説明

粒子状金属酸化物誘導体の製造方法

【課題】樹脂への分散性が優れる、ナノオーダーレベルの無機微粒子を得る。
【解決手段】粒子状金属酸化物(A)を濃度30〜70wt%の割合で含む粒子状金属酸化物溶液を作製し、この溶液に対して、1以上のアルコキシ基を有する金属化合物(B)を添加し、前記粒子状金属酸化物(A)の表面水酸基の少なくとも一部と反応させる。次いで、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との反応物を含む前記粒子状金属酸化物溶液に対して、前記金属化合物(B)と化学結合能を有する化合物(C)を混合し、前記金属化合物(B)の少なくとも一部と反応させ、目的とする粒子状金属酸化物誘導体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポリカーボネート樹脂(PC樹脂)などの樹脂との複合材化において、均一分散性に優れ且つマトリクス樹脂との混和性向上によって高い機械物性を得ることができる金属酸化物誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各種部材を樹脂から構成することにより、前記部材さらには前記自動車の軽量化に寄与することは広く知られている。最近では、これまで銅板が用いられていた自動車外板パネルにおいても、軽量化を主たる目的としてポリアミド系材料が適用されるなど、軽量化に果たす樹脂化の役割は大きい。外板パネル以外においても、燃料タンクがこれまでの鋼板製のものから、ポリエチレンを主たる材料にした樹脂製の中空容器に変わるなど、金属材料から樹脂材料への代替は増加の傾向にある。
【0003】
しかしながら、その一方でウインドシールドをはじめとするガラス部材においては、樹脂化は殆ど進んでいないのが現状である。ガラスが有する透明性、耐衝撃性は、すでにポリカーボネート樹脂によって得られているものの、熱に対する樹脂の膨張量(例えば、線膨張係数)が、ガラスのそれに比べてきわめて大きいこと、曲げ剛性でガラスに劣ることから、ガラスに代わる樹脂は一般的には得られていない。
【0004】
熱膨張量の低減には、ガラス繊維等による補強が知られているが、透明性確保の為には、非強化樹脂を選択せざるを得ない。すなわち、透明性を有し、且つ熱膨張量が小さく、剛性が高い、という樹脂は得られていないというのが現状である。
【0005】
一方、樹脂の諸物性を向上させる手法として、樹脂の特徴である柔軟性、低密度や成形性などを保持しつつ、無機化合物の特徴である高強度、高弾性率、耐熱性、電気特性などを併せ持つ材料の開発が盛んに行われており、このような物性改良手法として、従来のガラス繊維やタルクなどによる強化樹脂に代わり、ナノオーダーレベルの無機微粒子を用いた複合材料、いわゆるポリマーナノコンポジットが注目されてきている。このような複合材料の例としては、「複合材料及びその製造方法(特許第2519045号/豊田中研)」や「ポリアミド複合材料及びその製造方法(特公平7−47644号/宇部興産他)」、「ポリオレフイン系複合材料およびその製造方法(特開平10−30039号/昭和電工)」などが挙げられる。
【0006】
上記のようなナノオーダーレベルの無機微粒子を用いたポリマーナノコンポジットでは、いずれの場合も、微細な無機微粒子の分散性向上が物性向上の大きなポイントのひとつであり、無機微粒子の分散性を高効率、低コストで向上させるため、様々な分散方法が検討、提案されている。
【0007】
このような分散方法の一手段として混練法が挙げられる。前述の特公平7−47644号や特開平10−30039号がこれにあたり、溶融状態のポリマーとナノオーダーレベルの無機微粒子を混練機などを用いて溶融混練するものである。また混練法において分散性を更に向上させる方法として、層状クレーを極性溶媒に分散しておきこれをポリマーの溶融状態で接触させる「樹脂複合材料の製造方法(特開平11−310643号/豊田中研)」や、混練する際に無機微粒子とポリマーに超臨界流体を接触させる「樹脂組成物およびその製造方法(特開2000−53871/東レ)」が提案されている。
【0008】
これらの方法では、無機微粒子やポリマーの改質、混練時の溶媒や超臨界流体の添加などの工夫により、比較的低コストでありながら分散性はある程度向上するものの、未だ十分な分散性が得られているとは言い難く、物性の改良代も十分とは言い難い。また、ガラスの代替として注目されているポリカーボネート樹脂に本方法を適用する場合、一般に無機微粒子が、親水性であるが為、樹脂中への分散が悪く凝集を起こし、可視光線以下の微粒子を用いたにもかかわらず樹脂が本来持つ透明性を損なう結果になる。
【0009】
このような理由から、無機微粒子にシランカップリング剤を使用し、疎水化して分散性を高めることも試みられているが、それによっても透明性確保に至る十分な分散性は得られていないのが現状である。一般にシランカップリング剤は分子鎖が短く、無機微粒子の表面に付着させることはできても、樹脂との混和性を発現させるには十分な相互作用力は持っていない為、樹脂との混和性は低く、均一な分散は困難である。分子鎖が長いものは、一般に入手が困難であるばかりか、その長さゆえ、無機微粒子との反応性が低く、反応量が極めて小さく十分な効果を得ることができない。
【0010】
「樹脂ウィンドウおよびその製法(特開平11−343349)」においては、ポリマーを溶剤に溶解し、このポリマー溶液と溶剤に分散した無機微粒子を十分混合した後、コンポジットを析出させる手法が述べられているが、この手法においても無機微粒子の一部が凝集することを避けられず、高い透明性を得るには至っていない。これは無機微粒子の表面改質が不十分であることが示唆される。
【0011】
特にポリカーボネートの組成物に注目した場合、分散性に優れたポリカーボネートシリカ系の組成物を合成する方法として、ポリマー末端へのアルコキシシリル基の導入技術「有機無機ハイブリッド高分子材料及びその製造方法(特開平11−209596,特開平11−255883/オリエント化学工業)」がある。この技術はテトラアルコキシシランの導入量を調節することでシリカをポリカーボネート中にナノオーダーで分散できる点で画期的であるが、原料の合成が高コストである上、出来上がった材料は熱硬化性組成物であり、自由な成形が行えないという点で用途が著しく限定される。
【0012】
更にポリカーボネート組成物に関する他の分散方法の例として、米国Akron大学のHuangらによる研究がある。(“Synthesis of Polycarbonate-Layered Silicate Nanocomposites via Cyclic Oligomers,M Huang, .;Lewis,S.;Brittain,W.J.;Vaia,R.A.Macromolecules 2000,33,p.2000-2004)この技術はポリカーボネートと層状化合物のコンポジットを得る際の分散性の不足を、ポリカーボネートの環状オリゴマーを用いることによって克服したもので、ポリカーボネート環状オリゴマーを層状酸化物と混練後にオリゴマーを開環重合させて高い分散性と物性を実現可能とした。しかしながら、主要原料となるポリカーボネートの環状オリゴマーを安価に製造できないことから、工業的には著しく不利である。
【0013】
ポリカーボネート・ナノコンポジットの最近の技術としては、界面活性剤存在下でゾルゲル法を行うことにより得た微小シリカを表面処理してポリカーボネート中に配合した「ポリカーボネート樹脂組成物、それからなる成形体およびその製造方法(特開2004−107470/帝人)」があるが、10ミクロン程度の薄膜でのみ透明性を維持しており、1mm以上の厚みにおいては透明性が満足なレベルに達していない。
【0014】
以上のように、無機微粒子を分散させるナノコンポジットの製造方法については多くの検討が成されているが、未だ決定的な方法は確立されておらず、特にポリカーボネート樹脂における透明性、熱膨張の低減、剛性の向上については更なる検討が必要であった。
【0015】
【特許文献1】特許第2519045号
【特許文献2】特公平7−47644号
【特許文献3】特開平10−30039号
【特許文献4】特開平11−310643号
【特許文献5】特開2000−53871号
【特許文献6】特開平11−343349号
【特許文献7】特開平11−209596号
【特許文献8】特開平11−255883号
【特許文献9】特開2004−107470号
【非特許文献1】Lewis,S.;Brittain,W.J.;Vaia,R.A.Macromolecules 2000,33,p.2000-2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、樹脂への分散性が優れる、ナノオーダーレベルの無機微粒子を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成すべく、本発明は、
表面に水酸基を有する粒子状金属酸化物(A)の表面改質の方法であって、
前記粒子状金属酸化物(A)を濃度30〜70wt%の割合で含む粒子状金属酸化物溶液を作製する第1の工程と、
前記粒子状金属酸化物溶液に対して、1以上のアルコキシ基を有する金属化合物(B)を添加し、前記粒子状金属酸化物(A)の表面水酸基の少なくとも一部と反応させる第2の工程と、
前記粒子状金属酸化物溶液に対して、前記金属化合物(B)と化学結合能を有する化合物(C)を混合し、前記金属化合物(B)の少なくとも一部と反応させる第3の工程と、
を具えることを特徴とする、粒子状金属酸化物誘導体の製造方法に関する。
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、上述した手順に従って、無機微粒子たる粒子状金属酸化物(A)の表面に第1段階としてシランカップリング剤に代表される金属化合物(B)を結合させ、第2段階として金属化合物(B)に対して化学結合能を有するとともに、例えば配合する樹脂に対して高い混和性を有する末端構造を含む化合物(C)を結合させることにより、汎用の樹脂に対して高い混和性を有する金属酸化物誘導体が得られることを見出した
【0019】
したがって、得られた前記金属酸化物誘導体を所定の樹脂中に配合することにより、前記金属酸化物誘導体を構成する前記粒子状金属酸化物(A)の無機充填剤としての充填効果と、前記粒子状金属酸化物(A)を含む前記金属酸化物誘導体の均一分散との相乗効果によって、弾性率などの機械的特性に優れるともに低い線膨張性(線膨張係数)を有し、透明性に優れた樹脂組成物が得られるようになる。
【0020】
なお、上記内容から明らかなように、前記金属化合物(B)は、前記金属酸化物(A)と前記化合物(C)とを媒介する媒介化合物として機能するものである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂に対して混和性が高い金属酸化物(金属酸化物誘導体)粒子を提供することができる。したがって、前記金属酸化物粒子は、前記樹脂中に均一に分散させることができ、前記樹脂の透明性を維持しながら低い線膨張係数及び高い弾性率など機械的特性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
(粒子状金属酸化物(A))
本発明で使用する粒子状金属酸化物(A)は、その表面の一部に水酸基を有している金属酸化物である必要がある。水酸基は、後述の金属化合物(B)との反応基点になるため、不可欠な官能基である。
【0024】
前記粒子状金属酸化物(A)は特に限定しないが、例えばシリカ、アルミナ、ヘマタイトなどの金属酸化物を例示できる。このような酸化物を用いる理由は、化学的に安定であり、前述の水酸基以外に反応点を有しないことを利用するためである。これらの供試形態は、粉末状態であっても、水等に分散したコロイド状態のものであっても良いが、粉末状態にすることによって著しい凝集が起こる可能性があるため、水等に分散したコロイド状態のものを選択することが好ましい。
【0025】
金属種は前述の通り、水酸基を有してさえいれば特に限定はないが、最終的に得る誘導体を樹脂中に分散させることを目的とするならば、樹脂を劣化させる性質がきわめて小さく、またコスト的にも安価な、珪素、アルミニウムを選択することが好ましく、そのような代表的化合物としてシリカ、ベーマイト(γアルミナの一水和物)を例示できる。
【0026】
前記粒子状金属酸化物(A)の粒子形状については特に限定はない。シリカの場合は一般に球体が知られており、これを選択することが可能である。ベーマイトにおいては種々の形状のものが知られている。板状、針状、いずれのものも適用可能である。球体以外の形状においては、そのアスペクト比など特に限定は無く、適宜選択可能である。Halpin−Tsaiの式で知られるとおり、アスペクト比の高い粒子のほうが高い機械物性を得ることができることを考慮すれば、球体よりもアスペクト比を有する粒子を選択することが望ましい。
【0027】
また、前記粒子状金属酸化物(A)の大きさについては特に限定はなく、所望の物性に応じて任意に選択可能である。最終的に得る誘導体を、透明性を有する樹脂に混合するのであれば、そのサイズは数ナノメートル〜数十ナノメートルの物が必要である。発明者らの検討では球体の金属化合物を出発材料にした場合は、直径10〜20ナノメートルのもの、針状の金属化合物を出発材料にした場合は、断面径は、数ナノメートル、長さ方向は50〜200ナノメートルのものであっても、十分な透明性を維持しているものを得ることができた。
【0028】
(金属化合物(B))
上述したように、金属化合物(B)は、粒子状金属酸化物(A)と前記化合物(C)とを媒介する媒介化合物として機能するものであり、前記粒子状金属酸化物(A)の水酸基と反応して化学結合するための、1以上のアルコキシ基を有することが必要である。前記金属化合物(B)が有するアルコキシ基の数は、特に限定はない。
【0029】
また、1以上のアルコキシ基を有していればその他に有する官能基については特に限定はないが、後述する化合物(C)との反応性の観点から前記化合物(C)との化学結合能を有する末端官能基を有することが好ましく、この場合、後述のように前記化合物(C)の有する反応基点も考慮し適宜選択できるようになる。反応性の面から特にエポキシ基もしくはアミノ基を有することが好ましい。
【0030】
前記金属化合物(B)としてシランカップリング剤を選択する場合、上記を満たすものとして、アルコキシ基が3つの例として、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アルコキシ基が2つの例として(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アルコキシ基が1つの例として(3−グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシランを例示できる。
【0031】
なお、シランカップリング剤以外にもチタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤を選択することができる。カップリング剤における金属元素は、粒子状金属酸化物(A)を構成する金属原子によって適宜改変可能である。
【0032】
(化合物(C))
本発明で使用する化合物(C)は、金属化合物(B)の末端構造によって適宜選択する必要がある。例えば、前記金属化合物(B)が上述した3−アミノプロピルトリメトキシシランのような末端アミノ基構造のものであれば、前記化合物(C)としては、エポキシ基、カルボキシル基等のアミノ基と反応する末端構造を有する化合物を選択する必要がある。別の例としては、(B)が上述した(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシランのような末端エポキシ基構造のものであれば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等のエポキシ基と反応する末端構造を有する化合物を選択する必要がある。
【0033】
特に、入手のし易さ、反応性の面から、金属化合物(B)/化合物(C)の末端官能基の組み合わせとして、アミノ基/エポキシ基、エポキシ基/アミノ基、エポキシ基/カルボキシル基、エポキシ基/水酸基の組み合わせが好ましい。
【0034】
また、化合物(C)において、金属化合物(B)と反応する官能基以外の構造については、特に限定はない。しかしながら、本発明の目的であるナノ粒子のマトリクス樹脂への分散性を向上し、得られる複合体の物性を高めるためには樹脂との混和性を高めることが不可欠である。
【0035】
この手法の一つとして、例えば、樹脂組成物のマトリクス樹脂としてポリカーボネートを選択する場合、前記化合物(C)としては、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂誘導体であることが望ましい。この場合、例えば、前記金属化合物(B)が上述した(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシランのような末端エポキシ基構造のものであれば、前記誘導体として末端を水酸基としたポリカーボネート樹脂を用いることができる。この場合、前記金属化合物(B)と前記化合物(C)とは、前記水酸基と前記エポキシ基との反応を通じて結合する。
【0036】
また、例えば、前記金属化合物(B)が上述した3−アミノプロピルトリメトキシシランのような末端アミノ基構造のものであれば、化合物(C)としては前記エポキシ樹脂及び末端をエポキシ基変性したポリカーボネート樹脂(誘導体)の少なくとも一方を用いることができる。この場合、前記金属化合物(B)と前記化合物(C)とは、前記アミノ基と前記エポキシ基との反応を通じて結合する。
【0037】
(粒子状金属酸化物(A)及び金属化合物(B)の添加・反応)
本発明においては、粒子状金属酸化物(A)及び金属化合物(B)を反応させるに際し、前記粒子状金属酸化物(A)を所定の溶媒に配合し、濃度30〜70wt%の高濃度の粒子状金属酸化物溶液を作製した後、この溶液に対して前記金属化合物(B)を配合するようにする。
【0038】
粒子状金属酸化物(A)の濃度が30wt%未満では反応場中の反応基点濃度が低く、十分な反応量が確保できないばかりか、金属酸化物(B)同士の縮重合による系内の低分子副生成物の増加につながる場合がある。特に、本発明の目的である樹脂への分散性向上のため、長鎖官能基を有する金属化合物(B)を反応させようとする場合、その大きな立体障害のため反応量の低下が顕著になる。一方、前記粒子状金属酸化物(A)の濃度が70wt%を超えると、前記粒子状金属酸化物(A)の粘度の極端な上昇によって、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との混合・撹拌が不十分となり、両成分の拡散が不十分となって、むしろ反応量が低下してしまう場合がある。より好ましくは40〜60wt%の範囲がよい。
【0039】
上述したように高濃度の粒子状金属酸化物(A)を含む粒子状金属酸化物溶液は、ゾルゲル法や水熱合成法などにより作製することができる。また、前記粒子状金属酸化物(A)が製造段階から溶液状態で得られる場合は、生成物が高濃度となる製造条件とするか、低濃度のものについては加熱乾燥や限外濾過によって濃縮すればよい。
【0040】
前記粒子状金属酸化物溶液を構成する溶媒の種類については特に限定はない。イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、トルエンなどの芳香族系溶剤、水が選択でき、またこれらの混合溶媒とすることもできる。但し、表面未改質でも前記粒子状金属酸化物(A)を良好に分散させることができ、また、例えば水ガラス法で製造されるシリカや水熱合成法で製造されるベーマイトに代表されるように、製造段階で水分散ゾルの形態で得られるものも多い。一般的に水分散ゾルは安価かつ入手容易であるため、水が特に好ましい。
【0041】
なお、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との結合は、前記粒子状金属酸化物(A)の表面水酸基と、前記金属化合物(B)のアルコキシ基もしくはこれが加水分解した水酸基との間の縮重合反応によって生ずる。
【0042】
また、前記粒子状金属酸化物溶液中における、前記粒子状金属酸化物(A)及び前記金属化合物(B)の反応条件は、特に限定しない。例えば、前記粒子状金属酸化物(A)としてメチルエチルケトンに分散したシリカを用いる場合、反応容器に還流冷却管をつけ溶媒の揮発による乾固を防ぎながら、前記金属化合物(B)(例えばシランカップリング剤)を適量加えた後、70℃で撹拌することによって、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との反応物を得る。反応温度は、反応性の面からは出来る限り高くすることが好ましいが、沸騰により粒子の接触頻度が高くなり、疑集が生じやすくなることから、溶媒の沸点から5〜10℃低い温度とするのが好ましい。
【0043】
(金属化合物(B)及び化合物(C)の反応)
上述したようにして粒子状金属酸化物(A)と金属化合物(B)とを反応させた後、前記金属化合物(B)と化合物(C)とを反応させ、前記粒子状金属酸化物(A)に対し、前記金属化合物(B)を介して前記化合物(C)を結合する。
【0044】
前記金属化合物(B)に対して前記化合物(C)を反応させる条件は、特に限定しない。例えば、前述の金属化合物(B)を反応させた前記粒子状金属酸化物(A)のメチルエチルケトン分散溶液を用いる場合、反応容器に還流冷却管をつけ溶媒の揮発による乾固を防ぎながら、これに前記化合物(C)としてのエポキシ樹脂を加え、撹拌しながら100℃で反応させることで、前記粒子状金属酸化物(A)に対し、前記金属化合物(B)を介して前記化合物(C)を結合させるようにすることができる。反応温度は、反応性の面からは出来る限り高くすることが好ましいが、前記化合物(C)の末端官能基の変性が生じやすくなることから、70〜130℃の範囲が好ましい。
【0045】
なお、上述した粒子状金属酸化物溶液に関する場合と同様の理由から、前記化合物(C)を混合する、前記粒子状金属酸化物溶液中の、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との反応物の濃度が30〜70wt%の範囲となるようにすることが好ましい
【0046】
上記の例では、粒子状金属酸化物(A)及び金属化合物(B)を含む粒子状金属酸化物溶液に対して、化合物(C)を直接混合するようにしている。しかしながら、前記粒子状金属酸化物溶液に対する前記化合物(C)の溶解性が低い場合、前記粒子状金属酸化物溶液に対して均一に混合するものであって、前記化合物(C)を溶解することができる溶媒を別途準備し、この溶媒に前記化合物(C)を溶解させて溶液とし、その後、この溶液を前記粒子状金属酸化物溶液に配合するようにすることもできる。
【0047】
また、遠心分離などを用い、粒子状金属酸化物溶液から粒子状金属酸化物(A)及び金属化合物(B)の反応物を抽出し、これを化合物(C)に対して溶解性を有する溶剤に改めて溶解・分散した後、前記化合物(C)を添加・混合するようにすることもできる。この場合も、上記同様の理由から、前記溶媒に再溶解した後において、得られた溶液中の前記粒子状金属酸化物(A)及び前記金属化合物(B)の反応物の濃度が30〜70wt%の範囲となるようにすることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0049】
実施例1
(第1工程:粒子状金属酸化物(A)溶液の準備)
日産化学工業(株)製メチルエチルケトン分散のコロイダルシリカ(MEK−ST)100mlを減圧下で加熱濃縮し、シリカ固形分40wt%の分散溶液を得た。
(第2工程:金属化合物(B)の反応)
上記溶液にチッソ(株)製(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(サイラエースS510、以下3GPTMS)30mlを加え、70℃で24時間撹拌・還流した。
(第3工程:化合物(C)の反応)
上記反応溶液にアルドリッチジャパン(株)製テレフタル酸1gを加え、100℃で24時間撹拌・還流した。
【0050】
実施例2
実施例1の第3工程のテレフタル酸1gをヘキサメチレンジアミン1gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0051】
実施例3
実施例1の第3工程のテレフタル酸1gを、平均片末端水酸基のポリカーボネート樹脂(ポリスチレン換算重量平均分子量=20000)5gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0052】
なお、平均片末端水酸基のポリカーボネートは、界面法で作製したポリカーボネートにビスフェノールA〈ポリカーボネートと等モル〉とアルカリ金属触媒とを添加し、水酸基を導入したものである。
【0053】
実施例4
実施例1の第2工程の3GPTMSをチッソ(株)製3−アミノプロピルトリメトキシシラン(サイラエースS360、以下3APTMS)に換え、第3工程のテレフタル酸1gをジャパンエポキシレジン〈株〉製エポキシ樹脂(エピコート1010)1gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0054】
実施例5
実施例1の第2工程の3GPTMSを3APTMSに換え、第3工程のテレフタル酸1gを平均片末端エポキシ基のポリカーボネート(ポリスチレン換算重量平均分子量=20000)5gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0055】
なお、平均片末端エポキシ基のポリカーボネートは、界面法で作製したポリカーボネートの末端封止工程において、ビスフェノールAモノグリシジルエーテルをポリカーボネートと等モル添加し、エポキシ基を導入したものである。
【0056】
実施例6
(第1工程:粒子状金属酸化物(A)溶液の準備)
巴工業(株)製ベーマイトアルミナ(CAM9010)30gを水に分散し、ベーマイト固形分60wt%の分散溶液を得た。
(第2工程:金属化合物(B)の反応)
上記溶液に3GPTMSを30ml加え、90℃で24時間撹拌・還流した。
(第3工程:化合物〈C〉の反応)
平均片末端水酸基のポリカーボネート樹脂(ポリスチレン換算重量平均分子量=20000)5gをテトラヒドロフラン20mlに溶解し、これを上記反応溶液に加え、120℃で24時間撹拌・還流した。
【0057】
実施例7
(第1工程:粒子状金属酸化物(A)溶液の準備)
巴工業(株)製ベーマイトアルミナ(CAM9010)30gを水に分散し、ベーマイト固形分40wt%の分散溶液を得た。
(第2工程:金属化合物(B)の反応)
上記溶液に3GPTMSを30ml加え、90℃で24時間撹拌・還流した。反応後、遠心分離により表面改質されたベーマイトを分離し、これをテトラヒドロフランに再分散させ、ベーマイト固形分50wt%の分散溶液を得た。
(第3工程:化合物(C)の反応)
上記溶液に平均片末端水酸基のポリカーボネート樹脂(ポリスチレン換算重量平均分子量=20000)5gを加え、120℃で24時間撹拌・還流した。
【0058】
実施例8
実施例6の第2工程の3GPTMSを3APTMSに換え、第3工程の平均片末端水酸基のポリカーボネート樹脂5gをエポキシ樹脂(エビコート1010)1gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0059】
実施例9
実施例7の第2工程の3GPTMSを3APTMSに換え、第3工程の平均片末端水酸基のポリカーボネート樹脂5gを平均片末端エポキシ基のポリカーボネート5gに換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0060】
比較例1−1
実施例1の第1工程において、コロイダルシリカ(MEK−ST)にメチルエチルケトンを加え希釈し、シリカ固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0061】
比較例1−2
実施例1の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0062】
比較例2−1
実施例2の第1工程において、コロイダルシリカ(MEK−ST)にメチルエチルケトンを加え希釈し、シリカ固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0063】
比較例2−2
実施例2の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0064】
比較例3−1
実施例3の第1工程において、コロイダルシリカ(MEK−ST)にメチルエチルケトンを加え希釈し、シリカ固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0065】
比較例3−2
実施例3の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0066】
比較例4−1
実施例4の第1工程において、コロイダルシリカ(MEK−ST)にメチルエチルケトンを加え希釈し、シリカ固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0067】
比較例4−2
実施例4の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0068】
比較例5−1
実施例5の第1工程において、コロイダルシリカ(MEK−ST)にメチルエチルケトンを加え希釈し、シリカ固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0069】
比較例5−2
実施例5の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0070】
比較例6−1
実施例6の第1工程において、ベーマイト固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0071】
比較例6−2
実施例6の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0072】
比較例7−1
実施例7の第1工程および第2工程において、ベーマイト固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0073】
比較例7−2
実施例7の第1工程において、ベーマイトアルミナ(CAM9010)30gをテトラヒドロフランに分散し、第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0074】
比較例8−1
実施例8の第1工程において、ベーマイト固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0075】
比較例8−2
実施例8の第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0076】
比較例9−1
実施例9の第1工程および第2工程において、ベーマイト固形分濃度を10wt%に換えた以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0077】
比較例9−2
実施例9の第1工程において、ベーマイトアルミナ(CAM9010)30gをテトラヒドロフランに分散し、第2工程を省略した以外は、同一の手順で粒子を製造した。
【0078】
(改質量の測定)
上記の実施例および比較例について、表面改質量を下記の手順で計測した。
・得られた各粒子の分散溶液を遠心分離し、沈降する粒子固形分を取り出す。
・これをテトラヒドロフランに分散し、再度遠心分離し沈降する粒子固形分を取り出す。これを3回線り返す。この洗浄処理により未反応改質剤が除去される。
・TG−DTA(セイコーインスツルメンツTG/DTA6300型)により、室温から950℃までの空気還流条件で、得られた各粒子の重量減少を計測する。
・200〜600℃までの重量減少分を粒子表面に結合していた改質成分とし、粒子全体量に対する成分量の重量分率を表面改質量とする。
各実施例および比較例の仕様、表面改質量の結果を表1に記載した。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例1と比較例1−1、1−2のように、番号の同じ実施例と比較例とを比べると、何れの場合においても実施例の表面改質量が大きく向上している。金属化合物(A)の濃度が低い場合、特に化合物(C)の分子量が高くなると、改質量が低下するのが分かる。また、金属化合物(A)の濃度が本発明の範囲であっても、金属化合物(B)が存在しないとほとんど改質されないのが分かる。
【0081】
以上、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に水酸基を有する粒子状金属酸化物(A)の表面改質の方法であって、
前記粒子状金属酸化物(A)を濃度30〜70wt%の割合で含む粒子状金属酸化物溶液を作製する第1の工程と、
前記粒子状金属酸化物溶液に対して、1以上のアルコキシ基を有する金属化合物(B)を添加し、前記粒子状金属酸化物(A)の表面水酸基の少なくとも一部と反応させる第2の工程と、
前記粒子状金属酸化物溶液に対して、前記金属化合物(B)と化学結合能を有する化合物(C)を混合し、前記金属化合物(B)の少なくとも一部と反応させる第3の工程と、
を具えることを特徴とする、粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記金属化合物(B)の前記粒子状金属酸化物溶液への添加は、前記粒子状金属酸化物溶液を構成する溶媒の沸点から5〜10℃低い温度で行うことを特徴とする、請求項1に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法
【請求項3】
前記第3の工程において、前記化合物(C)の前記粒子状金属酸化物溶液への混合は、70〜130℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法
【請求項4】
前記第3の工程において、前記粒子状金属酸化物溶液中の、前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との反応物の濃度が30〜70wt%の範囲となるようにすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程において、前記化合物(C)は所定の溶媒に溶解して溶液とした後、前記粒子状金属酸化物溶液に対して混合するようにしたことを特徴とする、請求項4に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程と前記第3の工程との間に、前記粒子状金属酸化物溶液から前記粒子状金属酸化物(A)と前記金属化合物(B)との前記反応物を抽出し、前記粒子状金属酸化物溶液を構成する溶媒と異なる溶媒中に前記反応物を再溶解して反応物溶液を作製する第4の工程を具え、
前記第3の工程において、前記粒子状金属酸化物溶液に代えて、前記反応物溶液に対して前記化合物(C)を混合するようにしたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記第3の工程において、前記反応物溶液中の前記反応物の濃度が30〜70wt%の範囲となるようにすることを特徴とする、請求項6に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記粒子状金属酸化物(A)は、シリカ及びアルミナの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記粒子状金属酸化物溶液を構成する溶媒が水であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記金属化合物(B)は、前記1以上のアルコキシ基の他にエポキシ基を有し、前記化合物(C)は、アミノ基、水酸基、及びカルボキシル基から選択される少なくとも一つの官能基を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記金属化合物(B)は、前記1以上のアルコキシ基の他にアミノ基を有し、前記化合物(C)はエポキシ基を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記金属化合物(B)は、前記1以上のアルコキシ基の他にエポキシ基を有し、前記化合物(C)は、末端に水酸基を有するポリカーボネート樹脂であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。
【請求項13】
前記金属化合物(B)は、前記1以上のアルコキシ基の他にアミノ基を有し、前記化合物(C)は、エポキシ樹脂及び末端にエポキシ基を有するポリカーボネート樹脂の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の粒子状金属酸化物誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2007−176752(P2007−176752A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377851(P2005−377851)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】