説明

粒子線照射システム

【課題】粒子線照射装置を回転ガントリー構造にしないで粒子線を患部に多方向照射でき、位置精度よく粒子線を照射できる粒子線照射システムを提供する。
【解決手段】一方向から粒子線を照射する粒子線照射装置1、患部3aの位置確認をするCTスキャナー2、CTスキャナー2の検出範囲2aから粒子線照射装置1の照射範囲まで患者3を移動させる駆動部5、患者3を固定し、駆動部5に患者3の頭尾方向を軸yとして回転可能に装着される患者固定装置4、駆動部5とCTスキャナー2を収納し、粒子線照射装置1の照射方向xと駆動部5の移動方向を含む平面に直交する軸zで回転可能な収納ユニット6を備えた粒子線照射システムA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子線や重イオン線などの粒子線を患者の患部に正確に照射する粒子線照射システムに関する。より詳細には、本発明は、粒子線照射装置が回転ガントリー構造を持たず、一方向からの粒子線照射とすることで、システム全体の大きさや費用の軽減を図り、併せて粒子線照射装置の精度管理を容易にする粒子線照射システムに関する。同時に、本発明の粒子線照射システムは、治療室内にCTスキャナーを設置し、患者の患部の位置確認を正確に行い、CTスキャナーから粒子線照射範囲まで患者を移動させる駆動部と、この駆動部とCTスキャナーとを一体化して収納するユニット構造を持つ。そして、治療に際しては、患者を駆動部に固定する固定装置を用いるのだが、この固定装置が患者を固定した状態で、患者の頭尾方向を軸として回転可能である。従って、本発明は、患者の体位を様々な角度に設定してCTスキャナーで患者の患部を検出することが可能であり、その患者体位のままで駆動部が移動することにより、患者の患部を粒子線照射位置に正確に移動させることができる粒子線照射システムに関する。更に、本発明の粒子線照射システムは、CTスキャナーと駆動部とを一体化して収納するユニット構造が患者の体位が一定のまま、粒子線の照射方向及び駆動部の運動方向の両者を含む平面に直交する軸で回転する。従って、本発明は、粒子線が照射される一方向に対して、患者の患部を三次元空間の多方向から正確に照準させることができる粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、癌などの治療方法としては、患部に陽子線、重イオン線などの粒子線(イオンビーム)を照射する方法が知られている。このような粒子線治療は、粒子線の特異的な線量分布によって、従来の放射線治療に比べて、正常組織への線量付与を少なくできるとされているが、正常組織への余分な線量付与を更に減らすために、人体に対して適当な角度から照射(多門照射)が行われるように回転ガントリー構造が採用されている。例えば特許文献1には、イオン源、前段加速器及びシンクロトロンを有する荷電粒子ビーム発生装置及び回転ガントリーを備える医療用粒子線照射装置が記載されており、特許文献2には、陽子線や重イオン線などの荷電粒子線を患者の患部に照射して治療する放射線治療装置において、患者を載置する治療台の天板の一部に切り欠いた部分を配設し、下方からビームを照射したときに、粒子線が天板を通過せずに直接人体に照射されるように構成したことを特徴とする粒子線治療装置が記載され、更に、下方からビームを照射する手段が回転ガントリーであることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−218315号公報
【特許文献2】特開2003−190304号公報
【0003】
また、特許文献3には、陽子線などの粒子線を発生する粒子線発生手段を有し、発生した粒子線に磁界を与え、円形に回転させて加速した粒子ビームを出射する粒子線円形加速手段、粒子ビームを被照射体が配置された照射室に輸送するビーム輸送手段、粒子ビームを任意の形状に形成して被照射体に照射する照射野形成手段、上記粒子線円形加速手段、ビーム輸送手段及び照射野形成手段を一体で回転させる回転手段を備え、上記粒子線円形加速手段の加速軌道面は、上記回転手段の回転軸と直角になるように取り付けられ、粒子ビームを照射する被照射体は、上記回転手段の回転軸上に配置されることを特徴とする粒子線照射装置が記載されている。そして、従来の回転式粒子線照射装置として、陽子などの粒子線を発生し、高エネルギーに加速する粒子線円形加速手段のサイクロトロン、高速粒子の集まりである粒子ビームを集束し任意の形状にするための四極電磁石、粒子ビームを偏向する偏向電磁石、粒子ビームの輸送方向を変える方向切換電磁石、粒子ビームをがん患者である標的に照射する回転式粒子線照射台が記載されており、回転式照射台は、回転の中心に治療台が配置され、治療台上に配置された被照射体に直角方向に粒子ビームが照射されるように一対の回転枠の間に粒子ビームを直角方向に偏向し案内するビーム輸送手段と、被照射体に合わせて照射野を形成する照射野形成装置を配置し、回転体としての重量バランスをとるためにカウンターウエイトが取り付けられており、回転枠は回転自在にローラで受けられ、回転駆動装置で回転させながら照射できるように構成されていることが記載されている。
【特許文献3】特開平9−192244号公報
【0004】
しかしながら、陽子線や重イオン線を照射する装置を回転ガントリー構造に作り上げるのは、当然ながらX線を照射する装置の場合よりも技術的に大変であり、スペースも大きくなり、精度管理が大変になり、しかも巨額の費用がかかってしまう。その一方で、陽子線や重イオン線であっても一方向からの照射では不十分であり、良い治療結果を得るためには、任意の角度から粒子線を照射でき、多方向(多門)照射を可能とすることが望ましい。また、粒子線を照射する際には、患部の位置に粒子線が正確に照射されるようにする必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、粒子線照射装置を回転ガントリー構造にすることなく、粒子線照射システムにおける多門照射を可能とし、システム自体の構造をシンプルにすることができることから、システム全体のスペースを小さくすることが可能となり、機械の精度管理も容易とすることが可能で、コストダウンも可能であり、且つ位置精度よく多方向から患部に粒子線を照射することが可能な粒子線照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、粒子線照射装置を、回転ガントリー構造を用いないで、粒子線を固定して一方向から照射する構成とし、粒子線を照射する際には、人間がまわれば回転ガントリー構造を用いたと同じように多方向をつくることを想到するに至った。即ち、本発明者は、例えば、図2に模式的に示すように、粒子線照射装置1の照射方向を固定して粒子線1aが一方向、好ましくは人間(患者)3の斜め上方向から照射されるようにして、患者3を回転させ、更に、例えば、図3の(a)〜(c)に模式的に示すように、患者(図3では省略)を固定する患者固定装置4を、床面Gに対して傾斜可能な構成とすることによって、一方向から照射される粒子線1aの患者固定装置4に載った患者(図3では省略)の患部3aに対する照射角度を変化させることができ、多方向をつくって治療をすることが可能となることを見出し、更に、鋭意検討した結果、例えば図3に示すように、CTスキャナー2と患者固定装置4とが床面(地面)Gに対して同じ角度で傾斜するようにして、例えば図3の(b)のように、患者固定装置4が床面(地面)Gに対して斜めになった状態においても患者固定装置4をそのままの傾斜角度でCTスキャナー2の検出範囲2a内に挿通可能な構成とし、斜めになった状態でのCTスキャンが可能な構成にするというように、患者を固定する患者固定装置を様々な方向に回転、移動させることによって、多方向から患部に粒子線を照射し、更に、患者固定装置が粒子線照射装置とCTスキャナーとの間を移動可能な構成として、回転、移動した患者の患部の位置確認を行うことも可能な構成とすることによって、上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、ガントリー構造を持たず、一方向から陽子線、重イオン線などの粒子線を患者の患部に照射する粒子線照射装置と、該粒子線照射装置の粒子線照射部と同室に設置され、上記患者の患部を位置確認するCTスキャナーと、該CTスキャナーの検出範囲から上記粒子線照射装置の照射範囲まで上記患者を移動させる駆動部と、上記患者を固定し、上記駆動部に上記患者の頭尾方向を軸とした回転運動可能に装着される患者固定装置と、該患者固定装置を装着した上記駆動部と上記CTスキャナーとを収納する構造を有し、上記粒子線照射装置の照射方向と上記駆動部の移動方向を含む平面に対して直交する軸で回転可能な収納ユニットとを備えたことを特徴とする粒子線照射システムを提供する。ここで、「CTスキャナーの検出範囲」とは、CTスキャナーのいわゆるガントリーの中央部分(範囲、領域)であり、「粒子線照射装置の照射範囲」とは、治療室内で粒子線が通過する部分(範囲、領域)である。
【0008】
本発明の粒子線照射システムは、ガントリー構造を持たず、一方向から陽子線、重イオン線などの粒子線を患者の患部に照射する粒子線照射装置と、該粒子線照射装置の粒子線照射部と同室に設置され、患者の患部を位置確認するCTスキャナーと、該CTスキャナーの検出範囲から粒子線照射装置の照射範囲まで患者を移動させる駆動部と、患者を固定し、駆動部に患者の頭尾方向を軸とした回転運動可能に装着される患者固定装置と、該患者固定装置を装着した駆動部とCTスキャナーとを収納する構造を有し、粒子線照射装置の照射方向と駆動部の移動方向を含む平面に対して直交する軸で回転可能な収納ユニットとを備えているので、患者固定装置の回転運動と駆動部の移動運動と収納ユニットの回転運動とを組み合わせることで、様々な方向からCTスキャナーで患者の患部を正確に位置確認し、患部に対して様々な方向から粒子線照射が可能となる。なお、本発明において、CTスキャナーは、粒子線照射装置の少なくとも粒子線照射部と同室に配設されたものであり、粒子線照射装置全体がCTスキャナーと同室に配設されていても良いのは勿論である。
【0009】
ここで、本発明の粒子線照射システムにおいて、粒子線照射装置が、粒子線を斜め上方向から患部に照射するように構成されたものであると、粒子線を患部に多方向から照射されるように患者固定装置を回転(傾斜)させる際に、患者をより負担が少なくなるような体勢(体位)にすることが可能となる。
【0010】
本発明の粒子線照射システムにおいて、粒子線照射装置の粒子線の照射方向と、収納ユニットの回転の軸方向と、患者固定装置の回転の軸方向とが、照射時の患者の患部において交差するように構成したものであると、患者固定装置を回転させても粒子線を正確に患部に照射することが容易となり、CTスキャナーによって位置確認する場合も、患者固定装置の粒子線照射装置とCTスキャナーとの間の移動が容易となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子線照射装置を多方向照射するための回転ガントリー構造にしなくても、粒子線照射システムにおける多方向からの照射を可能とし、システム自体の構造をシンプルにすることができることから、システム全体のスペースを小さくすることが可能となり、機械の精度管理も容易とすることが可能で、コストダウンも可能な粒子線照射システムにより治療を行うことが可能となる。更に、本発明によれば、粒子線照射の位置管理も精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき図面を参照にして更に詳しく説明する。図1は、本発明の粒子線照射システムの一構成例を説明するために各装置を模式的に示した粒子線照射システムAの概略側面図である。粒子線照射システムAは、治療室Rに、粒子線照射装置1、CTスキャナー2、患者3を固定する患者固定装置4、患者固定装置4を粒子線照射装置1の照射範囲とCTスキャナー2の検出範囲2aとの間で移動させる駆動部5、CTスキャナー2と患者固定装置4を取り付けた駆動部5を収納する収納ユニット6を備えている。なお、図1では、システムAの構成を説明し易くするために、収納ユニット6の両側壁(図1では、図面上、前後の壁)を省略して示した。
【0013】
粒子線照射装置1としては、陽子線、重イオン線などの粒子線1aを一方向から照射するタイプのものであれば、公知の粒子線照射装置を使用することができ、このような装置としては、例えば、上記特許文献1に記載されたイオン源、前段加速器及びシンクロトロンを有する荷電粒子ビーム発生装置、上記特許文献3に記載された粒子線円形加速手段、ビーム輸送手段及び照射野形成手段を備えた粒子線照射装置などを挙げることができる。粒子線照射装置1は、患者固定装置4に固定されている患者3の患部3aに一方向から粒子線1aを照射するように設定されている。この粒子線1aの照射方向xは、例えば、図1のように患者が立位のときには、粒子線1aが患者固定装置4に載った患者3の患部3aの上方斜め方向から患部3aに照射されるように設定することが好ましく、その水平面Hに対する照射角度αはより好ましくは水平面Hに対して45°前後、より好ましくは45°±30°の範囲であると、より好適である。なお、粒子線照射装置1の大きさ、タイプなどによっては、粒子線照射装置1の全体を治療室Rに置かず、少なくとも粒子線照射部1bが治療室Rに配設された状態としても良い。
【0014】
CTスキャナー2としては、公知の装置を使用することができる。CTスキャナー2は、後述するように、収納ユニット6に、図1に示すように患者が立位のときには、収納ユニット6の一端に、その検出範囲2a内に駆動部5に装着された患者固定装置4に載った患者3が駆動部5によって挿通されるように配置され、駆動部5、その駆動装置Mと共に、収納ユニット6の回転により、床面(地面)Gに対して水平な位置から垂直な位置まで自由な角度に設定することが可能となっている。
【0015】
患者固定装置4は、患者3の体位を保持した状態で、駆動部5に配置される。患者固定装置4は、駆動部5に着脱可能に取り付けられたものであっても、固着されたものであってもよい。また、患者固定装置4は、患者3の頭尾方向yを軸とした回転運動が可能で、自由な角度を設置することができるように駆動部5に装着される。更に、この構成例では、患者固定装置4は、患者3の患部3aを粒子線1aの照射位置に正確に照合させるために、駆動部5に対して患者3の左右方向と腹背方向への位置調整可能な位置調整機能を備えている。なお、患者3の頭尾方向への位置調整は、駆動部5の動きで調整可能であるので、患者固定装置4は必ずしもこの方向の位置調整機能を持つ必要はない。
【0016】
患者固定装置4は、患者3の体位を保持した状態で患者3を固定し、例えば、台部4a、4aと固定板部4bとを備え、上述したように、駆動部5と共に患者固定装置4に載った患者3の頭尾方向yに沿って移動可能であり、且つ駆動部5とは別に患者固定装置4に載った患者3の頭尾方向yを軸として回転可能となるように、駆動部5に取り付けた構成としたものなどを挙げることができる。患者固定装置4を回転可能とする手段は、特に制限されるものではなく、例えば、駆動部5の患者の固定位置に相当する部分に、いろいろな身長の人に対応可能となるような幅、例えば2m前後の幅(図1では、上下方向の長さ)で離間するように、支持台5a、5aを固着し、例えば、通常の回転イスのように、それぞれ支柱5b、5bによって患者固定装置4の台部4a、4aを支柱5b、5bを軸として回転可能となるように支持台5a、5aに取り付けると共に、回転した位置を固定できるように図示しないストッパー部材を備えたり、患者固定装置4の足側の台部4aを駆動装置(図示せず)によってターンテーブルのように回転させ、回転した位置を固定可能とする手段などが挙げなられる。なお、患者固定装置4の回転運動は、駆動装置などを用いてもよく、手動であってもよい。また、患者固定装置4の台部4a、支持台5a、支柱5bは、患者3の足元側(図1では患者の下方)のみとすることもできる。患者固定装置4は、実際の使用時には、360°の回転運動でなはなく、いわゆる振り子運動でもよく、その振幅は、良好な線量分布を得るのに適切な振幅を適宜選定することができる。また、患者固定装置4の材質は、特に制限されるものではないが、放射線透過性材料などが好適に使用され、このような材料としては、例えば、繊維強化プラスチックなどが挙げられる。患者3は、図示しないバンドなどの固定具などによって、患者固定装置4に固定することができる。
【0017】
そして、上述したように、患者固定装置4は、患者3の患部3aを粒子線1aの照射位置に正確に照合させるために、駆動部5に対して患者3の左右方向と腹背方向への位置調整可能な位置調整機能を備えていることが望ましく、例えば、支持台5aを位置調整可能な範囲に対応する孔部(図示せず)を備えた構成とし、その孔部の所望の位置に支柱5bを挿通させ、適宜手段によって支持台5aの所望の位置に支柱5bを取り付けるなどの手段により、患者3の左右方向と腹背方向の位置調整ができるようにすると、より好適である。また、患者固定装置4の頭尾方向yを軸とする回転は、軸中心が患部3aを通ることが望ましいことから、人体の厚みなどを考慮すると、腫瘍の種々の発生部位に対応するためには、患者固定装置4の固定板部4bが回転軸(上記の場合、支柱5b)に対して位置調整可能であることが望ましく、例えば固定板部4bを台部4aにスライド可能に取り付け、頭尾方向yを軸とする回転の軸中心(上記の場合、支柱5bの軸中心)が固定板部4bに固定された患者3の患部3aを通るように位置調整できるようにしたり、台部4aを位置調整可能な範囲に対応する孔部(図示せず)を備えた構成とし、その孔部の固定板部4bに固定された患者3の患部3aに相当する位置に患者固定装置4の回転軸となる支柱5bを挿通させて、台部4aが支柱5bを軸中心として回転可能となるように取り付けるなどすると、より好適である。
【0018】
駆動部5は、患者固定装置4に載った患者3を、少なくとも粒子線照射装置1の照射範囲とCTスキャナー2の検出範囲2aとの間で移動させるものであり、本構成例では、駆動部5は、先端側(図1では、図面上、上側)が収納ユニット6の後述する収納部6cの空間内に位置し、後端側(図1では、図面上、下側)が後述するように収納ユニット6のCT収納部6bに収納されたCTスキャナー2の検出領域(範囲)2a内を通るように収納ユニット6に収納され、CTスキャナー2と一体化して床面(地面)Gに対して垂直な角度から水平な角度まで調節できるようになっている。なお、駆動部5を収納ユニット6に取り付ける手段は特に制限されず、例えば、収納ユニット6の収納部6cに固定、設置された駆動装置Mと連結されることによって、収納ユニット6に取り付けるなどの手段を挙げることができる。そして、駆動部5には、上述したように、患者固定装置4が患者3の頭尾方向yを軸として回転可能に取り付けられ、これによって、患者固定装置4は、CTスキャナー2、駆動部5と一体となって収納ユニット6の回転軸方向zを軸とした回転、傾斜をして、振り子運動するようになっている。
【0019】
駆動部5の駆動手段は、患者固定装置4に固定された患者3をスムーズに移動させることができる手段であればよく、例えば、患者固定装置4を配置可能な板状の平面構造を備え、収納ユニット6の収納部6cに収納されたモータなどの駆動装置Mによって、図示しないギアなどを利用して、患者3の患部3aをCTスキャナー2の撮影位置(検出範囲2a)から粒子線1aの照射位置(照射範囲)に正確に移動させる構造などが挙げられる。また、逆の移動も正確に行える構造となっていることが望ましい。ここで、駆動部5の患者固定装置4の取り付け位置5c(平面構造部分)は、CTスキャナー2の撮影の妨げにならない素材によって構成されており、このような素材としては、例えば、繊維強化プラスチック、カーボンファイバーなどが好適である。更に、患部3aの位置は、頭部の場合も下肢の場合も予想されるので、駆動部5の駆動範囲は、好ましくは1〜10m、より好ましくは2〜5m程度の移動に対応できることが望ましい。
【0020】
収納ユニット6は、少なくとも患者固定装置4を装着した駆動部5とCTスキャナー2とを収納する構造を有するものである。本構成例の収納ユニット6は、図1に示すように、患者3が立位の状態の時には、その一端側(図1では、下端側)に、CTスキャナー2の開口部2b、2bに合わせた収納ユニット6の開口部6a、6aが両面(図1では上下面)にそれぞれ開設され、CTスキャナー2を中で移動しないように収納するCT収納部6bを備えている。そして、他端側(図1では、上端側)には、駆動部5を患者固定装置4に載った患者3の頭尾方向に沿って移動させるためモータなどの駆動装置M及びこの駆動装置Mと合わせてCTスキャナー2と同程度の重さにするためのバランス(図示せず)を収納し、患者が挿入可能な空間を有する収納部6cを備えている。更に、粒子線照射時に粒子線1aが患者固定装置4に載った患者3の患部3aに照射可能となるように、粒子線照射装置1側のCT収納部6bと収納部6cとの間に照射開口部6dを有し、粒子線照射時にはCT収納部6bと収納部6cとの間に駆動部5に取り付けられた患者固定装置4が収納されるように構成されている。なお、本発明において、収納ユニットは、少なくとも患者固定装置4を装着した駆動部5とCTスキャナー2とを収納する構造を有するものであればよく、例えば、CT収納部6bによってCTスキャナー2を収納する手段に替えて、例えばCTスキャナー2の壁面(図1では、図面上、右側の壁)を収納ユニット6の後壁(照射開口部6dの対向面側の壁)6fに固着して、CTスキャナー2を収納ユニット6内に直接収納することもできる。
【0021】
収納ユニット6は、粒子線1aの照射方向xと駆動部5の移動方向wを含む平面(図1では、図面の表面そのもの)に対して直交する方向を回転軸方向zとして回転可能に構成されている。なお、本構成例のように粒子線1aが患部3aの上方斜め方向から患部3aに照射されるように設定した場合、回転軸方向zは、粒子線1aの照射方向xに対して直交する水平方向(図1では、図面の裏表方向)と換言することもできる。そして、回転軸方向zは、粒子線照射時の患者固定装置4に載った患者3の患部3aを通るように設定されており、粒子線照射時の患者固定装置4に載った患者3の患部3aにおいて粒子線1aの照射方向xと交差し、更に、後述するように、患者固定装置4に載った患者3の頭尾方向yの回転軸の中心が患部3aと通るように、患者3の位置調整をすることによって、粒子線1aの照射方向x、患者固定装置4の回転の軸方向(患者3の頭尾方向)y、収納ユニット6の回転の軸方向zが、照射時の患者3の患部3aにおいて交差する。
【0022】
収納ユニット6をこのように回転可能な構成とする手段は、特に制限されるものではないが、例えば、図4に示すように、収納ユニット6の両側壁6e、6eを回転軸部材7、7によって照射室(治療室)Rの両側壁8、8に回転可能に支持し、床面(又は地面)Gに対して傾斜可能(回転可能)となるように、収納ユニット6を宙に浮いた状態で支持し、回転軸部材7、7の軸中心を上述した回転軸方向zと一致させる手段などを挙げることができる。収納ユニット6を床面(又は地面)Gに対して傾斜するようにする回転又は振り子運動させる回転機構としては、その種類が特に制限されるものではなく、公知の手段を適宜選定することができ、例えば、図示しないギヤなどの回転用部材とモータなどの駆動装置との組み合わせなどを挙げることができる。ここで、本構成例における各回転機構、各移動機構は、コンピューターなどにより制御可能となっていると共に、手動による調整も可能となっていると、より好適である。なお、この収納ユニット6は、CTスキャナー2などを収納し、回転することに耐え得るような強固な材質であれば、その材質が特に制限されるものではない。また、回転軸部材7、7は、収納ユニット6を宙に浮いた状態で支持し、回転させることに耐え得るような材質、太さを有するものであり、その高さ方向の位置、収納ユニット6における固定位置が調整可能なものとすると、より好適である。そして、例えば頭部の腫瘍から前立腺、大腸などの下半身の腫瘍に対応可能とすることを考慮すれば、収納ユニット6は、例えば立位の状態の患者の下半身に粒子線を照射でき、CTスキャナーによる検査ができるような高さを有することが望ましい。
【0023】
収納ユニット6は、その回転軸部材7、7を中心とした回転運動が可能である。この回転運動により、図3に示したように、収納ユニット6は、内部のCTスキャナー2、患者固定装置4を取り付けた駆動部(図3では図示せず)、収納部6cに収納された駆動装置(図3では図示せず)などを同一の配置のまま、粒子線1aに対して様々な角度を取ることが可能となる。ここで、収納ユニット6の回転運動は、その回転角度が特に制限されるものではなく、駆動部5に取り付けられた患者固定装置4に固定された患者3に対して良好な線量分布を得るのに適切な傾斜角度となるように適宜選定することができる。より好ましくは、図3の(a)〜(c)に示すように、例えば、床面(地面)Gに対する角度が0°〜90°(図3の(a)の状態から(c)の状態の間)程度の範囲で回転するようにすると、より好適である。なお、図3においても収納ユニット6の両側壁(図3では、図面上、前後の壁)を省略して示した。そして、収納ユニット6の回転運動を滑らかに行うために、上述したように、CTスキャナー2と駆動装置(図3では図示せず)との重さのバランスが取れていると、好都合である。
【0024】
この粒子線照射システムAでは、まず、照射する粒子線1aの中心部が、駆動部5の幅方向の中心部を正確に照射する構造に設定する。次いで、患者3の患部3aが、駆動部5の幅方向のおおよその中心付近にくるように患者固定装置4を位置調整して患者3と共に駆動部5に配置し、その状態で患部3aがCTスキャナー2の検出範囲2a内にくるように駆動部5を移動させる。そして、CTスキャナー2で患部3aを検査(患部3aの位置確認)した後、患者固定装置4の患者3の左右方向、腹背方向の駆動部5に対する位置調整を行って、患部3aを正確に駆動部5の幅方向の中心部に一致させる。その状態で駆動部5を駆動させ、患部3aを粒子線1aの照射位置に照準し、照射する。このような流れが、この粒子線照射システムAを用いた基本的な治療の流れになる。
【0025】
粒子線照射システムAを用いた治療で、患者固定装置4の回転運動を利用すれば、図2に示すように患者の正面ばかりではなく、左右方向からの粒子線1aの照準が可能になり、収納ユニット6の回転運動を利用すれば、図3に示すように、患者3の頭尾方向からも広範囲に粒子線1aの照準が可能となる。この二つの回転運動を組み合わせることで、三次元空間の様々な方向から患部3aに固定された粒子線1aを照射することが可能となる。
【0026】
この粒子線照射システムAによれば、患者固定装置4に載った患者3を二軸回転させることができ、粒子線照射装置1を回転ガントリー構造とすることなく、多方向照射することができ、また、患者3を回転させた時に、CTスキャナー2により患部の位置を再度確認してから照射することもできるので、位置精度よく粒子線を照射することができ、優れた治療成績を得ることが可能となる。
【0027】
なお、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の粒子線照射システムの一構成例を説明する粒子線照射システムの概略側面図である。
【図2】本発明の粒子線照射システムの一の軸回転の概念を説明する模式図である。
【図3】本発明の粒子線照射システムの他の軸回転の概念を説明する模式図である。
【図4】上記構成例を説明する粒子線照射システムの概略正面図である。
【符号の説明】
【0029】
A 粒子線照射システム
x 照射方向
y 頭尾方向
z 収納ユニットの回転の軸方向
R 治療室
1 粒子線照射装置
1a 粒子線
1b 粒子線照射部
2 CTスキャナー
2a 検出範囲
3 患者
3a 患部
4 患者固定装置
5 駆動部
6 収納ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガントリー構造を持たず、一方向から陽子線、重イオン線などの粒子線を患者の患部に照射する粒子線照射装置と、該粒子線照射装置の粒子線照射部と同室に設置され、上記患者の患部を位置確認するCTスキャナーと、該CTスキャナーの検出範囲から上記粒子線照射装置の照射範囲まで上記患者を移動させる駆動部と、上記患者を固定し、上記駆動部に上記患者の頭尾方向を軸とした回転運動可能に装着される患者固定装置と、該患者固定装置を装着した上記駆動部と上記CTスキャナーとを収納する構造を有し、上記粒子線照射装置の照射方向と上記駆動部の移動方向を含む平面に対して直交する軸で回転可能な収納ユニットとを備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
上記粒子線照射装置が、上記粒子線を斜め上方向から上記患部に照射するように構成された請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
上記粒子線照射装置の上記粒子線の照射方向と、上記収納ユニットの回転の軸方向と、上記患者固定装置の回転の軸方向とが、照射時の上記患者の上記患部において交差するように構成した請求項1又は2に記載の粒子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−200264(P2008−200264A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39359(P2007−39359)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(500139729)
【出願人】(502295168)
【出願人】(502295179)
【氏名又は名称原語表記】James Robert Wong
【住所又は居所原語表記】18 Walt Whitman Trail Morristown New Jersey 07960 U.S.A
【Fターム(参考)】