説明

粘着シート

【課題】防腐剤を含まない態様であっても、一般生菌由来の不快臭が感知されないレベルに抑制された粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明により提供される粘着シートは、アクリル系重合体をベースポリマーとして含む粘着剤層を備える。その粘着剤層から抽出したDNAに対し、16S rDNAを標的としてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅を実施し、その増幅させた16S rDNAのターゲット領域をゲル電気泳動により分離した後SYBR Goldにより染色し、波長302nm、強度500μW/cmの励起光を照射した場合において、当該16S rDNAを含むバンドについて測定される波長範囲548nm〜630nmにおける蛍光強度は、当該測定に用いた粘着剤試料1g当たり5.5×10/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境衛生への配慮から、各種用途に適用される粘着剤組成物および粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)シートの分野においても、揮発性有機化合物類(Volatile Organic Compounds;VOCs)の放散量を低減することが望まれており、粘着剤成分が水に分散した態様の粘着剤組成物の使用が好まれる傾向にある。水分散型粘着剤組成物に関する技術文献として、文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−131511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、VOCs低減対策を施した水分散型粘着剤組成物は、製造過程で混入した細菌が繁殖しやすく、該粘着剤組成物から形成された粘着剤や粘着シートから、細菌由来の不快臭がする場合があった。水分散型粘着剤組成物の防腐対策としては、粘着剤組成物に防腐剤を添加することが一般的であるが、防腐剤を添加して細菌の繁殖を抑制してもなお、添加前に混入した細菌に由来して、該組成物から形成された粘着シートに不快臭が残ることもある。したがって、防腐剤に頼らずに水分散型粘着剤組成物の腐敗性を抑え、不快臭の低減された粘着シートを形成することができれば有用である。
【0005】
本発明は、防腐剤を含まない態様であっても、一般生菌由来の不快臭が感知されないレベルに抑制された粘着シートを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、アクリル系重合体をベースポリマーとして含む粘着剤層を備えた粘着シートが提供される。その粘着剤層から抽出したDNAに対し、16S rDNAを標的としてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅を実施し、その増幅させた16S rDNAのターゲット領域をゲル電気泳動により分離した後モレキュラープローブ社製の商品名「SYBR Gold」により染色し、波長302nm、強度500μW/cmの励起光を照射した場合において、当該16S rDNA領域を含むバンドについて測定される波長範囲548nm〜630nmにおける蛍光強度は、当該粘着剤1g当たり5.5×10/g未満である。ここで、上記PCR増幅は、下記表1に示すサイクル条件にて行うものとする。かかる粘着シートは、一般生菌由来の不快臭が高度に抑制されたものであり得る。
【0007】
かかる粘着シートは、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えることが好ましい。かかる粘着シートは、VOCs放散総量が低減されていることから好ましい。かかる粘着シートは、自然環境や作業環境への負荷が少ないため、自動車や住宅の内装材等のように閉空間で使用される製品に対して用いられる粘着シートとして好適である。
【0008】
好ましい一態様では、上記粘着シートを80℃で30分間保持したとき、該粘着シートから放散される揮発性有機化合物(VOCs)の総量が、該粘着シート1g当たり100μg(以下、これを「100μg/g」等と表記することもある。)以下である。このようにVOCs放散総量が低減された粘着シートは、自然環境や作業環境への負荷が少ないため、自動車や住宅の内装材等のように閉空間で使用される製品に対して用いられる粘着シートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0011】
ここに開示される粘着シートは、その粘着剤層について下記蛍光強度測定方法により測定される蛍光強度が、当該測定に用いた粘着剤試料1g当たり、5.5×10未満である。該蛍光強度は、好ましくは5×10/g以下であり、より好ましくは4×10以下である。
【0012】
[蛍光強度測定方法]
(A)粘着剤組成物を剥離ライナー(上質紙の両面にシリコーン系剥離剤が塗付されたもの)の一方の面に塗付し、100℃で2分間乾燥して厚さ60μmの粘着剤層を有する基材レス粘着シートを作製する。これを二枚用意し、一枚目の粘着シートの粘着剤層に、厚さ40μm,坪量14g/mの不織布を貼り合わせ、該不織布に、二枚目の粘着シートの粘着剤層をさらに貼り合わせて両面粘着シートを形成する。これを50℃で1日間(24時間)保持して測定用サンプルとする。
(B)既知質量(例えば、基材を除いた粘着剤量で0.2g程度)の測定用サンプルから、MO BIO社製の商品名「UltraClean Microbial DNA Isolation Kit」を用い、DNAを抽出する。抽出したDNAは、スペクトロフォトメーターによりλ=260nmにおける吸光度を測定して、その質量を算出する。抽出方法は、キットマニュアルに従い、ガラスビーズによる菌体の破砕、溶媒によるDNA画分の抽出、DNA吸着カラムによる精製を行う。なお、DNA抽出の際は、粘着剤から菌体を分離せず、粘着剤ごと破砕する。
(C)抽出したDNA10ngに対し、GE ヘルスケア社製の商品名「illustra GenomiPhi V2 DNA Isolation Kit」を用い、そのキットマニュアルに従って、ゲノムDNAの増幅を行う。
(D)細菌DNA量を標準化するため、細菌16S rDNAを標的とし、表1に示すサイクル条件にてPCR増幅を行う。増幅プライマーには、上記16S rDNAに特異的なV3領域である341F(GCクランプ付)と518Rを用いる。上記(C)工程で得られたゲノムDNA増幅液1μL、DNAポリメラーゼ(アプライドバイオシステム社製、商品名「Ampli Taq Gold」)1.25units/reaction、上記プライマー各20pmolを加え、2mMのMgCl、0.2mMのdNTP Mix(インビトロジェン社製)、1×PCRバッファーの最終濃度となるよう蒸留水で調整し、PCR反応液50μLを得る。このPCR反応液に対し、表1に示すサイクル条件にてPCR増幅を行う。
【0013】
【表1】

(E)増幅終了後、PCR反応液10μL中のPCR産物を、1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動(100V、20分間)により分離し、核酸染色試薬(モレキュラープローブ社製、商品名「SYBR Gold」)により30分間染色する。上記アガロースゲルに対し、波長302nm、強度500μW/cmの励起光を照射してゲル撮影装置(バイオラッド社製、型式「GelDoc」)により該ゲルを撮影する。分離染色された上記ターゲットDNAに対応するバンドにつき、波長範囲548nm〜630nmにおける蛍光強度を、画像解析ソフト(バイオラッド社製、商品名「Quality One」)を用いて数値化する。該蛍光強度、定量したサンプルの質量および該サンプルから抽出されたDNA量から、細菌遺伝子量の指標として、当該測定に用いた粘着剤試料1g当たりの蛍光強度Fを、次の計算式:
F = 蛍光強度(実測値)/(粘着シートサンプル質量 ― 基材質量)
に従って求める。
【0014】
上記蛍光強度測定方法によると、上述のようにして、細菌が共通に有する保存性の高い一遺伝子である16S rDNAの蛍光強度を、粘着剤1g当たりの蛍光強度に換算することにより、その粘着剤層から発せられる一般生菌由来の不快臭の程度を判定するための指標とすることができる。この蛍光強度が高すぎると、その粘着シートが、不快と感じされるレベル一般生菌由来の臭気(一般生菌由来の不快臭)を発することがある。
【0015】
上記粘着シートは、例えば、粘着剤1g分を有する粘着シート(すなわち、基材を除いた粘着剤層のみの量が1gとなる粘着シート)を含む容積50mLの密封容器を温度23℃の雰囲気下で開放して臭気を評価する試験において、任意に選択された20歳代から40歳代の健康な男女(例えば、30人程度)から構成されたパネラーの70%以上(好ましくは75%以上)が、一般生菌由来の不快臭が感じられないと判定するものであり得る。なお、本明細書における粘着剤とは、粘着剤組成物中の溶媒を乾燥等により除去して得られる残渣(典型的には、支持体上に塗付乾燥して形成された粘着剤層)を意味する。
【0016】
上記一般生菌とは、一般に中温性好気性菌と称され、30〜35℃程度の温度で繁殖しやすい菌類一般(細菌、カビ、酵母等)を指し、菌種は特に限定されない。該一般生菌には、例えば、プロテウス属やプロビデンシア属等の腸内細菌、バシラス属やシュードモナス属等の細菌が含まれる。
【0017】
上記一般生菌由来の不快臭とは、一般生菌由来と判断され得る臭気を指し、典型的にはいわゆる腐敗臭として把握され得る。その原因物質は、一般生菌の代謝物、あるいは菌の死骸またはその分解物等であり得る。これら原因物質は、例えば、アンモニア、インドール類、アミン類(トリメチルアミン等)等のN含有化合物;硫化水素、メルカプタン類等のS含有化合物;酪酸等の脂肪酸;等を含み得る。したがって、一般生菌由来の不快臭は、主にこれら化合物に特徴的な臭い、またはそれらの混合臭として把握することができる。
【0018】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層は、水分散液型粘着剤組成物から形成することが好適である。該水分散型粘着剤組成物を製造する際は、その製造過程のうち60℃以上の温度で連続して30分以上保持される最後の工程(以下、これを最終加熱工程ということもある。)よりも後の工程においては、一般生菌を実質的に含まない水を使用するとよい。ここで、「一般生菌を実質的に含まない」とは、その水1mLに含まれる一般生菌数が10個以下であることをいう。この単位体積当たりの水に含まれる一般生菌数は、当該水のサンプル1mLを、標準寒天培地に添加し、35℃にて48時間培養した後に測定される発生コロニー数から算出された値を採用するものとする。上記標準寒天培地としては、培地1000mL当たり、ペプトン5g、酵母エキス2.5g、ブドウ糖1g、寒天15gを含み、pHが7.1±0.1のものを用いることができる。上記標準寒天培地と同等の培養能を有する市販培地としては、例えば、チッソ株式会社製の商品名「サニ太くん」(一般生菌用)が挙げられる。
【0019】
上述のようにして製造した水分散型粘着剤組成物は、例えば、外部からの新たな一般生菌混入が実質的にない状態(例えば、密封容器中)で、該粘着剤組成物を30℃の雰囲気下に5日間保持した場合において、その保存後の(5日間経過後の)一般生菌数(以下、30℃5日保存後生菌数ということもある。)が、該組成物1mL当たり10個未満(好ましくは10個以下)のものであり得る。該生菌数が高すぎると、その粘着剤組成物から形成された粘着シートにおいて、上記蛍光強度が5.5×10/g以上となり、一般生菌由来の不快臭が顕著になり得る。上記一般生菌数は、所定量の粘着剤組成物サンプル(希釈液であり得る。)を上記標準寒天培地または同等の培養能を有する培地に接種し、35℃で48時間培養した後に測定される発生コロニー数から求めることができる。
好適な一態様では、上記水分散型粘着剤組成物は、上述のようにして測定される30℃5日保存後生菌数がゼロまたは10個/mL以下である。かかる粘着剤組成物によると、30℃程度の高温で比較的長期間保存した後であっても、上記蛍光強度が5.5×10未満の粘着シートを好適に形成することができる。
【0020】
水分散型粘着剤組成物の製造過程は、主として、アクリル系共重合体エマルションを調製する工程および該エマルションのpH、タック、粘度、濃度等を調整して最終粘着剤組成物を形成する工程からなる。典型的には、上記アクリル系共重合体エマルションを調製する工程(乳化重合反応を行う工程)が、最終加熱工程である。すなわち、通常、このエマルション調製工程より後の工程(以下、これをポスト重合工程ということもある。)では、60℃以上での加熱は行われない。したがって、一態様では、かかるポスト重合工程において使用する水(以下、これをワークアップ用水(後添加用水)ということもある。)として、一般生菌を実質的に含まない水を使用する。該ワークアップ用水は、例えば、上記エマルションを反応容器から他の容器に移すなどして取り除いた後に該反応容器の内側に付着したエマルション残渣を希釈して集めるために添加する水、粘着剤組成物の濃度調整のために添加する水、添加剤等他の材料を加える際に該材料を溶解または分散させるための水等であり得る。
【0021】
上記粘着剤組成物の製造過程において、重合反応を行う際の分散媒として使用する水(重合用水)およびワークアップ用水としては、反応液および粘着剤組成物の乳化を阻害しない程度の硬度を有する水(以下、単に軟水ということもある。)を使用することが好ましい。例えば、地下水や井戸水、あるいはこれらに軟水化処理を施したものを用いることができる。使用する軟水の硬度は、例えば、120mg/L以下であることが好ましい。硬度が高すぎると、乳化重合する際に反応液中の油相と水相との乳化が不十分となり、重合反応が阻害されてアクリル系重合体の収率が著しく損なわれたり、反応液中に凝集物が多く発生したり、得られた粘着剤組成物の油相と水相が分離して粘着性能が損なわれたりすることがある。
【0022】
かかる水から一般生菌をなくす方法としては、例えば、加熱、高エネルギー線の照射、および、膜濾過等の処理を施すことができる。
加熱処理を行う場合、温度が60〜80℃(より好ましくは70〜80℃)程度となるまで、その水を加熱することが好ましい。かかる温度で、例えば、30分以上保持すればよい。加熱処理をした水は、そのまま、あるいは所望の温度(例えば室温(23℃程度))まで冷却して使用することができる。
高エネルギー線照射は、従来公知の方法に準じて行うことができる。例えば、紫外線(UV)や電磁線を所定量照射すればよい。例えば、照度35000μW/cm程度で1分間以上、あるいはこれと同程度以上の照射量(J/cm)となるよう、UVを照射すればよい。
膜濾過処理を行う場合、例えば、孔径が0.2μm以下の多孔膜(逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜等)に水を通せばよい。
【0023】
上記アクリル系重合体エマルションは、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを一種または二種以上含む出発モノマーを乳化重合させることにより調製することができる。該アクリル系重合体エマルションを調製する際の乳化重合は、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全出発モノマーを一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続して供給(滴下)する方式、分割して供給(滴下)する方式等のいずれも採用可能である。出発モノマーの一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液を反応容器内に供給してもよい。乳化重合を行う際の温度は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃;好ましくは60〜80℃)程度とすることができる。
【0024】
重合用水としては、重合態様や目的に応じて、特に殺菌処理を施していない水(未殺菌の水)、一般生菌を実質的に含まないレベルまで殺菌処理を施した水(以下、単に殺菌水ということもある。)、および一般生菌および菌の死骸のいずれをも実質的に含まないレベルまで濾過処理を施した水(以下、単に濾過水ということもある)のいずれかを使用する。
乳化重合を60℃以上の温度で行う場合、該温度にて通常の反応時間乳化重合させることにより、反応溶液中に含まれる一般生菌は重合時の加熱によって実質的に全て死滅することから、かかる態様では、重合用水として、上記のいずれを使用してもよい。コストおよび手間を削減する観点からは、未処理の水を使用することが有利である。乳化重合を60℃未満の温度で行う場合、重合温度が60℃以上でも重合時間が加熱殺菌には不十分な場合、乳化重合時に反応液が60℃に達するまでの時間に繁殖し得る一般生菌数を抑制したい場合、あるいは更に確実に殺菌を期する場合等において、重合用水として、上記殺菌水および/または上記濾過水を好ましく使用することができる。
【0025】
上記濾過水は、一般生菌のみならず、光学性(例えば透明性)の低下原因やアレルゲンとなり得る菌の死骸も除去されていることから、光学用や医療用の粘着シートの形成に用いられる粘着剤組成物の製造過程で用いられる水として好適である。例えば、重合用水およびワークアップ用水として、かかる濾過水を使用することにより、該粘着剤組成物から形成された粘着シートの光学性を高めたり、アレルゲンとなり得る物質の含有量を低減したりすることができる。
【0026】
上記アクリル系重合体としては、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(モノマー主成分;アクリル系重合体を構成するモノマー成分の総量のうち50質量%以上を占める成分)とするものが好ましい。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0027】
アルキル(メタ)アクリレートは、例えば、下記式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートから選択される一種または二種以上であり得る。
CH=C(R)COOR (I)
ここで、式(I)中のRは、水素原子またはメチル基である。また、式(I)中のRは、炭素数1〜20のアルキル基である。該アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうちRが炭素数2〜14(以下、このような炭素数の範囲を「C2−14」と表すことがある。)のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、RがC2−10のアルキル基(例えば、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基等)であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。上記出発モノマーに含まれるアルキル(メタ)アクリレートの量は、例えば、モノマー成分総量の凡そ50〜98質量%であり得る。出発モノマーの組成は、典型的には、該出発モノマーを重合させて得られるアクリル系重合体の重合割合に概ね対応する。
【0028】
好ましい一つの態様では、上記アクリル系共重合体の形成に用いられるアルキル(メタ)アクリレートの総量のうち凡そ70質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上)が、上記式(I)におけるRがC2−10(より好ましくはC4−8)のアルキル(メタ)アクリレートである。使用するアルキル(メタ)アクリレートの実質的に全部がC2−10アルキル(より好ましくはC4−8アルキル)(メタ)アクリレートであってもよい。上記出発モノマーは、例えば、アルキル(メタ)アクリレートとして、ブチルアクリレート(BA)を単独で含む組成、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を単独で含む組成、BAおよび2EHAの二種を含む組成、等であり得る。
【0029】
上記出発モノマーは、主モノマーとしてのアルキル(メタ)アクリレートに加えて、任意モノマーとして他のモノマーを含んでもよい。該任意モノマーは、ここで使用するアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能であれば特に制限されず、種々のモノマーから選択される一種または二種以上を使用することができる。例えば、カルボキシル基、アルコキシシリル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等から選択される一種または二種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることができる。これら官能基含有モノマーは、アクリル系重合体に架橋点を導入するのに役立ち得る。上記任意モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
【0030】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。
アルコキシシリル基含有モノマー(シラノール基形成性モノマー)としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
水酸基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等のアルケニルアルコール;等が挙げられる。
【0032】
アミノ基含有モノマーとしては、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、置換エタン系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。
アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。
過酸化物系開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。
置換エタン系開始剤としては、フェニル置換エタン等が例示される。
レドックス系開始剤としては、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等が例示される。
【0034】
重合開始剤の使用量は、該開始剤の種類やモノマーの種類(出発モノマーの組成)等に応じて適宜選択できるが、通常は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば0.005〜1質量部程度の範囲から選択することが適当である。
重合開始剤の供給方法としては、使用する重合開始剤の実質的に全量を出発モノマーの供給開始前に反応容器に入れておく(典型的には、反応容器内に該重合開始剤の水溶液を用意する)一括仕込み方式、連続して供給(滴下)する方式、分割して供給(滴下)する方式等のいずれも採用可能である。
【0035】
乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0036】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。連鎖移動剤の使用量は、全モノマー成分100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.1質量部程度であってもよい。
【0037】
上記水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて、水性粘着剤組成物の分野において一般的な架橋剤(典型的には、上記アクリル系共重合体に含まれる官能基と反応し得る架橋性官能基を一分子中に二個以上有する架橋性化合物を有効成分とする。)が一種または二種以上配合されていてもよい。例えば、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等を用いることができる。あるいは、かかる架橋剤が配合されない組成の粘着剤組成物であってもよい。
【0038】
ここに開示される粘着シートの形成に用いられる水分散型粘着剤組成物は、上述のようにして得られたアクリル系重合体エマルションに、必要に応じて、粘着性、pH、粘度、濃度等を調整するための材料を添加することにより形成することができる。かかるポスト重合工程においてそれら材料に予め含まれる水以外に新たに水を加える場合は、ワークアップ用水として、一般生菌を実質的に含まない水を用いる。
【0039】
上記粘着剤組成物は、上記アクリル系重合体に加えて、粘着付与剤を含み得る。該粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与剤樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0040】
上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、安定化ロジン(例えば、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン)、重合ロジン(例えば、前記ロジンの多量体、典型的には二量体)、変性ロジン(例えば、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された不飽和酸変性ロジン等)等が挙げられる。
上記ロジン誘導体樹脂としては、上記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。
上記石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、これらの水素化物等が例示される。
上記テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂等が挙げられる。
上記ケトン系樹脂としては、例えば、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトン等)とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン系樹脂が例示される。
【0041】
粘着付与剤の配合量は、所望の粘着性に応じて適宜選択すればよい。例えば、不揮発分(固形分)換算として、アクリル系共重合体100質量部に対して例えば凡そ50質量部以下とすることができる。通常は、上記配合量を凡そ40質量部以下とすることが適当である。
【0042】
上記粘着剤組成物は、一般生菌が混入しないように製造されることから、防腐剤を加えなくても、外部からの新たな一般生菌混入が実質的にない環境(例えば、密封容器中)で保存または使用することにより、実質的に一般生菌を含まない状態を維持することができる。したがって、ここに開示される技術は、防腐剤を実質的に含まない粘着剤層を備える粘着シートの形成に適用することができる。かかる態様の粘着シートは、例えば、粘着剤層中の残存防腐剤量低減が求められるあるいは防腐剤使用が好ましくない医療用その他各種用途向けとして好ましい。なお、粘着剤層が「防腐剤を実質的に含まない」とは、該粘着剤層に含まれる防腐剤の量が0.001質量%以下であることを意味し、かかる粘着剤層は、塗付乾燥前の防腐剤含有量が0.01質量%未満の粘着剤組成物から形成され得る。典型的には、後から新たに(意図的に)添加された防腐剤を含まない粘着剤組成物から形成される。なお、該組成物の調製に用いられた原料に防腐剤が予め含まれている場合、該防腐剤は非意図的に添加された防腐剤であるため、ここでいう新たに添加された防腐剤には相当しないものとする。ここに開示される技術は、また、防腐剤を含む粘着剤層を備える粘着シートの形成にも適用することができる。かかる態様の粘着シートは、例えば、粘着シートを形成するための粘着剤組成物が長期間保存される場合や、一般生菌の混入を防ぐことができない(保証されない)態様で保存および/または使用され得る場合等に好ましく適用することができる。このように副次的あるいは予備的な防腐手段として用いる防腐剤は、ポスト重合工程において添加することができる。
【0043】
上記粘着剤組成物に意図的に添加する防腐剤の種類は特に限定されず、従来公知の防腐剤から選択される一種または二種以上を使用することができる。中でも、環境負荷物質(カドミウム、鉛等)やVOC規制対象物質(トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン等)を実質的に含まないものが好ましい。上記粘着剤組成物に意図的に添加する防腐剤の量は、好ましくは、該組成物(溶媒含む)の0.01〜0.3質量%程度(より好ましくは0.02〜0.1質量%程度)である。意図的に添加する防腐剤量が少なすぎると、副次的または予備的防腐手段としての防腐剤の効果が十分でない場合がある。また、該防腐剤量が多すぎると、粘着特性が低下する場合がある。
【0044】
上記粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有し得る。該組成物に含有され得るさらに他の任意成分としては、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、安定剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。
【0045】
本発明に係る粘着シートは、上記粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面または両面に固定的に(当該基材から粘着剤層を分離する意図なく)設けた形態の粘着シート(いわゆる基材付き粘着シート)であってもよく、あるいは貼付時に粘着剤層を支持する基材が剥離ライナーとして除去される形態の粘着シート(いわゆる基材レス粘着シート)であってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【0046】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面接着性の基材付き粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成例である。図1に示す粘着シート11は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レス粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート13は、基材レスの粘着剤層2の両面が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート14は、基材レスの粘着剤層2の一面が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有し、これを巻回すると粘着剤層2の他面が剥離ライナー3に当接して該他面もまた剥離ライナー3で保護された構成とできるようになっている。
図5,図6は、片面接着性の基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート15は、基材1の片面に粘着剤層2が設けられ、その粘着剤層2の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された構成を有する。図6に示す粘着シート16は、基材1の一面に粘着剤層2が設けられた構成を有する。その基材1の他面は剥離面となっており、粘着シート16を巻回すると該他面に粘着剤層2が当接して該粘着剤層の表面(接着面)が基材1の他面で保護された構成とできるようになっている。
【0047】
上記粘着剤層は、上記粘着剤組成物を所定の面上に付与して乾燥させることにより好適に形成することができる。例えば、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に積層(転写)してもよい。
【0048】
粘着剤組成物の付与(典型的には塗布)に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等)を用いることができる。粘着剤層の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
このような粘着シートを構成する基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルムとしては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の厚さは用途に応じて適宜選択することができる。
【0050】
粘着剤層を保護または支持する剥離ライナー(保護および支持の機能を兼ね備えるものであり得る。)としては、その材質や構成に特に制限はなく、公知の剥離ライナーから適当なものを選択して用いることができる。例えば、基材の少なくとも一方の表面に剥離処理が施された(典型的には、剥離処理剤による剥離処理層が設けられた)構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。この種の剥離ライナーを構成する基材(剥離処理対象)としては、各種プラスチックフィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体等を適宜選択して用いることができる。上記剥離処理層を形成する剥離処理剤としては、公知または慣用の剥離処理剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離処理剤)を用いることができる。また、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体等)または低極性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等)からなる低接着性の基材を、該基材の表面に剥離処理を施すことなく剥離ライナーとして用いてもよい。あるいは、かかる低接着性基材の表面に剥離処理を施したものを剥離ライナーとして用いてもよい。
【0051】
ここに開示される粘着シートは、当該粘着シートを80℃で30分間保持した際に放散されるVOCs総量が、該粘着シート1g当たり100μg(以下、これを「100μg/g」と表記することもある。)以下であり得る。かかる粘着シートは、例えば、室内で使用される家電やOA機器、あるいは密室を構成する自動車等のようにVOCs低減が求められる用途にも好ましく使用され得る。VOCs放散総量としては、次の方法により測定された値を採用するものとする。
【0052】
[VOCs放散総量測定方法]
所定サイズの粘着剤層を含む試料を入れたバイアル瓶を80℃で30分間加熱し、ヘッドスペースオートサンプラー(HSS)を用いて、加熱状態のガス1.0mLをGC(ガスクロマトグラフィー)測定装置に注入する。得られたガスクロマトグラムに基づいて、粘着剤層の作製に使用した材料から予測される揮発物質(アクリル系ポリマーの合成に用いたモノマー、後述する粘着付与樹脂エマルションの製造に用いた溶剤等)については標準物質によりピークの帰属および定量を行い、その他の(帰属困難な)ピークについてはトルエン換算として定量する。これらを合計して、上記試料に含まれる粘着シート(剥離ライナーを除く)1g当たりのVOCs放散総量(μg/g)を求める。
【0053】
上記粘着シート1g当たりのVOCs放散総量が100μg以下であることは、典型的には、粘着剤1g当たりのVOCs放散総量が150μg以下であることに相当する。該VOCs放散総量は、測定対象である粘着シートの基材の坪量(g/m)に基づき、粘着シート1g当たりの数値から粘着剤1g当たりの数値に換算することができる。基材の坪量は、典型的には、10〜50g/m程度である。
【0054】
上述のように、ここに開示される技術は、粘着剤組成物への一般生菌混入を効果的に防ぎ得ることから、上記粘着シートを形成するための粘着剤組成物が、一般生菌が特に繁殖しやすい組成(モノマー組成等)および/または特性(pH(例えば7±2程度)、濃度等)を有する態様において、特に顕著な効果が発揮され得る。
【0055】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0056】
[臭気判定試験]
表2に示す測定用粘着剤試料の単位質量当たりの蛍光強度Fが異なる粘着剤層を備える粘着シート8種を用意し、それぞれ粘着剤1gに相当する分量の粘着シートを50mLのスクリュー管に入れ、蓋をして判定用サンプルとした。モニターとして、20歳代〜40歳代の健康な男女を任意に30人選定した。モニターは、一人ずつ、23℃の雰囲気下でスクリュー管の蓋を開けて臭いを嗅ぎ、一般生菌由来の不快臭の有無を判定した。これらの結果を併せて表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示されるように、測定用粘着剤試料1g当たりの蛍光強度が5.5×10未満の粘着剤組成物では、不快と感じられる一般生菌由来の臭いは感知されなかった。一方、該蛍光強度が5.5×10以上の粘着剤組成物では、30%以上のモニターが一般生菌由来の不快臭を感知し、蛍光強度が高くなるにつれ、臭いが不快と判定した人数が増加した。
【0059】
[粘着剤組成物および粘着シートの作製]
以下の実施例中において、加熱処理水としては、80℃で30分間加熱した軟水を用いた。UV照射水としては、照度35000μW/cmの条件で1分間UV照射した軟水を用いた。
<例1>
ブチルアクリレート(BA)86.5部、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)9.6部、アクリル酸(AA)3.8部、および3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名「KBM−503」;シラノール基形成性モノマー)0.07部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部を、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部の存在下で、未殺菌の常温軟水(重合用水)29部に乳化させ、モノマーエマルションを調製した。
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下管および攪拌装置を備えた反応容器に、未殺菌の常温軟水(重合用水)40部と2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(和光製薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)0.1部とを加え、攪拌しながら60℃で1時間窒素置換した。これを60℃に保ちつつ、上記モノマーエマルションを4時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、さらに60℃で3時間攪拌し、過酸化水素水0.075部およびアスコルビン酸0.15部を添加した。加熱を停止して1時間攪拌した後、アンモニア水0.07部を添加し、さらに30分攪拌して、アクリル系共重合体の水分散液を得た。該アクリル系重合体のTHF可溶分の重量平均分子量は35×10、酢酸エチル不溶分は55%であった。
得られたアクリル系共重合体水分散液に、該共重合体100部に対して、粘着付与剤(荒川工業株式会社製、商品名「E−200NT」;ロジンフェノール樹脂)を30部、増粘剤(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB−500」)0.47部、アンモニア水0.4部、加熱処理水(ワークアップ用水)2.5部を添加し、本例の水分散型粘着剤組成物を得た。
【0060】
この粘着剤組成物を30℃で5日間保存した後、剥離ライナー(上質紙の両面にシリコーン系剥離剤が塗布されたもの)の片面に塗布し、100℃で2分間乾燥して厚さ60μmの粘着剤層が設けられた剥離ライナー(基材レス粘着シート)を得た。これを2枚用意した。一枚目の剥離ライナー上の粘着剤層に、厚み40μm、坪量14g/mの不織布を貼り合わせ、該不織布に、二枚目の剥離ライナー上の粘着剤層をさらに貼り合わせ、両面粘着シートを得た。これを50℃で1日間(24時間)保持して評価用サンプルを得た。なお、こうして得られた粘着剤の酢酸エチル不溶分は40%であった。
【0061】
<例2>
重合用水としてUV照射水を用いた他は例1と同様にして、粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物に防腐剤(住化エンビロサイエンス株式会社製、商品名「ネオシントール2208」)を0.1%の割合で添加して、本例の粘着剤組成物を得た。この組成物を用いた他は例1と同様にして、本例の基材レス粘着シートおよび両面粘着シートを得た。
<例3>
重合用水およびワークアップ用水として未殺菌の軟水を用いた他は例1と同様にして、本例の粘着剤組成物、基材レス粘着シートおよび両面粘着シートを得た。
【0062】
例1〜3の粘着剤組成物および粘着シート各々に対して以下の評価試験を行った。これらの結果を、各例の詳細と併せて表3に示す。なお、表3中の防腐剤添加量に、各例において使用した粘着付与剤その他に予め含まれていた防腐剤の量は含まれない。
【0063】
[VOCs放散総量測定]
上述した方法に従って、VOCs放散総量を測定した。サンプルとしては、1cm×5cmにカットした各例の両面粘着シートを用いた。詳しくは、各粘着シートから一枚目の剥離ライナーを除去し、露出した第1粘着面にアルミ箔を貼り付けた。二枚目の剥離ライナーを除去して第2粘着面を露出させたサンプルを、20mLのバイアルに入れて密栓した。HSSおよびGCの設定は以下のとおりとした。
HSS:Agilent Technologies社製 型式「7694」
加圧時間:0.12分
ループ充填時間:0.12分
ループ平衡時間:0.05分
注入時間:3分
サンプルループ温度:160℃
トランスファーライン温度:200℃
GC装置:Agilent Technologies社製 型式「6890」
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 J&W キャピラリーカラム 商品名「DB−ffAP」(内径0.533mm×長さ30m、膜厚1.0μm)
カラム温度:250℃(40℃から90℃まで10℃/分で昇温し、引き続き250℃まで20℃/分で昇温して2分保持)
カラム圧力:24.3kPa(定流モード)
キャリアーガス:ヘリウム(5.0mL/分)
注入口:スプリット(スプリット比 12:1)
注入口温度:250℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0064】
[蛍光強度測定]
各例の基材レス粘着シートを用いて、上述の方法に従い、測定用粘着剤試料1g当たりの蛍光強度を求めた。DNA抽出に用いた粘着剤量(基材を除く粘着シートの質量)は、約0.2gとした。スペクトロフォトメーターとしては、ナノドロップ社製の型式「ND−1000」を用いた。PCR装置としては、エッペンドルフ社製のサーマルサイクラー 型式「Mastercycler」を用いた。ゲル撮影装置としては、バイオラッド社製の商品名「GelDoc」を用いた。蛍光強度を数値化するための画像解析ソフトとしては、バイオラッド社製の商品名「Quality One」を用いた。
【0065】
[対SUS粘着力測定]
各両面粘着シートの一枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第1粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。該試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、露出した第2の粘着面を被着体としてのSUS304ステンレス板に貼り合わせ、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、温度23℃、RH50%の環境下、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で剥離して、そのときの剥離強度を対SUS粘着力(N/20mm幅)として測定した。
各両面粘着シートの各粘着面に対して、かかる測定をそれぞれ行い、その平均値を算出した。
【0066】
[40℃保持力]
各粘着シートから一枚目の剥離ライナーを除去して露出した第1粘着面に、厚さ50μmのPETフィルムを貼り合わせた。これを10mm×100mmにカットして試験片を作製した。該試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第2粘着面を、トルエンで表面を洗浄したベークライト板(被着体)に、10mm×20mmの接着面積にて貼り付け、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを40℃で30分間保持した後、ベークライト板を垂下し、試験片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で40℃の環境下に保持し、1時間経過時点での初期貼り付け位置からの試験片のズレ距離(mm)を測定した。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示されるように、ワークアップ用水として加熱処理水を用いてなる例1,2の粘着シートは、いずれも、蛍光強度が、一般生菌由来の不快臭が感知され得るレベルより低かった。さらに重合用水としてUV照射水を用いてなる例2の粘着シートは、蛍光強度がより低減された。一方、重合用およびワークアップ用ともに未処理の軟水を用いてなる例3の粘着シートは、蛍光強度が、一般生菌由来の不快臭が感知され得るレベルまで到達した。
【0069】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1:基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12,13,14,15,16:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体をベースポリマーとして含む粘着剤層を備えた粘着シートであって、
前記粘着剤層から抽出したDNAに対し、16S rDNAを標的としてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅を実施し、その増幅させた16S rDNAのターゲット領域をゲル電気泳動により分離した後モレキュラープローブ社製の商品名「SYBR Gold」により染色し、波長302nm、強度500μW/cmの励起光を照射した場合において、当該16S rDNA領域を含むバンドについて測定される波長範囲548nm〜630nmにおける蛍光強度が、当該測定に用いた粘着剤試料1g当たり5.5×10/g未満である、粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層が、水分散型粘着剤組成物から形成されたことを特徴とする、請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着シートを80℃で30分間保持した場合において、該粘着シートから放散される揮発性有機化合物の総量が、該粘着シート1g当たり100μg以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−231179(P2011−231179A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100947(P2010−100947)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】