粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム及び粒子線モニタリング方法
【課題】粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム、及び、粒子線モニタリング方法を提供する。
【解決手段】本発明の粒子線モニタリング装置(1)は、照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部(11)と、前記検出部(11)により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部(31)と、を備える。制動輻射は、即発性であり、反応確率が原子核反応よりも桁違いに大きく、例えば、イオンエネルギーに強い相関を持つ連続エネルギースペクトル分布として検出されるため、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする。
【解決手段】本発明の粒子線モニタリング装置(1)は、照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部(11)と、前記検出部(11)により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部(31)と、を備える。制動輻射は、即発性であり、反応確率が原子核反応よりも桁違いに大きく、例えば、イオンエネルギーに強い相関を持つ連続エネルギースペクトル分布として検出されるため、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等により照射される粒子線の挙動に関する情報を取得する粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム及び粒子線モニタリング方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において放射線がん治療技術は「がんを切らずに治す」をスローガンとし、線量を病巣に集中させ、周辺正常組織の損傷をできるだけ小さくすることにより治療成績の飛躍的な改善を実現してきた。最先端の放射線がん治療においては、患部に大線量を照射しつつ正常組織線量を飛躍的に低減させる「粒子線治療」が用いられるようになり、高度X線治療でも達成出来なかった治療成績の改善が実現されようとしている。これは、陽子線や重粒子線などの粒子線共通の性質である、「線量の患部集中性」に由来している。加えて、重粒子線は体内でのイオンの直進性が優れているため、進行方向からのイオンの逸脱が減少し、イオン進行方向に対し動径方向の線量集中性にも優れ、重要組織に接している患部病巣或いは微小な病巣部位を精密にピンポイントで照射することが可能となり、この特徴を生かした次世代治療法としてイオンマイクロサージェリー治療技術の確立が期待されている。
【0003】
上記に示した病巣部位を精密にピンポイントで粒子線を照射するための加速器又はビーム技術として、ビームを細く集束させたペンシルビーム形成やマイクロビーム形成技術などが既に開発されている。しかしながら、現在の粒子線モニタリング技術では、リアルタイムで粒子線の体内到達深度をモニタすることができないため、イオンマイクロサージェリー治療技術の確立を困難にしている。
【0004】
また、照射治療中の病巣部位のエネルギー付与分布(即ち線量分布)のリアルタイムモニタ技術が開発されていないため、物理的又は化学的手法によるファントムの膨大な線量計測データを基に、綿密な治療計画とその実験的及び臨床的に蓄積されてきたデータをベースに治療が行われている。現状、治療計画及びQA(Quality Assurance)において必ず
エネルギー付与分布が事前に確認され、治療照射中はビーム等のモニタの変動が無ければ、そのエネルギー分布が再現され、維持されているものとして放射線治療が実施されている。エネルギー付与分布のリアルタイムモニタリング技術の実現は、病巣部位が確実に照射されていることを確認及び実証しながら治療することが可能となり、信頼性確保という観点から医学的にきわめて大きな意味を持つ。
【0005】
さらに、粒子線治療照射中に体内中空洞領域における粘液の予測不能な充填や排出が生じた場合、これらは、エネルギー付与分布やイオンの到達深度の変化として治療計画からの逸脱として悪影響を及ぼす。そのため、エネルギー付与分布や到達深度を粒子線の照射中にリアルタイムで観察することの恩恵は非常に大きい。
【0006】
現状では、粒子線のモニタリング手法として、非特許文献1及び2で挙げられる、イオンと体内原子核との核反応によって生ずる陽電子放出核種(O-15, C-11 等)由来のガン
マ線である陽電子消滅ガンマ線を観測し、照射位置を推定する手法が模索されている(以降、自己放射化法と呼ぶ)。しかし、陽電子放出核種の生成反応は、イオンと体内中の原子核との一次反応だけでなく、一次反応で発生した中性子による二次反応を経由して生成されるものも多く、全体として複雑多岐にわたる反応経路を経由している。そのため、発生量および生成場所を推定するためには、核反応を含めたモンテカルロシミュレーション
が必要になる。これにより、陽電子分布からエネルギー付与分布を再現することは、複雑な核反応を含むモンテカルロシミュレーションを遡る解析を要するという問題点を持つ。
【0007】
また、陽電子放出核種の発生からガンマ線(例えば、511keVのガンマ線)の放出までには、核種崩壊寿命に由来する数十秒〜数十分の時間差が存在するため、治療終了後からPET(positron emission tomography)又はCT(Computed Tomography)が測定終了するまでに数分から数十分必要となる。陽電子放出核種は、この時間差の間、生体が有する代謝機能により体内を移動する。これにより、陽電子放出核種の発生位置とガンマ線の放出位置とにずれが生じてしまうという問題が生じる。この問題は、代謝によるウォッシュアウト効果と呼ばれており、エネルギー付与分布予測を複雑にする因子の一つとなる。
【0008】
粒子線モニタリング法における測定量は、例えば、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布である。前述の自己放射化法では、これら粒子線到達深度及びエネルギー付与分布のモニタリング手法としても研究が進められている。しかしながら、自己放射化法において、これら粒子線到達深度及びエネルギー付与分布をリアルタイムにモニタリングすることは困難である。なぜなら、自己放射化法において生成される陽電子放出核種は、一般的に反応確率の非常に小さい原子核反応を経由して生成されるという問題点を持つからである。このため、自己放射化法において、粒子線到達深度又はエネルギー付与分布の推測に要するデータを収集するために時間がかかってしまう。具体的には、放射線治療において、粒子線到達深度又はエネルギー付与分布の推測に要するデータが得られるのは治療終了後であり、治療中にリアルタイムモニタリングを行うことは困難である。更に、最先端治療として期待されている重粒子線では、治療に用いるイオンの照射量が、陽子線の場合の10分の1程度と少なく、十分なデータを得るのはさらに困難である。
【0009】
また、前述したように、生成反応の複雑さや、代謝によるウォッシュアウト効果に起因して、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布といった量を導出することには困難が伴う。ウォッシュアウト効果を回避する手法としては、これまでに、粒子線と体内原子核との原子核反応により生ずる励起原子核からの即発ガンマ線を観測する方法(以降、核脱励起法と呼ぶ)が非特許文献3において提案されている。
【0010】
しかし、核脱励起ガンマ線もまた原子核反応を経由するため発生数が少なく、リアルタイムモニタリングは困難である。自己放射化法では、2本の陽電子消滅線が同時に発生するため、PETやそれに類似したガンマ線対測定によるイメージング装置を用いることがで
きるが、核脱励起法では、発生するガンマ線は1本であるため、同様の装置は使用できない。体内物質を構成する原子核は水素、炭素、酸素などの軽い原子核であるため、核脱励起ガンマ線のエネルギーは数MeV以上の高いものに限られ、このような高エネルギーの単
一ガンマ線に対するイメージング装置が必要になる。これを満たす唯一の装置としてコンプトンカメラが提案されているが、高エネルギーガンマ線に対するコンプトンカメラの検出効率は、陽電子消滅によるガンマ線等の検出効率に比べて非常に低く、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布を推測するのに十分なデータを測定するのは困難である。
【0011】
ここで、エネルギー付与分布のモニタリングは、「体内物質密度」及び「イオンエネルギー」の両者を、直接的に測定する手法を指す。従来法である自己放射化法では、陽電子消滅線は単一エネルギー(511keV)であるため、測定物理量としては消滅線の強度のみである。また、エネルギー付与と消滅線強度は、双方とも「体内物質密度」に比例し、「イオンエネルギー」に強く依存する。これらを考慮すると、陽電子消滅法では、エネルギー付与分布をモニタリングするために、体内中での「イオンエネルギー」を仮定することが必要になり、エネルギー付与分布のモニタリングを直接行うことは不可能であるという問題点が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】W. Enghardt et al., "The spatial distribution of positron-emitting nuclei generated by relativistic light ion beams in organic matter", Phys. Med. Biol., 1992, Vol. 37, No 11, 2127-2131.
【非特許文献2】Katia Parodi et al., "PET imaging for treatment verification of ion therapy: Implementation and experience at GSI Darmstadt and MGH Boston", Nucl. Instr. and Meth. A 591 (2008) 282-286
【非特許文献3】S. Kabuki et al., "Study on the Use of Electron-Tracking Compton Gamma-Ray Camera to Monitor the Therapeutic Proton Dose Distribution in Real Time", 2009 IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2437-2440.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の粒子線モニタリング方法では、以上のとおりの問題点が存在し、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることはできなかった。
【0014】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム、及び、粒子線モニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0016】
すなわち、本発明の粒子線モニタリング装置は、照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部と、前記検出部により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部と、を備える。
【0017】
上記構成によれば、照射体の位置関係に応じて、当該照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報が検出される。そして、上記構成によれば、当該制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報が算出される。ここで、制動輻射の放射線情報は、例えば、制動輻射の連続エネルギースペクトル分布である。
【0018】
制動輻射は即発性であるため、自己放射化法で問題となるウォッシュアウト効果によるイメージング精度の悪化はまったく生じない。また、制動輻射は、電磁相互作用により発生するため、原子核反応と比較すると反応確率が桁違いに大きい(およそ102〜105倍)。更に、制動輻射の放射線情報は、例えば、イオンエネルギーに強い相関を持つ連続エネルギースペクトル分布として、検出される。このため、消滅線のエネルギーが決まっているためにエネルギー強度しか観測されない自己放射化法とは異なり、制動輻射では、検出される放射線情報から照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出することができる。
【0019】
従って、上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0020】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線の挙動に関する情報は、上記粒子線の到達深度であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報として、粒子線の到達深度をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0022】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線の挙動に関する情報は、上記粒子線のエネルギー付与分布であってもよい。
【0023】
上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報として、粒子線のエネルギー付与分布をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0024】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線は、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームであってもよい。
【0025】
上記構成によれば、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームの挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0026】
なお、本発明の別態様としては、以上の各構成を実現する粒子線モニタリング方法であってもよいし、粒子線モニタリングプログラムであってもよいし、このような粒子線モニタリングプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。また、本発明の別態様として、以上の各構成を実現する複数の装置が通信可能に構成された粒子線モニタリングシステムであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム、及び、粒子線モニタリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】制動輻射のエネルギースペクトルを例示するグラフ。
【図2】照射体中でのイオンエネルギーを例示するグラフ。
【図3】理論式により求められる照射体における深度方向の制動輻射の微分断面積を例示するグラフ。
【図4】実施の形態に係る粒子線モニタリング装置を例示する図。
【図5】実施の形態に係る検出部を例示する図。
【図6A】実施の形態に係る測定方法を例示する図。
【図6B】実施の形態に係る測定方法を例示する図。
【図7】重粒子線による脳下垂体腺腫治療の模式図。
【図8】実施形態1における動作例での検出器を例示する図。
【図9】実施形態1における炭素モノクロビームの粒子線到達深度(飛程位置)の測定手順を示すフローチャート。
【図10】実施形態1におけるイオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を理論的に計算した結果を示す図。
【図11】実施形態1における68±5keVの制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)の深さ方向依存性を測定した結果を示す図。
【図12A】実施形態2におけるイオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を理論的に計算した結果を示す図。
【図12B】図12Aのグラフを相対位置に関して一階微分した結果を示す図。
【図13】実施形態3における動作例での検出器を例示する図。
【図14】実施形態3における炭素モノクロビームのエネルギー付与分布の測定手順を示すフローチャート。
【図15A】実施形態3における制動輻射を含むX線及びガンマ線のエネルギースペクトルの測定結果を示す図。
【図15B】実施形態3における動作例において求められたエネルギー付与分布を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に詳細に説明される粒子線モニタリング装置は、本発明の一側面に係る粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム及び粒子線モニタリング方法の実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)である。ただし、本実施形態は例示であり、本発明は本実施形態の構成に限定されない。
【0030】
なお、本実施形態において登場するデータを自然言語(日本語等)により説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメタ、マシン語等で指定される。
【0031】
[概略]
本実施形態は、粒子線を照射体に照射した際に発生する制動輻射の観測による粒子線リアルタイムモニタリング手法である。本実施形態における制動輻射は、入射粒子線のエネルギーの一部を付与された電子から発生する制動輻射を指す。制動輻射は即発性である。また、制動輻射は、電磁相互作用により発生するため、原子核反応よりも反応確率が桁違いに大きい(およそ102〜105倍)。更に、制動輻射のもつ連続エネルギースペクトル(本発明の制動輻射の放射線情報に相当)は、粒子線のイオンエネルギーに強い相関を持つ。つまり、照射体の各位置における制動輻射を観測することによって、照射体中の粒子線のイオンエネルギーを求めることができる。したがって、本実施形態では、制動輻射を観察することにより、粒子線リアルタイムモニタリングが可能となる。
【0032】
なお、制動輻射は、陽電子消滅によるガンマ線(例えば、511keV)及び即発ガンマ線(数MeV)とは異なり、比較的に低いエネルギー(本実施形態では、50keV〜100keV辺りのエネルギー)で、かつ、連続のエネルギースペクトルを持つ。そのため、制動輻射は、陽電子消滅によるガンマ線及び即発ガンマ線等の他のエネルギーと区別して取得されることが可能である。
【0033】
また、制動輻射は、発生要因によりいくつかの種類に分けることができるが、それぞれ現れるエネルギー領域が異なる。従って、複数の種類の制動輻射が混在した場合であっても、各種類の制動輻射に分類することが可能である。
【0034】
粒子線モニタリングは、用いるビームの種類や測定する物理量によって分類できる。本実施形態では、ビームの種類として、モノクロビームと拡大ブラッグピーク(SOBP)ビームの2種類のビームを例に挙げる。
【0035】
ここで、モノクロビームとは、入射エネルギーが単一のビームを表し、エネルギー的には何ら加工されていない加速器から引き出されたままの状態のビームを指す。あるエネルギーを持ったイオンを物質に打ち込んだ際の到達深度は飛程と呼ばれる。モノクロビームの場合、粒子線を構成するイオンの飛程は同じになるため、最大到達深度と飛程は一致する。また、イオンのエネルギー付与は、飛程近傍で最大値を持つため、モノクロビームでは深度方向についても集中性の良い線エネルギー付与を達成できる。イオンマイクロサージェリーといった、ポイントビームをスキャニングして精密に治療する手法で威力を発揮する。
【0036】
SOBPビームは、モノクロビームをレンジシフターに通し、連続的な広がりをビームエネルギーに与えることで形成される。エネルギーが単一でないため、個々のイオンの飛程も
連続的に変化し、エネルギー付与も深度方向に広がりを持った分布となる。
【0037】
また、本実施形態では、測定する物理量として、粒子線到達深度とエネルギー付与分布の2種類の物理量を例に挙げる。
【0038】
粒子線到達深度は、モノクロビームにおいては飛程に対応し、SOBPビームにおいては最大エネルギーイオンの飛程に対応する。エネルギー付与分布と比べると得られる情報量は少ない。しかしながら、当該情報は、イオンマイクロサージェリー治療時の深部ビーム位置のリアルタイムモニタを可能とし、照射体における深部方向の照射位置の精密照準と照射中の位置をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする。また、当該情報は、治療計画からの逸脱をリアルタイムで検知するためにも有用である。
【0039】
エネルギー付与分布は、照射体に対するエネルギー付与(線量付与又は、線エネルギー付与とも呼ばれる)が測定されたものである。本実施形態では、エネルギー付与分布は、「体内物質密度」又は「粒子線のエネルギー(例として、イオンエネルギー)」のどちらかを、別の装置を用いて測定する、もしくは仮定の値を入れて既知とするといったことなしに、直接的に導出される。ここで、エネルギー付与分布は、「体内物質密度」と比例関係にある。そして、当該比例関係の比例係数は、照射体に対する線エネルギー付与のデータテーブルを参照することで求めることができる。このため、「体内物質密度」及び「粒子線のエネルギー」の両者を測定することができれば、エネルギー付与分布を導出することが可能である。なお、エネルギー付与分布は、治療時の粒子線モニタリングにおいて最終的に導出を要する物理量である。このため、エネルギー付与分布が直接測定可能となることの意義は非常に大きい。
【0040】
以下、粒子線の種類及び測定する物理量の分類で整理して、本実施形態を示す。なお、以下の実施形態では、照射される粒子はイオンであるとし、粒子線のエネルギーはイオンエネルギーで表す。
【0041】
[実施形態1]
<導出>
実施形態1では、モノクロビームにおける粒子線到達深度が測定される。制動輻射のエネルギースペクトルは、粒子線のイオンエネルギーに強い相関を持つ。具体的には、制動輻射の理論計算から、イオンエネルギーをEionとした場合、制動輻射のスペクトルには、図1に示されるように、最大エネルギーEmaxが存在し、最大エネルギーEmaxはイオンエネルギーEionに比例することが分かっている。図1は、制動輻射のスペクトル例であり、横軸は制動輻射のエネルギーであり、縦軸は準自由電子制動輻射の二重微分断面積(単位はbarn/(sr・keV))である。入射粒子のイオンエネルギーEionは290MeV/u、入射粒子はC-12とした。図1に示されるとおり、制動輻射には最大エネルギーEmaxが存在し、この例で
は、およそ160keVになる。
【0042】
制動輻射には、いくつか種類があるが、例えば、準自由電子制動輻射の場合は、制動輻射の強度は、[数1]の二重微分断面積(Phys. Rev. A 23, 24 (1981) )に比例する。
【0043】
【数1】
ここで、p2は、[数2]である。
【0044】
【数2】
また、NTは物質を構成する原子の電子数、Zpはイオンの原子番号、a0はボーア半径、h
ω/2πが制動輻射のエネルギー、θがイオンの入射方向と、制動輻射の放出方向のなす角度である。eは素電荷、hはプランク定数、cは光速度、meは電子の質量を表す。σは全散乱断面積、Ωは立体角(dΩ=2πsinθdθ)、Trは準自由電子の最大エネルギーを表
す。
【0045】
更に、Trは、[数3]である。
【0046】
【数3】
[数3]におけるmはイオンの質量を表す。以上の[数1]から[数3]の関係により
、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2π、イオ
ンエネルギーEion、制動輻射の放出角度θの3変数関数として表すことができる。つまり、制動輻射の強度は、二重微分断面積を介して、制動輻射のエネルギーhω/2πを変数
とする関数として表現することができる。なお、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2πの増加に対して単調減少する。
【0047】
一方、準自由電子制動輻射の場合は制動輻射の最大エネルギーEmaxは[数4]となる(藤本文範/小牧研一郎編「イオンビームによる物質分析・物質改質」内田老鶴圃出版、1.4.6章、81〜85ページ)。
【0048】
【数4】
制動輻射の別の例である二次電子制動輻射の二重微分断面積についても、制動輻射のエネルギーの増加に対して単調減少する性質は同じである。また、二次電子制動輻射においても、制動輻射のエネルギーに上限値Emaxが存在する性質は同じである。ただし、上限値Emaxは、準自由電子制動輻射の[数4]とは異なり、[数5]となる。
【0049】
【数5】
その他の種類の制動輻射は、準自由電子制動輻射及び二次電子制動輻射と比較すると、非常に強度が小さい。したがって、準自由電子制動輻射及び二次電子制動輻射において成立する[数3]から[数5]により、制動輻射のエネルギーの上限値Emaxは、Eionの関数により一意に表される。すなわち、当該関数の逆関数を考慮すると、イオンエネルギーEionは、制動輻射のエネルギーの上限値Emaxの関数により一意に表される。以後、これを[数6]で表現する。
【0050】
【数6】
また、エネルギーEを持つイオンの飛程をxrangeとすると、xrangeは、Eの関数として一意に表される。以後、これを[数7]で表現する。
【0051】
【数7】
この[数7]、つまり、イオンの物質中での飛程のエネルギー依存性は、測定値をもとにしたテーブルが提供されており、例えば、James F. Zieglerによる計算コード”SRIM”(参照URL:http://www.srim.org/)を用いることで容易に入手できる。図2は、C-12(炭素12)イオンの飛程とエネルギーの関係を例示するグラフである。図2のグラフの横軸は、ビームの進行方向を正とした飛程位置を原点とする相対位置である。また、図2のグラフの縦軸は、イオンのエネルギーである。このグラフによると、物質中での、飛程からの相対位置x(ビームの進行方向を正とし、飛程位置を原点とする)でのイオンエネル
ギーEionは、[数8]で表現される。
【0052】
【数8】
図2に示されるとおり、物質(照射体)中でのイオンエネルギーEionは、飛程に近づくにつれて減少する。また、[数6]で示されるとおり、Eionとイオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは比例関係にある。これらにより、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは、飛程に近づくにつれて減少するといえる。
【0053】
したがって、制動輻射の最大エネルギーEmaxの最大値よりも小さいあるエネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度を考えると、照射されたイオンが飛程に近づく
につれて、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは減少し、E2に近づく。これに伴い、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度、つまり、制動輻
射の単位時間あたりの放出個数は増加すると考えられる。なぜなら、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2πの増加に対して単調減少する
ため、制動輻射のエネルギーhω/2πの減少に対して、制動輻射の強度は増加すると考
えられるからである。
【0054】
そして、照射されたイオンが更に飛程に近づくと、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxはE2以下となる。この時、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE2以下となると、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)に属する制動輻射の
数が減少すると考えられるため、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強
度は減少すると考えられる。このため、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE2である位置において、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度
は最大になると考えられる。
【0055】
そして、照射されたイオンが更に飛程に近づくと、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxはE1以下となる。この時、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE1以下となると、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度は
0になると考えられる。このため、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE1である位置以降において、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度
は0になると考えられる。
【0056】
このように、あるエネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度について、
深度方向のエネルギー分布を取ると、図3のように、強度分布の傾きが変化する点(今後、屈曲点と呼ぶ)が2点現れることがわかる。図3は、[数1]と、体内中でのイオンエネルギーの導出式を用いて、深度方向の制動輻射の微分断面積(強度分布と比例関係にある値)を求めたグラフである。一つ目及び二つ目の屈曲点が現れる位置をxA及びxBで表すと、xA及びxBは、エネルギー範囲の上限値E2及び下限値E1を用いて、下記[数9]及び[数10]により一意に決定される。なお、図3におけるエネルギー範囲の上限値E2及び下限値E1はそれぞれ、E1 = 80keV、E2 = 100keVである。また、xA及びxBはそれぞれ、xA = −75mm、xB = −51mmである。xA及びxBはそれぞれ、ビームの進行方向を正とした飛程位
置を原点とする相対位置である。
【0057】
【数9】
【0058】
【数10】
xA及びxBの値は、照射体の飛程近傍の構成物質、粒子線の種類、飛程位置から制動輻射を検出する検出部の間に存在する構成物質、バックグラウンドの大きさ、の4つの要素に
それぞれ依存する。このため、これら4つの要素とxAもしくはxBとの関係を実験的に測定
することにより、精度よく飛程位置を求めることが可能である。つまり、[数9]及び[数10]の関係は、予め用意することが可能である。
【0059】
ここで、xBは、xAよりも飛程に近い位置である。そのため、xBを用いた測定の方が、xAを用いた測定よりも精度の良い測定を期待できる。また、飛程から離れるに従い、イオンエネルギーが増大するため、より高エネルギーのガンマ線の発生が増大し、これが散乱することで発生するガンマ線によるバックグラウンドの効果が大きくなってしまう。これにより、xAの屈曲は実際には判別しにくくなると予測される。よって、本実施形態1では、xBを用いて飛程位置を算出する。ただし、本発明は、xBを用いて飛程位置を算出することに限定されるものではない。
【0060】
以上までの導出により、xBを用いることで、飛程位置を算出することができることを示した。具体的には、まず、照射体中におけるイオンから放射される制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置(例えば、深度方向)に応じて取得する。次に、イオンから放射される制動輻射の最大エネルギーEmaxが予め設定されたE1となる照射体の位置(飛程からxB離れた位置)を求める。この位置は、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制
動輻射の強度を測定することにより求められる。すなわち、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度が初めて0となる位置(屈曲点)が、制動輻射の最大エネル
ギーEmaxがE1となる照射体の位置である。そして、実験的に測定済みの[数10]の関係を用いて、E1から具体的なxBの値を求め、飛程の位置を求める。これにより、本実施形態1では、飛程位置、すなわち、モノクロビームにおける粒子線到達深度が求められる。
【0061】
<装置構成例>
次に、本実施形態1に係る粒子線モニタリング装置について説明する。図4は、本実施形態1に係る粒子線モニタリング装置を例示する。図4に示されるとおり、検出部11及び演算部12を備える。なお、検出部11は、演算部12により制御可能な状態で接続している。
【0062】
(検出部)
検出部11は、加速器3から入射した粒子線について、照射体2中において当該粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体2の位置関係に応じて検出する。制動輻射の放射線情報は、例えば、制動輻射によって発生するX線又はガンマ線のうちの少なくとも一方のエネルギースペクトルである。
【0063】
図5は、検出部11の構成例を示す。図5に示されるとおり、検出部11は、検出器111、電荷有感型増幅器(Charge Sensitive Amplifier)112、整形増幅器(Shaping Amplifier)113、アナログデジタル変換器(Analog Digital Converter)114を備
える。
【0064】
検出器111は、例えば、テルル化カドミウム半導体検出器(CdTe、CdZnTe)である。本実施形態1では、検出器111は、入射するX線又はガンマ線により生成される電気信号により、入射X線又はガンマ線のエネルギースペクトルを得ることができる検出器であれば何でもよい。図5に示されるとおり、検出器111は、HV(High Voltage)、カップリングコンデンサ(Cc)及びバイアス抵抗(Rb)に接続される。これにより、検出器111に生じた電荷の変化分のみがカップリングコンデンサを介して、電荷有感型増幅器112に伝達される。
【0065】
電荷有感型増幅器112は、検出器111中で生成された電荷を読み出して、電圧に変換する。整形増幅器113は、電荷有感型増幅器112により電圧に変換された信号の波形整形と増幅を施す。そして、当該信号の波高値(パルスハイト)は、アナログデジタル変換器114により読み取られる。
【0066】
以上により、検出部11は、制動輻射のエネルギースペクトルを取得する。より正確には、検出部11は、制動輻射により発生したX線及びガンマ線を含むエネルギースペクトルを取得する。ここで、上述のとおり、制動輻射のエネルギースペクトルは、他の要因によって発生するエネルギースペクトルから識別可能である。この点を考慮し、以下、検出部11は、制動輻射のエネルギースペクトルを取得するものとして説明する。
【0067】
また、図6A及びBは、照射体2の位置関係に応じて制動輻射のエネルギースペクトルを検出部11が検出する測定方法の例を示す。
【0068】
検出部11は、図6Aに示されるとおり、入射方向に応じて平行光線を作るコリメータ120を更に備えることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出してもよい。この場合、粒子線の照射により放出されるX線又はガンマ線は、コリメータ120により入射方向に応じた位置における平行光線となる。したがって、検出部11が備える検出器111は、粒子線の照射により放出されるX線又はガンマ線のエネルギースペクトルをより高い位置分解能で測定することができることが好ましい。
【0069】
また、検出部11は、図6Bに示されるとおり、演算部12により制御可能な駆動機構121を更に備えることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出してもよい。駆動機構121は、例えば、粒子線の進行方向と平行な方向に動作する。そして、検出部11は、当該駆動機構121により、粒子線の進行方向と平行な方向に移動させられることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出する。
【0070】
また、駆動機構121により検出部11を移動させる代わりに、複数個の検出部11を配置してもよい。これによりバックグラウンドの時間変動による測定誤差を相殺でき、精度良い測定が可能となる。
【0071】
なお、図6A及び図6Bの検出部11は、検出器111であってもよい。検出部11が、図6A又は図6Bで示されるようなコリメータ120又は駆動機構121を備えた検出器111を備えてもよい。
【0072】
(演算部)
次に、演算部12について説明する。演算部12は、検出部11により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を求める。図4に示されるとおり、演算部12は、ハードウェア構成として、バス23で接続される、記憶部21、制御部22、入出力部24等の既存のハードウェアを有している。
【0073】
記憶部21は、例えば、ハードディスクであり、制御部22で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する。本実施形態1では、更に、記憶部21は、上記導出で述べた、実験的に測定済みの[数10]の関係、つまり、E1とxBの対応関係を記憶する。
【0074】
制御部22は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又
は複数のプロセッサであり、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read
Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)を有する。
【0075】
入出力部24は、例えば、USB(Universal Serial Bus)やLAN(Local Area Network)等であり、データを入出力するためのインタフェースである。本実施形態1では、演算部12は、入出力部24を介して検出部11と接続している。例えば、演算部12に含まれる制御部22が、入出力部24を介して検出部11を制御する。より具体的には、例えば、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22の周辺回路であるRAM等に展開され、制御部22のプロセッサにより実行されることによって発生する電気信号が入出力部24を介して検出部11に伝達される。これにより、検出部11は、制御部22によって制御される。
【0076】
なお、演算部12は、PC(Personal Computer)等のような汎用コンピュータで構成
されてもよい。
【0077】
図4に示されるとおり、制御部22は、算出部31を含む。算出部31は、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22の周辺回路であるRAM等に展開され、制御部22のプロセッサにより実行されることによって実現される。
【0078】
算出部31は、検出部11により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を求める。本実施形態1では、算出部31は、上記導出に基づいて、モノクロビームにおける粒子線到達深度を求める。
【0079】
具体的には、まず、制御部22により制御されることにより、検出部11は、モノクロビームにより発生する制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置に応じて取得する。次に、算出部31は、検出部11により取得されるエネルギースペクトルより、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度を求める。そして、算出部31は、
エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度が初めて0となる位置(屈曲点
)を求める。当該位置は、制動輻射の最大エネルギーEmaxが、記憶部21に格納されたプログラム等によりパラメタとして設定されたE1となる照射体の位置である。最後に、算出部31は、記憶部21に格納されたE1とxBの対応関係を用いて、E1から具体的なxBの値を求め、飛程の位置を求める。これにより、算出部31は、飛程位置、すなわち、モノクロ
ビームにおける粒子線到達深度を求める。
【0080】
<動作例>
次に、本実施形態1の動作例について説明する。図7は、重粒子線を用いた脳下垂体腺腫の治療例を示す。本動作例では、本実施形態1の実現可能性を実証するために、このような図7で示される重粒子線を用いた脳下垂体腺腫の治療における条件を模して粒子線のリアルタイムモニタリングの動作例を示す。
【0081】
脳下垂体腺腫の患部は体内深い部分に存在するため、加速器3から照射される粒子線は、290MeV/u程度のエネルギーのものを用いた。図8は、本動作例における、粒子線の照射に伴い飛程付近から発生する制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111の例を示す。290MeV/uの炭素モノクロビームを照射体2(本動作例では、水ファントム)に入射し、鉛のコリメータ120と、テルル化カドミウム半導体検出器である検出器111を用いて制動輻射のエネルギースペクトルを測定した。水ファントムは、ビーム軸方向に30cmの厚さ、ビーム軸と垂直方向に10cmの直径を持つ円柱状のアクリル製ファントムに水を注入したものを用いた。水ファントムの近傍には、鉛のコリメータ120と、テルル化カドミウム半導体検出器である検出器111を備えた検出部11を設置し、当該検出部11を移動させてスペクトルを測定した。また、熱中性子の半導体検出器への影響を排除するために、検出器111の周囲には中性子の遮蔽ブロックを設置した。
【0082】
図9は、本動作例における炭素モノクロビームの粒子線到達深度(飛程位置)の測定手順を示す。
【0083】
例えば、演算部12が備える不図示のユーザインタフェースを介したユーザの操作情報に基づいて、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22によって実行されることにより当該測定が開始される(S1000)。
【0084】
当該測定が開始されると、演算部12の制御部22により制御された検出部11によって、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される制動輻射のエネルギースペクトルが、水ファントムの位置関係に応じて検出される(S1001)。
【0085】
次に、算出部31は、検出された制動輻射のエネルギースペクトルを用いて、水ファントムの各位置について、所定のエネルギー範囲における制動輻射の強度を算出する(S1002)。当該エネルギー範囲は、記憶部21に格納されたプログラム等のパラメタ等によって設定される。本動作例では、当該エネルギー範囲として、68±5keVの範囲を設定した。このエネルギー範囲は、診断用放射線薬剤として一般的に用いられているTl-201のX
線又はガンマ線と同程度であり、精度の良い測定が可能であるエネルギー範囲として一般的に知られているからである。
【0086】
次に、算出部31は、水ファントムの位置毎に算出した所定のエネルギー範囲における制動輻射の強度を用いて、屈曲点を求める(S1003)。例えば、算出部31は、炭素モノクロビームに沿って算出された制動輻射の強度を、当該炭素モノクロビームに沿った方向の位置関係に対応付けてグラフ化することにより、屈曲点を求める(後述する図11)。
【0087】
次に、算出部31は、制動輻射の強度を算出するために用いた所定のエネルギー範囲の下限値E1を用いて、屈曲点と飛程との間の距離xBを求める(S1004)。当該距離xBは、上述のとおり、実験的に測定された結果を用いて求められる。算出部31は、記憶部21に格納された実験的に測定済みの[数10]の関係、つまり、E1とxBの対応関係を用いて、距離xBを求める。
【0088】
次に、算出部31は、屈曲点から炭素モノクロビームの進行方向に絶対値xBだけ進んだ位置を、飛程の位置として求める(S1005)。これにより、飛程の位置が算出され、当該測定が終了する(S1006)。
【0089】
なお、図10は、[数1]を用いて、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を計算した結果を示す。図10では、理論的な値における屈曲点の位置を求めることのみを目的としているため、二重微分断面積の式として、計算が容易な準自由電子制動輻射の式([数1])を用いた。実際は、制動輻射の中では二次電子制動輻射が支配的である。しかしながら、二重微分断面積の制動輻射エネルギーに関する振る舞いは、二次電子制動輻射と準自由電子制動輻射とにおいて大きく変わらない。また、屈曲点の形成は、制動輻射のエネルギー上限が存在することに由来しているため、二重微分断面積の上限値は、正確な値(二次電子制動輻射の値)を用いた。横軸は、飛程位置を0とした相対位置を表している。また、イオンは、マイナスからプラスの方向(左か
ら右)に進行する。縦軸は、制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)である。屈
曲点xBが飛程からおおよそ−2.7mmの相対位置に表れる。
【0090】
また、図11は、上記S1003における、68±5keVの制動輻射の強度(X線及びガン
マ線カウント数)の深さ方向依存性を測定した結果を示す。図10で予測された屈曲点が確認できる。屈曲点の位置を導出するために、バックグラウンドとなるデータ点(図11における○印)を、傾き0の直線でフィッティングし、残りのデータ点(図11における□印)を低次多項式関数でフィッティングし、得られた2本の線の交点が屈曲点となる。
フィッティング結果から屈曲点の位置xBを求めると、飛程からの相対位置が-2.2 mmとな
った。これは、理論値-2.7mmと0.5mmの誤差で一致している。つまり、実験的に飛程を0.5
mm程度の誤差で算出できたことになる。
【0091】
理論計算(図10)と実験結果(図11)では、相対位置がマイナス側の領域の関数の形状が異なるが、これは、飛程から離れるに従い、イオンエネルギーが増大し、高エネルギーガンマ線の発生が増大した効果を理論計算のほうでは無視しているためであると考えられる。
【0092】
[実施形態2]
次に、実施形態2について説明する。実施形態2では、SOPBビームにおける粒子線到達深度が測定される。
【0093】
<導出>
SOPBビームは、レンジシフターによりイオンのエネルギーが連続的分布を持つ。これにより、SOPBビームでは、低いエネルギーを持つイオンはより照射体の手前側で停止し、最大エネルギーを持つイオンが特徴点を形成する。実施形態1では、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)の屈曲点」として現れたが、本実施形態2では
、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)の一階微分の屈曲点」
として観測される。その理由は、以下による。
【0094】
SOBPビームは、異なるエネルギーをもつモノクロビームの重ねあわせであるため、SOBPビームから放出される制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)は、それぞれの
エネルギーを持つモノクロビームから放出される制動輻射の強度の和(積分)であると考えられる。エネルギーが異なるモノクロビームが放出する制動輻射の強度の分布は、最大エネルギーを持つモノクロビームが放出する制動輻射の強度分布(例えば、図10)を左方向に平行移動した形で表される。このため、SOBPビームにおける制動輻射の強度は、最大エネルギーにおけるモノクロビームの場合の強度分布(例えば、図10)を、左方向に
平行移動させながら重畳した形になる。
【0095】
ここで、図10のグラフをNmono(x)とし、[数11]から[数13]で表す。なお、C
は定数である。
【0096】
【数11】
ただし、
【0097】
【数12】
ただし、
【0098】
【数13】
このNmono(x)を用いると、SOBPビームにおける制動輻射の強度NSOBP(x)は、[数14]のように表せる。
【0099】
【数14】
ただし、x0及びAは定数である。すると、NSOBP(x)の一階微分は、[数15]となる。
【0100】
【数15】
つまり、SOBPビームの場合、一階微分がNmono(x)と同じ形状(符号は逆)となるので、制動輻射の強度の一階微分に屈曲点が現れる。
【0101】
以上の理由により、本実施形態2では、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ
線のカウント数)の一階微分の屈曲点」として観測される。屈曲点の位置xBは、実施形態1の場合([数10])と同様に[数16]で表される。
【0102】
【数16】
したがって、実施形態1と同様の方法により、当該屈曲点の測定により粒子線到達深度をモニタリングすることができる。
【0103】
<装置構成例及び動作例>
実施形態2における粒子線モニタリング装置の構成例は、図4に示される、実施形態1の装置構成例と同様である。ただし、実施形態2における算出部31は、図9のS1002において制動輻射の強度を求める代わりに、制動輻射の強度の一階微分を求める。
【0104】
なお、図12Aは、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を計算したグラフを示す。横軸は飛程位置からの相対位置を表しており、飛程位置を0としている。また、イオンはマイナスからプラスの方向(左から右)に進行する
。縦軸は制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)である。
【0105】
また、図12Bは、図12Aのグラフを相対位置に関して一階微分したものである。図12Bに示されるとおり、屈曲点が飛程からおおよそ−2.7mmの相対位置に表れる。した
がって、本実施形態2においても、当該屈曲点を測定することにより、粒子線到達深度をモニタリングすることができる。
【0106】
[実施形態3]
次に、実施形態3について説明する。実施形態3では、モノクロビームにおけるエネルギー付与分布が測定される。
【0107】
<導出>
「制動輻射の強度」は「体内物質密度」に比例する。ただし、その比例係数は、粒子線のイオンエネルギーによって異なる。当該比例係数は、制動輻射理論断面積から求めることができる。また、当該比例係数は、事前実験によって測定することができる。これにより、「制動輻射の強度」から「体内物質密度」を容易に導出することができる。
【0108】
ここで、実施形態1で述べたとおり、制動輻射の最大エネルギー(又は、制動輻射のスペクトル形状)から、粒子線のイオンエネルギーを求めることができる。これにより、「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数を決定することができる。また、制動輻射のスペクトルから、「制動輻射の強度」を求めることができる。すなわち、制動輻射のエネルギースペクトルを検出又は測定することにより、「体内物質密度」を求めることができる。
【0109】
したがって、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体の位置毎に検出又は測定することにより、照射体の位置毎の「体内物質密度」を求めることができる。「体内物質密度」は、エネルギー付与と比例関係にある。その比例係数は、照射体に対する線エネルギー付与のデータテーブルを参照することで求めることができる。よって、照射体の位置毎の「体内物質密度」から「エネルギー付与分布」を求めることができる。なお、当該データテーブルは、すでに整備されており、James F. Zieglerによる計算コード”SRIM”(参照URL:http://www.srim.org/)として公開されている。
【0110】
以上の導出をまとめると、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体の位置毎に検出又は測定することにより、エネルギー付与分布を求めることができる。
【0111】
<装置構成例>
次に、本実施形態3に係る粒子線モニタリング装置の構成は、図4に示される、実施形態1の装置構成例と同様である。
【0112】
ただし、本実施形態3にかかる粒子線モニタリング装置では、記憶部21は、入射する粒子線のイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報を格納する。また、記憶部21は、照射体に対する線エネルギー
付与のデータテーブル、つまり、「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を格納する。
【0113】
そして、本実施形態3にかかる粒子線モニタリング装置では、算出部31は、上記導出に基づいて、モノクロビームにおけるエネルギー付与分布を求める。
【0114】
具体的には、まず、制御部22により制御されることにより、検出部11は、モノクロビームにより発生する制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置に応じて取得する。次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルより、制動輻射の強度を算出する。また、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルの形状から、制動輻射の最大エネルギーを算出する。そして、算出部31は、照射体の位置毎における、制動輻射の最大エネルギーにより求められるイオンエネルギー、記憶部22に格納されたイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報、及び、制動輻射の強度を用いて、体内物質密度の分布を求める。最後に、算出部31は、体内物質密度の分布及び記憶部21に格納された「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を用いて、エネルギー付与分布を算出する。
【0115】
なお、3次元のエネルギー付与分布が求める場合は、検出部11を3次元イメージングが可能な装置(コンプトンカメラ)に変更する。
【0116】
<動作例>
次に、本実施形態3の動作例について説明する。図13は、本動作例における、粒子線の照射に伴い飛程付近から発生する制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111の例を示す。照射するモノクロビームとして、実施形態1の動作例と同様、エネルギーが290MeV/u程度の炭素モノクロビームを用いた。
【0117】
また、本動作例では、エネルギー付与分布を求めることができることを示すため、照射体2として、8mm程度の間隙を設けたアクリルを用いた。アクリルからは制動輻射が発生
し、間隙(空気)からはほとんど制動輻射は発生しないと考えられる。このため、このような関係のエネルギー付与分布が求められることにより、本実施形態3による手法によってエネルギー付与分布が算出可能であることが示される。
【0118】
そして、制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111として、スリット幅が2mmの鉛のコリメータ120を備えた、駆動機構121により検出位置が移動可能な、5mm幅のテルル化カドミウム半導体検出器を用いた。なお、検出位置の原点は間隙の中心とし、炭素モノクロビームの進行方向を正とした。
【0119】
図14は、本動作例における炭素モノクロビームのエネルギー付与分布の測定手順を示す。
【0120】
例えば、演算部12が備える不図示のユーザインタフェースを介したユーザの操作情報に基づいて、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22によって実行されることにより当該測定が開始される(S2000)。
【0121】
当該測定が開始されると、演算部12の制御部22により制御された検出部11によって、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される制動輻射のエネルギースペクトルが、間隙を有するアクリルの位置関係に応じて検出される(S2001)。
【0122】
次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルよ
り、制動輻射の強度を算出する(S2002)。本動作例では、30KeVから60KeVの範囲の積分値を制動輻射の強度とした。
【0123】
次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルの形状から、制動輻射の最大エネルギーを算出する(S2003)。
【0124】
次に、算出部31は、間隙を有するアクリルの位置毎における、制動輻射の最大エネルギーにより求められるイオンエネルギー、記憶部22に格納されたイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報、及び、制動輻射の強度を用いて、体内物質密度の分布を求める(S2004)。
【0125】
次に、算出部31は、体内物質密度の分布及び記憶部21に格納された「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を用いて、エネルギー付与分布を算出する(S2005)。これにより、エネルギー付与分布が算出され、当該測定が終了する(S2006)。
【0126】
なお、図15Aは、S2001で検出部11が検出した、検出位置0mmと-12mmにおける制動輻射のエネルギースペクトルの例を示す。また、図15Bは、S2005で算出部31が算出したエネルギー付与分布の例を示す。鉛のコリメータ120の幅が比較的に大きかったこと、及び、検出器111として1つの5mm幅のテルル化カドミウム半導体検出器
を用いたことが要因となり、精度のよい検出結果は得られなかった。
【0127】
しかしながら、図15Bからは、間隙位置において、制動輻射の強度に比例するエネルギー付与が減少していることがわかる。つまり、アクリル部分と比べて間隙(空気)部分の制動輻射が少ないエネルギー付与分布が得られた。これにより、本実施形態3による手法によってエネルギー付与分布が算出可能であることが示された。
【0128】
<その他>
補足として、本実施形態3のエネルギー付与分布の測定手法を用いた粒子線治療方法例について説明する。
【0129】
作業者は、治療前に、治療計画として、健常部位への影響が少なく、かつ、患部を十分治療するためのビーム経路、ビームエネルギー、及びイオン照射量等を計画する。当該計画のためにまず、作業者は、患者の身体における、治療に用いるビームが通過する箇所の物質構成を整理する。そして、作業者は、経路上の各地点のエネルギー付与を、データテーブルを参照して計算する。なお、当該計算と同時に、経路上の各地点におけるイオンエネルギーも計算される。当該計算により、作業者は、治療計画における想定されるエネルギー付与分布を得る。
【0130】
そして、作業者は、実際の治療時に、当該治療計画に沿ってイオンビームを照射する。この時、上記<動作例>に記載したエネルギー付与分布のモニタリングを実施する。当該モニタリングにより、作業者は、治療計画において想定していたエネルギー付与分布と、実際の測定により得られたエネルギー付与分布とを比較する。実際の測定により得られたエネルギー付与分布が、治療計画において想定していたエネルギー付与分布と異なる場合、その異なる度合いにより、当該粒子線治療の効果が得られない場合が想定される。例えば、このような粒子線治療の効果が得られない場合、作業者は、実際の測定によりエネルギー付与分布を計算する元となった体内物質密度の分布を用いて、ビーム経路、ビームエネルギー、及びイオン照射量等を再計画する。そして、作業者は、再計画した各条件を用いて、エネルギー付与分布を再計算し、中止線治療に用いるイオンビームの属性値を更新する。
【0131】
これにより、作業者は、体内における照射イオンビームの挙動をリアルタイムにモニタリングすることができる。そして、作業者は、当該リアルタイムにモニタリングした情報を用いて、治療に有効なイオンビームの照射を行うことができる。
【0132】
[実施形態4]
最後に、実施形態4について説明する。実施形態4では、SOBPビームにおけるエネルギー付与分布が測定される。
【0133】
<導出及び装置構成例>
実施形態2で述べたとおり、SOBPビームは、連続的に広がるイオンエネルギーを持つため、制動輻射もそれぞれのイオンエネルギーについて重畳したものになる。そして、入射粒子のイオンエネルギーが高いほど、制動輻射の最大エネルギーは高くなり、制動輻射の強度も大きくなる。したがって、制動輻射のエネルギースペクトル分布は、入射粒子の中で最大のエネルギーを持つイオンにより支配的な影響を受ける。つまりSOBPビームを入射した際に放出される制動輻射は、モノクロビームを入射した場合とほぼ同じであるため、実施形態3とまったく同一の方法で、エネルギー付与分布を求めることができる。
【0134】
[実施形態の作用及び効果]
以上までの実施形態1から4に係る粒子線モニタリング装置は、従来、バックグラウンドとして利用されなかった制動輻射を用いることにより、モノクロビーム又はSOBPビームの粒子線到達深度又はエネルギー付与分布を算出する。つまり、本実施形態に係る粒子線モニタリング装置は、制動輻射を用いることにより、線量推定を行う。
【0135】
制動輻射は即発性であるため、本実施形態に係る粒子線モニタリング装置では、ウォッシュアウト効果による弊害を回避することができる。また、従来法における核反応により発生するガンマ線を測定することとは異なり、本実施形態では、発生数がおおよそ102〜105倍と桁違いに多い制動輻射線を利用しているため、少量の照射イオン数においてもエネルギー付与分布の測定が可能となる。つまり、本実施形態では、従来困難であった、粒子線のリアルタイムモニタリングが可能となる。
【0136】
最先端の治療法である重粒子線がん治療においては、照射イオン数が陽子線の10分の1程度になる。照射イオン数の低下によりガンマ線の発生数も低下し、エネルギー付与分布を推測するのに十分な統計を得ることがさらに困難になる。これに対し、本実施形態における手法で用いる制動輻射線は、イオンの価数の増加にともない発生確率が増加するため、重粒子線にも適した手法である。
【0137】
また、従来手法である陽電子放出核種を用いたモニタリング手法と比較すると、PETのような大掛かりな装置を利用する必要はなく、本実施形態で示されるテルル化カドミウム半導体検出器等の規模が非常に小さく安価である装置でよいため、コストパフォーマンスに優れている。
【0138】
本実施形態により、世界的に利用が拡大している粒子線治療の分野において粒子線のエネルギー付与分布をリアルタイムでモニタリングする手法を提供することができる。
【0139】
[補足]
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈される。また、当業者は、上記本実施形態
の記載から、特許請求の範囲の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができる。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。両者が矛盾する場合、本明細書において使用される用語は、本明細書(定義を含めて)に記載された意味において理解される。
【符号の説明】
【0140】
1 粒子線モニタリング装置
2 照射体
3 加速器
11 検出部
111 検出器
112 電荷有感型増幅器
113 整形増幅器
114 アナログデジタル変換器
120 コリメータ
121 駆動機構
12 演算部
21 記憶部
22 制御部
23 バス
24 入出力部
31 算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等により照射される粒子線の挙動に関する情報を取得する粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム及び粒子線モニタリング方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において放射線がん治療技術は「がんを切らずに治す」をスローガンとし、線量を病巣に集中させ、周辺正常組織の損傷をできるだけ小さくすることにより治療成績の飛躍的な改善を実現してきた。最先端の放射線がん治療においては、患部に大線量を照射しつつ正常組織線量を飛躍的に低減させる「粒子線治療」が用いられるようになり、高度X線治療でも達成出来なかった治療成績の改善が実現されようとしている。これは、陽子線や重粒子線などの粒子線共通の性質である、「線量の患部集中性」に由来している。加えて、重粒子線は体内でのイオンの直進性が優れているため、進行方向からのイオンの逸脱が減少し、イオン進行方向に対し動径方向の線量集中性にも優れ、重要組織に接している患部病巣或いは微小な病巣部位を精密にピンポイントで照射することが可能となり、この特徴を生かした次世代治療法としてイオンマイクロサージェリー治療技術の確立が期待されている。
【0003】
上記に示した病巣部位を精密にピンポイントで粒子線を照射するための加速器又はビーム技術として、ビームを細く集束させたペンシルビーム形成やマイクロビーム形成技術などが既に開発されている。しかしながら、現在の粒子線モニタリング技術では、リアルタイムで粒子線の体内到達深度をモニタすることができないため、イオンマイクロサージェリー治療技術の確立を困難にしている。
【0004】
また、照射治療中の病巣部位のエネルギー付与分布(即ち線量分布)のリアルタイムモニタ技術が開発されていないため、物理的又は化学的手法によるファントムの膨大な線量計測データを基に、綿密な治療計画とその実験的及び臨床的に蓄積されてきたデータをベースに治療が行われている。現状、治療計画及びQA(Quality Assurance)において必ず
エネルギー付与分布が事前に確認され、治療照射中はビーム等のモニタの変動が無ければ、そのエネルギー分布が再現され、維持されているものとして放射線治療が実施されている。エネルギー付与分布のリアルタイムモニタリング技術の実現は、病巣部位が確実に照射されていることを確認及び実証しながら治療することが可能となり、信頼性確保という観点から医学的にきわめて大きな意味を持つ。
【0005】
さらに、粒子線治療照射中に体内中空洞領域における粘液の予測不能な充填や排出が生じた場合、これらは、エネルギー付与分布やイオンの到達深度の変化として治療計画からの逸脱として悪影響を及ぼす。そのため、エネルギー付与分布や到達深度を粒子線の照射中にリアルタイムで観察することの恩恵は非常に大きい。
【0006】
現状では、粒子線のモニタリング手法として、非特許文献1及び2で挙げられる、イオンと体内原子核との核反応によって生ずる陽電子放出核種(O-15, C-11 等)由来のガン
マ線である陽電子消滅ガンマ線を観測し、照射位置を推定する手法が模索されている(以降、自己放射化法と呼ぶ)。しかし、陽電子放出核種の生成反応は、イオンと体内中の原子核との一次反応だけでなく、一次反応で発生した中性子による二次反応を経由して生成されるものも多く、全体として複雑多岐にわたる反応経路を経由している。そのため、発生量および生成場所を推定するためには、核反応を含めたモンテカルロシミュレーション
が必要になる。これにより、陽電子分布からエネルギー付与分布を再現することは、複雑な核反応を含むモンテカルロシミュレーションを遡る解析を要するという問題点を持つ。
【0007】
また、陽電子放出核種の発生からガンマ線(例えば、511keVのガンマ線)の放出までには、核種崩壊寿命に由来する数十秒〜数十分の時間差が存在するため、治療終了後からPET(positron emission tomography)又はCT(Computed Tomography)が測定終了するまでに数分から数十分必要となる。陽電子放出核種は、この時間差の間、生体が有する代謝機能により体内を移動する。これにより、陽電子放出核種の発生位置とガンマ線の放出位置とにずれが生じてしまうという問題が生じる。この問題は、代謝によるウォッシュアウト効果と呼ばれており、エネルギー付与分布予測を複雑にする因子の一つとなる。
【0008】
粒子線モニタリング法における測定量は、例えば、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布である。前述の自己放射化法では、これら粒子線到達深度及びエネルギー付与分布のモニタリング手法としても研究が進められている。しかしながら、自己放射化法において、これら粒子線到達深度及びエネルギー付与分布をリアルタイムにモニタリングすることは困難である。なぜなら、自己放射化法において生成される陽電子放出核種は、一般的に反応確率の非常に小さい原子核反応を経由して生成されるという問題点を持つからである。このため、自己放射化法において、粒子線到達深度又はエネルギー付与分布の推測に要するデータを収集するために時間がかかってしまう。具体的には、放射線治療において、粒子線到達深度又はエネルギー付与分布の推測に要するデータが得られるのは治療終了後であり、治療中にリアルタイムモニタリングを行うことは困難である。更に、最先端治療として期待されている重粒子線では、治療に用いるイオンの照射量が、陽子線の場合の10分の1程度と少なく、十分なデータを得るのはさらに困難である。
【0009】
また、前述したように、生成反応の複雑さや、代謝によるウォッシュアウト効果に起因して、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布といった量を導出することには困難が伴う。ウォッシュアウト効果を回避する手法としては、これまでに、粒子線と体内原子核との原子核反応により生ずる励起原子核からの即発ガンマ線を観測する方法(以降、核脱励起法と呼ぶ)が非特許文献3において提案されている。
【0010】
しかし、核脱励起ガンマ線もまた原子核反応を経由するため発生数が少なく、リアルタイムモニタリングは困難である。自己放射化法では、2本の陽電子消滅線が同時に発生するため、PETやそれに類似したガンマ線対測定によるイメージング装置を用いることがで
きるが、核脱励起法では、発生するガンマ線は1本であるため、同様の装置は使用できない。体内物質を構成する原子核は水素、炭素、酸素などの軽い原子核であるため、核脱励起ガンマ線のエネルギーは数MeV以上の高いものに限られ、このような高エネルギーの単
一ガンマ線に対するイメージング装置が必要になる。これを満たす唯一の装置としてコンプトンカメラが提案されているが、高エネルギーガンマ線に対するコンプトンカメラの検出効率は、陽電子消滅によるガンマ線等の検出効率に比べて非常に低く、粒子線到達深度及びエネルギー付与分布を推測するのに十分なデータを測定するのは困難である。
【0011】
ここで、エネルギー付与分布のモニタリングは、「体内物質密度」及び「イオンエネルギー」の両者を、直接的に測定する手法を指す。従来法である自己放射化法では、陽電子消滅線は単一エネルギー(511keV)であるため、測定物理量としては消滅線の強度のみである。また、エネルギー付与と消滅線強度は、双方とも「体内物質密度」に比例し、「イオンエネルギー」に強く依存する。これらを考慮すると、陽電子消滅法では、エネルギー付与分布をモニタリングするために、体内中での「イオンエネルギー」を仮定することが必要になり、エネルギー付与分布のモニタリングを直接行うことは不可能であるという問題点が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】W. Enghardt et al., "The spatial distribution of positron-emitting nuclei generated by relativistic light ion beams in organic matter", Phys. Med. Biol., 1992, Vol. 37, No 11, 2127-2131.
【非特許文献2】Katia Parodi et al., "PET imaging for treatment verification of ion therapy: Implementation and experience at GSI Darmstadt and MGH Boston", Nucl. Instr. and Meth. A 591 (2008) 282-286
【非特許文献3】S. Kabuki et al., "Study on the Use of Electron-Tracking Compton Gamma-Ray Camera to Monitor the Therapeutic Proton Dose Distribution in Real Time", 2009 IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2437-2440.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の粒子線モニタリング方法では、以上のとおりの問題点が存在し、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることはできなかった。
【0014】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム、及び、粒子線モニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0016】
すなわち、本発明の粒子線モニタリング装置は、照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部と、前記検出部により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部と、を備える。
【0017】
上記構成によれば、照射体の位置関係に応じて、当該照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報が検出される。そして、上記構成によれば、当該制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報が算出される。ここで、制動輻射の放射線情報は、例えば、制動輻射の連続エネルギースペクトル分布である。
【0018】
制動輻射は即発性であるため、自己放射化法で問題となるウォッシュアウト効果によるイメージング精度の悪化はまったく生じない。また、制動輻射は、電磁相互作用により発生するため、原子核反応と比較すると反応確率が桁違いに大きい(およそ102〜105倍)。更に、制動輻射の放射線情報は、例えば、イオンエネルギーに強い相関を持つ連続エネルギースペクトル分布として、検出される。このため、消滅線のエネルギーが決まっているためにエネルギー強度しか観測されない自己放射化法とは異なり、制動輻射では、検出される放射線情報から照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出することができる。
【0019】
従って、上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0020】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線の挙動に関する情報は、上記粒子線の到達深度であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報として、粒子線の到達深度をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0022】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線の挙動に関する情報は、上記粒子線のエネルギー付与分布であってもよい。
【0023】
上記構成によれば、粒子線の挙動に関する情報として、粒子線のエネルギー付与分布をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0024】
また、本発明の別の形態として、上記粒子線は、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームであってもよい。
【0025】
上記構成によれば、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームの挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることが可能である。
【0026】
なお、本発明の別態様としては、以上の各構成を実現する粒子線モニタリング方法であってもよいし、粒子線モニタリングプログラムであってもよいし、このような粒子線モニタリングプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。また、本発明の別態様として、以上の各構成を実現する複数の装置が通信可能に構成された粒子線モニタリングシステムであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、粒子線の挙動に関する情報をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム、及び、粒子線モニタリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】制動輻射のエネルギースペクトルを例示するグラフ。
【図2】照射体中でのイオンエネルギーを例示するグラフ。
【図3】理論式により求められる照射体における深度方向の制動輻射の微分断面積を例示するグラフ。
【図4】実施の形態に係る粒子線モニタリング装置を例示する図。
【図5】実施の形態に係る検出部を例示する図。
【図6A】実施の形態に係る測定方法を例示する図。
【図6B】実施の形態に係る測定方法を例示する図。
【図7】重粒子線による脳下垂体腺腫治療の模式図。
【図8】実施形態1における動作例での検出器を例示する図。
【図9】実施形態1における炭素モノクロビームの粒子線到達深度(飛程位置)の測定手順を示すフローチャート。
【図10】実施形態1におけるイオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を理論的に計算した結果を示す図。
【図11】実施形態1における68±5keVの制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)の深さ方向依存性を測定した結果を示す図。
【図12A】実施形態2におけるイオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を理論的に計算した結果を示す図。
【図12B】図12Aのグラフを相対位置に関して一階微分した結果を示す図。
【図13】実施形態3における動作例での検出器を例示する図。
【図14】実施形態3における炭素モノクロビームのエネルギー付与分布の測定手順を示すフローチャート。
【図15A】実施形態3における制動輻射を含むX線及びガンマ線のエネルギースペクトルの測定結果を示す図。
【図15B】実施形態3における動作例において求められたエネルギー付与分布を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に詳細に説明される粒子線モニタリング装置は、本発明の一側面に係る粒子線モニタリング装置、粒子線モニタリングプログラム及び粒子線モニタリング方法の実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)である。ただし、本実施形態は例示であり、本発明は本実施形態の構成に限定されない。
【0030】
なお、本実施形態において登場するデータを自然言語(日本語等)により説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメタ、マシン語等で指定される。
【0031】
[概略]
本実施形態は、粒子線を照射体に照射した際に発生する制動輻射の観測による粒子線リアルタイムモニタリング手法である。本実施形態における制動輻射は、入射粒子線のエネルギーの一部を付与された電子から発生する制動輻射を指す。制動輻射は即発性である。また、制動輻射は、電磁相互作用により発生するため、原子核反応よりも反応確率が桁違いに大きい(およそ102〜105倍)。更に、制動輻射のもつ連続エネルギースペクトル(本発明の制動輻射の放射線情報に相当)は、粒子線のイオンエネルギーに強い相関を持つ。つまり、照射体の各位置における制動輻射を観測することによって、照射体中の粒子線のイオンエネルギーを求めることができる。したがって、本実施形態では、制動輻射を観察することにより、粒子線リアルタイムモニタリングが可能となる。
【0032】
なお、制動輻射は、陽電子消滅によるガンマ線(例えば、511keV)及び即発ガンマ線(数MeV)とは異なり、比較的に低いエネルギー(本実施形態では、50keV〜100keV辺りのエネルギー)で、かつ、連続のエネルギースペクトルを持つ。そのため、制動輻射は、陽電子消滅によるガンマ線及び即発ガンマ線等の他のエネルギーと区別して取得されることが可能である。
【0033】
また、制動輻射は、発生要因によりいくつかの種類に分けることができるが、それぞれ現れるエネルギー領域が異なる。従って、複数の種類の制動輻射が混在した場合であっても、各種類の制動輻射に分類することが可能である。
【0034】
粒子線モニタリングは、用いるビームの種類や測定する物理量によって分類できる。本実施形態では、ビームの種類として、モノクロビームと拡大ブラッグピーク(SOBP)ビームの2種類のビームを例に挙げる。
【0035】
ここで、モノクロビームとは、入射エネルギーが単一のビームを表し、エネルギー的には何ら加工されていない加速器から引き出されたままの状態のビームを指す。あるエネルギーを持ったイオンを物質に打ち込んだ際の到達深度は飛程と呼ばれる。モノクロビームの場合、粒子線を構成するイオンの飛程は同じになるため、最大到達深度と飛程は一致する。また、イオンのエネルギー付与は、飛程近傍で最大値を持つため、モノクロビームでは深度方向についても集中性の良い線エネルギー付与を達成できる。イオンマイクロサージェリーといった、ポイントビームをスキャニングして精密に治療する手法で威力を発揮する。
【0036】
SOBPビームは、モノクロビームをレンジシフターに通し、連続的な広がりをビームエネルギーに与えることで形成される。エネルギーが単一でないため、個々のイオンの飛程も
連続的に変化し、エネルギー付与も深度方向に広がりを持った分布となる。
【0037】
また、本実施形態では、測定する物理量として、粒子線到達深度とエネルギー付与分布の2種類の物理量を例に挙げる。
【0038】
粒子線到達深度は、モノクロビームにおいては飛程に対応し、SOBPビームにおいては最大エネルギーイオンの飛程に対応する。エネルギー付与分布と比べると得られる情報量は少ない。しかしながら、当該情報は、イオンマイクロサージェリー治療時の深部ビーム位置のリアルタイムモニタを可能とし、照射体における深部方向の照射位置の精密照準と照射中の位置をリアルタイムにモニタリングすることを可能とする。また、当該情報は、治療計画からの逸脱をリアルタイムで検知するためにも有用である。
【0039】
エネルギー付与分布は、照射体に対するエネルギー付与(線量付与又は、線エネルギー付与とも呼ばれる)が測定されたものである。本実施形態では、エネルギー付与分布は、「体内物質密度」又は「粒子線のエネルギー(例として、イオンエネルギー)」のどちらかを、別の装置を用いて測定する、もしくは仮定の値を入れて既知とするといったことなしに、直接的に導出される。ここで、エネルギー付与分布は、「体内物質密度」と比例関係にある。そして、当該比例関係の比例係数は、照射体に対する線エネルギー付与のデータテーブルを参照することで求めることができる。このため、「体内物質密度」及び「粒子線のエネルギー」の両者を測定することができれば、エネルギー付与分布を導出することが可能である。なお、エネルギー付与分布は、治療時の粒子線モニタリングにおいて最終的に導出を要する物理量である。このため、エネルギー付与分布が直接測定可能となることの意義は非常に大きい。
【0040】
以下、粒子線の種類及び測定する物理量の分類で整理して、本実施形態を示す。なお、以下の実施形態では、照射される粒子はイオンであるとし、粒子線のエネルギーはイオンエネルギーで表す。
【0041】
[実施形態1]
<導出>
実施形態1では、モノクロビームにおける粒子線到達深度が測定される。制動輻射のエネルギースペクトルは、粒子線のイオンエネルギーに強い相関を持つ。具体的には、制動輻射の理論計算から、イオンエネルギーをEionとした場合、制動輻射のスペクトルには、図1に示されるように、最大エネルギーEmaxが存在し、最大エネルギーEmaxはイオンエネルギーEionに比例することが分かっている。図1は、制動輻射のスペクトル例であり、横軸は制動輻射のエネルギーであり、縦軸は準自由電子制動輻射の二重微分断面積(単位はbarn/(sr・keV))である。入射粒子のイオンエネルギーEionは290MeV/u、入射粒子はC-12とした。図1に示されるとおり、制動輻射には最大エネルギーEmaxが存在し、この例で
は、およそ160keVになる。
【0042】
制動輻射には、いくつか種類があるが、例えば、準自由電子制動輻射の場合は、制動輻射の強度は、[数1]の二重微分断面積(Phys. Rev. A 23, 24 (1981) )に比例する。
【0043】
【数1】
ここで、p2は、[数2]である。
【0044】
【数2】
また、NTは物質を構成する原子の電子数、Zpはイオンの原子番号、a0はボーア半径、h
ω/2πが制動輻射のエネルギー、θがイオンの入射方向と、制動輻射の放出方向のなす角度である。eは素電荷、hはプランク定数、cは光速度、meは電子の質量を表す。σは全散乱断面積、Ωは立体角(dΩ=2πsinθdθ)、Trは準自由電子の最大エネルギーを表
す。
【0045】
更に、Trは、[数3]である。
【0046】
【数3】
[数3]におけるmはイオンの質量を表す。以上の[数1]から[数3]の関係により
、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2π、イオ
ンエネルギーEion、制動輻射の放出角度θの3変数関数として表すことができる。つまり、制動輻射の強度は、二重微分断面積を介して、制動輻射のエネルギーhω/2πを変数
とする関数として表現することができる。なお、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2πの増加に対して単調減少する。
【0047】
一方、準自由電子制動輻射の場合は制動輻射の最大エネルギーEmaxは[数4]となる(藤本文範/小牧研一郎編「イオンビームによる物質分析・物質改質」内田老鶴圃出版、1.4.6章、81〜85ページ)。
【0048】
【数4】
制動輻射の別の例である二次電子制動輻射の二重微分断面積についても、制動輻射のエネルギーの増加に対して単調減少する性質は同じである。また、二次電子制動輻射においても、制動輻射のエネルギーに上限値Emaxが存在する性質は同じである。ただし、上限値Emaxは、準自由電子制動輻射の[数4]とは異なり、[数5]となる。
【0049】
【数5】
その他の種類の制動輻射は、準自由電子制動輻射及び二次電子制動輻射と比較すると、非常に強度が小さい。したがって、準自由電子制動輻射及び二次電子制動輻射において成立する[数3]から[数5]により、制動輻射のエネルギーの上限値Emaxは、Eionの関数により一意に表される。すなわち、当該関数の逆関数を考慮すると、イオンエネルギーEionは、制動輻射のエネルギーの上限値Emaxの関数により一意に表される。以後、これを[数6]で表現する。
【0050】
【数6】
また、エネルギーEを持つイオンの飛程をxrangeとすると、xrangeは、Eの関数として一意に表される。以後、これを[数7]で表現する。
【0051】
【数7】
この[数7]、つまり、イオンの物質中での飛程のエネルギー依存性は、測定値をもとにしたテーブルが提供されており、例えば、James F. Zieglerによる計算コード”SRIM”(参照URL:http://www.srim.org/)を用いることで容易に入手できる。図2は、C-12(炭素12)イオンの飛程とエネルギーの関係を例示するグラフである。図2のグラフの横軸は、ビームの進行方向を正とした飛程位置を原点とする相対位置である。また、図2のグラフの縦軸は、イオンのエネルギーである。このグラフによると、物質中での、飛程からの相対位置x(ビームの進行方向を正とし、飛程位置を原点とする)でのイオンエネル
ギーEionは、[数8]で表現される。
【0052】
【数8】
図2に示されるとおり、物質(照射体)中でのイオンエネルギーEionは、飛程に近づくにつれて減少する。また、[数6]で示されるとおり、Eionとイオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは比例関係にある。これらにより、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは、飛程に近づくにつれて減少するといえる。
【0053】
したがって、制動輻射の最大エネルギーEmaxの最大値よりも小さいあるエネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度を考えると、照射されたイオンが飛程に近づく
につれて、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxは減少し、E2に近づく。これに伴い、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度、つまり、制動輻
射の単位時間あたりの放出個数は増加すると考えられる。なぜなら、制動輻射の強度に比例する二重微分断面積は、制動輻射のエネルギーhω/2πの増加に対して単調減少する
ため、制動輻射のエネルギーhω/2πの減少に対して、制動輻射の強度は増加すると考
えられるからである。
【0054】
そして、照射されたイオンが更に飛程に近づくと、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxはE2以下となる。この時、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE2以下となると、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)に属する制動輻射の
数が減少すると考えられるため、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強
度は減少すると考えられる。このため、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE2である位置において、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度
は最大になると考えられる。
【0055】
そして、照射されたイオンが更に飛程に近づくと、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxはE1以下となる。この時、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE1以下となると、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度は
0になると考えられる。このため、イオンから放出される制動輻射の最大エネルギーEmaxがE1である位置以降において、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度
は0になると考えられる。
【0056】
このように、あるエネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度について、
深度方向のエネルギー分布を取ると、図3のように、強度分布の傾きが変化する点(今後、屈曲点と呼ぶ)が2点現れることがわかる。図3は、[数1]と、体内中でのイオンエネルギーの導出式を用いて、深度方向の制動輻射の微分断面積(強度分布と比例関係にある値)を求めたグラフである。一つ目及び二つ目の屈曲点が現れる位置をxA及びxBで表すと、xA及びxBは、エネルギー範囲の上限値E2及び下限値E1を用いて、下記[数9]及び[数10]により一意に決定される。なお、図3におけるエネルギー範囲の上限値E2及び下限値E1はそれぞれ、E1 = 80keV、E2 = 100keVである。また、xA及びxBはそれぞれ、xA = −75mm、xB = −51mmである。xA及びxBはそれぞれ、ビームの進行方向を正とした飛程位
置を原点とする相対位置である。
【0057】
【数9】
【0058】
【数10】
xA及びxBの値は、照射体の飛程近傍の構成物質、粒子線の種類、飛程位置から制動輻射を検出する検出部の間に存在する構成物質、バックグラウンドの大きさ、の4つの要素に
それぞれ依存する。このため、これら4つの要素とxAもしくはxBとの関係を実験的に測定
することにより、精度よく飛程位置を求めることが可能である。つまり、[数9]及び[数10]の関係は、予め用意することが可能である。
【0059】
ここで、xBは、xAよりも飛程に近い位置である。そのため、xBを用いた測定の方が、xAを用いた測定よりも精度の良い測定を期待できる。また、飛程から離れるに従い、イオンエネルギーが増大するため、より高エネルギーのガンマ線の発生が増大し、これが散乱することで発生するガンマ線によるバックグラウンドの効果が大きくなってしまう。これにより、xAの屈曲は実際には判別しにくくなると予測される。よって、本実施形態1では、xBを用いて飛程位置を算出する。ただし、本発明は、xBを用いて飛程位置を算出することに限定されるものではない。
【0060】
以上までの導出により、xBを用いることで、飛程位置を算出することができることを示した。具体的には、まず、照射体中におけるイオンから放射される制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置(例えば、深度方向)に応じて取得する。次に、イオンから放射される制動輻射の最大エネルギーEmaxが予め設定されたE1となる照射体の位置(飛程からxB離れた位置)を求める。この位置は、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制
動輻射の強度を測定することにより求められる。すなわち、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度が初めて0となる位置(屈曲点)が、制動輻射の最大エネル
ギーEmaxがE1となる照射体の位置である。そして、実験的に測定済みの[数10]の関係を用いて、E1から具体的なxBの値を求め、飛程の位置を求める。これにより、本実施形態1では、飛程位置、すなわち、モノクロビームにおける粒子線到達深度が求められる。
【0061】
<装置構成例>
次に、本実施形態1に係る粒子線モニタリング装置について説明する。図4は、本実施形態1に係る粒子線モニタリング装置を例示する。図4に示されるとおり、検出部11及び演算部12を備える。なお、検出部11は、演算部12により制御可能な状態で接続している。
【0062】
(検出部)
検出部11は、加速器3から入射した粒子線について、照射体2中において当該粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体2の位置関係に応じて検出する。制動輻射の放射線情報は、例えば、制動輻射によって発生するX線又はガンマ線のうちの少なくとも一方のエネルギースペクトルである。
【0063】
図5は、検出部11の構成例を示す。図5に示されるとおり、検出部11は、検出器111、電荷有感型増幅器(Charge Sensitive Amplifier)112、整形増幅器(Shaping Amplifier)113、アナログデジタル変換器(Analog Digital Converter)114を備
える。
【0064】
検出器111は、例えば、テルル化カドミウム半導体検出器(CdTe、CdZnTe)である。本実施形態1では、検出器111は、入射するX線又はガンマ線により生成される電気信号により、入射X線又はガンマ線のエネルギースペクトルを得ることができる検出器であれば何でもよい。図5に示されるとおり、検出器111は、HV(High Voltage)、カップリングコンデンサ(Cc)及びバイアス抵抗(Rb)に接続される。これにより、検出器111に生じた電荷の変化分のみがカップリングコンデンサを介して、電荷有感型増幅器112に伝達される。
【0065】
電荷有感型増幅器112は、検出器111中で生成された電荷を読み出して、電圧に変換する。整形増幅器113は、電荷有感型増幅器112により電圧に変換された信号の波形整形と増幅を施す。そして、当該信号の波高値(パルスハイト)は、アナログデジタル変換器114により読み取られる。
【0066】
以上により、検出部11は、制動輻射のエネルギースペクトルを取得する。より正確には、検出部11は、制動輻射により発生したX線及びガンマ線を含むエネルギースペクトルを取得する。ここで、上述のとおり、制動輻射のエネルギースペクトルは、他の要因によって発生するエネルギースペクトルから識別可能である。この点を考慮し、以下、検出部11は、制動輻射のエネルギースペクトルを取得するものとして説明する。
【0067】
また、図6A及びBは、照射体2の位置関係に応じて制動輻射のエネルギースペクトルを検出部11が検出する測定方法の例を示す。
【0068】
検出部11は、図6Aに示されるとおり、入射方向に応じて平行光線を作るコリメータ120を更に備えることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出してもよい。この場合、粒子線の照射により放出されるX線又はガンマ線は、コリメータ120により入射方向に応じた位置における平行光線となる。したがって、検出部11が備える検出器111は、粒子線の照射により放出されるX線又はガンマ線のエネルギースペクトルをより高い位置分解能で測定することができることが好ましい。
【0069】
また、検出部11は、図6Bに示されるとおり、演算部12により制御可能な駆動機構121を更に備えることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出してもよい。駆動機構121は、例えば、粒子線の進行方向と平行な方向に動作する。そして、検出部11は、当該駆動機構121により、粒子線の進行方向と平行な方向に移動させられることにより、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体2の位置関係に応じて検出する。
【0070】
また、駆動機構121により検出部11を移動させる代わりに、複数個の検出部11を配置してもよい。これによりバックグラウンドの時間変動による測定誤差を相殺でき、精度良い測定が可能となる。
【0071】
なお、図6A及び図6Bの検出部11は、検出器111であってもよい。検出部11が、図6A又は図6Bで示されるようなコリメータ120又は駆動機構121を備えた検出器111を備えてもよい。
【0072】
(演算部)
次に、演算部12について説明する。演算部12は、検出部11により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を求める。図4に示されるとおり、演算部12は、ハードウェア構成として、バス23で接続される、記憶部21、制御部22、入出力部24等の既存のハードウェアを有している。
【0073】
記憶部21は、例えば、ハードディスクであり、制御部22で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する。本実施形態1では、更に、記憶部21は、上記導出で述べた、実験的に測定済みの[数10]の関係、つまり、E1とxBの対応関係を記憶する。
【0074】
制御部22は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又
は複数のプロセッサであり、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read
Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)を有する。
【0075】
入出力部24は、例えば、USB(Universal Serial Bus)やLAN(Local Area Network)等であり、データを入出力するためのインタフェースである。本実施形態1では、演算部12は、入出力部24を介して検出部11と接続している。例えば、演算部12に含まれる制御部22が、入出力部24を介して検出部11を制御する。より具体的には、例えば、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22の周辺回路であるRAM等に展開され、制御部22のプロセッサにより実行されることによって発生する電気信号が入出力部24を介して検出部11に伝達される。これにより、検出部11は、制御部22によって制御される。
【0076】
なお、演算部12は、PC(Personal Computer)等のような汎用コンピュータで構成
されてもよい。
【0077】
図4に示されるとおり、制御部22は、算出部31を含む。算出部31は、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22の周辺回路であるRAM等に展開され、制御部22のプロセッサにより実行されることによって実現される。
【0078】
算出部31は、検出部11により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を求める。本実施形態1では、算出部31は、上記導出に基づいて、モノクロビームにおける粒子線到達深度を求める。
【0079】
具体的には、まず、制御部22により制御されることにより、検出部11は、モノクロビームにより発生する制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置に応じて取得する。次に、算出部31は、検出部11により取得されるエネルギースペクトルより、エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度を求める。そして、算出部31は、
エネルギーE1からE2の範囲(E1 < E2)の制動輻射の強度が初めて0となる位置(屈曲点
)を求める。当該位置は、制動輻射の最大エネルギーEmaxが、記憶部21に格納されたプログラム等によりパラメタとして設定されたE1となる照射体の位置である。最後に、算出部31は、記憶部21に格納されたE1とxBの対応関係を用いて、E1から具体的なxBの値を求め、飛程の位置を求める。これにより、算出部31は、飛程位置、すなわち、モノクロ
ビームにおける粒子線到達深度を求める。
【0080】
<動作例>
次に、本実施形態1の動作例について説明する。図7は、重粒子線を用いた脳下垂体腺腫の治療例を示す。本動作例では、本実施形態1の実現可能性を実証するために、このような図7で示される重粒子線を用いた脳下垂体腺腫の治療における条件を模して粒子線のリアルタイムモニタリングの動作例を示す。
【0081】
脳下垂体腺腫の患部は体内深い部分に存在するため、加速器3から照射される粒子線は、290MeV/u程度のエネルギーのものを用いた。図8は、本動作例における、粒子線の照射に伴い飛程付近から発生する制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111の例を示す。290MeV/uの炭素モノクロビームを照射体2(本動作例では、水ファントム)に入射し、鉛のコリメータ120と、テルル化カドミウム半導体検出器である検出器111を用いて制動輻射のエネルギースペクトルを測定した。水ファントムは、ビーム軸方向に30cmの厚さ、ビーム軸と垂直方向に10cmの直径を持つ円柱状のアクリル製ファントムに水を注入したものを用いた。水ファントムの近傍には、鉛のコリメータ120と、テルル化カドミウム半導体検出器である検出器111を備えた検出部11を設置し、当該検出部11を移動させてスペクトルを測定した。また、熱中性子の半導体検出器への影響を排除するために、検出器111の周囲には中性子の遮蔽ブロックを設置した。
【0082】
図9は、本動作例における炭素モノクロビームの粒子線到達深度(飛程位置)の測定手順を示す。
【0083】
例えば、演算部12が備える不図示のユーザインタフェースを介したユーザの操作情報に基づいて、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22によって実行されることにより当該測定が開始される(S1000)。
【0084】
当該測定が開始されると、演算部12の制御部22により制御された検出部11によって、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される制動輻射のエネルギースペクトルが、水ファントムの位置関係に応じて検出される(S1001)。
【0085】
次に、算出部31は、検出された制動輻射のエネルギースペクトルを用いて、水ファントムの各位置について、所定のエネルギー範囲における制動輻射の強度を算出する(S1002)。当該エネルギー範囲は、記憶部21に格納されたプログラム等のパラメタ等によって設定される。本動作例では、当該エネルギー範囲として、68±5keVの範囲を設定した。このエネルギー範囲は、診断用放射線薬剤として一般的に用いられているTl-201のX
線又はガンマ線と同程度であり、精度の良い測定が可能であるエネルギー範囲として一般的に知られているからである。
【0086】
次に、算出部31は、水ファントムの位置毎に算出した所定のエネルギー範囲における制動輻射の強度を用いて、屈曲点を求める(S1003)。例えば、算出部31は、炭素モノクロビームに沿って算出された制動輻射の強度を、当該炭素モノクロビームに沿った方向の位置関係に対応付けてグラフ化することにより、屈曲点を求める(後述する図11)。
【0087】
次に、算出部31は、制動輻射の強度を算出するために用いた所定のエネルギー範囲の下限値E1を用いて、屈曲点と飛程との間の距離xBを求める(S1004)。当該距離xBは、上述のとおり、実験的に測定された結果を用いて求められる。算出部31は、記憶部21に格納された実験的に測定済みの[数10]の関係、つまり、E1とxBの対応関係を用いて、距離xBを求める。
【0088】
次に、算出部31は、屈曲点から炭素モノクロビームの進行方向に絶対値xBだけ進んだ位置を、飛程の位置として求める(S1005)。これにより、飛程の位置が算出され、当該測定が終了する(S1006)。
【0089】
なお、図10は、[数1]を用いて、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を計算した結果を示す。図10では、理論的な値における屈曲点の位置を求めることのみを目的としているため、二重微分断面積の式として、計算が容易な準自由電子制動輻射の式([数1])を用いた。実際は、制動輻射の中では二次電子制動輻射が支配的である。しかしながら、二重微分断面積の制動輻射エネルギーに関する振る舞いは、二次電子制動輻射と準自由電子制動輻射とにおいて大きく変わらない。また、屈曲点の形成は、制動輻射のエネルギー上限が存在することに由来しているため、二重微分断面積の上限値は、正確な値(二次電子制動輻射の値)を用いた。横軸は、飛程位置を0とした相対位置を表している。また、イオンは、マイナスからプラスの方向(左か
ら右)に進行する。縦軸は、制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)である。屈
曲点xBが飛程からおおよそ−2.7mmの相対位置に表れる。
【0090】
また、図11は、上記S1003における、68±5keVの制動輻射の強度(X線及びガン
マ線カウント数)の深さ方向依存性を測定した結果を示す。図10で予測された屈曲点が確認できる。屈曲点の位置を導出するために、バックグラウンドとなるデータ点(図11における○印)を、傾き0の直線でフィッティングし、残りのデータ点(図11における□印)を低次多項式関数でフィッティングし、得られた2本の線の交点が屈曲点となる。
フィッティング結果から屈曲点の位置xBを求めると、飛程からの相対位置が-2.2 mmとな
った。これは、理論値-2.7mmと0.5mmの誤差で一致している。つまり、実験的に飛程を0.5
mm程度の誤差で算出できたことになる。
【0091】
理論計算(図10)と実験結果(図11)では、相対位置がマイナス側の領域の関数の形状が異なるが、これは、飛程から離れるに従い、イオンエネルギーが増大し、高エネルギーガンマ線の発生が増大した効果を理論計算のほうでは無視しているためであると考えられる。
【0092】
[実施形態2]
次に、実施形態2について説明する。実施形態2では、SOPBビームにおける粒子線到達深度が測定される。
【0093】
<導出>
SOPBビームは、レンジシフターによりイオンのエネルギーが連続的分布を持つ。これにより、SOPBビームでは、低いエネルギーを持つイオンはより照射体の手前側で停止し、最大エネルギーを持つイオンが特徴点を形成する。実施形態1では、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)の屈曲点」として現れたが、本実施形態2では
、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)の一階微分の屈曲点」
として観測される。その理由は、以下による。
【0094】
SOBPビームは、異なるエネルギーをもつモノクロビームの重ねあわせであるため、SOBPビームから放出される制動輻射の強度(X線及びガンマ線のカウント数)は、それぞれの
エネルギーを持つモノクロビームから放出される制動輻射の強度の和(積分)であると考えられる。エネルギーが異なるモノクロビームが放出する制動輻射の強度の分布は、最大エネルギーを持つモノクロビームが放出する制動輻射の強度分布(例えば、図10)を左方向に平行移動した形で表される。このため、SOBPビームにおける制動輻射の強度は、最大エネルギーにおけるモノクロビームの場合の強度分布(例えば、図10)を、左方向に
平行移動させながら重畳した形になる。
【0095】
ここで、図10のグラフをNmono(x)とし、[数11]から[数13]で表す。なお、C
は定数である。
【0096】
【数11】
ただし、
【0097】
【数12】
ただし、
【0098】
【数13】
このNmono(x)を用いると、SOBPビームにおける制動輻射の強度NSOBP(x)は、[数14]のように表せる。
【0099】
【数14】
ただし、x0及びAは定数である。すると、NSOBP(x)の一階微分は、[数15]となる。
【0100】
【数15】
つまり、SOBPビームの場合、一階微分がNmono(x)と同じ形状(符号は逆)となるので、制動輻射の強度の一階微分に屈曲点が現れる。
【0101】
以上の理由により、本実施形態2では、特徴点は、「制動輻射の強度(X線及びガンマ
線のカウント数)の一階微分の屈曲点」として観測される。屈曲点の位置xBは、実施形態1の場合([数10])と同様に[数16]で表される。
【0102】
【数16】
したがって、実施形態1と同様の方法により、当該屈曲点の測定により粒子線到達深度をモニタリングすることができる。
【0103】
<装置構成例及び動作例>
実施形態2における粒子線モニタリング装置の構成例は、図4に示される、実施形態1の装置構成例と同様である。ただし、実施形態2における算出部31は、図9のS1002において制動輻射の強度を求める代わりに、制動輻射の強度の一階微分を求める。
【0104】
なお、図12Aは、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される68±5keVの制動輻射の強度を計算したグラフを示す。横軸は飛程位置からの相対位置を表しており、飛程位置を0としている。また、イオンはマイナスからプラスの方向(左から右)に進行する
。縦軸は制動輻射の強度(X線及びガンマ線カウント数)である。
【0105】
また、図12Bは、図12Aのグラフを相対位置に関して一階微分したものである。図12Bに示されるとおり、屈曲点が飛程からおおよそ−2.7mmの相対位置に表れる。した
がって、本実施形態2においても、当該屈曲点を測定することにより、粒子線到達深度をモニタリングすることができる。
【0106】
[実施形態3]
次に、実施形態3について説明する。実施形態3では、モノクロビームにおけるエネルギー付与分布が測定される。
【0107】
<導出>
「制動輻射の強度」は「体内物質密度」に比例する。ただし、その比例係数は、粒子線のイオンエネルギーによって異なる。当該比例係数は、制動輻射理論断面積から求めることができる。また、当該比例係数は、事前実験によって測定することができる。これにより、「制動輻射の強度」から「体内物質密度」を容易に導出することができる。
【0108】
ここで、実施形態1で述べたとおり、制動輻射の最大エネルギー(又は、制動輻射のスペクトル形状)から、粒子線のイオンエネルギーを求めることができる。これにより、「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数を決定することができる。また、制動輻射のスペクトルから、「制動輻射の強度」を求めることができる。すなわち、制動輻射のエネルギースペクトルを検出又は測定することにより、「体内物質密度」を求めることができる。
【0109】
したがって、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体の位置毎に検出又は測定することにより、照射体の位置毎の「体内物質密度」を求めることができる。「体内物質密度」は、エネルギー付与と比例関係にある。その比例係数は、照射体に対する線エネルギー付与のデータテーブルを参照することで求めることができる。よって、照射体の位置毎の「体内物質密度」から「エネルギー付与分布」を求めることができる。なお、当該データテーブルは、すでに整備されており、James F. Zieglerによる計算コード”SRIM”(参照URL:http://www.srim.org/)として公開されている。
【0110】
以上の導出をまとめると、制動輻射のエネルギースペクトルを照射体の位置毎に検出又は測定することにより、エネルギー付与分布を求めることができる。
【0111】
<装置構成例>
次に、本実施形態3に係る粒子線モニタリング装置の構成は、図4に示される、実施形態1の装置構成例と同様である。
【0112】
ただし、本実施形態3にかかる粒子線モニタリング装置では、記憶部21は、入射する粒子線のイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報を格納する。また、記憶部21は、照射体に対する線エネルギー
付与のデータテーブル、つまり、「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を格納する。
【0113】
そして、本実施形態3にかかる粒子線モニタリング装置では、算出部31は、上記導出に基づいて、モノクロビームにおけるエネルギー付与分布を求める。
【0114】
具体的には、まず、制御部22により制御されることにより、検出部11は、モノクロビームにより発生する制動輻射のエネルギースペクトルを、照射体の位置に応じて取得する。次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルより、制動輻射の強度を算出する。また、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルの形状から、制動輻射の最大エネルギーを算出する。そして、算出部31は、照射体の位置毎における、制動輻射の最大エネルギーにより求められるイオンエネルギー、記憶部22に格納されたイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報、及び、制動輻射の強度を用いて、体内物質密度の分布を求める。最後に、算出部31は、体内物質密度の分布及び記憶部21に格納された「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を用いて、エネルギー付与分布を算出する。
【0115】
なお、3次元のエネルギー付与分布が求める場合は、検出部11を3次元イメージングが可能な装置(コンプトンカメラ)に変更する。
【0116】
<動作例>
次に、本実施形態3の動作例について説明する。図13は、本動作例における、粒子線の照射に伴い飛程付近から発生する制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111の例を示す。照射するモノクロビームとして、実施形態1の動作例と同様、エネルギーが290MeV/u程度の炭素モノクロビームを用いた。
【0117】
また、本動作例では、エネルギー付与分布を求めることができることを示すため、照射体2として、8mm程度の間隙を設けたアクリルを用いた。アクリルからは制動輻射が発生
し、間隙(空気)からはほとんど制動輻射は発生しないと考えられる。このため、このような関係のエネルギー付与分布が求められることにより、本実施形態3による手法によってエネルギー付与分布が算出可能であることが示される。
【0118】
そして、制動輻射のエネルギースペクトルを測定する検出器111として、スリット幅が2mmの鉛のコリメータ120を備えた、駆動機構121により検出位置が移動可能な、5mm幅のテルル化カドミウム半導体検出器を用いた。なお、検出位置の原点は間隙の中心とし、炭素モノクロビームの進行方向を正とした。
【0119】
図14は、本動作例における炭素モノクロビームのエネルギー付与分布の測定手順を示す。
【0120】
例えば、演算部12が備える不図示のユーザインタフェースを介したユーザの操作情報に基づいて、記憶部21に格納されたプログラム等が制御部22によって実行されることにより当該測定が開始される(S2000)。
【0121】
当該測定が開始されると、演算部12の制御部22により制御された検出部11によって、イオンの進行方向に対して90°の方向に放出される制動輻射のエネルギースペクトルが、間隙を有するアクリルの位置関係に応じて検出される(S2001)。
【0122】
次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルよ
り、制動輻射の強度を算出する(S2002)。本動作例では、30KeVから60KeVの範囲の積分値を制動輻射の強度とした。
【0123】
次に、算出部31は、検出部11により取得される制動輻射のエネルギースペクトルの形状から、制動輻射の最大エネルギーを算出する(S2003)。
【0124】
次に、算出部31は、間隙を有するアクリルの位置毎における、制動輻射の最大エネルギーにより求められるイオンエネルギー、記憶部22に格納されたイオンエネルギーにより対応付けられた「制動輻射の強度」と「体内物質密度」との間の比例係数の情報、及び、制動輻射の強度を用いて、体内物質密度の分布を求める(S2004)。
【0125】
次に、算出部31は、体内物質密度の分布及び記憶部21に格納された「体内物質密度」とエネルギー付与との間の比例係数の情報を用いて、エネルギー付与分布を算出する(S2005)。これにより、エネルギー付与分布が算出され、当該測定が終了する(S2006)。
【0126】
なお、図15Aは、S2001で検出部11が検出した、検出位置0mmと-12mmにおける制動輻射のエネルギースペクトルの例を示す。また、図15Bは、S2005で算出部31が算出したエネルギー付与分布の例を示す。鉛のコリメータ120の幅が比較的に大きかったこと、及び、検出器111として1つの5mm幅のテルル化カドミウム半導体検出器
を用いたことが要因となり、精度のよい検出結果は得られなかった。
【0127】
しかしながら、図15Bからは、間隙位置において、制動輻射の強度に比例するエネルギー付与が減少していることがわかる。つまり、アクリル部分と比べて間隙(空気)部分の制動輻射が少ないエネルギー付与分布が得られた。これにより、本実施形態3による手法によってエネルギー付与分布が算出可能であることが示された。
【0128】
<その他>
補足として、本実施形態3のエネルギー付与分布の測定手法を用いた粒子線治療方法例について説明する。
【0129】
作業者は、治療前に、治療計画として、健常部位への影響が少なく、かつ、患部を十分治療するためのビーム経路、ビームエネルギー、及びイオン照射量等を計画する。当該計画のためにまず、作業者は、患者の身体における、治療に用いるビームが通過する箇所の物質構成を整理する。そして、作業者は、経路上の各地点のエネルギー付与を、データテーブルを参照して計算する。なお、当該計算と同時に、経路上の各地点におけるイオンエネルギーも計算される。当該計算により、作業者は、治療計画における想定されるエネルギー付与分布を得る。
【0130】
そして、作業者は、実際の治療時に、当該治療計画に沿ってイオンビームを照射する。この時、上記<動作例>に記載したエネルギー付与分布のモニタリングを実施する。当該モニタリングにより、作業者は、治療計画において想定していたエネルギー付与分布と、実際の測定により得られたエネルギー付与分布とを比較する。実際の測定により得られたエネルギー付与分布が、治療計画において想定していたエネルギー付与分布と異なる場合、その異なる度合いにより、当該粒子線治療の効果が得られない場合が想定される。例えば、このような粒子線治療の効果が得られない場合、作業者は、実際の測定によりエネルギー付与分布を計算する元となった体内物質密度の分布を用いて、ビーム経路、ビームエネルギー、及びイオン照射量等を再計画する。そして、作業者は、再計画した各条件を用いて、エネルギー付与分布を再計算し、中止線治療に用いるイオンビームの属性値を更新する。
【0131】
これにより、作業者は、体内における照射イオンビームの挙動をリアルタイムにモニタリングすることができる。そして、作業者は、当該リアルタイムにモニタリングした情報を用いて、治療に有効なイオンビームの照射を行うことができる。
【0132】
[実施形態4]
最後に、実施形態4について説明する。実施形態4では、SOBPビームにおけるエネルギー付与分布が測定される。
【0133】
<導出及び装置構成例>
実施形態2で述べたとおり、SOBPビームは、連続的に広がるイオンエネルギーを持つため、制動輻射もそれぞれのイオンエネルギーについて重畳したものになる。そして、入射粒子のイオンエネルギーが高いほど、制動輻射の最大エネルギーは高くなり、制動輻射の強度も大きくなる。したがって、制動輻射のエネルギースペクトル分布は、入射粒子の中で最大のエネルギーを持つイオンにより支配的な影響を受ける。つまりSOBPビームを入射した際に放出される制動輻射は、モノクロビームを入射した場合とほぼ同じであるため、実施形態3とまったく同一の方法で、エネルギー付与分布を求めることができる。
【0134】
[実施形態の作用及び効果]
以上までの実施形態1から4に係る粒子線モニタリング装置は、従来、バックグラウンドとして利用されなかった制動輻射を用いることにより、モノクロビーム又はSOBPビームの粒子線到達深度又はエネルギー付与分布を算出する。つまり、本実施形態に係る粒子線モニタリング装置は、制動輻射を用いることにより、線量推定を行う。
【0135】
制動輻射は即発性であるため、本実施形態に係る粒子線モニタリング装置では、ウォッシュアウト効果による弊害を回避することができる。また、従来法における核反応により発生するガンマ線を測定することとは異なり、本実施形態では、発生数がおおよそ102〜105倍と桁違いに多い制動輻射線を利用しているため、少量の照射イオン数においてもエネルギー付与分布の測定が可能となる。つまり、本実施形態では、従来困難であった、粒子線のリアルタイムモニタリングが可能となる。
【0136】
最先端の治療法である重粒子線がん治療においては、照射イオン数が陽子線の10分の1程度になる。照射イオン数の低下によりガンマ線の発生数も低下し、エネルギー付与分布を推測するのに十分な統計を得ることがさらに困難になる。これに対し、本実施形態における手法で用いる制動輻射線は、イオンの価数の増加にともない発生確率が増加するため、重粒子線にも適した手法である。
【0137】
また、従来手法である陽電子放出核種を用いたモニタリング手法と比較すると、PETのような大掛かりな装置を利用する必要はなく、本実施形態で示されるテルル化カドミウム半導体検出器等の規模が非常に小さく安価である装置でよいため、コストパフォーマンスに優れている。
【0138】
本実施形態により、世界的に利用が拡大している粒子線治療の分野において粒子線のエネルギー付与分布をリアルタイムでモニタリングする手法を提供することができる。
【0139】
[補足]
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈される。また、当業者は、上記本実施形態
の記載から、特許請求の範囲の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができる。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。両者が矛盾する場合、本明細書において使用される用語は、本明細書(定義を含めて)に記載された意味において理解される。
【符号の説明】
【0140】
1 粒子線モニタリング装置
2 照射体
3 加速器
11 検出部
111 検出器
112 電荷有感型増幅器
113 整形増幅器
114 アナログデジタル変換器
120 コリメータ
121 駆動機構
12 演算部
21 記憶部
22 制御部
23 バス
24 入出力部
31 算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部と、
前記検出部により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部と、
を備えたことを特徴とする粒子線モニタリング装置。
【請求項2】
前記粒子線の挙動に関する情報は、前記粒子線の到達深度であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項3】
前記粒子線の挙動に関する情報は、前記粒子線のエネルギー付与分布であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項4】
前記粒子線は、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項5】
コンピュータに、
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出するステップと、
前記検出するステップにより検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出するステップと、
を実行させるための粒子線モニタリングプログラム。
【請求項6】
コンピュータが
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出するステップと、
前記検出するステップにより検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出するステップと、
を実行することを特徴とする粒子線モニタリング方法。
【請求項1】
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出する検出部と、
前記検出部により検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出する算出部と、
を備えたことを特徴とする粒子線モニタリング装置。
【請求項2】
前記粒子線の挙動に関する情報は、前記粒子線の到達深度であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項3】
前記粒子線の挙動に関する情報は、前記粒子線のエネルギー付与分布であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項4】
前記粒子線は、入射エネルギーが単一であるモノクロビーム、又は、拡大ブラッグピークビームであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粒子線モニタリング装置。
【請求項5】
コンピュータに、
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出するステップと、
前記検出するステップにより検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出するステップと、
を実行させるための粒子線モニタリングプログラム。
【請求項6】
コンピュータが
照射体に入射した粒子線から作用を受けた電子からの制動輻射の放射線情報を、照射体の位置関係に応じて検出するステップと、
前記検出するステップにより検出された位置関係に応じた制動輻射の放射線情報から、照射体中における粒子線の挙動に関する情報を算出するステップと、
を実行することを特徴とする粒子線モニタリング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【公開番号】特開2012−170655(P2012−170655A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36461(P2011−36461)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
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