説明

粒子径を制御された微粒子の製造方法

【課題】接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面の間で流体の処理を行う装置を用いて、粒子径が制御された微粒子の製造方法の提供を図る。
【解決手段】接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面1,2の間にできる薄膜流体中で流体の処理を行う装置を用いて、被析出物質が溶媒に溶解された原料溶液と、この被析出物質を析出させるための析出用溶媒との少なくとも2種類の被処理流動体を混合して被析出物質の微粒子を析出させる際に、処理用面1,2間に導入される被処理流動体の粘度を制御する事によって、粒子径が制御された微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径を制御された微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子、特に粒子径がナノサイズメートルの微粒子(ナノ微粒子)は、一般的な大きさの材料とは異なる新たな特性が発現するため、産業界全般において研究開発が進められている。さらに微粒子はその大きさ(粒子径)によって特性が変化するため、微粒子を工業的に活用するためには、安定的且つ大量生産が可能な製造方法だけでなく、精度良く且つ効率的に粒子径を制御できる微粒子の製造方法が必要である。
【0003】
微粒子の製造方法には、主にビーズミルなどを用いて粒子を粉砕する所謂ブレイクダウン法や、CVDまたはPVDのような気相法でのビルドアップ法、マイクロリアクターなどの装置を用いた液相法でのビルドアップ法などがある。しかし、ブレイクダウン法では多大なエネルギーを必要とするにも関わらず、ナノサイズの微粒子を作製する事が困難であり、さらに粉砕処理によって微粒子に強い力が作用するため、微粒子として期待された特性が、実際には発現しないなどの問題があった。また気相法やマイクロリアクターなどを用いた方法も、エネルギーコストが高くなるなどの問題点があり、安定的且つ大量に微粒子を製造することは困難であった。さらにこれらの方法においては、均一に粒子径を制御された微粒子の作製が非常に困難であるという問題があった。
【0004】
本願出願人によって、特許文献1に示されるような接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面間に流れる薄膜流体中おいて微粒子を析出させる事による、微粒子の製造方法が提供され、さらに特許文献2に示されるように、上記処理用面間に微粒子原料溶液と貧溶媒とを導入・混合して微粒子を析出させる際に、前記微粒子原料溶液と前記貧溶媒との間で温度差が制御されることによって析出される微粒子の粒子径を制御する方法が提供された。しかし、そのような方法を用いた場合であっても、目的のナノサイズ若しくはマイクロサイズの粒子径の微粒子を得る事が困難な場合があった。
【0005】
以上のことから、粒子径を制御された微粒子の製造方法が懇願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2009/008393号パンフレット
【特許文献2】特許第4446129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的は粒子径を制御された微粒子の製造方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、対向して配設された、接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面間において、被析出物質を溶解した原料溶液を含む流体と、この被析出物質を析出させるための析出用溶媒を含む流体とを被処理流動体として混合して被析出物質を析出させる際に、上記処理用面間に導入される上記の被処理流動体の粘度を制御する事によって、粒子径が制御された微粒子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の形態は、被処理流動体として少なくとも2種類の流体を用いるものであり、そのうちで少なくとも1種類の流体は、被析出物質が溶媒に溶解された原料溶液であり、上記以外の流体で少なくとも1種類の流体は、上記被析出物質を析出させるための少なくとも1種類の析出用溶媒であり、上記の被処理流動体を混合し、粒子径を制御された被析出物質を析出させる微粒子の製造方法において、対向して配設された、接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面の間にできる薄膜流体中で上記被処理流動体を混合するものであり、上記少なくとも2つの処理用面間に導入される上記の被処理流動体の粘度を制御することによって、粒子径を制御された被析出物質を析出させる事を特徴とする微粒子の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の形態は、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を制御する事によって、上記被析出物質の粒子径を制御する事を特徴とする本発明の第1の形態に係る微粒子の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の形態は、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度が、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方に、少なくとも1種類の粘度調整物質を混合する事によって制御されることを特徴とする本発明の第2の形態に係る微粒子の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の形態は、上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とのうちいずれか一方が上記薄膜流体を形成しながら上記少なくとも2つの処理用面間を通過し、上記何れか一方の流体が流される流路とは独立した別途の導入路を備えており、上記少なくとも2つの処理用面の少なくとも何れか一方が、上記の導入路に通じる開口部を少なくとも一つ備え、上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とのうちいずれか他方を、上記開口部から上記少なくとも2つの処理用面の間に導入し、上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とが、上記薄膜流体中で混合されることを特徴とする本発明の第1〜第3の何れかの形態に係る微粒子の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の第5の形態は、第1、第2、第3の少なくとも3種類の被処理流動体を用いるものであり、上記第1の被処理流動体は、被析出物質が溶媒に溶解された原料溶液を含む流体であり、上記第2の被処理流動体は、少なくとも1種類の粘度調整物質が溶媒に混合された粘度調整物質溶液であり、上記第3の被処理流動体は、上記被析出物質を析出させるための少なくとも1種類の析出用溶媒を含む流体であり、上記の被処理流動体を混合し、粒子径を制御された被析出物質を析出させる微粒子の製造方法において、対向して配設された、接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面の間にできる薄膜流体中で上記被処理流動体を混合するものであり、上記粘度調整物質溶液は、上記少なくとも2つの処理用面間に導入される上記被処理流動体の粘度を制御するものであり、上記3種類の被処理流動体のうちいずれか1種の被処理流動体が上記薄膜流体を形成しながら上記少なくとも2つの処理用面間を通過し、上記いずれか1種の被処理流動体が流される流路とは独立した別途の導入路を少なくとも2つ備えており、この少なくとも2つの別途の導入路は互いに独立しており、上記少なくとも2つの処理用面の少なくとも何れかが、上記少なくとも2つの別途の導入路毎に別々に通じる開口部を備え、上記3種類の被処理流動体のうち残りの2種の被処理流動体を、上記別々の開口部から上記少なくとも2つの処理用面の間に導入し、上記3種類の被処理流動体が、上記薄膜流体中で混合され、粒子径を制御された被析出物質を析出させることを特徴とする微粒子の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第6の形態は、上記原料溶液と析出用溶媒の粘度を一定にして上記薄膜流体中で混合して基準となる被析出物質を析出させてその粒子径を測定し、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を、上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも高く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より大きな粒子径の被析出物質を析出させ、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を、上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも低く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より小さな粒子径の被析出物質を析出させるようにした事を特徴とする本発明の第2〜第4の何れかの形態に係る微粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本願の発明によれば、粒子径を制御された被析出物質の微粒子の製造をこれまで以上に簡単かつ低エネルギー、低コストで行う事ができるため、粒子径を制御された被析出物質の微粒子を安価且つ安定的に提供できる。また粒子径の制御を容易に行えるため、目的に応じた粒子径の微粒子を提供できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【図2】(A)は図1に示す流体処理装置の第1処理用面の略平面図であり、(B)は同装置の処理用面の要部拡大図である。
【図3】(A)は同装置の第2導入部の断面図であり、(B)は同第2導入部を説明するための処理用面の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細を説明する。しかし、本発明の技術的範囲は、下記実施形態及び実施例によって限定されるものではない。
【0018】
本発明における被析出物質としては、特に限定されない。一例を挙げると、有機物、無機物であり、例えば有機・無機顔料や、薬物などの生体摂取物や樹脂のほか、金属、非金属、またはそれらの塩、酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、錯体、有機塩、有機錯体、有機化合物などの化合物や、有機無機の複合物質材料などを挙げる事ができる。
【0019】
上記被析出物質を溶解させるための溶媒としては例えば水や有機溶媒、またはそれらの複数からなる混合溶媒が挙げられる。前記水としては、水道水やイオン交換水、純水や超純水、RO水などが挙げられ、有機溶媒としては、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物などが挙げられる。上記の溶媒はそれぞれ単独で使用しても良く、または複数以上を混合して使用しても良い。
【0020】
その他、上記溶媒に塩基性物質または酸性物質を混合または溶解しても実施できる。塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物、ナトリウムメトキシドやナトリウムイソプロポキシドのような金属アルコキシド、さらにトリエチルアミンや2−ジエチルアミノエタノール、ジエチルアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。酸性物質としては、王水、塩酸、硝酸、発煙硝酸、硫酸、発煙硫酸などの無機酸や、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの塩基性物質または酸性物質は、上記の通り各種溶媒と混合しても実施できるし、それぞれ単独でも使用できる。
【0021】
その他、上記溶媒に酸化剤や還元剤を混合または溶解しても実施できる。酸化剤としては、特に限定されないが、硝酸塩や、次亜塩素酸塩、過マンガン酸塩や過酸化物が挙げられる。還元剤としては、水素化アルミニウムリチウムや水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンやヒドラジンの水和物、亜硫酸塩などが挙げられる。
【0022】
上記の溶媒についてさらに詳しく説明すると、アルコール化合物溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノール、n−プロパノールなどの直鎖アルコール、イソプロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等の分枝状アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール等が挙げられる。ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。エーテル化合物溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。芳香族化合物溶媒としては、例えば、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどが挙げられる。脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサンなどが挙げられる。ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリルなどが挙げられる。スルホキシド化合物溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキド、ヘキサメチレンスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。ハロゲン化合物溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、ヨードホルムなどが挙げられる。エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。イオン性液体としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムとPF6−(ヘキサフルオロリン酸イオン)との塩などが挙げられる。アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。カルボン酸化合物としては、例えば、2,2−ジクロロプロピオン酸、スクアリン酸などが挙げられる。スルホン酸化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、クロロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0023】
上記原料溶液と混合して粒子径を制御された被析出物質を析出させるための析出用溶媒は、上記と同様のものが使用できる。目的とする被析出物質によって溶解するための溶媒と析出させるための溶媒を選択して実施できる。
【0024】
本発明においては、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を制御する事が好ましい。それによって、得られる被析出物質の粒子径を制御する事が可能である。原料溶液及び析出用溶媒の粘度については特に限定されない。被析出物質の種類や目的の粒子径などに応じて、原料溶液及び/または析出用溶媒の粘度を調整して実施できる。原料溶液及び析出用溶媒の粘度測定についても特に限定されないが、各種粘度測定を使用して測定する事が可能であり、一例を挙げると、コーンプレート型粘度計や円筒型粘度計などが挙げられる。粘度は、溶媒の種類や温度などによっても制御できるが、上記原料溶液と上記析出用溶媒とのうちの少なくとも何れか一方に粘度調整物質を少なくとも1種類含む事が好ましい。また、少なくとも1種類の粘度調整物質を、上記原料溶液とも上記析出用溶媒とも異なる、少なくとも1種類の溶媒に混合した粘度調整物質溶液を用意し、上記原料溶液と上記析出用溶媒とを混合する直前(場合によっては直後)に上記粘度調整物質溶液を用いて上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を制御してもよい。また、被処理流動体として、上記原料溶液とも上記析出用溶媒とも異なる、上述した方法によって粘度を制御された第3の流体を用意し、これらの被処理流動体を混合しても実施できる。
【0025】
上記粘度調整物質としては、特に限定されないが、グリセリンやエチレングリコール、プロピレングリコールやジエチレングリコールなどの多価アルコール、流動パラフィンなどのパラフィン類、さらにジメチルシリコーンオイルのようなシリコーンオイル類、テルピネオール、またはヤシ油やパーム油などの天然油脂又は植物性油のような、一般的な他の溶媒に比べて比較的粘度の高い溶媒が挙げられる。その他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシアルキルセルロースのようなセルロース類や、キサンタンガムなどの高分子などが挙げられる。以上の溶媒または高分子は単独で使用しても良いし、2種類以上の複数を混合して使用しても良い。これらの物質を上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方に混合する事で、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を容易に制御できる。また、少なくとも1種類の粘度調整物質を、上記原料溶液とも上記析出用溶媒とも異なる、少なくとも1種類の溶媒(第3の溶媒)に混合して粘度調整物質溶液を用意してもよい。第3の溶媒としては、上記の被析出物質を溶解させるための溶媒と同様のものが使用できる。また、少なくとも1種類の粘度調整物質を、上記原料溶液、上記析出用溶媒、及び第3の溶媒のうちの2種、あるいは全てに混合して本願発明を実施してもよい。さらに、上記粘度調整物質は、被析出物質の析出や析出のための反応そのものに対して、化学反応的に関与しても良いし関与しなくても良い。言い換えると、上記粘度調整物質は、被析出物質の析出や析出のための反応そのものに対して、活性であっても不活性であっても良い。
粘度調整物質としては、上記の各粘度調整物質の他、これらが加えられる溶液や溶媒の粘度との相対的な関係において、増粘作用又は減粘作用を果たし得る物質であれば適宜採用し得るものである。
【0026】
本願発明においては、上記原料溶液と上記析出用溶媒との混合を、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面の間にできる、薄膜流体中で均一に攪拌・混合する方法を用いて行うことが好ましい。そのような装置としては、例えば本願出願人による、特許文献1に記載されたものと同原理である装置を使用できる。このような原理の装置を用いる事によって、均一且つ均質に粒子径を制御された微粒子を作製する事が可能である。また、本発明における微粒子について、結晶性については特に限定されない。結晶であっても良い。非晶質であっても良い。また形状についても特に限定されるものは無く、球形であっても良いし、針状や柱状などの球形以外の形状でも良い。
【0027】
以下、図面を用いて上記装置の実施の形態について説明する。
【0028】
図1〜図3に示す流体処理装置は、特許文献1に記載の装置と同様であり、接近・離反可能な少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用部における処理用面の間で被処理物を処理するものであって、被処理流動体のうちの第1の被処理流動体である第1流体を処理用面間に導入し、前記第1流体を導入した流路とは独立し、処理用面間に通じる開口部を備えた別の流路から被処理流動体のうちの第2の被処理流動体である第2流体を処理用面間に導入して処理用面間で上記第1流体と第2流体を混合・攪拌して処理を行う装置である。なお、図1においてUは上方を、Sは下方をそれぞれ示しているが、本発明において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。図2(A)、図3(B)においてRは回転方向を示している。図3(B)においてCは遠心力方向(半径方向)を示している。
【0029】
この装置は、被処理流動体として少なくとも2種類の流体を用いるものであり、そのうちで少なくとも1種類の流体については被処理物を少なくとも1種類含むものであり、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面を備え、これらの処理用面の間で上記の各流体を合流させて薄膜流体とするものであり、当該薄膜流体中において上記の被処理物を処理する装置である。この装置は、上述のとおり、複数の被処理流動体を処理することができるが、単一の被処理流動体を処理することもできる。
【0030】
この流体処理装置は、対向する第1及び第2の、2つの処理用部10,20を備え、少なくとも一方の処理用部が回転する。両処理用部10,20の対向する面が、夫々処理用面となる。第1処理用部10は第1処理用面1を備え、第2処理用部20は第2処理用面2を備える。
【0031】
両処理用面1,2は、被処理流動体の流路に接続され、被処理流動体の流路の一部を構成する。この両処理用面1,2間の間隔は、適宜変更して実施することができるが、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整される。これによって、この両処理用面1,2間を通過する被処理流動体は、両処理用面1,2によって強制された強制薄膜流体となる。
【0032】
この装置を用いて複数の被処理流動体を処理する場合、この装置は、第1の被処理流動体の流路に接続され、当該第1被処理流動体の流路の一部を形成すると共に、第1被処理流動体とは別の、第2被処理流動体の流路の一部を形成する。そして、この装置は、両流路を合流させて、処理用面1,2間において、両被処理流動体を混合し、反応させるなどの流体の処理を行なう。なお、ここで「処理」とは、被処理物が反応する形態に限らず、反応を伴わずに混合・分散のみがなされる形態も含む。
【0033】
具体的に説明すると、上記の第1処理用部10を保持する第1ホルダ11と、第2処理用部20を保持する第2ホルダ21と、接面圧付与機構と、回転駆動部と、第1導入部d1と、第2導入部d2と、流体圧付与機構pとを備える。
【0034】
図2(A)へ示す通り、この実施の形態において、第1処理用部10は、環状体であり、より詳しくはリング状のディスクである。また、第2処理用部20もリング状のディスクである。第1、第2処理用部10、20の材質は、金属の他、セラミックや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。この実施の形態において、両処理用部10,20は、互いに対向する第1、第2の処理用面1、2の少なくとも一部が鏡面研磨されている。
この鏡面研磨の面粗度は、特に限定されないが、好ましくはRa0.01〜1.0μm、より好ましくはRa0.03〜0.3μmとする。
【0035】
少なくとも一方のホルダは、電動機などの回転駆動部(図示せず)にて、他方のホルダに対して相対的に回転することができる。図1の50は、回転駆動部の回転軸を示しており、この例では、この回転軸50に取り付けられた第1ホルダ11が回転し、この第1ホルダ11に支持された第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。もちろん、第2処理用部20を回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしてもよい。また、この例では、第1、第2ホルダ11、21を固定しておき、この第1、第2ホルダ11、21に対して第1、第2処理用部10、20が回転するようにしてもよい。
【0036】
第1処理用部10と第2処理用部20とは、少なくとも何れか一方が、少なくとも何れか他方に、接近・離反可能となっており、両処理用面1,2は、接近・離反できる。
【0037】
この実施の形態では、第1処理用部10に対して、第2処理用部20が接近・離反するもので、第2ホルダ21に設けられた収容部41に、第2処理用部20が出没可能に収容されている。但し、これとは、逆に、第1処理用部10が、第2処理用部20に対して接近・離反するものであってもよく、両処理用部10,20が互いに接近・離反するものであってもよい。
【0038】
この収容部41は、第2処理用部20の、主として処理用面2側と反対側の部位を収容する凹部であり、平面視において、円を呈する、即ち環状に形成された、溝である。この収容部41は、第2処理用部20を回転させ得る十分なクリアランスを持って、第2処理用部20を収容する。なお、第2処理用部20は軸方向に平行移動のみが可能なように配置してもよいが、上記クリアランスを大きくすることにより、第2処理用部20は、収容部41に対して、処理用部20の中心線を、上記収容部41の軸方向と平行の関係を崩すように傾斜して変位できるようにしてもよく、さらに、第2処理用部20の中心線と収容部41の中心線とが半径方向にずれるように変位できるようにしてもよい。
このように、3次元的に変位可能に保持するフローティング機構によって、第2処理用部20を保持することが望ましい。
【0039】
上記の被処理流動体は、各種のポンプや位置エネルギーなどによって構成される流体圧付与機構pによって圧力が付与された状態で、第1導入部d1と、第2導入部d2から両処理用面1、2間に導入される。この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2ホルダ21の中央に設けられた通路であり、その一端が、環状の両処理用部10、20の内側から、両処理用面1、2間に導入される。第2導入部d2は、第1の被処理流動体と反応させる第2の被処理流動体を処理用面1,2へ供給する。この実施の形態において、第2導入部d2は、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口する。流体圧付与機構pにより加圧された第1の被処理流動体は、第1導入部d1から、両処理用部10,20の内側の空間に導入され、第1処理用面1と第2処理用面2との間を通り、両処理用部10,20の外側に通り抜けようとする。これらの処理用面1,2間において、第2導入部d2から流体圧付与機構pにより加圧された第2の被処理流動体が供給され、第1の被処理流動体と合流し、混合、攪拌、乳化、分散、反応、晶出、晶析、析出などの種々の流体処理がなされ、両処理用面1,2から、両処理用部10,20の外側に排出される。なお、減圧ポンプにより両処理用部10,20の外側の環境を負圧にすることもできる。
【0040】
上記の接面圧付与機構は、第1処理用面1と第2処理用面2とを接近させる方向に作用させる力を、処理用部に付与する。この実施の形態では、接面圧付与機構は、第2ホルダ21に設けられ、第2処理用部20を第1処理用部10に向けて付勢する。
【0041】
前記の接面圧付与機構は、第1処理用部10の第1処理用面1と第2処理用部20の第2処理用面2とが、接近する方向に押す力(以下、接面圧力という)を発生させるための機構である。この接面圧力と、流体圧力などの両処理用面1、2間を離反させる力との均衡によって、nm単位ないしμm単位の微小な膜厚を有する薄膜流体を発生させる。言い換えれば、上記力の均衡によって、両処理用面1、2間の間隔を所定の微小間隔に保つ。
【0042】
図1に示す実施の形態において、接面圧付与機構は、上記の収容部41と第2処理用部20との間に配位される。具体的には、第2処理用部20を第1処理用部10に近づく方向に付勢するスプリング43と、空気や油などの付勢用流体を導入する付勢用流体導入部44とにて構成され、スプリング43と上記付勢用流体の流体圧力とによって、上記の接面圧力を付与する。このスプリング43と上記付勢用流体の流体圧力とは、いずれか一方が付与されるものであればよく、磁力や重力などの他の力であってもよい。この接面圧付与機構の付勢に抗して、流体圧付与機構pにより加圧された被処理流動体の圧力や粘性などによって生じる離反力によって、第2処理用部20は、第1処理用部10から遠ざかり、両処理用面1,2間に微小な間隔を開ける。このように、この接面圧力と離反力とのバランスによって、第1処理用面1と第2処理用面2とは、μm単位の精度で設定され、両処理用面1,2間の微小間隔の設定がなされる。上記離反力としては、被処理流動体の流体圧や粘性と、処理用部の回転による遠心力と、付勢用流体導入部44に負圧を掛けた場合の当該負圧、スプリング43を引っ張りスプリングとした場合のバネの力などを挙げることができる。この接面圧付与機構は、第2処理用部20ではなく、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。
【0043】
上記の離反力について、具体的に説明すると、第2処理用部20は、上記の第2処理用面2と共に、第2処理用面2の内側(即ち、第1処理用面1と第2処理用面2との間への被処理流動体の進入口側)に位置して当該第2処理用面2に隣接する離反用調整面23を備える。この例では、離反用調整面23は、傾斜面として実施されているが、水平面であってもよい。被処理流動体の圧力が、離反用調整面23に作用して、第2処理用部20を第1処理用部10から離反させる方向への力を発生させる。従って、離反力を発生させるための受圧面は、第2処理用面2と離反用調整面23とになる。
【0044】
さらに、この図1の例では、第2処理用部20に近接用調整面24が形成されている。この近接用調整面24は、離反用調整面23と軸方向において反対側の面(図1において上方の面)であり、被処理流動体の圧力が作用して、第2処理用部20を第1処理用部10に接近させる方向への力を発生させる。
【0045】
なお、第2処理用面2及び離反用調整面23に作用する被処理流動体の圧力、即ち流体圧は、メカニカルシールにおけるオープニングフォースを構成する力として理解される。処理用面1,2の接近・離反の方向、即ち第2処理用部20の出没方向(図1においては軸方向)と直交する仮想平面上に投影した近接用調整面24の投影面積A1と、当該仮想平面上に投影した第2処理用部20の第2処理用面2及び離反用調整面23との投影面積の合計面積A2との、面積比A1/A2は、バランス比Kと呼ばれ、上記オープニングフォースの調整に重要である。このオープニングフォースについては、バランスライン、即ち近接用調整面24の面積A1を変更することで、被処理流動体の圧力、即ち流体圧により調整できる。
【0046】
摺動面の実面圧P、即ち、接面圧力のうち流体圧によるものは次式で計算される。
P=P1×(K−k)+Ps
【0047】
ここでP1は、被処理流動体の圧力即ち流体圧を示し、Kは上記のバランス比を示し、kはオープニングフォース係数を示し、Psはスプリング及び背圧力を示す。
【0048】
このバランスラインの調整により摺動面の実面圧Pを調整することで処理用面1,2間を所望の微小隙間量にし被処理流動体による流動体膜を形成させ、生成物などの処理された被処理物を微細とし、また、均一な反応処理を行うのである。
なお、図示は省略するが、近接用調整面24を離反用調整面23よりも広い面積を持ったものとして実施することも可能である。
【0049】
被処理流動体は、上記の微小な隙間を保持する両処理用面1,2によって強制された薄膜流体となり、環状の両処理用面1、2の外側に移動しようとする。ところが、第1処理用部10は回転しているので、混合された被処理流動体は、環状の両処理用面1,2の内側から外側へ直線的に移動するのではなく、環状の半径方向への移動ベクトルと周方向への移動ベクトルとの合成ベクトルが被処理流動体に作用して、内側から外側へ略渦巻き状に移動する。
【0050】
尚、回転軸50は、鉛直に配置されたものに限定するものではなく、水平方向に配位されたものであってもよく、傾斜して配位されたものであってよい。被処理流動体は両処理用面1,2間の微細な間隔にて処理がなされるものであり、実質的に重力の影響を排除できるからである。また、この接面圧付与機構は、前述の第2処理用部20を変位可能に保持するフローティング機構と併用することによって、微振動や回転アライメントの緩衝機構としても機能する。
【0051】
第1、第2処理用部10、20は、その少なくともいずれか一方を、冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよく、図1では、第1、第2処理用部10、20に温調機構(温度調整機構)J1,J2を設けた例を図示している。また、導入される被処理流動体を冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしもよい。これらの温度は、処理された被処理物の析出のために用いることもでき、また、第1、第2処理用面1,2間における被処理流動体にベナール対流若しくはマランゴニ対流を発生させるために設定してもよい。
【0052】
図2に示すように、第1処理用部10の第1処理用面1には、第1処理用部10の中心側から外側に向けて、即ち径方向について伸びる溝状の凹部13を形成して実施してもよい。この凹部13の平面形状は、図2(B)へ示すように、第1処理用面1上をカーブして或いは渦巻き状に伸びるものや、図示はしないが、真っ直ぐ外方向に伸びるもの、L字状などに屈曲あるいは湾曲するもの、連続したもの、断続するもの、枝分かれするものであってもよい。また、この凹部13は、第2処理用面2に形成するものとしても実施可能であり、第1及び第2の処理用面1,2の双方に形成するものとしても実施可能である。この様な凹部13を形成することによりマイクロポンプ効果を得ることができ、被処理流動体を第1及び第2の処理用面1,2間に吸引することができる効果がある。
【0053】
この凹部13の基端は第1処理用部10の内周に達することが望ましい。この凹部13の先端は、第1処理用面1の外周面側に向けて伸びるもので、その深さ(横断面積)は、基端から先端に向かうにつれて、漸次減少するものとしている。
この凹部13の先端と第1処理用面1の外周面との間には、凹部13のない平坦面16が設けられている。
【0054】
前述の第2導入部d2の開口部d20を第2処理用面2に設ける場合は、対向する上記第1処理用面1の平坦面16と対向する位置に設けることが好ましい。
【0055】
この開口部d20は、第1処理用面1の凹部13からよりも下流側(この例では外側)に設けることが望ましい。特に、マイクロポンプ効果によって導入される際の流れ方向が処理用面間で形成されるスパイラル状で層流の流れ方向に変換される点よりも外径側の平坦面16に対向する位置に設置することが望ましい。具体的には、図2(B)において、第1処理用面1に設けられた凹部13の最も外側の位置から、径方向への距離nを、約0.5mm以上とするのが好ましい。特に、流体中からナノサイズの微粒子を析出させる場合には、層流条件下にて複数の被処理流動体の混合と、ナノ微粒子の析出が行なわれることが望ましい。
【0056】
この第2導入部d2は方向性を持たせることができる。例えば、図3(A)に示すように、上記の第2処理用面2の開口部d20からの導入方向が、第2処理用面2に対して所定の仰角(θ1)で傾斜している。この仰角(θ1)は、0度を超えて90度未満に設定されており、さらに反応速度が速い反応の場合には1度以上45度以下で設置されるのが好ましい。
【0057】
また、図3(B)に示すように、上記の第2処理用面2の開口部d20からの導入方向が、上記の第2処理用面2に沿う平面において、方向性を有するものである。この第2流体の導入方向は、処理用面の半径方向の成分にあっては中心から遠ざかる外方向であって、且つ、回転する処理用面間における流体の回転方向に対しての成分にあっては順方向である。言い換えると、開口部d20を通る半径方向であって外方向の線分を基準線gとして、この基準線gから回転方向Rへの所定の角度(θ2)を有するものである。この角度(θ2)についても、0度を超えて90度未満に設定されることが好ましい。
【0058】
この角度(θ2)は、流体の種類、反応速度、粘度、処理用面の回転速度などの種々の条件に応じて、変更して実施することができる。また、第2導入部d2に方向性を全く持たせないこともできる。
【0059】
上記の被処理流動体の種類とその流路の数は、図1の例では、2つとしたが、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。図1の例では、第2導入部d2から処理用面1,2間に第2流体を導入したが、この導入部は、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。また、一種類の被処理流動体に対して、複数の導入部を用意してもよい。また、各処理用部に設けられる導入用の開口部は、その形状や大きさや数は特に制限はなく適宜変更して実施し得る。また、上記第1及び第2の処理用面間1、2の直前或いはさらに上流側に導入用の開口部を設けてもよい。
【0060】
上記装置においては、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面1,2の間に形成される薄膜流体中で、第1流体として析出用溶媒を、第2流体として少なくとも1種類の被析出物質を溶媒に溶解した原料溶液とを混合させ、粒子径を制御された被析出物質の微粒子を析出させる。この場合、第1流体と第2流体との少なくとも何れか一方に粘度調整物質を含むなどの方法によって、第1流体と第2流体との少なくとも何れか一方の粘度を制御する事で、得られる被析出物質の粒子径を制御することができる。
【0061】
微粒子の析出反応は、図1に示す装置の、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2間で強制的に均一混合しながら起こる。
【0062】
まず、一つの流路である第1導入部d1より、第1流体として析出用溶媒を含む流体を、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2間に導入して、この処理用面間に第1流体から構成された薄膜流体を作る。
【0063】
次いで別流路である第2導入部d2より、第2流体として上記原料溶液を含む流体を、上記処理用面1,2間に作られた第1流体から構成された薄膜流体中に直接導入する。
【0064】
上記のように、被処理流動体の供給圧と回転する処理用面の間にかかる圧力との圧力バランスによって距離を固定された処理用面1,2間にて、第1流体と第2流体とが混合され、微粒子の析出反応を行う事が出来る。
【0065】
なお、処理用面1,2間にて上記反応を行う事が出来れば良いので、上記とは逆に、第1導入部d1より第2流体を導入し、第2導入部d2より第1流体を含む溶液を導入するものであっても良い。つまり、各流体における第1、第2という表現は、複数存在する溶媒の第n番目であるという、識別のための意味合いを持つに過ぎないものであり、第3以上の流体も存在し得る。
【0066】
前述のように、第1導入部d1、第2導入部d2以外に第3導入部を処理装置に設けることもできるが、この場合にあっては、例えば第1導入部d1から第1流体として原料溶液を含む流体、第2導入部d2から第2流体として析出用溶媒を含む流体、第3導入部から第3流体として少なくとも1種類の粘度調整物質が溶媒に混合された粘度調整物質溶液をそれぞれ別々に処理装置に導入することが可能である。これにより、各溶液の濃度や圧力、送液流量などを個々に管理することができ、析出反応及び微粒子の粒子径の安定化をより精密に制御することができる。なお、各導入部へ導入する被処理誘導体(第1流体〜第3流体)の組み合わせは、任意に設定できる。また、第4以上の導入部を設けることも可能であり、これにより処理装置へ導入する流体を細分化できる。この場合、第3導入部は処理用部10,20の内部に設けてもよいし、他の通路に設けてもよい。第3導入部を処理用部10,20の内部に設けた場合、第3導入部の開口部は第2導入部d2の開口部d20よりも上流側または下流側の何れに設けてもよく、第3導入部の開口部を第2導入部d2の開口部d20よりも上流側に設けると、第3導入部から処理用面1,2間に導入される第3流体である粘度調整物質溶液によって第2流体と混合する直前の第1流体の粘度を調整することができる。また、第3導入部を第1導入部d1に連結させる構造とすることによって、第1流体と第3流体とを第1導入部d1内で合流させてもよく、第3導入部を第2導入部d2に連結させる構造とすることによって、第2流体と第3流体とを第2導入部d2内で合流させてもよい。そうすると、第1流体及び/又は第2流体と、第3流体とが処理用面1,2間に導入する直前に混合され、第1流体及び/又は第2流体の粘度を制御することが可能である。その際、上記の粘度調整物質は、少なくとも第3流体を構成する溶媒に混合されていればよく、第1流体と第2流体の少なくとも何れか一方に混合されていてもよく、第1流体と第2流体の双方に混合されていなくてもよい。
さらに、上記の処理用面間に形成される薄膜流体の粘度を調整し制御すると同時に、上記第1、第2流体等の被処理流動体の温度を制御したり、上記第1流体と第2流体等との温度差(即ち、供給する各被処理流動体の温度差)を制御することもできる。供給する各被処理流動体の温度や温度差を制御するために、各被処理流動体の温度(処理装置、より詳しくは、処理用面1,2間に導入される直前の温度)を測定し、処理用面1,2間に導入される各被処理流動体の加熱又は冷却を行う機構を付加して実施することも可能である。
【実施例】
【0067】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
尚、以下の実施例において、「中央から」というのは、前述した、図1に示す処理装置の「第1導入部d1から」という意味であり、第1流体は、第1導入部d1から導入される、前述の第1被処理流動体を指し、第2流体は、上述した、図1に示す処理装置の第2導入部d2から導入される、前述の第2被処理流動体を指す。
【0069】
(粘度測定)
流体の粘度測定には、単一円筒型回転溶融粘度計 RVDV-II+PRO (BROOKFIELD社製)を用いた。
【0070】
(粒度分布)
粒度分布は、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA-EX150(日機装株式会社製)を用いて測定し、D50値及びD90値を採用した。
【0071】
(実施例1〜9)
実施例1〜9として、図1に示すように、対向して配設された、接近・離反可能な処理用面をもつ、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2の間にできる薄膜流体中で、均一に拡散・攪拌・混合する反応装置を用いて、原料溶液と析出用溶媒とを混合し、薄膜流体中で析出反応を行う。
【0072】
中央から第1流体の析出用溶媒として、純水とグリセリンとを表1に示す条件で混合した混合溶媒を、供給圧力/背圧力=0.50MPa/0.04MPa、回転数1000rpm〜3600rpmで送液し、ポリスチレンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解した原料溶液(ポリスチレンの溶解濃度 3wt%)を第2流体として5mL/minで処理用面間に導入した。第1流体と第2流体は薄膜流体中で混合され、ポリスチレン微粒子として処理用面より吐出させた。尚、粘度調整物質はグリセリンである。純水とグリセリンの混合比(重量)を変更して、実験を行った結果(実施例1〜9)をポリスチレン微粒子分散液の粒度分布測定結果と共に表1に示す。表1に示された第1流体の粘度測定結果は、上記単一円筒型回転溶融粘度計のローターにNo.3を用いて、回転数50rpmの測定条件で得られた粘度である。第2流体の粘度は、各実施例において一定とした。具体的には、第1流体と同一の測定条件下で、第2流体の粘度は3.44[mPa・s]であった。
第1流体と第2流体の温度(処理用面間に導入直前の温度)は、各実施例において一定とした。具体的には、第1流体の温度は25℃であり、第2流体の温度は25℃であった。表1より、純水とグリセリンの混合比(重量)を変更する事で粘度を制御されたポリスチレン微粒子析出用溶媒を第1流体として用いる事によって、得られたポリスチレン微粒子の粒子径が制御できていることがわかる。
【0073】
【表1】

【0074】
(実施例10〜12)
実施例10〜12として、図1に示すように、対向して配設された、接近・離反可能な処理用面をもつ、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2の間にできる薄膜流体中で、均一に拡散・攪拌・混合する反応装置を用いて、原料溶液と析出用溶媒とを混合し、薄膜流体中で析出反応を行う。
【0075】
中央から第1流体の析出用溶媒として、メタノールと、トルエンと、プロピレングリコールとを表2に示す条件で混合した混合溶媒に水素化ホウ素ナトリウムとチオカルコール08(花王製)とを溶解したものを、供給圧力/背圧力=0.50MPa/0.04MPa、回転数1000rpmで送液し、硝酸銀を純水に溶解した原料溶液(硝酸銀の溶解濃度 2wt%)を第2流体として5mL/minで処理用面間に導入した。第1流体と第2流体は薄膜流体中で混合され、銀微粒子分散液として処理用面より吐出させた。吐出された銀微粒子を緩く凝集させ、遠心分離(×13000G)にて沈降させた。遠心分離処理後の上澄み液を除去し、メタノールを加えて銀微粒子を再分散させた後、再度遠心分離を繰り返して、銀微粒子の洗浄を行った。最終的に得られた銀微粒子のペーストにメタノールを加えて分散処理した。分散処理した銀微粒子の分散液について、粒度分布測定を行った。尚、粘度調整物質はプロピレングリコールである。メタノールと、トルエンと、プロピレングリコールとの混合比(重量)を変更して、実験を行った結果(実施例10〜12)を銀微粒子分散液の粒度分布測定結果と共に表2に示す。表2に示された第1流体の粘度測定結果は、上記単一円筒型回転溶融粘度計のローターにNo.3を用いて、回転数50rpmの測定条件で得られた粘度である。第2流体の粘度は、各実施例において一定とした。具体的には、第1流体と同一の測定条件下で、第2流体の粘度は2.46[mPa・s]であった。
第1流体と第2流体の温度(処理用面間に導入直前の温度)は、各実施例において一定とした。具体的には、第1流体の温度は60℃であり、第2流体の温度は30℃であった。表2より、メタノールと、トルエンと、プロピレングリコールとの混合比(重量)を変更する事で粘度を制御された銀微粒子析出用溶媒を第1流体として用いる事によって、得られた銀微粒子の粒子径が制御できていることがわかる。
【0076】
【表2】

【0077】
以上のように、処理用面1,2間に導入される被処理流動体の粘度を制御することによって、得られた微粒子の粒子径が制御される。特に、上記原料溶液と析出用溶媒の粘度を一定にして上記薄膜流体中で混合して基準となる被析出物質を析出させてその粒子径を測定しておき、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも高く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より大きい粒子径の被析出物質を析出させることができ、逆に、上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも低く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より小さい粒子径の被析出物質を析出させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 第1処理用面
2 第2処理用面
10 第1処理用部
11 第1ホルダ
20 第2処理用部
21 第2ホルダ
d1 第1導入部
d2 第2導入部
d20 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理流動体として少なくとも2種類の流体を用いるものであり、
そのうちで少なくとも1種類の流体は、被析出物質が溶媒に溶解された原料溶液であり、
上記以外の流体で少なくとも1種類の流体は、上記被析出物質を析出させるための少なくとも1種類の析出用溶媒であり、
上記の被処理流動体を混合し、粒子径を制御された被析出物質を析出させる微粒子の製造方法において、
対向して配設された、接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面の間にできる薄膜流体中で上記被処理流動体を混合するものであり、上記少なくとも2つの処理用面間に導入される上記の被処理流動体の粘度を制御することによって、粒子径を制御された被析出物質を析出させる事を特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を制御する事によって、上記被析出物質の粒子径を制御する事を特徴とする請求項1に記載の微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度が、
上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方に、少なくとも1種類の粘度調整物質を混合する事によって制御されることを特徴とする請求項2に記載の微粒子の製造方法。
【請求項4】
上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とのうちいずれか一方が上記薄膜流体を形成しながら上記少なくとも2つの処理用面間を通過し、
上記何れか一方の流体が流される流路とは独立した別途の導入路を備えており、
上記少なくとも2つの処理用面の少なくとも何れか一方が、上記の導入路に通じる開口部を少なくとも一つ備え、
上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とのうちいずれか他方を、上記開口部から上記少なくとも2つの処理用面の間に導入し、
上記原料溶液を含む流体と上記析出用溶媒を含む流体とが、上記薄膜流体中で混合されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の微粒子の製造方法。
【請求項5】
第1、第2、第3の少なくとも3種類の被処理流動体を用いるものであり、
上記第1の被処理流動体は、被析出物質が溶媒に溶解された原料溶液を含む流体であり、
上記第2の被処理流動体は、少なくとも1種類の粘度調整物質が溶媒に混合された粘度調整物質溶液であり、
上記第3の被処理流動体は、上記被析出物質を析出させるための少なくとも1種類の析出用溶媒を含む流体であり、
上記の被処理流動体を混合し、粒子径を制御された被析出物質を析出させる微粒子の製造方法において、
対向して配設された、接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面の間にできる薄膜流体中で上記被処理流動体を混合するものであり、
上記粘度調整物質溶液は、上記少なくとも2つの処理用面間に導入される上記被処理流動体の粘度を制御するものであり、
上記3種類の被処理流動体のうちいずれか1種の被処理流動体が上記薄膜流体を形成しながら上記少なくとも2つの処理用面間を通過し、
上記いずれか1種の被処理流動体が流される流路とは独立した別途の導入路を少なくとも2つ備えており、
この少なくとも2つの別途の導入路は互いに独立しており、
上記少なくとも2つの処理用面の少なくとも何れかが、上記少なくとも2つの別途の導入路毎に別々に通じる開口部を備え、
上記3種類の被処理流動体のうち残りの2種の被処理流動体を、上記別々の開口部から上記少なくとも2つの処理用面の間に導入し、
上記3種類の被処理流動体が上記薄膜流体中で混合され、粒子径を制御された被析出物質を析出させることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項6】
上記原料溶液と析出用溶媒の粘度を一定にして上記薄膜流体中で混合して基準となる被析出物質を析出させてその粒子径を測定し、
上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を、上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも高く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より大きな粒子径の被析出物質を析出させ、
上記原料溶液と上記析出用溶媒との少なくとも何れか一方の粘度を、上記基準となる被析出物質を析出させた際の粘度よりも低く制御することによって、上記基準となる被析出物質の粒子径より小さな粒子径の被析出物質を析出させるようにした事を特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−152739(P2012−152739A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62191(P2012−62191)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2011−534845(P2011−534845)の分割
【原出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】