説明

粒子線治療で使用するビーム分析器を備えるガントリ

本発明は、放射線治療に使用される粒子線治療装置に関するものである。より具体的には、本発明は、入射ビームを分析する手段を備える、粒子ビーム照射のためのガントリに関する。ビームの運動量幅及び/又はビームのエミッタンスを制限するための手段が、ガントリに組み込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療に使用する荷電粒子線治療装置に関する。より具体的には、本発明は、ガントリの回転軸にほぼ沿った方向の荷電粒子ビームを受け取り、そのビームを輸送し、治療標的に照射するように設計された回転ガントリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子(例えば、陽子、炭素イオンなど)を用いる放射線療法は、周囲正常組織への線量を最小限に抑えつつ、標的体積への高線量の照射が可能である高精度の原体照射法であることが実証されている。一般に、粒子線治療装置は、高エネルギー荷電粒子を作り出す加速器と、粒子ビームを1つ以上の治療室に誘導するビーム輸送系と、各治療室の粒子ビーム照射系とを備えている。ビーム照射系は、ビームを一定の照射方向から標的に照射する固定ビーム照射系と、ビームを複数の照射方向から標的に照射可能な回転ビーム照射系の2種類に分類することができる。また、そのような回転ビーム照射系は、ガントリと名付けられている。標的は、一般に、ガントリの回転軸と治療用ビーム中心軸との交点で規定される固定の位置に配置される。この交点はアイソセンタと呼ばれ、アイソセンタへ様々な方向からビームを照射可能であるこの種のガントリは、アイソセントリック・ガントリと呼ばれている。
【0003】
ガントリのビーム照射系は、ビームを標的に合わせて成形する装置を備えている。粒子線治療においてビームを成形するために用いられる2つの主な手法、すなわち、より一般的な受動的散乱法と、より高度な動的照射法とがある。動的照射法の例として、いわゆるペンシルビーム走査(PBS:Pencil
Beam Scanning)法がある。PBSでは、細いペンシルビームを、ビーム中心軸に直交する平面に沿って磁気的に走査させる。標的体積における横方向の原体性は、走査磁石を適切に制御することにより得られる。標的体積における深さ方向の原体性は、ビーム・エネルギーを適切に制御することにより得られる。このようにして、三次元の標的体積全体に粒子線量を照射することができる。
【0004】
患者への侵入深さが十分であるために必要な粒子ビーム・エネルギーは、使用する粒子の種類によって決まる。例えば、陽子線治療の場合、陽子ビーム・エネルギーは通常70MeV〜250MeVの範囲である。要求される侵入深さごとに、ビーム・エネルギーを変化させる必要がある。ビームのエネルギー幅は、いわゆる遠位線量低下に直接影響するので、制限されなければならない。
【0005】
しかしながら、すべての種類の加速器がエネルギーを変化させることができるわけではない。固定エネルギー加速器(例えば、固定イソクロナス・サイクロトロン)の場合、通常、図1、2及び3に示すように加速器の出口と治療室との間にエネルギー選択システム(ESS:Energy
Selection System)が設置されている。そのようなエネルギー選択システムは、Jongen等による非特許文献1に記載されている。エネルギー選択システム(ESS)の機能は、サイクロトロンから取り出した固定エネルギー・ビーム(例えば、陽子の場合、230MeV又は250MeV)を、そのエネルギーがサイクロトロンの固定エネルギーから要求される最小エネルギー(例えば、陽子の場合、70MeV)まで下に可変のビームに変換することである。結果として得られるビームは、検証及び調整された絶対エネルギー、エネルギー幅、及びエミッタンスを持つものでなければならない。
【0006】
ESSの第1の要素は、ビームラインを横切るように所定厚さの炭素要素を配置することによりエネルギーを低下させることが可能な炭素エネルギー・デグレーダである。そのようなエネルギー・デグレーダは特許文献1に記載されている。このエネルギー低下の結果として、ビームのエミッタンス及びエネルギー幅が増加する。デグレーダの後には、ビームのエミッタンスを制限するエミッタンス・スリットと、ビームのエネルギー幅を復元する(すなわち、制限する)運動量又はエネルギーの分析・選択装置とが続く。
【0007】
そのような周知のエネルギー選択システム10のレイアウトを、定常の固定エネルギー加速器40(本例では、サイクロトロン)と共に、図1に示している。デグレーダ及びエミッタンス制限スリットの後に、ビームは、2つの30°ベンドの2つのグループから成る120°のアクロマティック・ベンドを通過する。遠位低下の規定を満たすため、ビームの運動量幅又はエネルギー幅は、ベンドの中央に配置されたスリットによって制限される。スリット位置において、ビームのエミッタンス幅が小さく、分散が大きくなるように、ベンドの前、及び2つの30°偏向磁石の2つのグループの間で、四重極によりビームを集束させる。
【0008】
エネルギー・デグレーダ41から治療アイソセンタ50までのビームライン全体が、アクロマティックな光学系、すなわち運動量に依存しない(無分散)かつ横方向の位置に依存しない撮像特性を有するビーム光学系を形成している。ビームラインは複数のセクションに分割することができ、各セクションは、それ自体、アクロマートを形成している。図2に示すように、第1のセクションはESS10であり、その後に、ビームを治療室の入射位置まで伝えるアクロマティック・ビームライン・セクションが続く。ガントリ治療室の場合、この入射位置は、回転ガントリ15の入射位置又は連結位置である。そして、ガントリのビームラインが、第3のアクロマティック・ビームライン・セクションを形成している。治療室が1つのみの粒子線治療構成の場合、図3に示すように、ビームラインは、2つのアクロマティック・ビームライン・セクションを含み、その第1のセクションはビームをガントリの入射位置まで伝えるESS10であり、第2のアクロマティック・セクションは回転ガントリ15のビームラインに相当する。ガントリ回転角に依存しないガントリ・ビーム光学ソリューションを得るためには、ガントリの入射位置において、ビームはXとYでエミッタンスが同じでなければならない。X軸とY軸は、互いに垂直であり、また、ビーム中心軌道に対して垂直である。X軸は、双極子磁石の偏向平面内にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1145605号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jongen等著,“Theproton therapy system for the NPTC: equipment description and progress report(NPTC用の陽子線治療システム:設備の説明及び進捗状況報告)”,NuclearInstruments and Methods in Physics Research Section B,113号(1996年)522〜525頁
【非特許文献2】Pavlovic等著、「“Beam‐opticsstudy of the gantry beam delivery system for light‐ion cancer therapy(軽イオン癌治療用のガントリ・ビーム照射系のビーム光学研究)”,NuclearInstruments and Methods in Physics Research Section A,399号(1997年)440頁」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このようなデグレーダ及びエネルギー分析器を用いることの不都合な点は、この装置は、図1に示すように、比較的大きな空間領域を必要とし、このため、大きな設置面積を必要とすることである。また、ESSの設置によって、追加の設備コストが発生する。
【0012】
本発明は、従来技術の問題を少なくとも部分的に解消する解決策を提供することを目標とするものである。本発明の目的は、従来技術の粒子線治療装置に比較して、小型化され、削減したコストで構築することができる荷電粒子線治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、添付の請求項により記載され、特徴付けられるものである。
【0014】
例えば図1〜3に示すような従来技術の粒子線治療構成では、ビームの運動量幅(又は、同等のものであるエネルギー幅)及びエミッタンスを制限する機能は、別個の装置によって、すなわち定常加速器40と回転ガントリ15との間に設置されるエネルギー選択システム(ESS)10によって実行される。図1に示すように、ESSの第1の要素は、固定エネルギー加速器40の粒子ビームのエネルギーを低下させるために使用されるエネルギー・デグレーダ41である。
【0015】
本発明により、複数の機能を果たすガントリ・ビームライン構成を有する回転ガントリ・ビーム照射系を提供する。
・粒子線治療で使用するガントリの治療アイソセンタに粒子治療ビームを照射することができるように、入射粒子ビームを輸送、偏向、及び成形する周知の機能;
・入射粒子ビームのエネルギー幅を、選択された最大値に制限する追加の機能。
【0016】
本発明によると、ビームのエネルギー幅又は運動量幅を選択された値に制限するESS機能は、ガントリシステム自体によって実行される。これによって、粒子線治療設備の大きさ及びコストを削減することができる。
【0017】
本発明の文脈において、運動量幅は、所与の位置での粒子の運動量の標準偏差と定義され、その位置でのすべての粒子の平均運動量のパーセンテージとして表される。ガントリにおいて運動量幅を制限する手段がどの位置にあるかにかかわらず、それらの手段は、上記運動量幅を、好ましくはすべての粒子の平均運動量の10%に、より好ましくは5%に、さらに好ましくは1%に制限するように設計されている。
【0018】
ガントリは、さらに、入射粒子ビームの横方向ビーム・エミッタンスを、選択された最大値に制限する第2の追加機能を果たすものであることが好ましく、これにより、粒子線治療設備のコスト及び大きさがさらに削減される。
【0019】
より好ましくは、本発明によるガントリは、さらに、ガントリの入射位置とガントリ内の第1の四重極磁石との間に設置されたコリメータを備える。このコリメータは、ビームがガントリ・ビームラインの第1の磁石に達する前に、ビームのエミッタンスを低減するために用いられる。
【0020】
別の好ましい実施形態において、上記コリメータは、ガントリの外部に、すなわちエネルギー・デグレーダとガントリの入射位置との間に設置される。
【0021】
さらに、本発明により、定常粒子加速器と、エネルギー・デグレーダと、ビームの運動量幅を制限する手段を有する回転ガントリとを備える粒子線治療装置を提供する。好ましくは、上記ガントリは、さらに、ビームのエミッタンスを制限する手段を備える。
【0022】
あるいはこれに代えて、定常粒子加速器と、エネルギー・デグレーダと、ビームの運動量幅を制限する手段を有する回転ガントリと、上記エネルギー・デグレーダと上記ガントリとの間に設置されてビームのエミッタンスを制限するコリメータとを備える粒子線治療装置を提供する。より好ましくは、上記ガントリは、ビームのエミッタンスを制限する追加の手段を備える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、固定エネルギー・サイクロトロンと共に使用する周知のエネルギー選択システムを表すものである。
【図2】図2は、周知の粒子線治療ビームライン構成の典型的レイアウトを示している。
【図3】図3は、シングルルーム粒子線治療構成の周知のレイアウトの概略を示している。
【図4】図4は、本発明に係る装置の典型例である実施形態を概略的に示している。
【図5】図5は、本発明による典型例のガントリについてのビーム光学計算の結果を示している。
【図6】図6は、本発明による別の典型例のガントリ構成についてのビーム光学計算の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面に関連させて、本発明について詳細に説明する。しかしながら、当業者であれば、本発明を実施するいくつかの等価な実施形態又は他の方法を想到し得ることは明らかである。表示する図面は、概略的なものにすぎず、限定するものではない。図面において、一部の要素の大きさは説明のために誇張されており、縮尺通りではない場合がある。
【0025】
本発明による典型例の粒子線治療構成を図4に示している。本例では、発明による回転ガントリは、定常の固定エネルギー粒子加速器40に連結されて、シングルルーム粒子線治療装置100を形成している。陽子の場合の粒子加速器の例は、(例えば、1.2mの引き出し半径で)コンパクトな幾何学的形状を有する超伝導シンクロサイクロトロンである。本発明によるガントリはガントリ室に設置されており、ガントリ室は、遮蔽壁(例えば、厚さ1.7mのコンクリート壁)によって加速器室から隔離されている。エネルギー・デグレーダ41が、加速器40とガントリの入射位置45(連結位置)との間に設置されている。このエネルギー・デグレーダ41は、加速器室内において、加速器室をガントリ室から隔離している遮蔽壁52の直前に配置されている。ガントリの入射位置45は、デグレーダ41の後に位置する、ガントリのビームラインのための入射窓である。この入射窓45は、ビームがガントリの回転軸にほぼ沿った方向でガントリに入射する、ガントリ・ビームライン・セクションの最初の部分である。ガントリの回転軸は、アイソセンタ50と入射位置45とを通る水平な一点鎖線で示されている。デグレーダとガントリ入射位置との間に、従来のシステム(図1〜3)の場合のような運動量又はエネルギーの分析装置は、図4に示すように設置されていない。
【0026】
図1〜3に示す従来構成と同様に、加速器の出口とデグレーダ41との間に短いビームライン・セクションがあり、そこには、ビームを輸送してエネルギー・デグレーダで小さなスポット(1σで、例えば0.5mmから2mm)に集束させるための例えば2つの四重極磁石44が設置されている。エネルギー・デグレーダ41は、例えば、(特許文献1に開示されているような)迅速に調整可能で、サーボ制御の、回転する、厚さ可変の、エネルギー低下材料のシリンダである。加速器の出口とデグレーダとの間の距離は、約2mとすることができる。例えば横移動する楔形ベースのデグレーダなど、他のタイプのエネルギー低下システムを用いることもできる。
【0027】
本出願人が今回使用したエネルギー・デグレーダは、その入口に組み込まれた水平‐垂直ビームプロファイル・モニタを備えており、これによりビームスポットのサイズ及び位置の測定が可能であり、さらに、制御システムのアルゴリズムによって上流のビーム光学系を自動調整する手段を備えている。このようにして、デグレーダ41におけるビームを正確に規定することができ、例えば、ビームは、両平面において2mmを超えない半値幅を持つ小さなウエストに集束される。このような入力ビーム条件によると、エネルギーが低下されたビームの出力エミッタンスは、デグレーダにおける多重散乱の影響によるものであって、入力条件にはあまり依存しない。エネルギー低下の結果得られるビームは、所定のサイズ及び開きを持つ、デグレーダにおけるXとYでの仮想ウエストからの発散ビームとみなすことができる。2つの直交座標軸XとYは、ビーム中心軌道に対して垂直(直角)である。XとYでのエミッタンス(“横方向エミッタンス”とも呼ばれる)は、この時点では略同等であると考えられる。デグレーダにより実施されるエネルギー低減が大きいほど、XとYでの横方向エミッタンスは大きくなり、また、低下されたビームの運動量幅が大きくなる。
【0028】
本発明の実施形態では、ガントリ構成は、入射ビームの運動量幅を制限するための手段43を含んでいる。ガントリに入射するビームは、平均運動量値及び運動量幅を持つ粒子からなるものである。
【0029】
入射ビームの運動量幅を制限するため、一対の運動量分析スリット43がガントリ内に設置される。
【0030】
これらの運動量分析スリット43は、ビーム路に沿った位置であって、ビームの粒子がその運動量に応じて分散される位置に配置されることが好ましい。
【0031】
より好ましくは、これらのスリットは、公称分散が公称ビームサイズよりも大きい位置に設置される。公称分散は、その運動量が、ビームのすべての粒子の平均運動量Pと1%(1パーセント)異なる粒子の横方向の変位と定義される。公称ビームサイズは、平均運動量Pを持つ単色エネルギー粒子ビームのXでの1σビームサイズ値と定義される。公称分散が2.5cmであると仮定すると、これは、運動量P’=1.01*Pを持つ粒子が運動量Pを持つ粒子からXで2.5cmだけ変位していることを意味する。この例では、運動量P’=0.99*Pを持つ粒子も、やはりXで2.5cmだけ変位していることになるが、しかしX座標の符号が逆である。
【0032】
運動量制限スリットは、例えば、Xでの公称ビームサイズが0.2cmから1cmの間であり、かつ、Xでの公称分散が1cmから3cmの間である位置に設置することができる。スリットを開閉することにより、要求(選択)される最大運動量幅を得ることができる。例えば、然るべくスリットを調整することによって、最大運動量幅を平均運動量の0.5%に制限するように選択することができる。最大運動量幅を平均運動量の0.4%に制限したい場合は、一対の運動量スリットをより多く閉じる必要がある。この目的のため、要求される運動量幅の関数としてスリット開度を定義する較正曲線を作成することができる。
【0033】
図4の構成では、第7のガントリ四重極磁石と第2の双極子磁石48との間の位置において、公称分散はビームサイズと比較して大きいので、この位置が運動量幅制限スリットを設置するのに好ましい。これらのスリットは、例えば、第2の双極子磁石48の直前に設置することができる。厳密な位置は、具体的なガントリ構成によって変えることができる。
【0034】
ビームの運動量幅を低減するための手段として一対のスリットを用いる代わりに、他の手段を用いることもできる。例えば、様々な直径のアパーチャ又はコリメータを用いることができ、これらを、ビームラインの好ましくは上記の位置に配置することができる。
【0035】
図4に示す例では、治療アイソセンタ50に走査ビームを照射するガントリを提示しており、このガントリのビームラインは、3つの双極子磁石47,48,49と7つの四重極磁石44とを含んでいる。このガントリ構成では、走査磁石46は、最後の双極子磁石49の上流に設置される。ガントリ入射位置45と第1の双極子磁石との間、及び第1と第2の双極子磁石の間には、それぞれ、2つと5つの四重極磁石がある。
【0036】
好ましくは、ビームの運動量幅を制限する手段43に加えて、さらに横方向ビーム・エミッタンスを制限するための手段42をガントリ15内に設置することができる。この目的のため、ビームの開きを(XとYで)制限する二対のスリットを、例えば第2の四重極磁石と第1の双極子磁石47との間に設置することができる。このように、ビームの開きを制限することにより、このビームの開きに比例する横方向ビーム・エミッタンスが制限される。ガントリ内で入射位置45と第1の双極子磁石47との間に設置されている最初の2つの四重極は、デグレーダからの発散ビームを、このビームが発散制限スリットに達する前に集束させる役目を果たす。どの程度ビーム・エミッタンスを低減する必要があるのかは、ガントリがビームを効率的に輸送するために許容することができる最大エミッタンスに依存し、さらに、治療アイソセンタでのビーム要件が何であるか(例えば、治療アイソセンタで要求されるビームサイズなど)にも依存する。許容ビーム・エミッタンス及びビームサイズは、ビームの成形に用いられる技法(例えば、ペンシルビーム走査又は受動的散乱)に依存することがある。図4に示す例は、走査ビーム照射系についてのものである。陽子線ペンシルビーム走査系の場合、ビーム・エミッタンスは、例えば、XとYの両方において7.5π
mm mradに制限することができる。実際のビーム調整を目的として、発散制限又はエミッタンス制限スリットの下流側正面に、ビームプロファイル・モニタ(図4には示していない)を設置することができる。XとYで一対のスリットをビームの開きを低減する手段として用いる代わりに、他の手段を用いることもできる。例えば、様々な直径のアパーチャ又はコリメータを用いることができ、これらをビームラインに配置することができる。
【0037】
ビームのエネルギー低減が非常に大きい(例えば、250MeVの陽子を70MeVまで低減する)場合、ビームのエミッタンス及び開きは非常に大きくなり、ガントリ内の第1の四重極磁石の直前でのビームの直径が、ビームライン・パイプの直径よりも大きくなる可能性がある。このため、さらに、ガントリ15内の第1の四重極磁石の上流に、予めビームの一部をカットするためのコリメータ(図4には示していない)を設置することができる。このコリメータは、ガントリ15内で、ガントリの入射位置45と第1の四重極磁石との間に設置することができる。あるいは、そのようなコリメータを、ガントリの外部、すなわちデグレーダとガントリ15の入射位置45との間に設置することができる。そのようなビームのエミッタンスを制限するコリメータが上記の2つの位置のどちらかに設置される場合には、別のガントリ実施形態において、エミッタンスを制限するための手段42を省略することができる。
【0038】
粒子ビームが、発散及び/又は運動量の制限スリットに衝突すると、中性子が生成される。患者が配置されている治療アイソセンタ50の段階での中性子線を制限するため、適当な遮蔽を設ける必要がある。中性子は主にビームの方向に放射されるので、第1の双極子磁石の直後に、第1の双極子磁石47の上流側に設置されたビームのエミッタンスを制限する手段で生成される中性子を遮蔽するための中性子遮蔽プラグ51を、ガントリの回転軸を横切るように設置することができる。中性子は主にビームの方向に放射されるので、運動量制限スリット43で生成される中性子が患者のほうに向かうことはない。それでも、全体としての中性子背景放射を低減するために、局所的な中性子遮蔽(図4には示していない)を運動量制限スリット43の周辺に設置することができる。
【0039】
図4に詰め込み過ぎないようにするため、ガントリの機械的構成の詳細は、意図的に省略している。そのような図4に示していない機械要素の例は、ガントリを患者の周囲に少なくとも180°回転させるための2つの球面ころ軸受、ガントリ駆動・ブレーキ系、ケーブル・スプールを支持するためのドラム構造、回転時のガントリのバランスを取るために必要な釣り合いおもりなどである。
【0040】
粒子線治療用のガントリを設計する際には、いくつかのビーム光学条件を満たす必要がある。ガントリ回転角に依存しないガントリ・ビーム光学ソリューションを得るためには、ガントリ入射位置45において、ビームはXとYで同等のエミッタンス・パラメータを持たなければならない。上述のように、これらの条件は、ガントリ入射位置の直前にエネルギー・デグレーダを配置した場合には、当然、満たされる。さらに、以下のビーム光学条件を満たす必要がある。
1.ガントリ・ビーム光学系は、ダブル・アクロマティックでなければならない。つまり、運動量に依存せず(無分散)、かつ位置に依存しないビーム撮像特性でなければならない。
2.ガントリでの妥当な伝送効率を維持するためには、四重極内部でのビームの最大サイズ(1σ)は、好ましくは2cmを超えてはならない。
さらに第3の条件があるが、しかしこれは、上述のように、ビームの成形に用いられる技法によって異なる。走査系の場合、この第3の条件はつぎのように規定することができる。
3.アイソセンタ50において、ビームは、XとYで略同等のサイズの小さなウエストを持たなければならない。
散乱系の場合、要求されるビームサイズは、アイソセンタよりも上流で(例えば、最後の偏向磁石の出口で)規定することができ、散乱で許容されるビームサイズは、一般に、走査の場合よりも大きい(例えば、最後の偏向磁石の出口で1cm)。
これらの3つの条件(1〜3)に加えて、本発明による結果として新しい要件が導入される。
4.エネルギー幅制限スリット43の位置において、Xでの公称分散は、好ましくは、Xでの公称ビームサイズと比較して大きくなければならない(値の例については、上記を参照)。
本発明によるガントリは、さらに、ビームのエミッタンスを制限する手段を備えることが好ましい。これによって要件が追加される。
5.エミッタンス制限スリット42の位置において、XとYでのビーム光学パラメータ(サイズ及び開き)は、ビームの開きをカットすることが可能なものでなければならない。これは、例えばビームが適当なサイズ(例えば、1σで0.5cm〜2cm)でなければならないことを意味している。
【0041】
図4に示すガントリ構成は、ビーム光学系“TRANSPORT”コード(K.L.Brown等によるCERN‐SLAC‐FERMILABバージョンに基づく、U.RohrerによるPSI
Graphic Transport Framework)を用いて行ったビーム光学研究に基づくものである。170MeVの入射陽子ビームについての、ガントリ・ビームラインにおけるXとYでのビーム・エンベロープを、例として図5に示している。ビーム・エンベロープは、X方向とY方向について、それぞれ下側パネルと上側パネルにプロットしている。この例では、最終的なビームのエミッタンスは12.5π
mm mradである。これは、入射ビームの開きが、XとYで6 mradに制限された状況に対応するものである。この場合、システムを通して輸送されるビームは、1.25mmの小さなビームスポットと6
mradの開きを有してデグレーダで始まるビームとみなすことができる。このビーム光学系によると、治療アイソセンタで3.2mm(1σの値)のビームサイズが得られ、これはペンシルビーム走査を実行するのに適当な値である。四重極磁石及び双極子磁石の位置を、図5に示している。双極子磁石の横方向の位置(垂直方向の間隔)は、この図では縮尺通りに示しておらず、中心軌道に沿ったそれらの位置を示すことのみを目的としている。特に、最後の偏向磁石49のXとYでの間隔は、この双極子磁石の上流に走査磁石を配置して、アイソセンタで大きな走査範囲をカバーする必要があるので、大きな隙間が必要であるため、図5の縮尺よりも遥かに大きい。ビーム路に沿った走査磁石の位置を縦線で示している。点線はビームのXでの公称分散を表している。図示のように、第2の双極子磁石48の直前で大きな公称分散値が得られ、これは、運動量制限スリット43を設置するのに望ましい位置である。ビーム中心軌道に沿った運動量制限スリット43の位置を、図5において縦線で示している。運動量制限スリットにおけるXでの公称ビームサイズは約0.23cmであり、この位置におけるXでの公称分散は約2.56cmであるので、入射ビームの良好な運動量分離が得られる。好ましくは、さらに発散制限スリット42が使用される。これらのスリット42の適切な位置を、図5において縦線で示している。この位置におけるXとYでのビームサイズは、それぞれ約1.8cmと0.6cmである。提示した本ビーム光学ソリューションは、ダブル・アクロマートの条件を満たすものである。
【0042】
図4及び図5に示す例では、3双極子ガントリ構成を、それぞれ36°、66°、及び60°の双極子偏向角で用いた。しかしながら、本発明は、双極子の数又は双極子の偏向角に関して特定のガントリ構成に限定されるものではない。本発明は、四重極磁石の数、及び双極子磁石に対する四重極の相対位置のいずれについても、制限されない。
【0043】
第2の例として、本発明を、コニカル・2双極子・長行程ガントリに適用している。これは、図2及び図3に示すガントリ構成に相当するものである。このような長行程ガントリは、本出願人により構築されたものであり、非特許文献2において、Pavlovicにより論じられている。これらのガントリでは、第1の45°双極子磁石によりビームをガントリの回転軸から偏向させ、その後ビームは、第2の直線ビームライン・セクションに沿ってさらに進んでから、第2の135°双極子磁石に入射し、そこでビームは回転軸に略垂直に偏向及び誘導される。ガントリ入射位置と第1の45°双極子磁石との間の直線ビームライン・セクションは、元のガントリの設計では、4つの四重極磁石を含んでおり(図2は、このビームライン・セクションに四重極磁石が2つのみ設置された構成である)、第1と第2の双極子磁石の間の第2の直線セクションは、5つの四重極磁石を含んでいる。このガントリでは、最後の偏向磁石の出口と治療アイソセンタとの間の距離は3mであり、いわゆるノズルで構成されたビーム成形要素が最後の偏向磁石の上流に設置されている。このノズルは、ビームを治療標的に合わせて成形するために、受動的散乱法又は走査法のどちらかを用いる。走査磁石は、ノズルの一部であり、従って最後のガントリ双極子磁石の下流に設置されている。
【0044】
この2双極子ガントリ構成について、ビームの光学的分析を行った。上述のものと同じ条件及び要件に従った。このガントリにおいて、160MeVの陽子ビームの場合に結果として得られるビーム・エンベロープを図6に示している。ビーム・エンベロープは、X方向とY方向について、それぞれ下側パネルと上側パネルにプロットしている。45°双極子磁石67、135°双極子磁石68、及びいくつかの四重極磁石44の、中心ビーム路に沿った位置を図6に示している。ここでは、エネルギー・デグレーダは、やはりガントリの入射窓の直前に設置されており、また一例として、この計算では、開きは8
mradでカットされ、最終的なビームのエミッタンスは、XとYの両方において10π
mm mradである。図6に示すビーム・エンベロープはガントリ入射窓で始まり、ビームのサイズは1.25mm(1σの値)である。このガントリ構成では、入射窓と第1の45°ガントリ偏向磁石67との間の第1の直線セクションは、4つの四重極磁石44を含んでいる。第2と第3の四重極磁石の間に設置されている発散制限装置42を、図6において縦線で示している。運動量幅制限スリット43は、Xでの公称分散が公称ビームサイズと比較して大きい位置に設置される。図6における点線は、ビームのXでの公称分散を表している。運動量幅制限スリット43の位置を、図6において縦線で示している。この位置では、Xでの公称分散が約2.6cmであり、Xでの公称ビームサイズ(1σの値)が約0.6cmであって、このことは、入射ビームを運動量によって分析し、対応する位置にスリットを設定することにより運動量幅を所定の値に制限するのに適している。図6に示すビーム・エンベロープは、走査法を用いるノズル用の調整ソリューションである(走査磁石は135°双極子磁石の下流側に設置されるが、図6には示していない)。本ビーム光学研究で使用されるこのガントリ構成は、図6に示すように、さらに、最後の135°双極子磁石68の上流に設置された2つの四重極磁石を含んでいる。この調整ソリューションにより、アイソセンタにおいて、4mm(1σの値)のビームサイズで、XとYでのダブルウエストが得られ、これは、ペンシルビーム走査を実行するのに適している。このビーム光学ソリューションは、ダブル・アクロマートの条件を満たすものである。
【0045】
粒子線治療装置100は、定常の固定エネルギー粒子加速器と、エネルギー・デグレーダと、本発明による回転ガントリ、すなわち、ビームのエネルギー幅又は運動量幅を制限する手段を有し、さらに好ましくはビームのエミッタンスを制限する手段を有する回転ガントリとを組み合わせることにより形成することができる。陽子線治療装置の一例である図4に示すように、コンパクトな幾何学的形状を得ることができ、この装置の設置に必要な設置面積は、別個のエネルギー選択システムを備える場合よりも小さい。
【0046】
上記実施形態では陽子ガントリを扱っているが、本発明は陽子ガントリに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要素、すなわちビームを分析する(さらにエミッタンスを制限し、エネルギー幅を制限する)手段を、例えば炭素イオン又は他の軽イオン用のガントリなど、任意の種類の荷電粒子で使用されるガントリに、容易に適用することができる。
【0047】
粒子線治療用のガントリは、何年も前から設計されており、定常の固定エネルギー粒子加速器と組み合わせて、別個のエネルギー選択システムが、加速器とガントリとの間のビームラインに必ず設置されていた。本発明により、ビームのエネルギー幅又は運動量幅を制限する手段を有し、さらに好ましくはビームのエミッタンスを制限する手段を有する、新規のガントリ構成が提供される。このように、ガントリ自体が、標準的な従来技術によるエネルギー選択システムの機能を備えている。このような手段を備えて上述のようにビームを分析するガントリを設計することで、よりコンパクトな粒子線治療装置を構築することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームを受け取り、それをビーム路に沿って標的まで輸送して照射する、粒子線治療で使用するための回転ガントリ(15)であって、当該ガントリ(15)は、前記粒子ビームが当該ガントリの回転軸にほぼ沿った方向で入射する入射窓(45)を有し、当該ガントリ(15)は、
前記ビームの粒子の運動量幅を、選択された最大値に制限するための手段(43)を備えることを特徴とする、ガントリ。
【請求項2】
前記ビームの粒子の運動量幅を制限するための前記手段(43)は、前記ビーム路に沿った位置であって、前記ビームの粒子がその運動量に応じて分散される位置に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のガントリ(15)。
【請求項3】
前記ビームの粒子の運動量幅を制限するための前記手段(43)は、前記ビーム路に沿った位置であって、粒子の運動量に基づく公称分散が、該位置での公称ビームサイズよりも大きい位置に配置されていることを特徴とし、
前記公称分散は、前記ビームのすべての粒子の平均運動量Pの1%(1パーセント)だけ、その運動量が異なる粒子の横方向の変位と定義され、
前記公称ビームサイズは、前記平均運動量Pを有する単色エネルギー粒子ビームの1σビームサイズ値と定義される、請求項2に記載のガントリ(15)。
【請求項4】
当該ガントリ(15)は、前記粒子ビームの横方向エミッタンスを、選択された最大値に制限するための手段(42)をさらに備えることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のガントリ(15)。
【請求項5】
前記ビームの横方向エミッタンスを制限するための前記手段(42)は、前記ビームの粒子の運動量幅を制限するための前記手段(43)の上流に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載のガントリ(15)。
【請求項6】
前記ビームの横方向エミッタンスを制限するための前記手段(42)は、エミッタンス・スリット又はアパーチャ又はコリメータであることを特徴とする、請求項4又は5に記載のガントリ(15)。
【請求項7】
前記ビームの粒子の運動量幅を制限するための前記手段(43)は、運動量分析スリット又はアパーチャ又はコリメータであることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のガントリ(15)。
【請求項8】
粒子ビーム発生器(40)と、
前記粒子ビームの運動量を減少させるためのエネルギー・デグレーダ(41)と、
請求項1ないし7のいずれかに記載のガントリ(15)と、を備える粒子線治療装置(100)。
【請求項9】
粒子ビーム発生器(40)と、
前記粒子ビームの運動量を減少させるためのエネルギー・デグレーダ(41)と、
前記粒子ビームのエミッタンスを制限するためのコリメータと、
請求項1ないし7のいずれかに記載のガントリ(15)と、を備え、
前記コリメータは、前記エネルギー・デグレーダ(41)と前記ガントリ(15)との間に配置されている、粒子線治療装置(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−508046(P2013−508046A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534662(P2012−534662)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065707
【国際公開番号】WO2011/048088
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(506035566)イオンビーム アプリケーションズ, エス.エー. (5)
【Fターム(参考)】