説明

粒子線照射装置および粒子線制御方法

【課題】意図しないビームの取り出しを抑制できる3次元スキャニング照射を実現する。
【解決手段】本発明に関わる粒子線照射装置は、加速器5内で加速され加速器5内の軌道を進む荷電粒子ビームに、該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極12により、RF−KO電圧による電場を印加して荷電粒子ビームの幅を広げて荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極13を介して加速器5内から取り出す粒子線照射装置1であって、RF−KO電極12により、軌道振幅が大きくRF−KO電圧をオフした場合に加速器5内から取り出される可能性が高い荷電粒子ビームの振動数に共振する高周波電場を荷電粒子ビームに印加する制御を行うビーム選択取出し制御部S1を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線を照射対象に3次元スキャニング照射する粒子線照射装置および粒子線制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線でがんの治療を行う場合、がんの種類や進み具合によって放射線を使い分けることが必要である。重粒子線は、X線、γ線や陽子線に比較し、この治療効果が大きい。
この炭素、ネオン等の重粒子線をがんを患う患者の患部に照射し、治療を行う場合、如何にゆらぎ小さく一定の線量を患者に照射するかが必要とされる。
そのため、患者の患部に照射する重粒子線を線量計で測定し、この線量信号を一定に保つように、フィードバック制御が行われている。
【0003】
具体的には、粒子線がん治療において、シンクロトロン(加速器)内に設置されているRF−KO電極により、重粒子線のビームの進行方向に対して垂直方向に印加するRF−KO電圧を、オン/オフすることにより、シンクロトロン(加速器)内から取り出される重粒子線のビームをオン/オフして、患者の呼吸状態に合わせて、イオンビーム(重粒子線のビーム)を患者の患部に照射することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−198397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5は、従来の円形のシンクロトロン(加速器)内の軌道を加速されて廻るビームb10と、ビーム取り出し時(中)のビームb11の水平方向位置(横軸)とそのビーム強度(縦軸)、およびデフレクタ電極103との位置関係を示す概念図である。なお、図5において、シンクロトロンの水平方向の中心を原点として横軸に水平方向の位置をとり、縦軸に該水平方向の位置のビーム強度をとっている。
図5に示すように、シンクロトロンによって加速された後のビームb10は、そのサイズが小さく、シンクロトロン(加速器)の中心付近に分布している。
【0006】
このビームをシンクロトロンの外に取り出すためには、RF−KO電圧による電場を印加し、ビームサイズを広げる必要がある。図5に示す取り出し中ビーム分布b11は、RF−KO電圧による電場を印加し、ビームサイズを広げた場合を示している。サイズが広がったビームb11の一部が、デフレクタ電極103と呼ばれる2枚の電極の中に入ると(図5に示すビームb11a)、デフレクタ電極103の電場によって、ビームb11aはシンクロトロン外側に蹴りだされ、患者の患部に照射のため取り出されていく。
ところで、このRF−KO電圧がオフのときでも、僅かながら意図しないビーム(重粒子線)が取り出されるという問題が存在する。
【0007】
この意図しないビームが取り出されるという問題は、この軌道振幅が大きくなったビームのうち、少量のビームが、RF−KO電圧がオフのときでも、何らかの理由により、デフレクタ電極103の中に飛び込んで、取り出されることに起因している。
また、従来、漏れ線量を低減するために、RF−KO電圧のオフと同時に、四重極電磁石を用いてベータトロン振動数を高速に変化させたり、高周波加速電圧をオフにすることが行われてきたが、次にRF−KO電圧をオンにして、照射を再開する時に、ベータトロン振幅が大きいビームが、短時間に取り出されてしまい、照射線量率が瞬間的に高くなってしまうという問題も存在する。
【0008】
この取り出される意図しないビームは、ビームを広げるブロードビーム照射では患者に照射するビームが広げられるので、少量であり、問題にならない。
しかしながら、重粒子線が集中する狭いペンシルビームを用いるスキャニング照射では、意図しないビームの線量が大きいため、問題となる。
本発明は上記実状に鑑み、意図しないビームの取り出しを抑制できる粒子線照射装置および粒子線制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わる粒子線照射装置は、加速器内で加速され該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射装置であって、前記RF−KO電極により、軌道振幅が大きく前記RF−KO電圧をオフした場合に前記加速器内から取り出される可能性が高い荷電粒子ビームの振動数に共振する高周波電場を前記荷電粒子ビームに印加する制御を行うビーム選択取出し制御部を備えている。
【0010】
第2の本発明に関わる粒子線制御方法は、加速器内で加速され該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて、前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線制御方法であって、前記荷電粒子ビームを選択的に前記加速器内から取り出すためのビーム選択取出し制御部は、前記RF−KO電極により、軌道振幅が大きく前記RF−KO電圧をオフした場合に前記加速器内から取り出される可能性が高い前記荷電粒子ビームの振動数に共振する高周波電場を前記荷電粒子ビームに印加する制御を行っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、意図しないビームの取り出しを抑制できる粒子線照射装置および粒子線制御方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる実施形態の重粒子線照射装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】実施形態のシンクロトロン内の周回軌道を加速されて廻る取り出し前のビームと、取り出し中のビームの水平方向位置とそのビーム強度、およびデフレクタ電極との位置関係を示す図1のA−A線断面概念図である。
【図3】実施形態の重粒子線のビームのベータトロン振幅とベータトロン振動数の相関を示す概念図である。
【図4】実施形態のRF−KO電極に付与するRF−KO電圧を制御するRF−KO電極制御装置を示すブロック図である。
【図5】従来の円形のシンクロトロン内の軌道を加速されて廻るビームと、ビーム取り出し時のビームの水平方向位置とそのビーム強度、およびデフレクタ電極との位置関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
<重粒子線照射装置1の構成>
図1は、本発明に係わる実施形態の重粒子線照射装置(粒子線照射装置)1の全体構成を示す模式図である。
本実施形態の重粒子線照射装置1は、がんを患う患者の患部(照射対象)に炭素、ネオン等の電子を除いた粒子(原子核)の放射線である重粒子線を照射するシステムである。
【0014】
図1に示す重粒子線照射装置1は、炭素等の原子から一部の電子を取り除くイオン源2と、該一部の電子が取り除かれた粒子の初段の加速を行う線形加速器3と、該粒子の残りの電子を取り除くストリッパ4と、当該粒子が患者の体の奥深くまで到着できるエネルギまで加速する環状のシンクロトロン5と、加速された当該粒子を治療室(図示せず)の患者に照射するための照射装置6とを含んで構成される。
なお、イオン源2から照射装置6に至るまでの重粒子線の輸送管は、高真空に保たれている。
【0015】
重粒子線照射装置1における各装置は、統括制御部20(図4参照)で制御され、前記したように、重粒子線を患者の患部に(患者の体の奥深くまで)到達するのに必要なエネルギまで加速して、照射装置6を用いて患者の患部に照射する。
図1に示すイオン源2には、PIG(Penning Ionization Gauge)型イオン源、あるいはECR(Electron Cyclotron Resonance)を利用してプラズマイオンを発生させるECR型イオン源等、公知のイオン源を用いることができる。例えば、炭素イオンC6+の重粒子を生成させる場合は、まずCO2等の希薄なガスに電子ビームを当て、炭素分子から電子をたたき出すことにより共有結合を切り、炭素原子または電子が1個剥がれたC1+を生成させる。
【0016】
これにより、電子とイオンが混在するプラズマが形成される。この炭素原子または1価イオンに、引き続き電子ビームを当てC2+からC3+、C4+へと次第に多価イオンに変化させてゆく。
このプラズマにスリット付の負電極(−20kV程度)を近づけると、C4+イオンはプラズマから引き出され、線形加速器3で加速される。加速によりエネルギーが6MeV/核子になった時点で、C4+をストリッパ4に通過させる。これによりC4+に残っている2つの電子が剥ぎとられて炭素原子核だけのC6+となる。
線形加速器3で6MeV/核子まで加速されたC6+は、負の高電圧が印加されているインフレクタ8によりシンクロトロン5の周回軌道に入射される。
【0017】
<重粒子線照射装置1のシンクロトロン5>
図1に示すシンクロトロン5は、加速高周波の周期を粒子回転周期に同期させることにより、炭素の原子核等の荷電粒子(重粒子)を高エネルギまで加速する環状の装置であり、「加速器」に相当するものである。
【0018】
シンクロトロン5は、主要構成機器として、インフレクタ8と、シンクロトロン5内を進む重粒子線のビームを周回軌道に保つための偏向電磁石9と、周回軌道上における重粒子線のビームの広がりを収束または拡散させる作用を有する四極電磁石10と、重粒子線のビームの加速を行う高周波加速空洞11と、重粒子線のビームを治療室の照射装置6に向けて出射するときにRF(Radio Frequancy)−KO(Knock out)電圧を印加するRF−KO電極12と、RF−KO電圧による電場により広げられた重粒子線のビームをシンクロトロン5から治療室の照射装置6へ向けて出射するデフレクタ電極13とを備えている。
【0019】
RF−KO電極12は、シンクロトロン5の重粒子線のビームの周回軌道(図2に示す取り出し前ビームb1、取り出し中のビームb2が相当)を挟んで水平方向(図1の紙面方向)に配置される電極である。
なお、図2は、シンクロトロン(加速器)5内の周回軌道を加速されて廻る照射装置6への取り出し前のビームb1と、照射装置6へ取り出し中のビームb2の水平方向位置(横軸x)とそのビーム強度(縦軸y)、およびデフレクタ電極13(二点鎖線で示す)との位置関係を示す図1のA−A線断面概念図であり、シンクロトロン5の水平方向の中心を原点として横軸に水平方向の位置をとり、縦軸に水平方向の位置のビーム強度をとっている。
【0020】
<シンクロトロン5からの重粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン5内の周回軌道を周回している多数の重粒子は、水平方向(図1の紙面に平行方向)又は鉛直方向(図1の紙面に垂直方向)に振動しながら周回している(図2に示す符号b1参照)。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動の周回軌道一周あたりの振動数をチューンと称する。チューンは、図1に示す偏向電磁石9や四極電磁石10などにより制御することができる。
【0021】
このシンクロトロン5によって加速されベータトロン振動を行っている重粒子線のビームは、そのサイズが小さく、図2の符号b1に示すように、シンクロトロン(加速器)5の中心付近に分布している。
ビームb1は、例えば、10〜1010個の炭素粒子であり、この炭素粒子は、横断面が楕円状を呈してシンクロトロン(加速器)5内の軌道を回転している。各炭素粒子に着目すると、この軌道に沿って、各炭素粒子が蛇行しながら、言い換えると、軌道に対する横断面でみると振動しながら、シンクロトロン5内の軌道に沿って廻っている。
【0022】
そして、重粒子が高周波加速空洞11(図1参照)によって加速され最大エネルギに達した後、周回している多数の重粒子の一部を、重粒子線のビームにRF−KO電極12でRF−KO電圧による電場を印加し、デフレクタ電極13を介して、治療室の照射装置6へ向けて出射する。
すなわち、シンクロトロン5内の重粒子線のビームをシンクロトロン5の外の照射装置6に向けて取り出すためには、中心付近に分布する重粒子線のビーム(図2の符号b1参照)に、周回軌道に対して垂直に水平方向にRF−KO電極12で挟んでRF−KO電圧による電場を印加し、重粒子線のビームサイズを広げる(図2の符号b2参照)。
この重粒子の出射は、シンクロトロン5内の周回軌道を進む重粒子のベータトロン振動の共鳴を利用して行う。
【0023】
具体的には、図1に示すRF−KO電極12は、照射装置6への取り出し前の周回軌道を加速されて進むビームb1に対して、周回軌道に垂直な水平方向(図1の紙面に平行方向)に、ベータトロン振動の周波数偏重および振幅偏重されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む重粒子線のビームを、照射装置6への図2の取り出し前ビームb1から図2の取り出し中のビームb2に幅を広げることにより、重粒子線のビームの一部b3(図2参照)をデフレクタ電極13の2枚の電極の中に入れる。デフレクタ電極13の2枚の電極の中にビームb3が入ると、デフレクタ電極13内の電場によって、重粒子線のビームb3は外側に蹴りだされ、照射装置6に向けて取り出されていく。
なお、RF−KO電圧がオフのときには、この重粒子のビームサイズの増加がとまるために、重粒子のビームがデフレクタ電極13から取り出されなくなるので、照射を止めることが可能となる。
【0024】
図3は、重粒子線のビームのベータトロン振幅とベータトロン振動数の相関を示す概念図であり、横軸にベータトロン振幅をとり、縦軸にベータトロン振動数をとっている。
ここで、図3に示すように、中心付近にいるベータトロン振幅の小さなビームの、ベータトロン振動数をf0とすると、シンクロトロン5には六極電磁石14(図1参照)が存在するため、ベータトロン振幅が大きくなったビームは、これとは少し異なった周波数f0+△fで、ベータトロン振動をする。RF−KO電圧の周波数成分とこのベータトロン振動の周波数成分が一致したとき、共振がおこりベータトロン振幅は増大する。
【0025】
つまり、RF−KO電極12で印加するRF−KO電圧の周波数成分とこの重粒子線のビームのベータトロン振動の周波数成分が一致したとき、図2の符号b1に示す状態から、共振が起こり、図2の符号b2に示すように、軌道振幅は増大する。
この現象を利用して、RF−KO電極12により周波数f+△fの成分をもった高周波電圧を印加することにより、或いは、RF−KO電極12で印加するベータトロン振動数f0近くのRF−KO電圧に周波数f0+△fの成分の高周波電圧を混ぜておくことにより、軌道振幅が大きいビームの振動を、選択的にさらに増大させて、予め取り出して除去することが可能となる。
【0026】
すなわち、RF−KO電極12で印加するRF−KO電圧の周波数成分(≒f)の中に、軌道振幅が大きく、RF−KO電極12がオフ中に取り出されやすいビームのベータトロン振動数に共振する成分(f+△f)を混ぜておく。或いは、RF−KO電極12で周波数f+△fの成分をもった高周波電圧を印加する。
これにより、RF−KO電極12によるRF−KO電圧の印加がオフ中に取り出されやすいビームを選択的にRF−KO電圧がオンになっている照射中に取り出してしまい、ベータトロン振幅が大きいビームの数が相対的に少なくなるので、RF−KO電圧がオフのとき、すなわち照射装置6で照射を行わないときに、取り出されるビーム強度を減少させることが可能となる。
また、RF−KO電圧をオンにしたときに、ベータトロン振幅が大きい重粒子線のビームが、短時間に取り出されてしまい、照射線量率が瞬間的に高くなってしまうという問題の解決にも効果がある
【0027】
<RF−KO電極12のRF−KO電圧の制御>
これを実現するRF−KO電極12(図1参照)のRF−KO電圧を制御するRF−KO電圧制御装置(ビーム取り出し制御部)S1を、図4を用いて説明する。なお、図4は、RF−KO電極12に加えるRF−KO電圧を制御するRF−KO電極制御装置S1を示すブロック図である。
通常、RF−KO電圧を用いたシンクロトロン5からの重粒子線のビーム取り出しに際しては、図2に示す重粒子線のビームのベータトロン周波数fに近い周波数成分を含んだ信号を、図4に示すRF−KO周波数発生器15で発生し、この信号を増幅器17で増幅して、RF−KO電極12にfに近い周波数成分を有する高周波電圧を加えている。
【0028】
本実施形態では、RF−KO電圧がオフ時、すなわち照射しない時に取り出され易い図2に示すf+△fの周波数をもった信号を、追加周波数発生器18で発生し、足算器16でこの追加周波数発生器18で発生したf+△fの周波数成分の信号と、通常のRF−KO周波数発生器15で発生するベータトロン周波数fに近い周波数成分の信号とを足した後、増幅器17で増幅して、図示しないインピーダンス整合器等を介して、RF−KO電極12に、f+△fの周波数成分とfに近い周波数成分との高周波電圧を加える。
【0029】
これにより、図4に示す既存の増幅器17やRF−KO電極12に変更を加えることなく、RF−KO電圧がオン時に、RF−KO電圧がオフ時に取り出され易い重粒子線のビームを、共振現象を利用して、振幅を大きくすることにより、デフレクタ電極13(図2参照)の2枚の電極の中に入れることで、RF−KO電圧がオン時に予め取り出すことが可能となる。
【0030】
ここで、図4に示すRF−KO周波数発生器15および追加周波数発生器18は、それぞれ、FM変調されたRF信号を発生するファンクションジェネレータや、シンクロトロンマスタトリガ信号、要求強度信号、および取り出しゲート信号を入力としてAMパターンを生成するAMパターン生成器、該ファンクションジェネレータおよび該AMパターン生成器からの出力信号が入力される電圧制御増幅器等で構成されている。
【0031】
ここで、非照射時(RF−KO電圧のオフ時)にデフレクタ電極13で取り出され易い重粒子線のビームの周波数f+△fは、RF−KO電圧をオフした際にデフレクタ電極13で取り出される重粒子線のビームの周波数を予め取得することにより、重粒子線照射装置1を統括的に制御する統括制御部20で追加周波数発生器18に予め設定する。
【0032】
<<作用効果>>
通常の取り出しに用いられる周波数f近くのRF−KO電圧とは別に、ベータトロン振幅が大きく、周波数f近くのRF−KO電圧がオフ時に取り出されやすい重粒子線のビームのベータトロン振動だけに共振する周波数成分f+△fをもつ高周波電場を重粒子線のビームに加える装置とした。これにより、ベータトロン振幅が大きい重粒子線のビームは、選択的に周波数f近くのRF−KO電圧がオンになっている照射中に取り出されてしまうため、周波数f近くのRF−KO電圧がオフのときに取り出されてしまうビーム量、つまり漏れ線量を減少させることが可能となる。
また、この装置ではベータトロン振幅が大きい粒子を、予め減少させているので、周波数f近くのRF−KO電圧をオンにしたときに、ベータトロン振幅が大きい重粒子線のビームが、短時間に取り出されてしまい、照射線量率が瞬間的に高くなってしまうという問題の解決にも効果がある。
この構成により、呼吸同期などで照射を止めている間に発生する漏れ線量を低減することが可能となると共に、照射再開時に、予定以上の照射線量率で照射されてしまう問題を解決することができる。
そのため、より安全な重粒子線の照射が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 重粒子線照射装置(粒子線照射装置)
5 シンクロトロン(加速器)
6 照射装置
12 RF−KO電極
13 デフレクタ電極
+△f ベータトロン振動数(振動数)
S1 RF−KO電圧制御装置(ビーム取り出し制御部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器内で加速され該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線照射装置であって、
前記RF−KO電極により、軌道振幅が大きく前記RF−KO電圧をオフした場合に前記加速器内から取り出される可能性が高い荷電粒子ビームの振動数に共振する高周波電場を前記荷電粒子ビームに印加する制御を行うビーム選択取出し制御部を
備えることを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
前記ビーム選択取出し制御部は、前記高周波電場を前記RF−KO電圧による電場とともに前記荷電粒子ビームに印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
加速器内で加速され該加速器内の軌道を進む荷電粒子ビームに、該荷電粒子ビームを挟んで配置されるRF−KO電極により、RF−KO電圧による電場を印加して前記荷電粒子ビームの幅を広げて、前記荷電粒子ビームの一部をデフレクタ電極を介して前記加速器内から取り出す粒子線制御方法であって、
前記荷電粒子ビームを選択的に前記加速器内から取り出すためのビーム選択取出し制御部は、前記RF−KO電極により、軌道振幅が大きく前記RF−KO電圧をオフした場合に前記加速器内から取り出される可能性が高い前記荷電粒子ビームの振動数に共振する高周波電場を前記荷電粒子ビームに印加する制御を行う
ことを特徴とする粒子線制御方法。
【請求項4】
前記ビーム選択取出し制御部は、前記高周波電場を前記RF−KO電圧による電場とともに前記荷電粒子ビームに印加する
ことを特徴とする請求項3に記載の粒子線制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227415(P2010−227415A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80318(P2009−80318)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】