説明

粘着剤組成物

【課題】低極性被着体に対する粘着力に優れ、高い凝集力を示し、耐候性や耐熱性にも問題を有さないアクリル系粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】次式
(A−B)n−A
[式中、Aは、次式
CH2=C(R1)CONR23
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、そしてR2およびR3は水素原子または炭素原子数1ないし4のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、Bは、次式
CH2=CHCOOR4
(式中、R4は炭素原子数4ないし12のアルキル基を表す。)または次式
CH2=C(CH3)COOR5
(式中、R5は炭素原子数が8ないし22のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、そしてnは自然数を表す。]で表されるブロックコポリマーを含有することを特徴とする粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリブロック以上のブロックコポリマーを含有する粘着剤組成物に関する。さらに詳しくは、(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなるポリマーブロックAと(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなるポリマーブロックBとからなる(A−B)n−A型ブロックコポリマーを含有し、粘着力、タック性、凝集力、耐熱性または低温特性等に優れた粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来使用されている粘着剤には、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等が挙げられる。これらのうち、ゴム系粘着剤は種々の被着体に優れた粘着力を示すが、耐候性や耐熱性に乏しいという欠点を有する。またシリコーン系粘着剤は非常に高価である。
【0003】
他方、アクリレート系モノマーを重合してなるアクリル系粘着剤は耐候性に優れ、また構成するモノマーの組成を変更することにより粘着力を容易に制御できるという利点を有する。しかしながら、該アクリル系粘着剤は一般に、ポリオレフィン等の低極性被着体に対する粘着力に乏しく、またモノマーの重合を溶液重合により行った場合に、溶液粘度の制約により重合度を高めることができず、高い凝集力の粘着剤が得られないという問題があった。
【0004】
これに対し、低極性被着体に対する粘着力を改良したものとして、3連続ポリマーブロックから構成される単位を少なくとも1つ有するブロックコポリマーを含有する感圧接着剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。該3連続ポリマーブロックは、アクリレート系ポリマーブロックP(A)と、(メタ)アクリル酸誘導体ポリマーブロックP(B)とを交互に選択して含んでなる。
【0005】
また、(メタ)アクリル酸ポリマーブロックAと、(メタ)アクリレート系ポリマーブロックBとからなるブロックコポリマーを含有する粘着剤組成物も知られている(例えば、特許文献2参照。)。該ブロックコポリマーでは、第3ブチル(メタ)アクリレートをリビングラジカル重合し、その後に酸触媒の存在下で加熱処理してカルボキシル基を遊離させることにより、高い極性のポリマーブロックをブロックコポリマー中に導入する。
【0006】
さらに、非エラストマー性ポリマーブロックAと、(メタ)アクリレート系モノマーからなるエラストマー性ポリマーブロックBとが少なくとも2ブロック結合してなるブロックコポリマーを含む粘着剤組成物(例えば、特許文献3参照。)、並びにスチレン系ポリマーブロックAと、アクリル系ポリマーブロックBとからなるA−B−A型ブロックコポリマーを含む粘着剤組成物(例えば、特許文献4参照。)も知られている。
【0007】
また、前記アクリル系粘着剤組成物の凝集力を高めるには、粘着付与剤や架橋剤が使用されている。重合度を高めるために乳化重合を行うことも提案されているが、得られた粘着剤中に乳化剤が残存し、その特性に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【特許文献1】特開2003−41223号公報
【特許文献2】特開2001−234146号公報
【特許文献3】特開2001−207148号公報
【特許文献4】特開2001−288442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように従来技術では粘着剤組成物のためのブロックコポリマーについて種々検討されているが、得られる粘着剤組成物の特性は依然として満足すべきものでなかった。特に、極性の高いポリマーブロックをブロックコポリマー中に導入することは従来行われていなかった。従って本発明は、ポリオレフィン等の低極性被着体に対する粘着力に優れ、かつ粘着付与剤や架橋剤を使用せずとも常温で高い凝集力を示し、また耐候性や耐熱性にも問題を有さないアクリル系粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に対し鋭意研究を行った結果、(メタ)アクリルアミド系モノマーをリビングラジカル重合し、次いで得られたポリマーに対して(メタ)アクリレート系モノマーを重合することにより得られたブロックコポリマーを主成分として配合することにより、上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、本発明は、
次式
(A−B)n−A
[式中、
Aは、次式
CH2=C(R1)CONR23
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、そしてR2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1ないし4のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、
Bは、次式
CH2=CHCOOR4
(式中、R4は炭素原子数4ないし12のアルキル基を表す。)または次式
CH2=C(CH3)COOR5
(式中、R5は炭素原子数が8ないし22のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、そして
nは自然数を表す。]で表されるブロックコポリマーを含有することを特徴とする粘着剤組成物
に関する。
【0011】
本発明の好ましい態様は、
前記ポリマーブロックAの総数平均分子量は4000〜100000であることを特徴とする前記粘着剤組成物、
前記(メタ)アクリルアミド系モノマーは、N−イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする前記粘着剤組成物、
前記ポリマーブロックBの総数平均分子量は30000〜500000であることを特徴とする前記粘着剤組成物、および
前記(メタ)アクリレート系モノマーは、ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレートまたはそれらの組み合わせであることを特徴とする前記粘着剤組成物
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなる極性の高いポリマーブロックAをブロックコポリマー中に導入することにより、従来のアクリル系粘着剤の欠点であった低極性被着体に対する粘着力を改良できる。また、粘着付与剤および架橋剤を添加せずとも、常温で高い凝集力を示す。
【0013】
さらにポリマーブロックAは高いガラス転移温度を示すので、ブロックコポリマー中でポリマーブロックAが占める割合を適宜調節することにより、粘着剤組成物の熱挙動を制御できる。例えばポリマーブロックAの割合を増大させると、耐熱性に優れた粘着剤組成物が得られ、他方、ポリマーブロックAの割合を減少させると、ホットメルト型の粘着剤組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、主成分として次式
(A−B)n−A
[式中、nは自然数を表す。]で表されるトリブロック以上のブロックコポリマーを含有することを特徴とする。該ブロックコポリマーはポリマーブロックAとポリマーブロックBとからなり、前者は(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなり、そして後者は(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなる。
【0015】
前記(メタ)アクリルアミド系モノマーは、以下の一般式
CH2=C(R1)CONR23
[式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、そしてR2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1ないし4のアルキル基を表す。]で表される。このアクリルアミド系モノマーのリビングラジカル重合は、その高い極性のために重合制御が困難であり、該モノマーを重合してなるポリマーブロックを、粘着剤組成物用のブロックコポリマー中に導入することは従来報告されていない。
【0016】
前記(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えばアクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクリロイルピロリジンおよびN−テトラヒドロフリル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらの(メタ)アクリルアミド系モノマーは単独で、または2種以上を混合して使用できる。さらに10重量%を超えない範囲で他の重合性モノマーを添加することもできる。
【0017】
前記(メタ)アクリレート系モノマーは、以下の一般式
CH2=CHCOOR4
[式中、R4は炭素原子数4ないし12のアルキル基を表す。]または以下の一般式
CH2=C(CH3)COOR5
[式中、R5は炭素原子数が8ないし22のアルキル基を表す。]で表される。
【0018】
前記(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えばn−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレートおよびラウリルメタクリレートが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系モノマーは単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0019】
前記(メタ)アクリレート系モノマーには、良好な粘着力を得るために、(メタ)アクリレート系モノマーの20重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で重合性の改質用モノマーを添加できる。該改質用モノマーとしては、例えば炭素原子数1ないし3のアクリル酸アルキルエステル、炭素原子数1ないし7のメタクリル酸アルキルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロ
キシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
さらに前記(メタ)アクリレート系モノマーには、ポリオレフィンのような低極性被着体に対する粘着力を改良するために、極性の高いカルボン酸を添加できる。該カルボン酸としては、例えばアクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸およびカルボキシエチルアクリレートが挙げられ、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下の範囲で添加できる。
【0021】
本発明で用いる前記ブロックコポリマーは、(メタ)アクリルアミド系モノマーをリビングラジカル重合してポリマーブロックAを生成した後、(メタ)アクリレート系モノマーをポリマーブロックAに重合させてポリマーブロックBを生成し、さらにこれを繰り返すことにより製造できる。
【0022】
ポリマーブロックAのリビングラジカル重合は、前記(メタ)アクリルアミド系モノマーを、連鎖移動剤および溶剤と混合し、窒素置換等により酸素を除去した雰囲気下で該混合物を加熱し、これにラジカル開始剤を添加することにより行える。
【0023】
前記連鎖移動剤としては、以下の一般式
S=CQ(−SR)
[式中、QはC−、P−、S−等を表す。]で表される構造を有するチオエステルチオ化合物、チオトリカーボネート等(以下、RAFT試薬と呼ぶ。)が使用される。なかんずく、1分子中に前記構造を2個以上含む多官能性のチオエステルチオ化合物が好ましく、例えばジベンジルテトラチオテレフタレートおよびジベンジルトリチオカーボネートが挙げられる。
【0024】
前記連鎖移動剤を使用するリビングラジカル重合には、種々の方法が提案されており、例えば、
(1)パッテン(Patten)等により"Radical Polymerization Yielding Polymers with Mw/Mn〜1.05 by Homogeneous Atom Transfer Radical Polymerization", Polymer Preprinted, pp 575-6, No37(March 1996)に記載される方法、
(2)特表2000−515181号公報に記載されるチオカルボニルチオトリチオカーボネートを使用する方法、および
(3)Journal of American Chemical Society 2874, 124(2002)に記載される有機テルル化合物を使用する方法
が挙げられる。
【0025】
前記リビングラジカル重合に使用するラジカル開始剤としては、例えば熱開始剤、光化学開始剤およびレドックス開始剤が挙げられる。
【0026】
前記熱開始剤としては、重合温度で適当な半減期を有するものが使用でき、例えば2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シアノ−2−ブタン)、ジメチル2,2’−アゾビスジメチルイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シア
ノペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(第3ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1)−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミン)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[(イソブチルアミド)ジヒドレート]、2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、第3ブチルペルオキシアセテート、第3ブチルペルオキシベンゾエート、第3ブチルペルオキシオクテート、第3ブチルペルオキシネオデカノエート、第3ブチルペルオキシイソブチレート、第3アミルペルオキシピバレート、第3ブチルペルオキシピバレート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ペルオキシ2硫酸カリウム、ペルオキシ2硫酸アンモニウム、ジ−t−次亜硝酸ブチルおよび次亜硝酸ジクミルが挙げられる。これらの熱開始剤は単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0027】
前記光化学開始剤としては、反応媒体または単量体混合物中で必要な溶解度を有し、かつ重合条件下で遊離基を生成するために十分な量子収量を示すものが使用できる。例えば、ベンゾイン誘導体、ベンゾフェノン、アシルホスフィン酸化物および光レドックス系が挙げられる。
【0028】
前記レドックス開始剤としては、反応媒体または単量体混合物中で必要な溶解度を有し、かつ重合条件下で適当な遊離基生成速度を示すものが使用できる。例えば、ペルオキシ2硫酸カリウム、過酸化水素、第3ブチルヒドロペルオキシド等の酸化体と、鉄(II)、チタン(III)、チオ亜硫酸カリウム、重亜硫酸カリウム等の還元体との組み合わせが挙げられる。
【0029】
他の適したラジカル開始剤としては、モード(Moad)およびソロモン(Solomon)の"The Chemistry of Free Radical Polymerization", Pergamon,London,1995,pp.53-95に記載のものが挙げられる。
【0030】
前記ラジカル開始剤の使用量は、RAFT試薬中のチオカルボニルチオ基の量に対して1/5mol、好ましくは1/10mol、より好ましくは1/15molである。ラジカル開始剤が多すぎると副反応が多くなり、RAFT試薬による重合制御ができなくなる。
【0031】
前記リビングラジカル重合において、ポリマーブロックAが極性の高いポリマーからなる場合には、その後の(メタ)アクリレート系モノマーとの共重合のために、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の両親媒性の溶媒を使用する必要がある。しかしながら、ポリマーブロックAを構成する(メタ)アクリルアミド系モノマーとしてN−イソプロピルアクリルアミドを使用する場合には、汎用の溶媒であるアセトンや酢酸エチルを使用できる。従って、(メタ)アクリル系モノマーとして、工業的に優位であるN−イソプロピルアクリルアミドを使用することが好ましい。
【0032】
こうして生成したポリマーブロックAを高分子連鎖移動剤として使用してポリマーブロックAに(メタ)アクリレート系モノマーを重合させてポリマーブロックBを生成し、A
−B型ブロックコポリマーを製造できる。また該A−B型ブロックコポリマーにさらに(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合させることにより、A−B−A型ブロックコポリマーを製造できる。このように順にモノマーを重合させていくことにより、本発明の粘着剤組成物の主成分である(A−B)n−A型ブロックコポリマーを製造できる。
【0033】
前記(A−B)n−A型ブロックコポリマーでは、ポリマーブロックAの総数平均分子量が4000〜100000であることが好ましい。該ポリマーブロックAはガラス転移温度が高いため、ポリマーブロックAの総数平均分子量を適宜調節することにより、本発明の粘着剤組成物をホットメルト型とすることも、耐熱性に優れたものとすることもできる。例えばポリマーブロックAの総数平均分子量が4000〜20000のブロックコポリマーは、動的粘弾性測定において100〜160℃で貯蔵弾性率の低下が観測され、ホットメルト型の粘着剤組成物として使用できる。また総数平均分子量が20000〜100000のものはこのような貯蔵弾性率の低下が観測されず、耐熱性に優れた粘着剤組成物となる。特定の熱挙動を達成するために必要な総数平均分子量の値、貯蔵弾性率の低下温度等は、ポリマーブロックAを構成する(メタ)アクリルアミド系モノマーの種類により異なる。
他方、ポリマーブロックBの総数平均分子量は、例えば30000〜500000であることができ、好ましくは50000〜500000である。
【0034】
本発明の粘着剤組成物は、前記ブロックコポリマーを適当な溶媒に溶解させてなる。また他の添加剤、例えば粘着付与剤または架橋剤、光、熱または酸素に対する安定剤等を含有することもできる。粘着付与剤、架橋剤、安定剤等は粘着剤の技術分野における慣用のものが使用できる。
【0035】
前記A−B型ブロックコポリマーを生成するに際し、ポリマーブロックAに例えばベンジルジチオベンゾエートのような単官能のチオエステル化合物を用いるとA−B型ブロックコポリマーが得られ、(A−B)n−A型ブロックコポリマーは得られない。該A−B型ブロックコポリマーは十分な凝集力を示さないが、粘着剤組成物にタック性を付与するために有効なので、本発明の粘着剤組成物に該A−B型ブロックコポリマーを添加することも可能である。
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0037】
合成例1:RAFT試薬の合成
マグネチックスターラーおよび還流管を備え付けた1L三口フラスコに、α,α’−ジブロモ−p−キシレン(純度97%、アルドリッチ社製)66.0gおよび粉末状硫黄(純度98%以上、和光純薬株式会社製)32.0gを仕込み、窒素置換を行った後、ナトリウムメトキシド(28%溶液、和光純薬株式会社製)214.3mLおよびメタノール(無水物、和光純薬株式会社製)285.7mLを添加し、70℃で5時間還流を行った。減圧蒸留によりメタノールを除去した後、アセトニトリル(純度99.5%以上、和光純薬株式会社製)500mLを加え、塩化ベンジル(純度99%、和光純薬株式会社製)63.6gを2時間かけて滴下し、室温で16時間攪拌を行った。その後、得られた固形物をエタノール(純度99.5%、和光純薬株式会社製)により再結晶して、目的物質であるジベンジルテトラチオテレフタレートを得た。
得られた物質について1H−NMR測定(測定溶媒:CDCl3、測定温度:室温)により構造確認を行ない、略理論通りであることを確認した。
【0038】
以下の説明において、ジベンジルテトラチオテレフタレートを「DBTTF」、アクリル酸を「AA」、n−ブチルアクリレートを「BA」、イソオクチルアクリレートを「I
OA」、イソノニルアクリレートを「INA」、N−イソプロピルアクリルアミドを「NIPAM」、ジラウロイルペルオキシドを「LPO」、またはアゾビスイソブチロニトリルを「AIBN」と表記する。
【実施例1】
【0039】
還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた2Lセパラブルフラスコ中に、NIPAM410g、酢酸エチル400mL、DBTTF0.368gを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、アセトン中のAIBN溶液(濃度:0.82mg/mL)20mLを加えた。反応開始1時間後および2時間後に該AIBN溶液10mLを再度加えた。反応開始4時間後、反応溶液をトルエン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、総数平均分子量が40000であるNIPAMポリマーを得た。
【0040】
次いで、還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた1Lセパラブルフラスコ中に、上記で得られたNIPAMポリマー18.05g、INA200gおよび酢酸エチル200mLを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、前記AIBN溶液10mLを加えた。反応開始2時間後、反応溶液をヘキサン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、A−B−A型ブロックコポリマーであるポリ(NIPAM−INA−NIPAM)を得た。各ポリマーブロックの数平均分子量は順に20000、197000および20000であった。
こうして得られたブロックコポリマーを、酢酸エチル/アセトン=1/1の混合溶媒中に溶解し、アプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着剤層の厚さが20μmである粘着シートを得た。
【実施例2】
【0041】
還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた2Lセパラブルフラスコ中に、NIPAM390g、酢酸エチル400mL、DBTTF0.368gを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、アセトン中のAIBN溶液(濃度:0.82mg/mL)20mLを加えた。反応開始1時間後および2時間後に該AIBN溶液10mLを再度加えた。反応開始4時間後、反応溶液をトルエン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、総数平均分子量が14000であるNIPAMポリマーを得た。
【0042】
次いで、還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた1Lセパラブルフラスコ中に、上記で得られたNIPAMポリマー18.05g、IOA200gおよび酢酸エチル200mLを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、前記AIBN溶液10mLを加えた。反応開始4時間後、反応溶液をヘキサン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、A−B−A型ブロックコポリマーであるポリ(NIPAM−IOA−NIPAM)を得た。各ポリマーブロックの数平均分子量は順に7000、155000および7000であった。
こうして得られたブロックコポリマーを、酢酸エチル/アセトン=1/1の混合溶媒中に溶解し、アプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着剤層の厚さが20μmである粘着シートを得た。
【実施例3】
【0043】
還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた2Lセパラブルフラスコ中に、NIPAM430g、酢酸エチル400ml、DBTTF0.368gを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、アセトン中のAIBN溶液(濃度:0.82mg/mL)20mLを加えた。反
応開始1時間後および2時間後に該AIBN溶液10mLを再度加えた。反応開始4時間後、反応溶液をトルエン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、総数平均分子量が60000であるNIPAMポリマーを得た。
【0044】
次いで、還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた1Lセパラブルフラスコ中に、上記で得られたNIPAMポリマー18.05g、BA200gおよび酢酸エチル200mLを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、前記AIBN溶液10mLを加えた。反応開始4時間後、反応溶液をヘキサン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、A−B−A型ブロックコポリマーであるポリ(NIPAM−BA−NIPAM)を得た。各ポリマーブロックの数平均分子量は順に30000、170000および30000であった。
こうして得られたブロックコポリマーを、酢酸エチル/アセトン=1/1の混合溶媒中に溶解し、アプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着剤層の厚さが20μmである粘着シートを得た。
【実施例4】
【0045】
還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた2Lセパラブルフラスコ中に、NIPAM250g、酢酸エチル400mL、DBTTF0.368gを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、アセトン中のAIBN溶液(濃度:0.82mg/mL)20mLを加えた。反応開始2時間後、反応溶液をトルエン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、総数平均分子量が3000であるNIPAMポリマーを得た。
【0046】
次いで、還流管、攪拌モーター、温度計、ラバーセプタム、窒素導入口および出口を備え付けた1Lセパラブルフラスコ中に、上記で得られたNIPANポリマー18.05g、INA200gおよび酢酸エチル200mLを仕込み、窒素フローを1時間行った。該混合物を加熱し、還流が開始した時点で、前記AIBN溶液10mLを加えた。反応4時間後、反応溶液をヘキサン中に注ぎ入れ、生成物を沈殿させることによって、A−B−A型ブロックコポリマーであるポリ(NIPAM−INA−NIPAM)を得た。各ポリマーブロックの数平均分子量は順に1500、170000および1500であった。
こうして得られたブロックコポリマーを、酢酸エチル/アセトン=1/1の混合溶媒中に溶解し、アプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着層の厚さが20μmである粘着シートを得た。
【0047】
比較例1
還流管、攪拌用モーター、滴下ロートおよび温度計を備え付けた1L四口フラスコ中に、BA192.0g、AA8.0gおよび酢酸エチル/アセトン(=7:3)200gを仕込んだ。該混合物を加熱し、窒素フローにより酸素を除去しつつ還流させた。その後、トルエン30g中にLPO1.5gを溶解させた開始剤溶液を還流下で8回にわたり分割投入し、8時間反応を行った。反応中、増粘に伴い適宜トルエンを加え希釈した。トルエンの添加量は合計100gであった。
上記で得られたコポリマーに架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製)0.4部を加え、これをアプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着剤層の厚さが20μmである粘着シートを得た。得られた粘着シートを40℃で3日熟成した。
【0048】
比較例2
還流管、攪拌モーター、滴下ロートおよび温度計を備え付けた1L四口フラスコ中に、INA166.2g、NIPAM33.8gおよび酢酸エチル/アセトン(=7:3)133.3gを仕込んだ。該混合物を加熱し、窒素フローにより酸素を除去しつつ還流させ
た。その後、トルエン30g中にLPO1.5gを溶解させた開始剤溶液を還流下で8回にわたり分割投入し、8時間反応を行った。反応中、増粘に伴い適宜トルエンを加え希釈した。トルエンの添加量は合計206.6gであった。
上記で得られたコポリマーをアプリケーターにより25μm厚のPETフィルム上に塗工し、乾燥させることによって、粘着剤層の厚さが20μmである粘着シートを得た。
【0049】
試験例
実施例1〜3および比較例1〜3の粘着シートについて、粘着力(対ポリプロピレン板、対SUS板)、タック性(23℃、5℃)および保持力(23℃、120℃)を以下の試験方法により評価した。各試験は粘着シートを23℃および相対湿度50%の雰囲気下で一晩放置した後に行った。
・粘着力
JIS・Z・0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」の「8.粘着力における180度引き剥がし法」に準じ、幅15mmに裁断した試験粘着シートを、23℃および相対湿度50%の雰囲気下、500gのローラーで1往復させることによりポリプロピレン板またはSUS板に圧着した。30分経過後、引張り速度300mm/分で180度折り返し方向に剥離し、剥離に要する力(N/15mm)を測定した。
・タック性
JIS・Z・0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」の「12.傾斜式ボールタック」に準じ、23℃または5℃の雰囲気下、角度30度の斜面に粘着面が100mmとなるように試験粘着シートを貼付調整し、JIS・G・4805またはJIS・B・1501に規定されるボールを試験粘着シートの粘着面に向かって100mmの助走距離で転がした。粘着面上で5秒以上停止する最大のボールナンバーをもって測定値とした。値が大きければ大きい程、よりタック性が高い。
・保持力
JIS・Z・0237「粘着テープ・粘着シート試験方法」の「11.保持力」に準じ、幅15mmに裁断した粘着シートを、500gのローラーで1往復させることにより、幅15mm×高さ20mmの接着面積でガラス板に圧着した。23℃または120℃で30分経過後、垂直方向に1kgの荷重をかけ、1時間後のズレ(mm)を測定した。
【0050】
また実施例1および2で製造したコポリマーについては、以下の試験方法により動的粘弾性を測定し貯蔵弾性率を求めた。
・動的粘弾性
ブロックコポリマーを直径3.95mm×高さ3mmの円柱形状に成形した試料について、粘弾性測定装置(レオバイブロンRDA−II、レオメトリックス社製)を用い、振動数6.28rad/秒および昇温速度5℃/分の条件で、−100℃から200℃まで測定した。
【0051】
粘着力、タック性および保持力についての試験結果を表1に、貯蔵弾性率についての試験結果を図1および図2に示す。
【表1】

*は凝集破壊が生じたことを示す。
【0052】
表1に示すように、実施例1〜3の粘着シートは、対ポリプロピレン板粘着力が対SUS板粘着力と同等に高く、ポリオレフィンのような低極性被着体に対しても高い粘着力を示した。
また、粘着面に接触したときの粘着感を示すタック性についても、常温および低温で共に高い値を示し、これは本発明の粘着剤組成物を用いると、低温での作業性が良好な粘着テープが得られることを意味する。
さらに保持力についても、実施例1〜3では常温で殆どスレが生じず、架橋剤を添加せずとも十分な凝集力を示した。他方、120℃での保持力については実施例1および3では殆どスレが生じなかったが、実施例2では落下した。これは動的粘弾性測定から裏付けられ、実施例1では貯蔵弾性率が200℃まで殆ど低下していないのに対して、実施例2では120℃付近で貯蔵弾性率が低下している。従って、実施例2では高温において粘着剤組成物の粘度が低下し、この性質によりホットメルト型の粘着剤組成物として利用できることを示している。
【0053】
実施例4は、A−B−A型ブロックコポリマーであるが、保持力測定で3mmのズレがあり、凝集力がやや低く、また粘着力測定において凝集破壊を生じた。これはポリマーブロックAの分子量が低いことに起因すると推定され、従って、凝集力を向上させるにはポリマーブロックAの分子量を増大すればよいことが解る。
【0054】
これに対して、一般的なアクリル系ランダムコポリマーを用いた比較例1の粘着シートは、ポリプロピレン板に対する粘着力が低く、タック性についても実施例より劣っていた。
また比較例2の粘着シートは、実施例1と同組成で同程度の重合度となるように製造したランダムコポリマーを用いたものであるが、実施例1のような高い凝集力は得られず、粘着テープとして使用できなかった。これは、本発明の粘着剤組成物の良好な特性が、コポリマー構造のブロック化により得られることを示す結果である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、実施例1で製造したブロックコポリマーの貯蔵弾性率変化を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2で製造したブロックコポリマーの貯蔵弾性率変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式
(A−B)n−A
[式中、
Aは、次式
CH2=C(R1)CONR23
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、そしてR2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1ないし4のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリルアミド系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、
Bは、次式
CH2=CHCOOR4
(式中、R4は炭素原子数4ないし12のアルキル基を表す。)または次式
CH2=C(CH3)COOR5
(式中、R5は炭素原子数が8ないし22のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリレート系モノマーを重合してなるポリマーブロックを表し、そして
nは自然数を表す。]で表されるブロックコポリマーを含有することを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリマーブロックAの総数平均分子量は4000〜100000であることを特徴とする、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリルアミド系モノマーは、N−イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記ポリマーブロックBの総数平均分子量は30000〜500000であることを特徴とする、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリレート系モノマーは、ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレートまたはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1記載の粘着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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