説明

粗製ジボランの精製方法および精製装置

【課題】簡便かつ安価に高純度ジボランを回収率よく精製するための粗製ジボランの精製方法と精製装置を提供する。
【解決手段】複数種類の不純物を含有するガス状粗製ジボランを、前記不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤3a、3b、3cに順次接触させ、しかる後に、液化する。吸着剤3a、3b、3cは、種類によって分別されて複数の吸着槽4a、4b、4cに収納される。粗製ジボランの供給源2から凝縮器7へのジボラン流路8に、相異なる種類の吸着剤3a、3b、3cを収納した複数の吸着槽4a、4b、4cが直列に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体や太陽電池を製造する際のドーパントやBPSG絶縁膜形成材料などとして有用な高純度ジボラン(B2 6 )を得るための粗製ジボランの精製方法と精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数種類の不純物を含有する粗製ジボランの精製方法として、不純物とジボランとの沸点差を利用した蒸留精製法を採用する場合、ジボランより沸点の高い不純物である塩化メチル(CH3 Cl)、高次ボラン(B4 10、B5 9 、B5 11)等は、蒸留操作を行うことで後留分として容易に分離可能である。しかし、高次ボランは熱的に不安定で、例えばB4 10は25℃でもかなり速く分解して水素を発生して爆発する可能性があり、B5 11も同様に25℃で極めて速く分解する。その為、後留分の分離のためには安全上から低温かつ加圧下での蒸留操作が必要である。そのような低温かつ加圧下での蒸留操作を行う場合、二酸化炭素(CO2 )、エタン(C2 6 )等の不純物はジボランとの沸点差が小さくなり、蒸留操作により除去するのが困難になる。
【0003】
そこで、粗製ジボランをリボイラーによりガス化し、充填塔に充填した吸着材に接触させ、ジボランとの沸点差の小さい不純物を吸着材により除去し、充填塔の塔上部に設けたコンデンサーにより凝縮し、ジボランより沸点の低い不純物はコンデンサーから排気し、ジボランより沸点の高い不純物を含む凝縮液を充填塔を介してリボイラーに還流させ、ジボランより沸点の高い不純物をリボイラーに蓄積し、その粗製ジボランのガス化と液化を繰り返すことでコンデンサーにより凝縮されるジボランの純度を高め、塔上部から液化された高純度ジボランを回収するという、蒸留と吸着を組み合わせた精製方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−197301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法は、ジボランとの沸点差の小さい不純物しか吸着剤により吸着できず、蒸留操作が不可欠であることから、初留や釜残にジボランが混入して回収率が低下する。また、蒸留操作に際してジボランと不純物との沸点差に応じた煩雑な温度調節が必要であるため生産性が低下する。さらに、ジボランより沸点の低い不純物であるアルゴン(Ar)、酸素(O2 )等の含有濃度は通常は低く、例えば1〜100ppm程度であることから、蒸留操作による除去には限界があり、高純度ジボランを得るのを極めて困難にする。そのため、上記従来の方法は高純度ジボランを工業的に得るのに適しておらず、精製コストが増大する。本発明は、このような従来技術の課題を解決できる精製方法と精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による粗製ジボランの精製方法は、複数種類の不純物を含有するガス状粗製ジボランを、前記不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤に順次接触させ、しかる後に、液化することを特徴とする。
本発明方法によれば、粗製ジボランに含有される複数種類の不純物を、不純物の種類に応じた吸着性能の高い吸着剤に順次吸着させることで、蒸留を行うことなく粗製ジボランから不純物を効率良く除去することができる。
この場合、複数種類の吸着剤を単一の吸着槽においてガス状粗製ジボランの流れに沿って複数層状に配置することで、その単一の吸着槽内でガス状粗製ジボランを複数種類の吸着剤に順次接触させてもよいし、あるいは、複数種類の吸着剤を種類によって分別して複数の吸着槽に収納し、それら複数の吸着槽をガス状粗製ジボランの流路において直列に配置することで、ガス状粗製ジボランを複数種類の吸着剤に順次接触させてもよい。
【0007】
本発明装置は、複数種類の不純物を含有する粗製ジボランの精製装置であって、前記不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤と、前記吸着剤を収納する複数の吸着槽と、凝縮器と、ガス状とされた前記粗製ジボランの供給源から前記凝縮器へのジボラン流路とを備え、前記吸着剤は、種類によって分別されて複数の前記吸着槽に収納され、前記ガス状粗製ジボランを複数種類の前記吸着剤に順次接触させることができるように、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の前記吸着槽が前記ジボラン流路に直列に配置されていることを特徴とする。
本発明装置によれば本発明方法を実施できる。
【0008】
本発明方法においては、前記吸着剤を、種類によって分別して複数の吸着槽に収納し、前記ガス状粗製ジボランの流路に、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の吸着槽を直列に配置し、前記吸着剤の種類毎に相異なる条件下で、前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させるのが好ましい。これにより、各種類の吸着剤それぞれに適した条件下で不純物を吸着でき、吸着効率を向上できる。
【0009】
本発明方法においては、前記吸着剤を、種類によって分別して複数の吸着槽に収納すると共に、同一種類のものを複数の吸着槽に収納し、前記ガス状粗製ジボランの流路に、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の吸着槽を直列に配置し、洗浄ガスの流路に、前記ガス状粗製ジボランの流路に配置されていない複数の吸着槽を配置し、各種類の前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる間に、各種類の前記吸着剤に洗浄ガスを接触させるのが好ましい。これにより、ガス状粗製ジボランを各種類の吸着材に接触させている間に、各種類の吸着材を洗浄ガスとの接触により再生できる。よって、不純物の蓄積により吸着剤の吸着能力が低下して破過が生じる前に、その吸着剤を収納した吸着槽を、吸着能力が確保された吸着剤を収納した吸着槽と入れ換えることで、不純物の吸着を中断することなく連続して行うことが可能になる。この場合、本発明装置は洗浄ガスの供給源から排出領域への洗浄ガス流路を備え、前記吸着剤は、同一種類のものが複数の前記吸着槽に収納され、各種類の前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる間に、各種類の前記吸着剤に前記洗浄ガスを接触させることができるように、前記ガス状粗製ジボランの流路に配置されていない複数の吸着槽が前記洗浄ガス流路に配置され、前記ジボラン流路に配置されている前記吸着槽と前記洗浄ガス流路に配置されている前記吸着槽とを入れ換える入れ換え機構が設けられているのが好ましい。
【0010】
本発明方法においては、水分吸着性能が最も高い種類の前記吸着剤に、前記ガス状粗製ジボランを最初に接触させるのが好ましい。これにより、粗製ジボランに不純物として含有される水分を最初に水分吸着性能の高い吸着剤により除去できるので、その後に粗製ジボランに接触する吸着材の吸湿を防止し、吸着性能の低下を防止して吸着効率を向上できる。
【0011】
粗製ジボランに不純物として含有される窒素は、他の不純物よりも除去し難く、吸着剤へ他の不純物が吸着すると吸着量が減少し、また、低温で他の不純物が少ない方が吸着効率が良い。よって本発明方法においては、窒素吸着性能が最も高い前記吸着剤に、前記ガス状粗製ジボランを最後に接触させるのが好ましい。これによって窒素の吸着効率を向上できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便かつ安価に高純度ジボランを回収率よく精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る粗製ジボランの精製装置の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る粗製ジボランの精製装置1の構成を示す。本発明により精製される粗製ジボランの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造でき、例えば、ソジウムボロハイドライド(NaBH4 )に三塩化ホウ素(BCl3 )を溶媒中で反応させることで製造される。そのような粗製ジボランは、製造過程における溶媒の分解や外気の混入等により複数種類の不純物を含有する。そのような不純物として、ジボランよりも沸点の低い低沸点成分、沸点の高い高沸点成分、沸点が接近する成分を粗製ジボランは通常含有する。例えば、低沸点成分として酸素、アルゴン、水素(H2 )、窒素(N2 )、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4 )等、高沸点成分として塩化メチル、高次ボラン、水分(H2 O)等、ジボランと沸点が接近する成分として二酸化炭素、エタン等が不純物として含有される。
【0015】
精製装置1は、供給源2から供給されるガス状粗製ジボランに含有される不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤3a、3b、3cと、吸着剤3a、3b、3cを収納する複数の吸着槽4a、4a′、4b、4b′、4c、4c′と、凝縮器7と、ガス状粗製ジボランの供給源2から凝縮器7へのジボラン流路8と、洗浄ガスの供給源9から系外の排出領域10への洗浄ガス流路11とを備える。
【0016】
吸着剤3a、3b、3cは、種類によって分別されて複数の吸着槽4a、4a′、4b、4b′、4c、4c′に収納され、かつ、同一種類のものが複数の吸着槽4a、4a′、4b、4b′、4c、4c′に収納される。本実施形態においては、吸着剤3a、3b、3cは3種類とされ、第1の種類の吸着剤3aは2つの第1吸着槽4a、4a′に、第2の種類の吸着剤3bは2つの第2吸着槽4b、4b′に、第3の種類の吸着剤3cは2つの第3吸着槽4c、4c′にそれぞれ充填されている。
【0017】
各吸着槽4a、4a′、4b、4b′、4c、4c′は、例えば冷却ジャケット付きステンレス製管状部材により構成され、冷却ジャケットに冷媒を通過させることで内部温度が調節可能とされる。
【0018】
ジボラン流路8に、相異なる種類の吸着剤3a、3b、3cを収納した複数の吸着槽が直列に配置され、図1の状態では吸着槽4a、4b、4cが配置されている。これにより、供給源2から供給されるガス状粗製ジボランを複数種類の吸着剤3a、3b、3cに順次接触させることができる。本実施形態においては、ガス状粗製ジボランを最初に第1吸着槽に収納された第1の種類の吸着剤3aに接触させ、次いで第2吸着槽に収納された第2の種類の吸着剤3bに接触させ、最後に第3吸着槽に収納された第3の種類の吸着剤3bに接触させる。また、吸着剤3a、3b、3cの種類毎に相異なる条件下で、吸着剤3a、3b、3cにガス状粗製ジボランを接触させる。しかる後に、ガス状粗製ジボランを凝縮器7において冷却することで液化し、予め冷却された製品槽13に導入する。凝縮器7における冷却温度は、ジボランが液化する温度とされるが、通常は液体窒素を用いることで約−196℃とされる。製品槽13も冷却ジャケットを用いて液体窒素により冷却するのが好ましい。この際、凝縮器7においては酸素、アルゴン、水素等の低沸点成分を液化せず、製品槽13の気相部分に通じる排気ライン14から系外に廃棄する。これにより、製品槽13に高純度液体ジボランを貯留でき、その純度を99.999%以上とし、純分回収率を94 %以上とすることが可能になる。
【0019】
第1の種類の吸着剤3aは、3種類の吸着剤3a、3b、3cの中で水分吸着性能が最も高くされるのが好ましく、例えば、シリカゲル、ゼオライトモレキュラーシーブ、活性アルミナ等を用いることができ、これにより水分と併せて二酸化炭素、メタン、エタンも吸着できる。特にゼオライトモレキュラーシーブはジボランの品質に影響を及ぼさないことから好適である。ゼオライトモレキュラーシーブとしては、孔径が平均4Å程度で、形状は吸着槽での圧力損失を小さくするため、球形、円柱状などの成型品であるのが好ましく、小さ過ぎると圧力損失が大きくなって流速が確保できず、大き過ぎると吸着効果が低下することから、球形の場合は直径1〜5mmのものが好ましく、円柱状の場合は直径1〜5mm、長さ3〜10mmのものが好ましく、市販品から適宜選定すれば足りる。第1の種類の吸着剤3aとガス状粗製ジボランの接触条件として、第1吸着槽内の圧力は0.001mPaG〜1.0mPaGの範囲に設定するのが好ましく、温度は通常−20℃〜20℃の範囲で圧力に応じて設定すればよく、吸着剤3aを通過するガス状粗製ジボランの線速度は0.010Nm/sec〜1.0Nm/secの範囲に設定するのが効率の観点から好ましい。
【0020】
第2の種類の吸着剤3bは、主にメタン、エタン、塩化メチル、高次ボラン等を吸着するものが好ましく、例えば、やし殻炭、石炭、木炭等の活性炭を用いることができる。活性炭の形態は、円柱状の成型炭や破砕炭が好ましく、小さ過ぎると圧力損失が大きくなって流速が確保できず、大き過ぎると吸着効果が低下することから、円柱状の成型炭の場合は直径2〜5mm、長さ3〜10mmのものが好ましく、破砕炭の場合は4〜16メッシュ品が好ましく、市販品から適宜選定すれば足りる。第2の種類の吸着剤3bとガス状粗製ジボランの接触条件として、第2吸着槽内の圧力は0.001mPaG〜1.0mPaGの範囲に設定するのが好ましく、温度は通常−40℃〜20℃の範囲で圧力に応じて設定すればよく、吸着剤3bを通過するガス状粗製ジボランの線速度は0.010Nm/sec〜1.0Nm/secの範囲に設定するのが効率の観点から好ましい。
【0021】
第3の種類の吸着剤3cは、主に微量の残存不純物の吸着に用いられ、3種類の吸着剤3a、3b、3cの中で窒素吸着性能が最も高くされるのが好ましく、例えばゼオライトを用いることができ、これにより窒素と併せて一酸化炭素、メタン、エタンも吸着でき、特にゼオライトはジボランの品質に影響を及ぼさないことから好適である。ゼオライトとしては、X型ゼオライト、モルデナイト、MFI型ゼオライト等を用いることができ、形状は吸着槽での圧力損失を小さくするため、球形、円柱状などの成型品であるのが好ましく、小さ過ぎると圧力損失が大きくなって流速が確保できず、大き過ぎると吸着効果が低下することから、球形の場合は直径1〜5mmのものが好ましく、円柱状の場合は直径1〜5mm、長さ3〜10mmのものが好ましく、市販品から適宜選定すれば足りる。第3の種類の吸着剤3cとガス状粗製ジボランの接触条件として、第3吸着槽内の圧力は0.001mPaG〜1.0mPaGの範囲に設定するのが好ましく、温度は通常−80℃〜0℃の範囲で圧力に応じて設定すればよく、吸着剤3cを通過するガス状粗製ジボランの線速度は0.010Nm/sec〜1.0Nm/secの範囲に設定するのが効率の観点から好ましい。
【0022】
洗浄ガス流路11に、ジボラン流路8に配置されていない複数の吸着槽が並列に配置され、図1の状態では吸着槽4a′、4b′、4c′が配置されている。なお、洗浄ガス流路11に複数の吸着槽を直列に配置してもよいが、洗浄効果を高めるために並列に配置するのがよい。本実施形態においては、洗浄ガス流路11は、供給源9から排出領域10において互いに並列とされた複数の分岐部11a、11b、11cを有し、各分岐部11a、11b、11cに吸着槽が一つ宛配置されている。これにより、ジボラン流路8において各種類の吸着剤3a、3b、3cにガス状粗製ジボランを接触させる間に、洗浄ガス流路11において各種類の吸着剤3a、3b、3cに洗浄ガスを接触させることができる。吸着剤3a、3b、3cは洗浄ガスとの接触により洗浄され、吸着した不純物が除去されることで再生され、除去された不純物は洗浄ガスと共に排出領域10に排出される。洗浄ガスとして通常はヘリウム、アルゴン、窒素等のイナートガスが好ましい。また、各吸着槽内の温度は通常0℃〜150℃の範囲で設定すればよく、温度を上げることで効率的に吸着剤3a、3b、3cを再生できる。吸着剤を通過する洗浄ガスの線速度や洗浄時間の再生への影響は小さく、線速度はガス状粗製ジボランを通過させる場合の1/10程度で十分であり、洗浄時間も1〜24時間あればよい。吸着剤3a、3b、3cの洗浄完了後に、ジボラン流路8への配置に備えて各吸着槽を冷却するのが好ましい。
【0023】
ジボラン流路8に配置される吸着槽と洗浄ガス流路11に配置される吸着槽とを入れ換える入れ換え機構15が設けられている。本実施形態の入れ換え機構15は、第1〜第4切り換えバルブ15a、15b、15c、15dと制御装置15eを有する。
第1切り換えバルブ15aは4ポートを有する電磁バルブであり、図1のように粗製ジボランの供給源2を第1吸着槽4aの一端側開口と接続し、第1吸着槽4a′の一端側開口を排出領域10と接続する第1接続状態と、粗製ジボランの供給源2を第1吸着槽4a′の一端側開口と接続し、第1吸着槽4aの一端側開口を排出領域10に接続する第2接続状態とに択一的に切り換えられる。
第2切り換えバルブ15bは6ポートを有する電磁バルブであり、図1のように第1吸着槽4aの他端側開口を第2吸着槽4bの一端側開口と接続し、第2吸着槽4b′の一端側開口を排出領域10と接続し、洗浄ガスの供給源9を第1吸着槽4a′の他端側開口と接続する第1接続状態と、洗浄ガスの供給源9を第1吸着槽4aの他端側開口と接続し、第1吸着槽4a′の他端側開口を第2吸着槽4b′の一端側開口と接続し、第2吸着槽4bの一端側開口を排出領域10と接続する第2接続状態とに択一的に切り換えられる。
第3切り換えバルブ15cは6ポートを有する電磁バルブであり、図1のように第2吸着槽4bの他端側開口を第3吸着槽4cの一端側開口と接続し、第3吸着槽4c′の一端側開口を排出領域10と接続し、洗浄ガスの供給源9を第2吸着槽4b′の他端側開口と接続する第1接続状態と、洗浄ガスの供給源9を第2吸着槽4bの他端側開口と接続し、第2吸着槽4b′の他端側開口を第3吸着槽4c′の一端側開口と接続し、第3吸着槽4cの一端側開口を排出領域10と接続する第2接続状態とに択一的に切り換えられる。
第4切り換えバルブ15aは4ポートを有する電磁バルブであり、図1のように第3吸着槽4cの他端側開口を凝縮器7と接続し、洗浄ガスの供給源9を第3吸着槽4c′の他端側開口と接続する第1接続状態と、第3吸着槽4c′の他端側開口を凝縮器7と接続し、洗浄ガスの供給源9を第3吸着槽4cの他端側開口と接続する第2接続状態とに択一的に切り換えられる。
制御装置15eは、例えば予め定めた時間毎に入れ換え信号を出力し、各切り換えバルブ15a、15b、15c、15dを入れ換え信号に応じて第1接続状態と第2接続状態とに交互に切り換える。これにより、粗製ジボランの精製を連続的に行うことが可能になる。
なお、各切り換えバルブ15a、15b、15c、15dは、ロータリーバルブでもスプールバルブでもよく、また、電磁バルブでなく手動操作バルブとすることで制御装置を不要としてもよい。
【0024】
上記実施形態によれば、粗製ジボランに含有される複数種類の不純物を、不純物の種類に応じた吸着性能の高い吸着剤3a、3b、3cに順次吸着させることで、蒸留を行うことなく粗製ジボランから不純物を効率良く除去することができる。この際、吸着剤3a、3b、3cを種類によって分別して複数の吸着槽に収納していることから、各種類の吸着剤3a、3b、3cそれぞれに適した条件下で不純物を吸着でき、吸着効率を向上できる。また、粗製ジボランに不純物として含有される水分を最初に水分吸着性能の高い吸着剤3aにより除去することで、その後に粗製ジボランに接触する吸着剤3b、3cの吸湿による吸着性能の低下を防止し、吸着効率を向上できる。また、窒素吸着性能が最も高い吸着剤3cにガス状粗製ジボランを最後に接触させることで、他の不純物よりも除去し難く、吸着剤に他の不純物が吸着すると吸着量が減少する窒素を、低温で効率良く吸着できる。さらに、同一種類の吸着剤を複数の吸着槽に収納し、各種類の吸着剤3a、3b、3cにガス状粗製ジボランを接触させる間に、各種類の吸着剤3a、3b、3cに洗浄ガスを接触させることで、ガス状粗製ジボランを各種類の吸着剤3a、3b、3cに接触させている間に、各種類の吸着剤3a、3b、3cを洗浄ガスとの接触により再生することができる。よって、不純物の蓄積により吸着剤3a、3b、3cの吸着能力が低下して破過が生じる前に、その吸着剤3a、3b、3cを収納した吸着槽を、吸着能力が確保された吸着剤3a、3b、3cを収納した吸着槽と入れ換えることで、不純物の吸着を中断することなく連続して行うことができる。
【実施例1】
【0025】
上記実施形態の精製装置を用い、以下の条件下で粗製ジボランを精製した。精製対象のガス状粗製ジボランは、ソジウムボロハイドライドに三塩化ホウ素を溶媒ジグライム中で反応させることで製造した。そのガス状粗製ジボランの組成は外気混入がない状態では以下の表1に示す通りであった。
【0026】
【表1】

【0027】
各吸着槽として、冷却ジャケット付きSUS316管(口径呼び25A、長さ50cm)を用いた。第1吸着槽に直径1.6mm、長さ5〜7mmの円柱形押し出し成型品のモレキュラーシーブ(東ソー株式会社製ゼオラム4A)を、第2吸着槽に8〜12メッシュ品の破砕炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製粒状白鷺G2X)を、第3吸着槽に直径1.6mm、長さ5〜7mmの円柱形押し出し成型品のLi−X型ゼオライト(東ソー株式会社製ゼオラムNSA−700)を収納した。ジボラン流路において、第1吸着槽は15℃、第2吸着槽は0℃、第3吸着槽は−40℃に槽内温度をコントロールした。第三吸着槽の出口に凝縮器としてSUS316製の2重管(内管口径呼び1/4、外管口径呼び15A、長さ100cm)を設け、外管に液体窒素を通して冷却した。凝縮器にステンレス製の冷却ジャケット付き製品槽(容量3L)を接続した。ジボラン流路にガス状粗製ジボランを3.80NL/minで通気し、各吸着槽での槽内線速度を0.10Nm/sec、槽内圧力を0.005MPaGとし、3時間の運転を行なうことで粗製ジボランの精製を行った。この精製により製品槽に溜まったジボランの量は807g で純分回収率は97.6%であり、その組成は以下の表2に示す通りであった。
【実施例2】
【0028】
第2吸着槽に収納される吸着剤を直径4mm、4〜6メッシュの活性炭(円柱状造粒炭、クラレケミカル株式会社製GG4)とし、第三吸着槽に収納される吸着剤を直径1.6mm、長さ5〜7mmの円柱形押し出し成型品のCa−X型ゼオライト(東ソー株式会社製ゼオラムSA−600A)に変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で粗製ジボランの精製を行った。その結果、純分回収率は95.5%であり、その組成は以下の表2に示す通りであった。
【比較例1】
【0029】
第一吸着槽にのみ吸着剤として直径1.6mm、長さ5〜7mmの円柱形押し出し成型品のモレキュラーシーブ(東ソー株式会社製ゼオラム4A)を収納し、第二吸着槽、第三吸着槽には吸着剤を収納せず、それ以外は実施例1と同様の条件で粗製ジボランの精製を行った。その結果、純分回収率は98 .5%であり、その組成は以下の表2に示す通りであった。
【比較例2】
【0030】
第一吸着槽、第二吸着槽、第三吸着槽全てに吸着剤として直径1.6mm、長さ5〜7mmの円柱形押し出し成型品のモレキュラーシーブ(東ソー株式会社製ゼオラム4A)を収納し、それ以外は実施例1と同様の条件で粗製ジボランの精製を行った。その結果、純分回収率は97.5%であり、その組成は以下の表2に示す通りであった。
【0031】
【表2】

【0032】
上記表2から、実施例1、2によれば比較例1、2に比べて精製されたジボランに含まれる不純物を低減できることを確認できる。
【0033】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されない。例えば、吸着剤の種類は2種類でもよいし4種類以上としてもよい。また、精製を連続して行う必要がなければ、同一種類の吸着剤を複数の吸着槽に収納したり入れ換え機構を設ける必要はなく、例えば、精製の中断時に不純物を吸着した吸着剤の再生を行えばよい。さらに、吸着剤にガス状粗製ジボランを接触させる条件を吸着剤の種類毎に相異なるものとする必要がなければ、吸着剤を種類によって分別して複数の吸着槽に収納する必要はなく、例えば、相異なる複数種類の吸着剤を単一の吸着槽においてガス状粗製ジボランの流れに沿って複数層状に配置することで、その単一の吸着槽内でガス状粗製ジボランを複数種類の吸着剤に順次接触させてもよい。粗製ジボランに含有される不純物の種類や量は製造方法によって変化することから特に限定されず、例えば活性炭により好適に吸着できるジメチルエーテル〔(CH3 2 O〕、ジエチルエーテル〔(C2 5 2 O〕、クロロエタン(C2 5 Cl)等が含有されていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…精製装置、2…ジボラン供給源、3a、3b、3c…吸着剤、4a、4a′、4b、4b′、4c、4c′…吸着槽、7…凝縮器、8…ジボラン流路、9…洗浄ガス供給源、11…洗浄ガス流路、15…入れ換え機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の不純物を含有するガス状粗製ジボランを、前記不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤に順次接触させ、しかる後に、液化する粗製ジボランの精製方法。
【請求項2】
前記吸着剤を、種類によって分別して複数の吸着槽に収納し、
前記ガス状粗製ジボランの流路に、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の吸着槽を直列に配置し、
前記吸着剤の種類毎に相異なる条件下で、前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる請求項1に記載の粗製ジボランの精製方法。
【請求項3】
前記吸着剤を、種類によって分別して複数の吸着槽に収納すると共に、同一種類のものを複数の吸着槽に収納し、
前記ガス状粗製ジボランの流路に、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の吸着槽を直列に配置し、
洗浄ガスの流路に、前記ガス状粗製ジボランの流路に配置されていない複数の吸着槽を配置し、
各種類の前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる間に、各種類の前記吸着剤に洗浄ガスを接触させる請求項1に記載の粗製ジボランの精製方法。
【請求項4】
前記吸着剤の種類毎に相異なる条件下で、前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる請求項3に記載の粗製ジボランの精製方法。
【請求項5】
水分吸着性能が最も高い種類の前記吸着剤に、前記ガス状粗製ジボランを最初に接触させる請求項1〜4の中の何れか1項に記載の粗製ジボランの精製方法。
【請求項6】
窒素吸着性能が最も高い前記吸着剤に、前記ガス状粗製ジボランを最後に接触させる請求項1〜5の中の何れか1項に記載の粗製ジボランの精製方法。
【請求項7】
複数種類の不純物を含有する粗製粗製ジボランの精製装置であって、
前記不純物に対する吸着性能が相異なる複数種類の吸着剤と、
前記吸着剤を収納する複数の吸着槽と、
凝縮器と、
ガス状とされた前記粗製ジボランの供給源から前記凝縮器へのジボラン流路とを備え、
前記吸着剤は、種類によって分別されて複数の前記吸着槽に収納され、
前記ガス状粗製ジボランを複数種類の前記吸着剤に順次接触させることができるように、相異なる種類の吸着剤を収納した複数の前記吸着槽が前記ジボラン流路に直列に配置されていることを特徴とする粗製ジボランの精製装置。
【請求項8】
洗浄ガスの供給源から排出領域への洗浄ガス流路を備え、
前記吸着剤は、同一種類のものが複数の前記吸着槽に収納され、
各種類の前記吸着剤に前記ガス状粗製ジボランを接触させる間に、各種類の前記吸着剤に前記洗浄ガスを接触させることができるように、前記ガス状粗製ジボランの流路に配置されていない複数の吸着槽が前記洗浄ガス流路に配置され、
前記ジボラン流路に配置されている前記吸着槽と前記洗浄ガス流路に配置されている前記吸着槽とを入れ換える入れ換え機構が設けられている請求項7に記載の粗製ジボランの精製装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−105528(P2011−105528A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259680(P2009−259680)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)