説明

粘着性シート及び保持治具

【課題】十分な保持力で被粘着物を保持することができると共に、容易に被粘着物を取り外すことができる保持治具、及び、この保持治具に用いられる粘着性シートの提供。
【解決手段】表面に、弱粘着部又は非粘着部と強粘着部とを備え、前記弱粘着部又は前記非粘着部及び前記強粘着部のいずれか一方を海とし、他方を島とする海島構造を有してなることを特徴とする粘着性シート、及び、気体を流通する通気孔を有する基体と、前記基体上に固定される前記粘着性シートとを備えた保持治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性シート及び保持治具に関し、さらに詳しくは、被粘着物を十分な保持力で保持することができると共に、容易に取り外すことができる保持治具及びそれに用いられる粘着性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等の薄板状物、セラミックコンデンサ、コイルフィルター等の電子部品等の製造においては、前記薄板状物等は破損しやすく、前記電子部品等は所定の位置に固定しにくく転倒しやすいので、一般に、これらの薄板状物又は電子部品等を保持治具等に固定して、例えば、研磨工程、パターン形成工程、ダイシング工程等の製造工程又は製造工程間の搬送等が行われている。
【0003】
そして、これらの薄板状物又は電子部品等は、製造工程中及び/又は製造工程間の搬送中等には保持治具に保持される一方で、製造工程終了後及び/又は搬送後等には保持治具から取り外される。したがって、保持治具には、薄板状物又は電子部品等を確実に保持する特性と、必要時には、薄板状物又は電子部品等を容易に取り外すことができる特性とが要求される。
【0004】
このような保持治具として、例えば、基板を真空吸着して保持する基板保持チャックにおいて、前記基板を真空吸引する際の負圧を形成する壁体と、前記真空吸引の際の基板の変形を抑制する複数の補助支持体とを備え、前記壁体と前記補助支持体の内少なくとも補助支持体を、ガラス基板表面に突出形成したことを特徴とする基板保持チャック(特許文献1参照。)、少なくとも表面部が粘着性を有するゴム弾性材で形成され、その粘着力により小型部品をその弾性材表面において密着保持可能であることを特徴とする小型部品の保持治具(特許文献2参照。)等が挙げられる。
【0005】
しかし、前記基板保持チャックは、基板を真空吸引によって固定するものであるから、製造工程中及び/又は搬送中等には、常に真空吸引する必要があり、特に基板の質量が大きい場合には真空度を高める必要があり、保持具自体の構造、製法が複雑で高価なものであった。さらに、前記補助支持体によって基板が損傷することもあった。
【0006】
一方、前記保持治具は、弾性部材の表面全体に粘着性を有しているから、小型部品の一表面全体を弾性部材の表面に密着させ、特に薄板状物は弾性部材の表面との密着面積が大きく、必要時に、これらの小型部品及び薄板状物を弾性部材から取り外しにくいという問題があった。そのため、粘着力に勝る大きな力で小型部品及び薄板状物を取り外す必要があり、小型部品及び薄板状物が変形し、又は、割れたり欠けたりする等、損傷することもあった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−286329号公報
【特許文献2】特公平07−093247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、十分な保持力で被粘着物を保持することができると共に、容易に被粘着物を取り外すことができる保持治具、及び、この保持治具に用いられる粘着性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、表面に、弱粘着部又は非粘着部と強粘着部とを備え、前記弱粘着部又は前記非粘着部及び前記強粘着部のいずれか一方を海とし、他方を島とする海島構造を有してなることを特徴とする粘着性シートであり、
請求項2は、前記強粘着部は、前記表面に被粘着物を載置した場合に、前記表面を少なくとも90度傾斜させたときに、前記被粘着物が保持されるのに十分な粘着力を有する請求項1に記載の粘着性シートであり、
請求項3は、前記強粘着部は、前記被粘着物の単位面積あたりの自重(g/mm)よりも大きな粘着力(g/mm)を有する請求項1又は2に記載の粘着性シートであり、
請求項4は、前記弱粘着部又は非粘着部は、その粘着力が1g/mm未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着性シートであり、
請求項5は、前記強粘着部と前記弱粘着部又は非粘着部とは、それらの粘着力の差が1〜60(g/mm)であり、前記弱粘着部又は非粘着部は、前記表面の表面積に対する面積率が20〜95%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着性シートであり、
請求項6は、前記粘着性シートは、シリコーンゴム又はフッ素系ゴムで形成されて成る請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着性シートである。
【0010】
前記課題を解決するための別の手段として、
請求項7は、気体を流通する通気孔を有する基体と、前記基体上に固定され、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘着性シートとを備えた保持治具であり、
請求項8は、前記粘着性シートは、弱粘着部又は非粘着部が突出し、又は、強粘着部が陥没して、その前記表面に粘着された被粘着物を離脱することができる請求項7に記載の保持治具である。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る粘着性シートは、その表面に存在する弱粘着部又は非粘着部及び強粘着部が海島構造を形成しているから、この海島構造の一部を構成する強粘着部によって被粘着物を十分な粘着力で保持することができると共に、この海島構造を構成する強粘着部及び弱粘着部又は非粘着部のいずれか一方を弾性変形させると、強粘着部を被粘着物から引き剥がすことができる。
【0012】
前記粘着性シートを備えたこの発明に係る保持治具によれば、製造工程中及び/又は搬送中等には、粘着性シートの強粘着部によって被粘着物を十分な粘着力で保持することができると共に、製造工程終了後及び/又は製造工程間の搬送後等には、通気孔を介して気体を装入し又は吸引して、粘着性シートの弱粘着部又は非粘着部を突出させ、又は、粘着性シートの強粘着部を陥没させて、強粘着部及び弱粘着部又は非粘着部のいずれか一方を弾性変形させることによって、強粘着部を被粘着物から引き剥がすことができる。
【0013】
したがって、この発明に係る粘着性シート及びこの粘着性シートを備えたこの発明に係る保持治具によれば、十分な保持力で被粘着物を保持することができると共に、容易に被粘着物を取り外すことができる。また、この発明に係る粘着性シート及び保持治具によれば、被粘着物を粘着性シートから取り外す際に、被粘着物が変形し又は損傷することを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係る粘着性シート及びこの粘着性シートを備えたこの発明に係る保持治具について、以下、説明する。
【0015】
この発明に係る粘着性シートは、表面に、弱粘着部又は非粘着部と強粘着部とを備え、前記弱粘着部又は前記非粘着部及び前記強粘着部のいずれか一方を海とし、他方を島とする海島構造を有してなることを特徴の1つとする。この粘着性シートは、後述する被粘着物を保持すると共に、弱粘着部又は非粘着部及び強粘着部のいずれか一方が弾性変形することによって、前記被粘着物の保持を容易に解除する。
【0016】
前記強粘着部は、被粘着物を保持するのに十分な粘着力を有する部分である。したがって、この強粘着部は、粘着性シートの表面に被粘着物を載置した場合に、この表面を少なくとも90度傾斜させたときに、被粘着物が保持されるのに十分な粘着力を有しているのが好ましい。特に、粘着性シートの表面が下向きになるように、粘着性シートを180度回転させたときに、被粘着物が保持されるのに十分な粘着力、すなわち、被粘着物の単位面積あたりの自重(g/mm)よりも大きな粘着力(g/mm)を有しているのが好ましい。強粘着部が前記した粘着力を有すると、粘着性シートに被粘着物を確実に保持することができる。強粘着部の具体的な粘着力は、粘着性シートに保持される被粘着物の自重、大きさ等に応じて決定されるが、例えば、1〜60(g/mm)であるのがよく、2〜40(g/mm)であるのがさらによく、4〜20(g/mm)であるのが特によい。
【0017】
前記弱粘着部は、前記強粘着部の粘着力よりも弱い粘着力を有する部分である。前記強粘着部によって粘着性シートに保持された被粘着物を容易に取り外すことができるためには、前記弱粘着部は、その表面に被粘着物を載置した場合に、この表面を少なくとも90度傾斜させたときに、被粘着物を保持することができない程度の粘着力を有しているのが好ましい。弱粘着部の具体的な粘着力は、例えば、0(g/mm)を超え、1(g/mm)未満であるのがよく、0(g/mm)を超え、0.7(g/mm)以下であるのがさらによく、0(g/mm)を超え、0.5(g/mm)以下であるのが特によい。
【0018】
前記非粘着部は、実質的に粘着力を有しない部分である。粘着性シートが非粘着部を有していると、前記強粘着部によって粘着性シートに保持された被粘着物をきわめて容易に取り外すことができる。
【0019】
ここで、前記強粘着部及び前記弱粘着部における粘着力は、次のようにして求める。まず、粘着性シートを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱をなしたステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。この試験台上に粘着性シートを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で強粘着部又は前記弱粘着部の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部位に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を、25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を強粘着部又は前記弱粘着部の粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAl MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0020】
前記弱粘着部又は前記非粘着部及び前記強粘着部は、それらの粘着力の差が1〜60(g/mm)であるのが好ましい。前記粘着力の差がこの範囲にあると、十分な保持力で被粘着物を粘着性シートに保持することができると共に、粘着性シートに保持された被粘着物を容易に取り外すことができる。前記粘着力の差は、2〜40(g/mm)であるのがより好ましく、4〜20(g/mm)であるのが特に好ましい。前記粘着力の差がこれらの範囲であると、十分な保持力で被粘着物を粘着性シートに保持することができると共に、粘着性シートに保持された被粘着物をきわめて容易に取り外すことができる。
【0021】
この発明に係る粘着性シートは、その表面に前記海島構造を有する。この海島構造としては、弱粘着部又は非粘着部及び強粘着部のいずれか一方を海とし、他方を島とする海島構造であればよく、例えば、図1〜3に示される海島構造等が挙げられる。図1に示される粘着性シート10Aにおける海島構造は、略均一の間隔を設けて縦横2個ずつ、合計4個の矩形をなした島部分11が碁盤目状に海部分12内に形成された構造である。図2(a)に示される粘着性シート10Bにおける海島構造は、島部分11の大きさ及び数が異なる以外は図1に示された海島構造と同じ碁盤目状構造であり、図2(b)に示される粘着性シート10Cにおける海島構造は、延在する3本の島部分11が略平行に海部分12内に形成された構造である。図3(a)に示される粘着性シート10Dにおける海島構造は、円形の島部分11が放射状に海部分12内に形成された構造であり、図3(b)に示される粘着性シート10Eにおける海島構造は、円形の島部分11が同心円状に海部分12内に形成された構造であり、図3(c)に示される粘着性シート10Fにおける海島構造は、リング状の島部分11が海部分12内に、任意の曲率に従った放射状に形成された構造である。
【0022】
前記島部分は、弱粘着部及び/又は非粘着部であっても、強粘着部であってもよく、したがって、前記海部分は、強粘着部であっても、弱粘着部及び/又は非粘着部であってもよい。前記島部分を強粘着部とするか、弱粘着部及び/又は非粘着部とするかは、被粘着物の種類、質量、保持治具の使用目的等に応じて決定することができる。
【0023】
前記海島構造において、弱粘着部又は非粘着部とされる島部分又は海部分は、海島構造の全面積に対する面積率が20〜95%であるのが好ましい。弱粘着部又は非粘着部の面積率がこの範囲であると、十分な保持力で被粘着物を粘着性シートに保持することができると共に、粘着性シートに保持された被粘着物を容易に取り外すことができる。前記弱粘着部又は非粘着部の面積率は、40〜90%であるのがより好ましく、50〜80%であるのが特に好ましい。前記弱粘着部又は非粘着部の面積率がこの範囲であると、十分な保持力で被粘着物を粘着性シートに保持することができると共に、粘着性シートに保持された被粘着物をきわめて容易に取り外すことができる。
【0024】
ここで、弱粘着部又は非粘着部の面積率は、島部分及び海部分の合計面積に対する、弱粘着部又は非粘着部とされた島部分又は海部分の面積の割合である。弱粘着部又は非粘着部の面積率は、合計面積及び島部分又は海部分の面積を公知の方法で求めて、算出することができる。なお、粘着性シートの強粘着部を陥没させて、粘着性シートの表面に粘着させた被粘着物を取り外す保持治具(例えば、図5(a)に示される基体を備える保持治具)に、支持し、固定される粘着性シートにおいては、前記弱粘着部又は非粘着部の面積率は、後述する基体における周壁部の上部に位置する粘着性シートの周縁部を除外して、この周縁部に囲まれた部分における島部分及び海部分の合計面積に対する割合として、算出する。
【0025】
前記粘着性シートは、0.05〜2mm程度の厚さを有し、0.8μm以下の中心線平均粗さRa(JIS B 0601−1982)を有しているのがよい。粘着性シートの厚さが、0.05mm未満であると粘着性シート自体の機械的強度が低下し、粘着性シート自体の耐久性が十分でないことがあり、一方、2mmを越えると、粘着性シートが弾性変形しにくくなり、被粘着物を粘着性シートから容易に取り外すことができなくなることがある。粘着性シートの中心線平均粗さが前記範囲内であると、粘着性シートにおける強粘着部又は弱粘着部の粘着力を均一に調整することができる。
【0026】
粘着性シート、特に粘着性シートの強粘着部は、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマーによって、形成することができるが、強度、耐候性に優れたシリコーンゴム、フッ素系ゴムによって形成するのがよい。これらの内でも、5〜60程度のゴム硬度(JIS K 6253[デュロメータA])を有するのが特によい。前記ゴム硬度が、5未満であると粘着力が強くなりすぎることがあり、一方、60を越えると粘着力が弱くなりすぎることがある。
【0027】
前記シリコーンゴムとしては、例えば、オルガノポリシロキサン、シリカ系充填剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するシリコーンゴム組成物が挙げられる。このようなシリコーンゴム組成物としては、例えば、信越化学工業株式会社から商品名「KE−520U」、「KE−530U」等が入手可能である。また、前記フッ素系ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体、カーボン等の充填剤、トリアルイソシアネート等の架橋助剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するフッ素系ゴム組成物が挙げられる。このようなフッ素系ゴム組成物としては、例えば、ダイキン工業株式会社から商品名「DC−2050」、「DC−2260」等が入手可能である。
【0028】
粘着性シートは、例えば、前記材料を用いて、公知の方法によって、形成される。形成したシートの表面に弱粘着部又は非粘着部を形成するには、例えば、(1)離型フイルムを介在させて、所望のパターンを有するマスキング部材を前記シートの表面に載置し、マスキング部材上から照射量を制御して紫外線を照射する方法、(2)弱粘着部又は非粘着部を形成する部分に、粘着性の弱い粘着材(例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等)又は粘着性のない非粘着材を塗布する方法、(3)弱粘着部又は非粘着部を形成する部分の表面を粗面化する方法等が挙げられる。
【0029】
粘着性シートは、例えば、前記粘着性の弱い粘着材又は前記粘着性のない非粘着材を用いて、公知の方法によって、形成されてもよい。形成したシートの表面に強粘着部を形成するには、例えば、強粘着部を形成する部分に、前記材料を塗布する方法が挙げられる。
【0030】
この発明に係る粘着性シートは、被粘着物の形状、その製造工程、取り扱い性等に応じて、任意の形状に形成することができ、例えば、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等に形成され、後述する基体の形状と同じでもあっても、異なっていてもよい。
【0031】
また、図1〜3に示される島部分11は、正方形、長方形、円形又はリング状に形成されているが、この島部分は、五角形、六角形等の多角形、楕円、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等に形成されてもよい。
【0032】
前記粘着性シートは、その裏表面に粘着部を有していてもよい。
【0033】
この発明に係る保持治具は、被粘着物を製造し、搬送する際等に使用され、図4に示されるように、気体を流通する通気孔21を有する基体20と、前記基体20上に固定される前記粘着性シート10とを備えて成る。
【0034】
この保持治具に保持される被粘着物は、薄板状物、電子部品等の破損又は損傷しやすいもの、小型で取り扱いが困難であるもの等であるのが有利である。薄板状物としては、例えば、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等が挙げられ、電子部品としては、例えば、セラミックコンデンサ、コイルフィルター等が挙げられる。
【0035】
前記基体20は、気体を流通する通気孔21を有する。この通気孔21は、基体20及び粘着性シート10の間と基体20の外部とを連通し、外部に設置された圧縮装置例えばコンプレッサー等(図示しない。)、又は、吸引装置例えば真空ポンプ等(図示しない。)に接続される。通気孔21の孔径は、高い圧縮効率又は吸引効率と基体20の強度とを両立することができる範囲内で大きくするのがよく、例えば、0.2〜3mm程度に設定することができる。この通気孔21は、図4に示されるように、基体20の表面から所定の位置まで裏表面側に延在し、そこから基体20の側面まで延在するように形成されてもよく、基体20の表面から裏表面に貫通するように形成されてもよい。
【0036】
前記基体20は、その表面に前記粘着性シート10を支持し、固定することができればよく、その例として、例えば、図5に示される基体20A及び20Bが挙げられる。
【0037】
図5(a)に示されるように、基体20Aは、周壁部22と、前記周壁部22で包囲された内部空間23に形成された4つの凸状体24と、通気孔21とを有している。この周壁部22と凸状体24とによって、粘着性シートを支持し、固定することができる。図5(a)に示されるように、前記周壁部22は、基体20Aの周縁部に凸状の枠として形成され、その上部には、粘着性シートを支持し、固定する頂上面25を有する。この周壁部22及び基体20Aの表面によって、上面が開口した内部空間23が形成される。
【0038】
図5(a)に示されるように、前記凸状体24は、前記内部空間23内に、周壁部22から離れて、略均一の間隔を設けて縦横2個ずつ、合計4個が、前記粘着性シートにおける海島構造のパターンと一致するように、形成されている。4つの凸状体24は何れも、周壁部22の高さと略同じ高さを有する略正方形の角柱状に形成されている。このように周壁部22及び各凸状体24が略同じ高さに形成されていると、粘着性シートを基体20Aに確実に支持し、固定することができる。凸状体24(その上面)の大きさは、粘着性シートを確実に固定することができ、被粘着物を保持した粘着性シートを支持することができる大きさであればよく、凸状体24の数、被粘着物等に応じて決定されるが、図5(a)に示される基体20Aのように、周壁部22と、前記周壁部22で包囲された内部空間23に形成された凸状体24とを有する基体においては、凸状体24の大きさは、前記粘着性シートの弱粘着部又は非粘着部の面積率に対応する大きさに設定されるのがよい。
【0039】
図5(b)に示されるように、基体20Bは、通気孔21を有する板状体である。この基体20Bは、その表面が平坦に形成されているのがよい。
【0040】
基体20は、略正方形、長方形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等の板状体に形成することができる。基体20の厚さは、用途により適宜決定すればよく、単に被粘着物を搬送する場合には50μm程度以上であればよく、被粘着物の製造工程に使用する場合には数mm程度以上であればよい。
【0041】
基体20は、基体20及び粘着性シート10の間に、気体が装入され、又は、気体が吸引されても、変形等しない程度の強度を有する材料で形成され、このような材料として、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の金属、多孔質セラミック等の多孔性物質、樹脂、ガラス又はこれらの複合体等が挙げられる。基体20は、加工性、操作性の観点から、ステンレス鋼又はアルミニウム合金で形成されるのがよい。なお、基体20を多孔性物質で形成される場合には、前記通気孔21を特段形成する必要はないが、基体20の側面及び底面を密閉する必要がある。
【0042】
基体20は、前記材料により、所望の形状に形成することができれば、その製造方法は、特に限定されず、例えば、真空成形、射出成形、金型成形等が挙げられる。通気孔21は別途掘削してもよい。基体20Aは、周壁部22及び凸状体24と一体に成形されるのがよいが、それぞれ別々に製造することもできる。すなわち、周壁部22及び凸状体24をそれぞれ別々に製造し、基体20Aの表面上にこれらを固定してもよい。例えば、基体20Aは、開口部を有する枠体として周壁部を形成し、この開口部に平坦な板状体を嵌め込んでもよく、また、角柱状に形成した部材を平坦な板状体の周縁部に固定してもよい。
【0043】
保持治具は、粘着性シート10の粘着性を有する裏表面によって、及び/又は、粘着性シート10の裏表面又は基体20に接着層を設けることによって、基体20上に粘着性シート10が固定されて成る。
【0044】
このようにして成る保持治具は、前記通気孔21を介して、基体20と粘着性シート10との間に、気体を、装入し又は吸引して、粘着性シートにおける弱粘着部又は非粘着部を突出させ、又は、強粘着部を陥没させて、その表面に粘着させた被粘着物を容易に取り外すことができる。ここで、基板20及び粘着性シート10の間における圧力は、強粘着部の粘着力に勝って弱粘着部又は非粘着部が突出する程度にまで高められ、又は、強粘着部の粘着力に勝って強粘着部が陥没する程度にまで減圧される。
【0045】
保持治具において、製造工程中及び/又は搬送中等に、被粘着物を保持する場合には、粘着性シート上に被粘着物を載置する。この粘着性シートは表面に強粘着部を備えているから、被粘着物を載置するだけで確実に保持することができ、したがって、被粘着物を保持するための特別な手段を必要とせず、簡単な構成で、小型かつ低エネルギで、被粘着物を保持することができる。
【0046】
保持治具において、製造工程終了後及び/又は製造工程間の搬送後等に、保持された被粘着物を取り外す場合には、前記したように、弱粘着部又は非粘着部を突出させ、又は、強粘着部を陥没させる。そうすると、強粘着部が被粘着物から引き離され、被粘着物は弱粘着部又は非粘着部に接する。したがって、ほんのわずかな力で、保持治具を傾けるだけで、又は、被粘着物の自重で、被粘着物を粘着性シートから容易に取り外すことができるうえ、被粘着物を取り外す際に、被粘着物が変形し又は損傷することを確実に防止することができる。
【0047】
次に、この発明の一実施例である保持治具1Aを、図6及び図7を参照して、説明する。保持治具1Aは、図6に示されるように、図5(a)に示される基体20Aと、図1に示される粘着性シート10Aとを備えてなる。
【0048】
基体20Aは、ステンレス鋼又はアルミニウム合金によって略正方形の板状に形成され、9個の通気孔21を有している。粘着性シート10Aは、シリコーンゴム又はフッ素系ゴムによって略正方形のシートに形成され、その両表面は粘着性を有している。粘着性シート10Aの一方の表面は、UV照射によって粘着力が弱められた弱粘着部又は非粘着部が、島部分11として、また、前記基体20Aにおける周壁部22の頂上面25の上部に位置する周縁部として、形成されている。すなわち、粘着性シート10Aは、その表面における弱粘着部又は非粘着部の周縁部の内側に、強粘着部の海部分12と弱粘着部又は非粘着部の島部分11との海島構造を有し、前記周縁部に囲まれた部分の表面積に対する、前記周縁部の内側に形成された弱粘着部又は非粘着部である島部分11の面積率が20〜95%に設定されている。この強粘着部である海部分12は、粘着性シート10Aの表面に被粘着物30を載置した場合に、前記表面が下向きになるように、保持治具1Aを180度回転させたときに、被粘着物30が保持されるのに十分な粘着力を有している。粘着性シート10Aの強粘着部と弱粘着部又は非粘着部とは、それらの粘着力の差が1〜60(g/mm)に設定されている。
【0049】
図6及び7(a)に示されるように、保持治具1Aは、前記周壁部22、前記凸状体24及び前記粘着性シート10Aによって形成された閉塞空間26を有している。
【0050】
保持治具1Aの作用について、説明する。保持治具1Aの初期状態として、図6及び図7(a)に示されるように、粘着性シート10A上に被粘着物30が置かれている。この初期状態においては、被粘着物30の底面に強粘着部である海部分12が密着しているから、被粘着物30は粘着性シート10Aに保持されている。したがって、被粘着物30は保持治具10Aに十分な粘着力で保持されており、被粘着物30を保持治具10Aと共に製造工程に供給し、又は、搬送等することができる。このように、被粘着物30は、粘着性シート10A上に置いただけで保持治具10Aに保持されるから、保持治具1Aは、簡単な構成で、小型かつ低エネルギで、被粘着物30を保持することができる。
【0051】
一方、製造工程終了後又は搬送後に、被粘着物30を保持治具10Aから取り外す場合には、図7(b)に示されるように、保持治具1Aの外部に設置された吸引装置等(図示しない。)を通気孔21に接続し、閉塞空間26内の気体を吸引し、閉塞空間26内を減圧又は真空にする。そうすると、弾性を有する粘着性シート10Aの強粘着部である海部分12は、被粘着物10との粘着力に反して弾性変形し、閉塞空間26内に陥没する。この吸引状態においては、粘着性シート10Aの上面における強粘着部である海部分12が被粘着物30の底面から引き離されている。その結果、被粘着物30は、粘着性シート10Aの弱粘着部又は非粘着部である島部分11の上に接しているだけで、もはや保持されていない。したがって、わずかな力で、保持治具10Aを傾けるだけで、又は、被粘着物30の自重で、被粘着物30を取り外すことができるうえ、被粘着物30を取り外す際に、被粘着物30が変形し又は損傷することを確実に防止することができる。
【0052】
前記保持治具1Aにおいては、このように前記初期状態及び前記吸引状態を繰り返すことによって、被粘着物30の保持及び取り外しが容易に行われる。
【0053】
次に、この発明の別の一実施例である保持治具1Bを、図8及び9を参照して、説明する。保持治具1Bは、図8に示されるように、図5(b)に示される基体20Bと、粘着性シート10Gとを備えてなる。
【0054】
基体20Bは、ステンレス鋼又はアルミニウム合金によって表面が平坦な略正方形の板状に形成されている。粘着性シート10Gは、シリコーンゴム又はフッ素系ゴムによって略正方形のシートに形成され、その両表面は粘着性を有している。粘着性シート10Gの一方の表面は、UV照射によって粘着力が弱められた弱粘着部又は非粘着部が海部分12として、略均一の間隔を設けて縦横3個ずつ合計9個の島部分11が碁盤目状に形成されるように、形成されている。すなわち、粘着性シート10Gは、その表面に、図8に示されるように、強粘着部の島部分11と弱粘着部又は非粘着部の海部分12との碁盤目状の海島構造を有し、海部分12の面積率が20〜95%に設定されている。この島部分11は、粘着性シート10Gの表面に被粘着物30を載置した場合に、前記表面が下向きになるように、保持治具1Bを180度回転させたときに、被粘着物30が保持されるのに十分な粘着力を有している。粘着性シート10Gの強粘着部と弱粘着部又は非粘着部とは、それらの粘着力の差が1〜60(g/mm)に設定されている。
【0055】
図9に示されるように、保持治具1Bは、基体20Bの上に、基体20Bの周縁部及び前記島部分11に対応する位置に設けられた接着層27を介して、粘着性シート10Gが接着固定されて成る。したがって、粘着性シート10Gは、弱粘着部又は非粘着部の海部分12が弾性変形可能になっており、この部分が、被粘着物30を粘着性シートから取り外す機能と、通気孔21から装入された気体の流通路としての機能を有する。
【0056】
保持治具1Bには、気体の注入量を調整する安全弁(図示しない。)が設けられている。これによって、基体20Bと粘着性シート10Gとの間に装入される気体量を調節することができると共に、粘着性シート10Gが弾性変形し過ぎることを防止できるから、常に安定した膨張収縮を実現することが可能となる。
【0057】
保持治具1Bの作用について、説明する。保持治具1Bの初期状態として、図8及び図9(a)に示されるように、粘着性シート10G上に被粘着物30が置かれている。この初期状態においては、被粘着物30の底面に強粘着部である島部分11が密着しているから、被粘着物30は粘着性シート10Gに保持されている。したがって、被粘着物30は保持治具10Gに十分な粘着力で保持されており、被粘着物30を保持治具10Aと共に製造工程に供給し、又は、搬送等することができる。また、保持治具1Bは、保持治具1Aと同様に、簡単な構成で、小型かつ低エネルギで、被粘着物30を保持することができる。
【0058】
一方、製造工程終了後又は搬送後に、被粘着物30を保持治具10Gから取り外す場合には、図9(b)に示されるように、保持治具10Gの外部に設置された圧縮装置等(図示しない。)を通気孔21に接続し、基体20Bと粘着性シート10Gとの間に気体を装入する。そうすると、弾性を有する粘着性シート10Gは、接着層27で接着されていない海部分12が、被粘着物30と強粘着部である島部分11との粘着力に反して弾性変形し、基体20Bの表面から隆起する。この装入状態においては、粘着性シート10Gの上面における強粘着部である島部分11が被粘着物30の底面から引き離されている。その結果、被粘着物30は、粘着性シート10Gの弱粘着部又は非粘着部12の上に接しているだけで、もはや保持されていない。したがって、わずかな力で、保持治具10Gを傾けるだけで、又は、被粘着物30の自重で、被粘着物30を取り外すことができるうえ、被粘着物30を取り外す際に、被粘着物30が変形し又は損傷することを確実に防止することができる。
【0059】
前記保持治具1Bにおいては、このように前記初期状態及び前記装入状態を繰り返すことによって、被粘着物30の保持及び取り外しが容易に行われる。
【0060】
さらに、この発明のまた別の一実施例である保持治具1Cを、図10及び11を参照して、説明する。保持治具1Cは、図10に示されるように、図5(a)に示される基体20Aと、図1に示される粘着性シート10Aとを備えてなる。この粘着性シート10Aは、強粘着部の島部分11と弱粘着部又は非粘着部の海部分12との海島構造を有している以外は、前記保持治具1Aを構成する粘着性シート10Aと基本的に同様である。
【0061】
図10及び11(a)に示されるように、保持治具1Cは、基体20Aの上に、周壁部22の頂上面25及び凸状体24の頂上面に設けられた接着層27を介して、粘着性シート10Aが接着固定されて成る。この保持治具1Cは、周壁部22、凸状体24及び粘着性シート10Aによって形成された閉塞空間26を有している。また、粘着性シート10Aは、弱粘着部又は非粘着部の海部分12が弾性変形可能になっており、この部分が、被粘着物30を粘着性シート10Aから取り外す機能と、通気孔21から装入された気体の流通路としての機能を有する。なお、保持治具1Cには、前記保持治具1Bと同様の安全弁(図示しない。)が設けられている。したがって、図10及び11に示されるように、保持治具1Cは、閉塞空間26を有する以外は、前記保持治具1Bの構成及び作用と基本的に同様である。
【0062】
以上、この発明の一実施例である保持治具1A、1B及び1Cについて説明したが、保持治具1A、1B及び1Cはそれぞれ前記記述内容に限定されるものではなく、この発明の範囲内にて適宜に設計変更をすることができる。
【0063】
例えば、保持治具1A、1B及び1Cは、被粘着物の形状等に応じて複数の被粘着物を保持することができ、高い汎用性を有するように形成されているため、粘着性シートにおける海島構造を形成する島部分11が複数形成されているが、この発明に係る保持治具においては、1つの島部分が形成されてもよい。
【0064】
また、保持治具1A、1B及び1Cは、それらを構成する粘着性シート10が180度回転されても被粘着物を保持するのに十分な粘着力を有しているから、粘着性シートを上側にして、被粘着物を載置状態で保持してもよく、粘着性シートを下側にして、被粘着物を懸架状態で保持してもよい。
【0065】
さらに、保持治具1A、1B及び1Cは、それぞれ単独で1つの被粘着物を保持しているが、複数の保持治具で1つの被粘着物を保持してもよい。
【0066】
保持治具1B及び1Cにおいて、粘着性シートにおける島部分の厚さを、海部分の厚さよりも薄く形成してもよい。この場合には、薄く形成された島部分が弾性変形しやすいから、被粘着物を粘着性シートから取り外す際に、基体と粘着性シートとの間に装入する気体の装入量を少なくすることができる。このような粘着性シートは、一体成形によって製造することができ、又は、第1のシート部材上に、所定形状の貫通部を複数形成した第2のシート部材を、積層して製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて、この発明をさらに具体的に説明するが、この実施例によって、この発明はなんら限定されることはない。
【0068】
(実施例1)
ステンレス鋼を用いて、図5(a)に示される基体20Aを作製した。ただし、基体20Aにおいて、凸状体24を、縦横18個ずつ、合計324個形成した。作製した基体20Aの大きさは、縦100mm、横100mm、厚さ6mmであった。なお、凸状体24の大きさは、後述する粘着性シートにおける弱粘着部の面積率となるように、調整した。
【0069】
次いで、5mol%のメチルビニルシロキサン単位と95mol%のジメチルビニルシロキサン単位のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとからなるシリコーン生ゴム10.0質量部、H(CHSiO−((CHSiO)18−Si(CHHからなるSiH結合含有ポリオルガノシロキサン架橋剤5.7質量部、(CH)SiO0.5単位/SiO単位からなり、(CH)SiO0.5単位/SiO単位のモル比が0.85のポリオルガノシロキサン粘着剤50.0質量部、白金量が10ppmとなるような塩化白金酸の2−エチルヘキサノール溶液0.3質量部、シリカ粉10.0質量部、1−エチニルシクロヘキサノールからなる反応制御剤0.1質量部を含む組成物を定法により硬化させて、縦100mm、横100mm、厚さ0.5mmのシート状に成形した。次いで、成形したシート上に、前記基体20Aの凸状体24のパターンと一致するパターンを有するマスキング部材を離型フイルムを介在させて載置し、マスキング部材上から紫外線を照射し、前記基体20Aにおける周壁部22の頂上面25の上部に位置する部分と、前記基体20Aの凸状体24の上部に位置する部分とに、弱粘着部を形成した。紫外線の強度は2000mJ/cmであり、照射時間は2分であった。このようにして、粘着性シート10Aを作製した。この粘着性シート10Aの表面粗さRa(JIS B 0601−1982)は0.8μm以下であった。
【0070】
作製した粘着性シート10Aを、基体20Aの上に置き、基体20Aに固定して、図6に示される保持治具1Aと同じタイプの保持治具Aを作製した。
【0071】
(実施例2〜4)
前記組成物において、ポリオルガノシロキサン粘着剤の配合量を、45質量部、30質量部及び15質量部に変更し、表1に示す弱粘着部の粘着力となるように紫外線の照射量及び照射時間を変更した以外は、実施例1と同様にして、保持治具B〜Dを作製した。
(実施例5)
基体20Aにおける凸状体24の個数を、縦横33個ずつ合計1089個形成し、この凸状体24の配置パターンと一致するパターンを有するマスキング部材を用いて、紫外線を照射した以外は、実施例2と同様にして、保持治具Eを作製した。
(実施例6)
前記マスキング部材における前記凸状体24の配置パターンと一致するパターンを少し大きくして、表1に示す面積率となるように作成したマスキング部材を用いた以外は、実施例2と同様にして、保持治具Fを作製した。
(実施例7及び8)
基体20Aにおける凸状体24の個数を、それぞれ、縦横25個ずつ合計625個及び縦横10個ずつ合計100個形成し、これらの凸状体24の配置パターンと一致するパターンを有するマスキング部材を用いて、紫外線を照射した以外は、実施例2と同様にして、保持治具G及びHを作製した。
(実施例9〜12)
前記粘着性シート10Aに照射する紫外線の照射時間を1分、2.5分、5分及び7分に変更した以外は実施例2と同様にして、保持治具I〜Lを作製した。
【0072】
(比較例1)
前記粘着性シートの全表面に紫外線を照射した以外は、実施例1と同様にして、保持治具Mを作製した。
(比較例2)
前記粘着性シートに紫外線を照射しない以外は、実施例2と同様にして、保持治具Nを作製した。
【0073】
このようにして作製した粘着性シートにおいて、その周縁部を除き、周縁部に囲まれた部分の表面積(640mm)に対する弱粘着部の面積率(%)を算出し、また、強粘着部及び弱粘着部の粘着力を前記測定方法に準拠して測定し、強粘着部と弱粘着部との粘着力の差を算出した。その結果を表1に示す。なお、前記測定方法において、測定環境を温度21℃、湿度50%に設定し、被測定部位は9箇所とした。
【0074】
次いで、作製した保持治具A〜Nの粘着性シート上に、直径76.2mm、厚み0.28mmのシリコンウェハ(76.2g)を載置し、保持治具A〜Nを傾けて、各保持治具の粘着性を評価した。その結果、比較例1の保持治具Mでは、シリコンウェハをまったく保持できなかった。実施例5の保持治具Eでは、シリコンウェハを充分な粘着力で保持することができなかった。これに対して、実施例1〜4、6〜12及び比較例2の保持治具A〜D、F及びNでは、保持治具を180度反転させてもシリコンウェハが充分な粘着力で保持されていた。
【0075】
次いで、前記シリコンウェハを保持することができた保持治具A〜L及びNにおける基体20Aの通気孔21に真空ポンプを接続して、閉塞空間26を減圧し、シリコンウェハの取り外し容易性を評価した。評価は、シリコンウェハを取り外しにくい順に、1、2、3、4、5の5段階とし、評価1はシリコンウェハを取り外すことが困難で、シリコンウェハを取り外す際に破損することが多い場合、評価2はシリコンウェハを比較的容易に取り外せる場合、評価3はシリコンウェハを容易に取り外せる場合、評価4以上はシリコンウェハをきわめて容易に取り外せる場合を表す。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
信越化学工業株式会社製、商品名「KE−971U」の弱粘着性又は非粘着性のシリコーンゴムを用いて、シート状に成形し、その表面に、信越化学工業株式会社製、商品名「X−34−632A/B」の強粘着性のシリコーンゴムを用いて強粘着部を形成した以外は、それぞれ、実施例1〜12と同様の強粘着部及び弱粘着部の粘着力差及び強粘着部の面積率を有する粘着性シートを作製し、また、平滑表面を有する基体20Bを作製して、図8に示される保持治具1Bと同じタイプの各保持治具を作製した。作製した各保持治具における粘着性及び取り外し容易性を同様に評価した。その結果、実施例1〜12の結果と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、粘着性シートの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、粘着性シートの一例を示す概略上面図であり、図2(a)は碁盤目状の海島構造を有する粘着性シートの一例を示す概略上面図であり、図2(b)は略平行な棒状の海島構造を有する粘着性シートの一例を示す概略上面図である。
【図3】図3は、粘着性シートの一例を示す概略上面図であり、図3(a)は放射状の海島構造を有する粘着性シートの一例を示す概略上面図であり、図3(b)は同心円状の海島構造を有する粘着性シートの一例を示す概略上面図であり、図3(c)は任意の曲率に従った放射状の海島構造を有する粘着性シートの一例を示す概略上面図である。
【図4】図4は、保持治具の一例を示す概略斜視図である。
【図5】図5は、基体の一例を示す概略斜視図であり、図5(a)は周壁部及び凸状体を有する基体の一例を示す概略斜視図であり、図5(b)は平坦面を有する基体の一例を示す概略斜視図である。
【図6】図6は、保持治具の一例を示す概略斜視図である。
【図7】図7は、図6におけるA−A線に沿った概略断面図であり、図7(a)は保持治具の初期状態を示す概略断面図であり、図7(b)は保持治具の吸引状態を示す概略断面図である。
【図8】図8は、保持治具の一例を示す概略斜視図である。
【図9】図9は、図8におけるA−A線に沿った概略断面図であり、図9(a)は保持治具の初期状態を示す概略断面図であり、図9(b)は保持治具の装入状態を示す概略断面図である。
【図10】図10は、保持治具の一例を示す概略斜視図である。
【図11】図11は、図10におけるA−A線に沿った概略断面図であり、図11(a)は保持治具の初期状態を示す概略断面図であり、図11(b)は保持治具の装入状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 保持治具
10 粘着性シート
11 島部分
12 海部分
20 基体
21 通気孔
22 周壁部
23 内部空間
24 凸状体
25 頂上面
26 閉塞空間
27 接着層
30 被粘着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、弱粘着部又は非粘着部と強粘着部とを備え、前記弱粘着部又は前記非粘着部及び前記強粘着部のいずれか一方を海とし、他方を島とする海島構造を有してなることを特徴とする粘着性シート。
【請求項2】
前記強粘着部は、前記表面に被粘着物を載置した場合に、前記表面を少なくとも90度傾斜させたときに、前記被粘着物が保持されるのに十分な粘着力を有する請求項1に記載の粘着性シート。
【請求項3】
前記強粘着部は、前記被粘着物の単位面積あたりの自重(g/mm)よりも大きな粘着力(g/mm)を有する請求項1又は2に記載の粘着性シート。
【請求項4】
前記弱粘着部又は非粘着部は、その粘着力が1g/mm未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着性シート。
【請求項5】
前記強粘着部と前記弱粘着部又は非粘着部とは、それらの粘着力の差が1〜60(g/mm)であり、前記弱粘着部又は非粘着部は、前記表面の表面積に対する面積率が20〜95%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着性シート。
【請求項6】
前記粘着性シートは、シリコーンゴム又はフッ素系ゴムで形成されて成る請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着性シート。
【請求項7】
気体を流通する通気孔を有する基体と、前記基体上に固定され、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘着性シートとを備えた保持治具。
【請求項8】
前記粘着性シートは、弱粘着部又は非粘着部が突出し、又は、強粘着部が陥没して、その前記表面に粘着された被粘着物を離脱することができる請求項7に記載の保持治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−131791(P2007−131791A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328137(P2005−328137)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】