説明

粘土膜複合体

【課題】 高湿度条件下でも高いガスバリア性を発現する粘土膜複合体を提供することを目的とする。
【解決手段】 粘土のみ、又は粘土と添加物から構成される粘土膜の少なくとも片面に水蒸気透過度が1.0g/m・day以下の水蒸気バリア層を設けることを特徴とする粘土膜複合体。粘土膜の粘土粒子層間距離が1.3nm以下であることが好ましい。粘土膜の水分量が3.0%以下であることが好ましい。水蒸気バリア層と粘土膜とを溶融接着させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土膜を層として含む粘土膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトに代表される粘土は、水中に分散後、静置乾燥させることで、りん片状粒子が層状に配列した粘土膜を形成する。りん片状粘土粒子そのものはガスを透過しないが、高度に層状配列した粘土膜は迷路効果を発揮し、充分に乾燥された状態では高いガスバリア性を持ち、更に基材から剥離してもそれ自身のみでフレキシビリティーを有した膜として存在できるものである。
【0003】
しかしながら、粘土粒子の表面にはナトリウムのような親水性の強いイオンが存在するため、この粘土粒子により作製された粘土膜は粘土粒子層間に水分子が容易に浸透し、粘土粒子層間が開くことになる。したがって、高湿度雰囲気下ではガスバリア性を維持することが出来なかった。
そこで、粘土膜における水分子の浸透を防ぐために、粘土粒子の表面に存在する親水性イオンを有機イオンと交換した有機修飾疎水性粘土が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、粘土膜に疎水性を有する被覆層を設けることにより、耐水性を向上させることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−84386号公報
【特許文献2】特開2006−188408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法により、ある程度耐水性を向上させることができる。しかしながら、特許文献1の方法では有機修飾粘土を構成する有機物(あるいは有機イオン)により粘土粒子層間距離が開くため高度なガスバリア性を発現することが出来なかった。
【0006】
特許文献2の方法では、被覆層として有機系の膜であるフッ素系皮膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッ素含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜を使用することができる。しかしながら、これらの膜では水蒸気の浸透を充分に防止することができず、粘土粒子層間に水分子が浸透し粒子層間を押し広げるため、高湿度条件下では高度なガスバリア性を発現することが出来なかった。また、被覆層として高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、カーボン蒸着膜を使用すると屈曲時にこれらの膜に割れを生じたり、粘土膜から剥がれる問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、高湿度条件下でも高いガスバリア性を発現する粘土膜複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の技術的構成により上記課題を解決できたものである。
【0009】
(1)粘土のみ、又は粘土と添加物から構成される粘土膜の少なくとも片面に水蒸気透過度が1.0g/m・day以下の水蒸気バリア層を設けることを特徴とする粘土膜複合体。
(2)粘土膜の粘土粒子層間距離が1.3nm以下であることを特徴とする前記(1)に記載の粘土膜複合体。
(3)粘土膜の水分量が3.0%以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の粘土膜複合体。
(4)水蒸気バリア層と粘土膜とを溶融接着させたことを特徴とする前記(1)に記載の粘土膜複合体。
(5)粘土膜の主要構成成分が、天然粘土又は合成粘土である前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の粘土膜複合体。
(6)天然粘土又は合成粘土が、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(5)に記載の粘土膜複合体。
(7)粘土膜中の添加物が固形分濃度1%以上で極性溶媒に可溶性であることを特徴とする前記(1)に記載の粘土膜複合体。
(8)粘土膜中の添加物比率が20質量%以下であることを特徴とする前記(1)または(7)に記載の粘土膜複合体。
(9)極性溶媒が水、アセトニトリル、アルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンより選択される1種以上であることを特徴とする前記(7)に記載の粘土膜複合体。
(10)水蒸気バリア層がポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、含ノルボルネン樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニル(PVF)、液晶ポリマー(LCP)、芳香族ポリアミド、金属膜、金属酸化膜、酸化珪素膜、窒化珪素膜、(酸化窒化珪素膜)、ITO膜、窒化ホウ素膜、窒化炭素膜、窒化アルミ膜、カーボン膜、有機修飾疎水性粘土膜より選択される1種以上であることを特徴とする前記(1)または(4)に記載の粘土膜複合体。
(11)水蒸気バリア層厚が2〜100μmであることを特徴とする前記(1)、(4)、(10)のいずれかに記載の粘土膜複合体。
(12)粘土膜の表面及び端面が水蒸気バリア層により覆われたことを特徴とする前記(1)、(4)、(10)、(11)のいずれかに記載の粘土膜複合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高湿度条件下でも高いガスバリア性を発現する粘土膜複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の粘土膜複合体を示す断面図である。
【図2】本発明の別の粘土膜複合体を示す断面図である。
【図3】本発明を構成する粘土膜の走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【図4】本発明を構成する粘土膜のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<粘土膜複合体>
図1に示すように本発明の粘土膜複合体(以下、「複合体」という場合がある)は、粘土膜20上に第1の水蒸気バリア層10、および第2の水蒸気バリア層30が積層されてなる複合体1である。第1の水蒸気バリア層10および第2の水蒸気バリア層30は直接または他の層を介して粘土膜20の上に積層される。他の層としては、例えば接着層、粘着層を挙げることができる。粘土膜への水蒸気バリア層の積層は、予めフィルム状に成形した水蒸気バリア層を貼り合せても良く、塗布法、溶融押出し法、メッキ法、真空製膜法などにより直接粘土膜上に設けても良い。ここでは粘土膜の両面が高湿度に曝されることを想定し、水蒸気バリア層を粘土膜の両面に形成した例を示したが、高湿度に曝されるのが粘土膜の片方の面である場合は、水蒸気バリア層は片面に設ければよい。
粘土膜の片面に水蒸気バリア層が設けられた粘土膜複合体の厚さは任意の厚さとすることができる。粘土膜複合体にフレキシビリティ、屈曲性が要求される用途では、要求の度合いに応じて厚さを調節することができる。厚さの好ましい範囲としては、例えば500μm以下、更に好ましくは300μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0013】
図2に示すように本発明の別の複合体は、第1の水蒸気バリア層11と第2の水蒸気バリア層31の間に粘土膜21が埋没されるように形成されてなる複合体2である。粘土膜21は第1の水蒸気バリア層11と第2の水蒸気バリア層31の間に埋没していればよいのであって、第1の水蒸気バリア層11、粘土膜21、第2の水蒸気バリア層31は直接積層されていても他の層を介して積層されていてもよい。したがって、粘土膜21は第1の水蒸気バリア層11や第2の水蒸気バリア層31と隣接して存在する必要はない。図2の構成とすることにより、粘土膜21の端面が外気に曝されることがなく、端面からの水分子の浸入を防ぐことが出来ると共に、粘土膜21と水蒸気バリア層との密着性が悪い場合でも、水蒸気バリア層同士の密着性を上げることにより複合体の強度を保つことができる。ホース材などのように強度と屈曲性の両立が求められる用途にこの構成は適している。
【0014】
図2に示すように、第1の水蒸気バリア層11と第2の水蒸気バリア層31の間に粘土膜21を埋没させる場合、第1の水蒸気バリア層11と第2の水蒸気バリア層31の少なくとも一方が熱可塑性の樹脂フィルムであることが好ましい。図2に示す層配置とした後に加熱することによって、第1の水蒸気バリア層11と第2の水蒸気バリア層31の少なくとも一方が、他方の樹脂フィルムに溶融接着するため、樹脂フィルム間の隙間を減少させることができる。また、粘土膜と水蒸気バリア層も溶融接着し、アンカー効果が発揮され強固に密着するため、図1の粘土膜複合体においても好ましい。これによって、水分子の浸入を減少させることができ、複合体の高湿度雰囲気下でのガスバリア性を向上させることができる。
また、第1の水蒸気バリア層と第2の水蒸気バリア層の両方を熱可塑性の樹脂フィルムとすることが更に好ましい。これによって、樹脂フィルム同士のみならず粘土膜との密着性も改善されるため、複合体の高湿度雰囲気下でのガスバリア性を向上させることができる。
【0015】
本発明は、水分子が粘土粒子層間に過度に介在しない状態、すなわち粘土粒子層間が開かない状態では高度なガスバリア性を示す粘土膜と、水蒸気透過度の低い水蒸気バリア層を複合化することにより、高湿度下でも高度なガスバリア性を保持する粘土膜複合体を提供するものである。
【0016】
また、本発明の複合体は高湿度条件下における高いガスバリア性と耐屈曲を両立することができる。
水蒸気を始めとする各種ガスの透過性についてはそのガスの種類により挙動が異なることが知られている。例えばポリクロロトリフルオロエチレンフィルム(PCTFE)の水蒸気透過係数は0.0001g・mm/m・dayであるが酸素透過係数は3cc・mm/m・day・atmである。一方、ナイロンの水蒸気透過係数は750g・mm/m・dayであるが酸素透過係数は1cc・mm/m・day・atmである。本発明における水蒸気バリア層は水蒸気の透過を抑えればよく、他のガスに対する遮蔽性を要求するものではない。
本発明において、高湿度条件下における高いガスバリア性とは、40℃×90%RHの条件下で複合体のガス透過度を測定した場合において、JISK4126の方法で測定した酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下のものをいう。ここでは代表例として酸素透過度を挙げたが、他のガスについても透過度が1.0cc/m・day・atm以下であれば高いガスバリア性を有しているといえる。
また、本発明において、優れた耐屈曲性とは、曲率半径5mmの物に巻きつけることにより粘土膜複合体を屈曲させ、屈曲前後の40℃×90%RH条件下の酸素透過度を測定し、屈曲後の値が屈曲前の値の2倍以上にならないものをいう。
【0017】
以下、本発明の粘土膜複合体を構成する各層について説明する。
【0018】
<水蒸気バリア層>
本発明の水蒸気バリア層の水蒸気透過度は1.0g/m・day以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1g/m・day以下、特に好ましくは0.01g/m・day以下である。水蒸気の透過を防ぐことにより、粘土膜の粘土粒子層間が広がることを防止でき、乾燥条件下のみならず高湿度条件下でも高いガスバリア性を維持することができる。
【0019】
本発明の水蒸気バリア層の厚さは、水蒸気透過度を下げるためには厚い方が好ましく、フレキシビリティ、屈曲性が要求される用途では薄い方が好ましい。用途に応じて任意の厚さとすることができるが、代表例として300μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。フレキシビリティ、屈曲性を必要としない用途では1mm厚以上の板状物であっても支障はない。フレキシビリティ、屈曲性を必要とする用途では2〜100μmであることが好ましく、2〜50μmであることがさらに好ましく、2〜25μmの範囲にあることが特に好ましい。水蒸気バリア層の厚さが増すほど水蒸気透過度が減少する反面、耐屈曲性が減少する。当該範囲にすることによって水蒸気バリア性と耐屈曲性を両立させることができる。
【0020】
水蒸気バリア層としてはポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、含ノルボルネン樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニル(PVF)、液晶ポリマー(LCP)、芳香族ポリアミド等の各種樹脂を好適に使用することができる。これらの樹脂は予めフィルム状に成形されたものを貼り合わせてもよく、塗布法又は溶融押出し法により直接粘土膜上に設けてもよい。その中でも粘土膜と熱圧着することができる熱可塑性の樹脂フィルムを使用することが好ましい。上記の樹脂は1種類を使用してもよいし複数を混合、共重合、若しくは積層して使用してもよい。
これら以外の水蒸気バリア層としては金属膜、カーボン膜等を使用することができる他、これらの酸化膜、窒化膜、酸化窒化膜を使用してもよい。酸化膜としては、金属酸化膜、酸化珪素膜、ITO膜等が例示される。窒化膜としては、窒化珪素膜、窒化ホウ素膜、窒化炭素膜、窒化アルミ膜等が例示される。酸化窒化膜としては酸化窒化珪素膜等が例示される。これらは、メッキ、蒸着、CVD、スパッタ、イオンプレーティングなどの方法により粘土膜上に積層することができる。
また、水蒸気バリア層として、有機修飾疎水性粘土膜を使用することもできる。
【0021】
<第2の水蒸気バリア層>
第1の水蒸気バリア層と第2の水蒸気バリア層は、要求される特性に応じてそれぞれ独立して選択することができる。勿論、第1の水蒸気バリア層と第2の水蒸気バリア層は同一のものであってもよく、同時に設けても良い。
【0022】
粘土膜と水蒸気バリア層の親和性が低い場合、粘土膜若しくは水蒸気バリア層に表面改質処理を施して親和性を向上させることが好ましい。表面改質処理としては例えば、アルカリ処理、コロナ処理、プラズマ処理、スパッタ処理、フレーム処理などのトリートメント処理、界面活性剤、シランカップリング剤などのプライマーコーティング、Si蒸着などの薄膜ドライコーティングなどを挙げることができる。
【0023】
<粘土膜>
本発明を構成する粘土膜は、乾燥状態における40℃ドライ雰囲気下の酸素透過度が1.0cc/m・day・atm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1cc/m・day・atm以下、特に好ましくは0.01cc/m・day・atm以下である。本発明を構成する粘土膜は、粘土粒子層が層状に積み重なって配列しているため、迷路効果を発揮し高いガスバリア性を示すものである。即ち過度な水分、添加物、層間(有機)イオンにより粘土粒子層間が開くことがなく、粘土粒子層間距離が1.3nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがさらに好ましい。粘土粒子層間距離が小さいほど迷路効果を発揮し、高いガスバリア性を示すが、粘土粒子層間距離の下限値としては、例えばモンモリロナイトの場合0.98nmである。粘土粒子層の層数にもよるが粘土膜の厚さが1〜100μmの範囲内にあれば、上記範囲のガスバリア性を達成することができやすく好ましい。
【0024】
粘土粒子層間距離を1.3nm以下とするためには水蒸気バリア層を積層する時点の粘土膜の水分量を3.0%以下にすることが好ましく、2.0%以下にすることが更に好ましく、1.0%以下とすることが特に好ましい。水蒸気バリア層を積層する時点の粘土膜の水分量とは、積層に供される粘土膜の水分量であり、水分量とは150℃×30min加熱前の粘土膜質量から150℃×30min加熱後の粘土膜質量を引き、その減量を加熱前の粘土膜質量で割り%表示したものである。
【0025】
粘土粒子層間距離を1.3nm以下とするためには上記粘土膜の水分量の他、粘土膜中の添加物量を20質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。添加物により粘土膜の強度を上げたり、耐水性を上げることができるが、その反面、粘土粒子層間距離を押し広げることになり、乾燥条件下におけるガスバリア性を低下させることになる。
【0026】
(粘土)
粘土膜を構成する粘土は特に限定されず必要に応じて選択できる。例えば天然または合成物からなる粘土を挙げることができる。具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であると好ましい。中でも、膨潤性が高く粒子径がナノオーダーで偏平状の形態を示すため自己組織化(self organization)による配向が起こりやすく、また比較的入手が安易である為、ヘクトライト、スチーブンサイト、サポナイト及びモンモリロナイトを使用するのが特に好ましい。単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0027】
また、粘土膜に透明性が必要な場合は、合成粘土を用いることが好ましい。合成粘土は天然粘土に比べて着色の原因である不純物が少なく、また粘土の粒子径が小さいことから、合成粘土を用いた膜は透明性が付与される。
【0028】
(添加物)
添加物としては粘土膜強度向上、耐水性向上を目的に後述する極性溶媒に1質量%以上溶解するものを適宜選択することができる。例えば、樹脂、硬化助剤、酸化防止剤、界面活性剤、PH調整剤、塩、レベリング剤等の一般的な添加物を種々含有させることができる。これらの添加物を加えることで、粘土分散液の特性、例えば粘性や固形分等を調整することが可能となる。また、添加物を加えた粘土分散液を用いて得た粘土膜には、添加物成分が含まれ、粘土膜の特性向上に影響を与える場合がある。例えば、樹脂を添加することで、粘土膜の強度向上や柔軟性の付与が可能になる場合がある。
【0029】
(粘土分散液)
粘土分散液(以下、単に分散液という場合がある)は、粘土を極性溶媒に分散させた後、必要に応じて添加物を適宜添加し、分散させ、粘土分散液を作製した後、基材上に塗布し、粘土分散液に含まれる溶媒を除去することによって粘土膜を作成することができるものであればよい。極性溶媒としては水、アセトニトリル、アルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これら極性溶媒は単独で使用しても混合して使用してもよい。
【0030】
前記極性溶媒の量は、粘土100質量部に対して500〜20000質量部であることが好ましく、1000〜10000質量部であることがより好ましい。また、これらの極性溶媒に粘土を分散させるには、回転式攪拌機、及び振とう式攪拌機等の一般的な攪拌機を用いることができる。
また、分散させる際に加熱するとさらに良い。温度としては50〜80℃に加熱しながら攪拌することにより、粘土の分散を効率よく進めることが可能となる。
【0031】
(粘土膜の製膜)
本発明の粘土膜は、上記で例示した方法等により得られた粘土分散液を、基材へ塗工した後、もしくは容器へ流しこんだ後に、該粘土分散液中の極性溶媒を除去して得ることができる。溶媒を除去する方法としては加熱温風による乾燥が簡便であるが、赤外線乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロウエーブ乾燥、真空乾燥、遠心分離による固液分離など適宜選択することができる。特段の乾燥手段を用いず、放置して溶媒が気化乾燥することを待っても良い。
【0032】
本発明の粘土膜は任意の表面形状を有することができる。表面が平坦である粘土膜形成に用いる基材は、表面が平坦で粘土乾燥温度での変形が無く、乾燥後の粘土膜の剥離が容易であれば、特に限定はなく必要に応じて選択できる。中でも、比較的安価で利用しやすい、ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材として使用すると好ましい。一方、容器としては、フッ素樹脂をコーティングしたものを用いると好ましい。また、粘土膜と他の部材とを複合化した部材を得ることもできる。具体的には、複合したい部材上に本発明の粘土分散液を塗布あるいはディップ等の工程を施して、その後、溶媒を除去することにより任意の部材上に粘土膜が形成された複合部材を得ることができる。複合化したい部材の形状は特に限定されず、曲面を有する複雑なものでも粘土分散液が入り込めばそこに粘土膜を作製することができ、複合化が可能となる。
表面が平坦でない粘土膜形成に用いる基材は、表面が平坦であること、粘土膜乾燥温度での変形がないことは必ずしも必要ではない。表面が平坦でない基材を粘土膜の形成時に使用する場合、当該粘土膜表面に基材の表面形状(例えば、凹凸形状)が転写されることとなり、防眩性を有する粘土膜を形成させることができる。また、粘土膜表面を適度に粗くすることにより、水蒸気バリア層を積層する際アンカー効果が発揮され、粘土膜と水蒸気バリア層との密着性を高めることができる。
【0033】
また、上記製膜用基材として第1の水蒸気バリア層または第2の水蒸気バリア層を使用することにより、第1の水蒸気バリア層または第2の水蒸気バリア層と粘土膜との密着性が向上することが期待でき、コスト面からも好ましい。
【0034】
具体的な粘土膜製膜方法の例を以下に述べる。まず、得られた粘土分散液を、アプリケーター等によって基材に塗布する、又は、容器に流し込む。次に、これら分散液を、熱風循環電気温風乾燥機等を用いて乾燥させて、粘土膜を得るのが好ましい。なお、塗布する又は流し込む粘土分散液の厚さは50〜5000μmであることが好ましい。塗料の固形分濃度により好ましい範囲は異なるが、乾燥後の粘土膜の膜厚が1〜100μmとなる厚さが好ましい。粘土膜のガスバリア性は粘土粒子が高度に配向積層した構造による迷路効果により得られるが、膜厚が1μm未満では迷路効果があっても通過距離が短く、100μm超では乾燥時に溶媒の抜け道が形成されガスバリア性を損なう原因となる。5〜50μmとなる厚さが更に好ましい。
【0035】
(水蒸気バリア層積層)
水蒸気バリア層を積層する方式としては、水蒸気バリア材料に応じて適宜選択することができる。樹脂系のものであれば粘土膜上に直接塗布したり、溶融押出ししても良いし、予めフィルム状にしたものを接着剤や粘着剤を介して貼り合わせたり、直接加熱圧着してもよい。金属膜、金属酸化膜、酸化珪素膜、窒化珪素膜、(酸化窒化珪素膜)、ITO膜、窒化ホウ素膜、窒化炭素、窒化アルミ、カーボン膜を水蒸気バリア層として用いる場合には、メッキ、蒸着、CVD、スパッタ、イオンプレーティングなどの製膜方法を用いることが出来る。何れの場合においても粘土膜上に水蒸気バリア層を積層する際は、粘土膜の水分量が上がらないような手立てを講じる必要がある。予め加熱、脱気により粘土膜中の水分量を低減させてから積層することが好ましい。直接加熱圧着する場合にも真空に近い減圧下で行うと、貼り合わせ面に気泡を巻き込まないだけでなく、低水分量を保つ上でも好ましい。粘土膜の水分量は3%以下が好ましく、2%以下が更に好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0036】
<用途>
本発明の粘土膜複合体は、乾燥条件下および高湿度条件下において高いガスバリア性を発揮することができるため、湿度条件によらずガスバリア性が要求される用途に好ましく使用することができる。また、本発明を構成する粘土膜は、水素分子のような小さな分子の透過をも抑えることができるため、様々なガスに対してバリア性を発揮することができるものである。
ガスバリア性が要求される用途としては、例えば、各種ガス用容器類・配管(ホース)類・接続部分のシール材(摺動部含む)、保管(保存)用包装材料、保護膜、遮蔽膜等を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
1.部材である粘土膜の製造
粘土として19gの天然モンモリロナイトである「クニピアG」(クニミネ工業株式会社製)と添加物として1gのεカプロラクタム(和光純薬工業社製)を330gの蒸留水に加え、エースホモジナイザー「AM−001」(株式会社日本精機製作所製)を用い5,000rpmの回転数で60分間攪拌し、均一な濃度約6%の粘土分散液を得た。この粘土分散液を、真空乾燥機内で真空に引くことで泡を除去し、ポリエチレンテレフタレートフィルム「エンブレットS50」(ユニチカ社製)上にアプリケーターを用いて膜状に塗工し、強制送風式オーブン中で100℃の温度条件下で1時間乾燥した。ポリエチレンテレフタレートフィルムより剥離後、更に150℃で30分間乾燥させ厚さ約40μmの粘土膜を得た。
【0039】
2.部材である粘土膜の物性
この粘土膜の、水蒸気バリア層積層前の充分に乾燥された状態の物性を測定した。粘土膜の水分量は1.8%であった。走査型電子顕微鏡で観察した写真を図3に示す。図3より、粘土粒子が高度に配向している様子が伺える。この粘土薄膜のX線回折チャートを図4に示す。シャープな一連の底面反射ピークが観察され、粘土膜の粒子の配向がよく揃っていることが示された。また、図4に示す(001)面の2θ値より粘土粒子層間距離1.17nmを求めた。
【0040】
3.水蒸気バリア層の積層
水蒸気バリア層として、水蒸気透過度0.007g/m・day、酸素透過度215cc/m・day・atmの15μm厚のポリクロロトリフルオロエチレンフィルム「ネオフロンPCTFE」(ダイキン工業社製)を用い、上記で得られた粘土膜の両面に水蒸気バリア層を積層し、粘土膜複合体を得た。積層は水蒸気バリア層/粘土膜/水蒸気バリア層の順に重ね、200℃の真空加熱炉中で、加圧プレスにより貼り合せ、粘土膜と水蒸気バリア層間をそれぞれ溶融接着(熱圧着)させ、図1に示す粘土膜複合体を作製した。
【0041】
(実施例2)
実施例1で作製した粘土膜の両面に、水蒸気バリア層として水蒸気透過度0.21g/m・day、酸素透過度430cc/m・day・atmの25μm厚のポリ塩化ビニリデンフィルム「サランUB」(旭化成ケミカルズ社製)を用い、真空加熱炉の温度を120℃として、粘土膜と水蒸気バリア層間をそれぞれ溶融接着(熱圧着)させた以外は、実施例1と同様にして粘土膜複合体を作製した。
【0042】
(実施例3)
実施例1で作製した粘土膜の両面に、水蒸気バリア層として水蒸気透過度0.72g/m・day、酸素透過度980cc/m・day・atmの100μm厚のシクロオレフィンポリマーフィルム「ゼオノア」(日本ゼオン社製)を用い粘土膜と水蒸気バリア層間をそれぞれ溶融接着(熱圧着)させた。この時、シクロオレフィンポリマーフィルムを粘土膜より大きく切り出し、粘土膜複合体の外周部においてシクロオレフィンポリマーフィルム同士が溶融接着し、粘土膜の端面が直接外気に曝されることがないようにした。それ以外は実施例2と同様にして図2に示す粘土膜複合体を作製した。
【0043】
(実施例4)
実施例1で作製した粘土膜を、25℃60%RHの室内に20分間放置し粘土膜の水分量を2.9%とした以外は、実施例1と同様にして粘土膜複合体を作製した。この時の粘土粒子層間距離は1.28nmであった。
【0044】
(比較例1)
実施例1で作製した粘土膜の両面に、水蒸気バリア層として水蒸気透過度35g/m・day、酸素透過度430cc/m・day・atmの120μm厚のポリスチレンフィルムを用い、真空加熱炉の温度を120℃として、粘土膜と水蒸気バリア層間をそれぞれ溶融接着(熱圧着)させた以外は、実施例1と同様に粘土膜複合体を作製した。
【0045】
<評価>
(粘土粒子層間距離)
粘土膜の粘土粒子層間距離は下記のように測定した。
X線回折測定装置(リガク社製、RINT-UltimaIII)により、粘土の積層面の回折により得られる回折ピークの2θを測定し、下記のブラックの回折式を用いて粘土の(001)面間隔を算出した。以下のd(nm)が粘土粒子層間距離である。
λ=2dsinθ
なお、式中において、λ(nm)=0.154、θ(度)は回折角である。
【0046】
(水蒸気透過度および酸素透過度)
水蒸気バリア層および屈曲前の粘土膜複合体の水蒸気透過度および酸素透過度は下記のように測定した。
差圧式ガス透過率測定装置(GTR−30XATS、GTRテック社製)を用い、JIS K 7129およびJIS K 7126に準じて、測定条件40℃/90%RH条件下での水蒸気および酸素の透過度を測定した。
【0047】
(水素透過度)
屈曲前の粘土膜複合体の水素透過度を下記のように測定した。
差圧式ガス透過率測定装置(GTR−30XATS、GTRテック社製)を用い、JIS K 7129およびJIS K 7126に準じて、測定条件25℃dry条件下での水素の透過度を測定した。尚、測定に供した試料は予め40℃/90%RH条件に24時間曝したものを用いた。
【0048】
(屈曲後の酸素透過度)
粘土膜複合体を曲率半径5mmのものに巻きつけ、粘土膜複合体を屈曲させた後、上記酸素透過度の測定を行うことにより、屈曲後の酸素透過度を測定した。
【0049】
得られた結果を表1にまとめた。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように各実施例の粘土膜複合体は、高湿度条件下における酸素透過度が低く、高いガスバリア性を発揮することを確認した。
また、水素透過度はドライ雰囲気下で測定するものであるため、測定前に粘土膜複合体を40℃/90%RHに曝すことにより、擬似的に高湿度条件を作り出した。この方法によれば、擬似的な高湿度条件下において、各実施例の粘土膜複合体の水素透過度が低くなり、高いガスバリア性を発揮することを確認した。
以上のように、本発明によれば、高湿度条件下でも高いガスバリア性を発現する粘土膜複合体を提供することができるものである。
【0052】
また、表1に示すように、各実施例の粘土膜複合体は屈曲前後においても酸素透過度があまり変化しないことから、耐屈曲性に優れるものであった。
【符号の説明】
【0053】
1、2 粘土膜複合体
10、11 第1の水蒸気バリア層
20、21 粘土膜
30、31 第2の水蒸気バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土のみ、又は粘土と添加物から構成される粘土膜の少なくとも片面に水蒸気透過度が1.0g/m・day以下の水蒸気バリア層を設けることを特徴とする粘土膜複合体。
【請求項2】
粘土膜の粘土粒子層間距離が1.3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘土膜複合体。
【請求項3】
粘土膜の水分量が3.0%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘土膜複合体。
【請求項4】
水蒸気バリア層と粘土膜とを溶融接着させたことを特徴とする請求項1に記載の粘土膜複合体。
【請求項5】
粘土膜の主要構成成分が、天然粘土又は合成粘土である請求項1乃至4のいずれかに記載の粘土膜複合体。
【請求項6】
天然粘土又は合成粘土が、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の粘土膜複合体。
【請求項7】
粘土膜中の添加物が固形分濃度1%以上で極性溶媒に可溶性であることを特徴とする請求項1に記載の粘土膜複合体。
【請求項8】
粘土膜中の添加物比率が20質量%以下であることを特徴とする請求項1または7に記載の粘土膜複合体。
【請求項9】
極性溶媒が水、アセトニトリル、アルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンより選択される1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の粘土膜複合体。
【請求項10】
水蒸気バリア層がポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、含ノルボルネン樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニル(PVF)、液晶ポリマー(LCP)、芳香族ポリアミド、金属膜、金属酸化膜、酸化珪素膜、窒化珪素膜、(酸化窒化珪素膜)、ITO膜、窒化ホウ素膜、窒化炭素膜、窒化アルミ膜、カーボン膜、有機修飾疎水性粘土膜より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または4に記載の粘土膜複合体。
【請求項11】
水蒸気バリア層厚が2〜100μmであることを特徴とする請求項1、4、10のいずれかに記載の粘土膜複合体。
【請求項12】
粘土膜の表面及び端面が水蒸気バリア層により覆われたことを特徴とする請求項1、4、10、11のいずれかに記載の粘土膜複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131450(P2011−131450A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291807(P2009−291807)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】