説明

粘着性ハイドロゲル用組成物とその用途

【課題】本発明は、水洗等の特別な作業を伴うことなく、繰返し使用に適した粘着性を示し、かつ特に皮膚に対する刺激の少ない粘着性ハイドロゲル用組成物とその用途(例えば、粘着性ハイドロゲル、ゲルシート及び電極パッド)を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも、高分子マトリックス形成材と、水と、多価アルコールとからなる粘着性ハイドロゲル用組成物であって、前記高分子マトリックス形成材は、少なくとも、(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体、(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、(c)N−ビニル−2−カプロラクタム、及び/又は、N−ビニル−2−バレロラクタム並びに(d)架橋性単量体からなり、該粘着性ハイドロゲル組成物における前記(b)の含有率が2〜20重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し使用に適した粘着性を示し、かつ特に皮膚に対する刺激の少ない粘着性ハイドロゲル用組成物とその用途(例えば、粘着性ハイドロゲル、ゲルシート及び電極パッド)(composition for adhesive hydrogel and it use)に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、基本的に水との親和性の高いポリマーが水系溶媒中で膨潤したものである。ハイドロゲルは、吸水性、膨潤性、粘着性、導電性等の種々特性を有しており、これらの特性を活かして土木建築、農芸、食品、医療、化粧品、電気等の広範囲の分野において利用されている。
【0003】
例えば、医療現場においては、心電図等の測定装置の電極パッドとして粘着性ハイドロゲルが用いられている。また、近年では、痩身や筋力トレーニングを目的としたEMS(Electrical Muscle Stimulation)の電極パッドとしても粘着性ハイドロゲルが用いられている。このEMSは、粘着性ハイドロゲルからなる電極パッドを皮膚に貼付し、電気刺激によって筋肉を収縮させる運動器具であり、一般家庭でも使用される機会が増えてきている。
【0004】
このような電極パッドに用いられる粘着性ハイドロゲルには、皮膚に対して高粘着性を有することが求められる。
【0005】
例えば、特許文献1には、所定量の水溶性高分子を使用することにより、ハイドロゲルの粘着性を向上させる技術やそれを利用した医療用電極が開示されている。特許文献1に開示されている技術は、ハイドロゲルの粘着力を向上させることができるものの、ハイドロゲルの貼付と剥離とを数回繰返しただけでハイドロゲルの粘着力がすぐに低下してしまう、すなわち、ハイドロゲルの繰返し使用時の粘着力が充分なものではなかった。また、ハイドロゲルを皮膚から剥離させた後に皮膚が赤みを帯びるという問題もあった。
【0006】
ここで、ハイドロゲルの繰返し使用時の粘着力が低下する主な原因及び皮膚が赤みを帯びる主な原因としては、例えば、電極パッドを皮膚から剥離する際に、皮膚表面から角質が脱落し、電極パッドの表面に付着し、電極パッドの有効な粘着面積が低下することが挙げられる。
【0007】
ハイドロゲルの繰返し使用時の粘着力を維持させる方法として、例えば、特許文献2には、皮膚に対して貼付、剥離を数回繰り返すことにより粘着力が低下したハイドロゲルの粘着面を水洗することによりハイドロゲルの粘着力を回復させる技術が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献2に記載されているハイドロゲルは、水洗等の作業が必要であるところ、確実にハイドロゲルの粘着力を回復させるためには、ハイドロゲルの洗浄方法や乾燥方法等について、取扱説明書等に記載された条件を守らなければならず、ユーザーに煩雑さを感じさせるという問題があった。
【0009】
また、ハイドロゲルを皮膚から剥離させた後に皮膚が赤みを帯びるのを抑制する、すなわち、皮膚に対するハイドロゲルの刺激を和らげるという課題については解決されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−96431号公報
【特許文献2】特許第3437124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、水洗等の特別な作業を伴うことなく、繰返し使用時の粘着性に優れ、かつ、特に皮膚に対する刺激の少ない粘着性ハイドロゲル用組成物とその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、少なくとも、高分子マトリックス形成材と、水と、多価アルコールとからなる粘着性ハイドロゲル用組成物であって、上記高分子マトリックス形成材は、少なくとも、(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体、(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、(c)N−ビニル−2−カプロラクタム及び/又はN−ビニル−2−バレロラクタム並びに(d)架橋性単量体からなり、該粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(b)の含有率が2〜20重量%である粘着性ハイドロゲル用組成物であることを特徴としている。
【0013】
本発明の粘着性ハイドロゲルは、本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物を用いてなる粘着性ハイドロゲルであって、少なくとも、前記高分子マトリックス形成材が重合されてなる高分子マトリックスと、水と、多価アルコールとからなるものである。
【0014】
本発明のゲルシートは、本発明の粘着性ハイドロゲルを用いてなるものである。
【0015】
本発明の電極パッドは、本発明の粘着性ハイドロゲルを用いてなるものである。
【0016】
以下に本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、前記高分子マトリックス形成材が重合されて高分子マトリックスを形成したときに、皮膚に対して高粘着性を有し、水洗のような特別な作業を伴うことなく、繰返し使用時の粘着性に優れかつ特に皮膚に対する刺激の少ない粘着性ハイドロゲルとなるものである。
【0018】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物を用いてなる粘着性ハイドロゲルは、皮膚に対して高粘着性を有し、水洗のような特別な作業を伴うことなく、繰返し使用時の粘着性に優れかつ特に皮膚に対する刺激の少ないものである。そのため、本発明の粘着性ハイドロゲルを使用したゲルシート、電極パッド等の製品は、従来の製品に比べて繰返し使用に耐え得るので、製品寿命が長くなり、経済的であり、また省資源化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、少なくとも、高分子マトリックス形成材と、水と、多価アルコールとからなる。
【0020】
上記高分子マトリックス形成材は、本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物を反応させて(高分子マトリックス形成材を重合させて)粘着性ハイドロゲルを作製する際に、高分子マトリックスを形成する材料である。
【0021】
本発明において、上記高分子マトリックス形成材は、少なくとも、(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体、(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、(c)N−ビニル−2−カプロラクタム及び/又はN−ビニル−2−バレロラクタム並びに(d)架橋性単量体からなるものである。
【0022】
上記(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体は、粘着性ハイドロゲルの骨格を形成する役割を有するものである。また、これらの化合物は、後述する他のモノマーとの親和性に優れるとともに、重合反応性が良好であるため、残存モノマーを低減することができる。
【0023】
上記(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のようなカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体(特に炭素数4〜5のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸);クロトン酸等のような(メタ)アクリル酸以外の炭素数3〜4のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸;(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)グリセリン(メタ)アクリレート等のような(メタ)アクリル酸誘導体(特に水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体)等が挙げられる。上記(a)は、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート及び(ポリ)グリセリン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である場合に、粘着性ハイドロゲルの骨格を形成する役割を有するものであり、他のモノマーとの親和性に優れるとともに、重合安定性が良好であり、残存モノマーを低減することができる。上記(a)は、特に、水及び多価アルコールへの溶解性等の理由から水溶性を有する化合物であることが好ましい。上記(a)としては、水溶解性が高く、製造を簡単にすることができる点で、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。なお、これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(ポリ)エチレンは、エチレン又はポリエチレンを意味する。また、ポリエチレンとは、エチレン単位を2〜10個備えた構造を意味する。(ポリ)プロピレン及び(ポリ)グリセリンについても、(ポリ)エチレンと同様の内容を意味する。
【0025】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体の含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は2重量%、好ましい上限は20重量%である。(a)の含有率が2重量%未満であると、得られる粘着性ハイドロゲルの粘着性が不充分であり、特に皮膚に対して固定することができないことがある。(a)の含有率が20重量%を超えると、上記高分子マトリックス形成材の重合時に未反応物が発生するため、後処理工程が煩雑となったり、得られる粘着性ハイドロゲルの品質が劣化したりすることがある。上記(a)の含有率のより好ましい下限は8重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0026】
上記(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体は、得られる粘着性ハイドロゲルに対して、特に皮膚に対して充分に固定可能な粘着力を付与するとともに、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離する際には角質層を剥離させるのを抑制することで、皮膚が荒れるのを低減させる役割を有するものである。また、角質層を剥離させないため、粘着性ハイドロゲルの繰返し使用時の粘着性を保つ役割も有する。
【0027】
上記(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体としては架橋性単量体でないものであれば特に限定されず、例えば、tert−ブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)、tert−ブチルアクリルアミドスルホン酸塩、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(DMAEAA)塩酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)塩酸塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド及びアクリロイルモルホリン等の非電解質系(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体が挙げられる。上記(b)は、特にこれらの化合物からなる群より選択される少なくとも1種である場合に、特に皮膚に対して充分に固定可能な粘着力を付与するとともに、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離する際には角質層を剥離させるのを抑制することで、皮膚が荒れるのを低減させる役割を有するものである。特に、水及び多価アルコールへの溶解性や、他のモノマーとの重合しやすさ等の理由から水溶性を有する化合物であることが好ましい。なお、これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体の含有率の下限は2重量%、上限は20重量%である。上記(b)の含有率が2重量%未満であると、得られる粘着性ハイドロゲルの粘着性が不充分であり、特に皮膚に対して固定することができない。また、理由については明らかではないが、粘着性が不充分であるにもかかわらず、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離すると、皮膚が荒れるとともに粘着力の低下が著しい。また、他成分の未反応物が発生するため、後処理工程が煩雑となったり、得られる粘着性ハイドロゲルの品質が劣化したりする。上記(b)の含有率が20重量%を超えると、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離する際に角質層を剥離させるため、皮膚が荒れるとともに粘着力の低下が著しい。上記(b)の含有率の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は10重量%である。
【0029】
上記(c)N−ビニル−2−カプロラクタム及び/又はN−ビニル−2−バレロラクタムは、得られる粘着性ハイドロゲルの粘度、粘着力を調整するとともに、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離する際に角質層を剥離させるのを抑制することで、皮膚が荒れるのを低減させ、かつ、粘着性ハイドロゲルの繰返し使用時の粘着性を保つ役割を有するものである。
【0030】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(c)N−ビニル−2−カプロラクタム及び/又はN−ビニル−2−バレロラクタムの含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は25重量%である。上記(c)の含有率が0.1重量%未満であると、粘着性ハイドロゲルを皮膚から剥離させると、角質層を剥離させるため、皮膚が荒れるとともに粘着力の低下が著しいことがある。上記(c)の含有率が25重量%を超えると、得られる粘着性ハイドロゲルの粘着性が不充分であり、特に皮膚に対して固定することができないことがある。上記(c)の含有率のより好ましい下限は0.2重量%、より好ましい上限は20重量%である。
【0031】
上記(d)架橋性単量体としては特に限定されないが、分子内に重合性を有する二重結合を2つ以上有するものが好ましく、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン、ジアリルアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記(d)架橋性単量体は、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン、及び、ジアリルアンモニウムクロライドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これにより、より高い粘着性及び加工性が得られる。
【0033】
また、上記架橋性単量体としては、重合性の二重結合を1つ以上有し、かつ脱離反応や開環反応による架橋性反応性を有する官能基としてエポキシ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基等を1つ以上有する、グリシジル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド等も好適に用いられる。
【0034】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(d)架橋性単量体の含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は0.5重量%である。上記架橋性単量体の含有率が0.01重量%未満であると、架橋密度が低くなり粘着性ハイドロゲルの形状安定性が低下するため、粘着性ハイドロゲルを作製することができなかったり、皮膚に貼付した粘着性ハイドロゲルを剥離する際に破断したりすることがある。また、本発明の粘着性ハイドロゲルを電気測定に使用する場合は、粘着性ハイドロゲルの厚みの変動により測定値に変動が生じやすくなることがある。上記架橋性単量体の含有率が0.5重量%を超えると、得られる粘着性ハイドロゲルの粘着性が不充分となり、皮膚に固定させることが困難となったり、可塑性がなく脆い粘着性ハイドロゲルとなったりすることがある。上記架橋性単量体の含有率のより好ましい下限は0.04重量%、より好ましい上限は0.1重量%である。
【0035】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、上記高分子マトリックス形成材の成分として(e)ポリビニルピロリドン及び/又はポリビニルピロリドン誘導体を含有してもよい。上記(e)を含有することにより、粘着性ハイドロゲルの粘着性や弾性を向上させることができる。
【0036】
上記ポリビニルピロリドン誘導体としては、特に限定されず、例えば、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、ビニルピロリドンとビニルアルコール(PVA)との共重合体、ビニルピロリドンとN−ビニル−2−カプロラクタムとの共重合体、ビニルピロリドンとN−ビニル−2−バレロラクタムとの共重合体、ビニルピロリドンとアクリル酸との共重合体(これら共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体の何れであってもよい)等が挙げられる。
【0037】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(e)の含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は20重量%である。上記(e)の含有率が0.1重量%未満であると、(e)を含有させる効果が充分に得られない。上記(e)の含有率が20重量%を超えると、粘着性ハイドロゲル用組成物が不均一となり粘着性ハイドロゲルを作製することができなかったり、得られたとしても粘着性ハイドロゲルの粘着性にムラが生じたりすることがある。上記(e)の含有率のより好ましい下限は0.2重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0038】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、上記高分子マトリックス形成材の成分として、更に、(f)オキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基を有する側鎖を有する高分子化合物を含有することが好ましい。上記(f)を含有することにより、粘着性ハイドロゲルの粘着性を向上させることができる。
【0039】
上記(f)としては、例えば、下記一般式(1)〜(3)で表されるセグメントの少なくとも1つを有する化合物を使用することができる。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
上記一般式(1)〜(3)において、Aはアルキレン基を表し、Rは水素、アルキル基、又はアリール基を表し、nは1〜100の整数を表す。なお、A−Oで表されるオキシアルキレン基は、一種のオキシアルキレン基からなるものであってもよいし、エチレンオキサイド基とプロピレンオキサイド基との2種類等のような複数種類のオキシアルキレン基から構成されるものであってもよい。上記(f)が一般式(1)〜(3)で表されるセグメントの2つ以上を有する化合物である場合、各化合物中のAは互いに異なっていてもよく、各化合物中のRは互いに異なっていてもよく、各化合物中のnは互いに異なっていてもよい。
【0044】
上記一般式(1)〜(3)において、nは1〜40であることがより好ましい。また、上記一般式(1)〜(3)において、Aで表されるアルキレン基の炭素数は1〜5であることがより好ましい。また、上記一般式(1)〜(3)において、Rで表される置換基がアルキル基又はアリール基である場合、該アルキル基又はアリール基の炭素数は1〜25であることがより好ましい。
【0045】
上記化学式(1)で表されるセグメントを有する化合物としては、例えば市販されているものを使用することができ、具体的には、日油株式会社製のマリアリム(登録商標)シリーズ(一般式(1)で表されるセグメントと無水マレイン酸に由来するセグメントとスチレンに由来するセグメントとで構成される繰返し構造単位を有する高分子化合物)が挙げられる。前記マリアリム(登録商標)シリーズとしては、マリアリム(登録商標)AKM1511−60、マリアリム(登録商標)AKM0531(一般式(1)で表されるセグメントと無水マレイン酸に由来するセグメントとスチレンに由来するセグメントとで構成される繰返し構造単位を有する高分子化合物であって、Aで表されるアルキレン基がエチレン基であり、Rで表される置換基がメチル基であり、nが11であるもの)、マリアリム(登録商標)AFB−1521(一般式(1)で表されるセグメントと無水マレイン酸に由来するセグメントとスチレンに由来するセグメントとで構成される繰返し構造単位を有する高分子化合物であって、Aで表されるアルキレン基がエチレン基であり、Rで表される置換基がエチル基であり、nが28であるもの)、マリアリム(登録商標)A−60、マリアリム(登録商標)A−20等が挙げられる。
【0046】
上記化学式(2)で表されるセグメントを有する化合物としては、例えば市販されているものを使用することができ、具体的には、第一工業製薬株式会社製のディスコール(登録商標)シリーズ(ポリアルキレンポリアミンのプロピレンオキシド−エチレンオキシド付加物;一般式(2)で表されるセグメントとメチレン基とで構成される繰返し構造単位を有する高分子化合物であって、Aで表されるアルキレン基がエチレン基及びプロピレン基であり、Rで表される置換基が水素であり、nが2であるもの)が挙げられる。前記ディスコール(登録商標)シリーズとしては、ディスコール(登録商標)N−509、ディスコール(登録商標)N−518、ディスコール(登録商標)202、ディスコール(登録商標)206等が挙げられる。
【0047】
また、上記(f)としては、例えば、(ポリ)オキシアルキレンアリルエーテル及び/又はポリアルキレングリコールモノアクリレートに由来する構成成分を含有する高分子化合物を使用することもできる。また、これらの高分子化合物は、(ポリ)オキシアルキレンアリルエーテル及び/又はポリアルキレングリコールモノアクリレートの単独重合体であってもよく、(ポリ)オキシアルキレンアリルエーテル及び/又はポリアルキレングリコールモノアクリレートと、1つ又は複数の不飽和基を有する他の化合物との共重合体であってもよい。上記1つ又は複数の不飽和基を有する他の化合物としては、例えば、α−オレフィン、スチレンモノマー、不飽和カルボン酸の塩又はエステル(例えばアルキル(メタ)アクリレート)、飽和カルボン酸のビニルエステル(例えばビニルアセテート)、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0048】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記(f)の含有率としては、特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記(f)の含有率が0.1重量%未満であると、(f)を含有させる効果が充分に得られない。上記(f)の含有率が30重量%を超えると、粘着性ハイドロゲル用組成物が不均一となり粘着性ハイドロゲルを作製することができなかったり、得られたとしても粘着性ハイドロゲルの粘着性にムラが生じたり、ゲル強度が悪化することがある。上記(f)の含有率のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は20重量%である。更に好ましい下限は1重量%、更に好ましい上限は15重量%である。
【0049】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記高分子マトリックス形成材の含有率としては特に限定されないが、好ましい上限は50重量%である。上記高分子マトリックス形成材の含有率が50重量%を超えると、重合時の発熱が大きくなりすぎるため、反応が暴走して、溶媒の沸点を超えて沸騰することがある。また沸騰した場合には粘着性ハイドロゲルに気泡が混入してしまうことがある。上記高分子マトリックス形成材の含有率のより好ましい上限は40重量%である。なお、上記高分子マトリックス形成材の含有率の好ましい下限としては特に限定されず、上述した各組成の含有率の範囲で適宜調整すればよい。
【0050】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、多価アルコールを含有する。
【0051】
上記多価アルコールとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル等が挙げられる。上記多価アルコールは、これらの化合物からなる群より選択される少なくとも1種である場合、上記(a)〜(d)(及び上記(e))に対して良好な溶解性を示すので、得られる粘着性ハイドロゲルは、相分離等がなく、より均一なものとなり、粘着性の悪化を抑制できる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
なかでも、粘着性ハイドロゲルの使用温度領域(例えば室内で使用する場合は20℃前後)で液状である多価アルコールを用いることが好ましく、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンが好適である。
【0053】
上記粘着性ハイドロゲル用組成物における上記多価アルコールの含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は80重量%である。上記多価アルコールの含有率が10重量%未満であると、得られる粘着性ハイドロゲルの保湿力が乏しく、水分の蒸散が著しくなり、粘着性ハイドロゲルの経時安定性に欠けるとともに、柔軟性に欠けるため、充分な粘着性が得られないことがある。上記多価アルコールの含有率が80重量%を超えると、得られる粘着性ハイドロゲルの表面から多価アルコールがブリードアウトし、粘着性ハイドロゲルの粘着力が低下することがある。また、上記多価アルコールの含有率が80重量%を超えると、粘着性ハイドロゲルの作製時に気泡が混入しやすくなる。上記多価アルコールの含有率のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0054】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、水を含有する。
【0055】
水の含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。水の含有率が10重量%未満であると、得られる粘着性ハイドロゲルの吸湿性が強くなり、粘着性ハイドロゲルが経時的に変質することがある。水の含有率が50重量%を超えると、乾燥による粘着性ハイドロゲルの収縮や、物性の変化を生じることがある。水の含有率のより好ましい下限は12重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0056】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、電解質を含有することが好ましい。粘着性ハイドロゲル用組成物が電解質を含有することにより、心電図測定用電極、低周波治療器用電極、各種アース電極、EMS用電極等の生体電極用途の粘着剤として好適な導電性の粘着性ハイドロゲルを得ることができる。このような生体電極用途の粘着剤として粘着性ハイドロゲルが用いられる場合、粘着性ハイドロゲルの比抵抗は0.1〜10kΩ・cmであることが好ましい。
【0057】
また、上記電解質は、pHの調整剤や、粘着性ハイドロゲルの保湿性能の向上や抗菌剤として用いられてもよい。
【0058】
上記電解質としては特に限定されず、例えば、
ハロゲン化ナトリウム(例えば塩化ナトリウム)、ハロゲン化カリウム、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化カルシウム等のハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属及びその他の金属ハロゲン化物、
次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸と、各種金属との塩、又はこれら無機酸のアンモニウム塩、
各種錯塩、
酢酸、安息香酸、乳酸等の一価有機カルボン酸と、各種金属との塩、又はこれら一価有機カルボン酸のアンモニウム塩、
フタル酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸等の多価カルボン酸と、1つ又は2つ以上の各種金属やアンモニアとの塩、
スルホン酸、アミノ酸等の有機酸と、各種金属との塩、又はこれら有機酸のアンモニウム塩、
ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリtert−ブチルアクリルアミドスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等の高分子酸と、各種金属との塩、又はこれら高分子酸のアンモニウム塩(高分子電解質塩)
が挙げられる。
【0059】
粘着性ハイドロゲルに適切な導電性を付与することを目的として本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物に電解質を含有させる場合、本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における上記電解質の含有率の好ましい下限は0.05重量%、好ましい上限は10重量%である。水分を含んだ粘着性ハイドロゲルは、元来誘電体としての特性を有し、電極素子と複合させて電極パッドを作製した場合は、ゲルの厚さや電極素子面積に応じた電気容量を有する。しかし、電極パッドのインピーダンス(Z)は、特に1kHz未満の低周波領域では電解質濃度に大きく影響される。電解質の含有率が0.05重量%未満であると、電極パッドのインピーダンスが高くなり、導電性用途として好適とはいえなくなる場合がある。電解質の含有率が10重量%を超えると、電解質の粘着性ハイドロゲルへの溶解が困難となり、粘着性ハイドロゲル内部で結晶の析出が生じたり、他の成分の溶解を阻害したりする場合がある。また、粘着性ハイドロゲルの導電性能が頭打ちとなり、導電性付与という観点からこれ以上の添加は有益なものとはいえなくなる。上記電解質の含有率のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は2重量%である。
【0060】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤としては特に限定されず、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0061】
上記光ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、例えば、α−ヒドロキシケトン、α−アミノケトン、ベンジルメチルケタール、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセン等が挙げられ、より具体的には、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア(登録商標)2959、BASFジャパン株式会社(旧チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン(製品名:ダロキュア(登録商標)1173、BASFジャパン株式会社製)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(製品名:イルガキュア(登録商標)184、BASFジャパン株式会社製)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(製品名:イルガキュア(登録商標)907、BASFジャパン株式会社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(製品名:イルガキュア(登録商標)369、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0062】
これらの光ラジカル開始剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
上記熱ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;2、2−アゾビスアミジノプロパン二塩酸塩等のアゾ化合物が挙げられる。また、必要に応じて過酸化水素やチオ硫酸ナトリウム等のレドックス開始剤を併用してもよい。
【0064】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物における重合開始剤の含有率としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は1重量%である。重合開始剤の含有率が0.01重量%未満であると、重合反応が充分に進まないことがある。重合開始剤の含有率が1重量%を超えると、重合反応後の重合開始剤の残物により、得られる粘着性ハイドロゲルが変色(黄変)したり、臭気を帯びたりすることがある。重合開始剤の含有率のより好ましい下限は0.05重量%、より好ましい上限は0.5重量%である。
【0065】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、pHを調整する目的で水酸化ナトリウム等の塩基を適宜添加してもよい。
【0066】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物は、必要に応じて更に、防腐剤、殺菌剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤等、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤等の添加剤を含有してもよい。
【0067】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物を用いて粘着性ハイドロゲルを製造する方法としては特に限定されず、例えば、本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物に対して加熱又は紫外線照射を行う方法等が挙げられる。
【0068】
本発明の粘着性ハイドロゲル用組成物を用いてなる粘着性ハイドロゲルであって、少なくとも、上記高分子マトリックス形成材が重合されてなる高分子マトリックスと、水と、多価アルコールとからなる粘着性ハイドロゲルもまた、本発明の1つである。
【0069】
また、本発明の粘着性ハイドロゲルは、あらかじめ重合反応によって形成された高分子マトリックスに、水及び多価アルコール(並びに必要に応じて非架橋の水溶性高分子等)を含浸させることにより得ることも可能である。また、上記高分子マトリックス形成材における上記(d)架橋性単量体を除く成分のみを重合させた直鎖状高分子、水、及び多価アルコール(並びに必要に応じて非架橋の水溶性高分子等)を溶解又は均一分散して得られるポリマー配合液に、架橋性単量体(及び必要に応じて重合開始剤(触媒))を添加して直鎖状高分子と架橋性単量体とを反応させることにより高分子マトリックスを生成する方法により得ることも可能である。
【0070】
本発明の粘着性ハイドロゲルを紫外線照射により作製する場合には、紫外線の積算照射量は、1000mJ/cm2〜10000mJ/cm2であることが好ましく、2000mJ/cm2〜10000mJ/cm2であることがより好ましい。
【0071】
本発明の粘着性ハイドロゲルは、厚さ0.75mmのシート状の粘着性ハイドロゲルを20mm×100mmの短冊状に切り出し、不織布で裏打ちしたものを試験片とし、この試験片をベークライト板(住友ベークライト株式会社製 紙ベークライト 品番:PL113)に貼り付け、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)にセットし、JIS−Z0237に準じて300mm/分の速度で90°方向に剥離する際の力を粘着力とした場合の粘着力が0.9N以上であることが好ましい。粘着力が0.9N以上であることにより、本発明の粘着性ハイドロゲルを特に生体用の電極の粘着剤として用いた場合であっても充分な粘着力を有するものとなる。
【0072】
また、本発明の粘着性ハイドロゲルは、以下の方法で測定される粘着力N1及びN10がともに0.5N以上であることが好ましい。N1及びN10が0.5N以上であることにより、本発明の粘着性ハイドロゲルは、特に皮膚に対して充分に固定することができ、繰返し使用時の粘着力に優れたものと言える。
【0073】
N1及びN10は、次のようにして測定する。即ち、厚さ0.75mmのシート状の粘粘着性ハイドロゲルを20mm×100mmの短冊状に切り出し、不織布(デュポン株式会社製「スパンレース #8021」)で裏打ちしたものを試験片とする。この試験片を予めアルコールで軽く拭いた左腕内側の皮膚に貼付する。貼付してから2分間経過後、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)を用いて、試験片を1000mm/分の速度で180°方向に剥離するのに要した力を測定する。この値を初期粘着力N1とする。次に、剥離した試験片を左腕内側の皮膚に貼付して、それを剥離するという操作を繰り返す。初回の剥離から数えて10回目に剥離したときに要した力を測定する。この値をN10とする。
【0074】
また、N10をN1で除した数値(N10/N1)を初期粘着力に対する粘着力保持率とした場合、粘着力保持率(N10/N1)が0.8以上であることが好ましい。
【0075】
粘着力の低下は皮膚の角質層が剥離し粘着性ハイドロゲル表面に付着することに起因するものであるところ、粘着力保持率(N10/N1)が0.8以上であることにより、本発明の粘着性ハイドロゲルは、皮膚の角質層が剥離するのを低減し、皮膚に対する刺激が低いものとなる。
【0076】
ここで、本明細書においてN1及びN10の測定については、温度23℃、湿度60%RHの雰囲気下において被験者6人(20代男女2人、40代男女2人、50代男女2人)の左腕内側に対して行い、測定結果の平均値とする。
【0077】
(粘着性ハイドロゲルの成形方法(ゲルシート)の例示)
粘着性ハイドロゲルは、液状の粘着性ハイドロゲル用組成物(配合液)中の高分子マトリックス形成材を重合架橋してゲル化するため、用途に合わせて適宜成形することが可能である。例えば、樹脂フィルム等のベースフィルムの上に前記粘着性ハイドロゲル用組成物を滴下し、滴下後、その上面に樹脂フィルム等のトップフィルムをかぶせて粘着性ハイドロゲル用組成物を押し広げ、所望の厚みに制御する。この状態で光(紫外線)照射及び/又は熱により粘着性ハイドロゲル用組成物中の高分子マトリックス形成材を重合・架橋させて、所望の厚さを有する粘着性ハイドロゲルを得ることができる。
【0078】
例えば、粘着剤として使用する場合では、厚さ0.01mm〜2.0mmのゲルシートに成形されることがある。その場合、片面、又は両面に保護フィルムを設けたゲルシートに成形してもよい。
【0079】
ゲルシートを作製する際の保護フィルムは、セパレータや支持体として使用することができ、公知のものを使用してもよい。また、ゲルシートの作製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができる。
【0080】
ベースフィルムには、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、紙又は樹脂フィルムをラミネートした紙等を使用することができる。これらフィルムのゲルシートと接する面は、シリコーンコーティング等の離型処理がなされていることが好ましい。
【0081】
ベースフィルムを離型紙として使用する場合は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン等の樹脂からなる樹脂フィルム、紙、樹脂フィルムをラミネートした紙等のフィルムの表面に離型処理を施したものが好適に用いられる。二軸延伸したPETフィルムや、OPP等が特に好ましい。離型処理の方法としては、シリコーンコーティングが挙げられ、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングが好ましい。
【0082】
ベースフィルムを離型紙でなく、粘着剤のパッキング材(裏打材)として使用する場合は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン等の樹脂からなる樹脂フィルムを離型処理しないで用いることが好ましい。これらのうち、ポリウレタンフィルムは柔軟性があり、水蒸気透過性を有するものもあるので特に好ましい。また、ポリウレタンフィルムは、通常単独では柔らかすぎ、製造工程での取扱が困難なため、キャリアフィルムとしてポリオレフィンや紙等でラミネートして用いることが好ましい。
【0083】
ゲル生成工程は、ベースフィルムにキャリアフィルムを付けた状態で行われることが好ましい。トップフィルムには、基本的にベースフィルムと同じ材質のものを使用することも可能であるが、光重合を妨げないために、光を遮断しない材質のフィルムを選択することが好ましい。また、パッキング材(裏打材)に用いるフィルムは、トップフィルムとして使用しない方が好ましい。特に、パッキング材に使用するフィルムが紫外線等の照射により劣化する可能性がある場合には、直接紫外線が照射される側に位置することになるため好ましくない。
【0084】
(ハイドロゲルを用いた電極パッド及びその製造方法の例示)
粘着性ハイドロゲルは、安全に皮膚等に粘着する特性を備えている。また、任意に電解質を添加することにより導電性を容易に付与することができる。そのため、電極パッド等の粘着性導電部位として好適に使用することができる。本発明の粘着性ハイドロゲルを電極パッドとして使用する一例について、以下に説明する。
【0085】
まず、カーボン等の導電物質が練り込まれた導電層の片面に粘着性ハイドロゲルを積層させる。次に、ハイドロゲルが積層された面とは反対側の面に、非導電性の支持体を積層させる。この支持体には、銅線等の導電性物質が導電層と接する形で取り付けられ、それが端子となる。端子を通じて、外部から又は外部のモニター等へ電気が流れて、導電層とハイドロゲルを通して貼付対象に電気を流すことができる粘着性導電部位となり得る。
【0086】
導電層には、ポリエステル系又はポリウレタン系樹脂をバインダーとしてカーボンペーストにより形成されたカーボンコート層、Ag/AgCl等の金属やカーボン等を含む導電性インクを印刷コーティングした層、樹脂フィルム上に金属箔(アルミ、ステンレス、Ag等)、カーボン等の導電体を樹脂中に練りこんだ導電性フィルムをラミネートした層等が使用される。導電層は引っ張り等、外部から力が働いた際に容易に切れないような強度を保持していることが好ましい。容易に切れると、電極パッドを製造する際に途中で導電層が切れたり、伸張により最終製品の電極パッドが変形したり、更に使用者の取扱い方によっては電極パッド中の導電層の断線により、火傷等を誘引する可能性がある。一方で、凹凸のある皮膚面へ貼付するため、柔軟性も必要とされる。使用に際して不具合が起こらないような物性を持った導電層の選択が必要である。
【0087】
端子は、支持体と導電層とがラミネートされたフィルムの場合は、導電層に粘着性ハイドロゲルを積層させる際に、フィルムの一部に粘着性ハイドロゲルが積層されていない部分を設けることにより形成される。端子(粘着性ハイドロゲルが積層されていない部分)は、クリップ等で挟まれてリード線と接続される。
【0088】
カシメ構造を有する電極パッドの場合は、導電性を有していれば特に限定されないが、ステンレス等の金属やカーボンを練りこんだ樹脂成型品であるスナップ端子と樹脂の成型品がAg/AgCl等の金属でコーティングされたエレメントで、挟まれた構造の部分が端子となり外部へ接続される。
【0089】
また、金属線等を使用する場合は、金属線の一部が導電層と支持体に挟まれた構造で、導電層と支持体の積層部からはみ出した部分は非導電性の樹脂等で覆われており、金属線の先端がリード線と接続されることで外部へ接続される。
【0090】
本発明の粘着性ハイドロゲルは、上述したとおり優れた繰返し使用時の粘着力を有するため、このハイドロゲルを用いて得られたゲルシートや電極パッドは、従来の製品にはみられないような優れた繰返し使用時の粘着力を有し、製品寿命を延ばすことができる。そのため、使い捨ての頻度を減らすことにより、省資源化の一助になることが期待される。また、本発明の粘着性ハイドロゲルは、皮膚からの剥離の際にも皮膚に赤みを帯びることが少なく、皮膚に対する刺激の少ないものとなる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
重合性単量体としてアクリル酸14.4重量部、tert−ブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)9.6重量部及びN−ビニル−2−カプロラクタム3重量部、架橋性単量体としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)0.04重量部、多価アルコールとしてグリセリン44重量部、ポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製:クリージャス(登録商標)K−30、K値:29.2)3重量部、電解質として塩化ナトリウム0.5重量部、紫外線重合開始剤として1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア(登録商標)2959、BASFジャパン株式会社製)0.2重量部を攪拌溶解させてモノマー配合液を作製した。
【0093】
その後、この配合液を50重量%NaOH水溶液8重量部でpH4.0〜5.0に調整し、イオン交換水を添加して水の量が17.3重量部になるよう調整した。次に、得られたモノマー配合液にメタルハライドランプを使用してエネルギー量3000mJ/cm2の紫外線照射をすることにより、厚さ0.75mmのシート状の粘着性ハイドロゲル(ゲルシート)を得た。
【0094】
(実施例2〜実施例26、比較例1〜比較例9)
表1〜4に記載された組成としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着性ハイドロゲルを作製した。なお、比較例6及び比較例9については、成形することができなかった。
【0095】
ここで、表1〜3においてDMAAはN,N−ジメチルアクリルアミドを意味し、1,9NDは1,9−ノナンジオールジメタクリレートを意味する。
【0096】
(粘着力の測定方法)
作製された粘着性ハイドロゲルを20mm×100mmの短冊状に切り出し、不織布(デュポン株式会社製「スパンレース #8021」、厚み0.38mm)で裏打ちしたものを試験片とし、この試験片をベークライト板(住友ベークライト株式会社製 紙ベークライト 品番:PL113)に貼り付け、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)にセットした。この後、JIS−Z0237に準じて300mm/分の速度で90°方向に剥離する際の力を粘着力とした。結果を表1〜4に示す。
【0097】
(繰返し使用時の粘着力の測定方法:皮膚180°繰り返し粘着力)
作製された粘着性ハイドロゲルを20mm×100mmの短冊状に切り出し、不織布(デュポン株式会製「スパンレース #8021」、厚み0.38mm)で裏打ちしたものを試験片とした。この試験片を予めアルコールで軽く拭いた左腕内側の皮膚に貼付した。貼付してから2分間経過後、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)を用いて、試験片を1000mm/分の速度で180°方向に剥離するのに要した力を測定した。この値を初期粘着力N1とした。次いで、剥離した試験片を左腕内側の皮膚に貼付して、それを剥離するという操作を繰り返した。初回の剥離から数えて10回目に剥離したときに要した力を測定する。この値をN10とした。また、N10をN1で除した数値(N10/N1)を初期粘着力に対する粘着力保持率とした。
【0098】
N1及びN10の測定については、温度23℃、湿度60%RHの雰囲気下において被験者6人(20代男女2人、40代男女2人、50代男女2人)の左腕内側に対して行い、測定結果の平均値とした。
【0099】
なお、比較例1についてはN10が低く、測定することができなかった。
【0100】
更に、10回目に剥離した後、皮膚表面に赤みを生じていないかどうか目視にて確認した。6人中1人でも赤みが発生していた場合には「有」とした。
【0101】
(比抵抗の測定方法)
作製された粘着性ハイドロゲルを20mm×20mmの角型に切り出し、不織布で裏打ちしたものを試験片とし、この試験片の両面にステンレス板を貼り合わせ、ステンレス板間に1kHz、10Vp−pの電流を流した時のインピーダンスを測定した。得られたインピーダンス(I)と、試験片の面積(S)及び厚み(d)から以下の式により、比抵抗を算出した。
【0102】
比抵抗(Ω・cm)=I(Ω)÷d(cm)×S(cm2
(粘着性ハイドロゲルの弾力試験)
得られた粘着性ハイドロゲルを50mm×50mmにカットし、この表面の中心部を親指で5秒間押さえつけることでゲル表面に凹みを形成させた後、親指を離し、もとの表面状態に戻るまでの時間を測定した。以下に示す基準で評価した。
【0103】
◎:5秒未満で元の状態に戻った。
【0104】
○:5秒以上30秒未満で元の状態に戻った。
【0105】
×:元の状態に戻るまでに30秒以上かかった。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
実施例1〜実施例26で作製された粘着性ハイドロゲルは、水洗等の特別な作業を伴うことなく、繰返し使用時の粘着性に優れ、かつ、特に皮膚に対する刺激の少ない粘着性ハイドロゲルであることが確認された。また、粘着性ハイドロゲル用組成物に(e)成分を含有させることにより弾力を向上させることができ、長期間の使用によってもより破損等を生じにくいものであることが確認された(実施例1〜実施例9、実施例11〜実施例12、実施例14〜実施例15、実施例17〜20、実施例22〜24)。
【0111】
実施例16については、特性としては問題のないものが得られたが、重合後にわずかに残渣が見られたため、重合工程を再度行うことで(再度紫外線照射を行うことで)残渣が確認されなくなった。これは、(a)成分の量が多すぎたためであると考えられる。
【0112】
また、実施例17と実施例18〜24との比較、及び実施例25と実施例26との比較から、粘着性ハイドロゲル用組成物が(e)成分を含むか否かに係わらず、粘着性ハイドロゲル用組成物中に(f)成分を含有させることにより、ベークライト板に対する粘着力、並びに皮膚に対する初期粘着力N1及び10回目剥離時の粘着力N10が向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、高分子マトリックス形成材と、水と、多価アルコールとからなる粘着性ハイドロゲル用組成物であって、
前記高分子マトリックス形成材は、少なくとも、
(a)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、クロトン酸及び/又はカルボキシル基を2つ有する炭素数が4〜5のビニル誘導体、
(b)(メタ)アクリルアミド及び/又は(メタ)アクリルアミド誘導体、
(c)N−ビニル−2−カプロラクタム及び/又はN−ビニル−2−バレロラクタム並びに
(d)架橋性単量体
からなり、
該粘着性ハイドロゲル用組成物における前記(b)の含有率が2〜20重量%であることを特徴とする粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項2】
前記(a)の含有率が2〜20重量%、前記(c)の含有率が0.1〜25重量%である請求項1記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項3】
前記高分子マトリックス形成材は、(e)ポリビニルピロリドン及び/又はポリビニルピロリドン誘導体を含有する請求項1又は2に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項4】
前記(e)の含有率が0.1〜20重量%である請求項3に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン及びポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項6】
前記(a)は、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート及び(ポリ)グリセリン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項7】
前記(b)は、tert−ブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)、tert−ブチルアクリルアミドスルホン酸塩、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(DMAEAA)塩酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)塩酸塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド及びアクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項8】
前記(d)は、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン及びジアリルアンモニウムクロライドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項9】
更に電解質を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項10】
前記高分子マトリックス形成材は、(f)オキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基を有する側鎖を有する高分子化合物を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項11】
前記(f)は、下記一般式(1)〜(3)
【化4】

【化5】

【化6】

(上記各式中、Aはアルキレン基を表し、Rは水素、アルキル基、又はアリール基を表し、nは1〜100の整数を表す)
で表されるセグメントの少なくとも1種を有する化合物である請求項10に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の粘着性ハイドロゲル用組成物を用いてなる粘着性ハイドロゲルであって、
少なくとも、前記高分子マトリックス形成材が重合されてなる高分子マトリックスと、水と、多価アルコールとからなる粘着性ハイドロゲル。
【請求項13】
請求項12に記載の粘着性ハイドロゲルを用いてなるゲルシート。
【請求項14】
請求項12に記載の粘着性ハイドロゲルを用いてなる電極パッド。

【公開番号】特開2012−153884(P2012−153884A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288771(P2011−288771)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】