説明

粘着シートおよびその使用方法

【課題】 半導体ウエハの裏面加工を行う際に、半導体ウエハ表面を保護するための表面保護シートとして用いられる粘着シートにおいて、バンプウエハ等の表面の高低差を吸収、緩和でき、高温環境下においては過度に軟化しない中間層を有する粘着シートを提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明に係る粘着シートは、基材フィルムと、中間層と、粘着剤層とがこの順に積層されてなり、
該中間層が融点(Tm)を有する熱溶融性樹脂を含み、
前記融点Tmよりも6℃高い温度(Tm+6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm+6)と、前記融点Tmよりも6℃低い温度(Tm−6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm−6)について、G’(Tm−6)/G’(Tm+6)が2.0以上であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関し、さらに詳しくは表面に回路が形成され、回路面上に高低差の大きなバンプを有する半導体ウエハの裏面研削時に、回路面を保護するための表面保護シートとして好ましく用いられる粘着シートに関する。また、本発明は、該粘着シートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末機器の薄型化、小型化、多機能化が急速に進む中、それらに搭載される半導体装置も同様に、薄型化、高密度化が求められている。装置の薄型化のためには、半導体が集積されている半導体ウエハの薄型化が要望される。また、高密度化にともない、半導体チップと基板の接合に用いられる、はんだ等からなる直径数百μm程度の球状バンプを回路面に搭載した半導体チップの実装技術のさらなる改良が求められている。通常バンプは予め半導体ウエハに高密度に接合されている。このようなバンプ付ウエハの裏面を研削すると、バンプが存在する部分とバンプが存在しない部分との高低差に起因する圧力差がウエハ裏面に直接影響し、ウエハ裏面にディンプルとよばれる窪みやクラックが生じ、最終的に半導体ウエハを破損させてしまう。
【0003】
このため、バンプ付ウエハの裏面研削時には、基材フィルムと粘着剤層とからなる表面保護シートを回路面に貼付し、回路面の高低差を吸収、緩和している。特に、バンプの高低差の大きなウエハに対しては、表面保護シートの粘着剤層の厚みを厚くし、さらに粘着剤の流動性を高めることにより、粘着剤層とウエハとを密着させ、粘着剤層のクッション性によりバンプの段差による圧力差を解消するようにして対処している。しかし、粘着剤層を厚くし、かつその流動性を高くすると、バンプの根本部分に粘着剤が回り込み易くなる。このため、バンプの根本部分に付着した粘着剤が、表面保護シートの剥離操作によって、凝集破壊を起こし、粘着剤の一部が回路面に残着することがある。これはエネルギー線硬化型粘着剤を用いた表面保護シートであっても起こりうる問題であった。回路面に残着した粘着剤は溶剤洗浄等によって除去しなければ、デバイス内の異物として残留し、完成したデバイスの信頼性を損なう。
【0004】
そこで、粘着剤層を厚くするのではなく、表面保護シートの基材フィルムと粘着剤層との間に、バンプの高低差を吸収、緩和するための中間層を設けることが提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1(特開2000−17239号公報)には、基材と粘着剤層との間に、JIS−A硬度が10〜55であり、厚みが28〜400μmの熱可塑性樹脂中間層が配設された粘着シートが開示されている。また、特許文献2(特開2001−203255号公報)では、弾性率が30〜1000kPaであり、ゲル分が20%以上の中間層を有する表面保護シートが開示されている。
【0006】
これら特許文献1および2に提案されている粘着シートは、常温において半導体ウエハに貼付されることを前提としている。中間層は半導体ウエハ表面の高低差を吸収、緩和するために形成されているため、常温において柔軟性を有するように設計されている。このような粘着シートをウエハ表面に貼付して裏面研削を行うと、研削時に発生する熱によって中間層が軟化してしまい、研削精度が低下することがあった。さらに、粘着シートをロール状の巻き取り、運搬、保管等を行うと、特に夏季には高温に曝され、中間層や粘着剤層が軟化し、ロールの側部から樹脂成分が浸み出してしまうことがあった。
【0007】
低温では柔軟性は低いが、加熱条件下で柔軟性を示す中間層を有する表面保護シートが提案されている。たとえば、特許文献3(特開2005−48039号)には、中間層として、50℃での貯蔵弾性率が3.0×10[Pa]以下で、23℃での貯蔵弾性率が2.0×10[Pa]以上であり、第一次溶融転移温度が室温(23℃)よりも高い側鎖結晶性ポリマーからなる中間層を有する表面保護シートが提案されている。さらに、特許文献4(再公表特許:国際公開番号WO2006/088074)には、25℃における貯蔵弾性率G’(25)、60℃における貯蔵弾性率G’(60)が、G’(60)/G’(25)<0.1の関係を有する中間層を設けてなる表面保護シートが開示されている。
【0008】
このような表面保護シートによれば、加熱することにより中間層が軟化するため、半導体ウエハ表面の凹凸に密着して貼付できる。また裏面研削時や搬送時にはウエハを安定して保持できるため、研削精度が高く、ウエハの破損を防止することも可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−17239号公報
【特許文献2】特開2001−203255号公報
【特許文献3】特開2005−48039号
【特許文献4】再公表特許:国際公開番号WO2006/088074
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3の表面保護シートは、加熱により中間層が軟化することで、ウエハ貼付時の表面追従性を向上している。しかし、貼付温度が高くなりすぎると、中間層が流動化し、粘着シートの厚みの均一性が低下したり、粘着シート端部から樹脂成分が浸み出すことがある。このため、貼付温度を側鎖結晶性ポリマーの第一次溶融転移温度付近に厳密に制御する必要があり、プロセスの自由度が低い。加えて、室温での貯蔵弾性率が高く、またこのような側鎖結晶性ポリマーは離型剤としても用いられることがあるほど表面接着性が低く、このような材料からなる中間層は隣接する層への密着性に劣る場合があった。また、ウエハ表面を粘着シートで保護した状態で、ウエハ裏面にエッチング処理等を施すことがあり、この際、ウエハは加熱されたり、発熱することがある。特許文献4のような粘着シートでは、このような裏面の加工工程において中間層が流動化し、ウエハの保護機能が低下するおそれがある。
【0011】
したがって本発明は、半導体ウエハの裏面加工を行う際に、半導体ウエハ表面を保護するための表面保護シートにおいて、バンプウエハ等の表面の高低差を吸収、緩和でき、高温環境下においては過度に軟化しない中間層を有する表面保護シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意研究した結果、表面保護シートの中間層として、熱溶融性樹脂を含有し、特異な弾性挙動を示す中間層を配設することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、以下の要旨を含む。
(1)基材フィルムと、中間層と、粘着剤層とがこの順に積層されてなり、
該中間層が融点(Tm)を有する熱溶融性樹脂を含み、
前記融点Tmよりも6℃高い温度(Tm+6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm+6)と、前記融点Tmよりも6℃低い温度(Tm−6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm−6)について、G’(Tm−6)/G’(Tm+6)が2.0以上である粘着シート。
【0014】
(2)前記熱溶融性樹脂が、融点を(Tm)45〜90℃の範囲に有する(1)に記載の粘着シート。
【0015】
(3)前記熱溶融性樹脂の溶融開始温度が、(Tm−8)℃以上である(1)または(2)に記載の粘着シート。
【0016】
(4)前記熱溶融性樹脂がオレフィン系材料である(1)〜(3)の何れかに記載の粘着シート。
【0017】
(5)前記オレフィン系材料が、炭素数14〜30のα−オレフィンの重合体である(4)に記載の粘着シート。
【0018】
(6)前記中間層は、前記熱溶融性樹脂が、マトリックス樹脂中に分散してなる(1)〜(5)の何れかに記載の粘着シート。
【0019】
(7)マトリックス樹脂が融点を有しないか、または融点が粘着シートの被着体への貼付温度を超える(6)に記載の粘着シート。
【0020】
(8)前記マトリックス樹脂が、エネルギー線硬化型樹脂からなる(6)または(7)に記載の粘着シート。
【0021】
(9)前記エネルギー線硬化型樹脂が、ウレタン樹脂とエネルギー線硬化性モノマーとを含む配合物をエネルギー線硬化させた硬化物である(8)に記載の粘着シート。
【0022】
(10)前記中間層が、前記熱溶融性樹脂とウレタン樹脂とエネルギー線硬化性モノマーとを含む配合物をエネルギー線硬化させた硬化物である(1)に記載の粘着シート。
【0023】
(11)前記中間層の25℃における貯蔵弾性率G’(25)が0.05MPa〜20MPa、50℃における貯蔵弾性率G’(50)が0.01MPa〜15MPa、80℃における貯蔵弾性率G’(80)が0.001MPa〜1MPaであり、G’(25)>G’(50)>G’(80)の関係を満足する(1)に記載の粘着シート。
【0024】
(12)基材フィルムの厚みが50〜200μm、中間層の厚みが50〜500μm、粘着剤層の厚みが1〜150μmである(1)〜(11)の何れかに記載の粘着シート。
【0025】
(13)半導体ウエハの裏面加工を行う際に、半導体ウエハ表面を保護するための表面保護シートである(1)〜(12)の何れかに記載の粘着シート。
【0026】
(14)前記(13)に記載の粘着シートを、バンプを有する回路が表面に形成された半導体ウエハの表面に貼付し、該半導体ウエハ回路面の保護を行ないつつ、その裏面研削を行う工程を含むことを特徴とする半導体ウエハの加工方法。
【0027】
(15)熱溶融性樹脂の融点(Tm)以上であって、Tmよりも50℃高い温度以下の温度で粘着シートを半導体ウエハに貼付する(14)に記載の半導体ウエハの加工方法。
【0028】
(16)バンプを有する回路が形成された半導体ウエハ表面からそのウエハ厚さよりも浅い切込み深さの溝を形成し、該回路形成面に、前記(13)に記載の粘着シートを貼付し、その後上記半導体ウエハの裏面研削をすることでウエハの厚みを薄くするとともに、最終的には個々のチップへの分割を行なう工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【0029】
(17)熱溶融性樹脂の融点(Tm)以上であって、Tmよりも50℃高い温度以下の温度で粘着シートを半導体ウエハに貼付する(16)に記載の半導体チップの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明においては、表面保護シートの中間層として、熱溶融性樹脂を含有し、特異な弾性挙動を示す中間層を配設している。該中間層は、ウエハ表面の高低差を吸収、緩和でき、しかも高温環境下においては過度に軟化しない。このため、貼付温度を厳密に制御する必要がなく、プロセスの自由度が高い。また、表面保護シートをバンプ付ウエハの回路面に密着して貼付することができ、しかもウエハ裏面に、加熱、発熱を伴う加工を施す際にもウエハを安定して保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。本発明に係る粘着シートは、基材フィルムと、中間層と、粘着剤層とがこの順に積層されてなる。
【0032】
(基材フィルム)
基材フィルムは、特に限定はされず、表面保護シートの基材として使用されてきた各種の合成樹脂フィルムが特に制限されることなく用いられる。このような基材フィルムとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリウレタンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等のフィルムが用いられる。これらの中でも、ウエハを安定して保持する観点から比較的硬質のフィルムが好ましく、たとえば、ポリエステル系フィルム等がさらに好ましい。ポリエステル系フィルムのうちでも、特にポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、ポリエステル系フィルム等の比較的硬質のフィルムと、ポリオレフィン系フィルム等の比較的軟質のフィルムを積層させることが好ましい。このような構成とすることで、本発明に係る粘着シートを用いた半導体ウエハの研削加工工程における半導体ウエハの反りを防止しやすい。また、上記のフィルムの他、これらを着色したフィルム、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。
【0033】
本発明に係る粘着シートは、上記のような基材フィルム上に形成された中間層上に粘着剤層を設けることで製造される。なお、粘着剤層をエネルギー線硬化型粘着剤により構成する場合には、基材フィルムおよび中間層は硬化に必要なエネルギー線の透過性を有する必要がある。
【0034】
また、基材フィルムの上面、すなわち中間層が設けられる側の面には中間層との密着性を向上するために、コロナ処理を施したりプライマー層やバリア層等の他の層を設けてもよい。
【0035】
基材フィルムの厚みは、好ましくは20〜200μmであり、さらに好ましくは30〜160μmであり、特に好ましくは50〜140μmの範囲にある。基材フィルムが極端に薄すぎても、また厚すぎても、粘着シートの操作性が低下する。
【0036】
(中間層)
基材フィルムと粘着剤層との間には、中間層が形成される。中間層は、融点(Tm、℃)を有する熱溶融性樹脂を含み、特異な弾性挙動を示すように設計されている。ここで、融点を有するとは、DSC測定において明確かつシャープな融解ピークが観察されることを意味し、融点は融解ピークの温度を示す。明確かつシャープな融解ピークが観察されるとは、融解ピークの立ち上がり温度と、ピーク頂点の温度との差が小さいことを示し、具体的には、熱溶融性樹脂の溶融開始温度(Ti、℃)が、融解ピーク温度(Tm)に近接し、好ましくはTi≧(Tm−8)であり、さらに好ましくはTi≧(Tm−6)であり、特に好ましくはTi≧(Tm−3)であることを意味する。なお、溶融開始温度とは、熱溶融性樹脂のDSC測定において、融解ピークが立ち上がり始める温度をいう。また、融解ピークは単一であり、ショルダー等を有しないことが好ましい。
【0037】
前記熱溶融性樹脂の融点(Tm)はDSC測定における融解ピーク温度であり、好ましくは45〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃の範囲にある。融点がこのような範囲にあることで、後述する中間層の貯蔵弾性率の顕著な低下の起こる温度を、粘着シートの貼付に適した温度と、本発明の粘着シートを半導体ウエハに貼付して裏面加工を行う温度との中間に位置させることが容易となる。
【0038】
中間層に上記のような熱溶融性樹脂が含有されることで、熱溶融性樹脂の融点の前後で中間層の貯蔵弾性率が顕著に相違するようになる。すなわち、中間層を加熱し、Tmに至るまでは、貯蔵弾性率が緩やかに変化し、Tmを超える付近では貯蔵弾性率が顕著に低下し、その後は再び貯蔵弾性率が緩やかに変化する。本発明の粘着シートにおいて、融点Tmよりも6℃高い温度(Tm+6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm+6)と、熱溶融性樹脂の融点Tmよりも6℃低い温度(Tm−6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm−6)について、G’(Tm−6)/G’(Tm+6)が2.0以上であり、好ましくは2.4以上であり、さらに好ましくは2.5〜30.0であり、特に好ましくは2.8〜25.0の範囲にある。
【0039】
このように本発明の粘着シートにおいては、中間層の貯蔵弾性率が、ある温度(Tm)を境にして大きく変動し、Tmよりも低い温度領域およびTmよりも高い温度領域ではともに比較的安定し貯蔵弾性率が緩やかに変化する傾向を示し、かつTmよりも低い温度領域での貯蔵弾性率は、Tmよりも高い温度領域での貯蔵弾性率よりも高い。そして、中間層の貯蔵弾性率を融点(Tm)の上下6℃の2点で測定することによって上記の性質を顕著に表現することができる。
【0040】
つまり、粘着シートの中間層の貯蔵弾性率は、低温側で高く、高温側で低く、Tmにおいて大きく変化する。中間層の貯蔵弾性率の温度特性を25℃、50℃および80℃の場合についてみると、
好ましくは、25℃における貯蔵弾性率G’(25)が0.05MPa〜20MPa、50℃における貯蔵弾性率G’(50)が0.01MPa〜15MPa、80℃における貯蔵弾性率G’(80)が0.001MPa〜1MPaであり、
さらに好ましくは、G’(25)が0.08MPa〜10MPa、G’(50)が0.04MPa〜5MPa、G’(80)が0.001MPa〜0.1MPaであり、
特に好ましくは、G’(25)が0.1MPa〜5MPa、G’(50)が0.075MPa〜3MPa、G’(80)が0.005MPa〜0.02MPaである。
【0041】
なお、上記において、G’(25)>G’(50)>G’(80)の関係を満足する。G’(25)が上記範囲にあると、研削温度において、中間層の剛性が保たれ、研削精度が向上し、かつ室温での中間層の基材への密着性が保たれる。G’(50)が上記範囲にあると、研削時の雰囲気温度が上下したとしても中間層の硬度が保たれ、良好な研削精度が維持されやすい。G’(80)が上記範囲にあると、貼着時に被着体表面の凹凸に追従しやすく、凹凸起因の厚みムラが生じにくいため、研削精度が維持されやすい。一方、G’(80)が低すぎる場合には、貼着時に中間層がはみ出したり、貼着後の裁断において、裁断刃に中間層が付着したりすることがある。
【0042】
本発明の粘着シートにおいて、Tmよりも高い温度領域で中間層の貯蔵弾性率が緩やかに変化する傾向は、上述の貯蔵弾性率G’(Tm+6)と、融点(Tm)よりも24℃以上高い温度における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm+24)との比、G’(Tm+6)/G’(Tm+24)が、好ましくは3.25以下、さらに好ましくは2.5以下であることによっても確認することができる。
【0043】
したがって、本発明の粘着シートによれば、Tm以上の温度領域であれば、中間層が軟化状態であるため、ウエハ表面の高低差を吸収、緩和でき、バンプウエハに対して密着して貼付することができる。しかもTmを超え、熱溶融性樹脂が融解した温度領域では、中間層の貯蔵弾性率は緩やかに変化し、急激な変化は起こらない。このことは、一旦軟化した中間層は、軟化状態において過度に軟化したり、流動化したりしないことを意味している。このため、貼付温度を厳密に制御する必要がなく、プロセスの自由度が高い。しかもウエハ裏面に、加熱、発熱を伴う加工を施す際にもウエハを安定して保持することができる。
【0044】
中間層は、上記のような熱溶融性樹脂を含有し、特定の弾性挙動を示すものであれば特に限定はされない。しかし、熱溶融性樹脂単独では、製膜が困難な場合が多く、また加熱環境下で過度に流動化することもある。したがって、中間層の好ましい構成例としては、熱溶融性樹脂がマトリックス樹脂中に分散した構造を挙げることができる。このように熱溶融性樹脂がマトリックス樹脂中に分散することで、熱溶融性樹脂の融点(Tm)の低温側領域および高温側領域において、貯蔵弾性率が大幅に変化するものの、これ以外の温度領域では弾性率が緩やかに変化する中間層が得られる。これは、融点(Tm)近傍においては、熱溶融性樹脂の性質が顕在化するのに対し、それ以外の温度領域では、主にマトリックス樹脂の弾性挙動が支配的になるためと考えられる。このことにより、加工を行う温度の上限と下限の間に融点が含まれないように設定すれば、加工時の中間層の弾性率が安定した領域にとどまっているため、比較的広い範囲で温度条件を設定でき、プロセスの自由度が高まる。
【0045】
中間層におけるマトリックス樹脂と熱溶融性樹脂との割合は、特に限定はされないが、上記のような特異な弾性挙動を簡便に実現する観点から、マトリックス樹脂100質量部に対し、熱溶融性樹脂は5〜70質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましく、10〜35質量部であることがさらに好ましい。熱溶融性樹脂がマトリックス樹脂に対して少なすぎる場合には、貯蔵弾性率がTm付近で不連続変化を起こすという効果を十分に得られないことがある。また、熱溶融性樹脂がマトリックス樹脂に対して多すぎる場合には、中間層が脆化し、割れやすくなったり、基材フィルムへの密着性が低下したりする傾向がある。
【0046】
本発明に適用可能な熱溶融性樹脂は、上述したように、明確かつシャープな融点を有する樹脂であれば特に限定はされない。融解ピークが明確かつシャープな融点を示す高分子材料としては、たとえば、アクリル系ポリマーやオレフィン系材料を用いることが好ましく、これらのうちでも、オレフィン系材料を用いることが好ましい。融解ピークが明確かつシャープな融点を示すアクリル系ポリマーは、一般に室温でワックス状であり、中間層における含有量を増やそうとした場合に、後述するマトリックス樹脂を形成するための組成物に均一に分布させることが困難になる場合がある。一方、マトリックス樹脂を形成するための組成物と熱溶融性樹脂とが相溶状態にあると、中間層が熱溶融性樹脂の融点Tmにおいて有する顕著な貯蔵弾性率の低下を呈さず、貯蔵弾性率低下が広範な温度領域にわたって起こる傾向がある。アクリル系ポリマーとマトリックス樹脂とは相溶状態を形成し易いのに対し、オレフィン系材料ではこのような問題が起きにくい。本発明者らが鋭意探究したところ、オレフィン系材料のうちでも、特定の架橋メタロセン触媒を用いて高級α−オレフィンを重合して得られるポリα−オレフィンが、明確な融点を示し、かつ常温で固体であり、エネルギー線硬化型樹脂等の、マトリックス樹脂を形成するための組成物に均一に分布させることが容易であるという知見を得た。ここで、α−オレフィンは、炭素数が14〜30、好ましくは16〜28のα−オレフィンである。ポリα−オレフィンは、上記α−オレフィンの単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、明確な融点を示すという観点から単独重合体が好ましい。このようなポリα−オレフィンとしては、さらに具体的には、ポリ(ドコセン−1)、ポリ(エイコセン−1)、ポリ(オクタデセン−1)、ポリ(ヘキサデセン−1)等が挙げられ、出光興産株式会社より「エリクリスタ」の商品名で、種々の融点を示すポリα−オレフィンを入手できる。また、アクリル系ポリマーとしては、日本触媒製のST−100(商品名)等が用いられる。
【0047】
熱溶融性樹脂の結晶構造は、主鎖部は結晶化せず、側鎖アルキル部だけが準安定的に結晶化している構造であると考えられ、低融点でシャープな融解挙動を示す。一般に低融点樹脂は、融点以下においても軟質であることが多いが、この熱溶融性樹脂は、低融点であるにも関わらず、融点以下では堅牢性を示す。すなわち、本発明で使用する熱溶融性樹脂の針入度は6以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。熱溶融性樹脂をこのような針入度とすることで、Tm以下の温度における中間層の貯蔵弾性率がより高く保たれ、研削精度がより向上する。なお、針入度はJIS K-2235の針入度試験方法により、試験温度として25℃を採用して行った測定に基づき得られる特性値である。
【0048】
中間層において、上記の熱溶融性樹脂が、マトリックス樹脂中に分散されてなることが好ましい。中間層の加熱環境下において、適度な貯蔵弾性率を実現する観点から、マトリックス樹脂は、融点を有しないか、または融点が粘着シートの被着体への貼付温度を超える樹脂からなることが好ましい。マトリックス樹脂が融点を有すると、マトリックス樹脂の融点以上では樹脂が流動化し、保持機能が果たせなくなり、ウエハへの貼付の条件を簡便に設定でき、プロセスの自由度が高まるという本発明の効果を維持できなくなるおそれがある。このため、マトリックス樹脂は融点を有しない樹脂からなることが好ましいが、融点を有する場合にあっては、ウエハへの粘着シートの貼付温度において、中間層の保持機能が維持される必要がある。したがって、粘着シートの被着体への貼付温度を超える融点を有するマトリックス樹脂であれば、ウエハへの貼付時には流動化することなく、保持機能が維持されやすい。
【0049】
このようなマトリックス樹脂は、熱溶融性樹脂のバインダーとしてはたらき、中間層の保形性を維持し、ウエハ表面への貼着時の温度(すなわち、熱溶融性樹脂の融点以上の温度)において中間層が過度に流動化し、貼着時に中間層がはみ出したり、貼着後の裁断において裁断刃に中間層が付着したりすることを防止することができる。また、常温においては、中間層の脆化を防ぎ、基材への密着性を保つことができる。
【0050】
マトリックス樹脂は、熱溶融性樹脂を均一に分散し、上記のような弾性挙動を示す限り特に限定はされないが、柔軟性、貯蔵弾性率の制御が容易なウレタン樹脂や、エネルギー線硬化性成分を含む配合物を硬化してなるエネルギー線硬化型樹脂からなることが好ましい。
【0051】
マトリックス樹脂の主成分をウレタン樹脂とすることで、中間層は貼着時の温度において、過度の流動化を抑制できるとともに、適度な柔軟性を示すようになり、被着体表面の凹凸への追従性が向上する。ウレタン樹脂としては、ウレタンポリマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0052】
マトリックス樹脂は、ウレタン樹脂のみであってもよいが、柔軟性、保形性等を制御するため、適度な架橋構造を有することが好ましい。架橋構造は、ウレタン樹脂にエネルギー線重合性基を導入してなるエネルギー線重合性のウレタン樹脂を重合硬化して形成してもよく、また、ウレタン樹脂とエネルギー線硬化性モノマーとを混合し、混合物を硬化することで、マトリックス樹脂に架橋構造を導入しても良い。さらに、エネルギー線硬化性モノマーと、エネルギー線重合性のウレタン樹脂とを併用してもよい。エネルギー線重合性のウレタン樹脂や、多官能のエネルギー線硬化性モノマーを配合し、エネルギー線硬化を行ったマトリックス樹脂であれば、架橋された三次元網目構造が形成されるため、マトリックス樹脂は融点を有しないこととなる。
【0053】
特に、本発明の中間層においては、マトリックス樹脂が、後述するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとの配合物を硬化してなり、該マトリックス樹脂中に熱溶融性樹脂が分散されてなることが好ましい。
【0054】
エネルギー線重合性のウレタン樹脂としては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく用いられる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、分子内にエネルギー線重合性の(メタ)アクリロイル基を有し、さらにウレタン結合を有する化合物である。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、たとえばポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られる。ポリオールとしては、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール等種々のポリオールが用いられ、特にジオール類が好ましく用いられる。
【0055】
ポリオールと多価イソシアナート化合物との反応により、末端イソシアナートウレタンプレポリマーを生成する。多価イソシアナート類としては、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族系ポリイソシアナート類、イソホロンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアナート、ω,ω’−ジイソシアナートジメチルシクロヘキサン等の脂環族系ジイソシアナート類、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、トリジンジイソシアナート、テトラメチレンキシリレンジイソシアナート、ナフタレン−1,5−ジイソシアナート等の芳香族系ジイソシアナート類などが挙げられる。
【0056】
得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させてウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが得られる。
【0057】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、1分子中にヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシシクロオクチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、ビニルフェノール、ビスフェノールAのジグリシジルエステルに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる反応物などが挙げられる。
【0058】
末端イソシアナートウレタンプレポリマーおよびヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させるための条件としては、末端イソシアナートウレタンプレポリマーとヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとを、必要に応じて溶剤、触媒の存在下、60〜100℃程度で、1〜4時間程度反応させればよい。
【0059】
このようにして得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量Mw(ゲルパーミエテーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値をいう、以下同様。)は、特に限定されないが、通常、重量平均分子量Mwを、40000〜100000程度とすることが好ましく、41000〜80000程度とすることがより好ましく、45000〜70000程度とすることが特に好ましい。重量平均分子量Mwを40000以上とすることで、中間層の破断伸度を向上させることができ、100000以下とすることで、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの樹脂粘度を低くすることができ、中間層形成用塗布液のハンドリング性が向上する。
【0060】
得られるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、分子内に光重合性の二重結合を有し、エネルギー線照射により重合硬化し、皮膜を形成する性質を有する。このようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、分子内に比較的鎖長の長い柔軟な部位を有し、また重合点となるアクリロイル基が分子量に比して少ないため、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの硬化物をマトリックス樹脂として含む中間層は、前述したような特異な弾性挙動を示す。
【0061】
上記のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記のようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーのみでは、製膜が困難な場合が多いため、好ましくはエネルギー線硬化性モノマーを混合して製膜した後、これを硬化してマトリックス樹脂を得る。エネルギー線硬化性モノマーは、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有し、特に本発明では、比較的嵩高い基を有するアクリル酸エステル系化合物が好ましく用いられる。
【0062】
エネルギー線硬化性モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜30の(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレートなどの脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;フェノキシエチルアクリレート、フェニルヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートなどの芳香族構造を有する(メタ)アクリレート、もしくはテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリンなどの複素環式構造を有する(メタ)アクリレート、スチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピロリドンまたはN−ビニルカプロラクタムなどのビニル化合物が挙げられる。また、必要に応じて多官能(メタ)アクリレートを用いても良いが、多官能(メタ)アクリレートを多用すると、マトリックス樹脂に架橋構造が過多になり、中間層が固くなりすぎるおそれがある。
【0063】
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとの相溶性の点から、比較的嵩高い基を有する脂環式構造を有する(メタ)アクリレート、芳香族構造を有する(メタ)アクリレート、複素環式構造を有する(メタ)アクリレートが好ましい。
【0064】
このエネルギー線硬化性モノマーの使用量は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部(固形分)に対して、100〜700質量部が好ましく、200〜600質量部がより好ましい。
【0065】
中間層の形成方法は、特に限定はされず、熱溶融性樹脂とマトリックス樹脂と適当な溶媒とからなる塗布液を、前記基材フィルム上に製膜、乾燥して中間層を形成してもよく、また別の剥離シート上に前記塗布液を塗布、乾燥し、得られた被膜を基材フィルム上に転写してもよい。しかし、この方法では、乾燥時の加熱により熱溶融性樹脂が溶融するが、冷却後に固化した熱溶融性樹脂とマトリックス樹脂との分離状態を制御することは容易でない。このため、熱溶融性樹脂がマトリックス樹脂に相溶したり、あるいは熱溶融性樹脂の分離ドメインのサイズが一定せず、サイズ差の大きなドメインが混在したり、熱溶融性樹脂の分散が不均一になったりすることがある。また、乾燥時間が長くなると、マトリックス樹脂と熱溶融性樹脂との密度差により、樹脂が移動し、中間層の組成や厚みが不均一になることもある。さらには、中間層の好ましい厚さは後述するように相当程度大きいため、塗布、乾燥による方法では生産性が悪い上、乾燥時間が長くなるので上記のような熱溶融性樹脂の分布の制御の困難性や不均一性がいっそう高まるおそれがある。
【0066】
マトリックス樹脂中に熱溶融性樹脂が均一に分散した中間層を得る上では、前記のエネルギー線重合性のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含むマトリックス樹脂前駆体、熱溶融性樹脂および必要に応じて用いられる他のポリマー成分および分散媒からなる配合物を、前記基材フィルム上に製膜後、エネルギー線照射により被膜を硬化して中間層を形成することが好ましく、また別の剥離シート上に前記配合物を塗布、エネルギー線硬化、得られた被膜を基材フィルム上に転写してもよい。エネルギー線硬化によれば、加熱乾燥する工程と比べて、配合物の温度上昇が小さく、また短時間で中間層を得ることができる。このため、前記塗布法による不具合を回避するでき、マトリックス樹脂中に熱溶融性樹脂が均一に分散できる。また、予め粒子状態である熱溶融性樹脂を液状の配合物に分散させ、硬化させることで、配合前の熱溶融性樹脂の粒子状態が維持されたまま、マトリックス樹脂との分離状態を構成するので、製膜の前後で熱溶融性樹脂の分散サイズやマトリックス樹脂との界面の状態がほとんど変化することがなく、期待した分離状態で熱溶融性樹脂が分散した中間層が簡便に得られる。また、中間層が厚い場合であっても、生産性に優れ、厚み方向において性状の均一な中間層が得られやすい。
【0067】
製膜方法としては、流延製膜(キャスト製膜)と呼ばれる手法が好ましく採用できる。具体的には、液状の配合物(上記成分の混合物を、必要に応じ溶媒で希釈した液状物)を、たとえば基材フィルムまたは剥離シート上に薄膜状にキャストした後に、塗膜にエネルギー線を照射して重合硬化させてフィルム化する。このような製法によれば、製膜時に樹脂にかかる応力が少なく、フィッシュアイの形成が少ない。また、膜厚の均一性も高く、厚み精度は、通常2%以内になる。エネルギー線としては、具体的には、紫外線、電子線等が用いられる。また、その照射量は、エネルギー線の種類によって様々であり、たとえば紫外線を用いる場合には、紫外線強度は50〜300mW/cm、紫外線照射量は100〜1800mJ/cm程度が好ましい。
【0068】
製膜時、紫外線をエネルギー線として使用する場合、該配合物に光重合開始剤を配合することにより、効率よく反応することができる。このような光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光重合開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
光重合開始剤の使用量は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーおよびエネルギー線硬化性モノマーの合計100質量部に対して、好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部、特に好ましくは0.3〜5質量部である。
【0070】
また、中間層には、炭酸カルシウム、シリカ、雲母などの無機フィラー、鉄、鉛等の金属フィラー、顔料や染料等の着色剤等の添加物が含有されていてもよい。
【0071】
中間層の厚みは、好ましくは50〜500μmであり、さらに好ましくは100〜400μmであり、特に好ましくは200〜350μmの範囲にある。
【0072】
(粘着剤層)
上記の中間層の上には、粘着剤層が形成される。粘着剤層は、ウエハに対し適度な再剥離性があればその種類は特定されず、種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。また、エネルギー線の照射により硬化して再剥離性となるエネルギー線硬化型粘着剤や、加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤も用いることができる。
【0073】
エネルギー線硬化(紫外線硬化、電子線硬化)型粘着剤としては、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。このようなエネルギー線硬化型粘着剤の具体例は、たとえば特開昭60−196956号公報および特開昭60−223139号公報に記載されている。また、水膨潤型粘着剤としては、たとえば特公平5−77284号公報、特公平6−101455号公報等に記載のものが好ましく用いられる。
【0074】
中間層表面に粘着剤層を設ける方法は、剥離シート上に所定の膜厚になるように粘着剤組成物を塗布し形成した粘着剤層を中間層の表面に転写しても構わないし、中間層の表面に直接粘着剤組成物を塗布して粘着剤層を形成しても構わない。
【0075】
粘着剤層の厚みは、1〜150μmであり、さらに好ましくは20〜100μmであり、特に好ましくは40〜80μmの範囲にある。
【0076】
(粘着シート)
本発明に係る粘着シートは、基材フィルムと、中間層と、粘着剤層とがこの順に積層されてなる。また、中間層と粘着剤層との間での成分の移行を防止するため、中間層と粘着剤層との間にバリア層を設けても良い。
【0077】
上述の中間層の厚さの好ましい範囲と、粘着剤層の厚さの好ましい範囲にしたがえば、中間層と粘着剤層との合計厚みは、好ましくは51〜650μmであり、さらに好ましくは120〜500μmであり、特に好ましくは240〜430μmの範囲にある。なお、バリア層を設ける場合には、中間層と粘着剤の合計厚みには、バリア層の厚みも算入する。
【0078】
中間層と粘着剤層の合計厚さは、粘着シートが貼着される被着体のバンプ高さ、バンプ形状、バンプ間隔のピッチ等を考慮して適宜に選定され、一般的には、中間層と粘着剤層の合計厚さは、バンプ高さの110%以上、好ましくは130〜500%となるように選定することが望ましい。このように中間層と粘着剤層の合計厚さを選定すると、回路面の凹凸に粘着シートが追随して凹凸差を解消できる。なお、バンプ高さは、回路面の平坦面(バンプが形成されていない部分)からバンプの頂部までの高さであり、複数存在するバンプの高さの算術平均により定義される。
【0079】
粘着剤層には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートは、特に限定されるものではなく、剥離シート用基材に剥離剤で処理したものを使用することができる。剥離シート用基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙が挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤が挙げられる。
【0080】
本発明に係る粘着シートを製造する方法は特に限定されないが、たとえば以下の方法により製造することができる。まず、基材フィルム上に中間層を製膜する。製膜の方法としては上述した中間層の好ましい製膜方法を採用できる。次に、一時的な保護材として、中間層の基材と接しているのと逆の面に剥離シートなどを貼り合わせる。保護材を設けることで、中間層付き基材を巻き取り、ロール状として保管したり、あるいはシート状態で重ね合わせて保管したりすることができる。次いで、保護材を除去し、常法により予めシート状に調整しておいた粘着剤層と、中間層とを貼り合わせ、基材フィルム、中間層、粘着剤層の順に積層された粘着シートを得る。
【0081】
本発明に係る粘着シートは、テープ状などあらゆる形状をとり得る。また、被着体の形状に予め型抜きされた粘着シートが剥離シート上に保持されたプリカット形状であっても良い。プリカット形状の粘着シートは、剥離シート上に未切断の粘着シートを設けた後、粘着シートのみを被着体形状に完全に打ち抜き、剥離シートは完全には切断しない、いわゆるハーフカット法により得られる。この際、粘着シートを完全に切断するため、剥離シートにも若干切り込むことが好ましい。しかし、剥離シートを過度に切り込むと、強度が低下し、操作性が損なわれるため、剥離シートへの切り込み深さは剥離シートの全厚の30%以下、さらに好ましくは20%以下とする。
【0082】
(粘着シートの使用形態)
本発明の粘着シートは、各種物品の表面保護、精密加工時の一時的な固定用に用いられる。特に本発明の粘着シートは、表面の凹凸差の大きな物品の表面保護シートや、半導体ウエハをチップ状に切断分離するためのダイシングシートとして好ましく用いられる。表面保護シートとして用いる場合には、特に、上記粘着シートを被着体の表面に表面保護シートとして貼付し、該被着体表面の保護を行ないつつ、その裏面加工を行う工程を含むプロセスに好ましく用いられる。ここで、被着体としては、バンプを有する回路が表面に形成された半導体ウエハが特に好適であり、またその裏面加工としては、バンプを有する回路が表面に形成された半導体ウエハの裏面研削が特に好適である。ここで、バンプの高さは特に限定はされないが、本発明の方法によれば、40μm以上、さらには50〜400μm、特には70〜300μmの高さのバンプを有する回路が形成された半導体ウエハの加工にも対応できる。
【0083】
(ウエハ裏面研削方法)
まず、本発明の粘着シートを用いたウエハ裏面研削方法について、詳細に説明する。ウエハの裏面研削においては、表面に回路が形成された半導体ウエハの回路面に粘着シートを貼付して回路面を保護しつつウエハの裏面を研削し、所定厚みのウエハとする。
【0084】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハの回路形成工程において、所定の回路が形成される。このようなウエハの研削前の厚みは特に限定はされないが、通常は500〜1000μm程度である。また、半導体ウエハの表面形状は特に限定はされないが、本発明の粘着シートは、特に回路表面にバンプが形成されたウエハの表面保護に好ましく用いられる。
【0085】
本発明の粘着シートは、上記のような特異な弾性挙動を示す中間層および粘着剤層を有し、加熱条件下では、バンプの凹凸に充分に追従可能な粘弾性を示す。本発明の粘着シートを貼付する際には、中間層の貯蔵弾性率が低下した状態で行うことが好ましい。したがって、粘着シートの半導体ウエハへの貼付は、熱溶融性樹脂の融点(Tm)以上の温度で行うことが好ましく、熱溶融樹脂の溶融による貯蔵弾性率変化への影響が少なくなる、Tmよりも6℃高い温度以上の温度で行うことがより好ましい。しかし、貼付時の温度が高すぎると、中間層や粘着剤層が過度に軟化、流動化し、粘着シートの側面から浸みだすことがあるため、Tmよりも50℃高い温度以下の温度で貼付することが好ましく、Tmよりも30℃高い温度以下の温度で貼付することがより好ましい。
【0086】
加熱下で粘着シートを貼付すると、バンプが形成されているウエハ面に、粘着剤層および中間層が埋め込まれ、凹凸差を解消する。また、貼付後放冷することで、中間層の弾性率は回復し、中間層が固くなるため、ウエハを平坦な状態で保持できる。また本発明の粘着シートは、ウエハの表面形状に対する追従性が高く、しかも常態では中間層が比較的硬質であるため、ウエハ裏面研削時にウエハに強い剪断力が負荷されても、ウエハの振動、位置ズレが防止でき、ウエハ裏面を平坦、かつ極薄にまで研削することができる。
【0087】
裏面研削は粘着シートが貼付されたままグラインダーおよびウエハ固定のための吸着テーブル等を用いた公知の手法により行われる。裏面研削工程の後、研削によって生成した破砕層を除去する処理が行われてもよい。裏面研削後の半導体ウエハの厚みは、特に限定はされないが、好ましくは10〜400μm、特に好ましくは25〜300μm程度である。
【0088】
裏面研削工程後、回路面から粘着シートを剥離する。なお、粘着シートの剥離時には、前記Tm以上の温度に加熱することで中間層が軟化し、剥離が容易になる。本発明の粘着シートによれば、ウエハの裏面研削時にはウエハを確実に保持し、また切削水の回路面への浸入を防止できる。
【0089】
(先ダイシング法)
さらにまた、本発明の粘着シートは、いわゆる先ダイシング法による高バンプ付ウエハのチップ化において好ましく用いられ、具体的には、
バンプを有する回路が表面に形成された半導体ウエハ表面からそのウエハ厚さよりも浅い切込み深さの溝を形成し、
該回路形成面に、上記粘着シートを表面保護シートとして貼付し、
その後上記半導体ウエハの裏面研削をすることでウエハの厚みを薄くするとともに、最終的には個々のチップへの分割を行なう、
半導体チップの製造方法に好ましく用いられる。
【0090】
粘着シートの貼付における好ましい態様は前記と同様である。本発明の粘着シートを用いることで、ウエハ(チップ)と粘着剤層との間に高い密着性が得られるため、回路面への研削水の浸入がなく、チップの汚染を防止できる。
【0091】
その後、所定の方法でチップのピックアップを行う。また、チップのピックアップに先立ち、ウエハ形状に整列した状態のチップを、他の粘着シートに転写し、その後、チップのピックアップを行ってもよい。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、各種物性の評価は次のように行った。
【0093】
(ディンプルおよびクラックの発生)
ソルダーバンプ付ウエハ(チップサイズ縦10mm×横10mmのチップが整列している8インチシリコンウエハ、バンプ高さ250μm、バンプピッチ500μm、全厚720μm)に粘着シートを貼付、固定した。粘着シートの貼付は、中間層に含まれる熱溶融性樹脂の融点(Tm)よりも高く、Tmより50℃高い温度以下の表3に示す温度でリンテック(株)製ラミネーター「RAD3510F/12」を用いて行った。厚み200μmまで研削((株)ディスコ社製 グラインダーDGP8760を使用。)し、次いでリンテック(株)製RAD2700F/12を用いて粘着シートを剥離した後、ウエハの裏面を目視にて観察し、ウエハ裏面のバンプに対応する部分にディンプルが発生していないか確認した。
【0094】
ディンプルが発生していないものをA、わずかにディンプルが発生しているのが確認されたが実用上問題ないものをB、明らかにディンプルが発生したものをCとした。また、ウエハのクラック(ウエハのひび、割れ)の有無を目視にて確認した。
【0095】
(高低差)
バンプ高さ250μmのバンプ付ウエハに粘着シートを上記と同様にして貼付し、直後にテクロック社製 定圧厚さ測定器:PG−02にてバンプの有る部分の全厚“A”(ウエハの裏面から粘着シートの基材フィルム表面までの距離)、バンプが無い部分の全厚“B”を測定し、「A−B」を高低差として算出した。高低差が小さいほど、バンプ高さに起因する凹凸が粘着シートによって緩和されていることを意味する。
【0096】
(研削水の浸入)
バンプ高さ250μmのバンプ付ウエハの回路面に粘着シートを貼付した後、水を噴霧しつつウエハ裏面を全厚200μmまで研削し、ウエハ表面から粘着シートを剥がし、ウエハ表面への研削水の浸入の有無を光学デジタル顕微鏡(倍率100倍)にて確認した。
【0097】
(埋め込み性)
バンプ高さ250μmのバンプ付ウエハの回路面に粘着シートを貼付し、直後に光学デジタル顕微鏡(倍率300倍)にて観察し、バンプ間の埋め込み距離を測定した。なお、バンプ間の埋め込み距離は、次のように定義する。
【0098】
近接する4つのバンプ頂部を直線により結び正方形を仮想する。正方形の対角線を測定し、対角線の長さからバンプの直径を引き、バンプ間隔とする。対角線上において粘着剤層とウエハ表面とが密着している距離を測定し、バンプ間の埋め込み距離とする。
【0099】
(埋め込み距離/バンプ間隔)×100を算出し、埋め込み性(%)とする。埋め込み性は、バンプ間の隙間に対する粘着シートの密着性の指標であり、埋め込み性が高いほど、粘着シートとバンプ付ウエハとが隙間なく密着していることを意味する。埋め込み性が低い場合には、バンプの根本部分において粘着シートの密着が不十分になっていることを意味する。
【0100】
(密着性)
ディンプルおよびクラックの発生の評価と同様にして、粘着シートの半導体ウエハへの貼付、半導体ウエハの研削、粘着シートの剥離を行った。剥離の際に、中間層が基材からまったく剥離することなく良好な場合をA、中間層が基材フィルムから剥離することがある場合をB、中間層が基材から必ず剥離する場合をCとした。
【0101】
(マトリックス樹脂前駆体と熱溶融性樹脂の分散均一性)
実施例において、マトリックス樹脂前駆体に熱溶融性樹脂を添加した混合物のろ過を#120メッシュを用いて行った後、分散均一性を目視により評価し、分散不良およびろ過不良のいずれも認められない場合をA、分散不良またはろ過不良が若干認められる場合をB、分散不良またはろ過不良が著しい場合をCとした。
【0102】
(粘弾性測定)
剥離フィルム(リンテック社製、製品名「SP−PET381031」、厚み38μm)上に、中間層形成用の材料組成物をファウンテンダイ方式で厚み300μmとなるように塗布し、紫外線照射装置としてベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名「US2−0801<2>」)を使用し、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、製品名「H04−L41」)にて、紫外線ランプ高さ180mm、紫外線ランプ出力120W/cm、光線波長365nmの照度が150mW/cm、光量が112mJ/cmとなる装置条件で紫外線照射を行うことにより組成物層を架橋・硬化させ、硬化直後に、硬化組成物層の上にさらに剥離フィルム(リンテック社製、製品名「SP−PET381031」、厚み38μm)の剥離面をラミネートした。なお光量の測定は、紫外線光量計(アイグラフィクス社製、製品名「UVPF−A1」)を用いて行った。
【0103】
次いで、同紫外線照射装置を使用し、紫外線ランプ高さ150mm、紫外線ランプ出力160W/cm、光線波長365nmの照度が285mW/cm、光量が387mJ/cm(同紫外線光量計にて光量を測定)の条件にて、基材側から4回の紫外線照射を行ない、照射した紫外線の総光量を1660mJ/cmとし、剥離フィルムに挟まれた単層の中間層を得た。
【0104】
剥離フィルムを剥離して中間層を積層し、厚みが1〜2mmになるようにラミネートを繰り返した。得られた中間層の積層体を用いて、粘弾性測定装置(Rheometric社製ARES(捻りせん断方式))を用いて、周波数1Hz(6.28rad/sec.)における−20〜120℃の貯蔵弾性率を測定した。
【0105】
(熱溶融性樹脂)
熱溶融性樹脂として、下記の樹脂を用いた。
【0106】
【表1】

【0107】
(実施例1)
ウレタンアクリレート、アクリル酸エステルモノマー、及び光重合開始剤が配合されてなる市販のエネルギー線重合性組成物(荒川化学社製:ビームセット520MA−9)をマトリックス樹脂前駆体とし、該マトリックス樹脂前駆体100質量部に、結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)20質量部を添加した後、#120メッシュを用いてろ過を行い、常温液体の中間層形成用の材料組成物を作成した。
【0108】
基材フィルムとして、PET38 T−100(三菱樹脂化学社製、厚み38μm)を用い、該基材フィルム上に、上記組成物をファウンテンダイ方式で厚み300μmとなるように塗布し、紫外線照射装置としてベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名「US2−0801<2>」)を使用し、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、製品名「H04−L41」)にて、紫外線ランプ高さ180mm、紫外線ランプ出力120W/cm、光線波長365nmの照度が150mW/cm、光量が112mJ/cmとなる装置条件で紫外線照射を行うことにより組成物層を架橋・硬化させ、硬化直後に、硬化組成物層の上に剥離フィルム(リンテック社製、製品名「SP−PET381031」、厚み38μm)の剥離面をラミネートした。なお光量の測定は、紫外線光量計(アイグラフィクス社製、製品名「UVPF−A1」)を用いて行った。
【0109】
次いで、同紫外線照射装置を使用し、紫外線ランプ高さ150mm、紫外線ランプ出力160W/cm、光線波長365nmの照度が285mW/cm、光量が387mJ/cm(同紫外線光量計にて光量を測定)の条件にて、基材フィルム側から4回の紫外線照射を行ない、照射した紫外線の総光量を1660mJ/cmとし、基材フィルム/中間層/剥離フィルムの積層体を得た。
【0110】
次に、この積層体の中間層側にラミネートされた剥離フィルムを剥がし、予めシート状に調製しておいた、厚さ50μmのフィルム状のアクリル系粘着剤を積層し、粘着シートを得た。なお、シート状粘着剤は、アクリル系粘着剤(2−エチルヘキシルアクリレートとヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体で、ヒドロキシエチルアクリレートの水酸基に80%のIEM(イソシアナートエチルメタクリレート)を付加したもの)100質量部と硬化剤(ジイソシアナート系)1質量部と、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)3.1質量部とを混合した粘着剤組成物を、剥離フィルム上に、乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布・乾燥して得た。
【0111】
中間層の粘弾性測定結果および粘着シートの評価結果を表3に示す。
【0112】
(実施例2)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)の配合量を40質量部に変更した以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0113】
(実施例3)
実施例1で使用した結晶性ポリα―オレフィンに代えて、結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−7100)を用いた以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0114】
(実施例4)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−7100)の配合量を40質量部に変更した以外は実施例3と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0115】
(実施例5)
市販のエネルギー線重合性組成物(荒川化学社製:ビームセット520MA−9)100質量部を、同エネルギー線重合性組成物60質量部と、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)40質量部との混合物に変えたマトリックス樹脂前駆体を用いた以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0116】
(実施例6)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)の配合量を25質量部に変更した以外は実施例5と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0117】
(実施例7)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)の配合量を30質量部に変更した以外は実施例5と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0118】
(実施例8)
フェノキシエチルアクリレート40質量部を、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)30質量部およびイソオクチルアクリレート(サートマー社製:SR440)10質量部に変えたマトリックス樹脂前駆体を用いた以外は実施例5と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0119】
(実施例9)
実施例8において、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)の配合量を20質量部に変え、イソオクチルアクリレート(サートマー社製:SR440)の配合量を20質量部に変えた以外は実施例8と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0120】
(実施例10)
フェノキシエチルアクリレート40質量部を、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)30質量部およびイソデシルアクリレート(サートマー社製:SR395)10質量部に変えたマトリックス樹脂前駆体を用いた以外は実施例5と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0121】
(実施例11)
実施例10において、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)の配合量を20質量部に変え、イソデシルアクリレート(サートマー社製:SR395)の配合量を20質量部に変えた以外は実施例10と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0122】
(実施例12)
実施例10において、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)の配合量を10質量部に変え、イソデシルアクリレート(サートマー社製:SR395)の配合量を30質量部に変えた以外は実施例10と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0123】
(実施例13)
実施例5において、フェノキシエチルアクリレート(サートマー社製:SR339A)をステアリルアクリレート(サートマー社製:SR257)に変えた以外は実施例5と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0124】
(実施例14)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)20質量部に代えて、アクリル系ポリマー(日本触媒製:ST−100)5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0125】
(実施例15)
アクリル系ポリマー(日本触媒製:ST−100)の配合量を13.63質量部に変更した以外は実施例14と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0126】
(比較例1)
結晶性ポリα−オレフィン(出光興産製:エルクリスタ X−W−6100)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。結果を表3に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、中間層と、粘着剤層とがこの順に積層されてなり、
該中間層が融点(Tm)を有する熱溶融性樹脂を含み、
前記融点Tmよりも6℃高い温度(Tm+6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm+6)と、前記融点Tmよりも6℃低い温度(Tm−6)における中間層の貯蔵弾性率G’(Tm−6)について、G’(Tm−6)/G’(Tm+6)が2.0以上である粘着シート。
【請求項2】
前記熱溶融性樹脂が、融点を(Tm)45〜90℃の範囲に有する請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記熱溶融性樹脂の溶融開始温度が、(Tm−8)℃以上である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記熱溶融性樹脂がオレフィン系材料である請求項1〜3の何れかに記載の粘着シート。
【請求項5】
前記オレフィン系材料が、炭素数14〜30のα−オレフィンの重合体である請求項4に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記中間層は、前記熱溶融性樹脂が、マトリックス樹脂中に分散してなる請求項1〜5の何れかに記載の粘着シート。
【請求項7】
マトリックス樹脂が融点を有しないか、または融点が粘着シートの被着体への貼付温度を超える請求項6に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が、エネルギー線硬化型樹脂からなる請求項6または7に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記エネルギー線硬化型樹脂が、ウレタン樹脂とエネルギー線硬化性モノマーとを含む配合物をエネルギー線硬化させた硬化物である請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記中間層が、前記熱溶融性樹脂とウレタン樹脂とエネルギー線硬化性モノマーとを含む配合物をエネルギー線硬化させた硬化物である請求項1に記載の粘着シート。
【請求項11】
前記中間層の25℃における貯蔵弾性率G’(25)が0.05MPa〜20MPa、50℃における貯蔵弾性率G’(50)が0.01MPa〜15MPa、80℃における貯蔵弾性率G’(80)が0.001MPa〜1MPaであり、G’(25)>G’(50)>G’(80)の関係を満足する請求項1に記載の粘着シート。
【請求項12】
基材フィルムの厚みが50〜200μm、中間層の厚みが50〜500μm、粘着剤層の厚みが1〜150μmである請求項1〜11の何れかに記載の粘着シート。
【請求項13】
半導体ウエハの裏面加工を行う際に、半導体ウエハ表面を保護するための表面保護シートである請求項1〜12の何れかに記載の粘着シート。
【請求項14】
請求項13に記載の粘着シートを、バンプを有する回路が表面に形成された半導体ウエハの表面に貼付し、該半導体ウエハ回路面の保護を行ないつつ、その裏面研削を行う工程を含むことを特徴とする半導体ウエハの加工方法。
【請求項15】
熱溶融性樹脂の融点(Tm)以上であって、Tmよりも50℃高い温度以下の温度で粘着シートを半導体ウエハに貼付する請求項14に記載の半導体ウエハの加工方法。
【請求項16】
バンプを有する回路が形成された半導体ウエハ表面からそのウエハ厚さよりも浅い切込み深さの溝を形成し、該回路形成面に、請求項13に記載の粘着シートを貼付し、その後上記半導体ウエハの裏面研削をすることでウエハの厚みを薄くするとともに、最終的には個々のチップへの分割を行なう工程を含むことを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項17】
熱溶融性樹脂の融点(Tm)以上であって、Tmよりも50℃高い温度以下の温度で粘着シートを半導体ウエハに貼付する請求項16に記載の半導体チップの製造方法。

【公開番号】特開2013−87131(P2013−87131A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226031(P2011−226031)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】