説明

粘着剤

【課題】植物性資源を主原料とし、粘着性に優れ、環境負荷低減化に好適な粘着剤を提供する。
【解決手段】リグニンと、硬化剤と、可塑剤を含む粘着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含む粘着剤。リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである、前記の粘着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着剤とは被着体へ貼り付ける際、溶剤や熱を必要とせずに、弱い圧力で接着可能であり、且つ、被着体表面を汚染せずに剥離可能な材料である。このような粘着剤は、粘着テープ、保護フィルム、半導体プロセスなど幅広い分野で利用され、ベース樹脂には、ゴム、アクリル樹脂、シリコーン系が多く利用されている。これらの樹脂は、天然ゴムを除き、そのほとんどが石油由来の樹脂である。しかし、化石燃料の枯渇化、化石燃料を焼却した際に発生する二酸化炭素による地球温暖化が叫ばれおり、カーボンニュートラルなバイオマス材料への関心が高まっている。近年では、包装資材、家電製品の部材、自動車用部材などのプラスチックを植物由来樹脂(バイオプラスチック)に置き換える動きが活発化している。
【0003】
前記植物由来樹脂の具体例としては、ジャガイモやサトウキビやトウモロコシ等の糖質を醗酵させて得られた乳酸をモノマーとし、これを用いて化学重合を行い作製したポリ乳酸:PLA(PolyLactic Acid)や、澱粉を主成分としたエステル化澱粉、微生物が体内に生産するポリエステルである微生物産生樹脂:PHA(PolyHydoroxy Alkanoate)、醗酵法で得られる1,3−プロパンジオールと石油由来のテレフタル酸とを原料とするPTT(Poly Trimethylene Telephtalate)等が挙げられる。
また、PBS(Poly Butylene Succinate)は、現在は石油由来の原料が用いられているが、今後においては、植物由来樹脂として作製する研究が開発されており、主原料の一つであるコハク酸を植物由来で作製する技術についての開発がなされている。
【0004】
植物由来の硬化性樹脂原料として、古くからリグニンが注目されてきた。リグニンは、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基を有することから、有機溶媒に可溶なリグニンを得ることで、フェノール樹脂またはポリオール樹脂への代替樹脂とすることができ、フェノール樹脂の代替材として利用可能である。
【0005】
国内で容易に入手できるリグニンとして、リグニンスルホン酸塩が挙げられるが、水溶性であり、有機溶媒に難溶である。そのため、硬化剤との相溶性が悪く、均質な硬化物がほとんど得られていない。
【0006】
一方で接着剤としての利用は数多く検討されている。例えば、プラスチック化リグノセルロース・ノボラック・エポキシ樹脂接着剤(特許文献1参照)、合板用接着剤が挙げられる(特許文献2参照)。しかし、リグニンを粘着剤に応用した例は少なく、その利用例も粘着剤中の充填剤としての役割(特許文献3参照)であり、植物由来であるリグニンを主成分とした粘着剤の利用ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−57715号公報
【特許文献2】特開2006−70081号公報
【特許文献3】特許第3023466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明においては、環境負荷低減化の観点から、植物由来の木質系材料を利用した粘着剤を提供することを目的とする。特に植物由来であるリグニンを主原料とした、粘着性に優れた粘着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)リグニンと、硬化剤と、可塑剤を含む粘着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含むことを特徴とする粘着剤。
(2)リグニンの重量平均分子量が100〜7000であり、さらにタッキファイヤ(粘着付与剤)を含む、前記(1)に記載の粘着剤。
(3)リグニン中の硫黄原子の含有率が2質量%以下である前記(1)又は(2)に記載の粘着剤。
(4)リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の粘着剤。
(5)リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(3)いずれかに記載の粘着剤。
(6)硬化剤が、エポキシ樹脂である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(7)硬化剤が、アクリル樹脂である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(8)硬化剤が、イソシアネートである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(9)硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(10)硬化剤が、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着剤。
(11)可塑剤が、エステル系可塑剤である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の粘着剤。
(12)可塑剤が、エポキシ系可塑剤である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の粘着剤。
(13)可塑剤が、ポリスチレン系可塑剤である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の粘着剤。
(14)可塑剤が、ポリエーテル系可塑剤である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の粘着剤。
(15)タッキファイヤ(粘着付与剤)が、ロジン系樹脂である前記(2)〜(14)のいずれかに記載の粘着剤。
(16)タッキファイヤ(粘着付与剤)が、テルペン系樹脂である前記(2)〜(14)のいずれかに記載の粘着剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベースポリマーを木質由来のリグニンとしたことで化石資源使用量の削減、及び二酸化炭素の排出量の低減効果が得られ、環境負荷低減化に好適な粘着剤が提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、上記本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、リグニンと硬化剤から成るベースポリマーと、可塑剤を含む粘着剤であって、当該リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分としてリグニンを5〜90質量%含む粘着剤である。不揮発分としてリグニンを、好ましくは10〜80質量%、また、さらに20〜70質量%含むことが好ましい。90質量%を超えると凝集力の低下および粘着力が不十分となるおそれがある。また、5質量%未満では、化石資源使用量の削減効果が得られないおそれがある。
また、本発明の粘着剤において、さらにタッキファイヤ(粘着付与剤)を含むことが好ましい。タッキファイヤ(粘着付与剤)を配合することにより、粘着力増加などの効果が得られる。
【0012】
リグニンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算値において、100〜7000が好ましく、さらに200〜5000がより好ましく、500〜4000であることが特に好ましい。リグニンの重量平均分子量が7000を超えると有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。重量平均分子量が100未満であるとリグニンの構造を活かした粘着剤を得ることができないおそれがある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算した値を使用した。
【0013】
リグニンの基本骨格は一般的にヒドロキシフェニルプロパン単位を基本単位とする架橋構造の高分子である。樹木は親水性の線状高分子の多糖類(セルロースとヘミセルロース)と疎水性の架橋構造リグニンの相互侵入網目(IPN)構造を形成している。リグニンは樹木の約25質量%を占め、不規則かつ極めて複雑なポリフェノールの化学構造をしている。フェノール類は燃焼の際、黒鉛を形成し易いため難燃性に優れ、抗菌作用を有することが知られている。本発明は植物から得られたこの複雑な構造をそのまま活かし、粘着剤の樹脂原料とするものである。
【0014】
リグニンの原料に特に制限は無い。スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹、タケ、イネワラ、バガス等が使用される。樹木からリグニンを分離し取り出す方法としては、クラフト法、硫酸法、爆砕法などが挙げられる。現在多量に製造されているリグニンの多くは、紙やバイオエタノールの原料であるセルロース製造時に残渣として得られる。入手可能なリグニンとしては、主に硫酸法により副生するリグニンスルホン酸塩があげられる。他にもアルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、ソルボリシスリグニン、糸状菌処理木材、ジオキサンリグニン及びミルドウッドリグニン、爆砕リグニンなどがある。本発明に用いるリグニンは取り出す方法によらず、リグニンが有機溶媒に可溶であれば上記記載のリグニンを用いることができる。
【0015】
取りだした際、リグニン以外の例えばセルロースやヘミセルロースのような成分が、含まれていても良い。また、これらのリグニンをアセチル化、メチル化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、硫化ナトリウムや硫化水素との反応等によって作製されたリグニン誘導体も含む。
【0016】
主原料とするリグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法が好ましい。使用するリグニンが、水のみを用いた処理方法により、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであることが好ましい。また、リグニンを取得する方法としては、水蒸気爆砕法がより好ましい。水蒸気爆砕法は高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕するものである。
水蒸気爆砕の条件は特に限定しないが、通常、原料を水蒸気爆砕装置用の耐圧容器に入れ、3〜4MPaの水蒸気を圧入し、1〜15分間放置した後、瞬時に圧力を開放することにより爆砕する。なお、前記有機溶媒可溶リグニンは、水蒸気爆砕リグニンとも表す。また、原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサスなどがあげられる。
【0017】
この方法は硫酸法、クラフト法など他の分離方法と比較し、硫酸、亜硫酸塩等を用いることなく、水のみを使用するので、クリーンな分離方法である。この方法では、リグニン中に硫黄原子を含まないリグニン、又は、硫黄原子の含有率が少ないリグニンが得られる。通常、リグニン中の硫黄原子の含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。硫黄原子の含有量が増大すると親水性のスルホン酸基が増加するため、有機溶媒への溶解性が低下する。本発明者らは、さらに、爆砕物から有機溶媒でリグニンを抽出することにより、リグニンの分子量を制御し得ることを見出した。
【0018】
本発明で用いるリグニンの抽出に用いる有機溶媒は、1種又は2種以上複数の混合のアルコール溶媒、アルコールと水を混合した含水アルコール溶媒、そのほかの有機溶媒または、水と混合した含水有機溶媒を使用することができる。水にはイオン交換水を使用することが好ましい。水との混合溶媒の含水率は0質量%〜70質量%が好ましい。リグニンは水への溶解度が低いため、水のみを溶媒とするとリグニンを抽出することが困難である。また、用いる溶媒を選択することにより、得られるリグニンの重量平均分子量を制御することが可能である。
【0019】
アルコールにはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクノヘキサノールなどのモノオール系とエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミンなどのポリオールが挙げられる。また、さらに好ましくは、天然物質から得られるアルコールであることが、環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、天然物質から得たメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシメチルフルフラールなどが挙げられる。
【0020】
本発明の粘着剤としては、通常、リグニンと、少なくとも1種の硬化剤と、可塑剤と、タッキファイヤを含む。本発明の粘着剤は、リグニンと硬化剤から成るベースポリマーに可塑剤を添加することで、粘弾性体として得ることができ粘着剤として利用できる。
【0021】
本発明で用いる硬化剤としてアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物が挙げられる。アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロラール、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドを生成する化合物としてはヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。特にヘキサメチレンテトラミンが好ましい。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。また、硬化性、耐熱性の面からヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0022】
本発明で用いる硬化剤として多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物の具体例としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、エチルナジック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の脂肪族多価カルボン酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0023】
本発明で用いる硬化剤としてエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂にはビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシがある。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化脂肪酸エステル類、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0024】
本発明で用いる硬化剤としてイソシアネートが挙げられる。イソシアネートには、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いる硬化剤としてアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としてはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルから選ばれる一つ以上のモノマーを単独または共重合したものが使用できる。
【0026】
本発明で用いる可塑剤としてエステル系可塑剤が挙げられる。エステル系可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、セバシン酸ジブチル、アセチルリシノール酸メチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、リン酸オクチルジフェニルなどがある。
【0027】
本発明で用いる可塑剤としてエポキシ系可塑剤が挙げられる。エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシステアリン酸ベンジルなどが挙げられる。さらに天然由来物質から得られたエポキシ系可塑剤であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などが好ましい。
また、市販品として、アデカサイザー O―130P(エポキシ化大豆油 ADEKA社製商品名)、カポックス S−6(エポキシ化大豆油 花王株式会社製商品名)、エポサイザーW−100−EL(エポキシ化大豆油 DIC株式会社製商品名)、サンソサイザーE−9000H(エポキシ化アマニ油 新日本理化株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0028】
本発明で用いる可塑剤としてポリスチレン系可塑剤が挙げられる。ポリスチレン系可塑剤としてはポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0029】
本発明で用いる可塑剤としてポリエーテル系可塑剤が挙げられる。ポリエーテル系可塑剤としてはポリプロピレングリコールやその誘導体などがあげられる。また、ポリエーテル系可塑剤が、天然由来であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いるタッキファイヤ(粘着付与剤)としてロジン系樹脂があげられる。ロジン系樹脂としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、重合ロジン、これらの変性物などがあげられる。また、必要に応じて、前記ロジン類の一部をロジン以外のカルボン酸類で変性されたものでもよい。カルボン酸類で変性したロジン類の具体例としては、一般にロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂などがあげられる。
市販品として、アルコンP−100、アルコンP−115、アルコンP−125、アルコンP−140、アルコンM−90、アルコンM−100、アルコンM−115、アルコンM−135(以上、荒川化学工業株式会社製商品名)、ハリエスターTF、ハリエスターS、ハリエスターC、ハリエスターDS−90、ハリエスターDS−130(以上、ハリマ化成株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0031】
本発明で用いるタッキファイヤ(粘着付与剤)としてテルペン系樹脂が挙げられる。テルペン系樹脂としては、α―ピネン、β―ピネン、テルペンフェノール樹脂、水素化テルペン樹脂などが挙げられる。
市販品として、クリアロンP105、クリアロンM115、クリアロンK100、YSレジンPX1000、YSレジンPXN1150N、YSレジンTO125、YSレジンTO105(以上、ヤスハラケミカル株式会社製商品名)、タマノル901(荒川化学工業株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0032】
本発明の粘着剤には硬化促進剤を含んでも良い。硬化促進剤としては、シクロアミジン化合物、キノン化合物、三級アミン類、有機ホスフィン類、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられる。
【0033】
粘着剤を製造する方法として、リグニンと硬化剤、可塑剤およびタッキファイヤを同時に加熱しながら混練することが好ましい。リグニンを先に硬化させてから可塑剤やタッキファイヤを混合しようとすると、可塑剤とタッキファイヤが混合しないおそれがある。また、混合する際には、有機溶媒を使用しても良い。有機溶媒として利用範囲に特に制限は無いが、前記リグニンを抽出可能な有機溶媒、または混合物が使用できる。
【0034】
本発明の粘着剤においては、必要に応じて各種添加剤成分、溶剤、反応触媒、滑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、無機充填材、有機充填材などを配合することもできる。また、本発明の粘着剤を使用するに際しては、更に、必要に応じて、物性調整剤、保存安定性改良剤、滑剤、顔料、発泡剤などの各種添加剤を適宜添加することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
(リグニンの抽出)
リグニン抽出原料としては、竹を使用した。適当な大きさにカットした竹材を水蒸気爆砕装置の2Lの耐圧容器に入れ、3.5MPaの水蒸気を圧入し、4分間保持した。その後バルブを急速に開放することで爆砕処理物を得た。洗浄液のpHが6以上になるまで得られた爆砕処理物を水により洗浄して水溶性成分を除去した。その後、真空乾燥機で残存水分を除去した。得られた乾燥体100gに抽出溶媒(アセトン)1000mlを加え、3時間攪拌した後、ろ過により繊維物質を取り除いた。得られた濾液から抽出溶媒(アセトン)を除去し、リグニンを得た。得られたリグニンは常温(25℃)で茶褐色の粉末であった。
【0037】
(リグニンの分析)
溶媒溶解性としては、前記リグニン1gを、有機溶媒10mlに加えて評価した。常温(25℃)で容易に溶解した場合は○、50〜70℃で溶解した場合は△、加熱しても溶解しなかった場合を×として、評価した。溶媒群1としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、溶媒群2としてメタノール、エタノール、メチルエチルケトンとして溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも○、溶媒群2ではいずれも△の判定であった。
【0038】
リグニン中の硫黄原子の含有率は燃焼分解−イオンクロマトグラフ法により定量した。装置は株式会社三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置(AQF−100)及び日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ(ICS−1600)を用いた上記リグニン中の硫黄原子の含有率は0.2質量%であった。さらに示差屈折計を備えたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてリグニンの分子量を測定した。多分散度の小さいポリスチレンを標準試料として用い、移動相をテトラヒドロフランとして使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−A120SとGL−A170Sとを直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は2400であった。
【0039】
上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量は無水酢酸−ピリジン法により水酸基価、電位差滴定法により酸価を測定し求めた。アセトン抽出竹由来リグニンの水酸基当量は140g/eq.であった。
リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を以下の方法で決定した。リグニン2gのアセチル化処理を行い、未反応のアセチル化剤を留去し、乾燥させたものを、重クロロホルムに溶解させ、H−NMR(BRUKER社製、V400M、プロトン基本周波数400.13MHz)により測定した。アセチル基由来のプロトンの積分比(フェノール性水酸基に結合したアセチル基由来:2.2〜3.0ppm、アルコール性水酸基に結合したアセチル基由来:1.5〜2.2ppm)からモル比を決定したところ、P/A比は2.2/1.0であった。
【0040】
(粘着剤の作製)
エポキシ樹脂との相溶性を評価した。実施例1記載のリグニン4g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C、東都化成株式会社製)3g、ロジン1gを180℃で混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、分離せず、析出物がないことを目視で確認した。
実施例1記載のリグニン28gと硬化剤として前記ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C、東都化成株式会社製)22g、可塑剤としてエポキシ化大豆油(アデカサイザー O―130P、ADEKA社製商品名)100g、タッキファイヤ(粘着付与剤)としてロジン(アルコンP−115 荒川化学工業株式会社製商品名)10gを180℃で30分間混錬し、リグニンを18質量%含む粘着剤を得た。
【0041】
(タック測定)
上記粘着剤20gをアセトン80gに溶解しワニスを作製した。このワニスを厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にバーコーターを用いて10μmの粘着層を有する粘着フィルムを作製した。前記粘着フィルムをタッキング装置(株式会社レスカ製、プローブ径5.1mm)によりタック測定を行った。測定条件は、加圧荷重10g、加圧速度1mm/秒、接触時間1秒、測定速度2.5秒、25℃で7点測定した。その結果、上記粘着フィルムのタックは0.1Nであった。
【0042】
(粘着力特性)
25×100mmのSUS板(SUS304)に前記粘着フィルムを荷重10kgのゴムローラーで圧着し、25℃で30分間放置し、試験体を作製した。前記試験体について引っ張り試験機を用い、剥離速度200mm/分で90°剥離測定を行った。その結果、上記粘着フィルムの粘着力は2N/25mmであった。
【0043】
(実施例2)
(リグニンの抽出及び分析)
抽出溶媒としてメタノールを用いた以外は実施例1と同様にリグニンを得た。実施例1と同様に元素分析及び分子量測定をした結果、それぞれリグニン中の硫黄原子の含有率は、0.2質量%、重量平均分子量は1900であった。
実施例1と同様に溶媒溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも○、溶媒群2ではいずれも○の判定であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を実施例1と同様の方法で実施した。
実施例2で得られたリグニンのP/A比は1.6/1.0であった。実施例1と同様に上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量を測定した結果、水酸基当量は120g/eq.であった。
【0044】
(粘着剤の作製)
実施例2で得られたリグニン40g、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを6g、可塑剤としてアジピン酸ジオクチル100g、タッキファイヤ(粘着付与剤)としてテルペン系樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製 YSレジンPX1000)10gを180℃で30分間混錬し、リグニンを26質量%含む粘着剤を得た。
【0045】
(タック測定)
実施例1と同様に粘着フィルムを作製し、タック測定を行った。その結果、前記粘着フィルムのタックは0.05Nであった。
【0046】
(粘着力特性)
実施例1と同様に前記粘着フィルムを用いて、粘着力を測定した。その結果、粘着力は、0.1N/25mmであった。
【0047】
(比較例1)
(粘着剤の作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、日本製紙株式会社製)を用い、粘着剤の作製を試みた。元素分析法によって測定された上記リグニンスルホン酸塩中の硫黄原子の含有率は3質量%であった。重量平均分子量を株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフィー(C−R4A)により測定し、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算して求めた。移動相をDMF+LiBr(0.06mol/L)+リン酸(0.06mol/L)として使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−S300MDT−5を2つ直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は11000であった。
実施例1と同様にエポキシ樹脂との相溶性を評価した。前記リグニンスルホン酸1g、シクロヘキサノン1g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C)1gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、リグニンスルホン酸塩とエポキシ樹脂が相分離し、粘着剤を作製できなかった。
【0048】
(比較例2)
(粘着剤の作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(サンエキスP321、日本製紙株式会社製)を用いた以外は比較例1と同様に粘着剤の作製を試みた。比較例1と同様にエポキシ樹脂と相溶性を評価したところ、リグニンスルホン酸塩とエポキシ樹脂が相分離し、粘着剤を作製できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと、硬化剤と、可塑剤を含む粘着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含むことを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
リグニンの重量平均分子量が100〜7000であり、さらにタッキファイヤ(粘着付与剤)を含む、請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
リグニン中の硫黄原子の含有率が2質量%以下である請求項1又は2に記載の粘着剤。
【請求項4】
リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜3のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項5】
リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜3のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項6】
硬化剤が、エポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項7】
硬化剤が、アクリル樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項8】
硬化剤が、イソシアネートである請求項1〜5のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項9】
硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項10】
硬化剤が、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項11】
可塑剤が、エステル系可塑剤である請求項1〜10のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項12】
可塑剤が、エポキシ系可塑剤である請求項1〜10のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項13】
可塑剤が、ポリスチレン系可塑剤である請求項1〜10のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項14】
可塑剤が、ポリエーテル系可塑剤である請求項1〜10のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項15】
タッキファイヤ(粘着付与剤)が、ロジン系樹脂である請求項2〜14のいずれかに記載の粘着剤。
【請求項16】
タッキファイヤ(粘着付与剤)が、テルペン系樹脂である請求項2〜14のいずれかに記載の粘着剤。

【公開番号】特開2011−219728(P2011−219728A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223725(P2010−223725)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】