説明

粒子捕集装置

【課題】微細な流路に組み合わせたフィルタで、より効率的に粒子捕集が行えるようにする。
【解決手段】内側面に流路形成領域121を備える流路基板101と、流路基板101の流路形成領域121を囲って内側面に形成された接合領域102と、接合領域102で流路基板101に接合して流路形成領域121を覆うフィルタ層(分離層)103と、流路基板101の流路形成領域121に形成された凸部領域104および凹部領域105からなる流路型とを備え、流路基板101は、凸部領域104がフィルタ層103と離間する状態に形成され、凸部領域104とフィルタ層103とが当接する状態に変形可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタなどを用いることで、気体および液体などの流体中より、細菌などの微粒子を捕集する粒子捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気や水などの流体中の微粒子を分析するためには、フィルタなどの分離層を用いて微粒子を捕集する機構が用いられる(特許文献1参照)。また、微粒子を分析する際には、直径数百μm以下のマイクロ流路によって構成された分析装置がしばしば利用される。マイクロ流路構造を利用することにより、分析装置のデッドボリュームが低減され、微量のサンプルと試薬を効率よく反応させられるため、高感度分析が可能となり、サンプルや試薬消費量の低減などの効果も期待できる。また、微粒子を微細な空間に捕捉することが可能になるため、粒子の詳細な観察にも適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2984161号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lab on a Chip, 2006, 6, 1125-1139.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した分析を行う流路においては、試料となる微粒子を分析するために、前述したように、より微小な容積(体積)の中で試料が取り扱えるようにすることが重要となる。言い換えると、より微細に形成することが要求される。例えば、直径数百μm以下のマイクロ流路によって分析装置を構成する技術が数多く開発されている(非特許文献1参照)。ただし、これらのマイクロ流路構造は、微小な管径および複雑な流路構造によって流路抵抗が増大するため、流路構造を通過できる流量には制限が生じる。例えば、数ml/minを超えるような流量の水溶液を連続して流す処理には適さない場合が多い。
【0006】
一方、フィルタを用いて効率的に粒子捕集を行うためには、まず、フィルタの有効面積を大きくし、単位時間あたりに処理可能な流体の量を増加させることが重要となる。また、処理対象の流体を輸送する経路は、流路抵抗を低減するために、大口径とされることが要求される。言い換えると、フィルタを微細な流路に組み合わせて用いると、フィルタ有効面積を小さくし、流路抵抗の増大を招くため、効率的な粒子捕集が行えないという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、微細な流路に組み合わせたフィルタで、より効率的に粒子捕集が行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る粒子捕集装置は、内側面に流路形成領域を備える流路基板と、流路基板の流路形成領域を囲って内側面に形成された接合領域と、接合領域で流路基板に接合して流路形成領域を覆う分離層と、流路基板の流路形成領域に形成された凸部領域および凹部領域からなる流路型とを備え、流路基板は、凸部領域が分離層と離間する状態に形成され、加えて、凸部領域と分離層とが当接する状態に変形可能とされ、流路基板の流路形成領域を変形させて凸部領域と分離層とを当接させることで流路型を構成する凹部領域により流路が形成される。
【0009】
上記粒子捕集装置において、分離層の表面は、疎水性を備えていてもよい。また、分離層は、水溶液を透過可能とされていてもよい。
【0010】
上記粒子捕集装置において、流路基板の流路型に対応する凹凸部が形成され、凹凸部を流路型に対向させて分離層を流路基板とで挟む状態に配置される支持基板を備えるようにしてもよい。この場合、凹凸部の凹部に収容されて分離層を透過しない表面張力を有する液体を備えるようにしてもよい。また、凹凸部で流路が形成されていてもよい。
【0011】
上記粒子捕集装置において、分離層を流路基板とで挟む状態に配置される支持基板を備えるようにしてもよい。また、支持基板は、流路形成領域に対応する領域と分離層との間に空隙を備えて流路形成領域の領域を囲って形成された接合部で分離層に当接し、空隙をなくして流路形成領域に対応する領域の支持基板が分離層に当接する状態に変形可能とされていてもよい。
【0012】
なお、流路基板の外側面から流路形成領域に貫通する入出力口を備えるようにしてもよい。また、分離層は、フィルタである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、流路基板は、凸部領域が分離層と離間する状態に形成し、凸部領域と分離層とが当接する状態に変形可能としたので、微細な流路に組み合わせたフィルタで、より効率的に粒子捕集が行えるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1における粒子捕集装置の一部構成を示す平面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1における粒子捕集装置が変形した状態を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2における粒子捕集装置が変形した状態を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3における他の粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態4における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態5における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図10A】図10Aは、本発明の実施の形態6における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図10B】図10Bは、本発明の実施の形態6における粒子捕集装置が変形した状態を示す断面図である。
【図11A】図11Aは、本発明の実施の形態7における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。
【図11B】図11Bは、本発明の実施の形態7における粒子捕集装置が変形した状態を示す断面図である。
【図12】図12は、実験のために作製した粒子捕集装置の流路構造の構成を示す平面図である。
【図13】図13は、実験のために作製した粒子捕集装置の一部構成を示す斜視図である。
【図14】図14は、実験のために作製した粒子捕集装置の一部構成を示す斜視図である。
【図15】図15は、実験における2つの状態の各々において、流路出口に吸引ポンプを接続して負圧を発生させ、フィルタ層を通過する空気の流量を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0016】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における粒子捕集装置の構成を示す断面図である。また、図2は、本発明の実施の形態1における粒子捕集装置の一部構成を示す平面図である。
【0017】
この粒子捕集装置は、内側面に流路形成領域121を備える流路基板101と、流路基板101の流路形成領域121を囲って内側面に形成された接合領域102と、接合領域102で流路基板101に接合して流路形成領域121を覆うフィルタ層(分離層)103と、流路基板101の流路形成領域121に形成された凸部領域104および凹部領域105からなる流路型とを備える。
【0018】
また、流路基板101は、凸部領域104がフィルタ層103と離間する状態に形成され、凸部領域104とフィルタ層103とが当接する状態に変形可能とされている。なお、図2の平面図に示すように、流路基板101の外側面から流路形成領域121に貫通する入出力口106を備える。図2に示す例では、2つの入出力口106を備えている。
【0019】
本実施の形態における粒子捕集装置は、図3の断面図に示すように、流路基板101の流路形成領域121を変形させて凸部領域104とフィルタ層103とを当接させることで、流路型を構成する凹部領域105により流路が形成されるようになる。例えば、クランプなどにより、流路基板101およびフィルタ層103を挟んで押し付けることで、流路形成領域121を変形させて凸部領域104とフィルタ層103とを当接させればよい。また、凸部領域104および凹部領域105が形成されている内部を、入出力口106を介して減圧して内部の圧力を大気圧以下とすることで、外部と内部の圧力差により流路形成領域121を変形させて凸部領域104とフィルタ層103とを当接させてもよい。
【0020】
上述した粒子捕集装置は、まず、図1を用いて説明したように、凸部領域104がフィルタ層103と離間する状態(状態A)では、接合領域102の内側の流路基板101とフィルタ層103との間には、空間131が形成される。また、空間131の全域において、フィルタ層103の流路基板101側の面が露出した状態となる。
【0021】
一方、図3を用いて説明したように、凸部領域104とフィルタ層103とを当接させた状態(状態B)では、凹部領域105による流路が形成されるようになる。この状態では、流路となる凹部領域105の空間(流路空間)において、フィルタ層103の流路基板101側の面が露出した状態となる。
【0022】
ここで、状態Aと状態Bとを比較すると、まず、流路基板101とフィルタ層103との間の空間の体積は、状態Aの方が大きい。また、フィルタ層103の流路基板101の側に露出するフィルタ層103の面積は、状態Aの方が広い。言い換えると、流路基板101とフィルタ層103との間の空間の体積は、状態Bの方が小さい。また、フィルタ層103の流路基板101の側に露出するフィルタ層103の面積は、状態Bの方が狭い。
【0023】
従って、まず、状態Aでは、流路基板101とフィルタ層103との間に、より多くの流体を流せるようになり、また、流した流体に対して、より広い面積のフィルタ層103を接触させることができる。このため、流路基板101とフィルタ層103との間に流す流体中の微粒子の捕集効率は、状態Aの方が高いものとなる。
【0024】
一方、状態Bでは、流路基板101とフィルタ層103との間に流れる流体の量を制限して少量とすることができる。このため、高感度な分析が可能となる。
【0025】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態では、フィルタ層103の撓みを防止する。上述した状態Bとする段階で、フィルタ層103の撓みを防止するために、例えば、図4および図5に示すように、支持基板401を用いるようにしてもよい。支持基板401は、流路基板101の流路型に対応する凸部402および凹部403からなる凹凸部が形成され、凹凸部を流路型に対向させてフィルタ層103を流路基板101とで挟む状態に配置する。支持基板401の存在により、状態Bで、図5に示すように、流路基板101の凸部領域104と、支持基板401の凸部402とが、対向してフィルタ層103を挟むので、フィルタ層103の撓みが防止できる。
【0026】
また、支持基板401の凸部402および凹部403(凹凸部)により流路が形成されていてもよい。
【0027】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。例えば、状態Bで試薬などを流路に供給し、流路内のフィルタ層103上に捕集されている微粒子の分析を行う場合、供給した試薬がフィルタ層103より外側に漏れる場合がある。このように試薬が漏れると、正確な分析の阻害となる。このような場合、例えば、図6に示すように、フィルタ層103の外側面を覆う支持基板601をフィルタ層103の外側面に当接させればよい。支持基板601により、フィルタ層103より試薬などの液漏れが抑制できるようになる。
【0028】
ここで、図7に示すように、状態Aでは、空隙702を備える状態で支持基板701を配置してもよい。支持基板701は、流路形成領域121に対応する領域と、フィルタ層103との間に空隙702を備え、この空隙702が配置されている流路形成領域121の領域を囲って形成された接合部703で、フィルタ層103に当接させる。この状態では、フィルタ層103による濾過が行える。また、支持基板701は、流路形成領域121に対応する領域が、空隙702をなくしてフィルタ層103に当接する状態に変形可能とされていればよい。この当接した状態が、図6に示す支持基板601である。
【0029】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態では、フィルタ層103からの漏れの抑制を目的とし、図8に示すように、支持基板401の凹部403に、フィルタ層103を透過しない表面張力を備える液体801を収容してもよい。液体801がフィルタ層103の外側面に接触していれば、当該領域を介したフィルタ層103からの漏れが抑制できるようになる。
【0030】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態では、凸部領域104をフィルタ層103に当接させた後、流路基板101とフィルタ層103との接合状態を維持するために、図9に示すように、流路基板101にバキュームチャック溝901を設ける。バキュームチャック溝901は、接続孔902を介して外部に連通し、図示しない排気機構などに接続可能とされている。バキュームチャック溝901は、凸部領域104などのフィルタ層103に接触する箇所に形成すればよい。凸部領域104をフィルタ層103に当接させた後、バキュームチャック溝901を減圧状態とすることで、流路基板101とフィルタ層103との接合状態を、より強固に維持できるようになる。
【0031】
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6について説明する。図10Aおよび図10Bは、本実施の形態における粒子捕集装置の構成を示す構成図である。図10Aおよび図10Bでは、断面を模式的に示している。
【0032】
この粒子捕捉装置は、まず、前述した実施の形態1と同様に、内側面に流路形成領域(不図示)を備える流路基板101と、接合領域(不図示)で流路基板101に接合して流路形成領域を覆うフィルタ層103とを備える。また、2つの入出力口106を備えている。また、フィルタ層103の外側面を覆う支持基板701がフィルタ層103の外側面に当接して設けられている。この構成は、前述した実施の形態3と同様である。なお、流路基板101の流路形成領域には、凸部領域および凹部領域からなる流路型が形成されているが、図では省略している。
【0033】
上述した構成に加え、流路基板101の外側に設けられた圧力調整部1001、および支持基板701の側に設けられた圧力調整部1002を備える。圧力調整部1001は、流路基板101の流路形成領域上部に圧力室1011を備え、また、圧力室1011には、流通口1012が接続している。また、圧力室1011以外の領域において、入出力口106に連通する入出力口1013を備える。同様に、圧力調整部1002は、支持基板701の流路形成領域上部に圧力室1021を備え、また、圧力室1021には、流通口1022が接続している。また、圧力室1021以外の領域において、入出力口106に連通する入出力口1023を備える。
【0034】
本実施の形態における粒子捕集装置は、流通口1012を介して圧力室1011を減圧し、流通口1022を介して圧力室1021を減圧することで、図10Bに示すように、流路基板101を圧力室1011の側に撓ませ(変形させ)て空間131を形成し、支持基板701を圧力室1021の側に撓ませて空隙702を形成することができる。このように、空間131および空隙702を形成することで、流路基板101とフィルタ層103との間に、より多くの流体を流せるようになり、また、流した流体に対して、より広い面積のフィルタ層103を接触させることができる。このため、流路基板101とフィルタ層103との間に流す流体中の微粒子の捕集効率を、図10Aに示す状態に比較して向上させることができる。
【0035】
[実施の形態7]
次に、本発明の実施の形態7について説明する。図11Aおよび図11Bは、本実施の形態における粒子捕集装置の構成を示す構成図である。図11Aおよび図11Bでは、断面を模式的に示している。
【0036】
この粒子捕捉装置は、まず、前述した実施の形態3と同様に、内側面に流路形成領域(不図示)を備える流路基板101と、接合領域(不図示)で流路基板101に接合して流路形成領域を覆うフィルタ層103とを備える。また、2つの入出力口106を備えている。また、フィルタ層103の外側面を覆う支持基板701がフィルタ層103の外側面に当接して設けられている。なお、流路基板101の流路形成領域には、凸部領域および凹部領域からなる流路型が形成されているが、図では省略している。
【0037】
上述した構成に加え、流路基板101の外側に設けられた圧力調整部1101、および支持基板701の側に設けられた圧力調整部1102を備える。圧力調整部1101は、流路基板101の流路形成領域上部に圧力室1111を備え、また、圧力室1111以外の領域において、入出力口106に連通する入出力口1113を備える。同様に、圧力調整部1102は、支持基板701の流路形成領域上部に圧力室1121を備え、また、圧力室1121以外の領域において、入出力口106に連通する入出力口1123を備える。
【0038】
本実施の形態における粒子捕集装置は、例えば、入出力口1113を閉じた状態で、入出力口1123を介して圧力室1121および圧力室1111を減圧することで、図11Bに示すように、流路基板101を圧力室1111の側に撓ませ(変形させ)て空間131を形成し、支持基板701を圧力室1121の側に撓ませて空隙702を形成することができる。このように、空間131および空隙702を形成することで、流路基板101とフィルタ層103との間に、より多くの流体を流せるようになり、また、流した流体に対して、より広い面積のフィルタ層103を接触させることができる。このため、流路基板101とフィルタ層103との間に流す流体中の微粒子の捕集効率を、図11Aに示す状態に比較して向上させることができる。
【0039】
[実験結果]
次に、実際に作製した粒子捕集装置について、流路基板の流路形成領域が分離層(フィルタ層)に接触している状態と、両者が離間している状態での流路抵抗の違いと、接触した状態で流路形成領域の流路構造が流路として機能することを確認した結果について説明する。
【0040】
まず、図12の平面図に示す流路構造を形成した。この流路構造の両端の円形の部分が入出力口106となる。また、領域1201にフィルタ層を通過した流体が通過する流路出口が設けられる。領域1201に設ける流路出口は、平面視直径2mmの円形である。この流路構造を形成した流路基板および、フィルタ層を挟む支持基板は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から構成した。また、フィルタ層は、ポアサイズ0.4μmのポリカーボネート製メンブレンフィルタから構成した。
【0041】
実験においては、まず、フィルタ層側の流路出口に吸引ポンプを接続し、段階的に圧力を変化させながら、フィルタ層を通過する空気の流量を測定する。フィルタ層と流路基板が当接した状態と、フィルタ層と流路基板が離間した状態の双方について、空気流量の測定を行い、流路構造による圧損の影響を確認した。
【0042】
次に、フィルタ層と流路基板が当接した状態で、マイクロ流路構造として機能することを確認するため、入出力部より流路構造に水溶液を注入し、漏れなどが生じないことを確認した。
【0043】
ここで、流路基板とフィルタ層とが離間している状態を、図13の斜視図に示す。図13に示すように、流路形成領域121において、流路基板101より支持基板601を離間させることで、フィルタ層103を流路基板101より離間させる。なお、支持基板601には、流路出口1301が形成されている。このようにして、流路基板101とフィルタ層103との間に5mm程度の隙間がある状態で実験を行った。流体は流路基板101に形成されている流路構造の影響を受けずに、フィルタ層103を通過することができる。
【0044】
また、流路基板とフィルタ層とが当接している状態を,図14の斜視図に示す、図14に示すように、流路基板101を支持基板601に接触させることで、フィルタ層103を流路基板101に当接させる。このようにして、流路基板101がフィルタ層103に当接した状態で実験を行うと、流体は流路構造を経由してフィルタ層103を通過するため、圧力損失が生じる。
【0045】
上述した2つの状態の各々において、流路出口に吸引ポンプを接続して負圧を発生させ、フィルタ層を通過する空気の流量を測定した結果を図15に示す。図15に示すグラフ横軸は、流路出口の圧力、縦軸はフィルタ層を通過する空気の流量を示す。図15において、黒四角は流路基板とフィルタ層が分離している状態であり、「*」は、流路基板とフィルタ層が当接している状態である。この実験では、簡単のため、比較的単純な流路構造を用いて実験を行ったが、流路基板とフィルタ層が分離している(開放)状態と、接触している状態において、フィルタ層を通過する空気の流量に差が生じることを確認できる。実際のマイクロ分析機構で使用されるより微細な流路構造においては、流路構造による圧力損失の影響がさらに顕著になることが容易に推察される。
【0046】
なお、フィルタ層と流路基板が当接した状態で、マイクロ流路構造として機能することを確認するため、一方の入出力口より流路内に水溶液を注入した。支持基板およびフィルタ層と流路基板は自重と自己粘着性によって当接している状態であるが、水溶液は流路基板に設けられた流路に沿って流れ、凸型壁面部分への水溶液の滲み、漏れなどは起こっておらず、マイクロ流路として十分に機能することが確認された。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、流路基板は、凸部領域が分離層と離間する状態に形成し、凸部領域と分離層とが当接する状態に変形可能としたので、マイクロ流路構造に組み合わせた分離層で、圧力損失を低減しつつ、効率的に粒子捕集が行えるようになる。また、分離層と分析用の流路構造が一体になった状態で使用するため、サンプル捕集と分析操作を同一の構造内で連続して実施でき、取り扱いが容易である。また、流路内面および分離層が外部と遮断された状態で構成することにより、粒子捕集操作と分析操作を行う間に外部からの異物が混入しにくいという優れた効果が得られる。このように、本発明によれば、微細な流路と組み合わせた分離層で、大流量のサンプル処理とマイクロ流路による分析操作とが両立でき、より効率的な粒子捕集と分析が可能になる。
【0048】
このような本発明の構造を用いれば、例えば、気体および液体中に微量に含まれる微生物を、分離層を用いて分離・濃縮した後、マイクロ流路の部分を用いて微生物と試薬とを反応させ、微生物の生死,活性,品種などの詳細な情報を得ることができる。菌体の検出と分析を行う菌体分析ツールは、医薬,バイオ,食品,衛生機器などの産業分野において、多くの要望がある。
【0049】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、流路基板の外側(最外周)の壁部がフィルタ(分離層)から構成されていてもよく、この壁部の一部にフィルタが設けられていてもよい。また、流路基板の凹部領域による流路の輸送経路にフィルタが設けられ、流路構成時には、輸送されている流体を当該フィルタで濾過できる構成としてもよい。
【0050】
次に、流路基板の材料は、分離層表面への接触、圧着により、分離層表面と流路基板材料の凸部が確実に密着し、接触面から流体の漏れが発生しないようにできる材料が望ましい。具体的には、シリコーンゴム、合成ゴム、樹脂フィルムなどのエラストマーが特に適している。
【0051】
流路基板は、単一の材料で構成されていても良く、また、複数の材料から構成されていても良い。例えば、流路構造の周囲の変形部分は柔軟な素材で構成し、分離層と当接する流路構造部分は金属や樹脂などの比較的硬質な材料で構成しても良い。またガラスなどの平面基板の上に、比較的柔軟な樹脂材料で凸部を形成した流路基板でも、分離層表面と流路基板の間で良好な密着性を実現できる。
【0052】
流路基板に構成される流路の寸法は、分析対象物や分析内容に応じて異なる。流路抵抗を低減する目的では流路の内径は大きい方が良いが、マイクロ流路構造を用いることにより分析効率を向上させるためには、直径数百μm以下の流路構造が望ましいことが知られている。また流路の断面形状に関しても特に指定は無いが、矩形、半円形などの形状が良く用いられる。
【0053】
また、分離層は、水溶液などが透過可能とされていてもよい。このようにすることで、例えば、分離層の側より分離層を介して流路基板の流路形成領域に試薬などを供給することができる。なお、分離層と流路基板とを当接した状態で、流路側に液体を供給することで、分離層で捕捉した粒子の洗い出しを行うことができる。また、当接状態で、分離層の外側より試薬を供給し、分離層に細くている粒子に供給した試薬を反応させるようにしてもよい。
【0054】
また、分離層の表面が、疎水性を備えているようにしてもよい。このようにすることで、流路基板の流路形成領域に供給されている薬液などが、分離層より外部に漏れることが抑制できるようになる。
【0055】
分離層は、流路基板材料との接触面が平滑であって、流路基板の接触、圧着により、分離層表面と流路基板材料の凸部が確実に密着し、双方の材料の接触面から流体の漏れが発生しない材料が望ましい。使用可能な分離層の種類は、トラックエッチドメンブレンフィルタ、メンブレンフィルタ、精密ろ過膜、表面処理により親水性を調整された多孔質構造や、分析対象物質を吸着する材料が表出した多孔質構造が適している。分離層の材料はポリカーボネートやナイロン等の親水性を示す樹脂や、フッ素樹脂などの疎水性を示す樹脂を用いることが可能であり、機能性を高めるために各種表面処理を施した分離層も使用可能である。
【0056】
また、本発明の粒子捕集装置は、微生物の分析に限るものではなく、バイオエアロゾル、エアロゾル、化学物質、粉塵、花粉、ハウスダスト、大気汚染などの分析にも適用可能である。また、空気中のサンプルのみでなく、溶液中のサンプルについても、使用可能である。また、分離層は、フィルタに限るものではなく、吸着剤などに置き換えれば、固体粒子に限らずに化学物質などの広範な分析に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
101…流路基板、102…接合領域、103…フィルタ層(分離層)、104…凸部領域、105…凹部領域、106…入出力口、121…流路形成領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側面に流路形成領域を備える流路基板と、
前記流路基板の前記流路形成領域を囲って前記内側面に形成された接合領域と、
前記接合領域で前記流路基板に接合して前記流路形成領域を覆う分離層と、
前記流路基板の前記流路形成領域に形成された凸部領域および凹部領域からなる流路型と
を備え、
前記流路基板は、前記凸部領域が前記分離層と離間する状態に形成され、加えて、前記凸部領域と前記分離層とが当接する状態に変形可能とされ、
前記流路基板の前記流路形成領域を変形させて前記凸部領域と前記分離層とを当接させることで前記流路型を構成する前記凹部領域により流路が形成される
ことを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項2】
請求項1記載の粒子捕集装置において、
前記分離層の表面は、疎水性を備えていることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項3】
請求項1記載の粒子捕集装置において、
前記分離層は、水溶液を透過可能とされていることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子捕集装置において、
前記流路基板の前記流路型に対応する凹凸部が形成され、前記凹凸部を前記流路型に対向させて前記分離層を前記流路基板とで挟む状態に配置される支持基板を備えることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項5】
請求項4記載の粒子捕集装置において、
前記凹凸部の凹部に収容されて前記分離層を透過しない表面張力を有する液体を備えることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項6】
請求項4記載の粒子捕集装置において、
前記凹凸部で流路が形成されていることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子捕集装置において、
前記分離層を前記流路基板とで挟む状態に配置される支持基板を備えることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項8】
請求項7記載の粒子捕集装置において、
前記支持基板は、
前記流路形成領域に対応する領域と前記分離層との間に空隙を備えて前記流路形成領域の領域を囲って形成された接合部で前記分離層に当接し、
前記空隙をなくして前記流路形成領域に対応する領域の前記支持基板が前記分離層に当接する状態に変形可能とされている
ことを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の粒子捕集装置において、
前記流路基板の外側面から前記流路形成領域に貫通する入出力口を備えることを特徴とする粒子捕集装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の粒子捕集装置において、
前記分離層は、フィルタであることを特徴とする粒子捕集装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図15】
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【図2】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−168035(P2012−168035A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29708(P2011−29708)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】