説明

粒子加速器およびその運転方法、ならびに粒子線照射治療装置

【課題】必要な照射量を得るための運転時間が短縮され、利用効率の向上、荷電粒子ビームの照射コストの低減に有効な粒子加速器およびその運転方法、ならびにこの粒子加速器を備える粒子線照射治療装置の提供。
【解決手段】荷電粒子をシンクロトロンに入射させる入射工程入射工程の後、荷電粒子をシンクロトロン内の周回軌道を周回させながら高周波加速空胴で所定のエネルギーまで加速または減速する加速または減速工程と、加速された荷電粒子をシンクロトロンから出射する出射工程とを行う取出しサイクルを複数回行い、各加速工程で荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、加速または減速工程の取出しサイクルにおける出射工程で異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子加速器およびその運転方法、ならびに粒子線照射治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子加速器は、高エネルギー物理学の研究分野だけでなく、医療、工業、農業等の広範囲の分野で利用されている。例えば、医療分野では、癌細胞組織の粒子線照射による治療、放射性同位元素の生成等に用いられている。また、工業分野では、材料への照射による特性の向上、さらに、農業分野では種子照射による品種改良などに利用されている。特に、医療分野での癌治療において、陽子および重イオン等の荷電粒子を所望のエネルギー状態に加速し照射する粒子線癌治療は、従来のX線等を用いた放射線療法では治療が困難であった癌に対する治療効果が高く、かつ粒子線の線量分布をがん患部に合わせて調整することにより患部周辺の正常細胞の障害を最小限に抑えられるなどの優れた性質を有している。そのため、荷電粒子を所望のエネルギーに加速する粒子加速器の研究・開発および運転が行われている。
【0003】
この粒子加速器の一種であるシンクロトロンは、円状に並べられた電磁石、高周波加速空胴等に荷電粒子を入射し、軌道半径を一定に保ちながら荷電粒子を所定のエネルギーにまで加速し、ビームとして出射するものである。
【0004】
この粒子加速器において、イオン源で生成された荷電粒子は、粒子加速器の前段に配設された線形加速器により初段の加速が行われ、その後、シンクロトロンに入射される。入射された荷電粒子の運動は、シンクロトロン周回軌道上に設けられた偏向電磁石および四極電磁石等が発生する磁界により制御され、周回を繰り返す。周回軌道上を運動する荷電粒子は、シンクロトロン内に設けられた高周波加速空胴を通過する際に加速を受ける。加速に伴い電磁石の励磁量を増加させることで、粒子の軌道半径を一定に保つことができる。以上の手順を繰り返すことで荷電粒子を所望のエネルギーになるまで加速する。その後、加速された荷電粒子は、磁場一定の領域で粒子加速器から出射して粒子線ビームとして取り出される。取り出された粒子線ビームは、照射領域に導かれ、粒子線の照射による癌治療等の各種用途に利用される。
【0005】
従来、このような粒子加速器電磁石の運転パターンは、図5に示すように制御されている。すなわち、シンクロトロン内への荷電粒子の入射が完了すると加速が開始される。このとき、荷電粒子の軌道半径を一定に保つため、シンクロトロンを構成する電磁石等の磁場強度を図5に示すパターンで制御する。つまり、高周波加速空胴による加速と共に荷電粒子のエネルギー状態に合わせてシンクロトロンを構成する電磁石等の励磁量を上昇させて、荷電粒子の周回軌道を一定に保ち、目的のエネルギーに達した時点で荷電粒子に作用する磁場を一定にする(蓄積過程)。その後、加速された荷電粒子は、磁場一定の段階で粒子加速器から取り出される。このように、従来の粒子加速器の運転方法では、入射→加速→出射を1サイクルとする運転パターンが繰り返される(特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平8−298200号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来の粒子加速器およびその運転方法では、入射→加速→出射の1回の運転サイクルで取り出される荷電粒子ビームは、加速工程での励磁量に基づく一つのエネルギー状態のみを有することになる。すなわち、従来の粒子加速器では、入射した荷電粒子を所定のエネルギーに加速するための電磁石(偏向電磁石、四極電磁石、その他の電磁石)の磁場強度(励磁量)は、図5に示すような台形状のパターンとなるように運転されている。そのため、出射される荷電粒子ビームのエネルギーは、荷電粒子の加速に用いる電磁石の磁場強度(励磁量:図5に示す台形の高さ)に応じて一つの数値に決まってしまうことになる。異なるエネルギーを有する荷電粒子ビームを得るためには、荷電粒子の加速に用いる電磁石の磁場強度を変更して台形パターンの高さを変えればよい。
【0007】
しかし、前述のとおり、従来の粒子加速器の運転においては、1回の運転サイクルでは、出射される荷電粒子のビームエネルギーは一つに限定されてしまい、複数のエネルギーを持つ荷電粒子ビームを得ることはできないので、エネルギー変更のためには次の運転サイクルで磁場強度(台形パターンの高さ)を変えるしかない。したがって、異なるエネルギーの荷電粒子ビームを得るためには、少なくとも運転サイクルの1繰り返し周期分待つ必要があり、粒子加速器から出射する荷電粒子ビームのエネルギー量を複数回変える場合、上記の通り(エネルギー値の数)×(繰り返し周期)分の時間が最低限必要となる。これを、荷電粒子ビームを患部の腫瘍に照射してその治療を行う粒子線照射治療装置について考えてみると、患者に荷電粒子ビームが照射された場合、患者の体表から内部への荷電粒子ビームの到達深さは、荷電粒子ビームのエネルギー値によって決まる。体表からの深さ方向の腫瘍サイズに応じて、荷電粒子ビームのエネルギー値を変えて、荷電粒子ビームの到達深さを変える回数、すなわち、スライス数は、深さ方向の腫瘍サイズに依存するが、例えば、40スライスを想定する。そして、粒子加速器の運転サイクルの繰り返し周期を3.3秒とすると、照射時間は最低でも40×3.3=132秒だけ要する。照射時間が長くなると患者への負担も増えるため、繰返し周期を待つことなく、連続して異なるエネルギー値の荷電粒子ビームを照射できれば、患者への負担を最小限にとどめることができる。
【0008】
また、従来、照射する荷電粒子ビームのエネルギー量を変えるために、粒子加速器から取り出された荷電粒子ビームをバイナリフィルタと呼ばれる様々な厚みを持つPMMA製の減速板を通してエネルギー値を調節していた。すなわち、バイナリフィルタをビームライン上に出し入れすることで、粒子のエネルギー値を調整している。ここで問題となるのが、フィルタの出し入れ時間、フィルタによるビーム散乱、フィルタ内での核反応による二次粒子の生成の問題である。すなわち、1回のバイナリフィルタの出し入れには数百ミリ秒を要する。したがって、この出し入れ時間が、スライス分必要である。例えば、40スライス程度の照射を想定すると、バイナリフィルタの出し入れに要する時間だけで数十秒を要することになる。更にバイナリフィルタの出し入れの際には、ビームを止める必要もあり、そのための時間も要する。これは、照射時間の増加につながる。
【0009】
また、バイナリフィルタを入れることにより、荷電粒子ビームは散乱する。その散乱により、狙ったターゲット(腫瘍)より広い範囲にビームが広がり、正常組織にまで照射されてしまう恐れがある。さらに、粒子加速器から出射される荷電粒子ビーム(1次ビーム)はバイナリフィルタを通過する際、ある確率で原子核反応を起こし、陽子、中性子をはじめとした2次粒子を生成させる。これら2次粒子は散乱角が大きいことや、広いエネルギー分布を持つことから、ターゲット外に照射されてしまうことがある。これは、荷電粒子ビームの線量分布を悪化させる原因となる。すなわち、1次ビームの以外の荷電粒子が実際の患部外に照射されてしまう可能性が高くなるなどの弊害がある。
【0010】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、一回以上の運転サイクルで異なるエネルギー値を有する複数の荷電粒子ビームを出射可能とすることができ、必要な照射量を得るための運転時間が短縮され、利用効率の向上、荷電粒子ビームの照射コストの低減に有効な粒子加速器およびその運転方法、ならびにこの粒子加速器を備え、粒子加速器から出射される粒子線ビームを各種の照射用途に利用できる粒子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、請求項1の発明は、荷電粒子をシンクロトロンに入射させる入射工程と、入射された荷電粒子を前記シンクロトロン内の周回軌道を周回させながら高周波加速空胴で所定のエネルギーまで加速または減速する加速または減速工程と、加速された荷電粒子を前記シンクロトロンから出射する出射工程とを行う粒子加速器の運転方法であって、前記入射工程の後、前記加速または減速工程と前記出射工程を行う取出しサイクルを複数回行い、各加速工程で荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、当該加速または減速工程の取出しサイクルにおける出射工程で前記異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射することを特徴とする。
【0012】
この粒子加速器の運転方法では、入射工程の後、加速工程と出射工程を行う取出しサイクルを複数回行い、各加速工程で荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、各加速工程の直後の出射工程で異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射可能とすることによって、各出射工程で、異なるエネルギーの荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0013】
請求項2の発明は、前記取出しサイクルを、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1<E2の関係となるように加速工程の制御を行うことを特徴とする。
【0014】
この粒子加速器の運転方法では、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1<E2の関係となるようにすることによって、各出射工程で順を追ってエネルギー値が高い荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0015】
請求項3の発明は、前記取出しサイクルを、前段の取出しサイクルにおける減速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける減速工程によって減速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1>E2の関係となるように減速工程の制御を行うことを特徴とする。
【0016】
この粒子加速器の運転方法では、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける減速工程によって減速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1>E2の関係となるようにすることによって、各出射工程で順を追ってエネルギー値が低い荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0017】
請求項4の発明は、前記運転サイクルは、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1<E2の関係となるように加速工程の制御を行うエネルギー上昇段階と、前記エネルギー上昇段階の後に、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける減速工程によって減速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1>E2の関係となるように減速工程の制御を行うエネルギー降下段階とを含むことを特徴とする。
【0018】
この粒子加速器の運転方法では、エネルギー上昇段階で順を追ってエネルギー値が高い荷電粒子ビームを取り出すことができ、さらに、そのエネルギー上昇段階に続くエネルギー降下段階で順を追ってエネルギー値の低い荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0019】
請求項5の発明は、荷電粒子をシンクロトロン内に入射させる粒子入射部と、入射された荷電粒子を前記シンクロトロン内の周回軌道を周回させながら高周波加速空胴で所定のエネルギーまで加速する加速部と、加速された荷電粒子を前記シンクロトロンから出射させる粒子出射部と、前記粒子入射部、前記加速部および前記粒子出射部の動作を制御するコントローラとを備える粒子加速器であって、前記コントローラは、前記粒子入射部による荷電粒子の入射を制御する入射制御手段と、前記加速部によって、前記シンクロトロン内での荷電粒子の加速を制御する加速制御手段と、前記粒子出射部によって、加速された荷電粒子の出射を制御する出射制御手段とを備え、前記加速制御手段と前記出射制御手段とは、荷電粒子の入射後、荷電粒子の加速と加速された荷電粒子の出射を行う取出しサイクルを複数回行い、各取出しサイクルにおいて、荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、当該異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射可能とすることを特徴とする。
【0020】
この粒子加速器では、粒子入射部による荷電粒子の入射を制御する入射制御手段と、加速部によって、シンクロトロン内での荷電粒子の加速を制御する加速制御手段と、粒子出射部によって、加速された荷電粒子の出射を制御する出射制御手段とを備えることによって、加速制御手段と出射制御手段とによって、荷電粒子の入射後、荷電粒子の加速と加速された荷電粒子の出射を行う取出しサイクルを複数回行い、各取出しサイクルにおいて、荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、当該異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射して、各出射工程で、異なるエネルギーの荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0021】
請求項6の発明の粒子線照射装置は、前記の粒子加速器と、当該粒子加速器から出射される荷電粒子を、粒子線ビームとして利用する照射部とを備えることを特徴とする。
【0022】
この粒子線照射装置では、前記の粒子加速器と、当該粒子加速器から出射される荷電粒子を、粒子線ビームとして利用する照射部とを備えることによって、バイナリフィルタ等を用いずに、連続して異なるエネルギー値の荷電粒子ビームを照射できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の粒子加速器およびその運転方法によれば、荷電粒子を一度入射した後、エネルギー値が異なる複数の荷電粒子ビームを取り出すことができる。そのため、照射する荷電粒子ビームのエネルギーを変えるため、従来、用いていたバイナリフィルタが不要となる。さらに、バイナリフィルタが不要となることによって、フィルタによる荷電粒子の散乱に起因する問題、例えば、荷電粒子ビームの照射ターゲットからの広がりによる問題、陽子、中性子をはじめとする2次粒子の生成等の問題を解消できる。
【0024】
また、荷電粒子を一度入射した後、エネルギー値が異なる荷電粒子ビームを取り出すことができるため、従来の荷電粒子ビームの取り出しに際して、エネルギーの異なる荷電粒子ビームを得るために必要な時間に比べて大幅に短い時間でエネルギー値が異なる荷電粒子ビームを連続して取り出すことができる。そのため、所要の照射量を得るための運転時間が大幅に短縮できる。すなわち、一回の取出しサイクルで異なるエネルギー値を有する複数の荷電粒子ビームを出射することができ、必要な照射量を得るための運転時間が短縮され、利用効率の向上、荷電粒子ビームの照射コストの低減に有効である。
【0025】
本発明の粒子線照射装置は、粒子加速器から出射される粒子線ビームを各種の照射用途に利用できる。例えば、粒子線を癌組織に照射して治療を行う粒子線照射治療装置では、粒子線がん治療におけるスキャニング照射や三次元照射を行う場合に大変有効である。これらの照射では、がん腫瘍を幾つかの深さ方向の層(スライス)に分割して放射線の照射を行うが、各スライスの深さはビームのエネルギーにより決定されるため、ビームエネルギーを逐次変更する必要がある。ビームエネルギーが次々と変更可能であるため、1回の運転サイクル程度で照射を完了することも可能である。照射時間を最小限に止めて患者への負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る粒子線照射治療装置の構成を示す図であり、図2は、本実施形態に係る粒子加速器の運転方法を説明する図である。
【0027】
図1に示す粒子線照射治療装置1は、荷電粒子入射系2、粒子加速器3、ビーム輸送系4および照射部5を備える。
【0028】
荷電粒子入射系2は、荷電粒子を生成するイオン源2Aと、1次線形加速器2Bと、2次線形加速器2Cとを備え、ある程度のエネルギー(例えば、約6MeV/n:光速の約11%)に加速された荷電粒子を粒子加速器3に供給するものである。また、イオン源2Aと、1次線形加速器2Bと、2次線形加速器2Cと、粒子加速器3とは、高真空に保たれた入射ビーム路VL1で連絡されている。
【0029】
イオン源2Aは、原子から電子を剥ぎ取ることでイオンを生成し、1次線形加速器2Aにて加速可能な状態にするものである。イオン化される原子としては、例えば、陽子、ヘリウム、炭素、窒素、酸素、ネオン、シリコン、アルゴンなどを用いることができる。
【0030】
1次線形加速器2Bは、イオン源2Aから供給された荷電粒子を所定のエネルギーまで加速して、次の2次線形加速器2Cに供給するものであり、例えば、高周波の4極電場によって荷電粒子の加速と集束を行うRFQライナックが用いられる。この1次線形加速器2Bによって、荷電粒子は、例えば、800keV/n(光速の約4%)程度に加速される。
【0031】
線形加速器2Cは、線形加速器2Bによって加速された荷電粒子をさらに加速して、粒子加速器3の入射部21に供給するものであり、例えば、アルバレライナックが用いられる。この2次線形加速器2Cによって、荷電粒子は、例えば、6MeV/n(光速の約11%)程度に加速される。
【0032】
粒子加速器3は、シンクロトロン(入射部31、加速部32、出射部33)、およびコントローラ34を備え、荷電粒子入射系2の2次線形加速器2Cから供給された荷電粒子を、さらに加速するものである。
【0033】
入射部31は、静電インフレクタ31Aと、入射セプタム電磁石31Bと、4個のバンプ電磁石31Cとを備える。
この入射部31において、静電インフレクタ31A、入射セプタム電磁石31B、およびバンプ電磁石31Cによって、荷電粒子入射系2から入射された荷電粒子は、その軌道を偏向され、周回軌道WRに沿って円環状の加速部32に導入される。
【0034】
加速部32は、12個の偏向電磁石32Aと、6個の収束四極電磁石32Bと、7個の非収束電磁石32Cと、高周波加速空胴32Dとを、周回軌道WR上に円環状に配置して構成され、これらの偏向電磁石32Aと、収束四極電磁石32Bと、非収束電磁石32Cとによって発生する磁界によって、入射部31から入射した荷電粒子を周回軌道WRに沿って周回させるために、その運動方向を規制するものである。この加速部32において、荷電粒子は、例えば、約800MeV/n(光速の約84%)のエネルギーまで加速される。
【0035】
高周波加速空胴32Dは、内部に設けられる加速ギャップ(図示せず)の間で発生する電界によって、周回軌道WR上を周回する荷電粒子を加速するものである。この高周波加速空胴32Dにおいて、加速ギャップの間(図1に示す下から上)を通る荷電粒子は、上のギャップが負、下のギャップが正になる位相で高周波電界が印加され、これにより加速され、周回毎にエネルギーが増加していく。また、加速ギャップの間で発生する電界の位相を逆にすることによって、荷電粒子を減速することもできる。
このとき、偏向電磁石32A、収束四極電磁石32Bおよび非収束電磁石32Cは、高周波加速空胴32Dにおける加速または減速に同期して、加速または減速された荷電粒子のエネルギーに応じて、荷電粒子が周回軌道WRに沿った軌道を描くように磁場強度が制御される。
【0036】
出射部33は、静電デフレクタ33Aと、出射セプタム電磁石33Bと、バンプ電磁石33Cとで構成される。
この出射部33において、静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33Bおよびバンプ電磁石33Cによって、周回軌道WR上を周回する荷電粒子は、その軌道を変更されて加速部32から出射して、荷電粒子ビームとしてビーム輸送系4に取り出される。
【0037】
ビーム輸送系4は、出射ビーム輸送路VL2上に配置された収束四極電磁石41と、偏向電磁石42とを備える。
このビーム輸送系4は、収束四極電磁石41によって荷電粒子ビームの発散を抑制するとともに、偏向電磁石42により荷電粒子ビームを所定の方向に偏向させ、ビーム輸送路VL2を通って、照射部5に荷電粒子ビームを導くものである。照射部5においては、荷電粒子ビームを、例えば、患者の患部に照射して癌治療を行うことができる。
【0038】
コントローラ34は、荷電粒子入射系2(イオン源2A、1次線形加速器2B、2次線形加速器2C)、粒子加速器3の入射部31(静電インフレクタ31A、入射セプタム電磁石31B、バンプ電磁石31C)、加速部32(偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32C、高周波加速空胴32D)、出射部33(静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33B、バンプ電磁石33C)、ビーム輸送系4(収束四極電磁石41、偏向電磁石42)などを制御して、荷電粒子の生成、予備加速、粒子加速器3への入射、加速および荷電粒子ビームの出射、さらに、ビーム輸送系4を通った荷電粒子ビームの照射部5における照射を適正に行うものである。
【0039】
なお、図1においては、1個の偏向電磁石32Aのみに制御信号線を接続した状態を図示し、他の偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cについては、コントローラ34との制御信号線の接続を省略したが、実際は、これらの各電磁石についても、コントローラ34と制御信号線によって接続され、コントローラ34による磁場強度の励磁量および位相が制御されるものとする。
【0040】
このとき、粒子線照射治療装置1においては、入射ビーム路VL1、周回軌道WR、および出射ビーム輸送路VL2の随所に荷電粒子のモニタを配置して、荷電粒子の軌道およびエネルギーを測定し、コントローラ34にその測定結果をフィードバックすることによって、前記制御が行われる。
【0041】
次に、この粒子線照射治療装置1における粒子加速器3の運転方法の第1実施形態について説明する。
この第1実施形態において、粒子加速器3は、図2に示すように、下記のA1、B1、C1、B2、C2、B3、C3、B4、C4、Dの各工程を行うように運転される。
(1)荷電粒子入射系2から所定のエネルギーに前加速された荷電粒子が入射部31によって周回軌道WRに入射するビーム入射工程A1
(2)ビーム入射段階A1に続いて、加速部32において荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで加速してエネルギーE1に加速する加速工程B1
(3)エネルギーE1に加速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C1
(4)さらに、加速部32において、残りの荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで加速してエネルギーE2に加速する加速工程B2
(5)エネルギーE2に加速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C2
(6)加速部32において、残りの荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで加速してエネルギーE3に加速する加速工程B3
(7)エネルギーE3に加速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C3
(8)加速部32において、残りの荷電粒子を加速してエネルギーE4に加速する加速工程B4
(9)エネルギーE4に加速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C4
(10)粒子加速器3の入射部31(静電インフレクタ31A、入射セプタム電磁石31B、バンプ電磁石31C)、加速部32(偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32C、高周波加速空胴32D)、出射部33(静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33B、バンプ電磁石33C)の各電磁石を減磁して初期状態に戻す工程D
【0042】
このように、本実施形態の運転方法においては、荷電粒子の入射の後、加速工程B1、出射工程C1、加速工程B2、出射工程C2、加速工程B3、出射工程C3、加速工程B4、および出射工程C4の順に、荷電粒子の加速および出射を繰り返すことによって、C1、C2、C3およびC4の各出射工程において、それぞれエネルギーE1、E2、E3およびE4に加速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0043】
このとき、コトローラ34は、加速工程B1、B2、B3およびB4の各工程において、高周波加速空胴32Dの加速ギャップにおける電界、ならびに偏向電磁石32A、収束四極電磁石32Bおよび非収束電磁石32Cの磁場強度を制御して、エネルギーE1、E2、E3およびE4をそれぞれ所望のエネルギー値にすることができる。また、コントローラ34は、出射部33の静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33B、バンプ電磁石33Cの各電磁石を制御して、出射工程C1、C2、C3、C4の各出射段階において、出射部33から出射する荷電粒子の出射量を制御することができる。
【0044】
また、図3は、粒子加速器3の運転方法の第2実施形態を示す図である。
この第2実施形態において、粒子加速器3は、図3に示すように、入射工程A1に続き、加速工程B1、出射工程C1、加速工程B2、出射工程C2、加速工程B3、出射工程C3、加速工程B4、出射工程C4、加速工程B5、出射工程C5、加速工程B6、出射工程C6、加速工程B7、および出射工程C7からなるエネルギー増加段階を行い、次に、減速工程F1、出射工程C8、減速工程F2、出射工程C9、減速工程F3、出射工程C10、減速工程F4、出射工程C11、減速工程F5および出射工程C12からなるエネルギー減少段階を行うように運転される。
【0045】
この運転方法において、エネルギー増加段階では、前記の第1実施形態と同様に、加速工程B1、出射工程C1、加速工程B2、出射工程C2、加速工程B3、出射工程C3、加速工程B4、出射工程C4、加速工程B5、出射工程C5、加速工程B6、出射工程C6、加速工程B7、および出射工程C7の順に、荷電粒子の加速および出射を繰り返すことによって、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7の各出射工程において、それぞれエネルギーE1、E2、E3、E4、E5、E6、E7に加速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0046】
また、エネルギー減少段階においては、下記のF1、C8、F2、C9、F3、C10、F4、C11、F5およびC12の各工程を順を追って行うように運転される。
(11)出射工程C7に続いて、加速部32において荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで減速してエネルギーE8に減速する減速工程F1
(12)エネルギーE8に減速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C8
(13)さらに、加速部32において、残りの荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで減速してエネルギーE9に減速する減速工程F2
(14)エネルギーE9に減速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C9
(15)加速部32において、残りの荷電粒子を偏向電磁石32A、収束四極電磁石32B、非収束電磁石32Cによって周回軌道を制御しながら高周波加速空胴32Dで減速してエネルギーE10に減速する減速工程F3
(16)エネルギーE10に減速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C10
(17)加速部32において、残りの荷電粒子をエネルギーE11に減速する減速工程F4
(18)エネルギーE11に減速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C11
(19)加速部32において、残りの荷電粒子をエネルギーE12に減速する減速工程F4
(20)エネルギーE12に減速された荷電粒子を出射部33からビーム輸送系4に出射する出射工程C12
【0047】
このように、第2実施形態の運転方法においては、荷電粒子の入射の後、エネルギー増加段階において、C1、C2、C3、C4、C5、C6およびC7の各出射工程において、それぞれエネルギーE1、E2、E3、E4、E5、E6およびE7に加速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを出射するとともに、次のエネルギー減少段階において、減速工程F1、出射工程C8、減速工程F2、出射工程C9、減速工程F3、出射工程C10、減速工程F4、出射工程C11、減速工程F4および出射工程C12の順に、荷電粒子の減速および出射を行うことによって、C8、C9、C10、C11およびC12の各出射工程において、それぞれエネルギーE8、E9、E10、E11、E12の荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出すことができる。
【0048】
このとき、コトローラ34は、エネルギー増加段階における加速工程B1、B2、B3、B4、B5、B6およびB7の各工程において、高周波加速空胴32Dの加速ギャップにおける電界、ならびに偏向電磁石32A、収束四極電磁石32Bおよび非収束電磁石32Cの磁場強度を制御して、エネルギーE1、E2、E3、E4、E5、E6およびE7をそれぞれ所望のエネルギー値にすることができる。そして、コントローラ34は、エネルギー減少段階における減速工程F1、F2,F3、F4およびF5の各工程において、高周波加速空胴32Dの加速ギャップにおける電界、ならびに偏向電磁石32A、収束四極電磁石32Bおよび非収束電磁石32Cの磁場強度を制御して、エネルギーE8、E9、E10、E11およびE12をそれぞれ所望のエネルギー値にすることができる。また、コントローラ34は、出射部33の静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33B、バンプ電磁石33Cの各電磁石を制御して、エネルギー増加段階におけるC1、C2、C3、C4、C5、C6およびC7の各出射工程、ならびにエネルギー減少段階におけるC8、C9、C10、C11およびC12の各出射工程において、出射部33から出射する荷電粒子の出射量を制御することができる。
【0049】
前記の粒子加速器の運転方法についての第1実施形態においては、荷電粒子の入射の後、C1、C2、C3およびC4の各出射工程において、それぞれエネルギーE1、E2、E3およびE4に加速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出す方法について説明した。また、第2実施形態においては、荷電粒子の入射の後、エネルギー増加段階において、C1、C2、C3、C4、C5、C6およびC7の各出射工程において、それぞれエネルギーE1、E2、E3、E4、E5、E6およびE7に加速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出し、次のエネルギー減少段階において、C8、C9、C10、C11およびC12の各出射工程において、それぞれエネルギーE8、E9、E10、E11、E12の荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出す方法について説明した。しかし、本発明の粒子加速器の運転方法は、これらの形態に限定されず、加速工程および出射工程、また、減速工程および出射工程を組み合わせることによって、所望のエネルギーに加速または減速された荷電粒子からなる荷電粒子ビームを出射部33から取り出すことができる。
【0050】
なお、前記の第1実施形態および第2実施形態においては、いわゆる遅い取出しによって、粒子加速器から荷電粒子ビームを取り出す方法について説明したが、本発明は、遅い取出しに限定されず、本発明が、いわゆる早い取出しや、RF−KO取り出しなど、どの取り出し方法にも適用可能であることはもちろんである。その早い取出しは、前記セプタム電磁石、バンプ電磁石等を、他の電磁石、例えば、キッカー電磁石等に変更することで行うことができる。
【0051】
次に、前記の第1実施形態に示す運転を行う粒子加速器3を備える粒子線照射治療装置1による癌細胞組織の粒子線照射治療について説明する。
図1に示す粒子線照射治療装置1においては、荷電粒子入射系2で生成および呼び加速された荷電粒子を粒子加速器3に入射して、前記運転方法によって、連続してエネルギー値の異なる荷電粒子に加速または減速して、粒子加速器3の出射部33から、その荷電粒子からなる荷電粒子ビームを取り出し、ビーム輸送系4の収束四極電磁石41および偏向電磁石42によって荷電粒子ビームを照射部5に導き、照射部5に設けられた照射装置や回転ガントリ(図示せず)から、患者の癌細胞組織に荷電粒子ビームを照射して治療を行うものである。
【0052】
この粒子線照射治療装置1の照射部5における荷電粒子ビームの照射治療について、前記の第1実施形態の粒子加速器の運転方法によって得られる荷電粒子ビームを用いる場合について説明する。ここで、説明を容易にするために、患者の体内に存在する癌細胞組織として、図4(a)に示す球状の癌細胞組織CAに対する荷電粒子ビームの照射治療を例として説明する。図4(a)において、紙面上方に患者の体表面があるとする。
【0053】
この粒子線照射治療装置1においては、粒子加速器3から、前記の第1実施形態の運転方法によって、エネルギーE1、E2、E3およびE4の異なるエネルギーの荷電粒子ビームを連続的に取り出し、これをビーム輸送系4を通って、照射部5において患者の癌細胞組織に照射することができる。これによって、照射される荷電粒子ビームは、そのエネルギーに応じて患者の体表面からの到達深さが決定される。すなわち、エネルギーE1、E2、E3およびE4に応じて、それぞれ図4(b)に示すZ方向の到達位置Z1が決定される。一方、照射部5に設けたワブラー電磁石等によって、荷電粒子ビームの照射方向を偏向することによって、図4(c)に示すX−Y平面上の位置に荷電粒子ビームQBの到達位置を制御することができる。これによって、荷電粒子ビームQBの照射位置の座標(X1,Y1,Z1)が決定される。また、エネルギーが一定の場合、例えば、エネルギーE1の荷電粒子ビームQBを照射する場合、粒子加速器3のコントローラ34によって、出射部33の静電デフレクタ33A、出射セプタム電磁石33B、バンプ電磁石33Cの各電磁石を制御して、出射段階C1、C2、C3、C4の各出射段階において、出射部33から出射する荷電粒子の出射量を制御することができる。これによって、X−Y平面上の照射面積に応じた荷電粒子ビームの出射量を得ることができる。
【0054】
したがって、荷電粒子ビームQBは、エネルギーおよびX−Y平面上の照射方向を制御することによって、荷電粒子ビームQBの照射位置の座標(X1,Y1,Z1)を任意に変更することができ、これによって、立体形状(球状)の癌細胞組織QBの全ての点にわたって、荷電粒子ビームQBを照射することが可能となる。また、コントローラ34によって、荷電粒子ビームQBの出射量を制御することによって、各照射位置における荷電粒子ビームQBの照射量をも所望の値にすることができる。このように、荷電粒子ビームQBの照射位置の座標(X1,Y1,Z1)を連続的に変えることによって、癌細胞組織CAの全体にわたって荷電粒子ビームQBをスキャンニングすることができる。このような荷電粒子ビームQBのスキャンニングは、図4(a)に示す球状の癌細胞組織CAに限られず、癌細胞組織の立体形状に合わせて荷電粒子ビームの照射位置を制御することができる。
【0055】
また、前記の第2実施形態の運転方法においては、粒子加速器3から取り出される荷電粒子ビームは、C1、C2、C3、C4、C5、C6およびC7の各出射段階において、それぞれエネルギーE1、E2、E3、E4、E5、E6およびE7を有し、さらに、続いて、C8、C9、C10、C11およびC12の各出射段階において、それぞれエネルギーE8、E9、E10、E11、E12の荷電粒子ビームを取り出すことができる。そして、このように順を追って段階的に高いエネルギーで取り出される荷電粒子ビームを利用すれば、粒子線照射治療装置1の治療部5において、さらに、照射部位の制御の自由度が増し、癌細胞組織の立体形状に合わせて荷電粒子ビームの照射位置を制御することができる。すなわち、荷電粒子ビームの到達深さおよび照射位置を、照射部位の形状、大きさ、周辺部位への影響を考慮して調整することが可能となる。
【0056】
以上のとおり、本発明の粒子加速器およびその運転方法では、荷電粒子を一度入射した後、エネルギー値が異なる複数の荷電粒子ビームを取り出すことができる。そのため、従来の運転方法では、異なるエネルギーの荷電粒子ビームを得るためには、少なくとも運転サイクルの1繰り返し周期分待つ必要があったが、次の運転サイクルを待つことなく、連続して異なるエネルギーの荷電粒子ビームを取り出すことができるため、照射に要する時間を短縮することができる。これは、粒子線照射治療装置においては、照射時間を短くして患者への負担を最小限に止めることができる。また、従来、照射する荷電粒子ビームのエネルギー量を変えるために、粒子加速器から取り出された荷電粒子ビームをバイナリフィルタと呼ばれる様々な厚みを持つPMMA製の減速板を通してエネルギー値を調節していたが、連続して、所望のエネルギーを有する荷電粒子ビームを得ることができるため、このバイナリフィルタが不要となる。このバイナリフィルタが不要となることによって、照射時間を短縮することができるとともに、フィルタによる荷電粒子の散乱に起因する問題、例えば、荷電粒子ビームの照射ターゲットからの広がりによる問題、陽子、中性子をはじめとする2次粒子の生成等の問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】粒子線照射治療装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る粒子加速器の運転方法の第1実施形態を説明する図である。
【図3】本発明に係る粒子加速器の運転方法の第2実施形態を説明する図である。
【図4】本発明の粒子線照射治療装置における荷電粒子ビームによる癌細胞組織への照射を説明する図である。
【図5】従来の粒子加速器の運転方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1 粒子線照射治療装置
2 荷電粒子入射系
2A イオン源
2B 1次線形加速器
2C 2次線形加速器
3 粒子加速器
31 入射部
31A 静電インフレクタ
31B 入射セプタム電磁石
31C バンプ電磁石
32 加速部
32A 偏向電磁石
32B 収束四極電磁石
32C 非収束電磁石
32D 高周波加速空胴
33 出射部
33A 静電デフレクタ
33B 出射セプタム電磁石
33C バンプ電磁石
34 コントローラ
4 ビーム輸送系
41 収束四極電磁石
42 偏向電磁石
5 照射部
VL1 入射ビーム路
WR 周回軌道
VL2 出射ビーム輸送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子をシンクロトロンに入射させる入射工程と、入射された荷電粒子を前記シンクロトロン内の周回軌道を周回させながら高周波加速空胴で所定のエネルギーまで加速または減速する加速または減速工程と、加速された荷電粒子を前記シンクロトロンから出射する出射工程とを行う粒子加速器の運転方法であって、
前記入射工程の後、前記加速または減速工程と前記出射工程を行う取出しサイクルを複数回行い、各加速工程で荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、当該加速または減速工程の取出しサイクルにおける出射工程で前記異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射することを特徴とする粒子加速器の運転方法。
【請求項2】
前記取出しサイクルを、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1<E2の関係となるように加速工程の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の粒子加速器の運転方法。
【請求項3】
前記取出しサイクルを、前段の取出しサイクルにおける減速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける減速工程によって減速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1>E2の関係となるように減速工程の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の粒子加速器の運転方法。
【請求項4】
前記運転サイクルは、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1<E2の関係となるように加速工程の制御を行うエネルギー上昇段階と、前記エネルギー上昇段階の後に、前段の取出しサイクルにおける加速工程によって加速された荷電粒子のエネルギーE1と、前記前段に続く次段の取出しサイクルにおける減速工程によって減速された荷電粒子のエネルギーE2とが、E1>E2の関係となるように減速工程の制御を行うエネルギー降下段階とを含むことを特徴とする請求項1に記載の粒子加速器の運転方法。
【請求項5】
荷電粒子をシンクロトロン内に入射させる粒子入射部と、入射された荷電粒子を前記シンクロトロン内の周回軌道を周回させながら高周波加速空胴で所定のエネルギーまで加速する加速部と、加速された荷電粒子を前記シンクロトロンから出射させる粒子出射部と、前記粒子入射部、前記加速部および前記粒子出射部の動作を制御するコントローラとを備える粒子加速器であって、
前記コントローラは、前記粒子入射部による荷電粒子の入射を制御する入射制御手段と、前記加速部によって、前記シンクロトロン内での荷電粒子の加速を制御する加速制御手段と、前記粒子出射部によって、加速された荷電粒子の出射を制御する出射制御手段とを備え、前記加速制御手段と前記出射制御手段とは、荷電粒子の入射後、荷電粒子の加速と加速された荷電粒子の出射を行う取出しサイクルを複数回行い、各取出しサイクルにおいて、荷電粒子を異なるエネルギーに加速し、当該異なるエネルギーに加速された荷電粒子を出射可能とすることを特徴とする粒子加速器。
【請求項6】
請求項5に記載の粒子加速器と、当該粒子加速器から出射される荷電粒子を、粒子線ビームとして利用する照射部とを備えることを特徴とする粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−226740(P2008−226740A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65941(P2007−65941)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】