説明

粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測方法、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法および粗骨材の選別方法

【課題】粗骨材の乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測できる方法等を提供する。
【解決手段】本発明は、下記の(A)工程および(B)工程を少なくとも含む、粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測方法を提供する。
(A)粗骨材群から選択した2個以上の粗骨材の吸水率の値を説明変数に、また、該粗骨材の乾燥収縮ひずみの値を目的変数に用いて、原点を通る単回帰式を求める回帰分析工程
(B)前記粗骨材群の平均吸水率を説明変数として前記単回帰式に代入し、前記粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測値を算出する予測値算出工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗骨材の乾燥収縮ひずみを予測する方法と、該予測値を用いてコンクリートの乾燥収縮ひずみを予測する方法と、同じ予測値を指標に用いて粗骨材を選別する方法に関する。
なお、以下において、説明の都合上、粗骨材の集団と粗骨材単体を区別する必要がある場合、粗骨材の集団を「粗骨材群」と、粗骨材単体を単に「粗骨材」と表記し、それ以外の場合は、いずれも「粗骨材」と表記する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは引張強度が低く、その収縮により収縮ひび割れが発生する場合がある。この収縮ひび割れは、コンクリート建築物の美観を損なうほか、コンクリートの水密性・気密性の低下や、鉄筋の腐食など、建築物の耐久性低下の原因にもなっている。したがって、コンクリートの耐久性を確保するためには、収縮ひび割れを制御する必要がある。
収縮ひび割れは、乾燥によって生じるコンクリートの収縮ひずみ(以下「乾燥収縮ひずみ」という。)と高い相関があることから、収縮ひび割れを制御するためには、収縮ひずみを知る必要がある。
しかし、この収縮ひずみを求めるためには、JIS A 1129−1〜3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」等に従い、コンクリート供試体を作製し、6か月もの長期にわたり該供試体の収縮ひずみを実測しなければならず、手間がかかっていた。
【0003】
従来、コンクリートの乾燥収縮ひずみは、コンクリートに用いる粗骨材の乾燥収縮ひずみと、良好な相関があることが知られている。
例えば、非特許文献1の図−1(後掲の図1)には、決定係数(R)が0.814という極めて良好な、両者間の直線関係が示されている。
したがって、この直線関係に基づけば、(1)粗骨材の乾燥収縮ひずみの値を用いて、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測できること、また、(2)該値を選別基準に用いて、コンクリートの乾燥収縮ひずみを小さくすることを目的として、簡易に選別できること、が期待される。
【0004】
ところで、粗骨材の乾燥収縮ひずみの測定方法は、粗骨材を1個ずつ前処理した後、一定期間水に浸漬し、粗骨材のひずみ変化量を測定して行われている。具体的には、該方法は、以下の(i)〜(v)のとおりである。
(i)粗骨材(通常、15〜20mm程度の骨材粒)の一面を、グラインダーおよびサンドペーパーで研磨して滑面(平面)にした後、該滑面にひずみゲージを貼り付ける。
(ii)該貼り付け部の防水処理を行なった後、該防水処理を行った粗骨材を20±2℃の水中に7日間浸漬する。
(iii)7日浸漬した後に粗骨材を取り出して、該粗骨材を温度20±3℃、相対湿度60±5%の室内に、12日間静置して乾燥させる。
(iv)前記期間における粗骨材のひずみ変化量を、粗骨材の乾燥収縮ひずみとして求める。
(v)任意の粗骨材の個数において、測定した粗骨材の乾燥収縮ひずみの算術平均を、粗骨材群の乾燥収縮ひずみとする。
【0005】
しかし、前記測定方法は、粗骨材を1個ずつ前処理して1個ずつ測定に供するため、多大な労力を必要としていた。
一方、この労力を省くために、測定する粗骨材の個数(以下「測定個数」という。)を減らすと、後掲の図4の参考例に示すように、粗骨材群の乾燥収縮ひずみの測定値の最大値と最小値の差は大きくなる。したがって、測定個数を減らして求めた粗骨材群の乾燥収縮ひずみの値はバラツキが大きく、該値をコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測や粗骨材の選別に用いた場合、予測精度や選別の信頼性が著しく低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「粗骨材の乾燥収縮測定に関する検討」、日本建築学会大会学術講演梗概集、433−434頁、2011年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、測定個数が少なくても、粗骨材群の乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、粗骨材群の平均吸水率を用いて特定の処理を行えば、少ない測定個数でも、粗骨材群の乾燥収縮ひずみを精度よく予測できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供する。
[1]下記の(A)工程および(B)工程を少なくとも含む、粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測方法。
(A)粗骨材群から選択した2個以上の粗骨材の吸水率の値を説明変数に、また、該粗骨材の乾燥収縮ひずみの値を目的変数に用いて、原点を通る単回帰式を求める回帰分析工程
(B)前記粗骨材群の平均吸水率を説明変数として前記単回帰式に代入し、前記粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測値を算出する予測値算出工程
[2]粗骨材の乾燥収縮ひずみと、該粗骨材を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみとの関係を表す式に、前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を代入し、該コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出して予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
[3]前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を用いて粗骨材を選別する、粗骨材の選別方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、粗骨材やコンクリートの乾燥収縮ひずみを、簡易かつ精度よく予測することができ、また、粗骨材の選別を、簡易かつ高い信頼性で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】非特許文献1に掲載されている、粗骨材の乾燥収縮ひずみとコンクリートの乾燥収縮ひずみの関係を示す図である。
【図2】粗骨材の吸水率と乾燥収縮ひずみの関係を示す散布図である(粗骨材の産地は、(a)が東京都青梅産、(b)が山梨県大月産)。
【図3】粗骨材の吸水率を説明変数とし、粗骨材の乾燥収縮ひずみを目的変数として、単回帰分析をした例を示す図である(測定個数が(a)は2個の場合、(b)は3個の場合)。
【図4】測定個数と、粗骨材の乾燥収縮ひずみの最大値と最小値の関係を示す図である(粗骨材の産地は、(a)が東京都青梅産、(b)が山梨県大月産)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記のとおり、(A)回帰分析工程と(B)予測値算出工程を、少なくとも含む、粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測方法等である。
以下に、本発明について、詳細に説明する。
【0013】
1.粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測方法
(A)回帰分析工程
該工程は、以下の(1)〜(4)を含むものである。
(1)コンクリートに用いる粗骨材群から、粗骨材を2個以上無作為に抽出する。
(2)個々の粗骨材の吸水率を、JIS A 1110「粗骨材の密度及び吸水率試験方法」に準じて求める。
(3)個々の粗骨材の乾燥収縮ひずみを、前記の粗骨材の乾燥収縮ひずみの測定方法に準じて
求める。
(4)前記(2)で得られた個々の粗骨材の吸水率を説明変数に、前記(3)で得られた個々の粗骨材の乾燥収縮ひずみを目的変数にして、原点を通る単回帰式を求める。
【0014】
ここで、JIS A 1110「粗骨材の密度及び吸水率試験方法」は、以下の(i)〜(iv)のとおりである。
(i)粗骨材を、20±5℃の水中に24時間浸漬して吸水させる。
(ii)吸水した後の粗骨材を、粗骨材表面の水膜が視認できなくなるまで、吸収性の布の上で転がし、表面乾燥飽水状態にした後、該粗骨材の質量を測定する。
(iii)表面乾燥飽水状態の粗骨材を、105±5℃の恒温室内で、恒量になるまで乾燥後、デシケータ内で室温まで冷却し、乾燥後の粗骨材の質量を測定する。
(iV)粗骨材の吸水率Qを、下記式により求める。
Q=(m−m)/m×100(%)
式中、mは表面乾燥飽水状態の粗骨材の質量(g)を、mは乾燥後の粗骨材の質量(g)を表す。
これらから明らかなように、粗骨材の吸水率の測定は、粗骨材の乾燥収縮ひずみの測定と比べ、測定に要する時間と労力は格段に少ないため、該吸水率の測定を必須の要素とする本発明の予測方法等は、極めて簡易に実施することができる。
【0015】
(B)予測値算出工程
該工程は、以下の(1)および(2)を含むものである。
(1)コンクリートに用いる粗骨材群の平均吸水率を、JIS A 1110「粗骨材の密度及び吸水率試験方法」により求める。
(2)前記平均吸水率を説明変数として前記(A)工程で求めた単回帰式に代入し、前記粗骨材群の乾燥収縮ひずみ(平均)の予測値を算出する。
なお、本発明の粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測方法においては、予測精度の向上や、個々の粗骨材の乾燥収縮ひずみや吸水率の測定の手間を低減する観点から、コンクリートに用いる粗骨材群から無作為に抽出する粗骨材の個数は、2〜9個が好ましく、3〜6個がより好ましい。
【0016】
(C)粗骨材の種類
本発明の予測方法の対象となる粗骨材の種類は、特に限定されない。該粗骨材として、例えば、玄武岩、安山岩、流紋岩、斑レイ岩、石灰石、硬質砂岩、粘板岩、砂岩、花崗岩、角閃岩、凝灰岩および砂利等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。かかる粗骨材は、天然骨材でも再生骨材でもよい。
【0017】
2.コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法
該方法は、例えば図1に示すような、粗骨材の乾燥収縮ひずみと、該粗骨材を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみとの関係を表す式に、前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を代入し、該コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出して予測するものである。
なお、前記コンクリートは、特に制限されず、該コンクリートにおいて使用可能なセメントは、ポルトランドセメント、混合セメントおよびエコセメント等が挙げられる。また、前記使用可能な細骨材は、天然砂、砕砂、珪砂および再生砂等が挙げられる。また、前記使用可能な混和剤(材)は、収縮低減剤や膨張材を除く、減水剤、AE剤、フライアッシュ、高炉スラグ、石灰石微粉末等が挙げられる。
【0018】
3.粗骨材の選別方法
該方法は、前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を用いて粗骨材を選別するものである。例えば、乾燥収縮ひずみが小さなコンクリートに用いる粗骨材を選別する場合、前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値が、選別基準値以下である粗骨材を選別する方法が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)粗骨材の吸水率と乾燥収縮ひずみの測定
60個の、東京都青梅産(産地A)の粗骨材について、個々の吸水率と乾燥収縮ひずみを前記方法により測定し、吸水率と乾燥収縮ひずみについて60組の測定値を得た。これらの全測定値を図2の(a)に図示する。
なお、前記60個の粗骨材群の吸水率の平均値(平均吸水率)は0.41%であった。
【0020】
(2)回帰分析
次に、これら60組の測定値から、2組、3組、5組、10組、15組および20組の測定値を無作為に抽出し、それぞれの組ごとに、原点を通る単回帰式(f、f、f、f10、f15および20)を求めた。
【0021】
(3)粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測値の算出
前記単回帰式のそれぞれに、前記平均吸水率の値(0.41%)を代入して、粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測値(p、p、p、p10、p15およびp20)を算出した。
図3の(a)に2組の測定値(2点)を用いて、また、同(b)に3組の測定値(3点)を用いて求めた回帰直線と、平均吸水率が0.41%の粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測(推定乾燥収縮)を示す。
【0022】
(4)シミュレーション結果
さらに、前記(2)と(3)の操作を合計で1000回繰り返し、得られたp、p、p、p10、p15およびp20(それぞれについて、1000種の値が存在する。)を粗骨材の乾燥収縮ひずみとし、それぞれにおける最大値と最小値を、実施例として図4の(a)に実線で示す。
【0023】
(5)参考例
また、参考のため、前記(1)で求めた60組の測定値から、前記(2)と同様の抽出操作を、回帰分析は行わずに合計で1000回繰り返し、得られた粗骨材群の乾燥収縮ひずみの実測値(t、t、t、t10、t15およびt20)を粗骨材の乾燥収縮ひずみとし、それぞれにおける最大値と最小値を、参考例として図3の(a)に破線で示す。
また、山梨県大月産(産地B)の粗骨材についても、前記(1)〜(5)と同様の操作を行った。これらの結果を図2の(b)と図4の(b)に示す。
【0024】
(6)予測精度の検証
図4に示すように、粗骨材の乾燥収縮ひずみの最大値と最小値の差は、測定個数が2〜9個の場合では、参考例におけるよりも実施例におけるほうが小さい。特に、測定個数が2個や3個の場合では、東京都青梅産(産地A)の粗骨材のとき、該差は、参考例で約350×10−6〜500×10−6であるのに対し、実施例では約200×10−6で約1/2と小さく、また、山梨県大月産(産地B)の粗骨材のとき、該差は、参考例では約400×10−6〜500×10−6であるのに対し、実施例では約300×10−6〜350×10−6で約2/3と小さい。したがって、本発明の粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測方法は、簡易に実施でき、その予測精度は高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)工程および(B)工程を少なくとも含む、粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測方法。
(A)粗骨材群から選択した2個以上の粗骨材の吸水率の値を説明変数に、また、該粗骨材の乾燥収縮ひずみの値を目的変数に用いて、原点を通る単回帰式を求める回帰分析工程
(B)前記粗骨材群の平均吸水率を説明変数として前記単回帰式に代入し、前記粗骨材群の乾燥収縮ひずみの予測値を算出する予測値算出工程
【請求項2】
粗骨材の乾燥収縮ひずみと、該粗骨材を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみとの関係を表す式に、前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を代入し、該コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出して予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【請求項3】
前記粗骨材の乾燥収縮ひずみの予測値を用いて粗骨材を選別する、粗骨材の選別方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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