説明

粘着剤組成物およびそれを用いる内装材

【課題】被着体を傷めずに再剥離できる粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】内装用部材2の貼付面2aに粘着剤組成物が部分的に塗布されて粘着部3が凸設される。粘着部3の構成材料である粘着剤組成物は、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル(以下「(メタ)アクリル酸エステル」と称す)の重合体または(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとの共重合体を主成分とするアクリルエマルションと充填剤とを含有する。アクリルエマルションにより耐老化性および耐候性を確保できる。さらに、充填剤の含有率はアクリルエマルション(固形分)に対して40〜80wt%であるので、保持力を確保できると共に、適度な粘着力が得られる。これにより、被着体を傷めずに再剥離できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤組成物およびそれを用いる内装材に関し、特に、被着体を傷めずに再剥離できる粘着剤組成物およびそれを用いる内装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイル状の内装用部材と、その内装用部材の背面に設けられる粘着剤層とを備え、建物の壁面等の被着体(壁紙等が貼付された壁面等)に着脱可能に構成される内装材が知られている。例えば特許文献1には、金属製化粧板と、その金属製化粧板の背面に貼着される両面接着テープとを備える内装材(金属製タイル)が開示されている。また、特許文献2には、内装材片と、その内装材片の裏面に形成される粘着剤塗膜とを備える内装材(粘着施工用内装材)が開示されている。特許文献1や特許文献2に開示される技術では、被着体に内装用部材を貼着させることができ、不要になったときは剥がすことも可能である。
【0003】
特許文献3には、内装用部材と、その内装用部材の背面に設けられる粘着剤層とを備える内装材が開示されている。特許文献3に開示される技術では、粘着剤層はゴム系粘着剤(テサテープ株式会社のパワーストリップ7028(商品名))により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭50−7812号公報
【特許文献2】特許第2979213号公報([0011]等)
【特許文献3】特許第3898946号公報([0015]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示される技術では、内装材を被着体に貼着した後に不要になったり模様替えをしたりするため、被着体から内装材を剥がしたときに糊残り(被着体に粘着剤が残ること)が生じることがあるという問題点があった。また、両面接着テープや粘着剤塗膜に被着材が貼り付いて、被着体を傷めることがあるという問題点があった。
【0006】
また、特許文献3に開示される技術では、粘着剤層を構成するゴム系粘着剤は一般に老化し易いという問題点があった。粘着剤層が老化すると再剥離(粘着剤を被着体に残さずに綺麗に剥がすことができること)ができずに糊残りが生じたり、剥離をするときに粘着剤層に被着材が貼り付いて被着体が傷められたりするという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、被着体を傷めずに再剥離できる粘着剤組成物およびそれを用いる内装材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
この目的を達成するために請求項1記載の粘着剤組成物によれば、(メタ)アクリル酸エステルの重合体または(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとの共重合体を主成分とするアクリルエマルションにより、耐老化性および耐候性を確保できる。さらに、充填剤の含有率はアクリルエマルション(固形分)に対して40〜80wt%であるので、粘着剤に保持力を確保できると共に、適度な粘着力が得られる。これにより、被着体を傷めずに再剥離できる効果がある。
【0009】
請求項2記載の粘着剤組成物によれば、ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤は、少量を添加することで粘度を増加させられると共に、チクソ性(揺変性)を向上できる。これにより、請求項1の効果に加え、粘着剤の肉盛り性を向上させて厚みを確保できると共に、にじみやだれを防止できる効果がある。さらに、粘着剤を塗布するときの糸切れを良くし、塗布作業性を向上できる効果がある。
【0010】
請求項3記載の粘着剤組成物によれば、充填剤はアルカリ土類金属炭酸塩であるので、充填剤がpH調整剤として働き、粘着剤を安定した塩基性に維持できる。その結果、塩基性の条件下でポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤による増粘性やチクソ性を安定して発揮させ、粘着剤の肉盛り性や塗布作業性を安定して発揮させる効果がある。
【0011】
請求項4記載の内装材によれば、内装用部材の貼付面に部分的に凸設される粘着部は、先端に向かって細くなる先細り形状に形成されているので、粘着部の内装用部材に対する接着面積を被着体に対する接着面積より広くすることができる。さらに、粘着部は請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤組成物の塗布により形成されるので、耐老化性および耐候性に優れ、貼着後に被着体から内装材を剥がすときに、粘着部が破断することを防止できると共に、粘着部と内装用部材との界面ではなく粘着部と被着体との界面で剥離できる。その結果、被着体を傷めずに再剥離できる効果がある。さらに、粘着成分のアクリルエマルションにより粘着剤を製造するときの排出溶剤を減らし環境負荷を低減できると共に、貼着後の揮発性有機物質を減らし、人体への影響を低減できる効果がある。
【0012】
請求項5記載の内装材によれば、粘着部は貼着面からの高さが0.3〜3mmに設定されているので、請求項4の効果に加え、被着体に凹凸や不陸がある場合でも、粘着部の厚さで凹凸や不陸を吸収して、被着体における接着面積を十分に確保できる効果がある。
【0013】
請求項6記載の内装材によれば、内装用部材の貼付面に凸設される粘着部の短手幅は1〜5mmに設定されているので、請求項4又は5の効果に加え、貼付面に塗布される粘着剤の乾燥時間を短縮することができると共に、乾燥に要するエネルギーを削減できる効果がある。
【0014】
請求項7記載の内装材によれば、貼付面の外縁の全周と粘着部が凸設される粘着部形成領域との間に粘着不能な余白部を備えている。被着体に貼着すると、粘着部に厚さがあるので、被着体と余白部との間に隙間が形成される。その隙間を利用して、貼着した内装用部材を被着体から剥がすことができ、請求項4から6のいずれかの効果に加え、被着体に貼着した内装材の剥離作業性を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施の形態における内装材の斜視図である。
【図2】被着体に貼着される内装材の側面図である。
【図3】図2のIII−III線における内装材の断面図である。
【図4】(a)は第2実施の形態における内装材の背面図であり、(b)は第3実施の形態における内装材の背面図であり、(c)は第4実施の形態における内装材の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1〜図3を参照して、第1実施の形態について説明する。図1は第1実施の形態における内装材1の斜視図であり、図2は被着体Wに貼着される内装材1の側面図である。図1に示すように、内装材1は、タイル状の内装用部材2と、内装用部材2の背面である貼着面2aにアクリルエマルションを含有する粘着剤組成物が部分的に塗布されて凸設される粘着部3とを備えて構成されている。
【0017】
内装用部材2は、木材、竹材、陶磁器、ガラス、金属、合成樹脂、紙等で、図1に示すようにタイル状に形成されている。内装用部材2は、正面視において、方形状、矩形状等の他、三角形状、円形状、楕円形状等、種々の形状に形成されたものを採用できる。
【0018】
粘着部3の材料である粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体または(メタ)アクリル酸エステルとビニルモノマーとの共重合体を主成分とするアクリルエマルションを含有するものが用いられる。「(メタ)アクリル酸エステル」とは、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルを意味する。
【0019】
メタクリル酸エステルは、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t‐ブチル、メタクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル、メタクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3‐ブチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸トルイル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2‐メトキシエチル、メタクリル酸3‐メトキシブチル、メタクリル酸2‐アミノエチル、〔3‐(メタクリロイルオキシ)プロピル〕トリメトキシシラン、〔3‐(メタクリロイルオキシ)プロピル〕ジメトキシメチルシラン、メタクリル酸トリフルオロメチル、メタクリル酸ペンタフルオロエチル、メタクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチルなどを挙げることができる。
【0020】
アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸2‐メトキシエチル、アクリル酸3‐メトキシブチル、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、2‐アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、2‐アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、アクリル酸3‐ジメチルアミノエチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸4‐ヒドロキシブチル、アクリル酸t‐ブチル、アクリル酸ラウリル、アルキル変性ジペンタエリスリトールのアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、アクリル酸カルビトール、ε‐カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アクリル酸テトラエチレングリコール、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート、アクリル酸1,9‐ノナンジオール、アクリル酸1,4‐ブタンジオール、2‐プロペノイックアシッド〔2‐〔1,1‐ジメチル‐2‐〔(1‐オキソ‐2‐プロペニル)オキシ〕エチル〕‐5‐エチル‐1,3‐ジオキサン‐5‐イル〕メチルエステル、アクリル酸1,6‐ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールトリアクリレート、2‐アクリロイルオキシプロピルハイドロジェンフタレート、3‐メトキシアクリル酸メチル、アクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらの化合物は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。また、重合がスムーズに進行する点で、アクリル酸エステルの群から選択される少なくとも1種の単量体を用いることが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびクロトン酸などのカルボキシル基含有モノマーやその無水物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート及びポリオキシエチレンモノアリルエーテル等の水酸基含有モノマー、その他酢酸ビニル、ピロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ケイ皮酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレン及びジメチルアミノメタアクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルはビニルモノマーと共重合することで、目的にあった貼着部3の粘着性能を比較的容易に設計できる。
【0022】
アクリルエマルションは、乳化重合、懸濁重合、微細懸濁重合などの水系重合により製造される。なかでも、エマルションの安定性に優れる乳化重合が好適である。水系重合により製造されるため、重合後は煩雑な処理を省略できる。さらに、排出溶剤を減らすことができ、揮発性有機物質の含有量を減らすことができる。
【0023】
粘着剤組成物は、増粘剤を含有する。これにより粘着剤組成物の粘度を増加させる。増粘剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸系重合体、ポリオキシアルキレングリコール誘導体などの水溶性ポリマーが用いられる。なかでも、ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤が好適に用いられる。ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤は、少量の添加により粘度を増加させられると共に、チクソ性(揺変性)を向上できる。これにより、粘着剤の肉盛り性を向上させて厚みを確保できると共に、にじみやだれを防止できる。さらに、粘着剤を塗布するときの糸切れを良くし、塗布作業性を向上できる。
【0024】
ポリアクリル酸系重合体としては、アクリル酸を主成分とする単量体から構成されるものが用いられる。アクリル酸以外の構成単量体としては、アクリル酸ナトリウム塩などのアクリル酸塩、その他のビニル系単量体が、水溶性を損なわない限りにおいて併用できる。
【0025】
その他のビニル系単量体としては、具体的には、オレフィン系不飽和カルボン酸およびそれらのカルボン酸塩、スチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0026】
オレフィン系不飽和カルボン酸およびそれらのカルボン酸塩としては、具体的には、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸など、及びそれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0027】
アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類としては、具体的には、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、オクチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルエクリレート等のエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有単量体、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0028】
アクリルアミド類、メタクリルアミド類としては、具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
また、末端メタクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリメチルメタクリレート、末端メタクリレートポリスチレン、末端メタクリレートポリエチレングリコール、末端メタクリレートアクリロニトリルスチレン共重合体などのマクロモノマー類なども使用可能である。
【0030】
同様に、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのエステル類なども使用することができ、さらに必要に応じて、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等も使用できる。
【0031】
さらに、水溶性を損なわない程度で架橋性単量体を使用することもでき、具体的には、テトラアリルオキシエタン、アリルペンタエリスリトール、アリルサッカロース、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリルフタレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0032】
ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤の含有率としては、アクリルエマルション(固形分)に対して0.5〜3wt%が好適である。増粘剤の含有率が0.5wt%より少なくなると粘度の増加が不十分であり、3wt%より多くなると粘度が増加しすぎて塗布作業性が低下する傾向がみられる。
【0033】
ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤は、塩基性の条件下で増粘性やチクソ性が発揮されるため、ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤を用いる場合は、pH調整剤が併用される。pH調整剤は、粘着剤組成物を塩基性に調整できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール等が挙げられる。
【0034】
粘着剤組成物は、充填剤が含有される。充填剤としては、含水微粉ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、ガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック、炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化チタン、亜鉛華、珪藻土、硫酸バリウム、ガラス粉末などの無機系充填剤を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。充填剤は、平均粒子径が0.1〜3μmのものが好適に用いられる。
【0035】
なかでも充填剤としては、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩が好適に用いられる。アルカリ土類金属炭酸塩はpH調整剤として働き、粘着剤を安定した塩基性に維持できるからである。その結果、塩基性の条件下でポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤による増粘性やチクソ性を安定して発揮させ、粘着剤の肉盛り性や塗布作業性を安定して発揮させる。
【0036】
粘着剤組成物における充填剤の含有率は、アクリルエマルション(固形分)に対して40〜80wt%(アクリルエマルション(固形分)100質量部に対して充填剤40〜80質量部)が好適とされる。粘着部3に必要な保持力と適度な粘着力とを確保するためである。これにより、粘着部3は被着体を傷めずに再剥離できる。さらに、繰り返し複数回の貼着・剥離が可能となる。
【0037】
アクリルエマルション(固形分)に対する充填剤の含有率が40wt%より少なくなるにつれ、粘着部3の保持力が低下する傾向がみられ、充填剤の含有率が80wt%より多くなるにつれ、粘着部3の粘着力が低下する傾向がみられる。
【0038】
粘着剤組成物は、粘着付与剤(タッキファイヤー)が添加されることが好ましい。充填剤が含まれることによって低下するタック(初期粘着力)を補うためである。これによっても、複数回の貼着・剥離が可能となる。粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。粘着剤組成物における粘着付与剤の含有率は、アクリルエマルション(固形分)に対して0.5〜3wt%が好適である。粘着付与剤の含有率が0.5wt%より少なくなるとタックの増加が不十分であり、3wt%より多くなるとべたつきが強くなる傾向がみられる。
【0039】
粘着剤組成物は、その他、必要に応じて各種添加剤が含有される。添加剤としては、例えば、消泡剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、HALS、帯電防止剤、難燃剤、防カビ剤、老化防止剤等を挙げることができる。
【0040】
図1に戻って説明する。図1に示すように、内装用部材2の背面である貼付面2aに粘着剤組成物が部分的に塗布されて粘着部3が凸設される。粘着部3は、互いに平行な複数本の突条状に形成されている。また、粘着部3が凸設される粘着部形成領域2bは、貼付面2aの外周から所定距離だけ内側の領域に形成されている。その結果、貼付面2aの外縁の全周と粘着部形成領域2bとの間に、粘着部3が形成されていない粘着不能な余白部2cが形成される。貼付面2aに粘着剤組成物を塗布し乾燥させた後、凸設された粘着部3の先端3aに、シリコン処理等がされた剥離シート(図示せず)が貼着される。これにより、埃等から粘着部3を保護すると共に、粘着部3から水分等の蒸発を抑制できる。
【0041】
内装材1を使用するときには、剥離シートを剥がした後、図2に示すように内装材1の粘着部3を壁面等の被着体Wに貼着する。粘着部3は貼付面2aに凸設されているので、被着体Wと余白部2bとの間に、粘着部3の高さにほぼ相当する隙間が形成される。その隙間を利用して、被着体Wに貼着した内装用部材2を被着体Wから容易に剥がすことができ、被着体Wに貼着した内装材1の剥離作業性を向上できる。
【0042】
なお、余白部2cの幅(貼付面2aの外周と粘着部形成領域2bとの距離)としては、貼付面2aの大きさにもよるが、4〜10mmが好適である。余白部2cの幅が4mmより小さくなるにつれ、剥離作業性が低下する傾向がみられ、10mmより大きくなるにつれ、粘着部形成領域2bの面積が狭くなり粘着力が低下する傾向がみられる。
【0043】
次に、図3を参照して粘着部3の断面形状について説明する。図3は、図2のIII−III線における内装材1の断面図である。図3に示すように、粘着部3は、短手方向の断面が、粘着部3の先端3aに向かって先細り形状となる略台形状に形成されている。そのため、内装材1を被着体Wに貼着したときに、粘着部3と内装用部材2との接着面積を、粘着部3と被着体Wとの接着面積より広くすることができる。さらに、粘着部3を構成する粘着剤組成物は耐老化性や耐候性に優れるため、内装材1を被着体Wに貼着した状態(図2参照)から剥がすときに、粘着部3が破断することを防止できると共に、粘着部3と内装用部材2との界面ではなく粘着部3と被着体Wとの界面で剥がすことができる。その結果、糊残りを防止できると共に、被着体Wの壁紙等を剥がしてしまう等の不具合を防止でき、被着体Wを傷め難くできる。
【0044】
また、粘着剤組成物は水系重合により製造されるため、製造工程における排出溶剤を減らし、環境負荷を低減できる。さらに、粘着部3はアクリルエマルションを含有する粘着剤組成物により形成されているので、揮発性有機物質(VOC)を減らし、内装材1が施工された室内等で生活をする人の健康への悪影響を低減できる。
【0045】
また、本実施の形態では、内装用部材2の貼付面2aから粘着部3の先端3aまでの粘着部3の高さが0.3〜2mmに設定されている。これにより、被着体Wに凹凸や不陸がある場合でも、粘着部3の厚さで凹凸や不陸を吸収して、被着体Wと粘着部3との接着面積を十分に確保できる。
【0046】
また、本実施の形態では、内装用部材2の背面視における粘着部3の短手幅(図3左右方向)は、1〜5mmに設定されている。これにより、粘着部3を形成するために内装用部材2の貼付面2aに塗布される粘着剤組成物の乾燥時間を短縮することができると共に、乾燥に要するエネルギーを削減できる。
【0047】
次に、図4を参照して第2実施の形態、第3実施の形態および第4実施の形態について説明する。なお、第2実施の形態、第3実施の形態および第4実施の形態において、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
第1実施の形態では、粘着部3が複数本の突条状に形成される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、粘着部13が一連に蛇行して凸設されている。図4(a)は第2実施の形態における内装材11の背面図である。
【0049】
第2実施の形態においても、粘着部13はアクリルエマルションを含有する粘着剤組成物で形成されており、短手方向の断面が、先端に向かって幅が狭くなる先細り形状となる略半円状に形成されている。第2実施の形態における内装材11は、内装用部材2の背面(貼付面)にシリンジ等から粘着剤組成物を一連に押し出して粘着部13を形成することができる。第2実施の形態によれば、粘着部13を形成する生産性を向上できる。
【0050】
図4(b)は第3実施の形態における内装材21の背面図である。第3実施の形態における内装材21では、粘着部23は粘着部形成領域2bの複数箇所に平面視が略円形の点状に凸設されている。なお、粘着部23はアクリルエマルションを含有する粘着剤組成物で形成されており、短手方向の断面が、先端に向かって細くなる先細り形状となる略長円状に形成されている。第3実施の形態における内装材21は、内装用部材2の背面(貼付面)にシリンジ等から粘着剤組成物を間欠的に押し出し、粘着部23を点在させて形成できる。第3実施の形態によれば、粘着部13を形成する生産性を向上できると共に、粘着部3を粘着部形成領域2bに均等に配置し易くできる。
【0051】
図4(c)は第4実施の形態における内装材31の背面図である。第4実施の形態における内装材31では、粘着部33は粘着部形成領域2aの複数箇所に分散させて突条状に凸設されている。なお、粘着部33はアクリルエマルションを含有する粘着剤組成物で形成されており、短手方向の断面が、先端に向かって狭くなる先細り形状となる略三角状に形成されている。第4実施の形態における内装材31は、内装用部材2の背面(貼付面)にシリンジ等から粘着剤組成物を間欠的に押し出し、粘着部33を所定間隔をあけて形成することができる。第4実施の形態によれば、粘着部33の間隔を調整することで、粘着部33と被着体Wとの接着面積を任意に調整できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1〜10)
表1は、実施例1〜10の粘着剤組成物におけるアクリルエマルション:酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体(固形分)、充填剤:炭酸カルシウム、増粘剤:アクリル酸エステル共重合体、水、粘着付与剤・消泡剤その他の割合(表の「充填剤の含有率」の単位は%、それ以外の数値の単位は質量部)を示す。その表1に示す割合で各材料を混合し、撹拌機にて20分間撹拌した後、約1時間静置し脱泡して実施例1〜10における粘着剤組成物を得た。
【0054】
【表1】

【0055】
(比較例1〜4)
表2は、比較例1〜4の粘着剤組成物におけるアクリルエマルション:酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体(固形分)、充填剤:炭酸カルシウム、増粘剤:アクリル酸エステル共重合体、水、粘着付与剤・消泡剤その他の割合(表の「充填剤の含有率」の単位は%、それ以外の数値の単位は質量部)を示す。その表2に示す割合で各材料を混合し、撹拌機にて20分間撹拌した後、約1時間静置し脱泡して比較例1〜4における粘着剤組成物を得た。
【0056】
【表2】

【0057】
(実施例11)
増粘剤をアクリル酸エステル共重合体に代えてポリアクリル酸重合体にした以外は実施例7と同一にして、実施例11における粘着剤組成物を得た。
【0058】
(実施例12)
増粘剤をアクリル酸エステル共重合体に代えてポリビニルアルコールにした以外は実施例7と同一にして、実施例12における粘着剤組成物を得た。
【0059】
(実施例13)
充填剤を炭酸カルシウムに代えて炭酸マグネシウムにした以外は実施例7と同一にして、実施例13における粘着剤組成物を得た。
【0060】
(実施例14)
充填剤を炭酸カルシウムに代えて含水微粉ケイ酸にすると共に、pH調整剤(トリエタノールアミン)を添加してpHを塩基性に調整した以外は実施例7と同一にして、実施例14における粘着剤組成物を得た。
【0061】
(供試体の製造)
実施例1〜14、比較例1〜4の各粘着剤組成物を、表面をコロナ処理したポリエチレンテレフタレート製フィルム(厚さ25μm)上に、スクリーン印刷(80メッシュ)により塗布し、温度23℃相対湿度65%の恒温槽内で4日間乾燥して、実施例1〜14、比較例1〜4の各供試体を得た。なお、実施例1〜10の各供試体は、粘着剤の乾燥後の膜厚が60〜70μmであった。
【0062】
(粘着力の測定)
ステンレス板(SUS304、幅×長さ×厚さ:50mm×125mm×2mm)の表面に、上記実施例1〜14、比較例1〜4の各供試体を貼着し、JIS Z0237「8.粘着力(180°引き剥がし法)」に規定の試験方法に準じて、ステンレス板に対する試験温度23℃の粘着力(N/25mm)を測定した。
【0063】
(保持力の測定および評価)
上記実施例1〜14、比較例1〜4の各供試体(保持力を測定する粘着剤の面積は25mm×25mm)を用い、JIS Z0237「11.保持力」に規定の試験方法に準じて、試験温度40℃、荷重1kgの条件で1時間試験を行い、各供試体の1時間後のずれ距離を測定した。ずれ距離が1.0mm以下の供試体を○、ずれ距離が1.0mmより大きい供試体または1時間以内に落下した供試体を×と評価した。
【0064】
(糊残りの観察および評価)
上記の粘着力を測定した後、ステンレス板上の粘着剤の残り具合を目視で観察した。ステンレス板上に粘着剤が残らなかった供試体を○、粘着剤が残った供試体を×と評価した。
【0065】
(にじみ・だれの観察および評価)
実施例1〜14、比較例1〜4の各供試体について、スクリーン印刷後の印刷パターンのにじみ・だれの有無を目視で観察した。にじみ・だれのない供試体を○、にじみ・だれが生じた供試体を×と評価した。
【0066】
以上の測定結果および評価を、上述の表1及び表2並びに以下の表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表1及び表2に示すように、粘着力は、アクリルエマルション(固形分)に対する充填剤の含有率が増加するにつれて小さくなり、充填剤の含有率が減少するにつれて大きくなることがわかった。また、保持力は、実施例1〜10ではずれ距離が1.0mm以下であったが、比較例1〜4ではずれ距離が1.0mmより大きいか1時間以内に落下することがわかった。
【0069】
以上より、アクリルエマルション(固形分)に対する充填剤の含有率が40〜80wt%であると(実施例1〜10)、十分な保持力を確保できると共に、再剥離できることがわかった。特に、アクリルエマルション(固形分)に対する充填剤の含有率が50〜70wt%であると(実施例4〜8)、適度な粘着力を確保でき、被着材の機械的強度が小さくても、再剥離のときに被着材が破壊されることを防止できる。
【0070】
また、アクリルエマルション(固形分)に対する充填剤の含有率が40wt%より少なくなると(比較例1,2)、にじみやだれが生じ易くなり、充填剤の含有率が特に少ない場合は(比較例2)、糊残りが生じ再剥離できなくなることがわかった。さらに、表3に示すように、増粘剤の種類や充填剤およびpH調整剤の種類によっても(実施例12,14)、にじみやだれが生じ易くなることがわかった。これに対し実施例1〜10ではにじみやだれが生じず、塗布作業性に優れると共に、形成される粘着部の寸法精度を向上できることが明らかとなった。
【0071】
なお、実施例12において、増粘剤の添加量を増やすと粘度は増加するが、チクソ性は乏しく、スクリーン印刷のときに糸引きが生じる傾向がみられた。また、実施例1〜10における粘着剤組成物に粘着付与剤を添加すると、タック(初期粘着力)が増加する傾向がみられた。なお、タックは、JIS Z0237「12.傾斜式ボールタック」に規定の試験方法に準じて、試験温度23℃の条件下で測定した。
【0072】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば上記実施の形態で挙げた数値や材質は一例であり、他の数値や材質を採用することは当然可能である。
【0073】
上記各実施の形態では、粘着部3,13,23,33はシリンジ等(ディスペンサ)から粘着剤組成物を押し出して塗布し形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の方法により形成することも可能である。他の方法としては、例えば、櫛歯状に形成されるブレードコーターにより塗布するもの、スクリーン印刷等を挙げることができる。
【0074】
上記実施の形態では、貼付面2aが平面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、被着体の形状に応じて、貼付面を曲面とすることが可能である。また、内装用部材2がタイル状に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、内装材の用途に応じて、任意の形状に設定することが可能である。また、内装材は建築物等の屋内用に限られるものではなく、例えば、自動車、鉄道車両等の車両の室内用とすることも可能である。
【0075】
なお、内装材1,11,21,31が貼着される被着体Wの材質(被着材)は、紙、木、コンクリート、モルタル、石膏、金属、合成樹脂、ガラス、陶磁器、石、ポリエチレンフォーム等の多孔体、漆喰、各種塗装面など、種々適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1,11,21,31 内装材
2 内装用部材
2a 貼付面
2b 粘着部形成領域
2c 余白部
3,13,23,33 粘着部
3a 先端


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルの重合体または(メタ)アクリル酸エステルとビニルモノマーとの共重合体を主成分とするアクリルエマルションと、
充填剤とを含有し、
その充填剤の含有率は、前記アクリルエマルション(固形分)に対し40〜80wt%であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
ポリアクリル酸系重合体を主成分とする増粘剤を含有していることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記充填剤は、アルカリ土類金属炭酸塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
平面または曲面で形成される貼付面を有する内装用部材と、
その内装用部材の貼付面に請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤組成物が部分的に塗布されて凸設される粘着部とを備え、
その粘着部は、先端に向かって細くなる先細り形状に形成されていることを特徴とする内装材。
【請求項5】
前記粘着部は、前記貼付面からの高さが0.3〜3mmに設定されていることを特徴とする請求項4記載の内装材。
【請求項6】
前記貼付面に凸設される前記粘着部の短手幅は、1〜5mmに設定されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の内装材。
【請求項7】
前記貼付面の外縁の全周と前記粘着部が凸設される粘着部形成領域との間に粘着不能な余白部を備えていることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の内装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12558(P2012−12558A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156160(P2010−156160)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510151418)株式会社ココ・ビジュー (1)
【Fターム(参考)】