説明

粒子ビーム生成用のデバイス及び方法

本発明は、粒子放射線治療用に使用可能なパルス化ビーム粒子加速器に関する。特に、ビームパルス内の粒子数を制御するデバイス及び方法が提供される。粒子加速器は、ビーム制御パラメータの値の関数として、最小値から最大値の間で、そのパルス化イオンビームの各ビームパルス内の粒子数を変更する手段を備える。各粒子照射に対して、各ビームパルスに対する所要の粒子数は、較正データに基づいてビーム制御パラメータに対する値を定めることによって、制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子放射線治療(例えばプロトン、炭素イオン)用のパルス化ビーム加速器の分野に係り、特に、加速器から取り出されたビームパルス内の粒子の量の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を荷電粒子線治療用のエネルギー(例えば、プロトン治療に対して250MeV)に加速するため、多くのタイプの加速器が開発又は提案されてきた。こうした加速器の具体的な設計に応じて、一部加速器が連続粒子ビームを生成する(例えば、アイソクロナスサイクロトロン)一方で、他のタイプの加速器はパルス化時間構造を有する粒子ビームを生成する(例えば、シンクロサイクロトロン、FFAG(fixed field alternating gradient,固定磁場強収束)加速器、線形加速器)。これらの加速器が共通して有する基本構成要素は、加速されるイオン化粒子を生成するためのイオン源と、イオン化粒子を加速するための無線周波数(RF,radio frequency)加速器システムである。
【0003】
荷電粒子線治療用の第一のタイプの加速器の一つは、シンクロサイクロトロンである。シンクロサイクロトロンの開発は、プロトン治療の開発と強く結び付いている。ハーバード大学(米国マサチューセッツ州)では、物理の研究用に1948年に構築されたシンクロサイクロトロンが、プロトン治療用にアップグレードされて、1961年に、最初の患者が、160MeVプロトンビームのシンクロサイクロトロンを用いて治療された。同様に、オルセー(仏国)では、1954年からのシンクロサイクロトロンが、粒子研究用からプロトン治療用に転換された。オルセーでの最初の患者の治療は1991年に始まった。より最近では、患者周囲での回転を可能にするガントリー構造上に取り付けられた小型超伝導シンクロサイクロトロンの開発が、K.Gallによって報告された(特許文献1)。
【0004】
荷電粒子放射線治療の分野においては、シンクロサイクロトロンに加えて、他のタイプのサイクロトロン、つまりアイソクロナスサイクロトロンも現在では用いられる。両者の加速器のRF加速器システムは異なる。即ち、アイソクロナスサイクロトロンは一定のRF周波数を用いる一方で、シンクロサイクロトロンは変調RF周波数を用いる(典型的には200から1000Hzの間の周波数で変調される)。実際には、シンクロサイクロトロンにおいて、荷電粒子は、イオン源から取り出されて、新たな全加速サイクルが繰り返される前に個別のバンチにおいて最終的なエネルギーに加速される。この全加速サイクルの頻度(つまり、ビームパルスが生成され、加速器から取り出される頻度)は、RFの変調周波数(つまりRFの繰り返し率)に対応する。結果として、シンクロサイクロトロンから取り出されたビームが、変調周波数においてパルス化される一方で、アイソクロナスサイクロトロンから取り出されたビームは、は連続的である。シンクロサイクロトロンから取り出されたビームは、例えば0.5マイクロ秒の持続時間を有するビームパルスで伝えられて、ビームパルスは、典型的には2ミリ秒毎(=1/RF変調周波数)で繰り返される。典型的なビームパルス持続時間は、異なり得るものであって、典型的には50ms以下である。
【0005】
シンクロサイクロトロンビームの特定の時間構造に適合するため、シンクロサイクロトロンを有する現状の全てのプロトン治療設備は、伝達荷電粒子放射線治療用の所謂二重散乱法の使用に限定されている。所謂走査法等の伝達荷電粒子線治療用のより先進的な方法は、取り出されたビームの特定の時間構造に起因する問題のせいで、シンクロサイクロトロンとは組み合わされていない。先進的な走査ビーム伝達方法にとって、取り出されるビーム強度の高速で(マイクロ秒レベル)正確な(典型的には1%)な制御を有することが重要である。
【0006】
パルス化ビームが粒子治療用に大きく不利である点を、先進的な走査ビーム伝達法の例で示すことができる。先進的な走査ビーム伝達法の一例は、所謂スポット走査法であり、非特許文献1に記載されている。この方法で、ターゲットボリュームは、一連のボクセル(基本ターゲットボリューム)に分割され、各ボクセルは、“スポット”照射を行うことによって照射される。二つのスポット照射の間において、ビームは中断される。スポット走査システムで、各ボクセルに伝えられる放射線量は一般的に同じではなく、各スポット照射中に伝達される粒子数はスポット毎に異なり得る。各ボクセルに対して、処置計画システムによって特定される所要の放射線量は、高精度で伝達される必要がある。各ビームスポットに対して要求される典型的な放射線量伝達精度は1%である。パルス化加速器の問題の一つは、このようなビーム時間構造をスポット走査法と組み合わせて使用することが困難なことである。シンクロサイクロトロン加速器を例にとってみると、ビームは、典型的には2ミリ秒(=1/RF変調周波数であり、典型的には200から1000Hzの間である)毎で繰り返されるパルスで伝えられ、パルス持続時間は典型的には0.5マイクロ秒である。この短いパルス持続時間によって、ビームパルスの途中においてビームを停止させることは不可能であり、ビームスポットは、整数のパルスとしてのみ伝達可能である。各スポット照射に対して1%の放射線量伝達精度を得るためには、各スポット照射に対して略100個のビームパルスを伝達することが必要である。典型的なターゲットボリュームは、略5000個から10000個のボクセルに分割されるので、ターゲットボリュームの全照射時間は、1000から2000秒のオーダであり、これは許容不可能な長い照射時間である。更に、Pedroni等は、臓器運動を補償するためにターゲットボリュームの多重リペインティングを実施することを提案しており、ターゲット照射を完了するためのスポット照射の総数が更に増大する。
【0007】
パルス化ビームを生成する他のタイプの加速器に対して、上述と同じ問題が生じる。荷電粒子放射線治療用に提案されている他のタイプのパルス化加速器の例は、FFAG加速器及び線形加速器である。
【0008】
先進的な粒子放射線治療用の高速ビーム電流規制のための方法及びデバイスの例が、本願出願人による特許文献2及び特許文献3に記載されている。この方法及びデバイスでは、アイソクロナスサイクロトロンから取り出された連続電流が、1から2%のオーダの精度で規制可能である。これらのビーム規制法では、フィードバックループが用いられる。即ち、プロトンビームのビーム電流は、サイクロトロンの出口で測定されて、測定されたビーム電流値は、所要の値と比較されて、規制ループが、例えばイオン源のビーム制御パラメータを調整して、所要のビーム電流に等しい測定ビーム電流が得られる。同様に、特許文献3においては、RF加速システムの制御パラメータは、取り出されたビーム強度を変更することによって調整される。しかしながら、この方法は、上述のような時間構造を有するシンクロサイクロトロンから取り出された単一のビームパルスの強度を規制するのには適用不能である。実際のところ、シンクロサイクロトロンから取り出されたビームパルスの強度が測定される時には、イオン源は既に長い時間止められている。従って、取り出されたビームパルス内の粒子の測定された強度又は数を使用すること、及び、イオン源(又はビームパルス強度を変更することができる他のデバイス)の制御パラメータを修正して、加速器から既に取り出されているその同じビームパルスの強度を調整することは不可能である。
【0009】
従って、上述の欠点を解決し得るパルス化加速器から取り出されたビームをパルス毎に規制するための実際的な解決策は今のところ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0093567号明細書
【特許文献2】米国特許第6873123号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/056165号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Pedroni等、Med.Phys.、第22巻、第1号、p.37−53、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の問題を解決する方法及びデバイスを提供することを目的とする。
【0013】
特に、本発明は、パルス化加速器の取り出されたビームパルス内の粒子数を制御するための方法及びデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、添付の特許請求の範囲によって説明されて特徴付けられる。
【0015】
本発明の第一の側面によると、エネルギーパルス化イオンビームを生成するためのシンクロサイクロトロン型、線形加速器型、又はFFAG加速器型の粒子加速器が提供される。この加速器は、イオンを生成するためのイオン源と、イオンを加速するための無線周波数(RF)加速システムとを備える。本発明に係る加速器は更に、
・ イオン源及び/又はRFシステムの動作に関係するビーム制御パラメータの値の関数として最小値から最大値までパルス化イオンビームの各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段と、
・ ビーム制御デバイスとを備え、そのビーム制御デバイスは、
・ 各ビームパルスに対する所要の粒子数を特定する外部命令を受信するためのインターフェースと、
・ 較正テーブルを記憶するための、又はビーム制御パラメータとビームパルス内の粒子数との間の関係を定義する数学的関数のパラメータ値を記憶するための手段と、
・ 較正テーブル又は数学的関数を用いて所要の粒子数に対応するビーム制御パラメータの所要の値を求める手段と、
・ 変更するための手段にビーム制御パラメータの所要の値を送信するためのインターフェースとを備える。
【0016】
更に、本発明の第一の側面によると、ビーム制御デバイスは更に、
・ ビームパルス内の測定された粒子数を特定する外部信号を受信するためのインターフェースと(その測定はビームモニタで行われる)、
・ 測定された粒子数に基づいて較正テーブル又はパラメータ値をアップデートするための手段とを備える。
【0017】
好ましい実施形態によると、本発明に係る粒子加速器は更に、
・ ビーム制御パラメータに対して複数の異なる値を定めて、その各値に対してビームパルスを生成して、生成された各ビームパルス内の対応する粒子数を測定することによって較正テーブル又は数学的関数を自動的に発生させるための制御手段を備える。
【0018】
有利には、好ましい実施形態において、粒子加速器は更に、
・ 加速器によって各ビームパルスが生成された後に較正テーブル又は数学的関数を自動的に再調整するための制御手段を備え、その再調整は、測定された粒子数を所要の粒子数と比較することによって行われる。
【0019】
本発明の一実施形態では、各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段は、イオン源のアーク電流を変更するための手段を備える。
【0020】
本発明の他の実施形態では、各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段は、無線周波数加速システムの加速電圧を変更するための手段を備える。
【0021】
代わりに、本発明の他の実施形態では、各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段は、イオン源がオンにされる期間を変更するための手段を備える。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によると、各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段は、イオン源がオンにされる時点と無線周波数加速システムを用いてイオンが加速を開始し始めることができるようになる時点との間の時間差を変更するための手段を備える。
【0023】
本発明の第一の側面によると、粒子放射線治療システムは、本発明の上述の実施形態のいずれかの特徴を有する粒子加速器を備えて提供される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によると、粒子放射線治療システムは、一連のスポット照射を提供するように構成されたスポット走査ビーム伝達デバイスを更に備える。
【0025】
本発明の一実施形態によると、スポット走査ビーム伝達デバイスは、各スポット照射に対して単一のビームパルスを用いるように構成される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によると、スポット走査ビーム伝達デバイスは、各スポット照射に対して所要の全粒子数の粒子を伝達するために二つのビームパルスを用いるように構成されて、その粒子放射線治療デバイスは更に、
・ スポット照射に伝達される粒子の所要の全粒子数の所定のパーセンテージで、二つのビームパルスのうち第一のビームパルスの所要の粒子数を定める手段と、
・ スポット照射に対する所要の全粒子数から、第一のビームパルスで既に伝達されている粒子の測定粒子数を引いたものとして、二つのビームパルスのうち第二のビームパルスの所要の粒子数を特定する手段とを備える。
【0027】
代わりに、スポット走査ビーム伝達デバイスは、各スポット照射に対して可変数のビームパルスを用いるように構成されて、その粒子放射線治療デバイスは更に、
・ 最後のビームパルスを除いた全てのビームパルスの所要の粒子数の和がスポット照射に対して伝達される全粒子数の所定のパーセンテージに等しくなるように、可変数のビームパルスの全てのビームパルスに対する所要の粒子数を定める手段と、
・ スポット照射に対して伝達される全粒子数から、スポット照射に対して既に伝達されている粒子の測定された粒子数を引いたものとして、可変数のビームパルスの最後のビームパルスに対する所要の粒子数を特定する手段とを備える。
【0028】
本発明の第二の側面によると、シンクロサイクロトロン型、線形加速器型、又はFFAG加速器型のパルス化ビーム粒子ビーム加速器からのビームパルス内の粒子数を制御するための方法が提供される。ビームパルスは粒子ビーム照射を行うために使用可能である。加速器は、イオン源及び/又はRFシステムの動作に関係するビーム制御パラメータの値の関数として各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段を備える。本発明の方法は、
・ 較正データを発生させるステップであって、
1.粒子数を変更するための手段にビーム制御パラメータの値を適用するサブステップと、
2.加速器からビームパルスを生成及び取り出すサブステップと、
3.取り出されたビームパルス内の粒子数を測定するサブステップと、
4.取り出されたビームパルス内の測定された粒子数を記憶するステップと、
5.一連のビーム制御パラメータの値に対してサブステップ1から4を繰り返すサブステップとを備えたステップと、
・ 粒子ビーム生成を実施するステップであって、
1.各ビームパルスに対して、ビームパルス内の所要の粒子数を特定する外部命令を受信するサブステップと、
2.較正データを用いて所要の粒子数に対応するビーム制御パラメータの所要の値を求めるサブステップと、
3.粒子数を変更するための手段にビーム制御パラメータの所要の値を適用するサブステップと、
4.加速器からビームパルスを生成及び取り出すサブステップとを備えたステップとを備える。
【0029】
有利には、ビームパルス内の粒子数を制御するための本発明に係る方法において、粒子ビーム生成を実施するステップは追加的に、
5.取り出されたビームパルス内の粒子数を測定するサブステップと、
6.測定された粒子数と所要の粒子数との比較を行うサブステップと、
7.その比較に基づいて較正データを修正するサブステップとを備える。
【0030】
本発明は、本発明のシステムを用いた複数のビームパルスによって一連のスポット照射を実施するための方法にも関し、この方法は、一連のスポット照射の各スポットに対して、
・ スポットに伝達される粒子の所要の全粒子数T1を定めるステップと、
・ 粒子数T1の粒子を伝達するための全ビームパルス数を特定して、全ビームパルス数の各ビームパルスに対して所要の粒子数を定めるステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスを適用するステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスの粒子数A1を測定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用する前に、所要の全粒子数と測定された粒子数との間の差T1−A1を計算するステップと、
・ 差T1−A1に等しいものとして最後のビームパルスの所要の粒子数A2を特定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用するステップとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のデバイス及びいくつかの追加素子の概略図を示す。
【図2】図2Aは、全加速サイクルのシーケンスの一例の概略表示を示す。図2Bは、図2Aの全加速サイクルのシーケンスとの相関においてイオン源のオン期間を示す。図2Cは、パルス化加速器から取り出されたビームパルスを表す。
【図3】本発明に係る粒子放射システムを備えた粒子放射線治療設備のレイアウトの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を、添付図面を参照して詳細に説明する。しかしながら、当業者が、複数の等価な実施形態や、本発明を実行する他の方法を想到し得ることは明らかである。従って、本発明の精神及び範囲は、特許請求の範囲の記載のみによって限定されるものである。
【0033】
図1は、本発明に係る粒子加速器11とその制御部、及びいくつかの追加素子の概略図を示す。粒子加速器10(例えば、シンクロサイクロトロン、線形加速器、FFAG加速器等)は、イオン源11と、無線周波数(RF)加速システム12と、ビームパルス内の粒子数を変更するための手段17とを備える。250MeVのプロトンシンクロサイクロトロンを例にとると、典型的なRF加速周波数は50から100MHzの範囲である。シンクロサイクロトロンでは、RF加速システムは、時間変動周波数を有するRF波を生成し、その周波数は、加速中の粒子の質量増加を考慮するために高い方から低い方まで変化する。生成される各ビームパルスに対して、全加速サイクルがリスタートされて、全加速サイクルの周波数は、RF変調周波数(又はRF繰り返し率)によって決定される。RF繰り返し率の典型的な周波数(又はRF変調周波数)は200Hzから1000Hzの間の範囲である。結果としてのビームパルス14は、RF繰り返し率に等しい周波数で加速器から取り出される。例えば、RF繰り返し率が500Hzだと、加速器は、2ms毎にビームパルスを生成し、そのビームパルス幅は、加速器の詳細な設計に依存するものではあるが、典型的にはナノ秒からマイクロ秒の領域内のものである。好ましい実施形態によると、本発明の粒子加速器は、ビームパルス幅が50ms以下であるビームパルスを生成するように構成される。例えば、ビームパルス幅は0.5マイクロ秒であり得る。
【0034】
図2Aは、全加速サイクルのシーケンスの一例の概略表示を示す。全加速サイクル期間20(RF繰り返し期間とも称される)が概略的に示されている。例えば、シンクロサイクロトロンでは、この全加速サイクル期間20は、RF変調期間(例えば2ms)に対応する。図2は、実際のスケールで作成されたものではなく、本発明の一部要素を説明するための基本的なスケッチである。実際には、シンクロサイクロトロンの粒子は、最大エネルギーで抽出される前に数千回ターンして(例えば10000回)、各ターンにおいて、粒子は、RF加速システムによって生成される電場を介して加速される。図2Aは、RF加速システムによって生成されるRF波の(数千のうちの)数個の単一RFサイクルのみを例として示す。上述のように、新たな全加速サイクルの開始時において、加速粒子の相対論的質量増加を考慮するために、RF波の初期RF周波数(初期RFサイクル21で示される)は、最終RF周波数(最終RFサイクル22で示される)よりも高い(例えば、初期値として70MHzで、最終RF周波数値として50MHz)。図2Cに示されるように、各全加速サイクル20に対して、RF変調の周波数によって定義される繰り返しにおいて、ビームパルス14が、加速器から取り出される(例えば2ms毎に)。ビームパルス幅24は、例えば0.5マイクロ秒である。
【0035】
加速器10は、ビーム制御パラメータの値の関数として最小値(例えばゼロの値)から最大値まで各ビームパルス14内の粒子数を変更するための手段17を備える。多様な手段及び多様なビーム制御パラメータを用いた多様な方法が、ビームパルス内のこの強度変更を実施するために用いられ得る。四つの、ビームパルス内の粒子数を変更するための手段17と関連するビーム制御パラメータについて以下説明する。
【0036】
ビームパルス内の粒子数を変更するための第一の手段は、各ビームパルスに対して、イオン源11内で生じたイオンの量を制御するパラメータを調整する。イオン源11は典型的に、接地されていて、一方の端部に加熱フィラメントを有し他方の端部にフローティング防止カソードを有するシリンダー状アークチャンバ又はイオン源ボディを備える。フィラメント又はカソードは、接地に対して負にバイアスされる。フィラメントは、電子を生成する。電子は、非常に小さな螺旋経路を描く磁力線に従い、電子を一方のカソードから他方へと非常に長く伝える。ガス(典型的には、粒子ビームに望まれる粒子に応じて、水素ガス、又は他のガス)は、イオン源の内部に注入される。電子は、その移動中にガス内にエネルギーの一部を失い、プラズマ柱を形成するイオン化を生じさせる。こうしたタイプのイオン源のイオン生成は、イオン源のアーク電流を変更することによって変更可能である。これは、カソード電圧を変化させることによって、又カソードフィラメントに印加される加熱電流を変化させることによって、為され得る。他のタイプのイオン源に対しては、イオン源のイオン生成を変更するためのビーム制御パラメータとして、同様のパラメータが選択可能である。
【0037】
ビームパルス内の粒子数を変更するための第二の手段は、特許文献3に記載されているように無線周波数加速システム12の加速電圧を変化させることである。例えば、シンクロサイクロトロンでは、交流高電圧がD字型電極に印加される。この第二の方法では、D字型電極の交流電圧の振幅が調整される。粒子が従う曲率半径は、その粒子が獲得するエネルギー量に依存するので、粒子(交流D字型電圧に対して異なる位相を有する)は、異なる量のエネルギーを獲得し、結果として、異なる軌道半径を有する。所定の軌道範囲内に落ちる粒子のみが、最大エネルギーへと効率的に加速可能であり、シンクロサイクロトロンから取り出される。ビームパルス毎に加速電圧を調整することによって、ビームパルス内の粒子数を、パルス毎に変更することができる。この第二の方法では、ビーム制御パラメータは加速電圧である。
【0038】
ビームパルス内の粒子数を変更するための第三の手段は、イオン源11がオンにされる期間を変更することである。一般的に、パルス化加速器のイオン源は、パルス化モードで動作し、イオン源は、全加速期間の短い間のみ、イオンを生成するためにオンにされる。その期間を制御することによって、イオン源11がオンにされて、イオン源から取り出されるイオンの量が変更可能であり、全加速サイクル期間内に加速される粒子の数が変更可能である。この第三の方法では、ビーム制御パラメータはイオン源のオン期間である。
【0039】
ビームパルス内の粒子数を変更するための第四の手段は、RF加速システムの動作に対するイオン源の動作の同期に関する。パルス化加速器では、荷電粒子は、イオン源から取り出されて、個別のバンチにおいて最終エネルギーに加速される。RF繰り返し率によって定義される周波数又はRF変調の周波数を有するこのような全加速サイクル(図2Aに示される)の各々に対して、ビームパルス14が加速器から取り出される(図2Cに示される)。全加速サイクル20は、時間変動周波数を有するRF波と共に図2Aに示されていて、高い初期周波数21で始まり、低い最終周波数22に向かう。この第四の方法では、イオン源11のイオン源‘オン’期間23は、全加速サイクルの各々に対して一定に保たれる。この方法で変更されるパラメータは、イオン源11がオンにされる時点と、無線周波数加速システム12を用いてイオンが加速を開始することができるようになる時点との間の時間差である。例えば、サイクロシンクロトロンでは、全加速サイクル20の開始時のほんの少しの時間の間のみ、イオンを位相安定軌道内に捕捉して最終的なエネルギーに加速させることができる。この少しの時間は、受け入れ期間25と称されて、イオン源からのイオンが加速用に受け入れ可能である。図2Aでは、シンクロサイクロトロンにおいて、複数の“ターン”が加速システムによって受け入れられて、イオン源が数回のRFサイクルにおいてオンに保たれているものとする。図2A及び図2Bに示されるように、図示される最初の全加速サイクル20に対して、粒子が加速を開始することができるようになる時点において、イオン源は既にオンにされている(つまり、イオン源オン期間23は、受け入れ期間25の開始前に始まっている)。イオン源11が、イオンが加速を開始することができるようになる時点において既にオンにされていて、イオンを最早加速用に受け入れることができない時点においてオフにされると、ビームパルス14内の粒子数は最大となる。しかしながら、イオン源が、全加速サイクルがリスタートされる時点においてオンではなく(つまりイオンを生成していない)、イオン源が遅い時点においてのみオンに設定されると、ビームパルス内のイオン数は減少する。これは図2A及び図2Bに示されていて、二番目の全加速サイクル20に対して、イオン源は遅い時点においてオンにされて、つまり、イオン源は、受け入れ期間25の一部においてオフのままである。イオン源オン期間23がどれ位受け入れ期間25と位相がずれているのかに応じて、ビームパルス内の粒子数が減じられるか、更にはゼロにすることができる。例えば、図2A及び図2Bに部分的に示される第三の全加速サイクルに対して、イオン源は非常に遅くオンにされて、つまり、イオン源オン期間23と受け入れ期間25との間に重畳が存在せず、このような状況では、ビームパルス14は、この全加速サイクル中に生じない。
【0040】
図1では、粒子数を変更するための手段17は概略的に示されている。説明した四つの方法のどれを採用するのかに応じて、粒子数を変更するための手段17は、イオン源11の制御部及び/又はRF加速システム12の制御部を備える。
【0041】
図1に示されるように、加速器10は、ビームパルス強度を制御するためのビーム制御デバイス15を備える。ビーム制御デバイス15は高速デジタル論理回路を備える。例えば、DSP(Digital signal processing)又はFPGA(field−programmable gate array)ベースのマイクロプロセッサが使用可能である。このビーム制御デバイス15を、以下、ビーム電流制御電子ユニット(BCCEU,beam current control electronic unit)と称する。
【0042】
BCCEU15は、命令を受信するために外部デバイス16(例えば、制御システム)とインターフェース接続する。それらの命令は、コマンド値の形式で受信可能である。このコマンド値は、ビームパルス内に伝達する必要がある所要の粒子数を特定する。例えば、スポット走査システムの場合、各ボクセルに伝達される放射線量は、処置計画システム(図1に示さず)によって処方される。モニタ単位の数として一般的には表される(又はGy単位の放射線量として表されることもある)この放射線量は、BCCEUに互換性のある量及び単位に変換される。この量は例えば、複数の粒子で表される粒子数(H+、C6+、…)や、クーロン単位で表される積分された電荷であり得る。
【0043】
好ましくは、BCCEUは、ビーム制御パラメータの値とビームパルス内の粒子数との間の関係を定義する較正テーブルが記憶されているメモリを備える。代替実施形態では、制御パラメータと粒子数との間の関係は、数学的関数によっても表現可能である。一つよりも多いビーム制御パラメータがビームパルス強度を制御する場合には、複数の較正テーブル又は数学的関数が定義され得る。
【0044】
BCCEUは、ビームパルス内の粒子数を変更するための手段に対して、一つのコマンド値又は複数のコマンド値を送信するためのインターフェースを更に備える。コマンド値は、ビーム制御パラメータの値を特定する。上述のように、特定のビーム制御パラメータを変更することによってビームパルス強度を変更するための方法及びそれに関連するデバイスは四つ存在する。コマンド値は、ビームパルス強度を変更するために実施される方法に依存する。例えば、粒子数を変更するための第三の手段が実施される場合、送信可能なコマンド値は、イオン源‘オン’期間を特定するコマンドである。
【0045】
制御パラメータとビームパルス強度との間の関係は、較正を実施することによって実験的に定義可能である。このような較正は、加速器から取り出されたビームパルス内の粒子数の測定を要する。このため、ビームモニタ13を用いて、加速器10から取り出されたビームパルス内の粒子数(例えば、プロトンH+、炭素イオンC6+、…)を測定することができる。このモニタは例えばイオン化チャンバであり得る。ビームモニタの正確な位置が役割を果たすものではなく、このビームモニタは、例えば加速器の出口に設置されたり、加速器のより上流に配置されたりし得て、又は、このビームモニタは、処置室内のビーム伝達デバイス(ノズルとも称される)に設置されたビームモニタであり得る。ノズルは、処置室に物理的に設置されていてビーム成形及び線量測定に関与する粒子放射線治療設備の部品である。
【0046】
その較正方法について以下説明する。較正データは、パルス化加速器から取り出された単一のビームパルス内の粒子数を、ビーム制御パラメータの設定値の関数として表す。ビーム制御パラメータは、上述の四つのビームパルス強度を変更するための方法に関するいずれかの制御パラメータであり得る。較正曲線を発生させるのに必要なデータは、各ビームパルスに対してビーム制御パラメータの値を徐々に変更しながらビームパルスの生成及び取り出しを繰り返すことによって得られる。好ましくは、ビーム制御パラメータの値は、ビーム制御パラメータの全動作スパンにわたって変更される。まとめると、較正曲線の記録は、
1.最初のビーム制御パラメータ値(例えば最低動作値で始まる)を設定するステップと、
2.ビームパルスを生成して取り出すステップと、
3.取り出されたビームパルス強度を測定するステップと、
4.測定されたビームパルス強度値を記憶するステップと、
5.ビーム制御パラメータを変更するステップと、
6.所定の動作スパン内で一連のビーム制御パラメータ値に対してステップ2から5を繰り返すステップとを備える。
結果として、ビームパルス内の粒子数に対応する複数のビーム制御パラメータ値を備えた較正データテーブルが得られる。
【0047】
代わりに、較正プロセスを介して得られたデータは、数学的関数でフィッティング又は近似可能である。数学的関数を定義するパラメータは、BCCEUのメモリに記憶可能である。
【0048】
好ましい実施形態では、較正曲線を定義するのに必要なデータを発生させるプロセス全体が、自動化コンピュータ制御プロセスとして実施される。このようにして、較正プロセスは、加速器の各使用の前に繰り返し可能である。例えば、加速器が粒子治療放射線設備において使用される場合、較正は、各患者への照射前に実施可能である。
【0049】
較正プロセスが完了すると、制御されたパルス化ビームの伝達を開始することができる。BCCEU15は、外部デバイス16(例えば、制御システム)とのインターフェースを介して、ビームパルス内に伝達する必要のある所要の粒子数を特定する命令を受信することができる。所要の粒子数は、ビームパルス毎に異なり得る。BCCEUが、所要の粒子数でビームスポットを伝達する命令を受信すると、BCCEUは、第一のステップにおいて、ビーム制御パラメータ用の所望の値を求める。このために、BCCEUは、多様な手段を適用することができる。一つの方法は、BCCEUが上述の較正データテーブルを用いることである。所要の粒子数が較正点の一つに等しくない場合には、BCCEUは、所要のデータ点に最近接の二つのデータ点の間で内挿を実施することができる。代わりに、較正点を備えた較正テーブルを用いるのではなくて、BCCEUは、上述の数学的関数を用いることができる。この場合、ビーム制御パラメータの所要の値は、数学的関数で直接計算可能である。第二のステップにおいて、BCCEU15は、所要のビーム制御パラメータの値を、粒子数を変更するための手段17に送信し、その手段は、所要の粒子数を有するビームパルスを生成するように加速器を設定する。
【0050】
本発明に従って加速器で生成されるビームパルスは、高精度で伝達可能であり、つまり、ビームパルス内に有効的に伝達される粒子数(ビームパルス強度)は、特定の許容範囲内で所要の粒子数に等しい。本願で説明される方法でビームパルス強度に対する高精度を得ることができるのは、加速器の性能を特徴付ける一連の物理量が変更されないままであり、又は時間の関数としてゆっくりとのみ変化するという点に基づく。これらの量は、例えば、イオン生成用のイオン源効率、イオンの加速効率、加速器からイオンを取り出す効率である。
【0051】
以下、ビームパルス強度の精度を更に改善することができる代替実施形態について説明する。ビームパルス内の粒子数と制御パラメータの値との間の関係は時間と共に僅かにドリフトする可能性があるので、代替実施形態では、加速器がビームパルスを生成する度に較正データを連続的にアップデートすることを提案する。このため、BCCEUは、各ビームパルスの生成後に較正データを自動的に再調整する制御手段を備える。この再調整は、上述のように、ビームモニタから受信した測定粒子数を、外部システムによって特定される所要の粒子数と比較することによって行われる。較正データが、対応する粒子数を備えた制御ビームパラメータのリストとして較正テーブル内に記憶されている場合、リストをアップデートする方法は多様なものが存在する。例えば、測定粒子数と所要の粒子数との比較が許容範囲外である場合、較正データ点が追加されたり、データ点が新たなデータ点と置換されたり、既存のデータ点が再調整されたりし得る。較正データが数学的関数で近似される場合、アップデートされた較正データに対する新たなフィッティング、及び数学的関数のパラメータ値のアップデートを行うことができる。
【0052】
本発明に係る加速器10は、粒子放射線治療用によく適したものである。図3は、本発明に係る粒子放射線治療システム35を備えた粒子放射線治療設備の一例を示す。この粒子放射線治療システムは、エネルギー荷電粒子を生成するためのパルス化ビーム加速器10(例えば、シンクロサイクロトロン)に加えて、粒子ビームのエネルギーを変更する手段31と、ビーム輸送システム32と、粒子ビーム伝達デバイス33(ノズルとも称される)とを備える。ビーム輸送システムは、一以上の処置室34にビームを輸送するものである。粒子ビーム伝達システム33は、コンフォーマルな放射線量分布をターゲットボリュームに伝達し、伝達された放射線量をモニタリング及び測定するものである。多様なタイプの粒子ビーム伝達システムが存在し、その各々は、コンフォーマルな放射線量をターゲットボリュームに伝達するのに異なる方法を適用する。粒子ビーム伝達において用いられる方法として二つの主な方法が存在し、より一般的なパッシブ散乱法と、より先進的な走査法とである。
【0053】
先進的な走査ビーム伝達法の一例は、所謂スポット走査法(非特許文献1)である。本発明では、スポット走査用のパルス化加速器を用いる際の長い照射時間の問題が解決可能である。上述のように、スポット走査では、ターゲットは、典型的には5000から10000個のボクセル(つまり基本ターゲットボリューム)に分割され、処方された放射線量を、典型的には1%の精度で各ボクセルに伝達する必要がある。スポット走査では、放射線量は、各ボクセルに対するスポット照射を行うことによって、各ボクセルに伝達される。更に、Pedroni等は、臓器運動を補償するためにターゲットボリュームの多重リペインティングを実施することを提案しており、ターゲット照射を完了するためのスポット照射の総数が更に増加する。全ターゲット照射時間を合理的な値(典型的には60秒)に減じるために、単一のスポット照射の照射時間を、最大数ミリ秒のレベルに減じる必要がある。シンクロサイクロトロンからのパルス化ビームを用い、照射時間を合理的なレベルに保つためにスポット照射を2ミリ秒内に実施する必要がある場合、スポット照射を、理想的には単一のビームパルスで完了させる必要がある。ビームパルス持続時間は上述のように極端に短いので、ビームパルスをパルスの途中で中断することは不可能であり、ビーム伝達は、整数のビームパルスとしてのみ実施可能である。結果として、スポット照射を一回の又は限られた整数のビームパルスでのみ実施する必要がある場合、ターゲットボリューム内の所要の放射線量精度を保証することができるようにするために、各ビームパルスのビーム強度を高精度で制御する必要がある。
【0054】
本発明に係るパルス化ビーム加速器では、スポット走査を、典型的には1%の所要の精度で合理的な全照射時間内(典型的な全照射時間は60秒)に実施することができる。実際、上述のように、ビーム制御パラメータを調整し、ビームパルス内の粒子数とビーム制御パラメータとの間の関係を定義する較正データを発生させることによりビームパルス内の粒子数を変更する手段を用いることによって、明確な粒子数を含む単一のビームパルスを生成することができるので、スポット走査法を用いる場合に、単一のビームパルスを用いて、スポット照射を行うことができる。
【0055】
上述のように、本発明の代替実施形態では、加速器がビームパルスを生成する度に較正データが連続的にアップデートされる。較正曲線を永続的にアップデートするこのフィードバックループに加え、スポット走査用にパルス化ビーム加速器を用いる二つの追加の改良実施形態について、以下説明する。
【0056】
第一の改良実施形態では、各スポット照射は、一つのビームパルスの代わりに、二つのビームパルスで実施される。各スポット照射に対する所要の全粒子数の粒子を伝達する二つのビームパルスは以下のように定義される:
1.二つのビームパルスのうち第一のものに対する所要の粒子数は、スポット照射に対して伝達される所要の全粒子数の所定のパーセンテージ(例えば90%)で定義される。
2.二つのビームパルスのうち第二のものに対する所要の粒子数は、スポット照射に対する所要の全粒子数から、第一のビームパルスで既に伝達された粒子の測定数を引いたものとして定義される。例えば、第一のビームパルスに対する所要の粒子数が90%に設定され、この第一のビームパルスの測定粒子数が88%に対応する場合、第二のパルスに対する所要の粒子数は12%に設定される。
第一のパルス中に伝達される粒子数の測定は、ビームモニタで測定される。このビームモニタは、加速器の出口、又はビーム輸送システムに沿ったいずれかの箇所に設置可能であるが、好ましくは、粒子ビーム伝達デバイス33内に設置されたビームモニタであり得る。この二つのスポット照射法の利点は、パルス毎の粒子数を生じさせるのに必要な精度が減じられる点である。実際には1%のスポット照射精度を得る必要がある場合でも、より低いビームパルス強度の精度が許容可能となる。一例として、加速器で得ることができるビームパルス強度の精度が5%であるとしてみる。第一のビームパルスに対しては、所要の粒子数は例えば90%に設定可能である。5%の誤差の可能性を考慮すると、測定粒子数は例えば86%であり得る(90±5%の数が想定される)。上述の方法では、第二のパルスは100%−86%=14%に設定されて、第二のパルスも、5%の精度で伝達される。この例では、スポット走査照射の全精度は、0.7%(0.05×14)であり、5%のパルス強度の精度で、スポット走査照射を、1%以下の制度で実施することができる。
【0057】
第二の改良実施形態では、各スポット照射は、可変数のビームパルスで実施される。そのアイディアは、可変数のパルスで所要の全粒子数の大部分のパーセンテージの粒子を伝達して、不足している数の粒子を伝達するのに最後のビームパルスを用いることである。各ビームパルスに対する粒子数は以下のように定義される:
1.可変数のビームパルスの最初の方のビームパルス(複数)は、所要の粒子数の和がそのスポット照射用に伝達される粒子の全粒子数の所定のパーセンテージ(例えば90%)に等しくなるように定められる。例えば、全部で4つのパルスを用いてスポットを照射する場合、最初の方の3つのビームパルスを、スポット照射において伝達される粒子の全粒子数の30%を各々伝達するように定めることができる。
2.可変数のビームパルスの最後のビームパルスに対する所要の粒子数は、スポット照射に対して伝達される粒子の全粒子数から、そのスポット照射に対して既に伝達された粒子の測定粒子数を引いたものとして定義される。例えば、全部で4つのパルスを用い、最初の方の3つのビームパルスのビーム粒子の測定数の和が87%に対応する場合、最後のビームパルスに対する所要の粒子数は、所要の全粒子数の13%に設定される。
【0058】
この第二の改良実施形態は、例えば、ターゲットボリュームの多重リペインティングが行われるスポット照射システムと組み合わせて使用可能である。このようなシステムでは、一以上のボクセルに伝達される放射線量は、複数の“ペインティング”に分割可能である。例えば、スポット照射が10ペインティングに分割されるとすると、最初の方の9ペインティングの各々に対する所要の粒子数は、所要の全粒子数の10%に設定可能である。ペインティング数10の最後のペインティングに対しては、所要の粒子数は、最初の方の9ペインティング中に伝達される測定粒子数に従って決定される。
【0059】
最後の実施形態は以下のようにも説明可能である。即ち、粒子放射線治療システムで複数のビームパルスによるスポット照射を実施する方法であって、そのシステムは、本発明に係る粒子加速器、つまり、各ビームパルスに対して特定された粒子数を受信して、その数の粒子を所定の較正テーブル又は数学的関数に基づいて伝達するための手段が設けられたシンクロサイクロトロン型等の加速器を備え、その放射線治療システムは、一連のスポット照射を提供するように構成されたスポット走査ビーム伝達デバイスを更に備える。ここで、この方法は、一連のスポット照射の各スポットに対する以下のステップによって特徴付けられる:
・ そのスポットに伝達される粒子の所要の全粒子数T1を定めるステップと、
・ その粒子数T1の粒子を伝達するための全ビームパルス数を特定して、その全ビームパルス数の各ビームパルスに対する所要の粒子数を定めるステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスを適用するステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスの粒子数A1を測定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用する前に、所要の全粒子数と測定粒子数との間の差T1−A1を計算するステップと、
・ その差T1−A1に等しい最後のビームパルスの所要の粒子数A2を特定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用するステップ。
【0060】
従って、本発明は、本発明に係る粒子加速器、つまり、各ビームパルスに対して特定された粒子数を受信して、その数の粒子を所定の較正テーブル又は数学的関数に基づいて伝達するための手段が設けられたシンクロサイクロトロン型等の加速器を備えた粒子放射線治療システムの使用にも関し、その放射線治療システムは、一連のスポット照射を提供するように構成されたスポット走査ビーム伝達デバイスを更に備える。この使用は、一連のスポット照射の各スポットに対する以下のステップによって特徴付けられる:
・ そのスポットに伝達される粒子の所要の全粒子数T1を定めるステップと、
・ その粒子数T1の粒子を伝達するための全ビームパルス数を特定して、その全ビームパルス数の各ビームパルスに対する所要の粒子数を定めるステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスを適用するステップと、
・ 最後のビームパルスを除いたビームパルスの粒子数A1を測定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用する前に、所要の全粒子数と測定粒子数との間の差T1−A1を計算するステップと、
・ 差T1−A1に等しい最後のビームパルスの所要の粒子数A2を特定するステップと、
・ 最後のビームパルスを適用するステップ。
【0061】
本発明によると、パルス化粒子加速器のビームパルス内の粒子数を制御することが可能になる。本発明の粒子加速器は、ビーム制御パラメータのパラメータ値に基づいて各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段を備え、また、その加速器は、ビームパルス内の粒子数とビーム制御パラメータとの間の関係を定義する較正データも備える。これは、粒子放射線治療において所謂スポット走査照射を行うために特に関心のあるものである。限られた数のビームパルスを用いることによって照射時間を減らすのと同時に高精度の放射線量伝達を得るスポット走査照射を可能にする方法が開示される。
【0062】
本発明の説明において、“粒子数”との用語が、ビームパルス内の粒子の物理量を特定するのに用いられている。同じ用語は、例えば外部制御システム16から受信される情報や、ビームモニタ13から受信される情報を特定するのにも用いられている。本発明のデバイスの具体的な実現の詳細に応じて、“粒子数”以外の他の物理量が使用可能である。例えば、イオン化チャンバがビームモニタとして使用される場合、測定されるのは、放射線量であり、これは“粒子数”の直接的な測定量ではない。当業者にとって、測定放射線線量が粒子数とどのように関係するのかは知られている。同じことが、制御システム16から受信される情報にも当てはまり、ビームパルス内に必要とされる粒子数は、他の物理量を用いて表現可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 加速器
11 イオン源
12 無線周波数加速システム
13 ビームモニタ
14 ビームパルス
15 ビーム制御デバイス
16 制御システム
17 粒子数を変更するための手段
20 全加速サイクル期間(=RF繰り返し期間=RF変調期間)
21 初期RF周波数
22 最終RF周波数
23 イオン源オン期間
24 ビームパルス幅
31 エネルギーを変更するための手段
32 ビーム輸送システム
33 ビーム伝達デバイス
34 処置室
24 粒子放射線治療システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーパルス化イオンビームを生成するためのシンクロサイクロトロン型、線形加速器型、又はFFAG加速器型の粒子加速器(10)であって、該粒子加速器が、イオンを生成するためのイオン源(11)と、前記イオンを加速するための無線周波数加速システム(12)とを備え、該加速器が、
前記イオン源及び/又は前記無線周波数加速システムの動作に関係しているビーム制御パラメータの値の関数として、最小値から最大値まで、前記パルス化イオンビームの各ビームパルス(14)内の粒子数を変更するための手段(17)と、
ビーム制御デバイス(15)とを備え、該ビーム制御デバイス(15)が、
各ビームパルスに対して所要の粒子数を特定する外部命令を受信するためのインターフェースと、
較正テーブルを記憶するための、又は前記ビーム制御パラメータの値と前記ビームパルス内の粒子数との間の関係を定義する数学的関数のパラメータ値を記憶するための手段と、
前記較正テーブル又は前記数学的関数を用いて前記所要の粒子数に対応する前記ビーム制御パラメータの所要の値を求めるための手段と、
前記ビーム制御パラメータの所要の値を前記粒子数を変更するための手段(17)に送信するためのインターフェースとを備えることを特徴とする粒子加速器。
【請求項2】
前記ビーム制御デバイス(15)が、
ビームモニタ(13)を用いて実施される測定で測定されたビームパルス(14)内の測定粒子数を特定する外部信号を受信するためのインターフェースと、
前記測定粒子数に基づいて前記較正テーブル又は前記パラメータ値をアップデートするための手段とを更に備える、請求項1に記載の粒子加速器。
【請求項3】
前記ビーム制御パラメータに対して複数の異なる値を定め、各値に対してビームパルスを生成して、生成された各ビームパルス内の対応する粒子数を測定することによって、前記較正テーブル又は前記数学的関数を自動的に発生させるための制御手段を更に備えた請求項2に記載の粒子加速器(10)。
【請求項4】
前記粒子加速器によって各ビームパルスが生成された後に前記較正テーブル又は前記数学的関数を自動的に再調整するための制御手段を更に備え、再調整が、前記測定粒子数を前記所要の粒子数と比較することによって行われる、請求項2又は3に記載の粒子加速器。
【請求項5】
前記各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段が、前記イオン源(11)のアーク電流を変更するための手段を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の粒子加速器。
【請求項6】
前記各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段が、前記無線周波数加速システム(12)の加速電圧を変更するための手段を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の粒子加速器。
【請求項7】
前記各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段が、前記イオン源(11)がオンにされる期間を変更するための手段を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の粒子加速器。
【請求項8】
前記各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段が、前記イオン源がオンにされる時点と、前記無線周波数加速システム(12)を用いて前記イオンが加速を開始することができるようになる時点との間の時間差を変更するための手段を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の粒子加速器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の粒子加速器(10)を備えることを特徴とする粒子放射線治療システム(35)。
【請求項10】
一連のスポット照射を提供するように構成されたスポット走査ビーム伝達デバイス(33)を更に備えた請求項9に記載の粒子放射線治療システム(35)。
【請求項11】
前記スポット走査ビーム伝達デバイス(33)が、各スポット照射に対して単一のビームパルスを用いるように構成されている、請求項10に記載の粒子放射線治療システム(35)。
【請求項12】
前記スポット走査ビーム伝達デバイス(33)が、各スポット照射に対して所要の全粒子数の粒子を伝達するのに二つのビームパルスを用いるように構成されていて、前記粒子放射線治療システムが、
前記スポット照射に伝達される粒子の所要の全粒子数の所定のパーセンテージで、前記二つのビームパルスのうち第一のビームパルスに対する所要の粒子数を定める手段と、
前記スポット照射に対する所要の全粒子数から、前記第一のビームパルスで既に伝達されている粒子の測定粒子数を引いたものとして、前記二つのビームパルスのうち第二のビームパルスの所要の粒子数を特定する手段とを更に備えた、請求項10に記載の粒子放射線治療システム(35)。
【請求項13】
前記スポット走査ビーム伝達デバイス(33)が、各スポット照射に対して可変数のビームパルスを使用するように構成されていて、前記粒子放射線治療システムが、
前記可変数のビームパルスの全ビームパルスに対する所要の粒子数を、最後のビームパルスを除いた全ビームパルスの所要の粒子数の和が前記スポット照射に対して伝達される粒子の全粒子数の所定のパーセンテージに等しくなるように定める手段と、
前記スポット照射に対して伝達される粒子の全粒子数から、前記スポット照射に対して既に伝達されている粒子の測定粒子数を引いたものとして、前記可変数のビームパルスの最後のビームパルスに対する所要の粒子数を特定する手段とを更に備えた、請求項10に記載の粒子放射線治療システム(35)。
【請求項14】
シンクロサイクロトロン型、線形加速器型、又はFFAG加速器型のパルス化ビーム粒子ビーム加速器(10)からのビームパルス(14)内の粒子数を制御するための方法であって、前記ビームパルスが、粒子ビーム照射を実施するために使用されるものであり、前記加速器(10)が、ビーム制御パラメータの値の関数として、各ビームパルス内の粒子数を変更するための手段(17)を備え、前記ビーム制御パラメータが、イオン源及び/又はRFシステムの動作に関係していて、該方法が、
較正データを発生させるステップであって、
前記粒子数を変更するための手段(17)に前記ビーム制御パラメータの値を適用するサブステップ1と、
前記加速器(10)からビームパルスを生成して取り出すサブステップ2と、
取り出された前記ビームパルス内の粒子数を測定するサブステップ3と、
取り出された前記ビームパルス内の測定粒子数を記憶するサブステップ4と、
一連のビーム制御パラメータの値に対してサブステップ1から4を繰り返すサブステップ5とを備えたステップと、
粒子ビーム生成を行うステップであって、
各ビームパルスに対して、ビームパルス内の所要の粒子数を特定する外部命令を受信するサブステップ1と、
前記較正データを用いて前記所要の粒子数に対応する前記ビーム制御パラメータの所要の値を求めるサブステップ2と、
前記粒子数を変更するための手段(17)に前記ビーム制御パラメータの所要の値を適用するサブステップ3と、
前記加速器(10)からビームパルスを生成し取り出すサブステップ4とを備えたステップを備える、方法。
【請求項15】
前記粒子ビーム生成を行うステップが、
取り出された前記ビームパルス内の粒子数を測定するサブステップ5と、
測定された前記粒子数と前記所要の粒子数との比較を行うサブステップ6と、
前記比較に基づいて前記較正データに修正を適用するサブステップ7とを更に備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項10に記載のシステムを用いて複数のビームパルスによる一連のスポット照射を実施するための方法であって、前記一連のスポット照射の各スポットに対して、
前記スポットに伝達される粒子の所要の全粒子数T1を定めるステップと、
前記粒子数T1の粒子を伝達するための全ビームパルス数を特定して、前記全ビームパルス数の各ビームパルスに対して所要の粒子数を定めるステップと、
最後のビームパルスを除いたビームパルスを適用するステップと、
前記最後のビームパルスを除いたビームパルスの粒子数A1を測定するステップと、
前記最後のビームパルスを適用する前に、前記所要の全粒子数と測定された粒子数との間の差T1−A1を計算するステップと、
前記差T1−A1に等しい前記最後のビームパルス内の所要の粒子数A2を特定するステップと、
前記最後のビームパルスを適用するステップとを備えることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2A−2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−501308(P2013−501308A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516743(P2012−516743)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059001
【国際公開番号】WO2010/149740
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(509125981)
【Fターム(参考)】