説明

粘性付与剤および液状食品

【課題】高温域において液状食品に十分なコク味と粘性を付与することができ、しかも、ヌメリを生じさせることのない粘性付与剤とこれを添加してなる液状食品を提供する。
【解決手段】本発明にかかる粘性付与剤は、不溶化率が5〜70重量%で16メッシュJIS標準篩を通過する架橋ゼラチンからなることを特徴とし、本発明にかかる液状食品は前記粘性付与剤を添加してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性付与剤および液状食品に関する。詳しくは、スープなどの液状食品に高温下でコク味や粘性を付与するための粘性付与剤とこれを添加してなる液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スープなどの液状食品に粘性を付与するためにゼラチンを添加することや、増粘多糖類や澱粉などを添加することが知られていたが(例えば、特許文献1、2参照)、ゼラチンは、その特性上、60〜100℃といった高温域では十分な粘性を付与することが難しかったため、高温域での使用を前提とする液状食品の場合には、主として、高温での粘性付与が可能な増粘多糖類や澱粉などが使用されていた。しかし、これら増粘多糖類や澱粉などを添加した液状食品では、粘性とともにコク味が付与されるものの、同時にヌメリも生じさせてしまい、このヌメリが前記コク味、さらには、食感にも影響し、食品として違和感のあるものとなってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−147943号公報
【特許文献2】特開2007−143545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高温域において液状食品に十分なコク味と粘性を付与することができ、しかも、ヌメリを生じさせず、食品として何らの違和感も生じさせることのない粘性付与剤とこれを添加してなる液状食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、不溶化率5〜70重量%の割合で一部不溶化された架橋ゼラチンを用いれば、不溶成分同士の相互作用により物理的なずり応力や摩擦力を生じ、好ましいコク味が得られるとともに、高温でも高い粘性を保持し得るものとなり、また、増粘多糖類や澱粉などのようにヌメリを生じることもないことを見出した。また、架橋ゼラチンの大きさとして、16メッシュJIS標準篩を通過するものを用いれば、この架橋ゼラチンを粘性付与剤として添加した液状食品において、架橋ゼラチンが異物として感じられることもないことを確認して、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明にかかる粘性付与剤は、不溶化率が5〜70重量%で16メッシュJIS標準篩を通過する架橋ゼラチンからなることを特徴とする。
また、本発明にかかる液状食品は、上記粘性付与剤を添加してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粘性付与剤は、高温下でも十分な粘性とコク味を付与することができ、また、ヌメリを生じさせず、食品として何らの違和感も生じさせない。本発明の液状食品は、前記のような粘性、コク味を有し、かつ、ヌメリがなく、食品として違和感がない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明にかかる粘性付与剤および液状食品について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔粘性付与剤〕
本発明の粘性付与剤は以下に説明する特定の架橋ゼラチンからなるものである。
前記架橋ゼラチンは、16メッシュJIS標準篩を通過するものである。48メッシュJIS標準篩を通過するものがより好ましい。16メッシュJIS標準篩を通過しない架橋ゼラチンでは、これを添加してなる液状食品において異物感を生じてしまう場合がある。なお、ゼラチンを架橋処理する際に、膨化などして架橋前よりも大きな粒子を生じる場合や、原料となるゼラチンの粒径がもともと大きい場合などが考えられるが、必要に応じて架橋処理後に、粉砕機や振動篩などを用いて粒度調整するようにしても良い。
【0009】
前記架橋ゼラチンは、また、ゼラチンを架橋することにより不溶化率が5〜70重量%となるように調整されたものである。不溶化率が5重量%未満であると、これを添加してなる液状食品が十分な粘性を有するものとならず、不溶化率が70重量%を超えると、これを添加してなる液状食品において、不溶化が進みすぎた架橋ゼラチン粒子が沈殿を起こしてしまうおそれがある。なお、本発明における架橋ゼラチンの不溶化率の値は、後述の実施例に記載の方法で測定される値とする。
前記架橋ゼラチンの原料となるゼラチンとしては、牛や豚などの哺乳動物の骨、皮部分や、サメやティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する材料から従来公知の方法で得ることができる。アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンのいずれでも良い。
【0010】
前記ゼラチンのゼリー強度も、特に限定されず、例えば、100〜300gのものを用いることができる。
ゼラチンを架橋させるための処理としては、伝導熱や輻射熱などの外部加熱やマイクロ波加熱などの内部加熱により約50〜200℃で加熱硬化させる方法、紫外線照射や遠赤外線照射する方法などの物理的方法と、グルタールアルデヒド、タンニン、明バン、硫酸アルミニウムなどで処理する方法などの化学的方法が採用される。中でも、外部加熱によることが好ましく、140〜200℃で30〜120分加熱することが好ましい。温度が低すぎたり時間が短すぎたりするとゼラチンを十分に架橋させることが困難となり、温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると、架橋しすぎたり焦げや褐変を生じたりするおそれがある。
【0011】
加熱時の水分揮散によるゼラチンの膨化を抑えるため、予めゼラチンを乾燥させる目的で、50〜140℃で30分〜3時間予備加熱しておくこともできる。
〔液状食品〕
本発明の粘性付与剤を添加してなる液状食品は、特に高温域(例えば、60〜100℃)の条件でも十分な粘性を有する。
粘性付与剤の添加量は、食品の種類に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは、液状食品全量に対して0.1〜5重量部である。より好ましくは0.5〜2重量部である。
前記液状食品としては、特に限定されず、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ、味噌汁、清汁、シチュー、カレー、ラーメンその他の麺類のスープなどが挙げられる。特に、即席スープや即席麺などが好適である。
【0012】
前記液状食品には、本発明の粘性付与剤以外に、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限度で、食品の種類に応じて、天然香料、合成香料などの香料類、カラメル色素などの着色料、調味料などの他の材料を併用することができる。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがある。
〔実施例1〕
48メッシュJIS標準篩を通過する牛骨アルカリ処理ゼラチン「SGC」(200g品、新田ゼラチン社製)をコンベクションオーブンを用いて150℃で60分間加熱した後、48メッシュJIS標準篩を通過させた架橋ゼラチンからなる実施例1にかかる粘性付与剤を得た。
【0014】
粘性付与剤としての前記架橋ゼラチン2部と粉末中華スープ(とりがらスープ顆粒、大日本明治製糖社製)2部を80℃以上の熱水96部で分散・溶解することにより実施例1にかかる液状食品を得た。
〔実施例2〜6〕
実施例1において、熱架橋ゼラチンの原料となるゼラチンの種類、および、熱架橋の条件を変更する以外は同様にして、実施例2〜6にかかる粘性付与剤および液状食品を得た。変更内容は表1に示すとおりである。
〔比較例1〜4〕
実施例1において、熱架橋ゼラチンの原料となるゼラチンの種類、および、熱架橋の条件を変更する以外は同様にして、比較例1〜4にかかる粘性付与剤および液状食品を得た。変更内容は表1に併せて示した。
【0015】
〔比較例5〕
100メッシュJIS標準篩を通過する澱粉(商品名「トレコメックス」、王子コーンスターチ社製)を、比較例5にかかる粘性付与剤として、実施例1において粘性付与剤とした熱架橋ゼラチンに代えて、同じ条件で用い、比較例5にかかる液状食品を得た。
〔比較例6〕
実施例1において、架橋ゼラチンを、10メッシュJIS標準篩を通過するが16メッシュJIS標準篩は通過しない架橋ゼラチン(原料ゼラチン:牛骨アルカリ処理ゼラチン「SGC」200g品、新田ゼラチン社製)に変更したこと以外は同様にして、比較例6にかかる粘性付与剤および液状食品を得た。
【0016】
【表1】

【0017】
なお、表1において、熱架橋ゼラチンの原料となるゼラチンは、「♯150」は新田ゼラチン社製の牛骨アルカリ処理ゼラチン(150g品)、「♯100」は新田ゼラチン社製の牛骨アルカリ処理ゼラチン(100g品)、「AP−250Y」は新田ゼラチン社製の豚皮酸処理ゼラチン(250g品)であり、架橋後の架橋ゼラチンは、すべて48メッシュJIS標準篩を通過するものである。
〔評価〕
上記各粘性付与剤について、その不溶化率と、高温水に溶解・分散させたときの粘度を測定・評価した。また、上記各液状食品について、10人のパネラーに試食・評価してもらい、その平均点を算出した。結果を表1に併せて示した。
【0018】
それぞれの測定・評価方法は以下に示すとおりである。
<粘性付与剤の不溶化率>
架橋ゼラチン6gを水300mlに投入し、室温で1時間静置したのち、湯煎により液温90℃で10分間維持する。その後、直ちに、遠心分離機で遠心分離(13000rpm、15分)し、沈降した不溶性物を回収し、ろ紙上に置いて、105℃で12時間以上加熱乾燥して、沈降乾燥物重量を測定する。このようにして測定された不溶性物量と試験前の試料の絶乾重量とから、下式より不溶化率(重量%)を求める。
不溶化率(%)=(不溶性物量(g)/試験前の試料の絶乾重量(g))×100
<粘性付与剤を高温水に分散させたときの粘度>
架橋ゼラチン15gを水285mlに投入し、85℃で15分間加熱した後、重量補正し、60℃におけるB型粘度計を用いて、粘度を測定した。
【0019】
<液状食品の官能評価>
(コク味の官能評価)
200mlガラスビーカーに粘性付与剤2部と粉末中華スープ(とりがらスープ顆粒、大日本明治製糖社製)2部に、80℃以上の熱水96部を添加し分散させ、液温60℃において官能評価を実施した。
コク味は相対評価とし、その基準としては、上記において、粘性付与剤として2%豚骨ゼラチン(商品名「GBL−150」、新田ゼラチン社製)を用いて、ただし、液温30℃において官能評価したときのコク味を5点とし、粉末中華スープ溶液(粘性付与剤を用いない場合)のコク味を0点とした。5点に近いほどコク味に優れ、0点に近いほどコク味が乏しい。
【0020】
(ヌメリの官能評価)
200mlガラスビーカーに粘性付与剤2部と粉末中華スープ(とりがらスープ顆粒、大日本明治製糖社製)2部に、80℃以上の熱水96部を添加し分散させ、液温60℃において官能評価を実施した。
ヌメリは相対評価とし、その基準としては、上記において、粉末中華スープ溶液(粘性付与剤を用いない場合)のコク味を5点とし、また、粘性付与剤として2%澱粉(商品名「トレコメックス」、王子コーンスターチ社製)を用いて、ただし、液温30℃において官能評価したときのヌメリを0点とした。5点に近いほどヌメリがなく優れ、0点に近いほどヌメリがある。
【0021】
(液状食品の総合官能評価)
上記の官能評価を参考にして、コク味とヌメリを中心に、各液状食品の風味と食感を総合的に評価した。最も好ましいものを◎とし、相対的に官能が劣るものを、順に、○、×と評価した。◎、○を合格品、×を不合格品とする。
<考察>
実施例1〜6は、粘度が10mPa・s以上であり、比較例1〜3と比べても分かるように、いずれも、十分な粘性が付与されていることが分かる。また、いずれも、十分なコク味があるとともに、ヌメリはほとんどなく、その結果、いずれも総合官能評価が○以上となっている。
【0022】
比較例1〜3は、不溶化率が低いので、粘度が低く、コク味に乏しく、ヌメリも感じられるものであった。その結果、いずれも総合官能評価が×となっている。
比較例4は、不溶化率が高すぎ、分離を起こしてしまっているために、粘性やコク味が十分に付与されず、その結果、総合官能評価が×となっている。
比較例5は、従来の粘性付与剤の1つである澱粉を用いたものであるが、粘性やコク味はあるものの、同時にヌメリを生じてしまっているために、このヌメリが前記コク味や食感に影響して、食品として違和感を生じ、その結果、総合官能評価が×となっている。
比較例6は、粘性付与剤である架橋ゼラチンの粒径が大きすぎて、粘性やコク味が感じられず、また、液状食品中で異物として感じられ、その結果、総合官能評価が×となっている。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明にかかる粘性付与剤は、例えば、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ、味噌汁、清汁、シチュー、カレー、ラーメンその他の麺類のスープなどの液状食品、特に、即席スープや即席麺などに好適に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶化率が5〜70重量%で16メッシュJIS標準篩を通過する架橋ゼラチンからなる、粘性付与剤。
【請求項2】
前記不溶化率が、ゼラチンを架橋する際の温度および時間を制御することにより調整されてなるものである、請求項1に記載の粘性付与剤。
【請求項3】
5重量%水分散液の60℃におけるB型粘度計により測定される粘度が10mPa・s以上である、請求項1または2に記載の粘性付与剤。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の粘性付与剤を添加してなる、液状食品。


【公開番号】特開2010−227052(P2010−227052A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80164(P2009−80164)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】