説明

粒状鶏糞燃焼灰の製造方法

【課題】肥料成分の低さと難造粒性によりこれまで十分に利用されてこなかった採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰を、簡便で安価な手段で造粒する方法を提供する。
【解決手段】採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰と水とを混練した後、含水率を15〜35質量%に調整し、造粒、乾燥する。さらに水溶性炭水化物及び/又は廃糖蜜を造粒補助剤として用いる。水溶性炭水化物としてデンプン及び/又はカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いる。造粒補助剤の使用量は鶏糞燃焼灰に対し、0.1〜5質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採卵鶏由来の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏糞の焼却処理によって発生する鶏糞燃焼灰を肥料に適用するために、従来から様々な造粒方法が検討されてきた。例えば、リン酸、硫酸等の鉱酸を利用して造粒する方法、あるいはリン酸塩、ゼラチン、糖類、各種樹脂等の造粒促進剤を用いて造粒する方法等である。
【0003】
鶏糞燃焼灰には大きく分けると、ブロイラー由来、育成鶏由来、採卵鶏(レイヤー)由来のものがある。このうちブロイラーと育成鶏由来の鶏糞燃焼灰は、カルシウム含量が少なくリン酸やカリウム含量が高い特徴がある。一方、採卵鶏は卵殻の強度を保つため牡蠣殻などカルシウム成分が高い飼料を摂取させるため、その鶏糞燃焼灰はカルシウム含量が高くリン酸とカリウム含量が低い特徴がある。従って、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰は肥料成分として有用なリン酸とカリウムが低いため、その利用価値が低いとされてきた。
【0004】
更に、これまでの公知技術では、ブロイラーと育成鶏由来の鶏糞燃焼灰が比較的容易に高硬度の粒状品が造粒できるとされているのに対し、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰は造粒することが非常に困難であるとされ、このこともその利用が図られない一因となってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの鶏糞燃焼灰の造粒方法は、いずれも造粒促進剤の使用を必須とするものであり、必然的に高価となり、また鶏糞燃焼灰と造粒促進剤を予め混合する装置もしくは工程も不可欠で煩雑であった。従って、養鶏場で日々発生する大量の鶏糞燃焼灰を効率的に粒状肥料とするために、より簡便で安価な造粒方法が望まれていた。
特に、採卵鶏の養鶏場は大規模養鶏場が多く、そのため焼却処理による燃焼灰の発生量も多大である。しかし、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰は、その肥料成分の低さと難造粒性によりこれまで十分に利用されてこなかった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰を肥料として有効活用できるようにするために、鶏糞燃焼灰と水を巧みに利用することによって粒状化する方法を見出し、係る知見に基づいて本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰と水とを混練した後、含水率を15〜35質量%に調整し、造粒、乾燥することを特徴とする粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
また、本発明は、前記製造方法において、さらに造粒補助剤を使用する粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
また、本発明は、前記造粒補助剤が水溶性炭水化物及び/又は廃糖蜜である粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
また、本発明は、前記水溶性炭水化物がデンプン及び/又はカルボキシメチルセルロース(CMC)である粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
また、本発明は、前記造粒補助剤の使用量が、鶏糞燃焼灰に対し、0.1〜5質量%である粒状鶏糞燃焼灰の製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記各製造方法によって製造された粒状鶏糞燃焼灰に関する。
【発明の効果】
【0008】
現在、採卵鶏の養鶏場の鶏糞処理は発酵処理に多大に依存しているが、本発明によれば、焼却処理法を採用しても鶏糞燃焼灰を粉体ではなく、単に水のみで、これを巧みに利用することにより付加価値のある粒状製品にすることができる。従って、本発明の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法は、工程も甚だ簡便で且つ極めて安価であり、その産業上の貢献は多大なものである。
更に本発明の粒状鶏糞燃焼灰は、従来技術のように造粒促進剤として鉱酸を使用しないことから、鶏糞燃焼灰特有の強アルカリ性が保持され、適度の崩壊性も有しているので、土壌の酸度矯正にも適している上、鶏糞燃焼灰に含有されるリン酸、カリウム、マグネシウムなどの肥料成分による肥効も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
先ず、本発明の採卵鶏由来の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法について説明する。
本発明において用いる鶏糞燃焼灰の種類は採卵鶏由来のものである。その1例として、鶏糞を600〜800℃で焼却して燃焼灰としたものは、含水率が0.2〜0.6%であり、1mm以上の粒度が20〜25%、1mm未満の粒度が75〜80%である。尚、鶏糞燃焼灰は粉状のため通常は特に粉砕工程を設ける必要はないが、粉砕によってさらに粒度を小さくすることも望ましい方法の一つである。
採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰の特徴は、カルシウム含量が多いことである。表1に採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰と、比較のためにブロイラー由来の鶏糞燃焼灰の分析例を示した。
【0010】
【表1】

【0011】
尚、本発明では、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰に、ブロイラーまたは育成鶏由来の鶏糞燃焼灰を混合したものであっても問題なく使用できる。
【0012】
本発明は、これまで様々な造粒促進剤を用いても造粒困難であった採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰において、水を巧みに用いることによって、粒状肥料として必要な硬度を有する粒が造粒できることを見出し完成に至ったものである。
【0013】
本発明において肝要なることは、鶏糞燃焼灰と水とを単に混合するのではなく、鶏糞燃焼灰と水とが十分に馴染んだ状態となった混練物を作製することである。この工程で鶏糞燃焼灰と水が十分馴染んでいないと、たとえ造粒できても十分な硬度が得られない。また、前記混練工程において、さらに圧密化いわゆる捏和の処理を加えることも望ましい方法の一つである。撹拌混練する装置としては、鶏糞燃焼灰と水とを十分に均一混練させることができれば特に制限はないが、パドルミキサーやニーダーが好例として挙げられる。
【0014】
次に、上記混練物を造粒工程で粒状化する。造粒には、転動造粒、押出し造粒、ブリケット造粒、撹拌造粒など一般に使用される各種の造粒法が適用できるが、このうち押出し造粒法あるいはブリケット造粒法が好ましい。押出し造粒法あるいはブリケット造粒法で得られる粒を少しでも真球状に近づけたい場合には、整粒機を用いて整粒する。造粒時の粒度は、乾燥品の粒度が肥料として利用しやすい2〜4mmの粒が効率的に得られるように適宜設定することが好ましい。
【0015】
次いで、得られた粒状物の乾燥に関しては、特に装置を選ばないが、粒状物同士の付着防止や乾燥効率の点から、転動熱風乾燥機が好ましい。乾燥温度に関しては、80〜150℃が好ましい。
【0016】
鶏糞燃焼灰と水との混合割合は、造粒時の混練物の含水率が15〜35質量%となるようにすることが重要である。鶏糞燃焼灰に水を添加すると、発熱反応によって水分が多少蒸発するが、混練に必要な水分が不足するときは適宜水を追加すれば良い。要するに、造粒時の含水率が上記範囲内であれば良い。前記含水率が15質量%よりも少なくなると、造粒できても粉化しやすいため粒硬度が低くなる。一方、前記含水量が35質量%より多いと、スラリー状となるため造粒効率が低下する。尚、前記含水率の特に好ましい範囲は、20〜30質量%である。製造時の条件にもよるが、目安として最初に添加する水の量は、鶏糞燃焼灰100質量部に対し、およそ20〜40質量部が適当である。
【0017】
更に本発明の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法では、必要に応じて造粒補助剤を添加することができる。造粒補助剤が造粒時に造粒補助剤として機能しても、最終製品が土壌散布後に水との接触で崩壊を促進する効果を有するなら崩壊促進剤としての機能も併せ持つことになる。本発明の粒状鶏糞燃焼灰は、製造時の造粒性は当然のことながら、土壌散布後に速やかに崩壊し粉化することが望ましい。これによって土壌酸度の矯正効果も高まる。しかし、用途によって崩壊性を期待しない場合は、造粒性にだけ優れた物質を選択すれば良い。
【0018】
造粒補助剤に用いることが出来る物質に特に制限は無いが、肥料のバインダーとして通常用いられているものが好適に使用できる。例えば、水溶性炭水化物であるデンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、糖類等の他に、廃糖蜜、ベントナイト等の各種粘土類、石膏、リグニンスルホン酸、乳酸カルシウム、セルロース、PVA、ガム類、イースト菌やアミノ酸等の発酵廃液等が挙げられる。このうち、水溶性炭水化物または廃糖蜜が好ましく、さらに水溶性炭水化物のうちコーンスターチ等のデンプンまたはCMCが特に好ましい。コーンスターチは粒硬度を上げるため造粒性への寄与が大きいが、崩壊性への寄与はほとんどない。一方、CMCは造粒性と崩壊性の両方への寄与が大きい。上記に例示した物質は単独で用いても良いし、数種を組み合わせて用いても良い。
【0019】
造粒補助剤の添加量は、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが望ましい。前記添加量が0.1質量部以上でないと、造粒性及び/又は崩壊性向上の効果が期待できない。一方、前記添加量が5質量部を上廻っても添加量に見合う造粒補助効果が得られないため経済的でない。
【0020】
造粒補助剤の添加の時期については、造粒前であれば特に制限されることは無い。あらかじめ鶏糞燃焼灰と混合しても良いし、鶏糞燃焼灰と水とを撹拌混練しているときに添加しても良い。要するに、造粒時に、造粒補助剤が十分に原料全体に均一混合されていれば良い。
【0021】
また、本発明の粒状鶏糞燃焼灰には、必要に応じて他の肥料原料を添加することもできる。肥料原料の種類も特に制限は無いが、アルカリ性の鶏糞燃焼灰と反応してアンモンニアガスを発生する可能性がある硫安や尿素の添加は避ける方が好ましい。一方、中性であり、酸塩基反応によるガスを発生し難い塩化カリウム、硫酸カリウム、リン酸カリウムなどが好ましい肥料原料として例示できる。また、有機質肥料であっても、鶏糞燃焼灰との混合でアンモニアガスを発生しないものであれば特に制限なく添加することができる。これら肥料原料の添加時期は、上記造粒補助剤と同様である。
【0022】
上記肥料原料の添加量は、粒状物が得られれば特に制限は無いが、採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰100質量部に対し概ね20質量部以下であることが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
[平均粒硬度の測定方法]
製品(粒径2.0〜4.0mm)20粒の硬度を木屋式硬度計にて測定し、その平均値を平均粒硬度とした。
[鶏糞燃焼灰]
表1に示した成分組成を有する採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰を用いた。
[崩壊性試験]
製品(粒径2.0〜4.0mm)を網目が1.7mmの篩上に並べ、これを適当な大きさの容器の中に置き、製品が十分に水に浸かるまで静かに水を注ぐ。試験開始1ヶ月後までの一定時間ごとに篩を静かに取り出して、篩上に残存する未崩壊粒を数えた。崩壊した粒の割合が80%以上となった日までの日数を崩壊日とした。
【0024】
〔実施例1〕
鶏糞燃焼灰50kgに水13kg添加し、混練機(新東工業(株)製、ミックスマラーMSG-05)で15分間混練した。このとき、発熱反応により水分が若干蒸発した。造粒時に混練物の一部を採取し、水分含量を測定したところ、含水率は18.4%であった。次に、混練物をペレット成型機(不二パウダル(株)製、ファインディスクペレッターPV-5型)に投入し、造粒を行った。ペレット成型機の運転条件は、孔径3mm、厚さ10mmのスクリーンを使用し、ローラー回転数は37rpmである。次いで、得られた造粒物を転動熱風乾燥機にて、85℃で30分間乾燥した。冷却後3段振動スクリーン(篩目開き:4.0mm、2.0mm。近畿工業(株)製)で篩分けしたところ、粒状鶏糞燃焼灰の製品(粒径2.0〜4.0mm)の収率は73%、平均粒硬度は1.0kgfであった。
【0025】
〔実施例2〜7〕
表2に示した混合割合で実施例1と同様にして粒状鶏糞燃焼灰を製造した。尚、実施例4〜6では、鶏糞燃焼灰と造粒補助剤をあらかじめ混合したものを用いた。また、実施例7では、廃糖蜜と水を混合した液を用いた。
【0026】
〔比較例1〕
鶏糞燃焼灰50kgに水5kg添加した以外は、実施例1と同様にして粒状鶏糞燃焼灰を製造した。造粒時の含水率は7.5%であった。乾燥工程において粉化したものが多かった。
【0027】
〔比較例2〕
鶏糞燃焼灰50kgに水30kg添加した以外は、実施例1と同様にして製造した。造粒時の含水率は36.5%であった。混練物が極度のスラリー状となったため造粒できなかった。
【0028】
〔比較例3〕
パン型造粒機(容器寸法:960mmφ×200mm、回転数:20rpm)に鶏糞燃焼灰9kgを投入し、水5kgと廃糖蜜1kgの混合液を噴霧しながら10分間造粒し、造粒品を実施例1と同様に乾燥して粒状鶏糞燃焼灰を製造した。即ち、混練工程無しで製造した。製品の収率は8%、平均粒硬度は0.3kgfであった。
【0029】
表2に、実施例と比較例における鶏糞燃焼灰、水、造粒補助剤の混合割合と造粒時の混練物の含水率を示した。また、製品(粒径2.0〜4.0mm)の物性評価結果も示した。尚、造粒補助剤の添加量(%)は、鶏糞燃焼灰に対する添加量を百分率で示したものである。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
採卵鶏由来の鶏糞燃焼灰と水とを混練した後、含水率を15〜35質量%に調整し、造粒、乾燥することを特徴とする粒状鶏糞燃焼灰の製造方法。
【請求項2】
さらに造粒補助剤を使用する請求項1記載の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法。
【請求項3】
造粒補助剤が水溶性炭水化物及び/又は廃糖蜜である請求項2記載の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法。
【請求項4】
水溶性炭水化物がデンプン及び/又はカルボキシメチルセルロース(CMC)である請求項3記載の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法。
【請求項5】
造粒補助剤の使用量が、鶏糞燃焼灰に対し、0.1〜5質量%である請求項2〜4のいずれか1項記載の粒状鶏糞燃焼灰の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法によって製造された粒状鶏糞燃焼灰。

【公開番号】特開2011−235248(P2011−235248A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109913(P2010−109913)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】