説明

粘液または痰の液化のための生成物および処理

過度または異常に粘性または粘着性が高い粘液または痰の粘性および/または粘着性を低下させるか、および/またはそれらの液化を促進させる組成物および方法を開示する。該組成物は、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含むタンパク質またはペプチドを含み、選択的には、さらに還元系を含む。本態様の一局面において、患者は、嚢胞性線維症など、粘液または痰が異常または過度に粘性または粘着性になることが病気の症状または原因となる肺病を患っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、一般的に、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含むタンパク質またはペプチドを、粘液または痰の液化を誘導、促進および/または増加させるために使用することに関係する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
嚢胞性線維症(CF)は、塩素イオンチャネルタンパク質であるCF膜コンダクタンス制御因子をコードする遺伝子の変異によって起きる、珍しくない致死性の遺伝性疾患である。この欠陥の結果、体内の上皮が、塩素イオン輸送に対して不透過になる(Boucher ら,Lung 161:1−17,1983;Welsh,Physiol Rev.67:11443−1184,1987)。すい臓、腸および男性生殖管など、いくつかの器官が冒されるが、肺内における合併症が、罹病率および死亡率の95%を占める(Dodge JA,Brock DJH,and Widdicombe JH.Chichester編 Cystic Fibrosis−Current Topics Volume 1より、 Means,M.Cystic Fibrosis:the first 50 years、Wiley and Sons,1992,p.217−250)。本病によって損なわれた肺では、気道管腔内への塩素輸送によって、Naおよび液体の過剰吸収が起きて、気道表面にある液体の量が減少する(Jiangら、Science 262:424−427,1993)。気道表面にある液体が枯渇すると、粘液のゲル形成成分であるムチン高分子の濃縮が起こる(Matsuiら、Cell 95:1005−1015,1998)。正常な粘液の粘弾性は、ムチン重合体の濃度、分子量およびもつれ具合によって決まる(Verdugoら、Biorheology 20:223−230,1983)。死につつある炎症細胞から放出されるDNA(Potterら、Am J Dis Child 100:493−495,1960;Lethemら、Am Rev Respir Dis 100:493−495,1990;Lethemら、Eur Respir J 3:19−23,1990)およびf−アクチン重合体(Sheilsら、Am J Path 148:919−927,1996;Baum GL,Priel Z,Roth Y,Liron NおよびOstfeld EJ編、Cilia,mucus and mucociliary interactionsより、Tomkiewiczら、DNA and actin filament ultrastructure in cystic fibrosis sputum,New York,NY:Marcel Dekker,1998)とムチンとのさらなる相互作用が、CF痰に密集性と粘性をもたらす。このような粘液を咳や粘膜毛様体クリアランスによって排出することができないため、日和見性の病原体が肺に定住しやすくなる。
【0003】
CF肺疾患の病因は、痰の流動性が変化することにあるといえるが、肺機能に障害があることは、誕生時にはほとんど明らかではない。それどころか、気管支拡張と気道閉塞は患者の年齢とともに進行する。この慢性的な肺損傷は、細菌感染と炎症反応との終わりのない循環によって起こる。気道損傷は、肺に補充された好中球が、エラスターゼなどのマトリックス分解酵素、および有害な活性酸素種を放出したときに起こる(KonstanとBerger,Pediatr Pulmonol 24:137−142,1997において概説されている)。
【0004】
期待が持てそうな進歩がいくらかあるにもかかわらず、遺伝子治療によるCFの矯正は、未だ達成可能ではない。現在でも、膿状の気道分泌物の排出を促す薬物と併用される抗生物質療法が、相変わらず、進行性の気道疾患の主要な治療法となっている。CF患者の気道に存在する細胞外DNAを分解する精製rhDNase(Pulmozyme,Genentech,米国)吸入が、呼吸器の鬱血除去剤として広く使用されている。このような治療は、痰の粘性を低下させ、強制呼気量(FEV)を安定化させるために臨床上有効である(Fuchsら、N Engl J Med 331:637−642,1994)。他の研究的な治療法で、N−アセチルシステイン、ナシステリン(nacystelyn:N−アセチル−L−システインの誘導体)、およびゲルソリンのような、ムチンまたはアクチンのポリマーを分解するための方法も、実験的には痰の粘性を低下させることができたが、まだ、具体的には、CFを治療するための臨床上の認可を米国内で得るには至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、当技術分野においては嚢胞性線維症、および、異常または過度に粘性または粘着性の粘液または痰を伴う他の疾患を治療するために改善された治療法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明の一つの態様は、過度に粘性または粘着性の粘液または痰の出る患者の体内において粘液または痰の液状化を増進させる方法に関係する。本方法は、患者の粘液または痰を、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを含む組成物であって、接触前と比較して粘液または痰の液状化を増進させるのに有効な組成物に接触させるステップを含む。本態様の一局面において、患者は、嚢胞性線維症など、粘液または痰が異常または過度に粘性または粘着性になることが病気の症状または原因となる肺病を患っている。
【0007】
一つの局面において、患者の粘液または痰を組成物と接触させるステップは、経鼻、気管内、気管支、肺内への直接設置、および吸入からなる群より選択された経路によって、組成物を患者に導入して実施される。一つの局面において、接触させる粘液または痰は、患者の呼吸管、胃腸管、または生殖管に存在する。別の局面において、組成物は、薬学的に許容される担体に入れて患者に投与される。好ましくは、患者からの粘液または痰の試料の全量の液相が、組成物を投与すると統計的に有意な増加を示す。
【0008】
本態様の一局面において、蛋白質またはペプチドは、患者の体重1kg当り約1.5ミリモル(mmoles)から約150ミリモルの量で患者に投与される。別の局面において、該蛋白質は、患者の体内で約5分から約24時間という半減期を有する。一つの局面において、チオレドキシン活性部位は、C−X−X−Cというアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にあり、X残基はいずれのアミノ酸残基でもよい。別の局面において、チオレドキシン活性部位は、X−C−X−X−C−Xというアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にあり、X残基はいずれのアミノ酸残基でもよい。別の局面において、チオレドキシン活性部位は、X−C−G−P−C−X(配列番号:2)というアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にあり、X残基はいずれのアミノ酸残基でもよい。さらに別の局面において、チオレドキシン活性部位は、W−C−G−P−C−K(配列番号:3)というアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にある。さらに別の局面において、蛋白質は原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物のチオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンからなる群より選択されるチオレドキシンを含む。好適な局面において、蛋白質はヒトチオレドキシンを含む。
【0009】
本発明の一局面において、組成物は、さらに、蛋白質のチオレドキシン活性部位を還元するためにニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(還元型)(NADPH)を含む。さらなる局面において、組成物はチオレドキシンレダクターゼを含む。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、粘液または痰の液状化に使用するための組成物であって、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含み、さらに、過剰に粘性または粘着性のある粘液または痰を治療するための薬剤を少なくとも一つ含む組成物に関する。一つの局面において、チオレドキシン活性部位は、X−C−X−X−C−Xというアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にあり、X残基はいずれのアミノ酸残基でもよい。別の局面において、チオレドキシン活性部位は、X−C−G−P−C−X(配列番号:2)というアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にあり、X残基はいずれのアミノ酸残基でもよい。さらに別の局面において、チオレドキシン活性部位は、W−C−G−P−C−K(配列番号:3)というアミノ酸配列を含むが、ここで、C残基は還元状態にある。さらに別の局面において、蛋白質は原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物のチオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンからなる群より選択されるチオレドキシンを含む。好適な局面において、蛋白質はヒトチオレドキシンを含む。
【0011】
さらなる局面において、組成物はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(還元型)(NADPH)を含むことができる。さらなる局面において、組成物は、さらにチオレドキシンレダクターゼを含む。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、過剰に粘性または粘着性の粘液または痰が出る患者の体内で粘液または痰の液状化を増進させる方法に関係する。この方法は、患者の気道内にある粘液または痰を、X−C−X−X−C−Xというアミノ酸配列であって、C残基が還元状態にある配列を含む蛋白質を含む組成物と接触させるステップであって、組成物を接触させることによって、患者からの粘液または痰の試料中の液相が、該組成物と接触させる前に比較して増加するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、一般的には、粘液または痰の液状化を誘導、促進および/または増加させるために、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドの使用に関連する。より具体的には、本発明者らは、チオレドキシンが、痰または粘液の粘性および/または粘着性を低下させることができるため、痰または粘液を液状化させるための有効な因子であることを発見した。その結果、天然のチオレドキシン、還元状態にあるチオレドキシンの活性部位を含む蛋白質もしくはペプチド、またはそれらの蛋白質をコードする核酸分子を、単独または組成物にして、望ましくない粘液や粘着力があり粘性の痰を伴う症状または疾患を治療するために使用できるようになった。例えば、嚢胞性線維症などの呼吸器疾患が、特に、本発明に係る産物および方法を用いる治療法を行いやすい。従って、本発明は、還元状態にあるチオレドキシンの活性部位を含む蛋白質を、粘液または痰、特に、異常または過度に粘性および/または粘着性の粘液または痰の液状化を増進するために使用することに関する。この蛋白質は、このような異常または過度の粘液または痰に苦しんでいる、もしくは影響を受けている患者に、粘液または痰の液状化を増進させるような、好ましくは、患者に治療上の効果をもたらすような方法および用量で投与される。
【0014】
チオレドキシン、およびチオレドキシン活性部位を含む蛋白質には、他の還元剤に比べ、嚢胞性線維症などの症状の治療に用いる上での利点がある。例えば、他の還元剤(例えばN−アセチルシステイン、ナシステリン(NAL)、ジチオスレイトール(DTT))とは異なり、チオレドキシンは、その有効(還元)型に繰り返し再還元することができる。また、チオレドキシンの自動酸化(例えばスーパーオキシド、過酸化水素ヒドロキシルラジカル、およびその他の有害酸素代謝物を産生する)は、NAC、NALおよびDTTなど他の還元剤に比べ低量で起きる。さらに、チオレドキシンは、細胞外空間に普通に存在する天然の化合物であるから、気道内にチオレドキシンを導入しても、免疫応答を誘導したり、炎症を起こさせたりすることはない。また、チオレドキシンはグリコシル化されていないので、天然型または組換型の蛋白質を投与しても、自然免疫応答を誘導することはない。おそらくさらに一層顕著なのは、チオレドキシンは、他の還元剤とは対照的に、処理した粘液または痰を液体の状態に維持する点である。例えば、NACおよびDTTは、時間がたつうちに「消耗され」、すなわち酸化されて、その段階で、液状化された痰または粘液は元に戻り、さらに粘性の強い「ゲル」状になる。これに対し、チオレドキシンによって作り出された液状化は、たぶん、その還元系によって繰り返し再還元されるため、何時間も持続する。最後に、チオレドキシンは、他の還元剤よりも強力であるため、他の薬剤よりもかなり低用量で使用しても有益な効果を得ることができる。
【0015】
上記の利点に加え、チオレドキシンには、病気の症状において、その有益性をさらに高める他の利点がある。例えば、チオレドキシンは、病気の痰(例えば嚢胞性線維症の痰)の中にある一定の細菌毒素(例えば、グラム陰性菌の細菌細胞壁から出るエンドトキシン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomoas aerugunosa)のピオシアニン、その他)の毒性を低下させると推定されているMnSOD(例えば、その全体が本明細書において参考文献に組み入れられる、Whiteらに付与された米国特許第5,985,261号を参照)を誘導する。さらに、チオレドキシンは呼吸器の症状の全体的な治療を促進することができる抗炎性を有する。
【0016】
チオレドキシン(Trx)は、数多くのチオール依存的な細胞の還元プロセスを触媒する、蛋白質のジスルフィドレダクターゼである。チオレドキシン(Trx)は、種横断的に高度に保存されている2個の酸化還元活性型システインを含む。それらは、酸化型になると、蛋白質の三次元構造から突き出したジスルフィド架橋を形成する(Holmgren,Annu Rev Biochem 54:237−271,1985)。NADPH依存型チオレドキシンレダクターゼ(TR)によってこの活性中心が還元されると、Trxが、ジチオール/ジスルフィド交換能力をもつ電子運搬体として作用することが可能になる(Oblongら、Biochemistry 32:7271−7277,1993)。蛋白質のジスルフィドは、Trx介在型還元作用にとって好適な基質である。嚢胞性線維症では気道分泌物が難分解性で粘性であるため、気道閉塞、日和見感染症、および肺機能の低下が生じる。呼吸器のムチンが、重合に必須の機能を果たすと考えられているシステインドメインをいくつか含んでいることを認めた(Bellら、Biochem J 357:203−209,2001;Askerら、Biochem J 333:381−387,1998)上で、本発明者は、ムチンのジスルフィドを還元することによって、Trxが効果的な粘液溶解剤として役立つか否かを判定しようとした。
【0017】
本明細書で検討する実験において、本発明者らは、インビトロにおけるCF痰の物理的性質および流動学的性質に対するTrx還元系(チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼ、およびNADPH)の効果を調べた。CF患者から得られた痰をTRX、およびその還元系[0.1μMチオレドキシンレダクターゼ(TR)+2mM NADPH]で処理し、液相対ゲル相の割合(液相の割合)をコンパクションアッセイ法によって測定した。低濃度(1μM)のTrxに曝露したところ、痰の液相の割合が有意に上昇した。液相の割合が最も上昇したのは、30μMのときであった。さらなる測定によって、Trx還元系による痰の液状化は、NADPH濃度に依存することが明らかになった。また、Trx還元系の相対的な有効性についても、他のジスルフィド還元剤と比較した。Trxとは対照的に、グルタチオンおよびN−アセチルシステインは、1mMよりも低い濃度で使用すると、痰を液状化する上で効果がなかった。マイクロレオメーターで測定したところ、3,10または30μMのTrxで20分間処理した後に痰の粘弾性が有意に低下した。同様に、この粘弾性の低下もNADPH濃度に依存していた。さらなる実験によって、Trx処理によって高分子量糖蛋白質の可溶性が増加し、痰の液相内への細胞外DNAの再分布がもたらされることが示された。本明細書に記載した実験は、触媒量Trxとその還元系によるインビトロでの処理によって、膿状のCF痰を液状化し、粘弾性を低下させ得ることを示している。Trx処理した痰の中に存在する高分子量の糖蛋白質の可溶性が高まることは、ムチン高分子が、ムコ多糖分解プロセスにおいてTrxによって還元される基質である可能性を示している。
【0018】
粘液による気道閉塞は、CF患者における重大な病状や死亡の原因となりうる。本発明者は、気道内においてこれらの分泌物が持続するのを助長する粘弾性が、Trxによって顕著に低下することを実証した。この結果は、2つの実験的証拠によって裏付けられている。第一は、コンパクションアッセイの結果、Trxとインキュベートすると、CF痰のゲル基質から大量の液体が放出されることが示されたことである。この放出と同時に固体の体積の減少が起こったことは、痰のゲル構成成分が可溶化したことを示すものである。CF痰のこのような液状化は、CF痰試料をインキュベートしている間に、しばしば、おおまかながら観察することができた。したがって、これは、による破壊といったアーティファクトではない。Trxによる液体の遊離は、気道表面における水容量が回復すると、CF上皮の粘膜繊毛の輸送能力が回復される可能性があるため、重要な治療上の意味を持つと思われる(Jiangら、Science262:424−427,1993)。第二は、磁気マイクロレオメーター測定値は、痰の粘弾性が、Trxにより痰成分が還元される結果次第に低下するという直接の証拠を示している。
【0019】
CF痰は、液体と固体の両方の特徴を示す非ニュートン性の流体である。重合体は、低濃度で液体中に存在するときには自由に回転することができる。重合体が、その回転を妨げられる程度まで濃縮または架橋されると、液体は、浸透閾値(percolation threshold)と呼ばれる遷移相に到達する(Forgacs,J Cell Sci 108:2131−2143,1995)。浸透閾値で、液体は固体の性質を獲得するようになり、架橋重合体間の相互作用(cross−polymer interactions)が加わるにつれて、試料中の各繊維が基質の中に取り込まれるまで弾性率は増加しつづける。生化学的分析によって、呼吸管の内壁細胞によって分泌されるムチンであるMUC5ACおよびMUC5Bが、気道粘液の主要なゲル形成重合体成分であることが明らかにされた(Hovenbergら、Glycoconj J 13:839−847,1996;Thorntonら、Biochem J.316:967−975,1996;Thorntonら、 J Biol Chem 272:9561−9566,1997)。これらムチンに存在するシステインドメインが、ジスルフィド結合形成によって、重合体形成、および、おそらく、隣接するムチン鎖との相互作用に寄与する(Bellら、Biochem J 357:203−209,2001;Askerら、Biochem J 333:381−387,1998)。蛋白質上のジスルフィド結合は、Trxの酵素活性にとって好適な基質であるため、本発明者は、Trxによる痰の液状化の過程において、ムチン重合体が還元の標的であるとの仮説を立てた。この仮説は、Trxで処理した痰における高分子量のグリコフォーム(glycoform)の可溶性の変化を明らかにしたPAS染色によって裏付けられた。Trxに曝露した痰の液相中の糖蛋白質の濃度が高くなっていることが検出されると、さらに、黄色がより濃くなって示され、希釈剤で処理した試料から得た液相に比べて一層不透明になった。Trxに曝露した痰におけるPASで検出可能な糖蛋白質の電気泳動での移動度が促進されることも、これらの高分子が、酵素による還元過程でサイズが減少しうることを示唆している。この電気泳動による解析からの知見は、液相内への糖蛋白質の遊離と、Trxに曝露している間のゲル基質量の減少とが同時に起こることを明らかにしたことによって、コンパクションアッセイの測定結果と一致している。
【0020】
病気のCF肺の気道内において好中球の溶解が起こる結果、気道分泌物の中に細胞外DNAが沈積する(Lethemら、Eur Respir J 3:19−23,1990)。非共有結合的相互作用によって、このDNAは、ムチン糖蛋白質の中でもつれ合うようになり、ムチンのゲル粘弾性を高める(Sachdevら、Chest81:41S−43S,1982)。本明細書に記載する実験において、本発明者は、痰の中にあるDNAが、Trx処理の後次第に可溶性になることを発見した。論理的な説明は、Trx活性によって、DNAと処理の影響を受けた高分子とがもつれ合う関係を解消させるのに十分な構造変化がゲル基質の中で起きるというものである。CF痰をTrxに曝露したときに観察される粘弾性の変化に対し、このDNA可溶性上昇が、どのような相対的寄与をしているのかは明確ではない。それにもかかわらず、臨床的な見地からは、痰の不溶性のゲル相からDNAを除去することは、CFにおけるこのような治療の間、DNase活性に対してDNAをより感受性にすることができるようにする。従って、本発明に係る方法は、CFに対する他の既存の「最新技術」による療法と相乗効果を発揮する可能性が高い。
【0021】
他のチオール還元剤の痰液状化能力と比較した研究において、Trxは、グルタチオン(GSH;還元型グルタチオン)還元系よりも高い有効性を示した。GSHが、たった1個のシステイン残基(モノチオール)しか持たないのに対し、Trxは2個の酸化還元活性型システイン残基(ジチオール)を有するため、CF痰のゲル形成成分の中のジスルフィド結合を還元するのにより有効である可能性がある。非再生型粘液溶解薬(non−recycling mucolytic drugs)については、等モル濃度で比べるとDTTの方がNAC(またはMucomyst(著作権))溶液よりも有効であった(図2および3;データは示されていない)。これらの化合物の効力も、また、酸化還元活性型システイン残基の数によって決まり、DTTには2個あるが、NACには1個しかない。これらのコンパクションアッセイ測定値に基づいて、二重に酸化還元活性型システインをもつ蛋白質、ペプチド、または別の化合物を用いた酵素によるジスルフィド結合の還元が、強力な粘液溶解法となることが期待されている。
【0022】
要約すると、Trxは、液体画分を増加させて、CF痰の粘弾性を低下させる。Trxによって痰を処理する過程で、糖蛋白質の可溶性の上昇が起こるが、このことが、これらの流動性を変化させるメカニズムであるかもしれない。液体の遊離を促進し、気道分泌液の粘性を低下させる粘液還元系を開発すれば、CFに対する治療法となり、また、他の呼吸器症状(例えば、慢性または急性の気管支炎、気管支拡張症、急性気管炎、急性または慢性の副鼻腔炎、粘膜による気道の急性または慢性の堰塞によって起こる肺拡張不全、細気管支炎)を伴うか、または、過剰または異常な粘液の粘性および/または粘着性を伴うか、もしくはそれによって悪化する、さまざまな胃腸または生殖器官の疾患(例えば、粘液の濃縮による急性、亜急性、または慢性の腸閉塞、重要な生殖器構造の閉塞による不妊)を伴う、過剰または異常な粘液の粘性および/または粘着性の治療に対する治療法となる可能性が期待される。Trxは、グリコシル化および翻訳後修飾を受けない天然の蛋白質であり、通常は、細胞外の間隙に低濃度で存在するため、それを長期にわたって投与すると免疫系によって寛容されうる。
【0023】
したがって、本発明の一つの態様は、過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を有する患者の体内で粘液または痰の液状化を上昇させる方法に関する。この方法は、患者の粘液または痰を、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを含む組成物に接触させるステップを含む。この蛋白質は、接触ステップの前に比べて、粘液または痰の液状化を増進するのに効果的である。
【0024】
本発明によれば、「粘液」という用語は、通常、呼吸管、胃腸管および生殖器官など、さまざまな身体の組織にある粘膜によって分泌される、大抵は透明で粘質の液体を意味する。粘液は、それを分泌する組織を湿らせ、滑らかにし、保護する。粘液は、ムチン高分子を含むが、これは粘液のゲル形成成分である。正常なムチンの粘弾性は、ムチン重合体の濃度、分子量、および縺れ具合によって決まる。「痰」という用語は、通常、唾液と、粘液などの気道からの排出物との混合物を意味する。一般的には、痰は、唾液と粘液の吐出物(および、呼吸組織からの他の排出物)である。従って、粘液は、痰の主要な成分であり、そのため、過剰に粘性の粘液が痰に存在すると、それ自体が過剰に粘性の痰になってしまう。「液状化」という用語は、液体になる作用を意味する。したがって、粘液または痰の液状化が増進するとは、粘液または痰の液相または液体状態が、より固いか、または粘性の相に比べて増加することを意味する。
【0025】
体内における粘液および痰の通常の機能は、粘液(および、したがって痰の粘液成分)が粘弾性を有することを必要とする。正常な粘液および痰を有する個体(すなわち、健常な個体、より具体的には、粘液または痰の粘性または粘着性によって生じるか悪化する病徴または症状を患っていない個体)では、粘弾性はムチン重合体の濃度、分子量、および縺れ具合によって決まる(Verdugoら、Biorheology 20;223−230,1983)。粘液中のムチンが、死にかけている炎症細胞から放出されるDNA(Potterら、Am J Dis Child 100:493−495,1960;Lethemら、Am Rev Respir Dis 100:493−495,1990;Lethemら、Eur Respir J 3:19−23,1990)およびf−アクチン重合体(f−action polymer)(Sheilら、Am J Path 148:919−927,1996;Tomkiewiczら、DNA and actin filament ultrastructure in cystic fibrosis sputum,Cilia,mucus,and mucociliary interactionsより、Baum GL,Priel Z,Roth Y,Liron NおよびOstfeld EJ編、New York,NY:Marcel Dekker,1998)と相互作用すると、粘液(および、したがって痰)は、CF痰と同じように濃密で粘性になる。このような粘液は、咳や粘膜毛様体クリアランスによって排出することができないため、日和見性の病原体が肺に定住しやすくなる。したがって、異常または過剰に粘性および/または粘着性の粘液は、正常または健康な患者(好適には、年齢および性別が一致した患者)からの粘液よりも、測定可能または検出可能な程度に粘性または粘着性が強い粘液という特徴、および/または、その粘性および/または粘着性のせいで、患者に不快感や痛みをもたらすか、または、病状または病気を起こさせるか、悪化させる、一つ以上の症状を患者に生じさせるか、それを助長するという特徴を有する。すなわち、異常または過剰に粘性および/または粘着性の痰は、正常な粘液または痰から逸脱したものであって、患者には、その症状の軽減または他の治療上の利益を提供することが望ましい。
【0026】
本発明に係る方法および組成物を用いて、粘液または痰の液状化を増進することが望ましい患者を治療することができる。特に、肺、洞(sinus)、胃腸、または生殖器の病気または症状を有する患者が、本発明に係る方法および組成物を用いた治療による恩恵を受けることができる。本発明は、粘液または痰の異常または過剰な粘性および/または粘着性によって生じるか、悪化する病気または病状の一つ以上の症状を改善または軽減するのに最も役立つが、それには、当然ながら、肺関連疾患である嚢胞性線維症も含まれる。その他の病気も、少なくとも時には、粘液または痰の異常または過剰な粘性および/または粘着性を伴うことがあり、そのような症状が起きたときには、本発明に係る方法を用いて、粘液または痰の液状化を増進させることができ、患者に多少の緩和または治療上の恩恵をもたらすことができる。このような病気の例には、嚢胞性線維症、慢性または急性の気管支炎、気管支拡張症(非CF型およびCF型の気管支拡張症)、急性気管炎(細菌性、ウイルス性、マイコプラズマ性、または別の生物が原因となる)、急性または慢性の副鼻腔炎、急性または慢性の粘膜性気道堰塞(時に、ぜんそくなど、さまざまな疾患で見られる)によって起こる肺拡張不全(肺または肺葉の虚脱)、細気管支炎(ウイルス性など)、CFまたは同様の疾患における胎便性イレウス、またはその同等物など、粘膜の濃縮によって起こる急性、亜急性、または慢性の腸閉塞、頸管、精管、またはその他の重要な生殖構造(など)の閉塞が原因となる不妊などがある。また、本発明に係る組成物および方法は、ウイルス性および細菌性の感染症など、さまざまな呼吸器官の感染症に罹った患者において、粘液または痰の過剰な粘性および/または粘着性を伴う症状を軽減させるのに役立つ可能性がある。
【0027】
したがって、治療上の恩恵とは、必ずしも、特定の病気または病状を治すことではなく、むしろ、好適には、最も典型的には、病気または病状の緩和、病気または病状の除去、病気または病状に関連した症状の軽減または除去、一次的な病気または病状の発生によって起こる二次的な病気または病状(例えば、気道にある過剰に粘性の粘液を利用する日和見病原生物によって引き起こされる感染症)の予防または緩和、および/または、病気または病状の予防、もしくは、その病気または病状を伴う症状の予防などの結果を含む。ここで、「病気から守る」という語句は、病気の症状を軽減させること、緩和療法(治癒をもたらさずに病気の症状を軽減または緩和すること)、病気の発生を低下させること、および/または、病気の重篤度を軽減することを意味する。患者を守るとは、本発明に係る組成物を患者に投与すると、病気の発生が防止され、および/または、その病気または病状の一つ以上の症状、徴候、または原因が治癒または緩和されることを意味することもある。したがって、患者を病気から守るとは、病気の発生を予防すること(予防的治療)、および病気に罹った患者を治療すること(治療的措置)とが含まれる。具体的には、患者を病気から守ることは、有益な効果が得られるように粘液または痰と、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドとを接触させることで、患者の粘液または痰の液状化を増進することによって実行される。有益な効果は、当業者、および/または、患者を治療している熟練した医師によって簡単に評価することができる。「病気」という用語は、患者の正常な健康状態からの逸脱を意味し、症状が存在するときの状態、および逸脱(例えば、感染、遺伝子変異、遺伝的欠陥など)は起きたが、まだ症状が現れていない病状を含む。
【0028】
患者の粘液および/または痰を、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチド(または、そのような蛋白質を含む組成物)に接触させるのは、その組成物と接触させる前に比べて、粘液または痰の液状化を増進させる結果を意図してのことである。本発明によれば、粘液または痰の液状化の増進が、以前の液状化の程度と比較して、粘液または痰の液状化の程度が測定可能または検出可能な増加であることもあり、好適には、統計学的に有意な増加である(すなわち、患者試料と基準対照との間における液状化の測定レベルの違いが、信頼度p<0.05以上で統計的に有意である)。一般的には、「基準対照」とは、治療を行う前の患者の試料である。なぜなら、正常で健康な個体は、通常、対照として用いるのに十分な量の痰を産生することができないからであるが、正常で健康な個体からの痰を基準対照から除外するわけではない。粘液または痰の液状化は、実施例の項で説明されているようなコンパクションアッセイ法など、当技術分野において公知の適当な技術を用いて測定することができる。このようなアッセイ法では、固相(ゲル)対水相(液体)における粘液または痰の量を測定する。本発明の別の局面において、粘液または痰の相対的な粘性または粘着性は、(例えば、磁気マイクロレオメーターによって測定された)粘弾性、糖蛋白質の含有量、またはDNA含有量など、別のパラメーターまたは指標を用いて測定することができる。本発明の一つの局面において、液状化の程度は、水(液)相にある所定の粘液または痰の量として、粘液または痰の試料の全量の百分率として記載される。嚢胞性線維症患者においては、例えば、粘液または痰の液状化程度は、全量の10%よりも低く、さらには、5%よりも低い。好適には、本発明に係る蛋白質または組成物を粘液または痰に接触させると、粘液または痰の液状化に変化が生じ、全量の約15%以上が液相になり、より好適には全量の約20%以上が液相になり、より好適には全量の約25%以上が液相になり、より好適には全量の約30%以上が液相になり、より好適には全量の約35%以上が液相になり、より好適には全量の約40%以上が液相になり、より好適には、全量の約45%以上が液相になり、より好適には全量の約50%以上が液相になり、または、粘液によって生じた機能の遮断または阻害が解消されるに至る(例えば、液状物を吐き出し始めるのに十分なほど、患者の気道がきれいになる)。通常、痰または粘液の液状化は、気道、またはそれ以外の遮断された通路(例えば、胃腸管または生殖管)がきれいになるまで、痰を過剰に液状化することなく、小幅で段階的な増分で増進させるのが好適である。粘液または痰を過剰に液状化することは、患者に有害な場合もあるため(例えば、液状化した痰が逆流して、患者が痰を吐き出す前に、感染している濃度の低い液体で小さな気道を溢れさせる可能性があるため)望ましくない。好適には、本発明に係るタンパク質、ペプチド、または組成物を粘液または痰に接触させると、治療前に比べ、粘液または痰の液状化を容量にして約1%以上増加させ、より好適には、約2%以上というように、1%の増し分で、患者の気道やその他の詰まった通路がきれいになるまで続けてゆく。
【0029】
一つの局面において、本治療は、患者の罹患組織(気道、胃腸管、生殖管など)から薄層化した物質を除去する方法とともに行われる。例えば、呼吸器系の場合には、本発明に係る方法を、体位ドレナージ、強制呼気(huff coughing)、およびその他の呼吸運動、または、これら以外で、液状化した粘液または痰を吐き出すために適した方法とともに用いることができる。
【0030】
本発明によれば、治療すべき患者の粘液または痰を、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質(または該蛋白質を含む組成物)に接触させる。この蛋白質は、粘液または痰の粘性および粘着性を低下させ、および/または、接触前の段階に比べ、痰または粘液の液状化を増進させるのに効果的である。前述したように、チオレドキシンは、ほとんどの生物に存在するジスルフィド還元酵素で、多くのチオール依存型細胞内還元作用に関与する蛋白質である。ヒトにおいて、チオレドキシンは、成人T細胞白血病由来因子(ADF)とも呼ばれる。細胞内においては、この遍在性の低分子量(11,700)蛋白質のほとんどは還元されている。還元型または酸化型のチオレドキシンは、無傷の細胞に進入し、または細胞膜に吸着することができ、そこで、少量が、時間をかけて次第に内部移行してゆく。これは、活性部位に2個の近接するシステイン残基を有し、酸化型蛋白質では、この蛋白質の三次元構造からジスルフィド架橋が突き出している。フラビン蛋白質チオレドキシンレダクターゼは、このジスルフィドのNADPH依存型還元を触媒する。チオレドキシンが僅かに増加すると、蛋白質におけるスルフヒドリル−ジスルフィド酸化還元状態に大きな変化をもたらすことがある。
【0031】
細胞の蛋白質の還元をもたらすことができる以外に、チオレドキシンは、(例えば、活性酸素種をスカベンジすることによって、酸化されうる基質の酸化を防止することにより)抗酸化因子として直接的に作用することができるが、チオレドキシンは、他のチオール類とは異なり、一般的には、自己酸化によって(例えば、自己酸化によりスーパーオキシド・ラジカルを発生させて)細胞内の酸化ストレスに寄与することはない。前掲、Whiteらに付与された米国特許第5,985,261号は、チオレドキシンが、MnSODの産生を直接誘導すること、および、この誘導が、還元状態にあるチオレドキシンによってもたらされることを明らかにした。
【0032】
本発明に係る「チオレドキシン活性部位」は、C−X−X−Cというアミノ酸配列を含む。ここで、「C」と表記されるアミノ酸残基はシステイン残基であり、「X」と表記されるアミノ酸残基は、どのアミノ酸残基でもよいが、具体的には、標準的な20アミノ酸残基のいずれかである。このような本発明に係るチオレドキシン活性部位は、好適には、アミノ酸配列C−G−P−C(配列番号:1)を含む。さらに、チオレドキシン活性部位は、アミノ酸配列X−C−X−X−C−Xを含むことがある。好適には、本発明に係るチオレドキシン活性部位は、アミノ酸配列X−C−G−P−C−X(配列番号:2)を含むが、ここで、「G」と表記されるアミノ酸残基はグリシン残基であり、「P」と表記されるアミノ酸残基はプロリン残基である。より好適には、本発明に係るチオレドキシン活性部位は、アミノ酸配列W−C−G−P−C−K(配列番号:3)を含むが、ここで、「W」と表記されるアミノ酸残基はトリプトファン残基であり、「K」と表記されるアミノ酸残基はリシン残基である。
【0033】
本発明の一局面において、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質は、全長のチオレドキシン蛋白質、またはその断片で、構造的および機能的に上記に記載したとおりのチオレドキシン活性部位を含むものである。好適なチオレドキシン蛋白質は、原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物チオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンなどであるが、特にヒトチオレドキシンが好適である。多様な生物に由来するチオレドキシンの核酸配列およびアミノ酸配列が当技術分野において周知されており、本発明に包含される対象となる。例えば、配列番号:4〜15は、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)(配列番号:4)、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphromonas gingivalis)(配列番号:5)、リステリア・モノシトゲネス(Listeria monocytogenes)(配列番号:6)、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)(配列番号:7)、ニワトリ(Gallus gallus)(配列番号:8)、マウス(Mus musculus)(配列番号:9)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(配列番号:10)、ウシ(Bos taurus)(配列番号:11)、ヒト(Homo sapiens)(配列番号:12)、シロイズナズナ(Arabidopsis thaliana)(配列番号:13)、トウモロコシ(Zea mays)(配列番号:14)、およびイネ(Oryza sativa)(配列番号:15)に由来するチオレドキシンのアミノ酸配列を示している。これらの配列の各々について、X−C−G−P−C−X(配列番号:2)というモチーフ(配列番号:1のCGPCモチーフを含む)は以下のように存在する。配列番号:4(33〜38番目)、配列番号:5(28〜33番目)、配列番号:6(27〜32番目)、配列番号:7(29〜34番目)、配列番号:8(31〜36番目)、配列番号:9(31〜36番目)、配列番号:10(31〜36番目)、配列番号:11(31〜36番目)、配列番号:12(31〜36番目)、配列番号:13(59〜64番目)、配列番号:14(88〜93番目)、および配列番号:15(94〜99番目)。さらに、ヒトおよび細菌のチオレドキシンなど、いくつかのチオレドキシン蛋白質の三次元構造が解明されている。したがって、多数の生物に由来するチオレドキシンの構造および活性部位が、当技術分野において周知されており、当業者は、本発明において使用することができる、全長チオレドキシンの断片またはホモログを容易に同定および製作することができる。
【0034】
「還元状態にある」という語句は、本発明に係る蛋白質またはペプチドの活性部位にあるシステイン残基の状態を具体的に述べている。還元状態にあると、これらシステイン残基はジチオール(すなわち、2個の遊離したスルフヒドリル基、−SH)を形成する。これに対し、酸化型では、これらのシステイン残基は、細胞内でジスルフィド架橋を形成し、このような分子はシスチンと呼ばれる。還元状態では、チオレドキシン活性部位が、その活性部位であるジチオールをジスルフィドに可逆的に酸化することによって酸化還元反応に関与することができ、ジチオール−ジスルフィド交換反応を触媒する。
【0035】
ここで、チオレドキシン活性部位を含む、本発明に係る蛋白質は、チオレドキシン活性部位そのものであっても、グリコシド結合によって別のアミノ酸に結合しているチオレドキシンであってもよい。このように、本発明に係る蛋白質またはペプチドの最小サイズは、約4個から約6個のアミノ酸長であり、好適なサイズは、その蛋白質の全長体、融合体、多価体、または単なる機能的部位のいずれが所望なのかによって異なる。好適には、本発明に係る蛋白質またはペプチドの長さは、約4個から約100個以上のアミノ酸残基まで延び、具体的には、整数(すなわち、4、5、6、7…99、100、101…)である中間的な長さのペプチドが想定されている。さらなる好適な態様において、本発明に係る蛋白質は、全長の蛋白質、またはこの蛋白質のホモログである。ここで、「ホモログ」という用語は、天然の蛋白質またはペプチド(すなわち、「プロトタイプ」または「野生型」の蛋白質)を改変したことによって、天然の蛋白質またはペプチドとは異なるが、天然型の基本的な蛋白質および側鎖の構造を維持しており、および/または、天然の蛋白質の少なくとも生物活性部位(すなわち、チオレドキシン活性部位)の基本的な三次元構造を維持している蛋白質またはペプチドを意味する。このような改変には、1個または数個のアミノ酸側鎖の変化、欠失(例えば、蛋白質またはペプチド(断片)の切断型)、挿入、および/または置換などの1個または数個のアミノ酸の変化、1個または数個の原子の立体配位の変化、および/または、メチル化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン酸化(palmitation)、アミド化、および/または、グリコシルホスファチジルイノシトールの付加など、軽微な誘導体化などがある。本発明によれば、天然のチオレドキシンタンパク質のホモログを含む、本発明において有用な蛋白質またはペプチドは、還元状態で、蛋白質またはペプチドがチオレドキシン活性部位を有するため、その活性部位であるジチオールをジスルフィドに可逆的に酸化することによって、酸化還元反応に関与することができ、ジチオール−ジスルフィド交換反応を触媒することができ、および/または、粘液または痰の粘性または粘着性を低下させるか、粘液または痰の液状化を増進することができる。ここで、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドは、チオレドキシンと同じ特徴をもつことができ、また、好適には、原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物のチオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンからなる群より選択されるチオレドキシンである。特に好適な態様において、この蛋白質はヒトチオレドキシンである。
【0036】
ホモログは、自然対立遺伝子変異または自然突然変異によるものであってもよい。蛋白質をコードする核酸の自然対立遺伝子変異体とは、ゲノムにおいて、このタンパク質をコードする遺伝子と本質的には同じ遺伝子座(または複数の遺伝子座)に存在するが、例えば、突然変異または組換えによって生じた自然変異のために、似てはいるが同一ではない配列を有する遺伝子である。対立遺伝子変異体は、一般的には、比較の対象となる遺伝子によってコードされているタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードしている。対立遺伝子変異体の一つの種類は、同一の蛋白質をコードすることができるが、遺伝子コードの縮退によって、異なった核酸配列を有する。また、対立遺伝子変異体は、遺伝子の5’側または3’側の非翻訳領域(例えば、調節制御領域)に変異を含む。対立遺伝子変異体は、当業者によく知られている。
【0037】
単離された天然の蛋白質の直接改変、蛋白質の直接合成、または、例えば、ランダムもしくは標的された変異作出を行うための古典的DNA技術もしくは組換えDNA技術を用いて、蛋白質をコードする核酸配列を改変するなど、当技術分野において蛋白質を作製するために既知の技術を用いて、ホモログを作製することができる。
【0038】
野生型蛋白質と比較したときのホモログの改変部は、天然の蛋白質と比較したときにホモログの基本的な生物活性に作用または拮抗するか、または実質的な変化を与えないのいずれかである。通常、蛋白質の生物活性または生物作用とは、インビボ(すなわち、蛋白質の自然な生理学的環境において)またはインビトロ(すなわち、実験条件下において)測定または観察したときに、天然型の蛋白質だとされる蛋白質によって示され、行われる機能を意味する。ホモログまたはミメティクス(mimetic)(後述)などへの蛋白質の改変は、天然型の蛋白質と同じ生物活性をもつ蛋白質、または、天然型の蛋白質と比べて低下または上昇した活性を有する蛋白質をもたらす。蛋白質発現の低下、または蛋白質の活性の低下をもたらす改変は、(完全または部分的な)不活性化、下方制御または低下された作用と呼ぶことができる。同様に、蛋白質発現の上昇、または蛋白質の活性の上昇をもたらす改変は、蛋白質の増幅、過剰生産、活性化、促進、上方制御、または増進された作用と呼ぶことができる。
【0039】
一つの態様において、チオレドキシンのペプチドおよび非ペプチドのホモログを含む、チオレドキシン蛋白質のホモログは、薬剤設計または選択の産物であってもよく、当技術分野において既知のさまざまな方法を用いて作製することができる。このようなホモログをミメティクスと呼ぶこともできる。ミメティクスは、天然のペプチドの基本構造を模倣する基本構造を持ち、および/または、天然のペプチドの主要な生物学的性質を有することから、ミメティクスとは、天然のペプチドの生物作用を模倣することができるペプチドまたは非ペプチドの化合物を意味する。ミメティクスには、天然のペプチドと側鎖類似性のないものなど、プロトタイプからの実質的な改変を有するペプチド(このような改変は、例えば、分解に対する感受性を低下させる可能性がある)、抗イディオタイプおよび/または触媒性の抗体、もしくはその断片、単離された蛋白質の非蛋白質部位(例えば、糖質構造)、または、例えば、コンビナトリアル化学法によって同定される核酸および薬剤などの合成または天然の有機分子などを含みうる。このようなミメティクスは、当技術分野において既知のさまざまな方法を用いて、設計、選択、および/または、さもなければ同定することができる。本発明において有用なミメティクス、またはそれ以外の治療化合物を設計または選択するのに役立つ、さまざまな薬剤設計法が、Maulikら、1997、Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies,Wiley−Liss,Inc.に開示されており、ここに、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられる。
【0040】
ミメティクスは、例えば、分子多様性作出法(molecular diversity strategy)(大規模で、化学的に多様な分子ライブラリーを迅速に構築可能にする関連法を組み合わせたもの)から、特に、化学物質またはコンビナトリアルのライブラリー(すなわち、配列または大きさが異なるが、同じような構成単位を有する化合物のライブラリー)、または、合理的、特異的またはランダム薬剤設計によって、得ることができる。例えば、Maulikら、前掲参照。
【0041】
分子多様性作出法では、大きな化合物ライブラリーが、生物学的、酵素的、および/または科学的方法を用いて、例えば、ペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物、および/または有機分子から合成される。分子多様性作出法を開発する上で重要なパラメーターは、サブユニットの多様性、分子の大きさ、およびライブラリーの多様性である。このようなライブラリーをスクリーニングする通常の目標は、コンビナトリアル選択の連続的な適用を利用して、所望の標的に対する高親和性のリガンドを得た後、ランダムまたは特異的な設計法のいずれかによってリード分子を最適化することである。分子多様性作出法は、Maulikら、前記の箇所に詳細に記載されている。
【0042】
Maulikらは、例えば、適当に選択された断片の断片ライブラリーから新規の分子を作出するプロセスを使用者が指示する指定設計法、使用者が、遺伝子アルゴリズムまたはその他のアルゴリズムを用いて、断片とそれらの組み合わせをランダムに変異させつつ、同時に、候補リガンドの適合性を評価するための選択基準を適用するランダム設計法、および、使用者が、三次元レセプター構造と小断片プローブとの間の相互作用エネルギーを計算した後、好ましいプローブ部位を一緒に連結するグリッド基準法(grid−based approach)も開示している。
【0043】
本発明の一つの態様において、本発明で使用するのに適した蛋白質は、チオレドキシン蛋白質の全長配列、またはその断片であって、本明細書に記載されているとおりのチオレドキシン活性部位を有する断片を含むか、本質的にそれからなるか、または、それからなるアミノ酸配列を有する。例えば、配列番号:4〜12のいずれか一つ、またはその断片もしくそのホモログであって、本明細書に記載されているとおりのチオレドキシン活性部位を有するものが、本発明に包含される。このようなホモログは、全長チオレドキシン蛋白質のアミノ酸配列に約10%以上一致するアミノ酸配列を有する、または約20%以上、または約30%以上、または約40%以上、または約50%以上、または約60%以上、または約70%以上、または約80%以上、または約90%以上、または約95%以上全長チオレドキシン蛋白質のアミノ酸配列に一致するアミノ酸配列を有する蛋白質を含むことができるが、このパーセントは、10%から100%の間のすべて整数であれば何パーセントでもよい(10%、11%、12%、…98%、99%、100%)。
【0044】
ここで、特段の記載がない限り、一致率(%)とは、以下を用いて行われた相同性評価を意味する。(1)アミノ酸検索にはblastp、核酸検索にはblastnを用いた、標準的なデフォルトのパラメーターによるBLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索であって、クエリー配列を、デフォルト値による低複雑度領域(low complexity region)についてフィルターをかけた検索(Aetschul,S.F.,Madden,T.L.,Schaaffer,AA.A.,Zhang.,J.Zhang,Z,Miller,W.& Lipman,D.J.(1997)“Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs.”Nucleic Acids Res.25:3389−3402に説明がある。本文献は、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられる)、(2)BLAST 2アラインメント(後述のパラメーターを使用)、(3)および/または、標準的なデフォルトのパラメーターによるPSI−BLAST。(位置特異的)。BLAST 2.0 Basic BLASTとBLAST 2には標準的なパラメーターに幾分かの違いがあるため、2つの具体的な配列が、BLAST 2プログラムを用いたときには有意な相同性ありと識別されても、どちらか一方の配列をクエリー配列としてBLAST 2.0 Basic BLASTで検索を行うと、もう一方の配列が最も一致すると同定されないことがあることが知られている。さらに、PSI−BLASTは、「プロファイル」検索の自動簡易版を提供しており、配列相同性を求めるための感度のよい方法である。プログラムは、まず、ギャップを許す(gapped)BLASTデータベース検索を実行する。PSI−BLASTプログラムは、返ってくる有意なアラインメントからの情報を利用して位置特異的スコアマトリックスを構築し、次回のデータベース検索のクエリー配列を置換する。したがって、当然ながら、これらのプログラムのいずれか一つを用いることによって、一致率を決定することができる。
【0045】
2つの具体的な配列は、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられるTatusovaとMadden,(1999),“Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”,FEMS Microbiol Lett.174:247−250)に記載されているとおりに、BLAST 2配列を用いて互いにアラインメントすることができる。BLAST 2配列アラインメントは、blastpまたはblastnで、BLAST 2.0アルゴリズムを用いて、得られるアラインメントにギャップ(欠失および挿入)を導入することができる、2配列間におけるギャップ許容BLAST検索(BLAST 2.0)を実行して行われる。ここで明確にするために、以下のようにして、標準的なデフォルトのパラメーターを用いてBLAST 2配列アラインメントが行われる。
【0046】
blastnの場合、0 BLOSUM62マトリクスを用いて、
一致したときの報酬スコア=1
不一致のときのペナルティスコア=−2
ギャップ間隔(5)および延長ギャップ(2)ペナルティ
ギャップX_ドロップオフ(50)、期待値(10)単語数(11)フィルター(on)
blastpの場合、0 BLOSUM62マトリクスを用いて、
ギャップ間隔(11)および延長ギャップ(1)ペナルティ
ギャップX_ドロップオフ(50)、期待値(10)単語数(3)フィルター(on)
本発明において有用なタンパク質は、全長チオレドキシン蛋白質の10個以上の連続したアミノ酸残基(例えば、配列番号:4〜12)(すなわち、参照配列の10個連続したアミノ酸に100%一致する10個連続したアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を有する蛋白質も含みうる。別の態様において、チオレドキシン蛋白質のホモログは、天然のチオレドキシン蛋白質のアミノ酸配列の15個以上、または20個以上、または25個以上、または30個以上、または35個以上、または40個以上、または45個以上、または50個以上、または55個以上、または60個以上、または65個以上、または70個以上、または75個以上、または80個以上などの連続したアミノ酸残基を、すべて整数となる(10、11、12、…)介在長も含んで、全長の蛋白質となるまで含む。
【0047】
本発明によれば、本明細書に記載されている配列に関して「連続的な」または「連続した」という用語は、切れ目のない配列として結合していることを意味する。例えば、ある配列が、別の配列の30個連続した(または連続的な)アミノ酸を含むとは、その第一の配列が、第二の配列中の切れ目のない30個のアミノ酸残基の配列に100%一致する、切れ目のない30個のアミノ酸残基の配列を含んでいることを意味する。同様に、ある配列が別の配列に「100%一致する」とは、その第一の配列が、ヌクレオチドやアミノ酸にギャップ0で、第二の配列に正確に一致することを意味する。
【0048】
別の態様において、本発明において有用なタンパク質は、天然のチオレドキシンのアミノ酸配列に十分に類似するアミノ酸配列をもち、ホモログをコードする核酸配列が、中度、高度、または非常に高度なストリンジェンシー条件(後述)下で、天然のチオレドキシン蛋白質をコードする核酸分子(すなわち、天然のチオレドキシンのアミノ酸配列をコードする核酸の相補配列)に(すなわち、に対して)ハイブリダイズすることができる蛋白質を含む。このようなハイブリダイゼーション条件の詳細については後述する。
【0049】
本発明に係るチオレドキシン蛋白質をコードする核酸配列の相補核酸配列とは、チオレドキシンをコードするストランドに相補的な核酸鎖の核酸配列を意味する。所定のアミノ酸配列をコードする二本鎖DNAは、一本鎖DNAと、その一本鎖DNAに相補的な配列を有する相補鎖を含む。そのため、本発明に係る核酸分子は、二本鎖でも一本鎖でもよく、ストリンカージェントなハイブリダイゼーション条件下で、チオレドキシン蛋白質のアミノ酸配列をコードする核酸配列、および/または、そのようなアミノ酸配列をコードする核酸配列の相補鎖と安定したハイブリッドを形成する核酸分子を含む。相補鎖を推定する方法は、当業者にとって既知である。
【0050】
ここで、ハイブリダイゼーション条件と言うときは、類似した核酸分子を同定するために核酸分子が用いられる標準的なハイブリダイゼーション条件を意味する。そのような標準的条件は、例えば、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられるSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Labs Press,1989に開示されている(特に、9.31〜9.62頁参照)。さらに、さまざまな程度のヌクレオチドのミスマッチを許容したハイブリダイゼーションを行うのに適したハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を計算するための式が、例えば、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられるMeinkothら、1984,Anal.Biochem.138:267−284;Meinkothら、同書に開示されている。
【0051】
より具体的には、ここで、中度にストリンジェントなハイブリダイゼーションと洗浄の条件とは、ハイブリダイゼーション反応においてプローブとして用いられる核酸分子に対し約70%以上の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、約30%以下のヌクレオチドミスマッチを許容する条件)を意味する。ここで、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションと洗浄の条件とは、ハイブリダイゼーション反応においてプローブとして用いられる核酸分子に対し約80%以上の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、約20%以下のヌクレオチドミスマッチを許容する条件)を意味する。ここで、非常に高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションと洗浄の条件とは、ハイブリダイゼーション反応においてプローブとして用いられる核酸分子に対し約90%以上の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、約10%以下のヌクレオチドミスマッチを許容する条件)を意味する。上で検討したように、Meinkothら、同書の式を用いて、これら特定の程度のヌクレオチドミスマッチを達成するのに適したハイブリダイゼーションと洗浄の条件を計算することができる。このような条件はさまざまなであり、DNA:RNAハイブリッドまたはDNA:DNAハイブリッドのどちらが形成されるかによって異なる。DNA:DNAハイブリッドのための計算融解温度は、DNA:RNAハイブリッドのそれよりも10℃低い。具体的な態様において、DNA:DNAハイブリッドにとってストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×SSC(0.9M Na)というイオン強度、約20℃から約35℃という温度(より低いストリンジェンシー)、より好適には、約28℃から約40℃という温度(よりストリンジェント)、さらにより好適には、約35℃から約45℃という温度(さらに一層ストリンジェント)で、適当な洗浄条件によるハイブリダイゼーションを含む。具体的な態様において、DNA:RNAハイブリッドにとってストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×SSC(0.9M Na)というイオン強度、約30℃から約45℃という温度、より好適には、約38℃から約50℃という温度、さらにより好適には、約45℃から約55℃という温度で、同様にストリンジェントな洗浄条件によるハイブリダイゼーションを含む。これらの値は、約100ヌクレオチドよりも大きく、ホルムアミド0%、そしてG+C含有率が約40%の分子についての融解温度の計算に基づいている。あるいは、Tは、Sambrookら、前掲、9.31〜9.62頁に示されているような実験によって計算することもできる。通常、洗浄条件は、できるだけストリンジェントであるべきであり、そして、選択したハイブリダイゼーション条件に適合しているべきである。例えば、ハイブリダイゼーション条件は、塩条件と、具体的なハイブリッドの計算上のTよりもおよそ20〜25℃低い温度条件とを組み合わせることを含むことがあり、洗浄条件は、一般的に、ハイブリッドの計算上のTよりも約12〜20℃低い温度条件とを組み合わせることを含む。DNA:DNAハイブリッドで使用するのに適したハイブリダイゼーション条件の一例には、6×SSC(50%ホルムアミド)中、約42℃で2〜24時間ハイブリダイズした後、約2×SSCにおいて室温で一回以上洗浄することを含む洗浄工程を行った後、より高い温度とより低いイオン強度でさらに洗浄すること(例えば、約0.1×〜0.5×SSC中約37℃で一回以上洗浄した後、約0.1×〜0.5×SSC中約68℃で一回以上洗浄すること)を含む。
【0052】
本発明に係る蛋白質は、チオレドキシン活性部位と、さまざまな作用をもつ融合セグメントとを含むセグメントを含む融合蛋白質でもよい。例えば、このような融合セグメントは、得られた融合蛋白質の精製を、アフィニティークロマトグラフィーを用いて可能にするなど、本発明に係る蛋白質の精製を簡単にするためのツールとして機能することができる。適当な融合セグメントは、所望の機能を有する、あらゆるサイズのドメインでもよい(例えば、蛋白質の安定性を強化する、タンパク質の免疫原性を強化する、および/または、蛋白質の精製を簡単にする)。一つ以上の融合セグメントを使用することは、本発明の範囲内にある。融合セグメントを、チオレドキシン活性部位を含むセグメントのアミノ末端および/またはカルボキシ末端に結合させることができる。融合セグメントと、融合蛋白質のチオレドキシン活性部位含有ドメインとの間の結合は、この蛋白質のチオレドキシン活性部位含有ドメインを直接回復できるようにするため、切断されやすくなっていることもある。好適には、融合蛋白質は、チオレドキシン活性部位含有ドメインのカルボキシ末端および/またはアミノ末端に結合した融合セグメントを含む蛋白質をコードする融合核酸分子で形質転換した組換え細胞を培養して産生される。
【0053】
一つの態様において、本発明に係る方法とともに使用するのに適した、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドは、該蛋白質が投与される動物種と実質的に類似する動物種に由来するチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを含む。別の態様において、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドは、微生物および植物など多様な由来原からのものを含み、所定の患者に用いることができる。
【0054】
本発明の一つの態様において、天然のチオレドキシン蛋白質のアミノ酸配列など、本明細書に記載されたアミノ酸配列はいずれも、特定されたアミノ酸配列のC−および/またはN−末端のそれぞれに隣接する、1個以上で約20個までの異種性の付加的アミノ酸とともに産生することができる。その結果得られる蛋白質またはポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列から「本質的になる」と呼ぶことができる。本発明によれば、異種性のアミノ酸とは、自然には、特定されたアミノ酸配列に隣接して存在しない(すなわち、自然、すなわちインビボでは見られない)アミノ酸の配列であるか、または、特定されたアミノ酸配列の機能とは関連しないアミノ酸配列であるか、または、そのアミノ酸配列が由来する生物にとって標準的なコドン使用頻度を用いて翻訳されたならば、遺伝子内に存在するときには、特定されたアミノ酸配列をコードする天然の核酸配列に隣接しているヌクレオチドによってはコードされていないアミノ酸の配列である。同様に、「本質的になる」という語句は、本明細書において核酸配列に関して使用するとき、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列の5’および/または3’末端のそれぞれに付加された、1個以上で、約60個までの異種性のヌクレオチドが隣接していることがある、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を意味する。異種性のヌクレオチドは、特定されたアミノ酸配列をコードする核酸配列が天然の遺伝子中に存在するときには、それに隣接しているのが自然には見られない(すなわち、自然界、インビボでは見られない)か、または、該蛋白質に付加的機能を付与するか、特定されたアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を変化させる蛋白質をコードしていない。
【0055】
別の態様において、本発明に係る方法とともに使用するのに適した、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドは、単離され、または生物学的に純粋な、その天然の環境から取り出してきた蛋白質を含む。したがって、「単離された」および「生物学的に純粋な」は、必ずしも、その蛋白質が精製されている限度を反映しているわけではない。本発明に係る単離蛋白質は、例えば、天然の由来原から得ることができ、組換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅法、クロニーング)を用いて製造することができ、または、化学的に合成することができる。
【0056】
好適には、本発明に係る方法で使用される、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質は、患者の体内で粘液または痰の液状化を測定可能または検出可能な程度増進させる(または、粘性または粘着性を低下させる)のに十分な、および/または、患者の粘液または痰を伴う患者に測定可能、検出可能または感知される治療上の恩恵をもたらすのに十分な半減期をインビボで有する。この半減期は、このような蛋白質の送達方法によってもたらされうる。本発明に係る蛋白質は、好適には、動物において約5分よりも長い半減期を有し、より好適には、動物において約4時間よりも長く、さらにより好適には、動物において約16時間よりも長い。好適な態様において、本発明に係る蛋白質は、動物において約5分から約24時間までの半減期を有し、好適には、動物において約2時間から約16時間までであり、より好適には、動物において約4時間から約12時間までである。
【0057】
本発明のさらなる態様は、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドをコードする核酸分子を含む。そのような核酸分子を用いて、本発明に係る方法においてインビトロまたはインビボで有用な蛋白質を製造することができる。本発明に係る核酸分子は、本明細書で既に説明した蛋白質のいずれかをコードする核酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる核酸分子を含む。本発明によれば、単離された核酸分子とは、その天然の環境から取り出された(すなわち、人間による操作を受けた)核酸分子(ポリヌクレオチド)であって、DNA、RNA、または、cDNAなど、DNAもしくはRNAのいずれかの誘導体を含みうる。したがって、「単離された」とは、核酸分子がどの程度精製されているかを反映するものではない。「核酸分子」という語句は、一次的には、物理的な核酸分子意味し、「核酸配列」という語句は、一次的には、核酸分子上のヌクレオチドの配列を意味するが、この二つの語句は、特に、蛋白質をコードすることができる核酸分子、または核酸配列について互換的に使用することができる。本発明に係る単離された核酸分子は、その天然の由来原から単離し、または、組換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅法、クロニーング)もしくは化学合成法を用いて製造することができる。単離された核酸分子は、例えば、遺伝子、自然対立遺伝子変異体、そのコード領域もしくは一部、および、改変によって、本発明に係る所望の蛋白質をコードするか、もしくは天然の遺伝子を単離したものとストリンジェントな条件下で安定したハイブリッドを形成する核酸分子の能力を実質的に阻害することがないようにヌクレオチド挿入、欠失、置換および、または逆位により改変されたコード領域および/または調節領域を含みうる。単離された核酸分子は縮退を含みうる。ここで、ヌクレオチドの縮退とは、一つのアミノ酸が、異なったヌクレオチドコドンによってコードされうるという現象を意味する。したがって、本発明において有用な所定の蛋白質をコードする核酸分子の核酸配列は、縮退によって変化しうる。
【0058】
本発明によれば、遺伝子というとき、該遺伝子によってコードされる蛋白質の産生を調節する制御領域(転写、翻訳、または翻訳後の調節領域)、およびコード領域そのものなど、天然(すなわち野生型)の遺伝子に関係するすべての核酸配列を含む。別の態様において、遺伝子は、所定の蛋白質をコードする核酸配列に類似するが同一ではない配列を含む、天然の対立遺伝子変異体でもよい。対立遺伝子変異体は、既に上記で説明されている。「核酸分子」および「遺伝子」という語句は、核酸分子が、上記のような遺伝子を含むときには、互換的に使用することができる。
【0059】
好適には、本発明に係る単離された核酸分子は、組換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅法、クロニーング)を用いて製造することができ、または、化学的に合成することができる。単離された核酸分子は、天然の核酸分子、ならびに、そのホモログであって、天然の対立遺伝子変異体、および改変によって、蛋白質の生物活性に対し所望の効果が提供されるよう、ヌクレオチドが挿入、欠失、置換、および/または逆位されている改変核酸分子などを含むホモログを含む。対立遺伝子変異体および蛋白質ホモログ(例えば、核酸ホモログによってコードされる蛋白質)については、詳細に上述されている。
【0060】
核酸分子ホモログは、当業者に既知のいくつかの方法を用いて作製することができる(例えば、Sambrookら参照)。例えば、古典的な変異誘発法および組換えDNA技術(例えば、部位特異的変異誘発法、化学的処理、制限酵素切断法、核酸分子断片のライゲーション、および/またはPCR増幅法)による技術、または、オリゴヌクレオチド混合物の合成、混合物グループをライゲーションして、核酸分子の混合物、およびそれらを組み合わせたものを「構築」する技術など、さまざまな技術を用いて核酸分子を改変することができる。所定の蛋白質をコードする組換え核酸分子を改変するための別法は遺伝子シャッフリング法(すなわち分子育種(molecular breeding)である(例えば、Stemmerに付与された米国特許第5,605,793号;MinshullおよびStemmer,1999,Curr.Opin.Chem.Biol.3:284−290;Stemmer,1994,P.N.A.S.USA,91:10747−10751参照。これらの文献は、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられる)。この技術を用いて、蛋白質に複数の変化を同時に効果的に導入することができる。所定の遺伝子とのハイブリダイゼーションによって、または、核酸分子によってコードされる蛋白質の機能(すなわち生物活性)をスクリーニングすることによって、核酸分子のホモログを選択することができる。
【0061】
本発明の一つの態様は、一つ以上の転写調節配列に機能的に連結されている上記の単離された核酸分子を含む組換え核酸分子に関する。より具体的には、本発明によれば、組換え核酸分子は、本明細書に記載するような組換えベクターおよび単離核酸分子を一般的に含む。本発明によれば、組換えベクターは、選抜された核酸配列を操作し、および/または、その核酸配列を宿主細胞に導入するためのツールとして用いられる改造された(すなわち、人為的に作製された)核酸分子である。したがって、組換えベクターは、選抜された核酸配列を宿主細胞の中で発現および/または組換え細胞を形成させるために送達するなどして、選抜した核酸配列をクロニーング、シークエンシング、および/またはその他の操作を行うときに使用するのに適している。このようなベクターは、典型的には、異種性の核酸配列、すなわち、自然には、クロニーングされるか送達される核酸配列に隣接しているとは認められない核酸配列を含むが、このベクターは、自然界で、本発明に係る核酸配列に隣接していることが分かっているか、または、本発明に係る核酸分子を発現させるのに有用な調節核酸配列(例えば、プロモーター、非翻訳領域)を含むこともできる(詳細は後述)。ベクターは、RNAまたはDNA、原核生物または真核生物のいずれでもよいが、典型的にはプラスミドである。ベクターは、染色体外因子(例えばプラスミド)として維持するか、または、組換え宿主細胞の染色体の中に組み込むことができるが、ベクターが、ゲノムから離れたままになっていれば、本発明を適用する場面のほとんどにとって好適である。ベクターの全体を、宿主細胞の中の適当な場所で維持するか、一定の条件下では、本発明に係る核酸分子を残して、プラスミドDNAは除去することもできる。組み込まれた核酸分子は、染色体のプロモーターによる調節下、天然もしくはプラスミドのプロモーターによる調節下、またはいくつかのプロモーターを組み合わせたものの調節下に置くことができる。核酸分子の一個または複数個のコピーを染色体の中に組み込むことができる。本発明に係る組換えベクターは、少なくとも1個の選抜マーカーを含むことができる。
【0062】
一つの態様において、本発明に係る組換え核酸分子で使用される組換えベクターは発現ベクターである。ここで、「発現ベクター」という語句は、コードされている産物(例えば、目的とする蛋白質)を産生させるのに適したベクターを意味するために使用される。この態様において、産生すべき産物(例えばチオレドキシン活性部位を含む蛋白質)をコードする核酸配列を組換えベクターに挿入して、組換え核酸分子を作製する。ベクター内で核酸配列が調節配列に機能的に連結されて、組換え宿主細胞内での核酸配列の転写および翻訳が可能になるように、産生すべき蛋白質をコードする核酸配列をベクターの中に組み込む。
【0063】
本発明の別の態様において、組換え核酸分子はウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、ウイルスゲノムまたはその一部の中に組み込まれた本発明に係る単離核酸分子を含むが、その中で、核酸分子は、細胞の中にDNAが進入できるよう、ウイルス外被にパッケージされている。アルファウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスなどを利用したものなど、いくつかのウイルスベクターを使用することができる。
【0064】
一般的には、組換え核酸分子は、一個以上の発現調節配列に機能的に連結した本発明に係る核酸分子を少なくとも一個含む。ここで、「組換え分子」または「組換え核酸分子」という語句は、一次的には、発現調節配列に機能的に連結された核酸分子または核酸配列を意味するが、核酸分子が、本明細書で検討されているような組換え分子であるときは、「核酸分子」という語句と互換的に使用することもできる。本発明によれば、「機能的に連結された」という語句は、宿主細胞中にトランスフェクトされた(すなわち、形質転換、形質導入、トランスフェクト、接合、または形質伝導(conduced)された)ときに分子が発現されうるように、核酸分子を発現調節配列に連結することを意味する。転写調節配列は、転写の開始、伸長、または終結を調節する発現調節配列である。特に重要な転写調節配列は、プロモーター配列、エンハンサー配列、オペレーター配列、およびリプレッサー配列など、転写開始を調節する配列である。適当な転写調節配列には、組換え核酸分子が導入される宿主細胞または生物の中で機能することができる転写調節配列が含まれる。また、本発明に係る組換え核酸分子は、さらに、翻訳調節配列、複製開始点、およびその他の調節配列であって、組換え細胞に適合するものなど、付加的な調節配列を含むこともできる。一つの態様において、宿主細胞の染色体に組み込まれている分子など、本発明に係る組換え分子は、発現された蛋白質が、蛋白質を産生する細胞から分泌されるようにする分泌シグナル(すなわち、シグナルセグメント核酸配列)も含む。適当なシグナルセグメントには、発現される蛋白質と自然界で結合しているシグナルセグメント、または、本発明に係る蛋白質の分泌を指令することができる異種性シグナルセグメントなどがある。別の態様において、本発明に係る組換え分子は、発現された蛋白質を宿主細胞の膜まで輸送して挿入することができるリーダー配列を含む。適当なリーダー配列には、その蛋白質と自然界で結合しているリーダー配列、または、蛋白質を宿主細胞の膜まで輸送して挿入することを指令できる異種性リーダー配列などがある。
【0065】
本発明によれば、「トランスフェクション」という用語は、外来性核酸分子(すなわち組換え核酸分子)を細胞内に挿入しうる方法を意味するために使用される。「形質転換」という用語は、この語が、微生物細胞または植物の中に核酸分子を導入するという意味で使用される場合には、「トランスフェクション」という用語と互換的に使用することができる。微生物系においては、「形質転換」という用語を使用して、微生物による外来核酸の獲得によって生じる遺伝的変化を表現するが、本質的に、「トランスフェクション」という用語と同義である。しかし、動物細胞では、例えば、癌化した後の培養状態における細胞の増殖性の変化(上記)を意味するという第二の意味を得ている。したがって、混乱を避けるため、動物細胞への外来性核酸の導入については、好適には、「トランスフェクション」という用語を使用し、本明細書において、外来性核酸を細胞に導入する場合に関しては、この用語が、動物細胞のトランスフェクション、および植物細胞と微生物細胞の形質転換を一般的に包含するものとして使用される。したがって、トランスフェクション技術には、形質転換、粒子衝撃(particle bombardment)、電子穿孔、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染、およびプロトプラスト融合などがある。
【0066】
本発明に係る組換え分子を一個以上用いて、本発明に係るコードされた産物(例えば、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質)を生産することができる。一つの態様において、コードされた産物は、蛋白質を産生するのに効果的な条件下で、本明細書に記載されている核酸分子を発現させることによって生産することができる。コードされた蛋白質を生産するために好適な方法は、一個以上の組換え分子で宿主細胞をトランスフェクトして、組換え細胞を形成させる方法である。
【0067】
好適な態様において、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを、組成物で処理すべき粘液または痰に接触させる。この組成物は、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質を含み、また、過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を減少させるか、そのような粘液または痰の液状化を増進させるために使用することができる別の化合物など、一種類以上の付加的な化合物を含むこともできる。一つの態様において、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドをコードする核酸分子を、治療すべき患者の細胞(例えば、肺または気道中の上皮細胞)に送達するために組成物を使用して、細胞がトランスフェクトされて、蛋白質を発現できるようになり、また、蛋白質が、細胞の微小環境内で粘液または痰に接触できるようにさせることができる。
【0068】
また、組成物は、例えば、蛋白質または核酸分子またはその他の調節用化合物を患者に送達するための薬学的に許容される賦形剤および/または輸送用媒体など、薬学的に許容される担体を含むこともできる。ここで、薬学的に許容される担体とは、本発明に係る方法において有用な治療用蛋白質、核酸、または、その他の化合物を、適当なインビボまたはエクスビボ部位に送達するのに適した物質を意味する。好適な薬学的に許容される担体は、蛋白質、核酸分子、または化合物が所望の部位(例えば、処理すべき粘液または痰が分泌または排出されている部位)に到達したとき、粘液または痰に接触することができる形状(蛋白質または化合物の場合)、または、細胞の中に進入して、細胞によって発現され、発現された蛋白質が粘液または痰に接触しうる形状(核酸分子の場合)に蛋白質、核酸分子、または化合物を維持することができる。本発明に係る適当な賦形剤には、治療剤(蛋白質、核酸、または化合物)を細胞、組織、または液状物(粘液または痰)に輸送するか、輸送を助けるが、特異的に標的しない賦形剤または処方薬(ここでは、非標的担体とも呼ばれる)などがある。薬学的に許容される賦形剤の例には、水、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンクス液、その他の生理学的平衡水溶液、油類、エステル、およびグリコール類などがある。水性担体は、例えば、科学的安定性および等張性を促進することによって、レシピエントの生理学的状態に近づけるために必要とされる適当な補助物質を含むことができる。
【0069】
適当な補助物質には、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、および重炭酸緩衝液を作製するのに使用される他の物質などがある。また、補助物質は、チメロサール、m−またはo−クレゾール、ホルマリン、およびベンゾールアルコールなどの保存剤を含むことができる。本発明に係る組成物は、常法を用いて滅菌、および/または凍結乾燥することができる。
【0070】
薬学的に許容される担体の一つのタイプは、本発明に係る組成物を患者の体内にゆっくりと放出することができる放出制御型処方薬を含む。ここで、放出制御型処方薬は、一種類以上の本発明に係る治療剤を放出制御用媒体の中に含む。適当な放出制御用媒体には、生体適合性ポリマー、その他のポリマー基質、カプセル、マイクロカプセル、微粒子、ボーラス調製剤、浸透圧ポンプ、拡散装置、リポソーム、リポスフィア(liposphere)、および経皮送達系などがある。核酸の適当な送達媒体には、リポソーム、ウイルスベクター、または、リボザイムなど、その他の送達媒体がある。
【0071】
リポソーム送達媒体は、蛋白質、化合物、または核酸分子を、患者の適当な細胞および/または組織に送達することができる脂質化合物を含む。リポソーム送達媒体は、細胞の中に組成物を送達するために、細胞の原形質膜に融合することができる脂質組成物を含むことができる。リポソーム送達媒体は、好適には、患者の体内の好適な部位に組成物を送達するのに十分な時間、患者の体内で安定に維持できる。本発明で使用するのに適したリポソームは、あらゆるリポソームを含む。
【0072】
チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを患者に投与するのに適当または有効な量とは以下のことができる量である。活性部位のジチオールをジスルフィドに可逆的に酸化することによって酸化還元反応に関与すること、ジチオール−ジスルフィド交換反応を触媒すること、ならびに、具体的には、患者の体内で粘液または痰の粘性または粘着性を低下させること、および/または粘液または痰の液状化を増進すること、ならびに、より具体的には、患者に治療による恩恵を提供できるほど、患者の体内で粘液または痰の液状化を増進すること。粘性または粘着性の低下、または粘液または痰の液状化の増進は、本明細書において既に記載されているように、または、当業者に既知の適当な方法によって測定、検出、または判定することができる。
【0073】
一つの態様において、患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドの好適な量は、患者の体重1kgあたり約0.1マイクロモルから約150マイクロモルまでである。別の態様において、患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドの好適な量は、患者の体重1kgあたり約1.5マイクロモルから約150マイクロモルまでである。患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドのより好適な量は、患者の体重1kgあたり約2マイクロモルから約25マイクロモルまでである。患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドのさらにより好適な量は、患者の体重1kgあたり約3マイクロモルから約10マイクロモルまでである。
【0074】
別の態様において、送達経路がエアロゾルまたは同様の経路である場合には、患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドの好適な量は、投薬単位(例えば、ヒトへの投薬単位は、一般的に約2〜3ml)あたり約0.25mg以上、および投薬単位あたり約25mgを含む。好適には、患者に投与されるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチド量は、投薬単位あたり約0.25mg以上、また、より好適には、投薬単位あたり約0.3mg以上、また、より好適には、投薬単位あたり約0.35mg以上というように、0.05mgの増し分で、投薬単位あたり約25mg以上までを含む。エアロゾル送達では、一般的に、エアロゾルの約10%の容量しか、実際には気道に送達されない。したがって、他の投薬経路で、その部位に送達される組成物の容量がこれよりも多い場合には、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドの用量を減らしたものを使用できることが簡単に理解できよう。
【0075】
動物に投与される本発明に係る蛋白質の最適量は、投与経路によって変化する。例えば、蛋白質を吸入経路(エアロゾル)によって投与する場合、最適投与量は、気管内注射で投与するときの最適量とは異なる。このように投与経路に応じて、量を変化させることは当業者にとって可能である。本発明に係る蛋白質の適当量とは、動物にとって有毒でなく、所望の機能を発揮する量であるということに留意することが重要である。
【0076】
本願発明の好適な態様において、チオレドキシン反応部位を含む蛋白質を含む本発明に係る組成物は、蛋白質のチオレドキシン活性部位を還元状態に維持または還元する還元系を含む一種類以上の薬剤とともにさらに調剤される。好適には、このような薬剤には、ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸(還元型)(NADPH)、および/またはチオレドキシンレダクターゼなどがあるが、NADPHとの調剤が特に好適である。本発明者は、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドとともに還元系が存在すると、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質が、本発明に係る方法において機能する能力が高まること(例えば、粘液または痰の液状化を増進すること)を発見した。さらに、本発明者は、還元系としては、NADPHを含めば十分であり、そのため、この還元系にチオレドキシンレダクターゼは必要ではないが、所望の場合には含むこともできるということを発見した。本発明において他の還元系を用いることもでき、NADH−依存型チオレドキシンレダクターゼ、リポ酸、および他の生物レダクターゼなどが含まれる。一般的には、本発明者は、還元当量の由来原である、たぶんNADPHまたはNADHが、最適な治療効果を得るための、本発明に係る組成物の重要な成分であると考える。しかし、還元当量を(NADPHまたはNADHからのH)、チオレドキシンまたはチオレドキシン活性部位を含む分子に移行させる仲介機能に役立つ付加的成分も使用することができる。
【0077】
NADPHが本発明に係る組成物に含まれるときには、NADPHの表面濃度が約0.5μMから約20mMになるよう調剤するのが好適であり、より好適には、NADPHの表面濃度が約5μMから約2mMになるよう調剤し、さらにより好適には、NADPHの表面濃度が約50μMから約200μMになるよう調剤する。別の態様において、組成物は、適当量のNADPH、好適には、NADPHの表面濃度が約0.5μMから約20mMになるよう、0.1μMの増し分(すなわち、0.5μM、0.6μM、…19.9μM、20μM)で調剤することができる。「なった表面濃度」とは、NADPHなど、具体的な化学物質の濃度であって、細胞または組織の表面、例えば、肺上皮内壁の表面において達成または存在する濃度のことである。したがって、所定の表面濃度にならせるためには、実際には、具体的な化学物質をより高い濃度で投与する必要があろう。当業者は、このような濃度を適宜決定しえる。チオレドキシンレダクターゼを本発明に係る組成物に含むとき、チオレドキシンレダクターゼの表面濃度が、約0.001μMから約1μMまでになるよう調剤するのが好適であり、より好適には、チオレドキシンレダクターゼの表面濃度が約0.001μMから約0.1μMまでになるよう、0.001μMずつの増し分で約0.0001μMから約1μMまでの量を含む量に調剤する。一つの態様において、本発明に係る組成物にチオレドキシンレダクターゼを含ませることが必要である。このような量のチオレドキシンレダクターゼおよび/またはNADPHを、当業者が、チオレドキシン活性部位の還元状態を維持または促進するために、このチオレドキシン活性部位または送達方式を含む蛋白質またはペプチドの量が指示するように修飾することは、本発明の範囲内である。
【0078】
上記検討したように、本発明に係る組成物は、過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を減少させるか、そのような粘液または痰の液状化を増進させるために使用することができる他の化合物など、一種類以上の付加的化合物を含むことができる。このような化合物の例は、当技術分野において既知であり、精製されたrhDNase、N−アセチルシステイン、ナシステリン(N−アセチル−L−システインの誘導体)、およびゲルソリンなどがある。
【0079】
上記検討したように、本発明に係る組成物は、該組成物、特に、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドをコードする核酸配列を含む組換え核酸分子、および/または該組成物に含まれる他の化合物を標的部位(例えば、蛋白質および化合物については、処理すべき粘液または痰、組換え核酸分子については、処理すべき粘液または痰という環境に入れられる、またはその中に存在する標的宿主細胞)に送達するのに効果的な方法で患者に投与される。適当な投薬プロトコールには、インビボまたはエクスビボでの投薬プロトコールが含まれる。
【0080】
本発明によれば、効果的な投薬プロトコール(すなわち、本発明に係る組成物を効果的な方法で投与すること)は、組成物に含まれる、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質および/または他の化合物を、処理すべき粘液または痰に接触させるのに適当な、または、患者の所望の宿主細胞において、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質をコードする組換え核酸分子のトランスフェクションまたは発現をもたらすのに適当な投薬量パラメーターおよび投薬方式を含み、その結果、好適には、このような投与から、患者は、測定可能、観察可能または感受できる恩恵を得る。状況によっては、患者から粘液または痰をサンプリングして、本明細書で論じた、粘液または痰の粘性または液状化を評価する方法を用いて、効果的な投薬量パラメーターを決定することができる。あるいは、インビトロの試料、インビボの動物モデル、および、患者がヒトであるときは、最終的には臨床試験を用いた実験によって効果的な投薬量パラメーターを決定することができる。具体的な病気または症状に対して、当技術分野で標準的な方法を用いて投薬量パラメーターを決定することができる。このような方法は、例えば、生存率、副作用(すなわち毒性)、および病気の進行および退行を測定することが含まれる。
【0081】
本発明によれば、本発明に係る組成物を患者に投与するのに適した方法には、組成物を、患者の体内の所望の部位に送達するのに適したインビボ投与経路が含まれる。好適な投与経路は当業者にとって明らかであるが、化合物が蛋白質、核酸、または他の化合物(例えば薬物)のいずれであるかに応じて、身体のどの部位に組成物を投与するかによって、また、患者が患っている病気や症状に応じて異なる。通常、インビボ投与法には、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、冠動脈内投与、動脈内投与(例えば、頸動脈内)、皮下投与、経皮送達、気管内投与、皮下投与、関節内投与、脳室内投与、吸入(例えばエアロゾル)、脳内、経鼻、経口、肺投与、カテーテルの注入、および組織への直接注射などがある。経耳到達には、点耳薬などが含まれ、鼻腔内送達には、点鼻薬または鼻腔内注射などがあり、また、眼内送達には、点眼薬などがある。エアロゾルの(吸入)送達は、当技術分野で標準的な方法を用いて行うこともできる(例えば、その全文が参考文献として本明細書に組み入れられるStriblingら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 189:11277−11281,1992を参照)。経口送達は、例えば、錠剤またはカプセルとして、また、食品および飲料に処方されているものなど、口から取り込むことができる固体および液体などがある。粘膜組織にとって有用な他の投与経路には、気管支、皮内、筋肉内、鼻腔内、他の吸入経路、直腸、皮下、局所、経皮、膣、経頸管、頸管周囲(pericervical)および尿道などの経路が含まれる。さらに、投薬プロトコールは、不妊などへの適用に使用するために、ペッサリーに入れた蛋白質、ペプチド、または組成物を(例えば、頸管への)適用するなど、前治療用装置を含むこともある。本発明の好適な態様において、本発明に係る蛋白質または組成物を、呼吸管(気道)内にある過剰または異常に粘性または粘着性の痰または粘液を処理するために投与する場合には、チオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチド(または組成物)、またはその他の化合物は、吸入(すなわち、例えば、界面活性剤の中の、またはそれとともにエアロゾルを吸入する)、気管支鏡、気管内チューブおよび/または人工的な換気装置による肺内への直接設置、鼻への投与(鼻腔内または経鼻)、気管支、または気管内(すなわち、気管の中に直接注射するか、気管開口)、直接的、もしくは脂質カプセル化または界面活性剤のいずれかによるなどの経路によって投与される。組成物または蛋白質を気道に導入して、そこに存在する粘液または痰に接触できるようにする方法で考えられるものが、本発明に包含される。
【0082】
本明細書に開示されているさまざまな投与方法および送達媒体が、標的細胞に核酸分子を送達し、核酸分子が細胞をトランスフェクションして発現されるのに効果的であることが分かっている。多くの研究で、好適な細胞型において、および/または、好適な送達媒体、および本発明に係る投与方法を用いて、異種性遺伝子の送達と発現に成功している。
【0083】
例えば、リポソーム送達法を用いて、1998年1月6日にDowらに発行された米国特許第5,705,151号は、カチオン性リポソーム送達媒体に入れたスーパー抗原をコードする核酸およびサイトカインをコードする核酸分子を、インビボで静脈内送達して、動物の組織の中、具体的には、肺組織において、コードされた蛋白質を発現させることに成功したことを明らかにした。さらに、Liuら、Nature Biotechnology 15:167,1997は、遺伝子を含むコレステロール含有カチオン性リポソームの静脈内送達が、選択的に肺組織を標的として、該遺伝子のインビボで移動および発現を効果的にもたらすことを明らかにした。Dzauとその共同研究者らによるいくつかの刊行物は、裸のDNAおよびセンダイウイルス−リポソーム送達法を用いて、心膜内でのインキュベーションおよび冠動脈への注入(冠動脈内送達)の両方による投与によって、心臓の筋細胞および線維芽細胞、および血管平滑筋細胞などの心臓の細胞への遺伝子のインビボ送達と発現に成功したことを明らかにしている(例えば、Aokiら、1997、J.Mol.Cell Cardiol.29:949−959;Kanedaら、1997,Ann N.Y.Acad.Sci.811:299−308;およびvon der Leyenら、1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1137−1141参照)。
【0084】
数多くの核酸配列の送達が、その核酸配列をコードするウイルスベクターを投与して行われてきた。このようなベクターを用い、エクスビボ送達(多くの実例のうち、レトロウイルスについて、Blaeseら、1995、Science 270:475−480;Bordignonら、1995、Science 270:470−475参照)、鼻への投与(CFTR−アデノウイルス随伴ベクター)、冠動脈内投与(アデノウイルスベクターおよびセンダイウイルス、上記参照)、静脈内投与(アデノ随伴ウイルスベクター、Koeberlら、1997、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1426−1431)を用いて、送達および発現に成功している。Mauriceらによる刊行物(1999、J.Clin.Invest.104:21−29)は、冠状動脈内送達によって投与されたβ2−アドレナリン作用性レセプターをコードするアデノウイルスベクターが、インビボでの複数の心室における心筋での広範な発現(diffuse multichamber myocardial expression)をもたらし、その後、血行力学的作用の有意な増進およびその他の生理学的パラメーターの改善がもたらされたことを明らかにした。Levineらは、アデノウイルスベクター、および脂肪組織の中へのコンストラクトの直接注射法を用いた、ヒト脂肪細胞およびウサギ脂肪細胞へのインビトロ、エクスビボ、およびインビボにおける遺伝子の送達および発現について記載している(Levineら、1998,J.Nutr.Sci.Vitaminol.44:569−572)。
【0085】
神経細胞における遺伝子送達領域では、インビボにおける遺伝子移行に成功したことが複数報告されている。Millecampsらは、導入遺伝子のプロモーター(ホスホグリセリン酸プロモーター)の上流に設置した神経選択的エンハンサー因子(neuron restrictive enhancer elements)を用いて、アデノウイルスベクターに神経細胞を標的させたことを報告している。このようなベクターを、マウスおよびラットのそれぞれ筋肉内および脳内に投与して、導入遺伝子をインビボで神経細胞特異的にトランスフェクションし発現させることに成功した(Millecampsら、1999、Nat.Biotechnol.17:865−869)。上記で検討したように、Bennettらは、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、網膜下注射により、遺伝子を神経網膜にインビボで送達し、一年よりも長い期間発現させたことを報告した(Bennett,1999、同書)。
【0086】
滑膜の内壁細胞および関節への遺伝子送達にも同様に成功している。Oliginoらのチームは、前初期遺伝子であるICP4、22および27に欠損をもつ単純ヘルペスウイルスベクターを用いて、2種類の異なったレセプターを、インビボで滑膜の内壁細胞に送達および発現したことを報告している(Oliginoら、1999、Gene Ther.6:1713−1720)。これらのヘルペスベクターは、関節内注射によって投与された。Kubokiらは、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入法と関節内注射を用いて、インビボでモルモットの顎関節において遺伝子を特異的に発現させることに成功した(Kubokiら、1999、Arch.Oral.Biol.44:701−709)。Apparaillyらのチームは、IL−10をコードするアデノウイルスベクターをマウスに全身投与して、遺伝子産物の発現に成功したこと、および実験的に誘発された関節炎の治療に非常に大きな治療効果があったことを明らかにした(Apparaillyら、1998、J.Immunol.160:5213−5220)。別の研究では、マウス白血病ウイルスを利用したレトロウイルスベクターを用いて、エクスビボおよびインビボで、ヒト成長ホルモン遺伝子を送達(関節内注射によって)および発現させた(Ghivizzaniら、1997、Gene Ther.4:977−982)。この研究は、インビボでの遺伝子導入による発現が、エクスビボ遺伝子導入による発現と少なくとも同等であることを明らかにした。上記で検討したように、Sawchukらは、関節内注射によって、アデノウイルスベクターによる遺伝子のインビボでの送達に成功したこと、および、抗T細胞レセプターモノクローナル抗体で関節を前処理することによって、遺伝子を滑膜内で長時間発現させたことを報告している(Sawchukら、1996、同書)。最後に、レトロウイルスを用いた、ヒトインターロイキン−1レセプターアンタゴニストのエクスビボでの遺伝子導入によって、関節炎の治療において高レベルの関節内発現と治療効果が得られ、現在、FDAが認可するヒトの遺伝子治療試験に加えられていることに注目すべきである(EvansとRobbins、1996、Curr.Opin.Rheumatol.8:230−234)。したがって、遺伝子治療における最新技術は、ヒトの遺伝子治療が、少なくとも関節炎の治療にとっては適当な方法であるとFDAに考えさせるようになっている。まとめると、遺伝子治療における上記研究のすべてが、本発明に係る組換え核酸分子の送達および発現が実現可能であることを示している。
【0087】
組換え分子を送達する別法は、非標的指向型担体(non−targeting carrier)である(例えば、Wolffら、1990、Science 247,1465−1468で教示されているような「裸」のDNAなど)。このような組換え核酸分子は、一般的には、直接投与または筋内投与によって注射される。裸のDNA投与法によって投与される組換え核酸分子には、本発明に係る単離核酸分子などがあり、好適には、本発明に係る組換え分子であって、好適には、複製、または、さもなければ増幅する能力をもつ分子を含む。本発明に係る裸の核酸試薬は、ジシストロニックな組換え分子を含む、一種類以上の核酸分子を含むことができる。裸の核酸の送達は、筋肉内、皮下、皮内、経皮、鼻腔内、および経口という投与経路を含むが、標的組織への直接注射が最も好適である。裸の核酸ワクチンの好適な一回用量は、当業者が決定しうるが、投与経路および/または送達方法に応じて、約1ナノグラム(ng)から約100μgの範囲にある。適当な送達方法には、例えば、注射による、エアロゾル化されるおよび/または局所的に点薬とするなどがある。一つの態様において、精製されたDNAコンストラクトは、金粒子(直径1〜3μm)の表面を覆い、「遺伝子銃」によって、皮膚細胞または筋肉の中に突き進んで行く。
【0088】
本発明に係る方法において、治療用組成物は、霊長類、げっ歯類、家畜類、および家庭用ペットなど、脊椎動物の仲間である哺乳動物のメンバーに投与することができる。防御するのに好適な患者はヒトである。
【0089】
以下の実施例は、例示目的で提示されるものであって、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0090】
(実施例)
下記の実施例1〜6において、以下の材料と方法を用いた。
【0091】
試薬および材料:凍結乾燥された組換え大腸菌(E.coli)TrxをPromega(Madison,WI)から入手した。大腸菌TRは、American Diagnostica(Greenwich,CT)から入手した。β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型(NADPH)、還元型GSH、グルタチオンレダクターゼ、ジチオスレイトール、ジソプロピルフルロホスフェート(disopropylflurophosphate)、アプロチニン、N−エチルマレイミド、シッフ試薬、サケ精子DNA、およびヘキスト染料はすべてSigma Chemical(St.Louis,MO)から入手した。N−アセチルシステインは、Fisher Scientific(Pittsburgh,PA)から入手した。他の化学薬品はすべて、最高の等級のものであった。
【0092】
痰の採集:National Jewish Medical and Research Center (Denver,CO)およびChildren’s Hospital (Denver,CO) においてCFを患う成人および小児の患者から痰を採取した。2つの別々のピロカルピンイオン導入発汗試験において、汗クロール値が60 mMを超え、その後の遺伝子解析において、2つの対立遺伝子がCF−産生変異を示した患者をCFと診断した。すべての試料は、自発的喀痰によるか、または、高張食塩水による誘発によって提供された。唾液が含まれていることが目視によって検出できたときには、その痰試料は廃棄した。喀痰後、試料は、使用時まで−80℃で保存した。痰の採集プロトコール、データ収集、および同意/受諾書式は、Institutional Review Board of the University of Colorado Health Science Center(COMIRB)および提携病院の承認を得た。
【0093】
コンパクションアッセイ法:−80℃で保存したCF痰を室温で融解して、ポジティブ・ディスプレイスメント・ピペット(Rainin、Emeryville,CA)を用いて、1.5mlエッペンドルフチューブの中に275μlの容量で当量液とした。痰試料には、適当なモル濃度の各試薬を含む25μlのHOを加えて、希釈剤(HO)、Trx+TR+NADPH、GSH+グルタチオンレダクターゼ+NADPH、ジチオスレイトール(DTT)、またはN−アセチルシステインのいずれかによる処理を行った。短時間(〜1秒間)撹拌した後、試料入りチューブを微量チューブ用ロティセリー(microtube rotisserie)(Barnstead, Dubuque,IA)に載せ、37℃で20分間インキュベーションした。そして、Daughertyら、(Daughertyら、Biomaterials 16:553−558,1995)によって始められた方法に従ってコンパクションアッセイのために試料を処理した。このアッセイ法を行うために、各試料の内容物を、ぴったりと嵌るよう予め200μlのピペットチップに溶接してある、100μlのガラス製マイクロキャピラリーチューブ(Fisher Scientific)の中に装填した。各痰試料の90%を上回る量を引き出すために3本の改造キャピラリーチューブを使用した。そして、キャピラリーチューブをピペットチップから取り出し、粘土で密封して、ヘマトクリット遠心機(IEC、Needham Heights,MA)で10分間遠心分離した後、各チューブのゲル(固体)相および水(液体)相の長さをミリメートル単位で測定した。水相の長さを全体の長さ(ゲル相+水相)で割り、100を掛けて、各キャピラリーチューブの液体画分の割合を計算した。次に、各試料から得られた液体画分の3つの測定結果(%)を平均して、処理条件ごとに単一の値を算出した。
【0094】
磁気マイクロレオメーター:King(King M.,Magnetic microrheometer,Methods in Bronchial Mucologyより、Braga PCおよびAllegra L.編、New York:Raven Press,1988,p.73−83)によって開発された磁気マイクロレオメーターを用いて、処理に応じた粘弾性の変化を測定した。80〜120μmの鋼鉄製の球を10 mgの痰試料の中に入れた。電磁石を用いて、この球を振動させ、その画像を、顕微鏡を介して一対のフォトセル(photocell)に映し出した。粘液は、この球の動きを遅れさせるため、磁石の駆動力に対して球の動きをプロットすることによって、オシロスコープ上でこの効果を明らかにし、そこからGを測定した。Gは、粘性および弾性の機械インピーダンス(impedance)またはベクトルの和であった。TrxおよびNADPHの用量反応実験のために、いずれの処理をする前にも10 rad/sにおけるlog Gを測定し(基準値)、次に、還元系を用いて、未処理、希釈剤(HO)またはTrxと20分間インキュベーションした後に測定した。すべての処理は、試料の全容量の10%に相当する容量のHOに入れた試料の中で行った。試料の等量液ごとに一回の測定を行った。
【0095】
痰からの糖蛋白質抽出:痰からの可溶性糖蛋白質の抽出を、Daviesら(DaviesとCarlstedt,Methods Mol.Biol.125:3−13,2000)によって概説されている方法によって行った。275μlのCF痰を25μlのHOのみ、または、Trx(10または30μM)+NADPH(2mM)およびTR(0.1μM)を含むHOによって、37℃で20分間処理した。処理後、1mMのジソプロピルフルロホスフェートおよび10μgmlのアプロチニンを含む100μlのHOを各試料に加えてから、4℃、22,000gで15分間遠心分離した。各試料の得られた上清(水相)を新しいチューブに移して、−20℃で保存した。各試料の残った固体ゲル部分は、250μlのグアニジウム抽出バッファー(6M 塩化グアニジウム;5mM EDTA;10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH6.5;1mM N−エチルマレイミド;100μMジソプロピルフルロホスフェート;および1μg/mlアプロチニン)存在下で、ピペットチップを用いて、注意深くチューブの底から取り出し、4℃で14時間回転させた。遠心分離してから、このゲル相抽出から得られた上清をきれいなチューブに移し入れて、電気泳動を行う時まで−20℃で凍結した。
【0096】
糖蛋白質含量の解析:水相およびゲル相の試料の糖蛋白質の含有量を、Thorntonらによって概説された方法(Thorntonら、Methods Mol.Biol.125:77−85,2000)に従って、過ヨウ酸シッフ試薬(PAS)による染色によって評価した。水相およびゲル相の試料を融解し、それぞれ80μl等量液を、Biomax水平式電気泳動装置(Kodak,Rochester,NY)の中に格納された1.0%アガロースゲル(150mm×125mm)上にロードした。電気泳動用試薬は以下の通りである。電気泳動用バッファー:40mMトリス−酢酸、1mM EDTA,pH8.0、0.1%SDS;サンプル・ローディングバッファー:60%電気泳動用バッファー、40%グリセロール(v/v)および0.005%(w/v)ブロモフェノールブルー。移動用溶液として0.6M NaCl,60mMクエン酸ナトリウムを用い、バキュームブロッター(Boeckel Scientific,Feasterville,PA)によって、ゲル内容物をポリビニリデン(PVDF)膜に移動させた。移動後、水を3回換えて膜を洗浄し、200mlの1%過ヨウ酸(v/v)3%酢酸(v/v)溶液に、室温で30分間移した。そして、この膜を、1mM HCl中0.1%ナトリウム・メタブサルファイト(metabsalfite)で2回洗浄し、シッフ試薬の中に6分間置いた。
【0097】
全DNA含量の測定:275μlのCF痰を、未処理、25μlのHO、またはTrx(30μM)+TR(0.1μM)およびNADPH(2mM)を含む25μlのHOとともにインキュベートした。37℃で20分間インキュベーションした後、100μlのHOを各試料に加えてから、10分間遠心分離(22,000x g)した。得られたゲル相および液相を分離して、100mM Tris Cl,5mM EDTA,200mM NaCl,0.5% Tween 20、および1mg/mlのプロテイナーゼKからなる等量の分解溶液と、50℃で4時間インキュベートした。フェノール/クロロフォルム抽出によって、液相およびゲル相からDNAを精製し、100μlのTEバッファー、pH8.0に再懸濁した。F−2000分光蛍光光度計(Hitachi,Schaumburg,IL)を用いて、575nMの励起波長と555nmの発光波長で、ヘキストアッセイ法(LabarcaとPaigen,Anal Biochem 102:344−352,1980)によってDNA濃度を測定した。TEバッファーに溶解したサケ精子DNAを用いて、標準曲線を定めた。
【0098】
統計学:図中のデータは、平均値±標準偏差で表されている。ただし、図4Aと4Bは、標準誤差を示している。線形混合効果モデル法を用いて、痰試料の液状化、粘弾性、およびDNA可溶性に対する処理の効果を解析した。単一の対照に対して複数の処理を比較するときには、ダネット補正を適用した。線形モデルで計算したクラス内相関係数によって、コンパクションアッセイの再現性を評価した。SASバージョン8.2(SAS Institute Inc.,Cary,NC)を用いて、すべての解析を行った。有意性をp<0.05と定義した。
【0099】
(実施例1)
以下の実施例では、CF痰からの液体放出に対するTrx還元系の効果を説明する。
【0100】
CFTR遺伝子の欠陥によって起こる異常なイオン輸送によって、CF患者の気道分泌物はしばしば乾燥している。その結果、膿状のCF痰は、大部分が、しばしばゲル相と呼ばれる、硬くて非流動性の生体高分子のマトリックス、および、より少ない量の可溶性の液相からなる。痰における、これら2つの相の割合に対するTrxの効果を評価するために、コンパクションアッセイによる測定を行った。最初の実験では、等量の痰試料を、0、1、10、または30μMのTrx;0.1μM TR;および2mM NADPH(最終濃度)を含む25μlのHOで処理した。20分間インキュベートした後、コンパクションアッセイによって、各試料の液体画分を測定した。
【0101】
液相に存在するCF痰の平均(±SD)割合は、Trx曝露する前は3.5±2.9%であった(図1A;数値は、5回の独立実験から得られた平均値である。O被曝試料に対してP<0.05)。痰の10%に相当する希釈剤(HO)で処理した等量液は、液相に存在する痰の割合に僅かで非有意な増加(6.2±6.6%)を示した。これに対し、CF痰の液相は、Trx還元系(Trx+0.1μM TR、および2mM NADPH)で処理した後に有意に増加した。Trx(1μM)で痰を処理すると、痰の液体画分は、37.8±15.4%まで増加した。液体画分が最高に増加したのは、より高いTrx濃度(30μM)でインキュベートした試料であった(74.5±15.6%)。
【0102】
NADPHの効果を調べるために、別のドナーからさらなる試料を得て、30μMのTrx、0.1μM TR、および0、0.2、0.6、1.0または2mMのNADPHで20分間処理した。NADPHなしでTrxとTRで処理した試料では、液相に存在する痰の割合は低かった(2.9±1.3%)。NADPHで処理した等量液は、用量依存的な液相の増加を示し、2mMで最大の増加(70.55±18.13%)が起きた(図1B)。Trx不在下でNADPHによって痰を処理すると、液相に存在する痰の割合の増加は起きなかった(図なし)。
【0103】
(実施例2)
以下の実施例では、実施例1のコンパクションアッセイによる測定結果の再現性を明らかにする。
【0104】
コンパクションアッセイによる測定結果の再現性を評価するために、3人の別々のCFドナーから痰試料を分離して等量液にして凍結した。すなわち、3人の異なったドナー(A、B、C)から単離されたばかりのCF痰を275μlの等量液に分けて凍結した。融解した後、等量液を未処理のままか、または、HO、10μM Trx(+0.1μM TRおよび2mM NADPH)、もしくはジチオスレイトール(DTT、1または5mM)で20分間インキュベートし、コンパクションアッセイ法で液体の割合を測定した。各ドナー試料について3回の独立実験を行って得られた結果を用いて、アッセイ法の再現性を評価した。3日間連続して、等量液を融解し、水、Trxおよびその還元系、ジチオスレイトール(DTT)で処理するか、未処理のままにした。
【0105】
図2に示すように、添加なし、または希釈液(HO)で処理された、ドナーAからの等量液は、その全量の10%よりも少ない液相画分を有していた。ドナーAからの痰の等量液をDTT(1mMまたは5mM)、または還元系とともにTrx(30μM)で処理すると、これら試料の液体画分が全試料容量の90%よりも多くなった。ドナーAからの痰試料の液体画分のこれらの比率の値は、その後の独立実験における第二および第三の測定値についても、同一の処理によっては、感知できる程度に変動することはなかった。TrxまたはDTT被曝に応じて、ドナーBおよびCの試料で起きた変化の程度は、ドナーAの痰試料で起きた変化よりは範囲が狭かったが、対照と比べれば有意に違っていた。ドナーC由来の試料について、薬剤処理した後の液体状態で存在する痰の割合の3日間での変動範囲は以下の通りである。1mM DTT―24〜31%;5mM DTT―42〜57%、30μM Trx―46〜51%。ドナーB由来の試料について、液体の割合値の範囲は以下の通りである。1mM DTT―57〜61%;5mM DTT―77〜79%、30μM Trx―62〜81%。これらの結果は、コンパクションアッセイ法が、痰試料の不均質なグループにおいて、薬剤誘導による液状化を測定するための方法として用いることができると認められるほどの試料内再現性を示すことを明らかにしている。
【0106】
(実施例3)
以下の実施例では、Trxが、グルタチオンまたはN−アセチルシステインよりも強力な痰液状化剤であることを明らかにする。
【0107】
痰の液状化におけるTrxの効果を、他のモノチオールおよびジチオール還元剤と比較した。痰試料を等量液にして、TrxまたはGSHで20分間処理して、コンパクションアッセイ法によって液体の割合を測定した。最初のコンパクションアッセイ実験では、等モル濃度のNADPH存在下で、痰の液状化におけるTrxとGSHの還元系の効力を比較した。対照(添加なし)と比較して、10、30、または60μMのTrxで処理した痰では、液体画分の割合が連続的かつ有意に増加するのが観察された(図3A)。これに対して、GSHを同じまたはそれよりも高い1mMまでの濃度に曝露しても、痰の液体画分の有意な増加は見られなかった。別の研究では、N−アセチルシステインを一定の濃度範囲(図3B)で使用しても、痰の液状化をもたらす効果はTrxより低いことが観察された。図3Aおよび3Bについて、実際に示された割合は以下の通りである。未処理=2.7±2.3%;HO=4.5±2.7%;10μM Trx=34.8±6.6%;30μM Trx=54.6±10.4%;60μM Trx=67.0±8.0%;30μM GSH=7.8±5.7%;100μM GSH=15.9±9.3%;1mM GSH=27.6±3.9%。TrxとNACの有効性の解析も、別の痰試料セットで、20分間インキュベーションした後に測定された。数値は、5回(GSH)または4回(NAC)の実験の平均値である(未処理に対しP<0.05)。
【0108】
(実施例4)
以下の実施例では、痰の粘弾性に対するTrx還元系の効果を示す。
【0109】
磁気マイクロレオメトリーを行って、痰の粘性に対するTrxとその還元系の効果を測定した。Trx還元系とインキュベートした前後に痰試料の測定を行って(表1)、log G(粘性)の変化を判定した。
【0110】
(表1)
未処理、HO、またはチオレドキシンに曝露したCF痰の粘弾性データ(log G*)
【0111】
【表1】

CF痰の等量液を、未処理、HO、またはTrx+還元系(0.1μM TRおよび2μM NADPH)とともに、37℃で20分間インキュベートした。データはすべて、4つの試料に対するlog G*(平均値±標準誤差)で示されている。
【0112】
図4Aに示した実験では、CF痰試料をHO、または3、10、または30μMのTrx+0.1μM TRおよび2μM NADPHとともに20分間インキュベートし、磁気マイクロレオメトリーによってlog Gを測定した。データは、曝露する前後に記録したlog G測定値の違いとして示されている(Y軸に示される)。各列は、4つの試料についての平均値±標準誤差を示す(黒菱形HO希釈値から統計的に有意)。痰を希釈剤(HO)で20分間インキュベートすると、前処理のときの値と比べて、log Gが僅かに下降した(0.11logユニット)。Trx(3μM)、TR(0.1μM)およびNADPH(2mM)に曝露すると、希釈剤だけで処理した場合に比べて、log Gの有意な減少(0.26logユニット)が起きた(図4A)。より高い濃度のTrxに曝露された試料において、より実質的な低下(それぞれ、10μMのTrxで0.39logユニットの減少、また、30μMのTrxで0.65logユニットの減少)が明白になった。
【0113】
さまざまな濃度のNADPHの効果も調べた(図4B;HO、または10μM Trx、0.1μM TRおよび0.2、0.6、または2mM NADPHとのインキュベーション後におけるlog Gの変化)。Trx(30μM)、TR(0.1μM)、および低濃度のNADPH(0.2mM)に曝露された痰は、粘弾性の僅かな低下を示した(0.16logユニット)。より高いNADPH濃度、0.6mM(0.26logユニット)および2mM(0.39logユニット)に曝露すると、粘弾性のさらなる低下が起き、これは、痰の粘弾性をTrxによって低下させる上で、還元当量を提供することの重要性を示している。
【0114】
(実施例5)
以下の実施例では、痰の糖蛋白質の可溶性に対するTrxの効果を説明する。
【0115】
ムチン糖蛋白質重合体上のジスルフィド結合は、Trxによる還元の標的である可能性がある。痰に存在する糖蛋白質に対するTrxの効果を調べるために、痰の等量液をHO、または10、または30μMのTrxとその還元系で20分間インキュベートし、遠心分離によって水性画分(Aq)とゲル画分に分離した。各不溶性ゲル画分は、さらに、グアニジウム(G)で14時間処理した。処理後、各試料の得られた可溶相と不溶相を分離して、過ヨウ酸/シッフ試薬(PAS)染色によって糖蛋白質含量について解析した。具体的には、材料と方法のところで説明したように、画分をロードして、1%アガロース(w/v)中で電気泳動を行い、PVDF膜に移動させ、過ヨウ酸/シッフ試薬で染色した。図5に関しては、分子量基準が離れた右側のレーンに示されている。結果は、3回の独立した実験の代表的なものである。
【0116】
図5に示すように、希釈剤で処理された痰の可溶画分およびゲル画分ともに、高分子量糖蛋白質の不連続な集団が検出された。これに対して、10または30μMのTrxで処理された痰から得られた両相において、PAS反応性糖蛋白質の量が増加することが明らかとなった。これらの試料を処理する過程で、希釈剤で処理された痰からのゲル相マトリックスは、一晩グアニジウム処理したにもかかわらず、高度の不溶性を保持することが観察された。この不溶性が、希釈剤で処理した痰およびTrxで処理した痰からのゲル相のレーンにおいて見られた糖蛋白質量の量的な違いの理由である可能性が高い。量が増えることに加えて、Trxに曝露された試料におけるグリコフォームのかなりの割合も、希釈剤で処理された試料に存在するそれらの部分よりも大きな電気泳動移動度を示した。これらの知見は、Trxが可溶性を高め、痰の中の糖蛋白質重合体の大きさを減少させることを示唆している。
【0117】
(実施例6)
以下の実施例では、痰におけるDNAの可溶性に対するTrxの効果を説明する。
【0118】
CF気道分泌物中に大量の細胞外DNAが存在すると、CF痰の過剰な粘弾性の原因となる。Trxが、痰におけるDNAの可溶性に対してどのような効果をもつのかを評価するために、痰試料(275μl)を、無添加、希釈剤(HO)、またはTrx(30μM)+還元系のいずれかとともに、20分間インキュベートしてから、ゲル(不溶)相と液(可溶)相に分けた。ヘキストアッセイ法によるDNA含量の測定によって、未処理の試料中に存在するDNAのほとんどがゲル相中に保持されることが明らかになった(ゲル相=0.94±0.26mg;液相=0.05±0.03mg)(図6)。希釈剤処理された試料では、それらの液相における平均DNA含量が僅かな増加を示した(ゲル相=0.80±0.24mg;液相=0.21±0.23mg)。Trx処理では、DNAのゲル相から液相へのさらなる移動(ゲル相=0.55±0.31mg;液相=0.57±0.37mg)が観察された。図6に関しては、示されているのは、各画分からの平均DNA含量±S.D.である(n=5回実験)(未処理の可溶相に対してP<0.05)。
【0119】
(実施例7)
以下の実施例では、過剰に粘性または粘着性の粘液または痰をもつ患者を、本発明に係る治療用組成物で治療することにについて説明する。
【0120】
4か月齢の女児患者が、低体重;頻繁、大量、かつ悪臭がする油っぽい大便;突き出したお腹;ならびに頻発する咳および喘鳴を示している。この患者は、定量的なピロカルピンイオン導入発汗試験を受けて、嚢胞性線維症と診断される。肺機能テストおよび胸部X線で診断結果を確認する。この患者は、定期的に評価、および、肺に問題が起こるとそれを予防および治療するなどの治療、十分な栄養補給、および身体活動を施される。13歳までに、この患者は、成長の停滞、思春期の遅れ、および身体持久力の低下を示し、しばしば、肺感染症、呼吸の苦しさ、および胃腸管の不快感に苦しむ。この患者は、ひどい咳、喘鳴、および肺機能の障害とともに診療室に現れる。
【0121】
この患者の気道から採集した痰試料に対してコンパクションアッセイを行い、このアッセイと以前の嚢胞性線維症であるとの診断に基づいて、患者が、気道の中の過剰に粘性および粘着性の粘液による呼吸器疾患を患っていると判定する。肺のこの症状を治療するため、患者に、界面活性剤中、投薬単位あたり約2.5mgのヒトチオレドキシン、および表面濃度約5μMを達成するのに十分な投与量のNAPDHを含む組成物をエアロゾル送達によって投与する。この患者は、引き続き、別のコンパクションアッセイによって、痰の液状化が増進したか、また、肺機能テストによって気道がきれいになったか観察される。上記したような組成物のその後の投与量を、患者の気道がかなりのクリアランスを示し、患者の症状および一般的な健康状態が改善するまでエアロゾルによって毎日投与される。
【0122】
本明細書において考察または引用した刊行物およびその他の参考文献は、その全文が、参考文献として本明細書に組み入れられる。
【0123】
本出願は、2002年9月10日に出願された米国仮出願第60/409,960号、および2003年4月11日に出願された米国仮出願第60/462,082号それぞれからの優先権を主張するものである。米国仮出願第60/409,960号および第60/462,082号の各々の全開示内容は、参考文献として本明細書に組み入れられる。
【0124】
本発明のさまざまな態様が、詳細に説明されているが、これらの態様の変更および適応が生じることは、当業者にとって明らかである。しかし、以下の請求項に示されているように、そのような変更および適応が、本発明の範囲に含まれることをはっきりと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1Aは、Trx還元系への曝露によるCF痰の液状化は用量依存的であることを示す折れ線グラフである。図1Bは、TrxによるCF痰の液状化はNADPHに依存することを示す折れ線グラフである。
【図2】図2は、コンパクションアッセイ法(compaction assay)の再現性の評価を示す折れ線グラフである。
【図3】図3Aは、Trx還元系(Trx+0.1μM TR+2mM NADPH)が、痰の液状化において、グルタチオン還元系(GSH+0.1μM Gr+2mM NADPH)よりも強力であることを示す図である。図3Bは、Trx還元系(Trx+0.1μM TR+2mM NADPH)が、痰の液状化において、N−アセチルシステイン(NAC)よりも強力であることを示す図である。
【図4】図4Aは、インビトロにおけるCF痰の粘弾性(log G*)に対するTrxの用量の効果を示している。図4Bは、インビトロにおけるCF痰の粘弾性(log G*)に対するNADPHの用量の効果を示している。
【図5】図5は、希釈液またはTrxに曝露した後のCF痰の糖蛋白質の質量プロファイルを示すデジタル画像である。
【図6】図6は、Trx曝露がCF痰内に存在するDNAの可溶性を高めることを示す図である。
【配列表】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を有する患者における粘液または痰の液状化を増進させる方法であって、患者の粘液または痰を、接触させる工程の前と比較して粘液または痰の液状化を増進させるのに効果的な還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチドを含む組成物と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
患者が、粘液または痰の異常または過剰な粘性または粘着性が病気の症状または原因である肺疾患を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者が嚢胞性線維症に罹っている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
患者の粘液または痰を組成物と接触させる工程が、鼻、気管内、気管支、肺内への直接設置、および吸入からなる群より選択された経路によって、該組成物を患者に導入して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
接触させる粘液または痰が、患者の気道、胃腸管、または生殖管の中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組成物を薬学的に許容される担体において患者に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
蛋白質またはペプチドが、患者の体重1kgあたり約1.5mmoleから患者の体重1kgあたり約150mmoleの量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
蛋白質が、患者において約5分から約24時間の半減期を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者からの粘液または痰の試料の全量の液相が、組成物を投与した後に統計的に有意な増加を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列C−X−X−Cを含み、C残基が還元状態にあり、かつ、X残基が任意のアミノ酸残基である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列X−C−X−X−C−Xを含み、C残基が還元状態にあり、かつ、X残基が任意のアミノ酸残基である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列X−C−G−P−C−X(配列番号:2)を含み、C残基が還元状態にあり、かつ、X残基が任意のアミノ酸残基である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列W−C−G−P−C−K(配列番号:3)を含み、C残基が還元状態にある、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
蛋白質が、原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物のチオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンからなる群より選択されるチオレドキシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
蛋白質がヒトチオレドキシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
組成物が、蛋白質のチオレドキシン活性部位を還元するために、ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸(還元型)(NADPH)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
組成物が、チオレドキシンレダクターゼをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
粘液または痰の液状化に使用するための組成物であって、還元状態にあるチオレドキシン活性部位を含む蛋白質またはペプチド、および過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を治療するための補助剤を少なくとも一つ含む組成物。
【請求項19】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列X−C−X−X−C−Xを含み、C残基が還元状態にあり、かつ、X残基が任意のアミノ酸残基である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列X−C−G−P−C−X(配列番号:2)を含み、C残基が還元状態にあり、かつ、X残基が任意のアミノ酸残基である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
チオレドキシン活性部位が、アミノ酸配列W−C−G−P−C−K(配列番号:3)を含み、C残基が還元状態にある、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
蛋白質が、原核生物のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン、植物のチオレドキシン、および哺乳動物のチオレドキシンからなる群より選択されるチオレドキシンを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
蛋白質がヒトチオレドキシンを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
組成物が、ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸(還元型)(NADPH)をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
組成物が、チオレドキシンレダクターゼをさらに含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
過剰に粘性または粘着性の粘液または痰を有する患者における粘液または痰の液状化を増進させる方法であって、患者の気道にある粘液または痰を、アミノ酸配列X−C−X−X−C−Xを含み、C残基が還元状態にある蛋白質を含む組成物と接触させる工程を含み、組成物の接触によって、患者からの粘液または痰の試料における液相の容量が、組成物との接触の前と比較して増加する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−513147(P2006−513147A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−536509(P2004−536509)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/028526
【国際公開番号】WO2004/024868
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(500343614)ナショナル ジューイッシュ メディカル アンド リサーチ センター (6)
【Fターム(参考)】