説明

粒子状物質除去フィルタの再生制御装置およびその再生制御方法

【課題】粒子状物質除去フィルタ72のフィルタ機能の低下を未然に防止すること。
【解決手段】エンジンの排気ガスから粒子状物質を除去する粒子状物質除去フィルタ72に堆積した粒子状物質の堆積量が所定値を超えた場合に、堆積した前記粒子状物質を燃焼させ、前記粒子状物質除去フィルタを再生させるための再生制御部42を備え、再生制御部42は、自動強制再生期間TA、および自動強制再生後の継続期間TBで、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にするエンジン回転数の下限値制御を行って、粒子状物質除去フィルタ72への排気ガス流量を増大して、粒子状物質除去フィルタ72内の熱のこもりを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を除去する粒子状物質除去フィルタ(DPFと称される。DPF:Diesel Particulate Filter)の再生処理を行う際における粒子状物質除去フィルタの再生制御装置およびその再生制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン(以下、エンジン)では、排気ガス中に含まれるPMを低減するため、排気管路に粒子状物質除去フィルタが設けられる。この粒子状物質除去フィルタは、排気ガス中に含まれるススなどのPMを捕集し、このPMが低減された排気ガスを外気に排出する。粒子状物質除去フィルタで捕集したPMが多くなるとフィルタ機能が低下するため、粒子状物質除去フィルタでは、捕集されたPMを燃焼させる再生が行われる。この再生には、排気ガスの温度が高いときに堆積したPMが自然に燃焼する自然再生と、PM堆積量が所定の基準値を超えたときに行う強制再生とがある。この強制再生では、排気ガスの温度を高めるようエンジンの運転状態を調整し、さらに粒子状物質除去フィルタ前段で燃料を噴射する外部ドージング、またはエンジンのシリンダ内に燃料を噴射する内部ドージングを行うことによって、PMを強制的に燃焼させる。この強制再生には、さらに自動強制再生と手動強制再生とがある。PM堆積量が、自動強制再生が行われるときの基準値よりもさらに多くなって、粒子状物質除去フィルタが閉塞される可能性がある場合には、手動による強制再生の実行を促す警告が運転者に発せられる。
【0003】
ここで、特許文献1には、自動強制再生時に、吸入空気量を減少させて粒子状物質除去フィルタ温度を上昇させる場合、粒子状物質除去フィルタに流入する排気ガス量の減少速度を低下させる排気ガス量調整手段を備え、粒子状物質除去フィルタの過剰昇温を防止するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−278405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンを動力源として稼動する建設機械などの作業車両において、排気ガスを浄化するために粒子状物質除去フィルタが備えられる。このような車両を操作するオペレータは、上述した自動強制再生中に車両の操縦(例えば走行操作)や作業機の操作を任意に行ってもよい。このため、オペレータによる車両の操縦や作業機の操作が行なわれない状態で自動強制再生が開始、継続され、あるいは自動強制再生が終了しても依然としてオペレータによる車両の操縦や作業機の操作が行われない状態が継続した場合、エンジン回転数が低い状態(例えばエンジンがアイドリング状態)が継続するために排気ガスの流量が少なくなる。排気ガスの流量が少なくなることによって、粒子状物質除去フィルタ内に高温の排気ガスが滞留し、熱がこもり粒子状物質除去フィルタ温度が急激に高くなる。その結果、熱応力によって粒子状物質除去フィルタの一部が破壊し、フィルタ機能が低下することが考えられる。
【0006】
なお、特許文献1では、自動強制再生時に、エンジンの吸入空気量を減少させる運転条件が成立する場合、吸気絞り弁の閉弁速度を低下させ粒子状物質除去フィルタに流入する排気ガス量の減少速度を低下させる技術が開示されている。
【0007】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、粒子状物質除去フィルタのフィルタ機能の低下を未然に防止することができる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置およびその再生制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、エンジンの排気ガスから粒子状物質を除去する粒子状物質除去フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値を超えた場合に、堆積した前記粒子状物質を燃焼させ、前記粒子状物質除去フィルタを再生させるための再生制御手段を備え、前記再生制御手段は、前記再生時に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記再生制御手段は、前記再生終了後、所定時間継続してエンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記再生制御手段は、前記再生時に、所定の制御開始条件を満足した場合に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を開始することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記所定の制御開始条件は、前記所定閾値以上のエンジン回転数である状態が所定時間以上となることであることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、さらに前記エンジンの周囲の環境温度あるいは標高を検知する環境状態検出手段を備え、前記所定閾値および前記所定時間は、環境状態検出手段が検知した環境温度あるいは標高に応じて可変であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記所定の制御開始条件は、前記粒子量物質除去フィルタ内の温度が所定温度以上となることであることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記所定の制御開始条件は、排気ガス流量が所定流量以下となることであることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記下限値制御を行うことを設定指示する設定手段を備え、前記再生制御手段は、前記設定手段による下限値制御の設定指示がある場合に、前記下限値制御を行うことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置は、上記の発明において、前記再生制御手段は、前記設定手段による下限値制御の設定指示がない場合、前記粒子量物質除去フィルタの自動再生処理を実行しないことを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御方法は、エンジンの排気ガスから粒子状物質を除去する粒子状物質除去フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値を超えた場合に、堆積した前記粒子状物質を燃焼させ、前記粒子状物質除去フィルタを再生させるための再生制御ステップを含み、前記再生制御ステップは、前記再生時に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御方法は、上記の発明において、前記再生制御ステップは、前記再生終了後、所定時間継続してエンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御方法は、上記の発明において、前記再生制御ステップは、前記再生時に、所定の制御開始条件を満足した場合に、エンジン回転数の下限値を所定値以上にする下限値制御を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、前記再生制御手段が、前記自動強制再生時さらには前記自動強制再生終了後に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うようにしているので、粒子状物質除去フィルタ内への排気ガス流量が増大し、粒子状物質除去フィルタ内の熱のこもりによる粒子状物質除去フィルタの破壊を未然に防止し、結果的にフィルタ機能の低下を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置を含むディーゼルエンジン100の概要構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示した再生制御部による下限値制御を示すタイムチャートである。
【図3】図3は、図1に示した再生制御部による下限値制御処理時に用いるカウンタおよびフラグの設定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図1に示した再生制御部による下限値制御処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施の形態2による再生制御部による下限値制御を示すタイムチャートである。
【図6】図6は、実施の形態2による再生制御部による下限値制御処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、この発明の実施の形態3にかかる粒子状物質除去フィルタの再生制御装置を含むディーゼルエンジン100の概要構成を示す模式図である。
【図8】図8は、実施の形態4による再生制御部による下限値制御処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
[実施の形態1]
(エンジン系の概要構成)
図1は、この発明の実施の形態1にかかる粒子状物質除去フィルタ(DPF)の再生制御装置を含むディーゼルエンジン100(以下、特に断りがない限りエンジン100)の概要構成を示す模式図である。また、エンジン100は、油圧ショベルやダンプトラックといった建設機械やフォークリフトなどの産業車両といった作業車両の動力源として用いられることを想定する。図1において、エンジン100は、内部に複数の燃焼室が形成されたエンジン本体1と、吸入される空気を、フィルタを用いて濾過し、埃などの異物が燃焼室に混入するのを防止するエアクリーナ2と、エンジン本体1内部の各燃焼室に給気を供給する給気管路3と、エンジン本体1内部の各燃焼室から排出された排気ガスを排出する排気管路4と、冷却機構5と、排気タービン過給機6と、排気浄化装置7と、排気再循環システム8と、エンジンコントローラ30と、モニタ装置50と、アクセルペダル60と、燃料調整ダイヤル80とを備える。
【0024】
エンジン本体1と給気管路3との間には、給気管路3からの給気がエンジン本体1内部の各燃焼室に分配されるように、給気マニホールド3Aが取り付けられている。エンジン本体1と排気管路4との間には、エンジン本体1内部の各燃焼室から排出された排気ガスがまとめて排気管路4に流入するように、排気マニホールド4Aが取り付けられている。
【0025】
給気管路3には、排気タービン過給機6によって圧縮された空気を冷却するためのアフタークーラ11が設けられている。冷却機構5は、エンジン本体1内に収められた図示しないクランクシャフト等の回転運動により駆動されるポンプ12を備える。ポンプ12によって圧送された冷却水は、エンジン本体1,排気タービン過給機6,図示しないオイルクーラ等の冷却が必要な部位を冷却した後、冷却機構5に設けられたラジエータ13によって空冷されるようになっている。アフタークーラ11とラジエータ13とは、エンジン本体1に設けられ、且つ、図示しないクランクシャフト等の回転運動によって回転駆動されるファン14によって、その冷却性能が満たされる構造となっている。
【0026】
排気タービン過給機6は、排気管路4の途中に設けられたタービン21と、給気管路3の途中に設けられ、タービン21に連結されて駆動されるコンプレッサ22と、タービン21に供給される排気ガスの流速を制御するために可変ターボノズル23とを備える。排気タービン過給機6は、可変ターボノズル23の開度を制御することにより、タービン翼車21aの回転数を制御する。タービン21(タービン翼車21a)の回転によってコンプレッサ22が駆動し、エンジン本体1への給気過給が行われる。
【0027】
排気浄化装置7は、タービン21の下流側に設けられ、排気ガスに含まれるPM(粒子状物質)を除去するものであり、ディーゼル酸化触媒(DOCと称される。DOC:Diesel Oxidation Catalyst)71、粒子状物質除去フィルタ72、差圧センサ73、温度センサ74,75,76を有する。DOC71および粒子状物質除去フィルタ72は、円筒状の排気管路内部に設けられ、排気管路の上流側にDOC71が設けられ、排気管路の下流側に粒子状物質除去フィルタ72が設けられる。また、タービン21と排気浄化装置7との間には、ドージング燃料供給装置70から供給されるドージング燃料を噴射するドージングノズル70aが配置される。このドージング燃料の噴射は、強制再生時に行われる。
【0028】
DOC71は、Pt(白金)などによって実現され、排気ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、PMに含まれるSOF(有機可溶成分)を酸化して除去する。さらに、DOC71は、排気ガスに含まれるNO(一酸化窒素)を酸化してNO(二酸化窒素)に変化させ、さらにはドージングノズル70aから噴射されたドージング燃料を酸化することによって排気ガス温度を上昇させる。
【0029】
粒子状物質除去フィルタ72は、PMを捕集する。粒子状物質除去フィルタ72は、炭化珪素等を基材として実現される。排気ガスに含まれるPMは、粒子状物質除去フィルタ72に形成された微細な穴を通過する際に捕集される。粒子状物質除去フィルタ72は、排気ガスの流れ方向に沿った微細流路を有するセルが円筒状の排気管路内に密集配置される。そして、上流側端部を目封じさせたセルと、下流側端部を目封じさせたセルとを交互に配置したウォールフロー型粒子状物質除去フィルタである。捕集されたPMは、排気ガスが酸化反応を進行させることができる温度であることを条件として、排気ガスに含まれる酸素およびDOC71で生成されたNOによって酸化(燃焼)されることになる。
【0030】
差圧センサ73は、粒子状物質除去フィルタ72の上流側に配置されて粒子状物質除去フィルタ72の上流側の圧力を検出する圧力センサ73aと、粒子状物質除去フィルタ72の下流側に配置されて粒子状物質除去フィルタ72の下流側の圧力を検出する圧力センサ73bと、圧力センサ73aが検出した圧力から圧力センサ73bが検出した圧力を減算した差圧をエンジンコントローラ30に出力する差圧検出部73cとを有する。
【0031】
温度センサ74は、粒子状物質除去フィルタ72の上流側に配置され、粒子状物質除去フィルタ72の入口の排気温度を検出し、粒子状物質除去フィルタ温度としてエンジンコントローラ30に出力する。また、温度センサ75は、DOC71の上流側に配置され、DOC71の入口の排気温度を検出し、この排気温度をエンジンコントローラ30に出力する。また、温度センサ76は、粒子状物質除去フィルタ72の出口の排気温度を検出し、この排気温度をエンジンコントローラ30に出力する。
【0032】
排気再循環システム8は、排気マニホールド4Aと給気管路3とを連通する排気再循環通路31を備える。排気再循環通路31は、排気マニホールド4Aから排気ガスの一部を抽出して給気管路3に再循環させる。排気再循環通路31には、排気再循環通路31を開閉するEGRバルブ32と、排気マニホールド4Aからの排気ガスを冷却するEGRクーラ33とが設けられている。排気再循環システム8は、排気再循環通路31を介して排気ガスの一部を給気マニホールド3Aに還流させることによって、給気中の酸素濃度を低下させ、エンジン本体1の燃焼温度を下げる。これにより、排気ガス中に含まれる窒素酸化物の量を低減させることができる。
【0033】
ここで、エンジン100は、制御系として、エンジン回転速度センサ3aと、給気圧センサ3cと、排気圧センサ3dと、タービン回転速度センサ3e、流量センサ3fを備える。エンジン回転速度センサ3aは、エンジン本体1の図示しないクランクシャフトの回転速度を検出し、図示しないクランクシャフトの回転速度を示す信号をエンジンコントローラ30に出力する。
【0034】
給気圧センサ3cは、コンプレッサ22の出口通路と給気マニホールド3Aとの間の給気圧力を検出し、エンジンコントローラ30に出力する。排気圧センサ3dは、排気マニホールド4Aとタービン21の入口通路との間の排気圧力を検出し、排気圧力を示す信号をエンジンコントローラ30に入力する。タービン回転速度センサ3eは、タービン21の回転速度を検出し、タービン21の回転速度を示す信号をエンジンコントローラ30に出力する。
【0035】
エンジンコントローラ30は、オペレータにより操作されるアクセルペダル60および燃料調整ダイヤル80などの入力手段の入力値に応じて、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGRバルブ32、可変ターボノズル23を調整してエンジン回転数やトルクの制御を行う。エンジンコントローラ30の記憶装置(たとえばROMやRAMなどのメモリ)には、後述する制御パラメータ(下限値制御を行うためのエンジン回転数の所定値Nth、所定時間Tth、継続期間TB)が記憶されている。
【0036】
また、エンジンコントローラ30は、堆積量算出部41および再生制御部42を有する。堆積量算出部41は、排気ガス流量情報、PM発生量情報、PM燃焼量情報、差圧センサ73から得られる差圧、および温度センサ74から得られる粒子状物質除去フィルタ温度をもとに粒子状物質除去フィルタ72に堆積するPM堆積量を推定する。
【0037】
再生制御部42は、PM堆積量の推定値が所定の閾値を超えた場合に、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、EGRバルブ32、可変ターボノズル23を調整して排気温度を上昇させ、その後ドージングノズル70aからドージング燃料を噴射することによって、粒子状物質除去フィルタ72を強制再生させる制御を行う。すなわち、再生制御部42は、この強制再生時に、EGRバルブ32および可変ターボノズル23をそれぞれ絞ることによって排気温度を上昇させる。特に、この実施の形態では、再生制御部42は、自動強制再生時に、エンジン回転数を所定値以上にする下限値制御を行い、粒子状物質除去フィルタ72に流入する排気ガスの熱が粒子状物質除去フィルタ72内にこもらないようにしている。なお、再生制御部42は、モニタ装置50からの手動強制再生指示を受けて、手動強制再生を行う。自動強制再生は、PM堆積量が第1の閾値以上の場合に行い、手動強制再生は、PM堆積量が第1の閾値よりもさらに大きい第2の閾値以上の場合に行う。なお、自動強制再生時には、作業車両のオペレータは通常の運転や作業を行ってもよく、手動強制再生時には、作業車両を停止させて強制再生のみを行う。
【0038】
モニタ装置50は、エンジンコントローラ30に接続され、作業車両の運転席近傍に設けられる。モニタ装置50は、液晶ディスプレイなどで構成される。なお、エンジンコントローラ30は、PM堆積量が第2の閾値を超えた場合、手動強制再生指示をモニタ装置50に通知し、モニタ装置50は、手動強制再生を促す警告表示を行う。エンジンコントローラ30は、モニタ装置50に備えられた図示しない手動強制再生指示ボタンが、作業車両のオペレータあるいはサービスマンによって押された場合に手動強制再生処理を行う。
【0039】
(エンジン回転数の下限値制御)
ここで、図2を参照して、再生制御部42による自動強制再生時におけるエンジン回転数の下限値制御の概要について説明する。図2は、横軸に時間の経過、縦軸にエンジン回転数の変化を示す。図2において、時点t1は、自動強制再生の開始時点である。また、時点t2は、自動強制再生の終了時点である。また、時点t3は、時点t2から下限値制御を継続する継続期間の終了時点である。したがって、自動強制再生処理は、時点t1から時点t2まで行われる(自動強制再生期間TA)。ここで、上述したように自動強制再生時には、自動強制再生時にかかわらず、作業車両の運転や作業機の操作(たとえば、作業車両が油圧ショベルの場合、掘削作業のために備えられた作業機(ブーム、アーム、バケット)の操作)を任意に行うことができる。そのような作業車両の運転や作業機の操作に応じて、エンジン回転数は、時々刻々と変化する。作業車両には、走行速度を調整するためのアクセルペダル60や作業機を動かすための操作レバーが運転室内に備えられている。オペレータが、それらアクセルペダル60や操作レバーを操作すると、操作に応じてエンジンコントローラ30はエンジン回転数を制御する。すなわち、作業機による掘削などを行うべく、オペレータが操作レバーを操作すれば、それに応じてエンジン回転数は上昇し、オペレータが、その操作をやめるとエンジン回転数は、所定のアイドリング回転数に下降し、図2に示す波形の実線(C1部を除く)及び破線のように上下にエンジン回転数は変動する。しかし、自動強制再生時におけるエンジン回転数の下限値制御が行われると、オペレータが操作レバーを操作すれば、それに応じてエンジン回転数は上昇するものの、オペレータが何ら操作しなければ、図2に示す破線のようにエンジン回転数が下降するのではなく、エンジン回転数Nth以下に下降しない。つまり、エンジン回転数は、図2に示す実線(C1部を含む)をたどって変動することとなる。以上のように、下限値制御の期間は、継続期間TBを含め、時点t1から時点t3までの下限値制御期間T1となる。
【0040】
ところで、自動強制再生時に、粒子状物質除去フィルタ温度を上昇させるために、少なくとも可変ターボノズル23を絞るが、この時、粒子状物質除去フィルタ72内に流入する排気ガス流量が少ないと粒子状物質除去フィルタ72内に熱がこもってしまう。この実施の形態1では、自動強制再生時に、可変ターボノズル23を絞った場合であっても、エンジン回転数の下限値が所定値Nth以上となるように制御し、粒子状物質除去フィルタ72に所定流量以上の排気ガスを供給し、通過させて、粒子状物質除去フィルタ72内に熱がこもらないようにしている。すなわち、自動強制再生が行われる自動強制再生期間TAでは、エンジン回転数が常に所定値Nth以上となるようにしている。これによって、粒子状物質除去フィルタ72の熱による破損を防止でき、フィルタ機能の低下を未然に防止することができる。
【0041】
さらに、この実施の形態1では、自動強制再生が終了した時点t2後も所定の時間(継続時間TB)は、継続してエンジン回転数の下限値制御を行うようにしている。これによって、自動強制再生が終了した後も、継続期間TBの間は、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御が実行される。その結果、粒子状物質除去フィルタ72に、排気ガスが継続して供給され、高温の排気ガスが外部に排出され、粒子状物質除去フィルタ72内の熱のこもりを確実になくすことができる。
【0042】
ここで、図3および図4に示すフローチャートを参照して、再生制御部42による下限値制御処理手順について説明する。図3に示すように、再生制御部42は、自動強制再生終了後の継続期間TB内であるかを判断するためのタイマ手段である自動強制再生終了後時間計測カウンタの値と、自動強制再生期間TAと継続期間TBとのいずれかの期間中であることを示す自動強制再生中フラグの値とを設定する処理を行っているとともに、図4に示すように、この自動強制再生中フラグの値を用いたエンジン回転数の下限値制御を行っている。自動強制再生終了後時間計測カウンタの値は、自動強制再生終了後からの時間を示し、自動強制再生中フラグが「1」の場合には、自動強制再生期間TAと継続期間TBとのいずれかの期間中であることを示し、「0」の場合には、それ以外の期間であることを示す。
【0043】
図3において、まず、再生制御部42は、初期設定として、自動強制再生終了後時間計測カウンタの初期値を「0」に設定するとともに、自動強制再生中フラグの初期値を「0」に設定する(ステップS101)。その後、再生制御部42は、現在、自動強制再生が実施されているか否かを判断する(ステップS102)。すなわち、PM堆積量が第1の閾値を超えて自動強制再生が開始されているか否かを判断する。自動強制再生が実施されている場合(ステップS102、Yes)には、自動強制再生が終了していないため、自動強制再生終了後時間計測カウンタの値を「0」に設定し(ステップS103)、さらに、自動強制再生中フラグを「1」に設定し(ステップS104)、ステップS102に移行する。
【0044】
一方、自動強制再生が実施されていない場合(ステップS102,No)には、さらに自動強制再生中フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS105)。自動強制再生中フラグが「1」でない場合(ステップS105、No)には、自動強制再生フラグを「0」に設定し(ステップS106)、さらに、自動強制再生終了後時間計測カウンタの値を「0」に設定し(ステップS107)、ステップS102に移行する。自動強制再生中フラグが「1」である場合(ステップS105,Yes)には、現在、自動強制再生が実施されていないため、自動強制再生後時間計測カウンタの値が所定時間(継続期間TB)未満であるか否かを判断する(ステップS108)。自動強制再生後時間計測カウンタの値が所定時間(継続期間TB)未満でない場合(ステップS108,No)には、既に所定時間(継続期間TB)を経過しているため、自動強制再生フラグを「0」に設定し(ステップS106)、さらに、自動強制再生終了後時間計測カウンタの値を「0」に設定し(ステップS107)、ステップS102に移行する。一方、自動強制再生終了後時間計測カウンタの値が所定時間(継続期間TB)未満である場合(ステップS108,Yes)には、自動強制再生終了後時間計測カウンタの値を増加させ(ステップS109)、自動強制再生中フラグを「1」の設定を維持し(ステップS104)、ステップS102に移行する。
【0045】
一方、図4に示すように、再生制御部42は、自動強制再生中フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS201)。自動強制再生中フラグが「1」である場合(ステップS201,Yes)には、再生制御部42は、エンジン本体1への燃料噴射量等を調整しエンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御を実施し(ステップS202)、ステップS201に移行する。一方、自動強制再生中フラグが「1」でない場合(ステップS201,No)には、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御を実施せずに(ステップS203)、ステップS201に移行する。なお、所定時間(経過期間TB)は、数分程度とすることが好ましい。
【0046】
なお、ステップS202における下限値制御は、エンジンコントローラ30が行うのではなく、アクセルペダル60の踏み込み量を検出するスロットル開度センサ61自体がエンジンコントローラ30からの自動強制再生情報を受けて行うようにしてもよい。開度センサ61として、たとえばポテンショメータを用いることでアクセルペダル60の踏み込み量を電気的に検出することができる。この開度センサ61自体が下限値制御を行う場合、エンジンコントローラ30自体の設計変更が少なくて済む。また、燃料調整ダイヤル80が、同様に、燃料調整ダイヤル80の設定値にかかわらず、エンジンコントローラ30からの自動強制再生情報を受けて、下限値制御を行うようにしてもよい。この場合も、エンジンコントローラ30自体の設計変更が少なくて済む。なお、エンジン100が建設機械などの作業車両に搭載され、その作業車両がブルドーザや油圧ショベルなどのクローラ系(履帯を備えた走行体を有する作業車両)である場合、オペレータがエンジン100のエンジン回転数を所望のエンジン回転数に設定するための手段である燃料調整ダイヤル80が運転室内に備えられている。したがって、この燃料調整ダイヤル80の設定値(設定されるエンジン回転数)に対する下限値制御を行う。一方、作業車両がホイールローダやダンプトラックなどのタイヤ系(タイヤを備えた走行体を有する作業車両)である場合には、アクセルペダル60が運転室内に備えられているため、このアクセルペダル60の踏み込み量(踏み込み量に対応するエンジン回転数)に対して下限値制御を行う。
【0047】
ところで、上述した下限値制御の所定値Nthの回転数は、排気ガス流量を計測し、粒子状物質除去フィルタを破損しない程度の排気ガス流量を確保することができるエンジン回転数(ここで、この回転数を回転数Aと称する)を設定したものである。ここで、エンジン100のアイドリング回転数は、作業車両の車種などによって異なる場合がある。このため、たとえば、ある車両においてアイドリング回転数の設定が、下限値制御の所定値Nthの回転数よりも大きい場合(たとえば、アンドリング回転数が1200rpm、回転数Aである下限値制御の所定値Nthの回転数が1000rpmの場合)には、下限値制御は不要となる。一方、他の車両においてアイドリング回転数の設定が、下限値制御の所定値Nthの回転数よりも小さい場合(たとえば、アイドリング回転数が800rpm、回転数Aである下限値制御の所定値Nthの回転数が1100rpm)には、下限値制御が必要となる。
【0048】
[実施の形態2]
つぎに、実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、自動強制再生期間TAは常に下限値制御を行うようにしていたが、この実施の形態2では、自動強制再生期間TA内に下限値制御を行う制御開始条件を満足した場合に下限値制御を開始するようにしている。
【0049】
図5は、制御開始条件が、自動強制再生期間TA内でエンジン回転数が継続して所定値Nth以上で、その継続が所定時間Tth以上であるとする場合の下限値制御を示すタイムチャートである。図5に示すように、エンジン回転数が所定値Nth以上となる期間TC1は、所定時間Tth未満であるため、制御開始条件を満足しない。したがって、図5の実線C0部に示すように、エンジン回転数は所定値Nthを超えて低下する。一方、オペレータが作業機を操作するために操作レバーを操作することにより、エンジン100が必要な出力を出すために制御されエンジン回転数が上昇し、エンジン回転数が所定値Nth以上となっている期間TC2は、所定時間Tth以上であるため、制御開始条件を満足する。この結果、所定期間Tthを過ぎた時点t12から、下限値制御を開始するようにしている。そして、この下限値制御の期間は、継続期間TBを含め、制御開始条件を満たす時点t12から時点t3までの下限値制御期間T2となる。下限値制御期間T2では、図5の実線(C1部を含む)にそってエンジン回転数が変動することになる。
【0050】
以上に説明した制御開始条件を設けた理由について説明する。オペレータは、自動強制再生が行われていることを認識することがないため、オペレータが操作レバーなど何らの操作をしていないときに、下限値制御が実行されることにより急にエンジン回転数が上昇すると、このようなエンジン回転数の上昇は、オペレータにとって操作上の違和感と感じる。つまり、図5に示す、期間TC1の操作が行われただけで、下限値制御を実行し、図5の実線C0部のようにエンジン回転数を低下させずにエンジン回転数Nthに上昇させるとオペレータは違和感を感じる。よって、この実施の形態2では、オペレータが何らかの操作、たとえばアクセルペダルを踏み込む操作があったことを検出してから、下限値制御を実行するようにしている。つまり、上述したように、エンジン回転数が所定値Nth以上を所定時間Tth以上継続するようなオペレータの操作があれば、この操作を下限値制御の開始条件としている。オペレータによる明らかな意思によってエンジン回転数が上昇した後に下限値制御を実行するのであるから、急にエンジン回転数が上昇することによる違和感を感じないのである。
【0051】
図6は、実施の形態2の再生制御部42による下限値制御処理手順を示すフローチャートである。なお、この場合も、図3に示したように、再生制御部42は、自動強制再生終了後の継続期間TB内であるかを判断するためのタイマ手段である自動強制再生終了後時間計測カウンタの値と、自動強制再生期間TAと継続期間TBとのいずれかの期間中であることを示す自動強制再生中フラグの値とを設定する処理を行っている。
【0052】
図6において、まず、再生制御部42は、初期設定として、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値を「0」に設定し、エンジン回転数下限値制御実施フラグの値を「0」に設定する(ステップS301)。エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値は、エンジン回転数が所定値Nth以上となっている時間の計測値であり、エンジン回転数下限値制御実施フラグの値が「1」の場合は、下限値制御期間T2中であることを示し、「0」の場合は、それ以外の期間であることを示す。
【0053】
その後、再生制御部42は、自動強制再生中フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS302)。自動強制再生中フラグが「1」である場合(ステップS302,Yes)には、さらにエンジン回転数が所定値Nth以上、またはエンジン回転数下限値制御実施フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS303)。
【0054】
エンジン回転数が所定値Nth以上、またはエンジン回転数下限値制御実施フラグが「1」である場合(ステップS303,Yes)には、さらに、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値が所定時間Tth以上であるか否かを判断する(ステップS304)。エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値が所定時間Tth以上である場合(ステップS304,Yes)には、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値をTthに設定した(ステップS305)後、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御を実施する(ステップS306)。その後、エンジン回転数下限値制御実施フラグを「1」に設定した(ステップS307)後、ステップS302に移行する。
【0055】
一方、自動強制再生中フラグが「1」でない場合(ステップS302,No)、およびエンジン回転数が所定値Nth以上、またはエンジン回転数下限値制御実施フラグが「1」でない場合(ステップS303,No)には、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値を「0」に設定し(ステップS308)、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御を実施せずに(ステップS310)、エンジン回転数下限値制御実施フラグを「0」に設定した(ステップS311)後、ステップS302に移行する。また、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値が所定時間Tth以上でない場合(ステップS304,No)には、エンジン回転数所定値以上時間計測カウンタの値を増加し(ステップS309)、エンジン回転数の下限値を所定値Nth以上にする制御を実施せずに(ステップS310)、エンジン回転数下限値制御実施フラグを「0」に設定した(ステップS311)後、ステップS302に移行する。
【0056】
この実施の形態2であっても、粒子状物質除去フィルタ72の熱による破損を防止しフィルタ機能の低下を未然に防止することができ、粒子状物質除去フィルタ72の長寿命化を促進することができる。
【0057】
[実施の形態3]
つぎに、実施の形態3について説明する。この実施の形態3では、図7に示すように、さらに、モニタ装置50は、入出力操作が可能な操作パネルを有し、上述した下限値制御を行うか否かを予め設定しておく設定手段である設定スイッチ51を備える。ただし、この実施の形態2の設定スイッチ51は、オペレータではなく、サービスマンが操作パネルを特殊操作することによって操作できるものである。この特殊操作は、サービスマンしか知りえない操作であり、たとえば、複数のボタンを連続して押下あるいは同時に押下する操作である。あるいは、設定スイッチ51そのものが、サービスマンしか知りえないハード構成の隠しスイッチであってもよい。
【0058】
サービスマンは、この設定スイッチ51による設定によって、エンジン100が搭載される作業機械に上述した下限値制御を行うか否かを予め設定しておく。このような下限値制御の有効/無効の設定を行うことができることによって、たとえば、作業車両の定期点検などの際に、下限値制御を無効にし、エンジン単体の動作確認などを行うことができる。また、上述したように、エンジン100のアイドリング回転数の設定値が変更された場合、下限値制御の有効、あるいは無効の設定を容易に変更することができる。
【0059】
[実施の形態4]
つぎに、実施の形態4について説明する。この実施の形態4では、オペレータが設定スイッチ51を操作できるようにしている。すなわち、オペレータが設定スイッチ51を操作することによって、下限値制御が実行されることをオペレータが自ら認識することができるため、オペレータは、下限値制御によるエンジン回転数の上昇やエンジン回転数が低下しないことに対する違和感を感じることがなくなる。
【0060】
ここで、図8に示したフローチャートを参照して、この実施の形態4による、設定スイッチによる下限値制御への移行処理について説明する。まず、再生制御部42は、自動再生開始条件が成立したか否かを判断する(ステップS401)。この自動再生開始条件とは、上述したように、PM堆積量が第1の閾値以上になることである。この自動再生開始条件が成立しない場合(ステップS401,No)には、この判断処理を繰り返す。一方、自動再生開始条件が成立した場合(ステップS401,Yes)には、再生制御部42は、モニタ装置50の表示画面上に、「自動再生に伴い、エンジン回転数の下限値制御を行うことをスタート?」とするメッセージの表示を行わせるとともに、下限値制御のスタートを指示操作する設定スイッチ51を表示させる(ステップS402)。その後、設定スイッチ51が所定時間内に操作(スタート指示)されたか否かを判断する(ステップS403)。設定スイッチ51が所定時間内に操作された場合(ステップS403,Yes)には、下限値制御の実行に移行し(ステップS404)、本処理を終了する。この場合、上述した実施の形態1,2に示したように、下限値制御の条件を満たすことによって下限値制御が実行されることになる。一方、設定スイッチ51が所定時間内に操作されない場合(ステップS403,No)には、自動再生制御自体も行わず(ステップS405)、本処理を終了する。すなわち、自動再生開始条件を満足するにもかかわらず、自動再生を実行しない。この場合、自動再生が実行されないので、排気ガス温度は上昇せず、高温の排気ガスが粒子状物質除去フィルタ72内に滞留せず、粒子状物質除去フィルタ72は破損しない。
【0061】
なお、ステップS405で自動再生を行わない場合、ステップS405からステップS401へのルーチンの回数Nをたとえば2回まで実行するようにしておく(ステップS406,No)。それでもオペレータが自動再生を行わない場合(ステップS403,No、ステップS405、ステップS406,Yes)は、PM堆積量が第2の閾値以上となると、上述したように、手動強制再生を促す警告表示が行われる。
【0062】
上述した実施の形態1〜4では、下限値制御をおこなうためのエンジン回転数の所定値Nthや所定時間Tth、継続期間TBといった制御パラメータは、あらかじめ設定された値であった。作業車両は極寒地から酷暑地と様々な環境温度で使用されることがある。また、作業車両は湾岸工事などの標高が低い場所で使用されることや鉱山など標高が高い場所で使用されることがある。つまり、粒子状物質除去フィルタ72の自動強制再生を行う際に、環境温度や標高に基づく酸素濃度の影響を無視することはできない。したがって、ドージング燃料の噴射量、EGRバルブ32および可変ターボノズル23の絞り量などを環境温度や酸素濃度に応じて適宜、調整することで適切な再生を行うことができる。さらに、環境温度や酸素濃度に応じて、制御パラメータ(下限値制御を行うためのエンジン回転数の所定値Nth、所定時間Tth、継続期間TB)を変えるようにすれば、下限値制御時の無駄な燃料消費を抑制することができる。
【0063】
作業車両に外気温度センサや気圧センサ、高度センサ、GPSセンサといった環境状態検出手段を搭載し、それら環境状態検出手段に環境温度や標高を検知させ、その検知された情報をもとに、制御パラメータ(下限値制御を行うためのエンジン回転数の所定値Nth、所定時間Tth、継続期間TB)をエンジンコントローラ30で補正し、補正された制御パラメータを下限値制御の制御パラメータとして使用する。また、あらかじめ環境温度や標高と制御パラメータ(下限値制御を行うためのエンジン回転数の所定値Nth、所定時間Tth、継続期間TB)との関係をテーブルデータとしてエンジンコントローラ30の記憶装置(たとえばROMやRAMなどのメモリ)に記憶させておき、各種センサにて検出された環境温度や標高を基にテーブルデータから制御パラメータを引き出して下限値制御を実行してもよい。このように環境温度や標高を考慮した下限値制御を行うことで、環境に応じたエンジン回転数の制御を行い、燃料消費を抑制することができる。たとえば、環境温度が低い場所では、エンジン回転数の所定値Nthを低めに設定し、継続期間TBを短めに設定することで下限値制御が実行されている間のエンジン100の燃料消費を抑制することができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態2では、制御開始条件を、エンジン回転数が所定値Nth以上を所定時間Tth以上継続することとしたが、これに限らず、温度センサ74、75、76が検出した温度が所定温度以上となることとしてもよい。さらに、この場合、温度勾配が所定値以上となることを条件としてもよい。また、制御開始条件として、排気ガス流量が所定未満となることとしてもよい。この排気ガス流量は、たとえば、エアクリーナ2の後段に設けられた流量センサ3fの値をもとに、エンジンコントローラ30が排気ガス流量を推定して求めることができる。もちろん、粒子状物質除去フィルタ72近傍に排気ガス流量を計測するための流量サンサを設け、この流量センサが計測した排気ガス流量を直接、制御開始条件の条件成立の判断に用いてもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態1〜4において、上述した下限値制御が行われる場合、再生制御部42は、モニタ装置50の表示画面上に、下限値制御が行われている旨を表示する。あるいは、パイロットランプを設け、このパイロットランプの点灯あるいは点滅によって、下限値制御が実行中であることを報知する。あるいは、ブザーを設け、このブザーから下限値制御が実行中であることを示すブザー音を鳴動させて報知するようにしてもよい。いずれにしても、この下限値制御実行中である報知手段を設けることによって、オペレータは、下限値制御によるエンジン回転数の上昇やエンジン回転数が低下しないことに対する違和感を感じることがなくなる。
【0066】
なお、上述した実施の形態1〜4では、排気タービン過給機6を有したディーゼルエンジンを用いて説明したが、本発明はこれに限らず、排気タービン過給機6を有しないエンジンであっても適用することができ、この場合、排気浄化装置7の前段に設けられる排気ガスの開閉弁を絞って粒子状物質除去フィルタ72の温度を上昇させることになるが、上述した実施の形態1〜4と同様に、エンジン回転数の下限値制御を行って粒子状物質除去フィルタ72への排気ガス流量を増大すればよい。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン本体
2 エアクリーナ
3 給気管路
4 排気管路
5 冷却機構
6 排気タービン過給機
7 排気浄化装置
8 排気再循環システム
3a エンジン回転速度センサ
3c 給気圧センサ
3d 排気圧センサ
3e タービン回転速度センサ
3f 流量センサ
21 タービン
21a タービン翼車
22 コンプレッサ
23 可変ターボノズル
30 エンジンコントローラ
31 排気再循環通路
32 EGRバルブ
33 EGRクーラ
41 堆積量算出部
42 再生制御部
50 モニタ装置
51 設定スイッチ
70 ドージング燃料供給装置
70a ドージングノズル
71 DOC
72 粒子状物質除去フィルタ
73 差圧センサ
74〜76 温度センサ
80 燃料調整ダイヤル
100 ディーゼルエンジン(エンジン)
TA 自動強制再生期間
TB 継続期間
T1,T2 下限値制御期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスから粒子状物質を除去する粒子状物質除去フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値を超えた場合に、堆積した前記粒子状物質を燃焼させ、前記粒子状物質除去フィルタを再生させるための再生制御手段を備え、
前記再生制御手段は、前記再生時に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項2】
前記再生制御手段は、前記再生終了後、所定時間継続してエンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項3】
前記再生制御手段は、前記再生時に、所定の制御開始条件を満足した場合に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を開始することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項4】
前記所定の制御開始条件は、前記所定閾値以上のエンジン回転数である状態が所定時間以上となることであることを特徴とする請求項3に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項5】
さらに前記エンジンの周囲の環境温度あるいは標高を検知する環境状態検出手段を備え、前記所定閾値および前記所定時間は、前記環境状態検出手段が検知した環境温度あるいは標高に応じて可変であることを特徴とする請求項4に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項6】
前記所定の制御開始条件は、前記粒子量物質除去フィルタ内の温度が所定温度以上となることであることを特徴とする請求項3に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項7】
前記所定の制御開始条件は、排気ガス流量が所定流量以下となることであることを特徴とする請求項3に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項8】
前記下限値制御を行うことを設定指示する設定手段を備え、
前記再生制御手段は、前記設定手段による下限値制御の設定指示がある場合に、前記下限値制御を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項9】
前記再生制御手段は、前記設定手段による下限値制御の設定指示がない場合、前記粒子量物質除去フィルタの自動再生処理を実行しないことを特徴とする請求項8に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御装置。
【請求項10】
エンジンの排気ガスから粒子状物質を除去する粒子状物質除去フィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値を超えた場合に、堆積した前記粒子状物質を燃焼させ、前記粒子状物質除去フィルタを再生させるための再生制御ステップを含み、
前記再生制御ステップは、前記再生時に、エンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする粒子状物質除去フィルタの再生制御方法。
【請求項11】
前記再生制御ステップは、前記再生終了後、所定時間継続してエンジン回転数の下限値を所定閾値以上にする下限値制御を行うことを特徴とする請求項10に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御方法。
【請求項12】
前記再生制御ステップは、前記再生時に、所定の制御開始条件を満足した場合に、エンジン回転数の下限値を所定値以上にする下限値制御を開始することを特徴とする請求項10または11に記載の粒子状物質除去フィルタの再生制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−15064(P2013−15064A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148061(P2011−148061)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】