説明

粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物

【目的】 高温高湿中における特性の経時変化の少ない電圧非直線抵抗体の材料となる粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物を得る。
【構成】 (Sr1-x-y Bax Cay )TiO3 を98.0〜99.9モル%と、Nb,W,Ta,Inおよび希土類元素の中から選ばれる少なくとも1種類の酸化物を0.1〜2.0モル%とからなる主成分を準備する。ここで、x≦0.3,y≦0.25である。この主成分に、CuO,PbO,Bi2 3 ,Sb2 3 ,V2 5 ,MoO3 の中から選ばれる少なくとも1種類と、Nap q r とを合わせて0.01〜2.0モル%含有させる。ここで、p=2n,q=2n’,r=n+3n’であり、n,n’は1または2である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物に関し、特にたとえば、電子機器や電気機器で発生する異常電圧やノイズなどを吸収または除去するために用いられるバリスタなどの材料となる粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】チタン酸ストロンチウムを主成分とする電圧非直線抵抗体は、異常電圧やノイズを吸収するバリスタとしての機能のほか、コンデンサとしての機能も有している。このようなバリスタの材料としては、たとえば特開昭58−16504号公報や特開昭58−91602号公報に開示されているように、SrTiO3 あるいはSr1-x Cax TiO3 (0.01≦x≦0.5)を主成分とし、これに半導体化のための成分としてNb2 5 ,Ta2 5 ,WO3 ,La2 3 ,CeO2 ,Nd2 3 ,Y2 3 などの金属酸化物およびバリスタ特性を与えるためのNa2 Oを含有したものがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これらの従来の組成物では、アルカリ金属酸化物であるNa2 Oを粒界に拡散させることによって非直線係数や、サージ耐量などのバリスタ特性を向上させることが可能である。その反面、これらの組成物を用いたバリスタでは、耐湿性、特に高湿度雰囲気中における特性の経時変化が大きいという欠点がある。これは、アルカリ金属のイオン化傾向が大きく、このため高湿度雰囲気中で外部電極あるいは電極中のガラスフリットと反応して電極を腐食させたり、腐食によって抵抗が大きくなり、特性が変化するためである。
【0004】それゆえに、この発明の主たる目的は、高湿度雰囲気中で使用しても特性の経時変化の少ない電圧非直線抵抗体を得ることができる粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】この発明は、(Sr1-x-y Bax Cay )TiO3 (ただし、x≦0.3、y≦0.25)を98.0〜99.9モル%と、Nb,W,Ta,Inおよび希土類元素の中から選ばれる少なくとも1種類の酸化物を0.1〜2.0モル%とからなる主成分に対して、CuO,PbO,Bi2 3 ,Sb2 3 ,V2 5 ,MoO3 の中から選ばれる少なくとも1種類とNap q r (ただし、p=2n、q=2n’、r=n+3n’であり、nおよびn’は1または2)を合わせて0.01〜2.0モル%含有されてなる、粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物である。
【0006】
【発明の効果】この発明の粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物を用いれば、高湿度雰囲気中で使用しても特性の経時変化の少ない電圧非直線抵抗体を得ることができる。
【0007】この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【0008】
【実施例】まず、主成分を得るために、SrCO3 ,TiO2 ,CaCO3 ,BaCO3 と、半導体化剤としてNb,W,Ta,Inおよび希土類元素の酸化物とを準備した。これらの各原料粉末を表1に示す組成比のものが得られるように秤量し、湿式混合して混合物を得た。
【0009】
【表1】


得られた混合物を乾燥後、1150℃で2時間仮焼し、粉砕して粉砕物を得た。この粉砕物に酢酸ビニル系樹脂を5重量%添加して造粒し、この造粒物を1ton/cm2 の圧力で成形し、直径10mm,厚さ5mmのペレット状の成形体を得た。得られた成形体を空気中において1000℃で2時間焼成したのち、体積比でH2 :N2 =1:100の混合ガス雰囲気中において1450℃で2時間焼成して、半導体磁器を得た。
【0010】一方、Na2 OとB2 3 とを一定比で溶融させて、Na2 2 4 ,Na2 4 7 ,Na4 2 5 などの化合物を得た。これらの化合物と、CuO,PbO,Bi2 3 ,Sb2 3 ,V2 5 ,MoO3 などの添加物を混合し、粉砕して混合物粉末を得た。そして、半導体磁器と混合物粉末とを混合し、1200℃で2時間熱処理して、磁器ユニットを得た。
【0011】この磁器ユニットの対向面に銀電極を設けて、電圧非直線抵抗体素子を得た。そして、得られた電圧非直線抵抗体素子の電気的特性を測定した。ここでは、素子に1mAの電流を流したときのバリスタ電圧V1mA (V),非直線係数α,静電容量(μF),5000A/cm2 のサージ電流を印加した時のバリスタ電圧の変化率ΔV1mA (%)と非直線係数の変化率Δα(%)を測定し、表2に示した。
【0012】
【表2 】


【0013】また、表1の試料番号3に示す材料で作製した電圧非直線抵抗体素子と、Sr0.80Ca0.20TiO3 99.0モル%,Y2 3 0.5モル%,Na2 O0.5モル%からなる従来の電圧非直線抵抗体素子とを、温度60℃,相対湿度95%RHの雰囲気中に放置し、誘電損失の経時変化を調べて、図1に示した。
【0014】次に、各成分の割合を制限した理由について説明する。主成分の(Sr1-x-y Bax Cay )TiO3 において、Baの量すなわちxを0.30以下とし、Caの量すなわちyを0.25以下としたのは、試料番号6および試料番号11のように、xおよびyがそれらの範囲を超えると、サージ耐量が低下して好ましくないためである。
【0015】また、半導体化剤としてのNb,W,Ta,Inあるいは希土類元素の酸化物の量を0.1〜2.0モル%とするのは、試料番号12のように、これらの酸化物が0モル%では、バリスタ特性を示さないためである。さらに、試料番号16のように、これらの酸化物が2.0モル%を超えると、サージ耐量が低下して好ましくないためである。
【0016】また、酸化剤として用いるCuO,PbO,Bi2 3 ,Sb2 3 ,V2 5 ,MoO3 の中から選ばれる少なくとも1種類とNap q r で表される化合物の量が合わせて0.01モル%未満になるか、試料番号24のように酸化剤のうちの一方が含まれていないと、バリスタ電圧および非直線係数が小さくなり、好ましくないためである。さらに、試料番号29のように、これらの量が2.0モル%を超えると、サージ耐量が低下して、好ましくないためである。
【0017】それに対して、この発明の粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物を用いると、5000A/cm2 のサージ電流印加後のサージ耐量に優れ、非直線係数がα>15と高い値を得ることができ、高温高湿中における誘電損失の経時変化が小さい、すなわち耐湿特性に優れた電圧非直線抵抗体を得ることができる。また、Baを添加することにより静電容量が大きくなることから、Baの添加量によって静電容量をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物および従来の電圧非直線抵抗組成物を用いた電圧非直線抵抗体の高温高湿中での誘電損失の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (Sr1-x-y Bax Cay )TiO3 (ただし、x≦0.3、y≦0.25)を98.0〜99.9モル%と、Nb,W,Ta,Inおよび希土類元素の中から選ばれる少なくとも1種類の酸化物を0.1〜2.0モル%とからなる主成分に対して、CuO,PbO,Bi2 3 ,Sb2 3 ,V2 5 ,MoO3 の中から選ばれる少なくとも1種類とNap q r (ただし、p=2n、q=2n’、r=n+3n’であり、nおよびn’は1または2)を合わせて0.01〜2.0モル%含有されてなる、粒界酸化型電圧非直線抵抗組成物。

【図1】
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