粒子及び前記粒子を有する光イメージング用造影剤
【課題】力学的に安定であり、内包したICGの漏出とそれによる褪色を抑制し、かつモル吸光係数の大きなICG含有ポリマーナノ微粒子を提供すること。
【解決手段】スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする粒子。
【解決手段】スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICG(インドシアニングリーン)組成物を含有した粒子、及び前記粒子を有する造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内部の情報を可視化する装置の1つとして、光音響トモグラフィー(Photoacoustic tomography、以下PATと略すことがある)装置が知られている。PAT装置を用いる測定においては、被測定体に光を照射したときに被測定体内部で光を吸収した物質(光吸収体)が発する光音響信号の強度と発生時刻を測定することにより、被測定体内部の物質分布を演算して層画像を得ることができる。
【0003】
ここで、光吸収体としては、生体内で光を吸収して音響波を発するものであればいかなるものをも用いることができる。例えば人体内の血管や悪性腫瘍などを光吸収体とすることが可能である。その他にも、インドシアニングリーン(Indocyanine Green、以下ICGと略すことがある)などの分子プローブを体内に導入し、造影剤として利用することもできる。ICGは体内への投与が認可されている安全な物質であり、また人体に照射した際の影響が少なくかつ生体への透過性が高い近赤外波長領域の光をよく吸収することから、PAT装置における造影剤として好適に用いることができる。
【0004】
また、ICGは近赤外波長領域の光により励起され、蛍光を発するという特徴も有している。この特徴を利用して、ICGを蛍光造影剤として使用することもできる。
【0005】
一方で、ICGは水中で分解しやすいという性質を持つため、造影剤として投与する際に測定部位に集積させることが難しいという問題がある。
この問題を解決するための方法として、ICGを粒子の中に高濃度で封入する技術が開発されている。例えば、非特許文献1には、ポリビニルアルコール(PVA)を界面活性剤にしてエマルジョン溶媒拡散法によって得たICG含有乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)粒子が開示されている。また、特許文献1には、ICGを含む油相を界面活性剤で被覆したナノエマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Photochemistry and Photobiology B : Biology, 74 (2004) 29-38
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2010/018216号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に開示されたICG含有PLGA粒子及び特許文献1に開示されたナノエマルジョンのいずれも、実際の使用においては、モル吸光係数が経時的に減少し、吸光の安定性に欠けるという問題があった。
【0009】
これは、非特許文献1のICG含有PLGA粒子では、水中に分散した粒子内から水溶性であるICGが周囲の水中に漏出し、粒子のモル吸光係数が経時的に減少する(粒子が褪色する)ためであると考えられる。また、特許文献1のナノエマルジョンについては、コアが液体である為、力学的に不安定であり、経時的に凝集、会合、相分離等を引き起こすことにより粒子そのものが壊れてICGが漏出するために吸光度が減少すると考えられる。
【0010】
その他、PLGA等のポリマーマトリックスは疎水性であるため、非特許文献1のICG含有PLGA粒子では親水性部位を有するICGを高濃度に含有させることができないという課題もあった。
【0011】
本発明はこのような背景技術に鑑みてなされたものであり、力学的に安定であり、内包したICGの漏出とそれによる褪色を抑制し、かつモル吸光係数の大きなICG含有ポリマーナノ微粒子を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粒子によれば、粒子内部から外部へとICGが流出しにくい。そのため、ICGを高濃度に含有した粒子を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子の構造を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の一例を示す図である。
【図3】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の別の例を示す図である。
【図4】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の一例を示す図である。
【図5】PNP1、PNP2、非特許文献1、及びICGのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図6】PNP1、及びPNP2のλmaxにおける吸光度の経時変化(2ヶ月間)を示したグラフである。
【図7】PNP4、PNP5、PNP6、非特許文献1、及びICGのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図8】PNP4、PNP5、及びPNP6のλmaxにおける吸光度の経時変化(4週間)を示したグラフである。
【図9】PNP10のλmaxにおける吸光度の経時変化(2ヶ月間)を示したグラフである。
【図10】PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-HのPBS中でのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図11】スルホン酸基を有する親水性色素の疎水性溶媒に対する溶解性の評価結果を示すグラフである。
【図12】リン脂質を添加したICGの疎水性溶媒への溶解性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする。
本実施形態に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種とで疎水性の組成物が形成される。そのため、疎水性のポリマーからなる粒子内にスルホン酸基を有する親水性色素を高濃度に含有させることができ、さらには粒子内からのICGの漏出とそれによる褪色とを抑制することができる。組成物が形成されている状態とは、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体の有する正帯電部位と、スルホン酸基を有する親水性色素のスルホン酸基とが、電荷を打ち消しあい、塩を形成している状態であると考えられる。ここで、スルホン酸基を有する親水性色素はスルホン酸基を有するために水溶性であると考えられるので、このようにスルホン酸基を用いて塩を形成することで、疎水性の組成物が形成されると考えられる。なお、本実施形態に係る粒子は、コアに固体ポリマーを用いることで、粒子を力学的に安定にすることができる。
以下の説明においては、スルホン酸基を有する親水性色素がICGの場合について説明するが、本発明はICGに限定されず、下記の(スルホン酸基を有する親水性色素)の項目で挙げる化学式2の色素を用いることができる。
本実施形態に係る粒子は、インドシアニングリーンと前記インドシアニングリーンを担持する疎水性のポリマーとを有し、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することが好ましい。
本実施形態に係る粒子では、水溶性のICGに正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を添加することによって、水溶性のICGと正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種とによる疎水性の組成物が形成される。そのため、疎水性のポリマーマトリックスからなる粒子内にICGを高濃度に含有させることができ、さらには粒子内からのICGの漏出とそれによる褪色とを抑制することができる。
組成物が形成されている状態とは、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種の有する正帯電部位と、ICGのスルホン酸基とが、電荷を打ち消しあい、塩を形成している状態であると考えられる。ここで、ICGはスルホン酸基を有するために水溶性であると考えられるので、このようにスルホン酸基を用いて塩を形成することで、疎水性の組成物が形成されると考えられる。
【0016】
<粒子>
まず、本実施形態に係る粒子(以下ポリマーナノ微粒子ということがある)について説明する。ポリマーナノ微粒子1は、図1(a)に示すように、インドシアニングリーン(ICG)2と添加物3とを含有するポリマー4からなる微粒子であって、該添加物3が正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種である。この微粒子の表面には界面活性剤5が存在してもよい。
【0017】
また、本発明の別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子1は、図1(b)に示すように、ポリマー4中にICG2と添加物3を含んだ微粒子であって、該微粒子の表面に二種類の異なる界面活性剤5と界面活性剤6が存在することを特徴とする。なお、このとき、三種類以上の異なる界面活性剤を用いてもよい。
また、本発明の別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子1は、図1(c)に示すように、ポリマー4中にICG2と添加物3を含んだ微粒子であって、該微粒子の表面に二種類の異なる界面活性剤5、界面活性剤6、及びアルブミン10が存在することを特徴とする。
本実施形態に係る粒子によれば、粒子表面のアルブミンがICGと吸着することにより、粒子の外へ漏出することを抑えることができる。
【0018】
また、本発明のさらに別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、その一部に捕捉分子が結合していることを特徴とし、捕捉分子により標的部位を特異的に標識することができる。
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、生体透過性の優れた600nmから900nmの近赤外波長の吸収を持つICGを含んでいることを特徴とする。
【0019】
(粒径)
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、目的とする用途に対して平均粒径を制御することが可能であり、その平均粒径は10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
これは、この範囲の平均粒径であればEPR(Enhanced Permeation and Retention)効果があると考えられるからである。腫瘍組織では、正常組織に比べ血管透過性が高いため、粒子などが血管より流出しやすい。さらに、この流出した粒子は腫瘍組織に到達して蓄積する。腫瘍組織の持つこのような物質蓄積の特性をEPR効果という。
なお、平均粒径を求める方法としては、TEM(Transmission Electron Microscope)画像を取得して、その画像から粒径を測定することにより求める方法や、動的光散乱法を用いて求める方法などがある。動的光散乱法によって平均粒径を求める方法として例えば、動的光散乱解析装置(大塚電子(株)製、DLS-8000)を用いる方法が挙げられる。
【0020】
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、微粒子内に高濃度のICGを含有させることによって、1.0×108 M-1cm-1以上の大きなモル吸光係数を有し、PAT用影剤や蛍光造影剤として好適に利用することができる。
【0021】
(スルホン酸基を有する親水性色素)
本実施形態におけるスルホン酸基を有する親水性色素は、生体内で利用するにあたり、色素は生体から排出されやすい親水性色素が安全であり望ましい。また、本実施形態に係る組成物においては、正帯電部位を有する脂質が、スルホン酸基に会合して効果を奏すると考えられる。また、親水性色素は、生体内における光の吸収、拡散の影響が少ない「生体の窓」と呼ばれる600ナノメートル以上1300ナノメートル以下の波長に吸収を持つものが好ましい。
前記スルホン酸基を有する親水性色素としては、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素、インジゴイド系色素を挙げることが出来る。
前記シアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、Alexa Fluor(登録商標)系色素(インビトロジェン社製)、Cy(登録商標)系色素(GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)、IR−783 、IR−806、IR−820(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)、IRDye 800CW、IRDye 800RS(登録商標)(LI−COR社製)、ADS780WS、ADS795WS、ADS830WS、ADS832WS(American Dye Source社製)を挙げることが出来る。
【0022】
<ICG>
本実施形態において、ICG(インドシアニングリーン)は化学式1で示される構造、及び、下記の構造において対イオンがNa+の代わりにH+又はK+であるものを指す。また、ICGは895nm付近に吸収極大を有するJ会合体を含んでいても良い。
【化1】
なお、上記のIR−820は下記の化学式2で示される。
【化2】
【0023】
<添加物>
本実施形態における添加物は、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種である。ICGは親水性部位を有する物質だが、添加物を添加することにより、これらの正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体の有する正帯電部位がICGの親水性部位(スルホン酸基)に会合し、そのためにICGの疎水性が上がるため、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒に可溶化することができると考えられる。ICGは脱塩カラムなどで処理してICGの脱塩体として使用しても良い。
【0024】
(正帯電部位を有する脂質)
正帯電部位を有する脂質とは、脂質のうちその構造の一部に、陽イオンの部分構造を有する脂質のことを言う。このような脂質の例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン等のグリセロ脂質、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質及びスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質、ノイラミン酸等のアミノ糖部分を有するスフィンゴ糖脂質等の糖脂質、コレステリル−3β−カルボキシアミドエチレン−N−ヒドロキシエチルアミン及び3([N−N’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール等の合成コレステロール類、ラウリルアミン、ステアリルアミン、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(略称DOTMA)及び2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(略称DOSPA)等の合成脂質、並びにエーテル型リン脂質及びカチオニック脂質等を挙げることができる。
また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの例としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン及びジアシルホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【0025】
また、正帯電部位を有する脂質は、さらにリン酸ジエステル結合を有することが好ましく、例えば、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DSPE)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DPPE)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DMPE)、1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DLPE)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DOPE)、1,2-Dilinoleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DLoPE)、1,2-Dierucoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DEPE)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DSPS)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DPPS)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DMPS)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DOPS)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DSPC)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DPPC)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DMPC)、1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DLPC)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)、1,2-Dilinoleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DLoPC)などが挙げられる。
本実施形態における正帯電部位を有する脂質としては、他にも、1,2-di-o-acyl-sn-glycero-3-phosphocholine、1,2-diacyl-3-trimethylammonium propane chloride、o,o’-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride等を使用することができる。
本実施形態に係る正帯電部位を有する脂質として、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルコリンのうち少なくともいずれか一方であることが特に好ましい。
【0026】
なお、本実施形態に係る粒子は、上記の正帯電部位を有する脂質のいずれか一種を有していてもよく、又は複数種を有していてもよい。
【0027】
(ニコチン酸誘導体)
本実施形態におけるニコチン酸誘導体は、ニコチン酸骨格を有していれば特に限定されないが、下記の一般式(I)で表されることが好ましい。
【化3】
式(I)において、Aは下記の式(a1)、式(a2)、式(a3)のいずれかである。式(a1)、式(a2)、式(a3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のZと結合する。
【化4】
式(I)において、Zは下記の式(z1)、式(z2)、式(z3)のいずれかである。式(z1)、式(z2)、式(z3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のAと結合する。式(z2)において、R1は水素原子、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、ベンジル基のいずれかである。 前記置換基はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかである。
【化5】
【化6】
【化7】
【0028】
本実施形態に係るニコチン酸誘導体が上記の式(I)で表される場合、スルホン酸基を有する親水性色素のスルホン酸基の負電荷と、ピリジン環の窒素原子と溶媒などに存在するプロトンとで形成されるNH+の正電荷が電荷をキャンセルすることで、該親水性色素が、疎水性溶媒に対して溶解しやすくなっていると考えられる。したがって、式(a1)、式(a2)、式(a3)のように、オルト、メタ、パラのいずれの位置に−NH2や−COR1といった官能基が存在しても、式(I)で表されるニコチン酸誘導体とスルホン酸基を有する親水性色素の、疎水性溶媒に対する溶解性は、該親水性色素のみに比べて高いと考えられる。
【0029】
本実施形態におけるニコチン酸誘導体としては、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、イソニコチン酸エチル、ニコチン酸トコフェロール等を挙げられる。これらのうち、ニコチン酸アミドまたはニコチン酸ベンジルエステルのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
ニコチン酸誘導体は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0030】
(チアミン誘導体)
本実施形態におけるチアミン誘導体は、特に限定されないが、下記の一般式(II)で表されることが好ましい。
【化8】
式(II)において、Bは下記の式(b)である。式(b)中の*1は結合手を表し、*1が式(II)のXと結合する。 式(b)中の*2は結合手を表し、*2が式(II)のYと結合する。
【化9】
式(II)において、Xは下記の式(x1)、式(x2)、式(x3)のいずれかである。式(x1)、式(x2)、式(x3)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(x1)においてnは1乃至10のいずれかの整数である。式(x1)はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかで置換されていてもよい。式(x4)において、R2は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
式(II)において、Yは下記の式(y1)、式(y2)のいずれかである。式(y1)、式(y2)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(y2)において、R3は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化14】
【化15】
【0031】
本実施形態におけるチアミン誘導体としては、チアミンジスルフィド、プロスルチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、スルブチアミン等が挙げられる。これらの中で、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドのうち少なくともいずれか一種であることが好ましい。
チアミン誘導体は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0032】
なお、本実施形態に係る粒子は、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有していればよく、複数種有していてもよい。
【0033】
(その他の添加物)
本実施形態に係る粒子は、コレステロールを有していてもよい。
【0034】
<疎水性のポリマー>
本実施形態における疎水性のポリマーは、ICGと上記の正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を含有することのできるポリマーであれば、いかなるものをも使用することができる。例えば、後述するナノエマルジョン法を用いて本実施形態におけるポリマーナノ微粒子を製造する場合は、第一液体7に溶解させてナノエマルジョンを形成した後、第一液体7を留去して固体になるようなポリマーであればよい。具体的には、炭素数6以下のヒドロキシカルボン酸のホモポリマー又はこれら2種類からなるコポリマー、乳酸−グリコール酸共重合体(poly(lactide-co-glycolide)、以下、PLGAと略すことがある)、ポリ乳酸(polylactic acid、以下PLAと略すことがある)、ポリL−乳酸(poly-L-lactic acid、以下PLLAと略すことがある)、ポリD−乳酸(poly-D-lactic acid、以下PDLAと略すことがある)、ポリスチレン(以下PSと略すことがある)及びポリメタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのポリマーの平均分子量は2000以上1000000以下であることが好ましく、10000以上600000以下であることがさらに好ましい。上記PLGAの乳酸とグルコール酸の比率は、10:90乃至90:10の範囲にあることが好ましく、50:50乃至75:25の範囲にあることがさらに好ましい。上記疎水性のポリマーは一種類のみでもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0035】
<界面活性剤>
本実施形態における界面活性剤(図1における界面活性剤5及び界面活性剤6)としては、特に限定されることはなく、ポリマーナノ微粒子のエマルジョンを形成することができればいかなるものでもよい。例えば非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、高分子界面活性剤又はリン脂質等を使用することができる。これらの界面活性剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0036】
上記本実施形態における界面活性剤に使用する非イオン性界面活性剤としては、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80及びTween85等のポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Brij35、Brij58、Brij76、Brij98、Triton X-100、Triton X-114、Triton X-305、Triton N-101、Nonidet P-40、Igepol CO530、Igepol CO630、Igepol CO720並びにIgepol CO730等を挙げることができる。
【0037】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するアニオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0038】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するカチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム及び塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0039】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用する高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール及びゼラチン等を挙げることができる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの市販品としては、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)などが挙げられる。
【0040】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するリン脂質としては、水酸基、メトキシ基、アミノ基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基又はマレイミド基のいずれかの官能基を有するホスファチジル系リン脂質であることが好ましい。また、界面活性剤に使用するリン脂質はPEG(Polyethylene glycol)鎖を含むものであってもよい。
【0041】
官能基が水酸基、メトキシ基、アミノ基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、マレイミド基でありPEG鎖を含むような界面活性剤に使用するリン脂質としては、例えば、化学式3で示される1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[poly(ethylene glycol)] (DSPE-PEG-OH)、化学式4で示されるPoly(oxy-1,2-ethanediyl),α-[7-hydroxy-7-oxido-13-oxo-10-[(1-oxooctadecyl)oxy]-6,8,12-trioxa-3-aza-7-phosphatriacont-1-yl]-ω-methoxy- (DSPE-PEG-OMe)、化学式5で示されるN-(aminopropyl polyethyleneglycol)-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-NH2)、化学式6で示される3-(N-succinimidyloxyglutaryl) aminopropyl polyethyleneglycol-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-NHS)、化学式7で示されるN-(3-maleimide-1-oxopropyl) aminopropyl polyethyleneglycol-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-MAL)、PEG鎖を含むジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(DPPE−PEG)等のリン脂質を挙げることができる。なお、化学式3乃至7において、nは5以上500以下の整数である。
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0042】
<アルブミン>
本実施形態におけるアルブミンは、ヒトに投与する場合、ヒト由来の血清アルブミンが好ましい。血清アルブミンは分子量約67kDaのタンパク質であり、血中に豊富に存在するタンパク質である。
【0043】
<アルブミンの粒子表面への固定化方法>
本実施形態におけるアルブミンの粒子表面への固定化方法は、主にアルブミンと疎水性のポリマーとの疎水性相互作用などの非共有結合的な力による。非共有結合であることの利点として、粒子表面に共有結合のためのNH2基やSH基などの官能基の導入が不要であるため、作製の手間を減らすことができること、官能基の導入による粒子表面の電荷などの状態の変化による粒子の性質の変化を回避できること、アルブミンの変性を回避できることなどが挙げられる。非共有結合としては、疎水性相互作用の他に、イオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス力などを利用することが可能である。
【0044】
<ポリマーナノ微粒子の製造方法>
ポリマーナノ微粒子を得る方法としては、限定されるものではないが、例えばナノエマルジョン法を挙げることができる。
図1(a)で示されるポリマーナノ微粒子1をナノエマルジョン法により製造する工程の一例を図2に示す。具体的には、以下の(A)から(C)の工程により図1(a)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。
(A)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5を溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(B)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(C)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0045】
図1(b)で示される二種類の界面活性剤を用いたポリマーナノ微粒子1を製造する工程の一例を図3に示す。具体的には、以下の(D)から(F)の工程により図1(b)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。なお、三種類以上の界面活性剤を用いたポリマーナノ微粒子も、同様の工程によって製造することができる。
(D)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5と界面活性剤6とを溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(E)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(F)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0046】
図1(c)で示される二種類の界面活性剤とアルブミンを用いたポリマーナノ微粒子1を製造する工程の一例を図4に示す。具体的には、以下の(G)から(I)の工程により図1(c)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。
(G)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5、界面活性剤6、及びアルブミン10とを溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(H)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(I)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0047】
<第一液体>
上記ナノエマルジョン法に用いる第一液体7の溶媒として使用する有機溶媒としては、水への溶解性がないか又は溶解性が小さく、且つ、ICG2と添加物3からなる組成物及びポリマー4を溶解することができるものであればいかなる有機溶媒をも使用することが可能である。ただし、揮発性の有機溶媒であることが好ましい。
このような有機溶媒としては、限定されるものではないが、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(エチルエーテル、イソブチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、及び芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等を用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても良いし、あるいは2種類以上を適宜の割合で混合して用いることもできる。
また、第一液体7におけるICG2の濃度は、0.0005〜100mg/mlとすることが好ましい。
また、第一液体7におけるポリマー4の濃度は、0.5〜100mg/mlとすることが好ましい。
また、第一液体7におけるICG2と添加物3との重量比は、10:1〜1:20の範囲であることが好ましい。
また、第一液体7におけるICG2とポリマー4との重量比は、1:1〜1:100の範囲であることが好ましい。
【0048】
<第二液体>
上記ナノエマルジョン法に用いる第二液体8は、界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)を溶解した水溶液である。第二液体8に界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)をあらかじめ含ませておくと、第一液体7と混合した際にエマルジョンを安定化させることができる。但し、本実施形態においては第一液体7と第二液体8とを混合した分散液に界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)を含ませることができればよく、界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)は必ずしも第二液体に予め溶解されている必要はない。
【0049】
また、第二液体8に含まれる界面活性剤5(又は界面活性剤6、アルブミン10)の好ましい濃度は、用いる界面活性剤の種類及び第一液体7との混合比にもよる。例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は高分子界面活性剤を用いたときは、第二液体8中の濃度を0.1mg/ml〜100mg/mlとすることが好ましい。また、例えば、PEG鎖を含むリン脂質を界面活性剤として用いたときは、第二液体8中の濃度を0.001mg/ml〜100mg/mlとすることが好ましい。
【0050】
また、界面活性剤5として非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は高分子界面活性剤を、界面活性剤6としてPEG鎖を含むリン脂質を用いた場合の界面活性剤5と界面活性剤6との構成比は、モル比で100:1〜1:1の範囲が好ましい。界面活性剤6の構成比がこの範囲を超えると、ポリマーナノ微粒子の形成が困難になる為、好ましくない。一方、界面活性剤6の構成比がこの範囲よりも小さくなると、捕捉分子を固定化する場合、固定化できる捕捉分子の個数が少なくなる。その結果、ポリマーナノ微粒子の標識性能が低下する為、好ましくない。
【0051】
(エマルジョン)
上記ナノエマルジョン法におけるエマルジョン9は、本発明の目的を達成可能であればいかなる物性のエマルジョンでもよいが、1ピークの粒径分布を有し、且つ、平均粒径が1000nm以下のエマルジョンであることが好ましい。
このようなエマルジョン9は、例えば、断続振とう法、プロペラ型攪拌機及びタービン型攪拌機等のミキサーを利用する攪拌法、並びにコロイドミル法、ホモジナイザー法及び超音波照射法等の従来公知の乳化手法によって調製することが可能である。これらの方法は単独で用いてもよいし、あるいは2種以上の方法を組み合わせて用いることも可能である。また、エマルジョン9は1段階の乳化によって調製しても良いし、多段階の乳化によって調製しても良い。但し、乳化手法は、本発明の目的を達成できる範囲においてこれらの手法に限定されるものではない。
【0052】
エマルジョン9は、第二液体8に第一液体7を加えて得られる混合液から調製される水中油(O/W)型のエマルジョンである。ここで、第一液体7と第二液体8の混合とは、第一液体7と第二液体8とを空間的に隔離せずに互いに接触して存在させることを意味し、必ずしも互いに混和することを要さない。
混合液における第一液体7と第二液体8との割合は、水中油(O/W)型のエマルジョンを形成することができれば特に限定されることはないが、好ましくは、第一液体7と第二液体8との重量比が、1:2〜1:1000となる範囲で混合することが好ましい。
【0053】
(留去)
上記ナノエマルジョン法における留去とは、エマルジョン9の分散質から第一液体7を除去する操作である。即ち、ICG2、添加物3、ポリマー4、第一液体7(有機溶媒)から構成された分散質から第一液体7を除去することである。
留去は、従来知られる何れの方法でも実施可能であるが、加熱によって除去する方法、あるいはエバポレーター等の減圧装置を利用した方法を挙げることができる。加熱による除去の場合の加熱温度は、O/W型のエマルジョンを維持できれば特に限定されないが、好ましい温度は0℃から80℃の範囲である。但し、留去は、本発明の目的を達成できる範囲において上記手法に限定されない。
【0054】
<捕捉分子>
本実施形態おいて、上記のポリマーナノ微粒子1の一部に、捕捉分子を固定化することにより、標的部位を特異的に標識することができる。
捕捉分子とは、腫瘍などの標的部位に特異的に結合する物質、標的部位の周辺に存在する物質に特異的に結合する物質などであり、生体分子や医薬品等の化学物質などから任意に選択することができる。具体的には、抗体、抗体フラグメント、酵素、生物活性ペプチド、グリコペプチド、糖鎖、脂質、分子認識化合物などが挙げられる。これらの物質は単独で用いることもできるし、あるいは複数を組み合わせて用いることもできる。
捕捉分子が化学結合されたポリマーナノ微粒子1を用いることで、標的部位の特異的な検出、標的物質の動態、局在、薬効、代謝等の追跡を行うことができる。
【0055】
<捕捉分子の固定化>
ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化する方法としては、用いる捕捉分子の種類にもよるが、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を化学結合させることができる限り、いかなる公知の方法をも使用することができる。例えば、前記した界面活性剤5又は界面活性剤6が有する官能基と捕捉分子の官能基とを反応させて化学結合する方法等を使用することができる。
【0056】
例えば、界面活性剤5又は界面活性剤6がN−ヒドロキシスクシンイミド基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、アミノ基を有する捕捉分子と反応させて、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、界面活性剤の未反応のN−ヒドロキシスクシンイミド基は、グリシン、エタノールアミン、又は末端にアミノ基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等と反応させて失活させることが好ましい。
【0057】
また、界面活性剤5又は界面活性剤6がマレイミド基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、チオール基を有する捕捉分子と反応させて、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、界面活性剤の未反応のマレイミド基は、L−システイン、メルカプトエタノール、又は末端にチオール基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等と反応させて失活させることが好ましい。
【0058】
また、界面活性剤5又は界面活性剤6がアミノ基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、グルタルアルデヒドを用いて捕捉分子のアミノ基と反応させ、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、エタノールアミン、又は末端にアミノ基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等を反応させて未反応のアミノ基の活性をブロックすることが好ましい。あるいは、界面活性剤のアミノ基をN−ヒドロキシスクシンイミド基やマレイミド基に置換して、捕捉分子を固定化しても良い。
【0059】
<造影剤>
本実施形態に係る造影剤は、本実施形態に係る粒子及び前記粒子が分散された分散媒を有する。
ここで分散媒は、本実施形態に係る粒子を分散させるための液状の物質であり、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る粒子をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る粒子と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に粒子を分散媒に分散させて使用してもよい。
【0060】
<光イメージング用造影剤>
本実施形態おける光イメージング用造影剤について説明する。本実施形態において光イメージングとは、光を照射することで、イメージング(画像化)することを意味する。すなわち、本実施形態に係る光イメージング用造影剤のスルホン酸基を有する親水性色素に光が照射されることで、音響波や蛍光などを発する。発せられた音響波を検出することで光音響イメージングをすることができ、発せられた蛍光を検出することで蛍光イメージングをすることができる。なお、光音響イメージングは、光音響トモグラフィー(断層撮影法)を含む概念である。
【0061】
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、さらに、例えば生理食塩水、注射用蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、以下PBSと略すことがある)などの分散媒を有していてもよい。また本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、必要に応じて薬理上許容できる添加物を有していても良い。
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、上記の分散媒に予め分散させておいてもよいし、キットにしておき、生体内に投与する前に分散媒に分散させて使用してもよい。このように、本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、光音響イメージング用造影剤や、蛍光イメージング用造影剤として利用することができる。
【0062】
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果を利用することで、生体内に投与したときに、生体内の正常部位に比べて腫瘍部位により多く集積させることができる。その結果、ポリマーナノ微粒子を生体内に投与した後、生体に光を照射して、生体からの音響波や蛍光を検出するときに、腫瘍部位から発せられる音響波や蛍光を正常部位から発せられる音響波や蛍光よりも大きくすることができる。従って、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は腫瘍部位を特異的に検出する光イメージング用造影剤として用いることができる。
【0063】
更に、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、前記した捕捉分子を固定化することによって、腫瘍部位へのターゲティングが可能となる。
【0064】
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子はICGを含有しているため、生体に照射したときに安全で、かつ、生体に対して比較的高い透過性をもつ近赤外波長領域(600nmから900nmの波長領域)の波長を吸収することができる。
【0065】
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、ポリマーナノ微粒子を生理食塩水や注射用蒸留水などの溶媒中に分散させて使用することができる。また本実施形態に係る造影剤は、必要に応じて本実施形態に係るポリマーナノ微粒子の他に薬理上許容できる添加物を有していても良い。
【0066】
<造影方法>
生体内に投与された本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を、PAT装置を用いて検出する方法について説明する。本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を検出する方法は以下の工程を有する。但し、本実施形態に係る造影方法は、以下に示す工程以外の工程を含んでいても良い。
(a)本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を生体内に投与する工程。
(b)生体に光を照射し、生体内に存在する本実施形態に係るポリマーナノ微粒子から発せられる光音響信号を検出する工程。
【0067】
(a)について
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を生体内に投与する方法は特に限定されず、経口投与や注射等の方法によることができる。
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、捕捉分子を持たない場合でも、EPR効果によって腫瘍を検出することができる。
更に、捕捉分子を有するポリマーナノ微粒子を生体中で用いた場合、捕捉分子を適宜選択することによって、種々の標的部位を特異的に検出することができる。例えば、捕捉分子として腫瘍に特異的に結合する物質を採用すれば、腫瘍の特異的検出が可能となる。また捕捉分子として、特定の疾病部位の周辺に多く存在するタンパク質や酵素などの生体物質に特異的に結合する物質を用いれば、その疾病を特異的に検出することが可能である。
【0068】
(b)について
生体に照射する光としては、生体に照射したときに安全で、かつ高い生体透過性を示す600nmから900nmの近赤外波長であることが好ましい。また、光を発生させる装置、音響信号を検出する装置は特に制限されず種々のものを用いることが可能である。
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を用いた造影方法は、上記(a)、(b)の工程を経ることで腫瘍などの部位を造影することができる。
次に、生体内に投与された本実施形態に係る粒子を、蛍光装置を用いて検出する方法について説明する。本実施形態に係る粒子を検出する方法は以下の工程を有する。
(c)本実施形態に係る粒子を生体内に投与する工程。
(d)生体に光を照射し、生体内に存在する本実施形態に係る粒子から発せられる蛍光を検出する工程。
なお、上記(c)の工程において、本実施形態に係る粒子を生体内に投与する方法は特に限定されない。また、上記(d)の工程において、生体に照射する光を発生させる装置、本実施形態に係る粒子から発せられる蛍光を検出する装置は特に限定されない。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて更に詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、組成条件、反応条件等、同様な機能、効果を有するポリマーナノ微粒子が得られる範囲で自由に変えることができる。
【0070】
<実施例1>
(ポリマーナノ微粒子1の合成と特性評価)
ICG(5.5mg、(財)日本公定書協会製)をメタノール1mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)(10.6mg、日油(株)製)をクロロホルム2mlに溶解し、DOPEクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mlとDOPEクロロホルム溶液2mlを混合した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDOPEをクロロホルム2mlに溶解して、ICGとDOPEがクロロホルムに溶解してなる、ICG組成物1を調製した。
【0071】
ICG組成物1(1.6ml)に乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)5mg(乳酸:グリコール酸のモル比=1:1、M.W.20000、和光純薬工業(株)製)を溶解させて、クロロホルム溶液1を調製した。
【0072】
次に、Tween20(180mg、東京化成(株)製)と化学式4で示されるリン脂質(5mol%、22mg、DSPE-PEG-NH2、PEGのM.W.2000、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液1を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃で2時間)で減圧し、分散質からクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDOPEを含むポリマーナノ微粒子1の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP1と略す。
【0073】
PNP1の粒径を動的光散乱解析装置(大塚電子(株)製、DLS-8000)で分析したところ、PNP1の平均粒径は84nm(重量換算)であった。また、PNP1のモル吸光係数は8.0×108 M-1cm-1であり、光音響信号強度は1.8×109 VJ-1M-1だった。
【0074】
尚、光音響信号の計測は、パルスレーザー光を水に分散した光音響造影剤に照射し、圧電素子を用いて造影剤からの光音響信号を検出し、高速プリアンプで増幅後、デジタルオシロスコープで波形を取得して行った。具体的な条件は以下の通りである。パルスレーザー光源として、チタンサファイアレーザ(LT-2211-PC、Lotis製)を用いた。波長は710、750、800、及び850nm、エネルギー密度は20〜50mJ cm-2(選択した波長に依存する)、パルス幅は約20ナノ秒、パルス繰返周波数は10Hzとした。水に分散した光音響造影剤をおさめる測定容器には、光路長1mmのポリスチレン製キュベットを用いた。光音響信号を検出する圧電素子には、エレメント径1.27cm、中心帯域1MHzの非収束型超音波トランスデューサ(V303、Panametrics-NDT製)を用いた。水を満たしたガラス容器に前記の測定容器と圧電素子とを浸け、その間隔を2.5cmとした。光音響信号を増幅する高速プリアンプは増幅度+30dBの超音波プリアンプ(Model 5682、オリンパス(株)製)を用いた。増幅された信号をデジタルオシロスコープ(DPO4104、テクトロニクス(株)製)に入力した。前記ガラス容器の外からパルスレーザー光を前記ポリスチレン製キュベットに照射した。この際に生じる散乱光の一部をフォトダイオードで検出し、デジタルオシロスコープにトリガー信号として入力した。デジタルオシロスコープを32回平均表示モードとし、レーザーパルス照射32回平均の光音響信号取得を行った。
【0075】
<実施例2>
(ポリマーナノ微粒子2の合成と特性評価)
実施例1のDOPEの代わりにDSPC(11.3mg、日油(株)製)を用いて、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物2を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物2に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子2の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP2と略す。
PNP2の平均粒径は70nm(重量換算)であった。また、PNP2のモル吸光係数は4.7×108 M-1cm-1であり、光音響信号強度は9.7×108 VJ-1M-1だった。
【0076】
<実施例3>
(ポリマーナノ微粒子3の合成と特性評価)
実施例1のDOPEの代わりにDSPC(74.7mg、日油(株)製)を用い、ICGを36.7mg使用して、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物3を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物3に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子3の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP3と略す。
PNP3の平均粒径は166nm(重量換算)であった。また、PNP3のモル吸光係数は2.8×1010M-1cm-1であり、従来から知られている金ナノロッドのモル吸光係数(8.6×109)より大きいことが確認された。更に、PNP3の光音響信号強度は9.8×1011 VJ-1M-1であり、大きな信号強度であることを確認した。
【0077】
<実施例4(比較例)>
(脂質の正帯電部位の有無による比較)
実施例1のDOPEの代わりに以下の化学式8から化学式12に示した正帯電部位のない脂質(化学式8:トリステアリン、化学式9:トリオレイン、化学式10:ステアリン酸オレイル、化学式11:β−カロテン、化学式12:酢酸コレステロール)を用いて実施例1と同様にICG組成物を調製しようとしたところ、いずれも、ICGがクロロホルムには溶解せず、目的とするICGを含有したポリマーナノ微粒子を得ることはできなかった。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【0078】
<実施例5>
(ポリマーナノ微粒子4の合成と特性評価)
ICG(5.5mg)とニコチン酸アミド(17.3mg、東京化成(株)製)を混合してメタノール2mlに溶解し、15分間攪拌した。溶媒を留去した後、クロロホルム2mlを加え、次いで、孔径0.45マイクロメートルのフィルターを用いてろ過を行い、ICGとニコチン酸アミドがクロロホルムに溶解してなるICG組成物4を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物4に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子4の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP4と略す。
PNP4の平均粒径は73nm(重量換算)であり、モル吸光係数は9.1×108 M-1cm-1であった。
【0079】
<実施例6>
(ポリマーナノ微粒子5の合成と特性評価)
実施例5のPLGAの量を4倍(20mg)にして、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子5の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP5と略す。
【0080】
PNP5の平均粒径は154nm(重量換算)であり、モル吸光係数は4.2×109 M-1cm-1であった。
【0081】
<実施例7>
(ポリマーナノ微粒子6の合成と特性評価)
実施例5のPLGAの量を8倍(40mg)にして、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチンン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子6の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP6と略す。
【0082】
PNP6の平均粒径は119nm(重量換算)であり、モル吸光係数は2.6×109 M-1cm-1であった。
【0083】
<実施例8>
(ポリマーナノ微粒子7の合成と特性評価)
ICG(22mg)とニコチン酸アミド(17.3mg)を用いて、実施例5と同様の操作を行うことによってICG組成物7を調製した。
【0084】
実施例5のICG組成物4を上記ICG組成物7に替えて、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子7の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP7と略す。
【0085】
PNP7の平均粒径は76nm(重量換算)であった。また、PNP7のモル吸光係数は2.5×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は5.7×1010 VJ-1M-1だった。
【0086】
<実施例9>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価1)
ポリマーナノ微粒子の安定性を評価する為に、PNP1、及びPNP2の水分散液を暗所下4℃で静置して、λmax(797nm)における吸光度の経時変化を測定し、その結果を図5と図6に示した。また、比較例として、非特許文献1とICG水溶中でのλmax(779nm)における吸光度の経時変化を図5に示した。
【0087】
図5から、測定開始5日後、PNP1の吸光度の変化率は約1.5%に、PNP2の吸光度の変化率は約0.6%に抑えられていることが確認された。また、図6から、測定開始2ヶ月が経過しても、PNP1の吸光度の変化率は約15%に、PNP2の吸光度の変化率は約6%に抑えられていることが確認された。PNP1及びPNP2はICGと正帯電部位を有する脂質からなる疎水性の組成物を含有していることから、PNP1及びPNP2からのICGの漏出と褪色が抑制されたものと考えられる。なお本実施系及び以下の実施例において、吸光度の変化率とは、測定開始からたった日数後の吸光度の値を測定開始時の吸光度で割った値を指す。
【0088】
一方、非特許文献1では吸光度が4日で半減しており、粒子からICGが漏出し褪色していることが確認された(図5)。また、ICGを水に溶解させてなるICG水溶液の吸光度の変化率は48時間で70%であり、ICGは水中で非常に速く分解し、褪色していることが確認された。
【0089】
<実施例10>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価2)
実施例9と同様にして、PNP4から6の水分散液のλmax(795nm)における吸光度の経時変化を測定し、その結果を図7と図8に示した。また、比較例として、非特許文献1とICG水溶中でのλmax(779nm)における吸光度の経時変化を図7に示した。
【0090】
図7から、測定開始7日後、PNP4の吸光度の変化率は約10%に、PNP5の吸光度の変化率は約7%に、PNP6の吸光度の変化率は約5%に抑えられていることが確認された。
【0091】
図8から、測定開始4週間が経過しても、PNP4の吸光度の変化率は約25%に、PNP5の吸光度の変化率は約28%に、PNP6の吸光度の変化率は約18%に抑えられていることが確認された。PNPはICGとニコチン酸アミドからなる疎水性の組成物を含有していることから、PNPからのICGの漏出と褪色が抑制されたものと考えられる。
【0092】
一方、図7より、非特許文献1では吸光度が4日で半減しており、粒子からICGが漏出し褪色していることが確認された。また、ICG水溶液の吸光度の変化率は48時間で70%であり、ICGは水中で非常に速く分解し、褪色していることが確認された。
【0093】
<実施例11>
(ポリマーナノ微粒子8の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2(1.6ml)にPLGA(5mg)を溶解させて、クロロホルム溶液11を調製した。
次に、Tween20(60mg)とリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を水に溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液11(1.6ml)を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子8の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP8と略す。
次に、PNP8の水分散液を膜孔1000kDaの透析膜(スペクトラム製)に入れ、2lの水を外液として4℃で透析を行った。透析時間は1回16時間以上行い、透析は4回行った。
次に、透析膜内のPNP8の水分散液を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過した。
PNP8の平均粒径は83nm(重量換算)であった。また、PNP8のモル吸光係数は1.5×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は3.5×1010 VJ-1M-1だった。
【0094】
<実施例12>
(ポリマーナノ微粒子9の合成と特性評価)
実施例11におけるリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を用いなかったこと以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子9の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP9と略す。
PNP9の平均粒径は119nm(重量換算)であった。また、PNP9のモル吸光係数は5.4×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は1.3×1011 VJ-1M-1だった。
【0095】
<実施例13>
(ポリマーナノ微粒子10の合成と特性評価)
実施例11の透析膜を膜孔300kDaの透析膜に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子10の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP10と略し、その特性を表1に示した。
【0096】
<実施例14>
(ポリマーナノ微粒子11の合成と特性評価)
実施例11のクロロホルム溶液11を約2倍量(3.3ml)に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子11の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP11と略し、その特性を表1に示した。
【0097】
<実施例15>
(ポリマーナノ微粒子12の合成と特性評価)
実施例11のクロロホルム溶液を約4倍量(6.6ml)に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子12の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP12と略し、PNP12の特性を表1に示した。
【表1】
材料回収率(%)=(乾燥重量/投入材料重量)×100
残留クロロホルム量:ヘッドスペースを用いたガスクロマトグラフィーで分離し、水素イオン化検出器で検出した。
W/O比 20:1.6〜20:6.6の範囲で平均粒径が約120nm前後のPNPを調製できた。W/O比が小さくなるにつれて、材料回収率、PNP中のICG含有率が増加する傾向が認められた。
【0098】
<実施例16>
(ポリマーナノ微粒子13の合成と特性評価)
実施例11の透析精製を限外ろ過に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。即ち、限外ろ過膜(膜孔300kDa、日本ポール製)を取り付けた限外ろ過撹拌式セル(50ml、日本ミリポア(株)製)にPNP水分散液を全量入れ、室温で限外ろ過を行った。PNP水分散液のろ過された廃液の量と同量の水が新たに限外ろ過撹拌式セルに供給されるように限外ろ過を行い、PNP水分散液の10倍量の廃液が得られたところで、限外ろ過撹拌式セル内のPNP水分散液を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過し、ポリマーナノ微粒子13の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP13と略す。
PNP13の平均粒径は128nm(キュムラント)であり、モル吸光係数は6.8×109 M-1cm-1であった。PNPの精製方法として、透析法と限外ろ過法のどちらを用いても、ほぼ同様なPNPが調製できた。その特性を表2に示した。
【0099】
<実施例17>
(ポリマーナノ微粒子14の合成と特性評価)
前記実施例11のICGとDSPCの量を2倍にして、クロロホルム溶液1.6mlを調製し、そこへPLGA(5mg)を溶解させて、クロロホルム溶液17を調製した。
前記クロロホルム溶液17を用いて、実施例16と同様にしてポリマーナノ微粒子14を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP14と略し、その特性を表2に示した。
【0100】
<実施例18>
(ポリマーナノ微粒子15の合成と特性評価)
前記実施例11のICG、DSPC、及びPLGAの量を2倍にして、クロロホルム溶液18を調製した。このクロロホルム溶液18を用いて、実施例16と同様にして微粒子を調製した。この微粒子をPNP15とし、その特性を表2に示した。
【0101】
<実施例19>
(ポリマーナノ微粒子16の合成と特性評価)
前記実施例11のICG、DSPC、及びPLGAの量を4倍にして、クロロホルム溶液19を調製した。このクロロホルム溶液を用いて、実施例16と同様にして微粒子を調製した。この微粒子をPNP16とし、その特性を表2に示した。
【表2】
ICG、DSPC、PLGAの処方量を2倍、4倍に増加させても、平均粒径は約100nm前後のPNPが調製できることを確認した。またICG処方量を増加させることによりPNP中のICG含有量を10%前後に高めることができた。
【0102】
<実施例20>
(ポリマーナノ微粒子のリン酸緩衝液生理食塩水中での安定性評価)
実施例13で調製したPNP10(0.2ml)に水0.7mlおよび10倍濃度リン酸緩衝液生理食塩水(PBS、インビトロジェン製)を0.1ml添加し、PBS添加PNP分散液を調製した。該PBS添加PNP分散液の平均粒径を4週間経時的に測定した。測定時以外は遮光し、4℃で保存した。その結果は表3に示した。
表3から、PBS添加直後から4週間に粒径の変化は全く認められず、PBS中で安定に保存が可能であった。
【表3】
【0103】
<実施例21>
(ポリマーナノ微粒子の80%血清中での安定性評価)
実施例13で調製したPNP10(0.2ml)に0.2μmフィルターろ過した牛胎児血清(FBS)0.8mlを添加し、FBS添加PNP分散液を調製した。該FBS添加PNP分散液の平均粒径を4日間経時的に測定した。測定時以外は遮光し、37℃で保存した。その結果は表4に示した。
表4より、FBS添加15分後から96時間以内で粒径の大きな変化は確認されなかった。
【表4】
【0104】
<実施例22>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価)
実施例13で調製したPNP10を水で希釈し、吸光度計(パーキンエルマー製)でλmax(790nm)における吸光度を経時的に測定した。測定時以外は遮光し、4℃で保存した。測定結果は図9に示した。図9から、保存2カ月以内であれば97 %以上の吸光度が保持されていることが確認された。
【0105】
<実施例23>
(ポリマーナノ微粒子17の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを2倍量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDa(スペクトラム製)に変更して精製し、ポリマーナノ微粒子17の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP17と略し、その分析結果を表5に示した。
【0106】
<実施例24>
(ポリマーナノ微粒子18の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを4倍の量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDaに変更して精製し、ポリマーナノ微粒子18の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP18と略し、その分析結果を表5に示した。
【0107】
<実施例25>
(ポリマーナノ微粒子19の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを8倍の量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDaに変更して精製し、ポリマーナノ微粒子19の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP19と略し、その分析結果を表5に示した。
【表5】
PLGA処方量を2倍、4倍、8倍に増加させても、粒径およそ100nmから200nmの微粒子が合成できることが確認された。
【0108】
<実施例26>
(一本鎖抗体hu4D5-8scFvの調製)
HER2へ結合するIgGの可変領域の遺伝子配列(hu4D5-8)を基に、一本鎖抗体(scFv)をコードする遺伝子hu4D5-8scFvを作製した。まずhu4D5-8のVL、VH遺伝子をペプチド(GGGGS)3をコードするcDNAで連結したcDNAを作製した。5’末端には制限酵素NcoI- を、3’末端には制限酵素NotIの認識サイトを導入した。以下に塩基配列を示す。
配列番号1:
5’-CCATGGATATCCAGATGACCCAGTCCCCGAGCTCCCTGTCCGCCTCTGTGGGCGATAGGGTCACCATCACCTGCCGTGCCAGTCAGGATGTGAATACTGCTGTAGCCTGGTATCAACAGAAACCAGGAAAAGCTCCGAAACTACTGATTTACTCGGCATCCTTCCTCTACTCTGGAGTCCCTTCTCGCTTCTCTGGATCCAGATCTGGGACGGATTTCACTCTGACCATCAGCAGTCTGCAGCCGGAAGACTTCGCAACTTATTACTGTCAGCAACATTATACTACTCCTCCCACGTTCGGACAGGGTACCAAGGTGGAGATCAAAGGCGGTGGTGGCAGCGGTGGCGGTGGCAGCGGCGGTGGCGGTAGCGAGGTTCAGCTGGTGGAGTCTGGCGGTGGCCTGGTGCAGCCAGGGGGCTCACTCCGTTTGTCCTGTGCAGCTTCTGGCTTCAACATTAAAGACACCTATATACACTGGGTGCGTCAGGCCCCGGGTAAGGGCCTGGAATGGGTTGCAAGGATTTATCCTACGAATGGTTATACTAGATATGCCGATAGCGTCAAGGGCCGTTTCACTATAAGCGCAGACACATCCAAAAACACAGCCTACCTGCAGATGAACAGCCTGCGTGCTGAGGACACTGCCGTCTATTATTGTTCTAGATGGGGAGGGGACGGCTTCTATGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCCTGGTCACCGTCTCCTCGGCGGCCGC-3’
(制限酵素の認識サイトを下線で示す。)
【0109】
上記遺伝子断片hu4D5-8scFvをプラスミドpET-22b(+)(Novagen社)のT7/lacプロモーターの下流に挿入した。具体的には、制限酵素NcoI-とNotIで消化処理したpET-22b(+)に、上記のcDNAをライゲーションする。
この発現プラスミドを大腸菌(Escherichia coli BL21(DE3))に形質転換し、発現用菌株を得た。得られた菌株をLB-Amp培地4mlで一晩前培養後、全量を250mlの2xYT培地に添加し、28℃、120rpmで8時間振とう培養した。その後、終濃度1mMでIPTG(Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside)を添加し、28℃で一晩培養した。培養した大腸菌を8000xg、30分、4℃で遠心分離し、その上清の培養液を回収した。得られた培養液の60%重量の硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を一晩4℃で静置後、8000xg、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を20mM Tris・HCl/500 mM NaClバッファーに溶解し、1lの同バッファーへ透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(登録商標)Resin(Novagen社)を充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製したhu4D5-8scFvは、還元SDS-PAGEによりシングルバンドを示し分子量は約28kDaであることを確認した。以下に調製された抗体のアミノ酸配列を示す。以後、hu4D5-8scFvをscFvと略す。
配列番号2:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC
【0110】
<実施例27>
(ポリマーナノ微粒子20の合成)
ICG(4.4mg)をメタノール1mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。DSPC(9mg)をクロロホルム1mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mlとDSPCクロロホルム溶液1mlを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDSPCをクロロホルム1.6mlに完全に溶解して、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物を調製した。これにPLGA(20mg)を溶解させて、PLGAクロロホルム溶液を調製した。次に、Tween20(60mg)、末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N-(Carbonyl-methoxypolyethyleneglycol 2000)-1,2-distearoyl- sn-glycero-3-phosphoethanolamine, sodium salt(7.3mg、DSPE-020CN)、ならびに、末端に1級アミノ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N-(aminopropyl polyethyleneglycol)carbamyl-distearoylphosphatidyl-ethanolamine(0.7mg、DSPE-020PA、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを留去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ 0.2μm)することで、ICGとDSPCを含有するポリマーナノ微粒子20の水分散液を得た。以後、この粒子をPNP20と略す。
PNP20の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。PNP20の平均粒径は105nm(キュムラント)、ゼータ電位は-31mVであった。
【0111】
<実施例28>
(PNP20表面へのscFvの修飾)
実施例26で調製したscFvを5mM EDTAを含むリン酸バッファー(2.68mM KCl/137mMNaCl/1.47mM KH2PO4/1mM Na2HPO4/5mM EDTA、pH7.4)にバッファー置換後、10倍モル量のトリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)によって、25℃で約2時間、還元処理した。
PNP20の表面に存在する1級アミノ基を介して、scFvの修飾を行った。まず、succinimidyl-[(N-maleimidopropionamido)-diethyleneglycol] ester (SM(PEG)2、サーモサイエンティフィック社) の0.1mg(233nmol)を、PNP20の水分散液(PNP濃度:4.8×1012個/ml)の2.9mlに溶解した。次に、0.33mlのほう酸バッファー(pH8.5)を加えた。この粒子懸濁液を室温で2時間撹拌した後、PD-10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、マレイミド基を導入したPNP20(以下、マレイミド化PNP20と略す)と未反応のSM(PEG)2を、水を展開溶媒として分離し、マレイミド化PNP20の水溶液およそ6mlを得た。この水溶液に1Mの 2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)溶液を120μl加えることで、マレイミド化PNP20のHEPES溶液を得た。
前記還元処理したscFvを、前記マレイミド化PNP20のHEPES溶液に添加し、4℃で15時間以上反応させた。仕込みの反応モル比(scFv/マレイミド化PNP20)は、720で行った。ここで「仕込み」とは反応系に加えられた、という意味であり、「仕込みの反応モル比」とは、反応系に加えられたscFvとマレイミド化PNP20のモル濃度比のことをいう。反応後、この溶液に、末端チオール基を有するポリエチレングリコール(分子量1000、PLS-606、Creative PEGWorks社製)16.8nmolを加え、室温で30分撹拌した。次いで、この溶液をフィルターろ過(ポアサイズ1.2μm)した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ-4(日本ミリポア(株)製)を用いた限外ろ過によりマレイミド化PNP20へ結合しなかったscFvを除去して、scFvが修飾されたPNP20を得た。以後、得られたこの粒子をscFv- PNP20と略す。
BCA(bicinchoninic acid、ビシンコニン酸)法を用いて、PNP20へのscFvの修飾量を算出した結果、粒子あたりに491個のscFvが修飾されていることがわかった。scFv- PNP20の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。scFv- PNP20の平均粒径は109nm(キュムラント)、ゼータ電位は-40mVであった。
【0112】
<実施例29>
(scFv- PNP20の細胞結合能評価)
培養細胞に対するscFv- PNP20の結合能評価を行った。前日にHER2陽性細胞(N87細胞)、ならびにHER2陰性細胞(SUIT-2細胞)をそれぞれ24ウェルプレートに播種した(4×1055 cells/well)。翌日、培地を除去し、増殖培地200μlを入れた後、scFv- PNP20を添加した(PNP濃度として、0、16、33、81、157、300pM)。4℃で3時間、静置した。その後、scFv- PNP20を含む培地を除去し、PBS 1mlで2回、しっかり洗った。PBSを除去した後、細胞を溶かすため、Triton X-100(polyoxyethylene-p-isooctylphenol)の1%水溶液を1ウェルにつき300μl加えた。37℃で1時間以上インキュベートした。この細胞溶解液を回収し、溶液中のICG量を蛍光測定により求めた。蛍光測定は、励起波長は790nm、蛍光波長は820nmとした。蛍光強度値とインキュベートしたscFv- PNP20濃度より、スキャッチャードプロットを作成し、N87細胞に対するscFv- PNP20の見かけの平衡解離定数(Kd)を求めた結果、0.17nMであった。一方、SUIT-2細胞への結合は弱く、その結果、蛍光強度値が小さかったため、スキャッチャードプロットからKdは求められなかった。以上の結果より、scFv- PNP20は、HER2陽性細胞に対し、HER2を認識して結合することが確認された。
【0113】
<実施例30>
(ポリマーナノ微粒子21〜23の合成と特性評価)
実施例2で調製した、ICG組成物2(1.6ml)に、PLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液30を調製した。
次に、Tween80(東京化成工業社製)を含む水溶液(20ml)に、前記クロロホルム水溶液(1.6ml)を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、この混合液を、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面にTween80が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含む、ポリマーナノ微粒子21、22、23の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子21、22、23は、それぞれ、Tween80(東京化成工業社製)を180mg、60mg、12mg含む水溶液(20ml)を用いてできた粒子である。
次に、ポリマーナノ微粒子21の水分散液を限外ろ過装置(限外ろ過膜 膜孔300kDa(日本ポール製))にいれ、注水しながら限外ろ過操作を行い、廃液量が400mlになるまでそれぞれ継続した。ポリマーナノ微粒子22、23についてもポリマーナノ微粒子21と同様に限外ろ過操作を行った。
次に、限外ろ過装置内のポリマーナノ微粒子21、22、23の水分散液(液量はすべて20ml)を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過した。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP21、PNP22、PNP23と略す。PNP21、PNP22、PNP23の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数の測定結果は表6に示した。
【0114】
<実施例31>
(ポリマーナノ微粒子24〜26の合成と特性評価)
実施例30のTween80(東京化成工業社製)を含む水溶液のかわりに、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例30と同様にしてポリマーナノ微粒子を調製した。具体的には、微粒子の表面にプルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子24、25、26の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子24、25、26は、それぞれ、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)を268mg、100mg、50mg含む水溶液(20ml)を用いてできた粒子である。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP24、PNP25、PNP26と略す。PNP24、PNP25、PNP26の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数の測定結果は表6に示した。
【0115】
<実施例32>
(ポリマーナノ微粒子27〜29の合成と特性評価)
実施例30のTween80(東京化成工業社製)を含む水溶液のかわりに、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)を含む水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。具体的には、微粒子の表面にプルロニックF127が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子27、28、29の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子27、28、29は、それぞれ、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)がそれぞれ268mg、100mg、50mg溶解した水溶液(20ml)を用いていできた粒子である。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP27、PNP28、PNP29と略す。
PNP27、PNP28、PNP29の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数は表6に示した。
【表6】
Tween20とリン脂質で粒子表面を保護されたPNP2はモル吸光係数は4.7×108 M-1cm-1であり、実施例30〜32で調製したTween80あるいはプルロニックF68あるいはプルロニックF68で粒子表面を保護されたPNP21〜PNP29ではPNP2と比較して同等以上のモル吸光係数を示した。
【0116】
<実施例33>
(アルブミンを表面に含有する粒子の合成と特性評価)
ICG(13.2mg)をメタノール3mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。DSPC(27mg)をクロロホルム3mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液3mlとDSPCクロロホルム溶液3mlを混合した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDSPCをクロロホルム4.8mlに溶解して、ICGとDOPEがクロロホルムに溶解してなる、ICG組成物33を調製した。
ICG組成物33のクロロホルム溶液4.8mlにPLGA60mgを溶解させて、クロロホルム溶液33を調製した。
次に、Tween20(180mg)とリン脂質(21.9mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を溶解した水溶液(60ml)を調製した。前記Tween20とリン脂質の水溶液(60ml)を20mlずつに分け、それぞれにヒト血清アルブミン(カルビオケム製)を0mg、5.2mg、52mg添加して、アルブミンを0mg、5.2mg、52mg含有したTween20とリン脂質の水溶液を調製した。この3種類の水溶液20mlに、クロロホルム溶液33を1.6mlずつ加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃で2時間)で減圧し、分散質からクロロホルムを留去した。その結果、アルブミンを用いない系では、粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含む粒子の水分散液ができた。また、アルブミンを用いた系では、Tween20、リン脂質、およびアルブミンで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含む粒子の水分散液を得た。得られた水分散液を純水(2l)へ透析する操作を5回繰り返した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ−4(日本ミリポア社)を用いた限外ろ過を行うことで、粒子にならなかった物質や、粒子につかなかったアルブミンを除去した。最後に0.45μmフィルターでろ過し、粒子の水分散液を得た。以後、アルブミンを0mg、5.2mg、52mg含有したTween20とリン脂質の水溶液を用いて作製した粒子をそれぞれ、PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hと略す。
【0117】
PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hの平均粒径(キュムラント値)を測定したところ、PNP30は122nm、PNP30-Alb-Lは134nm、PNP30-Alb-Hは80nmであった。
それぞれの粒子のICGの吸光度のλmaxを測定したところ、PNP30は784nm、PNP30-Alb-Lは790nm、PNP30-Alb-Hは797nmであった。λmaxがアルブミンを含有させることで長波長側にシフトしていることより、ICGがアルブミンに吸着していることが示唆された。
次に、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hのアルブミンの数を、Micro BCATM Protein AssayKit (Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて評価した。その結果、PNP30におけるアルブミンの数を0としたとき、粒子1個当たり、PNP30-Alb-Lは200個程度、PNP30-Alb-Hは800個程度のアルブミンが表面に含まれていることが示唆された。
【0118】
<実施例34>
(粒子のPBS中での安定性の評価)
PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hをリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH=7.4)で、室温で1日静置した際の各粒子のλmaxにおける吸光度を経時的に測定することにより、各粒子のPBS中でのICGの漏出性、褪色性を評価した。各粒子の0時間の時のλmaxでの吸光度を100とした際の1日後の吸光度の相対値を記した結果を図10に示す。図10に示すように、PNP30では1日後に0時間の時と比較して7割程度に減少するのに対し、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hでは9割以上維持されていた。以上より、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hでは、PBS中でICGを安定に保持していることを確認した。
【0119】
(参考例(A−1))
ICG((財)日本公定書協会製)11mgをメタノール4mLに溶解させた。このICGに対して、20倍(モル比)のニコチン酸アミド34.7mgをメタノール4mLに溶解させた。この両メタノール溶液を混合し、15分攪拌した後、エバポレーターを用いて、メタノールを留去した。これにクロロホルム4mLを加えて攪拌した。さらに、超音波分散装置を用いて30秒間超音波照射を行った。孔径0.45マイクロメートルのフィルターを用いてろ過を行い、溶解した成分を回収した。以下では、回収された試料をA−1ということがある。
【0120】
(参考例(A−2)、参考例(A−3)(比較対照))
A−2、A−3は、参考例(A−1)で、ニコチン酸アミドを用いた代りに、ニコチン酸ベンジルエステル、ピリジンを用いた以外は、A−1と同様にして得られた。
【0121】
(参考例(A−0))
比較対照であるA−0は、参考例(A−1)で、ニコチン酸アミドを用いない以外は、参考例(A−1)と同様にして得られた。
【0122】
(参考例(A−4)(比較対照))
比較対照であるA−4は、ニコチン酸アミドを用いる代りに、Journal of Biomedical Optics 131, 014025, 2008で用いられている、テトラブチルアンモニウムヨージドを用い、それ以外は、参考例(A−1)と同様に得られた。
【0123】
(参考例(B−1)、(B−2))
B−1、B−2は、参考例(A−1)、(A−2)で、クロロホルムを用いる代りに、ジクロロメタンを用いた以外は、参考例(A−1)、(A−2)と同様に得られた。
【0124】
(参考例(B−0)(比較対照))
比較対照であるB−0は、参考例(B−1)で、ニコチン酸アミドを用いない以外は、参考例(B−1)と同様に得られた。
【0125】
(参考例(B−5)(比較対照))
比較対照であるB−5は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=3:1の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0126】
(参考例(B−6)(比較対照))
比較対照であるB−6は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=1:1の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0127】
(参考例(B−7)(比較対照))
比較対照であるB−7は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=1:3の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0128】
(参考例(C−1)、(C−2)、(C−3))
C−1、C−2、C−3は、それぞれ、ニコチン酸アミドを用いた代りに、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドを用いた以外は、参考例(A−1)と同様にして得られた。
【0129】
(参考例:溶解性評価)
上記参考例(A−0)乃至(A−4)で回収した各試料を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、A−0で得られた吸光度の値を1として規格化し、比較したものが図11(a)である。
色素と疎水性溶媒からなる比較対照であるA−0と比較して、ニコチン酸アミドを用いて得られたA−1は3.2倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたA−2は2.1倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、Journal of Biomedical Optics 131, 014025, 2008で用いられているテトラブチルアンモニウム塩を用いて得られたA−4と比較しても、ニコチン酸アミドを用いて得られたA−1は3.2倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたA−2は2.1倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、ピリジンを用いて得られたA−3は、有効性が見られなかった。
【0130】
上記参考例(B−0)乃至(B−7)で回収した各試料を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、比較例B−0の値を1として規格化し、比較したものが図11(b)である。
色素と疎水性溶媒からなる対照組成物B−0と比較して、ニコチン酸アミドを用いて得られたB−1は10.4倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたB−2は6.2倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、B−0と比較して、メタノールを用いて得られたB−5、B−6,B−7は6.3倍〜9.1倍とメタノールの添加量に応じて、非常に良好な溶解性を示した。
上記実施例及び比較例で回収したC−1からC−3、A−0溶液を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、A−0で得られた値を1として規格化し比較した。
色素と疎水性溶媒からなる比較対照A−0と比較して、フルスルチアミンを用いて得られたC−1は1.4倍、プロスルチアミンを用いて得られたC−2は1.6倍、チアミンジスルフィドを用いて得られたC−3は1.9倍、となり、非常に良好な溶解性を示した。
【0131】
<実施例35>
(ポリマーナノ微粒子31の合成)
ICG5.5mgをメタノール1mLに溶解させた。ICG可溶化剤として、フルスルチアミン58.7mgをメタノール1mLに溶解させた。このフルスルチアミン・メタノール溶液を加えて15分間撹拌した後、溶媒を留去させた。得られた試料にクロロホルム2.0mLを添加して分散、溶解させた後、孔径0.45マイクロメートルのフィルターでろ過した。ろ過して得られた試料にPLGA(40mg)を添加して溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。
界面活性剤として、Tween20 180mg、SUNBRIGHT DSPE-020CN 22.0mgを、超純水20mLに添加し、界面活性剤を溶解した水溶液を調製した。
この界面活性剤を溶解した水溶液を撹拌しながら、本実施例で調製したクロロホルム溶液を滴下して、エマルション準備液を調製した。
エマルション準備液を、超音波分散装置(トミー製、UD−200)を用いて1分30秒間超音波照射をすることにより、エマルションを作製した。
エマルション中のクロロホルムを取り除くために、エバポレーターを用いて、クロロホルムを留去し、ナノ粒子の分散液を作製した。
得られたナノ粒子分散液を、透析膜(分画分子量 300000)を用いて、過剰の界面活性剤等を除去して、ポリマーナノ微粒子31を得た。以降、このポリマーナノ微粒子31をPNP31と略す。
【0132】
<実施例36>
(ポリマーナノ微粒子32、33の合成)
フルスルチアミンを、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドとした以外は、実施例35と同様に合成し、ポリマーナノ微粒子32、33を得た。以降、このポリマーナノ微粒子32、33をPNP32、33と略す。
PNP31、32、33について、波長790nmにおける光音響信号特性評価を行った。
表7に、PNP31、32、33の吸収極大波長、平均粒径、粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度を示す。
粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度は、粒径が100nmである場合に換算して比較した。
【0133】
【表7】
【0134】
<実施例37>
(ポリマーナノ微粒子34の合成)
ICG5.5mgをメタノール1mLに溶解させた後、ICG可溶化剤としてプロスルチアミン50.6mgを加えて15分間撹拌した後、溶媒を留去させた。得られた試料にアセトン3.0mLを添加して、孔径0.45マイクロメートルのフィルターでろ過した。ろ過して得られた試料(2.0mL)にPLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。
界面活性剤として、Tween20(50mg)を、超純水10mLに添加し、界面活性剤分散水溶液を調製した。
この界面活性剤分散水溶液を撹拌しながら、本実施例で調製した有機溶媒分散液を滴下して、ナノ粒子分散液を作製した。
得られたナノ粒子分散液を透析膜(分画分子量 1000000)を用いて、過剰の界面活性剤等を除去して、ポリマーナノ微粒子34を得た。以降、このポリマーナノ微粒子34をPNP34と略す。
【0135】
<実施例38>
(ポリマーナノ微粒子35の合成)
アセトンをアセトニトリルとした以外は、実施例37と同様に合成し、ポリマーナノ微粒子35を得た。以降、このポリマーナノ微粒子35をPNP35と略す。
【0136】
<実施例39>
(ポリマーナノ微粒子36の合成)
IR−820(5.5mg、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)をメタノール1mlに溶解し、IR−820メタノール溶液を調製した。DSPC(9mg)をクロロホルム1mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。IR−820メタノール溶液1mlとDSPCクロロホルム溶液1mlを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したIR820とDSPCをクロロホルム1.6mlに完全に溶解して、IR820とDSPCがクロロホルムに溶解してなるIR−820組成物を調製した。これにPLGA(20mg)を溶解させてPLGAクロロホルム溶液を調製した。次に、Tween20(60mg)、末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N−(Carbonyl−methoxypolyethleneglycol 2000)−1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine,sodium salt(7.3mg,DSPE-020CN,日油株式会社製)を溶解した水溶液(20ml)に前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、撹拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを留去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ0.2μm)することで、IR−820とDSPCを含有するポリマーナノ微粒子36の水分散液を得た。以降、このポリマーナノ微粒子36をPNP36と略す。
PNP36の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。PNP36の平均粒径は94nm(キュムラント)、ゼータ電位は−24mVであった。
また、定法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った結果、PNP36は825nmに吸収極大を持ち、吸収極大におけるモル吸光係数は5.0×109M−1cm−1であった。
更に、前述した光音響測定方法に従い測定した結果、PNP36の光音響信号強度は、750nmおよび820nmにおいて、1.8×1011VJ−1M−1であった。
【0137】
<比較例1>
実施例37でアセトンに溶解させたICGと同量のICGを、0.67mLのメタノールに溶解させて、1.33mLのアセトン、PLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。これ以外は、実施例37と同様に合成し、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−1を得た。
【0138】
<比較例2>
実施例38でアセトニトリルに溶解させたICGと同量のICGを、0.67mLのメタノールに溶解させて、1.33mLのアセトニトリルに混合し、PLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。これ以外は、実施例38と同様に合成し、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−2を得た。
表8に、PNP34、35、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−1、VBC−2の吸収極大波長、平均粒径、粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度を示す。
粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度は、粒径が100nmである場合に換算して比較した。
【0139】
【表8】
表8によると、同じICG仕込量において、プロスルチアミンを添加したポリマーナノ微粒子34、35が、プロスルチアミンを添加していないポリマーナノ微粒子VBC−1、VBC−2よりも高濃度のICGを粒子内に含有していることがわかる。
また、光音響特性評価において、プロスルチアミンを添加したポリマーナノ微粒子34は、プロスルチアミンを添加していないポリマーナノ微粒子VBC−2より、1.9倍大きな信号強度を示した。
【0140】
<参考例>
以下、参考例について説明する。
以下の<参考例1>〜<参考例5> に記した試薬は、インドシアニングリーン(ICG、日本公定書協会製)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC、日本油脂製)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE、日本油脂製)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE、日本油脂製)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS、日本油脂製)を用いた。なお、このうち、DSPC、DSPS及びDSPEは飽和脂肪酸であり、DOPEは不飽和脂肪酸である。
【0141】
<参考例1>
(リン脂質を添加したICGのクロロホルムへの溶解性)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DOPE、DSPE、DSPSを用いた。これらICG・リン脂質混合物にそれぞれメタノール・クロロホルム1:2混液3mlを加え溶解した。また対照として、ICGのみをメタノール・クロロホルム1:2混液3mlに溶解したものも調製した。次いでこれらの溶液を40℃で減圧下で溶媒を留去した。蒸発乾固させたICG・リン脂質混合物をそれぞれクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した。ろ液をそれぞれクロロホルムで1/100倍に希釈し、光路1cmの石英セルを使用し、波長550nm〜900nm間において1nmステップで吸光度を測定した。波長550nm〜900nm間の吸光度値の和を吸収曲線積分値として、結果を図12(a)に示した。
ICGのみをクロロホルムに溶解したものに比較して、DSPC、DOPE、DSPE、DSPSを添加したICGはクロロホルムへの溶解性が50倍程度向上した。
【0142】
<参考例2>
(リン脂質を添加したICGのジクロロメタンへの溶解性)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれジクロロメタン2mlに溶解した。対照として、ICGをメタノールあるいはジクロロメタンにそれぞれ溶解したものも調製した。ICG溶液はすべてポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した後、それぞれジクロロメタンで1/500倍に希釈し、実施例1と同様に吸収曲線積分値を求め、結果を図12(b)に示した。
ICGのみをジクロロメタンに溶解したものに比較して、DSPC、DOPEを添加したICGはジクロロメタンへの溶解性が6倍程度向上し、ICGをメタノールに溶解したものとほぼ同程度まで溶解した。またICGのメタノール溶液(2.75mg/ml=3.5mM)とジクロロメタン溶液の吸収曲線積分値を比較することにより、リン脂質を添加しない場合、ジクロロメタンにはICGはおよそ0.6mM溶解していると推測された。
【0143】
<参考例3>
(ICG・リン脂質のクロロホルム溶液の調製)
ICG5.5mgにリン脂質をモル比1:2で添加した。リン脂質はDSPC、DSPS、DSPE、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過した後、それぞれメタノールで適当に希釈し、参考例1と同様に波長550nm〜950nm間の吸収曲線積分値を求めた。それぞれの吸収曲線積分値を下記の式1より濃度換算し、ICG濃度を求めた。ただし、式(1)において、重相関係数は0.9999であった。その結果を表9に示した。
Y=0.0272X+1.5834 (式1)
【0144】
【表9】
【0145】
<参考例4>
(ICG・リン脂質のジクロロメタン溶液の調製)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DSPS、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれジクロロメタン2mlに溶解し、ポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過し、参考例3と同様にICG濃度を求めた。その結果を表10に示した。
【0146】
【表10】
【0147】
<参考例5>
(リン脂質及びICGの組成比)
ICG5.5mgにそれぞれモル量として0.5、1、2等量のDSPCを添加した。
これらICG・DSPC混合物にそれぞれクロロホルム3mlを添加した。40℃加温2分間、超音波照射を1分行ったが、完全には溶解しなかった。これら懸濁液をポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過し、不溶物を除去した。ろ液をそれぞれメタノールで1/3000倍に希釈し、参考例3と同様にICG濃度を求めた。その結果を表11に示した。
【0148】
【表11】
表11の結果から、ICGはDSPC濃度依存的に溶解することが分かった。ICGクロロホルム溶液にDSPCが47.2mM存在することにより、ICGが15.7mMの濃度で溶解した組成物を調製できることが分かった。
【0149】
<参考例6>
(DSPCを添加したIR-820のクロロホルムへの溶解性)
IR-820(5.5mg)にモル量として2等量のDSPCを添加した。得られたIR-820とDSPCの混合物にメタノールとクロロホルムの混液(メタノール:クロロホルム=1:2)3mlを加え溶解したものを調製した。また比較対照としてIR-820のみをメタノールとクロロホルムの混液(メタノール:クロロホルム=1:2)3mlに溶解したものも調製した。
次いでこれらの調製した溶液を40℃、減圧下で溶媒を留去した。蒸発乾固させたIR-820とDSPCの混合物をクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した。ろ液をクロロホルムで1/100から1/1000に希釈し、光路1cmの石英セルを使用し、波長550nm〜900nm間において1nmステップで吸光度を測定した。波長550nm〜900nm間の吸光度値の和を吸収曲線積分値として求めた。その結果、IR-820のみをクロロホルムに溶解したものに比較して、DSPCを添加したIR−820は、クロロホルムへの溶解性が約27倍向上した。
この結果から、正帯電部位を有する脂質であるDSPCと、IR-820と、クロロホルムと、重合性モノマーあるいはプレポリマーとを有する組成物と水とを混合し、重合性モノマーあるいはプレポリマーを重合して得られる光イメージング用造影剤は、IR-820を多く含有していると考えられる。また、DOPE、DSPE、DSPSも正帯電部位を有する脂質であるため、同様に、IR-820を多く含有する光イメージング用造影剤を得られると考えられる。
【0150】
<実施例40>
(ポリマーナノ微粒子37乃至44の合成と特性評価)
実施例11で用いたPLGAの代わりに以下の表12に示す疎水性ポリマーを用いて、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子37乃至44を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP37乃至PNP44と略す。PNP44については、ポリL−乳酸(PLLA)とポリD−乳酸(PDLA)を10mgずつ仕込んだものである。いずれの粒子も平均粒径(キュムラント)は100nm程度であり、モル吸光係数は2×109 M-1cm-1から5×109 M-1cm-1であった。
【0151】
【表12】
【0152】
<実施例41>
(ポリマーナノ微粒子45乃至51の合成と特性評価)
実施例11で調製したICGクロロホルム溶液に以下の表13に示す量のコレステロール(和光純薬工業(株)製)を添加し、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子45乃至51を調製した。これらのポリマーナノ微粒子をPNP45乃至51と略す。なお、PNP51の調製では、乳化時にコレステロールが析出し、粒子を合成することができなかった。
粒子の平均粒径(キュムラント)はコレステロール量に依存して増大した。モル吸光係数は平均粒径に依存して増大し、最大で1.8×1010 M-1cm-1であった。
【0153】
【表13】
【0154】
<実施例42>
(ポリマーナノ微粒子52乃至62の合成と特性評価)
実施例11で用いたPEGリン脂質(DSPE-020CN)の代わりに以下の表14に示すPEGリン脂質を用いて、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子52乃至62を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP52乃至PNP62と略す。いずれの粒子も平均粒径(キュムラント)は100nm程度であり、モル吸光係数は2×109から6×109 M-1cm-1であった。 なお、本実施例で用いたPEGリン脂質はいずれも日油(株)製である。
【0155】
【表14】
上記のDPPE(SUNBRIGHT PP-020CN, SUNBRIGHT社製)は下記の化学式13で表される。ただし、R1とR2は炭素数16のアルキル基である。
【化26】
【0156】
<実施例43>
(ポリマーナノ微粒子63の合成と特性評価)
実施例11で用いたPEGリン脂質(DSPE-020CN)の仕込み量を実施例11の仕込み量の20倍とし、さらにTween20を含まない水溶液を用いて、他は実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子63を得た。このポリマーナノ微粒子をPNP63と略す。PNP63の平均粒径(キュムラント)は99nmであり、モル吸光係数は9.1×108 M-1cm-1であった。
【0157】
<実施例44>
(ポリマーナノ微粒子64乃至66の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2(1.6ml)に下記の表15に示す疎水性ポリマー(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。疎水性ポリマーを溶解させるとき、5分間の超音波照射を行った。また、この後のO/W型のエマルジョン調製時の超音波照射時間も5分間とした以外は、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子64乃至66を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP64乃至66と略す。各粒子の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表15に示した。これらの粒子の吸収スペクトルを測定したところ、ICGモノマーの吸収に起因する790nm付近のピークとは別に、新たに895nm付近に先鋭な吸収ピークが観察された。この吸収はICGのJ会合体に起因するものと考えられる。
【0158】
【表15】
【0159】
<実施例45>
(ポリマーナノ微粒子67の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2のクロロホルム溶液1.6mlにPLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液45を調製した。次に、Tween60(25.5mg、東京化成(株)製)とリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液45を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、実施例13と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子67を得た。このポリマーナノ微粒子をPNP67と略す。PNP67の平均粒径(キュムラント)は109nmであり、モル吸光係数は4.7×109 M-1cm-1であった。
【0160】
<実施例46>
(ポリマーナノ微粒子68乃至72の合成と特性評価)
実施例13で用いたTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにドデシル硫酸ナトリウム(以後SDSと略す)水溶液を用いポリマーナノ微粒子を調製した。
ポリマーナノ微粒子68乃至72の調製にはSDS(キシダ化学(株)製)をそれぞれ0.2mg、104mg、2080mg、2080mg、104mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。これら水溶液にそれぞれ実施例45に記載のクロロホルム溶液45を加えて、実施例13と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子68乃至70を得た。
ポリマーナノ微粒子71は実施例13に記載の操作において、ロータリーエバポレーターを使用するかわりに、40℃の水浴中で2時間撹拌することによりクロロホルム留去したこと以外は同様にして調製した。
ポリマーナノ微粒子72は、実施例13に記載の操作を40℃の水浴中で2時間撹拌することによりクロロホルム留去したことに加え、透析操作を限外ろ過操作に変更して調製した。限外ろ過操作は次の条件で行った。アミコンウルトラ15(日本ミリポア(株)製)にクロロホルム留去後の粒子分散液を9ml入れ、5000Gで15分間遠心操作することにより、およそ0.9mlまで濃縮した。この濃縮液に水8.1mlで希釈し、再度同様な遠心操作及び水による希釈を4回繰り返した。操作最後の水による希釈では粒子分散液が4.5mlになるように水を添加した。
これらの調製の結果、微粒子の表面がSDSで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子68乃至72の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP68乃至PNP72と略す。PNP68乃至72の平均粒径(キュムラント)およびモル吸光係数を表16に示した。
【0161】
【表16】
【0162】
<実施例47>
(ポリマーナノ微粒子73、74の合成と特性評価)
実施例13で用いたTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにポリビニルアルコール(以後PVAと略す)水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子73、74の調製にはPVA(平均分子量31,000、鹸化率86.7乃至88.7%、シグマアルドリッチジャパン製)がそれぞれ800mg、200mgを溶解した水溶液(20ml)を用いた。これら水溶液にそれぞれ実施例45記載のクロロホルム溶液45を加えた。
実施例13に記載の調製方法において、透析操作を実施例46に記載の限外ろ過操作に変更したこと以外は実施例13と同様にして粒子を調製した。
その結果、微粒子の表面がPVAで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子73、74の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP73、PNP74と略す。
PNP73、PNP74の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ120nm、129nmであり、モル吸光係数はそれぞれ7.5×108 、7.0×109 M-1cm-1であった。
【0163】
<実施例48>
(ポリマーナノ微粒子75乃至77の合成と特性評価)
実施例13のTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにTween20とデキストランの水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子75乃至77の調製にはTween20を60mg及びデキストラン40(平均分子量40,000、東京化成工業(株)製)を40mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。さらにポリマーナノ微粒子76を調製するための水溶液には塩化鉄(III)六水和物(和光純薬工業(株)製)を0.45mg添加した。
上記の変更点及び透析操作を限外ろ過操作に変更したこと以外は実施例13と同様にして調製した。限外ろ過操作は実施例46と同様にして行った。
ポリマーナノ微粒子77においては限外ろ過操作前に塩化鉄(III)六水和物を0.45mg添加した。
その結果、微粒子の表面がTween20とデキストランで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子75乃至77の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP75〜77と略す。
PNP75乃至77の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ127nm、107nm、132nmであり、モル吸光係数はそれぞれ6.5×109 、2.6×109 、6.5×109 M-1cm-1であった。
【0164】
<実施例49>
(ポリマーナノ微粒子78乃至80の合成と特性評価)
実施例48のデキストランの代わりにヘパリンナトリウム水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子78乃至80の調製にはTween20を60mg、及びヘパリンナトリウム塩(東京化成工業(株)製)を40mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。さらにポリマーナノ微粒子79を調製するための水溶液には塩化鉄(III)六水和物(和光純薬工業(株)製)を0.45mg添加した。
上記の変更点以外は実施例48に記載の操作と同様にして粒子をそれぞれ調製した。
ポリマーナノ微粒子80においては限外ろ過操作前に塩化鉄(III)六水和物を0.45mg添加した。
その結果、微粒子の表面がTween20とヘパリンで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子78乃至80の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP78乃至80と略す。
PNP78乃至80の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ97nm、105nm、98nmであり、モル吸光係数はそれぞれ1.6×109 、2.2×109 、1.5×109 M-1cm-1であった。
【0165】
<実施例50>
(ポリマーナノ粒子81乃至83の合成と特性評価)
実施例2に記載したICGを4.4mg、DSPCを90mgとしてICG組成物を調製し、PLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。
次に、リン脂質(DSPE-020CN、日油(株)製)を含む水溶液(20mL)に前記クロロホルム溶液を加えて混合溶液とし、その後、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルションを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過することによって、微粒子の表面がリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子81乃至83の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子81乃至83は、リン脂質をそれぞれ7.3mg、0.73mg、0.365mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP81乃至PNP83と略す。PNP81乃至PNP83の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0166】
<実施例51>
(ポリマーナノ粒子84乃至86の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質を含む水溶液の代わりに別のリン脂質(DSPE-020PA、日油(株)製)を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子84乃至86の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子84乃至86は、リン脂質をそれぞれ7.3mg、0.73mg、0.365mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP84乃至PNP86と略す。PNP84乃至PNP86の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0167】
<実施例52>
(ポリマーナノ粒子87、88の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質を含む水溶液の代わりに、Tween20を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子87、88の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子87、88は、Tween20をそれぞれ6mg、0.6mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP87、PNP88と略す。PNP87とPNP88の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0168】
【表17】
【0169】
<実施例53>
(ポリマーナノ粒子89の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質のみを含む水溶液の代わりにリン脂質(DSPE-020CN)を0.9mgとTween20を7.2mgを加えた水溶液(4.8mL)を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がリン脂質とTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子89の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP89と略す。PNP89の平均粒径(キュムラント)は203nmであり、モル吸光係数は1.4×1010 M-1cm-1であった。
【0170】
<実施例54>
(ポリマーナノ粒子64乃至66の光音響信号測定)
PNP64乃至66について、波長780nmならびに波長895nmにおける光音響信号強度を測定した。表18に、PNP64乃至66の粒子当たりの光音響信号強度を示す。これらの粒子は、ICGモノマーの吸収に起因する790nm付近に加えて、895nm付近においても十分な光音響信号を発生させることができる。複数の波長による光音響信号の取得は、光音響イメージングにおけるポリマーナノ粒子の検出精度の向上に有効である。
【表18】
【符号の説明】
【0171】
1 ポリマーナノ微粒子
2 ICG
3 添加物
4 疎水性のポリマー
5 界面活性剤A
6 界面活性剤B
7 第一液体
8 第二液体
9 エマルジョン
10 アルブミン
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICG(インドシアニングリーン)組成物を含有した粒子、及び前記粒子を有する造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内部の情報を可視化する装置の1つとして、光音響トモグラフィー(Photoacoustic tomography、以下PATと略すことがある)装置が知られている。PAT装置を用いる測定においては、被測定体に光を照射したときに被測定体内部で光を吸収した物質(光吸収体)が発する光音響信号の強度と発生時刻を測定することにより、被測定体内部の物質分布を演算して層画像を得ることができる。
【0003】
ここで、光吸収体としては、生体内で光を吸収して音響波を発するものであればいかなるものをも用いることができる。例えば人体内の血管や悪性腫瘍などを光吸収体とすることが可能である。その他にも、インドシアニングリーン(Indocyanine Green、以下ICGと略すことがある)などの分子プローブを体内に導入し、造影剤として利用することもできる。ICGは体内への投与が認可されている安全な物質であり、また人体に照射した際の影響が少なくかつ生体への透過性が高い近赤外波長領域の光をよく吸収することから、PAT装置における造影剤として好適に用いることができる。
【0004】
また、ICGは近赤外波長領域の光により励起され、蛍光を発するという特徴も有している。この特徴を利用して、ICGを蛍光造影剤として使用することもできる。
【0005】
一方で、ICGは水中で分解しやすいという性質を持つため、造影剤として投与する際に測定部位に集積させることが難しいという問題がある。
この問題を解決するための方法として、ICGを粒子の中に高濃度で封入する技術が開発されている。例えば、非特許文献1には、ポリビニルアルコール(PVA)を界面活性剤にしてエマルジョン溶媒拡散法によって得たICG含有乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)粒子が開示されている。また、特許文献1には、ICGを含む油相を界面活性剤で被覆したナノエマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Photochemistry and Photobiology B : Biology, 74 (2004) 29-38
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2010/018216号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に開示されたICG含有PLGA粒子及び特許文献1に開示されたナノエマルジョンのいずれも、実際の使用においては、モル吸光係数が経時的に減少し、吸光の安定性に欠けるという問題があった。
【0009】
これは、非特許文献1のICG含有PLGA粒子では、水中に分散した粒子内から水溶性であるICGが周囲の水中に漏出し、粒子のモル吸光係数が経時的に減少する(粒子が褪色する)ためであると考えられる。また、特許文献1のナノエマルジョンについては、コアが液体である為、力学的に不安定であり、経時的に凝集、会合、相分離等を引き起こすことにより粒子そのものが壊れてICGが漏出するために吸光度が減少すると考えられる。
【0010】
その他、PLGA等のポリマーマトリックスは疎水性であるため、非特許文献1のICG含有PLGA粒子では親水性部位を有するICGを高濃度に含有させることができないという課題もあった。
【0011】
本発明はこのような背景技術に鑑みてなされたものであり、力学的に安定であり、内包したICGの漏出とそれによる褪色を抑制し、かつモル吸光係数の大きなICG含有ポリマーナノ微粒子を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粒子によれば、粒子内部から外部へとICGが流出しにくい。そのため、ICGを高濃度に含有した粒子を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子の構造を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の一例を示す図である。
【図3】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の別の例を示す図である。
【図4】本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を製造する工程の一例を示す図である。
【図5】PNP1、PNP2、非特許文献1、及びICGのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図6】PNP1、及びPNP2のλmaxにおける吸光度の経時変化(2ヶ月間)を示したグラフである。
【図7】PNP4、PNP5、PNP6、非特許文献1、及びICGのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図8】PNP4、PNP5、及びPNP6のλmaxにおける吸光度の経時変化(4週間)を示したグラフである。
【図9】PNP10のλmaxにおける吸光度の経時変化(2ヶ月間)を示したグラフである。
【図10】PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-HのPBS中でのλmaxにおける吸光度の経時変化を示したグラフである。
【図11】スルホン酸基を有する親水性色素の疎水性溶媒に対する溶解性の評価結果を示すグラフである。
【図12】リン脂質を添加したICGの疎水性溶媒への溶解性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする。
本実施形態に係る粒子は、スルホン酸基を有する親水性色素と、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種とで疎水性の組成物が形成される。そのため、疎水性のポリマーからなる粒子内にスルホン酸基を有する親水性色素を高濃度に含有させることができ、さらには粒子内からのICGの漏出とそれによる褪色とを抑制することができる。組成物が形成されている状態とは、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体の有する正帯電部位と、スルホン酸基を有する親水性色素のスルホン酸基とが、電荷を打ち消しあい、塩を形成している状態であると考えられる。ここで、スルホン酸基を有する親水性色素はスルホン酸基を有するために水溶性であると考えられるので、このようにスルホン酸基を用いて塩を形成することで、疎水性の組成物が形成されると考えられる。なお、本実施形態に係る粒子は、コアに固体ポリマーを用いることで、粒子を力学的に安定にすることができる。
以下の説明においては、スルホン酸基を有する親水性色素がICGの場合について説明するが、本発明はICGに限定されず、下記の(スルホン酸基を有する親水性色素)の項目で挙げる化学式2の色素を用いることができる。
本実施形態に係る粒子は、インドシアニングリーンと前記インドシアニングリーンを担持する疎水性のポリマーとを有し、前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することが好ましい。
本実施形態に係る粒子では、水溶性のICGに正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を添加することによって、水溶性のICGと正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種とによる疎水性の組成物が形成される。そのため、疎水性のポリマーマトリックスからなる粒子内にICGを高濃度に含有させることができ、さらには粒子内からのICGの漏出とそれによる褪色とを抑制することができる。
組成物が形成されている状態とは、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種の有する正帯電部位と、ICGのスルホン酸基とが、電荷を打ち消しあい、塩を形成している状態であると考えられる。ここで、ICGはスルホン酸基を有するために水溶性であると考えられるので、このようにスルホン酸基を用いて塩を形成することで、疎水性の組成物が形成されると考えられる。
【0016】
<粒子>
まず、本実施形態に係る粒子(以下ポリマーナノ微粒子ということがある)について説明する。ポリマーナノ微粒子1は、図1(a)に示すように、インドシアニングリーン(ICG)2と添加物3とを含有するポリマー4からなる微粒子であって、該添加物3が正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種である。この微粒子の表面には界面活性剤5が存在してもよい。
【0017】
また、本発明の別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子1は、図1(b)に示すように、ポリマー4中にICG2と添加物3を含んだ微粒子であって、該微粒子の表面に二種類の異なる界面活性剤5と界面活性剤6が存在することを特徴とする。なお、このとき、三種類以上の異なる界面活性剤を用いてもよい。
また、本発明の別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子1は、図1(c)に示すように、ポリマー4中にICG2と添加物3を含んだ微粒子であって、該微粒子の表面に二種類の異なる界面活性剤5、界面活性剤6、及びアルブミン10が存在することを特徴とする。
本実施形態に係る粒子によれば、粒子表面のアルブミンがICGと吸着することにより、粒子の外へ漏出することを抑えることができる。
【0018】
また、本発明のさらに別の実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、その一部に捕捉分子が結合していることを特徴とし、捕捉分子により標的部位を特異的に標識することができる。
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、生体透過性の優れた600nmから900nmの近赤外波長の吸収を持つICGを含んでいることを特徴とする。
【0019】
(粒径)
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、目的とする用途に対して平均粒径を制御することが可能であり、その平均粒径は10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
これは、この範囲の平均粒径であればEPR(Enhanced Permeation and Retention)効果があると考えられるからである。腫瘍組織では、正常組織に比べ血管透過性が高いため、粒子などが血管より流出しやすい。さらに、この流出した粒子は腫瘍組織に到達して蓄積する。腫瘍組織の持つこのような物質蓄積の特性をEPR効果という。
なお、平均粒径を求める方法としては、TEM(Transmission Electron Microscope)画像を取得して、その画像から粒径を測定することにより求める方法や、動的光散乱法を用いて求める方法などがある。動的光散乱法によって平均粒径を求める方法として例えば、動的光散乱解析装置(大塚電子(株)製、DLS-8000)を用いる方法が挙げられる。
【0020】
また、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、微粒子内に高濃度のICGを含有させることによって、1.0×108 M-1cm-1以上の大きなモル吸光係数を有し、PAT用影剤や蛍光造影剤として好適に利用することができる。
【0021】
(スルホン酸基を有する親水性色素)
本実施形態におけるスルホン酸基を有する親水性色素は、生体内で利用するにあたり、色素は生体から排出されやすい親水性色素が安全であり望ましい。また、本実施形態に係る組成物においては、正帯電部位を有する脂質が、スルホン酸基に会合して効果を奏すると考えられる。また、親水性色素は、生体内における光の吸収、拡散の影響が少ない「生体の窓」と呼ばれる600ナノメートル以上1300ナノメートル以下の波長に吸収を持つものが好ましい。
前記スルホン酸基を有する親水性色素としては、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素、インジゴイド系色素を挙げることが出来る。
前記シアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、Alexa Fluor(登録商標)系色素(インビトロジェン社製)、Cy(登録商標)系色素(GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)、IR−783 、IR−806、IR−820(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)、IRDye 800CW、IRDye 800RS(登録商標)(LI−COR社製)、ADS780WS、ADS795WS、ADS830WS、ADS832WS(American Dye Source社製)を挙げることが出来る。
【0022】
<ICG>
本実施形態において、ICG(インドシアニングリーン)は化学式1で示される構造、及び、下記の構造において対イオンがNa+の代わりにH+又はK+であるものを指す。また、ICGは895nm付近に吸収極大を有するJ会合体を含んでいても良い。
【化1】
なお、上記のIR−820は下記の化学式2で示される。
【化2】
【0023】
<添加物>
本実施形態における添加物は、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種である。ICGは親水性部位を有する物質だが、添加物を添加することにより、これらの正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体の有する正帯電部位がICGの親水性部位(スルホン酸基)に会合し、そのためにICGの疎水性が上がるため、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒に可溶化することができると考えられる。ICGは脱塩カラムなどで処理してICGの脱塩体として使用しても良い。
【0024】
(正帯電部位を有する脂質)
正帯電部位を有する脂質とは、脂質のうちその構造の一部に、陽イオンの部分構造を有する脂質のことを言う。このような脂質の例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン等のグリセロ脂質、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質及びスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質、ノイラミン酸等のアミノ糖部分を有するスフィンゴ糖脂質等の糖脂質、コレステリル−3β−カルボキシアミドエチレン−N−ヒドロキシエチルアミン及び3([N−N’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール等の合成コレステロール類、ラウリルアミン、ステアリルアミン、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(略称DOTMA)及び2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(略称DOSPA)等の合成脂質、並びにエーテル型リン脂質及びカチオニック脂質等を挙げることができる。
また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの例としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン及びジアシルホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【0025】
また、正帯電部位を有する脂質は、さらにリン酸ジエステル結合を有することが好ましく、例えば、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DSPE)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DPPE)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DMPE)、1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DLPE)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DOPE)、1,2-Dilinoleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DLoPE)、1,2-Dierucoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DEPE)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DSPS)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DPPS)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DMPS)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine(DOPS)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DSPC)、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DPPC)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DMPC)、1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DLPC)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)、1,2-Dilinoleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DLoPC)などが挙げられる。
本実施形態における正帯電部位を有する脂質としては、他にも、1,2-di-o-acyl-sn-glycero-3-phosphocholine、1,2-diacyl-3-trimethylammonium propane chloride、o,o’-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride等を使用することができる。
本実施形態に係る正帯電部位を有する脂質として、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルコリンのうち少なくともいずれか一方であることが特に好ましい。
【0026】
なお、本実施形態に係る粒子は、上記の正帯電部位を有する脂質のいずれか一種を有していてもよく、又は複数種を有していてもよい。
【0027】
(ニコチン酸誘導体)
本実施形態におけるニコチン酸誘導体は、ニコチン酸骨格を有していれば特に限定されないが、下記の一般式(I)で表されることが好ましい。
【化3】
式(I)において、Aは下記の式(a1)、式(a2)、式(a3)のいずれかである。式(a1)、式(a2)、式(a3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のZと結合する。
【化4】
式(I)において、Zは下記の式(z1)、式(z2)、式(z3)のいずれかである。式(z1)、式(z2)、式(z3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のAと結合する。式(z2)において、R1は水素原子、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、ベンジル基のいずれかである。 前記置換基はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかである。
【化5】
【化6】
【化7】
【0028】
本実施形態に係るニコチン酸誘導体が上記の式(I)で表される場合、スルホン酸基を有する親水性色素のスルホン酸基の負電荷と、ピリジン環の窒素原子と溶媒などに存在するプロトンとで形成されるNH+の正電荷が電荷をキャンセルすることで、該親水性色素が、疎水性溶媒に対して溶解しやすくなっていると考えられる。したがって、式(a1)、式(a2)、式(a3)のように、オルト、メタ、パラのいずれの位置に−NH2や−COR1といった官能基が存在しても、式(I)で表されるニコチン酸誘導体とスルホン酸基を有する親水性色素の、疎水性溶媒に対する溶解性は、該親水性色素のみに比べて高いと考えられる。
【0029】
本実施形態におけるニコチン酸誘導体としては、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、イソニコチン酸エチル、ニコチン酸トコフェロール等を挙げられる。これらのうち、ニコチン酸アミドまたはニコチン酸ベンジルエステルのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
ニコチン酸誘導体は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0030】
(チアミン誘導体)
本実施形態におけるチアミン誘導体は、特に限定されないが、下記の一般式(II)で表されることが好ましい。
【化8】
式(II)において、Bは下記の式(b)である。式(b)中の*1は結合手を表し、*1が式(II)のXと結合する。 式(b)中の*2は結合手を表し、*2が式(II)のYと結合する。
【化9】
式(II)において、Xは下記の式(x1)、式(x2)、式(x3)のいずれかである。式(x1)、式(x2)、式(x3)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(x1)においてnは1乃至10のいずれかの整数である。式(x1)はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかで置換されていてもよい。式(x4)において、R2は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
式(II)において、Yは下記の式(y1)、式(y2)のいずれかである。式(y1)、式(y2)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(y2)において、R3は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化14】
【化15】
【0031】
本実施形態におけるチアミン誘導体としては、チアミンジスルフィド、プロスルチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、スルブチアミン等が挙げられる。これらの中で、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドのうち少なくともいずれか一種であることが好ましい。
チアミン誘導体は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0032】
なお、本実施形態に係る粒子は、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、又はチアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有していればよく、複数種有していてもよい。
【0033】
(その他の添加物)
本実施形態に係る粒子は、コレステロールを有していてもよい。
【0034】
<疎水性のポリマー>
本実施形態における疎水性のポリマーは、ICGと上記の正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を含有することのできるポリマーであれば、いかなるものをも使用することができる。例えば、後述するナノエマルジョン法を用いて本実施形態におけるポリマーナノ微粒子を製造する場合は、第一液体7に溶解させてナノエマルジョンを形成した後、第一液体7を留去して固体になるようなポリマーであればよい。具体的には、炭素数6以下のヒドロキシカルボン酸のホモポリマー又はこれら2種類からなるコポリマー、乳酸−グリコール酸共重合体(poly(lactide-co-glycolide)、以下、PLGAと略すことがある)、ポリ乳酸(polylactic acid、以下PLAと略すことがある)、ポリL−乳酸(poly-L-lactic acid、以下PLLAと略すことがある)、ポリD−乳酸(poly-D-lactic acid、以下PDLAと略すことがある)、ポリスチレン(以下PSと略すことがある)及びポリメタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのポリマーの平均分子量は2000以上1000000以下であることが好ましく、10000以上600000以下であることがさらに好ましい。上記PLGAの乳酸とグルコール酸の比率は、10:90乃至90:10の範囲にあることが好ましく、50:50乃至75:25の範囲にあることがさらに好ましい。上記疎水性のポリマーは一種類のみでもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0035】
<界面活性剤>
本実施形態における界面活性剤(図1における界面活性剤5及び界面活性剤6)としては、特に限定されることはなく、ポリマーナノ微粒子のエマルジョンを形成することができればいかなるものでもよい。例えば非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、高分子界面活性剤又はリン脂質等を使用することができる。これらの界面活性剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0036】
上記本実施形態における界面活性剤に使用する非イオン性界面活性剤としては、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80及びTween85等のポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Brij35、Brij58、Brij76、Brij98、Triton X-100、Triton X-114、Triton X-305、Triton N-101、Nonidet P-40、Igepol CO530、Igepol CO630、Igepol CO720並びにIgepol CO730等を挙げることができる。
【0037】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するアニオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0038】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するカチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム及び塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0039】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用する高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール及びゼラチン等を挙げることができる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの市販品としては、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)などが挙げられる。
【0040】
また、上記本実施形態における界面活性剤に使用するリン脂質としては、水酸基、メトキシ基、アミノ基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基又はマレイミド基のいずれかの官能基を有するホスファチジル系リン脂質であることが好ましい。また、界面活性剤に使用するリン脂質はPEG(Polyethylene glycol)鎖を含むものであってもよい。
【0041】
官能基が水酸基、メトキシ基、アミノ基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、マレイミド基でありPEG鎖を含むような界面活性剤に使用するリン脂質としては、例えば、化学式3で示される1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[poly(ethylene glycol)] (DSPE-PEG-OH)、化学式4で示されるPoly(oxy-1,2-ethanediyl),α-[7-hydroxy-7-oxido-13-oxo-10-[(1-oxooctadecyl)oxy]-6,8,12-trioxa-3-aza-7-phosphatriacont-1-yl]-ω-methoxy- (DSPE-PEG-OMe)、化学式5で示されるN-(aminopropyl polyethyleneglycol)-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-NH2)、化学式6で示される3-(N-succinimidyloxyglutaryl) aminopropyl polyethyleneglycol-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-NHS)、化学式7で示されるN-(3-maleimide-1-oxopropyl) aminopropyl polyethyleneglycol-carbamyl distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG-MAL)、PEG鎖を含むジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(DPPE−PEG)等のリン脂質を挙げることができる。なお、化学式3乃至7において、nは5以上500以下の整数である。
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0042】
<アルブミン>
本実施形態におけるアルブミンは、ヒトに投与する場合、ヒト由来の血清アルブミンが好ましい。血清アルブミンは分子量約67kDaのタンパク質であり、血中に豊富に存在するタンパク質である。
【0043】
<アルブミンの粒子表面への固定化方法>
本実施形態におけるアルブミンの粒子表面への固定化方法は、主にアルブミンと疎水性のポリマーとの疎水性相互作用などの非共有結合的な力による。非共有結合であることの利点として、粒子表面に共有結合のためのNH2基やSH基などの官能基の導入が不要であるため、作製の手間を減らすことができること、官能基の導入による粒子表面の電荷などの状態の変化による粒子の性質の変化を回避できること、アルブミンの変性を回避できることなどが挙げられる。非共有結合としては、疎水性相互作用の他に、イオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス力などを利用することが可能である。
【0044】
<ポリマーナノ微粒子の製造方法>
ポリマーナノ微粒子を得る方法としては、限定されるものではないが、例えばナノエマルジョン法を挙げることができる。
図1(a)で示されるポリマーナノ微粒子1をナノエマルジョン法により製造する工程の一例を図2に示す。具体的には、以下の(A)から(C)の工程により図1(a)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。
(A)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5を溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(B)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(C)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0045】
図1(b)で示される二種類の界面活性剤を用いたポリマーナノ微粒子1を製造する工程の一例を図3に示す。具体的には、以下の(D)から(F)の工程により図1(b)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。なお、三種類以上の界面活性剤を用いたポリマーナノ微粒子も、同様の工程によって製造することができる。
(D)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5と界面活性剤6とを溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(E)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(F)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0046】
図1(c)で示される二種類の界面活性剤とアルブミンを用いたポリマーナノ微粒子1を製造する工程の一例を図4に示す。具体的には、以下の(G)から(I)の工程により図1(c)で示されるポリマーナノ微粒子1の水分散液を得ることができる。
(G)ICG2、添加物3、及びポリマー4を有機溶媒に溶解させて得られる第一液体7を、界面活性剤5、界面活性剤6、及びアルブミン10とを溶解させた水溶液である第二液体8に加えて混合液を得る工程。
(H)前記混合液を乳化することによりO/W型のエマルジョン9を得る工程。
(I)前記エマルジョン9の分散質から第一液体7を留去する工程。
【0047】
<第一液体>
上記ナノエマルジョン法に用いる第一液体7の溶媒として使用する有機溶媒としては、水への溶解性がないか又は溶解性が小さく、且つ、ICG2と添加物3からなる組成物及びポリマー4を溶解することができるものであればいかなる有機溶媒をも使用することが可能である。ただし、揮発性の有機溶媒であることが好ましい。
このような有機溶媒としては、限定されるものではないが、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(エチルエーテル、イソブチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、及び芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等を用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても良いし、あるいは2種類以上を適宜の割合で混合して用いることもできる。
また、第一液体7におけるICG2の濃度は、0.0005〜100mg/mlとすることが好ましい。
また、第一液体7におけるポリマー4の濃度は、0.5〜100mg/mlとすることが好ましい。
また、第一液体7におけるICG2と添加物3との重量比は、10:1〜1:20の範囲であることが好ましい。
また、第一液体7におけるICG2とポリマー4との重量比は、1:1〜1:100の範囲であることが好ましい。
【0048】
<第二液体>
上記ナノエマルジョン法に用いる第二液体8は、界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)を溶解した水溶液である。第二液体8に界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)をあらかじめ含ませておくと、第一液体7と混合した際にエマルジョンを安定化させることができる。但し、本実施形態においては第一液体7と第二液体8とを混合した分散液に界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)を含ませることができればよく、界面活性剤5(及び界面活性剤6、アルブミン10)は必ずしも第二液体に予め溶解されている必要はない。
【0049】
また、第二液体8に含まれる界面活性剤5(又は界面活性剤6、アルブミン10)の好ましい濃度は、用いる界面活性剤の種類及び第一液体7との混合比にもよる。例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は高分子界面活性剤を用いたときは、第二液体8中の濃度を0.1mg/ml〜100mg/mlとすることが好ましい。また、例えば、PEG鎖を含むリン脂質を界面活性剤として用いたときは、第二液体8中の濃度を0.001mg/ml〜100mg/mlとすることが好ましい。
【0050】
また、界面活性剤5として非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は高分子界面活性剤を、界面活性剤6としてPEG鎖を含むリン脂質を用いた場合の界面活性剤5と界面活性剤6との構成比は、モル比で100:1〜1:1の範囲が好ましい。界面活性剤6の構成比がこの範囲を超えると、ポリマーナノ微粒子の形成が困難になる為、好ましくない。一方、界面活性剤6の構成比がこの範囲よりも小さくなると、捕捉分子を固定化する場合、固定化できる捕捉分子の個数が少なくなる。その結果、ポリマーナノ微粒子の標識性能が低下する為、好ましくない。
【0051】
(エマルジョン)
上記ナノエマルジョン法におけるエマルジョン9は、本発明の目的を達成可能であればいかなる物性のエマルジョンでもよいが、1ピークの粒径分布を有し、且つ、平均粒径が1000nm以下のエマルジョンであることが好ましい。
このようなエマルジョン9は、例えば、断続振とう法、プロペラ型攪拌機及びタービン型攪拌機等のミキサーを利用する攪拌法、並びにコロイドミル法、ホモジナイザー法及び超音波照射法等の従来公知の乳化手法によって調製することが可能である。これらの方法は単独で用いてもよいし、あるいは2種以上の方法を組み合わせて用いることも可能である。また、エマルジョン9は1段階の乳化によって調製しても良いし、多段階の乳化によって調製しても良い。但し、乳化手法は、本発明の目的を達成できる範囲においてこれらの手法に限定されるものではない。
【0052】
エマルジョン9は、第二液体8に第一液体7を加えて得られる混合液から調製される水中油(O/W)型のエマルジョンである。ここで、第一液体7と第二液体8の混合とは、第一液体7と第二液体8とを空間的に隔離せずに互いに接触して存在させることを意味し、必ずしも互いに混和することを要さない。
混合液における第一液体7と第二液体8との割合は、水中油(O/W)型のエマルジョンを形成することができれば特に限定されることはないが、好ましくは、第一液体7と第二液体8との重量比が、1:2〜1:1000となる範囲で混合することが好ましい。
【0053】
(留去)
上記ナノエマルジョン法における留去とは、エマルジョン9の分散質から第一液体7を除去する操作である。即ち、ICG2、添加物3、ポリマー4、第一液体7(有機溶媒)から構成された分散質から第一液体7を除去することである。
留去は、従来知られる何れの方法でも実施可能であるが、加熱によって除去する方法、あるいはエバポレーター等の減圧装置を利用した方法を挙げることができる。加熱による除去の場合の加熱温度は、O/W型のエマルジョンを維持できれば特に限定されないが、好ましい温度は0℃から80℃の範囲である。但し、留去は、本発明の目的を達成できる範囲において上記手法に限定されない。
【0054】
<捕捉分子>
本実施形態おいて、上記のポリマーナノ微粒子1の一部に、捕捉分子を固定化することにより、標的部位を特異的に標識することができる。
捕捉分子とは、腫瘍などの標的部位に特異的に結合する物質、標的部位の周辺に存在する物質に特異的に結合する物質などであり、生体分子や医薬品等の化学物質などから任意に選択することができる。具体的には、抗体、抗体フラグメント、酵素、生物活性ペプチド、グリコペプチド、糖鎖、脂質、分子認識化合物などが挙げられる。これらの物質は単独で用いることもできるし、あるいは複数を組み合わせて用いることもできる。
捕捉分子が化学結合されたポリマーナノ微粒子1を用いることで、標的部位の特異的な検出、標的物質の動態、局在、薬効、代謝等の追跡を行うことができる。
【0055】
<捕捉分子の固定化>
ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化する方法としては、用いる捕捉分子の種類にもよるが、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を化学結合させることができる限り、いかなる公知の方法をも使用することができる。例えば、前記した界面活性剤5又は界面活性剤6が有する官能基と捕捉分子の官能基とを反応させて化学結合する方法等を使用することができる。
【0056】
例えば、界面活性剤5又は界面活性剤6がN−ヒドロキシスクシンイミド基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、アミノ基を有する捕捉分子と反応させて、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、界面活性剤の未反応のN−ヒドロキシスクシンイミド基は、グリシン、エタノールアミン、又は末端にアミノ基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等と反応させて失活させることが好ましい。
【0057】
また、界面活性剤5又は界面活性剤6がマレイミド基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、チオール基を有する捕捉分子と反応させて、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、界面活性剤の未反応のマレイミド基は、L−システイン、メルカプトエタノール、又は末端にチオール基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等と反応させて失活させることが好ましい。
【0058】
また、界面活性剤5又は界面活性剤6がアミノ基を有するホスファチジル系リン脂質である場合、グルタルアルデヒドを用いて捕捉分子のアミノ基と反応させ、ポリマーナノ微粒子1に捕捉分子を固定化することができる。捕捉分子の固定化後、エタノールアミン、又は末端にアミノ基を有するオリゴエチレングリコール若しくはポリエチレングリコール等を反応させて未反応のアミノ基の活性をブロックすることが好ましい。あるいは、界面活性剤のアミノ基をN−ヒドロキシスクシンイミド基やマレイミド基に置換して、捕捉分子を固定化しても良い。
【0059】
<造影剤>
本実施形態に係る造影剤は、本実施形態に係る粒子及び前記粒子が分散された分散媒を有する。
ここで分散媒は、本実施形態に係る粒子を分散させるための液状の物質であり、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る粒子をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る粒子と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に粒子を分散媒に分散させて使用してもよい。
【0060】
<光イメージング用造影剤>
本実施形態おける光イメージング用造影剤について説明する。本実施形態において光イメージングとは、光を照射することで、イメージング(画像化)することを意味する。すなわち、本実施形態に係る光イメージング用造影剤のスルホン酸基を有する親水性色素に光が照射されることで、音響波や蛍光などを発する。発せられた音響波を検出することで光音響イメージングをすることができ、発せられた蛍光を検出することで蛍光イメージングをすることができる。なお、光音響イメージングは、光音響トモグラフィー(断層撮影法)を含む概念である。
【0061】
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、さらに、例えば生理食塩水、注射用蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、以下PBSと略すことがある)などの分散媒を有していてもよい。また本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、必要に応じて薬理上許容できる添加物を有していても良い。
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、上記の分散媒に予め分散させておいてもよいし、キットにしておき、生体内に投与する前に分散媒に分散させて使用してもよい。このように、本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、光音響イメージング用造影剤や、蛍光イメージング用造影剤として利用することができる。
【0062】
本実施形態に係る光イメージング用造影剤は、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果を利用することで、生体内に投与したときに、生体内の正常部位に比べて腫瘍部位により多く集積させることができる。その結果、ポリマーナノ微粒子を生体内に投与した後、生体に光を照射して、生体からの音響波や蛍光を検出するときに、腫瘍部位から発せられる音響波や蛍光を正常部位から発せられる音響波や蛍光よりも大きくすることができる。従って、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は腫瘍部位を特異的に検出する光イメージング用造影剤として用いることができる。
【0063】
更に、本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、前記した捕捉分子を固定化することによって、腫瘍部位へのターゲティングが可能となる。
【0064】
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子はICGを含有しているため、生体に照射したときに安全で、かつ、生体に対して比較的高い透過性をもつ近赤外波長領域(600nmから900nmの波長領域)の波長を吸収することができる。
【0065】
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、ポリマーナノ微粒子を生理食塩水や注射用蒸留水などの溶媒中に分散させて使用することができる。また本実施形態に係る造影剤は、必要に応じて本実施形態に係るポリマーナノ微粒子の他に薬理上許容できる添加物を有していても良い。
【0066】
<造影方法>
生体内に投与された本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を、PAT装置を用いて検出する方法について説明する。本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を検出する方法は以下の工程を有する。但し、本実施形態に係る造影方法は、以下に示す工程以外の工程を含んでいても良い。
(a)本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を生体内に投与する工程。
(b)生体に光を照射し、生体内に存在する本実施形態に係るポリマーナノ微粒子から発せられる光音響信号を検出する工程。
【0067】
(a)について
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を生体内に投与する方法は特に限定されず、経口投与や注射等の方法によることができる。
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子は、捕捉分子を持たない場合でも、EPR効果によって腫瘍を検出することができる。
更に、捕捉分子を有するポリマーナノ微粒子を生体中で用いた場合、捕捉分子を適宜選択することによって、種々の標的部位を特異的に検出することができる。例えば、捕捉分子として腫瘍に特異的に結合する物質を採用すれば、腫瘍の特異的検出が可能となる。また捕捉分子として、特定の疾病部位の周辺に多く存在するタンパク質や酵素などの生体物質に特異的に結合する物質を用いれば、その疾病を特異的に検出することが可能である。
【0068】
(b)について
生体に照射する光としては、生体に照射したときに安全で、かつ高い生体透過性を示す600nmから900nmの近赤外波長であることが好ましい。また、光を発生させる装置、音響信号を検出する装置は特に制限されず種々のものを用いることが可能である。
本実施形態に係るポリマーナノ微粒子を用いた造影方法は、上記(a)、(b)の工程を経ることで腫瘍などの部位を造影することができる。
次に、生体内に投与された本実施形態に係る粒子を、蛍光装置を用いて検出する方法について説明する。本実施形態に係る粒子を検出する方法は以下の工程を有する。
(c)本実施形態に係る粒子を生体内に投与する工程。
(d)生体に光を照射し、生体内に存在する本実施形態に係る粒子から発せられる蛍光を検出する工程。
なお、上記(c)の工程において、本実施形態に係る粒子を生体内に投与する方法は特に限定されない。また、上記(d)の工程において、生体に照射する光を発生させる装置、本実施形態に係る粒子から発せられる蛍光を検出する装置は特に限定されない。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて更に詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、組成条件、反応条件等、同様な機能、効果を有するポリマーナノ微粒子が得られる範囲で自由に変えることができる。
【0070】
<実施例1>
(ポリマーナノ微粒子1の合成と特性評価)
ICG(5.5mg、(財)日本公定書協会製)をメタノール1mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)(10.6mg、日油(株)製)をクロロホルム2mlに溶解し、DOPEクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mlとDOPEクロロホルム溶液2mlを混合した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDOPEをクロロホルム2mlに溶解して、ICGとDOPEがクロロホルムに溶解してなる、ICG組成物1を調製した。
【0071】
ICG組成物1(1.6ml)に乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)5mg(乳酸:グリコール酸のモル比=1:1、M.W.20000、和光純薬工業(株)製)を溶解させて、クロロホルム溶液1を調製した。
【0072】
次に、Tween20(180mg、東京化成(株)製)と化学式4で示されるリン脂質(5mol%、22mg、DSPE-PEG-NH2、PEGのM.W.2000、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液1を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃で2時間)で減圧し、分散質からクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDOPEを含むポリマーナノ微粒子1の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP1と略す。
【0073】
PNP1の粒径を動的光散乱解析装置(大塚電子(株)製、DLS-8000)で分析したところ、PNP1の平均粒径は84nm(重量換算)であった。また、PNP1のモル吸光係数は8.0×108 M-1cm-1であり、光音響信号強度は1.8×109 VJ-1M-1だった。
【0074】
尚、光音響信号の計測は、パルスレーザー光を水に分散した光音響造影剤に照射し、圧電素子を用いて造影剤からの光音響信号を検出し、高速プリアンプで増幅後、デジタルオシロスコープで波形を取得して行った。具体的な条件は以下の通りである。パルスレーザー光源として、チタンサファイアレーザ(LT-2211-PC、Lotis製)を用いた。波長は710、750、800、及び850nm、エネルギー密度は20〜50mJ cm-2(選択した波長に依存する)、パルス幅は約20ナノ秒、パルス繰返周波数は10Hzとした。水に分散した光音響造影剤をおさめる測定容器には、光路長1mmのポリスチレン製キュベットを用いた。光音響信号を検出する圧電素子には、エレメント径1.27cm、中心帯域1MHzの非収束型超音波トランスデューサ(V303、Panametrics-NDT製)を用いた。水を満たしたガラス容器に前記の測定容器と圧電素子とを浸け、その間隔を2.5cmとした。光音響信号を増幅する高速プリアンプは増幅度+30dBの超音波プリアンプ(Model 5682、オリンパス(株)製)を用いた。増幅された信号をデジタルオシロスコープ(DPO4104、テクトロニクス(株)製)に入力した。前記ガラス容器の外からパルスレーザー光を前記ポリスチレン製キュベットに照射した。この際に生じる散乱光の一部をフォトダイオードで検出し、デジタルオシロスコープにトリガー信号として入力した。デジタルオシロスコープを32回平均表示モードとし、レーザーパルス照射32回平均の光音響信号取得を行った。
【0075】
<実施例2>
(ポリマーナノ微粒子2の合成と特性評価)
実施例1のDOPEの代わりにDSPC(11.3mg、日油(株)製)を用いて、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物2を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物2に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子2の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP2と略す。
PNP2の平均粒径は70nm(重量換算)であった。また、PNP2のモル吸光係数は4.7×108 M-1cm-1であり、光音響信号強度は9.7×108 VJ-1M-1だった。
【0076】
<実施例3>
(ポリマーナノ微粒子3の合成と特性評価)
実施例1のDOPEの代わりにDSPC(74.7mg、日油(株)製)を用い、ICGを36.7mg使用して、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物3を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物3に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子3の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP3と略す。
PNP3の平均粒径は166nm(重量換算)であった。また、PNP3のモル吸光係数は2.8×1010M-1cm-1であり、従来から知られている金ナノロッドのモル吸光係数(8.6×109)より大きいことが確認された。更に、PNP3の光音響信号強度は9.8×1011 VJ-1M-1であり、大きな信号強度であることを確認した。
【0077】
<実施例4(比較例)>
(脂質の正帯電部位の有無による比較)
実施例1のDOPEの代わりに以下の化学式8から化学式12に示した正帯電部位のない脂質(化学式8:トリステアリン、化学式9:トリオレイン、化学式10:ステアリン酸オレイル、化学式11:β−カロテン、化学式12:酢酸コレステロール)を用いて実施例1と同様にICG組成物を調製しようとしたところ、いずれも、ICGがクロロホルムには溶解せず、目的とするICGを含有したポリマーナノ微粒子を得ることはできなかった。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【0078】
<実施例5>
(ポリマーナノ微粒子4の合成と特性評価)
ICG(5.5mg)とニコチン酸アミド(17.3mg、東京化成(株)製)を混合してメタノール2mlに溶解し、15分間攪拌した。溶媒を留去した後、クロロホルム2mlを加え、次いで、孔径0.45マイクロメートルのフィルターを用いてろ過を行い、ICGとニコチン酸アミドがクロロホルムに溶解してなるICG組成物4を調製した。
実施例1のICG組成物1を上記ICG組成物4に替えて、実施例1と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子4の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP4と略す。
PNP4の平均粒径は73nm(重量換算)であり、モル吸光係数は9.1×108 M-1cm-1であった。
【0079】
<実施例6>
(ポリマーナノ微粒子5の合成と特性評価)
実施例5のPLGAの量を4倍(20mg)にして、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子5の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP5と略す。
【0080】
PNP5の平均粒径は154nm(重量換算)であり、モル吸光係数は4.2×109 M-1cm-1であった。
【0081】
<実施例7>
(ポリマーナノ微粒子6の合成と特性評価)
実施例5のPLGAの量を8倍(40mg)にして、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチンン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子6の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP6と略す。
【0082】
PNP6の平均粒径は119nm(重量換算)であり、モル吸光係数は2.6×109 M-1cm-1であった。
【0083】
<実施例8>
(ポリマーナノ微粒子7の合成と特性評価)
ICG(22mg)とニコチン酸アミド(17.3mg)を用いて、実施例5と同様の操作を行うことによってICG組成物7を調製した。
【0084】
実施例5のICG組成物4を上記ICG組成物7に替えて、実施例5と同様の操作を行うことによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとニコチン酸アミドを含むポリマーナノ微粒子7の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP7と略す。
【0085】
PNP7の平均粒径は76nm(重量換算)であった。また、PNP7のモル吸光係数は2.5×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は5.7×1010 VJ-1M-1だった。
【0086】
<実施例9>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価1)
ポリマーナノ微粒子の安定性を評価する為に、PNP1、及びPNP2の水分散液を暗所下4℃で静置して、λmax(797nm)における吸光度の経時変化を測定し、その結果を図5と図6に示した。また、比較例として、非特許文献1とICG水溶中でのλmax(779nm)における吸光度の経時変化を図5に示した。
【0087】
図5から、測定開始5日後、PNP1の吸光度の変化率は約1.5%に、PNP2の吸光度の変化率は約0.6%に抑えられていることが確認された。また、図6から、測定開始2ヶ月が経過しても、PNP1の吸光度の変化率は約15%に、PNP2の吸光度の変化率は約6%に抑えられていることが確認された。PNP1及びPNP2はICGと正帯電部位を有する脂質からなる疎水性の組成物を含有していることから、PNP1及びPNP2からのICGの漏出と褪色が抑制されたものと考えられる。なお本実施系及び以下の実施例において、吸光度の変化率とは、測定開始からたった日数後の吸光度の値を測定開始時の吸光度で割った値を指す。
【0088】
一方、非特許文献1では吸光度が4日で半減しており、粒子からICGが漏出し褪色していることが確認された(図5)。また、ICGを水に溶解させてなるICG水溶液の吸光度の変化率は48時間で70%であり、ICGは水中で非常に速く分解し、褪色していることが確認された。
【0089】
<実施例10>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価2)
実施例9と同様にして、PNP4から6の水分散液のλmax(795nm)における吸光度の経時変化を測定し、その結果を図7と図8に示した。また、比較例として、非特許文献1とICG水溶中でのλmax(779nm)における吸光度の経時変化を図7に示した。
【0090】
図7から、測定開始7日後、PNP4の吸光度の変化率は約10%に、PNP5の吸光度の変化率は約7%に、PNP6の吸光度の変化率は約5%に抑えられていることが確認された。
【0091】
図8から、測定開始4週間が経過しても、PNP4の吸光度の変化率は約25%に、PNP5の吸光度の変化率は約28%に、PNP6の吸光度の変化率は約18%に抑えられていることが確認された。PNPはICGとニコチン酸アミドからなる疎水性の組成物を含有していることから、PNPからのICGの漏出と褪色が抑制されたものと考えられる。
【0092】
一方、図7より、非特許文献1では吸光度が4日で半減しており、粒子からICGが漏出し褪色していることが確認された。また、ICG水溶液の吸光度の変化率は48時間で70%であり、ICGは水中で非常に速く分解し、褪色していることが確認された。
【0093】
<実施例11>
(ポリマーナノ微粒子8の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2(1.6ml)にPLGA(5mg)を溶解させて、クロロホルム溶液11を調製した。
次に、Tween20(60mg)とリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を水に溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液11(1.6ml)を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子8の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP8と略す。
次に、PNP8の水分散液を膜孔1000kDaの透析膜(スペクトラム製)に入れ、2lの水を外液として4℃で透析を行った。透析時間は1回16時間以上行い、透析は4回行った。
次に、透析膜内のPNP8の水分散液を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過した。
PNP8の平均粒径は83nm(重量換算)であった。また、PNP8のモル吸光係数は1.5×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は3.5×1010 VJ-1M-1だった。
【0094】
<実施例12>
(ポリマーナノ微粒子9の合成と特性評価)
実施例11におけるリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を用いなかったこと以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子9の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP9と略す。
PNP9の平均粒径は119nm(重量換算)であった。また、PNP9のモル吸光係数は5.4×109 M-1cm-1であり、光音響信号強度は1.3×1011 VJ-1M-1だった。
【0095】
<実施例13>
(ポリマーナノ微粒子10の合成と特性評価)
実施例11の透析膜を膜孔300kDaの透析膜に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子10の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP10と略し、その特性を表1に示した。
【0096】
<実施例14>
(ポリマーナノ微粒子11の合成と特性評価)
実施例11のクロロホルム溶液11を約2倍量(3.3ml)に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子11の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP11と略し、その特性を表1に示した。
【0097】
<実施例15>
(ポリマーナノ微粒子12の合成と特性評価)
実施例11のクロロホルム溶液を約4倍量(6.6ml)に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子12の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP12と略し、PNP12の特性を表1に示した。
【表1】
材料回収率(%)=(乾燥重量/投入材料重量)×100
残留クロロホルム量:ヘッドスペースを用いたガスクロマトグラフィーで分離し、水素イオン化検出器で検出した。
W/O比 20:1.6〜20:6.6の範囲で平均粒径が約120nm前後のPNPを調製できた。W/O比が小さくなるにつれて、材料回収率、PNP中のICG含有率が増加する傾向が認められた。
【0098】
<実施例16>
(ポリマーナノ微粒子13の合成と特性評価)
実施例11の透析精製を限外ろ過に替えた以外は、実施例11と同様にして微粒子を調製した。即ち、限外ろ過膜(膜孔300kDa、日本ポール製)を取り付けた限外ろ過撹拌式セル(50ml、日本ミリポア(株)製)にPNP水分散液を全量入れ、室温で限外ろ過を行った。PNP水分散液のろ過された廃液の量と同量の水が新たに限外ろ過撹拌式セルに供給されるように限外ろ過を行い、PNP水分散液の10倍量の廃液が得られたところで、限外ろ過撹拌式セル内のPNP水分散液を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過し、ポリマーナノ微粒子13の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP13と略す。
PNP13の平均粒径は128nm(キュムラント)であり、モル吸光係数は6.8×109 M-1cm-1であった。PNPの精製方法として、透析法と限外ろ過法のどちらを用いても、ほぼ同様なPNPが調製できた。その特性を表2に示した。
【0099】
<実施例17>
(ポリマーナノ微粒子14の合成と特性評価)
前記実施例11のICGとDSPCの量を2倍にして、クロロホルム溶液1.6mlを調製し、そこへPLGA(5mg)を溶解させて、クロロホルム溶液17を調製した。
前記クロロホルム溶液17を用いて、実施例16と同様にしてポリマーナノ微粒子14を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP14と略し、その特性を表2に示した。
【0100】
<実施例18>
(ポリマーナノ微粒子15の合成と特性評価)
前記実施例11のICG、DSPC、及びPLGAの量を2倍にして、クロロホルム溶液18を調製した。このクロロホルム溶液18を用いて、実施例16と同様にして微粒子を調製した。この微粒子をPNP15とし、その特性を表2に示した。
【0101】
<実施例19>
(ポリマーナノ微粒子16の合成と特性評価)
前記実施例11のICG、DSPC、及びPLGAの量を4倍にして、クロロホルム溶液19を調製した。このクロロホルム溶液を用いて、実施例16と同様にして微粒子を調製した。この微粒子をPNP16とし、その特性を表2に示した。
【表2】
ICG、DSPC、PLGAの処方量を2倍、4倍に増加させても、平均粒径は約100nm前後のPNPが調製できることを確認した。またICG処方量を増加させることによりPNP中のICG含有量を10%前後に高めることができた。
【0102】
<実施例20>
(ポリマーナノ微粒子のリン酸緩衝液生理食塩水中での安定性評価)
実施例13で調製したPNP10(0.2ml)に水0.7mlおよび10倍濃度リン酸緩衝液生理食塩水(PBS、インビトロジェン製)を0.1ml添加し、PBS添加PNP分散液を調製した。該PBS添加PNP分散液の平均粒径を4週間経時的に測定した。測定時以外は遮光し、4℃で保存した。その結果は表3に示した。
表3から、PBS添加直後から4週間に粒径の変化は全く認められず、PBS中で安定に保存が可能であった。
【表3】
【0103】
<実施例21>
(ポリマーナノ微粒子の80%血清中での安定性評価)
実施例13で調製したPNP10(0.2ml)に0.2μmフィルターろ過した牛胎児血清(FBS)0.8mlを添加し、FBS添加PNP分散液を調製した。該FBS添加PNP分散液の平均粒径を4日間経時的に測定した。測定時以外は遮光し、37℃で保存した。その結果は表4に示した。
表4より、FBS添加15分後から96時間以内で粒径の大きな変化は確認されなかった。
【表4】
【0104】
<実施例22>
(ポリマーナノ微粒子の安定性評価)
実施例13で調製したPNP10を水で希釈し、吸光度計(パーキンエルマー製)でλmax(790nm)における吸光度を経時的に測定した。測定時以外は遮光し、4℃で保存した。測定結果は図9に示した。図9から、保存2カ月以内であれば97 %以上の吸光度が保持されていることが確認された。
【0105】
<実施例23>
(ポリマーナノ微粒子17の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを2倍量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDa(スペクトラム製)に変更して精製し、ポリマーナノ微粒子17の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP17と略し、その分析結果を表5に示した。
【0106】
<実施例24>
(ポリマーナノ微粒子18の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを4倍の量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDaに変更して精製し、ポリマーナノ微粒子18の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP18と略し、その分析結果を表5に示した。
【0107】
<実施例25>
(ポリマーナノ微粒子19の合成と特性評価)
実施例11のPLGAを8倍の量にして、実施例11と同様にして粒子を合成した。なお、透析膜は膜孔300kDaに変更して精製し、ポリマーナノ微粒子19の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP19と略し、その分析結果を表5に示した。
【表5】
PLGA処方量を2倍、4倍、8倍に増加させても、粒径およそ100nmから200nmの微粒子が合成できることが確認された。
【0108】
<実施例26>
(一本鎖抗体hu4D5-8scFvの調製)
HER2へ結合するIgGの可変領域の遺伝子配列(hu4D5-8)を基に、一本鎖抗体(scFv)をコードする遺伝子hu4D5-8scFvを作製した。まずhu4D5-8のVL、VH遺伝子をペプチド(GGGGS)3をコードするcDNAで連結したcDNAを作製した。5’末端には制限酵素NcoI- を、3’末端には制限酵素NotIの認識サイトを導入した。以下に塩基配列を示す。
配列番号1:
5’-CCATGGATATCCAGATGACCCAGTCCCCGAGCTCCCTGTCCGCCTCTGTGGGCGATAGGGTCACCATCACCTGCCGTGCCAGTCAGGATGTGAATACTGCTGTAGCCTGGTATCAACAGAAACCAGGAAAAGCTCCGAAACTACTGATTTACTCGGCATCCTTCCTCTACTCTGGAGTCCCTTCTCGCTTCTCTGGATCCAGATCTGGGACGGATTTCACTCTGACCATCAGCAGTCTGCAGCCGGAAGACTTCGCAACTTATTACTGTCAGCAACATTATACTACTCCTCCCACGTTCGGACAGGGTACCAAGGTGGAGATCAAAGGCGGTGGTGGCAGCGGTGGCGGTGGCAGCGGCGGTGGCGGTAGCGAGGTTCAGCTGGTGGAGTCTGGCGGTGGCCTGGTGCAGCCAGGGGGCTCACTCCGTTTGTCCTGTGCAGCTTCTGGCTTCAACATTAAAGACACCTATATACACTGGGTGCGTCAGGCCCCGGGTAAGGGCCTGGAATGGGTTGCAAGGATTTATCCTACGAATGGTTATACTAGATATGCCGATAGCGTCAAGGGCCGTTTCACTATAAGCGCAGACACATCCAAAAACACAGCCTACCTGCAGATGAACAGCCTGCGTGCTGAGGACACTGCCGTCTATTATTGTTCTAGATGGGGAGGGGACGGCTTCTATGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCCTGGTCACCGTCTCCTCGGCGGCCGC-3’
(制限酵素の認識サイトを下線で示す。)
【0109】
上記遺伝子断片hu4D5-8scFvをプラスミドpET-22b(+)(Novagen社)のT7/lacプロモーターの下流に挿入した。具体的には、制限酵素NcoI-とNotIで消化処理したpET-22b(+)に、上記のcDNAをライゲーションする。
この発現プラスミドを大腸菌(Escherichia coli BL21(DE3))に形質転換し、発現用菌株を得た。得られた菌株をLB-Amp培地4mlで一晩前培養後、全量を250mlの2xYT培地に添加し、28℃、120rpmで8時間振とう培養した。その後、終濃度1mMでIPTG(Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside)を添加し、28℃で一晩培養した。培養した大腸菌を8000xg、30分、4℃で遠心分離し、その上清の培養液を回収した。得られた培養液の60%重量の硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を一晩4℃で静置後、8000xg、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を20mM Tris・HCl/500 mM NaClバッファーに溶解し、1lの同バッファーへ透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(登録商標)Resin(Novagen社)を充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製したhu4D5-8scFvは、還元SDS-PAGEによりシングルバンドを示し分子量は約28kDaであることを確認した。以下に調製された抗体のアミノ酸配列を示す。以後、hu4D5-8scFvをscFvと略す。
配列番号2:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC
【0110】
<実施例27>
(ポリマーナノ微粒子20の合成)
ICG(4.4mg)をメタノール1mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。DSPC(9mg)をクロロホルム1mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mlとDSPCクロロホルム溶液1mlを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDSPCをクロロホルム1.6mlに完全に溶解して、ICGとDSPCがクロロホルムに溶解してなるICG組成物を調製した。これにPLGA(20mg)を溶解させて、PLGAクロロホルム溶液を調製した。次に、Tween20(60mg)、末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N-(Carbonyl-methoxypolyethyleneglycol 2000)-1,2-distearoyl- sn-glycero-3-phosphoethanolamine, sodium salt(7.3mg、DSPE-020CN)、ならびに、末端に1級アミノ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N-(aminopropyl polyethyleneglycol)carbamyl-distearoylphosphatidyl-ethanolamine(0.7mg、DSPE-020PA、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを留去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ 0.2μm)することで、ICGとDSPCを含有するポリマーナノ微粒子20の水分散液を得た。以後、この粒子をPNP20と略す。
PNP20の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。PNP20の平均粒径は105nm(キュムラント)、ゼータ電位は-31mVであった。
【0111】
<実施例28>
(PNP20表面へのscFvの修飾)
実施例26で調製したscFvを5mM EDTAを含むリン酸バッファー(2.68mM KCl/137mMNaCl/1.47mM KH2PO4/1mM Na2HPO4/5mM EDTA、pH7.4)にバッファー置換後、10倍モル量のトリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)によって、25℃で約2時間、還元処理した。
PNP20の表面に存在する1級アミノ基を介して、scFvの修飾を行った。まず、succinimidyl-[(N-maleimidopropionamido)-diethyleneglycol] ester (SM(PEG)2、サーモサイエンティフィック社) の0.1mg(233nmol)を、PNP20の水分散液(PNP濃度:4.8×1012個/ml)の2.9mlに溶解した。次に、0.33mlのほう酸バッファー(pH8.5)を加えた。この粒子懸濁液を室温で2時間撹拌した後、PD-10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、マレイミド基を導入したPNP20(以下、マレイミド化PNP20と略す)と未反応のSM(PEG)2を、水を展開溶媒として分離し、マレイミド化PNP20の水溶液およそ6mlを得た。この水溶液に1Mの 2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)溶液を120μl加えることで、マレイミド化PNP20のHEPES溶液を得た。
前記還元処理したscFvを、前記マレイミド化PNP20のHEPES溶液に添加し、4℃で15時間以上反応させた。仕込みの反応モル比(scFv/マレイミド化PNP20)は、720で行った。ここで「仕込み」とは反応系に加えられた、という意味であり、「仕込みの反応モル比」とは、反応系に加えられたscFvとマレイミド化PNP20のモル濃度比のことをいう。反応後、この溶液に、末端チオール基を有するポリエチレングリコール(分子量1000、PLS-606、Creative PEGWorks社製)16.8nmolを加え、室温で30分撹拌した。次いで、この溶液をフィルターろ過(ポアサイズ1.2μm)した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ-4(日本ミリポア(株)製)を用いた限外ろ過によりマレイミド化PNP20へ結合しなかったscFvを除去して、scFvが修飾されたPNP20を得た。以後、得られたこの粒子をscFv- PNP20と略す。
BCA(bicinchoninic acid、ビシンコニン酸)法を用いて、PNP20へのscFvの修飾量を算出した結果、粒子あたりに491個のscFvが修飾されていることがわかった。scFv- PNP20の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。scFv- PNP20の平均粒径は109nm(キュムラント)、ゼータ電位は-40mVであった。
【0112】
<実施例29>
(scFv- PNP20の細胞結合能評価)
培養細胞に対するscFv- PNP20の結合能評価を行った。前日にHER2陽性細胞(N87細胞)、ならびにHER2陰性細胞(SUIT-2細胞)をそれぞれ24ウェルプレートに播種した(4×1055 cells/well)。翌日、培地を除去し、増殖培地200μlを入れた後、scFv- PNP20を添加した(PNP濃度として、0、16、33、81、157、300pM)。4℃で3時間、静置した。その後、scFv- PNP20を含む培地を除去し、PBS 1mlで2回、しっかり洗った。PBSを除去した後、細胞を溶かすため、Triton X-100(polyoxyethylene-p-isooctylphenol)の1%水溶液を1ウェルにつき300μl加えた。37℃で1時間以上インキュベートした。この細胞溶解液を回収し、溶液中のICG量を蛍光測定により求めた。蛍光測定は、励起波長は790nm、蛍光波長は820nmとした。蛍光強度値とインキュベートしたscFv- PNP20濃度より、スキャッチャードプロットを作成し、N87細胞に対するscFv- PNP20の見かけの平衡解離定数(Kd)を求めた結果、0.17nMであった。一方、SUIT-2細胞への結合は弱く、その結果、蛍光強度値が小さかったため、スキャッチャードプロットからKdは求められなかった。以上の結果より、scFv- PNP20は、HER2陽性細胞に対し、HER2を認識して結合することが確認された。
【0113】
<実施例30>
(ポリマーナノ微粒子21〜23の合成と特性評価)
実施例2で調製した、ICG組成物2(1.6ml)に、PLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液30を調製した。
次に、Tween80(東京化成工業社製)を含む水溶液(20ml)に、前記クロロホルム水溶液(1.6ml)を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、この混合液を、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去することによって、微粒子の表面にTween80が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含む、ポリマーナノ微粒子21、22、23の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子21、22、23は、それぞれ、Tween80(東京化成工業社製)を180mg、60mg、12mg含む水溶液(20ml)を用いてできた粒子である。
次に、ポリマーナノ微粒子21の水分散液を限外ろ過装置(限外ろ過膜 膜孔300kDa(日本ポール製))にいれ、注水しながら限外ろ過操作を行い、廃液量が400mlになるまでそれぞれ継続した。ポリマーナノ微粒子22、23についてもポリマーナノ微粒子21と同様に限外ろ過操作を行った。
次に、限外ろ過装置内のポリマーナノ微粒子21、22、23の水分散液(液量はすべて20ml)を回収し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過した。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP21、PNP22、PNP23と略す。PNP21、PNP22、PNP23の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数の測定結果は表6に示した。
【0114】
<実施例31>
(ポリマーナノ微粒子24〜26の合成と特性評価)
実施例30のTween80(東京化成工業社製)を含む水溶液のかわりに、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例30と同様にしてポリマーナノ微粒子を調製した。具体的には、微粒子の表面にプルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子24、25、26の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子24、25、26は、それぞれ、プルロニックF68(シグマアルドリッチジャパン社製)を268mg、100mg、50mg含む水溶液(20ml)を用いてできた粒子である。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP24、PNP25、PNP26と略す。PNP24、PNP25、PNP26の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数の測定結果は表6に示した。
【0115】
<実施例32>
(ポリマーナノ微粒子27〜29の合成と特性評価)
実施例30のTween80(東京化成工業社製)を含む水溶液のかわりに、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)を含む水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。具体的には、微粒子の表面にプルロニックF127が存在し、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子27、28、29の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子27、28、29は、それぞれ、プルロニックF127(シグマアルドリッチジャパン社製)がそれぞれ268mg、100mg、50mg溶解した水溶液(20ml)を用いていできた粒子である。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP27、PNP28、PNP29と略す。
PNP27、PNP28、PNP29の平均粒径(キュムラント径)およびモル吸光係数は表6に示した。
【表6】
Tween20とリン脂質で粒子表面を保護されたPNP2はモル吸光係数は4.7×108 M-1cm-1であり、実施例30〜32で調製したTween80あるいはプルロニックF68あるいはプルロニックF68で粒子表面を保護されたPNP21〜PNP29ではPNP2と比較して同等以上のモル吸光係数を示した。
【0116】
<実施例33>
(アルブミンを表面に含有する粒子の合成と特性評価)
ICG(13.2mg)をメタノール3mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。DSPC(27mg)をクロロホルム3mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液3mlとDSPCクロロホルム溶液3mlを混合した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICGとDSPCをクロロホルム4.8mlに溶解して、ICGとDOPEがクロロホルムに溶解してなる、ICG組成物33を調製した。
ICG組成物33のクロロホルム溶液4.8mlにPLGA60mgを溶解させて、クロロホルム溶液33を調製した。
次に、Tween20(180mg)とリン脂質(21.9mg、DSPE-020CN、PEGの分子量2000、日油(株)製)を溶解した水溶液(60ml)を調製した。前記Tween20とリン脂質の水溶液(60ml)を20mlずつに分け、それぞれにヒト血清アルブミン(カルビオケム製)を0mg、5.2mg、52mg添加して、アルブミンを0mg、5.2mg、52mg含有したTween20とリン脂質の水溶液を調製した。この3種類の水溶液20mlに、クロロホルム溶液33を1.6mlずつ加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃で2時間)で減圧し、分散質からクロロホルムを留去した。その結果、アルブミンを用いない系では、粒子の表面がTween20とリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含む粒子の水分散液ができた。また、アルブミンを用いた系では、Tween20、リン脂質、およびアルブミンで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含む粒子の水分散液を得た。得られた水分散液を純水(2l)へ透析する操作を5回繰り返した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ−4(日本ミリポア社)を用いた限外ろ過を行うことで、粒子にならなかった物質や、粒子につかなかったアルブミンを除去した。最後に0.45μmフィルターでろ過し、粒子の水分散液を得た。以後、アルブミンを0mg、5.2mg、52mg含有したTween20とリン脂質の水溶液を用いて作製した粒子をそれぞれ、PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hと略す。
【0117】
PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hの平均粒径(キュムラント値)を測定したところ、PNP30は122nm、PNP30-Alb-Lは134nm、PNP30-Alb-Hは80nmであった。
それぞれの粒子のICGの吸光度のλmaxを測定したところ、PNP30は784nm、PNP30-Alb-Lは790nm、PNP30-Alb-Hは797nmであった。λmaxがアルブミンを含有させることで長波長側にシフトしていることより、ICGがアルブミンに吸着していることが示唆された。
次に、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hのアルブミンの数を、Micro BCATM Protein AssayKit (Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて評価した。その結果、PNP30におけるアルブミンの数を0としたとき、粒子1個当たり、PNP30-Alb-Lは200個程度、PNP30-Alb-Hは800個程度のアルブミンが表面に含まれていることが示唆された。
【0118】
<実施例34>
(粒子のPBS中での安定性の評価)
PNP30、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hをリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH=7.4)で、室温で1日静置した際の各粒子のλmaxにおける吸光度を経時的に測定することにより、各粒子のPBS中でのICGの漏出性、褪色性を評価した。各粒子の0時間の時のλmaxでの吸光度を100とした際の1日後の吸光度の相対値を記した結果を図10に示す。図10に示すように、PNP30では1日後に0時間の時と比較して7割程度に減少するのに対し、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hでは9割以上維持されていた。以上より、PNP30-Alb-L、PNP30-Alb-Hでは、PBS中でICGを安定に保持していることを確認した。
【0119】
(参考例(A−1))
ICG((財)日本公定書協会製)11mgをメタノール4mLに溶解させた。このICGに対して、20倍(モル比)のニコチン酸アミド34.7mgをメタノール4mLに溶解させた。この両メタノール溶液を混合し、15分攪拌した後、エバポレーターを用いて、メタノールを留去した。これにクロロホルム4mLを加えて攪拌した。さらに、超音波分散装置を用いて30秒間超音波照射を行った。孔径0.45マイクロメートルのフィルターを用いてろ過を行い、溶解した成分を回収した。以下では、回収された試料をA−1ということがある。
【0120】
(参考例(A−2)、参考例(A−3)(比較対照))
A−2、A−3は、参考例(A−1)で、ニコチン酸アミドを用いた代りに、ニコチン酸ベンジルエステル、ピリジンを用いた以外は、A−1と同様にして得られた。
【0121】
(参考例(A−0))
比較対照であるA−0は、参考例(A−1)で、ニコチン酸アミドを用いない以外は、参考例(A−1)と同様にして得られた。
【0122】
(参考例(A−4)(比較対照))
比較対照であるA−4は、ニコチン酸アミドを用いる代りに、Journal of Biomedical Optics 131, 014025, 2008で用いられている、テトラブチルアンモニウムヨージドを用い、それ以外は、参考例(A−1)と同様に得られた。
【0123】
(参考例(B−1)、(B−2))
B−1、B−2は、参考例(A−1)、(A−2)で、クロロホルムを用いる代りに、ジクロロメタンを用いた以外は、参考例(A−1)、(A−2)と同様に得られた。
【0124】
(参考例(B−0)(比較対照))
比較対照であるB−0は、参考例(B−1)で、ニコチン酸アミドを用いない以外は、参考例(B−1)と同様に得られた。
【0125】
(参考例(B−5)(比較対照))
比較対照であるB−5は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=3:1の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0126】
(参考例(B−6)(比較対照))
比較対照であるB−6は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=1:1の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0127】
(参考例(B−7)(比較対照))
比較対照であるB−7は、参考例(B−0)で、ジクロロメタンを用いる変わりに、ジクロロメタン:メタノール=1:3の混合溶液を用いた以外は、参考例(B−0)と同様に得られた。
【0128】
(参考例(C−1)、(C−2)、(C−3))
C−1、C−2、C−3は、それぞれ、ニコチン酸アミドを用いた代りに、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドを用いた以外は、参考例(A−1)と同様にして得られた。
【0129】
(参考例:溶解性評価)
上記参考例(A−0)乃至(A−4)で回収した各試料を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、A−0で得られた吸光度の値を1として規格化し、比較したものが図11(a)である。
色素と疎水性溶媒からなる比較対照であるA−0と比較して、ニコチン酸アミドを用いて得られたA−1は3.2倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたA−2は2.1倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、Journal of Biomedical Optics 131, 014025, 2008で用いられているテトラブチルアンモニウム塩を用いて得られたA−4と比較しても、ニコチン酸アミドを用いて得られたA−1は3.2倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたA−2は2.1倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、ピリジンを用いて得られたA−3は、有効性が見られなかった。
【0130】
上記参考例(B−0)乃至(B−7)で回収した各試料を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、比較例B−0の値を1として規格化し、比較したものが図11(b)である。
色素と疎水性溶媒からなる対照組成物B−0と比較して、ニコチン酸アミドを用いて得られたB−1は10.4倍、ニコチン酸ベンジルエステルを用いて得られたB−2は6.2倍と、非常に良好な溶解性を示した。
また、B−0と比較して、メタノールを用いて得られたB−5、B−6,B−7は6.3倍〜9.1倍とメタノールの添加量に応じて、非常に良好な溶解性を示した。
上記実施例及び比較例で回収したC−1からC−3、A−0溶液を1000倍希釈して、常法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った。550nmから950nmまでの吸光度を積算し、A−0で得られた値を1として規格化し比較した。
色素と疎水性溶媒からなる比較対照A−0と比較して、フルスルチアミンを用いて得られたC−1は1.4倍、プロスルチアミンを用いて得られたC−2は1.6倍、チアミンジスルフィドを用いて得られたC−3は1.9倍、となり、非常に良好な溶解性を示した。
【0131】
<実施例35>
(ポリマーナノ微粒子31の合成)
ICG5.5mgをメタノール1mLに溶解させた。ICG可溶化剤として、フルスルチアミン58.7mgをメタノール1mLに溶解させた。このフルスルチアミン・メタノール溶液を加えて15分間撹拌した後、溶媒を留去させた。得られた試料にクロロホルム2.0mLを添加して分散、溶解させた後、孔径0.45マイクロメートルのフィルターでろ過した。ろ過して得られた試料にPLGA(40mg)を添加して溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。
界面活性剤として、Tween20 180mg、SUNBRIGHT DSPE-020CN 22.0mgを、超純水20mLに添加し、界面活性剤を溶解した水溶液を調製した。
この界面活性剤を溶解した水溶液を撹拌しながら、本実施例で調製したクロロホルム溶液を滴下して、エマルション準備液を調製した。
エマルション準備液を、超音波分散装置(トミー製、UD−200)を用いて1分30秒間超音波照射をすることにより、エマルションを作製した。
エマルション中のクロロホルムを取り除くために、エバポレーターを用いて、クロロホルムを留去し、ナノ粒子の分散液を作製した。
得られたナノ粒子分散液を、透析膜(分画分子量 300000)を用いて、過剰の界面活性剤等を除去して、ポリマーナノ微粒子31を得た。以降、このポリマーナノ微粒子31をPNP31と略す。
【0132】
<実施例36>
(ポリマーナノ微粒子32、33の合成)
フルスルチアミンを、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドとした以外は、実施例35と同様に合成し、ポリマーナノ微粒子32、33を得た。以降、このポリマーナノ微粒子32、33をPNP32、33と略す。
PNP31、32、33について、波長790nmにおける光音響信号特性評価を行った。
表7に、PNP31、32、33の吸収極大波長、平均粒径、粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度を示す。
粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度は、粒径が100nmである場合に換算して比較した。
【0133】
【表7】
【0134】
<実施例37>
(ポリマーナノ微粒子34の合成)
ICG5.5mgをメタノール1mLに溶解させた後、ICG可溶化剤としてプロスルチアミン50.6mgを加えて15分間撹拌した後、溶媒を留去させた。得られた試料にアセトン3.0mLを添加して、孔径0.45マイクロメートルのフィルターでろ過した。ろ過して得られた試料(2.0mL)にPLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。
界面活性剤として、Tween20(50mg)を、超純水10mLに添加し、界面活性剤分散水溶液を調製した。
この界面活性剤分散水溶液を撹拌しながら、本実施例で調製した有機溶媒分散液を滴下して、ナノ粒子分散液を作製した。
得られたナノ粒子分散液を透析膜(分画分子量 1000000)を用いて、過剰の界面活性剤等を除去して、ポリマーナノ微粒子34を得た。以降、このポリマーナノ微粒子34をPNP34と略す。
【0135】
<実施例38>
(ポリマーナノ微粒子35の合成)
アセトンをアセトニトリルとした以外は、実施例37と同様に合成し、ポリマーナノ微粒子35を得た。以降、このポリマーナノ微粒子35をPNP35と略す。
【0136】
<実施例39>
(ポリマーナノ微粒子36の合成)
IR−820(5.5mg、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)をメタノール1mlに溶解し、IR−820メタノール溶液を調製した。DSPC(9mg)をクロロホルム1mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。IR−820メタノール溶液1mlとDSPCクロロホルム溶液1mlを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したIR820とDSPCをクロロホルム1.6mlに完全に溶解して、IR820とDSPCがクロロホルムに溶解してなるIR−820組成物を調製した。これにPLGA(20mg)を溶解させてPLGAクロロホルム溶液を調製した。次に、Tween20(60mg)、末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質N−(Carbonyl−methoxypolyethleneglycol 2000)−1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine,sodium salt(7.3mg,DSPE-020CN,日油株式会社製)を溶解した水溶液(20ml)に前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、撹拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを留去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ0.2μm)することで、IR−820とDSPCを含有するポリマーナノ微粒子36の水分散液を得た。以降、このポリマーナノ微粒子36をPNP36と略す。
PNP36の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN Co. LTD)を用いて測定した。PNP36の平均粒径は94nm(キュムラント)、ゼータ電位は−24mVであった。
また、定法に従い、UV−VIS−NIR測定を行った結果、PNP36は825nmに吸収極大を持ち、吸収極大におけるモル吸光係数は5.0×109M−1cm−1であった。
更に、前述した光音響測定方法に従い測定した結果、PNP36の光音響信号強度は、750nmおよび820nmにおいて、1.8×1011VJ−1M−1であった。
【0137】
<比較例1>
実施例37でアセトンに溶解させたICGと同量のICGを、0.67mLのメタノールに溶解させて、1.33mLのアセトン、PLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。これ以外は、実施例37と同様に合成し、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−1を得た。
【0138】
<比較例2>
実施例38でアセトニトリルに溶解させたICGと同量のICGを、0.67mLのメタノールに溶解させて、1.33mLのアセトニトリルに混合し、PLGA(40mg)を添加して有機溶媒分散溶液を調製した。これ以外は、実施例38と同様に合成し、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−2を得た。
表8に、PNP34、35、比較対照のポリマーナノ微粒子VBC−1、VBC−2の吸収極大波長、平均粒径、粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度を示す。
粒子当たりのモル吸光係数、粒子当たりの光音響信号強度は、粒径が100nmである場合に換算して比較した。
【0139】
【表8】
表8によると、同じICG仕込量において、プロスルチアミンを添加したポリマーナノ微粒子34、35が、プロスルチアミンを添加していないポリマーナノ微粒子VBC−1、VBC−2よりも高濃度のICGを粒子内に含有していることがわかる。
また、光音響特性評価において、プロスルチアミンを添加したポリマーナノ微粒子34は、プロスルチアミンを添加していないポリマーナノ微粒子VBC−2より、1.9倍大きな信号強度を示した。
【0140】
<参考例>
以下、参考例について説明する。
以下の<参考例1>〜<参考例5> に記した試薬は、インドシアニングリーン(ICG、日本公定書協会製)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC、日本油脂製)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE、日本油脂製)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE、日本油脂製)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS、日本油脂製)を用いた。なお、このうち、DSPC、DSPS及びDSPEは飽和脂肪酸であり、DOPEは不飽和脂肪酸である。
【0141】
<参考例1>
(リン脂質を添加したICGのクロロホルムへの溶解性)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DOPE、DSPE、DSPSを用いた。これらICG・リン脂質混合物にそれぞれメタノール・クロロホルム1:2混液3mlを加え溶解した。また対照として、ICGのみをメタノール・クロロホルム1:2混液3mlに溶解したものも調製した。次いでこれらの溶液を40℃で減圧下で溶媒を留去した。蒸発乾固させたICG・リン脂質混合物をそれぞれクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した。ろ液をそれぞれクロロホルムで1/100倍に希釈し、光路1cmの石英セルを使用し、波長550nm〜900nm間において1nmステップで吸光度を測定した。波長550nm〜900nm間の吸光度値の和を吸収曲線積分値として、結果を図12(a)に示した。
ICGのみをクロロホルムに溶解したものに比較して、DSPC、DOPE、DSPE、DSPSを添加したICGはクロロホルムへの溶解性が50倍程度向上した。
【0142】
<参考例2>
(リン脂質を添加したICGのジクロロメタンへの溶解性)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれジクロロメタン2mlに溶解した。対照として、ICGをメタノールあるいはジクロロメタンにそれぞれ溶解したものも調製した。ICG溶液はすべてポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した後、それぞれジクロロメタンで1/500倍に希釈し、実施例1と同様に吸収曲線積分値を求め、結果を図12(b)に示した。
ICGのみをジクロロメタンに溶解したものに比較して、DSPC、DOPEを添加したICGはジクロロメタンへの溶解性が6倍程度向上し、ICGをメタノールに溶解したものとほぼ同程度まで溶解した。またICGのメタノール溶液(2.75mg/ml=3.5mM)とジクロロメタン溶液の吸収曲線積分値を比較することにより、リン脂質を添加しない場合、ジクロロメタンにはICGはおよそ0.6mM溶解していると推測された。
【0143】
<参考例3>
(ICG・リン脂質のクロロホルム溶液の調製)
ICG5.5mgにリン脂質をモル比1:2で添加した。リン脂質はDSPC、DSPS、DSPE、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過した後、それぞれメタノールで適当に希釈し、参考例1と同様に波長550nm〜950nm間の吸収曲線積分値を求めた。それぞれの吸収曲線積分値を下記の式1より濃度換算し、ICG濃度を求めた。ただし、式(1)において、重相関係数は0.9999であった。その結果を表9に示した。
Y=0.0272X+1.5834 (式1)
【0144】
【表9】
【0145】
<参考例4>
(ICG・リン脂質のジクロロメタン溶液の調製)
ICG5.5mgにモル量として2等量のリン脂質を添加した。リン脂質はDSPC、DSPS、DOPEを用いた。これらICG・リン脂質混合物をそれぞれジクロロメタン2mlに溶解し、ポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過し、参考例3と同様にICG濃度を求めた。その結果を表10に示した。
【0146】
【表10】
【0147】
<参考例5>
(リン脂質及びICGの組成比)
ICG5.5mgにそれぞれモル量として0.5、1、2等量のDSPCを添加した。
これらICG・DSPC混合物にそれぞれクロロホルム3mlを添加した。40℃加温2分間、超音波照射を1分行ったが、完全には溶解しなかった。これら懸濁液をポアーサイズ0.45μmのフィルターでろ過し、不溶物を除去した。ろ液をそれぞれメタノールで1/3000倍に希釈し、参考例3と同様にICG濃度を求めた。その結果を表11に示した。
【0148】
【表11】
表11の結果から、ICGはDSPC濃度依存的に溶解することが分かった。ICGクロロホルム溶液にDSPCが47.2mM存在することにより、ICGが15.7mMの濃度で溶解した組成物を調製できることが分かった。
【0149】
<参考例6>
(DSPCを添加したIR-820のクロロホルムへの溶解性)
IR-820(5.5mg)にモル量として2等量のDSPCを添加した。得られたIR-820とDSPCの混合物にメタノールとクロロホルムの混液(メタノール:クロロホルム=1:2)3mlを加え溶解したものを調製した。また比較対照としてIR-820のみをメタノールとクロロホルムの混液(メタノール:クロロホルム=1:2)3mlに溶解したものも調製した。
次いでこれらの調製した溶液を40℃、減圧下で溶媒を留去した。蒸発乾固させたIR-820とDSPCの混合物をクロロホルム2mlに溶解し、ポアーサイズ0.2μmのフィルターでろ過した。ろ液をクロロホルムで1/100から1/1000に希釈し、光路1cmの石英セルを使用し、波長550nm〜900nm間において1nmステップで吸光度を測定した。波長550nm〜900nm間の吸光度値の和を吸収曲線積分値として求めた。その結果、IR-820のみをクロロホルムに溶解したものに比較して、DSPCを添加したIR−820は、クロロホルムへの溶解性が約27倍向上した。
この結果から、正帯電部位を有する脂質であるDSPCと、IR-820と、クロロホルムと、重合性モノマーあるいはプレポリマーとを有する組成物と水とを混合し、重合性モノマーあるいはプレポリマーを重合して得られる光イメージング用造影剤は、IR-820を多く含有していると考えられる。また、DOPE、DSPE、DSPSも正帯電部位を有する脂質であるため、同様に、IR-820を多く含有する光イメージング用造影剤を得られると考えられる。
【0150】
<実施例40>
(ポリマーナノ微粒子37乃至44の合成と特性評価)
実施例11で用いたPLGAの代わりに以下の表12に示す疎水性ポリマーを用いて、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子37乃至44を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP37乃至PNP44と略す。PNP44については、ポリL−乳酸(PLLA)とポリD−乳酸(PDLA)を10mgずつ仕込んだものである。いずれの粒子も平均粒径(キュムラント)は100nm程度であり、モル吸光係数は2×109 M-1cm-1から5×109 M-1cm-1であった。
【0151】
【表12】
【0152】
<実施例41>
(ポリマーナノ微粒子45乃至51の合成と特性評価)
実施例11で調製したICGクロロホルム溶液に以下の表13に示す量のコレステロール(和光純薬工業(株)製)を添加し、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子45乃至51を調製した。これらのポリマーナノ微粒子をPNP45乃至51と略す。なお、PNP51の調製では、乳化時にコレステロールが析出し、粒子を合成することができなかった。
粒子の平均粒径(キュムラント)はコレステロール量に依存して増大した。モル吸光係数は平均粒径に依存して増大し、最大で1.8×1010 M-1cm-1であった。
【0153】
【表13】
【0154】
<実施例42>
(ポリマーナノ微粒子52乃至62の合成と特性評価)
実施例11で用いたPEGリン脂質(DSPE-020CN)の代わりに以下の表14に示すPEGリン脂質を用いて、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子52乃至62を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP52乃至PNP62と略す。いずれの粒子も平均粒径(キュムラント)は100nm程度であり、モル吸光係数は2×109から6×109 M-1cm-1であった。 なお、本実施例で用いたPEGリン脂質はいずれも日油(株)製である。
【0155】
【表14】
上記のDPPE(SUNBRIGHT PP-020CN, SUNBRIGHT社製)は下記の化学式13で表される。ただし、R1とR2は炭素数16のアルキル基である。
【化26】
【0156】
<実施例43>
(ポリマーナノ微粒子63の合成と特性評価)
実施例11で用いたPEGリン脂質(DSPE-020CN)の仕込み量を実施例11の仕込み量の20倍とし、さらにTween20を含まない水溶液を用いて、他は実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子63を得た。このポリマーナノ微粒子をPNP63と略す。PNP63の平均粒径(キュムラント)は99nmであり、モル吸光係数は9.1×108 M-1cm-1であった。
【0157】
<実施例44>
(ポリマーナノ微粒子64乃至66の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2(1.6ml)に下記の表15に示す疎水性ポリマー(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。疎水性ポリマーを溶解させるとき、5分間の超音波照射を行った。また、この後のO/W型のエマルジョン調製時の超音波照射時間も5分間とした以外は、実施例11と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子64乃至66を得た。これらのポリマーナノ微粒子をPNP64乃至66と略す。各粒子の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表15に示した。これらの粒子の吸収スペクトルを測定したところ、ICGモノマーの吸収に起因する790nm付近のピークとは別に、新たに895nm付近に先鋭な吸収ピークが観察された。この吸収はICGのJ会合体に起因するものと考えられる。
【0158】
【表15】
【0159】
<実施例45>
(ポリマーナノ微粒子67の合成と特性評価)
実施例2に記載したICG組成物2のクロロホルム溶液1.6mlにPLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液45を調製した。次に、Tween60(25.5mg、東京化成(株)製)とリン脂質(7.3mg、DSPE-020CN、日油(株)製)を溶解した水溶液(20ml)に、前記クロロホルム溶液45を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、実施例13と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子67を得た。このポリマーナノ微粒子をPNP67と略す。PNP67の平均粒径(キュムラント)は109nmであり、モル吸光係数は4.7×109 M-1cm-1であった。
【0160】
<実施例46>
(ポリマーナノ微粒子68乃至72の合成と特性評価)
実施例13で用いたTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにドデシル硫酸ナトリウム(以後SDSと略す)水溶液を用いポリマーナノ微粒子を調製した。
ポリマーナノ微粒子68乃至72の調製にはSDS(キシダ化学(株)製)をそれぞれ0.2mg、104mg、2080mg、2080mg、104mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。これら水溶液にそれぞれ実施例45に記載のクロロホルム溶液45を加えて、実施例13と同様の操作を行うことによって、ポリマーナノ微粒子68乃至70を得た。
ポリマーナノ微粒子71は実施例13に記載の操作において、ロータリーエバポレーターを使用するかわりに、40℃の水浴中で2時間撹拌することによりクロロホルム留去したこと以外は同様にして調製した。
ポリマーナノ微粒子72は、実施例13に記載の操作を40℃の水浴中で2時間撹拌することによりクロロホルム留去したことに加え、透析操作を限外ろ過操作に変更して調製した。限外ろ過操作は次の条件で行った。アミコンウルトラ15(日本ミリポア(株)製)にクロロホルム留去後の粒子分散液を9ml入れ、5000Gで15分間遠心操作することにより、およそ0.9mlまで濃縮した。この濃縮液に水8.1mlで希釈し、再度同様な遠心操作及び水による希釈を4回繰り返した。操作最後の水による希釈では粒子分散液が4.5mlになるように水を添加した。
これらの調製の結果、微粒子の表面がSDSで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子68乃至72の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP68乃至PNP72と略す。PNP68乃至72の平均粒径(キュムラント)およびモル吸光係数を表16に示した。
【0161】
【表16】
【0162】
<実施例47>
(ポリマーナノ微粒子73、74の合成と特性評価)
実施例13で用いたTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにポリビニルアルコール(以後PVAと略す)水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子73、74の調製にはPVA(平均分子量31,000、鹸化率86.7乃至88.7%、シグマアルドリッチジャパン製)がそれぞれ800mg、200mgを溶解した水溶液(20ml)を用いた。これら水溶液にそれぞれ実施例45記載のクロロホルム溶液45を加えた。
実施例13に記載の調製方法において、透析操作を実施例46に記載の限外ろ過操作に変更したこと以外は実施例13と同様にして粒子を調製した。
その結果、微粒子の表面がPVAで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子73、74の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP73、PNP74と略す。
PNP73、PNP74の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ120nm、129nmであり、モル吸光係数はそれぞれ7.5×108 、7.0×109 M-1cm-1であった。
【0163】
<実施例48>
(ポリマーナノ微粒子75乃至77の合成と特性評価)
実施例13のTween20及びリン脂質の水溶液の代わりにTween20とデキストランの水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子75乃至77の調製にはTween20を60mg及びデキストラン40(平均分子量40,000、東京化成工業(株)製)を40mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。さらにポリマーナノ微粒子76を調製するための水溶液には塩化鉄(III)六水和物(和光純薬工業(株)製)を0.45mg添加した。
上記の変更点及び透析操作を限外ろ過操作に変更したこと以外は実施例13と同様にして調製した。限外ろ過操作は実施例46と同様にして行った。
ポリマーナノ微粒子77においては限外ろ過操作前に塩化鉄(III)六水和物を0.45mg添加した。
その結果、微粒子の表面がTween20とデキストランで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子75乃至77の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP75〜77と略す。
PNP75乃至77の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ127nm、107nm、132nmであり、モル吸光係数はそれぞれ6.5×109 、2.6×109 、6.5×109 M-1cm-1であった。
【0164】
<実施例49>
(ポリマーナノ微粒子78乃至80の合成と特性評価)
実施例48のデキストランの代わりにヘパリンナトリウム水溶液を用いてポリマーナノ微粒子を調製した。ポリマーナノ微粒子78乃至80の調製にはTween20を60mg、及びヘパリンナトリウム塩(東京化成工業(株)製)を40mg溶解した水溶液(20ml)を用いた。さらにポリマーナノ微粒子79を調製するための水溶液には塩化鉄(III)六水和物(和光純薬工業(株)製)を0.45mg添加した。
上記の変更点以外は実施例48に記載の操作と同様にして粒子をそれぞれ調製した。
ポリマーナノ微粒子80においては限外ろ過操作前に塩化鉄(III)六水和物を0.45mg添加した。
その結果、微粒子の表面がTween20とヘパリンで保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子78乃至80の水分散液を得た。以後、これらのポリマーナノ微粒子をPNP78乃至80と略す。
PNP78乃至80の平均粒径(キュムラント)はそれぞれ97nm、105nm、98nmであり、モル吸光係数はそれぞれ1.6×109 、2.2×109 、1.5×109 M-1cm-1であった。
【0165】
<実施例50>
(ポリマーナノ粒子81乃至83の合成と特性評価)
実施例2に記載したICGを4.4mg、DSPCを90mgとしてICG組成物を調製し、PLGA(20mg)を溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。
次に、リン脂質(DSPE-020CN、日油(株)製)を含む水溶液(20mL)に前記クロロホルム溶液を加えて混合溶液とし、その後、超音波分散機で氷冷下90秒間処理することによってO/W型のエマルションを調製した。
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーター(40℃、2時間)で減圧し、前記エマルジョンからクロロホルムを留去し、膜孔0.2μmのフィルターでろ過することによって、微粒子の表面がリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子81乃至83の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子81乃至83は、リン脂質をそれぞれ7.3mg、0.73mg、0.365mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP81乃至PNP83と略す。PNP81乃至PNP83の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0166】
<実施例51>
(ポリマーナノ粒子84乃至86の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質を含む水溶液の代わりに別のリン脂質(DSPE-020PA、日油(株)製)を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がリン脂質で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子84乃至86の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子84乃至86は、リン脂質をそれぞれ7.3mg、0.73mg、0.365mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP84乃至PNP86と略す。PNP84乃至PNP86の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0167】
<実施例52>
(ポリマーナノ粒子87、88の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質を含む水溶液の代わりに、Tween20を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子87、88の水分散液を得た。ここで、ポリマーナノ微粒子87、88は、Tween20をそれぞれ6mg、0.6mg含む水溶液(20ml)を用いて調製した粒子である。以後、これらのポリマーナノ粒子をPNP87、PNP88と略す。PNP87とPNP88の平均粒径(キュムラント)とモル吸光係数を表17に示した。
【0168】
【表17】
【0169】
<実施例53>
(ポリマーナノ粒子89の合成と特性評価)
実施例50のリン脂質のみを含む水溶液の代わりにリン脂質(DSPE-020CN)を0.9mgとTween20を7.2mgを加えた水溶液(4.8mL)を用いたこと以外は、実施例50と同様にしてポリマーナノ粒子を調製した。その結果、微粒子の表面がリン脂質とTween20で保護され、且つPLGA中にICGとDSPCを含むポリマーナノ微粒子89の水分散液を得た。以後、このポリマーナノ微粒子をPNP89と略す。PNP89の平均粒径(キュムラント)は203nmであり、モル吸光係数は1.4×1010 M-1cm-1であった。
【0170】
<実施例54>
(ポリマーナノ粒子64乃至66の光音響信号測定)
PNP64乃至66について、波長780nmならびに波長895nmにおける光音響信号強度を測定した。表18に、PNP64乃至66の粒子当たりの光音響信号強度を示す。これらの粒子は、ICGモノマーの吸収に起因する790nm付近に加えて、895nm付近においても十分な光音響信号を発生させることができる。複数の波長による光音響信号の取得は、光音響イメージングにおけるポリマーナノ粒子の検出精度の向上に有効である。
【表18】
【符号の説明】
【0171】
1 ポリマーナノ微粒子
2 ICG
3 添加物
4 疎水性のポリマー
5 界面活性剤A
6 界面活性剤B
7 第一液体
8 第二液体
9 エマルジョン
10 アルブミン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、
前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記スルホン酸基を有する親水性色素が、インドシアニングリーンであることを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記ニコチン酸誘導体が一般式(I)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【化1】
式(I)において、Aは下記の式(a1)、式(a2)、式(a3)のいずれかである。式(a1)、式(a2)、式(a3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のZと結合する。
【化2】
式(I)において、Zは下記の式(z1)、式(z2)、式(z3)のいずれかである。式(z1)、式(z2)、式(z3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のAと結合する。式(z2)において、R1は水素原子、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、ベンジル基のいずれかである。前記置換基はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかである。
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項4】
前記チアミン誘導体が一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【化6】
式(II)において、Bは下記の式(b)である。式(b)中の*1は結合手を表し、*1が式(II)のXと結合する。 式(b)中の*2は結合手を表し、*2が式(II)のYと結合する。
【化7】
式(II)において、Xは下記の式(x1)、式(x2)、式(x3)のいずれかである。式(x1)、式(x2)、式(x3)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(x1)においてnは1乃至10のいずれかの整数である。式(x1)はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかで置換されていてもよい。式(x4)において、R2は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
式(II)において、Yは下記の式(y1)、式(y2)のいずれかである。式(y1)、式(y2)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(y2)において、R3は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化12】
【化13】
【請求項5】
前記正帯電部位を有する脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルコリンのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【請求項6】
前記ニコチン酸誘導体が、ニコチン酸アミドであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項7】
前記チアミン誘導体が、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドのうち少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項1または2または4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項8】
前記粒子は、前記粒子の表面に界面活性剤を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項9】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステルとリン脂質のうち少なくともいずれか一方から選択された界面活性剤であることを特徴とする請求項8に記載の粒子。
【請求項10】
前記粒子は、さらに標的部位に特異的に結合する捕捉分子を有することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項11】
前記粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項12】
前記粒子は、前記粒子の表面にアルブミンが非共有結合していることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の粒子と、前記粒子が分散された分散媒とを有することを特徴とする光イメージング用造影剤。
【請求項1】
スルホン酸基を有する親水性色素と疎水性のポリマーとを有する粒子において、
前記粒子はさらに、正帯電部位を有する脂質、ニコチン酸誘導体、チアミン誘導体のうち少なくともいずれか一種を有することを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記スルホン酸基を有する親水性色素が、インドシアニングリーンであることを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記ニコチン酸誘導体が一般式(I)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【化1】
式(I)において、Aは下記の式(a1)、式(a2)、式(a3)のいずれかである。式(a1)、式(a2)、式(a3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のZと結合する。
【化2】
式(I)において、Zは下記の式(z1)、式(z2)、式(z3)のいずれかである。式(z1)、式(z2)、式(z3)中の*は結合手を表し、*が式(I)のAと結合する。式(z2)において、R1は水素原子、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、ベンジル基のいずれかである。前記置換基はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかである。
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項4】
前記チアミン誘導体が一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【化6】
式(II)において、Bは下記の式(b)である。式(b)中の*1は結合手を表し、*1が式(II)のXと結合する。 式(b)中の*2は結合手を表し、*2が式(II)のYと結合する。
【化7】
式(II)において、Xは下記の式(x1)、式(x2)、式(x3)のいずれかである。式(x1)、式(x2)、式(x3)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(x1)においてnは1乃至10のいずれかの整数である。式(x1)はハロゲン原子、炭素数1乃至5のアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基のいずれかで置換されていてもよい。式(x4)において、R2は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
式(II)において、Yは下記の式(y1)、式(y2)のいずれかである。式(y1)、式(y2)中の*は結合手を表し、*が式(II)のBと結合する。式(y2)において、R3は、置換または無置換の炭素数1乃至10のアルキル基、置換または無置換のベンゼンのいずれかである。
【化12】
【化13】
【請求項5】
前記正帯電部位を有する脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルコリンのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子。
【請求項6】
前記ニコチン酸誘導体が、ニコチン酸アミドであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項7】
前記チアミン誘導体が、フルスルチアミン、プロスルチアミン、チアミンジスルフィドのうち少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項1または2または4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項8】
前記粒子は、前記粒子の表面に界面活性剤を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項9】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステルとリン脂質のうち少なくともいずれか一方から選択された界面活性剤であることを特徴とする請求項8に記載の粒子。
【請求項10】
前記粒子は、さらに標的部位に特異的に結合する捕捉分子を有することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項11】
前記粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項12】
前記粒子は、前記粒子の表面にアルブミンが非共有結合していることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の粒子と、前記粒子が分散された分散媒とを有することを特徴とする光イメージング用造影剤。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−224610(P2012−224610A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182960(P2011−182960)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成(高次生体イメージング先端テクノハブ)」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成(高次生体イメージング先端テクノハブ)」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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