説明

粘着剤組成物

【課題】 特に付け爪の接着用に有用な粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】 平均分子量が1,000〜40万のアクリル系ポリマーを含む第1のアクリル系エマルジョンと、平均分子量が50万〜200万のアクリル系ポリマーを含む第2のアクリル系エマルジョンとを含むベースエマルジョンと、粘着付与樹脂と、増粘剤とを含む粘着剤組成物である。再はく離できるため付け爪を再使用することができ、気に入った付け爪は何度でも繰り返し使用することができる。また、付け爪の高級デザイン化、ファッション化が図れる。さらに、接着力を調整してあるため剥す際に自爪を傷付けることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物に係り、特に付け爪用として有用な粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、指の爪(自爪)に人工の付け爪を装着し、お洒落を楽しむファッションが知られている。また、自爪の形を矯正する目的で様々なデザインの付け爪を装着することが行われている。このように付け爪を自爪に着ける際に使用される接着剤は、従来より、両面テープ、瞬間接着剤、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤、水性粘着剤などが知られている。
【0003】
ところで、市販の付け爪は、多数の人の自爪に使用することを前提として作られており、このため、付け爪を自爪に装着した際には形状の相違によって自爪と付け爪との間に必然的に不均一な隙間ができてしまう。このため両面テープを用いて付け爪を自爪に接着する場合、この不均一な隙間を完全に埋めることができず、接着不良が起こり易いという欠点があった。
【0004】
また、瞬間接着剤の場合は、剥がす際に有機溶剤系の剥離剤が使用される。具体的には剥離剤中に付け爪をしたままで自爪を浸したり(ディッピング)、あるいは剥離剤を付け爪と自爪の間に注入するなどの工程が必要となる。そして、その際にこの種の剥離剤によって自爪が傷んでしまうという問題がある。その他、剥離剤によって付け爪自体も損傷することから、付け爪を再使用することが困難であった。
【0005】
さらに、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤の場合は、自爪と付け爪の双方に塗布する必要があり、また貼り合わせ可能時間が短いことから作業性が悪かった。その他、有機溶剤により自爪が傷いたり、あるいは接着後は付け爪から皮膜(接着剤)を剥離することが困難であるため再使用できないなどの欠点がある。
【0006】
一方、水性粘着剤の場合、従来より一般的に使用されているものは低粘度でチキソ性が無い。このため一度塗りでは十分な厚みの皮膜を形成することができず、作業性が悪い。また粘着力が弱いので付け爪の接着の信頼性が低いという欠点があった。さらに乾燥後の皮膜自体の凝集力が弱いために付け爪から皮膜を剥がそうとすると付け爪に残ってしまい、このため皮膜を完全に除去することが困難であり、付け爪を再使用することができないという問題点があった。
【0007】
なお、再剥離が可能な用途に使用される接着剤としては、例えば、特開2005−48078公報に開示されたものがある。
【特許文献1】特開2005−48078公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、自爪に傷をつけることなく付け爪を剥がすことができ、また付け爪を自爪に複数回装着した後であっても、皮膜を付け爪から容易に、また皮膜を残すことなくきれいに剥がすことができ、さらに必要十分な接着力を有する粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する粘着剤組成物を提供するため、本発明者らは鋭意研究を行い、まず、強粘着タイプのアクリル系エマルジョンを含む粘着剤組成物を検討したが、強粘着タイプのアクリル系エマルジョンだけを主成分とする組成では、付け爪を自爪から剥がす際に自爪と付け爪に皮膜が残ることを知得した。次に、本発明者らはブレンド技術によりこの問題の解決を図るべく、さらに検討した結果、低分子量で粘着の強いタイプのアクリル系エマルジョンと、高分子量で皮膜の強靭なタイプのアクリル系エマルジョンとを二種以上ブレンドしたものをベースとして、これに粘着付与樹脂、増粘剤などを添加することで、強靭で接着性が良く肉厚で再剥離可能な皮膜を作ることができ、さらに自爪面と付け爪面に粘着剤を残すことなく付け爪が剥離可能となることを知得し、本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明の付け爪用粘着剤組成物は、分子量の異なる二種以上のアクリル系エマルジョンからなるベースエマルジョンと、粘着付与樹脂と、増粘剤とを含む、ことを特徴とするものである。
【0011】
例えば上記ベースエマルジョンを二種のアクリル系エマルジョンで構成する場合、前記ベースエマルジョンは、平均分子量が1,000〜40万のアクリル系ポリマーを含む第1のアクリル系エマルジョンと、平均分子量が50万〜200万のアクリル系ポリマーを含む第2のアクリル系エマルジョンとを含んで構成される。第1のアクリル系エマルジョンの平均分子量を上記範囲とすることで、付け爪を自爪に接着する際に必要な強度の粘着性を持たせることができる。また、第2のアクリル系エマルジョンの平均分子量を上記範囲とすることで、付け爪用組成物が乾燥した際に形成される皮膜に必要十分な強靱性を持たせることができ、付け爪から容易且つ残さずにきれに剥がすことができるようにしたものである。
【0012】
また、第1のアクリル系エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ジアクリレート、ジメタクリレート、多官能アクリレートおよび多官能メタクリレートより選ばれた一種または二種以上のアクリル系モノマーを共重合してなるものが使用される。一方、第2のアクリル系エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ジアクリレート、ジメタクリレート、多官能アクリレートおよび多官能メタクリレートより選ばれた一種または二種以上のアクリル系モノマーを三次元共重合してなるものが使用される。
【0013】
好ましい実施形態では、第1のアクリル系エマルジョンは、アクリル酸、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ブチル、およびこれら混合物からなるグループから選択された組成物からなるものが用いられる。また、第2のアクリル系エマルジョンは、アクリル酸、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ブチル、およびこれら混合物からなるグループから選択された組成物からなる三次元共重合によるものが用いられる。さらに、これら第1および第2のアクリル系エマルジョンは、通常は、それぞれ水性エマルジョンのものが使用される。
【0014】
ベースエマルジョンにおける上記第1および第2のアクリル系エマルジョンの比率(混合割合)は、第1のアクリル系エマルジョン(固形分換算)10〜30重量部と第2のアクリル系エマルジョン(固形分換算)90〜70重量部とすることが好ましい。
【0015】
また、粘着付与樹脂は、テルペンフェノール、テルペン、ロジン、およびこれら混合物からなるグループから選択されたものが用いられ、これら粘着付与樹脂を粘着成分とするエマルジョンの形態で使用するのが好ましい。粘着付与樹脂は、ベースエマルジョン(固形分換算)100重量部に対して10〜30重量部とすることが好ましい。
【0016】
さらに増粘剤は、ポリアクリル酸ソーダ系増粘剤、ウレタン系増粘剤、セルロース系増粘剤、およびこれら混合物からなるグループから選択されたものが用いられる。増粘剤は、ベースエマルジョン(固形分換算)100重量部に対して1〜3重量部とすることが好ましい。
【0017】
上記組成に加えて、さらに、消泡剤を添加する構成とすることもできる。具体的には、シリコン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、シリカ系消泡剤、およびワックス系消泡剤より選ばれた一種または二種以上のものが用いられる。この消泡剤を添加することで、粘着剤組成物における微細な泡の発生が抑制され、粘着剤組成物の塗布時の作業性向上、あるいは粘着剤組成物の乾燥時における平滑性が改善される。消泡剤は、例えば、ベースエマルジョン(固形分換算)に対して0.1〜3.0重量部だけ使用される。
【発明の効果】
【0018】
上記構成である本発明の粘着剤組成物は、特に付け爪用として十分なチキソ性を有する。このため、付け爪に皮膜を厚く形成することができ、皮膜を厚く形成することで付け爪と爪との間隙がなくなって両者を強力に接着することができる。このため、多少変形した爪の場合でも脱落やズレなどの問題が無く付け爪を装着することができる。
さらに、本発明の粘着剤組成物は、これを付け爪に塗布して形成される皮膜を容易且つきれいに剥がすことができる。この場合、皮膜は従来の瞬間接着剤のように有機溶剤系の剥離剤などを使用せずに剥がすことができるので、爪を傷めることなく剥がすことができる。また、付け爪から皮膜を剥がす際には例えば皮膜を指でつまんで剥がすことで付け爪に粘着剤を残存させずに剥がすことができる。このため、付け爪の再使用ができ、従来の接着剤を用いた場合のように使用する度に付け爪を廃棄する必要がなく、廃棄物の削減を図ることができ、さらに、化粧品購入にかける費用を軽減することができる。
その他、本発明の粘着剤組成物によれば、皮膜が透明であるため付け爪の色を損なわないという効果も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
実施形態に係わる付け爪用粘着性組成物は、分子量の異なる二種のアクリル系エマルジョン(第1のアクリル系エマルジョン、第2のアクリル系エマルジョン)からなるベースエマルジョンと、粘着付与樹脂エマルジョンと、増粘剤と、消泡剤とからなる組成を有している。この第1のアクリル系エマルジョンは、平均分子量が1,000〜40万、好ましくは1,000〜50,000であり、また第2のアクリル系エマルジョンは平均分子量が50万〜200万のものである。
【0020】
まず、ベースエマルジョンの適正な組成を求めるために、以下の実験を行った。すなわち、第1のアクリル系エマルジョン(アクリル系エマルジョン#1)として平均分子量が5,000〜20,000の2エチルヘキシルアクリレート/ブチアクリレート共重合体を主成分とするアクリルエマルジョンを用い、また第2のアクリル系エマルジョン(アクリル系エマルジョン#2)として平均分子量が80万〜150万のメチルアクリレート/ブチアクリレート共重合体を主成分とするアクリルエマルジョンを用いた。
【0021】
そして、これら2つ以上のアクリル系エマルジョンの配合量(混合割合)を表1のように変えた7つの粘着剤組成物(試験例1から7)を作り、これら7つの試験例のそれぞれについて次の手順を行った。まず、この粘着剤組成物をABS樹脂で作った付け爪の装着側の面に均一に塗布し、皮膜が透明になるまで室温乾燥させる。その際、自爪の形状に合わせた調整が必要な場合には、付け爪の装着側面の所要の場所に粘着剤組成物を再度塗布して皮膜の厚みの調整を行う。また、接着阻害を防止するために、自爪に付いた油分などの汚れを石鹸などで洗い落とした後に水分を拭き取っておく。
【0022】
次に、自爪に上記のように粘着剤組成物を塗布乾燥した付け爪を貼り合わせて指圧で強く押し付ける。その後、自爪の付け根部分から付け爪をゆっくり剥がすと共に、付け爪から皮膜を剥がす。なお、皮膜を剥がす作業は、皮膜の端部を少し剥がしてからその部分を指でつまみ、ゆっくりと引っ張ることで行った。そして、自爪における粘着剤組成物の接着性および皮膜の剥離性、付け爪における粘着剤組成物の接着性および皮膜の剥離性についてそれぞれ評価を行い、その結果を表1に示した。なお、表1において、○は良好、△は少し不良、×は不良をそれぞれ意味し、また第1および第2のアクリル系エマルジョンの配合量は固形分の重量部を表している。
【0023】
表1より、ベースエマルジョンにおける上記第1および第2のアクリル系エマルジョンの比率(混合割合)は、第1のアクリル系エマルジョン(固形分換算)10〜30重量部に対して、第2のアクリル系エマルジョン(固形分換算)90〜70重量部とすることで良好な結果が得られた。
【0024】
【表1】


#1:分子量5000〜20,000 #2:分子量80万〜150万
○:良好 △:少し不良 ×:不良 配合は固形分の重量部
【0025】
また、粘着付与樹脂の好ましい配合量を知るために、第1および第2のアクリル系エマルジョンの混合割合がそれぞれ30重量部および70重量部であるベースエマルジョン
(固形分換算)に対する、第1の粘着付与樹脂(粘着付与樹脂#4:テンペンフェノール
系)、および第2の粘着付与樹脂(粘着付与樹脂#5:ロジン系)の混合割合(固形分換算)を表2のように変えた7つの粘着剤組成物(試験例8〜14)を作った。
【0026】
上記の試験例8〜14について、上記と同様の手順により、自爪における粘着剤組成物の接着性および皮膜の剥離性、付け爪における粘着剤組成物の接着性および皮膜の剥離性についてそれぞれ評価を行い、その結果を表2に示した。表2において、○は良好、△は少し不良、×は不良をそれぞれ意味している。
【0027】
表2より、ベースエマルジョン(固形分換算)に対して、粘着付与樹脂10〜30重量部とすることで良好な結果が得られた。
【0028】
【表2】


#4:テルペンフェノール系 #5:ロジン系
○:良好 △:少し不良 ×:不良 配合は固形分の重量部
【0029】
また、増粘剤の好ましい配合量を知るために、第1および第2のアクリル系エマルジョンの混合割合がそれぞれ30重量部および70重量部であるベースエマルジョン(固形分換算)に第1の粘着付与樹脂を10重量部だけ加えた組成に対する、第1の増粘剤(増粘剤#6:ウレタン系)、および第2の増粘剤(増粘剤#7:ポリアクリル酸ソーダ系)の混合割合(固形分換算)を表3のように変えた7つの粘着剤組成物(試験例15〜21)を作った。
【0030】
上記の試験例15〜21の粘着剤組成物のそれぞれについて、ABS樹脂で作った付け爪に塗布した場合の肉盛り性を評価し、その結果を表3に示した。表3において、○は良好、△は少し不良、×は不良をそれぞれ意味している。
【0031】
表3より、ベースエマルジョン(固形分換算)に対して増粘剤を1〜3重量部とすることで良好か結果が得られた。
【0032】
【表3】


#6:ウレタン系 #7:ポリアクリル酸ソーダ系
○:良好 △:少し不良 ×:不良 配合は固形分の重量部
【0033】
なお、本願発明の粘着剤組成物を付け爪に予め塗布する使用例について説明する。この場合、粘着剤組成物は付け爪に塗布されて皮膜となり、この皮膜を付けた付け爪が販売される。この構成とすれば、ユーザは付け爪を直ちに使用することができる。そして、使用により皮膜の粘着力が低下した場合には、ユーザが皮膜を自分で剥がした後、別途用意した粘着剤組成物を付け爪に塗布して新たな皮膜を形成することで、その付け爪を廃棄することなく、付け爪が壊れるまで何度でも再使用することができる。
【0034】
以上は、本発明の粘着剤組成物を付け爪の接着用に使用した例であるが、本発明の粘着剤組成物はこの用途に限定されないことは勿論である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量の異なる二種以上のアクリル系エマルジョンからなるベースエマルジョンと、粘着付与樹脂と、増粘剤とを含むことを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ベースエマルジョンが、平均分子量が1,000〜40万のアクリル系ポリマーを含む第1のアクリル系エマルジョンと、平均分子量が50万〜200万のアクリル系ポリマーを含む第2のアクリル系エマルジョンとを含むことを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記第1のアクリル系エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマーが、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ジアクリレート、ジメタクリレート、多官能アクリレートおよび多官能メタクリレートより選ばれた一種または二種以上のアクリル系モノマーを共重合してなるものであることを特徴とする請求項2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記第2のアクリル系エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマーが、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ジアクリレート、ジメタクリレート、多官能アクリレートおよび多官能メタクリレートより選ばれた一種または二種以上のアクリル系モノマーを三次元共重合してなるものであることを特徴とする請求項2または3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記ベースエマルジョンが、前記第1のアクリル系エマルジョン(固形分換算)を10〜30重量部と、前記第2のアクリル系エマルジョン(固形分換算)を90〜70重量部とからなることを特徴とする請求項2から4のいずれか1記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂が、テルペンフェノール、テルペン、およびロジンより選ばれた一種または二種以上のものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記増粘剤が、ウレタン系増粘剤、ポリアクリル酸ソーダ系増粘剤、ポリエチレンオキ
サイド系増粘剤、およびセルロース系増粘剤より選ばれた一種または二種以上のものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
消泡剤を、さらに含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
前記第1のアクリル系エマルジョン、前記第2のアクリル系エマルジョンが、それぞれ水性エマルジョンであることを特徴とする請求項2から8のいずれか1記載の粘着剤組成物。

増粘

【公開番号】特開2007−70466(P2007−70466A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258963(P2005−258963)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000111384)ノガワケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】