説明

粒子径測定装置

【課題】 測定中の電気化学反応の発生を抑制できる粒子径測定装置を提供する。
【解決手段】 試料に測定光を照射することにより発生する回折光による回折光強度を検出する検出器51と、電圧印加を停止することにより、媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせることで、回折光に変化を生じさせる印加電圧制御部31と、電圧印加を停止したときである拡散開始時間の回折光強度からの回折光強度の時間変化に基づいて、被測定粒子群の粒子径の分布を算出する粒子径算出部35とを備える粒子径測定装置10であって、電極2を流れる電流値を計測する電流値計測部8と、試料中にファラデー電流が流れているか否かを判定するための電流値閾値及び時間閾値を記憶する記憶部40と、電流値閾値以上の電流値が時間閾値以上流れたときには、試料中にファラデー電流が流れていると判定する判定部34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的手法を用いて被測定粒子群の粒子径の分布を算出する粒子径測定装置に関し、特に媒体中で形成した被測定粒子群の粒子密度分布による過渡的な回折格子(以下、「密度回折格子」ともいう)を利用して、被測定粒子群の拡散係数を算出し、さらには、拡散係数から粒子径の分布を算出する粒子径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体(例えば、水等の液体や、ゲル等)中に分散させた粒子群の粒子径dの測定は、製薬や化学や研磨剤やセラミックスや顔料等の粒子径dが品質に影響を与える製品について行われている。さらに、粒子径dが100nm以下である粒子は、一般にナノ粒子と称され、同じ材質であっても通常のバルク物質とは異なる性質を表すことから、様々な分野で利用され始めている。
【0003】
ナノ粒子の粒子径dを測定する測定方法として、媒体中に粒子群を分散させた試料に、空間周期パターンを有する電界分布を発生させることによって、粒子群を電気泳動作用(若しくは誘電泳動作用)で移動させることで、媒体中に粒子群の密な領域と疎な領域とが周期的に並ぶ密度回折格子を形成させて、この密度回折格子にレーザ光(測定光)を照射することによって、密度回折格子の消散速度(回折光強度Iの時間変化)を計測することにより、粒子群の拡散係数Dを算出し、さらには拡散係数Dから粒子径dを算出する方法(以下、「IG法」ともいう)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような測定方法では、粒子径dが小さくなればなるほど拡散係数Dが大きくなるので、形成した密度回折格子が早く消失することを利用している。具体的には、電界分布を発生させることを停止した拡散開始時間tから密度回折格子が消失するときまでの間、試料にレーザ光を照射して回折光強度Iを検出しつづけることにより、回折光強度Iの時間変化を計測している。
図5(a)は、電圧値Vと時間tとの関係を示すグラフであり、図5(b)は、回折光強度Iと時間tとの関係を示すグラフである。なお、図5(a)では、電圧値Vと印加時間Δtとの直流電圧を印加している。そして、印加時間Δtの開始時間が電気泳動作用開始時間tとなるとともに、印加時間Δtの終了時間が拡散開始時間tとなり、拡散開始時間tに検出された回折光強度Iが回折光強度Iとなる。
【0005】
そして、回折光強度Iの時間変化から拡散係数Dを算出するために、下記式(1)を用いている。
=Iexp(−2Dqt) ・・・(1)
ここで、q=2π/Λ、tは拡散開始時間tから経過した時間、Iは拡散開始時間tに検出された回折光強度、Iは時間tに検出された回折光強度、Λは密度回折格子の格子間隔である。
次に、拡散係数Dを算出した後に、下記式(2)で示すアインシュタインストークスの関係を用いて、絶対温度Tと媒体の粘度μとを入力することにより、拡散係数Dから粒子径dを算出している。
D=kT/3πμd ・・・(2)
ここで、kはボルツマン定数である。
【0006】
図8は、このような測定方法を用いる粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。また、図9は、従来の試料キュベット(セル)の一例を示す斜視図である。
粒子径測定装置110は、試料が収容される試料キュベット1と、試料キュベット1に設けられている電極対2に対して直流電圧を印加する直流電源3と、試料キュベット1に対してレーザ光(測定光)を照射するレーザ光源4と、第1次の回折光強度Iを検出するための検出光学系50と、増幅器6と、粒子径測定装置110全体を制御する制御部107とを備える。なお、本明細書では、垂直方向(上下方向)をZ方向とし、Z方向と垂直な方向をX方向とし、Z方向及びX方向と垂直な方向をY方向とする。
【0007】
試料キュベット1は、長方形状の底面12と、4個の側壁11とを有するガラス製のものであり、光透過性を有する。そして、試料キュベット1の内部には、試料が収容されるようになっている。
試料キュベット1の一つの側壁11の表面(内面)には、電極対2が形成されている。図3は、電極対2が形成された側壁11の一例を示す平面図であり、図4は、試料キュベット1の断面の一部を示した図である。なお、電極対2は、側壁11の表面に形成されずに、板状体の表面に形成された電極チップを用いることにより試料キュベットの内部に浸漬されてもよい。
【0008】
電極対2は、左側電極21と右側電極22とからなる。
左側電極21は、幅L(例えば、1μm)の直線状の電極片21aが間隔を空けて平行に並べられるとともに、これらの電極片21aの外側の片側端どうしを電気的に接続する直線状の接続部21bが設けられ、いわゆる櫛型電極を形成している。
右側電極22についても左側電極21と同様であり、幅L(例えば、1μm)の直線状の電極片22が間隔を空けて平行に並べられるとともに、これらの電極片22aの外側の片側端どうしを電気的に接続する直線状の接続部22bが設けられ、いわゆる櫛型電極を形成している。
そして、電極片21aと電極片22aとの各間隔が、それぞれ一定距離S(例えば、1μm)を空けて配置される。
また、接続部21bの上端部と接続部22bの上端部とには、直流電源3が接続される。
【0009】
これにより、電極対2に直流電源3からの直流電圧が印加されることにより、試料キュベット1内に電界分布が形成される。すると、電気力線が集中する電極片21aと電極片22aとの間に、電気泳動によって粒子群が凝集する。一方、電極片21aと電極片21aとの間と、電極片22aと電極片22aとの間とには、電気泳動によって粒子群が存在しなくなる。よって、粒子群が凝集する領域Pは、格子間隔Λとなるように形成される(図4(a)参照)。すなわち、粒子群が凝集する領域Pは、他の領域より粒子密度が高くなり、屈折率が異なることから、格子間隔Λの密度回折格子が形成される。
また、電極対2に直流電源3からの直流電圧が印加されなければ、試料キュベット1内に電界分布が形成されないので、電気力線が集中する領域もなく、粒子群は媒体中で均一に存在する(図4(b)参照)。すなわち、粒子密度が均一になり、屈折率が同じになっている。
【0010】
なお、電極対2の形状は、特に限定されず、上述したもの以外でもよく、電極対2の材料としては、例えば、ITO等が挙げられ、ITOの屈折率は2.0程度であり、試料キュベット1の側壁11の材料として高屈折率ガラス(例えば、商品名「s−LAH79」;オハラ社製;屈折率2.0)を用いることで、電極対2と側壁11との屈折率差をなくすことにより、レーザ光の照射時に電極対2による回折光が発生することを抑えることができる。
【0011】
直流電源3には、粒子群に電気泳動を引き起こすことができる電圧値Vと印加時間Δtとの直流電圧が印加できるものが用いられる。具体的には、電圧値0.1〜100V程度のうちから0.1V刻みで自由に選択して、選択した直流電圧値を印加できる直流電源等を使用する。
レーザ光源4は、粒子群に応じて種類を選択すればよいが、例えば、He−Neレーザ光源(波長λ=0.6328μm)が挙げられる。そして、試料キュベット1にレーザ光が照射される。
【0012】
検出光学系50は、第1次の回折光強度Iを検出する検出器51と、不要なノイズ光を避けるために直径1mmの円形状(面積:0.785mm)のピンホールを有するピンホール板52と、レーザ光源4の光軸Lの位置を把握するための光軸調整用受光部53とからなる。
検出器51は、フォトダイオード(受光素子)からなる。そして、検出器51の直前には、レーザ光源4から出射されたレーザ光のうち、粒子群による密度回折格子で回折した次数mの回折光のみを検出するように、ピンホールが配置される。
ここで、密度回折格子の格子間隔Λ、レーザ光の波長λ、回折角θ、次数mとすると、下記式(3)が成立する。
mλ=Λ・sinθ ・・・(3)
よって、例えば、λ=0.6328μm、Λ=3μmとしたとき、m=1次の回折光はθ≒12°に現れるので、光軸Lに対して角度θ≒12°となる光が、ピンホールを通過するように、ピンホール板52が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−084207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、粒子径測定装置110では、電極対2に直流電圧を印加することによって生じる粒子の電気泳動現象を利用している。しかしながら、粒子や溶媒の種類によっては電気化学反応が発生し、電極対2の腐食、気泡の発生等を引き起こす恐れがあった。よって、正確に粒子径dを測定するには、適正な直流電圧値(泳動電圧値)Vを設定する必要がある。特に、電解質を多く含む高導電率溶媒中に分散する粒子群の捕集においては、適正な泳動電圧値Vの設定が非常に重要となる。
一方、電気化学反応が発生しないように小さい泳動電圧値Vを設定することも考えられるが、印加する泳動電圧値Vが小さすぎると粒子群が充分に捕集されず、その結果、粒子径解析に必要な回折光強度Iを得られないことがあった。
【0015】
また、電気化学反応が発生せず、粒子径解析に必要な回折光強度Iを得ることができたとしても、粒子群の過剰捕集が起きると、電極対2の表面への粒子の固着や凝集が起こったり、粒子間の反発力による自然拡散への影響を考慮したりしなければならなくなる。よって、電気泳動現象を利用したIG法を実現するためには、電気化学反応の発生を抑制でき、粒子径解析に充分な回折光強度Iが得られ、かつ、粒子群の過剰捕集が起きない粒子泳動条件(印加電圧値V、印加時間Δt)を設定することが重要になる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本件発明者は、上記課題を解決するために、粒子泳動条件を決定する方法について検討を行った。
まず、電気化学反応が起こる電圧値は、一般的には目的物質の理論電解電圧に、過電圧や溶媒の電気抵抗(溶液抵抗)を加えた値となるが、測定対象となる試料は多岐に渡るため、その電圧値を予想することは困難である。溶液を電気分解する場合、理論電解電圧値以下の電圧値では電極近傍の電気二重層の充電に伴う微弱電流(非ファラデー電流)のみが両極間に流れる。一方、理論電解電圧値を越える電圧値では、まず、電極近傍の電気二重層の充電に伴う微弱電流(非ファラデー電流)のみが両極間に流れるが、反応が進行する電圧値に達すると反応の進行速度に対応した電流(ファラデー電流)が恒常的に流れるようになり、印加電圧値の増加とともに電流値の増加が起きる。一方、非ファラデー電流は過渡的な電流であり、一般的に非ファラデー電流が流れる持続時間は電気二重層が充電されるまでの極めて短い時間に限られるため、昇圧後一定時間が経過すると非ファラデー電流による電流の増分はほぼ0となると考えられる。よって、適切な時間閾値tthと電流値閾値Athとを設定することで、溶液の種類によらず電気分解反応の発生の有無を判断できる。つまり、電流値閾値Ath以上の電流値Aが時間閾値tth以上流れたときには、電気化学反応が起こっていることを示すファラデー電流が流れていると判定できることを見出した。
【0017】
また、粒子径解析に充分な回折光強度Iが得られる粒子泳動条件も、測定対象となる試料によって異なる。ここで、図6(a)は、直流電圧1500mVを印加したときの粒子径50nmのポリスチレン粒子群の電気泳動により得られる回折光強度Iの時間変化を示すグラフである。図6(a)に示すように、回折光強度Iは電圧印加後、時間経過とともに次第に上昇し、ほぼ一定値に達した後緩やかに減少する。つまり、泳動電圧値1500mVにおいて捕集可能な粒子量には上限が存在し、回折光強度の緩やかな減少は過度の粒子捕集が起こっているためと考えられる。また、粒子捕集量が上限に近い領域においては、密集した粒子の電極対2への固着や粒子同志の凝集等も起きやすいと考えられ、このような過度の粒子捕集を抑制するためには、電圧印加後からある適切な時間で粒子捕集を終了することが必要となる。
【0018】
次に、図6(b)は、図6(a)より得られる回折光強度Iの時間tに対する二次微分値dI/dtの時間変化を示すグラフである。図6(a)に示す回折光強度Iの増大速度は、電圧印加と同時に0から増加し、ある時間経過後に最大値を示した後、回折光強度が最大値を示した時間に再び0に戻る。よって、回折光強度Iの時間tに対する二次微分値dI/dtは時間経過とともに減少し、変曲点Bを境に負の値に転じることになる。二次微分値dI/dtが負の値を取る領域Cは、一定時間あたりの粒子捕集量が減少に転じた領域Cと見なすことができ、過大な粒子捕集が起こり始めたことを示す一つの指標となりうる。つまり、粒子捕集を終了する時間(=電圧印加時間Δt)を決定するために、回折光強度Iの時間tに対する二次微分値dI/dtの時間変化を利用することができる。
【0019】
よって、回折光強度とその時間変化とを監視することで、粒子径解析に充分な回折光強度が得られているか、粒子群の過剰捕集が起きていないかを検出することが可能となる。つまり、粒子径算出に必要な回折光強度Iが得られたと判定するための回折光強度閾値Ithを記憶し、回折光強度Iが回折光強度閾値Ithになったときには、電圧印加を停止することにより、媒体中で粒子群に拡散を生じさせる。また、回折光強度Iが回折光強度閾値Ithに達するか否かを判定するための回折光強度時間変化閾値Ith”を記憶し、電圧印加後、回折光強度Iが回折光強度閾値Ithになる前に、回折光強度Iの時間tに対する二次微分値dI/dtが回折光強度時間変化閾値Ith”以下になったときには、電圧印加を停止する。
そして、これらを用いて粒子泳動条件を自動的に決定することができることを見出した。
【0020】
すなわち、本発明の粒子径測定装置は、被測定粒子群を媒体中に含有する試料を収容するセルと、電圧を印加する電源と、前記電源からの電圧印加によりセル内に空間周期的に変化する電界を形成する電極と、前記電界により媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせた状態で、前記試料に測定光を照射する光源と、前記試料に測定光を照射することにより発生する回折光による回折光強度を検出する検出器と、電圧印加を停止することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせることで、前記回折光に変化を生じさせる印加電圧制御部と、電圧印加を停止したときである拡散開始時間の回折光強度からの回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径の分布を算出する粒子径算出部とを備える粒子径測定装置であって、前記電極を流れる電流値を計測する電流値計測部と、前記試料中にファラデー電流が流れているか否かを判定するための電流値閾値及び時間閾値を記憶する記憶部と、前記電流値閾値以上の電流値が前記時間閾値以上流れたときには、前記試料中にファラデー電流が流れていると判定する判定部とを備えるようにしている。
【0021】
ここで、「電気的な泳動」としては、例えば、荷電した被測定粒子群に電圧を印加して電気的に被測定粒子群を泳動させる静電泳動や、分極した被測定粒子群に電圧を印加して電気的に被測定粒子群を泳動させる誘電泳動等が挙げられる。
また、「測定光」としては、レーザ光が好ましいが、これに限らず、LEDによる光、分光器で分光された光、干渉フィルタやバンドパスフィルタ等で波長範囲が制限された光を用いてもよい。
【0022】
また、「媒体」としては、内部で被測定粒子群が泳動できるものであればよく、例えば、水や油やアルコール等の液体や、ゲルや、固体等が挙げられる。
さらに、「回折光強度」とは、検出器で検出される数値そのものでなくてもよく、密度回折格子を形成する前に既に検出されている初期余剰光の光強度が存在する場合もあるので、検出器で検出される数値と初期余剰光の数値との差分であることが好ましい。
【0023】
本発明の粒子径測定装置では、まず、被測定粒子群を媒体中に含有する試料をセル内に収容する。このとき、媒体中で被測定粒子群は均一に分散しているので、回折光強度Iは、非常に弱い回折光強度Iとなる。
次に、電圧を電極に印加することにより、セル内の空間に対して空間周期的に変化する電界分布を形成する。すると、被測定粒子群に電気的な泳動が生じることで、電界分布の空間周期に対応するように密な領域と疎な領域とが周期的に並ぶ空間周期的な濃度変化が発生していく。このとき、判定部は、電流値閾値Ath以上の電流値Aが時間閾値tth以上流れれば、試料中にファラデー電流が流れているので、電圧印加を停止させることになる。
一方、電流値閾値Ath以上の電流値Aが時間閾値tth以上流れなければ、つまり、電気化学反応の発生を起こさず、電気的な泳動によって被測定粒子群を凝集させていくことで、密度回折格子が形成されていく。その結果、最終的に密度回折格子が安定して形成されるので、回折光強度Iは、非常に強い回折光強度Iとなる。
【0024】
そして、印加電圧制御部は、電圧印加を完全に停止すると、空間周期的に変化する電界分布が消失するので、被測定粒子群は徐々に拡散していくことになる。つまり、密度回折格子が崩れてぼやけるようになる。このとき、回折光強度Iの時間的変化を検出する。その結果、電圧を停止した拡散開始時間tからの時間tと回折光強度Iとの関係が得られる。なお、回折光強度Iは、式(1)に従って減衰する。
そして、粒子径算出部は、回折光強度Iの時間的変化に基づいて、粒子径dの分布を算出する。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の粒子径測定装置によれば、粒子径dの測定中に電気化学反応の発生を抑止することが可能となる。
【0026】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の粒子径測定装置においては、前記記憶部は、粒子径算出に必要な回折光強度が得られたと判定するための回折光強度閾値を記憶し、前記印加電圧制御部は、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になったときには、電圧印加を停止することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせ、前記粒子径算出部は、前記拡散開始時間の回折光強度からの回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径の分布を算出するようにしてもよい。
【0027】
ここで、「回折光強度閾値」とは、拡散開始時間tでの回折光強度Iを決定するための数値のことをいう。これにより、拡散開始時間tでの回折光強度Iが弱くなりすぎたり強くなりすぎたりすることなく、良好な粒子径dの測定結果が得られ、さらに再現性の高い粒子径dの測定結果が得られるようになる。
以上のように、本発明の粒子径測定装置によれば、粒子径解析に充分な回折光強度Iが得られる。
【0028】
そして、本発明の粒子径測定装置においては、前記記憶部は、回折光強度時間変化閾値を記憶し、前記印加電圧制御部は、電圧印加後、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になる前に、前記検出器から取得した回折光強度の時間に対する二次微分値が前記回折光強度時間変化閾値以下になったときには、電圧印加を停止し、その後、前記電極に印加する電圧値を変更して、前記媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせるようにしてもよい。
【0029】
ここで、「回折光強度時間変化閾値」とは、電圧をこれ以上印加しても、回折光強度Iが変化せず、媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動がほとんど生じないと判定するための数値のことをいう。これにより、被測定粒子群の過剰捕集を抑止することができ、電極の表面への粒子の固着や凝集が起こらず、粒子間の反発力による自然拡散への影響を考慮する必要がなくなる。
以上のように、本発明の粒子径測定装置によれば、被測定粒子群の過剰捕集を抑止することが可能となる。
【0030】
さらに、本発明の粒子径測定装置においては、前記記憶部は、初期設定電圧値を記憶し、前記印加電圧制御部は、まず初期設定電圧値を電極に印加し、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になる前に、前記検出器から取得した回折光強度の時間に対する二次微分値が前記回折光強度時間変化閾値以下になったときには、電圧印加を停止し、その後、前記電極に印加する電圧値を大きくしていくようにしてもよい。
以上のように、本発明の粒子径測定装置によれば、粒子泳動条件を自動的に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図。
【図2】試料キュベット(セル)の一例を示す斜視図。
【図3】電極対が形成された側壁の一例を示す平面図。
【図4】試料キュベットの断面の一部を示す図。
【図5】電圧値と時間との関係及び回折光強度と時間との関係を示すグラフ。
【図6】回折光強度の時間変化を示すグラフ。
【図7】粒子泳動条件を決定する決定方法を説明するフローチャート。
【図8】従来の粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図。
【図9】従来の試料キュベット(セル)の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態である粒子径測定装置の全体構成を示す概略構成ブロック図である。また、図2は、試料キュベット(セル)の一例を示す斜視図である。なお、粒子径測定装置110と同様のものについては、同じ符号を付している。
本実施形態は、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を測定することにより、被測定粒子群の粒子径dの分布を算出するものである。また、媒体の粘度μは既知であるものを使用している。そして、直流電圧を印加して電気泳動により分極した被測定粒子群を媒体中で泳動させるものとする。
【0034】
粒子径測定装置10は、試料が収容される試料キュベット1と、試料キュベット1に設けられている電極対2に対して直流電圧を印加する直流電源3と、試料キュベット1に対してレーザ光を照射するレーザ光源4と、第1次の回折光強度Iを検出するための検出光学系50と、増幅器6と、電極対2を流れる電流値Aを計測する電流計(電流値計測部)8と、粒子径測定装置10全体を制御する制御部7とを備える。
【0035】
電流計(電流値計測部)8は、電極対2を流れる電流値Aを計測するものであり、接続部21b(図3参照)の上端部と直流電源3との間に接続されている。そして、電流計8は、電流値Aを制御部7に所定の時間間隔で出力するようになっている。
【0036】
制御部7は、CPU30とメモリ40とを備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置(図示せず)と、キーボードやマウス等を有する入力装置(図示せず)とが連結されている。また、CPU30が処理する機能をブロック化して説明すると、直流電源3の制御を行う印加電圧制御部31と、レーザ光源4の制御を行うレーザ光源制御部32と、光強度Iを取り込む光強度取得制御部36と、電流値Aを取り込む電流値取得制御部33と、判定部34と、粒子径dの分布を算出する粒子径算出部35とからなる。
【0037】
さらに、メモリ40は、電圧値データ記憶領域41と、光強度データ記憶領域42とを有する。
電圧値データ記憶領域41には、電流値閾値Athと時間閾値tthと初期設定電圧値Vとが予め記憶されている。電流値閾値Athと時間閾値tthとは、ファラデー電流が流れているか否かを判定するための数値であり、例えばAth=10mA、tth=100msecと設定される。初期設定電圧値Vは、一回目の測定時に印加する任意の電圧値であり、例えば電圧値0.1〜100V程度のうちから0.1V刻みで自由に選択することのできる直流電源では、初期設定電圧値V=0.5Vと設定される。
【0038】
光強度データ記憶領域42には、回折光強度閾値Ithと回折光強度時間変化閾値Ith”とが予め記憶されている。回折光強度閾値Ithは、拡散開始時間tでの回折光強度Iを決定するための数値であり、例えば回折光強度閾値Ithとして検出器51で検出可能な最大光強度の70%の数値と設定される。回折光強度時間変化閾値Ith”は、電圧をこれ以上印加しても、回折光強度Iが変化せず、媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動がほとんど生じないと判定するための数値であり、例えば回折光強度時間変化閾値Ith”=0と設定される。
【0039】
レーザ光源制御部32は、試料キュベット1にレーザ光を照射(ON)したり照射停止(OFF)したりするようにレーザ光源4の制御を行う。
光強度取得制御部36は、検出器51で所定の時間間隔で検出された第1次の回折光強度Iを取得する制御を行う。
電流値取得制御部33は、電流計8で所定の時間間隔で検出された電流値Aを取得する制御を行う。
【0040】
印加電圧制御部31は、判定部34からの変更信号に基づいて所定の電圧値Vの直流電圧を電極対2に印加したり、判定部34からの停止信号に基づいて電極対2への直流電圧の印加を停止したりするように直流電源3の制御を行う。これにより、印加電圧制御部31が、電圧値Vの直流電圧を電極対2に印加すると、密度回折格子を形成していくようになっている。そして、直流電圧の印加を停止することにより、直流電圧の印加を停止した時間が拡散開始時間tとして、密度回折格子を崩してぼやけさせていくことになっている。
【0041】
粒子径算出部35は、判定部34からの算出信号に基づいて光強度取得制御部36で得られた回折光強度Iの時間変化を用いて、媒体中における被測定粒子群の粒子径dの分布を算出する制御を行う。例えば、回折光強度Iの時間変化と式(1)〜(3)とに基づいて、粒子径dの分布を算出する。
【0042】
判定部34は、電流値Aと回折光強度Iとに基づいて、電圧値Vと印加時間Δtとを決定する制御を行う。図7は、粒子泳動条件を決定する決定方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、被測定粒子群を媒体中に分散させた試料を試料キュベット1に収容する。
次に、ステップS102の処理において、印加電圧制御部31は、初期設定電圧値Vの直流電圧を電極対2に印加するように直流電源3の制御を行う。
【0043】
次に、ステップS103の処理において、電流値取得制御部33は、電流計8から電流値Aを取得する。
次に、ステップS104の処理において、判定部34は、電流値Aが電流値閾値Ath以下であるか否かを判定する。電流値Aが電流値閾値Ath以下でないと判定したときには、ステップS105の処理において、判定部34は、電流値Aが時間閾値tth以上流れているか否か(持続時間Tが時間閾値tth以上であるか否か)を判定する。電流値Aが時間閾値tth以上流れていないと判定したときには、ステップS104の処理に戻る。つまり、ステップS104とS105との処理によってファラデー電流が流れているかを判定する。
【0044】
一方、ステップS105の処理において、電流値閾値Ath以上の電流値Aが時間閾値tth以上流れていると判定したときには、ファラデー電流が流れていると判定して、ステップS106の処理において、判定部34は、印加電圧制御部31に停止信号を出力するとともに、粒子径算出部35に算出信号を出力する。このとき、粒子径算出部35は、電圧値Vs−1の直流電圧を電極対2に印加したときの回折光強度Iの時間変化に基づいて、媒体中における被測定粒子群の粒子径dの分布を算出する。そして、本フローチャートを終了させる。
【0045】
また、ステップS104の処理において、判定部34は、電流値Aが電流値閾値Ath以下であると判定したときには、ステップS107の処理において、レーザ光源制御部32は、試料キュベット1にレーザ光を照射(ON)させ、光強度取得制御部36は、回折光強度Iを取得していく。
次に、ステップS108の処理において、判定部34は、回折光強度Iが回折光強度閾値Ithより大きいか否かを判定する。回折光強度Iが回折光強度閾値Ithより小さいと判定したときには、ステップS110の処理において、判定部34は、回折光強度Iが回折光強度時間変化閾値Ith”より小さいか否かを判定する。回折光強度Iが回折光強度時間変化閾値Ith”より大きいと判定したときには、ステップS107の処理に戻る。つまり、被測定粒子群の過剰捕集が発生しているかを判定する。
【0046】
一方、ステップS108の処理において、回折光強度Iが回折光強度閾値Ithより大きいと判定したときには、粒子径解析に充分な回折光強度Iが得られていると判定して、ステップS109の処理において、判定部34は、印加電圧制御部31に停止信号を出力して、光強度取得制御部36に回折光強度Iを取得させていくとともに、粒子径算出部35に算出信号を出力する。このとき、粒子径算出部35は、電圧値Vの直流電圧を電極対2に印加したときの回折光強度Iの時間変化に基づいて、媒体中における被測定粒子群の粒子径dの分布を算出する。そして、本フローチャートを終了させる。
【0047】
一方、ステップS110の処理において、回折光強度Iの時間tに対する二次微分値dI/dtが回折光強度時間変化閾値Ith”より小さいと判定したときには、粒子群の過剰捕集が起こっていると判定して、ステップS111の処理において、判定部34は、印加電圧制御部31に停止信号を出力して、光強度取得制御部36に回折光強度Iを取得させていく。
次に、ステップS112の処理において、判定部34は、印加電圧制御部31に変更信号を出力して、印加電圧制御部31は、初期設定電圧値Vから0.1V大きくした電圧値Vs+1に変更して、電圧値Vs+1の直流電圧を電極対2に印加するように直流電源3の制御を行う。そして、ステップS103〜S112の処理を繰り返すことになる。
【0048】
以上のように、粒子径測定装置10によれば、電気化学反応の発生を抑制でき、粒子径解析に充分な回折光強度Iが得られ、かつ、粒子群の過剰捕集が起きない粒子泳動条件(印加電圧値V、印加時間Δt)を自動的に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、媒体中で形成した被測定粒子群による密度回折格子を利用して、被測定粒子群の拡散係数を算出し、さらには拡散係数から粒子径の分布を算出する粒子径測定装置等に使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 試料キュベット(セル)
2 電極対
3 直流電源
4 レーザ光源
8 電流計(電流値計測部)
10 粒子径測定装置
31 印加電圧制御部
34 判定部
35 粒子径算出部
40 メモリ(記憶部)
51 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定粒子群を媒体中に含有する試料を収容するセルと、
電圧を印加する電源と、
前記電源からの電圧印加によりセル内に空間周期的に変化する電界を形成する電極と、
前記電界により媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせた状態で、前記試料に測定光を照射する光源と、
前記試料に測定光を照射することにより発生する回折光による回折光強度を検出する検出器と、
電圧印加を停止することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせることで、前記回折光に変化を生じさせる印加電圧制御部と、
電圧印加を停止したときである拡散開始時間の回折光強度からの回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径の分布を算出する粒子径算出部とを備える粒子径測定装置であって、
前記電極を流れる電流値を計測する電流値計測部と、
前記試料中にファラデー電流が流れているか否かを判定するための電流値閾値及び時間閾値を記憶する記憶部と、
前記電流値閾値以上の電流値が前記時間閾値以上流れたときには、前記試料中にファラデー電流が流れていると判定する判定部とを備えることを特徴とする粒子径測定装置。
【請求項2】
前記記憶部は、粒子径算出に必要な回折光強度が得られたと判定するための回折光強度閾値を記憶し、
前記印加電圧制御部は、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になったときには、電圧印加を停止することにより、前記媒体中で被測定粒子群に拡散を生じさせ、
前記粒子径算出部は、前記拡散開始時間の回折光強度からの回折光強度の時間変化に基づいて、前記被測定粒子群の粒子径の分布を算出することを特徴とする請求項1に記載の粒子径測定装置。
【請求項3】
前記記憶部は、回折光強度時間変化閾値を記憶し、前記印加電圧制御部は、電圧印加後、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になる前に、前記検出器から取得した回折光強度の時間に対する二次微分値が前記回折光強度時間変化閾値以下になったときには、電圧印加を停止し、その後、前記電極に印加する電圧値を変更して、前記媒体中で被測定粒子群に電気的な泳動を生じさせることを特徴とする請求項2に記載の粒子径測定装置。
【請求項4】
前記記憶部は、初期設定電圧値を記憶し、
前記印加電圧制御部は、まず初期設定電圧値を電極に印加し、前記検出器から取得した回折光強度が前記回折光強度閾値になる前に、前記検出器から取得した回折光強度の時間に対する二次微分値が前記回折光強度時間変化閾値以下になったときには、電圧印加を停止し、
その後、前記電極に印加する電圧値を大きくしていくことを特徴とする請求項3に記載の粒子径測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−57608(P2013−57608A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196623(P2011−196623)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)