粒子線照射装置及び粒子線治療装置
【課題】X線等放射線治療装置におけるIMRTの技術を、従来のワブラーシステムを有する粒子線治療装置にそのまま適用しようとすると、複数のボーラスを用いなければならない問題がある。粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することを目的としたものである。より具体的には、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決する。
【解決手段】加速器により加速された荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34を備え、荷電粒子ビーム1の照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置58であって、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4を備えた。
【解決手段】加速器により加速された荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34を備え、荷電粒子ビーム1の照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置58であって、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素等の重粒子線や陽子線に代表される荷電粒子線(以下「粒子線」という)を、癌等の患部に照射し治療を行う医療装置(以下「粒子線治療装置」)に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置に先行して開発された医療装置であるX線等放射線を用いて治療を行う医療装置においては、多方向から強度を調整した放射線を照射することにより患部を均等に高線量で治療し、周辺組織の被曝を軽減するものが提案されている。ここで、患部に対して多方向から照射することを、多門照射という。
【0003】
多門照射にはいくつかの手法が提案されており、シーメンスを中心としたstep and shootを行うIMRT (Intensity-Modulated Radiotherapy、強度変調放射線治療)(非特許文献1、非特許文献2)及びELEKTAを中心としたIMAT(Intensity-Modulated Ark Therapy)(非特許文献3)などが挙げられる。
【0004】
照射方向毎にX線の強度分布の空間パターンを変化させて患部だけに高い吸収線量を与えるコンペンセータを複数個備え、照射方向毎に自動でコンペンセータを変更して多門照射を行う放射線照射装置が特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−37214号公報(図17〜図21)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chui CS, Spirou SV. Inverse planning algorithms for external beam radiation therapy. Med Dosim 2001;26(2):189-197
【非特許文献2】Keller-Reichenbecher MA, Bortfeld T, Levegrun S, et al. Intensity modulation with the "step and shoot" technique using a commercial MLC: a planning study. Multileaf collimator. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1999;45(5):1315-1324.
【非特許文献3】Yu CX. Intensity-modulated arc therapy with dynamic multileaf collimation: an alternative to tomotherapy. Phys Med Biol. 1995;40(9):1435-1449.
【非特許文献4】強度変調放射線治療に関する緊急声明. JASTRO NEWSLETTER 2002;63(3):4-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線等放射線治療装置においてIMRTは、頭頸部や前立腺などについて数多くの臨床応用がなされ、優れた成績をあげている反面、過照射等の問題も指摘されている。非特許文献4によれば、IMRTは治療計画内容によっては、一回線量や総線量を意識して増加するかしないかにかわらず、結果的に過照射による正常組織の有害事象をもたらしたり、逆に保守的になり、過少線量照射による不十分な治療効果の危険性が生じたりすると警告している。
【0008】
この過照射の原因のひとつは、照射自由度不足によるものと考えられる。非特許文献1乃至非特許文献4に示されたX線等放射線治療装置によるIMRTの最終的な照射野は、(1
)照射エネルギー、(2)照射角度、(3)マルチリーフコリメータ(以下「MLC」)等による横方向の照射野制限および(4)照射線量(重み)をパラメータとして、複数の照射を重ね合わせることにより実現する。ここに、深さ方向の照射野制限器はない。
【0009】
深さ方向の照射野制限器には、粒子線治療装置で使われるボーラスがあげられる。深さ方向における患部の変化形状は、ディスタル形状とよばれている。ボーラスは、このディスタル形状に合わせて加工されたエネルギー変調器であり、患者毎にポリエチレンまたはワックスを加工して作成する。ボーラスを備えた照射装置は、例えば特許文献1の図21に示され、照射野の形状を患部のディスタル形状に合わせることができる。
【0010】
しかし、粒子線治療装置において多門照射に1つのボーラスをそのまま適用することはできない。まず、IMRTの場合、複数の照射方向それぞれに対してボーラスを準備しなければならい。特許文献1の放射線照射装置はボーラスに相当するコンペンセータを自動で移動できるものの、ボーラスの加工の手間及び費用がかかる問題があった。また、IMATの場合はさらに難しく、刻一刻と変化する照射角度に応じてボーラスの形状を動的に変化させなければならない。現在、ボーラスではこの動的な形状変化を実現できない。
【0011】
したがって、X線等放射線治療装置におけるIMRTの技術を、従来のワブラーシステムを有する粒子線治療装置にそのまま適用しようとすると、複数のボーラスを用いなければならない問題は同様に存在する。ボーラスを用いることなく深さ方向の照射野を制限する、すなわち照射自由度を上げることができないので、ボーラスを用いずに過照射問題を解決することはできなかった。
【0012】
本発明は、これらの課題を解決することを目的としたものである。すなわち、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することを目的としたものである。より具体的には、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系を備え、荷電粒子ビームの照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置である。粒子線照射装置は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置を備えた。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る粒子線照射装置は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに生成するように照射するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図2】図1のエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図3】図1の深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図4】本発明の粒子線照射装置において用いられる治療計画の作成方法を示すフローチャートである。
【図5】図4のステップST1を説明する図である。
【図6】本発明の治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図9】本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。
【図10】本発明の実施の形態5によるRMWを示す外観図である。
【図11】本発明の実施の形態5による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図12】本発明の実施の形態6による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図13】本発明の実施の形態7による柱状照射野生成装置を示す構成図である。
【図14】本発明の実施の形態8による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図15】本発明の実施の形態9による粒子線治療装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
本発明の特徴である柱状スキャニング照射でのIMRTを考える。通常のスポットスキャニングの考え方は、患部を3次元的にスポットにて、あたかも点描するかのごとく照射するものである。スポットスキャニングはこのように自由度の高い照射方法であるが、反面、患部全体を照射するのに要する時間が長い。IMRTは多門照射であるから、さらに照射時間がかかってしまう。そこで、スポットよりも深さ方向へブラッグピークBP(Bragg Peak)を拡大し、柱状の照射野を生成する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。粒子線照射装置58は、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4と、荷電粒子ビーム1に垂直な方向であるX方向及びY方向に荷電粒子ビーム1を走査するX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11と、位置モニタ12a、12bと、線量モニタ13と、走査電磁石電源32と、粒子線照射装置58の照射系を制御する照射制御装置33とを備える。X方向走査電磁石10、Y方向走査電磁石11、走査電磁石電源32は、荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34である。なお、荷電粒子ビーム1の進行方向はZ方向である。柱状照射野生成装置4は、荷電粒子ビームの進む方向に向かって手前から荷電粒子ビームのエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整するエネルギー変更装置2と、荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する深さ方向照射野拡大装置3とを有する。この患部40の深さ方向、すなわち照射方向における幅を拡大したブラッグピークBPは、拡大ブラッグピークSOBP(Spread-Out Bragg Peak)と呼ばれる。ここでは、拡大ブラッグピークSOBPの照射方向における幅をSOBPの幅と呼ぶ。
【0018】
X方向走査電磁石10は荷電粒子ビーム1をX方向に走査する走査電磁石であり、Y方向走査電磁石11は荷電粒子ビーム1をY方向に走査する走査電磁石である。位置モニタ12a、12bはX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11で走査された荷電粒子ビーム1が通過する通過位置を検出する。線量モニタ13は荷電粒子ビーム1の線量を検出する。照射制御装置33は、図示しない治療計画装置で作成された治療計画データに基づいて、患部40における柱状照射野やその照射位置を制御し、線量モニタ13で測定された線量が目標線量に達すると荷電粒子ビームを停止する。走査電磁石電源32は照射制御装置33から出力されたX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11への制御入力(指令)に基づいてX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11の設定電流を変化させる。
【0019】
図2はエネルギー変更装置を示す構成図である。図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。エネルギー変更装置2は、幅方向(X方向)に厚さが階段状に変化するレンジシフタ9、レンジシフタ9を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石
電源20、レンジシフタ9を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。
【0020】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対5、6に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石5は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石6は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石5は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石6は、軌道変更用の偏向電磁石5によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。レンジシフタ9の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石7と軌道平行用の偏向電磁石8により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用の偏向電磁石7は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石8は、軌道変更用の偏向電磁石7によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0021】
エネルギー変更装置2の動作について説明する。エネルギー変更装置2に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対5、6によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さのレンジシフタ9の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下されて所望のエネルギーになる。このようにして所望のエネルギーに変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対7、8によりエネルギー変更装置2に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。エネルギー変更装置2は、エネルギーに変更し飛程を変更する際にレンジシフタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対7、8により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0022】
図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。深さ方向照射野拡大装置3は、幅方向(X方向)に異なった高さの概三角柱で構成され、すなわち異なる厚さ分布の山を複数有するように構成されたリッジフィルタ19、リッジフィルタ19を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石15、16、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源23、リッジフィルタ19を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石17、18、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源24、照射制御装置33から入力されるSOBP指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源23に送信する変更制御装置25を備える。変更制御装置25は、第2の偏向電磁石電源24も制御する。
【0023】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対15、16に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石15は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石16は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石15は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石16は、軌道変更用の偏向電磁石15によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。リッジフィルタ19の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石17と軌道平行用の偏向電磁石18により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用
の偏向電磁石17は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石18は、軌道変更用の偏向電磁石17によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0024】
深さ方向照射野拡大装置3の動作について説明する。深さ方向照射野拡大装置3に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対15、16によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さ分布を有するリッジフィルタ19の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下され、結果として強さの変化する多種のエネルギーが混ざった粒子線ビームになる。荷電粒子ビーム1が通過するリッジフィルタ19の山の高さに応じてSOBPの幅が変更できる。このようにして所望のSOBPの幅に変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対17、18により深さ方向照射野拡大装置3に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。深さ方向照射野拡大装置3は、SOBPの幅を変更する際にリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対17、18により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0025】
粒子線照射装置58を回転ガントリに搭載することにより、粒子線照射装置58の照射系が患者台の回り自由に回転でき、患部40に対して多方向からの照射が可能となる。回転ガントリは粒子線照射装置58の照射系を回転させ、照射方向を回転させる。すなわち、このことにより、多門照射を行える。また、粒子線照射装置58におけるリッジフィルタ19を用いてXY方向よりもZ方向に大きく照射野を拡大するようなものとしたことにより、患部40に対して柱状の線量分布(図5参照)でビームを照射することができる。
【0026】
次に、柱状スキャニング照射でIMRTを行う方法を説明する。図4は本発明の粒子線照射装置において用いられる治療計画の作成方法を示すフローチャートであり、図5は図4のステップST1を説明する図であり、図6は治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。図5及び図6は、4門(90度間隔)で照射する場合の例である。治療計画を作成する治療計画装置は、荷電粒子ビーム1が照射される患部(照射対象)40のディスタル形状に応じて柱状の照射野を配置するとともに、患部(照射対象)40の内側に柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、患部(照射対象)40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部を有する。治療計画には粒子線照射装置58及び回転ガントリの動作条件を含み、治療計画に基づいて粒子線照射装置58及び回転ガントリは一体的に動作する。
【0027】
まず、図5に示すように柱状の照射野である柱状照射野44a、44b、44c、44dを、患部40のディスタル形状に合わせて敷き詰めていく(ステップST1)。これをすべての門(照射方向)に対して行う。このとき、柱状の照射野が重なってしまってもよい。重なった部分に関しては、後ほど説明する。図5(a)は照射方向43aからの照射における患部40のディスタル形状に合わせて柱状照射野44aを敷き詰めていく例であり、図5(b)は照射方向が照射方向43bの際の柱状照射野44bを示し、図5(c)は照射方向が照射方向43cの際の柱状照射野44cを示し、図5(d)は照射方向が照射方向43dの際の柱状照射野44dを示す。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(a)のようになる。
【0028】
すべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST2)。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。残りの照射対象の領域がある場合は、残りの照射対象の領域に対して、残りの照射対象のディスタル
形状に合うよう、2周目の敷き詰め作業を行う(ステップST3)。図6(b)に示すように、照射方向が照射方向43cの場合は柱状照射野45cを敷き詰めていく。このとき、2周目の柱状照射野は、1周目の柱状照射野とSOBPの幅を変えてもよい。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(c)のようになる。図6(c)において、柱状照射野45aは照射方向が照射方向43aの場合であり、柱状照射野45bは照射方向が照射方向43bの場合であり、柱状照射野45dは照射方向が照射方向43dの場合である。
【0029】
2周目におけるすべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST4)。残りの照射対象の領域がある場合は、ステップST3へ移り、柱状の照射野が患部すべてを覆うように繰り返す。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。
【0030】
ステップST5では、柱状の照射野が敷き詰められた照射プランを初期値として最適化計算を行う。最適化計算が終了したら、評価関数により評価を行う(ステップST6)。評価関数の値が臨床的にみて許容できるものかを判定し、許容できないと判定した場合はステップST5に戻り、最適化計算を行う。評価関数の値が臨床的にみて許容できる範囲内にあれば終了する。
【0031】
ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、オーバードーズ(線量超過)を防ぐために、患部40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する。前述した柱状の照射野が重なっている部分は、オーバードーズ(線量超過)になってしまうので、最適化作業は柱状の照射野が重なっている部分を解消、あるいは少なくするように柱状の照射野の配置を変更する。
【0032】
ステップST1〜ST4の作業は、治療計画装置の照射野配置部でまず行う。次に治療計画装置について説明する。治療計画装置については、医療安全のための放射線治療計画装置の運用マニュアル(熊谷孝三、日本放射線技師会出版会)が詳しい。治療計画装置には広範な役割があるが、簡単に言えば治療シミュレータである、といえる。また、治療計画装置の役割のひとつに最適化計算がある。ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、治療計画装置の最適化計算部で行われる。最適化計算は、IMRTにおける逆方向治療計画(インバースプランニング)での最適なビーム強度の検索に使用される。
【0033】
前記運用マニュアルによれば、最適化計算には、現在までに次のようなものが試されたとのことである。初期のIMRT最適化計算で使用されたフィルタ逆投影法、確率論的方法に分類される擬似的な焼きなまし、遺伝的アルゴリズム、ランダム検索技術と、現在多くの治療計画装置に実装されている決定論的方法に分類される勾配法である。
【0034】
勾配法は、計算は高速であるが、局所的な最小(極小)に捕らえられると抜け出せない性質がある。しかし、現在では、勾配法が臨床IMRT治療計画を実施する多くの治療計画装置に採用されている。
【0035】
勾配法において、求める最適とは異なる別の極小値に捕らえられてしまうことを防ぐには、他の遺伝的アルゴリズムやランダム検索技術と組み合わせて使うことも有効である。他には、最適化計算の初期値(解の候補として初めに与える値)が、求める最適解に近ければよいことが経験的にわかっている。
【0036】
そこで、本発明では、ステップST1〜ST4で作成された照射プランを、最適化計算の初期値として使う。従来のIMRTに比べて、患部のディスタル形状に合うように深さ方向の照射自由度が高いため、ステップST1〜ST4で作成された照射プランは最適な照射
に十分近い。
【0037】
最適化計算は、必ずある評価関数を最小にするような解を計算する。治療計画装置の場合、前記運用マニュアルに示されているように、物理的最適化の基準である評価関数は、以下のように示される。
【数1】
ここでDmin、Dmaxは指定した線量制限である。uはDminに対する重み係数であり、wはDmaxに対する重み係数である。b(数式(1)では矢印付きで示したが、矢印なしで示す。以後、数式(1)関連の説明において同じ。)はビームレットの強度の関数であり、di(b)はビームレットの強度の関数bとしたボクセルiの線量である。[x]+はx>0ではx、それ以外では0となる。Nはボクセルの最大数である。
【0038】
このように、治療計画装置において最適化計算を行うため、例えば初期値においては柱状の照射野が重なってオーバードーズ(線量超過)になっても、得られた治療計画においては、調整される。
【0039】
以上のように構成することで、実施の形態1の治療計画装置によれば、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0040】
柱状の線量分布でビームを照射することの効果について説明する。そもそも、1方向からの照射を前提とする従来の粒子線治療装置において、その照射系における線量分布形成は以下の方法による。ワブラー法を例に説明すると、XY方向へは、ワブラー電磁石と散乱体によって照射野を均一拡大し、患部のXY平面断面形状(あるいはXY平面に投影した形状等)に基づいてMLCにより制限を行う。Z方向へは、リッジフィルタによって照射野を均一拡大し、患部のディスタル形状(最深層形状)に合うようにボーラスにより制限を行う。
【0041】
前述したように、粒子線治療装置における多門照射においては複数のボーラスを用いなければならないので、ボーラスの加工の手間及び費用がかかり、またボーラスを動的に形状変化できず、IMATには適用できなかった。もし、粒子線治療装置における多門照射において、ボーラスを用いなくてもボーラスのように患部のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができれば、ボーラスの加工の手間及び費用の問題が解決でき、IMATへの適用が可能となり、IMRTの過照射問題、すなわち正常組織への不要な照射を格段に減らすことができる。そこで、柱状の線量分布でビームを照射する発明に至った。本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することの最大の効果のひとつは、ボーラスを用いなくても患部40のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができ、正常組織への不要な照射を格段に減らすことができることである。
【0042】
本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することのもうひとつの最大の効果は、X線等放射線治療装置で用いられる強度変調をしなくても照射野を形成できることにある。ここで強度変調の原理は、簡単に言うと、弱い線量分布を有する照射野を多方向から照射し、重ね合わせにより、最終的により多くの線量が重なった箇所が治療効果を発揮する照射野として線量分布を得るというものである。
【0043】
本発明において照射野の形成は、図6に示すように、柱状の線量を組み合わせて行うこ
とができる。ここで補足するが、本発明においても照射野を重ねて照射をしてもよい。患部の各部分に対してアンダードーズ(線量不足)になることとオーバードーズ(線量超過)になることは許されないが、臨床的に許容できる線量には幅がある。最終的な線量分布が患部の各部分に対して許容できるように、治療計画装置により照射計画を立てていく。従来のX線等放射線治療装置のように、最終的な照射野を患部のディスタル形状に合うように強度変調をしなくてよいので、治療計画装置による強度変調の最適化の計算が不要となり、すなわち、従来の治療計画に要する時間が長いという問題を解消することができる。また、柱状の線量分布でビームを照射することは、点状に照射することに比べて照射時間が短いというメリットがある。
【0044】
実施の形態1の治療計画装置を用いた粒子線治療装置において多門照射ができるメリットは、いくつかあるが、主に以下の2点である。ひとつは、同じ患部に照射した場合、多門照射の方が粒子線の通過する体表面積が広いため、正常組織である体表面へのダメージを低減できることにある。もうひとつは、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できることにある。
【0045】
以上のように実施の形態1の粒子線照射装置によれば、加速器により加速された荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34を備え、荷電粒子ビーム1の照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置58であって、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4を備えたので、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに、この柱状の照射野を生成するように照射でき、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0046】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。実施の形態1のエネルギー変更装置2aとは、複数の吸収体26a、26b、26c、26dを用いて、荷電粒子ビーム1のエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整する点で異なる。
【0047】
エネルギー変更装置2bは、駆動装置27a、27b、27c、27dにより駆動される複数の吸収体26a、26b、26c、26dを有する。吸収体26a、26b、26c、26dは厚さの異なる吸収体である。吸収体26a、26b、26c、26dそれぞれの組み合わせにより、吸収体の合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置22は、駆動装置27a、27b、27c、27dを制御し、それぞれの駆動装置に対応する吸収体26a、26b、26c、26dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過する吸収体の合計の厚さに比例する分だけエネルギーが低下されて所望のエネルギーになる。
【0048】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態2のエネルギー変更装置2bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石5乃至8を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL1を短くできる。装置の長さL1を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。なお、図2における装置の長さL1は、偏向電磁石5の上流側端部から偏向電磁石8の下流側端部までの長さである。
【0049】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0050】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。実施の形態1の深さ方向照射野拡大装置3aとは、複数のリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを用いて、荷電粒子ビームのエネルギーを多種のエネルギーが混ざった状態にし、すなわち荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する点で異なる。
【0051】
深さ方向照射野拡大装置3bは、駆動装置29a、29b、29c、29dにより駆動される複数のリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを有する。リッジフィルタ28a、28b、28c、28dは厚さの異なるリッジフィルタである。リッジフィルタ28a、28b、28c、28dそれぞれの組み合わせにより、リッジフィルタの合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置25は、駆動装置29a、29b、29c、29dを制御し、それぞれの駆動装置に対応するリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過するリッジフィルタの合計の厚さに比例する分だけエネルギーの幅が広げられ所望のSOBPの幅になる。
【0052】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石15乃至18を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL2を短くできる。装置の長さL2を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。図3における装置の長さL2は、偏向電磁石15の上流側端部から偏向電磁石18の下流側端部までの長さである。
【0053】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0054】
実施の形態4.
図9は、本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。実施の形態1の柱状照射野生成装置4aとは、エネルギー変更装置2aと深さ方向照射野拡大装置3aを一体化した点で異なる。
【0055】
柱状照射野生成装置4bは、2つのレンジシフタ9a、9bと、2つのリッジフィルタ19a、19bと、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電
磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。各機器の動作は実施の形態1と同様なので繰り返さない。
【0056】
レンジシフタ9a、9bは同じ形状、材料のものであり、リッジフィルタ19a、19bは、それぞれ異なった高さの概三角柱で構成された例である。リッジフィルタ19bの概三角柱の高さはリッジフィルタ19aの概三角柱の高さよりも高いので、荷電粒子ビーム1のSOBPの幅は、リッジフィルタ19bを通過した場合の方がリッジフィルタ19aを通過した場合より広くすることができる。
【0057】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bは、荷電粒子ビーム1を2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、2種類の注状照射野を所望の飛程にすることができる。レンジシフタ9a、9bとリッジフィルタ19a、19bに対してそれぞれに上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を設けることがなく、上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を1セットだけ設けているので、実施の形態1の柱状照射野生成装置4aに比べて、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さを短くできる。上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を用いて2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、SOBPの幅と飛程を変更する際にレンジシフタやリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、2種類よりもさらに多い多種類のSOBPの幅を揃えるには、その種類数に応じたレンジシフタ9とリッジフィルタ19を配置すればよい。
【0058】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0059】
実施の形態5.
実施の形態1乃至4においては、照射野のZ方向への拡大、すなわちSOBPは、リッジフィルタ19、28によって実現することを説明してきた。実施の形態5では、XY方向よりもZ方向に大きく照射野を拡大するために、レンジモジュレーションホイールRMW(Range Modulation Wheel)を用いた場合の実施の形態について説明する。
【0060】
RMWとは、照射系の装置、すなわち粒子線照射装置に用いられる装置であり、照射野をビーム進行方向に拡大しSOBPを生成するためのものである。RMWは、二重散乱体法やワブラー法などの、ビームの照射野を一旦広げ、コリメータやボーラスを用いて照射野を制限するブロードビーム照射法において用いられる場合がある。RMWを二重散乱体法で使われている例が、特開2007−222433号公報に示されている。実施の形態5による本発明のRMWについて、図10及び図11を用いて説明する。
【0061】
図10は本発明の実施の形態5によるRMWを示す外観図であり、図11は本発明の実施の形態5による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。RMW35は、周方向に段階的に軸方向の厚みが増大しまたは減少する楔型形状となっているエネルギー吸収体(羽根)を複数枚配置した構成を有する。図10の例では、3つの羽根37a、37b、37cを有する。それぞれの羽根37a、37b、37cは、6つの台36a、36b、36c、36d、36e、36fを有し、台36aから台36fに向かって時計回りの周方向に段階的に軸方向の厚みが減少する形状になっている。RMW35を、台36を用いて表現すれば、次のようになる。RMW35は、軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台36a〜36fが周方向に配置されたエネルギー吸収体37を有し、複数の台36a〜36fを荷電粒子ビーム1が通過することによってエネルギーに幅を生じさせる。羽根37a、37b、37cは、それぞれ角度範囲0°〜120°、120°〜240°、240°〜360°(0°)に配置される。6つの台36a、36b、36c、36d、36e、36fは、それぞれ20°間隔の角度範囲に配置される。RMW35は、粒子線照射装置内のビーム経路に配置され、ビーム経路と垂直な面内で回転する。例えば、図1に示す走査照射系34の上流に配置される。
【0062】
RMW35によってSOBPが形成される原理を説明する。例えば、RMW35が回転している状態において、羽根の薄い部分(例えば台36f)を荷電粒子ビーム1が通過したときはビームエネルギーの減衰が少なく、ブラッグピークBPが体内深くに生じる。また、羽根の厚い部分(例えば台36a)を荷電粒子ビーム1が通過したときは、ビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークBPが患者の体表面近くの浅い部分で生じる。また、RMW35の回転(周回)により、ブラッグピークBPの位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、体表面近くの浅い部分から体内深くまで至る広く平坦な線量分布(SOBP)を得ることができる。
【0063】
隣接する複数の台を選択して、選択された台のみ荷電粒子ビーム1を通過させるようにすることで、複数のSOBPの幅が形成できる。例えば台36e、36fが選択された場合のSOBPの幅をSOBP幅1とする。SOBP幅1と同様に、台36d〜36fが選択された場合、台36c〜36fが選択された場合、台36b〜36fが選択された場合、台36a〜36fが選択された場合のそれぞれにおけるSOBPの幅を、SOBP幅2、SOBP幅3、SOBP幅4、SOBP幅5とする。図10に示したRMW35の例では、台36fを必ず含むようにする場合において、5つのSOBPの幅が形成でき、これら複数のSOBPの幅から自由に変更することができる。
【0064】
本発明に係るRMW35は、従来のスポットよりも深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状照射野44、45(図6参照)を生成するために使用する。実施の形態5にかかわる粒子線照射装置は、図1に示す構成である。すなわち、荷電粒子ビーム1の上流側から、柱状照射野形成装置4、一組の走査電磁石10、11、位置モニタ12a、12b及び線量モニタ13を備え、照射制御装置33によって制御される。ただし、柱状照射野形成装置4は、RMW35を備えた深さ方向照射野拡大装置3(3c)である。
【0065】
実施の形態5による柱状照射野形成装置4は、エネルギー変更装置2と深さ方向照射野拡大装置3(3c)とを有する。深さ方向照射野拡大装置3cを、図11を用いて説明する。深さ方向照射野拡大装置3cは、RMW35と、RMW35を回転させる回転軸64と、回転させる回転軸64を駆動するモータ(回転駆動装置)62と、回転軸64の回転角度を検出する角度センサ61と、角度センサ61により検出された回転角度に基づいて、荷電粒子ビーム1の出射開始と出射停止を制御する制御信号Sig1を照射制御装置33に送信する照射野拡大制御装置65を有する。荷電粒子ビーム1と干渉しない位置に配置されたモータ62と回転軸64とは、例えば、かさ歯車(連結装置)63a、63bにより連結される。照射野拡大制御装置65は、モータ62の回転を制御する。ここでは、RMW35が所定の一定速度で回転し続けるように制御する。RMW35と、回転軸64と、モータ62と、かさ歯車(連結装置)63a、63bと、角度センサ61は、RMW装置66を構成する。RMW装置66は、荷電粒子ビーム1が通過するRMW35の位置を変えてエネルギーに幅を生じさせる。照射野拡大制御装置65は、荷電粒子ビーム1が複数の台36a〜36fを通過するように制御する。
【0066】
深さ方向照射野拡大装置3cの動作について説明する。治療計画に指定された、ある柱状照射野44におけるSOBPの幅が、例えば上記SOBP幅4の場合で説明する。SOBP幅4は、荷電粒子ビーム1が台36b〜36fの位置に対応する角度を通過すること
により形成される。また、柱状照射野44は治療計画に指定された線量が満了する(目標線量に達する)まで、当該柱状照射野44において荷電粒子ビーム1が照射される。荷電粒子ビーム1は、当該柱状照射野44の線量が満了するまで、台36a〜36fが設けられた羽根37を少なくとも1回は通過する。RMW35は、モータ62により回転方向68に示す方向に回転するように制御されている。
【0067】
柱状照射野44に対する荷電粒子ビーム1の出射開始は、台36bの該当角度20°〜40°のうち、出射開始角度である角度領域開始角度20°(140°、260°)が角度センサ61により検出されることに行われる。角度センサ61により出射開始角度が検出されると、照射野拡大制御装置65は制御信号Sig1を出力(例えば第1の電圧レベル)する。照射制御装置33は制御信号Sig1を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するように加速器の出射装置に出射開始指示を出す。加速器の出射装置は、出射開始指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射する(ビーム出射手順)。次に、角度センサ61により出射停止角度(120°、240°、360°(0°))が検出されると、照射野拡大制御装置65は制御信号Sig1を停止(例えば第2の電圧レベルに変更する)する。照射制御装置33は制御信号Sig1の停止を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ停止するように加速器の出射装置に出射停止指示を出す。加速器の出射装置は、出射停止指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するのを停止する(ビーム停止手順)。
【0068】
次に線量モニタで線量満了が検出されるまで、次の羽根37においても、ビーム出射手順とビーム停止手順を繰り返す。線量モニタで線量満了が検出さると、照射制御装置33は線量満了を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ停止するように加速器の出射装置に出射停止指示を出す。加速器の出射装置は、出射停止指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するのを停止する(柱状照射野停止手順)。その後、次の柱状照射野を形成する手順に移行する。柱状照射野を形成する手順は、上記のビーム出射手順、ビーム停止手順、柱状照射野停止手順である。
【0069】
実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cを有する粒子線照射装置58は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに、この柱状の照射野を生成するように照射でき、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0070】
RMW35には、リッジフィルタにはない有利な効果がある。図6に示したように、患部40の形状に応じて、2周目の柱状照射野45は1周目の柱状照射野44とSOBPの幅を変える必要が生じる場合がある。リッジフィルタを用いてSOBPの幅を変える場合、図8や図9に示したように複数のリッジフィルタを準備する必要がある。一方、RMWの場合は、RMW35の回転角度に基づいて荷電粒子ビーム1の出射開始と出射停止を制御することによって、SOBPの幅を自由に変えることができる。すなわち、上述したように、RMW35の回転とビーム出射のタイミングとを同期させることによって、一つのRMW35で自由にSOBPの幅を制御できる。よって、複数のSOBPの幅を形成する場合には、柱状照射野生成装置4の構成を簡単なものにすることができる。
【0071】
実施の形態6.
図12は、本発明の実施の形態6による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cとは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置を有する点で異なる。図12に示した深さ方向照射野拡大装置3dは、2つのRMW装置66a、66bを有する例である。RMW装置66aのRMW35aは、RMW装置66bのRMW35bよりも選択可能なSOPBの幅の数が多い例である。照射
野拡大制御装置65は、RMW装置66a及びRMW装置66bのいずれを使用するかを選択し、RMW装置66aを駆動する駆動装置67a及びRMW装置66bを駆動する駆動装置67bの制御も行う。照射野拡大制御装置65は、RMW装置66aの角度センサ61の信号及びRMW装置66bの角度センサ61の信号を受けて、制御信号Sig1を出力しまたは停止する。
【0072】
選択可能なSOPBの幅の数を多くするには、羽根37の台36の数を増やすことで実現できる。例えば、RMW35aは、2つの羽根37a、37bを有し、それぞれの羽根37a、37bは9個の台36a〜36iを有する。この場合には、各羽根の角度範囲は180°であり、各台の角度範囲は実施の形態5と同様に20°となる。なお、羽根37が一つだけで、RMW35の台36のそれぞれの厚さが全て異なるものでもよい。RMW35を適用する実施の形態においても、RMW35の台36のそれぞれの厚さが全て異なるものにしてもよい。
【0073】
実施の形態6の深さ方向照射野拡大装置3dは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置66a、66bを有するので、実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cよりも広い範囲のSOPBの幅を形成することができる。したがって、深さ方向照射野拡大装置3dを有する粒子線照射装置58は、実施の形態5の粒子線照射装置58よりも多くの種類の柱状照射野を形成するとともに照射でき、効率的に患部40への多門照射を実行できる。
【0074】
実施の形態7.
図13は、本発明の実施の形態7による柱状照射野生成装置を示す構成図である。実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cを有する柱状照射野生成装置4aとは、エネルギー変更装置2(2a)と深さ方向照射野拡大装置3cを一体化した点で異なる。
【0075】
柱状照射野生成装置4cは、2つのレンジシフタ9a、9bと、2つのRMW装置66a、66bと、レンジシフタ9a、9b及びRMW装置66a、66bを荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9a、9b及びRMW装置66a、66bを通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置30を備える。変更制御装置30は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。また、変更制御装置30は、実施の形態5の照射野拡大制御装置65の機能も備えている。レンジシフタ9aは、RMW35aの回転軸64aからRMW35aの外周の範囲に位置するようにRMW装置66aの上流側に配置される。レンジシフタ9bは、RMW35bの回転軸64bからRMW35bの外周の範囲に位置するようにRMW装置66bの上流側に配置される。各機器の動作は実施の形態1及び5と同様なので繰り返さない。
【0076】
レンジシフタ9a、9bは同じ形状、材料のものであり、RMW装置66aのRMW35aとRMW装置66bのRMW35bは、選択可能なSOPBの幅が異なる例である。RMW装置66aのRMW35aは、実施の形態6で説明したようにRMW装置66bのRMW35bよりも選択可能なSOPBの幅の数が多くすることができる。
【0077】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4cは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置66a、66bを有するので、実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cよりも広い範囲のSOPBの幅を形成することができる。したがって、深さ方向照射野拡大装
置3dを有する粒子線照射装置58は、実施の形態5の粒子線照射装置58よりも多くの種類の柱状照射野を形成するとともに照射でき、効率的に患部40への多門照射を実行できる。
【0078】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4cは、柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないように制御することもできる。この例の柱状照射野生成装置を、便宜上、上記で説明した柱状照射野生成装置4cと区別するために柱状照射野生成装置4dと呼ぶことにする。柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにすることで、呼吸同期照射に適した荷電粒子ビーム1の照射を行うことができる。例えば、RMW35aの台36の数は、実施の形態6で説明したもとと同様にし、RMW35bの台36の数は、実施の形態5で説明したもとと同様にする。柱状照射野44、45を形成する際に、線量が満了するまで荷電粒子ビーム1をRMW35aまたはRMW35bの台37を通過するようにする。これによりRMW35aを荷電粒子ビーム1が通過する場合のSOBPの幅(SOBP幅a)は1種類であり、RMW35bを荷電粒子ビーム1が通過する場合のSOBPの幅(SOBP幅b)は1種類である。しかもSOBP幅bの方がSOBP幅aよりも広いものとすることができる。なお、必ず荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにして、柱状照射野44、45を形成する場合は、変更制御装置30は制御信号Sig1を生成する必要がないので、変更制御装置30の構成を簡略化することができる。
【0079】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4dは、荷電粒子ビーム1を2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、2種類の注状照射野を所望の飛程にすることができる。柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにすることで、呼吸同期照射に適した荷電粒子ビーム1の照射を行うことができる。なお、2種類よりもさらに多い多種類のSOBPの幅を揃えるには、その種類数に応じたレンジシフタ9とRMW装置66を配置すればよい。
【0080】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4c、4dは、レンジシフタ9a、9bとRMW装置66a、66bに対してそれぞれに上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を設けることがなく、上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を1セットだけ設けているので、実施の形態1の柱状照射野生成装置4aに比べて、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さを短くできる。
【0081】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4c、4dを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0082】
実施の形態8.
今まで、実施の形態1乃至7に示した粒子線照射装置は、柱状照射野生成装置4において荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更する例で説明してきた。しかし、荷電粒子ビーム1のエネルギーの変更は、シンクロトロン54のパラメータを変更することによっても実現できる。ここでは、シンクロトロン54のパラメータと深さ方向照射野拡大装置3を組み合わせて、柱状照射野44、45を生成する例を説明する。図14は、本発明の実施の形態8による粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態8の粒子線照射装置60は、実施の形態1乃至7に示した粒子線照射装置とは、柱状照射野生成装置4にエネルギー変更装置2が設けられなくても、シンクロトロン54にて荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更して柱状照射野44、45を生成する点で異なる。
【0083】
粒子線照射装置60の柱状照射野生成装置4(4e)は、深さ方向照射野拡大装置3を有する。深さ方向照射野拡大装置3は、上述した深さ方向照射野拡大装置3a、3b、3c、3dのいずれかである。照射制御装置33は、柱状照射野44、45を形成する際に、治療計画にて計画された当該柱状照射野44、45の深さ方向の位置になるようにエネルギー指令値を加速器であるシンクロトロン54に出力する。シンクロトロン54はエネルギー指令値を受け、このエネルギー指令値に従って荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更する。所定のエネルギーとなった荷電粒子ビーム1はイオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置60に入射する。柱状照射野生成装置4(4e)にて、治療計画にて計画された所定のSOBPの幅になるように、荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、患部40の所定の位置に所定の柱状照射野44、45を形成する。
【0084】
実施の形態8の粒子線照射装置60は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。また、粒子線照射装置60は、柱状照射野生成装置4(4e)に適用された深さ方向照射野拡大装置3a、3b、3c、3dの効果を奏する。
【0085】
実施の形態9.
本発明の実施の形態9は、実施の形態1乃至8に示した粒子線照射装置を備えた粒子線治療装置である。図15は本発明の実施の形態9における粒子線治療装置の概略構成図である。粒子線治療装置51は、イオンビーム発生装置52と、イオンビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)とを備える。イオンビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、シンクロトロン54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリ(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリを有しない治療室に設置される。イオンビーム輸送系59の役割はシンクロトロン54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。イオンビーム輸送系59の一部は回転ガントリ(図示せず)に設置され、その部分には複数の偏向電磁石55a、55b、55cを有する。
【0086】
イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビームは、前段加速器53で加速され、シンクロトロン54に入射される。荷電粒子ビームは、所定のエネルギーまで加速される。シンクロトロン54から出射された荷電粒子ビームは、イオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)に輸送される。粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)は荷電粒子ビームを患者の患部(図示せず)に照射する。
【0087】
実施の形態9の粒子線治療装置51は、実施の形態1に示した治療計画装置で作成した治療計画に基づいて、粒子線照射装置58(60)を動作させ、荷電粒子ビームを患者の患部に照射するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0088】
実施の形態9の粒子線治療装置51は、柱状の線量分布でビームを照射するので、点状に照射することに比べて照射時間が短いというメリットがある。また、多門照射ができるので、同じ患部に照射した場合、正常組織である体表面へのダメージを低減でき、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できる。
【0089】
さらに、実施の形態9の粒子線治療装置51においては、多門照射を遠隔で行えるメリットがある。遠隔多門照射とは、技師等が治療室に入って回転ガントリを操作する必要なく、治療室の外から遠隔で、患部への照射方向を多方向に変えて粒子線を照射することである。前述のように、本発明における粒子線治療装置においては、MLCやボーラスを必要としないシンプルな照射系となるため、ボーラスの交換作業及びMLCの形状確認作業が不要となる。その結果、遠隔多門照射が行え、治療時間が大幅に縮まるといった効果が得られる。
【0090】
なお、エネルギー変更装置2及び深さ方向照射野拡大装置3を有する柱状照射野生成装置4において、柱状照射野生成装置4は実施の形態2で示したエネルギー変更装置2bと実施の形態3で示した深さ方向照射野拡大装置3bを使用することもできる。
【0091】
今まで、実施の形態5乃至7において、深さ方向照射野拡大装置は、RMW35を所定の一定速度で回転させ、選択された台のみ荷電粒子ビーム1を通過させるように荷電粒子ビーム1の出射と出射停止を繰り返して複数のSOBPの幅を形成する例で説明した。RMW35を用いて複数のSOBPの幅を形成する方法は、他にもある。例えば、台36e、36fが選択されたSOBPの幅であるSOBP幅1を形成する場合で説明する。モータ62として、サーボモータやステッピングモータ等を使用する。荷電粒子ビーム1が台36fを通過する位置にして、荷電粒子ビーム1の照射を開始する。一定時間経過後、モータ62にて荷電粒子ビーム1が台36eを通過する位置にする。一定時間経過後、荷電粒子ビーム1が台36fを通過する位置にする。一定時間経過毎に台36e、36fの位置を往復するように変更することで、SOBP幅1を形成できる。台36a〜36fが選択されたSOBPの幅であるSOBP幅5を形成する場合は、一定時間経過毎に台36a〜36fの位置を往復するように変更するようにすればよい。また、一定時間経過毎に荷電粒子ビーム1を停止してから荷電粒子ビーム1が通過する台36の位置を変更し、この変更後に、荷電粒子ビーム1を出射することを繰り返してもよい。荷電粒子ビーム1を停止せずに台36a〜36fの位置を往復するように変更する場合は、呼吸同期照射にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る粒子線照射装置及び粒子線治療装置は、医療において好適に利用できる。特に過照射となってしまうIMRTの問題を解決でき、医療産業の発達に寄与するものである。
【符号の説明】
【0093】
1…荷電粒子ビーム、2、2a、2b…エネルギー変更装置、3、3a、3b、3c、3d…深さ方向照射野拡大装置、4、4a、4b、4c、4d、4e…柱状照射野生成装置、5、6、7、8…偏向電磁石、9、9a、9b…レンジシフタ、14…ビーム軸、15、16、17、18…偏向電磁石、19、19a、19b…リッジフィルタ、22…変更制御装置、25…照射野拡大制御装置、26a、26b、26c、26d…吸収体、27a、27b、27c、27d…駆動装置、28a、28b、28c、28d…リッジフィルタ、29a、29b、29c、29d…駆動装置、30…変更制御装置、34…走査照射系、35…RMW(レンジモジュレーションホイール)、36a、36b、36c、36d、36e、36f…台、37a、37b、37c…羽根(エネルギー吸収体)、40…患部、44a、44b、44c、44d、45a、45b、45c、45d…柱状照射野、52…イオンビーム発生装置、54…シンクロトロン、58、58a、58b…粒子線照射装置、59…イオンビーム輸送系、60、60a、60b…粒子線照射装置、61…角度センサ、62…モータ、65…照射野拡大制御装置、66、66a、66b…RMW装置、67a、67b…駆動装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素等の重粒子線や陽子線に代表される荷電粒子線(以下「粒子線」という)を、癌等の患部に照射し治療を行う医療装置(以下「粒子線治療装置」)に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置に先行して開発された医療装置であるX線等放射線を用いて治療を行う医療装置においては、多方向から強度を調整した放射線を照射することにより患部を均等に高線量で治療し、周辺組織の被曝を軽減するものが提案されている。ここで、患部に対して多方向から照射することを、多門照射という。
【0003】
多門照射にはいくつかの手法が提案されており、シーメンスを中心としたstep and shootを行うIMRT (Intensity-Modulated Radiotherapy、強度変調放射線治療)(非特許文献1、非特許文献2)及びELEKTAを中心としたIMAT(Intensity-Modulated Ark Therapy)(非特許文献3)などが挙げられる。
【0004】
照射方向毎にX線の強度分布の空間パターンを変化させて患部だけに高い吸収線量を与えるコンペンセータを複数個備え、照射方向毎に自動でコンペンセータを変更して多門照射を行う放射線照射装置が特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−37214号公報(図17〜図21)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chui CS, Spirou SV. Inverse planning algorithms for external beam radiation therapy. Med Dosim 2001;26(2):189-197
【非特許文献2】Keller-Reichenbecher MA, Bortfeld T, Levegrun S, et al. Intensity modulation with the "step and shoot" technique using a commercial MLC: a planning study. Multileaf collimator. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1999;45(5):1315-1324.
【非特許文献3】Yu CX. Intensity-modulated arc therapy with dynamic multileaf collimation: an alternative to tomotherapy. Phys Med Biol. 1995;40(9):1435-1449.
【非特許文献4】強度変調放射線治療に関する緊急声明. JASTRO NEWSLETTER 2002;63(3):4-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線等放射線治療装置においてIMRTは、頭頸部や前立腺などについて数多くの臨床応用がなされ、優れた成績をあげている反面、過照射等の問題も指摘されている。非特許文献4によれば、IMRTは治療計画内容によっては、一回線量や総線量を意識して増加するかしないかにかわらず、結果的に過照射による正常組織の有害事象をもたらしたり、逆に保守的になり、過少線量照射による不十分な治療効果の危険性が生じたりすると警告している。
【0008】
この過照射の原因のひとつは、照射自由度不足によるものと考えられる。非特許文献1乃至非特許文献4に示されたX線等放射線治療装置によるIMRTの最終的な照射野は、(1
)照射エネルギー、(2)照射角度、(3)マルチリーフコリメータ(以下「MLC」)等による横方向の照射野制限および(4)照射線量(重み)をパラメータとして、複数の照射を重ね合わせることにより実現する。ここに、深さ方向の照射野制限器はない。
【0009】
深さ方向の照射野制限器には、粒子線治療装置で使われるボーラスがあげられる。深さ方向における患部の変化形状は、ディスタル形状とよばれている。ボーラスは、このディスタル形状に合わせて加工されたエネルギー変調器であり、患者毎にポリエチレンまたはワックスを加工して作成する。ボーラスを備えた照射装置は、例えば特許文献1の図21に示され、照射野の形状を患部のディスタル形状に合わせることができる。
【0010】
しかし、粒子線治療装置において多門照射に1つのボーラスをそのまま適用することはできない。まず、IMRTの場合、複数の照射方向それぞれに対してボーラスを準備しなければならい。特許文献1の放射線照射装置はボーラスに相当するコンペンセータを自動で移動できるものの、ボーラスの加工の手間及び費用がかかる問題があった。また、IMATの場合はさらに難しく、刻一刻と変化する照射角度に応じてボーラスの形状を動的に変化させなければならない。現在、ボーラスではこの動的な形状変化を実現できない。
【0011】
したがって、X線等放射線治療装置におけるIMRTの技術を、従来のワブラーシステムを有する粒子線治療装置にそのまま適用しようとすると、複数のボーラスを用いなければならない問題は同様に存在する。ボーラスを用いることなく深さ方向の照射野を制限する、すなわち照射自由度を上げることができないので、ボーラスを用いずに過照射問題を解決することはできなかった。
【0012】
本発明は、これらの課題を解決することを目的としたものである。すなわち、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することを目的としたものである。より具体的には、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系を備え、荷電粒子ビームの照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置である。粒子線照射装置は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置を備えた。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る粒子線照射装置は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに生成するように照射するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図2】図1のエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図3】図1の深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図4】本発明の粒子線照射装置において用いられる治療計画の作成方法を示すフローチャートである。
【図5】図4のステップST1を説明する図である。
【図6】本発明の治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図9】本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。
【図10】本発明の実施の形態5によるRMWを示す外観図である。
【図11】本発明の実施の形態5による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図12】本発明の実施の形態6による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図13】本発明の実施の形態7による柱状照射野生成装置を示す構成図である。
【図14】本発明の実施の形態8による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図15】本発明の実施の形態9による粒子線治療装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
本発明の特徴である柱状スキャニング照射でのIMRTを考える。通常のスポットスキャニングの考え方は、患部を3次元的にスポットにて、あたかも点描するかのごとく照射するものである。スポットスキャニングはこのように自由度の高い照射方法であるが、反面、患部全体を照射するのに要する時間が長い。IMRTは多門照射であるから、さらに照射時間がかかってしまう。そこで、スポットよりも深さ方向へブラッグピークBP(Bragg Peak)を拡大し、柱状の照射野を生成する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。粒子線照射装置58は、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4と、荷電粒子ビーム1に垂直な方向であるX方向及びY方向に荷電粒子ビーム1を走査するX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11と、位置モニタ12a、12bと、線量モニタ13と、走査電磁石電源32と、粒子線照射装置58の照射系を制御する照射制御装置33とを備える。X方向走査電磁石10、Y方向走査電磁石11、走査電磁石電源32は、荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34である。なお、荷電粒子ビーム1の進行方向はZ方向である。柱状照射野生成装置4は、荷電粒子ビームの進む方向に向かって手前から荷電粒子ビームのエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整するエネルギー変更装置2と、荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する深さ方向照射野拡大装置3とを有する。この患部40の深さ方向、すなわち照射方向における幅を拡大したブラッグピークBPは、拡大ブラッグピークSOBP(Spread-Out Bragg Peak)と呼ばれる。ここでは、拡大ブラッグピークSOBPの照射方向における幅をSOBPの幅と呼ぶ。
【0018】
X方向走査電磁石10は荷電粒子ビーム1をX方向に走査する走査電磁石であり、Y方向走査電磁石11は荷電粒子ビーム1をY方向に走査する走査電磁石である。位置モニタ12a、12bはX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11で走査された荷電粒子ビーム1が通過する通過位置を検出する。線量モニタ13は荷電粒子ビーム1の線量を検出する。照射制御装置33は、図示しない治療計画装置で作成された治療計画データに基づいて、患部40における柱状照射野やその照射位置を制御し、線量モニタ13で測定された線量が目標線量に達すると荷電粒子ビームを停止する。走査電磁石電源32は照射制御装置33から出力されたX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11への制御入力(指令)に基づいてX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11の設定電流を変化させる。
【0019】
図2はエネルギー変更装置を示す構成図である。図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。エネルギー変更装置2は、幅方向(X方向)に厚さが階段状に変化するレンジシフタ9、レンジシフタ9を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石
電源20、レンジシフタ9を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。
【0020】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対5、6に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石5は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石6は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石5は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石6は、軌道変更用の偏向電磁石5によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。レンジシフタ9の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石7と軌道平行用の偏向電磁石8により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用の偏向電磁石7は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石8は、軌道変更用の偏向電磁石7によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0021】
エネルギー変更装置2の動作について説明する。エネルギー変更装置2に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対5、6によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さのレンジシフタ9の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下されて所望のエネルギーになる。このようにして所望のエネルギーに変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対7、8によりエネルギー変更装置2に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。エネルギー変更装置2は、エネルギーに変更し飛程を変更する際にレンジシフタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対7、8により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0022】
図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。深さ方向照射野拡大装置3は、幅方向(X方向)に異なった高さの概三角柱で構成され、すなわち異なる厚さ分布の山を複数有するように構成されたリッジフィルタ19、リッジフィルタ19を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石15、16、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源23、リッジフィルタ19を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石17、18、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源24、照射制御装置33から入力されるSOBP指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源23に送信する変更制御装置25を備える。変更制御装置25は、第2の偏向電磁石電源24も制御する。
【0023】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対15、16に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石15は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石16は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石15は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石16は、軌道変更用の偏向電磁石15によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。リッジフィルタ19の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石17と軌道平行用の偏向電磁石18により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用
の偏向電磁石17は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石18は、軌道変更用の偏向電磁石17によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0024】
深さ方向照射野拡大装置3の動作について説明する。深さ方向照射野拡大装置3に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対15、16によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さ分布を有するリッジフィルタ19の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下され、結果として強さの変化する多種のエネルギーが混ざった粒子線ビームになる。荷電粒子ビーム1が通過するリッジフィルタ19の山の高さに応じてSOBPの幅が変更できる。このようにして所望のSOBPの幅に変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対17、18により深さ方向照射野拡大装置3に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。深さ方向照射野拡大装置3は、SOBPの幅を変更する際にリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対17、18により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0025】
粒子線照射装置58を回転ガントリに搭載することにより、粒子線照射装置58の照射系が患者台の回り自由に回転でき、患部40に対して多方向からの照射が可能となる。回転ガントリは粒子線照射装置58の照射系を回転させ、照射方向を回転させる。すなわち、このことにより、多門照射を行える。また、粒子線照射装置58におけるリッジフィルタ19を用いてXY方向よりもZ方向に大きく照射野を拡大するようなものとしたことにより、患部40に対して柱状の線量分布(図5参照)でビームを照射することができる。
【0026】
次に、柱状スキャニング照射でIMRTを行う方法を説明する。図4は本発明の粒子線照射装置において用いられる治療計画の作成方法を示すフローチャートであり、図5は図4のステップST1を説明する図であり、図6は治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。図5及び図6は、4門(90度間隔)で照射する場合の例である。治療計画を作成する治療計画装置は、荷電粒子ビーム1が照射される患部(照射対象)40のディスタル形状に応じて柱状の照射野を配置するとともに、患部(照射対象)40の内側に柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、患部(照射対象)40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部を有する。治療計画には粒子線照射装置58及び回転ガントリの動作条件を含み、治療計画に基づいて粒子線照射装置58及び回転ガントリは一体的に動作する。
【0027】
まず、図5に示すように柱状の照射野である柱状照射野44a、44b、44c、44dを、患部40のディスタル形状に合わせて敷き詰めていく(ステップST1)。これをすべての門(照射方向)に対して行う。このとき、柱状の照射野が重なってしまってもよい。重なった部分に関しては、後ほど説明する。図5(a)は照射方向43aからの照射における患部40のディスタル形状に合わせて柱状照射野44aを敷き詰めていく例であり、図5(b)は照射方向が照射方向43bの際の柱状照射野44bを示し、図5(c)は照射方向が照射方向43cの際の柱状照射野44cを示し、図5(d)は照射方向が照射方向43dの際の柱状照射野44dを示す。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(a)のようになる。
【0028】
すべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST2)。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。残りの照射対象の領域がある場合は、残りの照射対象の領域に対して、残りの照射対象のディスタル
形状に合うよう、2周目の敷き詰め作業を行う(ステップST3)。図6(b)に示すように、照射方向が照射方向43cの場合は柱状照射野45cを敷き詰めていく。このとき、2周目の柱状照射野は、1周目の柱状照射野とSOBPの幅を変えてもよい。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(c)のようになる。図6(c)において、柱状照射野45aは照射方向が照射方向43aの場合であり、柱状照射野45bは照射方向が照射方向43bの場合であり、柱状照射野45dは照射方向が照射方向43dの場合である。
【0029】
2周目におけるすべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST4)。残りの照射対象の領域がある場合は、ステップST3へ移り、柱状の照射野が患部すべてを覆うように繰り返す。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。
【0030】
ステップST5では、柱状の照射野が敷き詰められた照射プランを初期値として最適化計算を行う。最適化計算が終了したら、評価関数により評価を行う(ステップST6)。評価関数の値が臨床的にみて許容できるものかを判定し、許容できないと判定した場合はステップST5に戻り、最適化計算を行う。評価関数の値が臨床的にみて許容できる範囲内にあれば終了する。
【0031】
ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、オーバードーズ(線量超過)を防ぐために、患部40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する。前述した柱状の照射野が重なっている部分は、オーバードーズ(線量超過)になってしまうので、最適化作業は柱状の照射野が重なっている部分を解消、あるいは少なくするように柱状の照射野の配置を変更する。
【0032】
ステップST1〜ST4の作業は、治療計画装置の照射野配置部でまず行う。次に治療計画装置について説明する。治療計画装置については、医療安全のための放射線治療計画装置の運用マニュアル(熊谷孝三、日本放射線技師会出版会)が詳しい。治療計画装置には広範な役割があるが、簡単に言えば治療シミュレータである、といえる。また、治療計画装置の役割のひとつに最適化計算がある。ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、治療計画装置の最適化計算部で行われる。最適化計算は、IMRTにおける逆方向治療計画(インバースプランニング)での最適なビーム強度の検索に使用される。
【0033】
前記運用マニュアルによれば、最適化計算には、現在までに次のようなものが試されたとのことである。初期のIMRT最適化計算で使用されたフィルタ逆投影法、確率論的方法に分類される擬似的な焼きなまし、遺伝的アルゴリズム、ランダム検索技術と、現在多くの治療計画装置に実装されている決定論的方法に分類される勾配法である。
【0034】
勾配法は、計算は高速であるが、局所的な最小(極小)に捕らえられると抜け出せない性質がある。しかし、現在では、勾配法が臨床IMRT治療計画を実施する多くの治療計画装置に採用されている。
【0035】
勾配法において、求める最適とは異なる別の極小値に捕らえられてしまうことを防ぐには、他の遺伝的アルゴリズムやランダム検索技術と組み合わせて使うことも有効である。他には、最適化計算の初期値(解の候補として初めに与える値)が、求める最適解に近ければよいことが経験的にわかっている。
【0036】
そこで、本発明では、ステップST1〜ST4で作成された照射プランを、最適化計算の初期値として使う。従来のIMRTに比べて、患部のディスタル形状に合うように深さ方向の照射自由度が高いため、ステップST1〜ST4で作成された照射プランは最適な照射
に十分近い。
【0037】
最適化計算は、必ずある評価関数を最小にするような解を計算する。治療計画装置の場合、前記運用マニュアルに示されているように、物理的最適化の基準である評価関数は、以下のように示される。
【数1】
ここでDmin、Dmaxは指定した線量制限である。uはDminに対する重み係数であり、wはDmaxに対する重み係数である。b(数式(1)では矢印付きで示したが、矢印なしで示す。以後、数式(1)関連の説明において同じ。)はビームレットの強度の関数であり、di(b)はビームレットの強度の関数bとしたボクセルiの線量である。[x]+はx>0ではx、それ以外では0となる。Nはボクセルの最大数である。
【0038】
このように、治療計画装置において最適化計算を行うため、例えば初期値においては柱状の照射野が重なってオーバードーズ(線量超過)になっても、得られた治療計画においては、調整される。
【0039】
以上のように構成することで、実施の形態1の治療計画装置によれば、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0040】
柱状の線量分布でビームを照射することの効果について説明する。そもそも、1方向からの照射を前提とする従来の粒子線治療装置において、その照射系における線量分布形成は以下の方法による。ワブラー法を例に説明すると、XY方向へは、ワブラー電磁石と散乱体によって照射野を均一拡大し、患部のXY平面断面形状(あるいはXY平面に投影した形状等)に基づいてMLCにより制限を行う。Z方向へは、リッジフィルタによって照射野を均一拡大し、患部のディスタル形状(最深層形状)に合うようにボーラスにより制限を行う。
【0041】
前述したように、粒子線治療装置における多門照射においては複数のボーラスを用いなければならないので、ボーラスの加工の手間及び費用がかかり、またボーラスを動的に形状変化できず、IMATには適用できなかった。もし、粒子線治療装置における多門照射において、ボーラスを用いなくてもボーラスのように患部のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができれば、ボーラスの加工の手間及び費用の問題が解決でき、IMATへの適用が可能となり、IMRTの過照射問題、すなわち正常組織への不要な照射を格段に減らすことができる。そこで、柱状の線量分布でビームを照射する発明に至った。本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することの最大の効果のひとつは、ボーラスを用いなくても患部40のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができ、正常組織への不要な照射を格段に減らすことができることである。
【0042】
本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することのもうひとつの最大の効果は、X線等放射線治療装置で用いられる強度変調をしなくても照射野を形成できることにある。ここで強度変調の原理は、簡単に言うと、弱い線量分布を有する照射野を多方向から照射し、重ね合わせにより、最終的により多くの線量が重なった箇所が治療効果を発揮する照射野として線量分布を得るというものである。
【0043】
本発明において照射野の形成は、図6に示すように、柱状の線量を組み合わせて行うこ
とができる。ここで補足するが、本発明においても照射野を重ねて照射をしてもよい。患部の各部分に対してアンダードーズ(線量不足)になることとオーバードーズ(線量超過)になることは許されないが、臨床的に許容できる線量には幅がある。最終的な線量分布が患部の各部分に対して許容できるように、治療計画装置により照射計画を立てていく。従来のX線等放射線治療装置のように、最終的な照射野を患部のディスタル形状に合うように強度変調をしなくてよいので、治療計画装置による強度変調の最適化の計算が不要となり、すなわち、従来の治療計画に要する時間が長いという問題を解消することができる。また、柱状の線量分布でビームを照射することは、点状に照射することに比べて照射時間が短いというメリットがある。
【0044】
実施の形態1の治療計画装置を用いた粒子線治療装置において多門照射ができるメリットは、いくつかあるが、主に以下の2点である。ひとつは、同じ患部に照射した場合、多門照射の方が粒子線の通過する体表面積が広いため、正常組織である体表面へのダメージを低減できることにある。もうひとつは、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できることにある。
【0045】
以上のように実施の形態1の粒子線照射装置によれば、加速器により加速された荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34を備え、荷電粒子ビーム1の照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置58であって、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4を備えたので、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに、この柱状の照射野を生成するように照射でき、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0046】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。実施の形態1のエネルギー変更装置2aとは、複数の吸収体26a、26b、26c、26dを用いて、荷電粒子ビーム1のエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整する点で異なる。
【0047】
エネルギー変更装置2bは、駆動装置27a、27b、27c、27dにより駆動される複数の吸収体26a、26b、26c、26dを有する。吸収体26a、26b、26c、26dは厚さの異なる吸収体である。吸収体26a、26b、26c、26dそれぞれの組み合わせにより、吸収体の合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置22は、駆動装置27a、27b、27c、27dを制御し、それぞれの駆動装置に対応する吸収体26a、26b、26c、26dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過する吸収体の合計の厚さに比例する分だけエネルギーが低下されて所望のエネルギーになる。
【0048】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態2のエネルギー変更装置2bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石5乃至8を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL1を短くできる。装置の長さL1を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。なお、図2における装置の長さL1は、偏向電磁石5の上流側端部から偏向電磁石8の下流側端部までの長さである。
【0049】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0050】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。実施の形態1の深さ方向照射野拡大装置3aとは、複数のリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを用いて、荷電粒子ビームのエネルギーを多種のエネルギーが混ざった状態にし、すなわち荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する点で異なる。
【0051】
深さ方向照射野拡大装置3bは、駆動装置29a、29b、29c、29dにより駆動される複数のリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを有する。リッジフィルタ28a、28b、28c、28dは厚さの異なるリッジフィルタである。リッジフィルタ28a、28b、28c、28dそれぞれの組み合わせにより、リッジフィルタの合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置25は、駆動装置29a、29b、29c、29dを制御し、それぞれの駆動装置に対応するリッジフィルタ28a、28b、28c、28dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過するリッジフィルタの合計の厚さに比例する分だけエネルギーの幅が広げられ所望のSOBPの幅になる。
【0052】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石15乃至18を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL2を短くできる。装置の長さL2を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。図3における装置の長さL2は、偏向電磁石15の上流側端部から偏向電磁石18の下流側端部までの長さである。
【0053】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0054】
実施の形態4.
図9は、本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。実施の形態1の柱状照射野生成装置4aとは、エネルギー変更装置2aと深さ方向照射野拡大装置3aを一体化した点で異なる。
【0055】
柱状照射野生成装置4bは、2つのレンジシフタ9a、9bと、2つのリッジフィルタ19a、19bと、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電
磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。各機器の動作は実施の形態1と同様なので繰り返さない。
【0056】
レンジシフタ9a、9bは同じ形状、材料のものであり、リッジフィルタ19a、19bは、それぞれ異なった高さの概三角柱で構成された例である。リッジフィルタ19bの概三角柱の高さはリッジフィルタ19aの概三角柱の高さよりも高いので、荷電粒子ビーム1のSOBPの幅は、リッジフィルタ19bを通過した場合の方がリッジフィルタ19aを通過した場合より広くすることができる。
【0057】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bは、荷電粒子ビーム1を2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、2種類の注状照射野を所望の飛程にすることができる。レンジシフタ9a、9bとリッジフィルタ19a、19bに対してそれぞれに上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を設けることがなく、上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を1セットだけ設けているので、実施の形態1の柱状照射野生成装置4aに比べて、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さを短くできる。上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を用いて2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、SOBPの幅と飛程を変更する際にレンジシフタやリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、2種類よりもさらに多い多種類のSOBPの幅を揃えるには、その種類数に応じたレンジシフタ9とリッジフィルタ19を配置すればよい。
【0058】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0059】
実施の形態5.
実施の形態1乃至4においては、照射野のZ方向への拡大、すなわちSOBPは、リッジフィルタ19、28によって実現することを説明してきた。実施の形態5では、XY方向よりもZ方向に大きく照射野を拡大するために、レンジモジュレーションホイールRMW(Range Modulation Wheel)を用いた場合の実施の形態について説明する。
【0060】
RMWとは、照射系の装置、すなわち粒子線照射装置に用いられる装置であり、照射野をビーム進行方向に拡大しSOBPを生成するためのものである。RMWは、二重散乱体法やワブラー法などの、ビームの照射野を一旦広げ、コリメータやボーラスを用いて照射野を制限するブロードビーム照射法において用いられる場合がある。RMWを二重散乱体法で使われている例が、特開2007−222433号公報に示されている。実施の形態5による本発明のRMWについて、図10及び図11を用いて説明する。
【0061】
図10は本発明の実施の形態5によるRMWを示す外観図であり、図11は本発明の実施の形態5による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。RMW35は、周方向に段階的に軸方向の厚みが増大しまたは減少する楔型形状となっているエネルギー吸収体(羽根)を複数枚配置した構成を有する。図10の例では、3つの羽根37a、37b、37cを有する。それぞれの羽根37a、37b、37cは、6つの台36a、36b、36c、36d、36e、36fを有し、台36aから台36fに向かって時計回りの周方向に段階的に軸方向の厚みが減少する形状になっている。RMW35を、台36を用いて表現すれば、次のようになる。RMW35は、軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台36a〜36fが周方向に配置されたエネルギー吸収体37を有し、複数の台36a〜36fを荷電粒子ビーム1が通過することによってエネルギーに幅を生じさせる。羽根37a、37b、37cは、それぞれ角度範囲0°〜120°、120°〜240°、240°〜360°(0°)に配置される。6つの台36a、36b、36c、36d、36e、36fは、それぞれ20°間隔の角度範囲に配置される。RMW35は、粒子線照射装置内のビーム経路に配置され、ビーム経路と垂直な面内で回転する。例えば、図1に示す走査照射系34の上流に配置される。
【0062】
RMW35によってSOBPが形成される原理を説明する。例えば、RMW35が回転している状態において、羽根の薄い部分(例えば台36f)を荷電粒子ビーム1が通過したときはビームエネルギーの減衰が少なく、ブラッグピークBPが体内深くに生じる。また、羽根の厚い部分(例えば台36a)を荷電粒子ビーム1が通過したときは、ビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークBPが患者の体表面近くの浅い部分で生じる。また、RMW35の回転(周回)により、ブラッグピークBPの位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、体表面近くの浅い部分から体内深くまで至る広く平坦な線量分布(SOBP)を得ることができる。
【0063】
隣接する複数の台を選択して、選択された台のみ荷電粒子ビーム1を通過させるようにすることで、複数のSOBPの幅が形成できる。例えば台36e、36fが選択された場合のSOBPの幅をSOBP幅1とする。SOBP幅1と同様に、台36d〜36fが選択された場合、台36c〜36fが選択された場合、台36b〜36fが選択された場合、台36a〜36fが選択された場合のそれぞれにおけるSOBPの幅を、SOBP幅2、SOBP幅3、SOBP幅4、SOBP幅5とする。図10に示したRMW35の例では、台36fを必ず含むようにする場合において、5つのSOBPの幅が形成でき、これら複数のSOBPの幅から自由に変更することができる。
【0064】
本発明に係るRMW35は、従来のスポットよりも深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状照射野44、45(図6参照)を生成するために使用する。実施の形態5にかかわる粒子線照射装置は、図1に示す構成である。すなわち、荷電粒子ビーム1の上流側から、柱状照射野形成装置4、一組の走査電磁石10、11、位置モニタ12a、12b及び線量モニタ13を備え、照射制御装置33によって制御される。ただし、柱状照射野形成装置4は、RMW35を備えた深さ方向照射野拡大装置3(3c)である。
【0065】
実施の形態5による柱状照射野形成装置4は、エネルギー変更装置2と深さ方向照射野拡大装置3(3c)とを有する。深さ方向照射野拡大装置3cを、図11を用いて説明する。深さ方向照射野拡大装置3cは、RMW35と、RMW35を回転させる回転軸64と、回転させる回転軸64を駆動するモータ(回転駆動装置)62と、回転軸64の回転角度を検出する角度センサ61と、角度センサ61により検出された回転角度に基づいて、荷電粒子ビーム1の出射開始と出射停止を制御する制御信号Sig1を照射制御装置33に送信する照射野拡大制御装置65を有する。荷電粒子ビーム1と干渉しない位置に配置されたモータ62と回転軸64とは、例えば、かさ歯車(連結装置)63a、63bにより連結される。照射野拡大制御装置65は、モータ62の回転を制御する。ここでは、RMW35が所定の一定速度で回転し続けるように制御する。RMW35と、回転軸64と、モータ62と、かさ歯車(連結装置)63a、63bと、角度センサ61は、RMW装置66を構成する。RMW装置66は、荷電粒子ビーム1が通過するRMW35の位置を変えてエネルギーに幅を生じさせる。照射野拡大制御装置65は、荷電粒子ビーム1が複数の台36a〜36fを通過するように制御する。
【0066】
深さ方向照射野拡大装置3cの動作について説明する。治療計画に指定された、ある柱状照射野44におけるSOBPの幅が、例えば上記SOBP幅4の場合で説明する。SOBP幅4は、荷電粒子ビーム1が台36b〜36fの位置に対応する角度を通過すること
により形成される。また、柱状照射野44は治療計画に指定された線量が満了する(目標線量に達する)まで、当該柱状照射野44において荷電粒子ビーム1が照射される。荷電粒子ビーム1は、当該柱状照射野44の線量が満了するまで、台36a〜36fが設けられた羽根37を少なくとも1回は通過する。RMW35は、モータ62により回転方向68に示す方向に回転するように制御されている。
【0067】
柱状照射野44に対する荷電粒子ビーム1の出射開始は、台36bの該当角度20°〜40°のうち、出射開始角度である角度領域開始角度20°(140°、260°)が角度センサ61により検出されることに行われる。角度センサ61により出射開始角度が検出されると、照射野拡大制御装置65は制御信号Sig1を出力(例えば第1の電圧レベル)する。照射制御装置33は制御信号Sig1を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するように加速器の出射装置に出射開始指示を出す。加速器の出射装置は、出射開始指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射する(ビーム出射手順)。次に、角度センサ61により出射停止角度(120°、240°、360°(0°))が検出されると、照射野拡大制御装置65は制御信号Sig1を停止(例えば第2の電圧レベルに変更する)する。照射制御装置33は制御信号Sig1の停止を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ停止するように加速器の出射装置に出射停止指示を出す。加速器の出射装置は、出射停止指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するのを停止する(ビーム停止手順)。
【0068】
次に線量モニタで線量満了が検出されるまで、次の羽根37においても、ビーム出射手順とビーム停止手順を繰り返す。線量モニタで線量満了が検出さると、照射制御装置33は線量満了を受けて、荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ停止するように加速器の出射装置に出射停止指示を出す。加速器の出射装置は、出射停止指示を受けて荷電粒子ビーム1を粒子線照射装置58へ出射するのを停止する(柱状照射野停止手順)。その後、次の柱状照射野を形成する手順に移行する。柱状照射野を形成する手順は、上記のビーム出射手順、ビーム停止手順、柱状照射野停止手順である。
【0069】
実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cを有する粒子線照射装置58は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じた深さに、この柱状の照射野を生成するように照射でき、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0070】
RMW35には、リッジフィルタにはない有利な効果がある。図6に示したように、患部40の形状に応じて、2周目の柱状照射野45は1周目の柱状照射野44とSOBPの幅を変える必要が生じる場合がある。リッジフィルタを用いてSOBPの幅を変える場合、図8や図9に示したように複数のリッジフィルタを準備する必要がある。一方、RMWの場合は、RMW35の回転角度に基づいて荷電粒子ビーム1の出射開始と出射停止を制御することによって、SOBPの幅を自由に変えることができる。すなわち、上述したように、RMW35の回転とビーム出射のタイミングとを同期させることによって、一つのRMW35で自由にSOBPの幅を制御できる。よって、複数のSOBPの幅を形成する場合には、柱状照射野生成装置4の構成を簡単なものにすることができる。
【0071】
実施の形態6.
図12は、本発明の実施の形態6による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cとは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置を有する点で異なる。図12に示した深さ方向照射野拡大装置3dは、2つのRMW装置66a、66bを有する例である。RMW装置66aのRMW35aは、RMW装置66bのRMW35bよりも選択可能なSOPBの幅の数が多い例である。照射
野拡大制御装置65は、RMW装置66a及びRMW装置66bのいずれを使用するかを選択し、RMW装置66aを駆動する駆動装置67a及びRMW装置66bを駆動する駆動装置67bの制御も行う。照射野拡大制御装置65は、RMW装置66aの角度センサ61の信号及びRMW装置66bの角度センサ61の信号を受けて、制御信号Sig1を出力しまたは停止する。
【0072】
選択可能なSOPBの幅の数を多くするには、羽根37の台36の数を増やすことで実現できる。例えば、RMW35aは、2つの羽根37a、37bを有し、それぞれの羽根37a、37bは9個の台36a〜36iを有する。この場合には、各羽根の角度範囲は180°であり、各台の角度範囲は実施の形態5と同様に20°となる。なお、羽根37が一つだけで、RMW35の台36のそれぞれの厚さが全て異なるものでもよい。RMW35を適用する実施の形態においても、RMW35の台36のそれぞれの厚さが全て異なるものにしてもよい。
【0073】
実施の形態6の深さ方向照射野拡大装置3dは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置66a、66bを有するので、実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cよりも広い範囲のSOPBの幅を形成することができる。したがって、深さ方向照射野拡大装置3dを有する粒子線照射装置58は、実施の形態5の粒子線照射装置58よりも多くの種類の柱状照射野を形成するとともに照射でき、効率的に患部40への多門照射を実行できる。
【0074】
実施の形態7.
図13は、本発明の実施の形態7による柱状照射野生成装置を示す構成図である。実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cを有する柱状照射野生成装置4aとは、エネルギー変更装置2(2a)と深さ方向照射野拡大装置3cを一体化した点で異なる。
【0075】
柱状照射野生成装置4cは、2つのレンジシフタ9a、9bと、2つのRMW装置66a、66bと、レンジシフタ9a、9b及びRMW装置66a、66bを荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9a、9b及びRMW装置66a、66bを通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源20に送信する変更制御装置30を備える。変更制御装置30は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。また、変更制御装置30は、実施の形態5の照射野拡大制御装置65の機能も備えている。レンジシフタ9aは、RMW35aの回転軸64aからRMW35aの外周の範囲に位置するようにRMW装置66aの上流側に配置される。レンジシフタ9bは、RMW35bの回転軸64bからRMW35bの外周の範囲に位置するようにRMW装置66bの上流側に配置される。各機器の動作は実施の形態1及び5と同様なので繰り返さない。
【0076】
レンジシフタ9a、9bは同じ形状、材料のものであり、RMW装置66aのRMW35aとRMW装置66bのRMW35bは、選択可能なSOPBの幅が異なる例である。RMW装置66aのRMW35aは、実施の形態6で説明したようにRMW装置66bのRMW35bよりも選択可能なSOPBの幅の数が多くすることができる。
【0077】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4cは、選択可能なSOPBの幅が異なる複数のRMW装置66a、66bを有するので、実施の形態5の深さ方向照射野拡大装置3cよりも広い範囲のSOPBの幅を形成することができる。したがって、深さ方向照射野拡大装
置3dを有する粒子線照射装置58は、実施の形態5の粒子線照射装置58よりも多くの種類の柱状照射野を形成するとともに照射でき、効率的に患部40への多門照射を実行できる。
【0078】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4cは、柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないように制御することもできる。この例の柱状照射野生成装置を、便宜上、上記で説明した柱状照射野生成装置4cと区別するために柱状照射野生成装置4dと呼ぶことにする。柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにすることで、呼吸同期照射に適した荷電粒子ビーム1の照射を行うことができる。例えば、RMW35aの台36の数は、実施の形態6で説明したもとと同様にし、RMW35bの台36の数は、実施の形態5で説明したもとと同様にする。柱状照射野44、45を形成する際に、線量が満了するまで荷電粒子ビーム1をRMW35aまたはRMW35bの台37を通過するようにする。これによりRMW35aを荷電粒子ビーム1が通過する場合のSOBPの幅(SOBP幅a)は1種類であり、RMW35bを荷電粒子ビーム1が通過する場合のSOBPの幅(SOBP幅b)は1種類である。しかもSOBP幅bの方がSOBP幅aよりも広いものとすることができる。なお、必ず荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにして、柱状照射野44、45を形成する場合は、変更制御装置30は制御信号Sig1を生成する必要がないので、変更制御装置30の構成を簡略化することができる。
【0079】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4dは、荷電粒子ビーム1を2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、2種類の注状照射野を所望の飛程にすることができる。柱状照射野44、45を形成する際に荷電粒子ビーム1の出射と停止を繰り返さないようにすることで、呼吸同期照射に適した荷電粒子ビーム1の照射を行うことができる。なお、2種類よりもさらに多い多種類のSOBPの幅を揃えるには、その種類数に応じたレンジシフタ9とRMW装置66を配置すればよい。
【0080】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4c、4dは、レンジシフタ9a、9bとRMW装置66a、66bに対してそれぞれに上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を設けることがなく、上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を1セットだけ設けているので、実施の形態1の柱状照射野生成装置4aに比べて、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さを短くできる。
【0081】
実施の形態7の柱状照射野生成装置4c、4dを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0082】
実施の形態8.
今まで、実施の形態1乃至7に示した粒子線照射装置は、柱状照射野生成装置4において荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更する例で説明してきた。しかし、荷電粒子ビーム1のエネルギーの変更は、シンクロトロン54のパラメータを変更することによっても実現できる。ここでは、シンクロトロン54のパラメータと深さ方向照射野拡大装置3を組み合わせて、柱状照射野44、45を生成する例を説明する。図14は、本発明の実施の形態8による粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態8の粒子線照射装置60は、実施の形態1乃至7に示した粒子線照射装置とは、柱状照射野生成装置4にエネルギー変更装置2が設けられなくても、シンクロトロン54にて荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更して柱状照射野44、45を生成する点で異なる。
【0083】
粒子線照射装置60の柱状照射野生成装置4(4e)は、深さ方向照射野拡大装置3を有する。深さ方向照射野拡大装置3は、上述した深さ方向照射野拡大装置3a、3b、3c、3dのいずれかである。照射制御装置33は、柱状照射野44、45を形成する際に、治療計画にて計画された当該柱状照射野44、45の深さ方向の位置になるようにエネルギー指令値を加速器であるシンクロトロン54に出力する。シンクロトロン54はエネルギー指令値を受け、このエネルギー指令値に従って荷電粒子ビーム1のエネルギーを変更する。所定のエネルギーとなった荷電粒子ビーム1はイオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置60に入射する。柱状照射野生成装置4(4e)にて、治療計画にて計画された所定のSOBPの幅になるように、荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、患部40の所定の位置に所定の柱状照射野44、45を形成する。
【0084】
実施の形態8の粒子線照射装置60は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。また、粒子線照射装置60は、柱状照射野生成装置4(4e)に適用された深さ方向照射野拡大装置3a、3b、3c、3dの効果を奏する。
【0085】
実施の形態9.
本発明の実施の形態9は、実施の形態1乃至8に示した粒子線照射装置を備えた粒子線治療装置である。図15は本発明の実施の形態9における粒子線治療装置の概略構成図である。粒子線治療装置51は、イオンビーム発生装置52と、イオンビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)とを備える。イオンビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、シンクロトロン54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリ(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリを有しない治療室に設置される。イオンビーム輸送系59の役割はシンクロトロン54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。イオンビーム輸送系59の一部は回転ガントリ(図示せず)に設置され、その部分には複数の偏向電磁石55a、55b、55cを有する。
【0086】
イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビームは、前段加速器53で加速され、シンクロトロン54に入射される。荷電粒子ビームは、所定のエネルギーまで加速される。シンクロトロン54から出射された荷電粒子ビームは、イオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)に輸送される。粒子線照射装置58a、58b(60a、60b)は荷電粒子ビームを患者の患部(図示せず)に照射する。
【0087】
実施の形態9の粒子線治療装置51は、実施の形態1に示した治療計画装置で作成した治療計画に基づいて、粒子線照射装置58(60)を動作させ、荷電粒子ビームを患者の患部に照射するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0088】
実施の形態9の粒子線治療装置51は、柱状の線量分布でビームを照射するので、点状に照射することに比べて照射時間が短いというメリットがある。また、多門照射ができるので、同じ患部に照射した場合、正常組織である体表面へのダメージを低減でき、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できる。
【0089】
さらに、実施の形態9の粒子線治療装置51においては、多門照射を遠隔で行えるメリットがある。遠隔多門照射とは、技師等が治療室に入って回転ガントリを操作する必要なく、治療室の外から遠隔で、患部への照射方向を多方向に変えて粒子線を照射することである。前述のように、本発明における粒子線治療装置においては、MLCやボーラスを必要としないシンプルな照射系となるため、ボーラスの交換作業及びMLCの形状確認作業が不要となる。その結果、遠隔多門照射が行え、治療時間が大幅に縮まるといった効果が得られる。
【0090】
なお、エネルギー変更装置2及び深さ方向照射野拡大装置3を有する柱状照射野生成装置4において、柱状照射野生成装置4は実施の形態2で示したエネルギー変更装置2bと実施の形態3で示した深さ方向照射野拡大装置3bを使用することもできる。
【0091】
今まで、実施の形態5乃至7において、深さ方向照射野拡大装置は、RMW35を所定の一定速度で回転させ、選択された台のみ荷電粒子ビーム1を通過させるように荷電粒子ビーム1の出射と出射停止を繰り返して複数のSOBPの幅を形成する例で説明した。RMW35を用いて複数のSOBPの幅を形成する方法は、他にもある。例えば、台36e、36fが選択されたSOBPの幅であるSOBP幅1を形成する場合で説明する。モータ62として、サーボモータやステッピングモータ等を使用する。荷電粒子ビーム1が台36fを通過する位置にして、荷電粒子ビーム1の照射を開始する。一定時間経過後、モータ62にて荷電粒子ビーム1が台36eを通過する位置にする。一定時間経過後、荷電粒子ビーム1が台36fを通過する位置にする。一定時間経過毎に台36e、36fの位置を往復するように変更することで、SOBP幅1を形成できる。台36a〜36fが選択されたSOBPの幅であるSOBP幅5を形成する場合は、一定時間経過毎に台36a〜36fの位置を往復するように変更するようにすればよい。また、一定時間経過毎に荷電粒子ビーム1を停止してから荷電粒子ビーム1が通過する台36の位置を変更し、この変更後に、荷電粒子ビーム1を出射することを繰り返してもよい。荷電粒子ビーム1を停止せずに台36a〜36fの位置を往復するように変更する場合は、呼吸同期照射にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る粒子線照射装置及び粒子線治療装置は、医療において好適に利用できる。特に過照射となってしまうIMRTの問題を解決でき、医療産業の発達に寄与するものである。
【符号の説明】
【0093】
1…荷電粒子ビーム、2、2a、2b…エネルギー変更装置、3、3a、3b、3c、3d…深さ方向照射野拡大装置、4、4a、4b、4c、4d、4e…柱状照射野生成装置、5、6、7、8…偏向電磁石、9、9a、9b…レンジシフタ、14…ビーム軸、15、16、17、18…偏向電磁石、19、19a、19b…リッジフィルタ、22…変更制御装置、25…照射野拡大制御装置、26a、26b、26c、26d…吸収体、27a、27b、27c、27d…駆動装置、28a、28b、28c、28d…リッジフィルタ、29a、29b、29c、29d…駆動装置、30…変更制御装置、34…走査照射系、35…RMW(レンジモジュレーションホイール)、36a、36b、36c、36d、36e、36f…台、37a、37b、37c…羽根(エネルギー吸収体)、40…患部、44a、44b、44c、44d、45a、45b、45c、45d…柱状照射野、52…イオンビーム発生装置、54…シンクロトロン、58、58a、58b…粒子線照射装置、59…イオンビーム輸送系、60、60a、60b…粒子線照射装置、61…角度センサ、62…モータ、65…照射野拡大制御装置、66、66a、66b…RMW装置、67a、67b…駆動装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系を備え、前記荷電粒子ビームの照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置であって、
前記粒子線照射装置は、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置を備えた粒子線照射装置。
【請求項2】
前記柱状照射野生成装置は、前記荷電粒子ビームのエネルギーを変更するエネルギー変更装置と、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大する深さ方向照射野拡大装置とを備えたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記柱状照射野生成装置は、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大する深さ方向照射野拡大装置を備え、
前記荷電粒子ビームのエネルギーは前記加速器により変更されることを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該エネルギー変更装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さを通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、前記荷電粒子ビームの前記リッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該深さ方向照射野拡大装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーが低下する複数の吸収体と、前記吸収体のそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記吸収体の合計の厚さを制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーの幅を変更する複数のリッジフィルタと、前記リッジフィルタのそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記リッジフィルタの合計の厚さを制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2、3、4及び6のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項8】
前記柱状照射野生成装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、
前記レンジシフタの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、
前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタ及び前記リッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該柱状照射野生成装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さ及び前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項9】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する位置を変えてエネルギーに幅を生じさせるRMW装置と、前記RMW装置を制御する照射野拡大制御装置とを備え、
前記RMW装置は、
軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台が周方向に配置されたエネルギー吸収体を有し、前記複数の台を前記荷電粒子ビームが通過することによってエネルギーに幅を生じさせるRMWと、
前記RWMを回転させる回転駆動装置と、を有し、
前記照射野拡大制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するように制御することを特徴とする請求項2または3に記載の粒子線照射装置。
【請求項10】
前記深さ方向照射野拡大装置は、前記RMWの回転角度を検出する角度センサを備え、前記照射野拡大制御装置は、
前記RWMを回転し続けるように回転駆動装置を制御し、前記角度センサにより検出された前記回転角度に基づいて、前記荷電粒子ビームの出射開始と出射停止を制御して、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するようにすることを特徴とする請求項9記載の粒子線照射装置。
【請求項11】
前記深さ方向照射野拡大装置は、複数の前記RMW装置と、前記RMW装置を前記荷電粒子ビームが通過する位置または通過しない位置に移動する駆動装置と、を備えた請求項9または10に記載の粒子線照射装置。
【請求項12】
前記柱状照射野生成装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、
前記レンジシフタの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する位置を変えてエネルギーに幅を生じさせるRMW装置と、
前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタ及び前記RMW装置における入射位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該柱状照射野生成装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さを通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御し、かつ前記RMW装置によりエネルギーに幅を生じさせるように制御する変更制御装置と、を備え、
前記RMW装置は、
軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台が周方向に配置されたエネルギー吸収体を有し、前記複数の台を前記荷電粒子ビームが通過することによってエネルギーに幅を生じさせるRMWと、
前記RWMを回転させる回転駆動装置と、を有し、
前記変更制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するように制御して所定のSOBPの幅を形成することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを発生させ、加速器により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置と、前記イオンビーム発生装置により加速された荷電粒子ビームを輸送するイオンビーム輸送系と、前記イオンビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、前記粒子線照射装置の照射方向を回転させる回転ガントリとを備え、
前記粒子線照射装置は、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の粒子線照射装置であることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項14】
前記粒子線照射装置及び前記回転ガントリの動作条件を含む治療計画を作成する治療計画装置を備え、
前記治療計画装置は、
前記荷電粒子ビームが照射される照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置するとともに、前記照射対象の内側に前記柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、
前記照射野配置部により前記柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、前記照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように前記柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部とを有することを特徴とする請求項13記載の粒子線治療装置。
【請求項15】
前記照射野配置部は、前記照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置した後に、前記照射対象における前記柱状の照射野が配置されていない内側の形状に応じて前記柱状の照射野を配置することを特徴とした請求項14記載の粒子線治療装置。
【請求項16】
前記照射野配置部は、前記柱状の照射野における照射方向の幅であるSOBPの幅を複数使用することを特徴とする請求項14または15に記載の粒子線治療装置。
【請求項1】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系を備え、前記荷電粒子ビームの照射方向を回転させる回転ガントリに搭載された粒子線照射装置であって、
前記粒子線照射装置は、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置を備えた粒子線照射装置。
【請求項2】
前記柱状照射野生成装置は、前記荷電粒子ビームのエネルギーを変更するエネルギー変更装置と、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大する深さ方向照射野拡大装置とを備えたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記柱状照射野生成装置は、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大する深さ方向照射野拡大装置を備え、
前記荷電粒子ビームのエネルギーは前記加速器により変更されることを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該エネルギー変更装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さを通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、前記荷電粒子ビームの前記リッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該深さ方向照射野拡大装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーが低下する複数の吸収体と、前記吸収体のそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記吸収体の合計の厚さを制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーの幅を変更する複数のリッジフィルタと、前記リッジフィルタのそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記リッジフィルタの合計の厚さを制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項2、3、4及び6のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項8】
前記柱状照射野生成装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、
前記レンジシフタの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、
前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタ及び前記リッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該柱状照射野生成装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さ及び前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項9】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する位置を変えてエネルギーに幅を生じさせるRMW装置と、前記RMW装置を制御する照射野拡大制御装置とを備え、
前記RMW装置は、
軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台が周方向に配置されたエネルギー吸収体を有し、前記複数の台を前記荷電粒子ビームが通過することによってエネルギーに幅を生じさせるRMWと、
前記RWMを回転させる回転駆動装置と、を有し、
前記照射野拡大制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するように制御することを特徴とする請求項2または3に記載の粒子線照射装置。
【請求項10】
前記深さ方向照射野拡大装置は、前記RMWの回転角度を検出する角度センサを備え、前記照射野拡大制御装置は、
前記RWMを回転し続けるように回転駆動装置を制御し、前記角度センサにより検出された前記回転角度に基づいて、前記荷電粒子ビームの出射開始と出射停止を制御して、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するようにすることを特徴とする請求項9記載の粒子線照射装置。
【請求項11】
前記深さ方向照射野拡大装置は、複数の前記RMW装置と、前記RMW装置を前記荷電粒子ビームが通過する位置または通過しない位置に移動する駆動装置と、を備えた請求項9または10に記載の粒子線照射装置。
【請求項12】
前記柱状照射野生成装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、
前記レンジシフタの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する位置を変えてエネルギーに幅を生じさせるRMW装置と、
前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタ及び前記RMW装置における入射位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該柱状照射野生成装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さを通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御し、かつ前記RMW装置によりエネルギーに幅を生じさせるように制御する変更制御装置と、を備え、
前記RMW装置は、
軸方向の厚さが段階的に異なる複数の台が周方向に配置されたエネルギー吸収体を有し、前記複数の台を前記荷電粒子ビームが通過することによってエネルギーに幅を生じさせるRMWと、
前記RWMを回転させる回転駆動装置と、を有し、
前記変更制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記複数の台を通過するように制御して所定のSOBPの幅を形成することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを発生させ、加速器により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置と、前記イオンビーム発生装置により加速された荷電粒子ビームを輸送するイオンビーム輸送系と、前記イオンビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、前記粒子線照射装置の照射方向を回転させる回転ガントリとを備え、
前記粒子線照射装置は、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の粒子線照射装置であることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項14】
前記粒子線照射装置及び前記回転ガントリの動作条件を含む治療計画を作成する治療計画装置を備え、
前記治療計画装置は、
前記荷電粒子ビームが照射される照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置するとともに、前記照射対象の内側に前記柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、
前記照射野配置部により前記柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、前記照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように前記柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部とを有することを特徴とする請求項13記載の粒子線治療装置。
【請求項15】
前記照射野配置部は、前記照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置した後に、前記照射対象における前記柱状の照射野が配置されていない内側の形状に応じて前記柱状の照射野を配置することを特徴とした請求項14記載の粒子線治療装置。
【請求項16】
前記照射野配置部は、前記柱状の照射野における照射方向の幅であるSOBPの幅を複数使用することを特徴とする請求項14または15に記載の粒子線治療装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−224342(P2011−224342A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284520(P2010−284520)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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