説明

粒状ゼリー入りヨーグルト

【課題】粒状ゼリーを別途調製する必要なく、極めて簡便な製造工程で、特有の食感が楽しめる、粒状ゼリーが均一に分散したヨーグルトを提供する。
【解決手段】(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加して、粒状ゼリー入りヨーグルトを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状ゼリーが均一に分散したヨーグルト、並びに粒状ゼリーを含有したヨーグルトを簡便に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトは乳に乳酸菌や酵母を混ぜて発酵することによって調製される発酵食品であり、美容や健康面から幅広く食されている。ヨーグルトは乳の発酵によって得られる特有の食感や呈味が特徴的であるが、他の食品に比べて商品のバラエティに欠けるといった課題を抱えていた。
【0003】
ヨーグルトに多様性を持たせるために、粒状ゼリーを含有したヨーグルトも開発されている。例えば、特許文献1には、グルコマンナンを用いて調製した耐熱性果汁ゼリーを含有するソフトヨーグルトが、特許文献2には、アルギン酸ナトリウムを用いて調製した粒状ゼリーを分散、もしくは上部に乗せた発酵乳食品が開示されている。特許文献3には、内包液として種々の液状飲食品を内包させたカプセル体を、異種のゾル状若しくはゲル状飲食品に分散させた、カプセル体を含有する飲食品が開示されている。
【0004】
特許文献4には、エステル化度20%以下のペクチン、二価金属イオン及び水を含有するゲル状物含有液状組成物が開示されており、ペクチン及び乳酸カルシウムを用いて調製された模擬果肉ソースがトッピングされたヨーグルトが開示されている。しかし、特許文献4には粒状ゼリー入りヨーグルトについて何ら具体的検討はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−37712号公報
【特許文献2】特開平04−108335号公報
【特許文献3】特開平02−113863号公報
【特許文献4】特開2004−194661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来調製されてきた粒状ゼリー入りヨーグルトは、粒状ゼリーを事前に調製した後に、ヨーグルトに添加する必要があり、別途タンクや撹拌設備が必要となるなど、製造工程が煩雑となるといった課題を抱えていた。加えて、粒状ゼリーをヨーグルトに均一に分散させるために、撹拌工程時の撹拌強度を強めたり、撹拌時間を長くすることにより、ゼリーが変形する、ゼリー中からの色移りや味移りが発生するといった課題を抱えていた。
【0007】
本発明では、粒状ゼリーを別途調製する必要なく、簡便な製造工程で、且つ均一に粒状ゼリーが分散した、粒状ゼリー入りヨーグルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することにより、極めて簡便な製造工程にも関わらず、粒状ゼリーが均一に分散したヨーグルトを提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒状ゼリーを別途調製する必要なく、極めて簡便な製造工程で、特有の食感が楽しめる、粒状ゼリーが均一に分散したヨーグルトを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のヨーグルトは、(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することにより得られる。
【0011】
本発明で用いる(A)ヨーグルトベースは、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌又は酵母で発酵させた発酵乳を破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・s、好ましくは50〜2,000mPa・sの範囲に調整することを特徴とする。本発明において、10℃における粘度とは、ヨーグルトベースを10℃の条件下で、BL型回転粘度計を用いて回転数60rpmで1分間測定することによって求められる。以下、本明細書中でいう「粘度」とは、本方法によって測定された値を示す。
【0012】
発酵後の発酵乳の破砕方法としては、例えばプロペラ撹拌機やホモミキサー、ホモジナイザーを用いて破砕する方法などが挙げられ、破砕の程度を調整することにより、ヨーグルトベースを上記粘度の範囲に調整可能である。
本発明ではまた、ヨーグルトベース中にゼラチン、寒天、ペクチン、ジェランガム、大豆多糖類、アラビアガム、ガティガム、ローカストビーンガム、グァーガムや加工澱粉等を添加することにより、ヨーグルトベースの粘度を上記粘度に調整することも可能である。
例えば、発酵前にゼラチンや寒天を乳等に添加して、発酵乳を得ることも可能であり、また、発酵後の発酵乳に上記素材を添加することにより、発酵乳の粘度を調整することも可能である。
【0013】
本発明で用いるヨーグルトベースは、上記特定粘度に調整する以外は通常のヨーグルトと同様の構成をとることができ、即ち、乳原料、乳酸菌(スターター)、水、糖質、安定剤、油脂、乳化剤、着香料、着色料、風味調整剤、酸化防止剤等より選択された添加材料を、所定の割合で混合させ溶融したものが用いられる。
【0014】
本発明はかくして得られた(A)ヨーグルトベースに(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・s、好ましくは50〜2,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃、好ましくは5〜40℃のカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を添加することを特徴とする。また、本発明では、カチオン反応性ゲル化剤含有溶液を添加する際の(A)ヨーグルトベースの液温が、好ましくは5〜45℃、更に好ましくは5〜10℃に調整されていることが望ましい。
【0015】
本発明におけるカチオン反応性ゲル化剤は、カチオンと反応してゲル化する性質を有するゲル化剤を用いることができ、例えばLMペクチン、アルギン酸又はその塩、及び脱アシル型ジェランガムから選択される一種以上を例示できる。本発明では好ましくは、LMペクチン及び/又は脱アシル型ジェランガムを使用できる。LMペクチン(ローメトキシルペクチン)は、エステル化度が50%以下、好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下のものを使用することが望ましい。
【0016】
本発明では、カチオン反応性ゲル化剤含有溶液を10℃で10〜3,000mPa・sの粘度及び5〜45℃の温度(液温)に調整後、ヨーグルトベースに添加することを特徴とする。カチオン反応性ゲル化剤含有溶液の粘度が10℃で3,000mPa・sを超えると、ゲル化剤溶液がヨーグルト中で塊状となり、撹拌を行っても粒状ゼリーを得ることが困難となる。
【0017】
カチオン反応性ゲル化剤含有溶液の濃度は、好ましくは0.05〜15質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。特に好ましくは、上記濃度の(B)カチオン反応性ゲル化剤含有溶液を、調製した(A)ヨーグルトベース100質量部に対し、1〜50質量部添加することにより、十分なゼリー強度を有する粒状ゼリー入りヨーグルトを提供することが可能である。
【0018】
本発明は、(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することを特徴とする。添加方法は、(B)ゲル化剤含有溶液を(A)ヨーグルトベースに滴下する方法、(A)ヨーグルトベースを撹拌しながら(B)ゲル化剤含有溶液を添加する方法(注ぎ入れる方法、滴下方法等)が挙げられ、製造設備や目的とする粒状ゼリーの形状に応じて適宜調整することが可能である。
【0019】
(A)ヨーグルトベースを撹拌しながら(B)ゲル化剤含有溶液を添加する場合は、回転数100〜1,500rpmのプロペラ撹拌条件下で添加することが望ましい。当該撹拌条件は、300mLビーカーに、200mLのヨーグルトベースを添加した場合を想定した撹拌条件である。撹拌条件は、ヨーグルトベースを含有する設備(タンク等)の容量や、設備中におけるヨーグルトベースの添加量に応じて適宜調整されるため、本発明では、製造条件に応じて、上記撹拌条件(100〜1,500rpm)と同程度となるように撹拌条件を設定することが可能である。
【0020】
更に本発明者らは、(A)ヨーグルトベースを撹拌しながら、ロート等を用いてヨーグルトベース内部から(B)ゲル化剤含有溶液を注入することにより、より大きく、食べ応えのある粒状ゼリーを含有したヨーグルトを調製できるとの知見を得た。本方法は、(A)ヨーグルトベース上部から(B)ゲル化剤含有溶液を添加する方法とは異なり、ヨーグルトベース内部にゲル化剤含有溶液を直接注入する方法である。例えば、(A)ヨーグルトベース上部から(B)ゲル化剤含有溶液を滴下する方法では、ゲル化剤含有溶液を滴下するノズルの口径によって、調製されるゼリーの大きさに限度があったが、本方法はそのような制限がないという利点を有する。
【0021】
以上のように、本発明では、(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することにより、粒状ゼリーを別途調製することなく、ヨーグルト中で粒状ゼリーが形成され、且つ形成された粒状ゼリーがヨーグルト中に均一に分散した粒状ゼリー入りヨーグルトを提供することが可能となった。これにより、別途粒状ゼリーを調製する必要もなく、既存の設備に応じて粒状ゼリーが均一に分散したゼリー入りヨーグルトを提供することが可能となった。
【0022】
本発明における粒状ゼリーはさのう状、球状、ドロップ状等、各種形態をとることが可能である。
【0023】
その他、本発明の効果に影響を与えない程度において、(A)ヨーグルトベースや(B)カチオン反応性ゲル化剤含有溶液には、多糖類、乳化剤、甘味料、香料等を適宜添加することが可能である。
【0024】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、部は重量部を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品を表し、文中の「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0025】
実験例1 粒状ゼリー入りヨーグルトの調製
(1)ヨーグルトベースの調製
表1の処方に従い、ヨーグルトベースを調製した。具体的には、水に牛乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、砂糖、ヨーグルト安定剤を添加し、70℃で10分間撹拌溶解した。水にて全量が100%となるように補正後、均質化処理(150kgf/cm)を行い、90℃で10分間加熱殺菌後、40℃まで冷却した。スターターを添加後、40℃でpH4.5となるまで発酵した後に、プロペラ撹拌によってカードを破砕した。破砕したヨーグルトベースを10℃以下に冷却した。得られたヨーグルトベースの粘度は854mPa・sであった。(ヨーグルトベースを10℃に調整し、5分間静置した後、10℃条件下で、BL型回転粘度計(ローターNo.3)を用いて回転数60rpmで1分間測定した値である。以下、本文中にて「粘度」とは、本条件で測定した値を示す。)
【0026】
【表1】

【0027】
注1)「ゲルアップ※YO-H(F)*」:寒天、ゼラチン及びデキストリン含有製剤を用いた。
【0028】
(2)カチオン反応性ゲル化剤含有溶液の調製
表2の処方に従って、カチオン反応性ゲル化剤含有溶液を調製した。具体的には、水に砂糖、甘味料、各種ゲル化剤を添加し、90℃にて10分間撹拌溶解した。色素、香料を添加して更に1分間撹拌溶解後、容器へ充填し、10℃まで冷却した。
【0029】
【表2】

【0030】
注2)エステル化度15%のLMペクチンを使用した。
【0031】
(3)粒状ゼリー入りヨーグルトの調製
(1)で調製したヨーグルトベースに、(2)で調製したカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を10℃の条件で添加することにより、粒状ゼリー入りヨーグルトを調製した。
実施例1、2:1000mLビーカーにヨーグルトベースを500g充填後、回転数500rpm(プロペラ4枚羽)で撹拌しながら、上部からカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を125g注ぎ入れた(ヨーグルトベース:カチオン反応性ゲル化剤含有溶液=4:1)。
実施例3、4:300mLビーカーにヨーグルトベースを200g充填後、回転数650rpm(プロペラ3枚羽)で撹拌しながら、上部からカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を40g注ぎ入れた(ヨーグルトベース:カチオン反応性ゲル化剤含有溶液=5:1)。
【0032】
実施例5、6:1000mLビーカーにヨーグルトベースを500g充填後、回転数200rpm(プロペラ4枚羽)で撹拌しながら、ヨーグルトベース中にロートを用いて、ヨーグルトベースの内部からカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を125g注ぎ入れた(ヨーグルトベース:カチオン反応性ゲル化剤含有溶液=4:1)。
【0033】
実施例1〜6のいずれも、極めて簡便な製造工程にも関わらず、果実さのうに類似した形状を有する粒状(さのう状)ゼリーが均一に分散したヨーグルトが得られた。当該ヨーグルトは果実さのうが入っているかのような食感を有していた。同添加条件で調製した実施例1及び2、実施例3及び4は、いずれもカチオン反応性ゲル化剤含有溶液の粘度が高い実施例2及び4の方が、実施例1及び2に比べて、より大きい粒状ゼリーを形成していた。また、ヨーグルトベース:カチオン反応性ゲル化剤含有溶液の配合比が5:1である実施例3及び4の粒状ゼリーは、実施例1及び2よりも、柔らかなゼリーが調製された。
ロートを用いてヨーグルトベースの内部からカチオン反応性ゲル化剤含有溶液を添加した実施例5、6の粒状ゼリー入りヨーグルトは、特に、実施例1〜4に比較して大きな粒状(さのう状)ゼリーが得られ、より食べ応えのある食感を有するヨーグルトであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することにより得られる、粒状ゼリー入りヨーグルト。
【請求項2】
(A)発酵後に破砕して、10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整したヨーグルトベースに対し、(B)10℃における粘度を10〜3,000mPa・sの範囲に調整した、5〜45℃のカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を添加することを特徴とする、粒状ゼリー入りヨーグルトの製造方法。
【請求項3】
上記カチオン反応性のゲル化剤含有溶液をヨーグルトベースに添加する際の撹拌速度が100〜1,500rpmである、請求項2に記載の粒状ゼリー入りヨーグルトの製造方法。
【請求項4】
上記ヨーグルトベースに対するカチオン反応性のゲル化剤含有溶液の添加方法が、ヨーグルトベースを撹拌しながら、ヨーグルトベースの内部にカチオン反応性のゲル化剤含有溶液を注入する方法である、請求項2又は3に記載の粒状ゼリー入りヨーグルトの製造方法。


【公開番号】特開2012−85606(P2012−85606A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237196(P2010−237196)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】