説明

粒子分析装置

【課題】簡単な構造でありながら、イオン化するためのレーザを粒子に確実に照射できるようにすること及びそのレーザの誤射を防止する。
【解決手段】測定対象である粒子を所定方向に移動させる粒子移動手段2と、粒子Sに対し、検出光Lを照射する光源31と、その検出光Lの照射によって生じる散乱光LSを検出する光検出器32と、その光検出器32から出力された光強度信号を受信し、その光強度信号の値に基づいて粒子Sの粒径を算出する粒径算出部61と、検出光Lが照射された粒子Sに対し、その移動方向と対向する方向からエネルギ線ELを照射して、その粒子Sをイオン化するイオン化部4と、イオン化された粒子の質量分析を行う質量分析部5と、を備え、前記質量分析部5が、前記光検出器32からの光強度信号を受け付け、その信号の時間波形をパラメータとして、エネルギ線ELの照射タイミングを決定する照射タイミング決定部63を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大気中の粒子状物質やエアロゾル粒子あるいは自動車排気ガスの微小粉塵等(以下、いずれも粒子という。)の粒径や化学組成あるいは化学成分を分析するための粒子分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車特にディーゼル自動車の排気ガス中のスス微粒子が、健康に悪影響を及ぼす可能性が高いということが社会問題となっており、その規制が始まりつつある。
【0003】
従来、スス微粒子のような粒子の分析を行う際には、粒子をフィルタ上に捕集した後、目的成分を選択的に溶解する条件で1日程度かけて抽出し、必要に応じて精製あるいは濃縮操作を行ってから機器分析を行う手法が用いられている。
【0004】
ところが、上記のような分析法では、エンジンの運転条件による排気ガス中の粒子成分の変動や、浮遊粒子の成分の日内変動のように短時間での成分の変化を追跡することができない。すなわち粒径、化学組成あるいは化学成分の時間変動・空間分布などを正確且つ迅速に測定できないので、対象とする粒子の性質を正しく把握することができない。さらに、前記方法では、多数の粒子をフィルタ上に捕集するため1つ1つの粒子に関する情報が得られず、大きさによる成分の違いについても情報を得ることができない。
【0005】
そこで近時では、特許文献1に示すように、レーザイオン化飛行時間型質量分析計と、回折/散乱式粒径測定装置とを組み合わせ、粒子の質量や大きさあるいはそれらから推定される組成や成分を非常に短時間で、ほぼリアルタイムで測定できるようなシステムも考えられつつある。
【0006】
このシステムでは、通過する粒子により生じる散乱光を検出して粒子の存在を確認し、その粒子に対してレーザを当てるようにしている。
【0007】
しかし、粒子の移動方向に対して直角又は斜め方向からレーザを照射してイオン化させるためには、移動している粒子に対してパルスレーザをピンポイントに正確に照射しなくてはならず、これには複雑な計算及び高精度の機器制御が必要になり、構造が複雑になってしまうという問題がある。
【0008】
さらに従来、光検出器からの光強度信号が閾値以上であれば、粒子が検出光を横切ったと判断して、イオン化するためにレーザを照射するようにしている。このようなものであると、より小さいサイズの粒子を検出しようとすると、散乱光を検出した光検出器からの光強度信号の値が弱くなるため、検出光を横切った粒子を判断するための閾値を下げる必要がある。
【0009】
しかしながら、閾値を下げると光検出器からのダークパルスや装置内の壁による散乱光による光検出信号の値も閾値以上となってしてしまい、ダークパルスや壁による散乱光も検出してしまい、イオン化するためのパルスレーザを誤射してしまうという問題がある。
【0010】
この他に、2つの光検出器を用いて、2つ同時に光強度信号が得られた場合には粒子による散乱光であると判断し、同時に光強度信号が得られない場合にはダークパルスであると判断する方法もあるが、この方法では2つの光検出器が必要となるため、コストが2倍になってしまうだけでなく、設置スペースが大きくなってしまうという問題がある。
【特許文献1】米国特許第4,383,171号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、簡単な構成でありながら、イオン化するためのレーザを粒子に確実に照射できるようにすること及びそのレーザの誤射を防止することをその所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明に係る粒子分析装置は、測定対象である粒子を所定方向に移動させる粒子移動手段と、前記粒子に対し、検出光を照射する光源と、その検出光の照射によって生じる散乱光を検出する光検出器と、前記検出光が照射された粒子に対し、その移動方向と対向する方向からエネルギ線を照射して、その粒子をイオン化するイオン化部と、前記イオン化された粒子の質量分析を行う質量分析部と、を備え、前記質量分析部が、前記光検出器からの光強度信号を受け付け、その信号の時間波形をパラメータとして、前記エネルギ線の照射タイミングを決定する照射タイミング決定部を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、「時間波形」とは、縦軸を光強度信号の値とし、横軸を時間とした場合に表される光強度信号の値の時系列を示す波形のことである。なお、横軸と縦軸とを逆にしても良い。
【0014】
このようなものであれば、粒子の移動方向とイオン化するためのエネルギ線の入射方向とを対向させているので、簡単な構成でありながら、イオン化するためのレーザを粒子に確実に照射できることができる。また、光強度信号の時間波形をパラメータとしているので、粒子が検出光を通過したときに生じる散乱光の光強度信号と、ダークパルスや壁による散乱光等のノイズ信号との判別ができるようになるので、ノイズ信号の誤検出によるレーザの誤射を防止することができる。
【0015】
具体的な時間波形の判断方法としては、前記照射タイミング決定部が、前記光強度信号の時間波形の波高値及びその時間幅をパラメータとして、前記エネルギ線の照射タイミングを決定するものであることが望ましい。
【0016】
例えば、前記照射タイミング決定部が、前記時間波形の波高値が予め定めた基準波高値以上であり、かつその基準波高値以上の時間幅が、予め定めた基準時間以上である場合に、前記エネルギ線を照射することが考えられる。
【0017】
そして、測定対象粒子の濃度、流速及び粒径等によって、光強度信号の時間波形が異なることから、前記基準波高値及び前記基準時間を受け付ける基準値受付部をさらに備え、前記照射タイミング決定部が、前記基準値受付部が受け付けた基準波高値及び基準時間に基づいて、前記エネルギ線の照射タイミングを決定するものであることが望ましい。
【0018】
ここで、基準波高値及び基準時間は、前記粒子の濃度、移動速度(流速)又は粒径に基づいて定められることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、粒子の移動方向とイオン化するためのエネルギ線の入射方向とを対向させているので、簡単な構成でありながら、イオン化するためのレーザを粒子に確実に照射できることができる。また、光強度信号の時間波形をパラメータとしているので、粒子が検出光を通過したときに生じる散乱光の光強度信号と、ダークパルスや壁による散乱光等のノイズ信号との判別ができるようになるので、ノイズ信号の誤検出によるレーザの誤射を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1実施形態>
【0021】
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る粒子分析装置1は、図1に模式的に示すように、試料である粒子Sを含む大気をイオン化室A内に導入するための試料導入部2と、イオン化室A内に導入された気体中に含まれる粒子Sの粒径を計測する粒径測定部3と、前記検出光Lが照射された粒子Sに対し、その移動方向とは対向する方向からエネルギ線ELを照射して、その粒子Sをイオン化するイオン化部4と、そのイオン化された粒子の質量分析を行う質量分析部5と、粒径測定部3及び質量分析部5からの信号を受信して粒子Sの粒径、化学組成及び化学成分を算出等する情報処理装置6とからなる。
【0023】
以下に各部2〜6について詳述する。
【0024】
粒子移動手段である試料導入部2は、図2、3に示すように、3段階の差動排気システムを利用したエアロダイナミックレンズ21を用いたものであり、粒径測定及びイオン化が行われるイオン化室Aに、試料である粒子Sを含む大気が所定方向を通過するように導入するものである。ここでイオン化室A内の圧力は、図示しないロータリーポンプとターボ分子ポンプとを用いて10―3Pa程度に設定している。
【0025】
次に、粒径測定部3は、図2に示すように、試料導入部2からイオン化室A内に導入された大気中に浮遊している粒子Sに対して検出光Lを照射するための光源31と、その検出光Lの照射によって生じる散乱光LSの光強度を検出する光検出器32と、当該光検出器32によって検出された散乱光強度信号を変換等の処理を行い情報処理装置6に出力するバッファ、増幅器等で構成されている信号処理器33とからなる。
【0026】
光源31は、イオン化室A内に導入された大気中に含まれる粒子Sにコヒーレントな連続レーザ光である検出光Lを照射するものである。具体的には、イオン化室Aを形成している真空容器10に設けられた光導入孔11から検出光Lを照射する。すなわち、検出光Lの光軸を粒子Sの移動方向に対して一定角度(本実施形態では斜め)に設定するとともに、検出光Lの光軸が後述する加速可能領域Bの略中心を通るように設定している。本実施形態では、光源31はアルゴンイオンレーザ(514.5nm)である。なお、真空容器10には、透過光LTがイオン化室Aの内壁で反射して散乱光LSと混ざらないように光放出孔12を設けるようにしており、この光放出孔12から透過光LTは放出される。なお、光放出部としての光放出孔12の代わりに、透過光LTを吸収する光吸収部材を配置しても良い。
【0027】
光検出器32は、光電子倍増管を用いており、粒子Sによる散乱光LSを検出するものである。そして、信号処理器33を介して情報処理装置6に出力する。また、散乱光LSを効率良く検出するために光電子倍増管32とイオン化室Aとを連接する案内筒13には、散乱光LSを集光するための集光レンズ14を設けるようにしている。前記光検出器32は、検出光L自体が常時入射しない位置であって、前方散乱光LSを受光できるように配置されている。
【0028】
また、イオン化部4は、パルスレーザ照射手段41を有するものである。そして、エネルギ線照射手段であるパルスレーザ照射手段41は、図3の左側から矢印方向に沿って飛行移動している粒子Sに対して確実にパルスレーザELを照射するために、粒子Sの移動方向(飛行経路)と対向するようにレーザ入射方向を設定している。すなわち、パルスレーザELをイオン化室A内に照射するための照射孔15を、試料導入部2の試料導入孔211とパルスレーザELの照射通路と前記飛行通路とが重畳的となるように、対向配置している。
【0029】
さらに、粒径を測定した粒子Sを確実にイオン化するため、パルスレーザELを照射するタイミングは、光検出器32が粒子Sからの散乱光LSによる光強度信号を出力したことをトリガとして、情報処理装置6により直後あるいは時間間隔をおいてパルスレーザ照射手段41に制御信号を出力しパルスレーザELを粒子Sに照射するようにしている。
【0030】
しかして、本実施形態のパルスレーザ照射手段41は、波長が193nm、パルス幅が20nsのエキシマレーザであり、このレーザELを粒子Sに照射することにより粒子Sのアブレーションとイオン化を同一パルス内で起こるようにしている。
【0031】
そして、質量分析部5は、図3に示すように、イオン化された粒子Sを加速させる加速電極52と、加速された粒子Sが所定空間内を飛行する時間を測定し、その飛行時間に基づいて当該粒子Sの質量を算出する飛行時間型質量分析部53とからなる。
【0032】
加速電極52は、粒子Sの移動方向に対して垂直にイオンを加速するようにしており、正イオンを加速させるための正イオン加速電極521と、負イオンを加速させるための負イオン加速電極522とからなる。そして、正イオン加速電極521と負イオン加速電極522とが対向するように配置している。また、正イオン加速電極521及び負イオン加速電極522はそれぞれ中心孔を有する円盤を複数、軸を一致させて配置したものであり、各円盤の中心孔で形成される仮想円柱とイオン化室Aとの共通部分が、イオン化されたイオンを加速する加速可能領域Bを形成している。正イオン加速電極521の電圧を−1500V、負イオン加速電極522の電圧を1500Vに設定している。
【0033】
なお、加速電極52は正イオン加速電極521と負イオン加速電極522とに分けることなく加速電圧52の正負を変えて後述するイオン検出器532に向かって加速されるイオンの極性を逆転することにより、イオン化により生成した正イオン及び負イオンを測定することも考えられる。
【0034】
飛行時間に基づいてイオン化された粒子Sの質量を分析する飛行時間型質量分析部53は、前記加速電極52により加速され、自由飛行中のイオンを跳ね返すリフレクトロン531と、該リフレクトロン531により跳ね返されたイオンを検出するイオン検出器532とから構成している。このときリフレクトロン531は加速電極52と対向する位置に設けており、イオン検出器532はリフレクトロン531と対向する位置、即ち加速されたイオンが自由飛行を開始する位置の近傍に設けている。さらに、本実施形態では飛行距離を700mmとしている。
【0035】
イオン検出器532は、マイクロチャンネルプレート(MCP)を利用したものである。そして、イオン検出器532にイオンが到達したことにより生じる信号であるイオン信号を図示しない増幅器を介して情報処理装置6に出力するものである。
【0036】
情報処理装置6は、図4に示すようにCPU601、メモリ602、入出力インターフェイス603等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、前記メモリ602の所定領域に記憶させた所定のプログラムにしたがってCPU601、周辺機器等を協働させることにより、図5に示すように、信号処理器33で処理された拡散散乱光強度信号の値に基づいて前記粒子Sの粒径分布を算出する粒径算出部61と、増幅器で処理されたイオン信号に基づいて加速後イオン検出器532に到達するまでの時間を算出し、質量スペクトル等を算出する質量算出部62と、パルスレーザ照射手段41のパルスレーザELの照射タイミングを制御する照射タイミング決定部63として機能するものである。ここで、イオンの到達時間はイオンのm/eの平方根に比例するので、例えばm/e=100のものは、エキシマレーザ照射後およそ15μs後にイオン検出器432に到達する。
【0037】
照射タイミング決定部63は、光検出器32から光強度信号を受け付けて、その光強度信号の時間波形をパラメータとして、パルスレーザ照射手段41がパルスレーザELを照射するタイミングを決定するものである。
【0038】
つまり、光検出器32からの光強度信号が、粒子Sにより生じた散乱光LSによるものであるか、光検出器32からのダークパルス又は装置1内の壁により生じた散乱光によるものであるかを判別するものである。
【0039】
具体的な判別方法について説明する。本実施形態において照射タイミング決定部63は、光検出器32からの光強度信号の時間波形の波高値及びその時間幅に基づいて照射タイミングを決定する。
【0040】
このとき、粒子Sが検出光Lを通過するに生じる散乱光LSの光強度信号の時間波形と、光電子増倍管32のダークパルス及び壁により生じる散乱光の光強度信号の時間波形とが異なることを利用する。光電子増倍管32のダークパルスや壁からの散乱光強度信号(ノイズ信号)は、図6に示すように、時間幅が非常に狭い信号である(図6の(1))。一方、気体流れの粒子Sが検出光Lを横切るときの散乱光LSの光強度信号は、検出光Lを横切っている間中生じるので、ノイズ信号に比べて、時間幅が長い信号として現れる(図6の(2))。
【0041】
このようなことから、本実施形態の照射タイミング決定部63は、所定時間(本実施形態では1マイクロ秒)をおいて、少なくとも2回光強度信号の値と閾値とを比較する。つまり、光強度信号が、予め定めた閾値を超えたときと、それから所定時間(1マイクロ秒)経過後に再び光強度信号の値が閾値を超えているかを調べる。そして、このとき光強度信号の値が前記閾値を超えている場合には、その光強度信号は粒子Sの散乱光LSによるものであると判断する。一方、2回目の検出のときに光強度信号が閾値よりも小さい場合には、その光強度信号は光検出器32のダークパルス又は壁からの散乱光によるものであると判断する。
【0042】
そして、照射タイミング決定部63は、光検出器32からの光強度信号が粒子Sの散乱光LSによるものであると判断した場合のみ、その判断直後又は所定の時間間隔をおいて、パルスレーザELを粒子Sに照射してイオン化すべくパルスレーザ照射手段41に制御信号を出力する。
【0043】
次に、このように構成した本実施形態に係る粒子分析装置1を用いて都市大気中に含まれる粒子Sを測定するときの動作を以下に述べる。
【0044】
まず、差動排気システムを利用したエアロダイナミックレンズ21を用いて、都市大気を試料導入孔211からイオン化室Aに取り込む。
【0045】
そして、取り込まれた大気が通過する経路に対して検出光LであるアルゴンイオンレーザLを照射し、粒子Sがその検出光Lを横切るときに発生する散乱光LSを光検出器32が検出する。
【0046】
このとき、光検出器32からの散乱光強度信号により情報処理装置6の粒径算出部61により粒径が算出されるとともに、照射タイミング決定部63にも出力される。そして、照射タイミング決定部63によって、その光強度信号が、粒子Sの通過に基づく光強度信号であるか否かを判定する。そして、その光強度信号が粒子Sによるものであると判断した場合には、その判断直後あるいは時間間隔(例えば1マイクロ秒)をおいて、制御信号をパルスレーザ照射手段41に出力する。これにより、パルスレーザ照射手段41がパルスレーザELを照射して、粒子Sをアブレーション及びイオン化する。
【0047】
その後、イオン化により生じた正イオンは正イオン加速電極521により、負イオンは負イオン加速電極522によりそれぞれ加速されたのち、所定の空間内を飛行してイオン検出器532により検出される。
【0048】
最後にそのイオン検出器532からの電気信号を受信した情報処理装置6が飛行時間を算出し粒子Sの質量スペクトル等を算出する。
【0049】
このように構成した粒子分析装置1によれば、簡単な構造で、しかも粒子Sの速度等からパルスレーザELを照射する遅れ時間による粒子Sの検出後の移動距離を計算し、高精度な機器制御をする必要がなく、検出光Lが照射された粒子Sを好適にイオン化することができる。
【0050】
また、光電子増倍管32のダークパルスや装置内壁からの散乱光等によるノイズ信号を誤検出を防ぐことができるので、パルスレーザELの誤射を防止することができる。これにより、粒子Sの分析の効率を上げたり、粒子Sの計数の誤差を防ぐことができる。
【0051】
さらに、光源31が領域Bのほぼ中心を通過するように検出光Lを照射し、前記光検出器32が前記粒子Sの散乱光LSを検出してから直後あるいは時間間隔をおいて、前記パルスレーザ照射手段41が前記粒子Sに対してパルスレーザELを照射するようにしたものであるので、粒径を測定した粒子Sを確実にイオン化することができる。
【0052】
このようにイオン化のためのパルスレーザELの照射が、検出光Lの照射より遅くなることから、パルスレーザELの照射が散乱光LSの検出の妨害となるのを防止することができ、粒子Sの粒径を正確に検出することができる。また、パルスレーザELの照射が検出光Lの照射より遅れた分だけ、粒子Sが検出した位置から移動していることになるが、粒子Sの移動経路に対しレーザ光路が重畳的となるように、パルスレーザELが照射するので、粒子Sに対し正確に当たることになる。
【0053】
その上、飛行時間型質量分析部53にイオンを導入するための加速電極52を正イオンを加速させるための正イオン加速電極521と、負イオンを加速させるための負イオン加速電極522とから構成しているので、正イオン及び負イオンの両方を同時に測定することができ、その結果リアルタイムに粒子Sの化学組成を測定することができる。
【0054】
具体的に、本実施形態に係る粒子分析装置1を都市大気成分の分析に用いた場合には、1つ1つの大気中の粒子Sがスス粒子であるかどうか土壌粒子であるかどうかの判別、粒径またその化学組成についても情報を得ることができる。粒子Sの粒径が0.5ミクロンから測定できるので、現在呼吸器系疾患と関係があると言われているPM10(粒径が10マイクロメータ以下の粒子状物質)、PM2.5(粒径が2.5マイクロメータ以下の粒子状物質)、さらに細かい径の粒子Sの粒径と化学組成について情報を得ることができる。また、交通量の多い環境でのモニターや分析を行い、呼吸器系疾患と粒子Sとの化学成分との関係を明らかにし、効果的な対策を立てるために役立つと考えられる。また、中国から飛来する黄砂粒子に、大気汚染中の微量物質、エアロゾル等が付着した黄砂エアロゾルが生じ得るが、本実施の形態の粒子分析装置1でもって、これら黄砂エアロゾルの化学組成等を分析することが可能となる。
【0055】
<第2実施形態>
【0056】
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。
【0057】
本実施形態に係る粒子分析装置1は、前記第1実施形態とは、照射タイミング決定部63における光強度信号の時間波形の判別方法が異なる。さらに、図7に示すように、波形判別の基準となる基準値を入力手段7から受け付ける基準値受付部64をさらに備えている。
【0058】
基準値受付部64は、オペレータが例えばキーボード等の入力手段7によって入力した基準値を受け付けて、その基準値データを照射タイミング決定部63に出力するものである。
【0059】
ここで、基準値とは、図8に示すように、時間波形の波高値の大きさを判断するための基準波高値と、その基準波高値以上の時間波形の時間幅の大きさを判断するための基準時間である。
【0060】
そして、基準値は、測定対象となる粒子Sの濃度、そのイオン化室Aに導入される流速又は粒径等に基づいて、各測定毎に予め入力されるものである。このように、波形判別の基準となる基準値を変更可能にしているのは、粒子Sの濃度、そのイオン化室Aに導入される流速又は粒径等によって、粒子Sにより生じた散乱光LSによる光強度信号の時間波形が、それぞれ異なるからである。例えば、流速が速ければ速いほど、基準時間を小さくすることが考えられ、粒径が大きければ大きいほど、基準波高値又は基準時間を大きくすることが考えられる。このとき、粒径は、例えば装置1の仕様レンジ(例えば1μm〜9μm)の範囲内で決定され、粒子Sの流速は、例えば試料導入部2によって予め定められる速度である。
【0061】
照射タイミング決定部63は、光検出器32からの光強度信号において、基準波高値以上の信号が基準時間以上続いた場合に、パルスレーザ照射手段41がパルスレーザELを照射するタイミングを決定する。言い換えれば、光強度信号の時間波形において、その波高値が基準波高値以上であり、かつその基準波高値以上の時間幅が基準時間以上である場合に、その光強度信号が、粒子Sによる散乱光であると判断する。その判断直後又は所定の時間間隔をおいて、パルスレーザELを粒子Sに照射してイオン化すべくパルスレーザ照射手段41に制御信号を出力する。
【0062】
このように構成した粒子分析装置1によれば、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる上に、さらに、波形判別の基準となる基準波高値及び基準時間を変更可能に構成しているので、測定対象となる種々の粒子Sの濃度、流速及び粒径等に応じて、パルスレーザELの誤射を防止することができる。
【0063】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0064】
照射タイミング決定部の判別方法は前記第1、第2実施形態の他に、光強度信号値が、閾値を超えた時点から所定時間内における光強度信号値の平均値を算出して、その平均値と閾値とを比較して、閾値よりも大きい場合には、粒子による散乱光であると判断するようにしても良い。さらに、時間波形の面積を計算することにより判断することも考えられる。その他、種々の時間波形解析方法を用いて判別することができる。
【0065】
また、その他にも例えば、図9に示すように、装置性能により決定される測定可能な最大粒子径/最小粒子径により生じる光強度信号の波高値から、ノイズ信号を判別することも考えられる。つまり、最大粒子径/最小粒子径により生じる光強度信号の波高値の範囲外の信号をノイズ信号と判断し、最大粒子径/最小粒子径により生じる光強度信号の波高値の範囲内の信号であって、かつ基準時間以上の時間幅である信号を粒子による信号と判断する。さらに、微少量の粒子であれば、散乱光LSによる光強度信号が所定時間間隔では生じないと考えて、所定時間間隔で生じた光強度信号はノイズ信号であると判断することも考えられる。
【0066】
前記実施形態では、検出光の照射位置を、加速可能領域のほぼ中心に設定したがこれに限られるものではなく、加速可能領域内であればどこでも良い。これならば、散乱光検出直後にパルスレーザを照射することにより、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
さらに、検出光の照射位置は、前記実施形態の加速可能領域内に限られるものではなく、粒子が加速可能領域に進入する前に照射するようにしても良い。この場合、粒子を加速可能領域内でイオン化するために散乱光を検出してから所定時間後(すなわち粒子が領域B内にある時)にイオン化するためのパルスレーザを照射することになるが、パルスレーザ照射方向を粒子の移動方向に対向させているので、確実に粒子にレーザを照射することができる。
【0068】
質量分析部は、飛行時間型でなくとも良く、磁場型、四重極型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン型等を用いるものであっても良い。
【0069】
また、例えばナノ粒子を測定する際には、そのナノ粒子からの散乱光LSは微弱でありその検出が困難であるため、図7に示すように検出光Lを照射する光源31からの光を光ファイバ34及び集光レンズ35で効率よくナノ粒子に照射し、さらに、散乱光LSをレンズ36により効率よく光ファイバ37に集光した後再び集光レンズ38で光検出器32に導くことが効果的である。
【0070】
上記に加えて、パルスレーザ照射手段は、エキシマレーザを用いたものに限られず、連続レーザにおいて電流をオン−オフすることにより、あるいはチョッパーを用いることによりパルス化することも考えられる。
【0071】
その上パルスレーザとしては、VUV(真空紫外)レーザと赤外パルスレーザとの組み合わせたものであっても良い。
【0072】
検出光としては、アルゴンイオンレーザ以外の連続レーザを用いる場合がある。
【0073】
試料導入部はエアロダイナミックレンズを用いたものに限られることはなく、例えばキャピラリタイプのものであっても良い。
【0074】
その他、前記実施形態を含む前記した各構成を適宜組み合わせるようにしてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係る粒子分析装置の模式的機器構成図。
【図2】同実施形態における粒径測定部を主として示す図。
【図3】同実施形態における質量分析部を主として示す図。
【図4】同実施形態における情報処理装置の機器構成図。
【図5】同実施形態における情報処理装置の機能構成図。
【図6】光強度信号の時間波形のパターンを示す図。
【図7】本発明の第2実施形態における情報処理装置の機能構成図。
【図8】基準波高値及び基準時間を示す図。
【図9】その他の変形実施形態に係る波形判別方法を示す図。
【図10】その他の変形実施形態に係る粒子分析装置の粒径測定部の模式図。
【符号の説明】
【0076】
1 ・・・粒子分析装置
S ・・・粒子
2 ・・・粒子移動手段(試料導入部)
31 ・・・光源
L ・・・検出光(アルゴンイオンレーザ)
LS ・・・散乱光
32 ・・・光検出器
B ・・・加速可能領域
61 ・・・粒径算出部
63 ・・・照射タイミング決定部
64 ・・・基準値受付部
EL ・・・エネルギ線(パルスレーザ)
4 ・・・イオン化部
5 ・・・質量分析部
52 ・・・加速電極
521・・・正イオン加速電極
522・・・負イオン加速電極
53 ・・・飛行時間型質量分析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である粒子を所定方向に移動させる粒子移動手段と、
前記粒子に対し、検出光を照射する光源と、
その検出光の照射によって生じる散乱光を検出する光検出器と、
前記検出光が照射された粒子に対し、その移動方向と対向する方向からエネルギ線を照射して、その粒子をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化された粒子の質量分析を行う質量分析部と、を備え、
前記質量分析部が、前記光検出器からの光強度信号を受け付け、その信号の時間波形をパラメータとして、前記エネルギ線の照射タイミングを決定する照射タイミング決定部を備えている粒子分析装置。
【請求項2】
前記照射タイミング決定部が、前記光強度信号の時間波形の波高値及びその時間幅をパラメータとして、前記エネルギ線の照射タイミングを決定するものである請求項1記載の粒子分析装置。
【請求項3】
前記照射タイミング決定部が、前記時間波形の波高値が予め定めた基準波高値以上であり、かつその基準波高値以上の時間幅が、予め定めた基準時間以上である場合に、前記エネルギ線を照射することを特徴とする請求項2記載の粒子分析装置。
【請求項4】
前記質量分析部が、前記基準波高値及び前記基準時間を受け付ける基準値受付部をさらに備え、
前記照射タイミング決定部が、前記基準値受付部が受け付けた基準波高値及び基準時間に基づいて、前記エネルギ線の照射タイミングを決定するものである請求項3記載の粒子分析装置。
【請求項5】
前記基準波高値及び前記基準時間が、前記粒子の濃度、移動速度又は粒径に基づいて定められることを特徴とする請求項3又は4記載の粒子分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−309895(P2007−309895A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141713(P2006−141713)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人科学技術振興機構「先端計測分析技術・機器開発事業(機器開発プログラム)」委託研究、産業活性再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】