説明

粒子懸濁液

【課題】反応性ポリマー界面活性剤を利用した粒子懸濁液を安定化する方法、及び該方法によって得られる粒子懸濁液を提供することを目的とする。
【解決手段】実質的に混和しない有機溶媒が含まれた水相を含んでいて、その水相には、その水相に実質的に溶けない固体農薬が懸濁されている粒子懸濁液の安定性は、(i)少なくともいくつかのビニルモノマーは架橋反応することのできる官能基を有する複数のビニルモノマー(ビニルエステルまたはその加水分解生成物には限られない)を重合することによって親水部と疎水部を備えるポリマー安定剤を形成し、(ii)そのポリマー安定剤を、水相に含まれていて(溶解または懸濁していて)上記官能基と架橋することのできる1種類以上の物質と反応させる操作によって向上する。ただし(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた農薬の重量比は、懸濁させた農薬5部に対してポリマー安定剤が1部未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子懸濁液と、反応性ポリマー界面活性剤を利用して粒子懸濁液を安定化する方法に関するものであり、特に後者に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカ合衆国特許第6,262,152号には、(a)液体ビヒクル(例えば水や有機溶媒)と;(b)この液体ビヒクルに少なくとも実質的に溶けない粒子と;(c)液体ビヒクルに溶ける少なくとも1つの区画と液体ビヒクルに溶けない少なくとも1つの区画とを備えていて、その溶けない区画に架橋可能な部分が含まれているポリマー分散剤とを含んでおり;(d)ポリマー分散体の溶けない区画に含まれる架橋可能な部分が架橋することにより、ポリマー分散剤の溶けない区画が、その中に捕獲された粒子とで架橋したポリマーを形成することを特徴とする固体粒子の分散液が記載されている。溶けないポリマー区画と架橋結合によって形成されるネットワークに粒子が捕獲されること、また、このような結合は非常に安定であってポリマーによって形成される“コア”から粒子が離れるのを効果的に阻止することが強調されている。適切な粒子の具体例として、顔料、不溶性染料、金属粒子、生物学的に活性な化合物、薬理学的に活性な化合物、ポリマー粒子、中空ガラス球などが挙げられている。実施例には、架橋したさまざまなポリマーの内部に“閉じ込められた”顔料が開示されている。それぞれの場合に分散液は、架橋前に顔料を15重量%とポリマーを10重量%含んでいる。顔料に対するポリマーの好ましい比は実施例にだけ開示されており、実施例で用いる顔料に対するポリマーの比からわかるように、顔料粒子がポリマー材料の実質的な本体の“コア”内部に“捕獲される”か“閉じ込められる”ことは明らかである。粒子の周囲の“ネットワーク”または“マトリックス”の内部にこのように“捕獲”されることは、架橋したポリマーによって形成される“コア”から粒子が離れるのを阻止するのに必要である。
【0003】
アメリカ合衆国特許第6,262,152号の教えにもかかわらず、われわれは、濃度をこのアメリカ合衆国特許第6,262,152号に開示されているよりも大きく減らした架橋ポリマーを用いて溶けない粒子を効果的に安定化させうることを見いだした。ポリマーの濃度がこのように大きく低下していることは、水性媒体、中でも有機溶媒を実質的に含まない水性媒体に農薬活性成分を分散させた分散液において特に好ましい。アメリカ合衆国特許第6,262,152号は、主として、顔料(例えばトナー)の懸濁液の安定化に関する。このような材料は水にも有機溶媒にも非常に溶けにくく、有機溶媒を含む水性媒体に特に溶けない。したがってアメリカ合衆国特許第6,262,152号では、粒子材料を懸濁させる水相として、有機溶媒を含む水性媒体を用いることができる。農薬活性成分は少なくとも一部が有機溶媒を含む水性媒体に溶ける傾向があるため、このような系は農薬活性成分では用いることができない。したがってこのような系では、結晶成長の問題が増える傾向がある。実質的に混和しない有機溶媒を含む水性媒体を用いると、使用可能なポリマー界面活性剤のタイプが制限される。なぜなら、疎水性の非常に大きい界面活性剤は、実質的に混和しない有機溶媒を含む水性媒体に不十分にしか溶けないからである。したがって農薬を用いると、顔料(例えばトナー)の場合には遭遇しない問題が発生する。さらに、トナーや顔料は、非常に細かい分散液として使用されるため、一般にミクロン未満に粉砕される(“均一かつ透明で水によって保持される顔料分散液”)。明らかに、このような遊離状態の微粒子を架橋したポリマーの“マトリックス”の中に“閉じ込める”条件は、農薬懸濁液の場合に遭遇するはるかに大きな(一般に1〜10ミクロンの)粒子を安定化させるのに必要な条件とは非常に異なるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明により、実質的に混和しない有機溶媒が含まれた水相を含んでいて、その水相には、その水相に実質的に溶けない固体農薬が懸濁されている粒子懸濁液の安定性を向上させる方法であって、
(i)少なくともいくつかのビニルモノマーは架橋反応することのできる官能基を有する複数のビニルモノマー(ビニルエステルまたはその加水分解生成物には限られない)を重合することによって親水部と疎水部を備えるポリマー安定剤を形成するステップと、
(ii)そのポリマー安定剤を、水相に含まれていて(溶解または懸濁していて)上記官能基と架橋することのできる1種類以上の物質と反応させるステップを含んでおり、
(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた農薬の重量比が、懸濁させた農薬5部に対してポリマー安定剤が1部未満である方法が提供される。
【0005】
望むのであれば、懸濁液を調製した後、混和可能な有機溶媒を少量添加することができる。例えばプロピレングリコールを凍結防止剤として添加できる。この明細書では、“実質的に混和しない有機溶媒を含む水相”という表現は、存在している可能性のあるわずかな割合の有機溶媒が低濃度であるため、水相への農薬の溶解度が不都合なほど大きくならず、農薬の結晶化などの問題が起こらないことを意味する。
【0006】
固体は、ステップ(ii)の前に水相とポリマー安定剤の存在下で粉砕する、あるいは分散させることが好ましい。
【0007】
本発明で使用するポリマー安定剤は3つの部分を有する。すなわち、親水部と、疎水部と、懸濁液の水相に含まれる1種類以上の物質と反応または架橋する能力があり、上記官能基と架橋反応することができる部分である。したがってポリマー安定剤は反応性ポリマー界面活性剤として機能する。それぞれの部分は、ポリマー安定剤を形成するのに用いる対応する1種類以上のビニルモノマーに由来する。
【0008】
本発明のさらに別の特徴によれば、水相を含んでいて、その水相には、その水相に実質的に溶けない固体が懸濁されている粒子懸濁液であって、その懸濁液は、
(i)親水部と、疎水部を備えるとともに、少なくともいくつかのビニルモノマーは架橋求核反応または縮合反応することのできる官能基を有する複数のビニルモノマー(ビニルエステルまたはその加水分解生成物には限られない)を含むポリマー安定剤と、
(ii)そのポリマー安定剤を、水相に含まれていて上記官能基と架橋反応することのできる1種類以上の物質との反応生成物によって安定化され、
(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた固体の重量比は、懸濁させた固体5重量部に対してポリマー安定剤が1重量部未満であることを特徴とする粒子懸濁液が提供される。
【0009】
(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた固体の重量比は、ポリマー安定剤が1部に対して懸濁させた固体が400部(1:400)〜ポリマー安定剤が1部に対して懸濁させた固体が5部(1:5)であることが好ましく、例えば、ポリマー安定剤が1部に対して懸濁させた固体が200部(1:200)〜ポリマー安定剤が1部に対して懸濁させた固体が10部(1:10)である。特に好ましい範囲は、1:10〜1:100、例えば1:20〜1:75である。約1:50という比が特に好ましい。
【0010】
懸濁させた固体は、農薬活性成分である。アメリカ合衆国特許第6,262,152号の記載を考えると、本発明に従って低レベルのポリマー安定剤を用いて満足のゆく粒子懸濁液が得られるのは驚くべきことである。われわれは、懸濁させた固体の表面にポリマー安定剤を不可逆的に“固定”するのにポリマー安定剤の架橋だけで十分であり、固体粒子を“捕獲”するのに“ネットワーク”の形態になった実質的な“カプセル”層を提供する必要はないことを見いだした。組成物に使用するポリマー安定剤の量を減らすことには明らかに経済的な利点がある。われわれはさらに、ポリマー安定剤の量を減らすことで、粒子表面ではなく水相中で架橋剤と反応することによるポリマー安定剤の非生産的な架橋を最少にできることを見いだした。架橋によって懸濁液中の全体的粒径がわずかに大きくなる可能性があるが、一般にこの効果は、存在しているとしても比較的小さい。われわれは、驚くべきことに、懸濁液中の平均粒径が、架橋後でさえ一般に好ましい限界内(例えば約10ミクロン未満、さらに特定するならば約5ミクロン未満)に留まっていることを見いだした。アメリカ合衆国特許第6,262,152号の主な対象である顔料とは異なり、ある種の農薬は小さいが水相への溶解度が限られている。これは、結晶化などで物理的状態が変化することのできる農薬にとって好ましくない可能性がある。特に、農薬の懸濁濃縮液は、農薬を水相に運び込むメカニズムによって不安定化する可能性がある。その場合、水相中で農薬が結晶化して粒子を形成し、その結果として組成物の安定性と生物活性に悪い影響が及ぶ可能性がある。われわれは、このメカニズムによって農薬の懸濁濃縮液が不安定化することを本発明の方法により阻止または減少させうることを見いだした。特別な理論があるわけではないが、架橋したポリマー材料の“マトリックス”に粒子を“閉じ込める”アメリカ合衆国特許第6,262,152号の方法とは異なり、本発明の方法では、まず最初に、水溶性ポリマー安定剤の疎水部が、懸濁させた農薬粒子の表面に吸着すると考えられる。その後、架橋によって疎水性ユニットの疎水性がその場で効果的に増大する。これは、ポリマー界面活性剤が粒子表面から移動するのを大きく減らし、そのことによって分散液の安定性を増大させる効果を有する。ポリマー界面活性剤の疎水性がその場で増大することには、ポリマー安定剤が混和可能な有機溶媒を含まない水性媒体に溶けて粒子表面への吸着が起こった後にだけ(架橋によって)疎水性が増大するという利点がある。さらに、本発明の方法では、架橋したポリマー界面活性剤は、懸濁した固体を閉じ込めている架橋したポリマー材料の実質的なマトリックスというよりは単層分子として存在していると考えられる。
【0011】
水に実質的に溶けずに水性懸濁濃縮液にされる農薬の典型例として挙げられるのは、アバメクチン、アクリナトリン、アメトリン、アトラジン、アゾックスストロビン、ベンゾビシロン、ベンゾフェンカップ、ベンズスルフラン-メチル、ブロモコナゾール、キャプタン、カルベンダジム、クロルフェナピル、クロロタロニル、シアゾファミド、シフルトリン、デスメディファム、ジアフェンチウロン、ジカンバ、ジフェノコナゾール、ジフルフェニカン、ジチアノン、エマメクチンベンゾエート、エポキシコナゾール、エトフメセート、ファモキサドン、フェナザキン、フェナミドン、フェンブコナゾール、フェンヘキサミド、フェントラザミド、フィプロニル、フロラスラム、フルアジナム、フルオメツロン、フルキンコナゾール、フルスルファミド、フルトリアフォル、ハロフェノジド、ヘキサコナゾール、イミダクロプリド、イプロジオン、クレソキシム-メチル、マンコゼブ、メパニピリム、メソトリオン、メトキシフェノジド、メトスラム、ミルベメクチン、ナプロパミド、ニコスルフロン、オフレース、ペンシクロン、ペンジメタリン、フェンメディファム、ピコキシストロビン、フサライド、プロチオコナゾール、ピラクロストロビン、ピラゾホス、ピリメタニル、キノキシフェン、シマジン、スピノサド、スピロジクロフェン、スルコトリオン、テブコナゾール、テブフェノジド、テブチラジン、チアベンダゾール、チアクロプリド、チアメトキサム、トラルコキシジム、トリチコナゾール、シプロジニル、プロジアミン、ブタフェナシル、グリホサート酸、ACCアーゼ阻害剤(例えばヨーロッパ特許第1,062,217号に記載されているもの)であるが、これだけに限られるわけではない。
【0012】
本発明の一実施態様では、懸濁させた農薬は懸濁濃縮液として存在する。しかし本発明の範囲が単に懸濁濃縮液に限定されることはなく、例えば懸濁エマルジョンも含まれる。懸濁エマルジョンとは、分散させた油相の中に1種類以上の農薬が含まれる水中油型エマルジョンを用い、水相に懸濁させた1種類以上の農薬を含む懸濁濃縮液にしたものである。反応性ポリマー界面活性剤は本発明に従って架橋し、懸濁させた固体粒子を安定化させ、さらに、われわれの同時係属中の出願PCT/GB02/02744に従ってエマルジョンの分散相を安定化させる。界面活性剤が架橋していてもいなくても、懸濁させた固体と分散したエマルジョン相の両方を安定化させるのに実質的に同じ界面活性剤を利用できるのは特別な利点である。この明細書で“実質的に混和しない有機溶媒を含む水相”と表現するとき、このような懸濁エマルジョンが除外されないことを理解されたい。
【0013】
本発明で使用するポリマー安定剤は3つの部分を有する。すなわち、親水部と、疎水部と、懸濁液の水相に含まれる1種類以上の物質と反応または架橋する能力があり、上記官能基と架橋反応することができる部分である。したがってポリマー安定剤は反応性ポリマー界面活性剤として機能する。主に水性媒体に分散した固体粒子とともにこのような界面活性剤を使用するとき、疎水部は固体粒子の表面に強く吸着されるのに対し、親水部は水性媒体と強く会合するため、懸濁した固体になったときにコロイドが安定する。界面活性剤の架橋部は、水相に含まれる(溶解または懸濁している)架橋物質と反応することによって界面活性剤が架橋できるようにするのに対し、界面活性剤のコロイド安定化部は、このように架橋した全体に表面活性を与える。
【0014】
本発明で使用するポリマー安定剤(界面活性剤)は、ある種のランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーと、ある種のブロック・コポリマーの中から選択する。本発明で使用するある種のランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーとある種のブロック・コポリマーはそれ自身が界面活性剤であり、架橋部が反応することによって粒子の界面に結合することに注意する必要がある。
【0015】
これら界面活性材料の性質は、その疎水成分と親水成分の組成と量によって決まる。
【0016】
ポリマー界面活性剤の組成と調製方法はさまざまである。このような材料に関するまとめがPiirmaによって『ポリマー界面活性剤』(界面活性剤の科学シリーズ42、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、1992年)に記載されている。ポリマー界面活性剤の2つの主要なクラスは、複数の親水性-疎水性ブロックにしたものと、櫛状の親水性アームが疎水性骨格に結合したもの(あるいはその逆にしたもの)である。このような疎水性-親水性ポリマーは、“両親媒性”と呼ばれている。懸濁させた固体への吸着が最大になるのは、界面活性剤が固体表面に吸着する大きな傾向を持ち、連続相ではミセル化する傾向または分離する傾向がほとんどないかまったくない場合である。
【0017】
一般に、ポリマー界面活性剤は、あらかじめ調製したポリマーを修飾することによって、あるいは単一のステップまたは数ステップで重合することによって作ることができる。したがってこの明細書では、“少なくとも一部のものが求核反応または縮合反応によって架橋できる官能基を含む複数のビニルポリマー(必ずしもビニルエステルまたはその加水分解生成物ではなくてもよい)を重合することによって親水部と疎水部を有するポリマー安定剤を形成する”という表現には、直接重合する場合と、重合後、形成されたポリマーを修飾する場合が含まれる。
【0018】
例えばブロック・コポリマーは、(i)最初に疎水性モノマー、次に親水性モノマー(またはその逆)という制御された段階的重合によって作ること、あるいは(ii)あらかじめ形成した適切な分子量の疎水性材料と親水性材料をカップリングさせることによって作ることができる。
【0019】
本発明で使用するポリマーは、従来技術でよく知られている多数の重合メカニズムを利用してモノマーから作ることができる。重合、特にラジカル重合のメカニズムは3段階で進行する。すなわち、(i)開始反応(連鎖担体として機能する活性中心が生成するとき);(ii)成長反応(成長しているポリマー鎖にモノマーが繰り返して付加される);(iii)停止反応(活性中心が中和または移動することによって鎖が停止する)である。当業者であれば、適切な開始反応と停止反応をいろいろと知っているはずである。具体的な開始剤と停止剤はこの明細書に記載してある。
【0020】
ブロック・コポリマーは、モノマーから従来法によって調製することができる。そのような方法としては、分子量、多分散度(PDi)、ポリマーの構造を細かく制御できるアニオン移動重合法または基移動重合法がある。これらの方法での調製条件は非常に厳しく、例えば重合温度を低くし、厳密に無水である溶媒を使用し、極めて純粋な試薬を使用することが必要とされる。さらに、機能性モノマーを利用する場合には保護基を使用せねばならないことがしばしばある。これらの因子があるため、この方法は市場で広く利用されてはいない。
【0021】
ブロック・コポリマーは、“従来の”ラジカル重合法では容易に調製できない。この方法は、多彩なモノマーと官能基を利用でき、幅広い操作条件が許されるという柔軟性が1つの理由となって広く利用されてきた。重合は、有機媒体と水性媒体の両方の中で行なわせることができる。しかしブロック・コポリマーの調製にこの従来法を利用するときには、生成物の構造を制御するのが難しく、ラジカル反応の選択性が欠けているために制約がある。制御されたラジカル重合(CRP)法ではその制約が少なくなったり消えたりする。そのようなCRP法がいくつか知られており、例えば金属、イオウ、ニトロキシドの反応を媒介とした方法がある。原子移動ラジカル重合(ATRP)は、金属の反応を媒介としたCRPの一例である。
【0022】
われわれは、本発明において比較的低濃度で使用するブロック・ポリマー界面活性剤またはランダム・グラフト(または櫛反応性)ポリマー界面活性剤の両方を調製するのに、ポリマーの組成と分子量を正確に制御できるATRPが特に有用であることを見いだした。この方法は、モノマーのタイプを問わず、例えばスチレン・タイプのモノマーと(メタ)アクリル・タイプのモノマーの両方で利用することができる。ATRPでは、試薬に不純物や水が存在することも許される。さらに、機能性モノマーを使用する場合には保護/脱保護反応が必要ないことがしばしばある。得られるポリマーは、一般に、アメリカ合衆国特許第6,262,152号に開示されている方法で調製されたポリマーと比較して、所定の時間粉砕した後の平均粒径が小さく、ポリマーをより低濃度で用いたときに不可逆的に凝集する傾向が大きい固体粒子の懸濁液となる。制御されたラジカル重合によって作られたこのようなポリマーは、一般に、非リビング・ラジカル法によって作られた同等のポリマーよりも多分散度が狭い。
【0023】
ATRPを実施する1つのシステムが、CocaらによってJ. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem.、第36巻、1417〜1424ページ、1998年に記載されている。「ATRPでは、リガンド(であることが多い)と錯体を形成するハロゲン化Cu(I)を使用して“CuX/2L”錯体を形成する。ハロゲン化した開始剤を用いて重合させる。スキーム1に示したように、Cu(I)錯体は、ハロゲン末端基を移動させることによって逆に眠っているポリマー鎖(と開始剤)を可逆的に活性化する。」
【0024】
【化1】

【0025】
ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーは、(i)親水性モノマーまたはマクロモノマーを疎水性骨格にグラフト重合すること、あるいはその逆のプロセスによって作ること、あるいは(ii)あらかじめ形成した適切な分子量の疎水性材料または親水性材料を、それぞれ親水性ポリマー骨格または疎水性ポリマー骨格にカップリングさせることによって作ること、あるいは(iii)ぶら下がっている親水性の鎖を有するマクロモノマーを疎水性モノマーとランダムに重合すること、または疎水性マクロモノマーを親水性モノマーと共重合させることによって作ることができる。
【0026】
ある組成のものを調製する好ましい方法は、出発材料の性質と特性によって異なるであろう。例えばモノマー間の反応比により、疎水性モノマーとラジカル共重合することのできる特定の親水性モノマーの量が制限される可能性がある。逆も同様である。
【0027】
一実施態様では、本発明で使用するポリマー安定剤は、2つのタイプのユニットを含んでいる。すなわち、a)疎水性ユニット(それ自身が架橋部を含んでいる)と、b)親水性ユニット(コロイドを安定化させるとともに、他の表面活性を提供する)である。本発明で使用するポリマー安定剤は、一般に2つのタイプが含まれる。すなわちランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーと、ブロック・コポリマーである。
【0028】
本発明で使用するポリマー安定剤は、複数のビニルモノマーで構成されている。そのビニルモノマーのうちのいくつかは、あとで説明するように、水相に含まれる多彩な物質の中に存在する部分または基と反応することのできる官能基(“架橋基”)を含んでいる。
【0029】
ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーは疎水性“骨格”と親水性“アーム”を有するのに対し、ブロック・コポリマーは疎水性区画と親水性区画とを備え、そのうちの疎水性区画に架橋要素が含まれている。
【0030】
本発明で使用する反応性ポリマー界面活性剤は、架橋反応することのできる2種類以上のモノマーを含むことができる。例えばコポリマーは、アミンとカルボン酸の両方を備えるモノマーを含むことができる。あるいはコポリマーは、ヒドロキシルとカルボン酸の両方を備えるモノマーを含むことができる。
【0031】
本発明で使用するポリマー安定剤は、従来技術で知られているように、あらかじめ調製したポリマーを修飾することによって作ること、あるいは単一のステップまたは数ステップで重合することによって作ることができる。
【0032】
ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーとブロック・コポリマーの両方を含む本発明で使用する反応性ポリマー界面活性剤は、一般式(I)で表わすことができる。
【化2】

ただし一方の*は開始基の残基を表わし、他方の*は停止基の残基を表わし;R1、R、R2は、独立に、Hまたはメチルであり;Xは親水部であり;Lは架橋基を含む部分であり;Yは疎水部であり;eの値は0〜0.8、例えば0.005〜0.8、特に0.005〜0.35であり;fの値は0.01〜0.4、例えば0.05〜0.4であり;gの値は0.10〜0.90であるが、e+f+g=1であり;eが0の場合には、*が親水性開始剤の残基を表わす。
【0033】
便宜上、一般式(I)に含まれる基:
【化3】

をこの明細書では基EまたはユニットEと呼び、一般式(I)に含まれる基:
【化4】

をこの明細書では基FまたはユニットFと呼び、一般式(I)に含まれる基:
【化5】

をこの明細書では基GまたはユニットGと呼ぶ。ユニットE、F、Gはそれぞれ対応するビニルモノマーに由来し、それぞれのタイプのユニットE、F、Gは1種類以上のモノマーを含んでいてもよいことに注意されたい。
【0034】
界面活性剤がランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーである場合には、ユニットE、F、Gはランダムに分布している。ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーは、疎水性“骨格”と親水性“アーム”を有することが好ましい。界面活性剤がブロック・コポリマーである場合には、ユニットFとユニットGは1つの疎水性ブロックに含まれ、ユニットEは1つ以上の親水性ブロックに含まれる。ユニットFとユニットGは、疎水性ブロックの中にランダムに配置すること、または疎水性ブロックの中にユニットFとユニットGからなるブロックとして配置することができる。
【0035】
R1、R、R2がそれぞれ水素である場合には、対応するモノマーはアクリレートモノマーであり、R1、R、R2がそれぞれメチルである場合には、対応するモノマーはメタクリレートモノマーである。置換されたスチレンモノマーは、ユニットEに関してR1がH、Xが親水基で置換されたフェニル誘導体であり、ユニットFに関してRがH、Lが架橋基で置換されたフェニル誘導体であり、ユニットGに関してR2がH、Yが疎水基で置換されたフェニル誘導体である。e、f、gの値は、主として、反応してユニットE、F、Gをそれぞれ形成するモノマーの比により、和e+f+gが1となるように決められる。
【0036】
当業者にはよく知られていることだが、一般式(I)における開始剤と停止剤の残基“*”は、ポリマーを調製するのに利用する重合プロセスのタイプによって異なる。単なる説明のための例示として、従来のフリーラジカル開始剤として例えばベンゾイルぺルオキシドまたはアゾビスイソブチロニトリルを用いた場合、開始基の残基“*”はそれぞれベンゾイルまたは(CH3)2C(CN)-になる。停止が不均化によって起こる場合、末端基“*”を水素原子にすることができる。停止が組み合わせによる場合には、末端基“*”は別のポリマー鎖にすることができる。原子移動ラジカル重合法(ATRP)を利用する場合には、開始基の残基“*”を疎水性残基(例えばC2H5OOC-C(CH3)2-)または親水性残基にすることができる。ATRP法における典型的な親水性開始剤は、一般式(II)を有する。
【化6】

ただしAはハロゲン(例えば臭素または塩素)であり、所定の条件(遷移金属錯体の存在)下で活性化されてビニルモノマー単位が炭素-A結合の中に挿入され、Zは親水基(例えばDPnが5〜200または分子量が350〜10,000(好ましくは350〜4000)のC1〜C4アルコキシポリエチレングリコール基またはフェニルオキシポリエチレングリコール基)であり、-W-は-O-または-NA-(ただしAは水素またはC1〜C4アルキルである)である。Zはメトキシポリエチレングリコール基であることが好ましく、-W-は-O-であることが好ましい。親水性開始基の残基(“*”)はしたがって以下の形態を取る。
【0037】
【化7】

【0038】
界面活性剤の調製方法が何であるかに応じ、上記の好ましい親水性開始剤が存在しているときには、その代わりに他の水溶性ポリマーを用いることができる。したがってZは、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)(“PVP”)、ポリ(メチルビニルエーテル)のいずれかが可能である。このような“親水基”を調製するための開始剤は、キサントゲン鎖停止剤(例えばヨーロッパ特許出願EP161502号(DeSOTO社)に記載されているもの)の存在下で上記ポリマーのモノマーを重合することによって作ることができる。試薬ビス(4-ヒドロキシブチキサントゲン)ジスルフィド[HO-(CH2-R-CH2)-O-C(=S)-SS-C(=S)-O-(CH2-R-CH2)-OH]は、HO-(CH2-R-CH2)-O-C(=S)-S-末端基を親水性ポリマーに導入する。この末端基はBrCOC(CH3)2Brと反応して一般式(II)で表わされるタイプの開始剤(ただしWは酸素であり、Zは-S-C(=S)-O-(CH2-R-CH2)-O-COC(CH3)2Brで終わる親水性ポリマーを含む)となることができる。
【0039】
親水基Zが開始剤の残基に存在していると十分な親水特性が与えられるため、基Eが不要になる(すなわちeの値がゼロになる)ことに注意されたい。すると一般式(I)の反応性ポリマー界面活性剤は以下に示す一般式(III)(ただし*は末端基を表わす)の形態を取ることになる。あるいは一般式(I)の反応性ポリマー界面活性剤は、親水性開始剤の残基と基Eの両方を含んでいてもよい。
【0040】
【化8】

【0041】
一般式(I)では、開始剤は1つ以上のユニットEにおいてポリマーが始まるように描かれている。しかし実際には、開始基と停止基がユニットE、F、Gのうちの任意のユニットでポリマーの開始と停止を実現できるため、この点に関して一般式(I)に示した状態に限定されることはない。実際、ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーでは、上記ユニットはいかなる場合にもランダムに配置される。ブロック・コポリマーでは、開始剤(例えば親水性開始剤)は、(a)親水性ブロックE(存在していれば)に結合し、その親水性ブロックEが今度は(ユニットFとユニットGを含む)疎水性ブロックに結合すること、あるいは(b)親水性ブロックが存在していない場合には(ユニットFとユニットGを含む)疎水性ブロックに直接結合すること、あるいは(c)(ユニットFとユニットGを含む)疎水性ブロックの一端に結合し、今度はその疎水性ブロックがユニットEのブロックに結合することが可能である。
【0042】
一般式(I)では以下のようになっていることが好ましい。
(i)基Eは、1つ以上のメタクリレートモノマーに対応する(すなわち、由来する)こと(R1がメチルで、-Xが適切な親水性誘導体基であるとき)、あるいはアクリレートモノマーに対応すること(R1が水素で、-Xが適切な親水性誘導体基であるとき)、あるいはスチレン誘導体であること(R1が水素で、Xが親水部で置換されたフェニルであるとき)が好ましい。-X基は、親水部X'である、あるいは親水部X'を備えることが好ましく、その親水部X'の選択は、-SO3-;任意的に末端にC1〜C4アルキルのキャップが付いたポリエチレングリコール;-COOHまたはその塩;カルボキシベタイン;スルホベタイン;第四級アンモニウム塩-N+R33C-(ただしR3は、独立に、H、C1〜C4アルキル、-CH2CH2OHのいずれかである)の中から行なう。
(ii)基Fは、1つ以上のメタクリレートモノマーに対応する(すなわち、由来する)こと(R1がメチルで、-Lが架橋基を有する適切な誘導体基であるとき)、あるいはアクリレートモノマーに対応すること(R1が水素で、-Lが架橋基を有する適切な誘導体基であるとき)、あるいはスチレン誘導体であること(R1が水素で、Lが架橋機能を提供する部分で置換されたフェニルであるとき)が好ましい。-L基は、架橋基L'である、あるいは架橋基L'を備えることが好ましく、その架橋基L'の選択は、-OH(例えばポリプロピレングリコールを含む);-SH;-NHA(ただしAは水素またはC1〜C4アルキルである);-COOHまたはその塩の中から行なう。
(iii)基Gは、1つ以上のメタクリレートモノマーに対応する(すなわち、由来する)こと(R1がメチルで、-Yが適切な疎水性誘導体基であるとき)、あるいはアクリレートモノマーに対応すること(R1が水素で、-Yが適切な疎水性誘導体基であるとき)、あるいはスチレン誘導体であること(R1が水素で、Yが疎水部で置換されたフェニルであるとき)が好ましい。-Y基は、疎水部Y'である、あるいは疎水部Y'を備えることが好ましく、その疎水部Y'の選択は、-CO-O-(-Si(CH3)2O-)n-H(ただしnは3〜20である);-CO-O-ポリプロピレングリコール;-CO-O-A(ただしAはC1〜C12アルキル基、C3〜C8シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基(ただしアルキル部は1〜12個の炭素原子を含んでおり、シクロアルキル基は3〜8個の炭素原子を含んでいる)、アラルキル基、アルキルアリール基のいずれかである);-CONHB(ただしBはC5〜C12アルキル基である)の中から行なう。
【0043】
ユニットEは、以下に示すモノマーのうちの1つ以上に由来することが特に好ましい。
DMMAEAベタイン#:2-(N,N-ジメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウム)エタン酸(ただしR1はメチルであり、-Xは一般式:
【化9】

を有する)。
QuatDMAEMA:2-(トリメチルアンモニウム)エチル(メタ)アクリレート塩(ただしR1はメチルまたはHであり、-Xは、以下に示す一般式:
【化10】

においてHal-が適切なアニオン(例えばハロゲン化物、具体的にはヨウ化物または塩化物)であるもの)。
DMMAPSAベタイン:3-(N,N-ジメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウム)プロピルスルホン酸(ただしR1はメチルであり、-Xは以下に示す一般式:
【化11】

を有する)。
NaMAA#:メタクリル酸のナトリウム塩(ただしR1はメチルであり、-Xは、以下に示す一般式:
【化12】

を有する)。
MAOES#:モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルスクシネート(ただしR1はメチルであり、-Xは以下に示す一般式:
【化13】

を有する)。
PEGMA:モノ-メトキシポリ(エチレングリコール)モノ-メタクリレート(ただしR1はメチルであり、-Xは以下に示す一般式:
【化14】

(ただしnはポリエチレングリコール鎖の平均重合度であり、一般に5〜100、例えば5〜75である)を有する)。
SSA:スチレン-4-スルホン酸(ただしR1は水素であり、-Xは以下に示す一般式:
【化15】

を有する)。
【0044】
一般式(I)の-X部は上に示したものの1つであることが好ましい。
【0045】
ユニットFは、以下に示すモノマーのうちの1つ以上に由来することが好ましい。
AEMA:2-アミノエチルメタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化16】

である)。
t-BAEMA:2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化17】

である)。
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化18】

である)。
DHPMA:2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化19】

である)。
NaMAA#:ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化20】

である。
MAOES#:ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化21】

である。
PPGMA#:ポリ(プロピレングリコール)モノ-メタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化22】

(ただしnはポリプロピレングリコールの平均重合度であり、5〜50であることが好ましい)である)。
【0046】
ユニットGは、以下に示すモノマーのうちの1つ以上に由来することが好ましい。
メタクリル酸メチル(ただしRはメチルであり、Yは以下に示す基:
【化23】

である)。
PDMSMA:典型的な平均分子量が1000のポリ(ジメチルシロキサン)モノ-メタクリレート(ただしRはメチルであり、Yは以下に示す基:
【化24】

である)。
PPGMA#:ポリ(プロピレングリコール)モノ-メタクリレート(ただしRはメチルであり、Lは以下に示す基:
【化25】

(ただしnはポリプロピレングリコールの平均重合度であり、5〜50であることが好ましい)である)。必要な疎水特性を得るためには一般に比較的長い鎖が好ましい。
【0047】
塩基性モノマー(例えばAEMA、t-BAEMA)は塩(例えば塩酸塩)の形でも用いることができる。ある種のモノマー(#で表示)が1つ以上の基で発生し、例えば、望むのであれば架橋に使用できる(すなわちL部としても機能することのできる)親水基Xを持つことに注意されたい。-CO2X基を有するモノマーが界面活性剤の親水部に組み込まれている場合には、例えばカルボン酸塩を安定化のために用いることができる。しかし-CO2X基を有するモノマーが界面活性剤の疎水部に組み込まれている場合には、アジリジンまたはカルボジイミドを利用した架橋反応に遊離カルボン酸を用いることができる。明らかに、-CO2X基を架橋に用いる場合には、それを安定化に用いることはできない。界面活性剤の2つの異なる基が架橋反応において反応できるが反応性が非常に異なっている場合には、反応性が小さいほうの基を安定化に用いることができる。それは、例えば親水性区画ではカルボキシレート、疎水性区画ではヒドロキシルである。当業者であれば、所定の基が架橋反応する条件、または所定の基が架橋反応しない条件を容易に選択することができよう。
【0048】
ユニットEを形成する(そして対応するR1とXを提供する)のに使用できるモノマーのさらに別の例としては、4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、2-N-モルホリノエチルメタクリレート、2-メタクリルオキシエチルホスホネートメタクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、モノ-メトキシ-PEO-(メタ)アクリレート、アクリルアミド、ビニルピロリドン、2-スルホエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートの第四級塩(DMAEMA)、酸性pHのDMAEMAなどが挙げられる。
【0049】
ユニットFを形成する(そして対応するRとLを提供する)のに使用できるモノマーのさらに別の例としては、単独のモノマーまたは混合したモノマーがある。そのようなモノマーの選択は、特に、アミン基モノマー(例えば2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、4-アミノスチレン、2-(イソ-プロピルアミノ)エチルスチレン、4-N-(ビニルベンジル)アミノブチル酸、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)-プロピルトリメトキシシランヒドロクロリド、N-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン);ヒドロキシモノマー(例えば2-メトキシ-4-ビニルフェノール、4-ビニルベンジルアルコール、4-ビニルフェノール、2,6-ジヒドロキシメチル-4-メトキシスチレン、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシスチレン、2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールモノ-メタクリレート、2-メタクリルオキシエチルグルコシド、ソルビトールメタクリレート、カプロラクトン 2-メタクリルオキシエステル、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート);カルボン酸モノマー(例えばアクリル酸、β-カルボキシエチルアクリル酸、4-ビニル安息香酸、4-((3-メタクリルオキシ)プロポキシ)安息香酸、モノ-(2-(メタクリルオキシ)エチル)フタレートイタコン酸、これらモノマーを重合した後のイミン化誘導体);例えばアルキルアミンとの反応によって反応性官能基に変換できるグリシジル(メタ)アクリレートなどのモノマーの中から行なう。
【0050】
特に好ましい架橋ユニットFは、アミン基モノマー(例えば2-アミノエチルメタクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート);ヒドロキシモノマー(例えば2-ヒドロキシエチルメタクリレート);カルボキシルモノマー(例えばモノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルスクシネート、メタクリル酸)に由来するものが可能である。
【0051】
ユニットGを形成する(そして対応するR2とYを提供する)のに使用できるモノマーのさらに別の例としては、アクリレート(R2=H)誘導体またはメタクリレート(R2=メチル)誘導体で、YがCOOR、Rがアルキル、シクロアルキル、アラルキル、アルカリール、ポリ(ジメチルシロキサン)、ビニルエステル、ビニルハロゲン、スチレン、任意的に置換されたスチレンのいずれかであるものが挙げられる。
【0052】
すでに指摘したように、一般式(I)は、ランダム・グラフト・コポリマー安定剤または櫛状コポリマー安定剤とブロック・コポリマーの両方を表わす。液体媒体が水である場合には、本発明で有用なランダム・グラフト・コポリマー安定剤または櫛状コポリマー安定剤は、疎水性骨格と親水性“アーム”を備えている。本発明の一実施態様では、界面活性剤はランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーであり、ユニットEでは、R1がメチル、-Xが-CO-Z'基(ただしZ'はメトキシ-PEG(PEG(ポリエチレングリコール)はエチレンオキシド単位(C2H4O)qの数を表わす)などの親水基である)になっている。ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーでは、一般式(I)のEは、重合度(DPn)が5〜100のメトキシPEG-(メタ)アクリレートというモノマーに由来することが好ましい。ユニットは分子鎖の中で任意の順番に配置されているため、ポリマーはランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーである。部分-CO-Z'がランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーの親水性“アーム”を形成し、残ったユニットが疎水性骨格を形成する。この骨格にも架橋部Lが含まれている。ユニットEは、モノマーおよび/またはマクロマーの混合物にすることができる。
【0053】
ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーでは、ユニットFは一般式(I)で定義されているものである。ユニットFのLはすでに定義した架橋基である。特に有用な架橋基は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(ただしR=Hまたはメチル)というモノマーに由来する-CO2CH2CH2OHである。ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーで使用する別の好ましいユニットFでは、Lは、N-(2-ヒドロキシルプロピル)メタクリルアミドに見られるような架橋基を含む(メタ)アクリレートエステルや機能化された(メタ)アクリルアミド誘導体などのモノマーに由来するもの、あるいは架橋基をフェニル環の置換基(例えば-SH、-OH、-NHA(Aは水素またはC1〜C4アルキル))として備える置換されたスチリル誘導体(例えば構造-C6H4-CH2NH2)に由来するものでもよい。
【0054】
ユニットGは、一般式(I)の関係ですでに定義したものにすることができる。
【0055】
ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーでは、eの値は0.05〜0.3、例えば0.1〜0.5であることが好ましく、fの値は0.01〜0.4、例えば0.02〜0.35、特に0.02〜0.20であることが好ましく、gの値は0.10〜0.90、例えば0.13〜0.90、特に0.50〜0.80であることが好ましい。
【0056】
本発明で用いるのに適したいくつかの新規な両親媒性グラフト・コポリマーとその調製方法がPCT出願WO 96/00251に記載されている。なおその内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
【0057】
本発明で使用する好ましいブロック・コポリマーは親水性ブロックで構成されており、その親水性ブロックは、一般式(I)に示したように疎水性ブロックと結合した親水基(開始剤および/または親水性モノマーE(-CH2CR1X-)の残基であることが好ましい)で構成されていて、疎水性ブロックは、疎水性モノマーG(-CH2CR2Y-)と架橋ユニットF(-CH2CH2CRL-)がランダムに、あるいは順番に共重合した構成になっている。ただしe+f+g=1.0である。f+gの値は0.2〜1.0であることが好ましい。一般式(I)のユニットEはすでに定義したものであり、eの値は0.0〜0.8である。eが0である場合には、一般式(I)において“*”で示される親水性開始剤が存在している必要がある。親水性開始剤はユニットEと結合することができる。上記の一般式(II)は、ATRPで使用される好ましい親水性開始剤である。
【0058】
上記のいくつかのブロック・コポリマーでは、所定の構造のマクロ開始剤(一般にZ-OCOCMe2Br)から親水性ブロックを導入することができる。このマクロ開始剤は、ユニットGを生成させる疎水性モノマー(CH2=CR2Y)とユニットFを生成させる架橋モノマー(CH2=CRL)をそれぞれ適量を用いて延長させたものである。このマクロ開始剤の代わりに、あるいはそれに加えて、親水性モノマー(CH2=CR1X)を用いて鎖を延長した開始剤(マクロ開始剤でなくてもよい)で親水性ブロックを生成させた後、疎水性モノマー(CH2=CR2Y)と架橋モノマー(CH2=CRL)を適量用いて疎水性ブロックを生成させることもできる(あるいは基CH2=CR1X、CH2=CR2Y、CH2=CRLをランダムに共重合させてグラフト・コポリマーを形成することができる)。
【0059】
一般に、ランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーのための好ましいモノマーは、ブロック・コポリマーにとっても好ましい。ユニットFとGは、ブロック・コポリマー界面活性剤の疎水性ブロックを含んでいる。fの値は0.01〜0.4であり、gの値は0.1〜0.9である。Yを選択すると界面活性剤のこのユニットの疎水性が決まる。例えばYが長鎖エステル基(例えばCO2C8H17)でR2が水素またはメチルである場合には、界面活性剤のこのユニットは疎水性が非常に強くなるであろう。逆にYがCOOCH3でR2が水素である場合には、このユニットの疎水性はより小さくなる。Gがスチリル・ユニット(すなわちYがフェニルでR2が水素)である場合には、このユニットは疎水性が非常に強くなるであろう。
【0060】
架橋ユニットFは、ユニットGの他のモノマーと望むモル比で共重合させて疎水性ブロックを作ることができる。典型的な比は、架橋ユニット1つに対して疎水性モノマーが2〜20ユニット、例えば2〜10ユニットである(すなわちfとgの比が1:2〜1:20、例えば1:2〜1:10である)。選択する比は、分子量と、疎水性ユニットと架橋ユニットの間の望ましい親水性-疎水性のバランスとに応じて異なる。選択する架橋ユニットの構造も、連続相に含まれる界面活性剤と架橋成分の間の望ましい化学反応がどのようなものであるかに応じて異なる。疎水性モノマーGは、一般に、懸濁した農薬に強く付着する。メタクリル酸メチルは適度に疎水性であり、アクリル酸ブチルとスチレンは疎水性がはるかに強い。界面活性剤のブロック群の最適な全分子量とサイズは、モノマーの性質と、使用する活性成分とに応じて異なる。ポリマー安定剤の分子量は、一般に、約1,000〜約100,000、例えば約1,000〜約20,000になる。好ましい分子量は約5,000〜約50,000である。
【0061】
ブロック・コポリマーで使用する好ましいユニットFとしては、ヒドロキシエチルメタクリレート(R=メチル、L=COOCH2CH2OH)、メタクリル酸(R=メチル、L=-CO2H)、モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルスクシネート(R=メチル、L=COOCH2CH2OCOCH2CH2-CO2H)、2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート(R=メチル、L=COOCH2CH2NH2)といったモノマーに由来するものが挙げられる。
【0062】
ユニットGは、重合したとき、懸濁した農薬の表面に強く吸着される水溶性ポリマーとなる1種類以上のモノマーから作ることができる。ブロック・コポリマー内のユニットGに適したモノマーの具体例としては、特に、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルエステル、ビニルハロゲン、スチレン、置換されたスチレンなどが挙げられる。
【0063】
架橋物質(反応パートナー)が本発明による懸濁液の液体連続相で使用され、反応性ポリマー界面活性剤の適切な官能基と反応して固体粒子の表面に吸着される。多数の架橋化学反応が知られている。架橋部Lがヒドロキシル反応基またはチオール反応基を有する場合には、適切な反応パートナーは、対応する反応基として、例えばイソシアネート、エステル、エポキシドを備えることができる。反応性ポリマー界面活性剤の架橋ヒドロキシル基と反応させるのに適したさらに別の材料としては、特に、ジビニルスルホンとグリセロールトリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0064】
架橋部Lがアミン反応基(上記の-NHA)を備えている場合には、適切な反応パートナーは、対応する反応基として、例えばイソシアネート、アセトアセトキシ、アルデヒド、アクリレート、ビニルスルホン、エポキシドを備えることができる。反応性ポリマー界面活性剤の架橋アミン基と反応させるのに適したさらに別の材料としては、特に、グリセロールトリグリシジルエーテル;グリセロールプロポキシレートトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパントリアクリレート;トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート;グルタル酸ジアルデヒド;2-(アセトアセトキシ)エチルアクリレート;1,4-ブタンジオールジアセトアセテートなどが挙げられる。
【0065】
架橋部Lが酸反応基を備えている場合には、適切な反応パートナーは、対応する反応基として、例えばイソシアネート、アジリジン、カルボジイミドを備えることができる。本発明における好ましい架橋部/反応パートナーの組み合わせは、ヒドロキシル-イソシアネート、アミン-イソシアネート、酸-カルボジイミドである。架橋基は、水相に含まれていて上記官能基と架橋反応することが可能な2種類以上の反応パートナー化合物と反応することができる。反応パートナーは、ポリマー界面活性剤の反応性架橋基と反応することが可能な2種類以上の官能基を含むことができる。
【0066】
水相に含まれる(溶解または懸濁している)物質の官能基で界面活性剤の架橋基と反応することのできるものの数は2以上であることが好ましい。その物質がポリマー界面活性剤の反応性架橋基と反応できさえすれば、本発明がその物質の構造の制約を受けることはない。その物質は、液体媒体(好ましくは水性媒体)に溶かすこと、または液体媒体に分散させること(例えば水に溶けない油を水性媒体中に分散させること)ができる。
【0067】
例えば本発明の一実施態様では、水性媒体に反応パートナーとしてイソシアネートが含まれている場合、ポリマー安定剤に含まれる架橋基は第一級アミノ、第二級アミノ、ヒドロキシル、チオール、カルボキシルであることが好ましい。ヒドロキシル基とアミノ基が好ましく、第一級アミノと第二級アミノが最も好ましい。第三級アミノ基はイソシアネートとの反応の触媒になれるが、通常は安定な反応生成物を形成しない。反応性ポリマー界面活性剤に2つ以上の官能基Lが存在している場合には、その官能基は化学的な機能が同じでも異なっていてもよい。ここでは一般的な構造についてイソシアネートとの反応を説明する。
【0068】
適切なモノマーを用いてカルボキシル基を導入することにより基Eを得ることができる。そのようにして得られる基Eとしては、例えばモノ-2-(メタクリロイル)オキシエチルスクシネート、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチルアクリル酸、4-ビニル安息香酸、イタコン酸がある。粒子表面への吸着を増大させることができるのは、最初に水性媒体のpHを酸のpKaよりも大きな値に調節して(すなわち酸は塩の形態である)水への溶解度を大きくし、次いで架橋の前または架橋中に酸のpKaよりも小さくして水への溶解度を小さくする場合である。カルボン酸はイソシアネートと反応して無水物の混合物を形成する。この無水物はカルボン酸アミドを形成して二酸化炭素を放出する。
RNCO + R1CO2H → [RNHCOOCOR1] → R1CONHR + CO2
【0069】
適切なモノマーを用いてヒドロキシル基を導入することにより基Eを得ることができる。そのようにして得られる基Eとしては、例えばヒドロキシエチルメタクリレートやN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドがある。適切なモノマーを用いてアミノ基を導入して基Eを誘導することができる。そのような基Eとしては、例えば2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドヒドロクロリド、2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレートがある。チオール基、ヒドロキシル基、アミノ基は、イソシアネートと反応し、それぞれチオカルバメート結合、ウレタン結合、尿素結合を形成する。
RNCO + R1SH → RNHCO-S-R1 チオカルバメート結合
RNCO + R1OH → RNHCO-O-R1 ウレタン結合
RNCO + R1NH → RNHCO-N-R1 尿素結合
【0070】
本発明のさらに別の一実施態様では、架橋基の性質を変えることや、コポリマー形成後の反応によって架橋基を導入することができる。例えばカルボキシル基をイミン化して櫛状ポリイミドを作ることができる。
-CO2H + エチレンイミン → -CO2-[CH2CH2NH]n-H
アミノ基はイソシアネートとすでに説明したように反応する。
【0071】
官能基とイソシアネートの反応性は、架橋が起こる速度に影響を与える。例えばイソシアネートは、一般に、アルコールや酸との反応よりもアミンとの反応のほうがはるかに速い。加水分解に対する感受性のある架橋剤(例えばイソシアネート基を含むもの)を水性媒体に添加するとき、反応性界面活性剤の官能基と水相に含まれる反応性化合物の間の反応が加水分解よりも速く起こることは1つの利点である。
【0072】
カルボン酸モノマーをポリマー界面活性剤に組み込む場合には、水相に含まれる反応化合物として多官能性アジリジン(例えばアヴェシア・ネオレジンズ社から入手できるCX-100、構造式は以下に示したもの、m=3)を利用することができる。アジリジンは、遊離カルボン酸のカルボキシル基と反応するが、塩の形態とは反応しない。
【0073】
【化26】

【0074】
カルボン酸モノマーをポリマー界面活性剤に組み込む場合には、ポリ(カルボジイミド)(例えばアヴェシア・ネオレジンズ社から入手できるCX-300)も水相に含まれる反応性化合物として用いることができる。カルボン酸とカルボジイミドの反応によって一般に以下に示す3つのタイプの生成物が得られると考えられている。N-アシル尿素生成物と尿素生成物は安定であるのに対し、無水物は加水分解して2つのカルボン酸になることができる。
【0075】
【化27】

【0076】
本発明で用いるのに適したイソシアネートの具体例としては、特に、m-フェニレンジイソシアネート;1-クロロ-2,4-フェニレンジイソシアネート;4,4'-メチレンビス(フェニルイソシアネート);3,3'ジメチル-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート;4,4'-メチレンビス(2-メチルフェニルイソシアネート);3,3'ジメトキシ-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート;2,6-トリレンジイソシアネート;テトラメチル-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート;ヘキサン-1,6-ジイソシアネート;テトラメチレンキシレンジイソシアネート;α,4-トリレンジイソシアネート;トリレン2,5-ジイソシアネート;2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジイソシアネート;ポリ(エチレンアジペート)トリレン2,4-ジイソシアネートを末端に有するもの;ポリ(イソホロンジイソシアネート);ポリ(プロピレングリコール)トリレン2,4-ジイソシアネートを末端に有するもの;ポリ(1,4-ブタンジオール)トリレンジイソシアネートを末端に有するもの;1,8-ジイソシアナトオクタン;ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート);ポリ(トリレン2,4-ジイソシアネート);ポリ(テトラフルオロエチレンオキシド-コ-ジフルオロメチレンオキシド)α,ω-ジイソシアネート;1,4-ジイソシアナトブタン;1,3-フェニレンジイソシアネート;1,4-フェニレンジイソシアネート;トランス-1,4-シクロへキシレンジイソシアネート;m-キシリレンジイソシアネート;α,α-ジメチル-α,4-フェニルエチルジイソシアネート;4-ブロモ-6-メチル-1,3-フェニレンジイソシアネート;4-クロロ-6-メチル-1,3-フェニレンジイソシアネート;ポリ(1,4-ブタンジオール)イソホロンジイソシアネートを末端に有するもの;3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート;1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼンが挙げられる。
【0077】
反応性ポリマー界面活性剤の架橋可能な官能基の数と比べて架橋材料の官能基が化学量論的に見て同数以上になるようにすることが好ましい。一例として、反応性ポリマー界面活性剤の“n”個のアミノ基に関しては、架橋材料から同数以上のイソシアネート基を水相に添加することが適切であろう。水相材料の官能基を過剰にすると、望む架橋反応が起こる前に起こる可能性のあるあらゆる加水分解と相殺させることができる。
【0078】
固体農薬を水相に含む懸濁液、例えば従来の懸濁濃縮液の調製物は、一般に水相と適切な界面活性剤の存在下でその固体を粉砕することによって得られる。反応性ポリマー界面活性剤は、粉砕プロセスを助けるために(架橋前に)組み込まれる場合に効果的な分散剤となるとともに、その後架橋することによって水相中で粉砕した粒子の懸濁液を安定化させるというのが本発明の1つの利点である。
【0079】
したがって本発明のさらに別の特徴によれば、実質的に混和しない有機溶媒を含む水相に固体粒子が含まれた懸濁液を作る方法であって、
1.水相の存在下と、少なくともいくつかのビニルモノマーは架橋反応することのできる官能基を有する複数のビニルモノマー(ビニルエステルまたはその加水分解生成物には限られない)を含むとともに、親水部と疎水部を備えるポリマー安定剤の存在下で、固体を粉砕するステップと、その後、
2.ポリマー安定剤を、水相に含まれていて(溶解または懸濁していて)上記官能基と架橋することのできる1種類以上の物質と反応させるステップを含んでおり、
(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた固体の重量比が、懸濁させた固体5部に対してポリマー安定剤が1部以下であることを特徴とする方法が提供される。
【0080】
粉砕後、架橋反応することのできる物質を水相に添加することが好ましい。架橋反応することのできる物質は、懸濁した固体粒子の表面に架橋前に吸着できる機会があることが好ましい。一般に、その吸着には5秒〜30分かかる。
【0081】
本発明を以下の実施例によって説明する。実施例では部と%は、特に断わらない限りすべて重量部、重量%である。以下の略号を使用する。
AEMA.HCl:2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド;シグマ・オールドリッチ社から。
tBAEMA:2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、シグマ・オールドリッチ社から。
CX-100:アジリジン架橋剤;アヴェシア・ネオレジンズ社。
CX-300:ポリ(カルボジイミド)架橋剤;アヴェシア・ネオレジンズ社から。
DETA:ジエチレントリアミン、シグマ・オールドリッチ社から。
DHPMA:2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、レーム社。
DMAEMA:2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート;シグマ・オールドリッチ社から。
QuatDMAEMA(PP):2-(トリメチルアンモニウム)エチルメタクリレートヨウ化物または塩化物。PPは、使用するモノマーがDMAEMAであり、四級化反応がヨウ化メチルを用いて重合後に行なわれたことを意味する。
DMMAEAベタイン:2-(N,N-ジメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウム)エタン酸(L.A. Mkrtchyan他、Vysokomol. Soedin.、シリーズB、第19巻(3)、214〜216ページ、1977年という文献の方法を改変して調製)。
DMMAPSAベタイン:3-(N,N-ジメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウム)プロピルスルホン酸;シグマ・オールドリッチ社から。
EDTA:エチレンジアミン四酢酸;シグマ・オールドリッチ社から。
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート;シグマ・オールドリッチ社から。
IPDI:イソホロンジイソシアネート(異性体の混合物);シグマ・オールドリッチ社から。
NaMAA:メタクリル酸のナトリウム塩;シグマ・オールドリッチ社から。
MAOES:モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルスクシネート;ポリサイエンシーズ社から。
MMA:メタクリル酸メチル;シグマ・オールドリッチ社から。
PEGMA(#):モノ-メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート。#はPEG鎖の平均重合度である;ポリサイエンシーズ社またはラポルト・パフォーマンス・ケミカルズ社から。
PPGMA(#):モノ-メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート。#はPEG鎖の平均重合度である;ラポルト・パフォーマンス・ケミカルズ社から。
SSA:スチレン-4-スルホン酸;シグマ・オールドリッチ社から。
TDI:トリレンジイソシアネート(異性体の混合物);シグマ・オールドリッチ社から。
アバメクチン:殺虫剤、殺ダニ剤、(10E,14E,16E,22Z)-(1R,4S,5'S,6S,6'R,8R,12S,13S,20R,21R,24S)-6'-[(S)-アルキル]-21,24-ジヒドロキシ-5',11,13,22-テトラメチル-2-オキソ-3,7,19-トリオキサテトラシクロ[15.6.1.14,8.020,24]ペンタコサ-10,14,16,22-テトラエン-6-スピロ-2'-(5',6'-ジヒドロ-2'H-ピラン)-12-イル2,6-ジデオキシ-4-O-(2,6-ジデオキシ-3-O-メチル-α-L-アラビノ-ヘキソピラノシル)-3-O-メチル-α-L-アラビノ-ヘキソピラノシド(異性体の混合物)。アルキル=(s-ブチル:イソ-プロピル、4:1)。
アゾキシストロビン:殺真菌剤、メチル(E)-2-2-6-(2シアノフェノキシ)ピリミジン-4-イルオキシ-フェニル-3-メトキシアクリレート。
クロロタロニル:殺真菌剤、テトラクロロイソフタロニトリル。
エマメクチンベンゾエート:殺虫剤、(10E,14E,16E,22Z)-(1R,4S,5'S,6S,6'R,8R,12S,13S,20R,21R,24S)-6'-[(S)-アルキル]-21,24-ジヒドロキシ-5',11,13,22-テトラメチル-2-オキソ-3,7,19-トリオキサテトラシクロ[15.6.1.14,8.020,24]ペンタコサ-10,14,16,22-テトラエン-6-スピロ-2'-(5',6'-ジヒドロ-2'H-ピラン)-12-イル2,6-ジデオキシ-3-O-メチル-4-O-(2,4,6-トリデオキシ-3-O-メチル-4-メチルアミノ-α-L-リクソ-ヘキソピラノシル)-α-L-アラビノ-ヘキソピラノシドの安息香酸塩(異性体の混合物)。アルキル=(s-ブチル:イソ-プロピル、9:1)。
ピコキシストロビン:殺真菌剤、メチル(E)-3-メトキシ-2-[2-(6-トリフルオロメチル-2-ピリジルオキシメチル)フェニル]アクリレート。
チアメトキサム:殺虫剤、3-(2-クロロ-1,3-チアゾール-5-イルメチル)-5-メチル-1,3,5-オキサジアジナン-4-イリデン(ニトロ)アミン。
アヴェシア・ネオレジンズ社、ワールワイク、オランダ国。ラポルト・パフォーマンス・ケミカルズ社、ハイズ、イギリス国。ポリサイエンシーズ社、ウォーリントン、ペンシルヴェニア州18976、アメリカ合衆国。レーム社、64293 ダルムシュタット、ドイツ国。シグマ・オールドリッチ社、ギリンガム、イギリス国。
【0082】
明確にするため、上記モノマーの構造を以下に示す。
【0083】
【化28】

【実施例1】
【0084】
一般的な方法1
【0085】
この実施例では、原子移動ラジカル重合(ATRP)による反応性ポリマー界面活性剤の合成を説明する。
【0086】
一般的な合成法
【0087】
典型的な重合では、必要とされるモル比になった複数のモノマーを適切な溶媒または溶媒混合物に溶かした(表1を参照)。望む生成物が非イオン性ブロック・コポリマーまたはランダム・グラフト・コポリマーまたは櫛状コポリマーである場合には、必要なすべてのモノマーを一度に使用した。望む生成物がイオン性ブロック・コポリマーである場合には、1つのブロックのためのモノマー(親水性モノマーまたは疎水性モノマー)だけを使用した。第2のブロックのためのモノマーは、第1のバッチが十分にポリマーに変換された後に第2のバッチに添加した。モノマーの多くは有機溶媒(例えばAEMA.HCl、QuatDMAEMA、SSA、DMMAPSAベタイン、DMMAEAベタイン)にほとんど溶けないため、メタノール-水混合物(1:1〜3:1v/v)を最もよく使用した。必要なすべてのモノマーが芳香族炭化水素に溶ける場合にはトルエンを使うこともあった。
【0088】
適切な開始剤を添加した(表1を参照)。非イオン性ブロック・コポリマーを調製する場合には、それは、例えば、文献(Jankova他、Macromolecules、第31巻、538〜541ページ、1998年)の方法で調製したモノ-2-ブロモイソブチリル-モノ-メトキシポリ(エチレングリコール)(PEG-Br(#)と略する。#はエチレングリコール単位の数)というポリマーマクロ開始剤であった。グラフト・コポリマーまたはイオン性ブロック・コポリマーを調製する場合には、開始剤はモノマーハロ化合物であった。例えば4-(ブロモメチル)安息香酸(BMBA)、エチル-2-ブロモイソブチレート(EtBiB)、さまざまなモノマー2-ブロモイソブチリルエステル(BiB-R)が可能である。添加する開始剤の量は、目標とするコポリマーの分子量に応じて異なっていた。その量は、関係式:
(モノマーのモル数)/(開始剤のモル数)=コポリマーの重合度
から計算した。それぞれの実施例において目標とする平均分子量Mnを表1にドルトン(Da)を単位として示してある。
【0089】
その場で銅錯体を形成するためのリガンドも添加した(表1を参照)。それは、通常はメタノール/水混合物の中で重合させるための2,2'-ビピリジン(BPY)と、トルエンの中で重合させるためのN-n-プロピル-2-ピリジルメタンイミン(PPMA)(Haddleton他、Macromolecules、第30巻、2190〜2193ページ、1997年という文献の方法で調製)であった。
【0090】
乾燥窒素ガスを15〜30分間分散させることによって反応溶液から酸素を追い出した後、窒素を満たした中に適切な銅(I)塩をあらかじめ充填した容器にその反応溶液を移し、重合を媒介する錯体を形成した。銅(I)塩は通常は臭化第一銅であるが、塩化第一銅も用いられることがある(表1を参照)。反応は、窒素雰囲気下で25〜90℃の範囲で温度制御して(表1を参照)3〜24時間にわたって行なわせた。反応の程度は1H-NMR分光法で測定した。イオン性ブロック・コポリマーの場合には、第1のモノマー・バッチの変換率が80%を超えたときに第2のモノマー混合物または第2のコモノマー混合物を添加して第2のブロックを形成した。反応終了後、反応溶液をシリカ・カラムを通過させ、真空下で溶媒を蒸発させるか、ヘキサンまたはジエチルエーテルの中で選択的に沈殿させることによってポリマーを分離した。重合後にDMAEMAの四級化が必要な反応では、反応溶液をトルエンで希釈し、冷却し、濾過して不溶性材料を除去した後、溶媒を真空下で除去した。ポリマーをTHFに溶かし、第三級アミノ基に対してモル数が20%過剰のヨードメタンを添加した。この溶液を窒素雰囲気下で20℃にて16〜20時間にわたって撹拌し、ヘキサン中の選択的沈殿によってポリマーを分離した。次に、ヘキサンを用いたソックスレー抽出を24時間行なうことによってポリマーをさらに精製した後、真空下で50℃にて乾燥させた。
【0091】
上記の方法を利用して、表1に詳細を示したポリマー界面活性剤を調製した。
実施例1.1〜1.3は、カルボン酸を含むブロック・コポリマーと櫛状コポリマーであり、
実施例1.4〜1.6は、アミンを含むブロック・コポリマーと櫛状コポリマー、アミンとカルボン酸を含むブロック・コポリマーと櫛状コポリマーであり、
実施例1.18〜1.27は、ヒドロキシルを含むブロック・コポリマーと櫛状コポリマーである。
使用したモノマーの割合を示す欄では、*は、ジブロック・コポリマーのBブロックを形成するために第2のバッチに添加したモノマーを表わす。
【0092】
【表1】

【表2】

【表3】

【実施例2】
【0093】
一般的な方法2
【0094】
この実施例では、粉砕した農薬の水性分散液を反応性ポリマー界面活性剤の存在下で調製する方法を説明する。
【0095】
一般的な分散法
【0096】
本発明が、分散液を調製するのに利用したこの一般的な方法に限定されると考えてはならない。
【0097】
諸成分(表2)を4番のジルコニア・ビーズを用いてグレン・クレストン・スペックス8000シェイカー・ミルの中で30分間にわたって粉砕することによって懸濁濃縮液(SC)を調製した。典型的なSCは、脱イオン水に含まれた20%w/wの固体農薬活性成分で構成されていた。反応性ポリマー安定剤を固体に対して0.5〜10%w/wの濃度(ポリマー安定剤と懸濁させた固体の重量比が1:200〜1:10)で使用した。この懸濁液に関し、粒径、発泡度、流動度を調べた。粒径は、ポリマー安定剤が分散剤および粉砕助剤として有効であることの指標として利用した。表2に示した全分散液の分散の品質は、“優”(E)または“良”(G)であった。“優”は、一般に、発泡がほとんどまたはまったくなくて粒径が2〜3μm以下の流動SCであり;“良”は、発泡がほとんどない状態から中程度で粒径が5μm以下のわずかに粘性のあるSCである。
【0098】
上記の一般的な手続きを利用し、表2に詳細を示した分散液を調製した。使用したポリマー安定剤は、表1の番号で示してある。表2では、“固体の%”の欄は、脱イオン水に含まれる固体農薬成分の%w/wを表わす。“ポリマーの濃度”の欄は、活性成分に対するポリマー安定剤の%w/wを表わす。粉砕後に分散させた粒子のサイズは、表2ではミクロン単位で示してある。n.mは測定せずを意味し、E=優、G=良である。
【0099】
【表4】

【表5】

【表6】

【実施例3】
【0100】
実施例3.1〜3.28
【0101】
これら実施例では、架橋物質との反応によってポリマー安定化剤を架橋させて本発明の粒子懸濁液を形成することについて説明する。以下の手続きを利用した。
【0102】
ヒドロキシ基を有するポリマー安定剤とアミノ基を有するポリマー安定剤を架橋させた。そのためには、(i)TDIをSCの水相に分散させてしばらくの時間TDIを粒子に吸着させた後、1時間にわたって50℃に加熱するか室温にて3時間にわたって撹拌する、あるいは(ii)IPDIをSCの水相に分散させてしばらくの時間IPDIを粒子に吸着させた後、ジエチレントリアミン(DETA)を添加して過剰なイソシアネートと反応させる。
【0103】
CX-100またはCX-300を9以上のpHでSCの中に分散させ、室温にて30分間にわたって撹拌して架橋剤を吸着させることにより、カルボン酸基RPS SCを架橋させた。pHを約2まで小さくし、さらに1時間にわたって撹拌した後、少量のEDTAを添加して過剰なカルボジイミドと反応させた。
【0104】
上記の一般的な手続きを利用し、表3に詳細を示した分散液を調製した。表3に示した本発明によるすべての懸濁濃縮液の品質は、“優”または“良”と判定された。“優”は、架橋反応中にSC粒径または粘度が実質的に変化しないサンプルを意味し、“良”は、架橋反応中にわずかに凝集が起こるが懸濁液の性質に大きな変化はなかったことを意味する。表3では、架橋した分散液を表2の参照番号で示してある。その参照番号により、表1の参照番号からポリマー界面活性剤が何であるかがわかる。
【0105】
【表7】

【実施例4】
【0106】
この実施例では、本発明の方法によってアバメクチンの粒子懸濁液の安定性が向上することを説明する。実施例1.5からのポリマーを用いてアバメクチンSCのサンプルを調製し、実施例2.23の架橋していない生成物を形成した。これを、対応する架橋したポリマー(実施例3.6)と比較した。SCサンプルをさまざまな濃度のNa2SO4溶液で希釈してSCの安定性を調べた。いろいろな電解質濃度といろいろな温度での沈降を調べ、そうした条件下での懸濁液の安定性を明らかにした。濃度と温度が大きくなるにつれ、懸濁液が凝集して大きな塊を形成する条件に徐々に到達した。電解質の濃度が所定の値のときに凝集が見られた温度において、TDIに対する反応性ポリマー界面活性剤の架橋が増大した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相を含んでいて、その水相には、その水相に実質的に溶けない固体農薬が懸濁されている粒子懸濁液であって、その懸濁液は、
(i)親水部と、疎水部を備えるとともに、少なくともいくつかのビニルモノマーは架橋求核反応または縮合反応することのできる官能基を有する複数のビニルモノマー(ビニルエステルまたはその加水分解生成物には限られない)を含むポリマー安定剤と、
(ii)そのポリマー安定剤を、水相に含まれていて上記官能基と架橋反応することのできる1種類以上の物質との反応生成物によって安定化され、
(a)架橋前のポリマー安定剤と(b)懸濁させた固体の重量比は、懸濁させた固体5重量部に対してポリマー安定剤が1重量部未満であることを特徴とする粒子懸濁液。

【公開番号】特開2011−207894(P2011−207894A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111825(P2011−111825)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【分割の表示】特願2004−558778(P2004−558778)の分割
【原出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【Fターム(参考)】