説明

粗トール油から脂肪酸アルキルエステル、ロジン酸およびステロールを得る方法

粗トール油(CTO)から脂肪酸アルキルエステル、ロジン酸およびステロールを得るための方法であって、以下の工程:(b)CTO中に存在する遊離脂肪酸と低級アルコールを反応させる工程と、(c)残存するCTOから上記で得た脂肪酸低級アルキルエステルを分離して、脂肪酸エステルの第一流れを形成する工程と、(d)残存するCTO中のステロールをホウ酸でエステル化する工程と、(e)既に得たホウ酸ステロールから残存するロジン酸を分離して、ロジン酸の第二流れを形成する工程と、(f)該ホウ酸ステロールを遊離ステロールに転化させて、遊離ステロールの第三流れを形成する工程、
を特徴とする方法をクレームする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかのエステル化および蒸留工程を含む、粗トール油(CTO)から脂肪酸アルキルエステル、ロジン酸およびステロールを得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間栄養体産業において、コレステロール濃度を管理するためにステロールを使用すると、非GMOステロールの需要を大きく増加させ得、そのため、ステロールを粗トール油から分離する商業的方法は、粗トール油はステロールの主要源の一つであるが故に、経済的視点から極めて興味深い。粗トール油は、木からセルロースを製造する際に用いられる硫酸塩法から通常生じる。とりわけ、パルプ化法からの使用済み黒液は、様々な酸のナトリウム塩(石鹸)が分離して脱脂されるまで濃縮される。ナトリウム塩は硫酸で酸性化または分解されて、粗トール油を生成する。
【0003】
粗トール油は、様々な化合物をほぼ完全にロジンと脂肪酸の留分に分離するため、主として減圧蒸留法によって精製される。最近の技術は、数個のカラム中で分留する蒸留に基づいている。第一カラムを用いて、ステロールおよびそのエステルなど多くの不鹸化中性物を含む、より揮発性の低い材料から、より揮発性の高い脂肪酸とロジン酸を分離する。第二カラムは、一般に、より揮発性の低いロジン酸からより揮発性の高い脂肪酸を分離するために設計される。この方法では、通常、ステロール、重質炭化水素、ワックスアルコールが主要物質である「ピッチ」と現在称される残液となる。商業的には、脂肪酸およびロジン酸だけが製造される。ピッチは通常、燃料として用いられる。高い蒸留温度のため、著しいステロール分解がある。また、遊離ステロールの大部分はエステルに変換される。トール油ピッチは非常に粘性のある暗色生成物であって、かなり取り扱いにくい。これまで、ピッチからステロールを抽出するために実施中の経済的な商業的方法はない。従来技術からは多くの方法が知られ、あらゆる酸分解法に先立ち、溶媒および蒸留法を用いてCTO石鹸からステロールを抽出する方法を記述しており、それは理論的にはステロール損失を避け得るが[米国特許第6,107,456号;米国特許第6,414,111号;米国特許第6,344,573号]、これらの方法は、高度な技術を特徴とし、経済的理由から実施化されなかった。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,107,456号
【特許文献2】米国特許第6,414,111号
【特許文献3】米国特許第6,344,573号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工程中でステロールを破壊しない、粗トール油からステロールを分離する方法は、化学製品産業において有用な発明であろう。従って、本発明の目的は、3つの主要な粗トール油(CTO)成分、脂肪酸またはそのエステル、ロジン酸、およびステロールを分離して、これらの製品に商業的な価値を与える経済的方法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
粗トール油(CTO)から脂肪酸アルキルエステル、ロジン酸およびステロールを得るための方法であって、以下の工程:
(a)CTO中に存在する遊離脂肪酸と低級アルコールを反応させる工程と、
(b)残存するCTOから上記で得た脂肪酸低級アルキルエステルを分離して、脂肪酸エステルの第一流れを形成する工程と、
(c)残存するCTO中のステロールをホウ酸でエステル化する工程と、
(d)既に得たホウ酸ステロールから残存するロジン酸を分離して、ロジン酸の第二流れを形成する工程と、
(e)該ホウ酸ステロールを遊離ステロールに転化させて、遊離ステロールの第三流れを形成する工程、
を特徴とする方法をクレームする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
より詳しくは、本方法の工程(a)において、脂肪酸は、その各々のC〜Cアルキル、好ましくはそのメチルエステルに変換される。この工程の主要な利点は、こうして得られたエステルの低沸点にあり、そのため、エステルを他の留分から分離するのが容易となる。脂肪酸とロジン酸の間の選択的な酵素または化学反応によって、通常は脂肪酸だけがその各々のエステルに変換される方法で、単一のエステル化工程において、これを行うのが好適である。エステル化は、例えばメタンスルホン酸のような酸性触媒によって120〜150℃の温度で、または、例えば Novozym CaLB (Novo)のような酵素によって20〜50℃の温度で、微生物の活性最適条件に応じて行うことができる。通常、酵素的反応には著しく長い時間がかかる。エステル化は、加圧下で実施し得る。
【0008】
工程(b)において、蒸留、ショートパス蒸留または分別によって、上記で得た脂肪酸エステルを残存するロジン酸から分離するが、ロジン酸汚染のない脂肪酸アルキル、好ましくは脂肪酸メチルエステルが得られ、底部流れに残る脂肪酸がより少ないという利点の得られる、酸蒸留と比較してより穏やかな条件を用いる。蒸留は、通常、0.01〜10mmHgの減圧、かつ、190〜240℃の温度で通常行われる薄膜蒸留装置を用いて行うことが好ましい。
【0009】
脂肪酸メチルエステル蒸留の後、全ての遊離ステロールをステロールトリエステルに転換するため、ステロールとロジン酸を含有する底部流れにホウ酸(HBO)を添加する(工程c)。ステロールエステルは、より少ない分解生成物、特に脱水反応をもたらす遊離ステロールそれ自体よりも、遙かに安定である。この工程により、ロジンと中性物の間のより良好な分離を達成し、かつステロールの望ましくない分解の回避することが可能である。通常、エステル化は、200〜230℃の温度で行われる。
【0010】
最後に、工程(d)および(e)により、ロジン酸もまた、好ましくはショートパス蒸留により、好ましくは薄膜蒸留装置によって、やはり好ましくは0.01〜10mmHgの減圧、かつ、190〜240℃の温度で作動させて、ホウ酸ステロールエステルおよび他の高分子量炭化水素から分離される。ロジン酸蒸留の後、ホウ酸ステロールエステルは加水分解または加溶媒分解を通じて、容易く遊離ステロールに転化される。しかし、好適な溶媒は水である。
【0011】
この方法は、ステロール含有量を高めるために、トール油ピッチに適用することもできる。ホウ酸エステル工程は、大豆植物油蒸留液(VOD)中の脂肪酸部分からトコフェロールとステロールを分離し、また、サトウキビワックス中のステロールと高分子アルコールを分離するために、適用され得る。第一流れ、脂肪酸メチルエステルは、米国特許第6,281,373号に記載されたような、ポリアミドを作るために用いられる原料であるダイマー酸メチルを製造するために用いられる。第二流れ、ロジン酸は、接着剤および他の従来製品を製造するために用いられる。第三流れは、現存する精製ステロール法における高ステロール仕込みとして使用し得る。この流れの粘度は、最後の蒸留の間に大豆油を添加するか、または、ホウ酸エステル化工程の間にC12〜C18飽和或いは不飽和のアルコールを反応させることによって、低下させ得る。アルコールは、加水分解工程後に回収し得る。
【実施例】
【0012】
〔比較実施例C1〕
粗トール油の薄膜蒸留装置蒸留:
本実施例は、脂肪酸の選択的な酵素的または化学的エステル化を行うことなく、かつ、全ての遊離ステロールをステロールホウ酸トリエステルに転換することなく、全工程を構築するために用いられた同一の薄膜蒸留装置において、比較目的で、粗トール油(CTO)の薄膜蒸留装置(WFE)蒸留を説明するものである。
【0013】
600.0ml/hのCTOを、WFEに通過させた。CTOは4.7重量%ステロールを含有し、そのうち9.0重量%のみがステロールエステルとして既に存在していた。WFEを、初留温度190℃にて1mmHgで作動させた。WFEの底部に残った残留分(留分1)は、CTO仕込みの64.0重量%を示した。留分1は、ロジン酸38.0重量%、TOFA40.0重量%を含有していた。第二蒸留では、WFEを、初期留分1の温度240℃にて1mmHgで作動させた。WFEの底部に残った残留分(留分2)は、留分1仕込みの15.0重量%を示した。留分2は、ロジン酸40重量%および全ステロール6重量%を含有していた。この方法におけるステロール収率は25重量%であり、これは、ステロールの75重量%が分解され、またはロジンおよび脂肪酸と共に留去したことを意味する。
【0014】
この実施例から、ショートパス蒸留を用いてロジン酸から脂肪酸を分離することは可能でなく、また、ステロール回収量は低すぎることがわかる。
【0015】
〔本発明による実施例1〕
粗トール油化学的エステル化および蒸留:
この本発明による実施例は、その後に薄膜蒸留装置(WFE)が続く、粗トール油からの脂肪酸の選択的な化学的および酵素的エステル化の使用を記載するものであって、残留分におけるステロール分解を回避するため、残存する重質物からメチルエステルとしての脂肪酸を分離し、本発明に従って使用されるように、粗トール油から高品質の脂肪酸エステル(TOFA−Me)とロジン酸を生成させる。
【0016】
(a)エステル化工程
RESITEC Industrias Quimicas LTDAから入手したCTO1kgを、メタノール(Aldrich Chemical Co.から入手)750g(23.43モル)およびメタンスルホン酸(0.12モル)(Merck KGaAから入手)12gと共に、温度計と機械的撹拌機が装備された、2L-Buichi研究室オートクレーブ BEP 280 中へ投入した。2時間にわたり温度を140℃に保ち、その後、温度を140℃から70℃に下げ、未反応メタノールを留去させた。反応中の最高反応圧力は7barであった。CTOの酸価は、当初の154mgKOH/gから65mgKOH/gに低下した。
【0017】
(b)蒸留工程
1.0kg/hのCTOを、WFEに通過させた。当初のCTOは4.7重量%ステロールを含有し、そのうち9.0重量%のみがステロールエステルとして既に存在し、ロジン酸40.2%および脂肪酸45重量%であった。WFEを、初留温度190℃にて1mmHgで作動させた。WFEの底部に残った残留分(留分1)は、8.6重量%全ステロールを有するCTO仕込みの55重量%を示した。この最初の蒸留におけるステロール収率は99.4重量%であった。ステロールの残り0.6重量%は、93重量%のTOFA−Meと7重量%の低沸点溶剤(light boilers)を有する蒸留液1と一緒に蒸発させた。熱分解反応は最小であった。その後、1kgの留分1へ、ホウ酸(0.08モル)(Aldrich Chemical Co.から入手)5.0gを添加した。全ての遊離ステロールをエステルへ結合させるため、試料を、220℃にて4時間で、2Lの3つ口丸底フラスコへ移動させた。この工程の後、生成物を、1mmHg、留分温度240℃で作動させたWFEで蒸留した。WFEの底部に残る留分2フラクションは、CTO仕込みの35%を示した。留分2は、21重量%全ステロールを有していた。全プロセス(蒸留1および2)における全ステロール収率は、理論量の88%であった。
【0018】
〔本発明による実施例2〕
粗トール油酵素的エステル化および蒸留:
本実施例は、粗トール油からの選択的な脂肪酸の酵素的エステル化および薄膜蒸留装置(WFE)の使用を記載するものであって、本発明に従って使用され、残留分におけるステロール収率を増加させ、粗トール油から高品質の脂肪酸エステル(TOFA−Me=トール油脂肪酸メチルエステル)とロジン酸を生成させる。
【0019】
(a)エステル化工程
RESITEC Industrias Quimicas LTDAから入手したCTO3kgを、メタノール(Aldrich Chemical Co.から入手)750g(23.43モル)、水120g、Novozym CaLB L(NOVOZYMES Latin America Ltdaから入手)1.5gと共に、温度計、機械的撹拌機、および凝縮器が装備された、4L-3つ口丸底フラスコ中に投入した。試料を、30℃で180時間、振動させた。当初の酸価154.0mgKOH/gは、64.0mgKOH/gに低下した。
【0020】
(b)蒸留工程
酵素的エステル化の後、初留温度190℃にて1mmHgで作動させたWFE中で生成物を蒸留した。WFEの底部に残った留分1は、CTO仕込みの65.0重量%を示した。留分1は、8.8重量%全ステロールを含有していた。この最初の分別におけるステロール収率は、99.4重量%を示した。残存する0.6重量%のステロールは、CTOの揮発分と一緒に蒸発させた。熱分解反応は最小であった。その後、1kgの留分1へ、ホウ酸(0.08モル)(Aldrich Chemical Co.から入手)5.0g、試料を添加し、全ての遊離ステロールをエステルへ結合させるため、試料を、220℃にて4時間で、2Lの3つ口丸底フラスコへ移動させた。反応後、生成物を、1mmHg、留分温度240℃で作動するWFEで蒸留した。WFEの底部に残る留分2フラクションは、ステロール21重量%を有する留分1仕込みの35.0重量%を示した。熱分解生成物は、全体で6.0重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗トール油(CTO)から脂肪酸アルキルエステル、ロジン酸およびステロールを得るための方法であって、該CTOに、以下の工程:
(a)CTO中に存在する遊離脂肪酸と低級アルコールを反応させる工程と、
(b)残存するCTOから上記で得た脂肪酸低級アルキルエステルを分離して、脂肪酸エステルの第一流れを形成する工程と、
(c)残存するCTO中のステロールをホウ酸でエステル化する工程と、
(d)既に得たホウ酸ステロールから残存するロジン酸を分離して、ロジン酸の第二流れを形成する工程と、
(e)該ホウ酸ステロールを遊離ステロールに転化させて、遊離ステロールの第三流れを形成する工程、
を施すことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程(a)において、エステル化を酸性触媒の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メタンスルホン酸を触媒として用いることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エステル化を120〜150℃の温度で行うことを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、エステル化を酵素の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エステル化を20〜50℃の温度で行うことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)および(d)において、薄膜蒸留装置(wiped film evaporator)を用いて蒸留を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜蒸留装置を0.01〜10mm/Hgの減圧および190〜240℃の温度で作動させることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)において、エステル化を200〜230℃の温度で行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程(e)において、水を用いてホウ酸ステロールの加溶媒分解に影響を与えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2006−518335(P2006−518335A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568355(P2004−568355)
【出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【国際出願番号】PCT/BR2003/000024
【国際公開番号】WO2004/074233
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(505315638)コグニス・ブラジル・ソシエダデ・ポル・クオタス・デ・レスポンシビリダデ・リミターダ (2)
【氏名又は名称原語表記】COGNIS BRASIL LTDA.
【Fターム(参考)】