説明

粒状多孔性アンモ酸化触媒

プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。該触媒の効率的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に好適に用いられる粒状多孔性アンモ酸化触媒に関する。さらに詳しくは、本発明は、粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒に関する。本発明はまた、該触媒の効率的な製造方法に関する。本発明の触媒は、目的生成物の収率が高く、また工業的使用に適した高い耐摩耗強度を有するため、本発明の触媒を用いて流動床反応器でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応を行うと、高収率で安定的にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができ、工業的に有利である。
従来技術
プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールと分子状酸素およびアンモニアとの反応である、いわゆるアンモ酸化反応によりアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する方法はよく知られており、このアンモ酸化反応に用いられる触媒も多数提案されている。具体的には、主に、日本国特公昭38−17967号公報に見られるようなモリブデン、ビスマスおよび鉄を含む酸化物触媒系と日本国特公昭38−19111号公報に見られるようなアンチモンおよび鉄を含む酸化物触媒系に対して種々の観点から改良が続けられている。
触媒組成に着目した改良が進み、性能向上に寄与してきた一方で、触媒の物理構造に着目した取り組みはあまり知られいないが、そのような取り組みの例としては、日本国特公昭57−56373号公報(USP4,264,476に対応)では、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルトおよびジルコニウムを必須成分とする触媒に対して、また日本国特開昭57−75147号公報では、モリブデン、ビスマスおよびアンチモンを必須成分とする触媒に対して、それぞれ、シリカ担体含量、平均細孔径、全細孔容積および比表面積を特定範囲に規定したプロピレンのアンモ酸化用の触媒が開示されている。
上記2つの特許文献(触媒の物理構造に着目したもの)では、流動床反応器で使用するためのアクリロニトリル製造用触媒に関して物理構造を規定しているが、触媒の細孔分布については何らの開示も無い。
一方、酸化物触媒の細孔分布に着目した提案は、以下に挙げる各特許文献に開示されている。日本国特開昭57−119837号公報は、2000Å以上の平均細孔径を有する、固定床反応器で使用するためのオレフィンの酸化用触媒を開示している。日本国特開昭58−113141号公報(GB2030885Aに対応)はメタクロレインの製造方法を開示し、その請求項3において、「触媒の表面積の3%以下が、100Åより小さい直径を有する気孔により占められる」という記載がある。またWO03/039744号公報では、プロピレンを酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造するための工業用触媒に関して、細孔分布を含む物理構造を細かく規定した金属酸化物触媒が開示されている。
しかし、上記日本国特開昭57−119837号公報では請求項1に「固定床反応器で使用するための触媒」との記載がある。また、触媒の平均細孔半径が2000Å以上とかなり細孔径が大きいので強度が低いと考えられ、また、押出成形触媒(実施例では、直径4mm、長さ4〜8mmの円柱状成形体)であり、流動性に乏しいと考えられることから、この触媒を流動床反応器で使用できないのは明らかである。上記日本国特開昭58−113141号公報はメタクロレインの製造法に関するものであり、また、反応形式を規定してはいないが、実施例に「直径4.8mmのペレットとする」と記載されているので、流動性に乏しく、固定床反応であることは明らかであり、この触媒も流動床反応器には使用できない。上記WO03/039744号公報では、反応形式を規定してはいないが、触媒において、細孔直径が0.1〜1μmの範囲内にある細孔により占められる細孔容積が全細孔容積のうちの20%以上と大細孔割合が大きいので、強度が低いと考えられ、また、実施例に「径5mm、高さ4mmの錠剤に打錠成形」という記載があり、流動性に乏しいと考えられることから、固定床反応器用の触媒であることが判り、やはり流動床反応器には使用できない。
また、USP3,397,153号公報と日本国特公平2−47264号公報(USP4,590,173およびEP0153077Bに対応)は、粒子の平均直径の異なる2種のシリカゾルからなるシリカ原料を用いる焼結低密度触媒の製造法であるが、何れも触媒の細孔分布に関するデータについては何らの開示も無い。前者は低密度化で経済性の向上を図るのが目的であり、後者はアンチモン含有酸化物触媒における強度の改善が低密度化の目的であり、触媒の細孔分布と目的生成物収率との間の関係については何らの示唆もなく、また、目的生成物収率の改善された酸化物触媒に関しては何らの示唆もない。
なお、これら従来技術の触媒は、いずれも、目的生成物収率が未だ十分満足できるものではない。従って、流動床反応器でのプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応に用いて、高収率で安定的にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができる触媒が望まれていた。
発明の概要
このような状況下において、本発明者らは、従来技術の上記諸問題を解決するために鋭意研究を行った。すなわち、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いるアンモ酸化触媒であって、目的生成物を高い収率で安定して工業的に製造することのできる触媒の開発を目指して研究を行った。その結果、意外にも、流動床アンモ酸化反応に用いる粒状触媒において、細孔直径80Å以下の微細孔の積算容積が特定範囲を超えないと目的生成物の高い収率が得られること、また細孔直径1000Å以上の大細孔の積算容積が特定範囲を超えないと触媒粒子の耐摩耗強度が高くなることを見出した。また、このことから、触媒の細孔分布を特定の範囲に制御することにより、目的生成物の収率が大きく向上し、また、流動床触媒としての工業的使用に適した高い耐摩耗強度が得られることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
従って、本発明の一つの目的は、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールの流動床アンモ酸化反応によるアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造に用いる触媒であり、目的生成物の収率が高く、また工業的使用に適した高い耐摩耗強度を有するため、目的生成物を高収率で安定的に製造することができる粒状多孔性アンモ酸化触媒を提供することにある。
本発明の他の一つの目的は、上記の触媒の製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の一つの目的は、上記の触媒を用いたアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法を提供することにある。
発明の詳細な説明
本発明の一つの態様によれば、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、
金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、
該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また
該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、
ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒が提供される。
本発明の他の一つの態様によれば、上記触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物を提供し、
該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%であり、
該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成して、上記触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法が提供される。
本発明の他の一つの態様によれば、上記触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法が提供される。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴および好ましい態様を列挙する。
1.プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、
金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、
該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また
該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、
ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。
2.該金属酸化物が下記の式(1)で表される前項1に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
Mo12BiFe (1)
(式中:
Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐、アンチモンおよびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そして
a,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、
aは0.05〜7、
bは0.1〜7、
cは0〜12、
dは0〜5、
eは0〜5、
fは0〜0.2、
gは0.01〜5、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
3.該シリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%である前項1または2に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
4.前項1の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物を提供し、
該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%であり、
該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成して、前項1の触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法。
5.該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を150〜430℃の温度範囲で行い、該本焼成を450〜750℃の温度範囲で行う前項4に記載の方法。
6.前項1〜3のいずれかの触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
7.前項4または5の方法で製造した触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の触媒は、金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、
該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また
該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、
ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒である。
好ましくは、シリカ担体に担持された金属酸化物が下記の式(1)で示される粒状多孔性アンモ酸化触媒である。
Mo12BiFe (1)
式中:
Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐、アンチモンおよびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そして
a,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、
aは0.05〜7、
bは0.1〜7、
cは0〜12、
dは0〜5、
eは0〜5、
fは0〜0.2、
gは0.01〜5、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
なお、上記式(1)において、
Cは、好ましくは、Ni、Co、Zn、MnおよびMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Eは、好ましくは、La、Ce、PrおよびNdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Gは、好ましくは、K、RbおよびCsよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
aは、好ましくは0.1〜3、
bは、好ましくは0.1〜3、
cは、好ましくは5〜10、
eは、好ましくは0.05〜2、
gは、好ましくは0.05〜1.0である。
また、本発明の触媒の金属酸化物が上記式(1)で表される場合において、金属酸化物が下記の式(2)または式(3)で表されることがさらに好ましい。
Mo12(Bi1−iCeFeNi (2)
式中:
Mo、Bi、Ce、FeおよびNiは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、セリウム、鉄およびニッケルを表し、
Qはマグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Rはカリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そして
k、l、m、q、rおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)とセリウム(Ce)の合計、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、Q、Rおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、
k=0.5〜2、
l=0.1〜3、
m=4〜10、
q=0〜3、
r=0.01〜0.5、
iはビスマスとセリウムの合計に対するセリウムの原子比率を表し、i=0.6〜0.8であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
Mo12BiFeNi (3)
式中:
Moはモリブデンを表し、Biはビスマスを表し、Feは鉄を表し、Niはニッケルを表し、
Tはクロムおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Rはカリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Xはマンガン、マグネシウム、亜鉛、セリウム、ナトリウムおよびリンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そして
h、p、s、t、r、xおよびnはそれぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、T、R、Xおよび酸素(O)のモリブデン12原子に対する原子比を表し、
h=0.1〜3、
p=0.1〜3、
s=4〜10、
t=0.1〜2、
r=0.01〜0.5、
x=0〜3であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
本発明の触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有する。粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90重量%未満になると、粒子直径が5μmより小さい粒子や粒子直径が200μmを超える粒子の量が大きくなり過ぎて、触媒の流動性の悪化とそれに伴う反応成績の悪化が生じる。
本発明の触媒の細孔分布に関しては、組孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布である。
細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。また、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%を超えると、目的生成物(アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル)収率の低下が見られる。一方、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積の20%を超えると、触媒の耐摩耗強度の低下が見られ、工業用流動床触媒として使用するのに適切な耐摩耗強度が得られず、目的生成物の安定な製造を行なうことができない。なお、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%を超えた場合に目的生成物の収率が下がる原因はまだ解明されていないが、細孔直径80Å以下の微細孔では、反応生成物の滞留時間が長くなり、反応生成物の分解が促進される結果、目的生成物の収率低下を引き起こすものと考えられる。
触媒の細孔分布の測定方法としては、ガス吸着法や水銀圧入法などが知られているが、測定法によって値が異なる。本発明における細孔分布の値は、水銀圧入法(日本国島津製作所社製 オートポア9200を使用)により求めたものである。ここで水銀圧入法とは、触媒粒子内部に水銀を圧入させて、その時の圧力と浸入量の関係から細孔径の分布を測定するものであり、これは1次データとして、細孔の形状が円筒形であると仮定して計算された細孔直径に対する細孔容積の積算カーブを与える。この細孔容積の積算カーブを細孔直径で1次微分した値を対応する細孔直径に対してプロットしたものが、通常、細孔分布と呼ばれるものである。詳しくは、ディラトメーター(膨張計)に試料(触媒)0.3〜0.4gを入れ、真空ポンプで6.67Pa以下に脱気した後、水銀を注入し、次いでディラトメーターをオートクレーブに装填し、常圧から徐々に413MPaまで圧力をかけて水銀液面の低下を追跡し、圧力と水銀液面の変化(触媒細孔への水銀の圧入量)から細孔分布を測定するものである。
本発明の触媒の場合、水銀圧入法を用いると触媒粒子間の間隙を数万Åから数十万Åの細孔として測定することになるので、本発明では、細孔直径5000Å以下の細孔の積算容積を全細孔容積とした。
先述の水銀圧入法により得られる細孔直径に対する細孔容積の積算カーブにおいて、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は、細孔直径が測定下限値(約30Å)から80Åまでの細孔の積算容積として計測され、細孔直径1000Å以上の積算容積は、細孔直径が1000Åから5000Åまでの細孔の積算容積として計測され、全細孔容積は、細孔直径の測定下限値から5000Åまでの細孔の積算容積として計測される。
細孔分布を制御するための手段としては、シリカ原料であるシリカゾルの粒子径(シリカ1次粒子の平均粒子直径)を変化させたり、触媒におけるシリカ担体と金属酸化物の比率を変えたり、焼成温度を変更したり、シリカ原料の一部としてヒュームドシリカを使用したり、後述する触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)の中に、空気中焼成温度以下で燃焼・分解する微細な物質を混入しておき、噴霧乾燥して焼成する、などの手段で達成することが出来る。具体的には、シリカ担体と金属酸化物の比率を変えて細孔分布を制御する場合、金属酸化物比率を高めると細孔分布は大孔径側にシフトする。また、焼成温度の変更によって細孔分布を制御する場合、焼成温度を高めると細孔分布は大孔径側にシフトする。さらに、触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)の中に、空気中焼成温度以下で燃焼・分解する微細な物質を混入しておくことによって細孔分布を制御する場合、混入した微細な物質が燃焼・分解して出来る空間が孔となるので、混入する微細な物質の大きさは100〜1000Å、好ましくは、200〜500Åで、素材としては、燃焼後に成分の残存が無い有機物を用いるのが好ましい。(このような微細な物質としては、例えば、水分散性の良い結晶性セルロースのゾルやポリスチレンのマイクロエマルジョンなどが挙げられる。)シリカ原料であるシリカゾルの粒子径(シリカ1次粒子の平均粒子直径)を変化させることによる方法と、シリカ原料の一部としてヒュームドシリカを使用することによる方法については後述する。なお、本発明の触媒の物理構造要件(細孔分布)を達成するための手段はこれらの例に限定されるものではなく、本発明の触媒の物理構造要件(細孔分布)を達成できる限りどのような手段も用いることができる。
触媒は工業的使用に適する高い耐摩耗強度を有することが重要である。触媒の耐摩耗強度については、流動接触分解触媒の耐摩耗性試験法として知られている“Test Method for Synthetic Fluid Cracking Catalyst”(American Cyanamid Co.Ltd.6/31−4m−1/57)に記載の方法(以下「ACC法」と称する)に準じて摩耗損失として測定を行った。この摩耗損失は以下のように定義される。
摩耗損失(%)=B/(C−A)×100
[上記式において、Aは0〜5時間に摩耗逃散した触媒の重量(g)、Bは通常5〜20時間に摩耗逃散した触媒の重量(g)であるが、本発明では、これを5〜120時間に摩耗逃散した触媒の重量(g)とする。Cは試験に供した触媒の重量(g)である。]
触媒の摩耗損失の値が7%以下である場合、工業的使用に適する高い耐摩耗強度を有すると判断できる。
本発明の触媒においては担体としてシリカが用いられる。シリカは他の担体に比べそれ自身不活性であり、目的生成物に対する選択性を減ずることなく、金属酸化物に対し良好なバインド作用を有する。さらに、担持された金属酸化物に高い耐摩耗性を与えることができるため、本発明の触媒における担体として適切である。シリカ担体の量は、シリカ担体と金属酸化物の合計重量に対して20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、更に好ましくは40〜60重量%の範囲である。
またチタニア、ジルコニア、錫等の酸化物ゾルをシリカゾルに混合して用いることもできるが、この場合は、これらシリカゾル以外の酸化物ゾルの量は、酸化物基準で担体重量の10%以下となる量であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
使用するシリカゾルの不純物としてはアルミニウムが挙げられる。シリカゾルにおける不純物としてのアルミニウムの量は、好ましくは、珪素100原子当たりアルミニウム0.04原子以下であり、さらに好ましくは、珪素100原子当たりアルミニウム0.02原子以下である。なお、シリカゾルにおけるアルミニウムの量は0でもよいが、珪素100原子当たりアルミニウム0.02原子の値よりも小さい値にしても、触媒の更なる性能向上に寄与することはない。シリカゾルについては、半導体表面の研磨剤、石英ファイバー用原料、触媒の担体原料などの用途の為に極めて純度の高い製品の製法が発表されている。例えば、特開昭60−127216号公報、特開昭61−158810号公報、特開昭63−285112号公報、特開平4−231319号公報、特開平5−85718号公報、特公昭55−10534号公報などに、不純物アルミニウム含量の特に少ないシリカゾルの製法が開示されている。シリカゾル中の不純物としてのアルミニウムの量は、ICP(inductively coupled plasma)発光分光分析法で測定できる。
特に、本発明の触媒の物理構造要件(細孔分布)を担体原料であるシリカゾルの変更で達成する場合に有効なのは、該シリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%である、ことである。該シリカゾル(i)のシリカ1次粒子の平均粒子直径が20nm以上40nm未満である場合は、該シリカゾル(i)の量は、該シリカゾル(i)と該シリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計に対してシリカ基準で80〜100重量%であることが好ましい。該シリカゾル(i)のシリカ1次粒子の平均粒子直径が40nm以上60nm未満である場合は、該シリカゾル(i)の量は、該シリカゾル(i)と該シリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計に対してシリカ基準で60重量%以上80重量%未満であることが好ましい。該シリカゾル(i)のシリカ1次粒子の平均粒子直径が60〜100nmである場合は、該シリカゾル(i)の量は、該シリカゾル(i)と該シリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計に対してシリカ基準で40重量%以上60重量%未満であることが好ましい。該シリカゾル(ii)(シリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル)は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が7〜15nmであることがより好ましい。
本発明の触媒の物理構造要件(細孔分布)をヒュームドシリカの利用で達成する場合には、シリカ原料の一部として、シリカ1次粒子の平均直径が5〜30nmのヒュームドシリカをシリカ担体の重量に対して10〜50重量%の量で用いるのが好ましい。ヒュームドシリカの1次粒子の平均直径は10〜20nmがより好ましい。また、ヒュームドシリカの量は、シリカ担体の重量に対して20〜40重量%であることがより好ましい。
担体原料となるシリカゾルおよびヒュームドシリカのシリカ1次粒子の平均直径は、BET法、電子顕微鏡法など公知の方法によって求めることができるが、本発明におけるシリカ1次粒子の平均直径は、BET法、即ちBET吸着等温式(Brunauer−Emmett−Teller adsorption isotherm)で求めたシリカ1次粒子の平均直径のことである。具体的には、シリカゾルの場合は100〜200℃の温度でゾルの分散媒である水を蒸発させ、粉体とした後に、液体窒素温度で窒素を飽和吸着させ、室温に戻した時の窒素の脱離量より、粉体の比表面積S(m2/g)を算出する。そして、シリカの1次粒子を全て同一直径D(nm)の球形と仮定し、シリカゾル中のシリカ粒子(アモルファスシリカ)の比重(ρ)を2.2とし、1gあたりのシリカ1次粒子の個数をnとすると、直径D(nm)は下記式により求めることができる。
ρ=4/3×π×(D×10−7/2)×n
S=4×π×(D×10−9/2)×n
従って、
D=6000×ρ/S
なお、本発明の触媒の物理構造要件を達成するために細孔分布を制御するには、シリカ原料であるシリカゾルのシリカ1次粒子直径を変えるのが最も有効である。一般的に、シリカゾルのシリカ1次粒子直径を大きくすると、得られる触媒の強度が下がる傾向にある。一方、工業的な流動床触媒は高い強度を有することが望ましい。従って、従来は一般に、シリカ原料として、シリカ1次粒子の平均粒子直径が十数nmのシリカゾルが使われていた。そして、このようなシリカゾルを用いると、得られる触媒において細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は該触媒の全細孔容積に対して20%を越えるので、本発明の触媒の物理構造要件を満足しない。また単一のシリカゾルを用いる場合、シリカ1次粒子の平均粒子直径が比較的小さいと、触媒の細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は触媒の全細孔容積に対して20%を越えやすく、また、シリカ1次粒子の平均粒子直径が比較的大きいと、触媒の細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が触媒の全細孔容積に対して20%を越えやすく、本発明の触媒の物理構造要件を満足することは容易ではない。従って、従来技術の文献に記載される触媒の製造方法では、本発明の触媒の物理構造要件を満足する触媒を得るのは実質的に不可能である。
次に本発明の触媒の製造方法について詳細に説明する。
本発明の触媒は、例えば、以下の製造方法によって効率的に製造することができる。即ち:
本発明の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物を提供し、
該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%であり、
該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成して、本発明の触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法である。
この製造方法を詳しく説明する。本発明の触媒の製造方法は、水性原料混合物を提供する第1の工程(原料調合工程)、該水性原料混合物を噴霧乾燥して乾燥触媒前駆体を得る第2の工程(乾燥工程)、そして該乾燥触媒前駆体を焼成する第3の工程(焼成工程)を含む。以下、これらの工程を詳しく説明する。
第1工程(原料調合工程)
第1の工程では、触媒原料から触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)を得る。モリブデン、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、硼素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、燐、アンチモン、テルル、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどの各元素の元素源としては、水または硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩、無機酸などを挙げることができる。特にモリブデン、タングステンおよびバナジウムの各元素の元素源としてはアンモニウム塩が、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの各元素の元素源としては、それぞれの硝酸塩が、ニオブ、硼素、燐およびテルルの各元素の元素源としては無機酸が好ましい。またアンチモンを触媒原料として用いる時には、アンチモン酸化物を好適に用いることができる。
これらの触媒原料の中でアンチモンおよびニオブの元素源などの水に難溶性の原料に関しては、クエン酸、蓚酸、酒石酸および過酸化水素などの水溶性のキレート剤を使うなどして溶解させてから用いるのが好ましい。
なお、難溶性のニオブ酸の溶解性を高めるためには、例えば、日本国特開平11−47598号公報に記載されている様に、ニオブ酸とジカルボン酸(例えばシュウ酸)とアンモニアを含む水性混合物であり、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4でアンモニア/ニオブのモル比が2以下であるニオブ酸含有水性混合物として用いることが好ましい。
また三酸化二アンチモンは水に難溶であるが、メタバナジン酸アンモニウム、あるいは、メタバナジン酸アンモニウムとパラモリブデン酸アンモニウムを三酸化二アンチモンと共に水に入れ、得られる水性混合物を80℃以上沸点以下(沸点は通常約100℃)に加熱することにより溶解させることができる。
本発明の触媒の製造に用いるシリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%である。
触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)の調製は、シリカ原料であるシリカゾルに、水に溶解させたモリブデンおよびタングステンなどのアンモニウム塩を加え、次に、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどの各元素の元素源の硝酸塩を水または硝酸水溶液に溶解させた溶液を加えることによって行なうことができる。シリカ原料の一部としてヒュームドシリカを用いる場合や、燐を含有する触媒を調製する際には、予め水にヒュームドシリカを懸濁させたものをシリカゾルと混合してシリカ混合液を得、さらに燐酸を該シリカ混合液に加える。このようにして、水性原料混合物を調製することができる。その際、上記の添加の順序を変えることもできる。
また水に難溶性の上記の元素源に関しては、前記したような可溶化処理を行い、適宜加えることができる。
第2工程(乾燥工程)
第2の工程では、上記の第1の工程で得られた該水性原料混合物を噴霧乾燥して球状の乾燥粒子(乾燥触媒前駆体)を得る。水性原料混合物の噴霧は、工業的に通常用いられる遠心方式、二流体ノズル方式および高圧ノズル方式等の方法によって行うことができるが、特に遠心方式で行うことが望ましい。乾燥のための熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。乾燥機入口の温度は100〜400℃、好ましくは150〜300℃である。乾燥機出口の温度は100〜170℃、好ましくは120〜150℃である。
第3工程(焼成工程)
第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥粒子(乾燥触媒前駆体)を焼成することで所望の触媒を得る。乾燥触媒前駆体の焼成は、所望によりまず、酸素を含む雰囲気下(例えば空気雰囲気下)、150〜430℃で30分〜10時間の前段焼成(任意である)を行い、その後、酸素を含む雰囲気下(例えば空気雰囲気下)、450〜750℃、好ましくは500〜700℃の温度範囲で1〜20時間本焼成を行う。この前段焼成は、アンモニウム塩である原料と硝酸塩である原料に由来する硝酸アンモニウムを燃焼させるために行う。このとき、燃焼が爆発的に起こると触媒粒子の形状に歪みが生じたり、粒子自体に割れが生じて、流動性や耐摩耗強度に支障を生じる恐れがあるため、比較的低温でゆっくり燃焼させる。なお焼成は回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。
焼成終了後の触媒の粒度分布については以下のようにして測定する。粒度分布とは、或る範囲の粒子径を有する触媒粒子の全触媒粒子に対する重量百分率のことである。本発明における粒度分布は以下のように測定する。目開き5μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)の上に目開き200μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)を乗せ、一番下に受器を取り付け、最上段に触媒サンプルを導入し、振動させることにより、目開き5μmの篩に残った触媒を得、その量を導入触媒量で割り返して100を掛けた値(%)を得る。本発明の触媒においては、この値が90〜100(%)である。
本発明の優れた触媒は、このように簡便な方法で得ることができる。こうして得られた本発明の触媒を用いて、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることによりアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができる。反応は、流動床反応器で実施される。原料のプロピレン、イソブテン、3級ブタノールおよびアンモニアは、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのものを使用することができる。また、分子状酸素源としては、通常空気を用いるのが好ましいが、酸素を空気と混合するなどして酸素濃度を高めたガスを用いることもできる。原料ガスの組成として、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールに対するアンモニアと分子状酸素のモル比は、(プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノール)/アンモニア/分子状酸素=1/0.8〜1.4/1.4〜2.4、好ましくは1/0.9〜1.3/1.6〜2.2の範囲である。また、反応温度は350〜550℃、好ましくは400〜500℃の範囲である。反応圧力は常圧〜0.3MPaの範囲で行うことができる。原料ガスと触媒との接触時間は0.5〜20(sec・g/cc)、好ましくは1〜10(sec・g/cc)である。
本発明において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P/0.10
式中、
Wは触媒の量(g)、
Fは標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
Tは反応温度(℃)、そして
Pは反応圧力(Mpa)を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明を、実施例と比較例によって更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
全ての実施例および比較例において調製した触媒につき、篩を用いて粒度分布の測定を行った。具体的には、目開き5μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)の上に目開き200μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)を乗せ、一番下に受器を取り付け、最上段に触媒サンプルを導入し、振動させることにより、目開き5μmの篩に残った触媒を得、その量を導入触媒量で割り返して100を掛けた値をそのサンプルの粒度分布とした。その結果、何れの触媒についても、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量は触媒の重量に対して100重量%であった。
なお、実施例および比較例において、反応成績を表すために用いた転化率およびアクリロニトリル収率は、次式で定義される。
転化率(%)=(反応したプロピレンのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)×100
また、反応装置は内径25mmのパイレックスガラス製流動床反応管を用い、反応圧力Pは0.15Mpa、充填触媒量Wは40〜60g、原料混合ガス流量Fは250〜450Ncc/sec(標準状態(0℃、1atmに換算)で、反応温度Tは430℃で行った。
接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P/0.10
式中、
Wは触媒の量(g)、
Fは標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
Tは反応温度(℃)、そして
Pは反応圧力(Mpa)を表す。
原料混合ガスの組成は次のとおりであった。
プロピレン/アンモニア/空気=1/1.25/8.0〜10.0(分子状酸素換算で1.6〜2.0)
触媒の耐摩耗強度を評価するため、ACC法に準じて摩耗損失を測定した。この摩耗損失は以下のように定義される。
摩耗損失(%)=B/(C−A)×100
上記式において、Aは0〜5時間に摩耗逃散した触媒の重量(g)、Bは5〜120時間に摩耗逃散した触媒の重量(g)であり、Cは試験に供した触媒の重量(g)である。
触媒の摩耗損失の値が7%以下である場合、工業的使用に適する高い耐摩耗強度を有すると判断できる。
【実施例1】
金属組成がMo12Bi0.45Ce0.90Fe1.8Ni2.0Co3.0Mg2.00.09Rb0.05で表される金属酸化物を50重量%のシリカ担体に担持した触媒を次のようにして調製した。
16.6重量%濃度の硝酸405.3gに42.2gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、75.5gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、140.5gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、112.4gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、168.8gの硝酸コバルト〔Co(NO・6HO〕、99.1gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕、1.76gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.43gの硝酸ルビジウム〔RbNO〕を溶解させて得られた液を、シリカ1次粒子の平均粒子直径が22nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル1666.7gに加え、最後に水824.7gに409.4gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.005cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が0.012cc/g、全細孔容積が0.232cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は2.2%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は5.2%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.3(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクリロニトリル収率は84.0%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は5.7%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
比較例1
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径12nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾルのみを1666.7g使用すること、および本焼成温度が590℃であること以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.058cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の細孔容積が0.001cc/g、全細孔容積が0.220cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は26.4%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は0.5%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.7(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクリロニトリル収率は82.4%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は2.9%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
比較例2
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径86nmの30重量%のSiOを含むシリカゾルのみを1666.7g使用すること、および本焼成温度が550℃であること以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.000cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の細孔容積が0.271cc/g、全細孔容積が0.354cc/gで、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は0.0%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は76.6%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.9(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクリロニトリル収率は84.5%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、5時間目から20時間目に摩耗飛散した触媒量が既に7.18%と大きいので、それ以上は測定しなかった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度、及び反応結果を表2に示す。
【実施例2】
金属組成がMo12Bi0.6Ce0.75Fe1.8Ni5.0Mg2.00.09Rb0.05で表される金属酸化物を50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均粒子直径が86nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均粒子直径が12nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gを混合してシリカ原料を得た。16.6重量%濃度の硝酸404.7gに56.0gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、62.7gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、140.0gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、278.0gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、98.7gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕、1.75gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.42gの硝酸ルビジウム〔RbNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水821.6gに407.9gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下590℃で2時間本焼成して触媒を得た。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.014cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が0.004cc/g、全細孔容積が0.225cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は6.2%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は1.8%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.6(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.2%、アクリロニトリル収率は84.2%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は5.2%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
比較例3
シリカ1次粒子の平均粒子直径が86nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル1250.0gと1次粒子の平均直径が12nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル416.7gとを混合してシリカ原料を得ること(即ち、これら2種のシリカゾルの混合比率を表1に示すように変更すること)、および本焼成温度が570℃であること以外は実施例2と同様にして触媒を調製した。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.002cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の細孔容積が0.152cc/g、全細孔容積が0.289cc/gで、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は0.7%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は52.6%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.2(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.2%、アクリロニトリル収率は84.0%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は15.0%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
【実施例3】
金属組成がMo12Bi0.3Pr0.13Nd0.47FeNi5.4Zn2.10.08Cs0.04で表される金属酸化物を50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均粒子直径が58nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均粒子直径が8nmの20重量%のSiOを含む水性シリカゾル1250.0gを混合してシリカ原料を得た。16.6重量%の硝酸403.1gに27.6gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、5.68gの硝酸プラセオジム〔Pr(NO〕、39.1gの硝酸ネオジム〔Nd(NO・6HO〕、153.3gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、297.9gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、118.5gの硝酸亜鉛〔Zn(NO・6HO〕、1.54gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.48gの硝酸セシウム〔CsNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水809.6gに401.9gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.022cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が0.009cc/g、全細孔容積が0.237cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は9.3%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は3.8%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.1(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクリロニトリル収率は84.2%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は4.8%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
比較例4
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径8nmの20重量%のSiOを含むシリカゾルのみを2500.0g使用すること、および本焼成温度が610℃であること以外は実施例3と同様にして触媒を調製した。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.0802cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の細孔容積が0.000cc/g、全細孔容積が0.204cc/gで、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は39.3%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は0.0%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.8(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクリロニトリル収率は81.9%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、、摩耗損失(%)は1.5%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
【実施例4】
金属組成がMo12Bi0.3Ce0.3Cr0.2In0.2Fe1.2Ni6.2Mg2.50.2で表される金属酸化物を35重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
16.6重量%の硝酸417.7gに37.0gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、33.1gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、20.3gの硝酸クロム〔Cr(NO・9HO〕、18.0gの硝酸インジウム〔In(NO・3HO〕、123.2gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、458.1gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、162.8gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕および5.14gの硝酸カリウム〔KNO〕を溶解させて得られた液を、シリカ1次粒子の平均粒子直径が12nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル1166.7gに加え、最後に水1084.1gに538.3gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下560℃で2時間本焼成して触媒を得た。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.020cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が0.013cc/g、全細孔容積が0.210cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は9.5%、直径1000Å以上の細孔の積算容積は6.2%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.2(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクリロニトリル収率は84.5%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は3.5%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。
比較例5
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径12nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル1666.7gを使用すること、および本焼成温度が600℃であること以外は実施例4と同様にして触媒を調製した。
得られた触媒の細孔分布を測定したところ、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が0.061cc/g、細孔直径1000Å以上の細孔の細孔容積が0.001cc/g、全細孔容積が0.213cc/gであり、従って、全細孔容積に対して、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積は28.6%、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積は0.5%となった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.9(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクリロニトリル収率は82.5%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、摩耗損失(%)は1.9%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐摩耗強度(摩耗損失(%))、及び反応結果を表2に示す。


【産業上の利用可能性】
本発明の触媒は、目的生成物の収率が高く、また工業的使用に適した高い耐摩耗強度を有するため、本発明の触媒を用いて流動床反応器でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応を行うと、高収率で安定的にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができ、工業的に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、
金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、アンチモン、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、
該触媒は、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有し、また
該触媒は、細孔直径80Å以下の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下であり、且つ、細孔直径1000Å以上の細孔の積算容積が該触媒の全細孔容積に対して20%以下である細孔分布を有する、
ことを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【請求項2】
該金属酸化物が下記の式(1)で表される請求項1に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
Mo12BiFe (1)
式中:
Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐、アンチモンおよびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そして
a,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、
aは0.05〜7、
bは0.1〜7、
cは0〜12、
dは0〜5、
eは0〜5、
fは0〜0.2、
gは0.01〜5、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
【請求項3】
該シリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%である請求項1または2に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【請求項4】
請求項1の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物を提供し、
該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜100nmである少なくとも1種のシリカゾル(i)をシリカ基準で40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(ii)をシリカ基準で60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(i)と該少なくとも1種のシリカゾル(ii)のそれぞれのシリカ基準での合計が100重量%であり、
該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成して、請求項1の触媒を得る、ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を150〜430℃の温度範囲で行い、該本焼成を450〜750℃の温度範囲で行う請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかの触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
【請求項7】
請求項4または5の方法で製造した触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/078344
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503018(P2005−503018)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002397
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
パイレックス
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】