説明

粘着テープ用基材フィルム

【課題】粘着テープ用基材フィルムの提供。
【解決手段】
中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルムを電子線照射により架橋させてなる粘着テープ用基材フィルムにおいて、前記両外層は、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層であり、前記中層はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層であり、かつ、前記積層フィルムが100KGY以上の電子線照射によりゲル分率80%以上となるように加工されたことを特徴とする、粘着テープ用基材フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造工程で用いられる粘着テープ用基材フィルムに関し、より詳細には、とりわけ、パターンを形成したウエハを一つ一つのパターン毎に切断し半導体素子として分割する(ダイシング)際に使用する粘着テープのための基材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造において、ダイシングフィルムは、ダイシング工程において切削屑が発生しないこと(ダイシング特性)、また、エキスパンド工程において当該フィルムが全方向均一に延伸されること(エキスパンド性)、さらには高温にさらされる可能性があるため耐熱性を有することが求められている。
【0003】
そこで、従来より、多くのダイシングフィルムが提案されており、例えば、中心層にアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル系共重合体フィルム層を有する構成を採用した半導体ウエハ固定用粘着テープ(特許文献1)、また、メルトフローレート(MFR)が0.1〜3で、かつ重合体の構成成分としてカルボキシル基を有する構成成分を含む樹脂層と粘着剤層とが積層されてなる構成を採用する半導体ウエハ固定用粘着テープ(特許文献2)、融点が95℃以下のエチレン系樹脂を含有する層を有する多層構造であり、前記層の厚さが基材の総厚みの1/2以上であることを特徴とするダイシング用粘着シート(特許文献3)等である。
【0004】
しかしながら、上記従来文献に記載の固定用粘着テープ及びダイシング用粘着シートは、ダイシング特性又はエキスパンド性のいずれかの特性は満たすが、ダイシングフィルムに求められるダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性の全てを満足させるものではない。
【0005】
また、特許文献2には、樹脂層としてエチレン−メタクリル酸共重合体を用いている実施例が開示されている。しかし、当該実施例に記載された半導体ウエハ固定用粘着テープは、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂層の表面に粘着剤層を積層した構造に過ぎず、特許文献2には中層がエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂であり且つ中層の両外層がエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる積層フィルムの構成の適用について具体的な手段及び効果は示唆されていない。
【0006】
したがって、これまでに種々のダイシングフィルムが開示されているものの、ダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性について全てを満足させる性能を有する粘着テープ用基材フィルムについては報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−98220号公報
【特許文献2】特開2006−148096号公報
【特許文献3】特開2006−342330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、ダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性について全てを満足させ
る性能を有する粘着テープ用基材フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルムにおいて、前記両外層としてエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層を、また前記中層としてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層を採用し、かつ、前記積層フィルムが所定のゲル分率になるように加工されることで、粘着テープ用基材フィルムのダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性の全てが著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、第1観点として、中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルムを電子線照射により架橋させてなる粘着テープ用基材フィルムにおいて、前記両外層は、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層であり、前記中層はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層であり、かつ、前記積層フィルムが100KGY以上の電子線照射によりゲル分率80%以上となるように加工されたことを特徴とする、粘着テープ用基材フィルム。
第2観点として、前記外層:前記中層:前記外層の層厚の比率が1:4:1〜1:20:1であることを特徴とする、第1観点に記載の粘着テープ用基材フィルム。
第3観点として、前記エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂は、曲げ弾性率が160MPa以下で、ビカット軟化点が70℃以上であり且つメタクリル酸(MAA)含有率が12wt%以下であることを特徴とする、第1観点又は第2観点に記載の粘着テープ用基材フィルム。
第4観点として、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂は、メタクリル酸(MAA)含有率が5wt%以上であり、かつ、融点が95℃以上であることを特徴とする、第1観点乃至第3観点のいずれか一項に記載の粘着テープ用基材フィルム。
第5観点として、ダイシング用粘着テープの基材フィルムである、第1観点乃至第4観点に記載の粘着テープ用基材フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粘着テープ用基材フィルムは、電子線照射によりゲル分率80%以上に加工されており、ダイシング時に切削屑(ダイシング時に繊維状の異物が残ること)の発生を著しく減少させることが可能であるため、ダイシング特性に優れている。
また、本発明の粘着テープ用基材フィルムは、中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルム構造を採用し、前記両外層がエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層であり且つ前記中層がエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層で構成されていることから、エキスパンド工程において、フィルムを全方向均一に延伸させることが可能であるため、エキスパンド性に優れ、さらに耐熱性にも優れている。
さらに、中層として臭気がほとんどないエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂を用いていることから、本発明は、臭気がほとんどない粘着テープ用基材フィルムを提供することができる。
すなわち、本発明の粘着テープ用基材フィルムは、臭気がほとんどなく、ダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性について全てを満足にする性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の粘着テープ用基材フィルムは、中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルムを電子線照射により架橋させてなる粘着テープ用基材フィルムにおいて、前記両外層は、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層であり、前記中層は
エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層であり、かつ、前記積層フィルムが100KGY以上の電子線照射によりゲル分率80%以上となるように加工されたことを特徴とする、粘着テープ用基材フィルムである。
【0013】
本発明の粘着テープ用基材フィルムは、中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルム構造を有する粘着テープ用基材フィルムであり、両外層としてエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層を、一方、中層としてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層を採用する。
前記エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)は耐熱性を有し且つ縦と横の伸びが均一なため、本発明では、両外層にエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂を採用することで、粘着テープ用基材フィルムとして要求される耐熱性及びエキスパンド性の性能を確保したものである。また、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂は臭気がほとんどなく、エキスパンド性に優れているため、本発明では、中層にエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂を採用することで、臭気がほとんど無く、粘着テープ用基材フィルムとして要求されるエキスパンド性の性能を確保しようとしたものである。
【0014】
また、前記積層フィルムは100KGY以上の電子線照射によりゲル分率80%以上となるように加工されている必要がある。これは、ゲル分率80%未満であるとダイシング工程において切削屑が発生してしまう傾向があるからである。
【0015】
本発明の粘着テープ用基材フィルムは、中層とその両側の外層とからなる三層の積層構造で構成されるが、外層:中層:外層の層厚の比率は1:4:1〜1:20:1であり、好ましくは1:8:1〜1:16:1である。あまりに外層が薄いとエキスパンド性が悪くなる傾向があり、一方、外層が厚いと柔軟性を失う傾向があるからである。
【0016】
外層として採用するエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層の曲げ弾性率が160MPa以下である必要がある。これは、曲げ弾性率が160MPaより大きくなると、例え粘着テープ用基材フィルムを2種3層構造にしても十分な柔軟性を発現することができないからである。
【0017】
また、前記エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂は、ビカット軟化点が70℃以上である必要がある。これはビカット軟化点が70℃未満であると十分な耐熱性を発現し難いからである。また、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂がべたつき易く、粘着剤の塗工に不具合が生じる可能性があるからである。
【0018】
さらに、前記エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂は、メタクリル酸(MAA)含有率が12wt%以下である必要がある。これは、MAA含有率が12wt%より大きくなるとビカット軟化点が低下する傾向にあり、MFRが大きくなる傾向がある。その結果、曲げ弾性率は柔軟化の方向に向かうが、製膜歪の影響が大きくなり、エキスパンド性が悪くなる傾向があるからである。
【0019】
一方、中層として採用するエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂は、メタクリル酸(MAA)含有率が5wt%以上であることが好ましい。これは、MAA含有率が5wt%未満になると柔軟性が悪くなる傾向があるからである。
【0020】
また、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂は、融点が95℃以上である必要がある。これは、融点が95℃未満であると耐熱性が悪くなる傾向があるからである。
【0021】
なお、本発明の粘着テープ用基材フィルムでは、当該フィルムを構成する中層は、一層、複数層のいずれであっても良い。
【0022】
また、本発明の粘着用基材フィルムは、外層の少なくとも一方の層の表面の粗さが、0.5ミクロン以上であっても良い。表面が荒れているとリングフレームとの密着を阻害することができ、耐熱性向上と同等の性能を付与することができるからである。
【0023】
本発明の粘着用基材フィルムをダイシング用粘着テープの基材フィルムとして使用する場合、本発明の粘着用基材フィルムは半導体ウエハをダイシングする際に、ウエハに粘着固定する粘着用基材フィルムの基体となるフィルムであり、その積層フィルムの厚さについては特に限定されるものではないが、一般的には、0.05〜0.5mm程度、または0.08〜0.3mm程度を有するものであれば良い。フィルムの厚さが厚すぎると、引っ張り応力が大きくなり、フィルムを伸ばすのに、大きな力が必要となる傾向があり、薄すぎると、引っ張り強度が小さくなり、破れやすくなる傾向がある。
【0024】
本発明の粘着用基材フィルムの成形方法としては、公知の方法を用いることができるが、好ましくは、製造工程が簡略である共押出法や、共押出インフレーション法を使用して成形するのが良い。もちろん、中層と両外層とを、カレンダー法、押出法、インフレーション法等の手段によって別々に成形し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層する等によっても本発明の粘着用基材フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0026】
<実施例1〜7及び比較例1〜7>
下記の表1に示した配合からなる、外層としてエチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、中層としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、及びエチレン−メタクリル酸メチル共重合体樹脂を用い、三層Tダイ押出機で共押出して、粘着用基材フィルムを得た。また、比較例7以外の粘着用基材フィルムには、200KGYの電子線を照射した。
各粘着用基材フィルムについて、柔軟性、耐熱性、臭気、ダイシング特性、及びエキスパンド性を評価した。その結果を表1に示す。また、表2〜5は用いた樹脂の特性値を示す。
なお、各特性は次のように試験し、評価した。
【0027】
[柔軟性の評価]
JIS K 6732に準じて試験を行い(CHS 200mm/min、1号ダンベルでの引張試験)、以下の基準で評価した。
○:25%延伸時の応力が7MPa以下。
△:25%延伸時の応力が7MPaより大きく、20MPa以下。
×:25%延伸時の応力が20MPaより大きい。
【0028】
[耐熱性の評価]
幅15mm×標線10mm×5g荷重で、120℃のオーブンに15分間吊るして、サンプルの変形量を確認し、以下の基準で評価した。
○:120℃で10分間オーブン内に吊るしても溶けて伸びきらない。
△:120℃で10分間オーブン内に吊るすと多少溶けて伸びる。
×:120℃で10分間オーブン内に吊るすと溶けて伸びきる。
【0029】
[臭気の評価]
官能評価を行った。
○:酸コポリマー特有の臭気がない。
△:酸コポリマー特有の臭気が多少ある。
×:酸コポリマー特有の臭気がある。
【0030】
[ダイシング特性の評価]
ダイシングブレードを使用し、回転数45000rpm、カットスピード100m/secでフィルムに切り込みを入れて、以下の基準で評価した。
○:切削屑が発生しない。
×:切削屑が発生する。
【0031】
[エキスパンド性の評価]
JIS K 6732に準じて試験を行い(CHS 200mm/min、1号ダンベルでの引張試験)、以下の基準で評価した。
○:10%延伸時におけるタテ/ヨコの荷重の比が0.7以上である。
×:10%延伸時におけるタテ/ヨコの荷重の比が0.7未満である。
【0032】
[ゲル分率の測定]
120℃の熱キシレン中でフィルムを溶解させたときの不溶分量をゲル分率とした。
○:ゲル分率80%以上。
×:ゲル分率80%未満。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表1の結果より、本発明の粘着テープ用基材フィルムは、臭気性、ダイシング特性、エキスパンド性、及び耐熱性の諸特性について全てを満足させる良好な結果を示した(実施例1〜4)。
【0039】
これに対し、中層の樹脂としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂を用いた粘着テープ用基材フィルムは、臭気があり、エキスパンド性を満足させるものではなかった(比較例1〜6)。また、ビカット軟化点が70℃以下のエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂を外層に用いた粘着テープ用基材フィルムは、耐熱性及びエキスパンド性が劣る結果となった(比較例3、4)。中層の樹脂としてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂を用いても電子線を照射していない粘着テープ用基材フィルムについては、臭気はないが、ダイシング特性、及び耐熱性の諸特性について満足させるものではなかった(比較例7)。また、融点が95℃以下のエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂を用いた粘着テープ用基材フィルムは、実用に耐え得るものではあるが、実施例1〜4、及び7と比較すると、耐熱性が若干劣るものであった(実施例5及び6)。さらに、曲げ弾性率が160MPa以上のエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂を外層に用いた粘着テープ用基材フィルムは、実施例1〜6と比較すると、若干柔軟性に劣るものであった(実施例7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中層とその両側の外層とからなる三層の積層フィルムを電子線照射により架橋させてなる粘着テープ用基材フィルムにおいて、前記両外層は、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂からなる層であり、前記中層はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂からなる層であり、かつ、前記積層フィルムが100KGY以上の電子線照射によりゲル分率80%以上となるように加工されたことを特徴とする、粘着テープ用基材フィルム。
【請求項2】
前記外層:前記中層:前記外層の層厚の比率が1:4:1〜1:20:1であることを特徴とする、請求項1に記載の粘着テープ用基材フィルム。
【請求項3】
前記エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂は、曲げ弾性率が160MPa以下で、ビカット軟化点が70℃以上であり且つメタクリル酸(MAA)含有率が12wt%以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の粘着テープ用基材フィルム。
【請求項4】
前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)樹脂は、メタクリル酸(MAA)含有率が5wt%以上であり、かつ、融点が95℃以上であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粘着テープ用基材フィルム。
【請求項5】
ダイシング用粘着テープの基材フィルムである、請求項1乃至請求項4に記載の粘着テープ用基材フィルム。

【公開番号】特開2011−83960(P2011−83960A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238213(P2009−238213)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】