説明

粗カドミウムの製造方法

【課題】簡便な方法によりカドミウム濃度を上げることができ、多少の不純物が存在しても比較的純度の高い(Cd>90%)の粗カドミウムを容易に安定的に得ることを課題とする。
【解決手段】 カドミウム水溶液にアルカリ剤を添加し、得られたカドミウム水酸化物を、再度酸に溶解し、アルカリ添加し、pH5.5〜7.0で脱銅処理を行い、Cd濃度の高い電解液を得る粗カドミウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛抽出工程から排出された抽出後液に代表されるカドミウム希薄溶液よりカドミウムを回収するにあたって、特に効率よく粗カドミウムメタルを回収することを目的とした発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、鉱石原料およびリサイクル原料を問わず各種原料から特定の金属だけを分離するため溶媒抽出が行われている。その中で亜鉛を精製する場合においては、亜鉛と物性の近いカドミウムを分離することが重要な点である。分離のための手法の一つとして有機系の酸性抽出剤を用いる方法がある。
しかしながら、抽出工程のみでは亜鉛と他元素を完全に分離することは難しく、亜鉛抽出後液には亜鉛とカドミウムの両方が含まれることがある。
また抽出剤や希釈剤は有機物であるため、抽出後液には若干の有機物が混入することも考えられる。他にも抽出剤への負荷を低下させるために抽出液・抽出後液の濃度が低くなっていることが、その後の回収工程の課題となっている。
なお酸性抽出剤を使用すると、抽出剤から水相に金属成分を戻すためには強酸と接触させる。一般にこのようにして抽出工程を通じて得られたカドミウム希薄水溶液は酸性である。
カドミウム希薄液からメタルとしてカドミウムを分離する際に、電解液として使用してメタルを製造することも考えられる。
しかしながらこの方法では、電解がすぐに終了してしまうだけでなく、液中のカドミウム濃度が希薄な状態で電解することにより、不純物が少しでも混在すると、カドミウム回収中にカドミウムメタル中に混入する不純物の割合が大きくなってしまう恐れがある。
このように、酸性抽出剤を使用した抽出工程によって排出された後液のようなカドミウム希薄溶液を処理し純度の高いメタルを得る方法の発明が必要であった。
【0003】
特開平11−12667(特許文献1)に開示されているようにカドミウム溶液からカドミウムを回収するには亜鉛末によるセメンテーション法が一般的であるが、これにより溶液中のカドミウムを回収するには、あらかじめカドミウムより沈殿しやすい銅を除去する必要がある。
【特許文献1】 特開平11−12667
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便な方法によりカドミウム濃度を上げることができ、多少の不純物が存在しても比較的純度の高い(Cd>90mass%)の粗カドミウムを容易に安定的に得る手法である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記問題点を解決し、以下の発明をなした。
(1)カドミウム水溶液にアルカリ剤を添加し、得られたカドミウム水酸化物を、再度酸に溶解し、アルカリ添加し、pH5.5〜7.0で脱銅処理を行い、Cd濃度の高い電解液を得る粗カドミウムの製造方法。
(2)銅濃度が0.15g/L以下である電解液より粗カドミウムを製造し、得られる粗カドミウム中のCu品位が5mass%以下である上記(1)記載の粗カドミウムの製造方法。
(3)カドミウム濃度3g/L以上である電解液より粗カドミウムを製造し、得られる粗カドミウム中のZn品位が1mass%以下である上記(1)または上記(2)の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。
(4)カドミウム濃度が5g/L以上、かつ亜鉛濃度が30g/L未満の電解液である上記(1)または上記(3)の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。
(5)カドミウム電解の電流密度を10A/dm〜100A/dmとする上記(1)または上記(4)の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、以下の効果を得られる。
銅亜鉛を含むカドミウム希薄溶液よりカドミウムメタルを容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一態様であるカドミウムの製造に関する処理フローシートである。
【図2】本発明の一態様である脱銅中和工程における、脱銅の成績を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、対象と成る酸性のカドミウム水溶液は、銅を少なくとも含む溶液である。例えばカドミウム濃度は、0.5から5g/L、銅濃度は、0.5から5g/Lである。また、例えば、亜鉛抽出溶液のような液であれば、前記銅に加えた、亜鉛が、2から8g/Lある溶液である。
本発明においては、前記対象処理液を、アルカリ剤例えば、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、等を添加する。これにより液中のカドミウム及び他の不純物例えば、亜鉛、銅といった金属を沈殿させる。
ろ過操作によって、上記の沈殿をろ液と分離し中和滓を得る。
前記処理により、得られた中和滓を酸例えば、希硫酸に溶解する。このとき浸出液が酸性になれば、浸出が終了する。
このとき、より濃度の高い酸例えば、硫酸を使用することで、より濃度の高い浸出液を作製することができ、後の電解工程にとって有利となるため、例えば、100g/L以上の希硫酸を使用することが望ましい。
【0009】
銅亜鉛カドミウム液より銅を除去するには、pHを上げ中和物として除去するのが一般的である。今回はpHを5.5から7.0に上昇させることで、水中の銅を0.15g/L以下とできる。
これにより、上記電解液を電解処理し、カドミウムメタル中の銅を5mass%以下とすることが出来る。
この他にも、▲1▼亜鉛粉末を添加し、銅を析出させる方法。▲2▼硫化処理により、硫化銅を析出させる方法がある。▲1▼は大量の銅を処理する場合には、コストの面から現実的でない。▲2▼は硫化処理に必要な安全対策の設備等を考えると現実的でない。
【0010】
電解液中からカドミウムを電解採取するには、カソードに電気導電率とコストの面で優れるアルミ板、アノードには耐食性とコスト面で優れる鉛板を使用する。
カドミウムの電解においては、電流密度は10A/dm〜100A/dmで実施した。
10A/dm2以下では、時間当たりの電着量が少なすぎたためであり、100A/dm2を超えると均一に電着させることが難しかったためである。
電解により得られるカドミウムの品質を一定以上に保つためには、カドミウム濃度を3g/L以上、銅濃度を0.15g/L以下、亜鉛濃度を30g/L以下にすることが必要であった。
銅濃度が0.15g/Lを超えると初期の電着時の色調が黒色となり好ましくない。ただし電着物の色調を問わない場合はこの限りではない。
また亜鉛濃度が30g/Lを超える場合は、カドミウム濃度が5g/L未満になると亜鉛の電着比率が上昇するため好ましくない。
なお、ここでいう一定以上の品質とは、カドミウム品位が90mass%以上であり外観がカドミウムの灰色をしていることである。
【実施例】
【実施例1】
【0011】
以下本発明の一態様を説明する。
亜鉛抽出後液の金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd1.4g/L,Zn4.4g/L,Cu1g/Lであった。
亜鉛抽出後液に25%苛性ソーダを添加して作製した中和物(Cd7.9mass%,Zn2.4mass%,Cu2.9mass%)8kgを35%硫酸4.1Lに溶解し、pHが0.5になった時点でろ過した。浸出液の金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd29.1g/L,Cu17.3g/L,Zn36.8g/Lであった。
【0012】
この浸出液に苛性ソーダを添加し、銅を主成分とする中和泥を沈殿させた。中和後のpHは5.5であった。金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd23.8g/L,Zn28.8g/L,Cu0.15g/Lであった。
【0013】
上記の中和後の水溶液を電解液とし、カソードに開口部10cm四方のAl板、アノードに開口部10cm四方のPb板を用いて0.7AでCd電解を行った。電着物であるカドミウムメタルのCu品位は2.4mass%、Zn品位は0.01mass%であった。
【実施例2】
【0014】
亜鉛濃度が高い場合には、電解液中のカドミウム濃度が高いと、電着カドミウムメタル中の亜鉛を低く抑えられた場合。
浸出液に純水と硫酸亜鉛を添加し、電解液を作製した。
【0015】
金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd5.9g/L,Zn33.5g/L,Cu<0.001g/Lであった。
【0016】
上記の水溶液を電解液とし、カソードに開口部10cm四方のAl板、アノードに開口部10cm四方のPb板を用いて0.7AでCd電解を行った。 カドミウムメタル中のCu品位は1.2mass%、Zn品位は0.1mass%であった。
亜鉛濃度が、電解液中に33.5g/Lと高い場合であっても、カドミウム濃度が、5.9g/Lと高いため、カドミウムメタル中の亜鉛は、0.1mass%と低く抑えられた。
これは、カドミウムが先に電着するためであると推測される。
【0017】
(比較例1)
pH=5の脱銅処理では、銅が、0.79g/Lと電解液中に高く残存し、カドミウムメタル中の銅が、7.7mass%と成った場合。
亜鉛抽出後液抽出後液に25%苛性ソーダを添加して作製した中和物8kgを35%硫酸4.1Lに溶解した。浸出液のpHは0.5であった。浸出液の金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd20.0g/L,Zn10.0g/L,Cu10.0g/Lであった。
【0018】
この浸出液に苛性ソーダを添加し、銅を主成分とする中和泥を沈殿させた。中和後のpHは5.0であった。金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd20.0g/L,Zn16.4g/L,Cu0.79g/Lであった。
【0019】
上記の中和後の水溶液を電解液とし、カソードに開口部10cm四方のAl板、アノードに開口部10cm四方のPb板を用いて0.7Aの電流を流し、電流密度70A/m2の条件でCd電解を行った。電着物であるカドミウムメタルのCu品位は7.7mass%,Zn品位は0.01mass%であった。
【0020】
(比較例2)
亜鉛が電解液中に33g/Lと高くカドミウム濃度が2.9g/Lと低いために、カドミウムメタル中に亜鉛が、15mass%と高くなった場合。
実施例1で使用した電解後の金属イオン濃度をICP発光分析により測定したところ、Cd2.9g/L,Zn33.2g/L,Cu<0.001g/Lであった。
【0021】
上記の液を電解液とし、カソードに開口部10cm四方のAl板、アノードに開口部10cm四方のPb板を用いて0.7AでCd電解を行った。電着カドミウムメタルのZn品位は15mass%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カドミウム水溶液にアルカリ剤を添加し、得られたカドミウム水酸化物を、再度酸に溶解し、アルカリ添加し、pH5.5〜7.0で脱銅処理を行い、Cd濃度の高い電解液を得ることを特徴とする粗カドミウムの製造方法。
【請求項2】
銅濃度が0.15g/L以下である電解液より粗カドミウムを製造し、得られる粗カドミウム中のCu品位が5mass%以下であることを特徴とする請求項1記載の粗カドミウムの製造方法。
【請求項3】
カドミウム濃度3g/L以上である電解液より粗カドミウムを製造し、得られる粗カドミウム中のZn品位が1mass%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。
【請求項4】
カドミウム濃度が5g/L以上、かつ亜鉛濃度が30g/L未満の電解液であることを特徴とする請求項1または請求項3の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。
【請求項5】
カドミウム電解の電流密度を10A/dm〜100A/dmとすることを特徴とする請求項1または請求項4の何れかに記載の粗カドミウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77374(P2012−77374A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235894(P2010−235894)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】