説明

粒子線がん治療装置および粒子線スキャニング照射方法

【課題】粒子線ビームが照射される照射範囲に重要臓器が含まれ、スキャニングされた位置が治療計画の位置に対してずれたり、レンジシフタが治療計画のレンジシフタと異なったりしたときでも、重要臓器に照射される誤差線量が最小限に抑えられる粒子線がん治療装置および粒子線スキャニング照射方法を提供する。
【解決手段】粒子線がん治療装置は、3次元スポットスキャニング法を用いて出射される粒子線3を、患部2に照射し、粒子線スキャニング手段により最大限照射可能な領域に、予め定めた重要臓器が含まれるか否かを判断する重要臓器含有判断手段と、粒子線の重要臓器到達前の照射経路上に設置したとしたら、粒子線が重要臓器に到達しないように、その材質と厚さを設定した重要臓器保護手段と、重要臓器保護手段を着脱可能に配置する配置手段と、重要臓器保護手段の着脱を制御する配置手段の制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子線ビームを用いた粒子線がん治療装置および粒子線スキャニング照射方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の3次元スポットスキャニング法を用いる粒子線がん治療装置では、細いビーム径の粒子線ビームを照射方向の垂直方向にスキャニング電磁石によりスキャニングし、照射方向の深さ方向に粒子線飛程を変更するレンジシフタにより体内レンジをシフトすることにより、患者体内での粒子線の停止位置を可変し、患部に所定の線量の粒子線を照射する。そして、患部に粒子線を照射するとき、粒子線ビームが治療計画のスキャニング位置にスキャニングされているか否かをビーム位置モニタによりチェックし、レンジシフタが治療計画のレンジシフタ設定厚であるか否かを状態監視装置によってチェックしている。そして、これらのチェックにより異常が検出されたときに、粒子線ビームを素早く停止させるように制御システムが構築されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−212253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ビーム位置モニタや制御システムの応答時間が長くて、スキャニングされた位置が治療計画の位置に対してずれたり、レンジシフタが治療計画のレンジシフタと異なったりしているときには、応答時間とビーム強度(単位時間あたりの粒子数)とで決まる誤差線量が大きくなるという問題がある。
また、3次元スポットスキャニング法を用いて患部に所定線量の粒子線を照射するために、粒子線ビームにおける線量率が高く、大体20Gy/秒程度になるので、粒子線に敏感な重要臓器が粒子線の照射範囲内にあるときには避けなければならない問題である。
具体的には、照射方向から見て避けるべき重要臓器と照射すべき腫瘍領域の投影範囲が重なっていて、腫瘍領域を照射している際に設定した粒子線のビームエネルギーを有する粒子線がその照射位置が重要臓器領域に向いた際、重要臓器に届くような場合には、腫瘍領域を照射中に、スキャニング装置などの故障があった場合、粒子線が重要臓器に照射されてしまう問題がある。
【0005】
この発明の目的は、粒子線ビームが照射される照射範囲に重要臓器が含まれ、スキャニングされた位置が治療計画の位置に対してずれたり、重要臓器に照射される誤差線量が最小限に抑えられる粒子線がん治療装置および粒子線スキャニング照射方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る粒子線がん治療装置は、粒子線スキャニング手段を有し、3次元スポットスキャニング法を用いて上記粒子線スキャニング手段から所定の照射経路で出射される粒子線を、患部に所定の線量だけ照射する粒子線がん治療装置において、上記粒子線スキャニング手段により最大限照射可能な領域に、予め定めた重要臓器が含まれるか否かを判断する重要臓器含有判断手段と、上記粒子線の上記重要臓器到達前の上記照射経路上に設置したとしたら、上記粒子線が上記重要臓器に到達しないように、その材質と厚さを設定した重要臓器保護手段と、上記重要臓器と上記粒子線スキャニング手段との間に上記重要臓器保護手段を着脱可能に配置する配置手段と、上記重要臓器含有判断手段の判断結果に応じて、上記配置手段を制御することにより、上記重要臓器保護手段の着脱を制御する、上記配置手段の制御手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る粒子線がん治療装置の効果は、粒子線が照射ノズルに入射される位置がずれたり、粒子線走査装置が停電により誤動作したりして重要臓器に粒子線が達する可能性のあっても、その粒子線が重要臓器遮蔽体により停止されるので、重要臓器が粒子線により照射されることがなく、粒子線治療を行っても重要臓器に悪影響を与えることがない。よって、3次元スポットスキャニング法を用いた粒子線がん治療装置の信頼性と安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る粒子線がん治療装置の治療室に配置された3次元照射装置の概略構成図である。
この発明の実施の形態1に係る粒子線がん治療装置の3次元照射装置1は、図1に示すように、患部2に照射するために輸送されてきた粒子線3を3次元スポットスキャニング法により粒子線3を制御して患部に向けて照射する照射ノズル4、患者5が横たわる患者治療台6および予め立案された治療計画に基づいて照射ノズル4を制御する照射制御装置7を備える。
この照射ノズル4は、輸送されてきた粒子線3を入切するビーム入切装置11、粒子線3を粒子線3の入射方向に対して垂直な直交する2方向に粒子線の流れを偏向して、粒子線3を走査する粒子線スキャニング手段としての粒子線走査装置12、粒子線3の残留飛程を変更するレンジシフタ装置13、偏向して体内に照射する粒子線3の粒子線3の進行方向に垂直な平面上の位置を検出するビーム位置センサ14、照射する粒子線の線量を検出する線量モニタ15、粒子線3の重要臓器8に到達前の照射経路上に設置したとしたら、粒子線3が重要臓器8に到達しないように、その材質と厚さを設定した重要臓器保護手段としての重要臓器遮蔽体26、重要臓器8と粒子線走査装置12との間に重要臓器遮蔽体26を着脱可能に配置する配置手段としてのベース板27を備える。
【0009】
この3次元照射装置1には、ビーム運動エネルギーが数十〜数百メガ電子ボルトの陽子線、ヘリウム線または炭素線からなる粒子線3が輸送されてくる。
粒子線走査装置12は、入射される粒子線3を粒子線3の入射方向に対して垂直な直交する2方向のうちの1方向(以下、X軸方向と称す。)に偏向するX軸電磁石21、粒子線3の入射方向に対して垂直なX軸方向に直交する方向(以下、Y軸方向と称す。)に偏向するY軸電磁石22、X軸電磁石21にX軸励磁電流を流して励磁するX軸電磁石電源23、Y軸電磁石22にY軸励磁電流を流して励磁するY軸電磁石電源24を備える。
【0010】
X軸電磁石21では、図示しない励磁コイルにX軸励磁電流を流すことにより、粒子線の流れをX軸方向に偏向する。同様に、Y軸電磁石22では、図示しない励磁コイルにY軸励磁電流を流すことにより、粒子線の流れをY軸方向に偏向する。
X軸電磁石電源23は、入力されるX軸励磁電流指令値に基づいてX軸電磁石21にX軸励磁電流を流す。また、Y軸電磁石電源24は、入力されるY軸励磁電流指令値に基づいてY軸電磁石22にY軸励磁電流を流す。
【0011】
レンジシフタ装置13は、所定の厚みの板または楔状の板からなる複数のレンジシフタ25を粒子線3の通り道に挿入し、粒子線3のエネルギーを可変することにより、粒子線3の残留飛程を変更して、粒子線3が停止する位置を調節する。なお、粒子線3の停止位置(レンジ)は、粒子線3のエネルギーが同じ場合でも体内の状態により異なるが、以下の説明においては粒子線3のエネルギーが等しいときは同一平面上に位置するとして説明する。
【0012】
ビーム位置センサ14は、スキャンされて実際患者に照射される粒子線の粒子線の進行方向に垂直な平面上の位置を検出する。
線量モニタ15は、照射される粒子線3の電荷の流れ、すなわちビーム電流を計測し、ビーム電流の大きさに比例する周波数のパルス列に変換し、パルス列に含まれるパルスの数をカウントして所定の時限で積算してカウント値を求める。このカウント値は、患者体内における粒子線停止位置に形成されるビームスポットの照射線量を管理するためのものであり、一般的に平行平板電離箱で構成される。
【0013】
重要臓器保護装置16は、粒子線を完全に停止させることのできる材質と厚みを有する板からなる重要臓器遮蔽体26と、重要臓器遮蔽体26を支持し、照射ノズル4のフレーム17に取り付けられるベース板27から構成されている。重要臓器遮蔽体26は、材質としてはアクリルなどの高分子であっても、アルミニウムなどの金属であってもよい。そして、重要臓器遮蔽体26は、重要臓器領域42の外形に基づいて板材から作製しても良いが、汎用性を図るために、2次元形状が三角形、円形、長方形等を有する個片をサイズも数種類用意しておき、重要臓器領域42の外形に基づいて個片を適宜組み合わせて用意してもよい。
ベース板27は、アクリルなど粒子線3の減衰の少ない薄い板であるが、治療計画の計画線量が得られるように適宜厚みを選定する。
【0014】
このように重要臓器保護装置16が、重要臓器領域42の外形に合わせた形状の重要臓器遮蔽体26をベース板27上に取り付けられ、それをフレーム17に固定するので、重要臓器遮蔽体26だけを用意すればよく、さらに組み合わせることにより素早く安く重要臓器遮蔽体26を用意することができる。
【0015】
X軸電磁石21、Y軸電磁石22、レンジシフタ装置13、ビーム位置センサ14、線量モニタ15、重要臓器保護装置16は、フレーム17内に収納されている。
【0016】
照射制御装置7は、治療計画用コンピュータから入力される治療計画が記憶されるデータ記憶部31、データ記憶部31から順次X軸励磁電流指令値とY軸励磁電流指令値とを読み出し、それをそれぞれX軸電磁石電源23とY軸電磁石電源24とに送る指令値送信部32、照射線量を監視し、計画線量と比較してビームの要求を判定し、ビーム入切装置11を制御する入切制御部33が備えられている。
【0017】
データ記憶部31には、第1患部領域43に係る患部2の部分のスライスに対応するレンジシフタ25、格子点毎のX軸励磁電流指定値、Y軸励磁電流指定値および計画線量を第1照射手順としてまとめて記憶されており、また、第2患部領域44に係る患部2の部分のスライスに対応するレンジシフタ25、格子点毎のX軸励磁電流指定値、Y軸励磁電流指定値および計画線量を第2照射手順としてまとめて記憶されている。
【0018】
指令値送信部32は、データ記憶部31から読み出したX軸励磁電流指定値とY軸励磁電流指定値に基づいてX軸励磁電流指令値をX軸電磁石電源23に、Y軸励磁電流指令値をY軸電磁石電源24に送信する。
【0019】
入切制御部33は、線量モニタ15からの照射線量と第1照射手順または第2照射手順の計画線量とを比較してそのビームスポットに照射された照射線量が計画線量に達したときには、ビーム切信号をビーム入切装置11に送信し、指令値送信部32に格子点を1つシフトするように指令し、再度ビーム入信号をビーム入切装置11に送信する。
【0020】
次に、この実施の形態1に係る粒子線がん治療装置を用いて患者5の患部2に粒子線3を照射するための治療計画の立案に関して説明する。この説明で使用する患部2と重要臓器8の位置関係を図2に示す。
患部2は通常体表面9から体内側に位置しており、患者5が患者治療台6上に横たわったとき患部2を含む断面は、図2に示すようになる。また、重要臓器8も通常体表面9から体内側に位置しており、患部2に粒子線3を照射するとき、その延長線上に重要臓器8が図2に示すように位置するとき問題となる。
【0021】
治療計画を立案するときには、患者5の体内の患部2や臓器の位置を計測するための図示しないX線コンピュータ断層撮影(CT)装置と、患部2や臓器の位置データを用いて治療計画を立案するアプリケーションソフトが実装されている図示しない治療計画用コンピュータとを用いる。
まず、X線CT装置を用いて患者5の体内を撮影して、患部2と、粒子線3が照射されると悪影響がでる重要臓器8の3次元輪郭を同定して治療計画用コンピュータに同定した輪郭データを入力する。
治療計画用コンピュータでは、輪郭データを用いて患部2や重要臓器8などの3次元イメージをモニタに表示し、患部2に粒子線3を照射するのに適する患者5の患者治療台6への固定位置を図2に示すように決めるので、患部2に対する粒子線3の照射方向が決まる。
【0022】
治療計画用コンピュータが有する重要臓器の含有判断手段では、以下のようにして重要臓器8の有無を判断する。
あらかじめ、撮影した患部2を含む3次元データ画像データを読み込み、患部2の3次元輪郭と、脊髄や目などの重要臓器8の3次元輪郭を抽出する。なお、この輪郭抽出作業は医師等が手入力で行うこともできる。
次に、重要臓器8をなるべく避けるようにスキャニングによる照射方向と患部2と3次元照射装置1との間の相対位置を決める。なお、この作業もオペレータの手作業で行うこともできる。
【0023】
次に、3次元照射装置1の照射方向と垂直する方向での装置の設計性能(X軸電磁石およびY軸電磁石の最大可能磁場等で決まる)である最大限照射可能範囲を、決められた照射方向から重要臓器8の3次元輪郭を平面に投影した際、その重要臓器8の投影した2次元像の領域と比較し、最大限照射可能範囲と重要臓器の2次元投影像とが重なる領域がある否かを判断する。重なる領域がある場合は、最大限照射可能範囲に重要臓器8が含まれていると判断する。
【0024】
次に、最大限照射可能範囲に重要臓器8が含まれていると判断したら、3次元照射装置1から出射できる最大粒子線のエネルギーを持った粒子線3が、重要臓器領域42に照射された場合に、その粒子線3が体表面9と重要臓器8間の領域を通過し、体内での停止位置(飛程)が重要臓器8に到達できるか否かを粒子線シミュレーションコードでチェックする。具体的には、最大粒子線のエネルギーを持った粒子線3の水中飛程を算出し、同時に粒子線3が3次元照射装置1と重要臓器8間の物質の水相当厚さを算出し、両者を比較することで粒子線3が重要臓器8に到達できるか否かを判断する。
ここで重要なのは、体内における患部2と重要臓器8の体表面からの幾何学的な距離で判断するのではなく、体内における水相当深さで判断することが重要である。
粒子線3が重要臓器8に到達できる場合は最大限照射可能範囲内に重要臓器8が含まれていると判断する。そして、患部2を照射する際に、重要臓器遮蔽体26にて重要臓器8への誤照射を防ぐようにする。
【0025】
なお、この「最大粒子線のエネルギー」とは、加速器から出射される粒子線3のエネルギーのことである。加速器から出射される粒子線エネルギーは、患部照射に至るまでに、レンジシフタ25を透過させることによりその実効的なエネルギーが低減されるので、レンジシフタ25を置かなかった場合のエネルギーを「最大粒子線のエネルギー」とする。これは、本来レンジシフタ25によりエネルギーを下げて照射すべきであった領域にたいして、レンジシフタ25の駆動に誤動作が発生し、レンジシフタ25なしで、またはより薄いレンジシフタ25を透過させて照射するという事態が生じた場合である。
なお、加速器の暴走により、想定していた粒子線エネルギーよりも大きなエネルギーの粒子線3が誤って出射される場合も可能性としては考えられるが、周回粒子線の突発的なエネルギー変化が発生すると、安定周回は困難となるから、このようなケースは現実的ではないと考えられる。
【0026】
次に、治療計画用コンピュータでは、図2に示すように、照射方向に垂直な平面45に患部2を投影し、図3に示すように、患部領域41と、その平面45に重要臓器8を投影して重要臓器領域42を得る。そして、患部領域41を、図4に示すように、重要臓器領域42を含まない第1患部領域43と、それ以外の第2患部領域44とに分ける。次に、第1患部領域43の外周を照射方向に投影したとき得られる投影体の側面により囲まれる患部2の部分に対して第1照射手順を立案し、第2患部領域44の外周を照射方向に投影したとき得られる投影体の側面により囲まれる患部2の部分に対して第2照射手順を立案する。なお、第1照射手順は、第1患部領域43の外周を照射方向に投影したとき得られる投影体の側面により囲まれる患部2の部分を照射方向に対して垂直な所定のスライス間隔で隔てられる複数の平面によりスライスして複数のスライスを形成し、スライス毎に格子状にX−Y平面上の格子点を設定し、さらに、格子点毎の計画線量を設定する。そして、格子点の位置座標と計画線量とを3次元照射装置1に入力する。また、第2照射手順も第1照射手順と同様してスライス、格子点、計画線量とを設定し、そのデータを3次元照射装置1に入力する。
また、治療計画用コンピュータは、重要臓器領域42の外周の位置データを重要臓器遮蔽体26を用意するために出力する。
【0027】
次に、この発明の実施の形態1に係る粒子線がん治療装置の動作を図5を参照して説明する。図5は、粒子線を患部に照射して治療する手順を示すフローチャートである。
ステップS101で、治療計画を立案するために、患者5の体内をX線CT装置を用いて撮影して、粒子線3を照射して治療する患部2と粒子線3が照射されると悪影響がでる重要臓器8の3次元領域(Planning Target Volume:PTV)データを算出する。
ステップS102で、患部2の体内の位置に基づいて治療効果を高めるように患者5が横たわったときの粒子線3の照射方向をZ軸方向とし、そのZ軸方向に垂直な直交する2方向をX軸方向とY軸方向とし、3次元領域データを用いて患部2および重要臓器8をX−Y平面45上に投影して患部領域41と重要臓器領域42とを算出する。
【0028】
ステップS103で、患部領域41を重要臓器領域42を含まない第1患部領域43と、それ以外の患部領域からなる第2患部領域44とに分ける。
ステップS104で、第1患部領域43の2次元輪郭を粒子線の照射方向、即ち、Z軸方向に投影したときに形成される投影体の側面が囲む患部2の部分を所定のスライス間隔で離間するZ軸方向に垂直な複数のスライス面によりスライスして複数のスライスを設定する。そして、スライス毎にスライス上に格子点を設定して照射スポットを設定する。
ステップS105で、第2患部領域44の2次元輪郭を粒子線の照射方向、即ち、Z軸方向に投影したときに形成される投影体の側面が囲む患部の部分を所定のスライス間隔で離間するZ軸方向に垂直な複数のスライス面によりスライスして複数のスライスを設定する。そして、スライス毎にスライス上に格子点を設定して照射スポットを設定する。
【0029】
ステップS106で、スライス毎に体表面からのZ軸方向の距離に基づいてレンジシフタ25を指定し、スライスの格子点毎に計画線量を指定する。
ステップS107で、スライスを順番に並べて、該当するレンジシフタ25を登録するとともに、格子点を順番に並べて該当する計画線量を登録する。このとき、格子点のX軸座標とY軸座標とに基づいてX軸励磁電流指定値とY軸励磁電流指定値を算出して登録する。
なお、第1患部領域43に係る患部2に関するスライスに対応するレンジシフタ25、格子点のX軸励磁電流指定値、Y軸励磁電流指定値および照射線量を第1照射手順としてまとめて記憶する。
また、第2患部領域44に係る患部2に関するスライスに対応するレンジシフタ25、格子点のX軸励磁電流指定値、Y軸励磁電流指定値および照射線量を第2照射手順としてまとめて記憶する。
【0030】
ステップS108で、重要臓器領域42の外周の位置データを重要臓器遮蔽体26を用意するために出力する。そして、粒子線がん治療装置を操作する操作員は、重要臓器領域42の外周の位置データに基づき、粒子線3を完全に停止することができる厚みの板から重要臓器領域42の外周と合同な外形の重要臓器遮蔽体26を入手する。
【0031】
ステップS109で、患者5が患者治療台6に所定の向きに向いて横たわってもらい、位置あわせなどを実施したあと、図6に示すように、用意した重要臓器遮蔽体26をベース板27の所定位置に取り付ける。照射ノズル4に設けた図示しないエックス線管を用いて、重要臓器遮蔽体26の位置が完全に重要臓器8を覆っていることを確認し、第1照射手順での粒子線3の照射の準備が完了する。
なお、重要臓器遮蔽体26の治療計画で決めた位置への挿入は照射制御装置7を用いて行うこともできる。その際、制御された回転できるベース板26を回転させるなどして、遮蔽体27を計画した位置に配置させることもできる。
ステップS110で、第1照射手順に従い粒子線3を照射する。
【0032】
ステップS111で、重要臓器遮蔽体26を照射ノズル4から取り外し、第2照射手順に従い粒子線3を照射する。なお、このステップでは、照射制御装置7を用いて、べース板27をモータなどで駆動させ、ベース板27に予め設置した重要臓器遮蔽体26を退避させることもできる。
そして、この第2照射手順では、図4で示す第2患部領域44を照射するため、図2から分かるように、この第2患部領域44の殆どは重要臓器8より浅い位置にあり、粒子線3のエネルギー変更手段であるレンジシフタ25または加速器の出射ビームエネルギーそのものを変更し、粒子線ビームの3のエネルギーを減少させて照射を行うことになる。従って、この第2照射手順で第2患部領域44を照射している際に、例えば、X軸電磁石21またはY軸電磁石22などが故障して、粒子線の照射位置が計画した値からずれたりしても、粒子線3が重要臓器8に誤照射してしまうことは殆どない。
なお、ここで、粒子線3のエネルギー変更手段として、加速器の出射エネルギーを重要臓器8に絶対到達し得ない値に変更した方が、レンジシフタ25の誤動作があった場合でも、重要臓器8を保護できるようにできるので、より効果が期待できる。
【0033】
このように粒子線3が照射ノズル4に入射される位置がずれたり、粒子線走査装置12が停電により誤動作したりして重要臓器8に粒子線3が達する可能性があっても、その粒子線3が重要臓器遮蔽体26により停止されるので、重要臓器8が粒子線3により照射されることがなく、粒子線治療を行っても重要臓器8に悪影響を与えることがない。
また、ビーム位置センサ14に異常が生じた場合でも、重要臓器8は誤照射されてしまうことはない。
【0034】
なお、実施の形態1の説明では、1個の重要臓器8について説明したが、複数個の重要臓器8に対してそれぞれ重要臓器遮蔽体26を用意し、それらをベース板27の所定の位置に取り付けることにより、複数の重要臓器8に対する誤照射を防ぐことができる。
また、重要臓器遮蔽体26の代わりにマルチリーフ式コリメータを用いて、重要臓器8の形状によっては粒子線3が重要臓器8を誤照射しないようにすることができるが、重要臓器8の外形形状が複雑であるときには重要臓器8のすべてに亘って誤照射を防止することができない。また、患部領域41に囲繞されている重要臓器領域41の場合、マルチリーフ式コリメータを複数回設定し直すことが必要となり、マルチリーフ式コリメータの設定に長い時間が必要となる。また、同じスポットを複数回照射することになるので、照射線量の制御が複雑になるという問題がある。
【0035】
一方、本願のように重要臓器領域42と合同な外形形状を有する重要臓器遮蔽体26を1回だけ配置すればよいので、操作が簡単になる。また、スポットには1回だけ粒子線3が照射されるので、照射線量の制御が容易になる。
なお、この実施の形態1では、ビーム入切装置11を照射ノズル4内に配置した場合を例に説明してきたが、実際粒子線3の入り切りを粒子発生装置である加速器やイオン源装置の制御で行っても上記効果が同じである。また、ビーム入切装置11を加速器と照射ノズル4間に高速キッカ電磁石などを設けることで実現しても効果は同じである。
【0036】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2においては、実施の形態1と異なり、図7に示すように、患部2に粒子線3を照射するとき、その延長線上に重要臓器8が存在していない。なお、実施の形態2に係る粒子線がん治療装置は、実施の形態1において説明した粒子線がん治療装置と同様である。
この実施の形態2において、治療計画用コンピュータでは、図7に示すように、照射方向に垂直な平面45に患部2を投影し、図8に示すように、患部領域41と、その平面45に重要臓器8を投影して重要臓器領域42を得る。次に、患部領域41に対して第1照射手順を立案する。なお、第1照射手順は、患部領域41を照射方向に対して垂直な所定のスライス間隔で隔てられる複数の平面によりスライスして複数のスライスを形成し、スライス毎に格子状にX−Y平面上の格子点を設定し、さらに、格子点毎の計画線量を設定する。そして、格子点の位置座標と計画線量とを3次元照射装置1に入力する。
また、治療計画用コンピュータは、重要臓器領域42の外周の位置データを重要臓器遮蔽体26を用意するために出力する。そして、粒子線がん治療装置を操作する操作員は、重要臓器領域42の外周の位置データに基づき、粒子線3の停止位置が重要臓器8の手前にくるように粒子線3のエネルギーを減衰することができる厚みの板から重要臓器領域42の外周と合同な外形の重要臓器遮蔽体26を入手する。
【0037】
このように重要臓器8が患部2の延長線上にない場合でも、重要臓器遮蔽体26を重要臓器8の手前に配置して粒子線3を照射することにより、照射ノズル4に入射される位置がずれたり、粒子線走査装置12が停電により誤動作したりして重要臓器8に粒子線3が達する可能性のあっても、その粒子線3が重要臓器遮蔽体26により停止されるので、重要臓器8が粒子線3により照射されることがなく、粒子線治療を行っても重要臓器8に悪影響を与えることがない。
また、ビーム位置センサ14に異常が生じた場合でも、重要臓器8は誤照射されてしまうことはない。
【0038】
実施の形態3.
図9は、この発明の実施の形態3に係る粒子線がん治療装置の治療室に配置された3次元照射装置の概略構成図である。
この発明の実施の形態3に係る粒子線がん治療装置は、実施の形態1に係る粒子線がん治療装置と重要臓器保護装置16Bが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
実施の形態3に係る重要臓器保護装置16Bは、図9に示すように、実施の形態1に係る配置手段としてのベース板27にベース板27を回動駆動する駆動手段としてのモータ51、モータ51の回動をベース板27に伝達する回動軸52およびモータ51の回動を制御する駆動制御手段としての制御盤53を追加したことが異なっており、それ以外は同様であるので同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。なお、フレーム17には、ベース板27が通過できるスリット54が設けられている。
【0039】
実施の形態3に係る治療計画用コンピュータでは、実施の形態1と同様に第1照射手順および第2照射手順を立案するが、さらに第1照射手順および第2照射手順に従って粒子線3を照射するときの重要臓器遮蔽体26の設定位置を立案し、その設定位置のデータを制御盤53に入力する。
また、実施の形態3における照射制御装置7は、第1照射手順または第2照射手順を選択されたとき、選択信号を生成し、制御盤53に送信する。
実施の形態3に係る制御盤53は、第1照射手順に係る選択信号を受信したとき、予め入力されている設定位置データに基づいてモータ51を回動して、重要臓器遮蔽体26を重要臓器8の粒子線3の照射方向に向いた手前に位置するように配置する。また、制御盤53は、第2照射手順に係る選択信号を受信したとき、予め入力されている設定位置データに基づいてモータ51を回動して、3次元スポットスキャニング法による最大限照射可能領域の外に位置するように配置する。
【0040】
このように重要臓器遮蔽体26の配置替えはモータ51を回動することにより行われ、モータ51の回動は照射制御装置7からの選択信号に基づいて行われるので、照射手順の選択と重要臓器遮蔽体26の配置が対応づけられて行われ、誤照射を防止することができる。
なお、実施の形態3において、ベース板27を回動することにより重要臓器遮蔽体26の配置替えを行ったが、ベース板27を往復運動することにより重要臓器遮蔽体26の配置替えを行ってもよい。
【0041】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4に係る粒子線がん治療装置は、実施の形態1に係る粒子線がん治療装置と治療計画が異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
この実施の形態4に係る治療計画は、実施の形態1に係る治療計画と粒子線3の線量率が異なっており、それ以外は同様である。そして、この実施の形態4に係る治療計画のうち、第1患部領域43の外周を照射方向に投影したとき得られる投影体の側面により囲まれる患部2に対して第1照射手順を立案するとき所定の線量率、例えば20Gy/秒に設定し、第2患部領域44の外周を照射方向に投影したとき得られる投影体の側面により囲まれる患部2に対して第2照射手順を立案するとき、線量率を10Gy/秒に設定する。
なお、第2照射手順の粒子線3の線量率は、第1照射手順の線量率に対して50%以下であることが好ましく、50%を超えると重要臓器8が誤照射されたとき悪影響がでてくる。
また、この発明の実施の形態4に係る粒子線がん治療装置の動作は実施の形態1に係る粒子線がん治療装置と同様である。
【0042】
このように重要臓器8に達する可能性のある粒子線3を照射しても重要臓器遮蔽体26で停止されるので、大きな線量率の粒子線3を照射でき、照射に要する時間が短縮できる。
また、重要臓器遮蔽体26を照射ノズル4から取り外されているときに重要臓器8に達する可能性がある粒子線3は小さな線量率であるので、粒子線3が照射ノズル4に入射される位置がずれたり、粒子線走査装置が停電により誤動作したりして重要臓器8を誤照射しても、重要臓器8へ誤照射した線量を下げることができる。
また、重要臓器8に対応する患部2だけに粒子線3を照射するので、スポット数が限られており、線量率を小さくしても照射時間が長くなりすぎることがない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の実施の形態1に係る3次元照射装置の構成図である。
【図2】実施の形態1における患部および重要臓器の照射方向に平行な断面図である。
【図3】実施の形態1における患部および重要臓器を照射方向に垂直な平面に投影して得られた患部領域および重要臓器領域を示す図である。
【図4】図3の患部領域を重要臓器領域を含まない第1患部領域とそれ以外の第2患部領域を示す図である。
【図5】粒子線を患部に照射して治療する手順を示すフローチャートである。
【図6】照射ノズルの先端に重要臓器遮蔽体を取り付けた様子を表す図である。
【図7】実施の形態2における患部および重要臓器の照射方向に平行な断面図である。
【図8】実施の形態2における患部および重要臓器を照射方向に垂直な平面に投影して得られた患部領域および重要臓器領域を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態3に係る3次元照射装置の構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1 3次元照射装置、2 患部、3 粒子線、4 照射ノズル、5 患者、6 患者治療台、7 照射制御装置、8 重要臓器、9 体表面、11 ビーム入切装置、12 粒子線走査装置、13 レンジシフタ装置、14 ビーム位置センサ、15 線量モニタ、16 重要臓器保護装置、17 フレーム、21 X軸電磁石、22 Y軸電磁石、23 X軸電磁石電源、24 Y軸電磁石電源、25 レンジシフタ、26 重要臓器遮蔽体、27 ベース板、31 データ記憶部、32 指令値送信部、33 入切制御部、41 患部領域、42 重要臓器領域、43 第1患部領域、44 第2患部領域、45 平面、51 モータ、52 回動軸、53 制御盤、54 スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線スキャニング手段を有し、3次元スポットスキャニング法を用いて上記粒子線スキャニング手段から所定の照射経路で出射される粒子線を、患部に所定の線量だけ照射する粒子線がん治療装置において、
上記粒子線スキャニング手段により最大限照射可能な領域に、予め定めた重要臓器が含まれるか否かを判断する重要臓器含有判断手段と、
上記粒子線の上記重要臓器到達前の上記照射経路上に設置したとしたら、上記粒子線が上記重要臓器に到達しないように、その材質と厚さを設定した重要臓器保護手段と、
上記重要臓器と上記粒子線スキャニング手段との間に上記重要臓器保護手段を着脱可能に配置する配置手段と、
上記重要臓器含有判断手段の判断結果に応じて、上記配置手段を制御することにより、上記重要臓器保護手段の着脱を制御する、上記配置手段の制御手段と、
を備えることを特徴とする粒子線がん治療装置。
【請求項2】
照射する粒子線のエネルギーを制御する手段を備え、
上記重要臓器保護手段の着脱に応じて、上記粒子線エネルギーを制御する手段により、上記照射に係る粒子線のエネルギーを制御することを特徴とする請求項1に記載する粒子線がん治療装置。
【請求項3】
上記重要臓器保護手段の配置手段は、上記重要臓器保護手段を取り付けるためのベース板と、上記ベース板を駆動する駆動手段と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載する粒子線がん治療装置。
【請求項4】
上記重要臓器保護手段の駆動手段は、上記ベース板を回動または往復駆動することを特徴とする請求項3に記載する粒子線がん治療装置。
【請求項5】
患者のX線CT撮影画像から患部および重要臓器の輪郭を抽出するステップと、
上記患部を照射するのに適する照射方向に対して垂直な平面上に上記患部および上記重要臓器の輪郭を投影して患部領域および重要臓器領域を確定するステップと、
上記患部領域を上記重要臓器領域を含まない第1患部領域と上記第1患部領域以外の第2患部領域とに分けるステップと、
上記患部を上記平面に投影したときに上記第1患部領域と重なる上記患部の部分に対して第1照射手順を、上記患部を上記平面に投影したときに上記第2患部領域と重なる上記患部の部分がある場合、第2照射手順を設定するステップと、
上記第2患部領域の外形と同様な形状を有し、粒子線のエネルギー減衰する重要臓器遮蔽体を上記第2患部領域と重なる患部の部分の照射方向の手前に配設し、上記第1照射手順に基づいて粒子線を照射するステップと、
上記患部を上記平面に投影したときに上記第2患部領域と重なる上記患部の部分がある場合、上記重要臓器遮蔽体を取り外し、上記第2照射手順に基づいて粒子線を照射するステップと、
を有することを特徴とする粒子線スキャニング照射方法。
【請求項6】
上記第2照射手順での粒子線の線量率は、上記第1照射手順での粒子線の線量率の50%以下であることを特徴とする請求項5に記載する粒子線スキャニング照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−11963(P2008−11963A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184260(P2006−184260)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】