説明

粒状硫酸苦土肥料

【課題】作物の生育状態に最適な溶出特性を有する粒状硫酸苦土肥料を提供する。
【解決手段】橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とする粒状硫酸苦土肥料であって、肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上である粒状硫酸苦土肥料。下記の水溶性苦土成分の初期溶出率によって肥料の施肥効果を判定する粒状硫酸苦土肥料の肥料効果の判定方法。〔水溶性苦土成分の初期溶出率:粒径1.0〜1.7mmの海砂5gを下層として充填され、この下層上に粒状硫酸苦土肥料250mgを測定サンプル層として充填された、鉛直に設置された内径12mm、長さ126mmのガラス製カラムに、該カラム上方から純水10mlを1分間かけて注ぎ込み、上記の測定サンプル層および下層を透過してカラム下方から初期の1分間の間に流出した透過液中に含まれる水溶性苦土成分量の、前記測定サンプル(粒状硫酸苦土肥料250mg)に対する重量割合〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦土肥料に関し、特に苦土成分の初期溶出特性に格別すぐれた粒状硫酸苦土肥料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは緑色植物の必須栄養元素であって、葉緑素の構成成分として光合成を促進したり、各種酵素反応に関与するために不可欠な元素である。このことから、マグネシウムを水溶性化合物(例えば、硫酸マグネシウム)として含む硫酸苦土肥料が従来から広く用いられている。
【0003】
粒状の硫酸苦土肥料の代表的な製造方法としては、製塩の際に副製する硫酸マグネシウムを利用する湿式法と、橄撹岩や蛇紋岩等を原料鉱物とし、これを硫酸と反応させ、造粒した後に乾燥を行う湿式法とを挙げることができる。
【0004】
このうち湿式法によって得られた硫酸苦土肥料は、結晶水を多量に含み、吸湿しやすいことから、現在は、保存安定性や取扱い性が良好な粒状肥料を容易に製造できる乾式法が広く採用されるようになってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粒状肥料を土壌あるいは作物に施肥する際や運搬時の取扱性等を考慮すると、粒状肥料はある程度の機械的強度を有していることが望ましい。しかしそのような強度の粒状肥料は苦土成分の溶出特性が十分でないという問題があった。
【0006】
苦土成分の溶出特性が十分でない場合には、仮に十分な量の肥料が散布されたとしても、それに十分見合うだけの効果を得ることは難しかった。特に、苦土成分の溶出を人為的な散水ではなく、主として降雨によって行う場合、とりわけ年間降水量が少ない地域においては、苦土成分の溶出特性の優劣が作物の生長状態に大きな影響を与えることになる。
【0007】
また、乾燥状態を好む作物の場合には、過度の散水を避けるためにより少ない散水量でも十分量の苦土成分を溶出させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、肥料による作物発育効果は、苦土肥料の施肥量およびそれに基づく溶出苦土成分の絶対量だけでなく、苦土成分の溶出特性が重要であること、そして、自然条件の影響下に作物の生育を行う多くの場合には、苦土成分の初期の溶出率の良否、すなわち、降雨の初期における土壌中への迅速な溶出、が作物の生育状態(特に、初期生育)に多大な影響を及ぼすことに着目し、作物の生育状態に最適な溶出特性を有する粒状硫酸苦土肥料を見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明による粒状硫酸苦土肥料は、橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とする粒状硫酸苦土肥料であって、肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上であること、を特徴とするものである。
【0010】
このような本発明による粒状硫酸苦土肥料は、前記水溶性苦土成分の初期溶出率が、2%以上、好ましくは2.4%以上、さらに好ましくは2.8%以上であるものを、包含する。
【0011】
そして、本発明による粒状硫酸苦土肥料の肥料効果の判定方法は、下記の水溶性苦土成分の初期溶出率によって肥料の施肥効果を判定すること、を特徴とするものである。
【0012】
〔水溶性苦土成分の初期溶出率:
粒径1.0〜1.7mmの海砂5gを下層として充填され、この下層上に粒状硫酸苦土肥料250mgを測定サンプル層として充填された、鉛直に設置された内径12mm、長さ128mmのガラス製カラムに、該カラム上方から純水10mlを1分間かけて注ぎ込み、上記の測定サンプル層および下層を透過してカラム下方から初期の1分間の間に流出した透過液中に含まれる水溶性苦土成分量の、前記測定サンプル(粒状硫酸苦土肥料250mg)に対する重量割合〕
【0013】
また、本発明による粒状硫酸苦土肥料は、前記の粒状硫酸苦土肥料の肥料効果の判定方法によって初期溶出率が1.6%以上と判定された、粒状硫酸苦土肥料に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明による粒状硫酸苦土肥料は、橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とする粒状硫酸苦土肥料であって肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上であることから、粒状肥料として必要な粒子強度を有するとともに、苦土成分の溶出特性が極めて良好なものである。
【0015】
本発明による粒状硫酸苦土肥料は、このように苦土成分の初期の溶出率が良好であるので、散水または雨の降り始めから速やかに苦土成分の溶出がなされ、時間降雨量が3mm程度以下の弱雨や霧雨でも苦土成分の溶出が観察されるので苦土成分溶出の機会が格段に多くなる。
【0016】
よって、本発明による粒状硫酸苦土肥料は、作物の生育状態の改良ないし促進効果が極めて優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<粒状硫酸苦土肥料>
本発明による粒状硫酸苦土肥料は、橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とする粒状硫酸苦土肥料であって、肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上であること、を特徴とするものである。
【0018】
このような本発明の粒状硫酸苦土肥料は、橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とするものであって、この原料鉱物に由来する成分および/または製造工程に応じ必然的に肥料中に存在することになる成分、例えばMgSO・6HO、MgSO・HOや、ケイ素および鉄・カルシウム等の硫酸塩等の各種成分を含みうるものである。また、肥料として好適な各種の配合成分、例えば、銅、亜鉛、モリブデン、コバルト、マンガン、ホウ素等を必要に応じて含みうるものである。
【0019】
本発明による粒状硫酸苦土肥料の特に好ましい一具体例は、MgSO・6HOで表される多水塩硫酸マグネシウムを、通常30〜40%、好ましくは31〜35%含有し、更に、MgSO・HO 1モルに対してMgSO・6HOで表される多水塩硫酸マグネシウムを0.5モル以上、好ましくは0.7〜1.0モルの量比で含有するものである。
【0020】
そして、平均粒径が、一般に1.0〜10.0mm、好ましくは1.5〜5.0mm、のものであり、粒子自体の硬度が、一般に、一粒当たり3.0kg以上、好ましくは6.9〜12.0kg/粒、のものである(ここで、平均粒径は、ロータップ式振蕩機(JIS標準篩)によって測定したものであり、硬度は木屋式硬度計を使用し、粒子径2.0〜2.83mmのもので測定したときのものである)。
【0021】
そして、本発明の粒状硫酸苦土肥料は、肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは2.4%以上、より好ましくは2.8%以上、のものである。
【0022】
ここで、「肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率」は、具体的には、図1に示されるように、鉛直に設置された内径12mm、長さ128mmのガラス製カラムに、充分に洗浄された海砂(粒径1.0〜1.7mm)を5g、次いで、測定サンプルとして粒状硫酸苦土肥料を0.25g、さらに前記と同じ海砂2gを、この順序で充填し、カラム上部から純水10mlを1分間かけて注ぎ込み(灌水量:10mml、灌水時間:1分間)、カラムの流出口から最初の1分間に流出した液を採取し、この液中に含まれる苦土成分量を計測することによって求めることができる。
【0023】
その結果、計測された苦土成分量が4mgである場合、
4mg(計測苦土成分量) ÷ 250mg(サンプル量)から、この粒状硫酸苦土肥料の初期流出量は1.6%と判断することができる。
【0024】
<粒状硫酸苦土肥料の製造>
本発明による粒状硫酸苦土肥料は、原料鉱物である橄撹岩および/または蛇紋岩に、硫酸を反応させて得られた硫酸マグネシウム含有物に、水を添加し、造粒することによって製造することができる。
【0025】
好ましくは、橄撹岩および/または蛇紋岩を、処理に適した大きさ、形状に粉砕し、これに高濃度の硫酸(好ましくは70〜98%溶液)を注入し、原料中のマグネシウムとこの硫酸とを反応させる。この反応は、一般に、常圧下で、反応熱110〜180℃、好ましくは150〜200℃の温度で行うのが普通である。これによって、水溶性の硫酸マグネシウムが生成される。生成された硫酸マグネシウムは、MgSO・HOを主成分(通常、40〜60%)とするもので、通常、原料成分中に含まれたケイ素および鉄・カルシウム、その他の硫酸塩を、含むものである。
【0026】
この反応により得られた反応生成物は反応器の出口より110〜180℃の温度で排出され、一時的に熟成ホッパーに貯蔵される。該ホッパーでの熟成は、通常100〜150℃の温度で、0.5〜1時間行なわれ、その後、粉砕処理に付される。
【0027】
粉砕は、ハンマーミルなどの粉砕機によって通常60℃以上、好ましくは80〜90℃の温度で一般に0.1〜1.5mm、好ましくは0.1〜0.5mmの粒径になるまで粉砕される。
【0028】
この粉砕物は、MgSO・HOを主成分とするが、このものを造粒しても高強度の粒状物を得ることは必ずしも容易でない。このことから、粉砕物に水を添加して、MgSO・HOの少なくとも1部を、MgSO・HOを多水塩硫酸マグネシウム(好ましくは、例えばMgSO・6HO、MgSO・7HO)に変換することが好ましい。
【0029】
この場合の水の添加は、粉砕物がある程度の高温の温度条件にあるうちに行うことが好ましい。例えば、粉砕物の温度が60℃以上、好ましくは70〜80℃、であるときに、水の添加を行うことが望ましい。このような条件において水の添加を行うことにより、この粉砕物中のMgSO・HOが、効率的に多水塩硫酸マグネシウム(好ましくは、例えばMgSO・6HO、MgSO・7HO)に変換される。粉砕物の温度が70〜80℃には、水を添加してから約20〜40分間常温に冷却すれば、MgSO・HOの多水塩硫酸マグネシウムへの変換が充分達成される。
【0030】
水の添加方法は、種々の態様を取り得るが、前記の粉砕物を造粒機内に導入し、上方より水を噴霧して行うのが普通である。水の添加量は、粉砕物の具体的温度等に応じ、水蒸気として蒸発飛散する量等を考慮して適宜決定することができる。粉砕物の温度が70〜80℃であるとき、水の添加量は、通常、10〜30%(粉砕物基準)、好ましくは16〜22%、である。
【0031】
なお、粉砕物中に存在するMgSO・HOのうち、その実質的全量を多水塩硫酸マグネシウムに変換する必要はなく、変換後の処理物中に、MgSO・HOが20〜40%、好ましくは30〜35%、存在していてもよい。従って、変換後の処理物中には、好ましくは、MgSO・6HOが31〜35%、MgSO・7HOが0〜2%、MgSO・HOが29〜36%、特に好ましくは、MgSO・7HOの存在が0%であることが好ましい。
【0032】
前記の粉砕物に水を添加した後、あるいは前記の粉砕物に水を添加しながら、造粒操作を行うことにより、一般に直径1.0〜10.0mm、好ましくは1.5〜5.0mmに造粒して、本発明による粒状硫酸苦土肥料を製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明は、下記の実施例の態様に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1〜3>
図1に示されるように、内径12mm、長さ128mmのカラム部と内径5mm、長さ44mmの流出管部とを備えたガラス製カラムに、1級試薬の海砂(粒径1.0〜1.7mm)を5グラム充填し、その上に本発明の粒状硫酸苦土肥料250mgを測定サンプル層として充填し、更に、その上に、前記と同じ海砂を2グラム充填した。
この粒状硫酸苦土肥料は、下記のものであった。
【表1】

【0035】
カラム上方から純水10mlを1分間かけて注ぎ込み、流出管から最初の1分間の間に流出した透過液を採取した。
この透過液中に含まれる水溶性苦土成分量を、原子吸光測定法によって測定したところ、水溶性苦土成分量は7.87mgであった。前記測定サンプル(粒状硫酸苦土肥料250mg)に対する重量割合は、3.15%であった。
上記の操作を更に4回繰り返し行い、それぞれについて水溶性苦土成分量および重量割合を求めた。また、それらの平均値を求めた。
結果は、表3に示される通りである。
【0036】
<比較例1>
下記の表2に示される粒状硫酸苦土肥料を用いた以外は実施例1と同様にして透過液を採取し、同様に、水溶性苦土成分量および重量割合を求めた。
水溶性苦土成分量は3.86mgであり、前記測定サンプル(粒状硫酸苦土肥料250mg)に対する重量割合は1.54%であった
【表2】

【0037】
上記の操作を4回繰り返し行い、それぞれについて水溶性苦土成分量および重量割合を求めた。また、それらの平均値を求めた。
結果は、表3に示される通りである。
【表3】

【0038】
<生育試験>
上記の実施例1および比較例1の各肥料による植物生育状況の差を、下記方法によって検証した。
【0039】
平成15年9月28日、北海道網走郡女満別町の畑地に、秋播小麦(品種:ホクシン)の種子を散布した。
【0040】
平成16年4月20日、実施例1の肥料を畑地(実験区)に畑地10アール当たり30kgの割合で散布し、一方、隣接する畑地(対照区)に、比較例1の肥料を同様に畑地10アール当たり30kgの割合で散布した。
【0041】
平成16年7月26日、上記実験区の中から平均的な生育状況の5地点を選出し、各地点から1.32mずつ、計6.6mの畑地で生育した小麦を収穫した。
同日、上記対照区からも、同様に、平均的な生育状況の5地点を選出し1.32mずつ、計6.6mの畑地で生育した小麦を収穫した。
結果は、下記および表4に示される通りである。
【0042】
結 果
(1)実験区は、対照区に比べて、茎数が多く、生育が旺盛であった。
(2)実験区は、対照区に比べて、穂数、着粒数、登熟歩合が上回り、124kg(19%)増収した。
(3)比較例の肥料は溶解性が十分でなく、小麦生育に明らかな差がついた。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】粒状硫酸苦土肥料の初期溶出率測定に使用した装置の概要を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橄撹岩および/または蛇紋岩を原料鉱物とする粒状硫酸苦土肥料であって、肥料成分中の水溶性苦土成分の初期溶出率が1.6%以上であることを特徴とする、粒状硫酸苦土肥料。
【請求項2】
前記水溶性苦土成分の初期溶出率が、2%以上、好ましくは2.4%以上、さらに好ましくは2.8%以上である、請求項1に記載の粒状硫酸苦土肥料。
【請求項3】
下記の水溶性苦土成分の初期溶出率によって肥料の施肥効果を判定することを特徴とする、粒状硫酸苦土肥料の肥料効果の判定方法。
〔水溶性苦土成分の初期溶出率:
粒径1.0〜1.7mmの海砂5gが下層として充填され、この下層上に粒状硫酸苦土肥料250mgを測定サンプル層として充填された、鉛直に設置された内径12mm、長さ128mmのガラス製カラムに、該カラム上方から純水10mlを1分間かけて注ぎ込み、上記の測定サンプル層および下層を透過してカラム下方から初期の1分間の間に流出した透過液中に含まれる水溶性苦土成分量の、前記測定サンプル(粒状硫酸苦土肥料250mg)に対する重量割合〕
【請求項4】
請求項3に記載の粒状硫酸苦土肥料の肥料効果の判定方法によって初期溶出率が1.6%以上と判定された、粒状硫酸苦土肥料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−169127(P2007−169127A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371910(P2005−371910)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(592060260)ダイヤケミカル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】