説明

粒子線治療装置

【課題】多葉コリメータを用いた粒子線治療装置において、多葉コリメータのリーフ開口部形状を容易に精度良く確認することが可能な粒子線治療装置を得る。
【解決手段】粒子線照射方向に対して多葉コリメータ3の上流側に第一照明手段5と第二照明手段6及び撮影手段7を設け、回転角度検出手段10により検出された多葉コリメータ3の回転角度情報をもとに2つの照明手段の入り切りを照明制御手段9により制御することにより、リーフ3aによる照明光の強い乱反射を抑制できる。また、患者コンペンセータ4と多葉コリメータ3の間に患者コンペンセータ遮蔽手段11を設け、多葉コリメータ3の撮影画像に患者コンペンセータ4が写るのを抑制し、照射ノズル100外部からの光の侵入を抑制し、照明手段5、6からの照明光の反射を抑制したので、多葉コリメータ3の鮮明な撮影画像が取得できリーフ開口部形状を容易に精度良く確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の患部等に荷電粒子線を照射して治療する粒子線治療装置に関し、特に積層原体照射法を用いた粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の粒子線治療装置として、標的である患部領域(腫瘍)を深さ方向に複数の層に分割して各層ごとに個別に照射する積層原体照射法が知られている。積層原体照射法では、患部周辺の正常組織への照射を最小限度に抑えるため、各々の分割層について最適なエネルギー分布(照射野及び照射量)で粒子線ビームを照射することが望ましい(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
粒子線治療装置の照射ノズル内には、粒子線ビームの照射野が各分割層位置で、患部形状になるように照射野を絞る多葉コリメータが設置されている。コリメータリーフと呼ばれる金属板を複数枚組み合わせて構成された多葉コリメータは、その中央部に粒子線ビームが通過するリーフ開口部を形成し、各リーフは粒子線照射方向に垂直な平面においてその配置方向に沿って移動でき、リーフ開口部の形状を変化させることができる。また、リーフ全体が一体となって照射方向に平行な軸の周りを回転できる。従って、多葉コリメータのリーフ開口部形状は、各リーフの位置とリーフ全体の回転角度で決まる。
【0004】
このリーフ開口部形状は、治療計画時に、各分割層の形状に対応するようにそれぞれの層について計算され、設定されている。実際の治療において粒子線を照射する際には、多葉コリメータの各リーフは、モータ等の駆動手段によって個々に駆動され、予め設定された位置と回転角度に変位し、所定のリーフ開口部形状を形成する。
【0005】
このような積層原体照射において、各分割層に粒子線を照射する際に、多葉コリメータのリーフ開口部形状が各分割層に対応した形状、すなわち治療計画時に設定された形状通りに設定できたかどうかを確認することは大変重要である。通常、多葉コリメータのリーフ位置は、各リーフの駆動手段に設けられたエンコーダ装置によって管理されているため、仮にエンコーダ装置が故障した場合には、リーフ開口部形状が治療計画時に設定された形状からずれてしまう可能性がある。
【0006】
そのため、照射中にリーフ開口部形状の変更を要しない場合には、照射開始前にリーフ開口部形状を設定した後にリーフ開口部形状を光照射野で患者位置近傍に投影して、計画した形状と比較することが可能であったが、照射中にリーフ開口部形状を変更する必要がある積層原体照射の場合には、このような方法で照射途中でのリーフ開口部形状を比較照合し、確認することが難しくなる。
【0007】
これを改善するために、多葉コリメータのリーフ開口部形状を確認する方法として、多葉コリメータが内蔵された照射ノズル内に、多葉コリメータを撮影するための撮影手段と照明手段、及び撮影された画像を取り込む画像取得手段等を備え、撮影した多葉コリメータのリーフ端部(開口部)の画像を、治療計画時のリーフ輪郭線と重ねて表示することにより、リーフ開口部形状の照合を行っていた。
【0008】
さらに、特許文献1では、各リーフの先端に、照明手段からの照明光を強く反射する反射体を設け、この反射体の位置からリーフ形状を検出する方法が提案されている。また、特許文献2では、移動可能なリーフの所定面に移動方向に沿って刻設されたパターン画像を定点観察して定点画像を取得し、リーフの変位を検出する方法が提示されている。
【非特許文献1】T.Kanai et al.,Medical Physics 33(8),August 2006,page 2989
【特許文献1】特許第2644007号公報
【特許文献2】特開2007−202805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多葉コリメータのリーフは、直接粒子線に晒されること、また各リーフ間の摩擦があることから、通常、耐久性を考慮して鉄やタングステン等の金属で製作される。このため、従来、リーフ開口部形状確認のために行っていた撮影では、リーフの位置と回転角度によっては照明光の強い乱反射が起こり、鮮明な撮影画像が得られないことがあり、リーフ開口部形状の特定及び照合による確認作業が困難となる問題があった。
【0010】
さらに、粒子線の照射方向に対して多葉コリメータの下流側には、粒子線の停止位置を患部領域の形状に合わせる患者コンペンセータが設置されるが、この患者コンペンセータの凹凸面が多葉コリメータの撮影画像の背景として写り、リーフ開口部形状を特定する際の妨げとなっていた。
【0011】
また、特許文献2及び特許文献3で提示された方法、すなわち各リーフに反射体またはパターン画像を設けてリーフ位置を確認する方法では、反射体やパターン画像の材料として粒子線の直接照射に耐えうるものを選択する必要があること、反射体やパターン画像を加工するため製造工程が増えることから、多葉コリメータの製造コストが上昇するという問題がある。さらに、反射体やパターン画像等を施しても、リーフの回転角度によっては強い乱反射が起こる可能性があるため、常に鮮明な画像を得ることは難しいと考えられる。
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、多葉コリメータを用いた粒子線治療装置において、多葉コリメータのリーフ開口部形状を容易に精度良く確認することが可能な粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る粒子線治療装置は、複数のリーフの集合体を含み、その中央部にリーフ開口部が形成され、粒子線の照射軸を中心として各リーフが一体となって回転し、粒子線の照射野を所定形状に絞る多葉コリメータを有する粒子線治療装置であって、粒子線の照射方向に対して多葉コリメータの上流側に設けられた複数の多葉コリメータ照明手段と、粒子線の照射方向に対して多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ撮影手段と、多葉コリメータの回転角度を検出する回転角度検出手段と、回転角度検出手段により取得された多葉コリメータの回転角度情報をもとに複数の多葉コリメータ照明手段を選択的に入り切りする照明制御手段と、多葉コリメータ撮影手段から多葉コリメータの撮影画像を取得する画像取得手段と、画像取得手段により取得された撮影画像から多葉コリメータのリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合する画像照合手段を備えたものである。
【0014】
また、複数のリーフの集合体を含み、その中央部にリーフ開口部が形成され、粒子線の照射軸を中心として各リーフが一体となって回転し、粒子線の照射野を所定形状に絞る多葉コリメータを有する粒子線治療装置であって、粒子線照射方向に対して多葉コリメータの下流側に設けられ、粒子線の停止位置を患部領域の形状に合わせる患者コンペンセータと、粒子線の照射方向に対して多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ照明手段と、粒子線の照射方向に対して多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ撮影手段と、多葉コリメータ撮影手段から多葉コリメータの撮影画像を取得する画像取得手段と、画像取得手段により取得された撮影画像から多葉コリメータのリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合する画像照合手段と、多葉コリメータと患者コンペンセータの間に、患者コンペンセータの多葉コリメータ側の面を覆うように取り付けられた患者コンペンセータ遮蔽手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る粒子線治療装置によれば、多葉コリメータの各リーフ、多葉コリメータ照明手段、多葉コリメータ撮影手段の三者の相対的な位置関係によって生じうる、リーフによる照明光の強い乱反射を抑制することができるため、鮮明な撮影画像を取得することができ、多葉コリメータのリーフ開口部形状を容易に精度良く確認することが可能である。
【0016】
また、患者コンペンセータの多葉コリメータ側の面を覆うように患者コンペンセータ遮蔽手段を取り付けることにより、多葉コリメータの撮影画像に患者コンペンセータが写ることを抑制でき、また、患者コンペンセータを透過した外部からの光がさらに上流側に侵入するのを抑制でき、さらに多葉コリメータ照明手段からの照明光が患者コンペンセータにより反射されるのを抑制できるため、鮮明な撮影画像を取得することができ、多葉コリメータのリーフ開口部形状を容易に精度良く確認することができる。また、多葉コリメータのリーフ開口部形状を精度良く確認できるため、患部以外の正常組織に照射される不要線量を減らすことができ、治療に必要な照射門の数を減らすことができ、照射門ごとに必要である患者コンペンセータの数を減らすことができる。よって、装置に使用する原材料の減量化が可能な粒子線治療装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
以下に、本発明を実施するための最良の形態である実施の形態1について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における粒子線治療装置を示す概略図である。本実施の形態1における粒子線治療装置は、標的である患部領域(腫瘍)21を深さ方向に複数の層に分割して各層ごとに個別に照射する積層原体照射法を用いたものであり、患者20に対して粒子線ビームを照射する照射ノズル100と、患者20が固定される治療台30が対向して配置されている。
【0018】
照射ノズル100内部の構成について説明する。加速器システム等(図示せず)によって発生された粒子線ビーム2は、輸送手段(図示せず)によって輸送され、照射装置1に入射する。照射装置1は、主に、粒子線ビーム2の進行方向に直交する面上における照射範囲のサイズの拡大、ビームエネルギーの調節、ビームエネルギー分布の変調等の機能を備えている。
【0019】
ビームエネルギーの調整方法としては、粒子線発生手段である加速器で直接調整する方法や、粒子線ビーム2の通過領域に板状物体を挿入する方法等がある。また、ビームエネルギー分布の変調方法としては、ビームエネルギーが所定範囲において所定分布を成すように設計されたミニリッジフィルタを用いる方法がある。
【0020】
照射装置1により調整された粒子線ビーム2は、さらに、多葉コリメータ3及び患者コンペンセータ(患者ボーラスとも呼ばれる)4を通過する。多葉コリメータ3は、粒子線ビーム2の照射野を、照射方向からみた場合の患部領域21の各分割層22における形状と略同一になるように絞るものであり、図2に示すように、複数の金属板からなるコリメータリーフ(以下リーフと略す)3aの集合体を含み、その中央部にリーフ開口部3bが形成されている。
【0021】
各リーフ3aは、モータ等の駆動手段(図示せず)によって個々に駆動され変位する。また、回転駆動手段(図示せず)により、粒子線ビーム2の照射軸を中心として各リーフ3aが一体となって回転移動する。このリーフ3aの変位により、各リーフ3aは相互に接近または離反しながらリーフ開口部3bの形状を変化させ、回転移動を併用して粒子線ビーム2の照射野を所定形状に絞る。なお、リーフ開口部3b以外の箇所に放射された粒子線ビーム2は、リーフ3aによって吸収される。そのため、リーフ3aは照射方向に直交する面内で入射する粒子線ビームを覆うために十分な大きさを有すると共に、照射方向の厚さも十分に厚いものである。
【0022】
多葉コリメータ3のリーフ開口部形状(リーフ回転角度位置を含む)は、治療計画時に、患部領域21の各分割層22の形状に対応するように、それぞれの層について計算され設定されている。本実施の形態1では、多葉コリメータ3のリーフ3aの回転角度すなわち回転変位量は、回転角度検出手段10により検出される。回転角度検出手段10は実際、多葉コリメータ制御装置制御手段等から回転角度の設定値を直接受信する機能を有する構成にしてもよい。
【0023】
さらに、患者コンペンセータ4は、粒子線ビーム2の停止位置を患部領域21の奥位置(最も深い部分)の形状に合わせるために設けられ、多葉コリメータ3の側に複雑な凹凸形状が形成された凹凸面4aを有している。患者20の患部領域21は、深さ方向において所定厚みステップで分割された層状領域とされるが、この層状領域の形状は患者コンペンセータ4の形状により決定される。これらの照射装置1、多葉コリメータ3及び患者コンペンセータ4は、粒子線ビーム2を調整して照射するための基本的な構成要素である。
【0024】
次に、多葉コリメータ3のリーフ開口部形状の確認を行うために、多葉コリメータ3を撮影する手段について説明する。なお、多葉コリメータ3の鮮明な撮影画像を得ることにより、リーフ開口部形状を精度良く照合、確認できることは前述の通りである。
【0025】
本実施の形態1における粒子線照射装置は、粒子線ビーム2の照射方向に対して多葉コリメータ3の上流側に、多葉コリメータ照明手段である第一照明手段5と第二照明手段6、及び多葉コリメータ撮影手段7(以下、撮影装置7と略す)が設けられている。第一照明手段5及び第二照明手段6は各々、照射ノズル100外部に設置された照明制御手段9により、その入り切り(ON/OFF)を制御される。
【0026】
照明制御手段9は、多葉コリメータ3の回転角度を検出する回転角度検出手段10から、撮影時の多葉コリメータ3の回転角度情報を取得し、これをもとに多葉コリメータ3のリーフ3aによる照明光の強い乱反射が起こらない照明手段(第一照明手段5または第二照明手段6)を選択し、第一照明手段5及び第二照明手段6の入り切りを制御する。
【0027】
照明制御手段9には、多葉コリメータ3の回転角度に応じて、複数の照明手段(本実施の形態1では第一照明手段5及び第二照明手段6)のうち、「入り」に選択される多葉コリメータ照明手段の情報が備えられている。すなわち、多葉コリメータ3の回転角度に応じて、どの照明手段を「入り」にするかは予め設定されており、制御情報として入力されている。通常、一方の照明手段(例えば第一照明手段5)が「入り」の場合は他方の照明手段(第二照明手段6)は「切り」となるが、両方を「入り」にすることもできる。
【0028】
なお、本実施の形態1では、回転角度検出手段10は、多葉コリメータ3のリーフ3aの回転角度を検出する手段として設置されているが、治療計画時に設定された回転角度の設定値を、例えば後述の画像取得及び照合手段8から直接あるいは照明制御手段9を介して受信できるようにしてもよい。さらに、検出した回転角度と設定値を比較して所定値以上の差異があった場合にはこれを警告音、ランプ点滅等で操作員に知らせるようにすると、多葉コリメータ3を撮影する前に多葉コリメータ3の異常を早急に発見することができる。
【0029】
さらに、照射ノズル100外部には、画像取得及び照合手段8が設けられている。画像取得及び照合手段8は、撮影手段7から多葉コリメータ3の撮影画像を取得する画像取得手段と、この画像取得手段により取得された撮影画像から多葉コリメータ3のリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合する画像照合手段を含むものである。
【0030】
本実施の形態1における画像取得及び照合手段8の画像取得手段は、撮影手段7による多葉コリメータ3の撮影時に、撮影手段7及び照明制御手段9の動作を制御するものである。具体的には、照明制御手段9に照明手段の選択を実施する命令を送信すると共に、撮影手段7に多葉コリメータ3の撮影を実施する命令を送信し、撮影画像を受信する。このように動作制御の機能を併せ持つことにより装置構成を簡素化できる。ただし、画像取得手段は、多葉コリメータ3の撮影画像を取得(受信)できればよく、撮影手段7及び照明制御手段9の動作制御は、それぞれ独立して行ってもよい。
【0031】
また、画像取得及び照合手段8の画像照合手段は、画像取得手段により取得された撮影画像から多葉コリメータ3のリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合するものである。画像照合手段による照合方法には、撮影画像から各リーフ端部の位置を画像処理によって抽出して照合を行う方法や、治療計画時に算出された各リーフの位置を所定の変換により撮影画像に重ねて表示し照合を行う方法等がある。ただし、画像照合手段による照合方法は特に限定されるものではなく、既存のものを用いることができる。
【0032】
なお、画像取得及び照合手段8と照明制御手段9の構成(配置)については、特に限定されるものではない。本実施の形態1では、画像取得手段と画像照合手段は画像取得及び照合手段8として一体的に設けられている。これにより装置構成を簡素化できる。しかし、これらは別々に設けられてもよい。また、照明制御手段9は、画像取得及び照合手段8と一体的に設けられてもよい。これにより装置構成を更に簡素化できる。
【0033】
多葉コリメータ3のリーフ3aによる照明光の強い乱反射は、多葉コリメータ3の各リーフ3a、照明手段(5または6)、撮影手段7の三者の相対的な位置関係によって発生する。しかし、この三者のうち、各リーフ3aの位置は治療計画時に設定されており、変更することはできない。従って、本実施の形態1では、多葉コリメータ3の回転角度を回転角度検出手段10によって検出し、これをもとに第一照明手段5と第二照明手段6のいずれかを選択することにより、三者の相対的な位置関係を変更し、リーフ3aによる照明光の強い乱反射を抑制するものである。
【0034】
なお、本実施の形態1では、第一照明手段5と第二照明手段6を設置し、多葉コリメータ3の回転角度に応じて二つの照明手段のいずれかを選択するようにしたが、照明手段の数は複数、すなわち二つ以上であればよく、また、撮影手段7を二つ設置してもよい。その場合、多葉コリメータ3のリーフ3aの回転角度に応じて二つ以上の照明手段を入り切り制御するとともに、二つの撮影手段のうち、より良好な照明状態が得られる方の撮影手段を選択して撮影する。ただし、照射ノズル100内のスペースが限られること、照明手段や撮影手段の設置数の増加に伴いコスト増加となることから、本実施の形態1による照明手段が二つ、撮影手段が一つという構成が、実施しやすい構成である。
【0035】
また、多葉コリメータ3のリーフ3a、照明手段(5または6)、撮影手段7の三者の相対的な位置関係を変更することが可能な構成として、本実施の形態1のように照明手段を二つ設ける構成の他に、一つの照明手段を移動可能とする、または一つの撮影手段を移動可能とする、という構成がある。一つの照明手段または撮影手段を移動可能とする構成では、本実施の形態1における照明制御手段9は不要であるが、照明手段または撮影手段の移動機構を制御する手段が新たに必要となるため、これを画像取得及び照合手段8に付加してもよい。
【0036】
このように、一つの照明手段または撮影手段を移動可能とする構成においても、本実施の形態1と同様の効果が得られる。しかし、照明手段または撮影手段を移動させるための移動機構とその制御手段が必要となるため、システムが複雑でコスト増加となり、照射ノズル100内という限られたスペースに設置するのは難しい。よって、本実施の形態1による、二つの照明手段を多葉コリメータ3の回転角度に応じて入り切り制御する方法は、構成が簡単でコストも抑えられ、信頼性の高いものであると言える。
【0037】
さらに、本実施の形態1では、多葉コリメータ3と患者コンペンセータ4の間に、患者コンペンセータ4の多葉コリメータ3側の面を覆うように患者コンペンセータ遮蔽手段11が取り付けられている。患者コンペンセータ遮蔽手段11は、以下のような三つの機能を有する。
【0038】
まず、一つ目は、多葉コリメータ3の撮影時に患者コンペンセータ4を覆うことにより、撮影装置7により撮影した多葉コリメータ3の撮影画像に患者コンペンセータ4が写ることを抑制する機能である。これにより、撮影画像のリーフ開口部3bの背景として患者コンペンセータ4が写らないため、リーフ開口形状を特定する際に患者コンペンセータ4の影響を受けない。
【0039】
図3(a)は、患者コンペンセータ4の凹凸面4aを多葉コリメータ3側に向けて配置し、多葉コリメータ3との間に患者コンペンセータ遮蔽手段11を設けた例を示す断面図であり、図3(b)は、図3(a)の状態で多葉コリメータ3の撮影を行った場合に得られる撮影画像を示している。この例では、リーフ開口部3bの背景として患者コンペンセータ遮蔽手段11が写っているため、撮影画像からリーフ開口形状を特定する際に、患者コンペンセータ4の凹凸面4aの影響を受けることがなく、リーフ開口部3bの輪郭を容易に特定できる。
【0040】
また、図4(a)は、患者コンペンセータ4の凹凸面4aと反対側の面を多葉コリメータ3側に向けて配置し、多葉コリメータ3との間に患者コンペンセータ遮蔽手段11を設けた例を示す断面図であり、図4(b)は、図4(a)の状態で多葉コリメータ3の撮影を行った場合に得られる撮影画像を示している。この例でも、図3の例と同様に、リーフ開口部3bの背景として患者コンペンセータ遮蔽手段11が写っているため、撮影画像からリーフ開口形状を特定する際に、リーフ開口部3bの輪郭を容易に特定できる。
【0041】
なお、図5(a)に示すように、患者コンペンセータ4と多葉コリメータ3の間に患者コンペンセータ遮蔽手段11を設けていない場合(参考例)、多葉コリメータ3の撮影を行った場合に得られる撮影画像には、図5(b)に示すように、リーフ開口部3bの背景として患者コンペンセータ4の凹凸面4aが写るため、撮影画像からリーフ開口形状を特定する際に、患者コンペンセータ4の凹凸面4aの影響を受け、リーフ開口部3bの輪郭の特定が難しくなる。
【0042】
また、コンペンセータ遮蔽手段11の二つ目の機能は、患者コンペンセータ4の下流側から患者コンペンセータ4を透過して照射ノズル100内に侵入した外部(治療室)からの光が、さらに上流側に侵入するのを抑制する機能である。患者コンペンセータ4は、構成元素が水に近いアクリル(PMMA)や、ポリエチレン(PE)、リューサイト(Lucite)等の光を透過しやすい材料から構成されており、外部からの光は容易に照射ノズル100内に侵入する。
【0043】
このため、患者コンペンセータ4の多葉コリメータ3側の面にコンペンセータ遮蔽手段11が取り付けられ、外部からの光の侵入を抑制することにより、多葉コリメータ3の撮影画像におけるリーフ開口部3bは常に暗い状態となり(図3参照)、撮影画像からリーフ開口部3bの輪郭を容易に特定できるようになる。
【0044】
さらに、コンペンセータ遮蔽手段11の三つ目の機能として、患者コンペンセータ遮蔽手段11の多葉コリメータ3側の面11aは、照明手段5、6からの照明光が反射するのを抑制する機能を有するものである。これにより、鮮明な撮影画像が得られ、さらにリーフ開口部3bの輪郭の特定が容易になる。
【0045】
以上のことから、患者コンペンセータ遮蔽手段11を構成する材料は、外部からの光の侵入を防ぎ、且つ、多葉コリメータ3側の面11aは光を反射しにくい(吸収する)材料であることが望ましい。また、粒子線ビーム2が患者コンペンセータ遮蔽手段11を通過する際のエネルギー損失が小さい材料であることも必要である。具体的には、薄い板状またはシート状に形成された黒色のプラスチック等が用いられる。さらに、これらの機能を備えるために、板状の基材の表面に薄膜を形成したり、異なる性質を有するシートを貼り合わせたりした積層構造としてもよい。
【0046】
また、患者コンペンセータ遮蔽手段11は、患者コンペンセータ4に対してテープ等の固定手段で直接取り付けてもよいし、患者コンペンセータ4が照射ノズル100に脱着可能な取り付け台またはフレームに格納されている場合には、患者コンペンセータ遮蔽手段11をこの取り付け台またはフレームに固定してもよい。
【0047】
このように、患者コンペンセータ遮蔽手段11は、患者コンペンセータ4に対して取り付けられるので、粒子線照射装置に患者コンペンセータ4を取り付ける前に行われる光照射野確認過程(最初の標的である分割層22に対応した多葉コリメータ3による照射野形状とサイズの確認)の際には、照射ノズル100内に配置されておらず、光照射野確認の妨げにならない。また、患者コンペンセータ遮蔽手段11は常に患者コンペンセータ4と一緒に取り外されるため、照射ノズル100内に置き忘れられることがなく、取り扱いが簡単である。
【0048】
次に、本実施の形態1における粒子線治療装置による粒子線照射の手順(動作)について説明する。患者20に対して粒子線の照射を行う際には、事前に、CT等の画像診断装置や治療計画画像入力装置等から構成される治療計画装置において、患部領域(腫瘍)21の3次元形状が特定される。特定された患部領域21の3次元形状とその患者20体内における位置情報、及び患者CT画像情報から、照射の際に用いる患者コンペンセータ4の形状が算出される。
【0049】
次に、患部領域21の3次元形状を、深さ方向において、患者コンペンセータ4の3次元形状に従って、例えば幅が数ミリメートル(mm)の層状領域に分割する。さらに、この層状領域の各々の分割層22に対応した粒子線ビームエネルギーと多葉コリメータ3のリーフ開口部形状、及び各層に照射すべき粒子数を算出し、照射制御データとして照射制御装置(図示せず)に格納する。以上の作業が照射前に行なわれる。
【0050】
照射を開始する際には、患者コンペンセータ4が照射ノズル100の先端部分に取り付けられる。なお、患者コンペンセータ4による粒子線ビーム2の散乱を小さくするために、患者コンペンセータ4は、その凹凸面4aが多葉コリメータ3側を向くように取り付けられる。また、患者コンペンセータ4の凹凸面4aを覆うように、患者コンペンセータ遮蔽手段11が取り付けられる。
【0051】
次に、照射制御装置に格納された照射制御データをもとに、照射装置1に入射される粒子線ビーム2に対して、層状領域の各分割層22に対応したビームエネルギー、エネルギー幅及び分布となるように設定が行われる。さらに、多葉コリメータ3のリーフ開口形状を決定する回転角度が、治療計画時に算出された値に設定される。
【0052】
次に、画像取得及び照合手段8から送信された命令により、照明制御手段9は、回転角度検出手段10から取得した多葉コリメータ3の回転角度をもとに、第一照明手段5と第二照明手段6のいずれを点灯させ、多葉コリメータ3の各リーフ3aが照明され、続いて撮影手段7が多葉コリメータ3を撮影し、この撮影画像は画像取得及び照合手段8に送信される。
【0053】
画像取得及び照合手段8に取得された撮影画像は、各リーフ3a端部の位置が特定され、治療計画時に算出されたリーフ開口部形状と照合される。両者が予め設定された誤差範囲以内で一致した場合には照射許可信号が出力され、一致しない場合には照射停止信号が出力される。
【0054】
これら一連の設定及び照合作業が完了すると、待機状態となっていた粒子線ビーム2が照射装置1に供給され、層状領域の特定の分割層22に、計画された所定の線量(粒子数)が所定の分布で照射される。他の分割層についてもこの動作を同様に繰り返し、最終的に、患部領域21全体に対して、計画された線量と分布の粒子線ビーム2が照射される。
【0055】
以上のように、本実施の形態1によれば、粒子線照射方向に対して多葉コリメータ3の上流側に、多葉コリメータ照明手段である第一照明手段5と第二照明手段6を設け、これらの入り切りを照明制御手段9により制御できるようにし、さらに多葉コリメータ3の回転角度を回転角度検出手段10により検出し、多葉コリメータ3の回転角度情報をもとに2つの照明手段5、6のいずれかを選択するようにしたので、各リーフ3a、照明手段(5または6)、撮影手段7の三者の相対的な位置関係によって生じるリーフ3aによる照明光の強い乱反射を抑制することができ、多葉コリメータ3の回転角度に依存することなく、常に鮮明な撮影画像を取得することができる。
【0056】
また、患者コンペンセータ4と多葉コリメータ3の間に、患者コンペンセータ4の多葉コリメータ3側の面を覆うように患者コンペンセータ遮蔽手段11を取り付けることにより、多葉コリメータ3の撮影画像に患者コンペンセータ4が写ることを抑制でき、また、患者コンペンセータ4を透過した外部からの光がさらに上流側に侵入するのを抑制でき、さらに照明手段5、6からの照明光が反射するのを抑制できるため、さらに鮮明な撮影画像を取得することができる。
【0057】
従って、本実施の形態1において得られた多葉コリメータ3の撮影画像を画像照合手段である自動解析装置によって解析し、各リーフ3aの位置を特定する際には、高い精度で特定することができる。また、粒子線照射を実施するオペレータによってリーフ開口部3bの位置を照合する際にも、撮影画像を治療計画時のリーフ輪郭線と重ねて表示する作業が容易となり、高い精度で照合することができる。このように、本実施の形態1によれば、多葉コリメータ3のリーフ開口部形状を容易に精度良く確認することができるため、リーフ開口部形状を治療計画時に設定された形状通りに精度良く設定することができ、高精度の粒子線治療を行うことが可能である。
【0058】
さらに、本実施の形態1によれば、多葉コリメータ3のリーフ開口部形状を精度良く確認できるため、患部以外の正常組織に照射される不要線量を減らすことができ、治療に必要な照射門の数(照射方向の数)を減らすことができ、照射門ごとに必要である患者コンペンセータの数を減らすことができる。よって、装置に使用する原材料の減量化が可能な粒子線治療装置を提供することができる。
【0059】
なお、本実施の形態1では、積層原体照射法を用いた粒子線治療を例に挙げて説明したが、本発明は、X線または粒子線を用いた一般の照射装置にも適用することができる。特に、遠隔で高精度に多葉コリメータ3の形状を確認する必要がある放射線照射を実施する場合に、本発明は有効である。具体的には、所定の粒子線治療施設において粒子線治療の治療計画を行い、実際の粒子線照射は別の粒子線治療施設で行う場合等に、本発明による高精度の多葉コリメータ3の形状確認手段は、効果を発揮するものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、積層原体照射法を用いた粒子線治療装置の他、X線または粒子線を用いた一般の照射装置にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態1に係る粒子線治療装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1における多葉コリメータを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における患者コンペンセータ遮蔽手段の機能を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1における患者コンペンセータ遮蔽手段の機能を説明する図である。
【図5】参考例として患者コンペンセータ遮蔽手段を用いない場合の多葉コリメータ装置の撮影画像を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 粒子線照射装置、2 粒子線ビーム、3 多葉コリメータ、3a リーフ、
3b リーフ開口部、4 患者コンペンセータ、4a 凹凸面、5 第一照明手段、
6 第二照明手段、7 多葉コリメータ撮影手段、8 画像取得及び照合手段、
9 照明制御手段、10 回転角度検出手段、11 患者コンペンセータ遮蔽手段、
20 患者、21 患部領域(腫瘍)、22 分割層、30 治療台、
100 照射ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリーフの集合体を含み、その中央部にリーフ開口部が形成され、粒子線の照射軸を中心として前記各リーフが一体となって回転し、粒子線の照射野を所定形状に絞る多葉コリメータを有する粒子線治療装置であって、
粒子線の照射方向に対して前記多葉コリメータの上流側に設けられた複数の多葉コリメータ照明手段と、
粒子線の照射方向に対して前記多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ撮影手段と、
前記多葉コリメータの回転角度を検出する回転角度検出手段と、
前記回転角度検出手段により取得された前記多葉コリメータの回転角度情報をもとに前記複数の多葉コリメータ照明手段を選択的に入り切りする照明制御手段と、
前記多葉コリメータ撮影手段から前記多葉コリメータの撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段により取得された前記撮影画像から前記多葉コリメータのリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合する画像照合手段を備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記照明制御手段には、前記多葉コリメータの回転角度に応じて、前記複数の多葉コリメータ照明手段のうち「入り」に選択される多葉コリメータ照明手段の情報が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記画像取得手段は、前記多葉コリメータ撮影手段及び前記照明制御手段の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記画像取得手段及び前記画像照合手段は、一体的に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記照明制御手段は、前記画像取得手段及び前記画像照合手段と一体的に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
粒子線照射方向に対して前記多葉コリメータの下流側に設けられ、粒子線の停止位置を患部領域の形状に合わせる患者コンペンセータを備え、前記多葉コリメータと前記患者コンペンセータの間に、前記患者コンペンセータの前記多葉コリメータ側の面を覆うように患者コンペンセータ遮蔽手段を取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
複数のリーフの集合体を含み、その中央部にリーフ開口部が形成され、粒子線の照射軸を中心として前記各リーフが一体となって回転し、粒子線の照射野を所定形状に絞る多葉コリメータを有する粒子線治療装置であって、
粒子線照射方向に対して前記多葉コリメータの下流側に設けられ、粒子線の停止位置を患部領域の形状に合わせる患者コンペンセータと、
粒子線の照射方向に対して前記多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ照明手段と、
粒子線の照射方向に対して前記多葉コリメータの上流側に設けられた多葉コリメータ撮影手段と、
前記多葉コリメータ撮影手段から前記多葉コリメータの撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段により取得された前記撮影画像から前記多葉コリメータのリーフ開口部形状を特定し、治療計画時に設定されたリーフ開口部形状と比較し照合する画像照合手段と、
前記多葉コリメータと前記患者コンペンセータの間に、前記患者コンペンセータの前記多葉コリメータ側の面を覆うように取り付けられた患者コンペンセータ遮蔽手段を備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項8】
前記患者コンペンセータ遮蔽手段は、粒子線が前記患者コンペンセータ遮蔽手段を通過する際のエネルギー損失が小さい材料からなることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−68908(P2010−68908A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237791(P2008−237791)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】