説明

粘土複合材料およびそのマスターバッチ

【課題】 機械的強度等の各種物性が要求される成形品の材料として使用されるデラミ型の粘土複合材料を提供する。また、有機化粘土鉱物を高濃度に配合したマスターバッチを提供する。
【解決手段】 オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含む粘土複合材料を成形品の材料として用いる。また、前記粘土複合材料をマスターバッチとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、様々な成形品、特に機械的強度、弾性率、熱変形温度、ガスバリア性、透明性、難燃性等の各種物性の向上が要求される成形品の材料として使用される粘土複合材料およびそのマスターバッチに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、成形品の機械的強度等の各種物性を改良するために、成形用樹脂に種々の充填材が添加、混合されている。前記成形用樹脂としては、例えば、ナイロン、ビニル系高分子、エポキシ樹脂等が挙げられる。また、前記充填材としては、例えば、クレイ等の粘土鉱物、ガラス繊維、カーボンブラック、酸化チタン等が挙げられる。そして、一般に、充填材の分散サイズがナノオーダー(通常1〜100nm)であるような超微細分散系をナノコンポジットといい、特に、層状粘土鉱物を充填材として用いたナノコンポジットは、クレイハイブリッドと称されている。
【0003】クレイハイブリッドには、層状粘土鉱物(以下、単に粘土鉱物と記す)の分散状態の相違によって、インターカレーション型(挿入型)とデラミ型(剥離型)とがある。インターカレーション型とは、粘土鉱物の層間に成形用樹脂が挿入されることにより該粘土鉱物の層間距離は広がっているが、粘土鉱物の層構造は破壊されずに残っている状態をいう。また、デラミ型とは、粘土鉱物の層間に成形用樹脂が挿入されることにより、該粘土鉱物の各層がバラバラになり、層構造が破壊されて残っていない状態をいう。
【0004】粘土鉱物の分散状態が相違する2種類のクレイハイブリッドを比較すると、デラミ型の状態は、充填材である粘土鉱物による成形用樹脂に対する補強効果が高いため、インターカレーション型の状態よりも、成形品の機械的強度等の各種物性が優れているという性質を有する。従って、成形品の機械的強度等の物性を改良するためには、インターカレーション型のクレイハイブリッドを用いるよりもデラミ型のクレイハイブリッドを用いる方が好ましい。
【0005】デラミ型のクレイハイブリッドを得るためには、成形用樹脂と粘土鉱物との相互作用を向上させることにより、粘土鉱物の層を引き剥がし、層構造を破壊することが必要となる。しかし、従来の粘土複合材料においては、粘土鉱物は成形用樹脂とのなじみが悪い。そのため、デラミ型のクレイハイブリッドとしては、モノマーが粘土鉱物と強い相互作用を有する成形用樹脂であるナイロンをマトリックスとしたクレイハイブリッドが上市されているのみであり、それ以外の成形用樹脂をマトリックスとしたデラミ型のクレイハイブリッドは得られていない。そこで、スチレン系樹脂等の成形用樹脂をマトリックスとしたクレイハイブリッドが求められている。
【0006】ナイロン以外の成形用樹脂をマトリックスとしたクレイハイブリッドとして、特開平11−92594号公報には、互いに相溶する2種以上のポリマー(成形用樹脂)と有機化クレイ(有機化粘土鉱物)とからなる樹脂複合材料が開示されている。この樹脂複合材料では、少なくとも1種のポリマーが官能基を有し、このポリマーの官能基と有機化クレイとが相互に作用することにより、他のポリマー中に該有機化クレイが分散するようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の公報に開示されている樹脂複合材料では、ポリマーと有機化クレイとの相互作用が、有機化クレイの各層をバラバラにするほどには十分ではない。従って、有機化クレイの分散状態は、有機化クレイをポリマー中に分散する際の混練条件に依存することとなる。即ち、該公報に開示されている樹脂複合材料を用いてデラミ型のクレイハイブリッドを得ることは困難である。
【0008】そこで、例えば、成形用樹脂に配合するのに好適なデラミ型のクレイハイブリッドを得ることができ、機械的強度等の物性が優れる成形品の材料として使用することができる、粘土複合材料が求められている。
【0009】本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、粘土鉱物の分散性が良好で、粘土鉱物を高濃度で配合することが可能であり、機械的強度、弾性率、熱変形温度、ガスバリア性、透明性、難燃性等の各種物性の向上が要求される成形品の材料として使用される粘土複合材料およびそのマスターバッチを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記従来の問題を解決すべく、粘土鉱物との相互作用の高い重合体について鋭意検討した。その結果、官能基としてオキサゾリン基を含有し、重量平均分子量が特定の範囲内である重合体が、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物との相互作用が高いことを見出した。即ち、該重合体と有機化粘土鉱物とを含む粘土複合材料が、粘土鉱物を高濃度で含有することができるデラミ型のクレイハイブリッドを得るために好適であることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】すなわち、本発明の粘土複合材料は、上記の課題を解決するために、オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含むことを特徴としている。さらに、前記有機化粘土鉱物が、粘土鉱物をアルキルアンモニウム塩でイオン交換してなることがより好ましく、前記重合体に占めるオキサゾリン基の量が、0.1〜4.5mmol/gの範囲内であることがより好ましい。
【0012】また、本発明のマスターバッチは、上記の課題を解決するために、オキサゾリン基を含有する重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含み、前記重合体100重量部に対する前記有機化粘土鉱物の割合が5〜150重量部の範囲内であることを特徴とする。さらに、前記重合体の重量平均分子量が、5千〜10万の範囲内であることがより好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明にかかる粘土複合材料は、オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含んでいる。上記の粘土複合材料は、必要に応じて熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。なお、本発明において「熱可塑性樹脂」には、オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体は含まれないこととする。
【0014】上記オキサゾリン基を含有する重合体としては、オキサゾリン環を含有するビニル系単量体の単独重合体、および、該ビニル系単量体とこの単量体と共重合しうる他の単量体(以下、ビニル重合性単量体と記す)との共重合体が挙げられる。なお、本発明において「オキサゾリン環」には、環内に1個の酸素原子と1個の窒素原子をもつ全ての環が含まれることとする。
【0015】上記のビニル系単量体は、オキサゾリン環に重合性ビニル基が結合した化合物であり、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が好適であるが、特に限定されるものではない。
【0016】
【化1】


【0017】〔式中、R1 は水素原子または炭化水素基を表し、Xは独立して水素原子または炭素数18以下の炭化水素基を表し、nは1〜5の整数を表す〕
上記一般式(1)で示されるビニル系単量体のうち、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンや、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリンがより好ましい。
【0018】上記のビニル重合性単量体としては、例えば、スチレン、α−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、p−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−(クロロメトキシ)スチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル;マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これら単量体の誘導体を使用することもできる。そして、これら単量体は、必要に応じて1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。上記の例示の化合物のうち、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートがより好ましい。
【0019】上記のビニル系単量体およびビニル重合性単量体(必要に応じて)を重合させる際の重合方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の重合方法、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等を採用することができるが、溶液重合法を採用することがより望ましい。
【0020】上記の溶液重合法に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;iso−ブタノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。そして、これら溶媒は、1種類のみを用いてもよく、また、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0021】さらに、上記の重合反応には重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;等のラジカル開始剤等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら重合開始剤は、1種類のみを用いてもよく、適宜2種類以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0022】また、上記の重合体を製造する際の他の条件、例えば、反応温度や反応時間等は、用いる単量体の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。また、上記の重合反応に際しては、各々、必要に応じてアルキルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤等の添加剤を加えてもよい。
【0023】また、重合体の製法として溶液重合を採用した場合、反応溶液から上記の重合体を取り出す方法は特に限定されず、例えば、(i)反応溶液をベント付き2軸押出機等のいわゆる揮発分分離除去装置に導入し、反応溶液から揮発分を除去することにより重合体と未反応の単量体および溶媒とを分離する方法や、(ii)上記重合体が溶解しない溶剤(貧溶媒)に反応溶液を投入して、上記重合体を沈殿(析出)させた後、得られる沈殿物、つまり、上記重合体を濾別して乾燥する方法など種々の方法を採用することができる。これらの方法のなかでも、上記(i)の方法が簡便であり、また、工業的にも有利であることから望ましい。
【0024】上記オキサゾリン基を含有する重合体は、重量平均分子量を5千〜10万の範囲内とすることがより好ましい。すなわち、重合体の重量平均分子量の下限値は5千とすることがより好ましく、1万とすることがさらに好ましく、1.5万とすることが最も好ましい。また、重合体の重量平均分子量の上限値は10万とすることがより好ましく、8万とすることがさらに好ましく、5万とすることが最も好ましい。前記重合体の重量平均分子量を上記の範囲内とすることにより、重合体と有機化粘土鉱物との相互作用が大きくなり、重合体中における有機化粘土鉱物の分散性を向上させることができる。
【0025】上記オキサゾリン基を含有する重合体は、重合体中に占めるオキサゾリン基の量を0.1〜4.5mmol/gの範囲内とすることがより好ましい。すなわち、オキサゾリン基の量の下限値は、0.1mmol/gとすることがより好ましく、0.5mmol/gとすることがさらに好ましく、1.0mmol/gとすることが最も好ましい。また、オキサゾリン基の量の上限値は、4.5mmol/gとすることがより好ましく、4.0mmol/gとすることがさらに好ましく、3.5mmol/gとすることが最も好ましい。前記重合体中のオキサゾリン基を上記の範囲内とすることにより、重合体中における有機化粘土鉱物の分散性を向上させることができる。
【0026】従って、ビニル重合性単量体を用いる場合におけるビニル系単量体とビニル重合性単量体との割合は、オキゾリン基の量が上記範囲内となる割合とすればよい。
【0027】上記の粘土鉱物は層状構造を有する層状粘土鉱物であり、重合体中に充填材として添加、混合されることにより重合体の機械的強度、弾性率、熱変形温度、ガスバリア性、透明性、難燃性等の各種物性を向上させる。粘土鉱物としては、例えば、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、サウコナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト;トリオクトヘドラル−バーミキュライト、ジオクトヘドラル−バーミキュライト等のバーミキュライト;マスコバイト、フィロゴバイト、バイオタイト、レピドライト、パラゴナイト、テトラシリシックマイカ等のマイカ;ハロイサイト;クロライト等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら粘土鉱物は1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。粘土鉱物は、膨潤性粘土鉱物であることが好ましく、結晶性粘土鉱物であることが好ましい。そして、粘土鉱物は、天然の粘土鉱物でも良く、合成の粘土鉱物でも良い。
【0028】上記の粘土鉱物は、重合体との接触面積が大きい方がより好ましい。重合体との接触面積が大きい粘土鉱物を用いることにより、粘土鉱物の層間を大きく膨潤させることができる。具体的には、粘土鉱物の陽イオンの交換容量は、50〜200ミリ等量/100gとすることが好ましい。粘土鉱物の陽イオンの交換容量が50ミリ等量/100g未満の場合には、有機オニウムイオンの交換が十分に行われず、粘土鉱物の層間を膨潤させることが困難な場合がある。一方、粘土鉱物の陽イオンの交換容量が200ミリ等量/100gを越える場合には、粘土鉱物の結合力が強固となり、粘土鉱物の層間を膨潤させることが困難な場合がある。
【0029】上記の粘土鉱物を有機化処理することにより、つまり、粘土鉱物を有機オニウム塩でイオン交換することにより、有機化粘土鉱物が得られる。イオン交換により、粘土鉱物の表面にイオン結合させる有機オニウムイオンの炭素数は、6以上であることが好ましい。有機オニウムイオンの炭素数が6未満の場合には、有機オニウムイオンの親水性が高まり、重合体と有機化粘土鉱物との相互作用が低下するおそれがある。
【0030】上記の有機オニウムイオンとしては、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ラウリン酸アンモニウムイオン、アミノ酸類の正電荷有機化合物のイオン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0031】また、上記の有機オニウム塩としては、アルキルアンモニウム塩がより好ましく、4級アンモニウム塩がさらに好ましい。4級アンモニウム塩は下記一般式(2)で表される化合物である。
【0032】
【化2】


【0033】〔式中、R2 、R3 、R4 およびR5 は炭化水素基を表し、Yはハロゲン基を表す。〕
4級アンモニウム塩の炭化水素基のうち、主鎖長が最も長い炭化水素基の炭素数は4〜30であることがより好ましい。すなわち、該炭化水素基の炭素数の下限値は、4であることがより好ましく、12であることがさらに好ましく、15であることが最も好ましい。また、該炭化水素基の炭素数の上限値は、30であることがより好ましく、25であることがさらに好ましく、22であることが最も好ましい。該炭化水素基の炭素数が4未満では、前記の有機化粘土鉱物の層間が十分に拡がらないため、有機化粘土鉱物の層間に重合体が挿入されにくくなる場合がある。一方、該炭化水素基の炭素数が31以上では、4級アンモニウム塩の分子サイズが大きくなり、4級アンモニウム塩が粘土鉱物の層間に入る際の立体的障害が大きくなることにより、粘土鉱物が有機化されにくくなる場合がある。そして、式中Yで表されるハロゲン基は、塩素基が特に好ましい。
【0034】上記のイオン交換は、具体的には以下のように行う。粘土鉱物を水やアルコール等で十分に溶媒和させた後、有機オニウム塩を加え、撹拌し、粘土鉱物の層間の金属イオンを有機オニウムイオンに置換する。その後、未置換の有機オニウムイオンを十分に洗浄し、濾過、乾燥させる。
【0035】イオン交換に用いる有機オニウムイオンの量は、上記の粘土鉱物の陽イオンの交換容量に対して0.3〜3当量であることがより好ましい。すなわち、有機オニウムイオンの量の下限値は、0.3当量であることがより好ましく、0.5当量であることがさらに好ましい。また、有機オニウムイオンの量の上限値は、3当量であることがより好ましく、2当量であることがさらに好ましい。有機オニウムイオンの量が0.3当量未満の場合は、粘土鉱物の層間を膨潤させることが困難となる恐れがある。一方、該有機オニウムイオンの量が3当量を越える場合は、重合体の劣化の原因となり、粘土複合材料の着色原因となる恐れがある。
【0036】上記の有機化粘土鉱物の添加量は、オキサゾリン基を含有する重合体100重量部に対して、0.5〜150重量部の範囲内とすることがより好ましい。すなわち、重合体100重量部に対する有機化粘土鉱物の添加量の下限値は、0.5重量部とすることがより好ましく、1重量部とすることがさらに好ましく、5重量部とすることが最も好ましい。また、重合体100重量部に対する有機化粘土鉱物の添加量の上限値は、150重量部とすることが好ましく、125重量部とすることがさらに好ましく、100重量部とすることが最も好ましい。有機化粘土鉱物の添加量を上記の範囲内とすることにより、機械的強度と成形性とのバランスのとれた粘土複合材料を得ることができる。該添加量が0.5重量部未満の場合、有機化粘土鉱物による機械的強度の向上効果が得られない恐れがある。一方、該添加量が150重量部よりも多い場合、粘土複合材料の成形性が低下する恐れがある。
【0037】本発明にかかる粘土複合材料は、オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と有機化粘土鉱物とに加えて、熱可塑性樹脂をさらに含んでもいてもよい。前記熱可塑性樹脂の種類を選択することにより、所望の性質の粘土複合材料を得ることが可能になる。前記の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレンやアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら熱可塑性樹脂は、必要に応じて、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を適宜混合して用いてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は、上記オキサゾリン基を含有する重合体と互いに相溶する樹脂であることがより好ましい。
【0038】つぎに、本発明にかかる粘土複合材料の製造方法について説明する。本発明にかかる粘土複合材料は、上記の重合体と上記の有機化粘土鉱物と熱可塑性樹脂(必要に応じて)とを混合して製造することができる。混合の順序は、重合体と有機化粘土鉱物とを同時に加えて混合してもよいし、または重合体と有機化粘土鉱物を任意の順序で加えて混合してもよい。例えば、重合体と有機化粘土鉱物とをオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することにより、本発明にかかる粘土複合材料を容易に得ることができる。押出混練する混練機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機(スクリュウ回転方向が同方向、異方向)などの押出機;加圧ニーダー;等、従来公知の種々の混練機が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。該混練の際には、重合体と有機化粘土鉱物とを重合体の軟化温度以上に加熱して、溶融混練を行うことがより好ましい。
【0039】或いは、本発明にかかる粘土複合材料は、粘土鉱物を有機化処理してなる、溶媒により膨潤された有機化粘土鉱物と、単量体としてビニル系重合体およびビニル重合単量体(必要に応じて)とを共存させて、該単量体を上述した方法で重合させることによっても得ることができる。
【0040】上記の膨潤は、有機化粘土鉱物に溶媒または単量体および重合開始剤(必要に応じて)の一部もしくは全部を溶媒に混合して得られる混合物を添加、撹拌することにより行う。すなわち、上記の操作により、溶媒が有機化粘土鉱物の層間に侵入し、溶媒と有機化粘土鉱物の各層の表面にイオン結合している有機オニウムイオンとが溶媒和する。したがって、溶媒中において最も安定な、有機オニウムイオンの炭化水素基が伸びた状態となる。これにより、有機オニウムイオンが、有機化粘土鉱物の層の間に柱のような状態で存在することとなり、層間距離が押し拡げられることとなる。このように溶媒により膨潤された有機化粘土鉱物は、有機化粘土鉱物の各層の表面に有機オニウムイオンが配置しているためコロイド状になり沈殿しない。
【0041】上記の溶媒としては、例えば、前記例示の溶媒が挙げられるが、特に限定されるものではない。そして、これら溶媒は、1種類のみを用いてもよく、また、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0042】上記の「共存」とは、溶媒により膨潤された有機化粘土鉱物と単量体とが共に存在している状態をいう。共存させる方法としては、溶媒により膨潤された粘土鉱物に単量体を加えてもよいし、または単量体の一部もしくは全部を溶媒に混合して得られた混合物を用いて有機化粘土鉱物を膨潤させてもよい。より好ましくは、有機化粘土鉱物を溶媒を用いて膨潤させ、該膨潤された有機化粘土鉱物に単量体を加える方法により共存させる。
【0043】前記の溶媒は、単量体を重合させた後に除去する。溶媒の除去は、例えば、反応溶液をベント付き2軸押出機等のいわゆる揮発分分離除去装置に導入し、反応溶液から揮発分を除去することにより行う。
【0044】本発明にかかる粘土複合材料は、有機化粘土鉱物により拘束されている重合体の割合が、通常のコンポジット(充填材の分散サイズがナノオーダーではない複合材料)よりも高い。したがって、少量の有機化粘土鉱物の添加により、機械強度、弾性率、熱変形温度の向上効果を得ることができる。すなわち、本発明にかかる粘土複合材料は、通常のコンポジットより低比重で、かつ、上記各種の物性に関して高性能を示す材料である。また、層状構造を有する有機化粘土鉱物が、重合体中に超微細分散しているため、粘土複合材料中における気体(酸素など)の拡散が妨げられる。したがって、本発明にかかる粘土複合材料は、有機化粘土鉱物を含まない成形用樹脂よりガスバリア性および難燃性が高い。また、有機化粘土鉱物が、ナノオーダーで分散しているため、該有機化粘土鉱物が可視光線を散乱しない。したがって、本発明にかかる粘土複合材料は、通常のコンポジットより透明性が高い。また、有機化粘土鉱物がナノオーダーで分散しているため、粘土複合材料を繰り返し加工しても有機化粘土鉱物の切断等が起こらない。したがって、例えば、ガラス繊維を充填材として用いた複合材料のように、繰り返し加工することによる性能の低下がおこらない。すなわち、本発明にかかる粘土複合材料は、リサイクルが可能である。また、有機化粘土鉱物には毒性が無いため、本発明にかかる粘土複合材料は、安全性に関して優れている。
【0045】本発明にかかる粘土複合材料は、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出成形、延伸成形などの成形法を用い、種々の形状にすることができる。例えば、押出混練によって得られた粘土複合材料を、射出成形機を用いて成形することにより、板状成形品などの種々の成形品を得ることができる。
【0046】また、上記の粘土複合材料を押出機に供給し、溶融可塑後、ダイなどにより押出延伸してフィルムとすることも可能である。このようにして、本発明の粘土複合材料を用いて、機械的強度等の各種の物性が優れたフィルムを得ることができる。
【0047】つぎに、オキサゾリン基を含有する重合体と、有機化粘土鉱物とを含み、前記重合体100重量部に対する前記有機化粘土鉱物の割合が5〜150重量部の範囲内であるマスターバッチについて説明する。
【0048】上記の粘土複合材料は、有機化粘土鉱物の分散性が良いため、該粘土複合材料中には有機化粘土鉱物を多量に添加、分散することができる。したがって、高濃度の有機化粘土鉱物を含む粘土複合材料、すなわち、重合体100重量部に対する有機化粘土鉱物の割合が5〜150重量部の範囲内である粘土複合材料は、マスターバッチとして用いることができる。
【0049】上記の有機化粘土鉱物の添加量は、オキサゾリン基を含有する重合体100重量部に対して、5〜150重量部の範囲内とすることがより好ましい。すなわち、重合体100重量部に対する有機化粘土鉱物の添加量の下限値は、5重量部とすることがより好ましく、10重量部とすることがさらに好ましく、15重量部とすることが最も好ましい。また、重合体100重量部に対する有機化粘土鉱物の添加量の上限値は、150重量部とすることがより好ましく、125重量部とすることがさらに好ましく、100重量部とすることが最も好ましい。有機化粘土鉱物の添加量を上記の範囲内とすることにより、機械的強度と成形性とのバランスのとれた粘土複合材料を得ることができる。有機化粘土鉱物の添加量が5重量部未満の場合、上記の粘土複合材料をマスターバッチとして用いることができない恐れがある。一方、有機化粘土鉱物の添加量が150部よりも多い場合、組成物の成形性が低下する恐れがある。
【0050】上記のマスターバッチは、さらに添加剤を含んでいてもよい。前記の添加剤を選択することにより、所望の性質のマスターバッチを得ることが可能になる。前記の添加剤としては、他の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、可塑剤、顔料、熱安定剤、光安定剤、難燃剤などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これら添加剤は、必要に応じて、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を適宜混合して用いてもよい。また、上記の添加剤は、上記オキサゾリン基を含有する重合体と互いに相溶する性質を有することがより好ましい。
【0051】
【実施例】以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例に記載の「部」は、「重量部」を示す。
【0052】〔実施例1〕還流冷却器、温度センサー、ガス導入管、2つの滴下ロートおよび撹拌装置を取り付けた反応容器の内部を窒素ガスで十分に置換した。続いて、この反応容器に溶媒としてのキシレン70部を仕込んだ。その後、このキシレンを窒素ガス気流下で撹拌しながら、還流温度に昇温した。
【0053】一方の滴下ロートには、ビニル重合性単量体としてのスチレン24部と、オキサゾリン環を有するビニル系単量体としての2−イソプロペニル−2−オキサゾリン6部とからなる単量体組成物(30部)を入れた。そして、他方の滴下ロートには、重合開始剤としてのカヤカルボンBIC75(化薬アクゾ製)0.6部を入れた。
【0054】続いて、反応容器内のキシレンを還流温度において撹拌しながら、滴下ロートの単量体組成物と該重合開始剤とをそれぞれ4時間かけて反応容器内のキシレンに滴下した。
【0055】滴下終了後、得られた反応液を2軸押出機を用いて温度200℃、回転数120rpmの条件で脱揮し、GPCによる標準ポリスチレン換算の平均重量分子量が15,000である固体状のオキサゾリン基を含有する重合体(以下、POX−1と記す)を得た。
【0056】次に、上記の「POX−1」90部と有機化粘土鉱物(コープケミカル製、商品名;スメクタイトSAN)10部とを乾燥した状態で混合して混合物を得た。続いて、温度200℃、回転数120rpmの条件において、2軸押出機を用いて、該混合物を溶融混練して粘土複合材料を得た。このようにして得られた粘土複合材料を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、有機化粘土鉱物の層間にPOX−1が挿入されることにより該有機化粘土鉱物の各層が完全に剥離していることが確認された。
【0057】上記の結果から分かるように、得られた粘土複合材料はデラミ型のクレイハイブリッドであった。
【0058】〔実施例2〕溶融混練する混合物を、「POX−1」25部と有機化粘土鉱物5部とを乾燥した状態で混合して得た混合物とした以外は、実施例1と同様の条件で溶融混練を行って粘土複合材料(以下、MC−1と記す)を得た。このようにして得られた粘土複合材料を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、有機化粘土鉱物の層間にPOX−1が挿入されることにより該有機化粘土鉱物の各層が完全に剥離していることが確認された。
【0059】上記の結果から分かるように、得られた粘土複合材料(MC−1)はデラミ型のクレイハイブリッドであった。
【0060】〔実施例3〕上記実施例2で得たMC−1をマスターバッチとし、該「MC−1」30部とポリスチレン(新日鐵化学製、商品名;エスチレンG−20)70部とを乾燥した状態で混合した後に、実施例1と同様の条件で溶融混練を行って粘土複合材料を得た。このようにして得られた混合物を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、得られた混合物はデラミ型のクレイハイブリッドであった。即ち、実施例2で得られた粘土複合材料(MC−1)をマスターバッチとしてポリスチレンと混合することにより、ポリスチレンを主成分とするデラミ型のクレイハイブリッドを得ることができた。
【0061】〔実施例4〕還流冷却器、温度センサー、ガス導入管、2つの滴下ロートおよび撹拌装置を取り付けた反応容器の内部を窒素ガスで十分に置換した。続いて、この反応容器に溶媒としてのキシレン70部と、有機化粘土鉱物(コープケミカル製、商品名;スメクタイトSAN)5部とを仕込んだ。その後、このキシレンと有機化粘土鉱物との混合物を窒素ガス気流下で激しく撹拌しながら、還流温度に昇温した。
【0062】一方の滴下ロートには、スチレン20部と2−イソプロペニル−2−オキサゾリン5部とからなる単量体組成物を入れた。そして、他方の滴下ロートには、重合開始剤としてのカヤカルボンBIC75(化薬アクゾ製)0.7部を入れた。
【0063】続いて、反応容器内のキシレンと有機化粘土鉱物との混合物を還流温度において激しく撹拌しながら、該混合物に滴下ロートの単量体組成物と該重合開始剤とをそれぞれ2時間かけて反応容器内の混合物に滴下した。
【0064】滴下終了後、得られた淡黄色透明な反応液を2軸押出機を用いて温度220℃、回転数120rpmの条件で脱揮し、淡黄色透明な粘土複合材料を得た。このようにして得られた粘土複合材料は、GPCによる標準ポリスチレン換算の平均重量分子量が15,000であった。そして、該粘土複合材料を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、有機化粘土鉱物の各層が完全に剥離していることが確認された。
【0065】上記の結果から分かるように、得られた粘土複合材料はデラミ型のクレイハイブリッドであった。
【0066】〔比較例1〕還流冷却器、温度センサー、ガス導入管、滴下ロートおよび撹拌装置を取り付けた反応容器の内部を窒素ガスで十分に置換した。続いて、この反応容器にキシレン50部と、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン10部と、スチレン40部とを仕込んだ。その後、この溶液を窒素ガス気流下で撹拌しながら、還流温度に昇温した。
【0067】一方、滴下ロートに、カヤカルボンBIC75 0.1部を入れ、反応容器内の溶液を還流温度において撹拌しながら、該重合開始剤を4時間かけて反応容器内に滴下した。
【0068】滴下終了後、得られた反応液を2軸押出機を用いて温度200℃、回転数120rpmの条件で脱揮し、GPCによる標準ポリスチレン換算の平均重量分子量が150,000である固体状のオキサゾリン基を含有する重合体(以下、POX−2と記す)を得た。
【0069】次に、前記のPOX−1の代わりに上記のPOX−2を用いた以外は、実施例1と同様の条件で溶融混練を行って粘土複合材料を得た。このようにして得られた粘土複合材料を透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、有機化粘土鉱物の層が凝集しており、該有機化粘土鉱物の層構造が保持されている事が確認された。
【0070】上記の結果から分かるように、得られた粘土複合材料はデラミ型のクレイハイブリッドではなかった。
【0071】
【発明の効果】本発明の粘土複合材料は、以上のように、オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含む構成である。
【0072】それゆえ、重合体と有機化粘土鉱物との相互作用が高く、重合体中における有機化粘土鉱物の分散性が向上するため、従来は容易に得ることのできなかったデラミ型のクレイハイブリッドを得ることができる。これにより、該デラミ型のクレイハイブリッドを用いて機械的強度等の各種物性が優れた成形品を提供することができるという効果を奏する。
【0073】本発明のマスターバッチは、以上のように、オキサゾリン基を含有する重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含み、前記重合体100重量部に対する前記有機化粘土鉱物の割合が5〜150重量部の範囲内である構成である。
【0074】それゆえ、重合体と有機化粘土鉱物との相互作用が高く、重合体中における有機化粘土鉱物の分散性が向上するため、有機化粘土鉱物を高濃度で配合することが可能となり、従来は容易に得ることのできなかったデラミ型のクレイハイブリッドのマスターバッチを得ることができる。
【0075】それゆえ、マスターバッチを用いることにより、機械的強度等の各種物性が優れた成形品を製造するための成形用樹脂を調製する際の計量や取扱いを容易にすることが可能となるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】オキサゾリン基を含有する重量平均分子量が5千〜10万の範囲内の重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含むことを特徴とする粘土複合材料。
【請求項2】前記有機化粘土鉱物が、粘土鉱物をアルキルアンモニウム塩でイオン交換してなることを特徴とする請求項1記載の粘土複合材料。
【請求項3】前記重合体に占めるオキサゾリン基の量が、0.1〜4.5mmol/gの範囲内であることを特徴とする請求項1または2記載の粘土複合材料。
【請求項4】オキサゾリン基を含有する重合体と、粘土鉱物を有機化処理してなる有機化粘土鉱物とを含み、前記重合体100重量部に対する前記有機化粘土鉱物の割合が5〜150重量部の範囲内であることを特徴とするマスターバッチ。
【請求項5】前記重合体の重量平均分子量が5千〜10万の範囲内であることを特徴とする請求項4記載のマスターバッチ。

【公開番号】特開2002−3734(P2002−3734A)
【公開日】平成14年1月9日(2002.1.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−187543(P2000−187543)
【出願日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】