説明

粘土焼成品、その製造方法及び粘土焼成品製造用の粘土組成物

【課題】飲料製造残渣を利用して機能性に優れた粘土焼成品を提供し、茶殻、コーヒー殻の有効利用を促進する。
【解決手段】飲料製造残渣である飲料原料有機質の200μm以下の微細粒子を、原料粘土に対して乾燥質量換算で0.5〜13質量%となる割合で混合して成形した粘土成形体を焼成して粘土焼成品を製造する。茶殻やコーヒー殻の有機質の焼失により多孔性の粘土焼成品が得られ、吸水性、調湿性及び消臭性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土焼成品の製造における飲料製造残渣の有効利用に関し、特に、茶飲料やコーヒー飲料等の製造において生じる飲料製造残渣を有効利用して製造され、機能性を有する粘土焼成品、その製造方法及び粘土焼成品製造用の粘土組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、茶系飲料やコーヒー飲料などの嗜好飲料の需要伸長に伴って、飲料工場等から多量の飲料製造残渣が排出されており、その量は年々増加している。嗜好飲料は、原料からの抽出後に粗ろ過及び微細ろ過工程を経て製品化されるが、微細ろ過工程では、粒子径が小さい残渣が発生する。また、粗ろ過工程等で排出される茶殻やコーヒー殻等の残渣は、含水率が高いため、減量するために、スクリュープレス機、フィルタープレス機、攪拌脱水機、遠心脱水機等を用いた脱水工程を経ている。脱水した水分は、粒子径が小さい飲料残渣を含んでいるが、廃液として処理される。廃棄物処理を軽減する上で、上述のような残渣や廃液を何等かの方法で有効利用することが望ましい。
【0003】
一方、建築業界で使用される粘土焼成品は、耐火性及び耐久性に優れ、自由な形状や寸法のものを大量に生産することができ、かつ、様々な色調、模様のものを提供可能で、建築の美しさを増すことができるなどの特長があるため、床、壁、屋根などを覆う建築材料として使用されており、最近では吸・放湿性、吸水性等の機能性を高めた粘土焼成品が市販されている。
【0004】
下記特許文献1では、粘土及び長石に炭化珪素を混合して成型し、1200〜1300℃で焼成することにより、炭化珪素を分解してガスを発生させ、気孔が形成された発泡焼成体を得ることを記載されている。特許文献1の発泡焼成体は軽量であるが、閉気孔であるので殆ど吸水性を示さない。
【0005】
これに対し、下記特許文献2では、火山ガラス系原料を主原料とした発泡無機質焼結体について記載されている。下記特許文献3及び4には、膨張瓦岩、赤土、膨張粘土、粘土、陶土、シラス、フライアッシュ、フェロアロイ等を主材とした発泡無機質焼結体が記載されている。更に、下記特許文献5〜8には、高炉水砕スラグを主材とした発泡無機質焼結体について記載されている。
【0006】
一方、下記特許文献9では、粒径1mm以下の湖沼ヘドロ乾燥粉及び/又は都市ゴミ焼却灰5〜40重量%を混練・成形した後、1050〜1300℃で焼成して吸水率が2〜10%のスポンジ構造陶磁器質の舗道材を製造することを記載する。廃棄物を原料とする舗装材の製造は、下記特許文献10にも記載され、この文献では、不透水性材質部及び透水性材質部を有する二層構造の舗装用れんがが提案され、無機物の産業廃棄物を使用して透水性材質部を製造している。使用する無機物の産業廃棄物として、タイル屑、陶磁器屑、天然石屑、ガラス屑、都市ゴミ溶融スラグ、下水汚泥溶融スラグ、石炭灰、珪砂及び廃粘土が記載される。また、下記特許文献11には、吸水率5%以下のタイル、碍子、食器、ブロック等々の半磁器質材、磁器質材及びセツ器質材等の廃棄物を用いた建材用焼成透水性ブロックの製造が記載され、上記廃棄物を粉砕して最大粒子径を10mm迄に調整した骨材を30〜70重量%の割合で用いて製造する。
【0007】
また、下記特許文献12には、吸放湿機能を有する調湿タイルが記載され、稚内層珪藻頁岩、珪藻土、ゼオライト、アロフェン、イモゴライトの何れかを含む原料を焼成した調湿材の表面を、多数の貫通する透水孔が配置される化粧層で被覆している。これは、珪藻土やゼオライト等の配合によって、その調湿機能をタイルに付与するものである。
【0008】
高吸水性のタイルとしては、下記特許文献13に記載されるものがあり、この文献では、焼成後の組成においてマグネシア(MgO)が2〜10重量%、カルシア(CaO)が3〜15重量%となるようにマグネシア及びカルシアを配合して陶器質タイルを製造し、吸水率が高く、水和膨張率が小さい陶器質タイルが得られることが記載されている。
【0009】
下記特許文献14では、調湿材を含む成形用材料をプレス成形して焼成する調湿タイルの製造方法が記載されている。これは、無機物によって構成された調湿材を配合したタイルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−2675号公報
【特許文献2】特公昭63−28847号公報
【特許文献3】特公昭57−30834号公報
【特許文献4】特公昭57−13408号公報
【特許文献5】特開昭56−109857号公報
【特許文献6】特開昭56−109858号公報
【特許文献7】特開昭56−109859号公報
【特許文献8】特開昭57−17459号公報
【特許文献9】特開平7−172900号公報
【特許文献10】特開平10−338904号公報
【特許文献11】特開平11−148187号公報
【特許文献12】特開2001−130980号公報
【特許文献13】特開2002−29820号公報
【特許文献14】特開2004−122639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来、調湿機能又は吸水機能を有する無機物を配合して調湿機能や吸水機能を付与したタイルなどの粘土焼成体は提案されているが、有機性の廃棄物を利用する場合には、様々な問題が残されている。
【0012】
特許文献9において使用する湖沼ヘドロは、様々な有機物と無機物(石等)とが混在し、これを配合して得られる混練・成形物の組成は変動し易く、得られる陶磁器質の吸水率もばらつきが大きい。品質を揃えるためには、有機物と無機物とを分別して原料の状態を管理する必要がある。
【0013】
特許文献10において産業廃棄物として例示される下水汚泥溶融スラグは、下水処理の過程で発生する下水汚泥を高温で溶融処理したものであり、化学的には極めて安定であるが、下水汚泥溶融スラグを高温で溶融処理する際に膨大な熱量を消費する。
【0014】
また、タイル、碍子、食器、ブロック等の無機物を利用する特許文献11の透水性の舗装用れんがの製造においても、最大粒子径が10mm以下となる迄粉砕する必要があり、粉砕工程の負担が大きく、製造コストの面で不利となるなどの問題がある。
【0015】
このように、有機性の廃棄物を積極的に粘土焼成品の製造に利用可能な技術の実用化には問題があり、開発を進めて有用な技術を提供することが期待される。
【0016】
本発明は、上記を鑑み、飲料製造残渣のような有機性の廃棄物を粘土焼成品の製造に利用可能な技術を開発し、機能性を備えた粘土焼成品を効率よく製造可能な粘土焼成品の製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、飲料製造工程における残渣や廃水の処理を軽減しつつ、機能的に優れた高品質の粘土焼成品を効率的に製造可能な粘土焼成品の製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
更に、原料粘土の使用量の削減及び焼成品の軽量化が可能な粘土焼成品の製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、飲料製造残渣の利用によって消臭機能を備え、吸水性及び吸・放湿性に優れた粘土焼成品、及び、そのような粘土焼成品製造用の粘土組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、検討を重ねた結果、飲料抽出後に行われる微細ろ過工程や、茶殻等の抽出残渣を圧搾する際に生じるような粒径が小さい飲料残渣の利用が有効であることを見出し、本発明を実現するに至った。
【0021】
本発明の一態様によれば、粘土焼成品の製造方法は、飲料製造残渣である飲料原料有機質の微細粒子を、原料粘土に対して乾燥質量換算で0.5〜13質量%となる割合で混合して成形した粘土成形体を焼成することを要旨とする。
【0022】
上記の粘土焼成品の製造方法によって、消臭性及び吸水性を有する多孔性の粘土焼成品が製造される。
【0023】
又、本発明の一態様によれば、粘土焼成品製造用の粘土組成物は、飲料製造残渣である飲料原料有機質の微細粒子と粘土とを含有し、前記飲料原料有機質の微細粒子は、粒径が200μm以下であり、前記粘土に対して乾燥質量換算で0.5〜13質量%となる割合で含まれることを要旨とする。
【0024】
上記の粘土組成物の焼成物によって構成される粘土焼成品は、消臭性及び吸水性を有する多孔性の粘土焼成品である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、茶飲料やコーヒー飲料等の飲料製造において生じる残渣や廃水の処理を軽減しつつ、機能的に優れた高品質の粘土焼成品を効率的に製造可能であるので、飲料製品の需要拡大に伴う廃棄物問題に対応可能であると共に、軽量で有用性の高い粘土焼成品及びそのような粘土焼成品を製造可能な粘土組成物を提供することができるので、経済的及び産業的に有用であり、環境問題の解消にも貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
茶類やコーヒーなどの飲料は、茶葉、コーヒー豆等の原料から抽出した後に、抽出液の粗ろ過及び微細ろ過を経て製品化される。粗ろ過工程等から排出される茶殻やコーヒー殻等の残渣は、非常に含水率が高いので、減量のために、スクリュープレス機、フィルタープレス機、攪拌脱水機、遠心脱水機等を用いた脱水を行っている。抽出液の微細ろ過による残渣や、抽出殻の圧搾液中に分散する粒子は、抽出又は圧搾時に茶葉やコーヒー豆から放出される極めて微細な茶葉粒子やコーヒー豆組織の粒子であり、粒径が360μm程度以下、概して45μm前後の細粒状有機質である。
【0027】
また、果汁、野菜ジュース等の飲料製品の製造においても、原料を圧搾した搾汁液のろ過や圧搾残渣を減量するためのプレスによって、果実や野菜組織の微細な粒子を含む廃液が同様に発生する。
【0028】
上述のような茶葉やコーヒー豆等の微細粒子を粘土に配合して焼成すると、その有機質は加熱によって分解焼失して微細粒子に対応する気孔が生じるので、多孔性の粘土焼成品が得られる。この粘土焼成品は、多孔性に起因して、吸・放湿性及び吸水性を有し、軽量化が可能であるが、更に、消臭機能に優れることが判明した。これは、微細粒子を構成する有機質の焼失によって、粘度焼成品の表面や内部に多数の気孔が生じ、これらの気孔が悪臭物質の物理吸着に適した状態になるためと考えられる。
【0029】
このようにして茶殻やコーヒー殻等の微細な飲料製造残渣を配合して焼成した粘土焼成品は、元来の耐火性や耐久性等だけでなく、吸・放湿性及び吸水性を有し、消臭機能を備えるので、床材、壁材、屋根材などの建築材料や舗装材などとして極めて有利である。化学薬品や人工的な添加剤を用いずに製造することができ、天然素材である飲料原料由来の廃棄物を利用するので、環境に対する影響や廃棄物処理の面でも有利である。
【0030】
以下、本発明に係る粘土焼成品の製造方法について詳細に説明する。
【0031】
本発明において、粘土焼成品は、飲料製造残渣として製造過程から排出される飲料原料有機質の微細粒子を原料粘土に添加して混合し、所望の形状に成形して焼成することによって得られる。
【0032】
粘土は、方解石、苦灰石、長石類、沸石類などから構成される数μm程度以下の粒子状物であり、化学的には層状珪酸塩鉱物を主成分とする。本発明において粘土焼成品の製造に使用される原料粘土は、磁器、せっ器、半磁器、硬質陶器、陶器、土器などの一般的な粘土焼成品の素地原料として使用可能な粘土であればよく、一般的に入手可能な陶磁器原料粘土から適宜選択して使用可能である。あるいは、例えば、珪砂、珪石、陶土、長石等の粉末を微粉砕した後に混合して水練りすることによって原料粘土を調製することができ、シリカ、タルクや珪藻土等の各種珪酸化合物粉末を適宜配合しても良い。このような原料粘土にガラス粉を配合すると、焼成品の表面硬度を向上させて傷をつき難くすることができ、また、原料粘土に顔料などの着色材を配合すれば、着色タイルが得られる。また、酸化チタンを原料粘土に配合したり、粘土焼成後に塗布すると、酸化チタンの光触媒作用によって、表面に汚れがつき難く、カビなどの発生が少ない粘土焼成品が得られる。
【0033】
原料粘土に添加する飲料製造残渣は、有機質原料残渣の微細粒子、つまり、茶殻、コーヒー殻、果実残渣、野菜残渣等の微細粒子であって、茶系飲料又はコーヒー飲料の製造においては、抽出飲料の微細ろ過又は抽出殻の圧搾によって生じ、ジュース類の製造においては、原料の圧搾による飲料搾液の粗ろ過又は搾液残渣の再圧搾によって生じる。更に、飲料抽出後の抽出殻や圧搾後の搾液残渣を湿式又は乾式粉砕することによっても同様の有機質微細粒子となり、本発明において同様に使用可能である。
【0034】
茶系飲料には、狭義の茶(茶樹由来)及び広義の茶(穀物茶やハーブ茶等)が含まれ、狭義の茶には、発酵茶、半発酵茶及び不発酵茶があり、例えば、緑茶、烏龍茶、紅茶等が挙げられ、これらの茶葉由来の残渣を利用できる。広義の茶の原料には、薬用植物又はハーブ類があり、例えば、ペパーミント、レモンバーム、レモングラス、カモミール、ホワイトホアハウンド、グアバ、ウコン、バナバ、ミモサ、ケブラッチョ、バンビア、アカシア、チェストナット、タラ、ミラボラム、スマック、サイプレス、サンダルウッド、ゼラニウム、ベルガモット、マージョラム、ユーカリ、ラベンダー、ローズマリー、ハイビスカス、クローブ、ベニバナ、アイ、サフラン、アカネ、クチナシ、キハダ、クワ、ケルメス等が挙げられ、これらの原料由来の残渣が利用できる。ジュース類の原料としては、人参、朝鮮人参、キャベツ、ムラサキイモ、ムラサキキャベツ、ホウレンソウ等の野菜類、及び、レモン、オレンジ、リンゴなどの果実類が挙げられ、これらの原料由来の残渣が利用できる。コーヒー飲料は、一種又は複数種の焙煎したコーヒー豆を挽いて水又は熱水で抽出した抽出液を用いて製造され、このようなコーヒー豆由来の残渣が使用可能である。飲料製造において、上述のような原料は、一種又は複数種を適宜組み合わせて使用され、排出される飲料製造残渣は、複数種の原料由来の有機質残渣を含み得る。また、コチニール等の色素原料として使用される素材の残渣も含み得る。このような残渣を単独又は複数種を組み合わせて粘土焼成品の製造に利用でき、複数種を混合状態で使用してもよい。
【0035】
本発明においては、飲料製造残渣として、微細粒子状のものを使用し、具体的には、抽出又は圧搾した飲料抽出液又は搾液を微細ろ過して除去されたフィルター上の有機質残渣粒子、飲料を抽出した後の抽出残渣(つまり茶殻又はコーヒー殻)の圧搾液に含まれる抽出殻微細粒子、飲料抽出残渣の微細粉砕物、飲料原料の搾液残渣の再圧搾液に含まれる搾液残渣微細粒子、及び、搾液残渣の微細粉砕物が使用可能であり、これらのうちの少なくとも1つを単独又は組み合わせて適宜使用可能である。1種類の飲料由来のものを使用しても、複数種の異なる飲料由来のものを組み合わせて使用してもよい。有機質残渣の圧搾には、スクリュープレス機、フィルタープレス機、攪拌脱水機、遠心脱水機等が用いられ、含有水分を脱液して分級することによって好適な粒径の残渣粒子が得られる。
【0036】
原料粘土に配合する飲料製造残渣は、粒子径が200μm程度以下の微細粒子であることが好ましく、粒子径が200μmを超えると、粘土成形体の焼成時に反りや膨れ、表面剥離、クラックが起こり易く、好適な粘土焼成品を得ることが難しい。0.5μm程度以下の極めて細かい粒子も好適に使用できるが、このような極細粒子を得るには、有機質残渣を分級した後に微粉砕を行う必要があり、このような作業を行わなくても好適な粘土焼成体が得ることができる。従って、粒子径が0.2〜200μm程度の範囲にある有機質残渣は好適に使用できる。微粉砕や微細ろ過等の軽微でない処理による工程数の増加及びコスト増を避ける点から、飲料製造工程で排出される廃液に含まれる残渣粒子をそのまま、若しくは、有機質残渣に必要最低限の粉砕及び/又は分級を施して200μm程度以下の微細粒子に調製して用いると好適である。茶殻やコーヒー殻などの抽出残渣は、乾式又は湿式の粉砕を行って篩い分けやフィルター濾過等を利用して分級することによって、上述のような微細粒子を調製することができる。湿式粉砕は、微細粒子の調製に有利であり、容易に200μm程度以下の細かい粒子に粉砕できる。飲料製造残渣の微細粒子は、飲料製造工程から得られる含水状態や分散液状態のまま用いても、必要に応じて希釈又は濃縮したり、乾燥して利用してもよく、含水状態で上記の粒子サイズに分級して好適に使用できる。得られる微細粒子は、原料粘土に配合して湿式混合することによって粒子を均一に分散させた粘土が調製される。
【0037】
飲料製造残渣は、原料粘土に対して0.5〜13質量%程度(乾燥質量換算比:乾燥粘土質量に対する乾燥残渣質量の百分率)となる割合で配合することが好ましい。配合量が0.5質量%未満の場合、飲料製造残渣の配合による効果が顕著ではなく、配合量が13質量%を超えると、焼成による収縮率が配合しない場合の3倍以上に増大して粘土焼成品のバラツキなどの問題を生じ、また、粘土焼成品の強度低下が著しくなる。飲料製造残渣及び原料粘土の各々について、一部を分取・乾燥して乾燥質量の比率を調べておき、含水状態での配合割合に換算するとよい。
【0038】
粘土焼成品は、飲料製造残渣の微細粒子を加えた原料粘土を湿式混練した後に、成形及び焼成することによって得られるが、他の形態として、原料粘土と飲料製造残渣の微細粒子とを湿式混合した後に、一旦、乾燥させて粒子状の粘土混合物に成形して保管し、必要に応じてこれに加水して粘土焼成品の製造に使用してもよい。この場合、粒子状の粘土混合物に加水して混練すれば可塑化するので、これを用いてプレス成形等によって所望の形状に成形して焼成すれば、粘土焼成品が得られる。粘土と飲料製造残渣との湿式混合の際に流動性の良い高含水状態に調製して、スプレードライ等の乾燥機を用いて乾燥すると、粒子状の粘土混合物を簡便に調製でき、この方法は、多種類の原料を配合する場合に均一性を高める上で有利である。
【0039】
飲料製造残渣粒子が配合された粘土の成形は、目的とする粘土焼成品の形状に対応して適宜行えば良く、板状、球状、棒状、楕円球状、不定形などの様々な形状への成形が可能であり、特に制限はない。粘土成形体は、水分率が数%〜20%の範囲になるように適宜乾燥して、800〜1400℃程度の温度で焼成する。使用する原料粘土の土質(せっ器用、陶器用等)に応じて、焼成温度を常法に従って好適な温度に適宜調整するとよい。焼成時間は、成形体の大きさ及び形状を勘案して適宜調整する。飲料製造残渣は、焼成によって分解・焼失して、残渣由来の気孔がランダムに点在した粘土焼成品が得られる。粘土焼成品は、気孔に起因する吸・放湿性及び吸水性を有し、10〜55%程度の吸水性(JIS A1509−3準拠)を示すと共に、消臭機能も有する。得られた粘土焼成品は、施釉を施して再度焼成を行ってもよい。但し、粘土焼成品の全面に施釉すると、吸水・調湿効果及び消臭効果が発揮されないので、施釉は粘土焼成品の一部に限定して施すとよい。
【0040】
このようにして製造される本発明の粘土焼成品は、吸水・調湿機能及び消臭機能を有しており、アンモニア等の悪臭物質に対する消臭効果を発揮する。従って、住宅建材、医療用建材、ペット対応建材などに特に適し、脱臭機能や断熱性を活用できる。故に、粘土焼成品の用途をさらに多様化することができ、各種廃棄物の有効利用ないしはリサイクルとあいまって、粘土焼成品の有用性のさらなる向上に大きく貢献する。また、粘土焼成品の軽量化および製造に要する粘土の使用量の減量にも貢献する。
【実施例】
【0041】
以下の操作に従って、飲料製造残渣を調製して、粘土焼成品を製造した。尚、以下において、粉砕機としては、ジューサーミキサー(製品番号:JC-L80MR、株式会社東芝製)を使用し、篩い分けには、200メッシュ、74メッシュ、50メッシュ及び16メッシュのJIS標準篩を使用した。粒径の測定には、レーザー回折式の粒度分布測定装置を利用した。
【0042】
<飲料製造残渣の調製>
緑茶飲料を製造するために、90℃の熱水を用いて緑茶葉の抽出を3分間行った後の茶殻を湿式粉砕した後に篩いを通し、通過した液を5分間静置して上澄み液を取り分け、乾燥して細粒状の茶殻(A1)を得た。尚、茶殻(A1)の粒子サイズを粒度分布測定装置(島津製作所社製、レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2100)を用いて測定したところ、平均値で0.5μm(最大粒径:10μm)であった。
【0043】
また、90℃の熱水を用いて緑茶葉の抽出を3分間行った後の茶殻を、ジューサーミキサー(製品番号:JC-L80MR、株式会社東芝製)を用いて粉砕し、篩い分け分級して、粒子サイズが75μmを超え200μm以下の茶殻(A2)、及び、300μmを超え1mm以下の茶殻(A3)を得た。これらを各々乾燥して細粒状の茶殻(A2,A3)を得た。
【0044】
更に、上記と同様にして緑茶葉の抽出によって得た茶殻と、コーヒー豆粉砕物を90℃の熱水を用いて3分間抽出した後のコーヒー殻とを、乾燥重量比で1:1となるように混合して湿式粉砕し、篩いを通して、通過した液を5分間静置して上澄み液を取り分け、乾燥して茶殻/コーヒー殻(a1)を得た。尚、茶殻/コーヒー殻(a1)の粒径を粒度分布測定装置を用いて測定したところ、平均値で0.5μm(最大粒径:10μm)であった。
【0045】
また、上記と同様にして緑茶葉の抽出によって得た茶殻と、コーヒー豆粉砕物を90℃の熱水を用いて3分間抽出した後のコーヒー殻とを、各々、ジューサーミキサー(製品番号:JC-L80MR、株式会社東芝製)を用いて粉砕し、篩い分け分級した。分級した茶殻粒子及びコーヒー殻粒子を用いて、乾燥重量比で1:1となるように混合し、粒子径が75μmを超え200μm以下の茶殻/コーヒー殻(a2)、及び、300μmを超え1mm以下の茶殻/コーヒー殻(a3)を得た。
【0046】
<粘土焼成品の製造>
原料粘土として、陶器質土(陶器用のカオリナイト及びモンモリロナイトを多く含む粘土)及びせっ器質土(せっ器用の珪酸及び鉄を多く含む粘土)を用意し、表1の記載に従って、原料粘土に上記で調製した茶殻(A1〜A3)又は茶殻/コーヒー殻(a1〜a3)の1つを配合して混練して試料1〜16の粘土を用意した。
【0047】
試料1〜16の粘土の各々について、金型(寸法:82.3mm×82.3mm)を用いて厚さ約10mmの板状に成形した。この時の成形圧は21MPa/(82.3mm×82.3mm)であった。得られた成形体を、3時間かけて1250℃まで昇温し、1250℃で1時間焼成して板状の粘土焼成品を得た。板状の粘土焼成品は、以下において、密度、吸水率、焼成時収縮率の測定に使用した。
【0048】
また、試料1〜16の粘土の各々について、押出造粒機を用いて直径5mm、長さ10mmの円柱状顆粒に成形した。得られた顆粒を、高温電気炉内で10℃/分の昇温速度で900℃まで昇温し、900℃で1.5時間焼成して顆粒状の粘土焼成品を得た。顆粒状の粘土焼成品は、以下において、消臭性の評価に使用した。
【0049】
<粘土焼成品の測定及び評価>
下記の操作に従って、粘土焼成品の密度、吸水率及び焼成時収縮率を測定し、消臭性の評価を行った。その結果を表1に示す。尚、粘土焼成品に剥離又はクラックが生じた場合は測定及び評価を行っていない。
【0050】
(密度)
粘土焼成品の重量及び寸法を測定して、密度[g/cm]を算出した。
【0051】
(吸水率)
JIS A1509−3「陶磁器質タイル試験方法 第3部」の吸水率測定方法に準じて、粘土焼成品の乾燥時重量[g]及び吸水時重量[g]を測定し、その差を吸水量として比率計算により吸水率を決定した。尚、吸水は、真空法に従って、10kPaの真空室内に配置した粘土焼成品に注水して15分間保持することによって行った。飲料製造残渣を配合しない粘土焼成品の吸水率は、陶器質土の焼成品では8.7%、せっ器質土の焼成品では4.6%であったことから、これらを各々吸水率の基準として、陶器質土を用いた焼成品では10.2%以上(基準+1.5%以上)を有効(○で表示)、せっ器質土の焼成品では6.1%以上(基準+1.5%以上)を有効(○で表示)とした。
【0052】
(焼成時収縮率)
粘土焼成品の寸法(縦及び横)を測定して粘土焼成品の底面積S’を算出し、成形金型の底面積S(82.3mm×82.3mm)に対する粘土焼成品の底面積の減少量ΔS(=S−S’)の割合の百分率(100×ΔS/S)を計算して、粘土焼成品の収縮率[%]とした。尚、粘土焼成品の底面積S’の算出においては、粘土焼成品の縦及び横の寸法測定値を平均し、この平均値の自乗を底面積S’とした。
【0053】
(消臭性の評価)
円柱顆粒状の粘土焼成品25個、及び、アンモニアを含有する空気(初期濃度:40ppm)3Lをテドラーバッグに入れて封止し、常温で3時間静置した後、ガス検知管(ガステック社製)を用いてバッグ内の空気のアンモニアの残留濃度を測定した。アンモニアの初期濃度及び残留濃度から、消臭率[%]:100×(初期濃度−残留濃度)/初期濃度、を算出した。
【表1】

【0054】
表1の試料1〜7の結果から、平均粒径が0.5μmの茶殻粒子を配合した粘土焼成品は、吸水性及び消臭性を有することが判る。また、粒径が200μm以下の茶殻及びコーヒー殻の混合物を用いた試料11〜13の結果においても吸水性及び消臭性を有する粘土焼成品が得られる。これに対し、粒径が300μmを超える茶殻粒子を配合した試料8〜10の粘土焼成品では、表面に剥離やクラックが見られ、配合量を減らしても防ぐことは困難であり、配合量が増加すると反りや膨れが生じた。従って、原料粘土に配合する飲料製造残渣は、粒径が200μm以下に調整するとよく、飲料製造残渣の種類に関わらず、粒径を200μm以下に調整すれば、粘土焼成品に剥離やクラックを生じずに吸水性及び消臭性を付与することができることが解る。
【0055】
粒径が大きい飲料製造残渣を用いた場合に表面剥離が生じる原因は、表面に分布する飲料製造残渣の焼失により生じる大きな穴の近辺における強度低下等が著しいことによると考えられる。
【0056】
更に、試料14〜16の結果から、原料粘土を陶器質土からせっ器質土に変更しても、飲料製造残渣の微細粒子の配合によって粘土焼成品に吸水性及び消臭性を付与することができ、粘土の土質に関わらずに本発明を適用可能であることが判る。試料1〜7との比較から、焼成品が硬質、高密度になる粘土であるほど、所定の気孔率を達成するために要する飲料製造残渣の配合量が多くなることが判る。
【0057】
表1の結果に基づいて、飲料製造残渣の配合量と、粘土焼成品の密度との関係をグラフ化すると、粘土焼成品の密度は、飲料製造残渣の配合によって減少し、密度の減少率は飲料製造残渣の配合量にほぼ比例する。この比例的減少は、粘土の種類が変わっても見られ、粘土の種類及び飲料製造残渣の粒子径によって密度減少の傾き(比率)が異なり、飲料製造残渣の粒子径が小さいほど傾きが大きい。茶殻を単独で配合した試料2〜7と、コーヒー豆殻及び茶殻を配合した試料11,12とで密度減少の傾きが異なる原因は、飲料製造残渣の種類ではなく、飲料製造残渣の粒子径にあるものと考えられる。
【0058】
また、粘土焼成品の密度と、吸水率及び消臭性の各々との関係をグラフ化すると、焼成品の密度の減少に従って吸水率及び消臭性が増加する。これにより、焼成品の気孔が連続していることが判る。更に、吸水性は、焼成品の密度の減少に従って比例的に増加するのに対し、消臭性は、飲料製造残渣を配合しない試料1から最少配合量の試料2にかけて、密度の減少に比べて増加が著しいことから、飲料製造残渣の配合は、焼成品の気孔の消臭機能を高める効果があると評価できる。
【0059】
更に、飲料製造残渣の配合量と、焼成品の吸水性及び消臭性との関係をグラフ化すると、配合量に対して吸水性が変化する傾きは、飲料製造残渣の粒子径によって変動するが、消臭性が変化する傾きは、飲料製造残渣の粒子径による差が殆ど見られず、粘土の土質による差も殆ど見られない。このことから、消臭性の向上は、飲料製造残渣の粒子径ではなく、飲料製造残渣そのものに起因し、有機質の焼失によって悪臭物質の吸着に適した状態の気孔が形成されて消臭性が向上すると考えられる。
【0060】
従って、粘土焼成品の消臭性は、飲料製造残渣の配合量によって調整可能であり、粘土焼成品の密度及び吸水性は、飲料製造残渣の配合量だけでなく、配合する飲料製造残渣の粒子径及び粘土の種類によっても調整可能であるので、粘土焼成品に求められる軽量性及び強度を勘案して使用する粘土及び焼成品の目標密度を決定し、焼成品に求められる機能性に応じて、飲料製造残渣の粒子径及び配合量を決定することができる。
【0061】
上述のように、本発明においては、使用する飲料製造残渣及び粘土に関する検量線を予め作成して、粘土焼成品に求められる密度、強度、吸水率、消臭性に応じて飲料製造残渣の配合を調整することができ、飲料製造残渣の配合の適正化によって粘土焼成品の密度及び品質を的確に制御することが可能である。従って、ばらつきが少なく、安定した品質で粘土焼成品を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、飲料製造において生じる残渣や廃水を利用することによって廃棄物処理を軽減しつつ、吸水性、調湿性及び消臭性において機能的に優れた高品質の粘土焼成品を提供できる。粘土焼成品は、建築物の仕上げ材として利用可能であり、消臭性に優れた内外壁や床材、ペット・飼育動物等に対応した建材として有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料製造残渣である飲料原料有機質の微細粒子を、粘土に対して乾燥質量換算で0.5〜13質量%となる割合で混合して成形した粘土成形体を焼成する、粘土焼成品の製造方法。
【請求項2】
前記飲料原料有機質の微細粒子は、粒径が200μm以下である請求項1に記載の粘土焼成品の製造方法。
【請求項3】
前記飲料製造残渣は、茶殻及びコーヒー殻の少なくとも一方を含み、前記飲料原料有機質の微細粒子は、粒径が0.2〜200μmである請求項1又は2に記載の粘土焼成品の製造方法。
【請求項4】
前記原料粘土として、陶器質土及びせっ器質土のうちの少なくとも一方を使用する請求項1〜3の何れかに記載の粘土焼成品の製造方法。
【請求項5】
飲料製造残渣である飲料原料有機質の微細粒子と粘土とを含有し、前記飲料原料有機質の微細粒子は、粒径が200μm以下であり、前記粘土に対して乾燥質量換算で0.5〜13質量%となる割合で含まれる、粘土焼成品製造用の粘土組成物。
【請求項6】
粒状に成形され、実質的に乾燥した請求項5に記載の粘土焼成品製造用の粘土組成物。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載の粘土焼成品の製造方法によって製造される、消臭性及び吸水性を有する多孔性の粘土焼成品。
【請求項8】
請求項5に記載の粘土組成物の焼成物によって構成され、消臭性及び吸水性を有する多孔性の粘土焼成品。

【公開番号】特開2013−32237(P2013−32237A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168298(P2011−168298)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】