説明

粗糸を製造するための粗紡機

【課題】相応な空気流を使用して、後続の紡績機における紡績のために適した粗糸を製造することができる粗紡機を提供する。
【解決手段】繊維束2から粗糸1を製造するための粗紡機であって、粗紡機は少なくとも1つの紡績箇所3を有していて、該紡績箇所3は、繊維束2のための走入開口5を備えた渦流室4と、少なくとも部分的に渦流室内に延びていてスピンドル6として形成された粗糸形成エレメントとを有しており、渦流室4には、該渦流室内に空気を導入可能な少なくとも1つの空気ノズル8が配置されており、スピンドル6は、粗糸1を渦流室4から引出し可能な引出し通路9を有している形式のものにおいて、引出し通路9は渦流室4の領域に、該渦流室から引き出される粗糸1のための進入開口10を有しており、該進入開口の直径Fが、4mm〜12mm、有利には6mm〜8mmの値である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束から粗糸を製造するための粗紡機であって、粗紡機は少なくとも1つの紡績箇所を有していて、該紡績箇所は、繊維束のための走入開口を備えた渦流室と、少なくとも部分的に渦流室内に延びていてスピンドルとして形成された粗糸形成エレメントとを有しており、渦流室には、該渦流室内に空気を導入可能な少なくとも1つの空気ノズルが配置されており、スピンドルは、粗糸を渦流室から引出し可能な引出し通路を有している形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの場合ドラフトによって前処理された(例えばダブリングされた)スライバから粗糸を製造するための粗紡機は、従来技術において以前から公知である。粗糸は、後続の紡績プロセスのための前駆材料(Vorlage)として働き、紡績プロセスでは、粗糸の個々の繊維は、例えばリング精紡機を用いて繊維糸に紡績される。粗糸の製造中に、提供された繊維束を、多くの場合粗紡機の一部であるドラフト装置を用いて延伸し、次いで保護撚りを加えると、粗糸にある程度の強度を与えることができ、有利であることが判明している。この強度は、相応なボビンへの巻取り時にもしくは後置された紡績機への供給中に、粗糸が裂断することを回避するために、重要である。しかしながら与えられた保護撚りは単に、個々の繊維の結束が個々の巻取り過程もしくは繰出し過程中やそれぞれの機械型式の間における相応な搬送過程中に保証されるような強さであればよい。しかしながらまた他方では保護撚りにもかかわらず、粗糸が紡績機においてさらに処理できることが保証されねばならず、つまり粗糸は引き続きドラフト可能であるか又は再び個々の繊維へと解繊可能でなくてはならない。
【0003】
相応な粗糸を製造するために、優先的にいわゆるフライヤが使用されるが、フライヤの供給速度は発生する遠心力に基づいて制限されている。従って今日、フライヤを回避する又はフライヤの代わりに代替の機械型式を使用するという種々様々な提案がなされている(例えばEP0375242A2、DE3237989C2参照)。特に、これに関連してまた既に、空気流を用いて保護撚りを生ぜしめる空気式紡績機を用いて粗糸を製造することも、提案されている。この空気式紡績機の基本原理は、内部において空気渦が生ぜしめられる渦流室を通して繊維束を案内することにある。この場合空気渦によって、外側の繊維の一部がいわゆる巻付き繊維として、中心を延びる繊維ストランドの周囲に巻き付けられ、この中心を延びる繊維ストランドはそれに対して、ほぼ互いに平行に延びる芯繊維から成っている。
【0004】
しかしながら基本的には、相応な空気式紡績機の使用時にも、この空気式紡績機が粗糸の形成するために設計されているのではなく、繊維を可能な限り高い強度を有する糸に紡績するために設計されている、という欠点がある。つまりこの場合巻付き繊維の割合が著しく大きい。さらに巻付き繊維は、公知の空気式紡績箇所の幾何学形状に基づいて強く芯繊維に巻き付けられているので、糸は、さらなるドラフト可能性が不足していることに基づき、粗糸として使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP0375242A2
【特許文献2】DE3237989C2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゆえに本発明の課題は、相応な空気流を使用して、後続の紡績機における紡績のために適した粗糸を製造することができる粗紡機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載の特徴的な構成を有する粗紡機によって解決された。
【0008】
すなわち前記課題を解決するために本発明の構成では、冒頭に述べた形式の粗紡機において、引出し通路は渦流室の領域に、該渦流室から引き出される粗糸のための進入開口を有しており、該進入開口の直径が、4mm〜12mm、有利には6mm〜8mmの値であるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スピンドルとして形成された粗糸形成エレメントは、引出し通路を有しており、該引出し通路を介して粗糸は渦流室から引出し可能であり、引出し通路は渦流室の領域に、該渦流室から引き出される粗糸のための進入開口を有していて、該進入開口の直径が、4mm〜12mm、有利には6mm〜8mmの値である。このような直径範囲が維持されると、特に有利な空気流がスピンドルの進入開口の領域において生ぜしめられ、このような空気流は、外側の繊維端部の一部だけが捕捉されて、所望の強度で、本来の芯繊維の周囲に巻き付けられる。上記の値とは異なり直径が4mm未満であると、徐々に、汎用の空気式紡績法から知られている、固い糸になるような範囲になり、このような固い糸は粗糸としては、条件付きでしか適していない。これに対して12mmを越える直径を選択すると、渦流室内部において必要な渦流を保証するためには、空気ノズルを介して供給される空気の空気圧を極めて高くする必要がある。それというのは、流入する吸気の一部は、渦流形成に貢献することなく、スピンドルの進入開口を介して渦流室から流出してしまうからである。従って、確かに、本発明による値範囲の外における直径を有する進入開口を備えたスピンドルを用いて、粗糸を製造することも可能である。しかしながら、汎用の空気式紡績法によって公知の、0.5〜最大2.0mmの値から、直径が大きく異なっていることによって初めて、特に有利な粗糸を製造することができ、この特に有利な粗糸は次のことによって、すなわち、繊維の一部が巻付き繊維として、中心に配置された芯繊維の周囲に巻き付けられ(かつ粗糸にはこれにより保護撚りが設けられる)、この場合巻付き繊維の割合及び強度が、次いで行われる紡績プロセスの経過中においてさらに望まれている粗糸のドラフトが可能であるような程度の高さであることによって、傑出している。
【0010】
本発明の有利な態様では、スピンドルは少なくとも進入開口の領域に、5mm〜14mm、有利には10.0mm〜11.5mmの値の外径を有している。進入開口の領域においては、まだ完全には保護されずに繊維束の内部に位置している、繊維の少なくとも一部が、空気流によって捕捉され、部分的に繊維束から外に引き出され、最終的にそれぞれの芯繊維の周囲に巻き付けられ、このように繊維の少なくとも一部を巻き付けられた芯繊維は、渦流室の走入開口から渦流室自体を通過して、最終的にスピンドルの進入開口を介して渦流室から引き出される。この場合後の巻付き繊維は空気流によって、スピンドルの進入開口に接続するスピンドル先端の領域において、曲げられ、最終的に芯繊維の周囲に配置される。この際にどのような強さで繊維が曲げられるかは、特に、進入開口の領域におけるスピンドルの外径に依存している。例えば小さな外径は強い曲げを生ぜしめ、逆に大きな外径は弱い曲げを生ぜしめる。最終的にスピンドルの外径が、上で述べたようにスピンドルの進入開口の直径を本発明のように維持して選択されると、スピンドルはその進入開口の領域において、渦流室内に流入する空気によって生ぜしめられる空気渦の最適な角速度を可能にする外周面を有する。もし5mmよりも小さな直径が選択されると、最終的に角速度は高められ、これによって巻付き繊維は極めて強く回転させられ、これにより保護撚りの程度は高められ、ドラフト可能性は失われてしまう。これに対して14mmを上回る外径が選択されると、角速度は極めて小さくなり、ひいては不十分な保護撚りしか得られない。
【0011】
さらに別の有利な態様によれば、スピンドルは少なくとも進入開口の領域に、0.5mm〜5.0mm、有利には1.0mm〜2.5mm、さらに有利には1.25mmの値の壁厚を有している。このような値を選択することによって、進入開口の本発明による範囲を維持しながら、上限値内におけるスピンドルの外径を実現することができる。壁厚はこの場合スピンドルの全長にわたって前記範囲内にあることができ、特に一定であってもよい。同様にまた、壁厚を進入開口の領域においてだけ上記記載に相応して選択し、残りのスピンドルの壁厚が前記値とは異なっているような態様も可能である。
【0012】
別の有利な態様によれば、渦流室は少なくともスピンドルの進入開口の領域に、10mm〜16mm、有利には12mm〜14mm、さらに有利には12.5mmの値の内径を有している。スピンドルの進入開口は、この範囲において相応な壁区分によって取り囲まれ、この場合壁区分と進入開口とは有利には同心的に配置されている。これによってスピンドル先端(=進入開口の周囲の領域)と渦流室の壁との間には、リング形状の流れ通路が形成され、この流れ通路内において、流入する空気によって、保護撚りを形成するために必要な渦流が生ぜしめられる。渦流室内に空気を流入させるために加えられる圧力が規定されている場合、渦流室内において生じる空気渦の回転数は、特に渦流室の内径に依存している。この渦流室の内径が極めて大きく選択されると、回転数は、安定した保護撚りを形成するのには小さすぎる値になる。直径が極めて小さく、ひいては回転数が極めて大きく選択されると、保護撚りは、例えば空気式紡績プロセスの枠内において後で行われるドラフトを妨げるような強度を有することになる。これに対して、上記制限値とスピンドルの進入開口の本発明による直径範囲を維持すると、所望の保護撚り形成を促進する最適な空気流が生ぜしめられる。
【0013】
さらに別の有利な態様によれば、渦流室の走入開口とスピンドルの進入開口との間の間隔が、2.5mm〜11.0mm、有利には3.5mm〜6.5mmの値である。基本的なことをここで付言しておくと、保護撚りの形成は渦流室の領域において行われることが望ましい。この場合、繊維束の撚りが、渦流室の外に位置する領域内への繊維束の運動方向とは逆向きに伝播することを、回避することが肝要である。それというのは、もし前記繊維束の運動方向とは逆向きに繊維束の撚りが伝播すると、極めて僅かな数の繊維しか、空気流によって捕捉されて巻付き繊維として芯繊維の周囲に巻き付けられるのに十分な長さをもって、繊維束から突出もしくは引き出され得ないからである。従って保護撚りを所望のように十分に形成することは、もはや不可能である。渦流室の走入開口とスピンドルの進入開口との間の間隔が極めて大きく選択されると、空気渦の影響によって、繊維束の撚りの不都合な伝播を惹起するほどに大きなトルクが発生してしまう。前記間隔が2.5mmよりも短いと、空気のための作用面が僅かになりすぎ、所望の保護撚りを形成することができない。
【0014】
別の有利な態様によれば、スピンドル長手方向軸線の軸線方向で見て少なくとも1つの空気ノズルとスピンドルの進入開口との間の間隔が、2mm〜6mm、有利には3mm〜4mmの値である。多くの場合渦流室の周囲に複数配置されている空気ノズルは、通常、接線方向で渦流室に進入している。このようになっていると、空気は、ラバルノズル形の棍棒形状において広がる。このような棍棒形状の空気の一部が、スピンドル先端に衝突し、そこで変向され、最終的に繊維を捕捉し、これにより繊維は巻付き繊維として芯繊維の周囲に巻き付けられる。スピンドルの進入開口と空気ノズルとの間の間隔が、2mmを下回っている場合には、繊維を走行する繊維束から解離することは、特定の条件下においてしか可能でない。それというのは、この場合得られる作用面が小さすぎるからである。これに対して間隔が6mmを上回っている場合にも、同様に、巻付き繊維の解離が困難になる。それというのは、渦流室内に流入する空気の大部分が進入開口を介してスピンドルに流入してしまうからである。この空気は結局、渦流室内における必要な渦流形成のためにはもはや使用されず、所望の粗糸の製造はもはや不可能になる。
【0015】
さらに別の有利な態様によれば、渦流室に、該渦流室の走入開口に開口する繊維ガイド通路を備えた繊維ガイドエレメントが前置されている。この繊維ガイドエレメントはこの場合、粗紡機の本来の渦流室の前における領域において繊維束をコントロールしてガイドするために働く。通常、相応な粗紡機は、ドラフト装置、有利にはエプロン式ドラフト装置を有しており、このドラフト装置において繊維束は、渦流室への進入前に延伸され、かつこの際に均一化される。もし繊維束がガイドされずに渦流室内に引き渡されると、場合によっては繊維束内において薄い箇所と厚い箇所とが生じてしまう。このような現象は、繊維ガイドエレメントの使用によって回避することができる。さらに繊維ガイドエレメントは(渦流室の走入開口に移行する)繊維束出口の領域に、いわゆる撚り堰き止めエレメントを有することができ、この撚り堰き止めエレメントは例えば縁部、ピン、捩られた面、円錐として形成されていても、又は互いにずらされて配置された複数の個別エレメントとして形成されていてもよく、繊維束と接触している。撚り堰き止めエレメントはこの場合、渦流室内において生じた繊維束の撚りが繊維ガイドエレメントに向かって伝播して、渦流室内において次いで行われる保護撚りの形成に対して不都合に作用することを阻止する。さもないと、繊維端部を繊維束から解離させて巻付き繊維として芯繊維の周囲に巻き付けることが不可能になってしまう。
【0016】
別の有利な態様によれば、スピンドルの進入開口の本発明による直径を維持しながら、繊維ガイド通路の長さが4mm〜12mm、有利には6.0mm〜9.5mmの値である。このような長さによって、相応に前置されたユニット、例えばエプロン式ドラフト装置から渦流室の領域への繊維束の確実なガイドが可能になり、しかもこの際に、繊維束と繊維ガイド通路の内壁との間における過剰な摩擦をおそれる必要はない。
【0017】
さらに別の有利な態様によれば、繊維ガイド通路は渦流室の走入開口とは反対の側に繊維束のための入口開口を有していて、該入口開口の高さが2mm〜10mm、有利には4mm〜5mmの値である。これによって、不都合なエラードラフトを生ぜしめることなく、繊維束を繊維ガイド通路内に導くことができる。そして閉塞が回避され、その結果空気流によって渦流室の内部において生ぜしめられた負圧は、繊維束の運動方向とは逆向きに、繊維ガイド通路の入口開口に向かって作用し、渦流室内への繊維束の引込みを助成することができる。
【0018】
別の有利な態様によれば、繊維ガイド通路は渦流室の走入開口とは反対の側に繊維束のための入口開口を有していて、該入口開口の幅が5mm〜12mm、有利には7mm〜8mmの値である。この幅は、スピンドルの進入開口の直径の値とほぼ同じである。繊維束はこれによって紡績箇所を通るその搬送中に、形成される粗糸の品質に不都合な影響を及ぼすおそれのある大きな幅変化にさらされることがなくなる。
【0019】
特に有利な別の態様によれば、渦流室の走入開口の幅とスピンドルの進入開口の直径との比が、2.0〜0.5、有利には1.4〜0.8である。このようになっていると、繊維を繊維束もしくは繊維束から形成される粗糸の全幅にわたって可能な限り直線的にスピンドル内に引き受けること、及びこのようにして渦流室から引き出すことが、保証される。確かに、粗糸は、上に述べた限界値とは異なった、渦流室の走入開口の幅とスピンドルの進入開口の直径との比においても、製造することができる。しかしながら粗糸の特性(巻付き繊維の割合、強度等)は、スピンドルの進入開口の本発明による直径を維持しながら、上記比を同時に相応に選択した場合にのみ、達成し得る最高水準に特に近づくことになる。
【0020】
結果として、繊維束から相応な空気流を用いて渦流室の内部において粗糸を製造することができる粗紡機が提案される。供給速度はこの場合、請求項1記載の直径を有するスピンドルの進入開口との関連において、個々のパラメータを本発明のように選択することによって、例えばフライヤとして形成された汎用の粗紡機に比べて、著しく高めることができる。さらに、公知の空気式紡績機の最大直径を著しく上回る、スピンドルの進入開口の4mm〜12mmの直径を維持することによって初めて、必要な強度を有していてしかも後続の紡績機におけるドラフト作業を可能にする粗糸を得ることが保証される。結局、強度とドラフト可能性との間における特に有利な比は、上記直径が6mm〜8mmの間にある場合に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による粗紡機を概略的に示す図である。
【図2】本発明による紡績箇所を縮尺に従わずに示す断面図である。
【図3】図2において破線の円で取り囲まれた領域「W」を、拡大して示す図である。
【図4】本発明による紡績箇所の縮尺に従わずに一部を断面して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
以下において図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する前に付言しておくと、図示の紡績箇所3及び、場合によってはこの紡績箇所3に前置又は後置されている構成エレメントは、実際とは異なる縮尺で示されている。つまり個々の図は単に、各構成群の原理構造を明らかにすることを目的とした概略図である。特に、図3及び図4に示された間隔及び直径は、必ずしももしくは直接的に本発明による正確な値範囲を再現するものではない値を有している。
【0024】
図1には、本発明による粗紡機(Vorspinnmaschine)の一部が略示されている。この粗紡機は必要とあればドラフト装置15を有しており、このドラフト装置15には、例えばダブリングされたスライバである繊維束2が供給される。さらに図示の粗紡機は原則的には、ドラフト装置15から間隔をおいて位置する紡績箇所3を有しており、この紡績箇所3はその内部に渦流室4を備えていて、この渦流室4内において繊維束2もしくは繊維束2の繊維の少なくとも一部に、保護撚り(Schutzdrehung)が与えられる(紡績箇所3の正確な作用形式は、以下においてさらに詳しく記載する)。
【0025】
さらに粗紡機は引出しローラ対17と、この引出しローラ対17に後置された、粗糸1のための巻取り装置16(同様に略示)とを有することができる。本発明による装置は必ずしも、図1に示したようにドラフト装置15を有する必要がない。
【0026】
紡績装置は、元々は加工糸(fertiges Garn)を製造するために使用される特殊な空気式紡績法に基づいて作動する。既に述べたように、糸製造のための装置は、ドラフト可能な粗糸1を製造するためには適していない。従ってたとえ従来技術において、空気式紡績装置を用いて粗糸1を製造するという示唆があったとしても、従来は、本来の紡績箇所3の個々の部材の関連した直径又は間隔に関して、具体的な寸法が欠けていた。そして適正な値の選択は、後の粗糸1の特性に対して決定的な意味を持つことが判明している。
【0027】
つまり粗糸1を製造するために重要なことは、走入開口5を介して渦流室4内に導入される繊維束2に、単に保護撚りだけが与えられるということであり、このようにして、これによって製造された粗糸1を、例えばリング精紡機のような後続の紡績機におけるさらなる加工のために、引き続きドラフト可能な状態に留めることができる。これに反して従来の空気式紡績装置は繊維束2に、糸製造に続く必要なドラフトをもはや不可能にするほどの強い撚りを与えてしまう。このことは、汎用の空気式紡績機においては望まれていることでもある。それというのは、汎用の空気式紡績機は、通常強い強度によって傑出していることが望ましい加工糸を製造するように、設計されているからである。
【0028】
本発明の発明者は、空気式紡績装置の各部材を適宜に変更することによって、ドラフト可能な粗糸1をも製造することができる、という認識を得ている。それぞれの値については、図3及び図4を参照しながら詳しく述べる。
【0029】
粗糸1を形成するために繊維束2は、繊維ガイドエレメント12の、相応な入口開口14を有する繊維ガイド通路13を通して、紡績箇所3の渦流室4内に導入される。この渦流室4内において粗糸1は保護撚りを施され、すなわち繊維束2の繊維の少なくとも一部が、空気流によって捕捉され、この空気流は、渦流室4を画定する壁に相応に配置された空気ノズル8によって生ぜしめられる。繊維の一部は、この場合繊維束2から少なくともある程度の長さ引き出され、渦流室4内に進入しているスピンドル6の先端の周囲に巻き付けられる。繊維束2がスピンドル6の進入開口10を通して、スピンドル6の内部に配置された引出し通路9を介して渦流室4から引き出されることによって、最後には自由な繊維端部18(図1参照)もまた進入開口10に向かって引っ張られ、この際に巻付き繊維(Umwindefaser)として、中央において延びる芯繊維の周囲に巻き付き、その結果所望の保護撚りを有する粗糸1が得られる。空気ノズル8に関してここで予め付言しておくと、空気ノズル8は通常、流出する空気噴流が等しい方向を向くように、方向付けられていることが望ましく、このようになっていると、空気ノズル8は互いに共働して、1つの撚り方向をもった同方向に向けられた空気流を生ぜしめることができる。有利には個々のノズルはこの場合互いに回転対称的に配置されている。
【0030】
本発明による紡績箇所3は有利には、例えば繊維ガイドエレメント12内に挿入された撚り堰き止めエレメント7を有しており、この撚り堰き止めエレメント7は図2及び図3の実施形態では、ピンとして形成されている。ピンとして形成されたこの撚り堰き止めエレメント7は、実質的に「偽の糸芯」として働き、繊維束2における撚りが繊維束2の供給方向とは逆向きに、ひいては繊維ガイドエレメント12の入口開口14に向かって伝播することを保証する。
【0031】
請求項に記載された寸法は、図3及び図4において明らかにされている。図面を分かり易くするために、図3においては残りの符号は省かれている。しかしながら図3において省かれている符号は、図3に示された領域「W」を他の部材と共に同様な形式で示す図2から見て取ることができる。従って図3は、図2における範囲「W」を拡大した図に相当する。
【0032】
本発明によれば、スピンドル6の進入開口10の直径Fは4mm〜12mmの値、有利には6mm〜8mmの値を有している。汎用の空気式紡績装置において使用される、スピンドル6の相応な内径から大きく異なっていることによって、結局、所望の粗糸1が得られる。この粗糸7は、後続の紡績機において紡績するのに必要な強度と必要なドラフト可能性とを粗糸1に与える、上に述べた保護撚りによって傑出している。上記直径が上限値よりも大きな値を有していると、強度は過度に高まってしまう。
【0033】
さらに、以下の間隔もしくは直径(図3及び図4参照)をそれぞれ記載された限界値内において変動させると、前記特性をさらに高めることができる。上記のことに関連して付言しておくと、部分的に複数の範囲が個々の間隔もしくは直径に対して記載されている(例えば壁厚A参照)。この場合広い範囲を示す値は、利用できる粗糸1を得るために、それぞれの値をその間において変動させることが望ましい限界値を示している。また狭い範囲を示す値は、それぞれの値の特に有利な範囲を規定する限界値であって、さらに改善された粗糸特性が得られる限界値を示している。さらに一部には、特に有利であることが判明している正確な個別値も記載されている。それぞれの範囲もしくは個別値は以下の通りである:
A スピンドル6の進入開口10の領域における壁厚:0.5mm〜5.0mm、有利には1.0mm〜2.5mm、さらに有利には1.25mm、
B 進入開口10の領域におけるスピンドル6の外径:5mm〜14mm、有利には10.0mm〜11.5mm、
C スピンドル6の進入開口10の領域(壁区分11参照)における渦流室4の内径:10mm〜16mm、有利には12mm〜14mm、さらに有利には12.5mm、
D 空気ノズル8とスピンドル6の進入開口10との間の間隔(スピンドル長手方向軸線の方向において測定):2mm〜6mm、有利には3mm〜4mm、
E 渦流室4の走入開口5とスピンドル6の進入開口10との間の間隔:2.5mm〜11mm、有利には3.5mm〜6.5mm、
F スピンドル6の進入開口10の直径:4mm〜12mm、有利には6mm〜8mm、
G 繊維ガイド通路13の入口開口14の幅:5mm〜12mm、有利には7mm〜8mm、
H 繊維ガイド通路13の入口開口14の高さ:2mm〜10mm、有利には4mm〜5mm、
K 繊維ガイド通路13の長さ:4mm〜12mm、有利には6.0mm〜9.5mm。
【0034】
それぞれの値の利点に関しては、既に上において記載しているので、繰り返しは避ける。
【0035】
結局のところ本発明では、汎用のフライヤ(Flyer)によって製造された粗糸1とほぼ同じ特性を有する粗糸1を製造することができる、粗紡機が提案される。
【0036】
付言すれば、本発明は図示の実施形態に制限されるものではなく、特許請求の範囲、明細書及び図面において記載された個々の特徴のすべての組合せが、相応な組合せが技術的に可能もしくは有利であるならば、本発明の対象である。
【符号の説明】
【0037】
1 粗糸、 2 繊維束、 3 紡績箇所、 4 渦流室、 5 走入開口、 6 スピンドル、 7 撚り堰き止めエレメント、 8 空気ノズル、 9 引出し通路、 10 進入開口、 11 渦動室の壁区分、 12 繊維ガイドエレメント、 13 繊維ガイド通路、 14 入口開口、 15 ドラフト装置、 16 巻取り装置、 17 引出しローラ対、 18 自由な繊維端部、 A スピンドルの進入開口の領域における壁厚、 B 進入開口の領域におけるスピンドルの外径、 C スピンドルの進入開口の領域における渦流室の内径、 D スピンドルの進入開口と空気ノズルとの間の間隔、 E スピンドルの進入開口と渦流室の走入開口との間の間隔、 F スピンドルの進入開口の直径、 G 繊維ガイド通路の入口開口の幅、 H 繊維ガイド通路の入口開口の高さ、 K 繊維ガイド通路の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束(2)から粗糸(1)を製造するための粗紡機であって、粗紡機は少なくとも1つの紡績箇所(3)を有していて、該紡績箇所(3)は、繊維束(2)のための走入開口(5)を備えた渦流室(4)と、少なくとも部分的に渦流室(4)内に延びていてスピンドル(6)として形成された粗糸形成エレメントとを有しており、渦流室(4)には、該渦流室(4)内に空気を導入可能な少なくとも1つの空気ノズル(8)が配置されており、スピンドル(6)は、粗糸(1)を渦流室(4)から引出し可能な引出し通路(9)を有している形式のものにおいて、引出し通路(9)は渦流室(4)の領域に、該渦流室(4)から引き出される粗糸(1)のための進入開口(10)を有しており、該進入開口(10)の直径(F)が、4mm〜12mm、有利には6mm〜8mmの値であることを特徴とする、繊維束から粗糸を製造するための粗紡機。
【請求項2】
スピンドル(6)は少なくとも進入開口(10)の領域に、5mm〜14mm、有利には10.0mm〜11.5mmの値の外径(B)を有している、請求項1記載の粗紡機。
【請求項3】
スピンドル(6)は少なくとも進入開口(10)の領域に、0.5mm〜5.0mm、有利には1.0mm〜2.5mm、さらに有利には1.25mmの値の壁厚(A)を有している、請求項1又は2記載の粗紡機。
【請求項4】
渦流室(4)は少なくともスピンドル(6)の進入開口(10)の領域に、10mm〜16mm、有利には12mm〜14mm、さらに有利には12.5mmの値の内径(C)を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項5】
渦流室(4)の走入開口(5)とスピンドル(6)の進入開口(10)との間の間隔(E)が、2.5mm〜11.0mm、有利には3.5mm〜6.5mmの値である、請求項1から4までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項6】
スピンドル長手方向軸線の軸線方向で見て少なくとも1つの空気ノズル(8)とスピンドル(6)の進入開口(10)との間の間隔(D)が、2mm〜6mm、有利には3mm〜4mmの値である、請求項1から5までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項7】
渦流室(4)に、該渦流室(4)の走入開口(5)に開口する繊維ガイド通路(13)を備えた繊維ガイドエレメント(12)が前置されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項8】
繊維ガイド通路(13)の長さ(K)が4mm〜12mm、有利には6.0mm〜9.5mmの値である、請求項1から7までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項9】
繊維ガイド通路(13)は渦流室(4)の走入開口(5)とは反対の側に繊維束(2)のための入口開口(14)を有していて、該入口開口(14)の高さ(H)が2mm〜10mm、有利には4mm〜5mmの値である、請求項7又は8記載の粗紡機。
【請求項10】
繊維ガイド通路(13)は渦流室(4)の走入開口(5)とは反対の側に繊維束(2)のための入口開口(14)を有していて、該入口開口(14)の幅(G)が5mm〜12mm、有利には7mm〜8mmの値である、請求項7から9までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項11】
渦流室(4)の走入開口(5)の幅とスピンドル(6)の進入開口(10)の直径(F)との比が、2.0〜0.5、有利には1.4〜0.8である、請求項1から10までのいずれか1項記載の粗紡機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219427(P2012−219427A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91930(P2012−91930)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(590005597)マシーネンファブリク リーター アクチェンゲゼルシャフト (93)
【氏名又は名称原語表記】Maschinenfabrik Rieter AG
【住所又は居所原語表記】Klosterstrasse 20,CH−8406 Winterthur,Switzerland
【Fターム(参考)】