説明

粒子状物質センサのための粒子状物質検出方法

【課題】粒子状物質センサの微粒子物質蓄積情報を用い
て、粒子状物質制御システムに関する診断情報を提供する。
【解決手段】電極42間のインピーダンスを測定し、かつインピーダンスをそれが決定された温度について補償するステップと、蓄積された粒子状物質の合計量の推定を決定するステップと、センサ上で捕えられた、又はセンサからブローオフされた粗大粒子の影響を制限するステップを含む。この方法により得られた情報は、粒子状物質制御システムに関する診断情報を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質センサのための粒子状物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0001] 煤センサは、粒子状物質(PM)センサとしても知られており、ディーゼルエンジンを有する車両でしばしば使用される。粒子状物質センサは、ディーゼル微粒子捕集フィルタ(Diesel particulate filter,DPF)の上流に配設され、そこでセンサは排気ガスに運ばれてきた煤粒子を有するエンジンからの排気の流れにさらされる。あるいは、粒子状物質センサは、ディーゼル微粒子捕集フィルタ(DPF)の下流のガス流内に配設され、そこでセンサは微粒子捕集フィルタが適切に動作しているかをモニタするために使用される。
【0003】
[0002] 既知の煤検出方法は、互いから距離をあけて配置された2つの電極を有する粒子状物質センサを用いる。煤がなければ、電極間の電気伝導率は非常に低い。煤はセンサの表面に蓄積するので、煤粒子は電極間の隙間を埋めるよう作用する。煤粒子は導電性があるので電極間の導電率は増大するが、この導電率の変化はガス流内の煤の量に関係する。この原理に従って動作するセンサは、米国特許出願公開第2008/0283398号として公開された米国特許出願第11/749,262号、米国特許出願公開第2008/0282769として公開された米国特許出願第11/750,883、及び米国特許出願公開第2009/0139081号として公開された米国特許出願第11/998,238に開示されており、これらすべての出願の内容全体を参照によってここに援用する。
【0004】
[0003] 政府の規制により、車両システムはDPFが故障した際にはそれを検出できなければならない。粒子状物質センサのアルゴリズムは、検出素子を通る煤の割合を測定することによってこれを判定する。粒子状物質検出環境は、大きなノイズ源を含んでいる。これらのノイズ源は主に、電圧ベースのノイズ(すなわち、EMI又は伝導性の接地ノイズ)及び煤ベースのノイズ(すなわち、粗大粒子状物質微粒子又はアグロメレート粒子状物質の紛失)である。粒子状物質センサ信号上のノイズは、DPFが故障した際にそれを検出する能力を妨げる可能性がある。
【0005】
[0004] したがって、本願の発明者が認識したところでは、前述の欠陥を低減及び/又は解消する粒子状物質センサを有する改良された検出システムが求められている。
【発明の概要】
【0006】
[0005] 煤蓄積率を正確に測定するためには、このノイズはフィルタリングして除去されなければならない。この発明は煤を正確に測定するためにノイズを排除する方法に焦点をあてる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、粒子状物質検出システムの電気回路図である。
【図2A】図2Aは、別の粒子状物質検出システムの電気回路図であり、バイアス抵抗器が組み込まれている。
【図2B】図2Bは、別の粒子状物質検出システムの電気回路図であり、バイアス抵抗器が別の構成で組み込まれている。
【図3】図3は、図2Aの粒子状物質検出システムに見られるような検出素子の分解斜視図である。
【図4A】図4Aは、図2Aの粒子状物質検出システムに見られるような検出素子の平面図である。
【図4B】図4Bは、図2Bの粒子状物質検出システムに見られるような検出素子の平面図である。
【図5A】図5A及び5Bは、本発明の態様を取り入れた粒子状物質検出方法の例示的な実施形態のフロー図を示す。
【図5B】図5A及び5Bは、本発明の態様を取り入れた粒子状物質検出方法の例示的な実施形態のフロー図を示す。
【図6】図6は、本発明の態様を取り入れた粒子状物質検出方法において観測される信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0014] はじめに、「第1の」、「第2の」等の用語は、任意の順番、数量、又は重要性を示しているのではなく、1つの要素を他の要素と区別するために本明細書では用いられており、「1つの」という用語は、数量の限定を示しているのではなく、言及されているものが少なくとも1つ存在することを示している。数量に関して用いられる「約」という修飾語は、記載された値を含み、文脈から指定される意味を有する(すなわち、特定数量の測定に伴うある程度の誤差を含む)。「左」、「右」、「水平」、「垂直」、「下部」、及び「上部」という用語は、特に指定がなければ、本明細書では説明の便宜上用いているだけであって、任意の1つの位置的又は空間的な方向を限定するものではない。最後に、本明細書では、技術的科学的用語は、特に指定がなければ本発明の属する分野の当業者により通常理解される意味で用いられている。
【0009】
[0015] 図1は粒子状物質検出システム10の電気回路図を示す。システムは、示されるように、コントローラ部20、ワイヤリングハーネス部30、及び素子検出部40に分割されると考えられるのが一般的である。コントローラ部20は、そこに接続される回路のインピーダンスを測定する手段を備えている。図1の例示的なコントローラ部20では、インピーダンス測定手段は、電圧値Vsupplyをもたらす電圧源22、抵抗値Rpullupを有するプルアップ抵抗器24、及び電圧測定手段26を含む。電圧源22は、図1では所与の極性を有する直流源として示されているが、電圧源22は、交流源、図示されたものとは反対の極性を有する直流源、又は交流及び直流電圧成分の両方をもたらす電源であっても、本明細書に記載の発明概念から逸脱することはない。コントローラ部20は、接続手段27及び28によりワイヤリングハーネス部30に電気的に接合する。ワイヤリングハーネス部30は、導線32及び34を含む。ワイヤリングハーネス部30は、接続手段37及び38により、素子検出部40に電気的に接合する。素子検出部40は、導線46により接続手段37へ電気的に接続される第1の電極42、及び導線48により接続手段38へ電気的に接続される第2の電極44を含む。
【0010】
[0016] 検出素子上に形成されるので、第1の電極42は電極44から電気的に絶縁されており、そのため検出素子40は、粒子状物質が存在しない場合には、接続手段37及び接続手段38間で測定されると開回路のように電気的には見える。粒子状物質が存在しない場合、測定手段26により測定される電圧は、電圧源22により供給される電圧であるVsupplyと本質的に等しくなる。
【0011】
[0017] 第1の電極42及び第2の電極44は、嵌合フィンガの形で相互間にわずかなギャップがあるように形成されるのが好ましい。動作において、電極42、44の間のギャップを埋めるようにして検出素子上に堆積された粒子状物質を検出することができる。なぜなら、粒子状物質は、通常は開いている電極42、44間の回路をブリッジする導電性経路を形成するからである。電極をブリッジする粒子状物質の抵抗に値Rparticulateが与えられるならば、測定手段26により測定される電圧は次式のようになる。
【0012】
【数1】

【0013】
[0018] 粒子状物質が第1の電極42及び第2の電極44の間に蓄積するにつれて、抵抗Rparticulateは低下し、測定手段26における電圧Vmeasuredは最大値であるVsupplyから低下する。これによりコントローラ部は、接続手段27及び28間に接続されたインピーダンスを、ポイント27及び28間で測定される電圧の関数として決定することができる。
【0014】
[0019] 図2Aは、バイアス抵抗器を組み入れた別の粒子状物質検出システム100の電気回路図であり、これは2010年11月17日に出願された“SELF DIAGNOSTICS OF APARTICULATE MATTER SENSOR”と題される米国特許出願シリアル番号12/947,867に開示されており、その出願の内容全体を参照により援用する。コントローラ部20及びワイヤリングハーネス部30は、図1のシステム10と本質的には同じである。素子検出部140は、導線146により接続手段37へ電気的に接続される第1の電極142、及び導線148により接続手段38へ電気的に接続される第2の電極144を含む。図2Aの素子検出部140は、導線146及び148間に電気的に接続されRbiasの抵抗値を有する追加的なバイアス抵抗器150を備える。接続手段37及び接続手段38間で測定される検出素子Rsensorの抵抗は、Rbiasと第1の電極142及び第2の電極144の隙間を埋める粒子状物質から生じる抵抗との並列の組み合わせである。Rsensorは、数学的に次式のように表すことができる。
【0015】
【数2】

【0016】
[0020] 検出素子140上に粒子状物質が存在しない場合は、項RparticulateはRbiasと比べて非常に大きくなり、実効センサ抵抗Rsensorは、Rbiasと本質的に等しくなる。この条件でRsensorの最大抵抗値が生じる。粒子状物質が第1の電極142及び第2の電極144間のギャップを埋めるように蓄積するにつれて、実効センサ抵抗Rsensorはその最大値であるRbiasから低下する。
【0017】
[0021] 図2Aに示される粒子状物質検出システム100では、測定手段26により測定される電圧は、次式のようになる。
【0018】
【数3】

【0019】
[0022] 粒子状物質が存在しない場合、Rsensorの値は最大になり、かつRbiasと本質的に同等になる。この条件下では、測定手段26により測定される電圧は、次式のようになる。
【0020】
【数4】

【0021】
[0023] 図2Bは、別の粒子状物質検出システム200の電気回路図である。図2Bのシステム200は、図2Aのシステム100とは、バイアス抵抗器250が接続手段37及び38から離れて配置されているという点で異なる。バイアス抵抗器250は、依然として検出電極242、244と電気的に並列であること、並びに図2Aに関連して示された前述の式が図2Bの構成にも適用されることが理解されるであろう。
【0022】
[0024] 図3は、図2Aの検出素子140の分解斜視図である。検出素子140は、電気的に絶縁している基板154を含む。基板154は単一の層として示されているが、複数の層を重ね合わせることにより形成されてもよいことが理解されるであろう。基板154の片面上に堆積される導電材料は、パターン処理により導線146及び148、並びに電極142及び144を形成する。バイアス抵抗器150を形成する抵抗材料は、導線146及び148間に抵抗経路を形成するように堆積される。測定されているガス流内の研磨粒子にさらされる、電極142及び144並びに導線146、148の一部を形成する導電材料を保護するために、保護層164も含まれ得る。保護層164は、電極142及び144間のギャップを露出して、粒子状物質が電極142と144とをブリッジできるようにする開口部166を含む。保護層164は、バイアス抵抗器150も覆うように広がっていてもよい。
【0023】
[0025] 粒子状物質センサは、検出素子上の電極142、144付近の温度を上昇させるよう制御可能な加熱手段も含み得る。温度を充分に上昇させる結果、粒子状物質が検出素子の表面から除去され、それにより、検出電極142、144間の領域の抵抗を高抵抗又は本質的には開いている回路の状態に回復させる。この開回路状態は、バイアス抵抗器150と並列して電気的に現れるので、接続手段37及び接続手段38間で測定される全抵抗は、Rbiasに回復される。図3に示される検出素子140は、電極142、144とは反対側の基板表面上にあるヒータ160及びヒータリード162を含む。ヒータ160は、ヒータ160がヒータリード162を介する電流の供給により電気的に電力供給されるとき、ヒータ160が電極142、144付近から粒子状物質を取り除くことができるように位置される。
【0024】
[0026] 図4Aは、図2A及び図3に示された検出素子140の導線及び抵抗器パターンの平面図である。バイアス抵抗器150は、ヒータ(図示なし)が電極142、144付近から粒子状物質を取り除くように作動されるときに、バイアス抵抗器150の加熱を最小化するために、第1の電極142及び第2の電極144から離れたところに配設される。
【0025】
[0027] 図4Bは、図2Bに示された検出素子240の別の実施形態の導線及び抵抗器パターンの平面図である。バイアス抵抗器250は、ヒータ(図示なし)が電極242、244付近から粒子状物質を除去するように作動されるときに、バイアス抵抗器250の加熱を最小化するために、第1の電極242及び第2の電極244から離れたところに配設される。
【0026】
[0028] 粒子状物質センサによって示されるインピーダンスは、センサ上に粒子状物質が存在しない場合、バイアス抵抗器の抵抗値と等しい最大値を有することが理解されるであろう。粒子状物質がセンサ上に蓄積するにつれて、インピーダンスはこの最大値から低下し、インピーダンスのこの変化が測定手段26により測定される電圧の変化として検出される。センサインピーダンスの変化率、すなわち測定される電圧の変化率は、センサ上の煤蓄積率と関連する。
【0027】
[0029] 粒子状物質センサを電圧ドライバ回路の一部として構成して、図1、2A、及び2Bに示されるようなセンサの両端間の電圧を測定することが簡便であるが、当業者であれば、他の回路構成を使用すること、又はセンサに関連付けられる他の電気特性を測定することができると理解できるであろう。回路構成に応じて、センサの両端間の電圧、センサと電気的に接続されている回路素子の両端間の電圧、センサを通る電流、電気伝導度、センサと電気的に接続されている回路素子を通る電流、等の電気特性を、センサの実効インピーダンスに関連する情報を取り出すために使用することができる。
【0028】
[0030] ディーゼル微粒子捕集フィルタの下流に配設される粒子状物質センサでは、煤蓄積率は、ディーゼル微粒子捕集フィルタの故障に関連する診断情報を提供することができる。さらに、センサ上の煤蓄積の合計量に関する情報を用いてセンサの再生成を開始するために使用することができる。「再生成」という用語は、センサ40、140に熱を加えて、粒子状物質をセンサ40、140の表面から除去するのに充分なレベルまでセンサ40、140の温度が上昇するようにし、それによりセンサ40、140を高インピーダンス状態に回復する処理を示すものとして本明細書では使用される。
【0029】
[0031] 生の未処理の電圧情報の使用に比べてより高度な情報を提供するために、本発明の発明者は、粒子状物質センサから取り出された電圧信号に処理を施すことが可能であると判断した。とりわけ、電圧信号は、例えば伝導性の接地ノイズ又はEMI(電磁妨害)等の電気ノイズを含み得る。さらに、電圧信号は煤ベースのノイズの影響を受け、これは例えば、センサが粗大煤粒子を受け取ったこと、又はセンサが粗大粒子又は粒子のアグロメレーション(agglomeration:集合体)を突然失ったことから生じる、急激で比較的大きな電圧の変化である。加えて、センサ上の煤蓄積の量が安定的に一定であっても、粒子状物質センサから取り出される電圧信号は、センサ上の粒子状物質の抵抗の温度係数により、センサの温度から影響を受け得る。
【0030】
[0032] 本発明の態様を示す方法500を図5A及び5Bのフロー図に示す。示されている方法は、粒子状物質蓄積についての経時的な情報を取得できるように、好ましくは規則的な定められた増分で繰り返し実行されるものであることが理解されるであろう。図5A及び5Bに表された方法500の実行中に決定される情報のいくつかの項目を、時間に対するプロットで図6に示す。図6のトレースは、例示的な方法500を説明する中で参照する。
【0031】
[0033] 例示的な方法500は、電圧がセンサ電極(図1の42、44又は図2Aの142、144、又は図2Bの242、244)間で測定手段26により測定されるステップ502を含む。この例示的な方法で必ずしも必要なステップではないが、測定される電圧に対応する粒子状物質の抵抗は、電圧源22からの印加電圧、プルアップ抵抗器24、及びバイアス抵抗器150の値が既知であれば容易に決定することができることが理解されるであろう。図6のトレース602は、ステップ502で行われた電圧測定値に対応する実効抵抗測定値を示す。
【0032】
[0034] ステップ502で得られた測定された電圧値は、電圧信号上のノイズを低減するために、ステップ504でフィルタリングされる。電圧信号に施されるフィルタリングの量は、センサ40、140上の粒子状物質のレベルに従って、好都合になるように適応される。例えば、粒子状物質が電極間で検出されないときは、より重いフィルタリングを施して電磁妨害(EMI)の影響を最小化することができる。センサ40、140上で煤が検出されると、フィルタリングを低減することで、センサ40、140上の粒子状物質の変化に対するセンサの応答性を向上させることができる。フィルタリングは、センサ40、140の再生成時にさらに低減することで、電極42、44間、又は142、144間の抵抗を示す信号が速やかに「開回路」状態に戻るようにすることができる。使用されるフィルタのタイプ(例えば、ローパス、チェビシェフ(Chebyshev)等)は、フィルタリングされるノイズの源及び周波数に依存する。
【0033】
[0035] ステップ506では、センサ抵抗が、フィルタリングされた電圧レベル、電圧源22の電圧、及びプルアップ抵抗器24の値から計算される。図2Aのセンサ140又は図2Bのセンサ240等のバイアス抵抗器を含むセンサでは、センサ抵抗はバイアス抵抗器150又は250と、センサ上に蓄積された粒子状物質の抵抗との並列の組み合わせである。図6のトレース606は、トレース602を生成するために使用された電圧をフィルタリングすることにより計算される、計算された抵抗−対−時間を示す。
【0034】
[0036] センサに粒子状物質が存在しないときは、センサ抵抗はバイアス抵抗器150の抵抗値と等しくなる。粒子状物質がセンサ上に蓄積するにつれて、センサ抵抗はバイアス抵抗器の値から低下する。ステップ508における、粒子状物質がセンサ上に存在すると認められる最初の時間、すなわち「清浄」(新しい又は再生成された)センサの抵抗が初めて粒子状物質検出閾値を下回ったことにより決定される時間に、ステップ510で開始抵抗値及び開始時間値が獲得される。これらの開始抵抗値及び開始時間値は、後続のステップで述べられる決定に使用される。図6の垂直線610は、センサ抵抗が検出閾値を下回った時である開始時間値を示す。
【0035】
[0037] ステップ514では、排気温度情報が受け取られる。この情報は、ステップ518に関連して述べるように、粒子状物質の抵抗を、粒子状物質の抵抗温度係数について補償するために用いられる。
【0036】
[0038] すでに示したように、測定されたセンサ抵抗は、粒子状物質の抵抗と固定バイアス抵抗との並列の組み合わせを含む。ステップ516では、既知のバイアス抵抗並びにステップ506ですでに決定された全センサ抵抗が用いられて、粒子状物質の実効抵抗、すなわち決定されたセンサ抵抗を成すためにバイアス抵抗と並列して必要とされる抵抗が決定される。
【0037】
[0039] 粒子状物質を含む物質は、無視できない抵抗温度係数(TCR)を有することがわかっている。その結果、所与の一定量(質量)のセンサ上の粒子状物質は、測定が異なる温度で行われた場合は、異なる抵抗の測定値を示す。この変動原因を低減するために、ステップ518は、粒子状物質の所定のTCRを用いて、粒子状物質の抵抗を測定が行われた温度(ステップ514で受けた)について補償する。この補償の例として、温度及びTCRが用いられて、所与の温度、例えば150°Cで測定されたら、粒子状物質の抵抗がどうなるかが決定される。この温度補償ステップ518は、例えばセンサが再生成されている時等、ある特定の条件下では無視される。
【0038】
[0040] ステップ520では、「正規化された抵抗(Normalized Resistance)」として定められる値が、固定バイアス抵抗器と、ステップ518で決定された温度補償された粒子状物質の抵抗との並列の組み合わせとして計算される。これは、後続の計算で、清浄なセンサの電極間の抵抗等の無限抵抗の状態に対処しなくてすむので有益である。図6のトレース620は、トレース606に示されるフィルタリングされた抵抗に対応する、正規化された温度が修正された抵抗を示す。
【0039】
[0041] すでに示したように、記載された方法は、粒子状物質蓄積についての経時的な情報を取得できるように、好ましくは規則的な定められた増分で繰り返し実行される。ステップ522では、正規化された抵抗の現在の値及び先行する値の間の差分を表すデルタ値が計算される。図5A及び5Bに記載の方法が等しい時間間隔で実行される限りは、実際の時間間隔は、結果を解釈する上でスケーリングファクタ(scaling factor)の役割を果たすが計算に入れる必要はない。あるいは、方法は非均等な時間間隔で実行することもできるが、この場合はサンプル間の実際の経過時間は、計算されたデルタ値を経過時間値で割ること等によって考慮する必要がある。デルタ値は、センサ抵抗の変化に対応しており、したがって、その前の測定以降の時間にセンサ上に蓄積された粒子状物質量の変化、に対応することが理解されるであろう。
【0040】
[0042] 図5A及び5Bの連結ブロック538は、フロー図が2ページにわたり分割されており、ブロック538は各ページの方法において同じポイントを示すことを表しているだけである。すなわち、この一実施形態の記述において、図5Bのステップ524は、図5Aのステップ522に続く。
【0041】
[0043] 図5Bのステップ524は、計算されたデルタ値を所定の正の限界と比較する。デルタの正値は、センサからの粒子状物質の紛失等により生じたであろう抵抗の増大を示すことが理解されるであろう。正の閾値を超える抵抗の増大は、例えば、粗大粒子がセンサからブローオフされた(吹き飛ばされた)ことにより生じる。ステップ524の比較結果が、デルタが正の閾値を超えている場合、ステップ526は、デルタの値をゼロ、又は別の所定のキャリブレーション値に設定して、後続の計算で使用できるようにする。ステップ526における所定のキャリブレーション値は、固定抵抗であるか、あるいは、現在の正規化された抵抗値のパーセンテージであってもよい。ステップ528は、粗大粒子のブローオフ現象の発生数を追跡するブローオフカウンタを増分する。ブローオフの過剰なカウント数は、抵抗対質量(resistance−to−mass)の伝達関数が無効であることを示すものとして使用される。図6のトレース628は、トレース620に示される抵抗の振る舞いから生成されたブローオフのカウントを示す。ブローオフのカウントは再生成時にリセットされる。
【0042】
[0044] ステップ524の比較からデルタ値が正の限界を超えていることが検出されない場合は、ステップ530が、計算されたデルタ値を所定の負の限界と比較する。デルタの負値は、センサ上に蓄積した追加的な粒子状物質による、抵抗の低下を示すことが理解されるであろう。デルタの値が所定の負の閾値よりもさらに負である場合は、特に大きな煤粒子がセンサに付着する等の、とりわけ突然の粒子状物質の蓄積を示している可能性がある。ステップ530の比較結果が、デルタが所定の負の限界よりもさらに負であるという場合、ステップ532は、デルタの値をゼロ、又は別の所定のキャリブレーション値に設定して、後続の計算で使用できるようにする。ステップ532における所定のキャリブレーション値は、固定抵抗であるか、あるいは、現在の正規化された抵抗値のパーセンテージであってもよい。ステップ534は、粗大粒子捕集現象の発生数を追跡する煤ノイズカウンタを増分する。図6のトレース634は、トレース620に示される抵抗の振る舞いから生成された粗大な煤のノイズのカウントを示す。粗大な煤のノイズのカウンタは再生成時にリセットされる。
【0043】
[0045] ステップ524の正の比較の限界及びステップ530の負の比較の限界は、固定抵抗の変化であり、これは煤ノイズを高抵抗レベルでフィルタリングして除去するには有益である。あるいは、比較の限界は正規化された抵抗のパーセンテージであってもよく、これは煤ノイズを低抵抗レベルでフィルタリングして除去するには有益である。キャリブレーションは、固定抵抗及びパーセンテージの比較の閾値をともに含むことができる。
【0044】
[0046] ステップ522で計算される実際のデルタ、及び、ステップ524又は530のそれぞれにおける比較結果に基づきステップ526又は532で指定される限定されたデルタ値、のいずれかである実効デルタ値は、ステップ536でフィルタリングされる。ステップ536で使用されるフィルタは、等しく重み付けされた移動平均フィルタであるか、又はノイズの影響を平滑化する別のタイプのフィルタである。
【0045】
[0047] 図5Bを参照すると、ステップ540は、ステップ536で各サンプル時間において求められた、フィルタリングされた実効デルタ値を、ノイズフリーアキュムレータの以前の値に加えることにより、「ノイズフリーアキュムレータ(Noise Free Accumulator)」値を計算する。ノイズフリーアキュムレータからの信号は、図6のトレース640によって表される。このアキュムレータは再生成時には初期値にリセットされ、ステップ510で求められた開始時間(図6の610)に累算を開始する。このアキュムレータは、煤ベースのノイズの影響が除去された後のセンサの抵抗を表す。
【0046】
[0048] ステップ542では、最後の再生成以降にセンサ上に蓄積された煤の合計質量(例えば、ミリグラムで測定される)を表す、煤質量(Soot Mass)値が計算さる。一実施形態では、煤質量値は、抵抗対質量スケーリングファクタとステップ536で求められた実効デルタ値との積を、煤質量(煤質量積分器)の以前の累算値に加えることにより取り出される。別の実施形態では、煤質量値は、次の式を用いてノイズを除去された煤の抵抗から直接計算される。
【0047】
【数5】

【0048】
式において、α及びβはあらかじめ決定される定数であり、これらの値は、排気速度、排気温度、及びセンサ電圧(電気泳動的な影響によるもの)に依存し得る。煤質量値は、再生成時には初期値にリセットされ、ステップ510で求められた開始時間(図6の610)に累算を開始する。
【0049】
[0049] ステップ544は、リアルタイムの導関数計算を用いて、単位時間ごとの煤蓄積率を計算する。煤蓄積率は、経過時間期間の間に蓄積された煤質量を、ステップ510で決定された開始時間以降の経過時間で割ることにより決定される。煤蓄積率は、ミリグラム毎秒等の単位で表現される。
【0050】
[0050] ステップ546では、排気流内の煤密度が、ステップ544で決定される煤蓄積率、及び排気流の速度(車両の質量空気流量を用いて取得される)、並びに空気密度(排気温度及び気圧を補償する)を用いて計算される。煤密度は、1立方メートル当たりのミリグラム等の単位で表現される。
【0051】
[0051] ステップ546で求められた煤密度は、空気流の測定における揺らぎにより、ノイズを含み得る。ステップ548は、このノイズを低減するために、ステップ546で求められた煤密度値にフィルタリングを施す。使用される実効フィルタ時間定数を変動させ、煤が検出されない時にはより重いフィルタリングを施し、煤が検出される時は低減されたフィルタリングを施すことは有益である。
【0052】
[0052] 本明細書に記載の例示的な方法は、車両の運転を制御又は診断するにあたり有用ないくつかのパラメータを決定する。図5Bに示す例では、フィルタリングされた煤密度値が、ディーゼル微粒子捕集フィルタの故障を検出するために使用される。ステップ550が、煤密度が微粒子捕集フィルタの故障を表示するレベルにあることを決定すると、ステップ552が、適切な診断メッセージを作動させる。煤質量、煤質量率、又は再生成と再生成の間の時間も、微粒子捕集フィルタの故障を表示するために使用される。
【0053】
[0053] 本明細書に記載の方法を用いて決定される他のパラメータは、他の動作を開始するために有用であることが理解されるであろう。例えば、所与の閾値を上回る煤の蓄積、又は所与の閾値を下回る煤の抵抗は、図6の時間670に示される、センサの再生成を開始するために使用することができる。前述したように、再生成は、センサに熱を加えて、煤をセンサの表面から除去するのに充分なレベルまでその温度を上昇させる処理を意味する。図6に示すように、時間670における再生成の開始後、生の電圧測定値から取り出された抵抗602は増大し始め、対応するフィルタリングされた抵抗値606も同様に増大し始める。図6のトレース620及び640に示された計算された値、並びにトレース634及び638として示されているカウントは、時間670における再生成の開始時に、それぞれの初期値にリセットされる。前述したように、フィルタの時間定数は、再生成時に異なる値に設定されてもよい。
【0054】
[0054] 本発明の態様を含む方法は、粒子状物質センサから取り出された電圧信号に重いフィルタリングを施すだけのものに勝るいくつかの利点を提供する。単なるフィルタリングは、ディーゼル微粒子捕集フィルタの故障を検出する応答時間を悪化させる。さらに、電圧信号煤の温度を考慮せずに単にフィルタリングすることでは、煤の抵抗を温度係数について補償することができず、それにより煤蓄積率の決定の正確性が落ちる。突然の大きな電圧の変化は、センサ上の粗大煤粒子の突然の獲得、又は大量の煤の突然のブローオフにより生じ得る。本明細書に示した方法は、上記の要因を補償するための改良を提供するものである。
【0055】
[0055] 本発明をその実施形態に関して説明したが、それに限定することを意図するものではなく、後述する請求項に記載の範囲においてのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子物質センサ上の相互に間隔が置かれた2つの電極間の微粒子物質蓄積を決定する方法であって、該方法は、
(a)前記センサに関連する電気特性の値を決定するステップと、
(b)前記電気特性の値を用いて、前記センサの電極間のインピーダンスに対応する第1の値を決定するステップと、
(c)前記センサの温度に関する情報を用いて、所定のセンサ温度へ正規化された前記第1の値を示す第2の値を決定するステップと、
(d)前記第2の値の連続する決定間の差分と、前記センサの電気特性の連続する決定間の経過時間との関数として、粒子状物質の蓄積率を決定するステップと、
(e)任意の特定される故障を表示するステップと、
(f)ステップ(a)から(e)までを繰り返すステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、該方法はさらに、経時的に粒子状物質の前記蓄積率を積分することにより、蓄積された粒子状物質の合計を表す値を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、該方法はさらに、蓄積された粒子状物質の合計を表す前記値が所定の限界を超えると、センサの再生成を開始するための信号を生成するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2記載の方法において、該方法はさらに、粒子状物質センサの再生成に続いて、蓄積された粒子状物質の合計の前記値を再初期化するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2記載の方法において、該方法はさらに、粒子状物質蓄積の時間変化率を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、該方法はさらに、センサがさらされている流体流の質量密度を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の前記差分の値が所定の最大正値よりもさらに正である場合、粒子状物質の前記蓄積率の計算において、決定された前記差分の代わりに前記所定の最大正値が用いられることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の前記差分の値が、所定の最大正値よりもさらに正である場合、ブローオフカウンタが増分されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、該方法はさらに、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の観測される前記差分に対応する、粒子状物質除去の質量を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、該方法はさらに、ブローオフカウンタ、並びにフィルタリングされた第2の値の連続する決定間の観測される前記差分に対応する前記粒子状物質除去の決定された質量、のいずれか1つが所定の閾値を超える場合に、粒子状物質蓄積の決定方法を再開始するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の前記差分の値が所定の最大負値よりもさらに負である場合、粒子状物質の前記蓄積率の計算において、決定された前記差分の代わりに前記所定の最大負値が用いられることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の前記差分の値が、所定の最大負値よりもさらに負である場合、粗大粒子状物質カウンタが増分されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、該方法はさらに、フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の観測される前記差分に対応する粗大粒子状物質蓄積の質量を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、該方法はさらに、前記粗大粒子状物質カウンタ、又は前記フィルタリングされた第2の値の連続する決定間の観測される前記差分に対応する前記粗大粒子状物質蓄積の決定された質量、のいずれか1つが所定の閾値を超える場合に、粒子状物質蓄積の決定の方法を再開始するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、第1の値又は第2の値を決定するステップは、フィルタリングを施すステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、施されるフィルタリングの量は、センサ上で検出される粒子状物質の量に依存することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法において、任意の特定される故障を表示するステップは、出力装置を制御するよう動作可能な信号を生成するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記出力装置は、可視的表示器又はメモリ記憶装置であることを特徴とする方法。
【請求項19】
導電性の粒子状物質センサのための診断システムであって、
基板と、前記基板上にある相互に間隔が置かれた2つの電極であって電極間の粒子状物質を捕集するよう構成される2つの電極とを含み、それにより、前記電極間で捕集された粒子状物質を介して導電性経路を構築し、これは前記電極間の電気抵抗を測定することにより検出されるものであり、前記システムは、前記センサと通信しているマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサに方法を実行させる命令を含む記憶媒体とを備え、該方法は、
(a)前記センサに関連する電気特性の値を決定するステップと、
(b)前記電気特性の値を用いて、前記センサの電極間のインピーダンスに対応する第1の値を決定するステップと、
(c)前記センサの温度に関する情報を用いて、所定のセンサ温度へ正規化された前記第1の値を示す第2の値を決定するステップと、
(d)前記第2の値の連続する決定間の差分と、前記センサの電気特性の連続する決定間の経過時間との関数として、粒子状物質の蓄積率を決定するステップと、
(e)任意の特定される故障を表示するステップと、
(f)ステップ(a)から(e)までを繰り返すステップと
を含むことを特徴とする診断システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−47670(P2013−47670A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−141833(P2012−141833)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【出願人】(599023978)デルファイ・テクノロジーズ・インコーポレーテッド (281)
【Fターム(参考)】