説明

粘着シート類

【課題】高い接着性を有し、優れた端末剥がれ防止性を有すると共に、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量が極めて少ない粘着シート類を提供する。
【解決手段】粘着シート類は、水分散型アクリル系重合体と、ロジン系又はテルペン系の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤による粘着剤層を、少なくとも有している粘着シート類であって、前記水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対するアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルの割合が85重量%以上であり、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合[アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル](重量比)が5/95〜60/40であり、前記粘着付与樹脂を含有するエマルジョンが、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて調製された粘着付与樹脂含有エマルジョンであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート類に関し、さらに詳しくは、高い接着性を有し、且つ優れた端末剥がれ防止性を有するとともに、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量が極めて少ない粘着シート類(粘着テープ、粘着シート、粘着フィルムなど)に関する。
【背景技術】
【0002】
水分散型のアクリル系重合体を用いた水分散型アクリル系粘着剤は、溶剤型アクリル系粘着剤のように、溶媒として有機溶剤が用いられていないため、環境衛生上望ましく、耐溶剤性の観点でも優れている利点を有している。一般に、アクリル系粘着剤が用いられた粘着剤層では、アクリル系重合体は接着性や端末剥がれ防止性(被着体に貼付された後、端部が剥がれにくいという特性)が低く、発現しがたいため、粘着付与樹脂を含有するエマルジョンを用いることにより、接着性や端末剥がれ防止性を高めている。しかし、粘着付与樹脂を含有するエマルジョンは、その製造工程にて、粘着付与樹脂の溶解粘度や溶融粘度を低下させる目的等で、有機溶剤を使用する場合がある(特許文献1参照)。なお、有機溶剤を使用しないで、粘着付与樹脂を含有するエマルジョンを製造するには、高温高圧下で乳化をしなければならず、軟化温度の高い樹脂(例えば、130℃以上の軟化点を持つ樹脂など)では、その方法が非常に困難であったり、また、使用する乳化剤の種類や量に大きな制限を受けたりする場合が多い。一方、軟化温度の低い樹脂(例えば、130℃未満の軟化点を持つ樹脂など)ならば、有機溶剤を使用しないでも、加熱により溶融させて乳化させることができる場合があるが、このような軟化温度の低い粘着付与樹脂だけでは、高い接着性や、優れた端末剥がれ防止性、耐熱性などが得られがたく、作製された粘着シート類の用途が限定されてしまうと考えられる。
【0003】
前述のように、高軟化点を有する粘着付与樹脂の溶解粘度や溶融粘度を低下させる際の作業性を向上させるためや、使用する乳化剤の種類や量の自由度を広げて粘着特性を満足させるために、有機溶剤を使用して、粘着付与樹脂を溶解又は溶融させる場合があり、通常は、減圧留去させるものの、最終製品には、前記有機溶剤が微量ながら残存しているという問題があった。このような有機溶剤としては、作業性やコスト等の観点から、トルエン等の芳香族炭化水素系有機溶剤が一般的に用いられているが、芳香族炭化水素系有機溶剤は毒性が高いため、芳香族炭化水素系有機溶剤が残存した粘着剤や粘着シート類を使用することにより、環境への影響が懸念され、特に、自動車内装材、住宅建材のような密閉空間における用途では、人体への影響も懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−285137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、高い接着性を有し、且つ優れた端末剥がれ防止性を有するとともに、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量が極めて少ない粘着シート類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の水分散型アクリル系重合体と特定の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含む水分散型アクリル系粘着剤による粘着剤層を有している粘着シート類により、アクリル系粘着剤による粘着剤層を有している粘着シート類であっても、高い接着性を有し、且つ優れた端末剥がれ防止性を発揮させることができ、また、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量を低減させることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、水分散型アクリル系重合体と、ロジン系又はテルペン系の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤による粘着剤層を、少なくとも有している粘着シート類であって、前記水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対するアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルの割合が85重量%以上であり、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合[アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル](重量比)が5/95〜60/40であり、前記粘着付与樹脂を含有するエマルジョンが、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて調製された粘着付与樹脂含有エマルジョンであることを特徴とする粘着シート類である。
【0008】
前記粘着シート類は、ホルムアルデヒドの放散量が3μg/m3未満であり、且つトルエンの放散量が10μg/g以下である。
また、前記粘着剤層における溶剤不溶分の割合が、該粘着剤層における固形分全量に対して15〜70重量%であることが好ましい。
また、前記粘着剤層における溶剤可溶分のアクリル系重合体は、重量平均分子量(ポリスチレン換算、分析装置:TOSOH社製の「HLC−8120GPC」、カラム:「TSKgel GMH−H(S)」)が10万〜60万であることが好ましい。
さらに、前記粘着シート類は、不織布基材の両面に前記粘着剤層を有する両面粘着シートであることが好ましい。
【0009】
本発明の粘着シート類は、自動車用材料又は住宅用材料の固定の際に好適に用いることができる。
また、本発明は、シリコーン系剥離処理剤による剥離処理層を有する剥離ライナー上に、水分散型アクリル系重合体と、ロジン系又はテルペン系の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤を塗布し乾燥させて、厚みが5〜100μmの粘着剤層を形成した後、該粘着剤層を、基材の少なくとも一方の面(片面又は両面)に転写させることにより作製する両面粘着シートの製造方法であって、前記水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対するアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルの割合が85重量%以上であり、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合[アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル](重量比)が5/95〜60/40であり、前記粘着付与樹脂を含有するエマルジョンが、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて調製された粘着付与樹脂含有エマルジョンであることを特徴とする両面粘着シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着シート類によれば、高い接着性を有し、且つ優れた端末剥がれ防止性を有するとともに、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量が極めて少ない。従って、自動車用材料又は住宅用材料の固定の際に用いられる粘着シート類として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)〜(f)は、それぞれ、本発明の粘着シート類の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部材や部位などには同一の符号を付している場合がある。
【0013】
本発明の粘着シート類は、図1で示されるように、支持体の少なくとも一方の面に、水分散型アクリル系重合体と、粘着付与樹脂を含有するエマルジョン(「粘着付与樹脂含有エマルジョン」と称する場合がある)とを含有する水分散型アクリル系粘着剤による粘着剤層(「粘着付与樹脂含有粘着剤層」と称する場合がある)が、形成された構成を有しており、且つホルムアルデヒドの放散量(ホルムアルデヒド放散量)が3μg/m3未満であるとともに、トルエンの放散量(トルエン放散量)が10μg/g以下である特性を有している。このように、粘着シート類は、ホルムアルデヒド放散量が3μg/m3未満であり、且つトルエン放散量が10μg/g以下である特性を有しているので、粘着付与樹脂含有エマルジョンが用いられているにもかかわらず、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量が大きく低減されている。もちろん、粘着付与樹脂含有エマルジョンが用いられているので、高い接着性および優れた端末剥がれ防止性を確保することができる。従って、本発明の粘着シート類では、高い接着性および優れた端末剥がれ防止性を確保しつつ、ホルムアルデヒド及びトルエンの放散量を効果的に低減させることができる。
【0014】
本発明の粘着シート類において、ホルムアルデヒドの放散量としては、3μg/m3未満であれば特に制限されず、低ければ低いほどよい。ホルムアルデヒドの放散量としては、2μg/m3以下(特に1μg/m3以下)が好適である。なお、ホルムアルデヒドの放散量は、JIS A 1901(2003)に準拠した方法により測定された値を採用する。この際、測定するサンプルの表面積は、0.043m2とし、サンプル(粘着シート類)の単位体積あたりのホルムアルデヒドの含有量(μg/m3)を算出し、定量する。具体的な条件は次の通りである。
サンプリング条件について
・捕集管:Waters社製「SEP−PAK DNPHSilica カートリッジ short type」
・流量:167mL/min
・採取量:10L
測定機器などについて
・小形チャンバー:ADTEC社製「20Lチャンバー」
・清浄空気供給装置:新菱エコビジネス社製「ADclean」
・シール材、シールボックス:なし
・温湿度制御装置:ADTEC社製「ADPAC−SYSTEM III 温湿度ユニット」
・空気捕集装置:ジーエルサイエンス社製「SP208−1000DUAL サンプリングポンプ」
分析条件について
・高速液体クロマトグラフ:Waters社製「TM996PAD」
・検出器:UV Detector
・カラム:Waters社製「Puresil C18(4.6×150mm)」
・移動相:アセトニトリル水溶液(アセトニトリル:水=50:50)
・注入量:20μL
・検出波長:360nm
【0015】
また、トルエンの放散量としては、10μg/g以下であれば特に制限されず、低ければ低いほどよい。トルエンの放散量としては、5μg/g以下(特に3μg/g以下)が好適である。なお、トルエンの放散量は、下記の[トルエン放散量測定方法]により測定された値を採用する。
[トルエン放散量測定方法]
粘着シート類から、所定のサイズ(面積:5cm2)を切り取って試料を作製し、該試料を、バイアル瓶に入れて密栓する。その後、試料を入れたバイアル瓶を、ヘッドスペースオートサンプラーにより150℃で30分間加熱し、加熱状態のガス1.0mlを、ガスクロマトグラフ測定装置(GC測定装置)に注入して、トルエンの量を測定し、試料(粘着シート類)の単位重量あたりのトルエンの含有量(μg/g)を算出し、定量する。なお、ガスクロマトグラフの測定条件は、次の通りである。
(ガスクロマトグラフの測定条件)
・カラム:DB−FFAP1.0μm(0.535mmφ×30m)
・キャリアーガス:He 5.0mL/min
・カラムヘッド圧:23kPa(40℃)
・注入口:スプリット(スプリット比 12:1、温度250℃)
・カラム温度:40℃(0min)−<+10℃/min>−250(9min)[40℃より、昇温速度10℃/minで250℃まで昇温させた後、250℃で9分間保持させるという意味]
・検出器:FID(温度250℃)
【0016】
なお、図1(a)〜(f)は、それぞれ、本発明の粘着シート類の例を示す概略断面図である。図1において、11〜16は、それぞれ、粘着シート類、2は基材、3は粘着付与樹脂含有粘着剤層、4は剥離ライナーである。図1(a)で示される粘着シート類11は、支持体としての基材2の両面に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ両面の粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、それぞれ、片面のみが剥離面となっている剥離ライナー4により保護された構成を有している。また、図1(b)で示される粘着シート類12は、支持体としての基材2の両面に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ何れか一方の側の粘着付与樹脂含有粘着剤層3が、両面が剥離面となっている剥離ライナー4により保護された構成を有しており、さらに、他方の側の粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、粘着シート類12をロール状に巻回することにより、前記剥離ライナー4の他方の剥離面により保護された構成とすることができる。
【0017】
また、図1(c)で示される粘着シート類13は、支持体としての基材2の片面に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、片面のみが剥離面となっている剥離ライナー4により保護された構成を有している。図1(d)で示される粘着シート類14は、支持体としての基材2の片面に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ支持体としての基材2の背面は剥離面となっており、粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、粘着シート類14をロール状に巻回することにより、支持体としての基材2の背面に形成された剥離面により保護された構成とすることができる。
【0018】
さらにまた、図1(e)で示される粘着シート類15は、支持体としての剥離ライナー4の片面(片面のみが剥離面となっている剥離ライナーにおける剥離面側の片面)に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、片面のみが剥離面となっている剥離ライナー4により保護された構成を有している。図1(f)で示される粘着シート類16は、支持体としての剥離ライナー4(両面が剥離面となっている剥離ライナー)の片面に、粘着付与樹脂含有粘着剤層3が形成された構成を有しており、且つ粘着付与樹脂含有粘着剤層3は、粘着シート類16をロール状に巻回することにより、支持体としての剥離ライナー4の他方の剥離面により保護された構成とすることができる。
【0019】
このように、本発明の粘着シート類は、粘着付与樹脂含有粘着剤層を少なくとも有していればよく、例えば、基材を有している粘着シート類(基材付き粘着シート類)、基材を有していない粘着シート類(基材レス粘着シート類)のいずれであってもよい。また、粘着シート類は、両面が粘着面となっている両面粘着シート類、片面のみが粘着面となっている粘着シート類のいずれであってもよい。なお、粘着シート類が基材レス粘着シート類である場合、支持体としては、粘着付与樹脂含有粘着剤層に対して剥離性を発揮することが可能な支持体(例えば、剥離ライナーなど)を用いることができる。
【0020】
また、本発明の粘着シート類では、ホルムアルデヒドの放散量と、トルエンの放散量とが所定の値となるように調整されており、そのため、粘着シート類を構成する材料(例えば、粘着付与樹脂含有粘着剤層や基材を構成する材料)として、ホルムアルデヒドおよびトルエンの含有量(又は残存量)が少ないものを用いることが重要である。粘着シート類は、少なくとも粘着付与樹脂含有粘着剤層を有しているので、粘着付与樹脂含有粘着剤層を構成する材料として、ホルムアルデヒドおよびトルエンの含有量が少ないものを用いることが好ましい。
【0021】
[粘着付与樹脂含有粘着剤層]
粘着付与樹脂含有粘着剤層は、前述のように、水分散型アクリル系重合体と、粘着付与樹脂を含有するエマルジョン(粘着付与樹脂含有エマルジョン)とを含有する水分散型アクリル系粘着剤により形成されているので、主として、ホルムアルデヒドやトルエンは、粘着付与樹脂含有エマルジョン中に含有されている場合がある。
【0022】
(粘着付与樹脂含有エマルジョン)
粘着付与樹脂含有粘着剤層において、粘着付与樹脂含有エマルジョンは、粘着付与樹脂が水に分散されているエマルジョン形態の粘着付与樹脂組成物である。粘着付与樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂などが挙げられる。粘着付与樹脂は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
具体的には、ロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの未変性ロジン(生ロジン)や、これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合などにより変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンの他、その他の化学的に修飾されたロジンなど)の他、各種のロジン誘導体などが挙げられる。前記ロジン誘導体としては、例えば、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したロジンのエステル化合物や、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなどの変性ロジンをアルコール類によりエステル化した変性ロジンのエステル化合物などのロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなど)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなど)、不飽和脂肪酸変性ロジン類や不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩などが挙げられる。また、ロジン誘導体としては、ロジン類(未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体など)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂なども用いることができる。
【0024】
テルペン系粘着付与樹脂としては、例えば、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体などのテルペン系樹脂や、これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性など)した変性テルペン系樹脂(例えば、テルペン−フェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂など)などが挙げられる。
【0025】
炭化水素系粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂[炭素数4〜5のオレフィンやジエン(ブテン−1、イソブチレン、ペンテン−1等のオレフィン;ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン等のジエンなど)などの脂肪族炭化水素の重合体など]、芳香族系炭化水素樹脂[炭素数が8〜10であるビニル基含有芳香族系炭化水素(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、インデン、メチルインデンなど)の重合体など]、脂肪族系環状炭化水素樹脂[いわゆる「C4石油留分」や「C5石油留分」を環化二量体化した後重合させた脂環式炭化水素系樹脂、環状ジエン化合物(シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ジペンテンなど)の重合体又はその水素添加物、下記の芳香族系炭化水素樹脂や脂肪族・芳香族系石油樹脂の芳香環を水素添加した脂環式炭化水素系樹脂など]、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン−オレフィン系共重合体など)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂などの各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
【0026】
粘着付与樹脂としては、粘着シート類におけるホルムアルデヒド及びトルエンの放散量の低減化とともに、粘着シート類に高い接着性や、優れた端末剥がれ防止性、耐熱性を発揮させるために、軟化点(軟化温度)が120℃以上(好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上)である粘着付与樹脂が好適である。なお、粘着付与樹脂の軟化点の上限としては、特に制限されず、例えば、170℃以下(好ましくは160℃以下、さらに好ましくは155℃以下)とすることができる。
【0027】
なお、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K 5902に規定される環球法によって測定された値として定義する。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、あわができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。つぎに、ガラス容器(径85mm以上、高さ127mm以上)の中に支持器を入れ、あらかじめ沸騰させてから冷やした水を深さ90mm以上となるまで注ぐ。つぎに、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにして水中に浸し、水の温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。つぎに、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。つぎに、環の上端から水面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの水温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0028】
特に、粘着付与樹脂としては、粘着付与樹脂を製造する際の材料(又は原料)として、ホルムアルデヒドが用いられていない粘着付与樹脂を好適に用いることができる。粘着付与樹脂において、ホルムアルデヒドが材料又は原料として用いられていない粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂などが挙げられる。このように、粘着付与樹脂として、材料(又は原料)として、ホルムアルデヒドが用いられていない粘着付与樹脂を用いることにより、粘着付与樹脂含有粘着剤層を有している粘着シート類におけるホルムアルデヒドの放散量(含有量)を、3μg/m3未満にコントロールすることができる。
【0029】
粘着付与樹脂含有エマルジョンは、粘着付与樹脂を水に分散させて調製することができる。この際、粘着付与樹脂含有エマルジョンは、通常、粘着付与樹脂を溶解又は溶融させてから水に分散させることにより、調製されている。粘着付与樹脂が、軟化点の低い粘着付与樹脂である場合、粘着付与樹脂含有エマルジョンは、加熱により粘着付与樹脂を溶融させてから、水に分散させて調製することができる。一方、粘着付与樹脂が、軟化点の高い粘着付与樹脂である場合、粘着付与樹脂含有エマルジョンは、粘着付与樹脂を、有機溶剤を実質上全く用いずに高温高圧下で溶融させる方法、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて溶解させる方法などの粘着付与樹脂の溶解又は溶融方法を利用して、粘着付与樹脂を溶解又は溶融させた後、水に分散させて調製することが好ましい。このように、粘着付与樹脂の溶解又は溶融に際して、前述のような粘着付与樹脂の溶解又は溶融方法を利用することにより、最終的に、粘着付与樹脂含有粘着剤層を有している粘着シート類におけるホルムアルデヒドの放散量(含有量)や、トルエンの放散量(含有量)を、それぞれ、3μg/m3未満、10μg/g以下にコントロールすることができる。
【0030】
なお、有機溶剤を実質上全く用いずに、粘着付与樹脂を乳化させる方法としては、無溶剤系高圧乳化法や、無溶剤系転相乳化法などが挙げられる。無溶剤系高圧乳化法とは、粘着付与樹脂をその軟化点以上に加熱し、溶融状態で、これを水と適当な乳化剤とを予備混合し、高圧乳化機にて乳化して、エマルジョン化する方法である。また、無溶剤系転相乳化法とは、加圧下または常圧下にて、粘着付与樹脂の軟化点以上に昇温して乳化剤を練り込み、熱水を徐々に添加してゆき、転相乳化させて、エマルジョン化する方法である。
【0031】
また、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて、粘着付与樹脂を溶解又は溶融させる方法において、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料としては、粘着付与樹脂の種類などに応じて適宜選択することができ、脂環式炭化水素系有機溶剤を好適に用いることができる。このような脂環式炭化水素系有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン類(シクロヘキサンや、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、メチルエチルシクロヘキサン等のアルキル基含有シクロヘキサンなど)の他、該シクロヘキサン類に対応するシクロペンタン類(シクロペンタンやアルキル基含有シクロペンタンなど)、シクロヘプタン類(シクロヘプタンやアルキル基含有シクロヘプタンなど)、シクロオクタン類(シクロオクタンやアルキル基含有シクロオクタンなど)などが挙げられる。なお、脂環式炭化水素系有機溶剤などの有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることできる。
【0032】
なお、脂環式炭化水素系有機溶剤などの有機溶剤の使用量は、特に制限されないが、粘着付与樹脂を溶解又は溶融させて、必要に応じて乳化剤を用いて水に分散させることが可能な使用量であればよいが、できるだけ最小限の使用量となっていることが好ましい。なお、有機溶剤は、粘着付与樹脂含有エマルジョンを調製した後は、公知乃至慣用の除去方法(例えば、減圧留去方法など)により、できるだけ除去することが重要である。
【0033】
本発明では、粘着付与樹脂含有エマルジョンの調製において、粘着付与樹脂を水に分散させる際には、乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、前記水分散型アクリル系重合体を調製する際に用いられる乳化剤として下記に例示の乳化剤の中から、1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。具体的には、乳化剤としては、例えば、何れの形態の乳化剤であってもよいが、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤を好適に用いることができる。アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のスルホコハク酸型アニオン系乳化剤などが挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。
【0034】
なお、水分散型アクリル系重合体を調製する際の乳化剤と、粘着付与樹脂含有エマルジョンを調製する際の乳化剤とは、同一の乳化剤または異なる乳化剤のいずれであってもよいが、例えば、一方がアニオン系乳化剤であれば、他方もアニオン系乳化剤を用いることが好ましく、また、一方がノニオン系乳化剤であれば、他方もノニオン系乳化剤を用いることが好ましい。
【0035】
乳化剤の使用量としては、粘着付与樹脂をエマルジョンの形態に調製することが可能な使用量であれば特に制限されず、例えば、粘着付与樹脂全量(固形分)に対して0.2〜10重量%(好ましくは0.5〜5重量%)程度の範囲から選択することができる。
【0036】
なお、粘着付与樹脂含有エマルジョンとしては、例えば、商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製;軟化点145℃;有機溶剤を実質上全く用いずに製造された粘着付与樹脂含有エマルジョン)や、商品名「タマノルE−200−NT」(荒川化学株式会社製;軟化点150℃;脂環式炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂含有エマルジョン)などが使用できる。
【0037】
(水分散型アクリル系重合体)
粘着付与樹脂含有粘着剤層において、水分散型アクリル系重合体は、アクリル系重合体が水に分散されているエマルジョン形態のアクリル系重合体組成物である。アクリル系重合体は、粘着剤のベースポリマー(粘着剤の基本成分)として用いられている。アクリル系重合体では、主構成単量体成分(モノマー主成分)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル)が用いられている。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、下記式(1)で表されるアクリル系化合物を好適に用いることができる。
【化1】

(式(1)において、R1は水素原子又はメチル基、R2はアルキル基を示す。)
【0038】
前記式(1)において、R1は水素原子又はメチル基である。また、R2はアルキル基である。具体的には、R2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の炭素数が1〜20のアルキル基などが挙げられる。R2のアルキル基としては、炭素数が2〜14のアルキル基が好ましく、さらには炭素数が2〜10のアルキル基(特に、ブチル基、2−エチルヘキシル基)が好適である。
【0039】
具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシルなどが挙げられる。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸ブチルを単独で用いてもよく、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとを組み合わせて用いてもよい。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、アクリル酸ブチルを単独で用いるか、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとを組み合わせて用いる場合、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル(重量比)=0/100〜55/45(好ましくは5/95〜60/40)程度の範囲から選択することができる。
【0041】
アクリル系重合体を構成するモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー主成分としていれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合が可能な他のモノマー成分(「共重合性モノマー成分」と称する場合がある)が用いられていてもよい。なお、アクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合としては、80重量%以上(例えば、80〜99.8重量%)、好ましくは85重量%以上(例えば、85〜99.5重量%)、さらに好ましくは90重量以上(90〜99重量%)であることが望ましい。
【0042】
共重合性モノマー成分としては、アクリル系重合体に架橋点を導入させるためや、アクリル系重合体の凝集力を高めるために用いることができる。共重合性モノマー成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
具体的には、共重合性モノマー成分としては、アクリル系重合体に架橋点を導入させるために、官能基含有モノマー成分(特に、アクリル系重合体に熱架橋する架橋点を導入させるための熱架橋性官能基含有モノマー成分)を用いることができる。官能基含有モノマー成分を用いることにより、被着体に対する接着力を向上させることができる。このような官能基含有モノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合が可能であり、且つ架橋点となる官能基を有しているモノマー成分であれば特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー又はその酸無水物(無水マレイン酸、無水イコタン酸など);(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの他、ビニルアルコール、アリルアルコールなどの水酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ含有モノマー;N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどの窒素原子含有環を有するモノマーなどが挙げられる。官能基含有モノマー成分としては、アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー又はその酸無水物を好適に用いることができる。
【0044】
官能基含有モノマー成分の使用量としては、例えば、モノマー主成分としての(メタ)アクリル酸アルキルエステル:100重量部に対して12重量部以下(例えば、0.5〜12重量部、好ましくは1〜8重量部)の範囲から選択することができる。
【0045】
また、共重合性モノマー成分としては、アクリル系重合体の凝集力を高めるために、他の共重合性モノマー成分を用いることができる。他の共重合性モノマー成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル[(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、シクロペンチルジ(メタ)アクリレートなど]や、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの非芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アリールエステル[(メタ)アクリル酸フェニルなど]、(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキルエステル[(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなど]や、(メタ)アクリル酸アリールアルキルエステル[(メタ)アクリル酸ベンジルエステル]などの芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどのアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマーの他、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマー等が挙げられる。
【0046】
水分散型アクリル系重合体の重合方法としては、公知乃至慣用の重合方法を採用することができ、乳化重合方法が好適である。なお、重合の際には、一般的な一括仕込み方法(一括重合方法)、モノマー滴下方法(連続滴下方法、分割滴下方法など)などの各種重合方法を採用することができる。重合温度は、モノマーの種類や、重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、20〜100℃の範囲から選択できる。
【0047】
重合時に用いられる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知乃至慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。重合開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス(N,N´−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系重合開始剤;フェニル置換エタン等の置換エタン系重合開始剤;芳香族カルボニル化合物;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤[例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等によるレドックス系重合開始剤など]が挙げられる。重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分:100重量部に対して0.005〜1重量部程度の範囲から選択することができる。
【0049】
また、重合の際には、分子量を調整するために、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、公知乃至慣用の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、ドデカンチオール(ラウリルメルカプタン)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類の他、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。連鎖移動剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100重量部に対して0.001〜0.5重量部程度の範囲から選択することができる。
【0050】
水分散型アクリル系重合体は、エマルジョンの形態を有しているので、乳化重合方法を利用して調製されたエマルジョン形態の重合物をそのまま用いて、水分散型アクリル系重合体を調製してもよく、または、乳化重合方法以外の重合方法を利用して調製されたアクリル系重合体を水に分散させて、水分散型アクリル系重合体を調製してもよい。なお、乳化重合の際や、アクリル系重合体を水に分散させる際には、乳化剤を用いることができる。乳化剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
具体的には、乳化剤としては、例えば、何れの形態の乳化剤であってもよいが、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤を好適に用いることができる。アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のスルホコハク酸型アニオン系乳化剤などが挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。
【0052】
乳化剤の使用量としては、アクリル系重合体をエマルジョンの形態に調製することが可能な使用量であれば特に制限されず、例えば、アクリル系重合体又はモノマー成分全量に対して0.2〜10重量%(好ましくは0.5〜5重量%)程度の範囲から選択することができる。
【0053】
粘着付与樹脂含有エマルジョンにおいて、粘着付与樹脂の使用量としては、特に制限されず、目的とする粘着力の付与や、端末剥がれ防止性の付与などに応じて適宜設定することができる。粘着付与樹脂含有エマルジョンとしては、粘着付与樹脂含有エマルジョン中の粘着付与樹脂が、水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体:100重量部に対して10〜100重量部(好ましくは15〜80重量部、さらに好ましくは20〜60重量部)となる割合で用いることが望ましい。粘着付与樹脂含有エマルジョンが、粘着付与樹脂含有エマルジョン中の粘着付与樹脂が、水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体:100重量部に対して10重量部未満となる配合量で配合されている場合、粘着付与樹脂の添加効果が充分でなく、目的とする粘着力が得られなくなり、また、端末剥がれ防止性が低下し、一方、100重量部を超えた配合量で配合されている場合、有機溶剤の残存量が増大し、また、アクリル系重合体との相溶性が劣ることにより、粘着力が低下する場合がある。
【0054】
(他の成分)
粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成するための水分散型アクリル系粘着剤には、必要に応じて、架橋剤が用いられていてもよい。架橋剤としては、特に制限されず、公知乃至慣用の架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤など)の中から適宜選択して用いることができる。なお、架橋剤は、油溶性の架橋剤、水溶性の架橋剤の何れであってもよい。架橋剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量としては、特に制限されず、例えば、水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体:100重量部に対して10重量部以下(例えば、0.005〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部)程度の範囲から選択することができる。
【0055】
また、粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成するための水分散型アクリル系粘着剤には、必要に応じて、その他の添加剤(例えば、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、界面活性剤、帯電防止剤など)が含まれていてもよく、また、pHを調整するための塩基(アンモニア水など)や酸などが含まれていてもよい。
【0056】
粘着付与樹脂含有粘着剤層は、前記成分(水分散型アクリル系重合体、粘着付与樹脂含有エマルジョンの他、必要に応じて架橋剤や各種添加剤など)を、それぞれ所定量で混合又は混練することにより調製された水分散型アクリル系粘着剤を、所定の面上に塗布して乾燥又は硬化させることにより、形成することができる。水分散型アクリル系粘着剤の塗布に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなど)を用いることができる。
【0057】
粘着付与樹脂含有粘着剤層の厚みは、例えば、2〜150μm(好ましくは5〜100μm)の範囲から選択することができるが、特に2〜50μm(中でも、2〜20μm)であることが好適である。
【0058】
[支持体]
本発明の粘着シート類では、支持体としては、基材や、剥離ライナーを好適に用いることができる。前述のように、支持体が基材である場合、粘着シート類は、基材付き粘着シート類であり、支持体が基材ではなく、剥離ライナーである場合、粘着シート類は、基材レス粘着シート類である。従って、基材付き粘着シート類における剥離ライナー[例えば、図1(a)〜(c)における剥離ライナー4など]は、支持体には含まれないが、基材レス粘着シート類における剥離ライナー[例えば、図1(e)や(f)における剥離ライナー4など]は、支持体に含まれる。このように、支持体としての剥離ライナーは、粘着付与樹脂含有粘着剤層の積層体を支持しているとともに、粘着付与樹脂含有粘着剤層の表面を保護することができる。
【0059】
支持体において、基材としては、例えば、ポリオレフィン製シート又はフィルム(ポリエチレン製シート又はフィルム、ポリプロピレン製シート又はフィルム、エチレン−プロピレン共重合体製シート又はフィルムなど)、ポリエステル製シート又はフィルム(ポリエチレンテレフタレート製シート又はフィルムなど)、塩化ビニル系樹脂製シート又はフィルム、酢酸ビニル系樹脂製シート又はフィルム、ポリイミド系樹脂製シート又はフィルム、ポリアミド系樹脂製シート又はフィルム、フッ素系樹脂製シート又はフィルム、セロハン類などのプラスチックシート又はフィルム類;和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙などの紙類;綿繊維、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などの天然繊維、半合成繊維又は合成繊維の繊維状物質などからなる単独又は混紡などの織布や不織布等の布類;天然ゴム、ブチルゴム等からなるゴムシート類;ポリウレタン、ポリクロロプレンゴム等からなる発泡体による発泡体シート類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;これらの複合体などが挙げられる。前記プラスチックシート又はフィルム類は、無延伸タイプ、延伸タイプ(1軸延伸タイプまたは2軸延伸タイプ)の何れであってもよい。基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。
【0060】
なお、基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0061】
基材の表面(特に、ポリマー層側の表面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理、背面処理等の化学的処理などの適宜な公知乃至慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0062】
基材の厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、一般には、10〜200μm(好ましくは20〜100μm)程度である。
【0063】
(剥離ライナー)
支持体において、剥離ライナーとしては、特に制限されず、公知の剥離ライナーから適宜選択して用いることができる。剥離ライナーとしては、剥離処理剤による剥離処理層を少なくとも一方の表面に有する基材を好適に用いることができ、また、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等)からなる低接着性基材や、無極性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂など)からなる低接着性基材なども用いることができる。
【0064】
剥離ライナーの基材としては、プラスチックシート又はフィルム類が好適に用いられるが、支持体としての基材として例示の紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔なども用いることができる。前記剥離ライナーの基材のプラスチックシート又はフィルムとしては、特に制限されず、例えば、支持体としての基材として例示のプラスチックシート又はフィルム類から適宜選択することができる。
【0065】
また、剥離処理層を形成する剥離処理剤としては、公知乃至慣用の剥離処理剤(シリコーン系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤など)を用いることができる。
【0066】
剥離ライナーにおける基材や剥離処理層の厚みなどは、特に制限されず、目的などに応じて適宜選択することができる。剥離ライナーの総厚みとしては、例えば、15μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは25〜500μmである。
【0067】
なお、基材レス粘着シート類における剥離ライナーは、支持体としての剥離ライナーとして例示の剥離ライナーから適宜選択することができる。粘着付与樹脂含有粘着剤層の表面を保護する剥離ライナーと、支持体としての剥離ライナーとは、同一の構成を有する剥離ライナーであってもよく、異なる構成を有する剥離ライナーであってもよい。
【0068】
[粘着シート類]
本発明において、粘着シート類は、粘着剤層を有するシート状物の形態を有している又は有することができるシート状粘着性物を意味している。具体的には、粘着シート類には、粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム、粘着ラベルなどが含まれる。
【0069】
なお、前記粘着シート類としては、粘着付与樹脂含有粘着剤層を有していれば、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層(例えば、中間層、下塗り層など)を有していてもよい。
【0070】
このような粘着シート類は、粘着シート類の種類に応じて、通常の粘着テープや粘着シート製造方法に従って製造することができる。具体的には、粘着シート類が基材付きタイプである場合、基材付きタイプの粘着シート類は、例えば、(1)基材の少なくとも一方の面(片面又は両面)に、水分散型アクリル系重合体と、粘着付与樹脂含有エマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように塗布し乾燥させて粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成することにより作製する方法、(2)セパレータ上に、水分散型アクリル系重合体と、粘着付与樹脂含有エマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように塗布し乾燥させて粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成した後、該粘着付与樹脂含有粘着剤層を、基材の少なくとも一方の面(片面又は両面)に、転写させることにより作製する方法などにより、作製することができる。
【0071】
一方、粘着シート類が基材レスタイプである場合、基材レスタイプの粘着シート類は、例えば、(1)剥離ライナーの少なくとも一方の剥離面(剥離処理層表面や、低接着性基材の表面など)上に、水分散型アクリル系重合体と、粘着付与樹脂含有エマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように塗布し乾燥させて粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成することにより作製する方法などにより、作製することができる。
【0072】
なお、図1(b)、(d)や(f)で示される粘着シート類では、粘着シート類の一方の側の粘着面(粘着付与樹脂含有粘着剤層の表面)と、他方の側の剥離面(基材の背面処理層表面や、剥離ライナーの剥離処理層表面など)とを重ね合わせてロール状に巻回することにより、ロール状に巻回した形態の粘着シート類を作製することができる。
【0073】
また、粘着付与樹脂含有粘着剤層を形成する際に、架橋を行う場合、架橋剤の種類(例えば、加熱により架橋する熱架橋タイプの架橋剤、紫外線照射により架橋する光架橋タイプの架橋剤など)に応じて、所定の製造過程で、公知乃至慣用の架橋方法により架橋を行うことができる。例えば、用いられている架橋剤が、熱架橋タイプの架橋剤である場合、水分散型アクリル系粘着剤を塗布した後、乾燥させる際に、この乾燥と並行して又は同時に、熱架橋反応を進行させて架橋を行うことができる。具体的には、熱架橋タイプの架橋剤の種類に応じて、架橋反応が進行する温度以上の温度に加熱することにより、乾燥とともに架橋を行うことができる。
【0074】
本発明では、水分散型アクリル系粘着剤を塗布した後、乾燥させる際には、乾燥を可能な限り強化させることが好適である。このように、乾燥を強化させて行うと、粘着シート類又は粘着付与樹脂含有粘着剤層に残存しているホルムアルデヒドやトルエン等の有機溶剤をより一層低減させることができ、ホルムアルデヒドやトルエン等の有機溶剤の放散量がより低減された粘着シート類を得ることができる。
【0075】
粘着付与樹脂含有粘着剤層を架橋させて形成した場合、粘着付与樹脂含有粘着剤層における溶剤不溶分(アクリル系重合体の架橋体)の割合は、特に制限されないが、粘着付与樹脂含有粘着剤層における固形分全量に対して15〜70重量%程度であることが望ましい。また、この場合、粘着付与樹脂含有粘着剤層における溶剤可溶分のアクリル系重合体は、重量平均分子量(ポリスチレン換算、分析装置:TOSOH社製の「HLC−8120GPC」、カラム:「TSKgel GMH−H(S)」)が10万〜60万(好ましくは20万〜45万)であることが望ましい。
【0076】
なお、架橋後の溶剤不溶分としてのアクリル系重合体の架橋体の割合や、溶剤可溶分としてのアクリル系重合体の分子量(重量平均分子量)は、例えば、モノマー成分全量に対する官能基含有モノマー成分の割合、連鎖移動剤の種類やその割合、架橋剤の種類やその割合などを適宜調整することにより、任意に設定することができる。
【0077】
本発明の粘着シート類は、高い接着性を有し、且つ優れた端末剥がれ防止性を有するとともに、ホルムアルデヒドおよびトルエンの放散量が極めて少ないので、自動車内装材等の自動車用材料や、住宅建材等の住宅用材料などのような密閉系空間における用途で利用されても、人体への影響を低減させることができる。そのため、本発明の粘着シート類は、自動車用材料又は住宅用材料の固定の際に好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、この発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において、「部」とあるのは「重量部」を、「%」とあるのは「重量%」を、それぞれ意味する。
【0079】
(実施例1)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器を用い、アクリル酸ブチル:90部、アクリル酸2−エチルヘキシル:10部、アクリル酸:4部、ドデカンチオール(連鎖移動剤):0.05部、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤):0.1部を、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤):2部を添加した水100部に加えて、前記反応容器に仕込み、攪拌させながら、60℃に昇温して、60℃で4時間乳化重合反応を行い、その後、2時間熟成して、アクリル系重合体を含む反応混合物を得た。
【0080】
前記反応混合物に、10%のアンモニア水を添加して、pHを7に調整し、続いて、水に溶解させた水溶性のオキサゾリン系架橋剤(オキサゾリン型架橋剤)(商品名「エポクロスWS−500」日本触媒化学工業株式会社製)を0.7部添加して、アクリル系重合体の水分散体(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0081】
前記水分散型アクリル系重合体に、該水分散型アクリル系重合体:100部(固形分)に対して、粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとして商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製;軟化点145℃;重合ロジン系樹脂)を、固形分換算で30部加えて、粘着付与樹脂を含有する水分散型の粘着剤(水分散型アクリル系粘着剤)を得た。なお、商品名「SK−253NS」は、有機溶剤を実質上全く用いずに製造された粘着付与樹脂含有エマルジョンである。
【0082】
この水分散型アクリル系粘着剤を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(商品名「SLB−80WD(V2)」カイト化学工業株式会社製)の剥離処理層表面に塗工し、100℃で2分間乾燥して、厚さ60μmの粘着剤層(粘着付与樹脂含有粘着剤層)を形成し、この粘着付与樹脂含有粘着剤層を、不織布製基材(商品名「SP原紙−14」大福製紙株式会社製)の両面に貼り合わせて、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。
【0083】
(実施例2)
粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとして、商品名「タマノルE−200−NT」(荒川化学工業株式会社製;軟化点150℃;ロジンフェノール系樹脂)を、水分散型アクリル系重合体:100部(固形分)に対して固形分換算で30部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。なお、商品名「タマノルE−200−NT」は、脂環式炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂含有エマルジョンである。
【0084】
(実施例3)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器を用い、アクリル酸ブチル:90部、アクリル酸2−エチルヘキシル:10部、アクリル酸:4部、ドデカンチオール(連鎖移動剤):0.05部、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤):0.1部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン(商品名「KBM−503」信越シリコーン株式会社製):0.06部を、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤):2部を添加した水100部に加えて、前記反応容器に仕込み、攪拌させながら、60℃に昇温して、60℃で4時間乳化重合反応を行い、その後、2時間熟成して、アクリル系重合体を含む反応混合物を得た。
【0085】
前記反応混合物に、10%のアンモニア水を添加して、pHを7に調整して、アクリル系重合体の水分散体(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0086】
前記水分散型アクリル系重合体に、該水分散型アクリル系重合体:100部(固形分)に対して、粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとして商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製;軟化点145℃;重合ロジン系樹脂)を、固形分換算で30部加えて、粘着付与樹脂を含有する水分散型の粘着剤(水分散型アクリル系粘着剤)を得た。
【0087】
この水分散型アクリル系粘着剤を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(商品名「SLB−80WD(V2)」カイト化学工業株式会社製)の剥離処理層表面に塗工し、100℃で2分間乾燥して、厚さ60μmの粘着剤層(粘着付与樹脂含有粘着剤層)を形成し、この粘着付与樹脂含有粘着剤層を、不織布製基材(商品名「SP原紙−14」大福製紙株式会社製)の両面に貼り合わせて、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。
【0088】
(実施例4)
実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤を調製した。この水分散型アクリル系粘着剤を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(商品名「SLB−80WD(V2)」カイト化学工業株式会社製)の剥離処理層表面に塗工し、100℃で2分間乾燥して、厚さ60μmの粘着剤層(粘着付与樹脂含有粘着剤層)を形成して、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。
【0089】
(比較例1)
実施例1と同様にして、水分散型アクリル系重合体を調製した。この水分散型アクリル系重合体を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(商品名「SLB−80WD(V2)」カイト化学工業株式会社製)の剥離処理層表面に塗工し、100℃で2分間乾燥して、厚さ60μmの粘着剤層(粘着付与樹脂非含有粘着剤層)を形成し、この粘着付与樹脂非含有粘着剤層を、不織布製基材(商品名「SP原紙−14」大福製紙株式会社製)の両面に貼り合わせて、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。従って、該粘着シートにおける粘着剤層中には、粘着付与樹脂含有エマルジョンが含まれていない。
【0090】
(比較例2)
粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとして、商品名「タマノルE−200」(荒川化学工業株式会社製;軟化点150℃;ロジンフェノール系樹脂)を、水分散型アクリル系重合体:100部(固形分)に対して固形分換算で30部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着シート(両面粘着シート)を作製した。なお、商品名「タマノルE−200」は、芳香族炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂含有エマルジョンである。
【0091】
(評価)
実施例及び比較例で得られた各粘着シートについて、ホルムアルデヒドの放散量、トルエンの放散量、粘着力、端末剥がれ防止性を、下記の方法により測定又は評価した。その結果を表1に示す。
【0092】
(ホルムアルデヒドの放散量の測定方法)
JIS A 1901(2003)に準拠した方法により測定した。なお、測定するサンプルの表面積は、0.043m2とし、粘着シートの単位体積あたりのホルムアルデヒドの含有量(μg/m3)を算出し、定量した。
【0093】
(トルエンの放散量の測定方法)
各粘着シートから、所定のサイズ(面積:5cm2)を切り取って試料を作製し、該試料をバイアル瓶に入れて密栓した。その後、試料を入れた瓶を、ヘッドスペースオートサンプラーにより150℃で30分間加熱し、加熱状態のガス1.0mlを、ガスクロマトグラフ測定装置に注入して、トルエンの量を測定し、粘着シートの単位重量あたりのトルエンの含有量(μg/g)を算出し、定量した。
【0094】
(粘着力の測定方法)
各粘着シートを、ステンレス(SUS)製板に2kgのローラーを1往復させる方法で圧着し、23℃で20分間放置後、引張試験機を用いて、引張速度:300mm/分の条件で、180°引き剥がし粘着力(23℃、50%RH;N/20mm)を測定した。
【0095】
(端末剥がれ防止性の評価方法)
各粘着シートを、厚さ0.5mmのアルミニウム製板(面積:10mm×100mm)に貼り付けた後、剥離ライナーを剥がして、他方の粘着面を露出させ、露出した粘着面を、直径:50mmの円筒状のアクリル製の丸棒の側面に貼り合わせた。これを、丸棒を垂直に立てた状態で、70℃の雰囲気下に2時間放置し、そのときのアルミニウム製板の端部の剥がれた距離(高さ)(mm)を測定した。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、実施例1〜4に係る粘着シートは、良好な端末剥がれ防止性および粘着力を保持したまま、ホルムアルデヒドおよびトルエンの放散量が極めて少なく設計されており、安全性の高い粘着シートが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0098】
11〜16 それぞれ、粘着シート類
2 基材
3 粘着付与樹脂含有粘着剤層
4 剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散型アクリル系重合体と、ロジン系又はテルペン系の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤による粘着剤層を、少なくとも有している粘着シート類であって、
前記水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対するアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルの割合が85重量%以上であり、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合[アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル](重量比)が5/95〜60/40であり、
前記粘着付与樹脂を含有するエマルジョンが、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて調製された粘着付与樹脂含有エマルジョンであることを特徴とする粘着シート類。
【請求項2】
ホルムアルデヒドの放散量が3μg/m3未満であり、且つトルエンの放散量が10μg/g以下である請求項1記載の粘着シート類。
【請求項3】
前記粘着剤層における溶剤不溶分の割合が、該粘着剤層における固形分全量に対して15〜70重量%である請求項1又は2に記載の粘着シート類。
【請求項4】
前記粘着剤層における溶剤可溶分のアクリル系重合体は、重量平均分子量(ポリスチレン換算、分析装置:TOSOH社製の「HLC−8120GPC」、カラム:「TSKgel GMH−H(S)」)が10万〜60万である請求項1〜3のいずれかの項に記載の粘着シート類。
【請求項5】
不織布基材の両面に前記粘着剤層を有する両面粘着シートである請求項1〜4のいずれかの項に記載の粘着シート類。
【請求項6】
自動車用材料又は住宅用材料の固定の際に用いられる請求項1〜5の何れかの項に記載の粘着シート類。
【請求項7】
シリコーン系剥離処理剤による剥離処理層を有する剥離ライナー上に、
水分散型アクリル系重合体と、ロジン系又はテルペン系の粘着付与樹脂を含有するエマルジョンとを含有する水分散型アクリル系粘着剤を塗布し乾燥させて、厚みが5〜100μmの粘着剤層を形成した後、該粘着剤層を、基材の少なくとも一方の面(片面又は両面)に転写させることにより作製する両面粘着シートの製造方法であって、
前記水分散型アクリル系重合体中のアクリル系重合体を構成するモノマー成分全量に対するアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルの割合が85重量%以上であり、アクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの割合[アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル](重量比)が5/95〜60/40であり、
前記粘着付与樹脂を含有するエマルジョンが、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料を用いて調製された粘着付与樹脂含有エマルジョンであることを特徴とする両面粘着シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−196072(P2010−196072A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126691(P2010−126691)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2004−303090(P2004−303090)の分割
【原出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】