説明

粘着性ゲル

【課題】含水量が低下した場合にも、粘着性を維持して生体表面に好適に貼付でき、かつ柔軟性を維持して皮膚に刺激を与えることなく剥離できるハイドロゲルの提供。
【解決手段】親水性高分子とアクリルアミド系高分子のマトリクス中に多価アルコールと水を含有してなる粘着性ゲルを提供する。含水時には、多価アルコール及び水とこれらによって可塑化された親水性高分子及びアクリルアミド系高分子が濡れ粘着性を発揮し、乾燥時においても、多価アルコールの濡れ性とアクリルアミド系高分子の分子間相互作用性によって粘着性が維持される。この粘着性ゲルにおいて、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、特にエーテル変性ポリビニルアルコールを含むことが好ましく、前記アクリルアミド系高分子は、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性ゲルに関する。より詳しくは、含水量が低下した場合にも、粘着性を維持して生体表面に好適に貼付でき、かつ柔軟性を維持して皮膚に刺激を与えることなく剥離できるハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着剤組成物としてハイドロゲルが知られている。ハイドロゲルは水に対して親和性が高く、吸水能を備える。そのため、ハイドロゲルは、油性のゴム系粘着剤などのように水を弾くことがなく、生体表面に長時間貼付した場合にも皮膚と粘着剤との間に汗が蓄積し難く、蒸れやカブレ、皮膚の浸軟などを引き起こす可能性が低い。また、発汗の多い場合や生体表面が湿っている場合にも、ハイドロゲルは、汗や水分を吸収することで粘着力の低下を防止する。
【0003】
またハイドロゲルは多量の水分を含んでいるため、水の気化潜熱による冷却特性を備える。そのため、ハイドロゲルは発熱部位に貼付されて長時間にわたり冷却を効率良く行うことができる。
【0004】
さらに、ハイドロゲルは被着面への濡れ性に優れるため、生体表面から剥離する際に皮膚刺激を与え難い。そのため、ハイドロゲルは皮膚組織が脆弱な患者などに対しても使用できる。
【0005】
一方で、ハイドロゲルは親水性の高い材料に対しては強力な粘着力を発揮するが、油性のものに対しては粘着というよりもむしろ離型性を発現する。皮膚表面には、通常、皮脂が存在するため、親水性が高いハイドロゲルの粘着力を高めるには限界がある。従って、生体表面に貼付したときに貼付位置がずれたり剥がれたりすることを防止するため、ハイドロゲルを他の粘着剤などで固定することが行われている。
【0006】
この問題を解決する方法として、架橋された水溶性高分子、水、保湿剤、両親媒性高分子及び水不溶性高分子からなるゲル粘着組成物が報告されている(特許文献1参照)。疎水性ポリマーを親水性高分子に添加する方法としては、疎水性ポリマーを乳化分散させる方法が一般的である。かかる方法によって作成されたハイドロゲルでは、ハイドロゲル本来の低刺激性や導電性という特性を損なうことなく、粘着力の改善が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−136587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のハイドロゲルは、ゲル中の水分が失われると、被着面への濡れ性が低下して粘着力が失われ、硬化して被着面への追従性が低下してしまうため、貼付した生体表面から剥離してしまったり、剥離時に皮膚刺激を引き起こしたりすることがあった。
【0009】
そこで、本発明は、含水量が低下した場合にも、粘着性を維持して生体表面に好適に貼付でき、かつ柔軟性を維持して皮膚に刺激を与えることなく剥離できるハイドロゲルを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、親水性高分子とアクリルアミド系高分子のマトリクス中に多価アルコールと水を含有してなる粘着性ゲルであって、親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比が1:1〜1:10であり、かつ、多価アルコールと、親水性高分子及びアクリルアミド系高分子と、の重量比が2:1〜6:1である粘着性ゲルを提供する。この粘着性ゲルでは、含水時には、多価アルコール及び水とこれらによって可塑化された親水性高分子及びアクリルアミド系高分子が濡れ粘着性を発揮し、乾燥時においても、多価アルコールの濡れ性とアクリルアミド系高分子の分子間相互作用性によって粘着性が維持される。
この粘着性ゲルにおいて、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコールを含むことが好ましい。ポリビニルアルコールは、エーテル変性ポリビニルアルコールであることが好ましく、置換基として炭素数6〜22の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基を有するエーテル変性ポリビニルアルコールであることがさらに好ましい。また、前記アクリルアミド系高分子は、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体を含むことが好ましい。多価アルコール及び水との相溶性に優れるポリビニルアルコール、エーテル変性ポリビニルアルコール、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体を用いて水素結合を形成させることで、ゲルの凝集力を高め、多量の多価アルコール及び水をゲル中に内包させられる。この粘着性ゲルは、含水時において、水を30〜70重量%含有するものとできる。
また、この粘着性ゲルは、前記親水性高分子として、さらにポリビニルピロリドンを含むものとできる。この場合において、ポリビニルピロリドンとN−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体との重量比が1:100〜1:1であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、含水量が低下した場合にも、粘着性を維持して生体表面に好適に貼付でき、かつ柔軟性を維持して皮膚に刺激を与えることなく剥離できるハイドロゲルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.粘着性ゲル
2.親水性高分子
3.アクリルアミド系高分子
4.多価アルコール
5.配合比率
6.粘着性ゲルの製造方法

【0013】
1.粘着性ゲル
本発明に係る粘着性ゲルは、親水性高分子とアクリルアミド系高分子のマトリクス中に多価アルコールと水を含有してなる。この粘着性ゲルでは、アクリルアミド系高分子のポリマー内に親水性高分子が入り込んでマトリクスを形成しているものと考えられる。
【0014】
本発明に係る粘着性ゲルでは、含水時には、多価アルコール及び水とこれらによって可塑化された親水性高分子及びアクリルアミド系高分子とが濡れ粘着性を発揮し、乾燥時においても、多価アルコールの濡れ性とアクリルアミド系高分子の分子間相互作用性とによって粘着性が維持される。従って、含水量が低下しても、粘着性を維持して生体表面に好適に貼付できる。
【0015】
すなわち、含水時には、多価アルコール及び水とこれらによって可塑化された親水性高分子及びアクリルアミド系高分子が、被着面の微細な凹凸にまで入り込み、接触面積を増加させて、優れた濡れ粘着性を発揮する。また、乾燥時には、多価アルコールの濡れ性に加えて、アクリルアミド系高分子のアミド基による分子間相互作用性が高い粘着力をもたらす。
【0016】
2.親水性高分子
本発明に係る粘着性ゲルに用いられる親水性高分子は、含水時におけるゲル強度維持にも機能する。親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸Na、カルボキシメチルセルロースNa、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルソース、アルギン酸Na、デキストラン等が挙げられる。親水性高分子は、特にポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する)あるいは、これに加えてポリビニルピロリドン(以下、「PVP」と略記する)を添加してもよい。
【0017】
親水性高分子鎖の側鎖及び/又は末端には、官能基が付加、導入されていてもよい。官能基としては、親水性高分子同士の架橋に関与する反応性を有する官能基、又は親水性高分子の物性を制御するための官能基が付加され得る。親水性高分子には、反応性を有する官能基及び物性を制御するための官能基の両方が付加されていることが好ましいが、少なくとも物性を制御するための官能基が導入されていればよい。
【0018】
反応性を有する官能基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ケトン基、イミド基等が挙げられるが、これに限られるものではない。官能基は、必要に応じて多官能性であってもよい。例えば、ダイアセトンアクリルアミドにより官能基としてケトン基をPVAに導入する場合、ダイアセトンアクリルアミドの導入量は2〜4mol%、好ましくは3〜4mol%とされる。
【0019】
物性を制御するための官能基としては、例えば、エーテル結合やエステル結合などが挙げられるが、これに限られるものではない。ここで、エーテル結合やエステル結合に付加、導入される置換基としては、特に限定されずに適宜変更可能であるが、直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、6〜22が好ましく、10〜22がより好ましく、15〜22がさらに好ましい。また、置換基をPVAに導入する場合、置換基の導入量は0.1〜15mol%、好ましくは0.5〜10mol%とされる。
【0020】
親水性高分子は、側鎖に反応性を有する官能基を有し、末端に物性を制御するための官能基を有するPVAであることが好ましい。この場合、反応性を有する官能基としては、ケトン基が好ましい。また、物性を制御するための官能基としては、エーテル結合あるいはエステル結合が好ましく、置換基としてC6〜C22、特に好適にはC15〜C22の直鎖又は分岐状のアルキル基を有していることが好ましい。
【0021】
本明細書においては、アルキル基などの置換基がポリビニルアルコールの分子鎖の末端又は分子鎖内にエーテル結合したポリビニルアルコールを「エーテル変性ポリビニルアルコール」と記載するものとする。
【0022】
本発明に係る粘着性ゲルでは、多価アルコール及び水との相溶性に優れるPVAあるいはエーテル変性PVAを用いて水素結合形成させることでゲルの凝集力を高め、多量の多価アルコール及び水をゲル中に内包させることができる。特に、置換基としてC6〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有するエーテル変性PVAを用いることで、アルキル基同士の絡み合いによりゲルの凝集性を一層高めることができるため、多量の多価アルコール及び水をゲル中に保持できる。
【0023】
3.アクリルアミド系高分子
本発明に係る粘着性ゲルに用いられるアクリルアミド系高分子は、乾燥時における粘着性維持にも機能する。アクリルアミド系高分子は、N−ビニルアセトアミドの単独重合体又はこれと共重合可能な単量体との共重合体とできる。アクリルアミド系高分子は、N−ビニルアセトアミドとエチレン性単量体1種又は2種以上との共重合体であることが好ましい。
【0024】
エチレン性単量体としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロピルエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等が挙げられる。エチレン性単量体には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
アクリルアミド系高分子は、特に、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体(以下、「PNVA−PAS」と略記する)であることが好ましい。
【0026】
多価アルコール及び水との相溶性に優れるPNVA−PASを用いて水素結合形成させることでゲルの凝集力を高め、多量の多価アルコール及び水をゲル中に内包させることができる。さらに、アクリルアミド系高分子の分子間相互作用性によって、被着体との粘着性を高めることができる。
【0027】
アクリルアミド系高分子は官能基を有さないが、例えば、PNVA−PASはN−ビニルアセトアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体(ブロックコポリマー)であり、アクリル酸ナトリウム部分が架橋性の反応基として働くため、金属架橋によるポリマー化が可能である。
【0028】
金属架橋には、多価金属塩、多価金属水酸化物、多価金属酸化物等が用いられ、例えば塩化アルミニウム、カリ明バン、アンモニウム明バン、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウムグリシネート、EDTA−アルミニウム、酸化アルミニウム、塩化マグネシウム、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物(例えば、協和化学工業(株)製「クムライト」等)、メタケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムアラントイネート、合成ハイドロタルサイト(例えば、協和化学工業(株)製「アルカマック」「アルカマイザー」「キョーワード」等)、水酸化アルミナマグネシウム(例えば、協和化学工業(株)製「サナルミン」等)、水酸化アルミニウム(例えば、協和化学工業(株)製「乾燥水酸化アルミニウムゲルS−100」等)、酢酸アルミニウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート(例えば、協和化学工業(株)製「グリシナール」等)、カオリン、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(例えば、富士化学工業(株)製「ノイシリン」)、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。このうち、特にアルミニウム化合物、乾燥水酸化アルミニウムゲルが好ましい。多価金属塩、多価金属水酸化物、多価金属酸化物等は、水溶性のものであっても、難溶性のものであってもよく、1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
4.多価アルコール
本発明に係る粘着性ゲルにおいて多価アルコールは可塑剤として用いられ、多価アルコールやその誘導体である多価アルコール誘導体が含まれる。多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600等)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール(ペンタメチレングリコール)、1,2,6−へキサントリオール、オクチレングリコール(エトヘキサジオール)、ブチレングリコール(1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,3−ブタンジオール等)、へキシレングリコール、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,6−ヘキサンジオール (ヘキサメチレングリコール)等が例示される。これらの多価アルコールのうち、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールが好ましく、グリセリン及びジグリセリンがより好ましく、グリセリンが特に好ましい。多価アルコール誘導体としては、前記多価アルコールのエステル化合物及びエーテル化合物等が挙げられる。
【0030】
可塑剤は、粘着性ゲルを軟質にし、剥離時の粘着性ゲルを伸び易くして皮膚への急激な引っ張り力の伝達を遅延させることで、皮膚刺激を緩和させる。可塑剤として、親水性の水酸基を有する油状(液状)の多価アルコールを使用すると、粘着性ゲルから水分が失われても多価アルコールが溶媒として機能し、ゲルが硬化し難い。
【0031】
5.配合比率
本発明に係る粘着性ゲルにおいて、親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比は1:1〜1:10であり、かつ、多価アルコールと、親水性高分子とアクリルアミド系高分子と、の重量比が2:1〜6:1であることが好適である。より好ましくは、親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比は1:2〜1:4、多価アルコールと、親水性高分子とアクリルアミド系高分子と、の重量比は3:1〜5:1である。
【0032】
なお、本発明にかかる粘着性ゲルの好適な組成は、親水性高分子が、エーテル変性PVAか、PVAとPVPの組み合わせか、エーテル変性PVAとPVPの組み合わせのいずれかであり、かつ、アクリルアミド系高分子がPNVA−PASである。この場合において、親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比は1:2〜1:4であり、多価アルコールと、親水性高分子とアクリルアミド系高分子と、の重量比は3:1〜5:1であることが好ましい。また、エーテル変性PVAは、置換基にC6〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有することが好ましい。
【0033】
また、本発明に係る粘着性ゲルは、上記重量比の範囲内において、無水時で親水性高分子が2〜10重量%、PNVA−PASが10〜25重量%、多価アルコールが60〜95重量%とされることが好ましい。
具体的には、例えば親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比が1:2である場合、親水性高分子が5.88〜8.33重量%、PNVA−PASが11.76〜16.66重量%、多価アルコールが75〜83.3重量%が例示される。また、例えば親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比が1:4である場合、親水性高分子が3.33〜5.0重量%、PNVA−PASが13.32〜20重量%、多価アルコールが75〜83.3重量%が例示される。なお、これらの具体的な数値範囲は例示に過ぎない。
【0034】
親水性高分子に対するアクリルアミド系高分子の重量比が上記数値範囲未満の場合、乾燥時の濡れ性が不足し、十分な粘着性が得られない。乾燥時の濡れ性が不良となると、剥離時に皮膚刺激を引き起こし、皮膚を傷めるおそれがある。一方、該重量比が上記数値範囲を超える場合、含水時のゲル強度が不足し、簡単に崩れてしまう。
【0035】
また、親水性高分子とアクリルアミド系高分子に対する多価アルコールの重量比が上記数値範囲未満の場合、乾燥時の濡れ性が不足し、十分な粘着性が得られない。一方、該重量比が上記数値範囲を超えると、多価アルコールがゲル中からブリードし、皮膚との粘着を妨げ、ベタツキなどの不快感を発生させる要因となる。
【0036】
本発明に係る粘着性ゲルに親水性高分子としてPVPを配合する場合、PVPとアクリルアミド系高分子との重量比は1:100〜1:1であることが好適である。
【0037】
PVPの配合比率が上記数値範囲を超えると、製造工程において水溶液粘度が高くなり過ぎてしまい、均一に混合できなくなったり、塗工ができなくなったりする。また、ハイドロゲル中の架橋される分子の割合が低下してハイドロゲルの作成が困難になる可能性がある。
【0038】
本発明に係る粘着性ゲルは、含水時における水の重量比は、全重量の50〜70%とされることが好ましい。
【0039】
水の配合比率が上記数値範囲未満の場合、製造工程において水溶液粘度が高くなり過ぎてしまい、均一に混合できなくなったり、塗工ができなくなったりする。また、含水時のゲル強度が不足したり、溶媒成分の増加によってハイドロゲルの作成が困難になる可能性がある。
【0040】
6.粘着性ゲルの製造方法
本発明に係る粘着性ゲルは、親水性高分子、アクリルアミド系高分子、多価アルコール及び水を含む混合液にアルミニウム化合物を添加することにより得られる。
【0041】
具体的には、まず、上述した配合比率に従って、親水性高分子を水と多価アルコールにより溶解する(溶解工程)。次いで、溶解液にアクリルアミド系高分子を添加して、混合液を調製する(混合工程)。溶解工程及び混合工程においては、必要に応じてpH調整剤や防腐剤等の添加剤を加えてもよい。また、溶解工程及び混合工程においては、必要に応じて加熱や冷却を行ってもよい。
【0042】
続いて、混合液にアルミニウム化合物を添加し、架橋反応を行なう(架橋工程)。これにより、アクリルアミド系高分子が架橋反応によって相互に架橋され、アクリルアミド系高分子ブロックを形成する。架橋工程においても、必要に応じて加熱や冷却を行うことができ、これにより架橋反応速度が調節される。
【実施例】
【0043】
以下の実施例において、親水性高分子としてエーテル変性PVAを、アクリルアミド系高分子としてPNVA−PASを、多価アルコールとしてグリセリンを、それぞれ用いた場合について説明する。なお、この親水性高分子、アクリルアミド系高分子及び多価アルコールの組み合わせは例示に過ぎず、これに限られるものではない。
【0044】
<実施例1>
以下の手順により、ハイドロゲルを作製した。
(1)溶解工程
水20質量部をセパラブルフラスコに投入後、添加剤(酒石酸0.06質量部、メチルパラベン0.03質量部)を加え、混合液1を調製した。
グリセリン6質量部、エーテル変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、ZDF−17L(C16の直鎖状アルキル基(置換基)がエーテル結合され、かつ、ケトン基(官能基)が導入された変性PVA)1質量部、ポリNビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体(昭和電工株式会社、adHERO GE167)1質量部を混合して混合液2を調製した。
混合液1に混合液2を攪拌しながら加え、90℃まで加熱した後、2時間攪拌しながら溶解して、水溶液1を調製した。
(2)架橋工程
水溶液1にグリセリン2質量部、乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学工業株式会社)0.06質量部の混合液を室温で加えて、50℃まで加熱しながら30分間攪拌し、水溶液2を調製した。
(3)塗工工程
水溶液2を厚さ1mmにセパレーターフィルム上に塗工して塗膜状のハイドロゾルとした後、別のセパレーターフィルムで挟んで50℃で24時間養生してゲル化し、ハイドロゲルを得た。ハイドロゲルには、編布をラミネートした。各工程で添加した水は合計20質量部で、グリセリンは8質量部であった。配合比率を「表1」に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
<実施例2>
配合比率を「表1」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0047】
<実施例3〜5>
以下の手順により、ハイドロゲルを作製した。
(1)溶解工程
水30質量部をセパラブルフラスコに投入後、添加剤(酒石酸0.12質量部(実施例3,4)、0.13質量部(実施例5)、メチルパラベン0.06質量部)を加え、混合液1を調製した。
グリセリン14質量部、エーテル変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、ZDF−17L 1質量部、ポリNビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体(昭和電工株式会社、adHERO GE167)3質量部を混合して混合液2を調製した。
混合液1に混合液2を攪拌しながら加え、90℃まで加熱した後、2時間攪拌しながら溶解して、水溶液1を調製した。
また、水10質量部を別のセパラブルフラスコに投入後、ポリビニルピロリドン(BASF、ルビスコールK−90)1.2質量部(実施例3)、2.4質量部(実施例4)、3.6質量部(実施例5)を加え、50℃まで加熱した後、1時間攪拌しながら溶解し、水溶液2を調製した。
(2)混合工程
水溶液1及び水溶液2を室温まで冷却して混合し、90℃まで加熱した後、2時間攪拌し、水溶液3を調製した。
(3)架橋工程
水溶液3にグリセリン2質量部、乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学工業株式会社)0.1質量部(実施例3)、0.12質量部(実施例4)、0.13質量部(実施例5)の混合液を室温で加えて、50℃まで加熱しながら30分間攪拌し、水溶液4を調製した。
(4)塗工工程
水溶液4を厚さ1mmにセパレーターフィルム上に塗工して塗膜状のハイドロゾルとした後、別のセパレーターフィルムで挟んで50℃で24時間養生してゲル化し、ハイドロゲルを得た。ハイドロゲルには、編布をラミネートした。各工程で添加した水は合計40質量部で、グリセリンは16質量部であった。配合比率を「表1」に示す。
【0048】
<実施例6>
配合比率を「表1」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0049】
<実施例7〜9>
配合比率を「表1」に示すように変更した以外は、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0050】
<実施例10>
配合比率を「表1」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0051】
<実施例11>
配合比率を「表1」に示すように変更した以外は、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0052】
<実施例12,13>
配合比率を「表2」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0053】
【表2】

【0054】
<実施例14〜16>
配合比率を「表2」に示すように変更した以外は、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0055】
<実施例17>
配合比率を「表2」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0056】
<実施例18>
配合比率を「表2」に示すように変更した以外は、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0057】
<実施例19〜21>
配合比率を「表2」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0058】
<実施例22>
変性ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルアルコールを用いた以外は、配合比率を「表2」に従い、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0059】
<実施例23>
配合比率を「表3」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0060】
【表3】

【0061】
<実施例24〜26>
配合比率を「表3」に示すように変更した以外は、実施例3〜5と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0062】
<実施例27〜29>
配合比率を「表3」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0063】
<実施例30〜35>
変性ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンを用いた以外は、配合比率を「表3」に従い、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0064】
<比較例1〜5>
配合比率を「表4」に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。変性ポリビニルアルコールの架橋剤としてAPA P 250を用いた。また、pH調整剤としてリン酸2水素カリウムを用いた。
【0065】
【表4】

【0066】
<比較例6>
親水性高分子を用いなかった以外は、配合比率を「表4」に従い、実施例1と同様にしてハイドロゲルを作製した。
【0067】
実施例及び比較例で作製したハイドロゲルについて以下の評価を行った。
(1)含水時の強度
作製後セパレーターフィルムで挟んだままの状態で室温にて3日以上養生したハイドロゲルを親指と人差し指で挟んで擦りつけ、含水時におけるゲルの強度(凝集力)を以下の基準により評価した。結果を「表1」〜「表4」の下段に示す。
5:優(凝集力が非常に高く全く崩れない)
4:良(凝集力が高く崩れない)
3:可
2:不良(凝集力が低く、ゲルの一部が崩壊した)
1:不可(凝集力が非常に低く、ゲルが完全に崩壊した)
【0068】
含水時の強度(凝集力)は、ポリビニルアルコールのように結晶性を示す親水性高分子を用いることで達成できる。ポリビニルアルコールは架橋に頼らないで凝集力を維持することができる。すなわち、ポリビニルアルコールは水酸基を構造内に多く持つことから、ポリマーマトリクスに分散し強固な水素結合を形成する。これにより、ポリビニルアルコールは、含水時における全体の凝集力を向上することに貢献しているものと考えられた。
【0069】
(2)乾燥時の濡れ粘着性
作製後セパレーターフィルムから剥離したハイドロゲルを室温で24時間放置し、水分を気化させた。乾燥後のハイドロゲルに人差し指を押し付けて、ゲルの柔軟性及び粘着性を以下の基準により評価した。結果を「表1」〜「表4」の下段に示す。
5:優(非常に良く濡れて粘着性を発揮する)
4:良(良く濡れて粘着性を発揮する)
3:可
2:不良(硬化により、濡れ性が足りず粘着性が十分でない)
1:不可(硬化が進み、粘着性が全くない)
【0070】
乾燥時の濡れ性(柔らかさ)及び粘着性は、アクリルアミド系高分子の特性により達成できる。アクリルアミド系高分子は、アミド基を有するため、ポリビニルアルコール同様に水素結合を形成して水に溶解する。また、アクリルアミド系高分子は、多化アルコールとの相溶性も非常に高く、ポリビニルアルコールほど強固な水素結合を形成しないため、少量のグリセリン量で可塑化することが可能である。PNVA−PAS及びグリセリンを配合することで、乾燥後も濡れ性(柔らかさ)を維持しながら粘着性を示すハイドロゲルが得られると考えられた。
【0071】
(3)含水時の冷却感
作製後セパレーターフィルムで挟んだままの状態で室温にて3日以上養生したハイドロゲルを皮膚に貼付し、貼付時における冷却感を以下の基準により評価した。
【0072】
その結果、実施例に係るハイドロゲルでは、全ての実施例において優れた冷却感が確認された。一方、比較例に係るハイドロゲルおいても、同等の冷却感が感じられた。この結果から、総重量における水の割合が少なくとも55重量%以上であれば冷却感を感じることが分かった。
【0073】
なお、実施例11のハイドロゲルを60℃のホットプレート上に放置して水分を蒸散させ、含水率が全体重量の25,30,35,40重量%になるように調整した後、同様の試験を行った。その結果、含水率が30重量%以上であれば、貼付時に冷却感を感じることが確認できた。
【0074】
以上の結果から、親水性高分子(PVAあるいは変性PVA)とアクリルアミド系高分子の比が1:2〜1:4であり、多価アルコールと、親水性高分子(PVAあるいは変性PVA)及びアクリルアミド系高分子との重量比が3:1〜5:1であるときに、含水時の強度・乾燥時の粘着性が最も優れていることがわかる。また、親水性高分子とアクリルアミド系高分子の比が、1:1であっても、多価アルコールの重量が親水性高分子及びアクリルアミド系高分子の重量の4倍量又は5倍量であれば、含水時の強度・乾燥時の粘着性適していることもわかっている(表には記載せず)。
【0075】
親水性高分子としてPVAを単独で用いた場合には、含水時の強度は良好であったが、乾燥時の濡れ性は不良であった(実施例30〜32参照)。これは、PVAのグリセリンとの相溶性が悪い(PVAはグリセリンに溶解しない)ことが原因と考えられる。すなわち、PVA中の水酸基による水素結合の結合数が多くなっていることが要因と考えられる。
なお、PVAに対するPNVA−PASの重量比が1:3以上の場合については検討していないが、PVAの添加率が低下することによって含水時の強度が得られなくなるものと予測できる。
【0076】
また、親水性高分子としてPVPを単独で用いた場合には、乾燥時の濡れ性は良好であったが、含水時の強度は不良であった(実施例33〜35参照)。これは、PVPはアミド基由来の水素結合を形成するため、グリセリンとの相溶性が高く、乾燥後の濡れ性が維持できたためと考えられる。しかし、水素結合が水酸基由来のものと比較して結合力が小さいことから、含水時の強度の向上効果が得られなかったためと考えられる。
【0077】
親水性高分子としてエーテル変性PVAを用いた場合には、含水時の強度及び乾燥時の濡れ性ともに良好であった(例えば、実施例2,6,10参照)。これは、乾燥時、末端にエーテル結合された長鎖のアルキル基がマトリクス中の水酸基間に入り込んで、水素結合の形成を阻害しているためと考えられた。
【0078】
親水性高分子としてPVAとPVPを併用した場合にも、含水時の強度及び乾燥時の濡れ性ともに良好であった(実施例22参照)。これは、マトリクス中の水酸基濃度の減少が主たる要因と考えられた。つまり、マトリクス中のPVAの割合が減少し、グリセリンに溶解し得るマトリクス(PVP、PNVA−PAS)の割合が増加したためと考えられた。
【0079】
また、親水性高分子としてエーテル変性PVAとPVPを併用した場合にも、含水時の強度及び乾燥時の濡れ性ともに良好であった(例えば、実施例3〜5参照)。これは、既に述べたように、末端にエーテル結合された長鎖のアルキル基がマトリクス中の水酸基間に入り込み、水素結合の形成を阻害しているためと考えられた。加えて、マトリクス中の水酸基濃度の減少も要因と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る粘着性ゲルは、以下の用途に好適に使用される。
(1)アトピーやその他皮膚疾患による皮膚の痒みに対し、鎮痒、消炎、掻痒防止等を目的とした被覆材として好適に使用できる。
(2)乾燥した創傷、熱傷、その他の創傷に対し、湿潤環境の維持や疼痛軽減を目的とした創傷被覆材として好適に使用できる。
(3)褥瘡、足病(糖尿病性足潰瘍、静脈性下腿潰瘍、抹消動脈疾患等)、瘢痕、ケロイド、手足症候群等の外部からの圧力や張力が原因で発生したり悪化したりする疾患に対し、対象部位の保護、圧力や張力の緩和を目的とした貼付材として好適に使用できる。
(4)カテーテル、ガーゼ、その他の医療材料を人体に固定等するための貼付材。特に、乳幼児や老人、その他の脆弱な皮膚をもつ患者に使用するのに好適に使用できる。
(5)保湿や生理活性物質等の皮膚浸透等によるスキンケアや美容等を目的とした貼付材(パック材)として好適に使用できる。
(6)肩こり、腰痛、打撲、筋肉痛、筋肉疲労、捻挫、関節痛、骨折痛等の痛みや疲労の緩和や予防を目的とした湿布材(パップ材)として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子とアクリルアミド系高分子のマトリクス中に多価アルコールと水を含有してなり、
親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比が1:1〜1:10であり、かつ、
多価アルコールと、親水性高分子及びアクリルアミド系高分子と、の重量比が2:1〜6:1である粘着性ゲル。
【請求項2】
前記親水性高分子として、ポリビニルアルコールを含む請求項1記載の粘着性ゲル。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールがエーテル変性ポリビニルアルコールである請求項2記載の粘着性ゲル。
【請求項4】
前記エーテル変性ポリビニルアルコールが、置換基として炭素数6〜22の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基を有する請求項3記載の粘着性ゲル。
【請求項5】
前記アクリルアミド系高分子として、N−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体を含む請求項1〜4記載の粘着性ゲル。
【請求項6】
前記親水性高分子として、さらにポリビニルピロリドンを含み、
ポリビニルピロリドンとN−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体との重量比が1:100〜1:1である請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項7】
含水時において、水を30〜75重量%含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘着性ゲル。
【請求項8】
親水性高分子とアクリルアミド系高分子のマトリクス中に多価アルコールと水を含有してなり、
親水性高分子とアクリルアミド系高分子との重量比が1:2〜1:4であり、かつ、多価アルコールと、親水性高分子及びアクリルアミド系高分子と、の重量比が3:1〜5:1であり、
アクリルアミド系高分子がN−ビニルアセトアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体であり、
親水性高分子が以下の(1)〜(3)のいずれかである粘着性ゲル。
(1)エーテル変性ポリビニルアルコール。
(2)ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの組み合わせ。
(3)エーテル変性ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの組み合わせ。

【公開番号】特開2012−107120(P2012−107120A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256883(P2010−256883)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】