説明

粘度指数向上剤及び潤滑油組成物

【課題】良好なせん断安定性を示し、かつ、潤滑油基油に対して十分な溶解性を示す3次元構造のポリアクリレート系粘度指数向上剤、並びに該ポリアクリレート系粘度指数向上剤を用いた潤滑油組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基である第1のモノマーと、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数16以上のアルキル基である第2のモノマーと、2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーである第3のモノマーと、を含むモノマー混合物であるポリアクリレート系粘度指数向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度指数向上剤及び潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な温度領域で使用される潤滑油については、基油にポリマーを溶解させ、低温時はポリマーの溶解性が低いことを利用して粘度の上昇を抑制し、逆に高温側ではポリマーの溶解性が良好になることを利用して粘度の低下を抑制することで、使用温度範囲を改善する工夫がなされている。このポリマーのことを粘度指数向上剤と呼ぶ(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
粘度指数向上剤にはさまざまな化合物が用いられている。そのなかで、ポリアクリレート系粘度指数向上剤は、他の粘度指数向上剤と比較して高い粘度指数向上効果を示す傾向にある。そのため、温度が大きく変化する環境下で使用される自動車用潤滑油、例えばエンジン油や駆動系油(自動変速機用潤滑油、手動変速機用潤滑油等)の分野では、通常、ポリアクリレート系粘度指数向上剤が潤滑油に添加される(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0004】
潤滑油が供給される機械摺動部においては潤滑油にせん断力がかかるため、潤滑油に含まれるポリマーが破壊され分子量が相対的に小さくなる現象が発生する。これに伴い、当初の粘度が維持できなくなり、油圧低下による制御不良、オイル消費量の増大などが起こり、その結果としてオイル不足による潤滑不良等が発生する。
【0005】
これらの現象の発生を防ぐために、一般的には、ポリマーの分子量を小さくし、できるだけせん断されても粘度低下を抑制する対策が採られる。しかしこの方法では、使用されるポリマーの量が増大し、経済的な負担が増大するばかりでなく、本来の目的である、低温時の粘度上昇抑制、高温時の粘度維持効果も低下する。
【0006】
その一方で、ポリマーを添加したオイルの場合、高せん断速度の条件になると、ポリマーがせん断方向に配向することにより実効粘度が低下することが知られている。この実行粘度の低下の度合いは、ポリマー分子が大きいほど大きくなる。この現象は、高速時の粘性抵抗の低減、ひいてはエネルギー損失の低減、すなわち省燃費効果につながる。このためこの現象は、自動車用潤滑油において積極的に利用される傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−053252号公報
【特許文献2】特表2008−518052号公報
【特許文献3】特開2007−031666号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「石油製品添加剤」、桜井俊男監修、342−359頁、幸書房(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、ポリアクリレート系粘度指数向上剤は、高分子であるがゆえに摺動部でせん断されて分子量が低下すること及び粘度が低下することは避けられない。なお、かかる現象を回避するため、予め比較的低分子量のポリマーを使用することがある。しかし、この方法は、ポリマーの添加量の増加を伴うため、経済的に不利となる。また、ポリマーが低分子量であるがゆえに先に述べた省燃費効果も小さくなる。
【0010】
ここで、せん断されることによる分子量の低下の程度を表す指標として、「せん断安定性」という表現を用いる。例えば「せん断安定性が良好である」とは、ポリマーの分子量が低下せず、その結果として粘度が高く保持されることを意味する。一般的に、ポリマーの分子量が小さいほど良好なせん断安定性を示す傾向にある。
【0011】
換言すれば、高分子でありながらせん断安定性のよいポリマーがあれば、それが好ましい粘度指数向上剤と言うことができる。このような粘度指数向上剤の例として、スターポリマーが挙げられる。これはコア部があり、この部分から放射状に分子鎖が伸びており、分子の一部がせん断により破壊されても分子全体の構造に及ぼす影響が少ないため、ポリマーの分子量の低下が小さく、良好なせん断安定性が維持される。また、せん断安定性を向上させるために有効な他のポリマー構造としては、分子鎖が分子の途中で他の分子鎖と結合している3次元構造が考えられる。
【0012】
しかしながら、上記のようにポリマーの分子構造を3次元化すると、ポリマーの基油への溶解性が不十分となってしまう。そのため、3次元構造のポリアクリレート系粘度指数向上剤として、実用化に供し得るものは未だ開発されていないのが実情である。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、良好なせん断安定性を示し、かつ、潤滑油基油に対して十分な溶解性を示す3次元構造のポリアクリレート系粘度指数向上剤、並びに該ポリアクリレート系粘度指数向上剤を用いた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基である第1のモノマーと、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数16以上のアルキル基である第2のモノマーと、2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーである第3のモノマーと、を含むモノマー混合物であって、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数6〜15のアルキル基である第4のモノマーの、前記第2のモノマーに対する含有割合が0〜50重量%であるモノマー混合物を、共重合させて得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤を提供する。
【化1】

【0015】
上記第2のアクリレート系モノマーにおいて、一般式(1)中のRは炭素数20以上のアルキル基であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基である第1のモノマーと、上記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数20以上のアルキル基である第2のモノマーと、2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーである第3のモノマーと、を含むモノマー混合物であって、上記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数6〜15のアルキル基である第4のモノマーの、前記第2のモノマーに対する含有割合が0〜200重量%であるモノマー混合物を、共重合させて得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤を提供する。
【0017】
また、本発明は、潤滑油基油と、上記本発明のポリアクリレート系粘度指数向上剤と、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、泡消剤及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤と、を含有する潤滑油組成物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り、本発明によれば、良好なせん断安定性を示し、かつ、潤滑油基油に対して十分な溶解性を示す3次元構造のポリアクリレート系粘度指数向上剤、並びに該ポリアクリレート系粘度指数向上剤を用いた潤滑油組成物が提供される。
【0019】
すなわち、本発明のポリアクリレート系粘度指数向上剤によれば、低分子量化せずとも良好なせん断安定性を得ることができ、また、従来達成が困難であったせん断安定性と潤滑油基油に対する溶解性との両立を高水準で達成することができるようになる。さらに、本発明のポリアクリレート系粘度指数向上剤は、他の粘度指数向上剤と比較して、潤滑油への添加量の減少を図ることができるため経済的に有利であり、また、高分子化による省燃費効果も期待できる。さらには十分な耐久性があるため、あるいは、超薄膜潤滑状態でも3次元構造の保持により、油膜が確保でき、摩耗や疲労寿命の低下を抑制する効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態:ポリアクリレート系粘度指数向上剤]
本発明の第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤は、下記のモノマー(A)、(B)及び(C):
(A)下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基であるアクリル系モノマー;
(B)下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数16以上のアルキル基であるアクリル系モノマー;及び
(C)2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマー
を含むモノマー混合物を共重合させて得られるものである。かかるポリアクリレート系粘度指数向上剤は、通常、3次元構造を有し、分子中の複数の位置で他の分子と結合し、全体として巨大ポリマーを形成する。
【化2】

【0022】
モノマー(A)は、R及びRがそれぞれ単一のモノマーであってもよく、R及び/又はRが異なる2種以上のモノマーの混合物であってもよい。反応性の点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、粘度指数向上の点から、Rは炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0023】
また、モノマー(A)のRが炭素数3又は4のアルキル基である場合、当該アルキル基は直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基のいずれであってもよいが、ポリアクリレート系粘度指数向上剤の本来的な特性である粘度指数の観点からは、当該Rが直鎖状であることが好ましい。
【0024】
得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の粘度指数の点からは、モノマー(A)の使用量はできる限り多いほうが好ましい。その一方で、モノマー(A)の使用量が多いほど、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の潤滑油基油に対する溶解性は低下する傾向にあるため、モノマー(A)の使用量の決定に際しては、これらの点を考慮することが望ましい。また、モノマー(A)の使用可能な量は、ポリアクリレート系粘度指数向上剤が添加される潤滑油基油の種類によっても異なる。例えば、ナフテン系基油や芳香族が多い基油の場合、モノマー(A)の使用量を多くしても溶解性を確保することができる傾向にある。
また、溶解性は、ポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量、モノマー(A)のRの炭素数の大きさ等によっても異なる。ポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量が小さく、また、Rの炭素数が大きいほど、モノマー(A)の使用量を多くすることができる。
例えば、潤滑油基油がパラフィン系基油であり、モノマー(A)の使用量は、モノマー混合物の全重量を基準として、溶解性の面から好ましくは85重量%以下である。一方、モノマー(A)の使用量の下限値は、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の粘度指数の確保のため、モノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは10重量%以上である。ただし、その使用量は構造により異なり、例えばモノマー(A)のRが炭素数4のアルキル基である場合、モノマー(A)の使用量は、その溶解性の観点からモノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは85重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。一方、モノマー(A)の使用量の下限値は、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の粘度指数の確保のため、モノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。
また、潤滑油基油がパラフィン系基油であり、モノマー(A)のRが炭素数1のアルキル基(すなわちメチル基)である場合、モノマー(A)の使用量は、その溶解性の観点からモノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。一方、モノマー(A)の使用量の下限値は、粘度指数の確保のため、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30%以上である。
潤滑油基油がパラフィン系基油であり、モノマー(A)のRが炭素数2又は3のアルキル基である場合のモノマー(A)の使用量の好ましい範囲は、モノマー(A)のRが炭素数4のアルキル基である場合とモノマー(A)のRが炭素数1のアルキル基である場合の中間の量との中間に位置する。
【0025】
モノマー(B)は、本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤に潤滑油基油に対する溶解性を付与するための重要な要素である。通常、モノマー混合物に含まれるモノマー(B)の量が多いほど、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の潤滑油に対する溶解性は高くなる。しかし、粘度指数の確保の点から、モノマー(A)及びモノマー(C)が所定量用いられるため、実質的には、モノマー(A)、(C)に対するモノマー(B)の相対的な量が、ポリアクリレート系粘度指数向上剤の潤滑油基油に対する溶解性の決定因子となる。
【0026】
モノマー(B)は、R及びRがそれぞれ単一のモノマーであってもよく、R及び/又はRが異なる2種以上のモノマーの混合物であってもよい。得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の潤滑油基油に対する溶解性をより高める点からは、モノマー(B)として、R及び/又はRが異なる2種以上のモノマーを用いることが好ましい。またモノマー(B)のRは、直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基のいずれであってもよい。ポリアクリレート系粘度指数向上剤の本来的な特性である粘度指数の観点からは、当該Rが直鎖状であることが好ましい。一方、低温時の流動性の点からは、当該Rが分岐状アルキル基であることが好ましい。また、反応性の点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、溶解性の点から、Rの炭素数は16以上であることが好ましく、18以上であることがより好ましいく、20以上であることがさらに好ましい。また、反応性の点から、Rの炭素数は500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましい。
特に、モノマー(B)のRとして、炭素数8〜18の直鎖アルコールをゲルベ反応で2量化したβ分岐型アルコールを用いると、粘度指数向上効果と低温流動性を高度に両立するので好ましい。
これらモノマー(B)の含有量の好ましい範囲は5質量%以上、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、もっとも好ましくは30質量%以上、80質量%以下、好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、もっとも好ましくは50質量%以下である。
さらにβ分岐アルコールを用いる場合は、それ以外のB成分及び又はD成分を併用することが好ましい。β分岐アルコール以外のモノマー(B)とモノマー(D)の合計の好ましい範囲は10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、もっとも好ましくは40質量%以上、80質量%以下、好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下であることが好ましい。
【0027】
モノマー(C)は、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の高分子量化及びせん断安定性の向上に寄与する。すなわち、同一の反応条件下では、モノマー混合物に含まれるモノマー(C)の量が多いほど、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量が高くなる。また、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量が同程度の場合、モノマー(C)の量が多いほどせん断安定性は良好になる。しかしその一方で、分子量が高くなると、溶解性が低下する傾向にあるため、モノマー(C)の使用量の決定に際しては、この点を考慮することが望ましい。具体的には、モノマー(C)の使用量は、モノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上、また5重量%以下、より好ましくは3.5重量%以下、さらに好ましくは2.5重量%以下である。これより少ないと3次元とした効果がなく、多すぎると溶解しなくなる。
【0028】
モノマー(C)としては、2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーであれば特に制限されない。2つのビニル基を有するアクリレート系モノマーとしては、ジプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビスフェノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。また、3つのビニル基を有するアクリレート系モノマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート等が挙げられる。また、4つ以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤は、上記のモノマー(A)、(B)及び(C)からなるモノマー混合物を共重合させて得られるものであってもよく、あるいは、上記のモノマー(A)、(B)及び(C)に加えて他のモノマーをさらに含むモノマー混合物を共重合させて得られるものであってもよい。
【0030】
モノマー(A)、(B)及び(C)と併用されるモノマーの好ましい例としては、下記のモノマー(D):
(D)上記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数6〜15のアルキル基であるアクリル系モノマー
が挙げられる。
【0031】
モノマー(D)は、R及びRがそれぞれ単一のモノマーであってもよく、R及び/又はRが異なる2種以上のモノマーの混合物であってもよい。得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の潤滑油基油に対する溶解性をより高める点からは、モノマー(D)として、R及び/又はRが異なる2種以上のモノマーを用いることが好ましい。またモノマー(D)のRは、直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基のいずれであってもよい。ポリアクリレート系粘度指数向上剤の本来的な特性である低温時の流動性の観点からは、当該Rが直鎖状であることが好ましい。また、反応性の点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、潤滑油組成物の低温時の流動性改善の観点から、Rの炭素数は8以上であることがより好ましく、また、同様の理由により、Rの炭素数は14以下であることが好ましい。
【0032】
モノマー(B)のRの炭素数が20未満である場合、モノマー(B)に対するモノマー(D)の含有割合は50重量%以下であることが好ましい。さらには30重量%以下であることが好ましく、もっとも好ましくは15重量%以下である。モノマー(B)に対するモノマー(D)の含有割合が50重量%を超えると、共重合させて得られるポリメタクリレート系粘度指数向上剤の溶解性が低下する。
モノマー(B)のRの炭素数が20未満である場合に好ましく用いられるモノマー混合物としては、モノマー混合物の全重量を基準として、モノマー(A)10〜50重量%と、モノマー(B)40〜90重量%と、モノマー(C)0.01〜5重量%と、モノマー(D)0〜45重量%と、を含有するモノマー混合物を挙げることができる。
【0033】
また、モノマー(B)のRの炭素数が20以上である場合、モノマー(B)に対するモノマー(D)の含有割合は200重量%以下であることが好ましい。さらには150%以下であることが好ましく、もっとも好ましくは120%以下である。モノマー(D)の使用量が多すぎると本発明のポリメタクレートは溶解性が低下する傾向にある。その一方で、モノマー(D)の量が多いほど、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤の低温時の流動性が良好となる。かかる点から、モノマー(B)に対するモノマー(D)のワン有割合は、10%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは20重量%以上、より好ましくは50%以上である。
モノマー(B)のRの炭素数が20以上である場合に好ましく用いられるモノマー混合物としては、モノマー混合物の全重量を基準として、モノマー(A)10〜50重量%と、モノマー(B)10〜80重量%と、モノマー(C)0.01〜5重量%と、モノマー(D)0〜60重量%と、を含有するモノマー混合物を挙げることができる。
【0034】
また、本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤は、上記のモノマー(A)、(B)及び(C)並びに必要に応じて用いられるモノマー(D)に加えて、下記一般式(2)で表されるモノマー(以下、「モノマー(E)」ともいう。)及び下記一般式(3)で表されるモノマー(以下、「モノマー(F)」ともいう。)から選ばれる少なくとも1種の塩基性窒素原子を有するモノマーをさらに含むモノマー混合物を共重合させて得られるものであってもよい。モノマー(E)及び/又はモノマー(F)を用いると、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤による潤滑油組成物の分散性能が高められる。
【化3】


[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1を示す。]
【化4】


[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。]
【0035】
及びEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
【0036】
モノマー(E)及びモノマー(F)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0037】
モノマー(E)及び/又はモノマー(F)を使用する場合、モノマー(A)、(B)、(C)及び(D)の合計のモル量M−1に対する、モノマー(E)及び(F)の合計のモル量M−2の比(モル比)は、(M−1)/(M−2)=99.5/0.5〜80/20の範囲であることが好ましく、99/1〜90/10の範囲内であることがより好ましく、98/2〜95/5の範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
また、本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤は、高せん断条件下での粘度制御のためのポリマーの剛直性の制御や、基油への溶解性を制御するため、モノマー(A)〜(C)並びに必要に応じて用いられるモノマー(D)〜(F)に加えて、スチレンをさらに含むモノマー混合物を共重合させて得られるものであってもよい。この場合のスチレンの使用量は、モノマー混合物の全重量を基準として、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0039】
本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤の製造法は任意である。触媒(開始剤)の種類や濃度は、目的とする分子量や分子量分布によって異なる。例えば、ベンゾイルパーオキシドの過酸化物や、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤の存在下で、あるいは分子量分布を制御するために1−ドデカンチオール等の硫黄化合物の存在下で、モノマー(A)〜(C)並びに必要に応じて用いられるモノマー(D)〜(F)及びスチレンを含むモノマー混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
また、過酸化物系開始剤と適当な還元剤の組み合わせによるレドックス開始系を用いることもできる。
また、分子量分布を制御するための硫黄化合物、すなわち連鎖移動剤連鎖移動剤としては1−ドデカンチオールのほか、チオフェノール、2−メルカプトエタノール、四塩化炭素、四臭化炭素等があげられる。連鎖移動剤の好ましい量は0.1から3重量%、より好ましくは0.2から2重量%である。この範囲にすることで、分子量分布が狭くなり、剪断安定性がよくなる。
【0040】
分子量分布を狭くすることは、粘度指数の改善やせん断安定性改善の観点から非常に有利であるため、重合方法としてはLiving Radical Polymerizationが挙げられる。その具体的な方法としては、Reversible Addition Fragmentation Chain Transfer Polymerization(RAFT法)やNitroxide−Mediated Polymerization(NMP法)あるいはAtom−Transfer Radical Polymerization(ATRP法)などが有名である。これらの詳細についてはたくさんの成書があるためここでは述べないが、先に挙げたAldrich Material Matters Volume 5, Number 1 ? 2010に概説がある。またその使用例としては特表2008−518052がある。
触媒の具体例としてはさまざまなものがあり、先の文献や特許等の引用例に記載されているためここでは列挙しない。本発明の実施例ではRAFT法を使用し、触媒として2−フェニルプロパン−2−イル ジチオベンゾエート(2−phenylpropan−2−yl dithiobenzoate)を使用したが、これに限定されるものではない。
【0041】
共重合の際に使用する溶媒は特に制限されず、いわゆる潤滑油に使用できる鉱油系基油又は合成系基油を好適に使用することができる。
【0042】
基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(7)を原料とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。また(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(8)が特に好ましい。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(2)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(3)基油(1)〜(2)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる2種以上の混合油
(5)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸残渣油の脱れき油(DAO)
(6)基油(5)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(7)基油(1)〜(6)から選ばれる2種以上の混合油。
を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(8)上記基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0043】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。合成系基油の100℃における動粘度は、1〜20mm/sであることが好ましい。
【0044】
反応容器の容量は、目的とするポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量等に応じて適宜選定するのが好ましい。例えば、重量平均分子量が5万以下の場合は、使用するモノマー量の1.5倍以上、好ましくは2倍以上、よりこのましくは3倍以上、また7倍以下、好ましくは6倍以下、より好ましくは5倍以下とするのが好ましい。5万を超える分子量が目標の場合は使用するモノマー量の3倍以上、好ましくは4倍以上、よりこのましくは5倍以上、また10倍以下、好ましくは8倍以下、より好ましくは7倍以下とするのが好ましい。これは製造されたポリマーの粘度を取り扱いが可能になる粘度なるように溶媒量を調整するためである。
ただし、分子量制御のために、溶媒量に制限がある場合はこの限りではない。
【0045】
また、攪拌装置の種類及び撹拌速度は、モノマー混合物と溶媒が激しく均一に攪拌される速度であればよい。
【0046】
また、共重合反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましく、また、反応開始前に反応容器内を完全に窒素に置換しておくことが好ましい。
【0047】
また、共重合反応においては、モノマーが容器から蒸発せず、容器内に還流するようにするための冷却装置を用いることが好ましい。
【0048】
反応容器内へのモノマーの導入方法及び導入速度は、モノマーの量及び目的とするポリアクリレート系粘度指数向上剤の種類等によって適宜選定することができる。例えば、目的のポリアクリレート系粘度指数向上剤がランダム共重合体である場合は、使用するモノマーを完全に混合したものを、所定の速度で反応容器内に導入すればよい。一方、目的のポリアクリレート系粘度指数向上剤がブロック共重合体である場合には、1つのモノマーを一度に反応容器内に導入し、十分反応させて単独重合体を得た後、他のモノマーについても同様に順次反応させることが可能である。
【0049】
共重合に用いる触媒(開始剤)の種類や濃度は、目的とするポリアクリレート系粘度指数向上剤の分子量や分子量分布等によって異なる。高分子の生成物を得たい場合は、反応温度を低くし(例えば70℃程度)、触媒量を少なくすることが好ましい。ただし、触媒の量は、容器内の残存酸素量、モノマーに残存している重合禁止剤との量等を考慮して調整することが好ましい。一方、低分子の生成物を得たい場合は、反応温度を高くし(例えば85〜90℃)、触媒を多くすることが好ましい。
【0050】
先に述べたせん断安定性の具体的数値としてPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス:ASTM D 6022)が使用される。本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤のPSSIは、40以下であることが好ましく、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下であり、特に好ましくは25以下である。また、当該PSSIは、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは2以上であり、特に好ましくは5以上である。PSSIが0.1未満の場合には粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、PSSIが40を超える場合にはせん断安定性や貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0051】
また、本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(M/PSSI)は、1.0×10以上であることが好ましく、好ましくは1.5×10以上、より好ましくは2.0×10以上、さらに好ましくは2.5×10以上、特に好ましくは3.0×10以上である。M/PSSIが1.0×10未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
なお、ここでいう重量平均分子量は、ウォーターズ社製150−CALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0052】
本実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M)は、適用される潤滑油の種類、用途等に応じて適宜選定することが望ましい。
例えば、変速機のような動力伝達装置の場合、せん断力が大きいため、Mは、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは10,000以上、特に好ましくは15,000以上である。また、Mは、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは70,000以下、特に好ましくは50,000以下である。
また、エンジン油用のように、せん断力がさほど大きくない場合、Mは、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上、特に好ましくは200,000以上である。また、Mは、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは800,000以下、さらに好ましくは600,000以下、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が2,500未満の場合には粘度指数向上剤の効果が得られないおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0053】
[第2実施形態:潤滑油組成物]
本発明の第2実施形態に係る潤滑油組成物は、潤滑油基油と、上記の第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤と、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、泡消剤及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤と、を含有する。なお、ここでは、第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤についての重複する説明を省略する。
【0054】
本実施形態に係る潤滑油基油としては、第1実施形態の溶媒として述べた基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(8)が特に好ましい。
(8)上記基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
【0055】
また、上記(8)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る潤滑油基油として合成系基油を用いても良い。合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜20mm/sである、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0057】
本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、120以上であることが好ましく、より好ましくは120〜160である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
【0058】
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0059】
本実施形態に係る潤滑油組成物においては、上記本実施形態に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本実施形態に係る潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本実施形態に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本実施形態に係る潤滑油基油の割合は、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが更に好ましい。
【0060】
本実施形態に係る潤滑油組成物において、第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物の全重量を基準として、好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。
【0061】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤に加えて、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、泡消剤及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含有する。
【0062】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、MoDTC、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0063】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩又は塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
【0064】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノ又はビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0065】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0066】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0067】
泡消剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0068】
摩擦調整剤としては、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオフォスフェートなどのコハク酸イミドモリブデン錯体や有機モリブデン酸のアミン塩等の有機モリブデン化合物のほか、基本構造として炭素数8以上30以下の直鎖アルキルと金属に吸着できる極性基を同じ分子内にもつ構造のものが挙げられる。極性基としては、アミンやポリアミン、アミドや、これらを同時に分子内に持つ、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等尿素やアルケニルコハク酸イミドタイプ、エステル、アルコールやジオール、あるいはエステルと水酸基を同時にもつ、例えばモノアルキルグリセリンエステルなどが挙げられる。そのほかアミンと水酸基とを同じ分子内に持つ、たとえばアルキルアミンアフコシキアルコール等など様々である。
【0069】
本実施形態に係る潤滑油組成物が摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、さび止め剤、泡消剤及び摩擦調整剤の1種又は2種以上を含有する場合、それぞれの含有量は、潤滑油組成物の全重量を基準として、0.01〜10重量%であることが好ましい。また、本実施形態に係る潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、好ましくは0.0001〜0.01重量%である。
【0070】
また、本実施形態に係る添加剤組成物は、上記の成分に加えて、第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤、さび止め剤、抗乳化剤、金属不活性化剤等をさらに含有することができる。
【0071】
第1実施形態に係るポリアクリレート系粘度指数向上剤以外の粘度指数向上剤は、具体的には非分散型又は分散型エステル基含有粘度指数向上剤であり、例として非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、非分散型又は分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤及びこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でも非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。特に非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。その他に、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0072】
さび止め剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0073】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0074】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
[実施例1:ポリアクリレート系粘度指数向上剤−1の合成]
【0077】
攪拌装置、窒素の吹き込み管、冷却装置及びモノマーの導入装置が取り付けられた四つ口フラスコを用いて、メタクリル酸メチル(Methyl Methacrylate)40重量部、メタクリル酸ステアリル(Stearyl Methacrylate)60重量部及びトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(Trimethylolpropane Trimethacrylate)0.5重量部のランダム共重合を行い、ポリアクリレート系粘度指数向上剤−1を得た。
溶媒は、ワックス異性化基油(GT70ペール、100℃における動粘度:2.7mm/s、粘度指数:125、流動点:−27.5℃)100重量部を用いた。触媒は、反応開始時に1−ドデカンチオール(1−Dodecanethiol)1.5重量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile))0.5重量部を用い、反応開始から6時間経過時に2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3重量部を追加して、さらに3時間反応を行った。反応温度は85℃とした。
また、反応開始前に反応容器内を完全に窒素に置換し、合成中は3ml/minの窒素を吹き込んだ。さらに、モノマーが容器から蒸発せず、反応容器内で還流するように、冷却装置により反応容器内を冷却した。
また、モノマーの導入速度は、モノマー量の全量が4時間で反応容器内に入るように設定した。
反応終了後、容器の温度を130℃に昇温し、約3mmHgまで減圧し、未反応のモノマーを除去した。
【0078】
[実施例2〜18、比較例1〜4:ポリアクリレート系粘度指数向上剤−2〜22の合成]
表1〜4に示す反応条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリアクリレート系粘度指数向上剤−2〜22を合成した。表1〜4に示した溶媒、触媒(開始剤)及びモノマーの詳細は以下の通りである。
ただし実施例2、18においては、触媒として2−フェニルプロプ−2−イル ジチオベンゾエート(2−phenylprop−2−yl dithiobenzoate)を使用するに際し、モノマーは塩基性アルミナで重合禁止剤を除去して使用した。また反応においては、触媒を溶解させたモノマーを反応容器に最初から全量投入した。
<溶媒>
溶媒1:ワックス異性化基油(100℃における動粘度2.7mm/s、粘度指数:125、流動点:−27.5℃)
溶媒2:水素化分解基油(100℃における動粘度:4.3mm/s、粘度指数123、流動点−17.5℃、水素化分解基油)
<触媒(重合開始剤)>
DM:1−ドデカンチオール(1−Dodecanethiol)
CDTBA:2−フェニルプロパン−2−イル ジチオベンゾエート(2−phenylpropan−2−yl dithiobenzoate、米国特許7666962号公報に記載の方法に準じて調製した。)
ADVN:2,2’−アゾビス(チメチルバレロニトリル)(2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile))
AIBN:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(2,2’−Azobis(isobutyronitrile))
AMBN:2,2’−アゾビス(メチルブチロニトリル)(2,2’−Azobis(2−methylbutyronitrile))
<モノマー>
C1:メタクリル酸メチル(Methyl Methacrylate)
C12:メタクリル酸n−ドデシル(n−Dodecyl Methacrylate)
C18:メタクリル酸ステアリル(Stearyl Methacrylate)
C12−C12:1−ドデカノール(1−Dodecanol)をゲルベ反応させて炭素数24のアルコールとし、当該アルコールから水酸基を除いた残基を式(1)中のRとして導入したメタクリレート
C8−C18:n−オクチルアルコール(n−Octhyl alcohol)とステアリルアルコール(Stearyl alcohol、1−octadecanol)とをゲルベ反応させて炭素数26のアルコールとし、当該アルコールから水酸基を除いた残基を式(1)のRとして導入したメタクリレート
C18−C18:ステアリルアルコールStearyl alcoholをゲルベ反応させて炭素数36のアルコールとし、当該アルコールから水酸基を除いた残基を式(1)中のRとして導入したメタクリレート
TMPMA:トリメチロールプロパン トリメタクリレート(Trimethylolpropane Trimethacrylate)
EGDMA:エチレングリコール ジメタクリレート(Ethylene Glycol Dimethacrylate)
BDDMA:1,3−ブタンジオール ジメタクリレート(1,3−Butanediol Dimethacrylate)
【0079】
実施例1〜18及び比較例1〜3で得られたポリアクリレート系粘度指数向上剤−1〜21の数平均分子量Mn、重量平均分子量MwおよびMw/Mnを表1に示す。なお、比較例4においては、ポリアクリレート系粘度指数向上剤自体が白濁しており、分子量の測定は行わなかった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
[実施例19〜36、比較例4〜7:潤滑油組成物の調製]
実施例19〜36においては、それぞれ実施例1〜18で得られたポリアクリレート系粘度指数向上剤−1〜18並びに以下に示す基油及び添加剤を用いて、表5〜7に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。
<潤滑油基油>
基油3:水素化分解基油(100℃における動粘度:4.1mm/s、粘度指数:120、流動点:−22.5℃)
<添加剤>
添加剤PK:自動変速機用潤滑油添加剤パッケージ、12質量%(摩耗防止剤:アルキル亜リン酸エステル、潤滑油組成物基準リン含有量300ppm、金属系清浄剤:カルシウムスルホネート(塩基価300)、潤滑油組成物基準カルシウム含有量100ppm、無灰分散剤:ホウ素化コハク酸イミド、潤滑油組成物基準3質量%、非ホウ素化コハク酸イミド、潤滑油組成物基準2質量%、酸化防止剤:アルキルジフェニルアミン、潤滑油組成物基準0.5質量%、腐食防止剤:チアジアゾール、潤滑油組成物基準硫黄含有量150〜200ppm、泡消剤:シリコーンオイル、潤滑油組成物基準50ppm、摩擦調整剤:アルキルコハク酸イミド、潤滑油組成物基準2.5質量%、その他)
【0085】
実施例19〜36の潤滑油組成物の40℃又は100℃における動粘度、並びにせん断安定性試験の結果(JASO M 347,超音波照射時間1h)を表5〜7に示す。
【0086】
[比較例5〜8:潤滑油組成物の調製]
比較例5〜8においては、それぞれ比較例1〜4で得られたポリアクリレート系粘度指数向上剤−19〜22並びに上記の基油及び添加剤を用いて、表8に示す組成を有する潤滑油組成物の調製を試みた。しかし、比較例5においては、ポリアクリレート系粘度指数向上剤−19を基油3に溶解させようとしたところ、濁りが発生した。また、比較例6〜8においては、ポリアクリレート系粘度指数向上剤20〜22を基油3に溶解させることができなかった。
【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基である第1のモノマーと、
下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数16以上のアルキル基である第2のモノマーと、
2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーである第3のモノマーと、
を含むモノマー混合物であって、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数6〜15のアルキル基である第4のモノマーの、前記第2のモノマーに対する含有割合が0〜50重量%であるモノマー混合物を、共重合させて得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤。
【化1】

【請求項2】
前記第2のアクリレート系モノマーにおいて、前記一般式(1)中のRが炭素数20以上のアルキル基である、請求項1に記載のポリアクリレート系粘度指数向上剤。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基である第1のモノマーと、
下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数20以上のアルキル基である第2のモノマーと、
2以上のビニル基を有するアクリレート系モノマーである第3のモノマーと、
を含むモノマー混合物であって、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数6〜15のアルキル基である第4のモノマーの、前記第2のモノマーに対する含有割合が0〜200重量%であるモノマー混合物を、共重合させて得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤。
【化2】

【請求項4】
潤滑油基油と、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアクリレート系粘度指数向上剤と、
摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、泡消剤及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤と、
を含有する潤滑油組成物。


【公開番号】特開2012−211265(P2012−211265A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77841(P2011−77841)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】