端部は表面にV字形に規定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溝の寸法は3μm〜70μmの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
流体を流すステップは、2.4cm/分〜6.0cm/分の平均流速で流体を流すステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
粒子は癌細胞であり、接着物質は癌細胞を結合するよう構成された抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
捕獲された癌細胞を培養するステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溝を通して流体を流すステップにより、流体に微小渦が形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
マイクロ流体装置であって、
該マイクロ流体装置は、マイクロチャネルを含み、
前記マイクロチャネルは、
入口と、
流体が入口から出口へと流れる、前記入口から離して配置された出口と、
マイクロチャネルの壁の表面に規定された溝とを含み、
前記溝は頂部および2つの端部を含み、各々の端部は頂部に接続され、前記溝は流体が端部を通って頂部に向かって流れるような向きにされ、
該マイクロ流体装置はさらに、対象となる検体を選択的に付着する、少なくとも1つの壁に塗布される接着物質を含む、マイクロ流体装置。
【請求項14】
壁の表面に規定された溝がマイクロチャネルの外側に突出る、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
接着物質は抗体である、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
接着物質はアプタマーである、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
入口は、検体を含む流体を受け入れるよう構成される、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
頂部および2つの端部がV字形を形成する、請求項13に記載の装置。
【請求項19】
溝の延びる長さは、マイクロチャネルの幅よりも短い、請求項13に記載の装置。
【請求項20】
2つの端部の各々は頂部から等距離にある、請求項13に記載の装置。
【請求項21】
溝は、頂部がマイクロチャネルの中心を通る軸上に配置され、2つの端部が頂部から等距離に配置されるように、壁の表面に対称的に形成される、請求項13に記載の装置。
【請求項22】
2つの端部の第1の端部は、2つの端部の第2の端部よりも頂部の近くに配置される、請求項13に記載の装置。
【請求項23】
頂部は、マイクロチャネルの中心に沿って延びる軸からずらされる、請求項13に記載の装置。
【請求項24】
溝は、溝の第1の端部が第2の端部よりも前に流体を受け入れるように配置される、請求項13に記載の装置。
【請求項25】
溝は、マイクロチャネルの壁に規定された複数の溝のうちの1つであり、複数の溝の各々は頂部および2つの端部を有する、請求項13に記載の装置。
【請求項26】
複数の溝が溝の列として配置される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
溝の列に隣接して形成される付加的な溝の列をさらに含む、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
溝の列における1つの溝の頂部および2つの端部は、付加的な溝の列における1つの溝の頂部および2つの端部と、マイクロチャネルを通る軸に対して垂直な対応する面上で整列している、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
付加的な溝の列は前記溝の列からずらされる、請求項27に記載の装置。
【請求項30】
マイクロチャネルから外側に突出る溝の寸法は、3μm〜70μmの範囲である、請求項13に記載の装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14C】
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【図14D】
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【図15】
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【図9B】
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【図9C】
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【図11E】
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【図14B】
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【公表番号】特表2012−504243(P2012−504243A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529270(P2011−529270)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/058408
【国際公開番号】WO2010/036912
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】